説明

乳酸発酵製品及び乳酸発酵製品の製造方法

【課題】すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離した植物性乳酸菌を利用して乳酸発酵製品、及び該乳酸発酵製品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の乳酸発酵製品は、牛乳、脱脂粉乳、脱脂乳、生クリーム、羊乳等の動物乳又は動物乳の加工品、魚類等の動物性原料又はその加工・調製品、大豆、穀類、豆乳、野菜、果物等の植物性原料又はその加工・調製品等の被発酵原料を用い、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌(ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリ及びラクトバチルス・プランタラム)を利用して得られる。また、乳酸発酵製品の製造方法は、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を、上記被発酵原料に添加した後、発酵させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸発酵製品及び乳酸発酵製品の製造方法に関する。更に詳しくは、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を利用して得られた乳酸発酵製品、及び乳酸発酵製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌を利用した発酵製品は、食品の風味及び保存性を高めるものとして、古くから製造されてきた。乳酸菌による発酵製品としては、例えば、漬物、味噌、醤油、パン、発酵果汁、発酵野菜、発酵豆乳などの発酵植物製品、ヨーグルト、チーズ、バター、乳酸飲料等の発酵乳製品、魚のなれずし、魚醤等の魚類加工製品等多くの飲食品や調味料がある。そして、これらの発酵製品は、食品保存や風味の工夫を重ねる過程を通じて、使用される乳酸菌が意図的あるいは非意図的に選択されてきた。
また、近年、乳酸菌及びその発酵製品による健康維持に対する効果が注目されており、更に、食味や機能性を向上させた発酵製品の開発が進められている。例えば、下記特許文献1には、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス、ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシーズ・サーモフィラス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ラクトバチルス・アシドフィルス及びラクトバチルス・ヘルベティカスからなる群から選ばれた少なくとも一種の乳酸菌を用いて、発酵させてなるヨーグルトの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−328831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のヨーグルトは、マイルドで風味のよいヨーグルトは得られているが、免疫の活性化や整腸作用の効果を奏するものとしては、十分満足できるものではない。発酵製品を形成する乳酸菌は、動物性乳酸菌と植物性乳酸菌とに大別することができる。特許文献1に記載の乳酸菌は、動物性乳酸菌であり、この動物性乳酸菌による発酵製品の場合、発酵製品に含まれる乳酸菌の90%以上は胃で分解される場合が多い。発酵製品に含まれる乳酸菌は、その生菌が腸に達することにより、免疫の活性化や整腸作用等が良好に発揮されるが、動物性乳酸菌の場合、このような効果は得られ難い場合が多い。一方、植物性乳酸菌の場合は、多くの乳酸菌が腸まで生きたまま到達することができるが、これまで、動物乳又はその加工・調製品等を含む被発酵原料から、植物性乳酸菌を用いて順調に発酵製品を製造することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するための手段として、乳酸菌の分離源として木曾地方の伝統食品の1つである無塩乳酸発酵のすんき漬に着目した。従来、牛乳等の乳製品等を含む原料から、植物性乳酸菌の発酵により、ヨーグルト等の発酵製品の製造は困難であった。しかしながら、本発明者らは、上記すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離した乳酸菌を利用すれば、動物乳又はその加工・調製品等の被発酵原料から発酵製品を効率的に得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は下記の骨子を有する。
