説明

乳酸産生抑制剤

【課題】 安全性に優れ、日常的に長期間にわたり服用・摂取が可能であって、血中乳酸の産生抑制作用を有し、スポーツ、トレーニング等の運動及び筋肉労働に起因する血中乳酸値上昇抑制、並びに腎又は肝機能障害や高カロリー輸液施行中に認められる乳酸アシドーシス等の予防又は治療に対して有効な乳酸産生抑制剤を提供する。
【解決手段】 ラクトフェリンを有効成分として含有する乳酸産生抑制剤、および該乳酸産生抑制剤を含有する飲食品または飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラクトフェリンを有効成分とする乳酸産生抑制剤、および該乳酸産生抑制剤を含有する飲食品または飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸は血中や筋肉などに存在し、体内の血中乳酸値は通常約1.0mM/lである。筋肉運動を行う場合には筋肉中のグリコーゲンが代謝され、運動のエネルギー源となるが、代謝経路には2つの経路が存在する。
運動強度に対して血液からの酸素が十分に供給されている場合には、グリコーゲンは完全に酸化され、炭酸ガスと水に分解される(有酸素運動)。しかし、運動の強度が強く、筋肉での酸素の需要量に対し血液からの酸素供給量が不足している場合は、グリコーゲンは完全には酸化されず、乳酸を生じる(無酸素運動)。筋肉中に蓄積された乳酸は、筋肉を固化させ、筋肉収縮に係る酵素活性を阻害するため筋肉疲労を誘発し、筋肉中の乳酸が、ある限度量を超えた場合は、筋肉運動が不能となる。また、筋肉中で生成された乳酸は血中に流出し、血液を酸性化し、身体にストレスおよび疲労を誘発する。
【0003】
このような運動時の乳酸値上昇抑制に効果を有する薬剤としては、消費亢進によるビタミン類の不足を補う目的で、ビタミンB群、ナイアシン、パントテン酸、ビオチンなどを含む剤が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1、及び非特許文献2)。実際、ビオチンおよびパントテン酸が不足している場合には、疲労が起こることが知られている(例えば、非特許文献3)。
また、ビタミン類以外の薬物として、霊芝(例えば、特許文献3)、およびローヤルゼリー(例えば、特許文献4)が知られている。
【特許文献1】特開平6−305963号公報
【特許文献2】特開平7−233070号公報
【特許文献3】特開平5−124974号公報
【特許文献4】特開2001−172190号公報
【非特許文献1】スポーツに必要な実践栄養学、初版、岸野泰雄ら著、診断と治療社、1995年、第25−31頁。
【非特許文献2】スポーツと栄養と食品、初版、伏木亨ら著、朝倉書店、1996年、第14−30頁。
【非特許文献3】機能性素材便覧、第一刷、清水俊雄編、薬事日報社、2004年、第9−12頁。
【0004】
乳酸は骨格筋、脳及び赤血球でブドウ糖の代謝経路の最終産物として、嫌気的にピルビン酸から産生されるが、血中における乳酸の濃度が45mg/dL以上であって、動脈血のpHが7.25以下の状態であれば乳酸アシドーシスとして診断される。
乳酸アシドーシスの原因としては、ショック、循環不全、低酸素血症等の酸素供給又は酸素利用障害、糖尿病、腎不全、肝疾患、感染症、ある種の遺伝的疾患及び医薬品などが挙げられており、これらのいくつかの要因が関与している場合も少なくないと考えられている。
また、最近では、経口的に食事摂取ができない栄養状態が悪化している患者、特に重篤な患者に、高カロリー輸液療法を長期間施行する際の副作用として乳酸アシドーシスを引き起こすことあることが報告されている。このような患者に、ピルビン酸の代謝に必要なチアミンが補給されない状態で高カロリー輸液が行われると、ピルビン酸はアセチルCoAへの経路を経ずに増加し、乳酸の産生・蓄積をきたしてアシドーシスになると考えられている。
【0005】
