説明

乗用型田植機

【課題】重複姿勢と展開姿勢とに切換自在な複数の予備苗載台を備えた乗用型田植機への乗降を容易にする。
【解決手段】予備苗載台Crが、支柱状フレーム25に支持される固定予備苗載台26と、この固定予備苗載台26の上面に重なる2つの可動予備苗載台27とで構成され、重複姿勢に設定した状態で、予備苗載台Crの前端部と後端部から突出するように、固定予備苗載台26の固定フレーム31に把手43を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の予備苗載台を平面視で重なり合う重複姿勢と前後向きに直線状に並ぶ展開姿勢とに切換自在に構成した予備苗載置ユニットが、走行機体の前部位置に備えられている乗用型田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された乗用型田植機として特許文献1には、走行機体の前部の左右に配備した複数の予備苗載台(文献では、苗受け板)を、上下方向に所定間隔で配設する重複姿勢(文献では、第1形態)と、複数の予備苗載台を前後に一列状に配設する展開姿勢(文献では、第2形態)とに切換自在に備えた構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−135506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される田植機では、複数の予備苗載台を重複姿勢に設定することにより、複数の予備苗載台が棚状に配置され、各予備苗載台にマット状苗を載置できるように構成されている。また、複数の予備苗載台を展開姿勢に設定することにより、前端の予備苗載台から後端の予備苗載台までマット状苗を連続的に送り込むことが可能となり、走行機体に搭乗した作業者が、マット状苗を苗植付装置に容易に供給できることになる。
【0005】
特許文献1に記載されるように、田植機の中央位置に運転座席が配置され、前部位置のボンネット(原動部)の両側部にステップが形成され、このステップより機体外方位置に前述した予備苗載台が配置される構成では、作業者が畦から乗降する場合にステップを通過することになる。また、作業者が走行機体の側部位置から乗降を行う場合には、複数の予備苗載台を重複姿勢に設定し、この予備苗載台の後方側の空間を作業者が通過することになる。
【0006】
このように走行機体に作業者が乗降する際の状況を考えると、畦から走行機体に乗り込む場合や、圃場から走行機体に乗り込む場合には、作業者の姿勢が不安定な姿勢に陥らないように構成することも必要であり改善が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、重複姿勢と展開姿勢とに切換自在な複数の予備苗載台を備えた乗用型田植機において作業者の乗降を容易にする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、複数の予備苗載台を平面視で重なり合う重複姿勢と前後向きに直線状に並ぶ展開姿勢とに切換自在に構成した予備苗載置ユニットが、走行機体の前部位置に備えられている乗用型田植機であって、前記重複姿勢において複数の前記予備苗載台のうちの少なくとも何れか一つにおいて前端部又は後端部に対して前記走行機体への乗降位置の側に突出する把手が備えられている点にある。
【0009】
この構成によると、複数の予備苗載台が重複姿勢にある状態では把手が、複数の予備苗載台の何れか一つの前端部又は後端部から走行機体への乗降位置の側に突出する形態となるので、作業者が走行機体に乗り込む場合でも、降りる場合でも、作業者は把手を容易に握ることが可能となり、作業者の姿勢を安定させることができる。つまり、この構成では把手を形成するための専用のフレーム類を用いずとも、予備苗載置ユニットの構成を利用して把手を形成することが可能となる。
その結果、重複姿勢と展開姿勢とに切換自在な複数の予備苗載台を備えた乗用型田植機において、把手を形成するための専用の構成を備えずとも作業者の乗降を容易にする田植機が構成された。
【0010】
本発明は、平面視で前記重複姿勢にある前記予備苗載台の横幅より狭い領域の内部に前記把手が配置されても良い。
【0011】
