説明

乗客コンベア

【課題】スカートガードに傷が生じた場合でも容易に傷を隠すことができる乗客コンベア。
【解決手段】スカートガード5の一方の側部を上にした場合に、前記一方の側部が前記スカートガード上支持部の所定位置に対し着脱自在であり、下に位置する他方の側部が前記スカートガード下支持部の所定位置に対し着脱自在であり、前記スカートガードを180°回転させて前記他方の側部を上にした場合に、前記他方の側部が前記デッキボートの前記所定位置に対し着脱自在であり、前記回転によって下に位置する前記一方の側部が前記スカートガード下支持部の前記所定位置に対し着脱自在である。スカートガードを180°回転させても、デッキボード19と下支持部18との取付け位置を変えることなく、スカートガードに生じた傷を隠すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアにおいては、往復走行する踏段の両側に左右一対のスカートガードが設けられている。スカートガードの表面には、踏段が走行し易いようにするために低摩擦剤が塗布されている。この低摩擦剤は、利用客の靴がスカートガードと接触してその隙間に挟まれるのを防止するために塗布されている。
【0003】
ところが、踏段から靴が突出してスカートガードと摩れて、低摩擦剤が剥がれると共にスカートガードの表面に傷が発生する場合がある。この低摩擦剤が剥がれると、踏段の端とスカートガードの隙間に靴が巻き込まれる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−118942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように低摩擦剤が剥がれてスカートガードの表面に傷が発生した場合には、低摩擦剤を再度塗装するか、又は、スカートガードを取り替える必要がある。
【0006】
低摩擦剤を再度塗装した場合には乾くまでの時間、乗客コンベアが利用できず、また、塗装部分に色むらが生じ、見栄えが劣るという問題点がある。
【0007】
また、スカートガードを取り替えるとコストが掛り経済的負担も増大となり、取付け調整の作業時間が多大になるという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、スカートガードに傷が生じた場合でも容易に傷を隠すことができる乗客コンベアを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態は、無端状に連結されて往復走行する複数の踏段と、前記踏段の両側に配置された複数の板状のスカートガードと、前記スカートガードの下部を支持するためにトラスに設けられたスカートガード下支持部と、欄干の下部に設けられたデッキボードと、前記デッキボードに設けられたスカートガード上支持部と、を有し、前記スカートガードの一方の側部を上にした場合に、前記一方の側部が前記スカートガード上支持部の所定位置に対し着脱自在であり、下に位置する他方の側部が前記スカートガード下支持部の所定位置に対し着脱自在であり、前記スカートガードを180°回転させて前記他方の側部を上にした場合に、前記他方の側部が前記デッキボートの前記所定位置に対し着脱自在であり、前記回転によって下に位置する前記一方の側部が前記スカートガード下支持部の前記所定位置に対し着脱自在である、ことを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例を示すエスカレータの全体を示す概略側面図である。
【図2】図1におけるI−I線に沿う断面図である。
【図3】図1におけるII−II線に沿う断面図である。
【図4】スカートガードを下方に移動させた縦断面図である。
【図5】スカートガードを下方に移動させた状態で傷が生じた場合の縦断面図である。
【図6】スカートガードを180°回転させた状態で取り付けた縦断面図である。
【図7】スカートガードの上下端部の拡大縦断面図である。
【図8】スカートガードの裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例の乗客コンベアについて、図1〜図8に基づいて説明する。なお、本実施例においては、乗客コンベアの一つであるエスカレータ1を用いて説明する。
【0012】
(1)エスカレータ1の構造
エスカレータ1の構造について図1に基づいて説明する。
【0013】
図1に示すように、エスカレータ1のトラス2に左右一対のガイドレール3,3が固定され、この左右一対のガイドレール3,3に乗客が乗る踏段4が配設されている。踏段4は、図示しない踏段チェーンを介して無端状に連結され、この踏段チェーンを駆動機構により回転させて、上下階の床の間を循環移動する。踏段4は、踏板及びライザとを有し、これらの踏板及びライザは、踏板フレーム30に固定されている。また、踏板フレーム30の前側には前輪ローラ32が回動可能に取り付けられ、踏板フレーム30の後側には後輪ローラ34が回動可能に取り付けられている。そして、これら前輪ローラ32、後輪ローラ34が、左右一対のガイドレール3,3の上を転動する。
【0014】
踏段4の移動経路の左右に、左右一対の板状のスカートガード5が複数枚配設されている。スカートガード5の上方には、欄干6が設けられ、この欄干6の上面を手摺ベルト7が移動する。
【0015】
(2)スカートガード5の構造
次に、図7、図8に基づいて、スカートガード5の構造について説明する。なお、説明するスカートガード5は、下の階における乗降口付近及び上の階の乗降口付近に設けられた「く」の字状に曲がったスカートガード8,9ではなく、上下階の間にある複数枚の長方形状のスカートガード5について説明する。
