説明

乳化燃料

【課題】排気ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物、粒子状物質の発生を抑制でき、安定性および流動性に優れたW/O型の乳化燃料の提供。
【解決手段】下記(A)〜(D)成分を含有し、(C)成分と(D)成分の質量比((C)成分/(D)成分)が1〜10であり、かつW/O型乳化液であることを特徴とする乳化燃料。成分(A):植物油脂、または、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルおよび植物油脂。成分(B):水。成分(C):縮合リシノレイン酸ポリグリセリン。成分(D):アルキル基の炭素数が12〜18であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W/O型の乳化燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に対する関心の高まりから、燃焼排気ガスのクリーン化が求められており、油に水を分散させた乳化燃料が注目されている。
乳化燃料は、水が界面活性剤の乳化作用により液体燃料(油)中に微分散状態で存在している燃料であり、燃焼の際、水の蒸発による燃焼温度の低下によって、排気ガス中の窒素酸化物(NO)の発生を抑制させる効果が期待できる。
また、乳化燃料は、燃焼の際に水が突沸することで、周囲に存在する液体燃料が小さな液滴へと2次微粒化し、飛散しやすくなる。そのため、乳化燃料は、燃焼の際に液体燃料を単に噴射させる場合に比べて、より微細な油滴の形成が可能であることに加え、乳化燃料そのものが燃えやすい(発火性が良好である)ことにより、燃焼性に優れる。よって、不完全燃焼が原因とされる粒子状物質(PM)などの発生を抑制させる効果も期待できる。
【0003】
乳化燃料としては、軽油、灯油、重油等の石油系液体燃料を乳化させた石油系の乳化燃料が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
しかし、石油系の乳化燃料は、安定性(分散性)の点で必ずしも十分ではなかった。また、石油系液体燃料に含まれる硫黄原子によって、排気ガス中に硫黄酸化物(SO)が発生しやすかった。
【0004】
そこで、SOが発生しにくい植物系液体燃料が注目されている(例えば非特許文献1参照)。
また、植物系液体燃料は、光合成を行う植物が原料であり、環境負荷低減の観点から、植物系液体燃料を乳化させた植物系の乳化燃料への有効な利用開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−201485号公報
【特許文献2】特開2004−10765号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉本康文、他、「バイオディーゼル油を燃料とする機関の性能(水乳化の効果)」、日本機械学会論文集(B編)、67巻、653号、pp.264−271、2001
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、乳化燃料の乳化型としては、W/O型(油中水型)とO/W型(水中油型)があるが、防腐性や防錆性などの観点から、W/O型が適している。
しかしながら、植物系の乳化燃料に、特許文献1、2に記載の技術を単に適用しても、W/O型乳化の安定性に劣るとともに、燃料に適する流動性が得られなかった。
【0008】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、排気ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物、粒子状物質の発生を抑制でき、安定性および流動性に優れたW/O型の乳化燃料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の乳化燃料は、下記(A)〜(D)成分を含有し、(C)成分と(D)成分の質量比((C)成分/(D)成分)が1〜10であり、かつW/O型乳化液であることを特徴とする。
成分(A):植物油脂、または、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルおよび植物油脂。
成分(B):水。
成分(C):縮合リシノレイン酸ポリグリセリン。
成分(D):アルキル基の炭素数が12〜18であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
【0010】