これによると、把手が予備苗載台の横幅方向に張り出すことがないので、可動予備苗載台を展開姿勢に切り換える操作を行う場合に、作業者の手が把手に接触する等の不都合がなく操作を容易に行える。また、把手が予備苗載台の横幅方向に張り出すことがないので、作業者の乗降時に作業者の衣服等に接触する不都合も抑制される。
【0012】
本発明は、前記走行機体の前部位置に支柱状フレームを備え、複数の前記予備苗載台が、前記支柱状フレームに支持される固定予備苗載台と、前記展開姿勢で前記固定予備苗載台の前部側と後部側とに配置される可動予備苗載台とを備えて構成され、前記把手が、前記固定予備苗載台を前記支柱状フレームに支持する固定フレームの前端又は後端に設けられても良い。
【0013】
これによると、支柱状フレームに固定予備苗載台を支持するための固定フレームに対して把手を形成しているので、フレーム類の大型化を招くことなく強固に把手を維持することが可能となる。
【0014】
本発明は、前記把手が、前記固定予備苗載台の予備苗載置面より低いレベルに配置されても良い。
【0015】
これによると、予備苗載台を展開姿勢に設定した場合、把手が複数の予備苗載台の予備苗載置面より低いレベルとなり、可動予備苗載台を展開姿勢に切り換える操作を行う場合、作業者の手が把手に接触する等の不都合がなく操作が容易となる。
【0016】
本発明は、前記重複姿勢では2つの前記可動予備苗載台の一方が固定予備苗載台の上面に重なり、この上面に他方の可動予備苗載台が重なると共に、2つの前記可動予備苗載台が、前記固定フレームに対して非分離状態での位置変更、又は、分離状態での位置変更により前記展開姿勢に切換えられるように前記予備苗載置ユニットが構成され、前記展開姿勢に設定された可動予備苗載台の底部に当接する位置に前記把手が配置されても良い。
【0017】
これによると、重複姿勢では予備苗載台が重なり合うことで上下方向の寸法を短くして走行時における運転者の視界を良好にする。また、展開姿勢では把手が可動予備苗載台の底部に当接して受け止めることになり、マット状苗を載置した場合にも可動予備苗載台を展開姿勢に安定的に維持することが可能となる。
【0018】
本発明は、前記展開姿勢で前記固定予備苗載台より後方位置となる前記可動予備苗載台に対し、この可動予備苗載台に載置された載置物を付勢力により予備苗載置面に押さえ込むホルダアームが揺動自在に備えられても良い。
【0019】
これによると、展開姿勢で固定予備苗載台より後方位置の可動予備苗載台の予備苗載置面の載置物の上面にホルダアームを付勢力による当接させることで、この載置物を予備苗載台の載置面に押圧することから載置物の脱落を抑制する。
【0020】
本発明は、前記ホルダアームを備えた前記可動予備苗載台が、前記重複姿勢で最上段に配置され、前記ホルダアームは、前記重複姿勢において前記固定予備苗載台の底部に対して付勢力により当接するように前記ホルダアームの揺動領域が設定されても良い。
【0021】
これによると、予備苗載台を重複姿勢に設定した場合には、ホルダアームを固定予備苗載台の底部に付勢力により当接させることで、最も上部の可動予備苗載台と固定予備苗載台とを付勢力により引き寄せる形態となり、可動予備苗載台が浮き上がる不都合を抑制し重複姿勢の安定化が実現する。
【0022】
本発明は、前記ホルダアームが、平面視において前記可動予備苗載台の機体外方位置に配置されても良い。
【0023】
これによると、走行機体に搭乗した作業者が予備苗載置ユニットの近傍を移動する場合に衣服等がホルダアームに接触することがない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】予備苗載置ユニットが重複姿勢にある乗用型田植機の側面図である。
【図2】予備苗載置ユニットが重複姿勢にある乗用型田植機の平面図である。
【図3】予備苗載置ユニットが展開姿勢にある乗用型田植機の平面図である。
【図4】重複姿勢にある予備苗載置ユニットの側面図である。
【図5】展開姿勢にある予備苗載置ユニットの側面図である。
【図6】展開姿勢での前軸芯の構成を示す断面図である。
【図7】重複姿勢にある予備苗載置ユニットの後面図である。
【図8】押圧機構のホルダアームの揺動形態を示す図である。
【図9】予備苗載置ユニットの分解斜視図である。
【図10】固定フレームと支持フレーム等を示す分解斜視図である。
【図11】別実施形態(a)の肥料タンクの部位の側面図である。
