説明

乳化用組成物

【課題】多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化及び酸化抑制のための乳化用組成物の提供。
【解決手段】多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化及び酸化抑制のための乳化用組成物であって、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含む乳化用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化及び酸化抑制のための乳化用組成物、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルション、及び、前記乳化用組成物を用いたエマルション又はドライエマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳脂肪球皮膜(MFGM)は、例えば、牛乳において乳脂肪球を被覆している成分であって、食品用、医薬用、化粧品用の乳化剤としてこれまでにいくつかの提案がなされているが(特許文献1及び非特許文献1)、いまだ特筆すべき用途が確立されるに至っていない。例えば、乳化剤として乳脂肪球皮膜を用いて脂溶性薬物を乳化し、得られたエマルション粒子をさらに分画精製することにより乳化安定性が高く脂溶性薬物の吸収改善が可能なエマルションを製造できることが開示されているが(特許文献2)実用化されていないのが現状である。
【0003】
一方、不飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸を含む油脂は、酸化により、その機能を失ったり、食品中に含まれる場合にはその風味や栄養価を損なったりする。そこで、多価不飽和脂肪酸(高度不飽和脂肪酸)又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を含む食品、添加剤、薬剤等の製造においては、それらの不飽和脂肪酸や油脂の酸化を抑制するために抗酸化剤が使用される。食品等に使用される抗酸化剤としては、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、クロロゲン酸(コーヒー豆抽出物)、カテキン(緑茶抽出物)、ローズマリー抽出物などが知られている。しかし安全性という観点からビタミン類や天然抽出物の活用が望まれるが、有力な抗酸化剤として知られるアスコルビン酸およびその誘導体を使用した場合、使用環境に共存しやすい鉄イオンや銅イオンなどによるフェントン反応に伴って逆に酸化を促進してしまうなど、抗酸化の対象物や食品によっては適不適性がある。特に魚油のような多価不飽和脂肪酸を多く含有する素材の酸化防止には技術的課題が残されている。最近、食品タンパク質由来の抗酸化ペプチドの存在が知られる(例えば、非特許文献2、特許文献3及び4)ようになり、その機能特性の研究が進められ活用化が提唱されてきている。また、抗酸化ペプチドはビタミン類や天然抽出物などと同様に、生体に吸収されて抗酸化ストレス解消に働き、各種疾病、発がん、老化を抑制することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3488327号公報
【特許文献2】特開平5−78235号公報
【特許文献3】特開平9−157291号公報
【特許文献4】特開平11−35599号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Choemon Kanno, Symposium Reports on Advance of Dairy Science and Technology in Japan, Japanese Journal of Dairy and Food Science Vol.37, No.6, 1988
【非特許文献2】村本光二、「抗酸化ペプチド」、食品加工技術、pp8−11、Vol.25, No.2 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化抑制できる乳化用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は一態様において、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化及び酸化抑制のための乳化用組成物であって、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含む乳化用組成物に関する。
【0008】
