説明

乳タンパク質/イソチオシアネート共有結合複合体

本発明は、複合体の分野に関する。本発明の実施形態は、少なくとも1つの乳タンパク質と少なくとも1つのITC化合物とを含有する食品等級の共有結合複合体、並びに、例えば、ITC化合物の知覚される辛味を減少させるための、抗菌作用をもたらすための、並びに/又はエマルジョン及び/若しくは泡を形成及び安定化させるための、そのような複合体の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体の分野に関する。本発明の実施形態は、少なくとも1つの乳タンパク質と少なくとも1つのITC化合物とを含有する食品等級の共有結合複合体、並びに、例えば、ITC化合物の知覚される辛味を減少させるため、抗菌作用をもたらすため、並びに/又はエマルジョン及び/若しくは泡(foam)を形成及び安定化させるための、そのような複合体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコシノレート(GLS)は、ブロッコリー、ケール、キャベツ、カリフラワー、芽キャベツ、カブ又はカラシナなどのアブラナ科の野菜において合成される、天然の硫黄を含有するフィトケミカルである。これらの野菜の摂取は、癌、特に、肺癌、胃癌、結腸癌及び直腸癌の発生の減少と関連付けられている。これらの野菜の保護的作用は、β−D−チオグルコース基と、スルホン化部分と、メチオニン、トリプトファン、フェニルアラニン又は様々な分岐鎖アミノ酸に由来する変化に富む側鎖とを含む共通の構造を有するGLSの存在に主に起因すると考えられている。
【0003】
GLSは化学的に安定であり、生物学的に不活性であると考えられているが、植物酵素ミロシナーゼ、又はヒト結腸細菌と接触させると、GLSは分解されてグルコース及び不安定なアグリコンを放出する。後者のアグリコンは、自発的な転位を受けて、加水分解条件に応じて、ニトリル、チオシアネート、エピチオニトリル又はイソチオシアネート(ITC)を含む、生じ得る様々な生成物となる。
【0004】
ITCは、癌発症のプロセスに介入する最も強力な天然の生物活性化合物の1つであると考えられている。ITCは、内因性の抗酸化能に影響を及ぼすこと、解毒機構を強化すること、及び未分化細胞においてアポトーシスを誘導することができる。ITCはまた、有効な抗菌化合物としても記載されてきた。
【0005】
米国特許出願公開第20030235634A1号は、植物から無極性イソチオシアネートを抽出するための方法及びそれを含有する栄養補助食品を記載している。
【0006】
米国特許出願公開第200330064131号は、植物材料を特定の温度に維持すること及びイソチオシアネート製品をさらなるプロセスに供することによって調製される、十字花科の植物材料からのイソチオシアネート製品の調製を記載している。
【0007】
英国特許出願公開第2404659A号は、砕いたカラシ種子原料を水と合わせて活性化されたカラシスラリーを作るステップと、グルコシノレートシニグリンをアリル油画分に変換するステップと、この画分をカラシスラリーの残部から分離するステップとを含む、カラシ種子の分画である。
【0008】
国際公開第0215722号パンフレットは、グルコシノレート又はイソチオシアネート又は誘導体を含む組成物の投与を含む、ヘリコバクター感染を治療するための方法を記載している。
【0009】
独国特許第2045408号は、ヨーグルト又は他のタイプの発酵乳製品の製造用に適切に酸性化されていない乳におけるチオシアネート又はイソチオシアネートの添加のプロセスを記載している。
【0010】
国際公開第2005032283A1号パンフレットは、感湿性のイソチオシアネート化合物及び吸湿性担体を含む固体食品を保存するための組成物であって、ソルビン酸、安息香酸、及びそれらの塩を実質的に含まない組成物についてのものである。
【0011】
国際公開第2006133789A1号パンフレットは、天然の防腐系を含む消費者製品を記載している。この防腐系は、脂肪族イソチオシアネートと芳香族イソチオシアネートの1:2〜1:25の比の混合物を有し、様々な消費者製品における使用に適している。
【0012】
最近の総説において、Zhang(Cancer−preventive isothiocyanates:measurements of human exposure and mechanism of action.2004.Mutation Res、555、173〜190)が、肺癌、乳癌又は結腸癌を発症するリスクと食事によるITC摂取との間の逆相関を示す疫学的研究の結果について報告した。
【0013】
米国特許公開第20060258599A1号は、嚢胞性線維症を有する対象を治療するためのイソチオシアネートの使用を記載している。
【0014】
国際公開第2006118941A1号パンフレットは、スルフォラファン若しくはその類似体、イソチオシアネート又はグルコシノレートの投与を含む、対象における紫外光に誘導される皮膚の発癌抑制について報告している。
【0015】
しかし、ITCは生物活性分子として高い潜在能力を有するものの、不快であると一般に知覚されるフレーバーを有する。例えば、ITCは、アブラナ属野菜のフレーバーに影響を及ぼしている。当然ながら、ITCはまた、ITCが添加される食物製品の味にも悪影響を及ぼす。
【0016】
Drewnowski及びGomez−Carneros(Bitter taste,phytonutrients,and the consumer:a review.2000.Am J Clin Nutr、72、1424〜1435)は、官能試験において、アブラナ科(特に、キャベツ、カラシ及びセイヨウワサビ)中に存在するアリルイソチオシアネートが刺激性及び催涙性の化合物として報告されたと報告した。
【0017】
したがって、ITC化合物は健康のために非常に有益な特性を有することが一般によく知られているが、ITCの味が通常嫌悪されるため、未だ十分には摂取されていない。
