説明

乳癌に関連する遺伝子およびポリペプチド

癌、特にGALNT6遺伝子の過剰発現に関連した癌の治療および予防に適している物質を同定する方法を、本明細書に開示する。本発明の方法は、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合、およびGALNT6タンパク質によるMUC1タンパク質のグリコシル化を、癌、特に乳癌の指標として用いるか、またはそれを標的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療および/または予防に適している物質をスクリーニングする方法に関する。特に、本発明は、GALNT6とMUC1との間の相互作用を、癌の指標として用いるか、またはそれを標的とする方法に関する。
【0002】
優先権
本出願は、2009年8月25日に提出された米国仮出願第61/275,197号の恩典を主張し、その内容はすべて参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
乳癌は全世界的に女性で最も一般的な癌であり、毎年100万人を超える女性が乳癌と診断されている(非特許文献1)。マンモグラフィーによる早期発見、ならびにタモキシフェン、アロマターゼ阻害剤、およびトラスツズマブ(ハーセプチン)などの分子標的薬の開発は、患者、特にエストロゲン受容体(ER)またはヒト上皮増殖因子受容体−2(HER2)を発現する乳房腫瘍を有する者に対して、死亡率の減少をもたらし、より優れた生活の質を与えている。しかし、患者のかなりの割合は、これらの治療による臨床的利益を得ていない。さらに、タモキシフェンの長期投与は子宮内膜癌のリスクを増大させることが示されており、トラスツズマブ治療は心臓毒性と関連づけられている(非特許文献2)。このため、より高い有効性を有し、有害反応のリスクが少ない、乳癌に対する新規分子標的薬の開発が、臨床管理を向上させるためには本質的に重要である。
【0004】
その目的に向けて、81例の乳癌および29例の正常ヒト臓器についてのゲノムワイド遺伝子発現プロファイルを、cDNAマイクロアレイを用いて分析し、乳癌治療法のためのいくつかの新規標的候補を報告した(非特許文献3〜9)。そのうち特に1つは、UDP−N−アセチル−α−D−ガラクトサミン:ポリペプチドN−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ−6(GALNT6)であり、これは乳癌症例の大多数で上方制御されていた(特許文献1)。
【0005】
ムチン型O−グリコシル化は、N−アセチル−α−D−ガラクトサミン(GalNAc)を標的タンパク質上のセリン残基またはトレオニン残基に転移させる、GALNTファミリーのメンバーによって惹起される(非特許文献10)。この修飾はゴルジ複合体で起こり、おそらくはGALNTタンパク質の発現および分布によって制御される(非特許文献11)。興味深いことに、乳癌細胞では、糖タンパク質と共有結合しているグリカン鎖の構造が変化していた。例えば、O−グリカンは乳癌細胞ではしばしば切断型であり(コア1ベースタイプ)、一方、正常乳房細胞では鎖が伸長していた(コア2ベースタイプ)(非特許文献12)。I型膜貫通タンパク質であるムチン−1(MUC1)は、EGFR(上皮増殖因子受容体)、ER−α(エストロゲン受容体α)、およびβ−カテニンとの相互作用を通じて、乳癌発生に寄与することが知られている(非特許文献13)。これらの異常なO型グリコシル化は、MUC1のタンパク質安定性および細胞内分布を制御することが示唆されている(非特許文献14)。しかし、乳癌細胞におけるタンパク質のそのような異常なO−グリコシル化の機序はほとんど明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2007/013670
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Parkin, D. M., Bray, F., Ferlay, J. & Pisani, P. Global cancer statistics, 2002. CA Cancer J. Clin. 55, 74-108 (2005)
【非特許文献2】Moulder, S. & Hortobagyi, G. N. Advances in the treatment of breast cancer. Clin. Pharmacol. Ther. 83, 26-36 (2008)
【非特許文献3】Nishidate, T. et al. Genome-wide gene-expression profiles of breast-cancer cells purified with laser microbeam microdissection: identification of genes associated with progression and metastasis. Int. J. Oncol. 25, 797-819 (2004)
【非特許文献4】Saito-Hisaminato, A. et al. Genome-wide profiling of gene expression in 29 normal human tissues with a cDNA microarray. DNA Res. 9, 35-45 (2002)
【非特許文献5】Park, J. H., Lin, M. L., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, T. PDZ-binding kinase/T-LAK cell-originated protein kinase, a putative cancer/testis antigen with an oncogenic activity in breast cancer. Cancer Res. 66, 9186-9195 (2006)
【非特許文献6】Lin, M. L., Park, J. H., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, T. Involvement of maternal embryonic leucine zipper kinase (MELK) in mammary carcinogenesis through interaction with Bcl-G, a pro-apoptotic member of the Bcl-2 family. Breast Cancer Res. 9, R17 (2007)
【非特許文献7】Shimo, A. et al. Elevated expression of protein regulator of cytokinesis 1, involved in the growth of breast cancer cells. Cancer Sci. 98, 174-181 (2007)
【非特許文献8】Shimo, A. et al. Involvement of KIF2C/MCAK overexpression in mammary carcinogenesis. Cancer Sci. 99, 62-70 (2008)
【非特許文献9】Ueki, T. et al. Involvement of elevated expression of multiple cell-cycle regulator, DTL/RAMP (denticleless /RA-regulated nuclear matrix associated protein), in the growth of breast cancer cells. Oncogene 27, 5672-5683 (2008)
【非特許文献10】Hagen, K. G. T., Fritz, T. A. & Tabak, L. A. All in the family: the UDP-GalNAc:polypeptide N-acetylgalactosaminyltransferases. Glycobiology 13, 1R-16R (2003)
【非特許文献11】Brooks, S. A., Carter, T. M., Bennett, E. P., Clausen, H. & Mandel, U. Immunolocalisation of members of the polypeptide N-acetylgalactosaminyl transferase (ppGalNAc-T) family is consistent with biologically relevant altered cell surface glycosylation in breast cancer. Acta Histochem. 109, 273-284 (2007)
【非特許文献12】Burchell, J. M., Mungul, A. & Taylor-Papadimitriou, J. O-linked glycosylation in the mammary gland: changes that occur during malignancy. J. Mammary Gland Biol. Neoplasia 6, 355-364 (2001)
【非特許文献13】Carraway, K. L. 3rd, Funes, M., Workman, H. C. & Sweeney, C. Contribution of membrane mucins to tumor progression through modulation of cellular growth signaling pathways. Curr. Top. Dev. Biol. 78, 1-22 (2007)
【非特許文献14】Altschuler, Y. et al. Clathrin-mediated endocytosis of MUC1 is modulated by its glycosylation state. Mol. Biol. Cell 11, 819-831 (2000)
【発明の概要】
【0008】
技術的課題
より高い有効性を有し、有害反応のリスクが低い、乳癌に対する新規分子標的薬の開発が、臨床管理を向上させるために望まれている。
【0009】
課題の解決
乳癌細胞では、糖タンパク質と共有結合しているグリカン鎖の構造が変化していることが報告されている。しかし、乳癌細胞におけるタンパク質のそのような異常なO−グリコシル化の機序はほとんど明らかになっていない。
【0010】
本発明は、乳癌の大多数で上方制御されており、かつ乳癌発生においてムチン型O−グリコシル化を惹起させる原因となるグリコシルトランスフェラーゼをコードする、新規薬物標的GALNT6の発見に基づく。より詳細には、本発明は、腫瘍においていずれも通常上方制御されている癌関連遺伝子であるGALNT6とMUC1との間の相互作用、ならびにGALNT6およびMUC1を用いる癌治療のための分子標的薬の開発のための戦略に関する。
【0011】
本明細書において実証されているように、ウエスタンブロット分析および免疫細胞化学分析により、野生型GALNT6タンパク質はMUC1癌タンパク質をグリコシル化して安定化させうることが示された。免疫組織化学染色分析により、乳癌標本においてGALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質が共に上方制御されていることがさらに確認された。そして、GALNT6またはMUC1のノックダウンは、細胞接着分子であるβ−カテニンおよびE−カドヘリンの増加を伴う、癌細胞の類似した形態変化(丸い形状およびサイズ拡大)を導いた。
【0012】
したがって、GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の相互作用を指標として用いるかまたはそれを標的とする、GALNT6を発現する癌、例えば乳癌などの治療および/または予防に用いるのに適している物質を、スクリーニングするための方法を提供することは、本発明の1つの目的である。
【0013】
GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合を指標として用いるかまたはそれを標的とする、GALNT6を発現する癌、例えば乳癌などの治療および/または予防に用いるのに適している物質を、スクリーニングする方法を提供することは、本発明のさらなる目的である。
【0014】
GALNT6を発現する癌、例えば乳癌などの治療および/または予防に用いるのに適している物質をスクリーニングする方法であって、被験物質を、GALNT6ポリペプチドまたはGALNT6ポリペプチドを発現する細胞と接触させる段階、およびMUC1ポリペプチドのグリコシル化レベルを抑制する被験物質を選択する段階を含む方法を提供することは、本発明のさらに別の目的である。
【0015】
GALNT6を発現する癌、例えば乳癌などの治療および/または予防に用いるのに適している物質をスクリーニングする方法であって、GALNT6ポリペプチドとMUCポリペプチドとを被験物質中で接触させる段階、およびMUC1ポリペプチドのグリコシル化レベルを低下させる被験物質を選択する段階を含む方法を提供することは、本発明のさらに別の目的である。
【0016】
いくつかの態様において、上記のスクリーニング方法に用いられるGALNT6ポリペプチドは、SEQ ID NO:29のヒスチジン271残基(H271)および/またはグルタミン酸382残基(E382)を含む。別の態様において、上記のスクリーニング方法に用いられるMUC1ポリペプチドは、1個もしくは複数個のセリン残基および/またはトレオニン残基を含む、MUC1タンパク質の可変数タンデム反復(variable number tandem repeat)(VNTR)ドメインに由来するペプチド断片、例えばMUC1−a(AHGVTSAPDTR)またはMUC1−b(RPAPGSTAPPA)などを含みうる。
【0017】
発明の有利な効果
本発明は、癌の治療および/または予防に適している物質を同定する新たな方法を提供する。本発明の方法によって同定された物質は、乳癌に対する治療手法の開発において価値のある標的として役立ちうる。
【0018】
本発明の1つまたは複数の局面が、ある目的を達成することができ、一方、他の1つまたは複数の局面が、他のある目的を達成しうることは、当業者には理解されるであろう。各目的は、そのすべての点において、本発明のあらゆる局面に等しく該当するわけではない。そのため、前述の目的は、本発明のいずれか1つの局面に関して択一的に捉えることができる。本発明の上記のおよび他の目的および特徴は、以下の詳細な説明を、添付の図および実施例と併せて読むことで、さらに十分に明らかになるであろう。しかし、本発明の前記の概要および以下の詳細な説明はいずれも好ましい態様のものであり、本発明も、本発明のその他の代替的な態様も限定しないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図の簡単な説明、ならびにその後に続く本発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、本発明のさまざまな局面および用途が当業者には明らかになるであろう。
【図1】乳癌におけるGALNT6の上方制御を示す。パートa〜fは、乳癌(a)、正常乳房(b)、肺(c)、心臓(d)、肝臓(e)、および腎臓(f)の組織切片の免疫組織化学染色の結果を示す。代表的な図は、元の倍率、左:100倍および右:200倍での顕微鏡観察によるものであった。パートgは、T47D細胞における内因性GALNT6タンパク質の細胞内局在を示す。内因性GALNT6タンパク質は、ゴルジ複合体のマーカーであるGolgi−58kとともに局在している。核と識別するためにDAPIによる共染色を行った。パートhは、乳癌組織切片における内因性GALNT6タンパク質の細胞内局在を示す。矢印はゴルジ装置を示す。パートiは、12例の乳癌標本由来のマイクロダイセクションを行った腫瘍細胞(上のパネル)、ならびに19種の乳癌細胞株、正常上皮細胞株(HBL−100)、および正常ヒト臓器(腺管細胞;正常乳管細胞、M.G.;乳腺)(下のパネル)における、GALNT6の半定量的RT−PCRの結果を示す。GAPDHの発現を量的対照として使用した。パートjは、乳癌細胞株のノーザンブロット分析の結果を示す。GALNT6 cDNAの放射性同位体標識プローブにより、およそ5kbの転写物が検出され、このことは乳癌細胞株においてGALNT6の発現が上方制御されていることを示す。
【図2】T47D乳癌細胞におけるGALNT6のノックダウンを示す。パートaでは、shRNAによるGALNT6発現のノックダウン効果が、トランスフェクションから10日後に半定量的RT−PCR分析によって確認された(上のパネル)。GAPDHは量的対照である。MTTアッセイを、モックを1.0とする標準化の後にグラフ化した。星印はP<0.05を示す(中央のパネル)。コロニー形成アッセイを、3週間の選択的インキュベーション後に実施した(下のパネル)。パートb〜dは、siRNAによるGALNT6のノックダウンを示す。パートbは、ウエスタンブロット(左のパネル)および顕微鏡観察(右のパネル)のそれぞれによってモニターした、トランスフェクションから4日後のGALNT6のノックダウンおよび対応する細胞形態を示す。パートc〜dでは、細胞形状のそれぞれを、si−EGFP(c)およびsi−GALNT6(d)によるトランスフェクションから4日後に、蛍光標識ファロイジンによる免疫染色によってさらに調べた。核と識別するためにDAPIによる共染色を行った。
【図3】抗GALNT6抗体の特異性を確認している。パートa〜cでは、抗GALNT6ポリクローナル抗体(a)、またはクローン#4H11(b)および#3G7(c)の抗GALNT6モノクローナル抗体を用いて、ウエスタンブロット分析および免疫細胞化学染色を実施した。矢印はゴルジ装置を示す。
【図4】GALNT6がMUC1安定化のために重要であることを確認している。パートaでは、T47D細胞にsi−EGFPまたはsi−GALNT6をトランスフェクトして、1日目、2日目、および4日目に収集し、その後にウエスタンブロット(上のパネル)および半定量的RT−PCR(下のパネル)を行った。パートbは、si−GALNT6(下のパネル)またはsi−EGFP(上のパネル)によるトランスフェクションから4日後の、抗GALNT6ポリクローナル抗体および抗MUC1モノクローナル抗体によるT47D細胞の共染色の結果を示す。パートcは、GALNT6構築物(pCAGGS−GALNT6−HA)によるトランスフェクションから2日後の、抗HAラットモノクローナル抗体および抗MUC1モノクローナル抗体によるMCF10A細胞の共染色の結果を示す。矢印は、GALNT6を発現するMCF10A細胞を示す。パートdは、乳癌細胞株においてGALNT6およびMUC1が共に過剰発現されることを確認するウエスタンブロット分析の結果を示す。星印は、ヒト正常乳房上皮細胞株であるHMECを示す。
【図5】乳癌細胞株におけるGALNT6およびMUC1のノックダウンを示す。パートaは、si−GALNT6、si−MUC1、およびsi−EGFP(対照)のそれぞれによるトランスフェクションから4日後のT47D細胞(左のパネル)、MCF7細胞(中央のパネル)、SKBR3細胞(右のパネル)のウエスタンブロットの結果を示す。β−アクチンの発現をタンパク質レベルの量的対照として使用した。パートbおよびcは、GALNT6およびMUC1のノックダウン後の乳癌細胞(T47D、MCF7、およびSKBR3)の顕微鏡観察および細胞増殖アッセイの結果を提示する。si−GALNT6、si−MUC1、およびsi−EGFP(対照)のそれぞれによるトランスフェクションから4日後に、細胞の形態および生存度をそれぞれ位相差顕微鏡(b)およびMTTアッセイ(c)によって調べた。細胞生存度を評価するためにMTTアッセイを行い、モックを1.0とする標準化の後にグラフ化した。星印は、独立t検定におけるp値が<0.001()およびp<0.0001(**)である統計的有意性を示す。
【図6−1】GALNT6がMUC1タンパク質をO−グリコシル化することを確認している。パートaは、WT−GALNT6組換えタンパク質によるMUC−1aペプチド(上)およびMUC1−bペプチド(下)のインビトロO−グリコシル化を示す。パートbは、WT−GALNT6、H271D、またはE382Q組換えタンパク質による16時間の反応後のMUC−1aペプチド(左)およびMUC1−bペプチド(右)のインビトロO−グリコシル化を示す。パートcは、bに示された酵素反応産物が、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(アクレモニウム種(Acremonium sp.))により、37℃、20時間で消化されたことを示す。消化された試料を逆相HPLCによって分離した。星印は、HPLCにおける混入材料を示す(a〜c)。パートdは、GALNT6を安定して発現するHeLa細胞のウエスタンブロット分析の結果を示す。パートeおよびfは、MUC1のO−グリコシル化を確認している。モック(#003)、WT(#110)、およびH271D(#114)の代表的なクローンを、抗MUC1モノクローナル抗体を用いる免疫沈降(e)、またはビオチン結合VVAレクチンおよびストレプトアビジン−アガロースを用いるプルダウンアッセイ(f)に用いた。その後に、抗MUC1モノクローナル抗体およびVVA−レクチンを用いて沈降物のイムノブロッティングを行った。