ラクトフェリンは、涙、唾液、末梢血、乳汁等に含まれている無害、かつ天然の鉄結合蛋白質(1分子当たり2個の鉄イオンを結合可能)であり、分子量は、ウシラクトフェリンが86,000、ヒトラクトフェリンが88,000である。また、ラクトフェリンは、抗菌作用、ビフィズス菌・乳酸菌等の腸内定着促進作用、免疫賦活作用、抗腫瘍作用等の様々な作用を有する乳タンパク質として知られている。しかしながら、これまでに乳酸産生を抑制する作用は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、マラソンや駅伝などの長時間にわたる運動では、乳酸が産生、蓄積され長時間にわたる競技の続行が不可能となるため、無酸素運動を回避し、有酸素運動をいかに効率よく行うかがこれら競技の重要なポイントとなっている。このように、長時間の筋肉運動を行う運動選手や、連続的な筋肉運動が必要となる労働者にとって、血中の乳酸値を上昇させない薬剤、方法或いは乳酸値を上昇させない体質作りは重要な課題である。
本発明の目的は、安全性に優れ、日常的に長期間にわたり服用・摂取が可能であって、血中乳酸の産生抑制作用を有し、スポーツ、トレーニング等の運動及び筋肉労働に起因する血中乳酸値上昇抑制、並びに腎又は肝機能障害や高カロリー輸液施行中に認められる乳酸アシドーシス等の予防又は治療に対して有効な乳酸産生抑制剤を提供することである。
また本発明の他の目的は、前記乳酸産生抑制剤を含有する飲食品又は飼料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、ラクトフェリンと、スポーツ、トレーニング等の運動及び筋肉労働に起因する血中乳酸値上昇、並びにラクトフェリンと腎又は肝機能障害や高カロリー輸液施行中に認められる乳酸アシドーシス等との関係、さらにはラクトフェリンによる作用効果について検討し、その機能の解明を行っていたところ、ラクトフェリンが、血中乳酸の産生抑制に作用を有し、スポーツ、トレーニング等の運動及び筋肉労働に起因する血中乳酸値上昇抑制、並びに腎又は肝機能障害や高カロリー輸液施行中に認められる乳酸アシドーシス等の予防又は治療に対して有効であること確認し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明の乳酸産生抑制剤はラクトフェリンを有効成分として含有するものである。
本発明によれば、血中乳酸の産生を抑制する乳酸産生抑制剤が得られる。
本発明の乳酸産生抑制剤は、筋肉疲労の予防及び/又は軽減用、又は乳酸アシドーシスの予防及び/又は治療用の医薬として有効である。
また本発明は、本発明の乳酸産生抑制剤を含有する飲食品又は飼料を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乳酸産生抑制剤、およびこれを含有する飲食品又は飼料により奏される作用効果は次のとおりである。
(1)血中乳酸値上昇を抑制することができる。
(2)運動に起因する疲労を効果的に予防又は軽減することができる。
(3)腎又は肝機能障害や高カロリー輸液施行中に認められる乳酸アシドーシス等の予防又は治療に有効である。
(4)副作用が少なくて、安全性が高く、長期間連続的に摂取することが可能である。
(5)各種の飲食品、飼料、および医薬品に混合して用いることが可能であり、汎用性が高い。
(6)牛乳等の比較的安価な原料から得られ、大量生産が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0011】
<ラクトフェリン>
本発明の乳酸産生抑制剤の有効成分であるラクトフェリンとしては、市販のラクトフェリン;哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等)の初乳、移行乳、常乳、末期乳、又はこれらの乳の処理物である脱脂乳、ホエー等から常法(例えば、イオン交換クロマトグラフィー等)により分離したラクトフェリン;前記分離したラクトフェリンを塩酸、クエン酸等により脱鉄したアポ型ラクトフェリン;前記分離したラクトフェリン又はアポ型ラクトフェリンに鉄、銅、亜鉛、マンガン等の金属をキレート結合させた金属飽和型ラクトフェリン;各種飽和度で金属が結合した金属部分飽和型ラクトフェリンを使用することができる。これらのラクトフェリン類は1種でもよく任意の2種以上の混合物であってもよい。より簡便には、市販のラクトフェリン(例えば、森永乳業社製等)を使用することができる。また、遺伝子操作により、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等で生産した各種ラクトフェリンを使用してもよい。
【0012】
例えば、ウシラクトフェリンの分離、精製方法は次のようにして行うことができる。