【0018】
したがって、当技術分野において、摂取しやすいITC化合物を含む組成物を利用できるようにすることが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって本発明の目的は、当技術分野の水準を向上させること、及び受け入れられる味を有するITC化合物を含有する組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らが驚いたことには、独立請求項の主題によってこの目的を達成することができることが分かった。従属請求項は、本発明の概念をさらに発展させる。
【0021】
本発明の主題は、刺激性の味及び/又は催涙性の味を有さない、又はITC化合物を含む最先端の組成物よりも刺激性が少ない及び/又は催涙性が少ないと知覚される味を有するITCを含有する組成物を提供する。
【0022】
本発明者らは、少なくとも1つのイソチオシアネート化合物と少なくとも1つの乳タンパク質との共有結合複合体を含む組成物を提供する。
【0023】
本発明者らはまた、これらの複合体が優れた乳化特性及び起泡特性を示すことも発見した。このことは、食品産業における複合体の適用性をさらに高める。
【0024】
主なウシホエータンパク質であるβ−ラクトグロブリン(BLG)は、1個の遊離スルフヒドリル基及び16個のアミノ基を含有することが知られている。したがって、BLGは、ITCと共有結合複合体を形成することができる。
【0025】
本発明において、本発明者らは、乳タンパク質の一例として、BLGと、少なくとも1つのITC化合物との間の複合体形成が、ITC化合物の不快な味を低減させることができることを示す。これにより、味の理由からITC化合物を強化することがこれまでできなかった多くの食物製品にITC化合物を添加することが可能になる。本発明により、今や、様々な食物製品を介してITC化合物を送達することができる。加えて、共有結合複合体の形成は、タンパク質の機能特性を変更することを可能にし、食品成分としてのより広い及び/又は向上した用法を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】25℃及びpH8.5でのインキュベーション後のタンパク質の−SH基又は−NH基の消失から計算した、アリルイソチオシアネート(AITC)のβ−ラクトグロブリン(BLG)に対する結合曲線を示す図である。結合曲線の適合を、解離定数K及び結合部位の最大数nmaxと一緒に、実線としてプロットしている。垂直のバーは、標準偏差を表す。
【図2】図示している異なるAITCのタンパク質に対する混合比に対する、pH4.0及びpH7.0での、熱処理(85℃、15分)あり又はなしの、BLG−AITC共有結合複合体で作った泡の体積安定性を示す図である。
【図3】0.25mMのAITCを用いて又はBLG−AITC共有結合複合体(モル比1:1)を用いて、熱処理(85℃、15分)あり又はなしで、pH4.0及びpH7.0で作製した10%水中油エマルジョンの、調製の4日及び26日後の、肉眼で見える外観を示す図である。エマルジョンは、+4℃で貯蔵した。
【図4】0.5mM又は1mMのAITC単独、及び1又は2のAITC/BLGモル比を有するBLGとの共有結合複合体の形態の辛味評価に関する官能評価値を示す図である(85℃、15分の熱処理あり)。
【図5】1〜20のAITC/BLGモル比を有するBLG−AITC共有結合複合体とのインキュベーション後の、大腸菌及び黄色ブドウ球菌分散液における光学密度(OD)の低下を示す図である。垂直のバーは、標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
したがって、本発明の一実施形態は、共有結合複合体を含む組成物である。共有結合複合体は、少なくとも1つのITC化合物と少なくとも1つの乳タンパク質とを含む。
【0028】
「複合体」という用語は、任意の形態の少なくとも1つのITC化合物と少なくとも1つの乳タンパク質との間の会合を意味する。
【0029】
本発明の複合体は、共有結合している複合体である。ITC化合物と乳タンパク質との間の共有結合性相互作用は、現在のところ、例えば、高いpH値での、タンパク質の遊離のスルフヒドリル基又はα−若しくはε−アミノ基のいずれかに対するイソチオシアネートの求核剤付加により生じると考えられている(Rawel、Kroll及びSchroder.In vitro enzymatic digestion of benzyl− and phenylisothiocyanate−derivatized food proteins.1998.J Agric Food Chem、46、5103〜5109)。
【0030】
「乳タンパク質」という用語は、乳中に存在する任意のタンパク質、並びに任意の乳タンパク質画分又は乳由来のタンパク質画分を含む。
【0031】
乳は、例えば、牛乳、ヒツジ乳、ヤギ乳、ウマ乳、ラクダ乳又は豆乳であってもよい。牛乳が好ましい。
【0032】
本発明の代替の好ましい実施形態において、乳タンパク質は、好ましくはウシ由来の、ホエータンパク質、例えば、スイートホエータンパク質又は酸ホエータンパク質である。
【0033】
したがって、乳タンパク質は、牛乳タンパク質画分又は牛乳由来のタンパク質画分であってもよい。例えば、乳タンパク質は、脱脂乳のタンパク質画分、乳タンパク質濃縮物、乳タンパク質分離物、カゼインミセル、カゼイン塩、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、酸ホエー若しくはスイートホエーのタンパク質画分、ホエータンパク質濃縮物、ホエータンパク質分離物、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン、ラクトフェリン、又はこれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0034】
