説明

乳酸の製造方法

【課題】微生物の発酵培養由来の乳酸を含んだ水溶液を回収し、酢酸、ギ酸等の不純物を除去する工程を含む、乳酸の製造方法を提供する。
【解決手段】微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離することによる乳酸の製造方法であって、該培養液を機能層がポリアミドである逆浸透膜に操作圧力が1MPa以上8MPa以下で通じて、該培養液中の乳酸以外の有機酸を透過液側に除去し、非透過液側から乳酸を含んだ水溶液を回収する工程を含む、乳酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸の精製方法に関する。詳しくは、微生物培養液を逆浸透膜に通じることによって非透過液側から高純度の乳酸を含んだ溶液を得る工程を含む、乳酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、食品用、医薬用などといった用途の他に、生分解性プラスチックのモノマー原料として工業的用途にまで広く適用され、需要が増加している。2−ヒドロキシプロピオン酸、即ち乳酸は、微生物による発酵により生産されることが知られており、微生物はグルコースに代表される炭水化物を含有する基質を乳酸に変換する。乳酸は、カルボニルα位の炭素に結合している置換基の立体配座により、(L)−体および(D)−体の光学異性体に分類される。微生物発酵によれば、微生物を適宜選択することにより(L)−体または(D)−体の乳酸を選択的に、または(L)−体及び(D)−体の混合体(ラセミ体)の乳酸を生産することができる。
【0003】
微生物発酵による乳酸の生産は、一般に、培養液中にアルカリ性物質を添加することで、微生物発酵に最適なpHに保持されながら行われる。微生物発酵により生産された酸性物質である乳酸の多くは、アルカリ性物質が添加されているために、培養液中で乳酸の多くは乳酸塩として存在している。この場合、フリーの乳酸は、発酵終了後、培養液に酸性物質を添加することで得られる。
【0004】
具体的には、培養液中に添加するアルカリ性物質として水酸化カルシウムがしばしば用いられるが、この場合、微生物発酵により生産された乳酸は培養液中では乳酸カルシウムとして存在している。なお、乳酸カルシウムは、カルシウム吸収性が高いことから、良質なカルシウム供給源として食品用途に注目されている。
【0005】
乳酸カルシウムを得る方法として、培養液を減圧濃縮して水を蒸発させる方法がある。しかしながら、微生物発酵液から取り出した乳酸カルシウムには、発酵過程で生産される乳酸以外の有機酸、例えば、酢酸、ギ酸等の不純物が含まれていることが多く、乳酸カルシウムの純度が低い上に、水を蒸発させるために加熱する必要があり、エネルギーコストが高いという問題点があった。
【0006】
これまでに、乳酸カルシウム含有食品を製造する際に、乳酸カルシウムを濃縮するためにナノ濾過膜処理する技術が開示されているが、本技術は、乳酸カルシウムが含まれる発酵液をナノ濾過膜で処理した透過液をpH調整し、乳酸カルシウムを得ているが、透過液には乳酸以外に酢酸も含まれていることは当業者であれば容易に予測されることから、得られる乳酸カルシウムの純度は高いものとは言えない(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−299281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、微生物発酵培養液を、逆浸透膜に通じることにより、乳酸を含んだ水溶液を非透過液側から回収し、透過液側から乳酸以外の有機酸を高効率で除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(5)から構成される。
(1)微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離することによる乳酸の製造方法であって、該培養液を逆浸透膜に通じて該培養液中の乳酸以外の有機酸を透過液側に除去し、非透過液側から乳酸を含んだ水溶液を回収する工程を含む、乳酸の製造方法。
(2)前記逆浸透膜の塩除去率が、操作圧力5.5MPa、原水温度25℃、原水塩化ナトリウム濃度3.5%において、98%以上である、(1)に記載の乳酸の製造方法。
(3)前記逆浸透膜の機能層がポリアミドである、(1)または(2)に記載の乳酸の製造方法。
(4)前記透過液側に除去する乳酸以外の有機酸が酢酸またはギ酸である、(1)から(3)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
(5)前記工程における操作圧力が1MPa以上8MPa以下である、(1)から(4)のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る乳酸の製造方法は、発酵培養液中に含まれる乳酸以外の有機酸を簡単な操作により効果的に除去することができる。従って、高純度の乳酸を含んだ水溶液を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0011】
本発明の乳酸の製造方法は、微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離する工程を含む方法であって、該培養液を逆浸透膜に通じて該培養液中の乳酸以外の有機酸を透過液側に除去し、非透過液側から乳酸を含んだ水溶液を回収するものである。
【0012】
近年、省エネルギー型の分離精製プロセスとして、膜分離法が広く普及され始めている。膜分離法の中で逆浸透(RO;Reverse Osmosis)法は、海水、または低濃度の塩水(かん水)を脱塩して淡水化し、工業用、農業用または家庭用の水を提供する造水分野や、低分子量有機物の濃縮回収方法などに利用されている。
【0013】