まず、イオン交換体(商品名:CM−セファロースFF、アマシャムファルマシア社製)をカラムに充填し、塩酸を通液し、水洗し、イオン交換体を平衡化した後、4℃に冷却したpH6.9の脱脂牛乳をカラムに通液し、透過液を回収し、再度同様にカラムに通液する。次いで、蒸留水をカラムに通液し、食塩水を通液し、イオン交換体に吸着した塩基性蛋白質の溶出液を得る。この溶出液に飽和度80%となるように硫酸アンモニウムを添加し、タンパク質を沈殿させ、遠心分離して沈殿を回収する。
回収された沈殿物を、飽和度80%の硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、脱イオン水を添加して溶解し、得られた溶液を限外濾過膜モジュール(商品名:SLP0053、旭化成社製)を用いて限外濾過する。その後、水を添加し、同装置を用いてダイアフィルトレーションを行い、脱塩し、凍結乾燥することによって、粉末状ウシラクトフェリンを得る。
以上の方法により得られるウシラクトフェリンの純度は、電気泳動法により測定した場合、95%以上の純度を有している。尚、凍結乾燥前の各精製工程におけるラクトフェリン含有液を、本発明の乳酸産生抑制剤の成分として使用できることは言うまでもない。
【0013】
<乳酸産生抑制剤>
本発明の乳酸産生抑制剤は、ラクトフェリンを有効成分として含有する。ここでの「有効成分として含有する」とは、「乳酸の産生抑制作用を得ることができる有効量で含有する」の意味である。
すなわち、本発明におけるラクトフェリンは、それ自身が乳酸の産生抑制作用を奏するものであり、乳酸産生抑制剤における有効成分として該ラクトフェリンを単独で用いることができる。
または、乳酸の産生抑制作用を有することが知られている他の成分とラクトフェリンを、両者の合計が有効量となるように組み合わせて、同一の乳酸産生抑制剤に含有させてもよい。または、乳酸の産生抑制作用を有することが知られている他の成分とラクトフェリンを、それぞれ別体の剤に含有させ、それらの剤を、各有効成分の合計量が有効量となるように組み合わせて投与する形態の剤としてもよい。
【0014】
本発明の乳酸産生抑制剤は、例えば医薬組成物であってもよく、飲食品または飼料に添加される成分であってもよい。
医薬組成物の場合は、例えば、ラクトフェリンを薬学的に許容され得る賦形剤等の任意の添加剤を用いて所望の剤形に製剤化することにより製造することが好ましい。
【0015】
乳酸産生抑制剤の投与経路としては、例えば、経口投与、経腸投与等の非経口投与が挙げられ、乳酸産生抑制剤の投与剤形としては、例えば、噴霧剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、シロップ剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等が挙げられる。
本発明の乳酸産生抑制剤の有効成分であるラクトフェリンの投与量は、剤形、症状、年齢、体重等によって異なるが、乳酸の産生を効果的に抑制させるためには、少なくとも1mg/kg体重/日の割合で経口投与、特に3〜300mg/kg体重/日の割合で投与することが好ましい。
【0016】
製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。
製剤化する場合、製剤中のラクトフェリンの含有量は、剤形にもよるが、通常0.001〜100質量%、好ましくは0.01〜50質量%、特に好ましくは0.01〜30質量%である。
【0017】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α−デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マグロゴール等が挙げられる。
【0018】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸類塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
注射剤用溶剤としては、例えば、水、エタノール、グリセリン等が挙げられる。
【0019】
本発明の乳酸産生抑制剤は、これを投与することにより、投与しない場合に比べて、血中乳酸の産生を抑制する効果が得られる。したがってスポーツ、トレーニング等の運動及び筋肉労働に起因する血中乳酸値の上昇を抑制し、筋肉疲労を予防または軽減する効果が得られる。また、腎又は肝機能障害や高カロリー輸液施行中に認められる乳酸アシドーシス等の予防又は治療にも有効である。