【0016】
スカートガード5は、上記したように上下対称の長方形の板状であって、表面には低摩擦剤が塗布されている。ここでスカートガード5の一方の側部を「5a」で示し、他方の側部を「5b」で示す。
【0017】
スカートガード5の裏面は、図8に示すように、所定間隔毎に3個の取付部材10が取り付けられている。この取付部材10は、縦長の長方形状であり、上下対称に2個の長穴11,11が縦方向に貫通している。取付部材10の上端部と下端部は、図7に示すように、スカートガード5の裏面から離れるように折曲され、取付部材10の上端部とスカートガード5の間には、固定用間隙12が設けられている。
【0018】
スカートガード5の取付部材10の取付け位置には、上下方向に4本のスタッドボルト13が溶接され、これらスタッドボルト13が、取付部材10の長穴11にそれぞれ2本ずつ貫通し、ワッシャ14を介してナット15で締め付けることにより、取付部材10がスカートガード5の裏面に対し着脱自在に取り付けられる。また、ナット15を緩めることにより、長穴11がスタッドボルト13に対し上下動自在となり、取付部材10の取付け位置がスカートガード5に対し上下動する。
【0019】
(3)スカートガード5の取付け構造
次に、図2と図3に基づいて、スカートガード5の取付け構造について説明する。
【0020】
トラス2の主枠16と縦材17とによって補強し固定されているアングルから構成されているスカートガード下支持部(以下、単に「下支持部」という)18が、踏段4の移動方向の全長にわたって設けられている。
【0021】
手摺ベルト7が移動する欄干6の下部には、踏段4が移動する全長にわたってデッキボード19が設けられ、このデッキボード19の下部で、かつ、裏面側にはスカートガード上支持部(以下、単に「上支持部」という)20が設けられている。
【0022】
長方形のスカートガード5の一方の側部(上側部)5aは、上支持部20に支持され、他方の側部(下側部)5bは下支持部18に固定される。これによって、スカートガード5は上支持部20と下支持部18との間に固定される。
【0023】
スカートガード5の詳しい取付け構造について説明する。
【0024】
まず、図7に示すように、スカートガード5の裏面の取付部材10の下側の固定用間隙12に、板状の下支持部18を挿入し、下支持部18に対しスカートガード5を固定する。
【0025】
次に、断面L字状のデッキボード支え23を、欄干6の下部に設けられている支え22に固定する。
【0026】
次に、図7に示すように、スカートガード5の裏面の取付部材10の上側の固定用間隙12に、デッキボード19の裏面側に固定されている板状の上支持部20を挟む。
【0027】
次に、デッキボード支え23とビス24とによってデッキボード19を欄干6の下部に固定する。このときに、図7に示すように、デッキボード19の裏面とスカートガード5の表面に一定の隙間gができるように、上支持部20に取付部材10を取り付ける。
【0028】
これによって、デッキボード19がスカートガード5の上部に覆い被さった状態で、スカートガード5が上支持部20と下支持部18との間に固定される。
【0029】
(4)スカートガード5の傷を隠す第1段階の方法
次に、エスカレータ1を利用客が使用して、スカートガード5に傷26、27が発生して、それを隠す方法について説明する。この傷を隠す方法は、2段階あり、まず第1段階の方法について説明する。
【0030】
図3に示すように、利用客が踏段4の上に乗り移動しているときに、利用客の靴25がスカートガード5の表面下部に当たり、低摩擦剤が剥がれて傷26が発生したとする。この場合には、保守作業員は、次の作業を行う。
【0031】
保守作業員は、デッキボード19を固定しているビス24を外し、デッキボード19を引き上げ、スカートガード5と上支持部20から分離する。
【0032】
次に、保守作業員は、スカートガード5の裏面にあるナット15を緩めて、スカートガード5と取付部材10とを上下動自在にして、上記で生じた傷11の範囲が踏段4に隠れるまでスカートガード5を長さaだけ下方に移動させる。
【0033】
次に、保守作業員は、緩めたナット15を締め付けて、スカートガード5と取付部材10とを固定する。
【0034】
次に、保守作業員は、デッキボード19をスカートガード5の上部に覆い被せて、スカートガード5の裏面の取付部材10の上端の固定用間隙12に、デッキボード19の裏面にある上支持部20を挟み込ませ、デッキボード支え23とビス24とでデッキボード19を欄干6に固定する。
【0035】
これによって、図3で示されている長さaの分だけスカートガード5が下方に移動するが、長穴11の調整範囲e(図8参照)とデッキボード19を覆い被さる範囲f(図3参照)の関係をe=<fとすることで、スカートガード5が下がり過ぎることなく外観上の変化もなく、新たな低摩擦剤の塗布面を配置できる。
【0036】
(5)スカートガード5の傷を隠す第2段階の方法
次に、上記のようにしてスカートガード5を下げた後、更にスカートガード5の下部に新たな傷27が生じて、この傷27を隠す第2段階の方法について説明する。
【0037】
保守作業員は、まず、上記と同様の手順にてデッキボード19を取外する。
【0038】
次に、保守作業員は、スカートガード5を下部材18から分離する。
【0039】
次に、保守作業員は、分離した状態でスカートガード5のナット15を緩め、取付部材10をスカートガード5の上下方向における中心位置、すなわち、第1段階の方法で移動させた長さaだけを元に戻し、ナット15を締め付ける。
【0040】
