説明

乗客コンベア

【課題】安価にして作業性に優れ、かつ枠体横桁に対する取り付けを容易かつ確実に行うことができる油受け部材を備えた乗客コンベア。
【解決手段】油受け部材9として、板材からなり、枠体の縦部材に沿う左右両側辺に起立片91を立設すると共に、枠体の下部横桁13に沿う長さ方向の一端部に係合片92を垂設したものを用いる。枠体の下方から、各油受け部材9に形成された係合片92を、順次対応する枠体横桁13に係合してゆく。枠体の上方に配置される油受け部材9Bの下端部裏面912は、枠体の下方に配置される油受け部材9Aの上端部上面913に重ね合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに係り、特に、可動部に供給された潤滑油の過剰分を受け止めて、外部への流出を防止する油受けの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアは、建築構造物に設置された枠体と、該枠体の長さ方向の端部に設けられた乗降床と、これら乗降床の間を無端状に連結されて循環移動する踏段と、枠体に取り付けられ、踏段の左右両側に配置された欄干と、踏段を駆動する駆動装置と、踏段の可動部に潤滑油を供給する潤滑装置と、枠体に取り付けられ、潤滑装置から踏段の可動部に供給された潤滑油の過剰分を受け止めて、外部への流出を防止する油受けとを備えている。油受けは、複数の油受け部材を連設することによって構成され、枠体の長さ方向の全体にわたって設置される。
【0003】
図5に示すように、従来、この種の油受け部材101としては、長さ方向の一端寄りの下面にフック102がスポット溶接等によって取り付けられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この図から明らかなように、この油受け部材101は、L鋼やC型鋼をもって形成された枠体横桁103の一辺にフック102を係合することによって枠体横桁103上に設置される。ここで、互いに連設される2つの油受け部材を、油受け部材101A,101Bとすると、枠体横桁103上に設置された一方の油受け部材101Aに連設される他方の油受け部材101Bは、一方の油受け部材101Aの上面に一端部を重ね合わせた状態で、枠体横桁103の一辺にフック102を係合することにより、枠体横桁103上に設置される。一方の油受け部材101Aは、他方の油受け部材101Bの下面とフック102との間に挟み込まれ、安定に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−157273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の油受け部材101は、板材からなり、幅方向の両側辺が上向きに折り上げられた樋型に形成されているので、長さ方向に関しては比較的高い剛性を有しているが、幅方向に関しては剛性が低く、幅方向に湾曲変形しやすいという特徴を有している。仮に、油受け部材101が湾曲変形していると、枠体横桁103への油受け部材101の取り付け時に、フック102を枠体横桁103の一辺に係合しにくく、何らかの矯正作業が必要になって、枠体横桁103に対する油受け部材101の取付作業性が悪くなるばかりでなく、エスカレータ用の油受け部材のように傾斜した枠体に取り付ける場合には、フック102が枠体横桁103の一辺に確実に係合されず、油受け部材101が枠体に沿って落下するといった不都合も生じ得る。更に、従来の油受け部材101は、下面にフック102をスポット溶接等によって取り付けているので、油受け部材101、ひいては乗客コンベアがコスト高になるという問題もある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価にして作業性に優れ、かつ枠体横桁に対する取り付けを確実に行うことができる油受け部材を備えた乗客コンベアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するため、建築構造物に設置された枠体と、前記枠体の長さ方向の端部に設けられた乗降床と、これら乗降床の間を無端状に連結されて循環移動する踏段と、前記踏段を駆動する駆動装置と、前記踏段の可動部に潤滑油を供給する潤滑装置と、前記枠体に取り付けられ、前記潤滑装置から前記踏段の可動部に供給された潤滑油の過剰分を受け止めて、外部への流出を防止する油受けとを備え、前記枠体が、前記踏段の左右両側に配置された縦部材と、これら左右一対の縦部材を一体化する上部横桁及び下部横桁とから構成され、前記油受けが、互いに連設される複数の油受け部材の組み合わせから構成される乗客コンベアにおいて、前記油受け部材として、板材からなり、前記枠体の縦部材に沿う左右両側辺に起立片を立設すると共に、前記枠体の下部横桁に沿う長さ方向の一端部に係合片を垂設したものを用いるという構成にした。