ITC化合物は、イソチオシアネート基を含むすべての化合物である。イソチオシアネートは、イソシアネート基中の酸素を硫黄で置換することによって形成することができる。ITC化合物は、一般式R−N=C=Sを有する有機イソチオシアネートを含む。Rは、すべてが任意選択により、O、N、P、S、及びこれらの組合せからなる群から選択される1〜6個のヘテロ原子を含有する、C〜Cアルキル基、C〜Cアルケニル基、C〜Cアルキニル基、C〜C18芳香族基からなる群から選択することができる。
【0035】
本発明の枠組みにおいて使用することができる典型的なイソチオシアネートは、メチルイソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネート、スルフォラファン、フェネチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、3−メチルチオプロピルイソチオシアネート、及びこれらの組合せなどの有機イソチオシアネートを含む。
【0036】
複合体の化学量論は、例えば、使用されるタンパク質のタイプ、ITC結合部位の数及び立体化学的な利用可能性、並びに、複合体調製時に使用されるITC化合物の種類及び相対的な量によって決まる。例えば、主要なウシホエータンパク質であるβ−ラクトグロブリン(BLG)は、すべてITC官能基と共有結合を形成することができる1個の遊離スルフヒドリル基及び15〜16個のアミノ基を含有することが知られている。重要なことは、また有利には、例えば、適切な相対量で特定の乳タンパク質及び特定のITC化合物を選択することによって、結果として生じる複合体の性質を、最終製品における必要性に対して調整及び微調整することができる。
【0037】
典型的には、イソチオシアネートと乳タンパク質は、約100:1〜1:10の範囲のモル比で、好ましくは、約10:1〜1:10の範囲、最も好ましくは約1:1の範囲のモル比で、複合体中に存在する。
【0038】
本発明の組成物は、任意のpH値を有していてもよいが、特に食物製品では、約2〜9、好ましくは約3〜7の範囲のpHを有し得ることが好ましい。
【0039】
本発明の複合体を使用することにより、エマルジョンを安定化させ得ることが見出された。
【0040】
エマルジョンは、2つの混合することのできない液体の混合物である。一方の液体(分散相)は、もう一方の液体(連続相)中に分散している。例えば、エマルジョンは、水中油又は油中水エマルジョンであってもよい。多くのエマルジョンは、食事性脂肪が日常生活において見られる油の1つの一般的なタイプである、油/水エマルジョンである。エマルジョンの例は、バター、マーガリン、乳、クリーム、マヨネーズ及び/又はビネグレットを含む。乳及びクリーム中で、水は脂肪の小滴を取り囲んでいる(水中油エマルジョン)。
【0041】
本発明の複合体は、非常に良好な乳化安定性を提供することが示された。したがって、この複合体を使用して、エマルジョンを長い時間安定化させることができる。さらに、本発明の複合体を使用して、加熱条件下でエマルジョンを安定化させることもできる。
【0042】
例えば、本発明者らは、本発明の複合体が、エマルジョンを酸性pH(例えば、pH4)で、及び高温(例えば、85℃)で安定化させることを可能にすることを示すことができた。
【0043】
エマルジョンは、クリーム分離又は油分離の何の徴候もなく、33日間安定なままであった。
【0044】
したがって、本発明の複合体は、例えば、食品、化粧品及び/又は医薬品において、乳化剤及び/又は安定剤として使用されてもよい。
【0045】
例えば、本発明の組成物は、泡(foam)を含んでいても、又は泡(foam)からなっていてもよい。泡は、多くの気泡を液体、半固体又は固体連続相中に分散させることにより形成される物質である。
【0046】
本発明の組成物は、食物製品、栄養補助食品、食品添加物、医薬、局所適用のためのクリーム又は飲料であってもよい。
【0047】
本発明の組成物はまた、ITC化合物を含む、例えば、ITC化合物を含むエマルジョン及び/又は泡を含む、製品の調製のために使用されてもよい。この製品もさらにまた、食物製品、栄養補助食品、食品添加物、医薬、局所適用のためのクリーム又は飲料であってもよい。
【0048】
本発明の複合体を含む組成物及び/又は製品は、デザート、フローズンデザート、乳製品、ペットフード、調理用製品、臨床用栄養製品などから選択されることが好ましい。特に、ソース、スープ、マヨネーズ、サラダドレッシング、クリーム、アイスクリーム、チョコレート、ムース、及び/又は乳を含み得る。
【0049】
典型的な食物製品はまた、フィリング、ディップ、ソース、マヨネーズ、スプレッド、トッピング、乳製品ベースの製品、乳及び/若しくはクリームベースの泡及び/若しくはエマルジョン、サラダドレッシング、スープ、飲料又は経口食品サプリメントからなる群から選択されてもよい。
【0050】
本発明の複合体又は組成物はまた、クリーム、泡、ムース、ゲル、シャンプー、乳液などの化粧品において使用されてもよい。
【0051】
本発明の複合体が添加されてもよい医薬品は、錠剤、カプセル剤、シロップ剤などを含む。
【0052】
本発明はまた、本明細書中で言及されている障害の治療及び/又は予防のための本発明の複合体及び/又は組成物にも及ぶ。
【0053】
乳化剤及び/又は安定剤として使用されるとき、複合体は、前記製品の0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%、最も好ましくは0.1〜0.5重量%の量で製品中に存在することが好ましい。乳化特性及び安定化特性が低濃度で最良であることが実際に見出されている。したがって本発明の製品は、非常に有効な乳化剤及び/又は安定剤であるという利点を提供する。
【0054】