【図12】別実施形態(a)の肥料タンクと保持フレームとの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔全体構成〕
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図3に示すように、左右一対の前車輪1と左右一対の後車輪2とを有した走行機体Aの中央に運転座席3を配置し、この走行機体Aの後端にリンク機構Lを介して苗植付装置Bを昇降自在に連結し、走行機体Aの前部位置の両側部に予備苗載置ユニットCを備えて乗用型田植機が構成されている。
【0026】
この乗用型田植機は、走行機体Aの前部のボンネット4の内部にエンジンEが配置され、このエンジンEからの動力をミッションケース5に伝え、このミッションケース5から左右の前車輪1と左右の後車輪2とに伝え伝動系を備えると共に、走行機体Aの走行速度と同期した駆動力を苗植付装置Bに伝える伝動系を備えている。運転座席3の前方位置にステアリングホイール6が配置され、このステアリングホイール6の左側部に主変速レバー7が配置され、運転座席3の近傍に操作レバー8が配置されている。
【0027】
苗植付装置Bは、複数の整地フロート11と、マット状苗W(図6を参照)を載置する苗載台12と、苗載台12に載置されたマット状苗Wから苗を切り出して圃場面に植え付けるロータリ式の植付機構13とを備えており、走行機体Aから走行速度に同機した駆動力が外部出力軸14により伝えられる。そして、苗植付け作業時には、走行機体Aの走行に伴い複数の整地フロート11が苗植え付け箇所の泥面を整地する一方で、外部出力軸14から伝えられる駆動力により、苗載台12を左右方向に一定ストロークで往復作動させ、この往復作動時に苗載台12のマット状苗Wの下端からロータリ式の植付機構13が苗を所定量ずつ切り出して圃場に植え付ける植え付け作動が行われる。
【0028】
前記リンク機構Lは、複数のリンク部材15を有すると共に、油圧式の昇降シリンダ16を有しており、昇降シリンダ16の伸縮作動により苗植付装置Bを昇降させる。
【0029】
運転座席3の下方位置にステップ21が形成されると共に、ボンネット4の左右の両側部にはステップ21に連なり走行機体Aの前端位置に達する搭乗フロア22が形成されている。また、ステップ21と搭乗フロア22との外側に、これらと同じレベルとなる拡張ステップ23が備えられている。
【0030】
〔予備苗載置ユニット〕
ボンネット4の外側で搭乗フロア22の両外側位置に縦向き姿勢となる一対の支柱状フレーム25が備えられ、この支柱状フレーム25に3つの予備苗載台Crを備えて予備苗載置ユニットCが構成されている。3つの予備苗載台Crは、図1、図2、図4に示す如く、平面視で夫々が上下に重なり合う重複姿勢と、図3、図5に示す如く、平面視で夫々が前後向きに直線状で3つの予備苗載台Crが前後に隣接する展開姿勢とに設定自在に構成されている。
【0031】
3つの予備苗載台Crのうち支柱状フレーム25に支持されるものを固定予備苗載台26と称し、展開姿勢で固定予備苗載台26の前部と後部とに配置されるものを可動予備苗載台27と称している。この固定予備苗載台26と可動予備苗載台27とは、底壁と、この底壁の両側部において縦向き姿勢となる側壁とを樹脂材で一体形成した構造を有し、底壁には水抜き用の多数の開口が形成されている。この底壁の上面が予備苗載置面であり、この予備苗載置面には複数の遊転ローラ28を備えている。
【0032】
この予備苗載置面には図6に示すように、育苗箱18に収容された状態のマット状苗W、又は、苗すくい板に載置された状態のマット状苗Wが載置されることになり、複数の遊転ローラ28により走行機体Aの後方に向けて円滑に送るように構成されている。また、展開姿勢で前部位置となる可動予備苗載台27の前端位置にはマット状苗Wの脱落を防止するストッパー29を備えており、これと同様に、展開姿勢で後部位置となる可動予備苗載台27の後端位置にもマット状苗Wの脱落を防止するストッパー29を備えている。
【0033】
2つ可動予備苗載台27のうち、展開姿勢で固定予備苗載台26の前部位置に配置されるものは固定予備苗載台26の前側の横向き姿勢の前軸芯Xfを中心に揺動自在に支持され、展開姿勢で固定予備苗載台26の後部位置に配置されるものは固定予備苗載台26の後側の横向き姿勢の後軸芯Xrを中心に揺動自在に支持さている。2つ可動予備苗載台27のうち、重複姿勢で固定予備苗載台26の上面に当接する形態で重なり合うものは展開姿勢で固定予備苗載台26の前側に配置され、最も上方に重なり合うものは展開姿勢で固定予備苗載台26の後側に配置される。
