説明

乗用車用空気入りラジアルタイヤ

【課題】ベルトコードを単線化して転がり抵抗を低減する一方で、ベルトエッジセパレーションに対する耐久性を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ベルト層10の補強コードとして2〜6本のスチールモノフィラメント20を撚り合わせることなく引き揃えて構成したフィラメント束10aを使用し、少なくとも幅が広い方のベルト層11において、ベルト層10の幅方向中央領域Cではフィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20がタイヤ子午線断面にてベルト層10の面方向に対して実質的に平行に並び、且つベルト層10の幅方向端部領域Eではフィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20がタイヤ子午線断面にてベルト層10の面方向に対して10°以上の角度で傾斜して並ぶようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用空気入りラジアルタイヤに関し、更に詳しくは、転がり抵抗を低減すると共に、タイヤの耐久性を向上することを可能にした乗用車用空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用空気入りラジアルタイヤは、一般に、一対のビード部間にタイヤ径方向に配向する複数本のカーカスコードを含むカーカス層を装架し、トレッド部におけるカーカス層の外周側にタイヤ周方向に対して傾斜する複数本のスチールコードを含むベルト層を配置した構造を有している。このような乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいては、省資源や省エネルギーといった社会的要請から車両の低燃費化が強く求められている。これを受けて、近年、転がり抵抗を低減した低燃費タイヤの開発が盛んに行われている。
【0003】
転がり抵抗を低減する手段の一つとしてタイヤの軽量化が挙げられ、具体的には、ベルト層に使用されているベルトコードの構成を見直すことが行われている。例えば、ベルトコードとして、複数本のフィラメントを撚り合わせたコードではなく、モノフィラメントからなるコードを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようにベルトコードを単線化した場合、ベルト層の薄肉化が可能になるため、タイヤを軽量化し、転がり抵抗の低減を図ることが出来る。
【0004】
一方、スチールコードは表面にメッキ処理が為され、ゴムとの接着性が付与されているが、切断端においてはメッキ処理が施されていないため、ゴムから剥がれ易くなっている。そのため、特に、モノフィラメントからなるスチールコードでは、この端部でのゴムの剥がれ易さに起因してベルトエッジセパレーションが発生し易くなると云う問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−300905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述する問題点を解決するもので、ベルトコードを単線化して転がり抵抗を低減する一方で、ベルトエッジセパレーションに対する耐久性を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の乗用車用空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部間にカーカス層を装架し、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、タイヤ周方向に対して15°〜45°の角度で傾斜する複数本の補強コードからなる2層のベルト層を層間でコード方向が交差するように配置した乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、前記補強コードとして2〜6本のスチールモノフィラメントを撚り合わせることなく引き揃えて構成したフィラメント束を使用し、該フィラメント束を単位としてゴム中に配設することで前記ベルト層を構成すると共に、少なくとも幅が広い方のベルト層において、前記ベルト層の幅方向中央領域Cでは前記フィラメント束を構成する前記スチールモノフィラメントがタイヤ子午線断面にて前記ベルト層の面方向に対して実質的に平行に並び、且つ前記ベルト層の幅方向端部領域Eでは前記フィラメント束を構成する前記スチールモノフィラメントがタイヤ子午線断面にて前記ベルト層の面方向に対して10°以上の角度で傾斜して並ぶことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ベルト層を無撚りのスチールモノフィラメントからなるフィラメント束から構成することで、従来の撚りコードを用いたベルト層よりもベルト層のゲージを薄くし転がり抵抗を低減することが出来る。特に、ベルト層の幅方向中央領域Cでスチールモノフィラメントをベルト層の面方向と実質的に平行に並べることでベルト層のゲージを薄くし転がり抵抗を低減することが出来る。一方、ベルト層の幅方向端部領域ではスチールモノフィラメントをベルト層の面方向に対して角度をつけて並べることで、ベルト層内の実質的なコード間隔(フィラメント束同士の間隔)が広くなり、ベルトエッジセパレーションの進展を遅くし、耐久性を向上することが出来る。
【0009】
本発明においては、ベルト層の幅方向中央領域Cにおける層間ゴムの平均厚さGcが0.3mm以上0.6mm以下であり、且つベルト層の幅方向端部領域における層間ゴムの平均厚さGeが0.7mm以上2.0mm以下であることが好ましい。これにより、転がり抵抗の低減と耐久性の向上とをより高度に両立することが出来る。