また、ラクトフェリンは、乳由来の天然物であって、摂取した場合の安全性が高く、牛乳等の食品中に含有され、日常的に摂取されているもので、毒性を示さず、長期間連続的に投与しても副作用が殆ど認められない。
また本発明の乳酸産生抑制剤は、飲食品又は飼料に含有させて投与することができる。
【0020】
<飲食品・飼料>
本発明の飲食品または飼料は乳酸産生抑制剤を含有する。飲食品または飼料に含有させる場合の、乳酸産生抑制剤の形態は特に限定されず、ラクトフェリンのみからなっていてもよく、ラクトフェリンの他に、飲食品または飼料に含有させることが許容されるその他成分を含有していてもよい。
本発明の飲食品又は飼料を摂取することにより、本発明の乳酸産生抑制剤を投与する場合と同様の効果が得られる。
本発明の飲食品または飼料における乳酸産生抑制剤の含有量は、飲食品または飼料中におけるラクトフェリンの含有量が「乳酸の産生抑制作用を得ることができる有効量」以上となるように設定される。好ましくは、飲食品または飼料の一日当たりの摂取量に含まれるラクトフェリンが、少なくとも1mg/kg体重/日であることが好ましく、特に3〜300mg/kg体重/日であることが好ましい。
【0021】
本発明の乳酸産生抑制剤を含有する飲食品は、例えば、ラクトフェリンに、デキストリン、デンプン等の糖類;ゼラチン、大豆タンパク、トウモロコシタンパク等のタンパク質;アラニン、グルタミン、イソロイシン等のアミノ酸類;セルロース、アラビアゴム等の多糖類;大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド等の油脂類等を配合することにより製造できる。
飲食品の形態としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物、パン;経腸栄養食等が挙げられる。
また本発明の飲食品の一態様として、抗疲労効果を有する機能性食品に加工することも可能である。
【0022】
本発明の乳酸産生抑制剤を含有する飼料は、例えば、ラクトフェリンに、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦、マイロ等の穀類;大豆油粕、ナタネ油粕、ヤシ油粕、アマニ油粕等の植物性油粕類;フスマ、麦糠、米糠、脱脂米糠等の糠類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の製造粕類;魚粉、脱脂粉乳、ホエー、イエローグリース、タロー等の動物性飼料類;トラル酵母、ビール酵母等の酵母類;第三リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の鉱物質飼料;油脂類;単体アミノ酸;糖類等を配合することにより製造できる。飼料の形態としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が挙げられる。
【0023】
本発明の飲食品または飼料は、乳酸産生抑制用、血中乳酸値の上昇抑制用、筋肉疲労の予防または軽減用、および/または乳酸アシドーシスの予防または改善用との用途が表示された飲食品または飼料として販売することが好ましい。
ここに、「表示」とは、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為を意味し、例えば、本発明の飲食品または飼料に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載する行為、商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁的方法により提供する行為、等が例示できる。
しかしながら、表示としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましく、例えば特定保健用食品〔健康増進法施行規則(平成十五年四月三十日 日本国厚生労働省令第八十六号)としての表示(特に保健の用途の表示)が最も好適である。
なお、以上のような用途の表示を行うために使用する文言は、上記に挙げた文言に限られるものでなく、それ以外の文言であっても、上記に挙げた用途の効果を表現する文言であれば、本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。
