説明

乳脂肪クリームとその製造方法

【課題】乳由来の良好な風味を有する乳脂肪クリームについて、乳脂肪率35%未満の低脂肪タイプでありながら、常に安定して良好なホイップ性を得られる乳脂肪クリームを提供する。
【解決手段】クリームを急冷した後、一時的な加温処理を行い冷却することにより得られる、常に安定的で良好なホイップ性を有する脂肪率27%以上35%未満の乳脂肪クリームが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳から分離したクリームを脂肪調整した乳等省令上の[種類別]クリーム(以下、乳脂肪クリームということもある)において、脂肪率27%以上35%未満においても、常に安定的で良好なホイップ性を有する乳脂肪クリームとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製菓、製パン、デザートの製造等においてトッピングやフィリングに用いるホイップ用のクリームとして、乳から分離した[種類別]クリームや、乳脂肪や植物脂肪を原料とし、乳化剤や安定剤で乳化させた合成クリームが用いられている。近年の健康志向の高まりから、ホイップ用のクリームについても、脂肪率の少ない低脂肪タイプを要望する声が多い。合成クリームについては、配合油脂の選択の自由度が高く、また乳化剤や安定剤の組み合わせも多種多様な選択が可能であることから、ホイップ性と液状安定性に優れた多くのクリームが上市されている。その脂肪率も40〜50%の通常タイプから、30%前後の低脂肪タイプまで幅広い。しかし合成クリームは、芳醇でフレッシュな乳の風味に欠けることから、風味の面で乳脂肪クリームに敵わない。
【0003】
一方で、乳脂肪クリームは、乳から分離したクリーム、もしくは乳から分離したクリームを殺菌処理したものを生乳で脂肪調整した後、均質、殺菌、再均質、冷却して製造されるのが一般的である。この工程の中で、安定な物性を付与するための乳化剤や安定剤を付与することは許可されておらず、物性制御のための因子は製造条件に限られている。このため、低脂肪タイプでありながら良好なホイップ性を有する乳脂肪クリームの調製は非常に難しく、実際に、これまで上市されているホイップ用の乳脂肪クリームは、脂肪率35%以上であり、脂肪率35%未満のホイップ用の種類別クリームは上市されていない現状にある。
【0004】
すなわち、このような従来法により、脂肪率35%未満の低脂肪タイプの乳脂肪クリームを調製した場合、ホイップ性が季節により変動したり、日間でもホイップ性の誤差が大きく、常に安定して良好なホイップ性を有するクリームを調製することは非常に困難である。例えば、ホイップ時の起泡性試験(非特許文献1参照)をしても、ホイップ終点まで到達する場合としない場合がある。そのため、乳由来の良好な風味を有する乳脂肪クリームについて、脂肪率35%未満の低脂肪タイプでありながら、常に安定して良好なホイップ性を得られる製品が求められている。
【0005】
[種類別]クリームについては、前述のように乳化剤や安定剤の添加による物性付与が不可能であるため、製造工程からの物性制御が考えられる。製造工程における冷却工程からの物性付与について、冷却工程の最終温度を15〜30℃に制御する方法(特許文献1参照)が報告されているが、合成クリームにおけるホイップ後の保形性を付与するための方法であり、乳脂肪クリームではない。また、冷却工程において一旦7〜25℃まで冷却し、その温度で1〜30分保持後再度3〜5℃まで急冷する方法(特許文献2参照)が報告されている。これは、対象とするのが乳脂肪率35%から50%程度のホイップクリーム用等のクリームであって、[種類別]クリームの輸送・保存時の乳化安定性を付与するための方法であり、[種類別]クリームの低脂肪タイプにおいて、常に安定して良好なホイップ性を付与するための方法ではない。
【特許文献1】特開2000-300199号公報
【特許文献2】特開2006-325426号公報
【非特許文献1】野田ら、日本食品科学工学会誌、vol.43、p.896-903
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳由来の良好な風味を有する乳脂肪クリームについて、乳脂肪率35%未満の低脂肪タイプでありながら、常に安定して良好なホイップ性を得られる乳脂肪クリームを提供することを課題とする。乳脂肪クリームについては、乳化剤や安定剤の添加による物性付与が不可能であるため、製造工程からの物性制御により解決する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、殺菌後のクリームを急冷後、必要に応じて冷蔵保持し、その後一時的な加温処理をすることによって、低脂肪タイプの乳脂肪クリームの良好なホイップ性を常に安定的に付与できることを見出した。本発明において、常に安定的に良好なホイップ性を有するとは、所定の起泡性試験において従来ホイップ終点まで到達しない場合があったものが、季節変動や日間誤差を問わず、常にホイップ終点まで到達し、この傾向が一般的な賞味期限である2週間維持されることを示す。