【図6−2】GALNT6がMUC1タンパク質をO−グリコシル化することを確認している。パートgは、MCF10A細胞におけるGALNT6の外因性発現を示す。WT−GALNT6およびH271Dプラスミドによるトランスフェクションから2日後に、細胞を抗HAラットモノクローナル抗体および抗MUC1モノクローナル抗体によって共染色した。
【図7】乳癌細胞におけるGALNT6によるMUC1タンパク質の安定化を示す。パートaは、si−GALNT6、si−MUC1、およびsi−EGFP(対照)のそれぞれによるトランスフェクションから4日後の、T47D細胞(左のパネル)およびMCF7細胞(右のパネル)のウエスタンブロット分析および半定量的RT−PCR分析の結果を示す。ACTBおよびβ−アクチンの発現を、それぞれ転写レベルおよびタンパク質レベルの量的対照として使用した。パートbは、si−GALNT6でノックダウンした乳癌細胞(T47DおよびMCF7)の免疫細胞化学染色の結果を示す。矢印は、GALNT6発現細胞およびGALNT6枯渇細胞を示す。
【図8】GALNT6およびMUC1が細胞骨格制御に関与することを確認している。パートaは、si−GALNT6またはsi−MUC1をトランスフェクトした細胞における、β−カテニン(CTNNB1)およびE−カドヘリン(CDH1)に関するウエスタンブロット分析(1番目から5番目までのパネル)および半定量的RT−PCR分析(6番目から10番目までのパネル)の結果を示す。β−アクチンおよびACTBはそれぞれタンパク質レベルおよび転写レベルでの量的対照である。パートbおよびcは、si−EGFPまたはsi−GALNT6をトランスフェクトしたT47D細胞における、抗GALNT6ポリクローナル抗体、β−カテニン(b)またはE−カドヘリン(c)に対するモノクローナル抗体を用いた、β−カテニンおよびE−カドヘリンの免疫細胞化学染色の結果を示す。パートdは、乳癌発生におけるGALNT6−MUC1経路の概略図を示す。GALNT6の過剰発現はMUC1の異常なグリコシル化および安定化の原因になると考えられ、いくつかのシグナル伝達物質との相互作用の増大を誘導し、それにより、乳癌細胞の増殖および抗細胞接着(anti−cell adhesion)をもたらす。
【図9】抗GALNT6モノクローナル抗体および抗MUC1モノクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色の結果を示す。抗GALNT6(#3G7)および抗MUC1(#VU4H5)モノクローナル抗体を用いた免疫染色後の、乳房の正常組織切片および癌組織切片の対の代表的な図(#185、#186、および#187)を提示する(顕微鏡観察;100倍)。GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質はいずれも乳癌細胞で特異的に発現され、正常な腺管細胞では発現されなかった。
【図10】MUC1のノックダウンが細胞接着複合体を強化することを実証している。si−EGFP(左のパネル)またはsi−MUC1(右のパネル)によるトランスフェクションから4日後に、T47D細胞をMUC1、β−カテニン、およびE−カドヘリンに対するマウスモノクローナル抗体により個別に免疫染色した。
【図11】MUC1が培養皿に対する細胞の付着を阻害することを確認している。T47D細胞へのsiRNA(si−EGFP、si−GALNT6、およびsi−MUC1)によるトランスフェクションから4日後に、細胞−対−培養皿の付着の強さを細胞剥離アッセイによって定量した。パートaは、各siRNAによるトランスフェクション後に位相差顕微鏡によってモニターした細胞形態を示す。パートbは、GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質のノックダウンを評価するためのウエスタンブロット分析を示す。パートcでは、MTTアッセイによって三連で、プレート培養皿上の細胞数を相対的に算定したものを示す。1回目および2回目のMTTアッセイの間に、剥離した細胞をすべて除去するために細胞をPBS(−)中5mMのEDTAで10分間インキュベートし、新たな培地中でさらに12時間インキュベートした。パートdは、付着細胞のパーセンテージを算定してグラフ化したものを示す(、p<0.05;**、p<0.01、独立t検定における)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
態様の説明
本発明の態様を実施または試験するにあたって、本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは同等な任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をここに記載する。しかし、本材料および方法について記載する前に、本明細書に記載の特定のサイズ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣行的な実験法および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載に使用する専門用語は特定の型または態様のみを説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、同様に理解されるべきである。
【0021】
本明細書において言及される各出版物、特許、または特許出願の開示は、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。しかし、本明細書中のいかなるものも、本発明が先の発明によるそのような開示に先行する権利を与えられないことを承認するものとしては解釈されるべきではない。
【0022】
矛盾が生じた場合には、定義を含め、本明細書が優先される。加えて、材料、方法、および例は単に例示であり、限定することを意図しない。
【0023】
I.定義
本明細書で用いる場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、別に明示する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0024】
「単離された」および「精製された」という用語は、ある物質(例えば、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、その他)に関連して本明細書で用いられる場合、その物質が、そうでなければその天然源中に含まれうる少なくとも1つの物質を実質的に含まないことを示す。したがって、単離または精製された抗体とは、そのタンパク質(抗体)の由来である細胞もしくは組織源に由来する糖質、脂質もしくは他の混入タンパク質などの細胞物質を実質的に含まないか、または化学合成される場合に前駆化学物質もしくは他の化学物質を実質的に含まない、抗体を指す。「細胞物質を実質的に含まない」という用語には、ポリペプチドが単離されるか組換えにより産生される細胞の細胞成分から前記ポリペプチドが分離されている、ポリペプチドの調製物が含まれる。このため、細胞物質を実質的に含まないポリペプチドには、異種タンパク質(本明細書では「混入タンパク質」とも称する)を(乾燥重量比で)約30%、20%、10%、または5%未満有するポリペプチドの調製物が含まれる。ポリペプチドが組換えによって産生される場合には、それは培地も実質的に含まないことが好ましく、これには培地がタンパク質調製物の体積の約20%、10%、または5%未満であるポリペプチドの調製物が含まれる。ポリペプチドが化学合成によって産生される場合には、それは前駆化学物質もその他の化学物質も実質的に含まないことが好ましく、これにはタンパク質の合成にかかわる前駆化学物質またはその他の化学物質がタンパク質調製物の体積の(乾燥重量比で)約30%、20%、10%、5%未満であるポリペプチドの調製物が含まれる。特定のタンパク質調製物が単離または精製されたポリペプチドを含むことは、例えば、タンパク質調製物のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびゲルのクーマシーブリリアントブルー染色などの後に単一バンドが出現することによって示すことができる。好ましい態様において、本発明の抗体は単離または精製されている。
【0025】
「単離された」または「精製された」核酸分子、例えばcDNA分子などは、組換え技術によって作製された場合には他の細胞物質もしくは培地を実質的に含まないこと、または化学合成された場合には前駆化学物質もしくは他の化学物質を実質的に含まないことが可能である。好ましい態様において、本発明の抗体をコードする核酸分子は単離または精製されている。
【0026】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基の重合体を指すために本明細書において互換的に用いられる。これらの用語は、天然のアミノ酸重合体のほかに、1個または複数個のアミノ酸残基が修飾残基または非天然の残基、例えば、対応する天然のアミノ酸の人工的な化学的模倣物であるようなアミノ酸重合体にも適用される。
【0027】
「アミノ酸」という用語は、天然のアミノ酸および合成アミノ酸のほか、天然のアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物のことも指す。天然のアミノ酸には、遺伝暗号によってコードされるもののほか、細胞内での翻訳後に修飾されたもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸およびO−ホスホセリン)がある。「アミノ酸類似体」という語句は、天然のアミノ酸と同じ基本的化学構造(水素、カルボキシル基、アミノ基およびR基と結合したα炭素)を有するが、修飾されたR基または修飾された骨格を有する物質を指す(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)。「アミノ酸模倣物」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、同様の機能を有する化学物質を指す。
【0028】
本明細書において、アミノ酸は、IUPAC−IUBの生化学物質命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)によって推奨されている一般的に知られた三文字表記または一文字表記によって表すことができる。
【0029】
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、別に明示しない限り互換的に用いられ、アミノ酸と同様に、一般的に受け入れられている一文字表記によって表す。アミノ酸と同様に、それらは天然の核酸重合体および非天然の核酸重合体の両方を包含する。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、または核酸分子は、DNA、RNA、またはそれらの組み合わせで構成されうる。
【0030】
別に定める場合を除き、「癌」という用語は、GALNT6遺伝子を過剰発現する癌を指す。GALNT6を過剰発現する癌の例には、乳癌が含まれるが、これに限定されない。
【0031】
本発明に関して、GALNT6とMUC1との間の結合および/またはグリコシル化活性を抑制するかまたは阻害する物質は、癌の治療および/または予防において有用でありうる。結合またはグリコシル化のレベルは、該当するレベルが対照レベル(例えば、被験物質の非存在下で検出されるレベル)よりも、例えば10%、25%、もしくは50%低下していれば;または1.1分の1超に、1.5分の1超に、2.0分の1超に、5.0分の1超に、10.0分の1超に、もしくはそれよりも低下していれば、「抑制された」または「阻害された」と見なされる。
【0032】
本発明は、癌の治療および/または予防との関連において有用である。本発明に関して、治療は、その治療が、GALNT6遺伝子の発現の低下、または対象における癌のサイズ、有病率、もしくは転移能の減少などの臨床的利益をもたらす場合に、「有効である」と見なされる。治療を予防的に適用する場合、「有効な」とは、治療によって、癌の形成が遅延されるもしくは防止されるか、または癌の臨床症状が防止されるもしくは緩和されることを意味する。有効性は、特定の腫瘍型を診断または治療するための任意の公知の方法と関連して決定される。
【0033】
本発明の方法が「予防(prevention)」および「予防(prophylaxis)」に関して有用である限り、「予防(prevention)」および「予防(prophylaxis)」という用語は本明細書において互換的に用いられ、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の行為を指す。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベルで」行われうる。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防(preventionおよびprophylaxis)することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした行為を包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を軽減すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含みうる。
【0034】
癌の治療および/もしくは予防、ならびに/または術後のその再発の予防は、以下の段階、例えば癌細胞の外科的除去、癌性細胞の増殖の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導および癌の発生の抑制、腫瘍の退縮、ならびに転移の低減または阻害などの段階のいずれかを含む。癌の効果的な治療および/または予防は、死亡率を減少させ、癌を有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつ癌に伴う検出可能な症状を軽減する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療を構成し、および/または予防は10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減または安定した疾患を含む。
【0035】
II.GALNT6およびMUC1‐遺伝子およびタンパク質
本発明において関心の対象となる遺伝子の例示的な核酸配列およびポリペプチド配列は、以下の番号によって示される:
GALNT6:SEQ ID NO:28および29;
MUC1:SEQ ID NO:30および31。
【0036】
しかし、当業者は、遺伝子配列およびタンパク質配列がこれらの配列に限定される必要はなく、以下に説明するように、バリアント(例えば、機能的等価物およびアレルバリアント)を本発明に用いることができると認識するであろう。さらなる配列データは、以下のGenBankアクセッション番号から入手可能である:
GALNT6:NM_007210;ならびに
MUC1:NM_002456、NM_001018016、NM_001018017、NM_001044390、NM_001044391、NM_001044392、およびさらにNM_001044393。
【0037】
GALNT6ポリペプチドの上記のアミノ酸配列はシグナルペプチド配列(例えば、SEQ ID NO:29の1〜34)を含み、成熟GALNT6ポリペプチドはシグナルペプチドを有しない。したがって、いくつかの態様において、「GALNT6ポリペプチド」とは、シグナルペプチドをもたない成熟GALNT6ポリペプチド(例えば、SEQ ID NO:29の35〜622)を指す。GALNT6ポリペプチドは、基質のグリコシル化に関与するpp−GalNAc−トランスフェラーゼモチーフ(例えば、SEQ ID NO:29の180〜485)を含む。好ましい態様において、後述するGALNT6ポリペプチドの機能的等価物は、GALNT6ポリペプチドのpp−GalNAc−トランスフェラーゼモチーフを含む。
【0038】
MUC1成熟ポリペプチドは20アミノ酸の可変数タンデム反復(VNTR)ドメインを含み、反復回数は個体によって20〜120までさまざまである。VNTRドメインを有するMUC1ポリペプチドのアミノ酸配列の例は、SEQ ID NO:32に示されている。例えば、MUC1ポリペプチドがSEQ ID NO:32のアミノ酸配列を有する場合、VNTRドメインはSEQ ID NO:32のおよそ126〜965の領域に位置する。一般に、VNTRドメイン内のセリン残基および/またはトレオニン残基は、MUC1ポリペプチドではグリコシル化されている。したがって、1個または複数個のセリン残基および/またはトレオニン残基を含む、MUC1ポリペプチドのVNTRドメインに由来するペプチド断片は、好ましくは、後述するMUC1ポリペプチドの機能的等価物として用いられる。MUC1ポリペプチドのVNTRドメインに由来する任意のペプチド断片は、グリコシル化されうる少なくとも1つのセリン残基またはトレオニン残基を含む限り、MUC1ポリペプチドの機能的等価物として用いることができる。好ましくは、そのようなペプチド断片は10個またはそれ以上のアミノ酸を有しうる。
【0039】
本発明の局面によれば、GALNT6およびMUC1の機能的等価物も本発明の「ポリペプチド」であると考えられる。本明細書において、タンパク質の「機能的等価物」とは、そのタンパク質と等価な生物学的活性を有するポリペプチドのことである。すなわち、元のペプチドの生物学的活性を保持している任意のポリペプチドを、本発明におけるそのような機能的等価物として用いることができる。そのような機能的等価物には、タンパク質の天然のアミノ酸配列に、1個または複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたものが含まれる。あるいは、ポリペプチドが、GALNT6タンパク質またはMUC1タンパク質の配列(例えば、SEQ ID NO:29、31、または32)に対して少なくとも約80%の相同性(配列同一性とも称する)、より好ましくは少なくとも約90%〜95%の相同性、さらにより好ましくは96%、97%、98%、または99%の相同性を有するアミノ酸配列で構成されてもよい。他の態様において、ポリペプチドは、ストリンジェントな条件下で遺伝子の天然のヌクレオチド配列とハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされうる。
【0040】
本発明のポリペプチドは、その産生のために用いられる細胞もしくは宿主、または利用する精製方法に応じて、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無または形態に関してさまざまであってよい。しかし、それが本発明のヒトタンパク質のものと等価な機能を有する限り、それは本発明の範囲内にある。
【0041】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、その下で核酸分子が、典型的には核酸の混成物中で、標的配列とはハイブリダイズすると考えられるが、他の配列とは検出可能な程度にはハイブリダイズしないと考えられる条件のことを指す。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、環境が異なれば異なると考えられる。長い配列ほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な手引きは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Probes, "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays" (1993)に見ることができる。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。Tmは、標的に対して相補的なプローブの50%が平衡状態で標的配列とハイブリダイズする温度(規定のイオン強度、pHおよび核酸濃度の下で)である(標的配列は過剰に存在するため、Tmでは平衡状態でプローブの50%が占有される)。ストリンジェントな条件を、ホルムアミドなどの脱安定剤の添加によって得ることもできる。選択的または特異的なハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドのハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、以下のものが含まれる:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でインキュベートして、または5×SSC、1%SDS、65℃でインキュベートして、50℃の0.2×SSCおよび0.1%SDS中で洗浄する。
【0042】