ここで、前記(A)成分が、炭素鎖長が8〜18の脂肪酸とメタノールとから得られる脂肪酸メチルエステルおよび植物油脂であることが好ましい。
また、前記(C)成分の含有量が0.3〜0.8質量%であり、前記(D)成分の含有量が0.03〜0.8質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排気ガス中の窒素酸化物、硫黄酸化物、粒子状物質の発生を抑制でき、安定性および流動性に優れたW/O型の乳化燃料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例および比較例の燃焼試験に用いた燃焼装置の概略構成図である。
【図2】実施例および比較例の発火点測定に用いた発火点測定装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の乳化燃料は、下記(A)成分〜(D)成分を含有する、W/O型乳化液である。
【0014】
<(A)成分>
(A)成分は、植物油脂、または、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルおよび植物油脂である。
植物油脂は植物より製造または精製された油であり、本発明においては50℃で液体状のものを用いる。このような植物油脂としては、オリーブ油、大豆油、菜種油、ひまわり油、ヤシ油、パーム油、ジャトロファ油、トウモロコシ油などが挙げられる。
一方、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルとしては、植物油脂を原料とする脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルを用いるのが好ましい。特に、脂肪酸としては、炭素鎖長が18以下である脂肪酸が好ましく、より好ましくは炭素鎖長が14以下である。脂肪酸の炭素鎖長が18を超えると、液体状を容易に維持しにくくなる。なお、植物油脂を原料とする脂肪酸を容易に入手できる点で、脂肪酸の炭素鎖長の下限値は8以上が好ましい。
【0015】
これら(A)成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ただし、(A)成分として脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルのみを用いると、乳化燃料の安定性が低下する。従って、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルを用いる場合は、植物油脂と併用する。特に、発火点を低下させる(すなわち、燃焼性を向上できる)点で、炭素鎖長が8〜18の脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルおよび植物油脂の組み合わせが好ましく、中でも、炭素鎖長が8〜18の脂肪酸とメタノールとから得られる脂肪酸メチルエステルおよび植物油脂の組み合わせが特に好ましい。
炭素鎖長が8〜18の脂肪酸とメタノールとから得られる脂肪酸メチルエステルとしては、例えばカプリル酸メチル(例えばライオン株式会社製の「パステルM−8」)、カプリン酸メチル(例えばライオン株式会社製の「パステルM−10」)、ミリスチン酸メチル(例えばライオン株式会社製の「パステルM−14」)、オレイン酸メチル(例えばライオン株式会社製の「パステルM181」)、ラウリン酸メチル(例えば花王株式会社製の「エキセパールML−85」)、ステアリン酸メチル(例えば花王株式会社製の「エキセパールMS」)などが挙げられる。これらの中でも、特にカプリル酸メチル、ミリスチン酸メチル、ラウリン酸メチル、ステアリン酸メチルが好ましい。
【0016】
(A)成分の含有量は、乳化燃料100質量%中、30〜91質量%が好ましく、43〜75質量%がより好ましい。(A)成分の含有量が30質量%未満であると、(A)成分の発火性が低下し、排気ガス中の粒子状物質(PM)の発生抑制効果が低下する傾向にある。一方、(A)成分の含有量が91質量%を超えると、乳化燃料の燃焼温度が低下しにくくなり、排気ガス中の窒素酸化物(NO)の発生抑制効果が低下する傾向にある。また、乳化燃料の2次微粒化効果が抑制されやすくなり(すなわち、(A)成分が2次微粒化しにくくなり)、排気ガス中のPMの発生抑制効果が低下する傾向にある。
【0017】