すなわち、本発明は、クリームを急冷して保持した後、一時的な加温処理を行い冷却することにより得られる、常に安定的で良好なホイップ性を有する脂肪率27%以上35%未満の乳脂肪クリームとその製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乳脂肪分27%以上35%未満の乳脂肪クリームでありながら、常に安定的で良好なホイップ性を有するクリームを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
乳脂肪クリームの従来の製造工程では、均質、殺菌、再均質の後のプレート冷却工程において、品温が冷却速度5℃/分以上で約5℃まで冷却される。これを5℃の冷蔵状態で一晩以上保存しホイップに供するが、この場合のホイップ性は季節変動や日間誤差が大きく、常に安定したホイップ性を得られない。この場合のクリームの固体脂含量(Solid Fat Content、以下SFCと略)は、脂肪率30%クリームで18〜19%(クリームにおける油脂のSFCとして60〜63%)となる。
これに対し、プレート冷却工程において、5℃まで冷却したクリームを5℃で2〜3時間保持したもの(このときの脂肪率30%クリームのSFCは約16%(クリームにおける油脂のSFCとして約53%))を、品温が15℃になるまで達温(このときのクリームのSFCは約13%(クリームにおける油脂のSFCとして約43%))し、再度5℃の冷蔵庫に一晩以上保存したもの(このときのクリームのSFCは約18%(クリームにおける油脂のSFCとして約60%))については、ホイップ時の気泡の取り込みが良好であり、常に安定したホイップ性が得られる。
【0010】
本発明におけるクリームの脂肪率は、27%以上35%未満が望ましく、特に30%前後が最も望ましい。脂肪率が27%未満であると一時的加温処理をしてもホイップ未了となる場合がある。また脂肪率が35%を超えると、一時的加温処理を施さなくても十分にホイップ終点に到達する。
【0011】
本発明における殺菌後のクリームの急冷温度は、10℃以下が望ましく、低ければ低いほどより望ましい。これは一時的加温処理前の、クリームにおける油脂のSFCを50%以上、より好ましくは53%以上にするため、急冷後の冷蔵保持時間を短くできるためである。実際にクリームにおける油脂のSFCを50%以上にするための保持時間として、例えば、5℃での保持を行った時、プレートで5℃まで冷却した場合、5℃における保持時間は2〜3時間必要となるが、プレートで8℃まで冷却した場合、5℃冷蔵に移行した後の保持時間は3〜5時間以上必要となる。また、逆にプレートで3℃まで冷却した場合、5℃冷蔵に移行した後の保持時間は1時間程度でも構わない。プレート冷却温度が更に低い場合には、クリームにおける油脂SFCが50%以上となるため、保持時間を必要としないこともある。
【0012】
本発明における一時的加温処理の処理温度としては、10〜20℃が適当であるが、13〜17℃が特に望ましい。更には、一時的加温処理前に53%以上であったクリームにおける油脂のSFCが処理温度において40〜49%になることが特に望ましい。加温処理時の加温速度については特に制限がなく、加温温度までの達温が重要になる。10℃以下であるとホイップ性向上の効果が小さくなりやすく、20℃以上であるとホイップした後のホイップクリームの組織が若干だれやすくなる傾向がある。
【0013】
本発明における一時的加温処理後の冷却条件としては、特に制限はないが、プレート冷却等の急冷よりも、ジャケットによる冷却もしくは充填後の冷蔵庫による冷却等の比較的緩やかな徐冷却が望ましい。いずれにせよ、一時的加温処理後の冷却については、5℃の冷蔵状態に一晩以上保存する必要がある。クリームにおける油脂のSFCとして58%以上、より好ましくは60%以上になるよう冷却する必要がある。
【0014】
本発明の機構については、不明な点が多いが、一時的な加温処理により、クリームの乳化安定性が不安定化する現象は良く知られている(例えば、武藤ら:Journal of the American Oil Chemist’s Society, vol.78, p.177-182 (2001))。この場合の不安定化の機構としては、加温処理における再冷却において、脂肪球表面に粗大な油脂結晶が生成し、脂肪球の表面から一部突出することで、この油脂結晶を介して脂肪球同士が部分的に合一する機構が考えられている。しかしながら、この場合の加温処理は20℃以上の加温処理である場合が多く、本発明の一時的加温処理は10〜20℃であり、クリームの乳化安定性は顕著に不安定化するものではない。さらに、本発明における一時的加温処理では、ホイップ時の気泡の取り込みが良好となり、ホイップ後のクリームが適度なオーバーランを有することで、起泡性とともに保型性が良好となることも特徴である。これらのことから、本発明による一時的加温処理においては、乳化不安定化を招くほどの粗大な油脂結晶が生成しておらず、むしろ良好なホイップ性を引き出すための脂肪球、もしくは脂肪球表面の変化をもたらしているものと考えられる。
【0015】