【0034】
この予備苗載置ユニットCは、ステアリングホイール6のレベルと略等しいレベルに配置することで、作業に最適な高さでマット状苗Wを移動して、能率的な作業を行えるようにしている。
【0035】
〔予備苗載置ユニットのフレーム構造〕
図4〜図10に示すように、支柱状フレーム25はパイプ材が用いられ、その上部位置には複数の貫通孔25Aが形成されている。固定予備苗載台26は丸パイプ材で成る固定フレーム31に支持され、この固定フレーム31にはブラケット32が形成されている。このような構造から、ブラケット32の孔部に挿通する連結ボルト33を貫通孔25Aに挿通して締結することにより、支柱状フレーム25に固定フレーム31が固定される。尚、ブラケット32には、固定フレーム31の下面に連結する強度フレーム32Aが連結され、支柱状フレーム25の複数の貫通孔25Aを選択してブラケット32を連結することにより予備苗載置ユニットCの高さ調節を行えるように構成されている。
【0036】
前部位置の可動予備苗載台27は、丸パイプ材で成る前部可動フレーム35に支持され、後部位置の可動予備苗載台27は、丸パイプ材で成る後部可動フレーム36に支持されている。前部可動フレーム35の後端が固定フレーム31の前端位置に前軸芯Xfと同軸芯の前軸体37により揺動自在に連結し、後部可動フレーム36の前端が固定フレーム31の後端位置に後軸芯Xrと同軸芯の後軸体38により揺動自在に連結している。
【0037】
具体的構成として、固定フレーム31は、平行姿勢となる左右一対の主フレーム31Aを有すると共に、これらを連結する横向き姿勢の3本の連結フレーム31Bを前端位置と中央位置と後端位置とに備えている。前部位置と後部位置との連結フレーム31Bには、固定予備苗載台26を固定フレーム31にビス41により固定するための支持プレート42を備えている。
【0038】
また、前部位置の連結フレーム31Bに対して前方に突出する姿勢の把手43を設け、後部位置の連結フレーム31Bに対して後方に突出する姿勢の把手43を設けている。この把手43はコ字状に成形した丸パイプ材で構成され、前側の把手43は、固定予備苗載台26の前端部から前方に突出し、後側の把手43は固定予備苗載台26の後端部から後方に突出する位置に形成される。
【0039】
これらの把手43は走行機体Aに対する作業者の乗降を補助するものであり、前方に突出する把手43は、走行機体Aの搭乗フロア22の前端位置(乗降位置の一例)から作業者が乗降する場合に作業者が容易に握り得る位置に配置されている。後方に突出する把手43は、走行機体Aの拡張ステップ23の側部位置(乗降位置の一例)から作業者が乗降する際に作業者が容易に握り得る位置に配置されている。また、夫々の把手43の横幅は、図2に示す如く予備苗載台Crの横幅より狭い領域の内部に配置され、夫々の把手43は固定予備苗載台26の予備苗載置面より低いレベルに配置されている。
【0040】
前部可動フレーム35は、丸パイプ材をコ字状に屈曲させることで可動予備苗載台27の左右両側部に配置される前部フレーム35Aを有すると共に、前部フレーム35Aの左右両側部に連結する前部連結フレーム35Bを有している。この前部可動フレーム35の横向き姿勢のフレーム部分と、前部連結フレーム35Bとには前部可動フレーム35を固定フレーム31にビス41により固定するための支持プレート42を備えている。図6に示すように、前部連結フレーム35Bには、展開姿勢において把手43の突出側の端部に当接することで展開姿勢を維持する規制部材44を備えている。
【0041】
また、前部フレーム35Aの展開姿勢での後端部と、主フレーム31Aの前端部とに貫通するように前述した前軸体37を備えることにより、夫々を前軸芯Xfを中心にして揺動自在に連結している。これにより、前部位置の可動予備苗載台27が固定予備苗載台26に対して揺動自在に支持されることになる。
【0042】