【0010】
本発明においては、スチールモノフィラメントの直径が0.27mm以上0.45mm以下であることが好ましい。このようにスチールモノフィラメントの直径を小さく設定することで、ベルト層のゲージを薄くして転がり抵抗を更に低減することが出来る。
【0011】
本発明においては、ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの強度が2700MPa以上であると共に、ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上7.0mm2 以下であることが好ましい。或いは、ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの強度が3200MPa以上であると共に、ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上6.3mm2 以下であることが好ましい。或いは、ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの強度が3500MPa以上であると共に、ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上5.6mm2 以下であることが好ましい。このように、ベルト層を構成するスチールフィラメントの強度に応じてベルト層を構成するスチールモノフィラメントの断面積と打ち込み本数との積を規定することで、強度とコードの存在量とのバランスを取り、優れた耐久性と優れた接着性を両立することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態からなる乗用車用空気入りラジアルタイヤの子午線断面図である。
【図2】図1の乗用車用空気入りラジアルタイヤのカーカス層及びベルト層を抽出して示す要部展開図である。
【図3】本発明のベルト層を拡大して示す子午線断面図である。
【図4】本発明の幅方向端部領域Eにおけるベルト層の一例を示す要部断面図である。
【図5】本発明のフィラメント束を拡大して示す展開図である。
【図6】(a)は図5におけるA−A矢視断面図、(b)は図5におけるB−B矢視断面図、(c)は図5におけるC−C矢視断面図である。
【図7】本発明のベルト層の要部拡大図であり、(a)は幅方向中央領域Cにおけるベルト層を示し、(b)は幅方向端部領域Eにおけるベルト層を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態からなる乗用車用空気入りラジアルタイヤ(以下「タイヤ」と称する。)を示す。また、図2は、図1のタイヤのカーカス層4及びベルト層10を抽出してタイヤ赤道面CLから一方の側のみを展開して示す。
【0015】
図1において、1はトレッド部、2はサイドウォール部、3はビード部である。左右一対のビード部3,3間には1層のカーカス層4が装架され、これらカーカス層4の端部がビードコア5の周りにタイヤ内側から外側に折り返されている。ビードコア5の外周側にはゴムからなる断面三角形状のビードフィラー6が配置されている。トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には、2層のベルト層10(11,12)がタイヤ全周に亘って配置されている。このベルト層10(11,12)を構成する補強コードとして、図2に示すように、スチールモノフィラメントからなるフィラメント束10a(11a,12a)が用いられ、このフィラメント束10をゴム中に埋設してベルト層10(11,12)が構成される。このフィラメント束10a(11a,12a)はタイヤ周方向に対して低角度で傾斜しており、その傾斜角度θ1は15°〜45°である。また、これらフィラメント束11a,12aは層間で互いに交差するように配置されている。
【0016】
このように構成された空気入りタイヤにおいて、補強コードとして用いられるフィラメント束10a(11a,12a)は、2〜6本のスチールモノフィラメント20を撚り合わせることなく引き揃えて構成されている。更に、このスチールモノフィラメント20は、幅方向の位置によってタイヤ子午線断面におけるベルト層10の面方向に対する並び角度が異なっている。
【0017】
具体的には、図3に示すように、タイヤ子午線断面において、ベルト層10の幅方向中央領域Cではフィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20がベルト層10の面方向に対して実質的に平行に並び、且つベルト層10の幅方向端部領域Eではフィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20のベルト層10の面方向に対する角度θeが10°以上に設定されている。尚、ベルト層10の面方向に対して実質的に平行とは、ベルト層10の面方向に対するスチールモノフィラメント20の角度が±5°以内であることを言う。いずれの領域についても、その領域に含まれる全てのフィラメント束10aについてスチールモノフィラメント20が上述の角度に設定されている。
【0018】
このように、ベルト層10の幅方向中央領域Cでスチールモノフィラメント20をベルト層10の面方向と実質的に平行に並べることで、ベルト層10のゲージを薄くし転がり抵抗を低減することが出来る。また、ベルト層10の幅方向端部領域Eでスチールモノフィラメント20をベルト層10の面方向に対して角度をつけて並べることで、フィラメント束10a同士の間隔が拡がりベルトエッジセパレーションの進展が遅くなるため耐久性を向上することが出来る。