本発明に関して、上記のヒトタンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするDNAを単離するために選択されるハイブリダイゼーションの特定の条件は、当業者によって慣行的に決定されうる。例えば、30分間またはそれ以上にわたる68℃でのプレハイブリダイゼーションを「Rapid−hyb buffer」(Amersham LIFE SCIENCE)を用いて行い、標識したプローブを添加した上で、1時間またはそれ以上にわたって68℃で加温することによって、ハイブリダイゼーションを行ってもよい。その後の洗浄段階は、例えば、低ストリンジェント条件下で行うことができる。低ストリンジェント条件には、例えば、42℃、2×SSC、0.1%SDS、または好ましくは50℃、2×SSC、0.1%SDSが含まれうる。しばしば、高ストリンジェンシー条件を用いることが好ましい。例示的な高ストリンジェンシー条件には、2×SSC、0.01%SDS中にて室温で20分間の洗浄を3回行い、続いて1×SSC、0.1%SDS中にて37℃で20分間の洗浄を3回行って、1×SSC、0.1%SDS中にて50℃で20分間の洗浄を2回行うことが含まれうる。しかし、温度および塩濃度などのいくつかの要因はハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす可能性があり、当業者は必要なストリンジェンシーを得るためにこれらの要因を適切に選択することができる。
【0043】
一般に、1つのタンパク質における1個、2個、またはそれ以上のアミノ酸の改変はそのタンパク質の機能に影響を及ぼさないと考えられる。事実、変異タンパク質または改変タンパク質(すなわち、1個、2個、またはそれ以上のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、および/または付加によって改変されたアミノ酸配列で構成されるペプチド)は、元の生物学的活性を保持していることが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81: 5662-6 (1984);Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982);Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79: 6409-13 (1982))。したがって、1つの態様において、本発明のペプチドは、1個、2個、またはさらにはそれ以上のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換された、SEQ ID NO:29、31、または32のアミノ酸配列を有しうる。
【0044】
単一のアミノ酸もしくはわずかな比率のアミノ酸を変化させるアミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、もしくは置換によって、または「保存的改変」と考えられるもの、すなわちその変化が元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらすものによって、元の参照タンパク質の機能に類似した機能を有するタンパク質の生成がもたらされる傾向があることを、当業者は認識しているであろう。このため、これらは本発明に関して許容される。
【0045】
タンパク質の活性が維持される限り、アミノ酸変異の数は特に限定されない。しかし、アミノ酸配列の5%またはそれ未満を変更させることが一般に好ましい。したがって、1つの好ましい態様において、そのような変異体において変異させるアミノ酸の数は、一般に30アミノ酸またはそれ未満、好ましくは20アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは10アミノ酸またはそれ未満、より好ましくは5または6アミノ酸またはそれ未満であり、さらにより好ましくは3または4アミノ酸またはそれ未満である。
【0046】
変異させるアミノ酸残基は、アミノ酸側鎖の特性が保存される異なるアミノ酸に変異させることが好ましい(保存的アミノ酸置換として知られる工程)。アミノ酸側鎖の特性の例には、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖がある:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含む側鎖(S、T、Y);イオウ原子を含む側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含む側鎖(D、N、E、Q);塩基を含む側鎖(R、K、H);および芳香族を含む側鎖(H、F、Y、W)。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換の表は当技術分野で周知である。例えば、以下の8つの群はそれぞれ、互いに保存的置換物であるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、トレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins (1984)を参照)。
【0047】
そのような保存的に改変されたポリペプチドは、本発明のタンパク質に含められる。しかし、本発明はそれらには限定されず、当該タンパク質の少なくとも1つの生物学的活性が保持されている限り、非保存的改変物も含む。さらに、改変タンパク質から、多型バリアント、種間相同体、およびこれらのタンパク質のアレルによってコードされるものが除外されることはない。
【0048】
その上、本発明の遺伝子は、当該タンパク質のそのような機能的等価物をコードするポリヌクレオチドも包含する。当該タンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するために、ハイブリダイゼーションに加えて遺伝子増幅法、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を、上記配列情報に基づいて合成されたプライマーを用いて利用することもできる。当該ヒト遺伝子およびタンパク質とそれぞれ機能的に等価なポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、通常、元のヌクレオチド配列またはそのアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」は典型的には、40%またはそれ以上、好ましくは60%またはそれ以上、より好ましくは80%またはそれ以上、さらにより好ましくは90%〜95%またはそれ以上、さらにより好ましくは96%〜99%またはそれ以上の相同性を指す。特定のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性は、「Wilbur and Lipmann, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」中のアルゴリズムに従って決定することができる。
【0049】
本発明のスクリーニング方法に用いられるポリペプチドは、組換えポリペプチドもしくは天然に由来するタンパク質、またはそれらの部分ペプチドであってよい。例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質を用いてもよい。ポリペプチドの調製のための方法は当技術分野において周知である。例えば、そのポリペプチドをコードする遺伝子を、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGS、およびpCD8等の外来遺伝子用の発現ベクターにその遺伝子を挿入することにより、宿主(例えば、動物)細胞などにおいて発現させる。発現のために用いられるプロモーターは、一般的に用いることのできる任意のプロモーターであってよく、これには例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141 (1982))、EF−αプロモーター(Kim et al., Gene 91: 217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108: 193 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152: 684-704 (1987)) SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 8: 466 (1988))、CMV前初期プロモーター(Seed and Aruffo, Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, J Mol Appl Genet 1: 385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 9: 946 (1989))、HSV TKプロモーターなどが含まれる。
【0050】
外来遺伝子を発現させるための宿主細胞への遺伝子の導入は、任意の方法、例えば、エレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 15: 1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7: 2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12: 5707-17 (1984);Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4: 1641-3 (1984))、リポフェクション法(Derijard B., Cell 76: 1025-37 (1994);Lamb et al., Nature Genetics 5: 22-30 (1993): Rabindran et al., Science 259: 230-4 (1993))などに従って行うことができる。
【0051】
ポリペプチドは、特異性が明らかになっているモノクローナル抗体のエピトープを、そのポリペプチドのN末端またはC末端に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現させることができる。市販のエピトープ−抗体システムを用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。例えばβ−ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を、そのマルチクローニングサイトの使用によって発現させることのできるベクターが市販されている。また、融合によってポリペプチドの特性が変化しないように、数個〜十数個のアミノ酸からなる小さいエピトープのみを導入することによって調製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(His−タグ)、インフルエンザ血球凝集素(influenza aggregate)HA、ヒトc−myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7−タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−タグ)、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、ポリペプチドの単離のためのエピトープ−抗体システムとして用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0052】
あるいは、本発明に用いられるポリペプチドを、選択したアミノ酸配列に基づく化学合成を通じて得てもよい。合成のために適合されうる従来のペプチド合成法の例には、以下のものが含まれる:
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1975;
(iv)Basics and Experiment of Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1985;
(v)Development of Pharmaceuticals (second volume) (日本語), Vol. 14 (peptide synthesis), Hirokawa, 1991;
(vi)WO99/67288;および
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, "Solid Phase Peptide Synthesis", Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0053】
ポリペプチドは、細胞溶解物から、またはポリペプチドの生成のために用いた反応混合物から精製または単離してもよい。精製または単離は、当技術分野における従来の方法に従って実施することができる。例えば、カラムクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、および再結晶を適切に選択して組み合わせることにより、ポリペプチドを単離および精製することができる。クロマトグラフィーの例には、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが含まれる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed. Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。これらのクロマトグラフィーを、HPLCおよびFPLCなどの液体クロマトグラフィーによって行うこともできる。したがって、本発明は、上記の方法によって調製された、高度に精製されたポリペプチドを提供する。
【0054】
III.抗体
抗体は、タンパク質間またはグリコシル化タンパク質間の結合を検出する上で有用である。したがって、いくつかの態様においては、GALNT6タンパク質もしくはMUC1タンパク質に対する抗体、またはそのような抗体の免疫原性断片が、好ましくは、本発明のスクリーニング方法に用いられうる。
【0055】
GALNT6タンパク質またはMUC1タンパク質に対する抗体は、GALNT6タンパク質もしくはMUC1タンパク質、またはそれらの免疫原性断片((例えば、コドン35〜622に対応するGALNT6タンパク質(実施例における「抗GALNT6特異的抗体の作製」の項を参照))から調製することができる。したがって、好ましい態様において、GALNT6タンパク質の抗体は、GALNT6を認識し、かつSEQ ID NO:29のアミノ酸配列の残基35〜622を含むエピトープと結合する抗体でありうる。同様に、好ましい態様において、MUC1タンパク質の抗体は、MUC1ポリペプチドのVNTRドメインにおけるグリコシル化された1個または複数個のセリンおよび/またはトレオニン残基を認識する抗体でありうる。
【0056】
「抗体」という用語は、本明細書で用いる場合、天然の抗体のほかに、例えば、単鎖抗体、キメラ抗体、二機能性抗体およびヒト化抗体、ならびにそれらの抗原結合断片(例えば、Fab'、F(ab')、Fab、Fv、およびrIgG)を含む、非天然の抗体も包含する。Pierce Catalog and Handbook, 1994-1995(Pierce Chemical Co., Rockford, IL)も参照のこと。また、例えば、Kuby, J., Immunology, 3rd Ed., W.H. Freeman & Co., New York(1998)も参照のこと。そのような非天然の抗体は、固相ペプチド合成を用いて構築してもよく、組換えにより産生してもよく、または例えば、参照により本明細書に組み入れられるHuse et al. , Science 246:1275-81(1989)によって記載されているように、さまざまな重鎖およびさまざまな軽鎖のコンビナトリアルライブラリーのスクリーニングによって得てもよい。例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、CDRグラフト抗体、単鎖抗体および二機能性抗体などを作製するこれらの方法および他の方法は、当業者に周知である(Winter and Harris, Immunol. Today 14:243-6 (1993);Ward et al., Nature 341:544-6 (1989);Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York, 1988;Hilyard et al., Protein Engineering: A practical approach (IRL Press 1992);Borrebaeck, Antibody Engineering, 2d ed. (Oxford University Press 1995);これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる)。
【0057】
本発明に関して、「抗体」という用語には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方が含まれる。この用語には、キメラ抗体(例えば、ヒト化マウス抗体)およびヘテロ結合(heteroconjugate)抗体(例えば、二重特異性抗体)などの遺伝的に操作された形態も含まれる。この用語は、さらに、組換え単鎖Fv断片(scFv)にも適用され、二価分子または二重特異性分子、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)およびテトラボディ(tetrabody)を含む。二価分子および二重特異性分子は、例えば、Kostelny et al. (1992) J Immunol 148:1547, Pack and Pluckthun (1992) Biochemistry 31:1579, Holliger et al. (1993) Proc Natl Acad Sci U S A. 90:6444, Gruber et al. (1994) J Immunol :5368, Zhu et al. (1997) Protein Sci 6:781, Hu et al. (1997) Cancer Res. 56:3055, Adams et al. (1993) Cancer Res. 53:4026, およびMcCartney, et al. (1995) Protein Eng. 8:301に記載されている。
【0058】
典型的には、抗体は重鎖および軽鎖を有する。重鎖および軽鎖のそれぞれは定常領域および可変領域を含み、これらの領域は「ドメイン」と称されることが多い。軽鎖および重鎖の可変領域は、4つの「フレームワーク」領域を含み、それらは「相補性決定領域」または「CDR」としても知られる3つの超可変領域によって分断されている。フレームワーク領域およびCDRは、幅広く研究され、特徴づけられている。異なる軽鎖および重鎖のフレームワーク領域の配列は、1つの種の内部では比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域、すなわち構成要素である軽鎖および重鎖が組み合わされたフレームワーク領域は、CDRを三次元空間に配置して整列させる働きをする。
【0059】
CDRは、抗原のエピトープとの結合に主に関与している。各鎖のCDRは典型的には、N末端から順に番号を付してCDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれ、これらはまた、典型的には、その個々のCDRが位置している鎖によっても識別される。すなわち、VH CDR3は、それが存在する抗体の重鎖の可変ドメインに位置し、一方、VL CDR1は、それが存在する抗体の軽鎖の可変ドメインのCDR1のことである。
【0060】
「VH」という言及は、Fv、scFv、またはFabの重鎖を含む、抗体の免疫グロブリン重鎖の可変領域を指す。「VL」という言及は、Fv、scFv、dsFv、またはFabの軽鎖を含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域を指す。
【0061】
「単鎖Fv」または「scFv」という語句は、通常の二本鎖抗体の重鎖の可変ドメインおよび軽鎖の可変ドメインが連結されて1つの鎖を形成している抗体を指す。典型的には、活性結合部位の適切なフォールディングおよび生成が可能となるように、2つの鎖の間にリンカーペプチドが挿入される。
【0062】
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(すなわち、可変領域)が、異なるもしくは変更されたクラス、エフェクター機能および/もしくは種の定常領域と、またはキメラ抗体に新たな特性を付与する全く異なる分子、例えば酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、もしくは薬物官能基などと結合するように、定常領域もしくはその一部分が変更、置換もしくは交換されている;または(b)可変領域もしくはその一部分が、異なるもしくは変更された抗原特異性を有する可変領域によって変更、置換もしくは交換されている、免疫グロブリン分子のことである。
【0063】