本発明はその他の態様において、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルション組成物であって、前記多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂と、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含むドライエマルション組成物に関する。また、本発明はその他の態様において、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のエマルションの製造方法であって、本発明の乳化用組成物を用いて多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を乳化することを含むエマルションの製造方法に関する。さらに、本発明はその他の態様において、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルションの製造方法であって、請求項1記載の乳化用組成物を用いて多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を乳化すること、及び、前記乳化により得られたエマルションを乾燥することを含むドライエマルションの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳化用組成物によれば、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂に対する酸化抑制効果に優れたエマルションを製造でき、また、乳化安定性及び水分散性に優れたドライエマルションを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、乳脂肪球皮膜、並びに、乳脂肪球皮膜に加えてペプチド及び又はタンパク質を含む乳化用組成物を用いて乳化させた多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のエマルションにおいて、前記脂肪酸又は油脂の酸化抑制効果が向上しているという知見に基づく。また、本発明は、乳脂肪球皮膜を単独で乳化剤として用いた場合には、前記酸化抑制効果は発揮されるが、フェントン反応に関与する鉄イオンや銅イオンなどの金属イオンの存在によって阻害を受けること、乳脂肪球皮膜の単独での使用量を増やせば、これら金属イオンによる阻害を防ぐことができること、並びに、乳脂肪球皮膜に加えてペプチド及び又はタンパク質を含む乳化用組成物であれば、乳脂肪球皮膜の使用量を増やさなくても鉄イオンや銅イオンの存在下において前記酸化抑制効果が発揮されうるという知見に基づく。なお、抗酸化作用が知られるアスコルビン酸は、フェントン反応に関与する鉄イオンや銅イオンの存在下では逆に酸化を促進してしまうことが知られている。さらに、本発明は、乳脂肪球皮膜に加えてペプチド及び又はタンパク質を含む乳化用組成物を用いて乳化させた多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のエマルションは、ドライエマルションとした場合に懸濁時の分散性及び乳化安定性に優れるという知見に基づく。
【0011】
すなわち、本発明は一態様において、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化及び酸化抑制のための乳化用組成物(以下、「本発明の乳化用組成物」ともいう。)であって、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含む乳化用組成物に関する。本発明の乳化用組成物によれば、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化を抑制できるエマルション、好ましくは、鉄イオン及び/又は銅イオンの存在下において多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化を効果的に抑制できるエマルションを製造できる。加えて又はあるいは、本発明の乳化用組成物によれば、懸濁時の分散性及び乳化安定性に優れる多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルションを製造することができる。したがって、本発明の乳化用組成物によれば、より好ましくは、魚肉や海水・水道水などに含まれる鉄イオン及び/又は銅イオンなどによる抗酸化活性へのネガティブな影響を抑制でき、分散性及び乳化安定性に優れるエマルション及び/又はドライエマルションを製造できる。
【0012】
本発明の乳化用組成物が、鉄イオン及び/又は銅イオン存在下における多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化を効果的に抑制できるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、鉄イオンや銅イオンはエマルション粒子の外側(水相)に存在するため、内側の油相に対する酸化に関与するには、乳化成分の吸着層(界面)を介することになる。分子量が大きいMFGM以外の成分の添加により吸着層をより緻密な構造にするとともに、静電的な反発または捕捉によって外側からの鉄イオンの影響を防ぐ効果があると考えられる。但し、本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0013】
本発明はその他の態様において、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルション組成物(以下、「本発明のドライエマルション組成物」ともいう。)であって、前記多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂と、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含む、ドライエマルション組成物に関する。本発明のドライエマルション組成物は、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化を抑制でき、好ましくは、鉄イオン及び/又は銅イオンの影響を排除でき、かつ/あるいは、懸濁時の分散性及び乳化安定性に優れる。