【0008】
かかる構成によると、板材の所定の部分を所定の方向に折り曲げるだけで油受け部材を製造できるので、フックなどの別部材をスポット溶接等により取り付ける場合に比べて、安価に製造することができる。また、板材からなる油受け部材の左右両側辺に起立片を立設すると共に、長さ方向の一端部に係合片を垂設すると、長さ方向のみならず、幅方向についても油受け部材の剛性を高めることができるので、油受け部材の変形を抑制することができ、枠体に対する油受け部材の取り付け作業を容易化することができる。
【0009】
また本発明は、前記構成の乗客コンベアにおいて、前記油受け部材に垂設された係合片を、前記下部横桁の側面に係合することにより、前記枠体に対する前記油受け部材の設定を行うという構成にした。
【0010】
かかる構成によると、油受け部材に垂設された係合片を下部横桁の側面に係合するだけで、下部横桁に対する油受け部材の位置決めを行うことができるので、枠体に対する油受け部材の取り付け作業を容易化することができる。また、上述のように、長さ方向の一端部に係合片が垂設された油受け部材は、剛性が高く、変形しにくいので、係合片を下部横桁の側面に係合しやすく、エスカレータのように傾斜した枠体に油受け部材を取り付ける場合にも、係合片を下部横桁の側面に確実に係合させることができて、油受け部材の滑落を防止することができる。
【0011】
また本発明は、前記構成の乗客コンベアにおいて、前記係合片と前記下部横桁を、機械的手段を用いて一体化するという構成にした。
【0012】
機械的手段には、例えば溶接、ボルト締め及びリベット締めなどがある。これらの機械的手段を用いて係合片と下部横桁を一体化すると、これらの各部材を強固に接合できるので、信頼性及び耐久性に優れた乗客コンベアを構築することができる。
【0013】
また本発明は、前記構成の乗客コンベアにおいて、前記枠体の長さ方向に隣接して配置された2つの前記油受け部材を、機械的手段を用いて一体化するという構成にした。
【0014】
かかる構成によると、機械的手段を用いて枠体の長さ方向に隣接して配置された2つの油受け部材どうしを一体化するので、これらの各油受け部材を強固に接合できて、信頼性及び耐久性に優れた乗客コンベアを構築することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、油受け部材として、板材からなり、枠体の縦部材に沿う左右両側辺に起立片を立設すると共に、枠体の下部横桁に沿う長さ方向の一端部に係合片を垂設したものを用いるので、油受け部材の下面にフックなどの別部材をスポット溶接等により取り付ける場合に比べて、油受け部材を安価に製造することができる。また、起立片及び係合片を形成することによって、油受け部材の剛性を高めることができるので、油受け部材の変形を抑制することができ、枠体に対する油受け部材の取り付け作業を容易化することができる。よって、乗客コンベアの製造の容易化と低コスト化とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係る乗客コンベアの構成図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】他の実施形態に係る図2のB−B断面図である。
【図5】従来例に係る油受け部材の構成と組立方法とを示す一部切断した側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る乗客コンベアの実施形態を、図を用いて説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る乗客コンベアは、建築構造物の上階の床面F1と下階の床面F2との間に設置された枠体1と、枠体1の長さ方向の端部に設けられた乗降床2,3と、これら乗降床2,3の間を無端状に連結されて循環移動する踏段4と、踏段4を駆動する駆動装置5と、踏段4の可動部に潤滑油を供給する図示しない潤滑装置と、枠体1に取り付けられ、潤滑装置から踏段4の可動部に供給された潤滑油の過剰分を受け止めて、外部への流出を防止する油受け6と、枠体1に取り付けられた欄干7とを備えている。欄干7は、図2に示すように、踏段4の片側に配置された欄干7Aと、踏段4の他の片側に配置された欄干7Bとからなる。
