説明

乗客コンベア及び乗客コンベア踏板用ローラ

【課題】
ローラの組立が容易で、しかもレールの異常を簡易に確認できる踏板用ローラ及びそれを備えた乗客コンベアを提供する。
【解決手段】
乗客コンベアの踏板1のローラ用軸が挿入されるベアリング7と、ローラ用レールに対して摺動させるタイヤ6を形成する樹脂部を備えた乗客コンベア踏板用ローラにおいて、前記ベアリング7の側方に金属部8を設け、この金属部8と前記ベアリング7とを前記樹脂部で支持した。これにより、タイヤ6とベアリング7等が一体成形され、従来のようにベアリング等を止め輪などで固定する必要がないので、部品点数が少なくて済み、構造が簡単になる。また、ローラ用レールの変形等が発生した場合にも、ローラ用レールと金属部8との金属同士が接触する音により、簡易な方法で異常を検知できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレーターや動く歩道などの乗客コンベアに係り、特に、その踏板に設けられるローラの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗客コンベアの踏板用ローラとして、ゴム等の弾性材料からなるタイヤを金属製のボスに接着したものが用いられていた。そして、この金属製のボスの内周側には、踏板の軸を挿入するためのベアリングが、止め輪によって固定されていた。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ボスがレールに直接接触することがなく、合成樹脂製の環状板が接触するので、摩擦による金属音がなくなり、ボスの側面の磨耗もないことが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−187626号公報(図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の乗客コンベア踏板用ローラでは、ゴムなどからなるタイヤを金属製のボスに接着すると共に、ボスとベアリングを止め輪で固定しなければならず、ローラの組立に時間を要し、結果的に乗客コンベアの製造コストを増加させる一因となっていた。
【0006】
また、乗客コンベアの踏板用ローラを案内するレールは、歪み等により、レールゲージ寸法が正常時より狭くなっている場合があるが、上記特許文献1に記載の発明には、そのような認識はなく、レールゲージ寸法の異常を検出する方法は一切記載されていない。
【0007】
本発明の目的は、ローラの組立が容易で、しかもレールの異常を簡易に確認できる踏板用ローラ及びそれを備えた乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、乗客コンベアの踏板の軸が挿入されるベアリングと、レールに対して摺動させるタイヤを形成する樹脂部を備えた乗客コンベア踏板用ローラにおいて、前記ベアリングの側方に金属部を設け、この金属部と前記ベアリングとを前記樹脂部で支持したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ローラの組立が容易で、しかもレールの異常を簡易に確認できる踏板用ローラ及びそれを備えた乗客コンベアを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例について、図面に基づいて説明する。本実施例は、乗客コンベアの一種であるエスカレーターに関するものであり、その踏板1の全体構成は、図1に示す通りである。ここで、本明細書における「踏板」の用語の意味は、エスカレーターに用いられるものに限らず、動く歩道に用いられるものも含むものとする。
【0011】
本実施例の踏板1は、その幅方向両側に前ローラ2と後ローラ3が設けられており、それぞれレール4,5に沿って案内されている。これら前ローラ用レール4及び後ローラ用レール5の断面は、底部と立ち上がり部からなるL字型に形成されており、前ローラ用レール4の立ち上がり部によって、前ローラ2の幅方向の動きが規制され、踏板1の水平方向へのズレが防止できる。尚、一端側の後ローラ用レール5の立ち上がり部と他端側の後ローラ用レール5の立ち上がり部との間隔は、一端側の後ローラ3と他端側の後ローラ3との間隔に対して、十分に広くなるように構成されている。したがって、後ローラ3は、後ローラ用レール5の底部に対しては接触するものの、後ローラ用レール5の立ち上がり部とは接触しない。
【0012】
図2は、本実施例における前ローラ2及び前ローラ用レール4の詳細な構成を示す図である。この図1の通り、本実施例の前ローラ2は、樹脂製の円環状タイヤ6と、このタイヤ6の内周側に位置するベアリング7と、このベアリング7の側方に位置する金属部8とを有しており、これらが一体的に固定されている。以下、前ローラ2の各部の構成について、具体的に説明する。
【0013】
まず、タイヤ6は、その外周面がレールの底部に接し、踏板1が乗降床間を循環移動するのにあわせて、前ローラ用レール4の底部を摺動するように構成されている。そして、ベアリング7は、その外径側の端部が、タイヤ6を形成する樹脂部に埋没することによって支持されると共に、踏板1に固定された前ローラ用軸9が挿入されている。更に、金属部8は、その外径側の端部が樹脂部に埋没することによって支持されると共に、前ローラ2の側部の一部を形成してベアリング7の側方を覆っている。
【0014】
次に、前ローラ2の製造方法について説明する。まず、金型の所定の位置に金属部8を形成する金属板及びベアリング7を配置した状態で、溶解した樹脂を流し込み、ベアリング7の一部及び金属板の一部が、溶解した樹脂で覆われるようにする。その後、樹脂が冷却硬化してタイヤ6を形成する際に、ベアリング7と金属板がタイヤ6に固定される。そして、タイヤ6とベアリング7と金属板とが一体となった状態で、金型から取外すことにより、前ローラ2を得ることができる。
【0015】
また、図3,図4に示す通り、金属板の外径側の端部は、周方向の複数箇所にテーパ穴10が設けられており、それぞれ反ベアリング7側(反踏板1側)の穴径がベアリング7側(踏板1側)の穴径よりも大きくなるように形成されている。したがって、溶解した樹脂がこのテーパ穴10に充填されて固まると、樹脂で形成されたタイヤ6から金属板が外れ難くなる。