本発明の複合体は、適切な量の少なくとも1つのITC化合物及び少なくとも1つの乳タンパク質を液体、好ましくは水ベースの媒体中で混合すること、及び複合体を形成させることによって簡単に調製することができる。任意選択により、pHを適切に調整してもよく、混合物を例えば、85℃まで15分間加熱してもよく、及び/又はかき混ぜてもよい。
【0055】
結果として生じる複合体は、食品等級であるという利点を有する。材料がヒト又は動物の摂取用に認可されている化合物からなっていれば、その材料は食品等級である。
【0056】
複合体は、添加される組成物において、乳化剤及び/又は安定剤として非常に有効である。さらに、この複合体は、天然成分のみを含むため、化学的に修飾された又は合成された製品からなる伝統的な乳化剤よりも魅力的である。また、本発明の複合体は、複合体を含めることができる製品に関して用途が広い。例えば、タンパク質及びITC化合物の選択を調整することによって、広いpH範囲にわたって乳化剤及び/又は安定剤として機能する。例えば、マヨネーズなどの約4.5のpHを有する酸性の製品において、並びに乳などの6.5を超えるpHを有する製品において使用することができる。
【0057】
さらに、複合体形成後の溶液を、限外濾過に供してもよい。これは、本発明の複合体を遊離ITCから分離するという利点を有する。
【0058】
好ましい一実施形態において、この溶液を次いで、噴霧乾燥、凍結乾燥又は真空乾燥などの当技術分野において知られている任意の方法によって乾燥する。
【0059】
したがって、本発明の複合体は、溶液、ゲル、又は乾燥粉末の形態とすることができる。
【0060】
さらなる実施形態において、タンパク質−ITC化合物複合体は、さらなる成分の存在下で乾燥されてもよい。代替として、乾燥したタンパク質−ITC化合物複合体を、他の乾燥した成分と混合してもよい。
【0061】
結果として得られる製品は、本発明の複合体を含む、例えば、ミルク粉末又は脱水されたスープ粉末であってもよい。
【0062】
イソチオシアネートは、不安定である、特に、熱不安定であることが知られている。したがって、イソチオシアネートは、食品加工及び貯蔵時間とともに、イソチオシアネートの健康上の利益の少なくとも一部を失いやすい。しかし、一般に、食品加工及び長期の貯蔵の後であっても、アブラナ科植物又は植物製品、及びイソチオシアネート含有製品の健康上の利益を増加させることが望ましいであろう。
【0063】
ITCはまた揮発性であり、そのためITCの量もまた経時的に減少する。本発明の複合体は、そのような損失を回避する。
【0064】
本発明者らは、本発明の枠組みにおいて記載されている複合体は、熱及び/又は長期の貯蔵への曝露後であっても、イソチオシアネート及びそれらの健康上の利益を保持できるようにすることを見出した。
【0065】
したがって、本発明の組成物を使用して、例えば、長期の貯蔵中及び又は特に熱処理を伴う、食品加工中、イソチオシアネートを保持することができる。
【0066】
本発明の組成物をまた使用して、ITC化合物の刺激性の味及び/又は催涙性の味を減少させることもできる。ITC化合物を含有する食品組成物又は飲料にとって、このことは特に重要である。本発明に記載の複合体を使用して、ITC化合物を含有する泡及び/又はエマルジョンを提供することができるため、本発明の複合体をまた使用して、ITC化合物を含有する泡及び/又はエマルジョンの刺激性の味及び/又は催涙性の味を減少させることもできる。
【0067】
辛味(Pungency)はまた、ぴりっとする辛さ(piquancy)とも呼ばれる。これは、刺激が強くひりひりする感覚印象である。この感覚を引き起こす食品はしばしば、「スパイシーである(spicy)」と言われる。ITC化合物、例えば、アリルイソチオシアネート又はカプサイシンにより引き起こされる辛味は、TRPV1及びTRPA1侵害受容器を含む熱感受性及び化学的感受性のTRPイオンチャンネルの活性化により引き起こされると現在考えられている。
【0068】
催涙性の味は、例えば、ITC化合物により引き起こされる、目の角膜神経を刺激して流涙、痛みを引き起こす、さらには一時的な盲目を引き起こす可能性もある感覚である。
【0069】
本発明者らはさらに、本発明の組成物を使用して抗菌作用をもたらすことができることを示すことができた。例えば、大腸菌(E.coli)及び黄色ブドウ球菌(S.aureus)分散液は、乳タンパク質−ITC化合物共有結合複合体とのインキュベーション後、光学密度(OD)の低下を示した。
【0070】
したがって、本発明の組成物を使用して、製品、例えば、食物製品において抗菌作用をもたらすことができる。特に、大腸菌及び/又は黄色ブドウ球菌の増殖を阻害することができる。
【0071】
代替として、本発明の組成物はまた、細菌感染、特に大腸菌及び/又は黄色ブドウ球菌感染に関係している障害を治療又は予防するための製品を製造するために使用してもよい。
【0072】
この製品は、例えば、食物製品、栄養補給食品、食品添加物、飲料、局所投与用のクリーム及び/又は医薬組成物であってもよい。
【0073】
さらなる実施形態において、本発明の組成物は、発癌及び/又は腫瘍形成、特に(UV)光に誘導される皮膚の発癌を阻害するための製品を製造するために使用することができる。ITC化合物は、例えば、突然変異を引き起こす、及び癌の発症を誘導する可能性のある極性のエポキシ−ジオールを生成するシトクロムP450酵素の阻害によって、発癌を阻害すると現在考えられている。
【0074】
またさらなる実施形態において、本発明の組成物は、嚢胞性線維症を治療するための製品を製造するために使用することができる。米国特許出願公開第20060258599A1号は、嚢胞性線維症を有する対象を治療するためのイソチオシアネートの使用を記載している。
【0075】