「ヒト化抗体」とは、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含む免疫グロブリン分子のことである。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。ヒト化抗体が、レシピエント抗体にも、導入されるCDRまたはフレームワーク配列にも存在しない残基を含んでもよい。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むと考えられ、その中のCDR領域のすべてまたは実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、フレームワーク(FR)領域のすべてまたは実質的にすべてはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれも含むと考えられる(Jones et al., Nature 321:522-5 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-7 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-6 (1992))。ヒト化は、本質的には、Winterらの方法(Jones et al., Nature 321:522-5 (1986);Riechmann et al., Nature 332:323-7 (1988);Verhoeyen et al., Science 239:1534-6 (1988))に従って、齧歯類のCDRまたはCDR配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに用いることによって行うことができる。したがって、そのようなヒト化抗体は、完全なヒト可変ドメインより実質的に少ない部分が非ヒト種由来の対応する配列によって置換されたキメラ抗体(米国特許第4,816,567号)である。
【0064】
「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、抗体が結合する抗原の部位を指すのに互換的に用いられる。エピトープは、連続したアミノ酸、またはタンパク質の三次フォールディングによって並置される非連続的なアミノ酸のいずれによっても形成されうる。連続したアミノ酸配列によって形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒に曝露しても保たれるが、三次フォールディングによって形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒で処理すると失われる。エピトープは一般的に、特有の空間コンフォメーションにある少なくとも3個、より典型的には少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間コンフォメーションを決定する方法には、例えば、X線結晶解析法および二次元核磁気共鳴法が含まれる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed(1996)を参照。
【0065】
「非抗体結合タンパク質」、「非抗体リガンド」、および「抗原結合タンパク質」という用語は、以下により詳細に考察するような、アドネクチン、アビマー(avimer)、単鎖ポリペプチド結合分子および抗体様結合ペプチド模倣物を含む、非免疫グロブリンタンパク質スキャフォールドを用いる抗体模倣物を指すのに互換的に用いられる。
【0066】
抗体と類似した様式で標的を標的化して結合する、その他の物質が開発されている。これらの「抗体模倣物」の特定のものは、抗体の可変領域に代わる代替的なタンパク質フレームワークとして、非免疫グロブリンタンパク質スキャフォールドを用いる。
【0067】
例えば、Ladnerら(米国特許第5,260,203号)は、凝集しているが分子的には分離している抗体の軽鎖および重鎖可変領域のものに類似した結合特異性を有する、単一ポリペプチド鎖の結合分子を記載している。この単鎖結合分子は、ペプチドリンカーによって連結された抗体の重鎖および軽鎖可変領域の両方の抗原結合部位を含み、二つのペプチド抗体と類似した構造へとフォールディングすると考えられる。この単鎖結合分子は、より小さいサイズであること、安定性がより高いこと、およびより容易に改変されることを含む、従来の抗体を上回るいくつかの利点を示す。
【0068】
Kuら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92(14):6552-6556 (1995))は、シトクロムb562を基にした抗体の代替物を開示している。Kuら(1995)は、シトクロムb562のループのうち2つをランダム化してウシ血清アルブミンに対する結合に関して選択したライブラリーを作製した。個々の変異体は、抗BSA抗体と同様の様式でBSAと選択的に結合することが見いだされた。
【0069】
Lipovsekら(米国特許第6,818,418号および第7,115,396号)は、フィブロネクチン様またはフィブロネクチン様タンパク質スキャフォールドおよび少なくとも1つの可変ループを特徴とする抗体模倣物を開示している。これらのフィブロネクチンを基にした抗体模倣物はアドネクチンとして知られ、標的とした任意のリガンドに対する高親和性および特異性を含む、天然抗体および人工抗体(engineered antibody)と同じ多くの特徴を呈する。新たな、または改良された結合タンパク質を導き出すための任意の手法を、これらの抗体模倣物に関して用いることができる。
【0070】
これらのフィブロネクチンを基にした抗体模倣物の構造は、IgG重鎖の可変領域の構造に類似している。このため、これらの模倣物は、性質および親和性の点でネイティブ抗体の抗原結合特性に類似した抗原結合特性を呈する。さらに、これらのフィブロネクチンを基にした抗体模倣物は、抗体および抗体断片を上回るいくつかの利点を示す。例えば、これらの抗体模倣物はネイティブなフォールディング安定性に関してジスルフィド結合に依拠せず、それ故に、通常であれば抗体を分解させる条件下でも安定である。加えて、これらのフィブロネクチンを基にした抗体模倣物の構造はIgG重鎖の構造に類似しているため、インビボでの抗体の親和性成熟の過程に類似した、ループのランダム化およびシャッフリングの過程をインビトロで用いることができる。
【0071】
Besteら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96(5):1898-1903 (1999))は、リポカリンスキャフォールドを基にした抗体模倣物(Anticalin(登録商標))を開示している。リポカリンは、タンパク質の末端に4つの超可変ループを有するβ−バレルで構成される。Beste(1999)は、ループをランダム変異誘発に供した上で、例えばフルオレセインとの結合に関して選択した。3種のバリアントがフルオレセインとの特異的結合を呈し、そのうち1つのバリアントが抗フルオレセイン抗体の結合に類似した結合を示した。さらなる分析により、ランダム化された位置のすべてが可変性であることが判明しており、このことはAnticalin(登録商標)が抗体の代替物として用いられることを示している。
【0072】
Anticalin(登録商標)は、典型的には160〜180残基である小さい単鎖ペプチドであり、生産コストの低さ、貯蔵下での安定性の高さ、および免疫反応の減少を含む、抗体を上回るいくつかの利点をもたらす。
【0073】
Hamiltonら(米国特許第5,770,380号)は、結合部位として複数の可変ペプチドループを有するカリックスアレーンの剛性非ペプチド有機スキャフォールドと組み合わされた、合成抗体模倣物を開示している。ペプチドループはすべて、カリックスアレーン分子の幾何学的に同じ側から、互いに対して突き出ている。この幾何学的コンフォメーションのために、ループのすべてが結合に利用可能であり、それにより、リガンドに対する結合親和性が高くなる。しかし、他の抗体模倣物とは対照的に、カリックスアレーンを基にした抗体模倣物はペプチドのみには限定されず、それ故にプロテアーゼ酵素による攻撃を受けにくい。このスキャフォールドが完全にペプチド、DNAまたはRNAの性質であるのではなく、この抗体模倣物の意義は、極限的な環境条件下で比較的安定であること、および長い寿命を有することである。さらに、このカリックスアレーンを基にした抗体模倣物は比較的小さいため、それは免疫原性応答を起こす可能性がより低いと考えられる。
【0074】
Muraliら(Cell. Mol. Biol. 49(2):209-216 (2003))は、抗体をより小さいペプチド模倣物へと小型化するための方法を考察し、彼らはそれらを「抗体様結合ペプチド模倣物」(ABiP)と命名しているが、それらも抗体の代替物として有用である可能性がある。
【0075】
Silvermanら(Nat. Biotechnol. (2005), 23: 1556-1561)は、「アビマー」と命名された、複数のドメインを有する単鎖ポリペプチドである融合タンパク質を開示している。ヒト細胞外受容体ドメインからインビトロでのエクソンシャッフリングおよびファージディスプレイによって開発されたアビマーは、結合タンパク質の1つのクラスであり、さまざまな標的分子に対する親和性および特異性の点で抗体と幾分類似している。その結果得られるマルチドメインタンパク質は、単エピトープ結合タンパク質と比較して向上した親和性(場合によってはナノモル濃度以下)および特異性を呈しうる、複数の独立した結合ドメインを含むことができる。アビマーの構築および使用の方法に関するそのほかの詳細は、例えば、その関連内容が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第20040175756号、第20050048512号、第20050053973号、第20050089932号、および第20050221384号に開示されている。
【0076】
非免疫グロブリンタンパク質フレームワークのほかに、抗体特性は、RNA分子および非天然オリゴマーからなる物質においても模倣されており(例えば、プロテアーゼ阻害剤、ベンゾジアゼピン、プリン誘導体、およびβ−ターン模倣物)、これらはすべて、本発明とともに用いるのに適している。
【0077】
IV.GALNT6とMUC1との間の結合を癌の指標として用いるスクリーニング方法
本発明において、GALNT6タンパク質がMUC1タンパク質と相互作用することが確認された(図6f)。したがって、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合を阻害する物質を、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との結合を指標として用いて同定することができる。この点に鑑みて、そのようなGALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との結合を指標とする、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合を阻害する物質をスクリーニングする方法を提供することは、本発明の目的である。本発明はまた、乳癌細胞の増殖または接着を阻害するかまたは低下させる候補物質、および癌、例えば乳癌などを治療または予防するための候補物質をスクリーニングする方法も提供する。
【0078】
したがって、本発明は、以下の[1]から[7]の方法を提供する:
[1]以下の段階を含む、GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合を妨害する物質をスクリーニングする方法:
(a)被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を、MUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物と接触させる段階;
(b)ポリペプチド間の結合レベルを検出する段階;
(c)段階(b)で検出された結合レベルを、被験物質の非存在下で検出された結合レベルと比較する段階;および
(d)ポリペプチド間の結合レベルを低下させるかまたは阻害する被験物質を選択する段階、
[2]以下の段階を含む、癌の治療および/もしくは予防に適しているか、またはGALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合を阻害する候補物質をスクリーニングする方法:
(a)被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を、MUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物と接触させる段階;
(b)ポリペプチド間の結合レベルを検出する段階;
(c)段階(b)で検出された結合レベルを、被験物質の非存在下で検出された結合レベルと比較する段階;および
(d)ポリペプチド間の結合レベルを阻害する被験物質を選択する段階、
[3]GALNT6ポリペプチドの機能的等価物がGALNT6ポリペプチドのMUC1結合ドメインのアミノ酸配列を含む、[1]または[2]に記載の方法、
[4]GALNT6ポリペプチドがSEQ ID NO:29のアミノ酸35〜622のアミノ酸配列を含む、[1]または[2]に記載の方法、
[5]MUC1ポリペプチドの機能的等価物がMUC1ポリペプチドのGALNT6結合ドメインのアミノ酸配列を含む、[1]または[2]に記載の方法、
[6]MUC1の機能的等価物が、MUC1ポリペプチドの可変数タンデム反復(VNTR)ドメインに由来するペプチドを含む、[1]または[2]に記載の方法、ならびに
[7]癌が乳癌である、請求項[2]に記載の方法。
【0079】
本発明によれば、細胞増殖の阻害に対する候補物質の、または癌の治療および/もしくは予防に関連した候補物質の治療効果を評価することができる。したがって、本発明はまた、癌細胞の増殖を抑制する候補物質をスクリーニングする方法、ならびに癌の治療および/または予防に適している候補物質をスクリーニングする方法も提供する。
【0080】
そのような方法の例証となる例は、以下の段階を含む:
(a)被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を、MUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物と接触させる段階;
(b)ポリペプチド間の結合のレベルを検出する段階;
(c)段階(b)で検出された結合レベルを、被験物質の非存在下で検出された結合レベルと比較する段階;および
(d)(c)の結合レベルと、被験物質の治療効果とを相関させる段階。
【0081】
あるいは、他の態様において、本発明は、以下の段階を含む、癌の治療および/もしくは予防または癌の阻害に関連した被験物質の治療効果を評価するかまたは推測するための方法を提供しうる:
(a)被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を、MUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物と接触させる段階;
(b)ポリペプチド間の結合レベルを検出する段階;
(c)段階(b)で検出された結合レベルを、被験物質の非存在下で検出された結合レベルと比較する段階;および
(d)被験物質と、潜在的な治療効果とを相関させる段階であって、被験物質が結合レベルを低下させる場合に潜在的な治療効果が示される、段階。
【0082】
本発明に関して、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との結合レベルと、治療効果とを相関させることができる。例えば、被験物質が、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との結合レベルを被験物質の非存在下で検出されるレベルと比較して低下させる場合に、被験物質を、所望の治療効果を有する候補物質として同定または選択することができる。あるいは、被験物質が、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との結合レベルを被験物質の非存在下で検出されるレベルと比較して低下させない場合に、被験物質を、有意な治療効果を有しない物質として同定することができる。
【0083】
例証となる候補物質は、例えば、阻害性オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、またはリボザイム)、抗体、ポリペプチド、または有機低分子を含みうる。適した阻害性物質に関するスクリーニングは、多数の物質をマルチウェルプレート(例えば、96ウェル、192ウェル、384ウェル、768ウェル、1536ウェル)を用いて同時スクリーニングすることによる、ハイスループット法を用いて行うことができる。ハイスループットスクリーニングのための自動化システムは、例えば、Caliper Life Sciences, Hopkinton, MAから販売されている。スクリーニングに利用しうる有機低分子ライブラリーは、例えば、Reaction Biology Corp., Malvern, PA;TimTec, Newark, DEから購入することができる。
【0084】
本発明に関して、GALNT6ポリペプチドの機能的等価物は、GALNT6ポリペプチド(SEQ ID NO:29)と等価な生物学的活性を有すると考えられる(「定義」における癌関連遺伝子および癌関連タンパク質、ならびにそれらの機能的等価物の項を参照)。
【0085】
GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの結合を調節する、例えば阻害する物質をスクリーニングすることに関して、当業者に周知である多くの方法を用いることができる。
【0086】
スクリーニングのために用いられるポリペプチドは、組換えポリペプチドもしくは天然源に由来するタンパク質、またはそれらの部分ペプチドであってよい。前述した任意の被験物質をスクリーニングのために用いることができる。
【0087】
例えば、GALNT6ポリペプチドおよびMUC1ポリペプチドまたはそれらの機能的等価物を用いる、ポリペプチドと結合するタンパク質をスクリーニングする方法としては、当業者に周知である多くの方法を用いることができる。そのようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnik et al., Cell 65: 83-90 (1991))、細胞を利用するツーハイブリッドシステム(「MATCHMAKER Two−Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one−Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68: 597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10: 286-92 (1994)」)、アフィニティークロマトグラフィー、および表面プラズモン共鳴現象を用いるバイオセンサーを介して実施することができる。前述した任意の被験物質を用いることができる。
【0088】
いくつかの態様において、本スクリーニング方法は、GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質の両方を発現する細胞を用いる細胞ベースのアッセイを用いて行うことができる。GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質を発現する細胞には、例えば、癌、例えば乳癌から樹立された細胞株が含まれる。あるいは、細胞を、GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質をコードするヌクレオチドによる形質転換を通じて調製することもできる。そのような形質転換は、GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質の両方をコードする1つの発現ベクター、またはGALNT6タンパク質またはMUC1タンパク質のいずれかをコードする複数の発現ベクターを用いて行うことができる。本スクリーニングは、そのような細胞を被験物質の存在下でインキュベートすることによって実施することができる。GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との結合は、抗GALNT6抗体または抗MUC1抗体を用いる免疫沈降アッセイによって検出することができる(図6)。
【0089】
本発明において、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合の抑制が、癌細胞の増殖の抑制を導くことが明らかになった。このため、ある物質がGALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合を阻害する場合、その阻害は対象における潜在的な治療効果を示すものである。本発明において、潜在的な治療効果とは、十分な見込みのある臨床的利益のことを指す。本発明において、そのような臨床的利益には、以下のものが含まれうる:
(a)GALNT6とMUC1との間の結合の低下、