【0019】
枠体1は、図1及び図2に示すように、踏段4の左右両側に配置された縦部材11A,11Bと、これら左右一対の縦部材11A,11Bを一体に連結する上部横桁12及び下部横桁13とから主に構成される。縦部材11A,11Bには、レール取付部材14A,14Bが取り付けられ、当該レール取付部材14A,14Bには、踏段4を案内するための上レール15A,15B及び下レール16A,16B,16C,16Dが取り付けられる。これらの各レールには、踏段4の側面部に回転自在に取り付けられたローラ17A,17B,17C,17Dが載置される。なお、図2において、符号8A,8Bは、欄干7A,7Bの外周に沿って循環移動する移動手摺りを示している。
【0020】
油受け6は、図1に示すように、互いに連設される複数の油受け部材9の組み合わせをもって構成される。各油受け部材9は、板材をもって形成されており、図2に示すように、左右両側辺(枠体1の縦部材11A,11Bに沿う辺)に起立片91を立設すると共に、図3に示すように、長さ方向の上端部に係合片92を垂設してなる。なお、枠体1の最下部に配置される油受け部材9には、図2に示すように、下端部にも起立片91が立設される。このように、本例の油受け部材9は、左右両側辺に起立片91を立設することによって樋型に形成されているので、油受け部材9の側方から外部への油漏れを防止することができる。また、枠体1の最下部に配置される油受け部材9については、下端部にも起立片91を立設するので、この最下部に配置される油受け部材9がオイルパンとして機能し、余剰の潤滑油を溜めることができて、外部への流出を防止することができる。
【0021】
以下、図3を用いて、油受け6の組立方法につき説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、枠体1の下方に配置される油受け部材9を「油受け部材9A」と表記し、枠体1の上方に配置される油受け部材9を「油受け部材9B」と表記する。
【0022】
油受け6の組立に際しては、まず、枠体1の下方に配置される油受け部材9Aに形成された係合片92を、これが取り付けられる所定の下部横桁13に係合し、係合片92の裏面911を下部横桁13の上部側辺131に当接すると共に、油受け部材9Aの裏面912を下部横桁13の上面132に当接する。次いで、枠体1の上方に配置される油受け部材9Bの下端部裏面912を、枠体1の下方に配置される油受け部材9Aの上端部上面913に重ね合わせ、この枠体1の上方に配置される油受け部材9Bに形成された図示しない係合片92を、これが取り付けられる図示しない所定の下部横桁13に係合する。以下、これと同様にして、枠体1の最下部から最上部まで、順次必要数の油受け部材を連接する。最後に、各係合片92の先端部を各下部横桁13の上部側辺131に溶接すると共に、枠体1の上方に配置される各油受け部材9Bの下端部を枠体1の下方に配置される各油受け部材9Aの上面913に溶接する。これにより、所定形状の油受け6が形成される。なお、図3の符号Yは、溶接部に生じるビードを示している。このように、本例の油受け6は、枠体1の上方に配置される油受け部材9Bの下端部を、枠体1の下方に配置される油受け部材9Aの上端部に重ね合わせるので、枠体1の上方に配置される油受け部材9Bに滴下した踏段4の潤滑油は、順次枠体1の下方に配置される油受け部材9Aに流れて、最後は最下部の油受け部材9Aに流れ込み、貯えられる。
【0023】