また、(A)成分として脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルと、植物油脂とを併用する場合、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルの含有量は、乳化燃料100質量%中、5〜30質量%が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルの含有量が5質量%未満であると、発火点が十分に低下せず、排気ガス中のPMの発生抑制効果が低下する傾向にあり、液体燃料を乳化せずに用いる場合と大差がない。一方、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルの含有量が30質量%を超えると、乳化燃料の安定性が低下する傾向にある。
【0018】
上述したように、従来の乳化燃料は、液体燃料として軽油、灯油、重油等の石油系液体燃料を用いているが、これら石油系液体燃料には数ppm〜数質量%の硫黄原子を含んでいるため、燃焼時に硫黄酸化物(SO)が発生しやすかった。SOは燃焼装置の腐食や酸性雨の原因になるとされている。
しかし、本発明の乳化燃料は、液体燃料として上述した(A)成分を用いる。(A)成分には硫黄原子が含まれていないので、本発明の乳化燃料であれば、排気ガス中のSOの発生を抑制できる。
【0019】
<(B)成分>
(B)成分は、水である。
(B)成分の含有量は、乳化燃料100質量%中、8〜69質量%が好ましく、24〜56質量%がより好ましい。(B)成分の含有量が8質量%未満であると、乳化燃料の燃焼温度が低下しにくくなり、排気ガス中のNOの発生抑制効果が低下する傾向にある。また、乳化燃料の2次微粒化効果が抑制されやすくなり、排気ガス中のPMの発生抑制効果が低下する傾向にある。一方、(B)成分の含有量が69質量%を超えると、(A)成分の発火性が低下し、排気ガス中のPMの発生抑制効果が低下する傾向にある。
【0020】
((A)成分と(B)成分の質量比)
(A)成分と(B)成分の質量比((A)成分/(B)成分)は、0.5〜10であることが好ましく、0.8〜3であることがより好ましい。質量比が0.5未満であると、乳化燃料の粘度が上昇し、流動性が低下する傾向にある。一方、質量比が10を超えると、乳化燃料の燃焼温度が低下しにくくなり、排気ガス中のNOの発生抑制効果が低下する傾向にある。また、乳化燃料の2次微粒化効果が抑制されやすくなり、排気ガス中のPMの発生抑制効果が低下する傾向にある。
【0021】
<(C)成分>
(C)成分は、縮合リシノレイン酸ポリグリセリンであり、界面活性剤の役割を果たす。
(C)成分としては、縮合リシノレイン酸と、水酸基価から算出した平均重合度が4〜10であるポリグリセリンとのエステルが好ましく、具体的には縮合リシノレイン酸テトラグリセリン、縮合リシノレイン酸ペンタグリセリン、縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリンなどが挙げられる。
このような(C)成分としては、市販品として、太陽化学株式会社製の「サンソフトNo.818DG」(グリセリン平均重合度:4)、「サンソフトNo.818TY」(グリセリン平均重合度:6)、「チラバゾールH−818」(グリセリン平均重合度:10);阪本薬品工業株式会社製の「CR−310」(グリセリン平均重合度:4)、「CR−500」(グリセリン平均重合度:6)、「CRS−75」(グリセリン平均重合度:6)などが挙げられる。
これら(C)成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(C)成分の含有量は、乳化燃料100質量%中、0.2〜0.9質量%が好ましく、0.3〜0.8質量%がより好ましい。(C)成分の含有量が0.2質量%未満であると、水滴が合一しやすくなり、離水抑制効果が低下するので乳化燃料の安定性が低下する傾向にある。一方、(C)成分の含有量が0.9質量%を超えると、乳化燃料の2次微粒化効果が抑制されやすくなり、排気ガス中のPMの発生抑制効果が低下する傾向にある。
【0023】
<(D)成分>
(D)成分は、アルキル基の炭素数が12〜18であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテルであり、界面活性剤の役割を果たす。
アルキル基の炭素数が上記範囲外であると、界面活性剤としての機能を十分に発揮せず、(B)成分が乳化しにくくなり、安定性が低下する。
なお、アルキル基は、直鎖状でもよいし、分岐鎖状でもよい。
【0024】
また、エチレンオキサイドの平均付加モル数が上記範囲外であると、(A)成分中に分散された(B)成分(水滴)同士が凝集し、分離抑制効果が低下する。
