説明

乗用トラクタ

【課題】簡単な構成でトップリンクを保持できる乗用トラクタを提供する。
【解決手段】作業機を連結するためのトップリンク(リンク機構)24と、運転座席と、運転座席を固定して支持するフロアシート17と、作業機を連結しないときにトップリンク24を保持するためのフック(保持部)23とを備える。そして、フック23をフロアシート17に支持する支持部22が、フロアシート17後部の一部を切り起こして形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機を連結するためのリンク機構と、運転座席と、運転座席を固定して支持するフロアシートと、作業機を連結しないときにリンク機構を保持するための保持部とを備える乗用トラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗用トラクタでは、その後端に作業機を連結するためのリンク機構を備える。このリンク機構は、トラクタの車幅方向ほぼ中央で上側に1箇所、車幅方向両側で下側に2箇所の合計3箇所で作業機を連結する、いわゆる3点リンク方式が一般的である。上側1箇所のリンクはトップリンク、下側2箇所のリンクはロワーリンクと呼ばれる。トップリンクは棒状、ロワーリンクは板状である。そして、トップリンク、ロワーリンクそれぞれの基端側は、トラクタの車体に取り付けられている。一方、トップリンク、ロワーリンクともにその他端は作業機に連結可能に構成されている。
【0003】
ロワーリンクは、その中央部付近にリフトロッドの一端を回動自在に取り付けてなる。そして、そのリフトロッドの他端は、油圧装置のリフトアームに連結されている。このため、作業機を連結していないときでも、油圧装置が非稼動であればロワーリンクは動かないように固定されている。一方、トップリンクには油圧装置が連結されていないため、作業機を連結しないときは、トップリンクの他端の動きを固定するものがなく自由端となっている。このため、特にトラクタ走行中には、トップリンクが揺動してトラクタの他の部分と接触する恐れがあり危険であった。
【0004】
そこで、トップリンクを保持する保持部をトラクタに設け、作業機を連結しないときには、この保持部でトップリンクを保持して、その動きを固定する技術が広く用いられてきた。特に、特許文献1では、運転座席の下に備えられ、運転座席を固定して支持するフロアシートの後部を鉛直になるように折り曲げて、そこに支持部材を溶接にて固設させている。そして、この支持部材にフック状の保持部を揺動自在に支持させる。
【0005】
このように構成された乗用トラクタが作業機を連結しないときは、トップリンクを起立させた状態で、フック状の保持部をトップリンクの中央部付近に引っかけて係合させる。このようにすることで、トップリンクは保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−232802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような構成の乗用トラクタでは、支持部材を別途製作し、それを溶接にてフロアシートの後端に固設するので、部品点数が増えてトラクタの構成が複雑になってしまうという問題があった。
そこで、この発明の目的は、簡単な構成でトップリンクを保持できる乗用トラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため請求項1に記載の発明は、作業機を連結するためのリンク機構と、運転座席と、該運転座席を固定して支持するフロアシートと、前記作業機を連結しないときに前記リンク機構を保持するための保持部とを備える乗用トラクタにおいて、
前記保持部を支持する支持部が、前記フロアシート後部の一部を切り起こして形成されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、作業機を連結するためのリンク機構と、運転座席と、該運転座席を固定して支持するフロアシートと、前記作業機を連結しないときに前記リンク機構を保持するための保持部とを備える乗用トラクタにおいて、
前記フロアシート後部の一部を切り起して前記保持部が形成されることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の乗用トラクタにおいて、前記保持部がフロアシート後部の一部を一側方から切り起して形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の乗用トラクタにおいて、前記保持部がフロアシート後部の一部を両側方から切り起して形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、作業機を連結するためのリンク機構と、運転座席と、運転座席を固定して支持するフロアシートと、作業機を連結しないときにリンク機構を保持するための保持部とを備える乗用トラクタにおいて、保持部を支持する支持部が、フロアシート後部の一部を切り起こして形成されるので、保持部をフロアシートと一体に形成することができる。