1.被発酵原料をすんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を利用して発酵することにより得られたことを特徴とする乳酸発酵製品。
2.前記乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリ及びラクトバチルス・プランタラムから選ばれる少なくとも1種である前記1.に記載の乳酸発酵製品。
3.前記乳酸発酵製品が、ヨーグルトである前記1.又は前記2.に記載の乳酸発酵製品。
4.すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を、被発酵原料に添加した後、発酵させることを特徴とする乳酸発酵製品の製造方法。
5.前記乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリ及びラクトバチルス・プランタラムから選ばれる少なくとも1種である前記4.に記載の乳酸発酵製品の製造方法。
6.前記乳酸発酵製品が、ヨーグルトである前記4.又は前記5.に記載の乳酸発酵製品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に使用される被発酵原料とは、例えば牛乳、魚等の動物性原料、大豆、豆乳、野菜、果物等の植物性原料が含まれる。このような被発酵原料を使用して得られた本発明の乳酸発酵製品は、乳酸発酵にすんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を利用するから、食味、食感に優れ、また免疫の活性化等の機能性に優れる。
また、乳酸発酵製品に用いる乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリ及びラクトバチルス・プランタラムから選ばれる少なくとも1種である場合には、より食味、及び免疫の活性化等の機能性に優れた乳酸発酵製品とすることができる。
また、本発明は特にヨーグルト、チーズ等の乳製品に適用して有用であり、カード形成が良好であり、食味、食感に優れ、また免疫の活性化等の機能性に優れたヨーグルトやチーズとすることができる。
本発明の乳酸発酵製品の製造方法は、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を用いて被発酵原料を発酵させることを特徴とし、上記乳酸菌は資化性に優れていることから、植物性乳酸菌による乳酸発酵製品を効率良く製造することができる。
また、本発明の乳酸発酵製品の製造方法に用いる乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリ及びラクトバチルス・プランタラムから選ばれる少なくとも1種である場合には、より資化性に優れ、更に効率良く乳酸発酵製品を製造することができる。
また、本発明の乳酸発酵製品の製造方法により得られる乳酸発酵製品が、ヨーグルトやチーズの場合には、カード形成が良好であり、食味、食感に優れ、また免疫の活性化等の機能性に優れた、ヨーグルトやチーズを効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態のヨーグルトの製造工程を模式的に表すヨーグルトの製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明は、被発酵原料を、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離(単離)された乳酸菌を利用して発酵することを特徴とする。
上記被発酵原料とは、例えば牛乳、脱脂粉乳、脱脂乳、生クリーム、羊乳等の動物乳又は動物乳等の加工・調製品、魚類等の動物性原料又はその加工・調製品、大豆、穀類、豆乳、野菜、果物等の植物性原料又はその加工・調製品を含む。
本発明では乳酸菌の分離源として、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液を利用する。
上記すんき漬とは、前記したように長野県木曽地方に伝わる伝統的な発酵食品であり、赤かぶ菜(漬け菜)を材料として用いて、これを湯通ししてから、すんき菌といわれる乳酸菌群を含有すると考えられている「すんき(の)種」と呼ばれる下記(1)〜(5)のうち少なくともひとつを加えるか、又はすんきを作る前に作っておいたすんき漬(漬液を含む)を加えて、塩を使用することなく発酵させることにより得られる漬物である。
(1)以前に作ったすんき漬(漬液を含む)を冷蔵したもの。
(2)以前に作ったすんき漬を冷凍(漬液を含む)したもの。
(3)以前に作ったすんき漬(漬液を含む)を乾燥させたもの。