次に、保守作業員は、スカートガード5を取り外す前の向きから180°回転させ、表面の傷26と傷27を上方に回転させ、上記と同様の手順にてスカートガード5とデッキボード19を取り付ける。すなわち、保守作業員は、今までスカートガード5の下にあった他方の側部5bを上側部に回転させて取り付ける。スカートガード5を180°回転させても、下支持部18と上支持部20に取り付ける位置は変わることがない。
【0041】
これによって、スカートガード5に生じた傷26と傷27は、デッキボード19によって覆い被さることで隠れ、見栄えが向上し、低摩擦剤の塗布面が新たに現れて、靴25が挟まれることなく安全性の向上が図れる。
【0042】
(6)効果
本実施例によれば、スカートガード5を下方に移動させることにより、傷26が隠れ、踏段4の接触部付近には新たな低摩擦剤の塗布面を配することができる。
【0043】
また、スカートガード5を180°回転させて、スカートガード5の下部に生じている傷26、傷27を上部に回転させてデッキボード19の裏に隠すことができる。この場合に踏段4の接触部付近には新たな低摩擦剤の塗布面を配することができる。
【0044】
そして、このような傷26,27を隠す場合に、低摩擦剤をスカートガード5に新たに塗布する必要がなく、また、スカートガード5を取り替える必要もない。
【0045】
また、スカートガード5の裏面の取付部材10が、板状のスカートガード5の強度を強くする補強部材としての役割も果たす。
【0046】
また、デッキボード19の裏面とスカートガード5の表面との間に隙間gを設けることにより(図7参照)、デッキボード19とスカートガード5の接触による表面の傷の防止できる。
【0047】
(7)変更例
本発明は上記各実施例に限らず、その主旨を逸脱しない限り種々に変更することができる。
【0048】
上記実施例では、スカートガード5の裏面に3個の取付部材10を取り付けたが、この取り付ける個数はスカートガード5の横方向の長さによって調整することができ、2個の取付部材10又は4個以上の取付部材10を取り付けてもよい。
【0049】
上記実施例では、エスカレータ1で説明したが、これに代えて動く歩道のスカートガードで本実施例を適用してもよい。
【0050】
上記実施例では、上下階の間にある長方形状のスカートガードで説明したが、これに限らず、上下階の乗降口付近にあるスカートガード8,9で本実施例を適用してもよい。この場合には、下の階のスカートガード8,9の曲率と、上の階のスカートガード8,9の曲率を合わせておけば、上下階のスカートガード8,9を入れ替えることにより取り替えを行うことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 エスカレータ
2 トラス
5 スカートガード
10 取付部材
11 長穴
18 下支持部
19 デッキボード
20 上支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されて往復走行する複数の踏段と、
前記踏段の両側に配置された複数の板状のスカートガードと、
前記スカートガードの下部を支持するためにトラスに設けられたスカートガード下支持部と、
欄干の下部に設けられたデッキボードと、
前記デッキボードに設けられたスカートガード上支持部と、
を有し、
前記スカートガードの一方の側部を上にした場合に、前記一方の側部が前記スカートガード上支持部の所定位置に対し着脱自在であり、下に位置する他方の側部が前記スカートガード下支持部の所定位置に対し着脱自在であり、
前記スカートガードを180°回転させて前記他方の側部を上にした場合に、前記他方の側部が前記デッキボートの前記所定位置に対し着脱自在であり、前記回転によって下に位置する前記一方の側部が前記スカートガード下支持部の前記所定位置に対し着脱自在である、
ことを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記スカートガードの裏面に上下対称の取付部材が設けられ、
前記取付部材の一方の端部、及び、他方の端部が、前記スカートガード上支持部、及び、前記スカートガード下支持部を挟持する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記取付部材が、前記スカートガードに対し上下動自在である、
ことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記デッキボートの裏面側にある前記スカートガード上支持部に前記スカートガードの前記一方の側部、又は、前記他方の側部を着脱自在に固定することにより、前記デッキボートが前記スカートガードの前記一方の側部、又は、前記他方の側部を覆い、かつ、前記デッキボートの裏面と前記スカートガードの前記一方の側部、又は、前記他方の側部との間に隙間が形成されている、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記取付部材は、前記スカートガードに対し上下動させるための長穴を有し、
前記長穴の上下方向の長さが、前記デッキボートの裏面と前記スカートガードの前記一方の側部、又は、前記他方の側部との重なり長さと同じか、又は、短い、
ことを特徴とする請求項4に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−246226(P2011−246226A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120482(P2010−120482)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】