【0019】
尚、ベルト層10の幅方向中央領域Cとは、タイヤ赤道CLを中心とした最大ベルト幅を有するベルト層11の幅Wの30%の領域であり、タイヤ幅方向端部領域Eとは、最大ベルト幅を有するベルト層11のベルトエッジ11eからそれぞれタイヤ幅方向内側に15mmまでの領域である。
【0020】
幅方向中央領域Cでスチールモノフィラメント20がベルト層10の面方向に対して実質的に平行でなく、±5°より大きい角度で傾斜していると、ベルト層10のゲージが厚くなり、転がり抵抗を充分に低減することが出来ない。また、幅方向端部領域Eでのスチールモノフィラメント20の並び角度θeが10°より小さいとフィラメント束10a同士の間隔が狭くなるため、セパレーションの起点となるフィラメント束10a中のスチールモノフィラメント20の接点同士が接近してセパレーションが起こり易くなる。尚、幅方向端部領域Eでのスチールモノフィラメント20の並び角度θeは70°以下であることが好ましい。幅方向端部領域Eでのスチールモノフィラメント20の並び角度θeが70°より大きいと、ベルト層10のゲージが厚くなるため転がり抵抗の低減を阻害する。
【0021】
ここで、ベルト層10の面方向に対するスチールモノフィラメント20の角度は、フィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20の本数が2本の場合は、各スチールモノフィラメント20の中心間を結んだ直線と各フィラメント束10aの中心を通るベルト層10の面方向とがなす角度とする。また、図4に示すように、スチールモノフィラメント20の本数が3本以上の場合は、各スチールモノフィラメント20の中心をグラフにプロットし、最小二乗法により引いた回帰直線とベルト層10の面方向とがなす角度とする。
【0022】
図3の例では、幅の広い方のベルト層11と幅の狭い方のベルト層12の両方において、位置によってスチールモノフィラメント20のベルト層の面方向に対する角度を異ならせているが、少なくとも幅が広い方のベルト層11において、ベルト層10の幅方向中央領域Cでフィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20がベルト層10の面方向に対して実質的に平行に並ぶと共に、幅方向端部領域Eでフィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20のベルト層10の面方向に対する角度θeを10°以上に設定すれば良い。
【0023】
尚、このようにフィラメント束10aにおけるスチールモノフィラメント20の並び角度を幅方向の位置によって異ならせる方法としては、例えば、図5,6に示すように、フィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20に捩りを加えることが挙げられる。即ち、図5に示すように、幅方向中央領域Cでは2本のスチールモノフィラメント20が幅方向に並ぶようにし、左右の幅方向端部領域Eでは2本のスチールモノフィラメント20が重なるように捩りを加える。具体的には、図5における左側の幅方向端部領域Eでは、右側のスチールモノフィラメント20が左側のスチールモノフィラメント20の上に重なるように捩りが加えられているため、図6(a)のA−A矢視断面図に示すように右肩上がりの傾斜を加えることが出来る。逆に、図5における右側の幅方向端部領域Eでは、左側のスチールモノフィラメント20が右側のスチールモノフィラメント20の上に重なるように捩りが加えられているため、図6(c)のC−C矢視断面図に示すように左肩上がりの傾斜を加えることが出来る。
【0024】
このようなベルト層10を実際に製造する場合は、どのような方法で製造しても構わない。例えば、まず配列したフィラメント束10aのうち幅方向中央領域Cのみをゴム被覆して固定し、露出している幅方向端部領域Eに対して上述の捩りを加えた後、幅方向端部領域Eについてもゴム被覆して製造する等、適宜の方法を採用することが出来る。
【0025】
本発明において、図7(a)に示すベルト層10の幅方向中央領域Cにおける層間ゴムの平均厚さGcが0.3mm以上0.6mm以下であり、且つ図7(b)に示すベルト層10の幅方向端部領域Eにおける層間ゴムの平均厚さGeが0.7mm以上2.0mm以下であることが好ましい。より好ましくは、幅方向中央領域Cにおけるベルト層10の層間ゴムの平均厚さGcを0.45mm〜0.55mmにし、且つ幅方向端部領域Eにおけるベルト層の層間ゴムの平均厚さGeを0.8mm〜1.0mmにすることが好ましい。このように、層間ゴムの平均厚さを規定することで、転がり抵抗の低減と耐久性の向上とをより高度に両立することが出来る。尚、層間ゴムの厚さとは、ベルト層11を構成するフィラメント束11aとベルト層12を構成するフィラメント束12aとの間の間隔である。
【0026】
ベルト層10の幅方向中央領域Cにおける層間ゴムの平均厚さGcは薄いほど転がり抵抗を低減することが出来るが、0.3mmより小さくしてもそれ以上の転がり抵抗の低減効果の向上が見込めない。ベルト層10の幅方向中央領域Cにおける層間ゴムの平均厚さGcが0.6mmより大きいと、ベルト層10のゲージが厚くなり過ぎるので転がり抵抗を低減することが出来ない。ベルト層10の幅方向端部領域Eにおける層間ゴムの平均厚さGeが0.7mmより小さいと、エッジセパレーションに対する耐久性の向上効果が低下する。ベルト層10の幅方向端部領域Eにおける層間ゴムの平均厚さGeが2.0mm以下より大きいと、ベルト層10のゲージが厚くなり過ぎるので転がり抵抗を低減することが出来ない。