(4)以前に作ったすんき漬(漬液を含む)を室温で保存したもの。
(5)木の実類等(ヤマブドウ、ズミ等)。
【0009】
本発明で使用される乳酸菌は、上記すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された植物性乳酸菌(以下、単に「乳酸菌」ともいう)である。すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌は、資化性に優れており、植物性乳酸菌でありながら、乳製品を含む原料から好適に乳酸発酵製品を得ることができる。
また、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を用いることにより、植物性乳酸菌によるヨーグルトを効率良く製造することができる。
【0010】
すんき漬及び/又はすんき漬の漬液からの乳酸菌の分離方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液に付着、遊離している乳酸菌を乳酸菌分離用培地で分離する方法、または、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液を集積培養し乳酸菌分離用培地で分離する方法、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液に付着、浮遊している乳酸菌を、攪拌やホモジナイザー、超音波、ストマッカー等で処理後、乳酸菌分離用培地で分離する方法等がある。
【0011】
また、上記分離方法として、具体的には、すんき漬の茎、葉をストマッカー処理等によって得られた試料液又は漬液の10〜10倍量(体積基準)の希釈液に、炭酸カルシウム又はpH指示薬等を含んだ寒天培地(約50℃)を加えて固化させ、その後、固化させた培地を、30℃前後で、1〜7日間培養し、コロニーを形成させ、乳酸によりコロニーの周りの炭酸カルシウムが溶けて透明化しているコロニー又はpH指示薬が変色しているコロニーを乳酸菌として釣菌し分離する。更に、上記釣菌された乳酸菌から、ヨーグルトの製造に適した乳酸菌を分離する場合、乳糖、ショ糖、ブドウ糖等の糖源の資化性の有無によりスクリーニングすることができる。
【0012】
上記スクリーニング方法としては、
(1)すんき漬の茎、葉をストマッカー処理等によって得られた試料液又は漬液の10〜10倍量(体積基準)の希釈液に、糖源として乳糖、ショ糖、ブドウ糖等の糖源、及びその他の栄養素等を、炭酸カルシウムを含んだ寒天培地に加えて混合し固化させる。固化させた培地を適当な温度(例えば20〜45℃、好ましくは25〜35℃)で培養し、コロニーを形成させ、乳酸等によりコロニーの周りの炭酸カルシウムが溶けて透明化している状態のコロニーを乳酸菌として釣菌して保存し、保存菌株とする。
(2)次いで、ヨーグルト製造に適した乳酸菌をスクリーニングする方法としては、上記(1)により得られた保存菌株について、下記(a)〜(d)のテストにより調べることができる。
【0013】
(a)上記保存菌株を、乳糖又はショ糖等を糖源とした、炭酸カルシウム含寒天培地で培養し、炭酸カルシウムが溶けて透明化する程度、及び、透明になるまでの時間等により乳糖又はショ糖等に対する資化性の優れた菌株を選択する。
(b)上記保存菌株を、少量の牛乳を用いて培養し、ゲル化が速い(ゲル化速度が大きい)菌株を選択する。また、この場合において、酸性化が速く、かつ酸性化の強い菌株を所定時間(例えば16〜48時間)培養後に得られた生産物のpH、酸度測定又は乳酸の定量等によっても選択する。
(c)上記保存菌株を、スキムミルク又はリトマスミルク等の培地で培養し、ゲル化速度が大きく、ゲル強度の高い菌株を選択する。また、この場合において、酸性化が速く、かつ酸性化の強い菌株を所定時間(例えば16〜48時間)培養後に得られた生産物のpH、酸度測定又は乳酸の定量等によっても選択する。
(d)以上(a)〜(c)により選択された乳酸菌を用いて、牛乳又はその他の副原料を用いて、実製造規模と同等でヨーグルトを製造し、ヨーグルトの製造に適し、かつ香味等の優れたヨーグルトを与える菌株を選択する。具体的には牛乳を用いて乳酸菌添加量を種々変更して乳酸菌で発酵を行うことによってヨーグルトの製造試験を行い、更にゲル化速度試験、所定時間(例えば16〜48時間)発酵後に得られた生産物のpH、酸度の測定、及び官能試験等を行うことにより、乳酸菌をスクリーニングする。
【0014】