【実施例】
【0024】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の各実施例では、鉄含量が約20mg/100g、鉄飽和度が約15%飽和である市販のラクトフェリン(森永乳業社製)を使用した。
(実施例1)
〔ラクトフェリン錠剤の調製〕
市販のラクトフェリン(森永乳業社製)2.7kg、還元麦芽糖(東和化成工業社製)4.5kg、粉飴(昭和産業社製)0.8kg、コーンスターチ(加藤化学社製)0.8kgを流動造粒混合機(大川原製作所社製)にて混合造粒した。得られた混合末にグリセリン脂肪酸エステル(理研ビタミン社製)270g、ヨーグルトフレーバー(長谷川香料社製)36g、ピロリン酸第二鉄(三栄源エフエフアイ社製)30gを加えて均一に混合し、打錠機(畑鐵工所社製)により打錠圧力2.6トンで打錠し、ラクトフェリン約30%を含有する1.5gの円形錠である乳酸産生抑制剤を約5,500個を得た。
後述の試験例1に示されるように、この乳酸産生抑制剤は乳酸の産生を効果的に抑制することが確認された。
【0025】
(実施例2)
〔カプセル入りラクトフェリンの調製〕
乳糖(メグレ社製)600g、トウモロコシデンプン(日清製粉社製)400g、結晶セルロース(和光純薬工業社製)400g及びラクトフェリン(森永乳業社製)600gを50メッシュのふるい(ヤマト科学社製)により篩い分けし、厚さ0.5mmのポリエチレン製の袋にとり、転倒混合し、全自動カプセル充填機(セセレ・ペディーニ社製。プレス式)を用い、前記粉末をカプセル(日本エランコ社製、1号ゼラチンカプセル、Op. Yellow No.6 Body、空重量75mg)に内容量275mgで充填し、ラクトフェリンを82mg(約30%)含有するカプセル状の乳酸産生抑制剤7000個を得た。なお、この乳酸産生抑制剤は、乳酸の産生を効果的に抑制することが確認された。
【0026】
(実施例3)
〔ラクトフェリンを含有した経腸栄養剤の調製〕
粉末のラクトフェリン(森永乳業社製)2g及び市販の経腸栄養剤(エーザイ社製。クリニミール)1包(89g)に50〜60℃の温湯100mlを添加し、泡立て器で均一に混合し、更に温湯240mlを添加して完全に溶解し、ラクトフェリンを約5%含む経腸栄養剤を調製した。なお、この経腸栄養剤は乳酸の産生を効果的に抑制することが確認された。
【0027】
(実施例4)
〔ラクトフェリンを添加した飲料の調製〕
脱脂粉乳(森永乳業社製)90gを50℃の温湯800mlに溶解し、砂糖(日新製糖社製)30g、インスタントコーヒー粉末(ネスレ社製)14g、カラメル(昭和化工社製)2g、及びコーヒーフレーバー(三栄化学社製)0.01g、を攪拌しながら順次添加して溶解し、10℃に冷却し、ラクトフェリン(森永乳業社製)1gを添加し、ラクトフェリン約0.1%を含む乳飲料を調製した。なお、この乳飲料を飲用したところ、乳酸の産生を効果的に抑制することが確認された。
【0028】
(実施例5)
〔ラクトフェリンを添加したスポーツ用ドリンクの調製〕
次の組成のスポーツ用ドリンクを常法により作成した(単位:%)。
ラクトフェリン(森永乳業社製) 0.500(%)
砂糖(日新製糖社製) 2.000
果糖ぶどう糖液(日新製糖社製) 4.000
クエン酸(三栄源FFI社製) 0.100
塩化ナトリウム(関東化学社製) 0.040
ビタミンC(三栄源FFI社製) 0.015
塩化カリウム(関東化学社製) 0.040
水 93.305
なお、このスポーツ用ドリンクを飲用したところ、乳酸の産生を効果的に抑制することが確認された。
【0029】
(実施例6)
〔スポーツ用粉末飲料〕
1回分の組成として次に示す各成分の配合量のスポーツ用粉末飲料を常法により調製した(単位:g)。
ラクトフェリン(森永乳業社製) 2.0(g)
サンスウィート(ステビア・ソーマチン混合物:三栄源FFI社製) 0.1
アスパルテーム(味の素社製) 0.06
クエン酸(三栄源FFI社製) 1.51
リンゴ酸(理研化学社製) 0.49
グルコン酸(藤沢薬品工業社製) 1.02
シトラスフレーバー(三栄源FFI社製) 0.3
グレープフルーツフレーバー(三栄源FFI社製) 0.5
大豆レシチン(太陽化学社製) 0.003
前記スポーツ用粉末飲料を、使用時に水350mlに溶解し、ラクトフェリン約0.6%を含むスポーツ飲料として用いた。このスポーツ飲料を飲用したところ、乳酸の産生を効果的に抑制することが確認された。