本発明の乳酸の製造方法における乳酸を分離する工程での、「逆浸透膜に通じる」とは、微生物の発酵培養により生産された乳酸を含む培養液を、逆浸透膜に通じて濾過し、非透過液側に乳酸を含んだ水溶液を濾別回収し、透過液側に乳酸以外の有機酸を濾液として透過させることを意味する。
【0014】
乳酸水溶液の逆浸透膜の透過性の評価方法としては、乳酸透過率を算出して評価する方法が挙げられるが、この方法に限定されるものではない。乳酸透過率は、高速液体クロマトグラフィーに代表される分析により、原水中に含まれる乳酸濃度(原水乳酸濃度)および透過水中に含まれる乳酸濃度(透過水乳酸濃度)を測定することで、式1によって算出することができる。
【0015】
乳酸透過率(%)=(透過水乳酸濃度/原水乳酸濃度)×100・・・(式1)。
式1と同様に、乳酸以外の有機酸透過率を式2によって算出することができる。
【0016】
有機酸透過率(%)=(透過水有機酸濃度/原水有機酸濃度)×100・・・(式2)。
【0017】
膜単位面積、単位圧力当たりの透過流量(膜透過流束)の評価方法としては、透過水量および透過水量を採水した時間および膜面積を測定することで、式3によって算出することができる。
【0018】
膜透過流束(m/(m・日))=透過水量/(膜面積×採水時間)・・・(式3)。
【0019】
ここで本発明の乳酸の製造方法で用いる逆浸透膜の膜分離性能としては、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム(原水塩化ナトリウム濃度3.5%)を5.5MPaの濾過圧で評価したときの塩化ナトリウム除去率が98%以上のものが好ましく用いられる。塩化ナトリウム除去率は前記海水の透過水塩化ナトリウム濃度を測定することにより、式4によって算出することができる。
【0020】
塩化ナトリウム除去率=100×{1−(透過水中の塩化ナトリウム濃度/原水中の塩化ナトリウム濃度)}・・・(式4)。
【0021】
また、逆浸透膜の透過性能としては、塩化ナトリウム(3.5%)を5.5MPaの濾過圧において、膜透過流束(m/(m・日))が0.2以上のものであれば、非透過液側の乳酸と透過液側の不純物を分離する速度を早めることができることから、好ましく用いられる。
【0022】
本発明の乳酸の製造方法で使用する逆浸透膜の膜素材としては、一般に市販されている酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材を使用することができるが、該1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。
【0023】
本発明で好ましく使用される逆浸透膜としては、酢酸セルロール系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。
【0024】
本発明の乳酸の製造方法においては、乳酸の透過率が低く、酢酸、ギ酸の透過率が高い逆浸透膜であれば膜素材に特に制限はないが、ポリアミド系の逆浸透膜であれば乳酸の回収率が高いことからより好ましい。
【0025】
膜形態としては、平膜型、スパイラル型、中空糸型など適宜の形態のものが使用できる。
【0026】
本発明の乳酸の製造方法で使用する逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ(株)製ポリアミド系逆浸透膜(UTC)SU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720P、SU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA、同社酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工(株)製NTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製RO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、GE製GE Sepa、Filmtec製BW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040などが挙げられる。
【0027】
本発明の乳酸の製造方法において、微生物培養液の逆浸透膜による濾過は、圧力をかけて行うが、その濾過圧は、1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、1MPa以上8MPa以下の範囲であることが好ましい。また、濾過圧が1MPa以上7MPa以下の範囲であれば、膜透過流束が高いことから、乳酸溶液を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、2MPa以上6MPa以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の乳酸の製造方法において乳酸を含んだ培養液から逆浸透膜により透過液側に分離される乳酸以外の有機酸としては、発酵培養の副生物由来または発酵原料由来の有機酸であり、具体例としてギ酸、酢酸、プロピオン酸などのモノカルボン酸が挙げられるが、本発明においては酢酸またはギ酸が好ましく分離されうる。
【0029】
逆浸透膜による分離に供される微生物培養液中の乳酸の濃度は、特に限定されないが、高濃度であれば、濾過する時間を短縮することができることからコスト削減に好適であり、例えば10g/L以上100g/L以下が好ましい。
【0030】
本発明の乳酸の製造方法においては、培養液中に生産された乳酸は乳酸塩として溶解していてもよい。乳酸塩としては、乳酸無機塩が挙げられる。ここでいう無機塩としては、乳酸リチウム塩、乳酸ナトリウム塩、乳酸カリウム塩、乳酸マグネシウム塩、乳酸カルシウム塩、乳酸アンモニウム塩であり、これらの混合物であってもよい。
【0031】