【0025】
(D)成分としては、ポリオキシエチレン(5)セチルエーテル(例えば日本エマルジョン株式会社製の「EMALEX 105」)、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(例えば日光ケミカルズ株式会社製の「NIKKOL BC−10」)、ポリオキシエチレン(5)ステアリルエーテル(例えば日本エマルジョン株式会社製の「EMALEX 605」)、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(例えば日光ケミカルズ株式会社製の「NIKKOL BS−20」)、ポリオキシエチレン(20)ラウリルエーテル(例えば日本エマルジョン株式会社製の「EMALEX 720」)などが挙げられる。なお、「エチレン」の後のカッコ内の数値は、エチレンオキサイドの平均付加モル数である。
これら(D)成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
(D)成分の含有量は、乳化燃料100質量%中、0.02〜0.9質量%が好ましく、0.03〜0.8質量%がより好ましい。(D)成分の含有量が0.02質量%未満であると、分離抑制効果が低下し、乳化燃料の安定性が低下する傾向にある。一方、(D)成分の含有量が0.9質量%を超えると、O/W型エマルションが形成されやすくなるとともに、乳化燃料の安定性が低下する傾向にある。
【0027】
また、成分(C)と成分(D)の含有量の合計は、乳化燃料100質量%中、0.22〜1.8質量%が好ましく、0.4〜1.0質量%がより好ましい。含有量の合計が0.22質量%未満であると、乳化燃料の安定性が低下する傾向にある。一方、含有量の合計が1.8質量%を超えると、乳化燃料の2次微粒化効果が抑制されやすくなり、排気ガス中のPMの発生抑制効果が低下する傾向にある。
【0028】
((C)成分と(D)成分の質量比)
(C)成分と(D)成分の質量比((C)成分/(D)成分)は、1〜10であり、2〜8であることが好ましい。質量比が1未満であると、O/W型エマルションが形成されるとともに、乳化燃料の安定性が低下する。一方、質量比が10を超えると、乳化燃料の安定性(特に分離抑制効果)が低下し、(A)成分が分離する。
【0029】
<任意成分>
本発明の乳化燃料は、(A)成分〜(D)成分以外に、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、その他の成分を適宜含有してもよい。
その他の成分としては、燃焼性液体である炭化水素や、グリセリン、アルコール、粘度調整剤などが挙げられる。
【0030】
<乳化燃料の調製>
本発明の乳化燃料は、例えば(B)成分以外の成分を混合し、これを攪拌しながら(B)成分を徐々に投入し、さらに撹拌することで得られる。
【0031】
このようにして得られる乳化燃料は、粘度が1000mPa・s未満であることが好ましい。粘度が1000mPa・s以上になると、十分な流動性が得られにくくなる。粘度の下限値については特に制限されないが、分離抑制効果の観点から10mPa・s以上が好ましい。
乳化燃料の粘度は、例えば(A)成分に高粘度の成分を添加することで調整できる。具体的には、炭化水素や分子量の大きな油脂、オイルゲル化剤などの粘度調整剤を添加すると、粘度は高くなる傾向にある。
【0032】
また、本発明の乳化燃料はW/O型乳化液であるが、特に、エマルションの粒径が1〜10μmである水滴が油中に分散している状態が好ましい。
このようなW/O型乳化液とするためには、例えば機械的な処理、あるいは界面膜に存在する乳化剤((C)成分や(D)成分)の量を調節すればよい。具体的には、乳化時のせん断力を高めたり、乳化剤濃度を高くしたりすると、水滴径は小さくなる傾向にある。
【0033】
以上説明した本発明の乳化燃料は、燃焼温度が低いので排気ガス中のNOの発生を抑制できるとともに、燃焼性に優れるため排気ガス中のPMの発生も抑制できる。
さらに、液体燃料として上述した(A)成分を用いるので、排気ガス中のSOの発生をも抑制できる。
加えて、本発明の乳化燃料は、(C)成分と(D)成分とを特定の比率となるように併用することで、W/O型乳化液でありながら、安定性および流動性に優れる。
【0034】
本発明の乳化燃料は、例えば自動車、船舶、農業機械、建設機械、発電、暖房などのあらゆる用途の燃料として好適に使用できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[使用原料]