本実施形態に係る乗客コンベアは、油受け6を構成するための油受け部材9として、左右両側部に起立片91を立設すると共に、長さ方向の一端部に係合片92を垂設したものを用いるので、油受け部材9の剛性が高く、油受け部材9が容易に変形しない。したがって、これらの油受け部材9を枠体1に設定する際、油受け部材9の矯正作業が不要で、枠体1に対する油受け部材9の取り付け作業を容易化することができる。また、油受け部材9として、起立片91及び係合片92を折り曲げ形成したものを用いることができるので、フックなどの別部材をスポット溶接等により取り付けた油受け部材を用いる場合に比べて、乗客コンベアの製造コストを低減することができる。さらに、油受け部材9に垂設された係合片92を下部横桁13の側面に係合するだけで、下部横桁13に対する油受け部材9の位置決めを行うことができるので、枠体1に対する油受け部材9の取り付け作業を容易化することができる。この場合、本実施形態に係る油受け部材9は、剛性が高く、変形しにくいので、係合92片を下部横桁13の側面に確実に係合することができる。よって、エスカレータのように傾斜した枠体1に油受け部材9を取り付ける場合にも、係合片92を下部横桁13の側面に確実に係合させることができて、油受け部材9の滑落を防止することができる。加えて、本実施形態に係る乗客コンベアは、係合片92と下部横桁13、及び油受け部材9Bと油受け部材9Aとをそれぞれ溶接により接合するので、枠体1に対して油受け6を安定に保持することができ、信頼性及び耐久性に優れた乗客コンベアを構築することができる。
【0024】
なお、前記実施形態においては、係合片92と下部横桁13、及び油受け部材9Bと油受け部材9Aとをそれぞれ溶接により接合したが、図4に示すように、かかる構成に代えて、係合片92と下部横桁13、及び油受け部材9Bと油受け部材9Aとをそれぞれボルトナット10を用いて締結することもできる。かかる構成によると、各部材を容易に分解できるので、乗客コンベアの点検、修理及びリニューアルを容易化することができる。
【0025】
その他、係合片92と下部横桁13、及び油受け部材9Bと油受け部材9Aの連結手段としては、溶接やボルトナット10のほか、リベットなどを用いることもできる。また、前記実施形態においては、エスカレータを例にとって説明したが、動く歩道についても、同様に実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 枠体
2,3 乗降床
4 踏段
5 駆動装置
6 油受け
7A,7B 欄干
8A,8B 移動手摺り
10 ボルトナット
11A,11B 縦部材
12 上部横桁
13 下部横桁
14A,14B レール取付部材
15A,15B 上レール
16A,16B,16C,16D 下レール
131 下部横桁の上部側辺
132 下部横桁の上面
91 起立片
92 係合片
911 係合片の裏面
912 油受け部材の裏面
913 油受け部材の上面
F1 上階の床面
F2 下階の床面
Y 溶接ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物に設置された枠体と、前記枠体の長さ方向の端部に設けられた乗降床と、これら乗降床の間を無端状に連結されて循環移動する踏段と、前記踏段を駆動する駆動装置と、前記踏段の可動部に潤滑油を供給する潤滑装置と、前記枠体に取り付けられ、前記潤滑装置から前記踏段の可動部に供給された潤滑油の過剰分を受け止めて、外部への流出を防止する油受けとを備え、前記枠体が、前記踏段の左右両側に配置された縦部材と、これら左右一対の縦部材を一体化する上部横桁及び下部横桁とから構成され、前記油受けが、互いに連設される複数の油受け部材の組み合わせから構成される乗客コンベアにおいて、
前記油受け部材として、板材からなり、前記枠体の縦部材に沿う左右両側辺に起立片を立設すると共に、前記枠体の下部横桁に沿う長さ方向の一端部に係合片を垂設したものを用いることを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記油受け部材に垂設された係合片を、前記下部横桁の側面に係合することにより、前記枠体に対する前記油受け部材の設定を行うことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記係合片と前記下部横桁を、機械的手段を用いて一体化することを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記枠体の長さ方向に隣接して配置された2つの前記油受け部材を、機械的手段を用いて一体化することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−184144(P2011−184144A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52080(P2010−52080)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】