【0014】
本発明のドライエマルション組成物が懸濁時の分散性及び乳化安定性に優れるメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推定される。すなわち、乳脂肪球皮膜とともに使用される動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせが、油相へのMFGMの吸着における構造的安定化に寄与し、さらに、乾燥粉末化した際の粉体物性の維持においても貢献していると推定される。つまり、工業的に製造されるMFGMは、乳汁中におけるネイティブな存在状態で安定的に共役している他の乳由来成分を喪失していると考えられる。本発明の乳化用組成物、エマルション組成物、及びドライエマルション組成物は、喪失したと考えられる該乳由来成分又はその代替物を人為的に付加することにより乳脂肪球皮膜を主要成分とする安定な乳化系が再構成されたため、分散性及び乳化安定性に優れると考えられる。但し、本発明はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
[乳脂肪球皮膜:MFGM]
本明細書において、乳脂肪球皮膜とは、哺乳類の乳の脂肪球皮膜をいい、乳化安定性及び粒径制御性に優れるエマルション並びに粉末形態での流動性及び懸濁時の分散性に優れるドライエマルションを得る観点から、ウシ由来の乳脂肪球皮膜が好ましい。乳脂肪球皮膜は、公知の方法により調製でき(例えば、特許文献1及び非特許文献1)、あるいは、市販されているものを使用できる。乳脂肪球皮膜の調製方法の一例として、乳汁を遠心分離して得られるクリームを水で数回洗浄後、チャーニング工程により脂肪球を物理的に破壊する方法が挙げられる。また、バターの製造工程の副産物として得られるバターミルクから製造されるMFGMは、資源の有効利用の点から好ましい。
【0016】
乳化において使用する乳脂肪球皮膜の量は、乳化安定性及び粒径制御性に優れるエマルション並びに粉末形態での流動性及び懸濁時の分散性に優れるドライエマルションを得る観点から、油相1gに対して、40〜960mgが好ましく、80〜640mgがより好ましく、120〜480mgがさらに好ましい。
【0017】
本明細書において「活性酸素」とは、酸素が化学的に活性になった化学種のことであり、非常に不安定で強い酸化力を示すものをいう。「活性酸素」にはフリーラジカルとそうでないものがあり、スーパーオキシドラジカルや「ヒドロキシラジカル」はフリーラジカルである。本明細書において「ヒドロキシラジカル」とは、最も反応性が高い活性酸素をいう。「ヒトロキシラジカル」は、スーパーオキシドラジカルの二次生産物でもあり、酸化力が強くて脂質、糖質、タンパク質、核酸などの成分と急激に反応し、食品だけでなく生体にも悪影響をもたらす。本明細書において「抗酸化活性」の1つの指標は、「ヒドロキシラジカル」を消去する活性であり、これは、脂質の酸化を抑制する活性を裏付けるものである。ヒドロキシラジカル消去活性は、フェントン反応により過酸化水素から発生した活性酸素をルミノール発光で捉える測定方法を利用することができ、具体的には実施例に記載の方法で評価できる。また本明細書において「抗酸化活性」のもう1つの指標は、多価不飽和脂肪酸及び該脂肪酸を構成成分とする油脂の未酸素基質の測定結果から評価するものであって、具体的には実施例に記載の方法で評価できる。
【0018】
また、本明細書において「鉄イオンの影響」とは、鉄イオンの存在下における多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化の促進及び/又は多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂に対する抗酸化活性の阻害のこという。前記鉄イオンは、鉄(II)イオン(Fe2+)、銅イオン(Cu2+)、並びに、鉄及び銅原子を含む錯イオンを含む。
【0019】
[多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂]
本明細書において、「多価不飽和脂肪酸」とは、高度不飽和脂肪酸のことであって、炭素鎖において二重結合が2つ以上ある脂肪酸をいう。また、本明細書において「該脂肪酸を構成成分とする油脂」とは、少なくとも一種類の多価不飽和脂肪酸を構成成分として含む油脂をいう。本発明の抗酸化組成物は、エマルション/ドライエマルションの製造時に添加されることで、これらの多価不飽和脂肪酸及び油脂の酸化を抑制することができる。多価不飽和脂肪酸としては、n−3系としてα−リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など、n−6系としてリノール酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸などが挙げられる。また、該多価不飽和脂肪酸を構成成分とする油脂としては、n−3系として、しその実油、えごま種子油、食用亜麻仁種子油、まいわし・かたくちいわし・アンチョビー油、まぐろ・かつお・ぶり油、ハープシール油など、n−6系として、サフラワー油・大豆油・コーン油、月見草油・黒スグル油・ボラージ油、あんこう油・さば油などが挙げられる。なお、多価不飽和脂肪酸及び油脂は、単一種類、又は複数種類混合して使用できる。