後部可動フレーム36は、前部可動フレーム35と同様に、丸パイプ材をコ字状に屈曲させることで可動予備苗載台27の左右両側部に配置される後部フレーム36Aを有すると共に、後部フレーム36Aの左右両側部に連結する後部連結フレーム36Bを有している。この後部可動フレーム36の横向き姿勢のフレーム部分と、後部連結フレーム36Bとには後部可動フレーム36を固定フレーム31にビス41により固定するための支持プレート42を備えている。後部連結フレーム36Bには、展開姿勢において把手43の突出側の端部に当接することで展開姿勢を維持する規制部材44を備えている。
【0043】
本実施形態では、把手43の突出側の端部を規制部材44(底部の一例)に当接させることで、展開姿勢を維持する構成を採用しているが、把手43を予備苗載台Crの底壁に当接させることで展開姿勢を維持する構成を採用しても良い。
【0044】
また、後部フレーム36Aの展開姿勢での前端部と、主フレーム31Aの後端部とに貫通するように前述した後軸体38を備えることにより、夫々を後軸芯Xrを中心にして揺動自在に連結している。これにより、後部位置の可動予備苗載台27が固定予備苗載台26に対して揺動自在に支持されることになる。
【0045】
尚、展開姿勢で後部位置の可動予備苗載台27が、重複姿勢で固定予備苗載台26の上面に当接するように後軸芯Xrの位置が設定され、展開姿勢で前部位置の可動予備苗載台27が重複姿勢で他方の可動予備苗載台27の上面に当接するように前軸芯Xfの位置が設定されている。
【0046】
〔予備苗載置ユニットの押圧機構〕
更に、展開姿勢で後部位置となる可動予備苗載台27は、重複姿勢で最上段となる位置に配置されるものであり、この可動予備苗載台27の機体外方位置で運転座席3に着座した作業者が操作可能な位置に押圧機構Dを備えている。図5、図7、図8に示すように、この押圧機構Dは、可動予備苗載台27に載置された載置物を付勢力により予備苗載置面に押さえ込むホルダアーム51を有している。この押圧機構Dは、後部可動フレーム36に連結される連結フレーム52に支持されるケース53を有し、連結フレーム52に対して揺動軸Pを中心にして揺動自在にホルダアーム51が支持され、このホルダアーム51を押圧姿勢と開放姿勢とに保持するように、ホルダアーム51の中間部分とケース53の外面の支持ピン54との間に配置されるコイルバネ55を備えている。
【0047】
この押圧機構Dでは、コイルバネ55からホルダアーム51に付勢力を作用させる作用点が、揺動軸Pと支持ピン54とを結ぶ仮想直線を越える領域において揺動できるように構成されることにより、ホルダアーム51の先端を可動予備苗載台27の予備苗載置面にコイルバネ55の付勢力により当接する当接姿勢と、ホルダアーム51の先端を可動予備苗載台27の載置面から大きく離間させる開放姿勢とにトグル式に作動させ、夫々の位置において保持することも可能に構成されている。
【0048】
この構成から、予備苗載台Crが展開姿勢にある場合に後部位置の可動予備苗載台27に載置された育苗箱18(図6を参照)や苗すくい板等の載置物の上面に対しホルダアーム51を当接させて載置物の浮き上がりを抑制できる。また、この展開姿勢にある状態でホルダアーム51を開放姿勢に設定することで、ホルダアーム51の先端が載置面から浮き上がる姿勢に維持して載置物のセットや取り外しを行える。
【0049】
更に、押圧機構Dは、予備苗載台Crが重複姿勢にある状態では、図7に仮想線で示す如く、ホルダアーム51が固定予備苗載台26の底部に対してコイルバネ55の付勢力により当接するようにホルダアーム51の揺動領域が設定されている。このように重複姿勢に切り換える操作時には、ホルダアーム51を開放姿勢に保持することになるが、重複姿勢に操作した後に、このホルダアーム51を当接姿勢に切り換えることにより、このホルダアーム51が固定予備苗載台26の底部の主フレーム31Aに当接する。このようにコイルバネ55の付勢力により最上部の可動予備苗載台27と固定予備苗載台26とを引き寄せる形態となり、2つ可動予備苗載台27が展開姿勢の方向に浮き上がる不都合を抑制し重複姿勢の安定化が実現する。
【0050】
尚、このように重複姿勢の安定化を図るためにホルダアーム51の先端部を固定予備苗載台26の底壁に当接させるように構成しても良い。
【0051】
〔実施形態の作用・効果〕