また、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離した乳酸菌のうち、上記スクリーニングにより選択された乳酸菌としては、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、(Lactobacillus paracasei subsp. tolerans)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ブヒネリ(Lactobacillus buchneri)及びラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離した乳酸菌として、上記3種類の乳酸菌を用いる場合、これらの乳酸菌は、更に資化性に優れており、且つ、被発酵原料特に乳製品から効率良く乳酸発酵製品を得ることができる。
【0015】
本発明の乳酸発酵製品は、前記の被発酵原料を使用して、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から単離された乳酸菌を利用して得られた乳酸発酵製品であれば、特に限定されない。例えば、飲食品(発酵食品)、調味料、家畜飼料等、あるいは化粧品、医薬品等が挙げられる。これらのうち、本発明の乳酸発酵製品としては、ヨーグルト、チーズ、バターが好ましく、特に、ヨーグルトがより好ましい。乳酸発酵製品がヨーグルトである場合、用いる被発酵原料としては、牛乳、山羊乳及び羊乳等の動物乳とすることができる。
また、本発明の乳酸発酵製品がヨーグルトである場合、攪拌処理された飲料タイプのヨーグルトとすることもできる。
【0016】
本発明の乳酸発酵製品は、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から単離された乳酸菌を利用して得られた乳酸発酵製品であることから、本発明を飲食品とした場合、乳酸発酵製品に含まれる乳酸菌が、生きたまま腸に到達することができ、免疫の活性化及び整腸作用等の効果に優れる乳酸発酵製品とすることができる。
また、本発明の乳酸発酵製品がヨーグルト、チーズ等の乳製品である場合、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から単離された乳酸菌を利用することにより、カード形成がゆっくりと進行し、得られる乳製品は、きめ細やかな舌触りに優れるヨーグルトとすることができる。
更に、本発明の乳酸発酵製品であるヨーグルトは、通常のヨーグルトでも、飲料タイプのヨーグルトでも、滑らかな仕上がりとなっている。
【0017】
また、本発明の乳酸発酵製品は、更にその他添加物を発酵前(製造前)及び/又は製造中及び/又は製造後の何れの時点で含有させることができる。上記その他の添加物としては、香料、酸味料、アミノ酸、たんぱく質、果糖、グルコース、オリゴ糖、蔗糖等の糖類、糖類以外の甘味料、食塩、カルシウム塩等のミネラル、着色料、増粘剤、保存料、酸化防止剤、及び安定剤等が挙げられる。
【0018】
上記被発酵原料に添加されるすんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌としては、上記乳酸菌単独及び上記乳酸菌を含む組成物等の乳酸菌スターターを含み、上記乳酸菌単独あるいは乳酸菌スターターを乳酸菌増殖用の培地に接種した時、増殖する能力を有する物であればよい。具体的には、乳酸菌単独、乳酸菌を培養した培養液又は組成物、培養液又は組成物から得た集菌物、凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させた乳酸菌の粉末、顆粒、タブレット状の物などが挙げられる。
【0019】
上記被発酵原料に添加される上記すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌の添加量は、上記乳酸菌の増殖速度及び資化速度を勘案して、適宜選択することができる。具体的には、原料100質量部に対して、乳酸菌数として、好ましくは10〜1013cfu(cfu:colony forming unit)であり、より好ましくは10〜1011cfuである。
また、本発明においては、上記のすんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌(すんき乳酸菌という)以外の他の乳酸菌を併用することもできる。上記他の乳酸菌としては、動物性乳酸菌及び上記のすんき乳酸菌以外の植物性乳酸菌が挙げられる。
その他の乳酸菌を併用する場合、被発酵原料100質量部に対して、すんき乳酸菌10〜1013cfu、他の乳酸菌10〜1010cfuの使用量が好ましく、更にすんき乳酸菌10〜1011cfu、他の乳酸菌10〜10cfuがより好ましい。
【0020】