逆浸透膜による分離後に回収された乳酸を含んだ水溶液から、当業者によって公知の方法により乳酸または乳酸塩が回収される。例えば乳酸が乳酸塩として回収された水溶液中に溶解している場合、通常の晶析操作により、固体の乳酸塩を得ることができる。また、逆浸透膜による分離後に回収された乳酸を含んだ水溶液から、電気透析、イオン交換、蒸留等の操作により非解離の乳酸(フリー体)を得ることができる。
【0032】
以下、本発明の乳酸の製造方法に供される、微生物の発酵培養による乳酸生産について説明する。
【0033】
微生物の発酵培養による乳酸生産に使用する発酵原料としては、培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である乳酸を良好に生産させうるものであればよく、炭素源、窒素源、無機塩類、及び必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、更には酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、グリセリンなども使用される。窒素源としてはアンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。本発明に使用する微生物が生育のために特定の栄養素(例えば、アミノ酸など)を必要とする場合には、その栄養物をそれ自体もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も必要に応じて使用してもよい。本発明において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言う。培養液に追加する発酵原料の組成は、目的とする乳酸の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
【0034】
微生物の培養は、通常pH4−8、温度20−40℃の範囲で行われる。培養液のpHはアルカリ性物質、具体的には塩基性のカルシウム塩によって上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節する。塩基性カルシウム塩としては、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化カルシウム、酢酸カルシウムなどが好ましく用いられ、水酸化カルシウムがより好ましく用いられる。
【0035】
微生物の培養において、酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、あるいは培養を加圧する、攪拌速度を上げる、通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
【0036】
微生物の培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に、連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から原料培養液の供給及び培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。原料培養液には上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率よい生産性を得るのに好ましく、一例として、乾燥重量として5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。
【0037】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、通常、単一の発酵槽で行うのが、培養管理上好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵槽の数は問わない。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
【0038】
本発明で使用される微生物については特に制限はないが、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、乳酸菌、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌などが挙げられる。動物細胞、昆虫細胞等の培養細胞も、本発明で使用される微生物に含まれる。前記微生物の中でも、酵母、乳酸菌および大腸菌のいずれかから選択されることが好ましい。使用する微生物は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(乳酸生産能力を持つ酵母株の作製)
参考例1 乳酸生産能力を持つ酵母株の作製
乳酸生産能力を持つ酵母株を下記のように造成した。具体的には、ヒト由来L−LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することでL−乳酸生産能力を持つ酵母株を造成した。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、La−Taq(宝酒造社製)、あるいはKOD-Plus-polymerase(東洋紡社製)を用い、付属の取扱説明に従って行った。
【0041】
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型としてSuperScript Choice System(Invitrogen社製)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを続くPCRの増幅鋳型とした。
【0042】