別の実施形態において、本発明の組成物は、炎症性障害、特に、第2相酵素の誘導によって治療又は予防することができる炎症性障害を治療又は予防するための製品の製造ために使用することができる。第2相酵素の誘導によって治療又は予防することができる炎症性障害は、当業者に知られており、例えば、Juurlink、Therapeutic potential of dietary phase 2 enzyme inducers in ameliorating diseases that have an underlying inflammatory component、Can J.Physiol.、第79巻、2001、266ffページによって記載されている。
【0076】
第2相酵素の誘導により治療又は予防することができる炎症性障害の2つの典型的な例は、アテローム性動脈硬化症及び消化管炎症である。
【0077】
当業者は、開示されている発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載されている本発明のすべての特徴を自由に組み合わせることができることを理解するであろう。特に、本発明の使用に関して記載されている特徴を、本発明の組成物及び製品に適用してもよく、逆もまた同様である。
【0078】
本発明のさらなる利点及び特徴は、以下の実施例及び図面から明らかである。
【実施例】
【0079】
実施例1:β−ラクトグロブリン/アリルイソチオシアネート共有結合複合体形成の測定
β−ラクトグロブリン(BLG)粉末を、室温で1時間撹拌することによって、ミリポア(Millipore)(登録商標)水中に分散させた。BLGは、Davisco(Biopure、ロットJE001−3−922)から購入した。タンパク質含有量は、ケルダール分析(N×6.38)によって測定したところ、93.5g/100g粉末であった。主なホエータンパク質画分中の組成は、逆相HPLC(RP−HPLC)によって測定したところ、89.22%BLG、6.91%β−ラクトアルブミン、3.87%ウシ血清アルブミン;供給業者による明記によれば、0.2%脂肪、1.5%灰分及び4.9%水分であった。無機物組成は、原子吸光分光法により測定したところ、以下の通り、0.87%Na、<0.004%K、<0.04%Cl、0.019%Ca2+、0.053%P、0.002%Mg2+であった。pH4.6でのタンパク質可溶性により、タンパク質の96%がネイティブ状態であることが明らかとなった。
【0080】
タンパク質溶液中のBLGの濃度は、1mM(1.84%重量/重量)であった。これを、終夜4℃で貯蔵して水和させた。翌日、0.22μm GPエクスプレスプラス(Express Plus)膜とともにステリカップ(Stericup)濾過システム(ミリポア(登録商標))を使用して濾過した。濾過した溶液のpH(pH7.2)を、1M NaOHを使用してpH8.5に調整した。添加した1M NaOHの量は、全量の約0.3%であった。
【0081】
アリルイソチオシアネート(AITC)溶液を、AITCをエタノール中に溶解させて濃度200mM(1.98%容量/重量)を得ることによって、実験の前に新たに調製した。98%以上のアリルイソチオシアネートは、Sigma(ロット455295)から購入した。
【0082】
50mLの量の混合物を、1mM BLG(pH8.5)を200mM AITCとミリポア(登録商標)水中で混合して0.1〜40のAITCのBLGに対するモル比を得ることによって調製した。すべての試料溶液中のエタノールの最終濃度を、5%に調整した。試料を24時間、室温でかき混ぜながら(ローラーミキサーSRT2、Milian、スイスを使用して)インキュベートし、光から保護した。インキュベーション時に、遊離スルフヒドリル(−SH)基及びアミノ(−NH)基中の含有量を、それぞれ、エルマン試薬[5,5’−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸);DTNB](Ellman G L.Tissue sulfhydryl groups.1959.Arch Biochem Biophys、82、70〜77)及びo−フタルジアルデヒド(OPA)法(Hofmann K、Hamm R.Sulfhydryl and disulfide groups in meats.1978.Adv Food Res、24、1〜111)を使用して測定した。
【0083】
全−SH基の量を測定するために、試料混合物を、最終BLG濃度50μMまで、1%SDS及び8M尿素を含有するpH8.0の200mMトリス塩基(トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン)緩衝剤中で希釈した。50μLの10mM DTNB(エタノール中)を、3mlのこれらの試料に添加し、穏やかにかき混ぜながら20分間、室温で静置した。ユビコン(Uvikon)(登録商標)810分光光度計(Kontron Instruments、Basel、スイス)を使用して、412nmでの吸光度を、対応する試薬ブランク(DTNBを含む緩衝液中1%エタノール)に対して測定した。DTNBを含まない試料は、この波長では吸収しなかった。DTNBの存在下で試料と同じ条件下で処理した、0.1mMより高い濃度のAITCの溶液は、所与の波長でわずかに吸収した。したがって、試料の吸光度の値を、対応するAITC濃度の吸光度に対して補正した。試料溶液中のSH基の濃度を、以前に作成された標準検量線に従って評価した。その目的のために、濃度範囲0.005〜0.1mMで同じ緩衝液中に溶解させたL−Cys(Fluka、スイス)を使用した。
【0084】