(A)成分および(A)成分の比較品として、以下に示す化合物を用いた。
・A−1:大豆油(日華油脂株式会社製の大豆白絞油)。
・A−2:菜種油(日清オイリオグループ株式会社製の菜種白絞油)。
・A−3:ジャトロファ油(日本植物燃料株式会社製のジャトロファ油)。
・A−4:カプリン酸メチル(ライオン株式会社製、「パステルM−10」)。
・A−5:ミリスチン酸メチル(ライオン株式会社製、「パステルM−14」)。
・A−6:オレイン酸メチル(ライオン株式会社製、「パステルM181」)。
・A−7(比較品):重油(1種1号(JIS K 2205))。
・A−8(比較品):灯油(1号灯油(JIS K 2203))。
【0037】
(B)成分として、蒸留水を用いた。
(C)成分および(C)成分の比較品として、以下に示す化合物を用いた。
・C−1:縮合リシノレイン酸テトラグリセリン(太陽化学株式会社製、「サンソフトNo.818DG」)。
・C−2:縮合リシノレイン酸ヘキサグリセリン(太陽化学株式会社製、「サンソフトNo.818TY」)。
・C−3(比較品):ショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社製、「S−070」)。
・C−4(比較品):ペンタオレイン酸テトラグリセリン(阪本薬品工業株式会社製、「PO−3S」)。
【0038】
(D)成分および(D)成分の比較品として、以下に示す化合物を用いた。
・D−1:ポリオキシエチレンセチルエーテル(日光ケミカルズ株式会社製、「NIKKOL BC−10」、エチレンオキサイドの平均付加モル数(EO)=10)。
・D−2:ポリオキシエチレンステアリルエーテル(日光ケミカルズ株式会社製、「NIKKOL BS−20」、EO=20)。
・D−3:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX 720」、EO=20)。
・D−4:ポリオキシエチレンセチルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX 105」、EO=5)。
・D−5:ポリオキシエチレンステアリルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX 605」、EO=5)。
・D−6(比較品):ポリオキシエチレンラウリルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX 703」、EO=3)。
・D−7(比較品):ポリオキシエチレンラウリルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX 725」、EO=25)。
・D−8(比較品):ポリオキシエチレンベヘニルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX BHA−10」、EO=10)。
・D−9(比較品):ポリオキシエチレンステアリルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX 603」、EO=3)。
・D−10(比較品):ポリオキシエチレンステアリルエーテル(日本エマルジョン株式会社製、「EMALEX 625」、EO=25)。
【0039】
[実施例1〜83、比較例1〜14]
<乳化燃料の調製>
胴径×全高(mm)が40φ×120のバイアル瓶に、表1〜11に示す種類と配合量(質量%)の(A)成分と(C)成分および(D)成分を加え、ホモミキサー(IKA社製、「ULTRA−TURRAX T25 basic」)を用い、回転数9500rpmでせん断をかけながら、表1〜11に示す配合量(質量%)の(B)成分を添加していき、(B)成分の添加後、回転数9500rpmで1分間攪拌を続け、乳化燃料を得た。
得られた乳化燃料について、以下に示す評価および測定を行った。結果を表1〜11に示す。
なお、以下に示す「安定性の評価」において、離水率の測定および分離率の測定の結果の少なくとも一方が「2」以下の場合は、安定な燃焼状態を確保できず、乳化燃料としての機能が不十分であることは明らかなので、「燃焼試験」および「発火点の測定」は行わなかった。この場合を表中、「−」として表記した。
また、表3〜9には、各実施例を対比しやすいように、一部重複して記載した実施例もある。
【0040】
<評価>
(安定性の評価)
離水率の測定(離水抑制効果の評価);