上記操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1および配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたKOD-Plus-polymeraseによるPCRによりL−ldh遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(TAKARA社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより各種L−LDH遺伝子(アクセッションナンバー;AY009108、配列番号3)がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL−LDH遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてヒト由来L−LDH遺伝子発現プラスミドpL−LDH5(L−LDH遺伝子)を得た。
【0043】
ヒト由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−LDH5を増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.3kbのヒト由来LDH遺伝子、及びサッカロミセス・セレビセ由来のTDH3遺伝子のターミネーター配列含むDNA断片を増幅した。また、プラスミドpRS424を増幅鋳型として、配列番号6および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.2kbのサッカロミセス・セレビセ由来のTRP1遺伝子を含むDNA断片を増幅した。それぞれのDNA断片を1.5%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた1.3kb断片、1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCR法によって得られた産物を1.5%アガロースゲル電気泳動して、ヒト由来LDH遺伝子及びTRP1遺伝子が連結された2.5kbのDNA断片を常法に従い調製した。この2.5kbのDNA断片で出芽酵母NBRC10505株を常法に従いトリプトファン非要求性に形質転換した。
【0044】
得られた形質転換細胞がヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結されている細胞であることの確認は、下記のように行った。まず、形質転換細胞のゲノムDNAを常法に従って調製し、これを増幅鋳型とした配列番号8および配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより0.7kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。また、形質転換細胞が乳酸生産能力を持つかどうかは、SC培地(METHODS IN YEAST GENETICS 2000 EDITION、 CSHL PRESS)で形質転換細胞を培養した培養上澄に乳酸が含まれていることを下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定することで確認した。また、他の有機酸の濃度についても、下記に示す条件でHPLC法により分析を行った。
【0045】
カラム:Shim-Pack SPR-H(株式会社島津製作所製)、移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)、反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)、検出方法:電気伝導度、温度:45℃。
【0046】
また、L−乳酸の光学純度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
【0047】
カラム:TSK-gel EnantioL1(東ソー社製)、移動相 :1mM 硫酸銅水溶液、流速:1.0ml/min、検出方法 :UV254nm、温度 :30℃。
【0048】
また、L−乳酸の光学純度は式5で計算される。ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
【0049】
光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)‥‥‥(式5)。
【0050】
HPLC分析の結果、4g/LのL−乳酸が検出され、D−乳酸は検出限界以下であった。以上の検討により、この形質転換体がL−乳酸生産能力を持つことを確認した。得られた形質転換細胞を酵母SW−1株として、続く実施例に用いた。
【0051】
参考例2 バッチ発酵によるL−乳酸の製造
微生物を用いた発酵形態として最も典型的なバッチ発酵を行い、その乳酸生産性を評価した。表1に示す乳酸発酵培地を用い、バッチ発酵試験を行った。該培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。微生物として参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、参考例1に示したHPLCを用いて評価し、グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。参考例2の運転条件を以下に示す。
【0052】
反応槽容量(乳酸発酵培地量):2(L)、 温度調整:30(℃)、反応槽通気量:0.2(L/min)、反応槽攪拌速度:400(rpm)、pH調整:1N 水酸化カルシウムによりpH5に調整。
【0053】
まず、SW−1株を試験管で5mlの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々培養)。前々培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し500ml容坂口フラスコで24時間振とう培養した(前培養)。温度調整、pH調整を行い、発酵培養を行った。この時の菌体増殖量は、600nmでの吸光度で15であった。回分発酵の結果を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
参考例3 逆浸透膜の塩化ナトリウム除去性評価