したがって、他の部材を用いて支持部を構成する必要がなく、簡単な構成でトップリンクを保持できる乗用トラクタを提供することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、作業機を連結するためのリンク機構と、運転座席と、運転座席を固定して支持するフロアシートと、作業機を連結しないときにリンク機構を保持するための保持部とを備える乗用トラクタにおいて、フロアシート後部の一部を切り起して保持部が形成されるので、支持部を必要としないことに加えて、別途保持部を構成して取り付ける必要がなく、簡単な構成でトップリンクを保持できる乗用トラクタを提供することができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、保持部がフロアシート後部の一部を一側方から切り起して形成されるので、支持部を必要としないことに加えて、別途保持部を構成して取り付ける必要がなく、簡単な構成でトップリンクを保持できる乗用トラクタを提供することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、保持部がフロアシート後部の一部を両側方から切り起して形成されるので、支持部を必要としないことに加えて、別途保持部を構成して取り付ける必要がなく、簡単な構成でトップリンクを保持できる乗用トラクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の一実施例に係る乗用トラクタの要部概略側面図である。
【図2】図1のさらに要部拡大図であり、(a)は側面図、(b)は平面図、(c)は正面図である。
【図3】この発明の別の実施例の要部概略拡大図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は平面図である。
【図4】この発明のさらに別の実施例の要部概略拡大図であり、(a)は側面図、(b)は正面図、(c)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1には、この例の乗用トラクタの要部概略側面図を示す。トラクタ10は、前部にボンネット11を備え、そのボンネット11の後端に連続してステアリングコラムカバー12を設ける。ステアリングコラムカバー12には、上方に向けてステアリング13を延出して設ける。ステアリング13の後方には一定の距離を隔てて運転座席14を備える。運転座席14は車体フレーム16の上に設けられる。詳しくは、車体フレーム16の後部に設けられた段部の上に、フロアシート17を固設する。そして、そのフロアシート17上には、載置台18を固設する。さらに載置台18の上には、運転者が運転座席14の前後方向の位置決めをするための、一対の位置決めレール19を固設する。この位置決めレール19は、トラクタ10の進行方向に対して両側に平行に設けられる。そして、その位置決めレール19には、運転座席14を支持するための支持板20をトラクタ10の前後方向にスライド自在に取り付ける。一方、支持板20の前部には、シート留軸21を回動自在に取り付ける。詳しくは、支持板20の先端を上面側に巻き上げて円筒を形成し、その円筒の中心にシート留軸21を挿入する。シート留軸21の両端は運転座席14の前部の下部に固設される。したがって、運転座席14はシート留軸21を中心としてトラクタ10の前方に傾動可能に構成されている。
【0018】
運転座席14の後方には燃料タンク15を備える。燃料タンク15の後端にてフロアシート17の後部は上方に向かって折れ曲がって形成されている。したがって、燃料タンク15の後部はこの折曲部に合わせた形状となっている。そして、フロアシート17の後端部には支持部22を形成する。そして、支持部22にはフック(保持部)23を揺動自在に取り付ける。このフック23は、トップリンク24を保持するためのものである。
【0019】
トラクタ10の後端には、車幅方向の中心にトップリンク24を取り付ける。詳しくは、トップリンク24の基端側を回動支点24Aに回動自在に取り付ける。また、トップリンク24の下方で、かつ車幅方向の両側に一対のロワーリンク25を設ける。これらトップリンク24、ロワーリンク25とでリンク機構を構成する(3点リンク方式)。ロワーリンク25の基端側は車体フレーム16に回動自在に取り付ける。なお、ロワーリンク25には、その長手方向の略中央付近にリフトロッドの一端を取り付ける。リフトロッドの他端は油圧シリンダのリフトアームに取り付けられている。したがって、ロワーリンク25は作業機を取り付けていない状態でも、油圧シリンダによって揺動を規制されている。これに対して、トップリンク24は作業機を取り付けていないときは、揺動自在となっているため、これを保持して固定するフック23が必要となる。
【0020】