以下に本発明の実施例、参考例、試験例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
以下の方法により、本発明品1〜10を700gずつ調製した。また、効果を比較するために比較品1〜5を700gずつ調製した。
本発明品1:生乳より分離し、プレート式殺菌機において120℃、2秒の殺菌を行った脂肪率50%の種類別クリームと生乳を原料とした。脂肪率50%の種類別クリーム58部と生乳42部を混合し、65℃まで加温したものを均質機において均質圧10kg/cm2で処理した。これをプレート式殺菌機に通液し、120℃、4秒の殺菌処理を行った。殺菌後約70℃まで冷却したクリームを均質圧10kg/cm2で再均質した後、プレート冷却により5℃まで急速に冷却した。冷却したクリームをパウチに700g採取し、5℃冷蔵庫において5時間保持したクリームを一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0017】
本発明品2:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0018】
本発明品3:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において1時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0019】
本発明品4:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、17℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0020】
本発明品5:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、13℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0021】
比較品1:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫にて保存した。すなわち、一時的加温処理を施さないサンプルとした。
【0022】
本発明品6:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて8℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において5時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0023】
本発明品7:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて8℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0024】
比較品2:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて8℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において1時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0025】
本発明品8:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて8℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、17℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0026】
比較品3:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて8℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、13℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0027】
比較品4:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて8℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫にて保存した。すなわち、一時的加温処理を施さないサンプルとした。
【0028】
本発明品9:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて3℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫において1時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0029】
本発明品10:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて2℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを保持時間をとらずに一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0030】