超純水10Lに塩化ナトリウム(和光純薬製)を添加して25℃1時間攪拌し、3.5%塩化ナトリウムを調整した。次いで、図1に示す、膜濾過装置の原水層1に上記で調整した3.5%塩化ナトリウム10Lを注入した。図2の符号7に示される90φ逆浸透膜として、ポリアミド系逆浸透膜“UTC70”(逆浸透膜1;東レ製)、ポリアミド系逆浸透膜“RO−99”(逆浸透膜2;アルファラバル製)、ポリアミド系逆浸透膜“HR98PP”(逆浸透膜3;アルファラバル製)、ポリアミド系逆浸透膜“GEsepa PA−AK”(逆浸透膜4;GE Osmonics製)、酢酸セルロース系逆浸透膜“GEsepa CF−CA”(逆浸透膜5;GE Osmonics製)をそれぞれステンレス(SUS316製)製のセルにセットし、原水温度を25℃、高圧ポンプ3の圧力を5.5MPaに調整し、透過液5を回収した。原水槽1、透過液5に含まれる、塩化ナトリウムの濃度をイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により以下の条件で分析し、塩化ナトリウムの透過率を計算した。
【0057】
陰イオン;カラム(AS4A−SC(DIONEX製))、溶離液(1.8mM炭酸ナトリウム/1.7mM炭酸水素ナトリウム)、温度(35℃)。
【0058】
陽イオン;カラム(CS12A(DIONEX製))、溶離液(20mMメタンスルホン酸)、温度(35℃)。
【0059】
結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例1〜20
(逆浸透膜による分離実験)
図1に示す、膜濾過装置の原水槽1に参考例1、2で得られた培養液2Lを注入した。図2の符号7の90φ逆浸透膜として、前記逆浸透膜1〜5をステンレス(SUS316製)製のセルにそれぞれセットし、高圧ポンプ3の圧力をそれぞれ1MPa、2MPa、4MPa、5MPaに調整し、それぞれの圧力における透過液4を回収した。原水槽1、透過液5に含まれる、乳酸、酢酸、ギ酸濃度を、参考例1と同様の条件で高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により分析し、逆浸透膜の非透過側から回収した、乳酸回収率を式6の方法で算出し、逆浸透膜の非透過側から回収した乳酸水溶液中の酢酸、ギ酸含有率を式7の方法で算出した。
【0062】
乳酸回収率(%)=非透過側から回収した総乳酸量/原水槽に注入した総乳酸量‥‥‥(式6)。
【0063】
回収した乳酸水溶液中の酢酸、ギ酸含有率(%)=回収した酢酸、ギ酸含有量/回収した総有機酸量‥‥‥(式7)。
その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
表4に示すように、1MPa、2MPa、4MPa、5MPaのすべての濾過圧力において、酢酸、ギ酸が透過液側に高効率で除去され、高純度の乳酸カルシウムを含んだ水溶液を非透過液側から高効率で回収できたことがわかった。
【0066】
比較例1
(晶析法による分離実験)
参考例1、2で乳酸発酵した培養液(2L)をロータリーエバポレーター(東京理化製)を用いて、減圧下(50hPa)で水を蒸発させて濃縮し、乳酸カルシウムを晶析した。晶析物を定性濾紙No2(アドバンテック製)を用いて吸引濾過により濾別した。次いで、濾液中に含まれる、乳酸、酢酸、ギ酸濃度を、高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)により分析した。結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
表5に示すように、晶析操作により酢酸、ギ酸は除去されているものの、乳酸カルシウムが濾液に10g/L含まれており、回収率は低かった。
【0069】
以上の実施例及び比較例の結果から、微生物発酵培養液を、逆浸透膜に通じることにより、培養液中の乳酸を含んだ水溶液を非透過液側から回収し、透過液側から酢酸を高効率で除去することができることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明で用いた逆浸透膜分離装置の一つの実施の形態を示す概要図である。
【図2】本発明で用いた逆浸透膜分離装置の逆浸透膜が装着されたセル断面図の一つの実施の形態を示す概要図である。
【符号の説明】
【0071】
1 原水槽
2 逆浸透膜が装着されたセル
3 高圧ポンプ
4 膜濃縮液の流れ
5 膜透過液の流れ
6 高圧ポンプにより送液された培養液の流れ
7 逆浸透膜
8 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の発酵培養により培養液中に生産された乳酸を分離することによる乳酸の製造方法であって、該培養液を逆浸透膜に通じて該培養液中の乳酸以外の有機酸を透過液側に除去し、非透過液側から乳酸を含んだ水溶液を回収する工程を含む、乳酸の製造方法。
【請求項2】
前記逆浸透膜の塩除去率が、操作圧力5.5MPa、原水温度25℃、原水塩化ナトリウム濃度3.5%において、98%以上である、請求項1に記載の乳酸の製造方法。
【請求項3】
前記逆浸透膜の機能層がポリアミドである、請求項1または2に記載の乳酸の製造方法。
【請求項4】
前記透過液側に除去する乳酸以外の有機酸が酢酸またはギ酸である、請求項1から3のいずれかに記載の乳酸の製造方法。
【請求項5】
前記工程における操作圧力が1MPa以上8MPa以下である、請求項1から4のいずれかに記載の乳酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−57389(P2010−57389A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224366(P2008−224366)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】