この構成から、マット状苗Wを畦から苗植付装置Bの苗載台12に供給する際には、走行機体Aを畦際に接近させ、予備苗載台Crを展開姿勢に設定し、畦から前端位置の予備苗載台Crに対して、例えば、図6に示す如く、育苗箱18に収容された状態のマット状苗Wを載置し走行機体Aの後方に送ることにより、遊転ローラ28の回転によりマット状苗Wが後端位置の予備苗載台Crまで送り込まれることになり、ステップ21に立つ作業者が後端位置の予備苗載台Crから苗植付装置Bの苗載台12にマット状苗Wを供給できる。
【0052】
予備苗載置ユニットCは、重複姿勢では予備苗載台Crが互いに当接する状態となるように配置されることから、この重複姿勢では上下方向の寸法が短くなり運転者の視界を良好にする。また、重複姿勢で予備苗載台Crの前端から前方に把手43が突出すると共に、予備苗載台Crの後端から把手43が後方に突出するため、作業者が搭乗フロア22に乗り移る場合に、予備苗載台Crの前端側の把手43を握ることにより、運転者が姿勢を崩すことのない移動を実現する。作業者が圃場から走行機体Aに乗り込む場合には、予備苗載台Crの後端側の把手43を握ることにより運転者の姿勢が崩すことになり乗り込みを実現する。
【0053】
この把手43は、可動予備苗載台27を展開姿勢に設定した場合に、その可動予備苗載台27の底部の規制部材44に当接することで、展開姿勢を維持する機能も有している。更に、夫々の把手43は平面視において予備苗載台Crの横幅より狭い領域の内部に配置されるため、この把手43が搭乗フロア22の方向に突出することがなく、搭乗フロア22を移動する作業者の衣服等に接触しない。夫々の把手43は固定予備苗載台26の予備苗載置面より低いレベルに配置されているため、予備苗載台Crを展開姿勢に設定した場合にも、把手43が複数の予備苗載台Crの載置面より低いレベルとなり、可動予備苗載台27を展開姿勢に切り換える操作を行う場合にも、作業者の手が把手43に接触する等の不都合がなく操作を容易に行える。
【0054】
押圧機構Dを備えているので、予備苗載置ユニットCが展開姿勢にある場合にはホルダアーム51により予備苗載置面の載置物が風に吹き飛ばされることや、載置物が走行時の振動により脱落することが無い。また、予備苗載置ユニットCが重複姿勢にある場合には、上端の予備苗載台Crと下端の予備苗載台Crとをホルダアーム51が引き寄せる形態に維持して、予備苗載台Crの浮き上がりを抑制する。また、この押圧機構Dが、予備苗載置ユニットCの外側に配置されるため、作業者の衣服等が押圧機構Dに接触することがなく作業を支障なく行える。
【0055】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
(a)図11、図12に示すように、走行機体Aの前部位置にペースト状(液状)の肥料を貯留する肥料タンク61を左右の予備苗載置ユニットCの下側に備え、この肥料タンク61の下側に肥料を送り出すポンプ62を備え、このポンプ62からの肥料を苗植付装置Bのノズル(図示せず)に供給できるように構成されている。肥料タンク61の前部には供給口61Aを開閉する蓋体61Bを揺動開閉自在に備えており、この肥料タンク61の前部位置には、肥料タンク61に肥料を補充する際に補充タンク65を保持する保持フレーム66を備えている。この保持フレーム66は、補充タンク65から肥料を補充する際に、排出口65Aを下方に向けた状態で補充タンク65の保持するように構成されている。補充タンク65は箱状であり、保持フレーム66は補充タンク65を受け止めるように複数のロッド材を組み合わせた構造を有し、保持フレーム66に連結するようにロッド材で成る補強フレーム67を後方に延出し、この補強フレーム67の延出端を予備苗載置ユニットCの一対の支柱状フレーム25同士を接続する接続フレーム25Bに連結している。
【0056】
このような構成から、肥料タンク61に肥料を補充する際には、肥料タンク61の供給口61Aの蓋体61Bを開放した状態で、補充タンク65の排出口65Aを下方に向けて開放し、この補充タンク65の排出口65Aに挿入する姿勢で補充タンク65を保持フレーム66に保持することにより肥料が粘性を有するものであるが、作業者が補充タンク65を長時間人為的に保持する必要がなく、作業性を高めることになる。また、保持フレーム66が補強フレーム67により接続フレーム25Bに連結しているので保持フレーム66の強度を高め安定的に補充タンク65を保持できることになる。
【0057】