【0030】
(実施例7)
〔競走馬用飼料〕
1回分の組成として次に示す各成分の配合量の粉末飼料を常法により作成した(単位:g)。
ラクトフェリン(森永乳業社製) 40(g)
乳糖(森永乳業社製) 6
クエン酸(三栄源FFI社製) 5
アスコルビン酸(三栄源FFI社製) 2
デキストリン(松谷化学社製) 8
前記粉末飼料を、使用時に水道水2000mlに溶解し、ラクトフェリン約2%を含む競走馬用の飲料として用いた。この飲料を競争馬に摂取させたところ、乳酸の産生を効果的に抑制することが確認された。
【0031】
次に試験例を示して本発明の効果を示す。
[試験例1]
本発明の乳酸産生抑制剤の経口投与による血中乳酸値に及ぼす効果を検討した。
(1)被験者および群分け
陸上競技部に所属する女子駅伝選手11名をランダムに分け、ラクトフェリン群(5名)とプラセボ群(6名)の2群とした。
(2)試験薬剤
ラクトフェリン群には実施例1で製造したラクトフェリン錠剤を、プラセボ群には、プラセボ錠剤を、一日当たり4個ずつ、8週間にわたり毎日経口投与(投与量:ラクトフェリン量として1.8g/日)させた。ここで、プラセボ錠剤とは、外観、風味はラクトフェリン錠剤と同じであるが、ラクトフェリンを含まない錠剤を意味する。
(3)試験方法
8週間のトレーニング期間開始前に、3,000mビルドアップ走を行い、ビルドアップ走直後に指先から採血し、血中乳酸値をエビテック(Enviteck)社製の測定装置(製品名:BIOSEN5040L)にて測定した。
8週間のトレーニング期間中、上記試験薬剤を毎日経口投与した。トレーニング期間終了時に、再度3,000mビルドアップ走を行い、同様にして血中乳酸値を測定した。
【0032】
(4)試験結果
投与開始前および8週後の血中乳酸値を表1に示す。表1の結果から明らかなとおり、プラセボ群では、投与8週後(トレーニング期間終了時)に投与開始時に比べて血中乳酸値が有意に上昇していたのに比べ、ラクトフェリン群では、有意な変化はなかった(対応のあるt検定)。
群間比較においては、投与開始前に両群間に有意差は無かったが、投与開始8週後では、ラクトフェリン群はプラセボ群に比べ有意に低い値を示した(t検定)。8週後での乳酸値の群間差は、投与開始前の乳酸値を共変量とおいた共分散分析でも有意であった。
以上の試験から、ラクトフェリンの経口投与により、乳酸値の上昇が有意に抑制されたことが確認された。トレーニング期間中は、1週当たり約100kmの走行練習を行うため疲労が蓄積する期間であり、プラセボ群で認められたようにトレーニング期間終了時には、ビルドアップ走後の乳酸値は、トレーニング開始前に比べて上昇することになるが、ラクトフェリンを投与することにより、走行練習による疲労の蓄積が回避され、トレーニング期間終了時でも、トレーニング開始前とほぼ同じ乳酸値を示した。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、安全性に優れ、日常的に長期間にわたり服用・摂取が可能であって、血中乳酸の産生抑制作用を有し、スポーツ、トレーニング等の運動及び筋肉労働に起因する血中乳酸値上昇抑制、並びに腎又は肝機能障害や高カロリー輸液施行中に認められる乳酸アシドーシス等の予防又は治療に有効な乳酸産生抑制剤を提供することが可能である。また、前記乳酸産生抑制剤を含有する飲食品および飼料を提供することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンを有効成分として含有する乳酸産生抑制剤。
【請求項2】
血中乳酸の産生を抑制することを特徴とする請求項1に記載の乳酸産生抑制剤。
【請求項3】
筋肉疲労の予防及び/又は軽減用、又は乳酸アシドーシスの予防及び/又は治療用である請求項2に記載の乳酸産生抑制剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の乳酸産生抑制剤を含有する飲食品又は飼料。


【公開番号】特開2007−31403(P2007−31403A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220487(P2005−220487)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】