比較品5:本発明品1と同様に調製し、プレート冷却にて3℃まで冷却し、パウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫にて保存した。すなわち、一時的加温処理を施さないサンプルとした。
【実施例2】
【0031】
以下の方法により、本発明品11を調製した。また、効果を比較するために比較品6を調製した。
本発明品11:生乳を約50℃に加温し、遠心分離機により分離した脂肪率50%のクリームと生乳を原材料とした。脂肪率50%の分離クリーム58部と生乳42部を混合し、65℃まで加温したものを均質機において均質圧10kg/cm2で処理した。これをプレート式殺菌機に通液し、120℃、4秒の殺菌処理を行った。殺菌後約70℃まで冷却したクリームを均質圧10kg/cm2で再均質した後、プレート冷却により5℃まで急速に冷却した。冷却したクリームをパウチに700g採取し、5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0032】
比較品6:本発明品11と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却しパウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫にて保存した。すなわち、一時的加温処理を施さないサンプルとした。
【参考例1】
【0033】
以下の方法により、比較品7、8を調製した。
比較品7:生乳より分離し、プレート式殺菌機において120℃、2秒の殺菌を行った脂肪率50%の種類別クリームと生乳を原料とした。脂肪率50%の分離クリーム68部と生乳32部を混合し、65℃まで加温したものを均質機において均質圧10kg/cm2で処理した。これをプレート式殺菌機に通液し、120℃、4秒の殺菌処理を行った。殺菌後約70℃まで冷却したクリームを均質圧10kg/cm2で再均質した後、プレート冷却により5℃まで急速に冷却した。冷却したクリームをパウチに700g採取し、5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを、一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0034】
比較品8:比較品7と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却しパウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫にて保存した。すなわち、一時的加温処理を施さないサンプルとした。
【参考例2】
【0035】
以下の方法により、比較品9、10を調製した。
比較品9:生乳を約50℃に加温し、遠心分離機により分離した脂肪率50%のクリームと生乳を原材料とした。脂肪率50%の分離クリーム49部と生乳51部を混合し、65℃まで加温したものを均質機において均質圧10kg/cm2で処理した。これをプレート式殺菌機に通液し、120℃、4秒の殺菌処理を行った。殺菌後約70℃まで冷却したクリームを均質圧10kg/cm2で再均質した後、プレート冷却により5℃まで急速に冷却した。冷却したクリームをパウチに700g採取し、5℃冷蔵庫において3時間保持したクリームを一時的加温処理に供した。一時的加温処理は、15℃に調温した恒温水槽にクリームの入ったパウチを1時間浸漬し、再度5℃の冷蔵庫に戻すことによって行った。
【0036】
比較品10:比較品9と同様に調製し、プレート冷却にて5℃まで冷却しパウチに700g採取したクリームを5℃冷蔵庫にて保存した。すなわち、一時的加温処理を施さないサンプルとした。
【0037】
[試験例1]
実施例1、2及び参考例1、2で調製した本発明品1〜11、比較品1〜10について、ホイップ時の起泡性試験を行い、さらにはホイップ後の保形性を評価した。ホイップ時の起泡性試験は、一時的加温処理後に5℃冷蔵庫において1日保存した本発明品1〜11、比較品1〜10をGEミキサー(GENERAL ELECTRIC社製)でホイップし、起泡性試験(野田ら:日本食品科学工学会誌、vol.43、p.896-903)を行った。なお、この時、ホイップ終点を、最適造花性を示す荷重に設定し、この終点に到達するまでの時間をホイップ時間として測定した。また、ホイップ終点に到達したクリームのオーバーランは、ホイップ前後において一定容積のクリームの重量を測定することで次式により求めた。
オーバーラン=((W1-W2)/W2)×100(%)
W1:一定容積のホイップ前のクリーム重量
W2:一定容積のホイップ後のクリーム重量