本発明において、上記被発酵原料に乳酸菌が添加された後、発酵に供される。上記発酵における発酵温度は、乳酸菌生育の条件の観点から、好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜45℃である。また、発酵時間は、12〜48時間から適宜選択することができる。
【0021】
本発明の製造方法をヨーグルトの製造に適用する場合、例えば図1のヨーグルトの製造工程図に示される製造方法を採用する。
【0022】
上記ヨーグルトの製造方法としては、原料混合工程、加温工程、均質化工程、加熱処理工程、冷却工程、乳酸菌添加工程、発酵工程及び冷却工程を順次備えることができる。
上記原料混合工程では、被発酵原料として用いられる動物乳又は動物乳の加工品等、糖類等のその他添加剤等を混合する工程である。この原料混合工程で、ヨーグルトの製造に用いられる原料混合物が調製される。
【0023】
上記加温工程は、上記原料混合物を溶解、均質を容易にするするために加温する工程である。この加温工程での加熱温度は50〜70℃が好ましい。
上記均質化工程は、上記加温工程で加温処理された原料に含まれる脂肪球等の成分を均一に分散させるための工程である。この均質化工程では、上記加温工程における温度範囲と、同じ温度範囲に保持させて行うことが好ましい。また、均質化工程では、ホモジナイザーを用いることができる。ホモジナイザーの圧力としては、好ましくは100〜150kg/cmであり、より好ましくは120〜130kg/cmである。
上記加熱処理工程は、用いる原料を殺菌するために、上記均質化工程で得られた原料を加熱処理する工程である。この加熱処理工程での加熱温度は、殺菌及び原料の変質を抑制する観点から80〜90℃が好ましく、83〜85℃がより好ましい。
上記冷却工程は、上記加熱処理工程で加熱処理された原料を、発酵温度まで冷却する工程である。上記発酵温度としては、好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜45℃である。
【0024】
上記乳酸菌添加工程は、上記冷却工程により発酵温度まで冷却された原料に、上記乳酸菌を添加する工程である。乳酸菌添加工程での、乳酸菌の添加量は前記の通りである。
上記発酵工程は、上記乳酸菌添加工程おいて乳酸菌が添加された原料を発酵させる工程である。この発酵工程により、乳酸発酵製品であるヨーグルトを得ることができる。発酵工程での発酵温度は、好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜45℃である。発酵時間は、好ましくは12〜48時間である。より好ましくは、発酵工程により得られる発酵生成物のpHが、4.2前後となるように発酵時間が選択される。
【0025】
上記冷却工程は、乳酸菌の発酵を停止して、得られたヨーグルトを保存する工程である。冷却工程の温度は、通常、10℃以下が好ましい。
【0026】
本発明の乳酸発酵製品の製造方法において、前記したように乳酸発酵製品にその他の添加物を混合することができる。その他の添加物の添加混合は、発酵前(製造前)及び/又は製造中及び/又は製造後の何れの時点で行われても良い。添加混合方法は、特に限定されず、公知の方法が適用される。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことは言うまでもない。尚、以下において、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0028】
〔1〕すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から乳酸菌の分離
上述のスクリーニング方法に準じて、下記のスクリーニング条件により、すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から乳酸菌を分離した。分離された乳酸菌は、5種類であった。これらの5種類の乳酸菌を、「T998」、「L204」、「L205」、「e15」及び「ス86」とする。
【0029】
スクリーニング方法としては、(1)すんき漬をストマッカー処理等を行うことによって得られた試料液及び/又は漬液の希釈液の10〜10倍量(体積基準)に、糖源として乳糖、ブドウ糖又はショ糖、及びその他の栄養素としてペプトン、酵母エキス、無機塩類、牛肉エキス、界面活性剤等を、炭酸カルシウムを含んだ寒天培地に加えて混合し固化させた。固化させた培地を、約30℃で1〜7日培養し、コロニーを形成させ、乳酸等によりコロニーの周りの炭酸カルシウムが溶けて透明化しているコロニーを乳酸菌として釣菌し保存した。
(2)次いで、ヨーグルト製造に適した乳酸菌をスクリーニングする方法としては、上記(1)により得られた保存菌株について、下記(a)、(b)のテストにより調べた。