遊離α−及びε−アミノ基の定量的測定は、Goodnoら(Goodno C.C.Swaisgood H.E.、Catignani G.L.;(1981)、A fluorimetric assay for available lysine in proteins.Anal.Biochem.115(1)、203〜211)の方法に基づくアプローチを使用して、本発明者らの実験室において変更を加えて行った。手短に述べると、アミノ基の測定は、試料溶液(0.1mL)を、pH9.3のホウ酸緩衝液中の0.3%(重量/容量)N−アセチル−L−システイン(Fluka、スイス)(9.1mL)及び20%SDS(重量/重量;0.5mL)と混合することによって実施した。50℃で10分間のインキュベーション後、メタノール中3.4%OPA(重量/容量)を、混合物(0.3mL)に添加し、これらをさらに30分間、同じ温度でインキュベートした。10mlの試料混合物中のBLGの最終濃度は、5μMであった。インキュベーション時に、混合物を室温で30分間冷却させた後に、340nmで吸光度読み取りを行った。以前に記載されているものと同じ分光光度計を使用した。OPAの存在下で、試料と同じ条件下で処理された、0.2mMより高い濃度のAITCの溶液は、所与の波長でわずかに吸収した。したがって、試料の吸光度の値を、対応するAITC濃度の吸光度に対して補正した。試料溶液中の遊離の(α−及びε−)アミノ基の濃度を、以前に作成された標準検量線に従って評価した。その目的のために、同じ溶液と混合し、上述した方法と同じようにインキュベートした、濃度範囲0.002〜0.15mMのL−Leu(Fluka、スイス)を使用した。
【0085】
1つの−SH基当たり又は1つの−NH基当たり一度に1つのAITCが結合することができると仮定して、AITCのBLGに対するモル結合比(BAITCBLG)を、遊離の−SH基及び−NH基について測定した値から推定した。結合曲線は、各反応基について、添加されたAITCに対して別々にBAITCBLGをプロットすることによって得た(図1)。
【0086】
結合パラメータ(K及びnmax)についての最適値は、ソフトウェアのマイクロカルオリジン(Microcal Origin)6.0(Microcal Software Inc.、Northampton、米国)を使用して、非線形最小二乗回帰を適用することによって達成された。各結合部位について、1つの部位結合のための式を適用した。
【0087】
図1から、AITCは最初、BLGの単一の遊離スルフヒドリル基と反応しており、0.84±0.06という飽和部位の最大数をもたらしていたと結論付けることができる。これは、SH基に対するITCの高親和性をもたらす、計算された解離定数Kの非常に低い値によって説明することができる。その後、ITCは、アミノ基と反応して、ITCに対してより低い親和性を有していた(高いK)が、BLGにおいて利用可能な16個の遊離NHのため、より多数の結合部位が可能であった。
【0088】
実施例2:β−ラクトグロブリン/アリルイソチオシアネート共有結合複合体の起泡特性の測定
試料(実施例1に記載の通り調製した)の起泡特性を、Guillerme C、Loisel W、Bertrand D、Popineau Y.Study of foam stability by video image analysis:Relationship with the quantity of liquid in the foams.1993.J Text Stud、24、287〜302によって提案されている標準化された方法を使用して評価した。使用された装置は、テクリスアイティコンセプト(Teclis−ITConcept)(Longessaigne、フランス)製の標準型のフォームスキャン(Foamscan)(商標)であった。この方法の原理は、特定の多孔性のガラスフリットを介して気体をその中に吹き込むことによって、一定量のタンパク質分散液を起泡させることである。気体流及び吹き込みの継続時間を制御する。液体の表面に泡が発生し、ガラスチューブ中を上昇し、ここでその高さをリアルタイムで電荷結合素子(CCD)カメラを使用して画像分析によって追跡する。泡中に組み込まれた液体量及び排水速度は、キュベット(残りの液体相を含む)中で、及びチューブの異なる高さに配置された電極で、時間の関数として導電率を測定することによって、及び発泡前の溶液の導電率を参照して追跡する(Kato A、Takahashi A、Matsudomi N、Kobayashi K.Determination of foaming properties of proteins by conductivity measurements.1983.J Food Sci、48、62〜65)。
【0089】
BLG−AITCコンジュゲートを実施例1に記載の通り調製し、次いで、1M HClを添加することによってpH7.0又は4.0まで酸性化した。添加したHClの量は、中性pH及び酸性pHの調節について、それぞれ、全量の約0.02%及び約0.8%であった。両方のpHの12mlの各試料を、12mLガラスバイアルに入れ、バイアル中の温度が85℃に達するために必要な5分に加えて、85℃で15分間加熱した。温度を制御した水浴中で、かき混ぜずに加熱を行った。その後、試料を室温で40分間にわたって穏やかにかき混ぜながら冷却させ、次いで、さらなる分析まで氷上に置いた。
【0090】
55μM BLG(0.1%)まで希釈した20mLの量の試料溶液(両方のpHで、AITCのBLGに対するモル比が0.5、1及び2の、非加熱の及び加熱したBLG−AITC共有結合複合体)を、キュベット中に入れた。流速80ml/分の窒素を、多孔性4のガラスフリットを介して吹き込み、10〜16μmの直径を有する気泡を発生させた。この流速により、強力な重力排水が起こる前に、効率よく泡形成することができた。吹き込みは、泡体積が110cmに到達したときに停止した。その後、泡容量(FC=泡体積/注入された気体の体積)及び泡膨張(FE=泡体積/泡中の液体の体積)を計算した。泡体積及び液体安定性(泡がその最初の液体内容物の50%を排水するための時間)を、次の30分間にわたって24±1℃で追跡した。
【0091】