胴径×全高(mm)が40φ×120のバイアル瓶に乳化燃料を40g入れ、25℃の恒温槽に1週間放置した後の状態を目視にて観察した。乳化燃料から水が離水している場合は、乳化燃料の高さ(a)と水の高さ(b)を計測して離水率[b/(a+b)]を求め、以下の評価基準に基づいて評価した。なお「3」以上を合格とする。
5:離水率が0.02未満。
4:離水率が0.02以上、0.05未満。
3:離水率が0.05以上、0.1未満。
2:離水率が0.1以上、0.15未満。
1:離水率が0.15以上。
【0041】
分離率の測定(分離抑制効果の評価);
胴径×全高(mm)が40φ×120のバイアル瓶に乳化燃料を40g入れ、25℃の恒温槽に3日間放置した後の状態を目視にて観察した。乳化燃料から油成分が分離している場合は、乳化燃料の高さ(a)と油成分の高さ(c)を計測して分離率[c/(a+c)]を求め、以下の評価基準に基づいて評価した。なお「3」以上を合格とする。
5:油成分が分離していない。
4:油成分が分離したが、分離率が0.02未満。
3:分離率が0.02以上、0.05未満。
2:分離率が0.05以上、0.1未満。
1:分離率が0.1以上。
【0042】
(流動性の評価)
胴径×全高(mm)が40φ×120のバイアル瓶に乳化燃料を80g入れ、B型粘度計(株式会社東京計器製、「VISCOMETER MODEL DVM−B」)を用い、ローターNO.2〜4、25℃、60rpm、30秒の条件で乳化燃料の粘度を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお「○」、「◎」を合格とする。
◎:粘度が500mPa・s未満。
○:粘度が500mPa・s以上、1000mPa・s未満。
△:粘度が1000mPa・s以上、3000mPa・s未満。
×:粘度が3000mPa・s以上。
【0043】
(燃焼試験)
図1に示す燃焼装置10を用いて、乳化燃料の燃焼試験を行った。
この燃焼装置10は、容器11と、該容器11に収納された燃焼バーナー12と、燃焼バーナー12に乳化燃料および第一の空気を供給する噴霧ノズル13と、第二の空気を送風する空気送風管14と、燃焼により発生した排気ガスを吸引するプローブ15と、プローブ15より吸引した排気ガスを冷却する冷却手段16と、冷却手段16により冷却された排気ガス中のNO濃度およびSO濃度を測定するポータブルガス分析計17と、プローブ15より吸引した排気ガス中のPMを捕集するフィルター18を具備して構成されている。なお、噴霧ノズル13には、乳化燃料を燃焼バーナー12に供給するためのスリット(図示略)と、第一の空気を燃焼バーナー12に供給するためのスリット(図示略)がそれぞれ設けられている。また、プローブ15は、噴霧ノズル13先端より上方600mmの位置に配置した。また、容器11の上端には、排気ガスの温度を測定する温度計19を取り付けた。また、ポータブルガス分析計17として株式会社堀場製作所製の「PG−250」を用い、フィルター18としてポリ4フッ化エチレン製のフィルターを用いた。
この燃焼装置10を用いて燃焼試験を行い、排気ガス中のNO濃度、SO濃度、およびPM濃度を以下のようにして測定した。なお、本試験では、排気ガス中の燃料油滴や微炭分の残炭分をPMとして測定した。
【0044】
NO濃度の測定;
等量比(φ)1.0の条件にて、乳化燃料および第一の空気を噴霧ノズル13から燃焼バーナー12に供給し、空気送風管14から第二の空気を送風しながら乳化燃料を燃焼させた。
ここで、「等量比」とは、1kgの空気に対して理論量の何倍の液体燃料((A)成分)が供給されたかを表す量であり、下記式(i)より求められる。なお、式(i)中、「F」は(A)成分の質量[kg]、「A」は第一の空気と第二の空気の合計の質量[kg]、「(F/A)st」は理論燃空費である。
φ=(F/A)/(F/A)st ・・・(i)
【0045】
この燃焼により発生した排気ガスをプローブ15より吸引し、冷却手段16に導入して冷却および水分除去を行った後、ポータブルガス分析計17により化学発光法にて排気ガス中のNO濃度を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお「○」、「◎」を合格とする。
◎:NO濃度が20ppm未満。
○:NO濃度が20ppm以上、60ppm未満。
×:NO濃度が60ppm以上。
【0046】
SO濃度の測定;
等量比(φ)1.0の条件にて、乳化燃料および第一の空気を噴霧ノズル13から燃焼バーナー12に供給し、空気送風管14から第二の空気を送風しながら乳化燃料を燃焼させた。