(b)対象における癌のサイズ、有病率もしくは転移能の減少、
(c)さらなる癌形成の防止、または
(d)癌の臨床症状の防止または緩和。
【0090】
V.GALNT6によるMUC1のグリコシル化レベルを癌の指標として用いるスクリーニング方法
本発明はさらに、MUC1タンパク質がGALNT6タンパク質によってグリコシル化されることを確認した(図6)。本発明は、乳癌の大多数で上方制御されており、かつ乳癌発生においてムチン型O−グリコシル化を惹起させる原因となるグリコシルトランスフェラーゼをコードする、新規薬物標的であるGALNT6の重要な役割を報告した。さらに、低分子干渉RNA(siRNA)によるGALNT6遺伝子またはMUC1遺伝子のノックダウンにより、細胞接着機能が有意に強化され(図11d)、乳癌細胞の増殖が有意に抑制された(図5c)。ウエスタンブロット分析および免疫細胞化学分析により、野生型GALNT6タンパク質が、癌タンパク質のMUC1をグリコシル化して安定化させうることが示された。免疫組織化学染色分析により、乳癌標本においてGALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質が共に上方制御されていることが確認された。さらに、GALNT6遺伝子またはMUC1遺伝子のノックダウンは、細胞接着分子であるβ−カテニンおよびE−カドヘリンの増加を伴う、癌細胞の類似した形態変化(丸い形状およびサイズ拡大)を導いた。以上を総合すると、これらの結果は、GALNT6の過剰発現が、MUC1タンパク質の異常なグリコシル化および安定化を通じて乳癌発生に寄与しうることを示している。
【0091】
したがって、GALNT6タンパク質によるMUC1タンパク質のグリコシル化を阻害する物質は、GALNT6を発現する癌細胞の増殖を阻害または低下させるために用いることができ、これはさらに、癌細胞にアポトーシスを誘導するために、またはGALNT6を発現する癌を治療もしくは予防するために有用でありうる。本発明に関して、好ましい標的の癌は乳癌である。したがって、GALNT6タンパク質によるMUC1タンパク質のグリコシル化を阻害する物質をスクリーニングする方法を提供することは、本発明のさらなる目的である。さらに、本発明はまた、GALNT6を発現する癌細胞の増殖を阻害するかまたは低下させる候補物質、およびGALNT6を発現する癌細胞においてアポトーシスを誘導する候補物質をスクリーニングする方法も提供する。本発明の方法は、癌、特にGALNT6を発現する癌の治療および/または予防における有用性を有する候補物質をスクリーニングするために特に適している。そのような癌の好ましい例は乳癌である。
【0092】
したがって、本発明は、以下の[1]から[12]の方法を提供する:
[1]以下の段階を含む、癌の治療および/もしくは予防に適しているか、またはGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化を阻害する候補物質をスクリーニングする方法:
a.被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物と基質とを、GALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化に適した条件下でインキュベートする段階であって、機能的等価物が、
i.SEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有するポリペプチド;
ii.結果的に生じるポリペプチドがSEQ ID NO:29のポリペプチドと等価な生物学的活性を有するとの条件で、1個または複数個のアミノ酸が置換、欠失、または挿入されたSEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有するポリペプチド;および
iii.結果的に生じるポリペプチドがSEQ ID NO:29のポリペプチドと等価な生物学的活性を有するとの条件で、ストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:28のポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド
からなる群より選択されるポリペプチドである、段階;
b.基質グリコシル化レベルを検出する段階;ならびに
c.基質グリコシル化レベルを対照レベルと比較する段階であって、該対照レベルと比較したグリコシル化レベルの上昇または低下は、被験物質が基質に対するGALNT6のグリコシル化活性を調節することを示す、段階、
[2]GALNT6ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有するポリペプチドに由来する断片である、[1]に記載の方法、
[3]断片が残基H271またはE382を含む、[2]に記載の方法、
[4]GALNT6ポリペプチドの機能的等価物がGALNT6ポリペプチドのpp−GalNAc−トランスフェラーゼモチーフを含む、[3]に記載の方法、
[5]pp−GalNAc−トランスフェラーゼモチーフがSEQ ID NO:29の180〜485のアミノ酸配列を含む、[4]に記載の方法、
[6]GALNT6ポリペプチドがSEQ ID NO:29の35〜622のアミノ酸配列を含む、[1]に記載の方法、
[7]基質がMUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物である、[1]から[6]のいずれか1つに記載の方法、
[8]MUC1ポリペプチドがSEQ ID NO:31または32のアミノ酸配列を有する、[7]に記載の方法、
[9]MUC1ポリペプチドの機能的等価物が、MUC1ポリペプチドのVNTRドメインに由来するペプチド断片を含み、そのペプチド断片が1個または複数個のセリン残基および/またはトレオニン残基を含む、[7]または[8]に記載の方法、
[10]ペプチド断片が10個またはそれ以上のアミノ酸を有する、[9]に記載の方法、
[11]機能的等価物が、SEQ ID NO:26(MUC1−a)またはSEQ ID NO:27(MUC1−b)のアミノ酸配列を有するポリペプチドである、[7]に記載の方法、ならびに
[12]グリコシル化の型がo−グリコシル化である、[1]から[11]のいずれか1つに記載の方法。
【0093】
あるいは、いくつかの態様において、本発明は、以下の段階を含む、癌の治療および/もしくは予防、またはGALNT6の過剰発現を伴う癌の阻害に関連した被験物質の治療効果を評価するかまたは推測するための方法を提供しうる:
(a)被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を、グリコシル化させる基質と、GALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化が可能な条件下で接触させる段階;
(b)基質のグリコシル化レベルを検出する段階;および
(c)被験物質と、潜在的な治療効果とを相関させる段階であって、被験物質が基質のグリコシル化レベルを、候補物質としての被験物質の非存在下で検出されるグリコシル化レベルと比較して低下させる場合に、潜在的な治療効果が示される、段階。
【0094】
本発明に関して、GALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化レベルと、治療効果とを相関させることができる。例えば、被験物質が基質のグリコシル化レベルを、被験物質の非存在下で検出されるレベルと比較して低下させる場合に、被験物質を、治療効果を有する候補物質として同定または選択することができる。あるいは、被験物質が基質のグリコシル化レベルを、被験物質の非存在下で検出されるレベルと比較して低下させない場合に、被験物質を、有意な治療効果を有しない物質として同定することができる。
【0095】
GALNT6タンパク質がMUC1タンパク質のグリコシル化を媒介し、それが結果としてMUC1タンパク質の安定化を導くことが、本明細書において確認された(実施例4参照)。グリコシル化の後には、GALNT6の外因性発現によってMUC1タンパク質レベルが高まるため、MUC1タンパク質は癌細胞の中に蓄積する(実施例4参照)。一方で、以前の諸報告は、MUC1がその細胞質尾部との相互作用を通じてβ−カテニンを捕捉し、それにより、細胞接着分子の複合体形成を阻害することを示唆している(Yuan, Z., Wong, S., Borrelli, A. & Chung, M. A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 362, 740-746 (2007), Schroeder, J. A., Adriance, M. C., Thompson, M. C., Camenisch, T. D. & Gendler, S. J. Oncogene 22, 1324-1332 (2003))。そのような細胞接着分子の異常は結果的に、癌の転移、浸潤、および/または移動を促進または媒介する。しかし、MUC1タンパク質のグリコシル化の基礎をなす機序についてはほとんど明らかになっていない。本発明は、GALNT6タンパク質がMUC1タンパク質のグリコシル化を媒介することを確認した。したがって、GALNT6タンパク質によって媒介されるMUC1タンパク質のグリコシル化を阻害する物質は、癌の細胞増殖を阻害または低下させるのに有用でありうる。
【0096】
本スクリーニングのために用いられるGALNT6ポリペプチドおよび基質ポリペプチド(例えば、MUC1ポリペプチド)は、組換えポリペプチド、もしくは天然源に由来するタンパク質、またはそれらの部分ペプチドであってよい。そのようなポリペプチドは、当技術分野において周知の方法によって調製することができる(「II.GALNT6およびMUC1‐遺伝子およびタンパク質」を参照)。好ましくは、ポリペプチドは精製または単離されている。
【0097】
いくつかの態様において、これらのポリペプチドに、市販のエピトープを、N末端および/またはC末端に付加してもよい。そのようなエピトープの例には、ポリヒスチジン(His−タグ)、インフルエンザ血球凝集素HA、ヒトc−myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7−タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−タグ)、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
精製または単離されたポリペプチドに加えて、GALNT6ポリペプチドおよび基質ポリペプチド(例えば、MUC1ポリペプチド)を発現する細胞を、本発明のスクリーニング方法のために用いてもよい。本明細書においては、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を発現する限り、いかなる細胞を用いてもよい(「遺伝子およびタンパク質」の項および上記の定義を参照)。本スクリーニングに用いられる細胞は、例えば、乳癌に由来する細胞、または乳癌から樹立された細胞株を含む、GALNT6ポリペプチドを天然に発現する細胞であってよい。乳癌細胞の細胞株であるT47D、MCF7、SKBR3などを使用することができる。
【0099】
あるいは、スクリーニングに用いられる細胞が、GALNT6ポリペプチドを天然には発現せず、GALNT6ポリペプチドまたはGALNT6機能的等価物を発現するベクターがトランスフェクトされた細胞であってもよい。そのような組換え細胞は、上記のように公知の遺伝子工学の方法(例えば、Morrison DA., J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymologist (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)を通じて得ることができる。
【0100】
前述した被験物質の任意のものを、本発明のスクリーニング方法に関連して用いることができる。いくつかの態様においては、細胞内に浸透しうる物質を選択する。あるいは、被験物質がポリペプチドである場合には、本スクリーニングにおける細胞と被験物質との接触は、被験物質をコードするヌクレオチド配列を含むベクターによって細胞を形質転換させて被験物質を細胞内で発現させることによって、行うこともできる。
【0101】
本発明に関しては、上記のように、GALNT6タンパク質の主要な生物学的活性の1つはグリコシル化活性である。基質のグリコシル化レベルは、当技術分野において公知の方法によって決定することができる。例えば、基質のグリコシル化を、分子量を比較することによって検出してもよい。グリコシル化されたタンパク質の分子量は、ポリペプチドのアミノ酸配列から計算される予想サイズよりも、グリコシド鎖の付加の分だけ大きい。さらに、グリコシル化されたタンパク質の分子量がグリコシダーゼ処理によって減少する可能性のある場合、分子の差は、グリコシド鎖の付加によって引き起こされることも確認された。タンパク質の分子量を推測するための方法は周知である。
【0102】
あるいは、ポリペプチドへのグリコシド鎖の付加を検出するために、放射標識されたグリコシル化の供与体を用いてもよい。基質ポリペプチドへの放射標識の転移は、例えば、SDS−PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって検出することができる。あるいは、グリコシル化反応の後に、濾過によって基質をグリコシル供与体から分離して、フィルター上に保持された放射標識の量をシンチレーション計数法によって定量することもできる。グリコシル供与体へと結合させることのできる他の適した標識、例えば発色性標識および蛍光標識など、および基質へのこれらの標識の転移を検出する方法は、当技術分野において公知である。例えば、好ましくは、蛍光標識を、実施例に記載された方法に従って用いることができる。
【0103】
あるいは、基質のグリコシル化レベルを、ポリペプチドのグリコシル化レベルを選択的に認識する試薬によって決定することができる。例えば、基質ポリペプチドおよびGALNT6ポリペプチドのインキュベーション後に、基質のグリコシル化レベルを免疫学的方法によって検出することができる。グリコシル化ポリペプチドを認識する抗体を用いる任意の免疫学的手法を、検出のために用いることができる。例えば、グリコシル化ポリペプチドに対する抗体が市販されている。グリコシル化ポリペプチドを認識する抗体を用いるELISAまたはイムノブロットを、本発明のために用いることができる。
【0104】
抗体を用いる代わりに、グリコシル化タンパク質を、グリコシド鎖と高い親和性で選択的に結合する試薬を用いて検出することができる。そのような試薬は当技術分野において公知であり、または当技術分野において公知のスクリーニングアッセイによって決定することもできる。例えば、レクチンはグリコシド鎖特異的プローブとして周知である。アルカリホスファターゼなどの検出可能な標識と結合させたレクチン試薬も市販されている。
【0105】
細胞における基質ポリペプチドのグリコシル化レベルを、細胞溶解物の分離によって推測することもできる。例えば、SDS−ポリアクリルアミドゲルを、ポリペプチドを分離するものとして用いることができる。ゲル中で分離されたポリペプチドを、イムノブロット分析のためにニトロセルロース膜に移す。
【0106】
VI−1.治療用物質および治療剤の同定
また、GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合のレベル、または本明細書に開示されたGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化のレベルを、癌、特に乳癌を治療するための候補治療用物質または候補治療剤を同定するために用いることもできる。本発明の方法はしたがって、被験物質が、癌の状態に特徴的な、GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合レベルまたはGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化レベルを、癌ではない状態に特徴的な、GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合レベルまたはGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化レベルへと変えることができるか否かを決定するように、候補治療用物質または候補治療剤をスクリーニングする段階を含んでもよい。そのような方法に関して、被験細胞集団または被験精製ポリペプチド(すなわち、GALNT6ポリペプチドおよび基質ポリペプチド)を、1つの被験物質または複数の被験物質に(逐次的または組み合わせて)曝露させて、GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合レベル、またはGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化レベル(細胞における)を測定することができる。GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合レベル、またはアッセイするGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化レベル(被験細胞集団における)を、被験物質に曝露されていない正常対照(参照細胞集団)における、GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合レベルまたはGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化レベルと比較する。
【0107】
GALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合、またはGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化を抑制する物質は、著しい臨床的利益を有する。そのような物質を、動物または被験対象における癌増殖を阻止または防止する能力に関してさらに試験することができる。
【0108】
GALNT6遺伝子またはMUC1遺伝子を発現する細胞の例には、乳癌から樹立された細胞株が含まれるが、これに限定されない;そのような細胞を、本発明の上記のスクリーニングのために用いることができる。
【0109】
本発明のスクリーニング方法に用いるためのポリペプチドは、GALNT6遺伝子またはMUC1遺伝子の既知のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。本発明において、GALNT6ポリペプチドまたはMUC1ポリペプチドの他の生物学的活性を、前述したスクリーニング方法によって同定された物質の治療効果を評価するためのさらなるスクリーニングのための指標として用いてもよい。GALNT6遺伝子またはMUC1遺伝子およびそれらにコードされるタンパク質に関する情報に基づき、当業者は、そのようなスクリーニングのための指標としてのタンパク質の任意の生物学的活性、および選択した生物学的活性についてアッセイするための任意の適した測定方法を選択することができる。具体的には、GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質は細胞増殖活性および抗細胞接着活性を有することが知られている。したがって、そのような細胞増殖活性および/または抗細胞接着活性を指標として用いて、生物学的活性を決定することができる。
【0110】
抗細胞接着活性には、以下のような活性の任意のものが含まれる:細胞と、表面、細胞外マトリックス、もしくは別の細胞との結合の阻害、またはβ−カテニンおよびE−カドヘリンのような細胞接着分子の異常の増強。
【0111】
本発明の方法に関連して検出される生物学的活性が、細胞増殖または抗細胞接着である場合には、例えば、本発明のポリペプチドを発現する細胞を調製し、それらの細胞を被験物質の存在下で培養した上で、細胞増殖の回数を決定すること、または抗細胞接着活性などを測定することによって、さらには、コロニー形成活性を測定すること、または実施例に記載したような細胞剥離アッセイを行うことによって、それを検出することができる。
【0112】
本発明は、GALNT6−MUC1経路が、これらの2種の分子の安定化および局在、ならびに細胞接着複合体の形成において極めて重要な役割を果たしていることを明らかにした最初のものである(図8d)。詳細には、GALNT6の上方制御は、そのグリコシル化活性を通じてMUC1タンパク質の安定化を引き起こす。その後、グリコシル化されたMUC1タンパク質の蓄積がβ−カテニンおよびE−カドヘリンのような細胞接着分子の異常を誘導し、その結果、癌の転移、浸潤、および/または移動を促進または媒介する抗接着効果をもたらしうる。したがって、例えば、GALNT6−MUC1経路に干渉する物質、例えば、MUC1タンパク質のグリコシル化を阻害するものは、抗接着効果の抑制効果を有する。そのような物質は、それ故に、癌の転移、浸潤、および/または移動を阻害する上で有用でありうる。したがって、別の態様においては、本発明のスクリーニング方法を通じて、癌の転移、浸潤、および/または移動を阻害する、GALNT6−MUC1経路に干渉する候補物質を同定することもできる。換言すれば、本発明はさらに、癌の転移、浸潤、および移動からなる群より選択される、少なくとも1つの悪性表現型を阻害または抑制する候補物質を同定するための方法を提供する。