ホイップ終点に到達したクリームの硬さは、レオナー(RE-3305、山電製)によるテクスチャー解析により、2度の往復動作を行う貫入試験から求めた。測定は2kgfのロードセル、直径16mmのプランジャーを用い、サンプル厚50mm、測定歪み率20%、測定速度5mm/s、戻り距離10mmの条件で行った。得られたデータを、自動解析装置ソフトウェアテクスチャー解析ver.2.0(TAS-3305-16、山電製)により解析し、テクスチャー曲線の1回目の押し引き動作中の最大荷重を硬さとした。ホイップ後の保形性の評価は、ホイップ終点到達後のクリームを容量100mLのプラスチック容器に採取し、5℃冷蔵庫にて1日保存した。このクリームのオーバーランと硬さを同様の方法で測定した。
ホイップ性については、ホイップ時の起泡性試験((1)ホイップ終点まで到達したか否か(2)ホイップ終点まで達した場合のホイップ時間、オーバーラン、硬さ)とホイップ後の保形性の評価から、総合的に◎、○、×の3段階で評価した。具体的には、ホイップ終点まで到達せずにホイップ未了に終わったものは×、ホイップ終点まで到達するものの、ホイップ後のオーバーランが100%を下回るもの、もしくは保形性の評価において、1日保存後の硬さが20gfを下回るものを○、ホイップ終点まで到達し、ホイップ後のオーバーランが100%を超え、さらに1日保存後の硬さが20gf以上のものを◎とした。
実施例1、2及び参考例1、2の評価の結果を、それぞれ表1〜4に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示したように、実施例1において、一時的加温処理をしていない比較品1、4、5については、ホイップ時の起泡性評価において、ホイップ時の最大荷重が設定したホイップ終点に達せず、ホイップ未了となった。これに対し、一時的加温処理を行った本発明品1〜10については、ホイップ性が向上する傾向を示した。プレート出口において5℃まで冷却した本発明品1〜5と比較品1を比較すると、ホイップ未了となった比較品1に対し、一時的加温処理を行った本発明品1〜5はホイップ終点まで到達した。ただ、保持時間が1時間である本発明品3については、ホイップ時間が長くなる傾向を示した。ホイップ時間やオーバーラン、硬さ、ホイップ後の保形性を総合して考えると、保持時間については長い方が、一時的加温処理の処理温度については高い方が、ホイップ時間が短くなる傾向を示した。また、処理温度が高い場合には、ホイップ後のクリームを一晩冷蔵保存した際の保形性の評価において、若干硬さが落ちる傾向が確認された(本発明品4)。本発明品6〜8、比較品2〜4を比較すると、ホイップ未了となった比較品2〜4に対し、本発明品6〜8はホイップ終点まで到達した。プレート出口温度が高い場合、ホイップ性に効果を示す一時的加温処理までの保持時間、一時的加温処理の処理温度がより限定される傾向を示すものの、ここでも、保持時間については長い方が、一時的加温処理の処理温度については高い方が、ホイップ時間が短くなる傾向を示した。プレート冷却温度を3℃に設定した本発明品9では、同一の保持時間、処理温度である本発明品3、比較品2に比べ、ホイップ時間が短くなり起泡性が良好となった。さらに、プレート冷却温度を2℃に設定した本発明品10では、保持時間をとらなくても一時的加温処理により起泡性が良好となった。
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示したように、実施例2の本発明品11、比較品6については、一時的加温処理を行わない比較品6もホイップ終点に到達した。原料クリームの殺菌条件による差と考えられる。しかしながら、この場合も本発明品11の結果が示すように、一時的加温処理によりホイップ時間が短くなっており、一時的加温処理のホイップ性向上の効果が確認された。この結果より、一時的加温処理の効果は、原料クリームの殺菌回数によらないことが示された。
【0042】
【表3】

【0043】
表3に示したように、参考例1の比較品7、8については、一時的加温処理を行わない比較品8もホイップ終点に到達し、さらに一時的加温処理を施した比較品7と大差のない結果となった。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示したように、参考例2については、一時的加温処理を行った比較品9、10においてもホイップ未了となり、一時的加温処理の効果が認められない結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリームを急冷した後、一時的な加温処理を行い冷却することにより得られる、常に安定的で良好なホイップ性を有する脂肪率27%以上35%未満の乳脂肪クリーム。
【請求項2】
殺菌後のクリームを急冷した後、一時的な加温処理を行い冷却することを特徴とする、常に安定的で良好なホイップ性を有する脂肪率27%以上35%未満の乳脂肪クリームの製造方法。

【公開番号】特開2009−142248(P2009−142248A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325830(P2007−325830)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【出願人】(503058751)日本ミルクコミュニティ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】