説明

乗客コンベアの踏段

【課題】踏段の外装部材に欠損部が生じたときに、その欠損部を速やかに発見して不測の事故への発展を的確に防止することができる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】無限循環移動する多数の踏段1を備え、その踏段1の上に乗客を乗せて所定方向に順次搬送する乗客コンベアにおいて、前記踏段1が、フレーム12の上に外装部材13としての踏面クリート18及びライザ19を設けてなり、その外装部材13が、踏段1の表面に露出する表面層20とその内側の内部層21とを有し、表面層20の断面の色が暗色系で、内部層21の断面の色が視覚的に目立つ黄色系となっている。外装部材13に欠損部aが生じたときに、その断面に視覚的に目立つ黄色系の着色層が露出し、これにより欠損部aを速やかに発見することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エスカレータや動く歩道のような、無限循環移動する多数の踏段を備え、その踏段の上に乗った乗客を所定方向に順次搬送する乗客コンベアに係り、特に乗客が乗る踏段の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアとしての例えばエスカレータにおいては、乗客が乗る多数の踏段が互いに隣接して無端状に連結され、これら踏段が無限循環移動してその踏段に乗った乗客を建屋の下階から上階に、あるいは上階から下階に向って搬送する。
【0003】
各踏段の表面の踏面クリートの四辺部には、視覚的に目立つ黄色などに着色されたデマケーションが設けられ、これらデマケーションの内側の領域に乗客が乗ることで、踏面クリートからの足の踏み外しや隣接する踏段間への足の挟み込まれなどを防止して安全を確保するようにしている(例えば特開2005−212976公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−212976公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、着色されたデマケーションは、乗客が足を踏み入れるべき安全な領域を示すだけであり、踏段の踏面クリートや踏段の隣接部で起立するライザなどの踏段の外装部材に欠損が生じているような場合、その欠損部に足が引っ掛かって不測の怪我を負うような恐れがある。
踏段の外装部材は、踏面クリートの四辺部を除いて暗色系の色彩であるのが一般的であり、その外装部材の一部が欠損したような場合であっても、その欠損部が視覚的に目立たず、欠損の発生を見落とし、エスカレータがそのまま運行されてしまうことがある。
上述のように、踏段の外装部材の一部に欠損部が生じたまま放置されると、踏段に乗った乗客の足の一部がその欠損部に引っ掛かって不測の危険を招く恐れがあり、したがって外装部材に欠損部が生じたときには、速やかにそれを発見して補修し、事故の発生を未然に防止することが重要である。
【0006】
この発明はこのような点に着目してなされたもので、その目的とするところは、踏段の外装部材に欠損部が生じたときに、その欠損部を速やかに発見して不測の事故への発展を的確に防止することができる乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、請求項1の発明は、無限循環移動する多数の踏段を備え、その踏段の上に乗客を乗せて所定方向に順次搬送する乗客コンベアにおいて、
前記踏段は、フレームと、このフレームの上に設けられた外装部材とからなり、前記外装部材が、踏段の表面に露出する表面層とその内側の内部層とを有し、前記表面層の断面の色と前記内部層の断面の色とが異なる異色複層構造となっていることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、前記表面層の断面の色が暗色系で、前記内部層の断面の色が黄色系であることを特徴としている。
請求項3の発明は、前記外装部材が、乗客が乗る水平な踏面クリートと、この踏面クリートの縁部に連なって起立するライザとからなり、その踏面クリートとライザの少なくともいずれか一方が異色複層構造となっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、踏段の外装部材に欠損部が生じたときに、その欠損部を速やかに発見して不測の事故への発展を的確に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の一実施形態に係る乗客コンベアの全体の構成を示す外観図。
【図2】その乗客コンベアにおける踏段を示す外観図。
【図3】その踏段の外装部材の断面構造を示す断面図。
【図4】その踏段の作用を説明するための外観図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、乗客コンベアとしてのエスカレータを示す外観図である。このエスカレータは、複数の踏段1を無端状に連結してなる踏段列2を備え、この踏段列2が建屋の下階の乗降口3と上階の乗降口4との間に掛け渡され、駆動源(図示せず)による動力で無限循環移動し、前記踏段1の上に乗った乗客が建屋の下階から上階に、あるいは上階から下階に搬送される。
【0013】
踏段列2の両側部には欄干5が設けられ、これら欄干5の縁部に踏段列2と同期して無限循環移動する手すりベルト6が装着されている。また、両欄干5の下部にはスカートガードパネル7が取り付けられ、これらスカートガードパネル7に踏段列2における各踏段1の両側面が近接して対向し、各踏段1がスカートガードパネル7の長手方向に沿って移動する。