この燃焼により発生した排気ガスをプローブ15より吸引し、冷却手段16に導入して冷却および水分除去を行った後、ポータブルガス分析計17により非分散赤外線吸収法にて排気ガス中のSO濃度を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお「○」、「◎」を合格とする。
◎:SOは検出されない。
○:SOが検出されたが、SO濃度が1ppm未満。
△:SO濃度が1ppm以上、20ppm未満。
×:SO濃度が20ppm以上。
【0047】
PM濃度の測定;
等量比(φ)1.2の条件にて、乳化燃料および第一の空気を噴霧ノズル13から燃焼バーナー12に供給し、空気送風管14から第二の空気を送風しながら乳化燃料を燃焼させた。
この燃焼により発生した排気ガスの一部をプローブ15より4L/分で等速吸引し、フィルター18上に捕集し、捕集前後のフィルター18の質量差より、捕集されたPMの質量を算出した。なお、捕集されたPMの質量を算出する際は、水分の影響を取り除くため、捕集前、捕集後ともにフィルター18を恒温室内(室温25℃、湿度55%)で12時間以上除湿した後、上皿電子天秤(METTLER AE240)で計測した。
捕集されたPMの質量を、下記式(ii)を用いて排気ガス1m中のPM濃度に換算した。なお、式(ii)中、「PM」は捕集されたPMの質量[mg]、「Q」は排気ガスの吸引量[L/分]、「t」は排気ガスの吸引時間である。
PM濃度[mg/m]=PM/(Q×t×10−3) ・・・(ii)
【0048】
求めたPM濃度より、以下の評価基準に基づいて評価した。なお「○」、「◎」を合格とする。
◎:PM濃度が200mg/m未満。
○:PM濃度が200mg/m以上、1000mg/m未満。
×:PM濃度が1000mg/m以上。
【0049】
(発火点の測定)
図2に示す発火点測定装置20を用いて、乳化燃料の発火点を測定した。
この発火点測定装置20は、加熱炉21と、加熱炉21内の温度を調整するヒーター22と、加熱炉21に乳化燃料Fを投入する電動ステージ23と、加熱炉21内の温度を測定する温度計24と、加熱炉21内の様子を録画するカメラ25と、加熱炉21を挟んでカメラ25と対向配置された光源26とを具備して構成されている。なお、電動ステージ23にはK熱電対(KFG−25−200−100)23aが設けられ、電動ステージ23の先端に吊り下げて取り付けられた乳化燃料Fが加熱炉21内で発火したときの発火点を測定できるようになっている。さらに、電動ステージ23は、上下に移動可能に支持軸27に取り付けられている。また、加熱炉21の壁面の1つには、カメラ25にて内部を録画できるように窓21aが設けられている。さらに、窓21aに対向する壁面は、光源26からの光が加熱炉21内に差し込むように、透明な材質でできている。
【0050】
ヒーター22により600℃に加熱された加熱炉21内に、乳化燃料0.03gを電動ステージ23により投入した。加熱炉21内の乳化燃料Fの温度をK熱電対23aにて測定しつつ、光源26により加熱炉21内を照射し、加熱炉21内の様子をカメラ25にて録画した。そして、録画した画像を解析し、油滴が発火し、油滴温度が急激に上昇する直前の温度を乳化燃料の発火点とし、以下の評価基準に基づいて評価した。なお「2」以上を合格とする。
4:発火点が200℃未満。
3:発火点が200℃以上、400℃未満。
2:発火点が400℃以上。
1:発火しない。
【0051】
(乳化型の判定)
乳化燃料を一滴、スライドグラスの上に滴下し、その上に水を一滴垂らし、スパチュラで混合したとき、容易に交じり合わない場合を「W/O型」、容易に交じり合う場合を「O/W型」として、乳化燃料の乳化型を判定した。なお、「W/O型」は油中水型、「O/W型」は水中油型である。なお、乳化していない場合を「−」として表中に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
【表7】

【0059】
【表8】

【0060】
【表9】

【0061】
【表10】

【0062】
【表11】

【0063】
表1〜10から明らかなように、各実施例で得られた乳化燃料はW/O型であり、排気ガス中のNO、SO、PMの発生を抑制できた。また、安定性および流動性にも優れていた。
特に、実施例1、9〜32の対比から、(C)成分の含有量が0.3〜0.8である実施例1、14〜27の乳化燃料は、離水率および分離率の結果がいずれも「4」以上と良好であり、かつPMの発生を効果的に抑制できた。なお、実施例9〜13の対比では、(C)成分と(D)成分の質量比((C)成分/(D)成分)が2〜8である実施例10〜12の乳化燃料が安定性に優れていた。