【0113】
VI−2.癌を治療するための治療用物質または治療剤の選択
個体の遺伝的構成の差は、彼らがさまざまな薬物を代謝する相対的能力の差をもたらす可能性がある。対象において代謝されて抗癌物質として作用する物質は、癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌性状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと、対象の細胞における遺伝子発現パターンの変化を誘導することによって明らかとなる。したがって、GALNT6遺伝子の発現の差、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合の差、およびGALNT6タンパク質によるMUC1タンパク質のグリコシル化レベルの差によって、癌の治療的または予防的な阻害剤と推定されるものを、選択された対象においてその物質が癌、例えば乳癌に適している阻害剤であるか否かを決定する目的で、その対象由来の被験細胞集団において試験することが可能になる。
【0114】
特定の対象に対して適切である癌の阻害剤を同定するためには、その対象由来からの被験細胞集団を治療用物質または治療剤に曝露させて、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合レベル、またはGALNT6タンパク質によるMUC1タンパク質のグリコシル化レベルを決定する。
【0115】
本発明の方法に関して、被験細胞集団は、GALNT6遺伝子を発現する癌細胞を含む。好ましくは、被験細胞集団は上皮細胞を含む。例えば、被験細胞集団を候補物質の存在下でインキュベートし、被験細胞集団の遺伝子発現のパターンを測定して、1つまたは複数の参照発現プロファイル、例えば、癌参照発現プロファイル、癌参照発現プロファイル、または正常参照発現プロファイル、例えば、癌ではない参照発現プロファイルと比較することができる。癌を含む参照細胞集団に比して、被験細胞集団における、GALNT6遺伝子の発現、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合レベル、およびGALNT6タンパク質によるMUC1タンパク質のグリコシル化レベルが低下していることは、その物質が治療的有用性を有することを示す。あるいは、被験細胞集団と参照細胞集団とで、MUC1遺伝子の発現、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合レベル、およびGALNT6タンパク質によるMUC1タンパク質のグリコシル化レベルが類似していることは、その物質が代替的な治療的有用性を有することを示す。
【0116】
V−3.候補物質
本発明に関して、被験物質は任意の物質または組成物でありうる。例示的な被験物質には、免疫調節物質(例えば、抗体)、阻害性オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、短鎖阻害性オリゴヌクレオチド、およびリボザイム)、および低分子有機物質が含まれるが、これらに限定されない。
【0117】
本発明のスクリーニングアッセイによって単離された物質は、抗癌薬の開発のための候補として役立ち、乳癌の治療または予防に適用されることが予想されうる。
【0118】
その上、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の結合レベル、またはGALNT6タンパク質による基質(例えば、MUC1タンパク質)のグリコシル化レベルを阻害する物質であって、その一部分が、付加、欠失、および/または置換によって変換されている物質も、本発明のスクリーニング方法によって入手可能な物質に含められる。
【0119】
本発明のスクリーニング方法によって単離された物質は、癌を治療もしくは予防する、または癌の転移、浸潤、および/もしくは移動を阻害する潜在的な能力を有する。これらの候補物質が癌を治療もしくは予防する、または癌の転移、浸潤、および/もしくは移動を阻害する潜在的な能力は、癌に対する治療用物質または治療剤を同定するための第2のおよび/またはさらなるスクリーニングによって評価することができる。
【0120】
V−4.スクリーニングキット
本発明はまた、癌、特に乳癌の治療および/または予防に有用な候補物質をスクリーニングするのに適した材料を含む製品またはキットも提供する。そのような製品またはキットは、本明細書に記載された材料の、1つまたは複数のラベル付けされた容器を、使用説明書とともに含みうる。適した容器の例には、瓶、バイアル、および試験管が含まれるが、これらに限定されない。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料で形成されうる。
【0121】
1つの態様において、スクリーニングキットは以下のものを含む:(a)GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を含む第1のポリペプチド、(b)MUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物を含む第2のポリペプチド、および(c)第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの間の相互作用を検出するための手段(例えば、試薬)。
【0122】
いくつかの態様において、GALNT6ポリペプチドの機能的等価物は、GALNT6ポリペプチドのMUC1結合ドメインのアミノ酸配列を含む。同様に、他の態様において、MUC1ポリペプチドの機能的等価物は、MUC1ポリペプチドのGALNT6結合ドメインのアミノ酸配列を含む。
【0123】
別の態様において、GALNT6ポリペプチドは、SEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有する。別の態様において、GALNT6ポリペプチドは、SEQ ID NO:29の35〜622のアミノ酸配列を有する。
【0124】
別の態様において、スクリーニングキットは以下のものを含む:(a)GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物、(b)基質、および(c)基質グリコシル化レベルを検出するための手段(例えば、試薬)。
【0125】
別の態様において、GALNT6ポリペプチドは残基H271またはE382を含む。
【0126】
別の態様において、GALNT6は、SEQ ID NO:29のアミノ酸配列を有する断片である。別の態様において、GALNT6ポリペプチドは、SEQ ID NO:29の35〜622のアミノ酸配列を有する。好ましい態様において、GALNT6ポリペプチドの機能的等価物は、GALNT6ポリペプチドのpp−GalNAc−トランスフェラーゼモチーフ(例えば、SEQ ID NO:29の180〜485)を含む。
【0127】
別の態様において、基質は、MUC1ポリペプチド(例えば、SEQ ID NO:31または32)またはその機能的等価物である。好ましい態様において、MUC1ポリペプチドの機能的等価物は、1個または複数個のセリン残基および/またはトレオニン残基を含む、MUC1ポリペプチドのVNTRドメインに由来するペプチド断片を含む。好ましくは、そのようなペプチド断片は10個またはそれ以上のアミノ酸を有する。例えば、SEQ ID NO:26(MUC1−a)またはSEQ ID NO:27(MUC1−b)のアミノ酸配列を有するペプチドを、好ましくは、そのようなペプチド断片として用いることができる。いくつかの態様において、GALNT6ポリペプチドおよびMUC1ポリペプチドは、生細胞において発現される。
【0128】
本発明はさらに、本明細書に記載された病的状態を治療するために有用な材料を含む製品およびキットも提供する。そのような製品は、ラベルが施された、本明細書に記載された薬剤の容器を含みうる。上述した通り、適した容器には、例えば、瓶、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の材料で形成されてよい。本発明に関して、容器とは、細胞増殖性疾患、例えば乳癌を治療するために有効な活性物質を有する組成物を収めるものである。組成物中の活性物質は、インビボでGALNT6/MUC1会合を崩壊させることのできる、同定された被験物質(例えば、抗体、低分子など)であってよい。容器上のラベルは、その組成物が、異常な細胞増殖、または抗細胞接着を特徴とする1つまたは複数の病状を治療するために有用であることを示してもよい。また、ラベルが、本明細書に記載されたもののような投与およびモニタリング手法に関する指示を示してもよい。
【0129】
上記の容器に加えて、本発明のキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収容する第2の容器を含んでもよい。これはさらに、他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用上の説明が記された添付文書を含む、商業上の最終利用者の立場から望まれる他の材料を含んでもよい。
【0130】
組成物を、所望であれば、活性成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含みうるパックまたはディスペンサー装置の中にある形で提供することもできる。パックは、例えば、ブリスターパックのように、金属またはプラスチックのホイルを含みうる。パックまたはディスペンサー装置に、投与のための説明書が添付されていてもよい。また、適合性のある薬学的担体中に製剤化された、本発明のスクリーニング方法によって同定された物質を含む組成物を調製して、適切な容器の中に入れて、記載の病状の治療に関するラベルを付してもよい。
【0131】
別に定義する場合を除き、本明細書で用いるすべての技術的および科学的な用語は、本発明が属する当業者が一般的に理解しているものと同じ意味を持つ。矛盾が生じた場合には、定義を含め、本明細書が優先される。
【0132】
以下では、実施例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の材料、方法、および例は本発明の諸局面を例証しているに過ぎず、本発明の範囲を限定することは全く意図していない。したがって、本明細書で記載したものに類似するか等価である方法および材料を、本発明の実施または検討に用いることができる。
【実施例】
【0133】
[実施例1]:材料および方法
細胞株および臨床試料
ヒト乳癌細胞株(BT−20、HCC1937、MCF7、MDA−MB−231、MDA−MB−435S、SKBR3、T47D、YMB−1、BT−474、BT−549、HCC1143、HCC1500、HCC1599、MDA−MB−157、MDA−MB−453、OUCB−F、およびZR−75−1)、不死化ヒト乳腺細胞株HBL−100、サル腎臓細胞株COS−7、ヒト胎児腎臓線維芽細胞株HEK293T、およびヒト子宮頸癌細胞株HeLaを、American Type Culture Collection(ATCC, Rockville, MD)から購入し、各々の寄託者の推奨に従って培養した。HBC−4およびHBC−5細胞株は、公益財団法人がん研究会がん化学療法センター分子薬理学部門(Division of Molecular Pharmacology, Cancer Chemotherapy Center, Japanese Foundation for Cancer Research)の矢守隆夫博士に寄贈いただいた。ヒト正常乳房上皮細胞株(HMECおよびMCF10A)は、Cambrex Bioscience Inc(Walkersville, MD)から購入した。外科的に切除された乳癌由来の組織試料、およびそれらの対応する臨床情報は、札幌医科大学第一外科(First Department of Surgery, Sapporo Medical University)(北海道)および公益財団法人がん研究会がん研究所病院乳房外科部門(Department of Breast Surgery, The Cancer Institute Hospital of Japanese Foundation for Cancer Research)(東京)から、書面によるインフォームドコンセントを得た上で入手した。本研究、および上記のすべての臨床材料の使用は、個々の施設内倫理委員会によって承認された。
【0134】
半定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析およびノーザンブロット分析
乳癌細胞株および臨床試料から抽出した全RNA由来のcDNAを、以前に記載された通りに調製した(Park, J. H. et al., Cancer Res. 66, 9186-9195 (2006))。PCRプライマー配列は、以下の通りであった:
GAPDHに対して、
5'−CGACCACTTTGTCAAGCTCA−3'(SEQ ID NO:1)および
5'−GGTTGAGCACAGGGTACTTTATT−3'(SEQ ID NO:2);ならびに
GALNT6(GenBank #NM_007210)に対して、
5'−GAGTCCAGGTAAGTGAATCTGTCC−3'(SEQ ID NO:3)および
5'−ATTTCCACCGAGACCTCTCATC−3'(SEQ ID NO:4)。
【0135】
乳癌−ノーザンブロット膜を、以前に記載された通りに調製し(Park, J. H., Lin, M. L., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, Cancer Res. 66, 9186-9195 (2006))、メガプライム(megaprime)DNA標識システム(GE Healthcare, Buckinghamshire, UK)を用いて[α−32P]−dCTPで標識したGALNT6のPCR産物とハイブリダイズさせた。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、以前に記載された通りに行った(Katagiri, T. et al. Cytogenet. Cell Genet. 74, 90-95 (1996))。ブロットを−80℃で14日間、増感スクリーンを用いるオートラジオグラフィーに供した。
【0136】
構築物
GALNT6のオープンリーディングフレーム配列を、以下のプライマーセットとともにKOD−Plus DNAポリメラーゼ(Toyobo、大阪、日本)を用いてRT−PCRによって得た:
5'−CGGAATTCATGAGGCTCCTCCGCAG−3'(SEQ ID NO:5)および
5'−CCGCTCGAGGACAAAGAGCCACAACTGATG−3'(SEQ ID NO:6)
(下線部は、制限酵素の認識部位を示す)。
【0137】
このPCR産物を、C末端のHA−タグとインフレームになるように、pCAGGS−nHAc発現ベクターのEcoRI部位およびXhoI部位に挿入した。GALNT1の酵素活性を保持するために必須であることが報告されている残基(Hagen, F. K., Hazes, B., Raffo, R., deSa, D. & Tabak, L. A. J. Biol. Chem. 274, 6797-6803 (1999))に対応するHis271(H271D)またはGlu382(E382Q)での置換を含む、GALNT6酵素機能不全(enzyme−dead)変異体を構築するために、二段階変異誘発PCR(Park, J. H., Lin, M. L., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, T. Cancer Res. 66, 9186-9195 (2006))を、以下のプライマーセットを用いて行った:
H271Dに対して、
5'−GCTCACGTTCCTGGATGCCACTGTGAGTGCTTCCACGG−3'(SEQ ID NO:7)および
5'−CCGTGGAAGCACTCACAGTGGCATCCAGGAACGTGAGC−3'(SEQ ID NO:8);
E382Qに対して、
5'−CAGATGGAGATCTGGGGAGGGAGAACGTGGAAATGTCCTTC−3'(SEQ ID NO:9)および
5'−GAAGGACATTTCCACGTTCTCCCTCCCCAGATCTCCATCTG−3'(SEQ ID NO:10)
(下線部は、野生型から置換されたヌクレオチドを示す)。
【0138】
配列はすべて、DNAシークエンシングによって確認した(ABI3700, PE Applied Biosystems, Foster, CA)。
【0139】
抗GALNT6特異的抗体の作製
抗GALNT6ポリクローナル抗体を作製するために、GALNT6タンパク質の部分コード配列(コドン35〜179)を、上記のようなRT−PCRにより、以下のプライマーセットを用いて増幅した:
5'−CCGGAATTCGAGGAGGCCACAGAGAAGCC−3'(SEQ ID NO:11)および
5'−CCGCTCGAGGGTGGTGGCCAGTGGGGGGC−3'(SEQ ID NO:12)
(下線部は、制限酵素の認識部位を示す)。
【0140】
これらのPCR産物を、C末端のHis−タグとインフレームになるように、pET28ベクター(Novagen, Madison, WI)のEcoRI部位およびXhoI部位にクローニングした。この部分的組換えGALNT6タンパク質を、以前に記載された通りに(Ueki, T. et al. Oncogene 27, 5672-5683 (2008))、発現させて、精製し、ウサギに接種した。加えて、上記のポリクローナル抗体が限られた量であったため、マウス抗GALNT6モノクローナル抗体も作製した。部分的組換えGALNT6タンパク質(コドン35〜622)を、以下の「組換えGALNT6タンパク質」の項に記載された通りに調製した。以前に記載された通りに(Fukukawa, C. et al. Cancer Sci. 99, 432-440 (2008))、BALB/cマウスの免疫化を行った後に、リンパ節細胞を採取し、骨髄腫細胞株と融合させた。これらのハイブリドーマのサブクローニングを行い、GALNT6タンパク質を認識する能力を評価するためにウエスタンブロットおよび免疫細胞化学染色によってアッセイした。限界希釈の後に、#3G7および#4H11のクローンを、それぞれウエスタンブロットおよび免疫染色分析によって選択した。最後に、#4H11モノクローナル抗体のクローンが、非特異的バンドを全く生じずに、細胞株における内因性GALNT6タンパク質を特異的に認識しうることがウエスタンブロット分析によって確認され、#3G7モノクローナル抗体のクローンが、バックグラウンドシグナルを全く生じることなく、内因性GALNT6タンパク質を特異的に認識しうることが免疫細胞化学染色によって確認された。
【0141】
組換えGALNT6タンパク質
シグナルペプチドをもたないGALNT6の部分コード配列(コドン35〜622)を、以下のプライマーセットを用いてPCRにより増幅した:
5'−ATAAGAATGCGGCCGCAGAGGAGGCCACAGAGAAGCC−3'(SEQ ID NO:13)および
5'−CGCGGATCCGACAAAGAGCCACAACTGATG−3'(SEQ ID NO:14)
(下線部は、制限酵素の認識部位を示す)。
【0142】
このPCR産物を、N末端の免疫グロブリンκ鎖のシグナル配列ペプチド(METDTLLLWVLLLWVPGSTG)(SEQ ID NO:15)とC末端のHis−タグとの間にインフレームとなるように、pQCXIPG−His発現ベクター(医学生物学研究所(Medical and Biological Laboratories)、名古屋、日本)のNotI部位およびBamHI部位にクローニングした。このpQCXIPG−GALNT6−Hisベクターを、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche, Basel, Switzerland)を用いてHEK293細胞にトランスフェクトし、続いて2.0μg/mLのピューロマイシン(Invitrogen, Carlsbad, CA)を含む近似培地中でインキュベートした。2週間にわたる選択の後に、ウシ胎仔血清(FBS)を含まない培地中で細胞を24時間インキュベートし、続いて、分泌されたGALNT6タンパク質を含む培地を収集した。その後に、組換えHis−タグ付加GALNT6タンパク質を、Ni−NTAアガロース(Qiagen, Valencia, CA)を供給元のプロトコールに従って用いて精製した。
【0143】
免疫細胞化学染色