【0014】
図2には踏段1の外観を示してあり、各踏段1は、フレーム12と、このフレーム12の上に取り付けられた外装部材13とを備えている。フレーム12は踏段1の幅方向(左右方向)の両側に互いに対向する一対の側板14を備え、これら側板14の下部に、踏段1の移動用のローラ15が回転自在に設けられている。フレーム12は例えばアルミニウムなどの金属材料で形成されている。
フレーム12の上に設けられた外装部材13は、踏面クリート18とライザ19とからなる。踏面クリート18は、フレーム12の上面に水平に取り付けられ、この踏面クリート18の上に乗客が乗ることにより、踏段1と一体的にその乗客が所定方向に搬送される。ライザ19は、踏段1の前後方向の一側面に起立して踏面クリート18の縁部と連なるようにフレーム12に取り付けられている。
各踏段1に設けられたライザ19は、互いに隣り合う一方の踏段1と他方の踏段1とが段差状に変位するときに、その他方の踏段1と摺動する。ライザ19は緩やかな円弧状に湾曲し、上端縁部が踏面クリート18の縁部とほぼ直角に交わるように配置されている。前記各踏面クリート18及びライザ19の表面はそれぞれ櫛歯状の凹凸形状となっている。
【0015】
外装部材13としての踏面クリート18及びライザ19は、例えばそれぞれ高強度の合成樹脂材料からなり、図3に示すように、踏段1の表面に露出する表面層20と、その下側の内部層21とを有している。表面に露出する表面層20は、エスカレータの全体の外観と調和するように暗色系の色に着色され、この表面層20の下側の内部層21はその表面層20の色に対して視覚的に目立つ色、例えば黄色に着色されている。
【0016】
このような着色二層構造の樹脂材料は、例えば成形樹脂中に異なる色の顔料を二層に分けて注入するなどの手段により製造することが可能である。また、色の異なる樹脂を貼り合わせて一体的な複層構造とする方法で得ることもできる。各外装部材13の表面層20の厚さは例えば1mm程度である。
このような踏段1において、外装部材13である踏面クリート18の一部やライザ19の一部に、何らかの衝撃が加わって図4に示すように欠損部aが生じると、その欠損により踏面クリート18やライザ19の材料の破断断面が外部に露出する。踏面クリート18やライザ19の材料は、着色二層構造となっているから、その破断による断面には、視覚的に目立つ黄色の内部層21が出現し、周辺の暗色系との対比で欠損部aの破断断面が目立ち、したがって欠損部aを速やかに発見することができる。
【0017】
踏面クリート18やライザ19に欠損部aが生じると、乗客の足がその欠損部aに引っ掛かって不測の危険を招く恐れがあるが、欠損部aを速やかに発見するによりその欠損部aをもつ踏面クリート18やライザ19を速やかに補修ないしは交換することが可能となり、したがって欠損部aが放置されたままエスカレータが運行されることがなく、安全が確保される。
【0018】
なお、前記実施形態では、内部層21の色を黄色としたが、視覚的に目立つ色であれば黄色に限らず他の色であってもよい。また、外装部材13の材料としては、表面層20が鋼板などの金属材料、内部層21が着色された樹脂材料である異色複層構造、あるいは表面層20が暗色系の樹脂材料、内部層21が真鍮のような黄色系の金属材料である異色複層構造、さらには表面層20が暗色系の金属材料、内部層21が真鍮のような黄色系の金属材料である異色複層構造などとすることも可能である。そして、外装部材13としての踏面クリート18とライザ19とを共にその異色複層構造とする場合のほか、その踏面クリート18とライザ19とのいずれか一方のみを異色複層構造とする場合であってもよい。
また、前記実施形態では、この発明をエスカレータの踏段に適用したが、動く歩道などの乗客コンベアにおける踏段に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0019】
1…踏段
2…踏段列
3…乗降口
4…乗降口
5…欄干
6…手すりベルト
7…スカートガードパネル
12…フレーム
13…外装部材
14…側板
15…ローラ
18…踏面クリート
19…ライザ
20…表面層
21…内部層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無限循環移動する多数の踏段を備え、その踏段の上に乗客を乗せて所定方向に順次搬送する乗客コンベアにおいて、
前記踏段は、フレームと、このフレームの上に設けられた外装部材とからなり、前記外装部材が、踏段の表面に露出する表面層とその内側の内部層とを有し、前記表面層の断面の色と前記内部層の断面の色とが異なる異色複層構造となっていることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記表面層の断面の色が暗色系で、前記内部層の断面の色が黄色系であることを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記外装部材は、乗客が乗る水平な踏面クリートと、この踏面クリートの縁部に連なって起立するライザとからなり、その踏面クリートとライザの少なくともいずれか一方が異色複層構造となっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−180006(P2010−180006A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24066(P2009−24066)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】