図2は、pH7.0で、起泡前に適用された熱処理あり又はなしのBLG−AITC共有結合複合体を使用して、体積が安定な泡を得ることができたことを示す。この結果は、複合体の空気/水表面活性を明らかに示すものであった。泡体積安定性は、最初のAITC/BLGモル比によってわずかに影響を受けたが、1の比は最良の泡安定性を与えた。酸性(pH4.0)の条件において、pH7.0よりも、起泡前に適用された加熱なし又はありで、泡はより体積安定であった。このことは、共有結合複合体が、中性条件よりも酸性条件において、気体及び液体を泡中に閉じ込めることができることを示した。泡安定性に対する最初のAITC/BLGモル比の顕著な影響はなかった。
【0092】
表1は、25℃で0.5、1及び2のモル混合比について、非加熱の及び加熱した(85℃、15分)BLG−AITC共有結合複合体について、pH4.0及び7.0で測定した泡膨張、泡容量及び泡液体安定性を示す。提示されているデータは、平均値と対応する標準偏差である。
【0093】
【表1】

【0094】
表1は、pH7.0のAITC:BLG共有結合複合体が、熱処理あり又はなしで、pH4.0より低い泡膨張値を示すことを示す。このことは、pH7.0でわずかに水分の多い泡が得られたことを示す。泡容量は、常に1より高く、泡の体積が、注入された窒素と一緒に大量の液体(14〜18%)を含むことを示していた。非加熱の試料では、より高い泡容量が得られた。酸性条件において生成された泡では、泡液体安定性は顕著に向上した(30%を超える時間安定性)。泡容量と同様に、共有結合複合体をその後の熱処理に供さなかった場合に、より高い値が得られた。
【0095】
実施例3:β−ラクトグロブリン/アリルイソチオシアネート共有結合複合体の乳化特性の測定
pH7.0及び4.0の、非加熱の及び加熱したBLG−AITCコンジュゲート(実施例1及び2に記載の通り調製した)の乳化特性を、10%(重量/重量)の「高オレイン酸」ヒマワリ油(Oleifico SABO、Manno、スイス)を含有するエマルジョンを調製することによって評価した。等モル比でBLG−AITCコンジュゲートを含有する試料を、0.25mM BLGまで希釈し、パイレックスチューブ(直径25mm、容量35mL)中で20gの最終重量まで油と混合した。これらを、S25N−10G分散用ヘッド(dispersing head)を備えたウルトラタラックス(Ultra Turrax)(登録商標)T25(IKA−Werke、Staufen、ドイツ)を使用して、16,000rpmで回転させながら1分間予備ホモジナイズした。エマルジョンのホモジナイゼーションは、超音波プロセッサー(ヒールシャー(Hielscher)UP400S、出力400W、周波数24kHz)及びソノトロード(直径7mm、長さ約100mm、チタン)を使用して、室温で75秒間及び超音波最大出力の75%の振幅で完了した。この乳化時間は、油を小滴中に分散させ、試料の過度の加熱を回避するのに十分なものであった。試料内部の温度は50℃を超えなかった。
【0096】
クリーミング及び凝集に対するエマルジョンの安定性を、4℃での貯蔵の33日間にわたって追跡した。
【0097】
図3は、AITC単独では、エマルジョンを生成するために使用したヒマワリ油の10%を適切に乳化することができなかったことを示す。したがって、日=0で既にかなりの油分離が見られたが、貯蔵の24日後にはより顕著に見られた。BLG−AITC共有結合複合体の使用は、中性pH又は酸性pHのいずれかで、熱処理の適用あり又はなしで、33日の貯蔵後、非常に安定なエマルジョンをもたらした。BLG−AITC共有結合複合体は、油/水界面で強い表面活性を示すと結論付けることができる。
【0098】
実施例4:β−ラクトグロブリン/アリルイソチオシアネート共有結合複合体の辛味の測定
8人の対象に、0(なし)から10(非常に)までの尺度で、0.5mM AITC、1mM AITC、0.5mM BLG+0.5mM AITC、及び0.5mM BLG+1mM AITCを含有する溶液の辛味を比較して評点をつけるよう指示した。試料は、無作為な順序で2clカップ中にあり、符号を付けていた。対象に、規則通りの順序(左から右へ)で試料をまず評価するよう指示した。対象が各試料をいったん試食したら、任意の試料をもう一度、自由に試食してもらった。周囲温度のビッテル(Vittel)(商標)水、パン又はリンゴのスライスを、洗口のために使用することができた。
【0099】
試食用の試料を、実施例1に記載の通り調製し、pH7.0まで酸性化し、その後15分間85℃で加熱した。スニッフィングすることによって、次いでノーズクリップを着用して口に含んで、辛味をまず評価した。試料間に顕著な差異があるかどうかを判断するために、対毎のt検定を適用した。
【0100】
図4は、AITCとBLG間の共有結合複合体の形成が、分散液の辛味を顕著に低下させたことを示す。このことは、試料のスニッフィング、及び口に含むテイスティングにより示された。
【0101】
実施例5:β−ラクトグロブリン/アリルイソチオシアネート共有結合複合体の抗菌活性の測定
BLG−AITCコンジュゲートの抗菌特性を、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対して試験した。
【0102】
事前に寒天プレート上で増殖させた各細菌株の単一コロニーを、10mlのブレインハートインフュージョン(BHI)ブロス中に接種し、24時間、37℃でかき混ぜながらインキュベートした。抗菌特性評価のために、これらの前培養を100回BHIブロス中で希釈した。
【0103】
AITCのBLGに対するモル比が1、2、10及び20であるBLG−AITC共有結合複合体を、200mM AITC溶液をDMSO中で調製したという違いはあるが、実施例1に記載されている通り調製した。試料をその後、pH7.0まで酸性化し、次いで、10kDaの分子量カットオフを有するセルローストリアセテート限外濾過膜を用いたセントリサート(Centrisart)(登録商標)I遠心分離方式限外濾過ユニット(Sartorious、ドイツ)を、製造業者の使用説明書に従って使用することによって5回濃縮した。