【0020】
[動物性又は植物性タンパク質]
本発明の乳化用組成物で使用する動物性又は植物性タンパク質は、ドライエマルションにおける油染みを防ぎ、水分散性を向上させる観点から、水溶性であることが好ましい。また、安全性の点からヒトを含む生体に対して害がないか或いは少ないタンパク質であることが好ましい。
【0021】
動物性タンパク質としては、ドライエマルションにおける油染みを防ぎ、水分散性を向上させる観点から、乳ホエイタンパク質、乳カゼイン、魚肉タンパク質が好ましく、乳ホエイタンパク質がより好ましい。これらの動物性タンパク質は、公知の方法で調製でき、或いは、市販のものを使用できる。
【0022】
植物性タンパク質としては、ドライエマルションにおける油染みを防ぎ、水分散性を向上させる観点から、大豆タンパク質、小麦タンパク質、米タンパク質が好ましく、大豆タンパク質がより好ましい。これらの植物性タンパク質は、公知の方法で調製でき、或いは、市販のものを使用できる。
【0023】
[動物性又は植物性ペプチド]
本発明の乳化用組成物で使用する動物性又は植物性ペプチドは、ドライエマルションにおける油染みを防ぎ、水分散性を向上させる観点から、水溶性であることが好ましい。また、安全性の点からヒトを含む生体に対して害がないか或いは少ないペプチドであることが好ましい。
【0024】
動物性ペプチドとしては、ドライエマルションにおける油染みを防ぎ、水分散性を向上させる観点から、乳ペプチド、魚肉ペプチドが好ましく、乳ペプチドがより好ましい。これらの動物性ペプチドは、公知の方法で調製でき、或いは、市販のものを使用できる。
【0025】
植物性ペプチドとしては、ドライエマルションにおける油染みを防ぎ、水分散性を向上させる観点から、大豆ペプチド、小麦ペプチド、米ペプチドが好ましく、大豆ペプチドがより好ましい。これらの植物性ペプチドは、公知の方法で調製でき、或いは、市販のものを使用できる。植物性ペプチドの中でも、麦類(例えば、小麦)、とうもろこし類、及び豆類(例えば、大豆)などの穀物のグルテンを加水分解し、その加水分解物の回収のために行う等電点沈殿の後の水相に含まれるペプチドは、抗酸化活性を発揮する点から、好ましい。
【0026】
[タンパク質とペプチドとの組み合わせ]
本発明の乳化用組成物は、ドライエマルションにおける油染みを防ぎ、水分散性を向上させる観点から、動物性又は植物性タンパク質と動物性又は植物性ペプチドとを組み合わせて含有することが好ましく、具体的には、乳ホエイタンパク質と乳ペプチドの組み合わせ、大豆タンパク質と大豆ペプチドの組み合わせ、乳ホエイタンパク質と小麦ペプチドの組み合わせ、大豆タンパク質と小麦ペプチドの組み合わせなどがより好ましい。
【0027】
動物性又は植物性タンパク質と動物性又は植物性ペプチドとを組み合わせて使用する場合、本発明の乳化用組成物における前記タンパク質の含有量は、乳化安定性及び粒径制御性に優れるエマルション並びに粉末形態での流動性及び懸濁時の分散性に優れるドライエマルションを得る観点から、MFGM1mgに対して、0.25〜1.5mgが好ましい。また、動物性又は植物性タンパク質と動物性又は植物性ペプチドとを組み合わせて使用する場合、本発明の乳化用組成物における前記ペプチドの含有量は、乳化安定性及び粒径制御性に優れるエマルション並びに粉末形態での流動性及び懸濁時の分散性に優れるドライエマルションを得る観点から、MFGM1mgに対して、0.0125〜1.5mgが好ましい。
【0028】
本発明の乳化用組成物は、その他の成分として、さらなる乳化剤成分を含んでもよい。さらなる乳化剤成分としては、乳脂肪球皮膜とともに存在することで多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化の促進や安定化に寄与するものが好ましい。さらなる乳化剤成分としては、例えば、小麦由来の乳化剤が挙げられ、具体的には、商品名グルパールのシリーズ(片山化学工業研究所社製)が好適に使用できる。
【0029】
[乳化用組成物]
本発明の乳化用組成物は、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化及び酸化抑制のための組成物である。本発明の乳化用組成物は、一実施形態として、粉末状の乳脂肪球皮膜と、粉末状の動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とが混合された固体の形態であってもよい。あるいは、本発明の乳化用組成物は、固体の形態の乳脂肪球皮膜と、固体の形態の動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とが別個の容器に収納された形態(例えば、キットの形態)であってもよい。本発明の乳化用組成物は、その他の実施形態として、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とが水相媒体(例えば、水など)に溶解した液体の形態であってもよく、さらに、これを凍結乾燥又は噴霧乾燥した固体の形態であってもよい。
【0030】
[エマルション組成物]