【0016】
更に、金属板の反ベアリング7側の側面は、その外径側が内径側に対して凹んでおり、この凹部を樹脂が覆うことにより、金属板とタイヤ6が固定される。その結果、金属板の外径側を樹脂で覆っても、金属板の内径部分が、タイヤ6の側端面と同一平面か又はタイヤ6の側端面よりも反ベアリング7側に突出するように形成できる。つまり、金属板の少なくとも内径部分については、前ローラ用レール4の立ち上がり部分と接触できるような前ローラ2が実現できる。尚、金属板の外径側に設ける凹部は、テーパ状に形成しても、厚さを変えて段差により形成して構わない。
【0017】
次に、上述の構成による効果について説明する。まず、本実施例の踏板用ローラは、タイヤ6とベアリング7等が一体形成され、従来のようにベアリング7等を止め輪などで固定する必要がないので、部品点数が少なくて済み、構造が簡単になる。このため、組立に要する時間も削減でき、製造費用の低減が可能である。
【0018】
また、本実施例では、前ローラ2の側部に金属板を設けたので、前ローラ用レール4の立ち上がり部に対して前ローラ2が過度に擦り付ける場合には、乗客コンベアの運転中に金属同士の異常な接触音が発生する。つまり、前ローラ用レール4の変形等により実際のレールゲージ寸法が正常時よりも狭くなっているような場合に、異常な音の発生によって、簡易な方法で前ローラ用レール4の異常を確認できる。尚、後ローラ用レール5は、仮に変形等が発生していても、上述の通り、その立ち上がり部が後ローラ3の側面と接触することはないので、後ローラ3に金属板を設ける必要はない。
【0019】
図5は、本発明の別の実施例における前ローラ2の詳細を示す図であり、本実施例も、前述の実施例と同様に、金属部11とベアリング7とが樹脂部で支持される構成となっている。具体的には、本実施例の金属部11は、金属板の外径側が踏板1側へ突起して円環状の側面を形成し、この円環状の側面がベアリング7の外径側の一部を覆って嵌合できるようになっている。したがって、ベアリング7と金属部11とを嵌合させて一体化した状態で、金型の所定の位置に配置できるので、前ローラ2を成形する際の作業性が大幅に向上する。また、金属部11における円環状の側面の先端は、外径側へ凸部を形成する縁を有しており、冷却硬化した樹脂で形成されるタイヤ6から金属部11が抜け難くなっている。
【0020】
上述の実施例では、乗客コンベアの一例として、エスカレーターの踏板1に用いられる前ローラ2について説明したが、この前ローラ2は、動く歩道の踏板1にも用いることができる。
【0021】
また、乗客コンベアの踏板1は循環移動するため、全ての踏板1について上述の前ローラ2を設けなくても、少なくとも1つの踏板1にだけ設ければ、前ローラ用レール4全体における異常を検知することができる。したがって、金属部8,11を有している踏板1と、金属部8,11を有していない踏板1とで構成すれば、不要な金属部の設置を省くことが可能である。ただし、動く歩道などでレールの全長が極端に長い場合は、金属部を有している踏板1を複数設けることが有効である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例における踏板の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例における前ローラ及びレールの詳細を示す図である。
【図3】本発明の実施例における前ローラに設けられる金属板の正面図である。
【図4】図3の金属板の側面断面図である。
【図5】本発明の別の実施例における前ローラ及びレールの詳細を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 踏板
2 前ローラ
3 後ローラ
4 前ローラ用レール
5 後ローラ用レール
6 タイヤ
7 ベアリング
8,11 金属部
9 前ローラ用軸
10 テーパ穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアの踏板の軸が挿入されるベアリングと、レールに対して摺動させるタイヤを形成する樹脂部を備えた乗客コンベア踏板用ローラにおいて、前記ベアリングの側方に金属部を有し、この金属部と前記ベアリングとが前記樹脂部で支持されていることを特徴とする乗客コンベア踏板用ローラ。
【請求項2】
乗客コンベアの踏板の軸が挿入されるベアリングと、レールに対して摺動させるタイヤを形成する樹脂部を備えた乗客コンベア踏板用ローラにおいて、前記ベアリングの一部及び前記金属部の一部を溶解した樹脂で覆い、この樹脂を硬化させて前記タイヤを形成することにより、前記タイヤと、このタイヤの内周側の前記ベアリングと、このベアリングの側方の前記金属部とが、一体的に固定されることを特徴とする乗客コンベア踏板用ローラ。
【請求項3】
請求項1において、前記金属部は、テーパ穴を有する金属板で形成されていることを特徴とする乗客コンベア踏板用ローラ。
【請求項4】
乗降床間を循環移動する踏板と、この踏板をレールに沿って案内させるローラを備えた乗客コンベアにおいて、前記ローラは、前記踏板の軸が挿入されるベアリングと、前記レールに対して摺動させるタイヤを形成する樹脂部と、前記ベアリングの側方に位置する金属部を有し、前記ベアリングと前記金属部とが前記樹脂部で支持されていることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項5】
請求項4において、前記踏板は、前記金属部を有している踏板と、前記金属部を有していない踏板からなることを特徴とする乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−143642(P2009−143642A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320312(P2007−320312)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000232944)日立水戸エンジニアリング株式会社 (227)
【Fターム(参考)】