(b)予備苗載置ユニットCを、1つの固定予備苗載台26と1つ可動予備苗載台27とを備えて構成する、又は、1つの固定予備苗載台26と3つ以上の可動予備苗載台27とを備えて構成しても良い。
【0058】
(c)予備苗載置ユニットCは、重複姿勢で複数の予備苗載台Crが上下方向に隙間が形成され、予備苗載台Crにマット状苗Wを載置できるように構成しても良い。この場合、展開姿勢において複数の予備苗載台Crが前後方向にするように、リンク機構により複数の予備苗載台Crを支持する構成を採用しても良い。
【0059】
(d)可動予備苗載台27を固定予備苗載台26から着脱式(分離自在)に構成し、重複姿勢では可動予備苗載台27を重ね併せて保持し、展開姿勢では可動予備苗載台27を固定予備苗載台26の前端位置又は後端位置に取り付けるように予備苗載置ユニットCを構成しても良い。
【0060】
(e)把手43は、予備苗載置ユニットCの前部位置、あるいは、後部位置の1箇所だけに備えても良い。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、予備苗載置ユニットを備える構成の乗用型田植機全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
25 支柱状フレーム
26 固定予備苗載台
27 可動予備苗載台
31 固定フレーム
43 把手
44 底部(規制部材)
51 ホルダアーム
A 走行機体
C 予備苗載置ユニット
Cr 予備苗載台
Xf 軸芯(前軸芯)
Xr 軸芯(後軸芯)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の予備苗載台を平面視で重なり合う重複姿勢と前後向きに直線状に並ぶ展開姿勢とに切換自在に構成した予備苗載置ユニットが、走行機体の前部位置に備えられている乗用型田植機であって、
前記重複姿勢において複数の前記予備苗載台のうちの少なくとも何れか一つにおいて前端部又は後端部に対して前記走行機体への乗降位置の側に突出する把手が備えられている乗用型田植機。
【請求項2】
平面視で前記重複姿勢にある前記予備苗載台の横幅より狭い領域の内部に前記把手が配置されている請求項1記載の乗用型田植機。
【請求項3】
前記走行機体の前部位置に支柱状フレームを備え、複数の前記予備苗載台が、前記支柱状フレームに支持される固定予備苗載台と、前記展開姿勢で前記固定予備苗載台の前部側と後部側とに配置される可動予備苗載台とを備えて構成され、
前記把手が、前記固定予備苗載台を前記支柱状フレームに支持する固定フレームの前端又は後端に設けられている請求項1又は2記載の乗用型田植機。
【請求項4】
前記把手が、前記固定予備苗載台の予備苗載置面より低いレベルに配置されている請求項3記載の乗用型田植機。
【請求項5】
前記重複姿勢では2つの前記可動予備苗載台の一方が固定予備苗載台の上面に重なり、この上面に他方の可動予備苗載台が重なると共に、2つの前記可動予備苗載台が、前記固定フレームに対して非分離状態での位置変更、又は、分離状態での位置変更により前記展開姿勢に切換えられるように前記予備苗載置ユニットが構成され、
前記展開姿勢に設定された可動予備苗載台の底部に当接する位置に前記把手が配置されている請求項3又は4記載の乗用型田植機。
【請求項6】
前記展開姿勢で前記固定予備苗載台より後方位置となる前記可動予備苗載台に対し、この可動予備苗載台に載置された載置物を付勢力により予備苗載置面に押さえ込むホルダアームが揺動自在に備えられている請求項3〜5のいずれか一項に記載の乗用型田植機。
【請求項7】
前記ホルダアームを備えた前記可動予備苗載台が、前記重複姿勢で最上段に配置され、前記ホルダアームは、前記重複姿勢において前記固定予備苗載台の底部に対して付勢力により当接するように前記ホルダアームの揺動領域が設定されている請求項6記載の乗用型田植機。
【請求項8】
前記ホルダアームが、平面視において前記可動予備苗載台の機体外方位置に配置されている請求項6又は7記載の乗用型田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−31(P2013−31A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132245(P2011−132245)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】