フロアシート17の後端部は、詳しくは図2(a)〜(c)に示すように形成されている。フック23を支持する支持部22は、フロアシート17の後端の車幅方向の略中央に2つの切り込みを入れて、その切り込みに挟まれた部分をトラクタ10の後方に向けて円筒状に巻いて(切り起こして)形成される。そして、その円筒部分に略S字状のフック23の一端を貫入させる。貫入させたフック23の末端はかぎ状に折れ曲がって、支持部22からの抜け止め23aを構成している。なお、フック23は支持部22に対して揺動自在に支持されている。一方、フック23の前部(S字の上半分)は、トップリンク24を確実に挟持して保持するために、トップリンク24の外径よりもやや狭く形成されている。そして、先端は、トップリンク24を挿入しやすいようにやや外側に向けて折り曲げられている。作業機を連結しないときは、トップリンク24を回動支点24Aを中心としてフック23のある位置まで回動させる。そして、トップリンク24の側部をコの字型に開口したフック23に挿入して、保持する。
【0021】
ところで、トップリンク24を保持するフック(保持部)は図3(a)〜(c)のように構成してもよい。すなわち、フロアシート17の後部の起立した部分に逆コの字状切り込みを入れる。詳しくは、フロアシート17の後端に近い部分で、かつ、トラクタ10の車幅方向のほぼ中央部に正面視で逆コの字型の切り込みを入れる。そして、切り込んだ部分を図3(b)にて左側(一側方)から右側に向かって起こす。切り起こした部分はトップリンク24の外周形状に沿うように半円筒形状に形成されて、フック231となる。なお、フック231の先端は、トップリンク24を挿入しやすいようにやや外側に向けて折り曲げられている。また、17Sはフック231を切り起こしたときに形成された開口部である。フック231とフロアシート17との距離は、トップリンク24を確実に挟持して保持することができるように、トップリンク24の外径よりもやや狭く構成される。作業機を連結しないときは、トップリンク24を回動支点24Aを中心としてフック231のある位置まで回動させる。そして、トップリンク24の側部をフック231の開口に挿入して、保持する。
【0022】
さらに、フック(保持部)は図4(a)〜(c)のように構成してもよい。すなわち、フロアシート17の後部の起立した部分に車幅方向中心より両側に等距離の位置に切り込みを形成する。詳しくは、フロアシート17の後端に近い部分で、かつ、トラクタ10の車幅方向の略中央部に正面視で右側にコの字状の、左側に逆コの字状の切込みを入れる。そして、2つの切り込んだ部分を図4(b)にて両側から中心に向かって起こす。2つの切り起こした部分は、トップリンク24の外周形状に沿うようにそれぞれ円弧状に形成されて、フック232となる。なお、フック232の先端は、トップリンク24を挿入しやすいようにやや外側に向けて折り曲げられている。また、17S1,17S2はフック232を切り起こしたときに形成された開口部である。フック232の両翼の距離は、トップリンク24を確実に挟持して保持することができるように、トップリンク24の外径よりもやや狭く形成される。作業機を連結しないときは、トップリンク24を回動支点24Aを中心としてフック231のある位置まで回動させる。そして、トップリンク24の側部をフック231の開口に挿入して、保持する。
【産業上の利用可能性】
【0023】
なお、この発明は、後部にトップリンク(リンク機構)を有する乗用トラクタに適用することができる。
【符号の説明】
【0024】
10 トラクタ
11 ボンネット
12 ステアリングコラムカバー
13 ステアリング
14 運転座席
15 燃料タンク
16 車体フレーム
17 フロアシート
17S,17S1,17S2 開口部
18 載置台
19 位置決めレール
20 支持板
21 シート留軸
22 支持部
23,231,232 フック(保持部)
23a 抜け止め
24 トップリンク
24A 回動支点
25 ロワーリンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を連結するためのリンク機構と、運転座席と、該運転座席を固定して支持するフロアシートと、前記作業機を連結しないときに前記リンク機構を保持するための保持部とを備える乗用トラクタにおいて、
前記保持部を支持する支持部が、前記フロアシート後部の一部を切り起こして形成されることを特徴とする、乗用トラクタ。
【請求項2】
作業機を連結するためのリンク機構と、運転座席と、該運転座席を固定して支持するフロアシートと、前記作業機を連結しないときに前記リンク機構を保持するための保持部とを備える乗用トラクタにおいて、
前記フロアシート後部の一部を切り起して前記保持部が形成されることを特徴とする、乗用トラクタ。
【請求項3】
前記保持部がフロアシート後部の一部を一側方から切り起して形成されることを特徴とする、請求項2に記載の乗用トラクタ。
【請求項4】
前記保持部がフロアシート後部の一部を両側方から切り起して形成されることを特徴とする、請求項2に記載の乗用トラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−4686(P2011−4686A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152969(P2009−152969)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】