【0027】
本発明において、フィラメント束10a(11a,12a)を構成するスチールモノフィラメント20は、直径が0.27mm〜0.45mmの無撚りのスチールモノフィラメントであることが好ましい。このようにスチールモノフィラメント20の直径を小さく設定することでベルト層10のゲージを薄くして転がり抵抗を低減することが出来る。尚、無撚りのスチールモノフィラメントとしては、基本的にくせ無しのものを用いるが、くせ付きのものを用いても構わない。
【0028】
スチールモノフィラメント20の直径が0.27mmより小さいと耐久性を維持するためにフィラメント束10aの打ち込み密度を高くする必要があり、その結果、フィラメント束10a間の間隔が狭くなりエッジセパレーション耐久性が低下する。スチールモノフィラメント20の直径が0.45mmより大きいと、ベルト層10の薄ゲージ化の効果が不充分になるうえ、スチールモノフィラメント20の曲げに対する疲労性が低下してベルト折れ耐久性が悪化する。
【0029】
このように構成された本発明のタイヤにおいて、フィラメント束10a(11a,12a)の強度を高くすることで、フィラメント束10aの存在量を低減してタイヤを更に軽量化することが出来る。即ち、フィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20の強度と、フィラメント束10aを構成するスチールモノフィラメント20の断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積とを適切な範囲に設定することで、フィラメント束10aの強度と存在量のバランスを取り、耐久性を高度に維持したままタイヤを更に軽量化することが出来る。
【0030】
具体的には、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の強度が2700MPa以上であると共に、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上7.0mm2 以下であることが好ましい。或いは、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の強度が3200MPa以上であると共に、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上6.3mm2 以下であることが好ましい。或いは、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の強度が3500MPa以上であると共に、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上5.6mm2 以下であることが好ましい。
【0031】
強度がどのような範囲であっても、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 より小さいと、フィラメント束10aの存在量が少なくなり過ぎ、剛性が不足して耐久性が低下する。強度が2700MPa以上であると共に断面積と打ち込み本数との積が7.0mm2 より大きい場合、強度が3200MPa以上であると共に断面積と打ち込み本数との積が6.3mm2 より大きい場合、強度が3500MPa以上であると共に断面積と打ち込み本数との積が5.6mm2 より大きい場合には、フィラメント束10aの存在量が各強度範囲において耐久性を充分に維持できる量よりも多くなるため、ワイヤ量が多過ぎて質量増加を招き、またフィラメント束10aの間隔が狭くなり過ぎて接着性が不足するため、セパレーションに対する耐久性が低下する。更に、ベルトゴムのエネルギーロスが増加するため転がり抵抗の低減を阻害する。また、強度が2700MPaより小さい場合、耐久性を得るためには断面積と打ち込み本数との積を7.0mm2 より大きく設定する必要があり、ワイヤ量が多くなり質量増加を招き、またフィラメント束10aの間隔が狭くなり接着性が不足するためセパレーションに対する耐久性が低下する。
【0032】
尚、ベルト層10を構成するスチールモノフィラメント20の強度が高い程、断面積と打ち込み本数との積、即ちフィラメント束10aの存在量を低減し、タイヤを軽量化することが出来るが、製造上の観点から強度は4200MPa以下であることが好ましい。
【実施例】
【0033】
タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤにおいて、タイヤ構造を図1とし、ベルト層について、補強コードの構造、フィラメントの線径、幅方向中央領域Cと幅方向端部領域Eにおけるスチールモノフィラメントの並び角度、幅方向中央領域Cと幅方向端部領域Eにおける層間ゴム厚さ、フィラメントの強度、フィラメントの断面積と打ち込み本数の積をそれぞれ異ならせた従来例1〜3、比較例1、実施例1〜22の26種類の試験タイヤを製作した。
【0034】
ここで、従来例1は、スチールモノフィラメントではなく、撚りコードを用いたものである。また従来例2,3は、スチールモノフィラメントを用いるが、そのベルト層の面方向に対する角度が一定で位置によって異ならせるようにはなっていない。
【0035】
尚、これら従来例1〜3、比較例1、実施例1〜22の26種類の試験タイヤのベルト層は、いずれもベルトコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が22°であり、コードの打ち込み量が等価になっており、ベルト層の幅がタイヤ内面側から順に150mm、135mmである。
【0036】