また、実施例1、9、11、13、19、22、28、30、32〜68の対比から、(A)成分と(B)成分の質量比((A)成分/(B)成分)が0.8〜3である実施例1、9、11、13、19、22、28、30、32、34、35、38、39、42、43、46、47、50、51、54、55、58、59、62、63、66、67の乳化燃料は、流動性に特に優れ、かつNOの発生を効果的に抑制できた。これらの中でも、特に成分(C)の含有量が0.2〜0.6である実施例1、9、11、13、19、22、34、35、38、39、46、47、50、51、58、59、62、63の乳化燃料は、PMの発生も効果的に抑制できた。
また、実施例1、69〜83の対比から、炭素鎖長が8〜18の脂肪酸とメタノールとから得られる脂肪酸メチルエステルおよび植物油脂を(A)成分として用いた実施例69〜83の乳化燃料は、発火点が低下し、燃焼性に特に優れることが示された。
【0064】
一方、表10、11から明らかなように、(B)成分を含有しない比較例1の場合、水の蒸発による燃焼温度の低下や2次微粒化が起きず、排気ガス中にNOおよびPMが発生しやすかった。
(C)成分、(D)成分のいずれかを欠く比較例2、3の乳化燃料は、分離率の結果が「2」以下と悪かった。これら乳化燃料は安定性に劣るため、乳化燃料としての機能が不十分であることが示された。
(A)成分の比較品としてA−7(重油)またはA−8(灯油)を用いた比較例4、5の乳化燃料は、排気ガス中にSOが発生しやすかった。
(C)成分の比較品としてC−3またはC−4を用いた比較例6、7は、分離率の結果が「1」と悪かった。これら乳化燃料は安定性に劣るため、乳化燃料としての機能が不十分であることが示された。特に、比較例6の乳化燃料は、流動性にも劣っていた。
(D)成分の比較品としてC−6〜C−10のいずれかを用いた比較例8〜12は、分離率の結果が「2」と悪かった。これら乳化燃料は安定性に劣るため、乳化燃料としての機能が不十分であることが示された。
(C)成分と(D)成分の質量比((C)成分/(D)成分)が0.43である比較例13の乳化燃料はO/W型であった。また、離水率および分離率の結果がいずれも「1」と悪かった。比較例13の乳化燃料は安定性に劣るため、乳化燃料としての機能が不十分であることが示された。
(C)成分と(D)成分の質量比((C)成分/(D)成分)が12.5である比較例14の乳化燃料は、分離率の結果が「2」と悪かった。比較例14の乳化燃料は安定性に劣るため、乳化燃料としての機能が不十分であることが示された。
【符号の説明】
【0065】
10:燃焼装置、11:容器、12:燃焼バーナー、13:噴霧ノズル、14:空気送風管、15:プローブ、16:冷却手段、17:ポータブルガス分析計、18:フィルター、19:温度計、20:発火点測定装置、21:加熱炉、21a:窓、22:ヒーター、23:電動ステージ、23a:K熱電対、24:温度計、25:カメラ、26:光源、27:支持軸、F:乳化燃料。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)成分を含有し、(C)成分と(D)成分の質量比((C)成分/(D)成分)が1〜10であり、かつW/O型乳化液であることを特徴とする乳化燃料。
成分(A):植物油脂、または、脂肪酸と炭素数3以下のアルコールとから得られるエステルおよび植物油脂。
成分(B):水。
成分(C):縮合リシノレイン酸ポリグリセリン。
成分(D):アルキル基の炭素数が12〜18であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20であるポリオキシエチレンアルキルエーテル。
【請求項2】
前記(A)成分が、炭素鎖長が8〜18の脂肪酸とメタノールとから得られる脂肪酸メチルエステルおよび植物油脂であることを特徴とする請求項1に記載の乳化燃料。
【請求項3】
前記(C)成分の含有量が0.3〜0.8質量%であり、前記(D)成分の含有量が0.03〜0.8質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の乳化燃料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−184366(P2012−184366A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49626(P2011−49626)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】