【0104】
濃縮した試料の600μlのアリコートを、大腸菌又は黄色ブドウ球菌を含有する2.4mlのBHIブロスに添加して、BLGの出発濃度(0.5mM)及びAITCの対応する濃度にした。600μlの5%DMSO又は水が添加された対照を、同様に調製した。次いで、試料混合物を含む試験管を、24時間、37℃で撹拌しながらインキュベートした。その後、試料の光学密度(OD)を、600nmで測定した。細菌増殖の阻害を評価するために、BLG−AITC共有結合複合体を含有する試料のODを、対応する対照のODによって正規化し、ODの減少としてパーセントで表している。1%DMSOの溶液は、どちらの細菌株の増殖も阻害しなかった。
【0105】
図5は、BLG−AITC共有結合複合体が、病原体の2つの菌株の光学密度を低下させることができたことを示す。この結果は、細菌増殖の減少の最初の徴候であると解釈することができる。黄色ブドウ球菌は、大腸菌よりも共有結合複合体に対して感受性が高いようであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのイソチオシアネート化合物と少なくとも1つの乳タンパク質との共有結合複合体を含む組成物であって、エマルジョン又は泡である、組成物。
【請求項2】
乳タンパク質が、牛乳のタンパク質画分、脱脂乳のタンパク質画分、乳タンパク質濃縮物、乳タンパク質分離物、カゼインミセル、カゼイン塩、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、酸ホエー若しくはスイートホエーのタンパク質画分、ホエータンパク質濃縮物、ホエータンパク質分離物、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン及び/又はラクトフェリンからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
乳タンパク質が、β−ラクトグロブリンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
イソチオシアネート化合物が、メチルイソチオシアネート、アリルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネート、スルフォラファン、フェネチルイソチオシアネート、ベンジルイソチオシアネート、3−メチルチオプロピルイソチオシアネート、及びこれらの組合せなどの、R−N=C=Sの形の有機イソチオシアネートからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
イソチオシアネート及び乳タンパク質が、約100:1〜1:10の範囲のモル比で、好ましくは約10:1〜1:10の範囲の、最も好ましくは約1:1の範囲のモル比で複合体中に存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
約2〜9の、好ましくは約3〜7の範囲のpHを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
水中油エマルジョンである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
特に貯蔵期間中に、イソチオシアネートを保持するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項9】
ITC化合物の刺激性及び/又は催涙性の味を少なくするための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項10】
抗菌作用をもたらすための、特に、大腸菌及び/又は黄色ブドウ球菌の増殖を阻害するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
微生物感染症、特に大腸菌及び/又は黄色ブドウ球菌感染症に関係している障害を治療又は予防するための製品を製造するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
発癌及び/若しくは腫瘍形成、特に(UV)光に誘導される皮膚の発癌を阻害するための、並びに/又は嚢胞性線維症を治療するための製品を製造するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項13】
炎症性障害、特に、第2相酵素誘導によって治療することができる炎症性障害を治療又は予防するための製品を製造するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物を含む製品であって、食物製品、栄養補助食品、食物添加物、医薬、局所適用のためのクリーム又は飲料である、製品。
【請求項15】
食物製品が、フィリング、ディップ、ソース(好ましくはマヨネーズ)、スプレッド、トッピング、乳製品ベースの製品、乳及び/若しくはクリームベースの泡及び/若しくはエマルジョン、サラダドレッシング、スープ、飲料又は経口食品サプリメントからなる群から選択される、請求項14に記載の製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−520063(P2012−520063A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553396(P2011−553396)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052705
【国際公開番号】WO2010/102937
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】