これら26種類の試験タイヤについて、下記の評価方法により転がり抵抗、及びベルトエッジセパレーション耐久性を評価し、その結果を表1〜3に併せて示した。
【0037】
転がり抵抗
リムサイズ15×6Jのリムに試験内圧200kPaで組み込んだ試験タイヤを、ドラム表面が平滑な鋼製でかつ直径が1707mmであるドラム試験機を用い、JATMA イヤーブック2009年版記載の当該空気圧における最大負荷荷重の85%に相当する荷重を負荷してドラムに押し付けた状態で、速度80km/hrで走行させたときの転動抵抗を測定した。評価結果は、従来タイヤ1の測定値の逆数を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。尚、指数値で96以上であれば許容範囲である。
【0038】
ベルトエッジセパレーション耐久性
室温60℃に保持されたチャンバー内に、リムサイズ15×6Jのリムに内圧240kPaで酸素封入した試験タイヤを2週間保持後、内部の酸素を解放し、空気を160kPaにて充填する。このように前処理された試験タイヤを、ドラム表面が平滑な鋼製でかつ直径が1707mmであるドラム試験機を用い、周辺温度を38±3℃に制御し、走行速度50km/hr、スリップ角0±3°、荷重JATMA イヤーブック2009年版記載の最大荷重の70%±40%の変動条件下で、荷重とスリップ角を0.083Hzの矩形波で変動させて100時間、5000km走行させた。走行後にタイヤを切開し、ベルト幅方向端部における幅方向へのセパレーション長さを測定した。評価結果は、従来タイヤ1の測定値の逆数を100とする指数で示した。この指数値が大きいほどセパレーション長さが小さく、ベルトエッジセパレーション耐久性が優れていることを意味する。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表1〜3から判るように、実施例1〜22は、いずれもベルト層が撚りコードからなる従来例1及びフィラメントの並び角度が幅方向位置によって異ならない従来例2,3に対して、優れた転がり抵抗とベルトエッジセパレーション耐久性とを両立した。
【0043】
一方、フィラメントの並び角度を幅方向位置によって異ならせるものの、幅方向端部領域Eにおける並び角度が小さい比較例1は、エッジセパレーション耐久性が低下した。
【符号の説明】
【0044】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
10 ベルト層
10a フィラメント束
20 スチールモノフィラメント



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間にカーカス層を装架し、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、タイヤ周方向に対して15°〜45°の角度で傾斜する複数本の補強コードからなる2層のベルト層を層間でコード方向が交差するように配置した乗用車用空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記補強コードとして2〜6本のスチールモノフィラメントを撚り合わせることなく引き揃えて構成したフィラメント束を使用し、該フィラメント束を単位としてゴム中に配設することで前記ベルト層を構成すると共に、少なくとも幅が広い方のベルト層において、前記ベルト層の幅方向中央領域Cでは前記フィラメント束を構成する前記スチールモノフィラメントがタイヤ子午線断面にて前記ベルト層の面方向に対して実質的に平行に並び、且つ前記ベルト層の幅方向端部領域Eでは前記フィラメント束を構成する前記スチールモノフィラメントがタイヤ子午線断面にて前記ベルト層の面方向に対して10°以上の角度で傾斜して並ぶことを特徴とする乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層の幅方向中央領域Cにおける層間ゴムの平均厚さGcが0.3mm以上0.6mm以下であり、且つ前記ベルト層の幅方向端部領域における層間ゴムの平均厚さGeが0.7mm以上2.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記スチールモノフィラメントの直径が0.27mm以上0.45mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの強度が2700MPa以上であると共に、前記ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上7.0mm2 以下であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの強度が3200MPa以上であると共に、前記ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上6.3mm2 以下であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの強度が3500MPa以上であると共に、前記ベルト層を構成するスチールモノフィラメントの断面積と50mm幅当たりの打ち込み本数との積が4.5mm2 以上5.6mm2 以下であることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−35363(P2013−35363A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171782(P2011−171782)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)