乳癌細胞株T47DおよびMCF7における内因性GALNT6タンパク質の細胞内局在について検討するために、col−Iをコーティングしたガラス製の35mm培養皿(Iwaki、東京、日本)に細胞5×10個を播種した。外因性に発現されたGALNT6タンパク質の細胞効果について検討するためにMCF10A細胞も調製した。48時間のインキュベーション後に、細胞をPBS(−)中4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、4℃のPBS(−)中0.1%Triton X−100で2.5分間にわたって透過化処理を行った。その後に、細胞を4℃のPBS(−)中3%BSAで3時間覆って、非特異的ハイブリダイゼーションをブロックし、それに続いて、抗GALNT6ポリクローナル抗体(1:100に希釈)または抗GALNT6モノクローナル抗体(#3G7、1:300に希釈)とともにインキュベートした。PBS(−)で3回洗浄した後に、細胞を、1:1000に希釈したAlexa488結合抗ウサギ二次抗体またはAlexa594結合抗マウス二次抗体(Molecular Probe, Eugene, OR)で染色した。最後に、4',6'−ジアミジン−2'−フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)によって核を対比染色し、TCS SP2 AOBS顕微鏡(Leica、東京、日本)にて蛍光画像を得た。ゴルジ装置および細胞骨格構造を、それぞれ抗Golgi−58kモノクローナル抗体(Sigma−Aldrich, St. Louis, MO)およびAlexaFluor−594ファロイジン(Molecular Probe)による染色によって可視化した。
【0144】
免疫組織化学染色
以前に記載された通りに(Park, J. H., Lin, M. L., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, T. Cancer Res. 66, 9186-9195 (2006), Ueki, T. et al. Oncogene 27, 5672-5683 (2008))、パラフィン包埋した乳癌標本および正常標本のスライドを、抗GALNT6ポリクローナル抗体(1:30に希釈)、抗GALNT6モノクローナル抗体(#3G7、1:40に希釈)および抗MUC1モノクローナル抗体(#VU4H5、1:50に希釈;Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)のそれぞれによって染色した。正常ヒト臓器における免疫組織化学染色については、本発明者らは、心臓、肺、肝臓、および腎臓の組織切片を、BioChain Institute Inc.(Hayward, CA)から購入した。
【0145】
ウエスタンブロット分析
乳癌細胞における内因性のGALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質の発現を検出するために、細胞を、0.1%プロテアーゼ阻害剤カクテル III(Calbiochem, San Diego, CA)を含むNP−40溶解緩衝液(50mM Tris−HCl/pH 8.0/150mM NaCl/0.5%NP−40)で溶解させた。ホモジナイゼーションの後に、細胞溶解物を氷上で30分間インキュベートし、18,000×gで15分間遠心分離して、上清のみを収集した。タンパク質アッセイキット(Bio−Rad, Hercules, CA)による全タンパク質の定量後に、各試料をSDS−試料緩衝液と混合し、煮沸した後に、SDS−PAGEゲルにロードした。電気泳動の後に、タンパク質をニトロセルロース膜(GE Healthcare)に移した。タンパク質がブロットされた膜は、4%BlockAce溶液(大日本製薬(Dainippon Pharmaceutical)、大阪、日本)によって一晩かけてブロックした上で、抗GALNT6ポリクローナル抗体、または抗GALNT6(#4H11)、抗MUC1(#VU4H5)、抗β−カテニン(#E−5、Santa Cruz Biotechnology)、抗E−カドヘリン(BD Biosciences, San Jose, CA)、および抗β−アクチン(Sigma−Aldrich)モノクローナル抗体とともにインキュベートした。特に、抗MUC1モノクローナル抗体(#VU4H5)はさまざまな分子量の内因性MUC1タンパク質を認識することができ、このことは、VNTR(可変数タンデム反復)を含む遺伝子、およびホモ二量体またはヘテロ二量体を形成するタンパク質の、その構造的特徴によって説明することができる(Gendler, S. J. et al. J. Biol. Chem. 265, 15286-15293 (1990), Thathiah, A., Blobel, C. P. & Carson, D. D. J. Biol. Chem. 278, 3386-3394 (2003))。最後に、膜をHRP結合二次抗体(Santa Cruz Biotechnology)とともにインキュベートして、ECL検出試薬(GE Healthcare)によってタンパク質バンドを可視化した。
【0146】
VVA−レクチンブロットおよびプルダウン
GalNAcが結合したタンパク質を検出するために、レクチンウエスタンブロットを以前に記載された通りに実施した(Qiu, Y. et al. J. Proteome Res. 7, 1693-1703 (2008))。手短に述べると、関心対象の糖タンパク質を含む全細胞溶解物を、SDS−PAGE後にニトロセルロース膜(GE Healthcare)に移した。膜をTBST中の5%BSAによって4℃で一晩ブロックし、それに続いて、3%BSAを含むTBST中の0.5μg/mLのビオチン結合VVAレクチン(EY laboratories, San Mateo, CA)とともに1時間インキュベートした。続いて膜を洗浄し、1:20,000に希釈したストレプトアビジンHRP(BD Biosciences)とともに30分間インキュベートした。3回洗浄した後に、ECL検出試薬(GE Healthcare)によってシグナルを可視化した。同様に、ビオチン−VVAレクチンに結合したタンパク質の、ストレプトアビジンアガロース(Invitrogen)によるプルダウンも、以前に記載された通りに行った(Seales, E. C., Jurado, G. A., Singhal, A. & Bellis, S. L. Oncogene 22, 7137-7145 (2003))。
【0147】
RNA干渉(RNAi)による遺伝子サイレンシング
乳癌細胞における内因性GALNT6発現をノックダウンするために、以前に記載された通りに(Shimokawa, T. et al. Cancer Res. 63, 6116-6120 (2003))、psiU6BX3.0ベクターを、標的遺伝子に対する低分子ヘアピンRNA(shRNA)の発現のために用いた。GALNT6に対するshRNA用の合成オリゴヌクレオチドの標的配列は、表1に示されている。FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を供給元の推奨に従って用いて、shRNA発現ベクターのそれぞれをT47D細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションから10日後に、GALNT6発現に対するノックダウン効果を評価するために、上記の通りのプライマーセットを用いて半定量的RT−PCRを行った。細胞生存度は、以前に記載された通りに(Park, J. H., Lin, M. L., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, T. Cancer Res. 66, 9186-9195 (2006))、MTTアッセイおよびコロニー形成アッセイによって定量した。GALNT6またはMUC1をノックダウンした細胞における初期効果を検討するために、sh−G6−2の標的配列に対応する合成二重鎖siRNA(Sigma Aldrich Japan KK、東京、日本);si−EGFP(5'−GCAGCACGACUUCUUCAAG−3')(SEQ ID NO:16)およびsi−GALNT6(5'−GAGAAAUCCUUCGGUGACA−3')(SEQ ID NO:17)も用いた。si−MUC1(5'−GUUCAGUGCCCAGCUCUAC−3')(SEQ ID NO:18)は、以前の報告(Ren, J. et al. Cancer Cell 5, 163-175 (2004))に従って合成した。乳癌細胞(MCF−7、T47D、およびSKBR−3)を6cm培養皿(2×10個/培養皿)に播種し、Lipofectamine RNAiMAX試薬(Invitrogen)を製造元の指示書に従って用いて、各100pmolの合成二重鎖siRNAをトランスフェクトした。4日後に、標的タンパク質のノックダウンおよび対応する細胞形態を、ウエスタンブロットおよび免疫細胞化学によってモニターした。
【0148】
(表1)shRNA発現ベクター中に挿入された二本鎖オリゴヌクレオチドの配列

ミスマッチオリゴヌクレオチドは、いくつかの内部塩基の置換によってsh−G6−2から設計された。
【0149】
細胞剥離アッセイ
培養皿に対する細胞付着の強度を、「細胞剥離アッセイ」(Gordon, P. B., Levitt, M. A., Jenkins, C. S. & Hatcher, V. B. J. Cell Physiol. 121, 467-475 (1984), Uzdensky, A., Kolpakova, E., Juzeniene, A., Juzenas, P. & Moan, J. Biochim. Biophys. Acta 1722, 43-50 (2005))によって定量した。手短に述べると、T47D細胞を、si−EGFP、si−GALNT6、またはsi−MUC1によるトランスフェクション後に、6ウェルプレート培養皿に1ウェル当たり1×10個で(三連で)播種した(上記参照)。4日後に、生細胞の総数を、Cell Counting Kit−8(同仁化学研究所(Dojindo)、熊本、日本)を用いて、MTTアッセイ(1回目のMTT)によって評価した。続いて、MTT試薬をPBS(−)による洗浄によって除去し、細胞を、PBS(−)中5mM EDTAを含む解離用溶液とともに10分間インキュベートした。解離した細胞をPBS(−)による洗浄によって除去し、新たな培地とともに12時間インキュベートした。その後に、残った細胞の総数をMTTアッセイ(2回目のMTT)によって推測した。細胞付着の強度は、出発時の細胞(1回目のMTT)に対する、残った細胞(2回目のMTT)のパーセンテージによって算出した。
【0150】
GALNT6を安定して発現する形質転換体の樹立
モック(挿入物を有しないもの)またはpCAGGS−GALNT6(WTおよびH271D)−HA発現ベクターを、FuGENE6トランスフェクション試薬(Roche)を用いてHeLa細胞にトランスフェクトした。続いて、陽性クローンを、0.8mg/mLのネオマイシン(Geneticin, Invitrogen)を含む培地とのインキュベーション下で選択した。2週後に、安定形質転換体を限界希釈によって選択し、HA−タグ付加GALNT6タンパク質(WTおよびH271D)を安定して発現するクローンに関してスクリーニングした。最後に、モック(#001、003、および006)、WT(#101、110、および304)、およびH271D(#102、212、および114)の個々のクローンが単離された。
【0151】
インビトロGalNAc−トランスフェラーゼアッセイ
シグナルペプチドをもたない、組換えGALNT6タンパク質の一部分の長さ(アミノ酸35〜622)を、HEK293T安定形質転換体(上記参照)から精製した。基質としては、MUC1タンパク質のタンデム反復に由来するMUC1−a(AHGVTSAPDTR)(SEQ ID NO:26)およびMUC1−b(RPAPGSTAPPA)(SEQ ID NO:27)ペプチドを、Sigma−Aldrich Japan(東京、日本)にて合成し、以前に報告された通りに蛍光標識(ダンシル化、DNS)した(Takegawa, K. et al. J. Biol. Chem. 270, 3094-3099 (1995), Bennett, E. P. et al. J. Biol. Chem. 274, 25362-25370 (1999))。インビトロGalNAc−トランスフェラーゼアッセイに関しては、25mM Tris−HCl(pH 7.4)、10mM MnCl、50μM UDP−GalNAc、4μM DNS−MUC1ペプチド、および0.5μgの組換えGALNT6タンパク質を含む50μlの反応混合物中で反応を行った。反応混合物を37℃で10分間〜16時間インキュベートし、100℃で2分間加熱することによって停止させた。最後に、反応混合物を遠心分離し、その上清を、Wakosil 5C18カラム(4.6×250mm)(Wako、大阪、日本)を用い、0.1%トリフルオロ酢酸で平衡化し、直線的なアセトニトリル勾配(40分で40%に)を流速1.0mL/分で用いて溶出させるHPLCによって分析した。産物を蛍光(励起波長313nm;発光波長540nm)によって検出した。GalNAc結合の確認のために、反応させた試料をアクレモニウム種α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ(GalNAcアーゼ)(生化学バイオビジネス株式会社(Seikagaku Biobusiness)、東京、日本)とともにさらにインキュベートし、結合したGalNAcをMUC1−aペプチドから除去した。
【0152】
統計分析
統計学的有意性は、Statview 5.0ソフトウエア(SAS Institute)を用いてスチューデントのt検定によって計算した。p<0.05の差を統計学的に有意と考えた。
【0153】
[実施例2]乳癌において上方制御されるGALNT6の同定
ゲノムワイド遺伝子発現プロファイルに関する以前の研究を通じて(Nishidate, T. et al. Int. J. Oncol. 25, 797-819 (2004), Saito-Hisaminato, A. et al. DNA Res. 9, 35-45 (2002))、酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が、報告済みの情報またはSMARTプログラム(http://smart.embl−heidelberg.de)によるコンピュータを利用した予測によって同定され、さらなる研究のために選択されている。そのうちの特に1つ「O−グリコシルトランスフェラーゼをコードするGALNT6遺伝子」は、乳癌に対する薬物標的と推定されている。検討した12例の臨床乳癌標本のうち7例、および19種の乳癌細胞株のうち12種におけるその上方制御が、半定量的RT−PCR分析によって確認された(図1i)。その後のノーザンブロット分析により、乳癌細胞株における、そのおよそ5kbの転写物の過剰発現が明らかとなったが、一方、正常ヒト臓器ではその発現はほとんど検出できず(図1j)、これはcDNAマイクロアレイ分析の結果に一致した。ウサギポリクローナル抗体および2種類のマウスモノクローナル抗体(#3G7および#4H11)をその後に作製したが、これらはすべて、乳癌細胞における内因性GALNT6タンパク質(約75kDa)を認識することができ、SDS−PAGEおよび免疫細胞化学染色において、いかなる非特異的バンドもバックグラウンドシグナルも生じなかった(図3a〜c)。免疫組織化学染色分析により、乳癌組織におけるその強い染色が明らかになったが(図1a)、一方、正常乳管細胞、肺、心臓、肝臓、および腎臓を含む正常ヒト組織では陽性染色は認められず(図1b〜f)、これはノーザンブロット分析の結果に一致した。
【0154】
乳癌細胞におけるGALNT6タンパク質の特性をさらに特徴づけるために、T47D乳癌細胞における内因性GALNT6タンパク質の細胞内局在を、抗GALNT6ポリクローナル抗体を用いた免疫細胞化学染色によって調べた。その結果から、ゴルジマーカーであるGolgi−58kとの共染色による評価で、GALNT6タンパク質はT47D細胞のゴルジ複合体で明らかに観察された(図1g)。同様に、乳癌組織切片でもゴルジ複合体におけるGALNT6タンパク質の強い染色が観察された(図1h)。
【0155】
[実施例3]GALNT6のノックダウン
乳癌細胞におけるGALNT6過剰発現の生物学的意義を調べるために、GALNT6の内因性発現をノックダウンするための低分子ヘアピンRNA(shRNA)発現ベクターを作製した(sh−G6−1およびsh−G6−2)。sh−G6−1およびsh−G6−2のT47D細胞への導入はいずれも、細胞増殖の抑制を伴うGALNT6発現の有意な低下をもたらすが、一方、対照shRNAベクターをトランスフェクトした細胞では全く変化が観察されないことが見いだされた(図2a、左)。その上、GALNT6に対するsh−G6−2の特異性の結果も、2つのミスマッチshRNA(sh−mis−1およびsh−mis−2)を用いて確認された(図2a、右)。GALNT6ノックダウンの効果についてさらに検討するために、GALNT6に対する合成オリゴ−二重鎖siRNA(si−GALNT6)をT47D細胞に導入した。興味深いことに、siRNAのトランスフェクションから4日後に、GALNT6枯渇(si−GALNT6)細胞は、対照si−EGFPをトランスフェクトした細胞と比較して、丸い形状および細胞サイズ拡大を示した(図2b)。si−GALNT6によって引き起こされたこれらの形態変化を、細胞形状を明らかにするための蛍光標識ファロイジンによる免疫染色によってさらに評価した(図2c、d)。
【0156】
[実施例4]GALNT6によるMUC1の安定化
GALNT6枯渇細胞の外観は、MUC1をノックダウンした細胞の外観に極めて類似していた(Wesseling, J., van der Valk, S. W., Vos, H. L., Sonnenberg, A., Hilkens, J. J. Cell Biol. 129, 255-265 (1995), Yuan, Z., Wong, S., Borrelli, A. & Chung, M. A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 362, 740-746 (2007))。MUC1はGALNTファミリーの候補基質の1つであることが報告されていたため(Bennett, E. P. et al. J. Biol. Chem. 274, 25362-25370 (1999))、乳癌細胞株T47D、MCF7、およびSKBR3を用いて、GALNT6のノックダウン効果をsiRNAによるMUC1のノックダウン効果と比較した。まず、図5aに示されているように、乳癌細胞における内因性MUC1を特異的に認識しうる抗GALNT6モノクローナル抗体(#3G7)および抗MUC1モノクローナル抗体(クローン#VU4H5)を用いたウエスタンブロット分析により、GALNT6およびMUC1の発現のノックダウンを確認した(データは示さず)。予想された通り、検討した3種の細胞株のすべてにおいて、GALNT6またはMUC1のいずれの枯渇も、極めて類似した形態変化(丸い形状および細胞サイズ拡大)および細胞増殖の減弱を引き起こした(図5b、c)。これらの知見により、GALNT6が、おそらくはMUC1の修飾による、細胞骨格構造の制御を通じた乳癌細胞の増殖にとって不可欠である可能性が高いことが示された。
【0157】
GALNT6とMUC1との相互作用をさらに詳細に調べるために、T47D細胞において、GALNT6発現をsiRNAによってノックダウンし、MUC1タンパク質に対するその効果を検討した。GALNT6タンパク質のノックダウンは細胞質内MUC1タンパク質の減少を誘導したものの(トランスフェクションから4日後;図4a、b)、MUC1の転写レベルは不変であったことが見いだされた(図4a)。別の細胞株であるMCF7を用いた場合にも同様の結果が観察され(図7a、b)、このことは、GALNT6が乳癌細胞におけるMUC1タンパク質の翻訳後修飾および安定化に影響を及ぼす可能性を示唆している。続いて、GALNT6タンパク質を発現するように設計したプラスミドを、GALNT6発現レベルが極めて低いMCF10A細胞に導入した(図3b)。免疫細胞化学染色により、GALNT6の導入による細胞質内MUC1タンパク質のシグナル強度の顕著な増大が実証されたが(図4c、矢印)、これはGALNT6がMUC1タンパク質の安定化のために重要な役割を果たすという仮説をさらに裏づけるものである。加えて、乳癌細胞におけるこれらの2種の分子の発現レベルを抗GALNT6および抗MUC1モノクローナル抗体を用いるウエスタンブロット分析によって検討したところ、GALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質は、検討した乳癌細胞株および臨床癌組織切片では共に過剰発現されるが、HMEC細胞および正常乳管細胞ではいずれのタンパク質も発現されないことが見いだされた(図4d、図9)。以上を総合すると、これらの知見は、GALNT6タンパク質の上方制御が、MUC1癌タンパク質の安定化を通じて乳癌発生に寄与することを暗示している。
【0158】
[実施例5]GALNT6はインビトロおよびインビボでMUC1をO−グリコシル化する