本発明はその他の態様として、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のエマルションの製造方法(以下、「本発明のエマルションの製造方法」ともいう。)であって、本発明の乳化用組成物を用いて多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を乳化することを含む製造方法に関する。本発明のエマルションの製造方法によれば、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化を抑制できるエマルション、好ましくは、鉄イオン存在下における多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の酸化を抑制できるエマルション組成物を製造できる。
【0031】
乳化において使用する本発明の乳化用組成物の量は、抗酸化に優れるエマルション並びに乳化安定性及び分散性に優れるドライエマルションを得る観点から、油相1gに対して、100〜2500mgが好ましく、200〜1500mgがさらに好ましい。
【0032】
また、本発明のエマルションの製造方法における乳化は、特に制限されず、例えばホモジナイザーやソニケーターなどを含む通常の乳化器などの製剤学上通常用いられる方法が使用できる。ホモジナイザーなどの条件(速度、時間、温度等)は、乳化剤の濃度、油相の濃度、pHなどに応じて適宜調整して行うことができる。この乳化により、水中油型のエマルションを得ることができる。乳化を行う際の水相の媒体としては、水性溶媒であって、例えば、水、増粘多糖溶液、シロップ液などが使用できる。
【0033】
よって、本発明はさらにその他の態様として、本発明のエマルションの製造方法によって得られうる又は得られたエマルション組成物に関する。すなわち、本発明はその他の態様において、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のエマルション組成物であって、前記多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂と、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含むエマルション組成物に関する。
【0034】
[ドライエマルション組成物]
本発明のエマルション組成物を乾燥すること(例えば、凍結乾燥すること)により、ドライエマルション組成物を得ることができる。すなわち、本発明はその他の態様として、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルションの製造方法(以下、「本発明のドライエマルションの製造方法」ともいう。)は、本発明の乳化用組成物を用いて多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を乳化すること、及び、前記乳化により得られたエマルションを乾燥することを含む製造方法に関する。
【0035】
よって、本発明はさらにその他の態様として、本発明のドライエマルションの製造方法によって得られうる又は得られたドライエマルション組成物に関する。すなわち、本発明はさらにその他の態様として、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルション組成物であって、前記多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂と、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含むドライエマルション組成物に関する。
【0036】
本発明のドライエマルションは、懸濁したときの分散性及び乳化安定性に優れるという効果を奏しうる。したがって、本発明は、さらにその他の態様において、本発明のドライエマルションを溶媒に懸濁することを含む脂溶性機能性化合物のエマルションの製造方法に関する。前記溶媒としては、水性溶媒であって、例えば、水、増粘多糖溶液、シロップ液などが使用できる。
【0037】
本発明のエマルション組成物及びドライエマルション組成物は、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成又は半合成高分子物質や、アラビアゴム、トラガントゴム、ゼラチンなどの天然高分子物質、粉末乳糖、カゼイン、微結晶セルロース、澱粉、小麦粉、デキストリン、二酸化硅素などの適当な増量剤を加え、噴霧乾燥、混練造粒、凍結乾燥など常法により、錠剤もしくはハードカプセル剤などの製剤の形態をとすることができる。これらの形態の製剤も本発明に含まれうる。
【実施例】
【0038】
[乳化用組成物の製造:実施例1〜3、比較例1]
乳脂肪球皮膜、動物性若しくは植物性タンパク質及び動物性若しくは植物性ペプチドを用いて乳化用組成物を製造した。具体的には、下記表1に示す組成で実施例1〜3、比較例1の乳化用組成物を製造した。
【0039】
【表1】

【0040】
上記表1に示す組成で実施例1の乳化用組成物は以下のように製造した。すなわち、水60重量部に対し、乳脂肪球皮膜(MFGM、よつ葉乳業株式会社製)4重量部、大豆タンパク質(ニューフジプロKM、不二製油(株)製)5.5重量部、大豆ペプチド(ハイニュートS、不二製油(株)製)1.5重量部、及び、小麦グルテン由来ペプチド1.5重量部を溶解し凍結乾燥することによって、実施例1の乳化用組成物とした。なお、小麦グルテン由来ペプチドとして、小麦グルテン加水分解物を回収するために行う等電点沈殿における上清(水相)を凍結乾燥して得られたものを使用した(以下同様)。