GALNT6がMUC1を基質としてO−グリコシル化するか否かを調べるために、組換え野生型GALNT6(WT)および不活性GALNT6変異タンパク質(H271DおよびE382Q)を作製し、MUC1タンパク質のタンデム反復断片に対応するMUC1ペプチド(MUC1−aおよびMUC1−b)を用いてインビトロGalNAc−トランスフェラーゼアッセイを行った。WT−GALNT6は、10分間のインキュベーション中に、図6a中の左方移動したバンドによって示されるように、MUC1ペプチドを急速にO−グリコシル化した。一方、変異GALNT6タンパク質(H271DおよびE382Q)は、16時間のインキュベーションによっても、GalNAcをMUC1ペプチドに転移させることができなかった(左方移動するバンドが現れなかった)(図6b)。加えて、GalNAcアーゼによる処理が、WT−GALNT6によって転移されたGalNAcを除去し、MUC1−aペプチドの左方移動ピークを回復させることも確認された(図6c)。
【0159】
GALNT6タンパク質の外因性導入によって、インビボで内因性MUC1タンパク質がグリコシル化されうるか否かをさらに調べるために、安定したGALNT6発現が確立したHeLa由来細胞を用いて、抗MUC1モノクローナル抗体によるウエスタンブロット分析を行った;モックまたはH271D発現ベクターを導入したものを対照として用いた(モック、WT、およびH271D;材料および方法を参照)。WT−GALNT6を用いた細胞(クローン番号101、110、および304)では、最も高い分子量のMUC1タンパク質(>250kDa)が観察されたが、モック(クローン番号001、003、および006)またはH271Dを用いた細胞(クローン番号102、212、および114)では、移動したバンドは観察されなかった(図6d)。その上、O−グリコシル化(GalNAc)MUC1タンパク質に対応する移動したMUC1タンパク質は、抗MUC1モノクローナル抗体による免疫沈降に続いてVVA−レクチンブロットを行うことによっても(図6e)、それを逆に行うことによっても確認された(図6f)。GALNT6がインビボでMUC1タンパク質を安定化させるか否かをさらに検討するために、WT構築物またはH271D構築物をMCF10A正常上皮細胞にトランスフェクトした後に、抗HA抗体および抗MUC1抗体による免疫細胞化学染色を行った(図6g)。WT−GALNT6形質転換体ではMUC1タンパク質のシグナル強度が増強したが(上のパネル中の矢印)、一方、H271DはMUC1のそれに影響せず(下のパネル中の矢印)、このことは、GALNT6により媒介されるMUC1タンパク質のグリコシル化がMUC1タンパク質の安定化のために重要であることを示唆している。
【0160】
[実施例6]GALNT6およびMUC1は細胞骨格制御に関与する
MUC1は細胞接着を崩壊させることが報告されていたため(Yuan, Z., Wong, S., Borrelli, A. & Chung, M. A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 362, 740-746 (2007), Schroeder, J. A., Adriance, M. C., Thompson, M. C., Camenisch, T. D. & Gendler, S. J. Oncogene 22, 1324-1332 (2003))、発癌におけるその関与が報告されている2つの細胞接着分子であるβ−カテニンおよびE−カドヘリンの、GALNT6−MUC1経路における関わりについて検討した。T47D乳癌細胞におけるGALNT6およびMUC1の発現をsiRNAによってノックダウンした。半定量的RT−PCRおよびウエスタンブロット分析の結果から、GALNT6またはMUC1のいずれのノックダウンも、これらの細胞接着分子の量をタンパク質レベルで顕著に増大させるが(図8a、上のパネル)、それらの転写レベルは変化させないことが確認された(図8a、下のパネル)。T47D細胞をGALNT6ノックダウンの実施下または非実施下で抗β−またはE−カドヘリンモノクローナル抗体(図8b、c)を用いて免疫染色したところ、β−カテニン(図8b)およびE−カドヘリン(図8c)タンパク質のより強い染色を伴う細胞形態変化(丸い形状およびサイズ拡大)が同定された。MUC1枯渇T47D細胞での結果は、GALNT6枯渇細胞のものとかなり類似していた(図10)。細胞接着複合体の増加はプレート培養皿に対する細胞の接着を強化すると考えられるため、「細胞剥離アッセイ」(材料および方法を参照)を行ったところ、MUC1発現レベルと細胞付着の強度との間に逆相関が見いだされた(図11)。
【0161】
考察
すべてのヒト遺伝子のうち、およそ2000〜3000種の遺伝子は薬物タンパク質をコードすると推測されており、これには膜または核内受容体、イオンチャンネル、プロテインキナーゼ、および他の酵素が含まれる(Clarke, P. A., te Poele, R. & Workman, P. Eur. J. Cancer 40, 2560-2591 (2004))。正常細胞と癌細胞との大規模セット間での全ゲノム発現プロファイルの比較は、抗癌薬の開発のための潜在的標的を同定するための有効なアプローチであると考えられている(Stoughton, R. B. & Friend, S. H. Nature Rev. Drug Discov. 4, 345-350 (2005))。
【0162】
薬物、特に抗癌剤によって引き起こされる有害反応の軽減は、臨床管理において解決されるべき極めて深刻な問題の1つであるため、本発明は、癌細胞では通常上方制御されるが、正常ヒト臓器では発現されないかまたは検出不能な程度でしか発現されない癌特異的分子の単離に焦点を合わせた(Nishidate, T. et al. Int. J. Oncol. 25, 797-819 (2004), Saito-Hisaminato, A. et al. DNA Res. 9, 35-45 (2002))。数多くの癌特異的分子が同定され、癌治療法の開発への適用可能性に向けて特性が特徴づけられている(Park, J. H., Lin, M. L., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, T. Cancer Res. 66, 9186-9195 (2006), Lin, M. L., Park, J. H., Nishidate, T., Nakamura, Y. & Katagiri, T. Breast Cancer Res. 9, R17 (2007), Kanehira, M. et al. Cancer Res. 67, 3276-3285 (2007), Fukukawa, C. et al. Cancer Sci. 99, 432-440 (2008))。
【0163】
本発明に関しては、O−グリコシルトランスフェラーゼをコードする新規乳癌特異的分子であるGALNT6を特徴づけ、乳癌細胞の増殖におけるその重要な役割を示すことにより、それが癌の薬物標的としての可能性を有することが実証された。
【0164】
O型グリコシル化は、さまざまな糖タンパク質のフォールディング、安定性、およびターゲティングに関する複数の機能を有する、一般的にみられる多くの修飾の1つであり、ゴルジ複合体の中のGALNTファミリーに属するメンバーによって惹起される(Carraway, K. L. 3rd, Funes, M., Workman, H. C. & Sweeney, C. Curr. Top. Dev. Biol. 78, 1-22 (2007))。蓄積している証拠は、GALNTファミリーのメンバーが、各メンバーに特異的な基質を触媒することにより、いくつかの細胞機能に関与することを示唆している。例えば、GALNT3によるグリコシル化は、FGF23(線維芽細胞増殖因子23)のタンパク質分解プロセシングを防止し、GALNT14によるグリコシル化は、リガンドにより刺激されるデス受容体のクラスター化を促進する(Wagner, K. W. et al. Nature Med. 13, 1070-1077 (2007), Ichikawa, S. et al. Endocrinology 150, 2543-2550 (2009))。
【0165】
乳癌細胞では、タンパク質のグリカン構造の異常がしばしば観察される(Brockhausen, I. EMBO Rep. 7, 599-604 (2006))。本発明における免疫染色分析により、乳癌細胞のゴルジ装置ではGALNT6の極めて強い染色が認められるが、隣接する正常細胞では染色が全く認められないことが明らかになった。このことは、タンパク質のグリコシル化による乳癌発生における、GALNT6の潜在的役割を示唆している。その後のsiRNAによるGALNT6のノックダウン実験により、丸い形状および細胞サイズ拡大などの形態変化、ならびに癌細胞の増殖の抑制が検出された。このことから、乳癌細胞におけるGALNT6過剰発現は、細胞骨格構造の制御、さらには乳癌細胞の増殖とも密接につながっていると考えられた。GALNT6枯渇細胞で観察された形態変化はMUC1枯渇細胞のものとよく似ていた(Wesseling, J., van der Valk, S. W., Vos, H. L., Sonnenberg, A., Hilkens, J. J. Cell Biol. 129, 255-265 (1995);Yuan, Z., Wong, S., Borrelli, A. & Chung, M. A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 362, 740-746 (2007))。MUC1は発癌機能を有する周知の糖タンパク質であるため、GALNT6とMUC1との相互作用の可能性について考察した。その後に、siRNAによってGALNT6を枯渇させた癌細胞におけるMUC1タンパク質の減少が、イムノブロット分析および免疫染色分析を通じて見いだされた。O型グリコシル化は、MUC1再利用時のタンパク質安定性を制御する手段であることが示唆されているため(Altschuler, Y. et al. Mol. Biol. Cell 11, 819-831 (2000))、GALNT6によるMUC1のグリコシル化の活性化により、MUC1の安定性が強化されうるとの仮説を立てた。GALNT6タンパク質の発現レベルが極めて低いMCF10A細胞におけるGALNT6の外因的導入は、MUC1タンパク質の免疫染色の増強をもたらした。このことは、本発明の中心的仮説をさらに裏づけるものである。さらに、これらの知見は、乳癌細胞および臨床乳癌組織でGALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質がしばしば共に上方制御されることを実証している。
【0166】
続いて、MUC1タンパク質を、GALNT6タンパク質の候補基質として調べた。MUC1ペプチドを用いてインビトロ酵素アッセイをまず行い、野生型GALNT6(WT−GALNT6)組換えタンパク質はインビトロでMUC1をO−グリコシル化するが、酵素機能不全GALNT6変異体(H271DおよびE382Q)はそれを行わないことを実証した。さらに、WT−GALNT6およびH271D−GALNT6を安定して発現する細胞を樹立し、これを用いて、WT−GALNT6タンパク質はインビボでMUC1のO−グリコシル化を誘導するが、H271D−GALNT6変異体はそれを行わないことを実証した。このことは、GALNT6タンパク質がインビトロでもインビボでもMUC1をO−グリコシル化しうることを示唆している。
【0167】
GALNT6とMUC1との相互作用の生物学的意義をさらに特徴づけるために、β−カテニンおよびE−カドヘリンの状態を検討したが、これは、これらの2種の分子が発癌に関与し、さらに細胞形態の制御においても重要であることが知られているためである。以前の報告によれば、MUC1はその細胞質尾部との相互作用を通じてβ−カテニンを捕捉し、それによって細胞接着分子の複合体生成を阻害する可能性が高い(Yuan, Z., Wong, S., Borrelli, A. & Chung, M. A. Biochem. Biophys. Res. Commun. 362, 740-746 (2007), Schroeder, J. A., Adriance, M. C., Thompson, M. C., Camenisch, T. D. & Gendler, S. J. Oncogene 22, 1324-1332 (2003))。GALNT6−MUC1経路は、これらの2種の分子の安定化および局在、ならびに細胞接着複合体の形成において極めて重要な役割を果たしていることが本明細書において見いだされた。GALNT6/MUC1により媒介される細胞接着の崩壊を定量化するため、細胞剥離アッセイを行った。その結果から、付着(細胞−対−培養皿)が、以前の知見に一致して(Wesseling, J., van der Valk, S. W., Vos, H. L., Sonnenberg, A., Hilkens, J. J. Cell Biol. 129, 255-265 (1995))、MUC1タンパク質の蓄積によって明らかに阻害されることが実証された。
【0168】
以上をまとめると、本発明の知見は、図8dに記載された機序を示唆している。乳癌細胞において、GALNT6の上方制御は、そのグリコシル化活性を通じてMUC1タンパク質を安定化させるようにみえる。それに続いて、グリコシル化されたMUC1タンパク質の蓄積がβ−カテニンおよびE−カドヘリンなどの細胞接着分子の異常を誘導し、その結果、抗接着効果をもたらすようにみえる。加えて、β−カテニンの蓄積は、Tcf−シグナル伝達経路も強化することが実証されている。結腸癌細胞における実験データにより、β−カテニンが、Tcf/LEF転写複合体と相互作用しうるその能力を通じて癌タンパク質として機能し、核に移行して、c−mycおよびサイクリンD1などの癌遺伝子をトランス活性化することが示されている(He, T. C. et al. Science 281, 1509-1512 (1998), Shtutman, M. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 5522-5527 (1999))。その上、増強されたMUC1タンパク質は、一部にはEGFR、c−Src、Grb2、およびER−αとの相互作用によって癌細胞増殖を促進するが(Singh, P. K. & Hollingsworth, M. A. Trends Cell Biol. 16, 467-476 (2006), Wei, X., Xu, H. & Kufe, D. Mol. Cell 21, 295-305 (2006))、乳癌細胞におけるGALNT6−MUC1経路の正確な機序を解明するためには、さらに掘り下げた分析が必要と考えられる。
【0169】
産業上の利用可能性
本明細書に提示されたデータは、癌の包括的理解の一助となり、新規な診断戦略の開発を助長し、治療薬および予防剤の分子標的の同定の手がかりを提供する。そのような情報は、腫瘍形成のより深い理解に貢献し、癌の診断、治療、そして究極的には予防のための新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0170】
特に、本明細書におけるデータは、癌、特に乳癌の診断、治療、および予防における薬物標的としての、GALNT6およびMUC1の重要な役割を確認するものである。上述した通り、GALNT6は乳癌の大多数で上方制御されており、かつ乳癌発生においてムチン型O−グリコシル化を惹起させる原因となるグリコシルトランスフェラーゼをコードする。低分子干渉RNA(siRNA)によるGALNT6およびMUC1のノックダウンにより、細胞接着機能が有意に強化され、乳癌細胞の増殖が抑制された。ウエスタンブロット分析および免疫細胞化学分析により、野生型GALNT6タンパク質が、癌タンパク質のMUC1をグリコシル化して安定化させうることが示された。
【0171】
免疫組織化学染色分析により、乳癌標本においてGALNT6タンパク質およびMUC1タンパク質が共に上方制御されていることが確認された。さらに、GALNT6またはMUC1のノックダウンは、細胞接着分子であるβ−カテニンおよびE−カドヘリンの増加を伴う、癌細胞の類似した形態変化(丸い形状およびサイズ拡大)を導いた。以上を総合すると、本明細書におけるデータは、GALNT6の過剰発現が、MUC1タンパク質の異常なグリコシル化および安定化を通じて乳癌発生に寄与しること、およびそれ故に、GALNT6タンパク質の酵素活性の阻害剤が、乳癌に対する治療手法の開発において価値のある標的として役立ちうることを示唆している。
【0172】
したがって、本発明は、GALNT6タンパク質とMUC1タンパク質との間の相互作用を指標として用いる、薬物候補に関するスクリーニング方法を提供することにより、新規な癌治療戦略の開発に寄与しうる。
【0173】
本明細書中に引用したすべての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0174】
加えて、本発明を詳細に、その具体的な態様を参照しながら説明してきたが、前記の説明は例示的および説明的な性質のものであり、本発明およびその好ましい態様を例証することを意図したものであることが理解されるべきである。慣行的な実験を通じて、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、さまざまな変更および改変を加えることができることを容易に認識するであろう。したがって、本発明は上記の説明によって定義されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびその等価物によって定義されることを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、癌を治療もしくは予防するための、またはGALNT6ポリペプチドとMUC1ポリペプチドとの間の結合を阻害するための候補物質をスクリーニングする方法:
(a)被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物を、MUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物と接触させる段階;
(b)ポリペプチド間の結合を検出する段階;および
(c)ポリペプチド間の結合を阻害する被験物質を選択する段階。
【請求項2】
GALNT6ポリペプチドの機能的等価物が、GALNT6ポリペプチドのMUC1結合ドメインを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
MUC1ポリペプチドの機能的等価物が、MUC1ポリペプチドのGALNT6結合ドメインを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
以下の段階を含む、癌を治療もしくは予防するための、またはGALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化を阻害するための候補物質をスクリーニングする方法:
(a)被験物質の存在下、GALNT6ポリペプチドまたはその機能的等価物と基質とを、GALNT6ポリペプチドによる基質のグリコシル化に適した条件下でインキュベートする段階;
(b)基質グリコシル化レベルを検出する段階;および
(c)基質グリコシル化レベルを対照レベルと比較する段階であって、該対照レベルと比較したグリコシル化レベルの上昇または低下は、その被験物質が基質に対するGALNT6ポリペプチドのグリコシル化活性を調節することを示す、段階;
(d)基質に対するGALNT6ポリペプチドのグリコシル化活性を阻害する被験物質を選択する段階。
【請求項5】
GALNT6ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:29の271位のヒスチジン残基および/または382位のグルタミン酸残基を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
基質がMUC1ポリペプチドまたはその機能的等価物である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
MUCポリペプチドの機能的等価物が、MUC1ポリペプチドの可変数タンデム反復(VNTR)ドメインに由来するペプチド断片を含み、そのペプチド断片が1個または複数個のセリン残基および/またはトレオニン残基を含む、請求項1または請求項6記載の方法。
【請求項8】
MUC1ポリペプチドの機能的等価物が、SEQ ID NO:26(MUC1−a)またはSEQ ID NO:27(MUC1−b)のアミノ酸配列を含む、請求項1または請求項6記載の方法。
【請求項9】
癌が乳癌である、請求項1または請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−503321(P2013−503321A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510471(P2012−510471)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際出願番号】PCT/JP2010/005115
【国際公開番号】WO2011/024412
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】