【0041】
上記表1に示す組成で実施例2の乳化用組成物は以下のように製造した。すなわち、水60重量部に対し、乳脂肪球皮膜(MFGM、よつ葉乳業株式会社製)4重量部、小麦由来乳化剤(商品名:グルパール9000、片山化学工業研究所製)3重量部、大豆タンパク質(ニューフジプロKM、不二製油(株)製)5.5重量部、乳ホエイタンパク質(ALACEN895 WPI、ニュージーランドデイリーボード社製)3重量部、大豆ペプチド(ハイニュートS、不二製油(株)製)1.5重量部、及び、小麦グルテン由来ペプチド2重量部を溶解し凍結乾燥することによって、実施例2の乳化用組成物とした。
【0042】
上記表1に示す組成で実施例3の乳化用組成物は以下のように製造した。すなわち、水60重量部に対し、乳脂肪球皮膜(MFGM、よつ葉乳業株式会社製)4重量部、大豆タンパク質(ニューフジプロKM、不二製油(株)製)5.5重量部、及び、大豆ペプチド(ハイニュートS、不二製油(株)製)1.5重量部を溶解し凍結乾燥することによって、実施例3の乳化用組成物とした。
【0043】
なお、比較例1の乳化用組成物として、乳脂肪球皮膜(MFGM、よつ葉乳業株式会社製)そのものを用いた。
【0044】
[抗酸化活性の測定]
調製した実施例1〜3、比較例1の乳化用組成物について、ヒドロキシラジカル消去活性を下記の条件で測定し、IC50値を求めた。その結果を上記表1に示す。なお、IC50値とは、一定の活性酸素存在条件下において50%の活性酸素を消滅させるために必要な抗酸化組成物の濃度を示す。したがって、この数値が低いほど抗酸化活性が高いことを示す。なお、参考例1〜6は、材料15gを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.8)35mL中ですり潰して抗酸化作用組成物として調製した。
【0045】
〔ヒドロキシラジカル消去活性測定方法〕
実施例1〜3、比較例1、参考例1〜6の試料を蒸留水に溶解して所定濃度の試料液を調製した。測定に際して、市販の抗酸化能測定キット「ラジカルキャッチ(商品名、アロカ株式会社製)」と生物・化学発光測定装置「AccFLEX Lumi 400(製品名、アロカ株式会社製)」を用いた。上記測定キットの溶液C(過酸化水素溶液)10μLを蒸留水10mLで希釈した。専用の測定試験管に上記測定キットの試薬A(コバルト溶液)及び試薬B(ルミノール溶液)の各50μLと試料液20μLを入れて、測定装置に設置して5分間、37℃でインキュベートした。ついで、溶液Cを希釈して得られた水溶液を50μL加えた後、活性酸素(ヒドロキシラジカル)量に依存して生じる発光量を計測した。試料中に存在する抗酸化成分により活性酸素が消去される量に比例して発光量が減少することを利用して、あらかじめ各濃度に調製した試料液の測定結果をもとに、活性酸素(発光量)を50%消去するために必要な試料濃度を算出して、抗酸化活性(ヒドロキシラジカル消去活性)値IC50値(%)を求めた。
【0046】
上記表1に示すとおり、実施例1〜3の乳化用組成物は比較例1の乳化用組成物に比べて良好な抗酸化活性を示した。
【0047】
[未酸化基質残存試験用魚油エマルションの製造]
実施例1の乳化用組成物を用いて魚油を乳化し、魚油エマルションを製造した。水100gに実施例1の乳化用組成物を0.2g溶解して水相を調製し、該水相に魚油(サケ卵油)1g加えて氷冷しながら超音波処理(6分)を行うことにより乳化し、魚油エマルション(No.1)を製造した。また、水100gに実施例2の乳化用組成物を0.2g溶解して水相を調製し、該水相に魚油(ドコサヘキサエン酸、商品名:DHA70G、北海道ファインケミカル株式会社製)1g加えて高速ホモジナイザー処理(12,000rpm、15分)により乳化し、魚油エマルション(No.2)を製造した(下記表2)。また、水100gに実施例3の乳化用組成物を0.2g溶解して水相を調製し、該水相に魚油(サケ卵油)1g加えて氷冷しながら超音波処理(6分)を行い乳化し、魚油エマルション(No.3)を製造した(下記表2)。さらに、水100gに比較例1の乳化用組成物を0.2g溶解して水相を調製し、該水相に魚油(サケ卵油)1g加えて氷冷しながら超音波処理(6分)を行うことにより乳化し、魚油エマルション(No.4)を製造した(下記表2)。
【0048】
サケ卵油の調製はBligh&Dyerの方法に従った。サケ卵をホモジナイザー用カップに移し、試料100gあたりクロロホルム100ml、メタノール200mlの順序で溶媒を加え、10,000rpmで1分間ホモジナイズした。10分間放置後、クロロホルム100mlを加え、10,000rpmで1分間ホモジナイズした。ついで、水100mlを加え、2,000rpmで30秒攪拌してから、ブフナロートにより吸引濾過した。残渣は再びホモジナイズカップへ戻してクロロホルム100mlを加え、10,000rpmで2分間ホモジナイズし、再びろ過し、先ほどの濾液と合わせた。濾液を分液漏斗へ移し、よく振盪してから二層に分かれるまで一晩静置した。下層のクロロホルム層をナスフラスコにとり、ロータリーエバポレーターで濃縮した。窒素で十分に溶媒を除去後、サケ卵油を得た。
【0049】
調製した3種類の魚油エマルション(No.2、3、及び、4)について、鉄イオン存在下における魚油の酸化抑制効果を、下記条件で未酸化基質を測定することにより確認した。反応開始から96時間後、及び168時間後の未酸化基質の残存量(%)を下記表2に示す。
【0050】
〔未酸素基質の測定方法〕
エマルション液を3mLずつ分析用バイアル瓶に分注し、ブチルセプタゴム及びアルミシールで栓をしてマグネットスティアラー上で連続撹拌しながら、暗所にて37℃でインキュベーションした。経時的にバイアル瓶中のエマルション溶液を取り出し、50mL容分液漏斗に移した後、30mLのクロロホルム/エタノール(2:1v/v)でバイアル瓶を洗うようにして該分液漏斗に移して振とうした。その後、静置して水層とクロロホルム層とに分離させ、クロロホルム層を100mL容ナス型フラスコに分取した。さらに残った水層へ30mLのクロロホルム/エタノール(2:1v/v)を加えて抽出し、先の抽出液が入ったナス型フラスコに加えた。この操作をさらにもう一度繰り返した。分取したクロロホルム層をロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮物にエタノールを10mL加え、再びロータリーエバポレーターで濃縮した後、窒素ガス下で溶媒を除去することにより脂質を回収した。得られた脂質をメチルエステル化し、脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーによって分析した。酸化に伴う不飽和度脂肪酸の減少を魚油のピーク面積比の減少に基づき産出した。
【0051】
【表2】

【0052】
上記表2が示すとおり、エマルションNo.2及び3、特にNo.2は鉄イオンの存在下においても、魚油の酸化抑制に優れていた。
【0053】
[魚油ドライエマルションの製造]
実施例1〜3及び比較例1の乳化用組成物4重量部を水16重量部に分散し、市販精製魚油(DHA-70G:北海道ファインケミカル株式会社製)1重量部を加えて高速ホモジナイザー処理(12,000rpm,15分間)により乳化し、凍結乾燥することにより、ドライエマルション(No.1〜4)を製造した。
【0054】
得られたドライエマルションNo.1〜4を水に再懸濁し、分散性を確認した。その結果を下記表3に示す。なお、分散後のメジアン径は以下のように測定した。
【0055】
〔メジアン径の測定方法〕
ドライエマルション1gを蒸留水50ml中にマグネチックスターラー上で10分間分散させた液を試料液とした。各試料液の数滴をレーザー回折式粒子径分布測定装置LA−950(株式会社堀場製作所製)を用いて、あらかじめ蒸留水を満たしたフローセル式循環試料槽中へ添加して、所定の濁度に達した時点で粒子径分布を測定し、メジアン径を測定した。
【0056】
【表3】

【0057】
上記表3に示すとおり、ドライエマルションNo.1〜3は再懸濁後に優れた分散性と乳化安定性を示し、オイルオフもほぼ抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えば、多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を含有する医薬、栄養補助剤、飲料等の分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂の乳化及び酸化抑制のための乳化用組成物であって、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含む、乳化用組成物。
【請求項2】
多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルション組成物であって、前記多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂と、乳脂肪球皮膜と、動物性若しくは植物性タンパク質、動物性若しくは植物性ペプチド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される物質とを含む、ドライエマルション組成物。
【請求項3】
多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のエマルションの製造方法であって、請求項1記載の乳化用組成物を用いて多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を乳化することを含む、エマルションの製造方法。
【請求項4】
多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂のドライエマルションの製造方法であって、請求項1記載の乳化用組成物を用いて多価不飽和脂肪酸又は該脂肪酸を構成成分とする油脂を乳化すること、及び、前記乳化により得られたエマルションを乾燥することを含む、ドライエマルションの製造方法。

【公開番号】特開2012−20948(P2012−20948A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158740(P2010−158740)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「民間実用化研究促進事業/乳製品副産物からの次世代型機能性素材の分画生産技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【出願人】(591181894)よつ葉乳業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】