【0030】
(a)上記保存菌株を、牛乳4〜5mlを用いて、初発菌数1×10〜3×10cfu/ml(cfu:colony forming unit)とし、試験管内で33℃で培養し、牛乳のゲル化率(%)を培養時間に対して測定し、ゲル化速度が速い菌株を選択した。また、この場合において、酸性化速度が速く、酸性化の強い菌株を、pHによって選択した。ここにゲル化率とは牛乳全量に対してゲル化部分の割合である。
(b)以上の(a)により選択された乳酸菌を用いて、実製造規模と同等な135ml用のビンに牛乳135mlを用いて、初発菌数1×10〜1×10cfu/mlとして、33℃で発酵してヨーグルトを製造し、ヨーグルトの製造に適しかつ香味等に優れた菌株を選択した。
上記により、5種類の乳酸菌、「T998」、「L204」、「L205」、「e15」及び「ス86」が選択できた。
尚、「L205」単独ではヨーグルトの生成能が弱かった。一方、「L204」は、単独ではヨーグルトを生成するが、「L205」と併用することにより、ヨーグルト生成能が向上した。
【0031】
上記「T998」、「L204」、「L205」、「e15」及び「ス86」について、上記(a)のテスト結果に関して、培養時間に対してのゲル化率(%)及び培養48時間後のpHを下記表1に示す。
上記(b)のテスト結果に関して、初発菌数を変えて、発酵時間に対してのゲル化率(%)及び発酵48時間後のpH、並びに乳酸としての滴定酸度(%)を下記表2に示す。
また、「「L204」及び「L205」は、両者を併用することにより、ヨーグルト生成能が向上したため、「L204」及び「L205」を併用したものについても同様に調べた。併用における初発菌数は、「L204」が1×10cfu/mlであり、「L205」が1×10cfu/mlとした。その結果を下記表1及び表2に併記する。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
上記の「T998」、「L204」、「L205」、「e15」、「ス86」の5種類の乳酸菌の生理学的性質を確認したところ、上記の5種類の乳酸菌の全ては、「グラム陽性」、「カタラーゼ陰性」、「無芽胞」及び「通性嫌気性」であった。
また、上記の5種類の乳酸菌について、顕微鏡よる形態観察をおこなったところ、上記の5種類の乳酸菌の全てが「連鎖桿菌」であった。
さらに、上記の5種類の乳酸菌において、細菌同定キット(シスメックス・ビオメリュー株式会社製「アピ50CHL」)を用いて、30℃、48時間培養で炭水化物及び炭水化物誘導体の資化性又は加水分解能力を調べて乳酸菌の同定を行った。
さらに加えて、「T998」、「L204」、「L205」の3種類の乳酸菌については、測定したDNAシーケンスをライフテクノロジーズジャパン(株)製のライブラリーに登録されているシーケンスとどの程度一致しているかを示す%Matchを求めて乳酸菌の同定を行った。DNAシーケンスに99%以上の相同性があればその属種の菌種であるとし、97〜98.9%の範囲であれば、同じ属に属する菌種であるとされる(Simmon et al, JCM(2006))。
なおDNAシーケンスの測定は、ABI PRISM310 Genetic Analyzer(機器名、PEバイオシステムズジャパン社製)を使用し、16SリボゾームRNA遺伝子の上流側約500塩基分のPCR産物について行った。菌種同定は、MicroSEQ ID(機器名、ライフテクノロジーズジャパン社製、V2.1.1、ライブラリー:AB_Bacterial500Lib_2.2)の微生物同定システムを使用して行った。
以下にライブラリー AB_Bacterial500Lib_2.2 において相同性の高かった菌種を同定結果として示す。
T998:
・Lactobacillus paracaseisubsp. paracasei (ATCC 25302)
・Lactobacillus paracaseisubsp. tolerans (ATCC 25599)
・Lactobacillus casei(ATCC 393)
・Lactobacillus rhamnosus(ATCC 7469)
L204
・Lactobacillus paracaseisubsp. tolerans (ATCC 25599)
・Lactobacillus paracaseisubsp. paracasei (ATCC 25302)
・Lactobacillus casei(ATCC 393)
・Lactobacillus rhamnosus(ATCC 7469)
L205
・Lactobacillus buchneri(ATCC 4005)
下記表3に炭水化物及び炭水化物誘導体の資化性又は加水分解能力を示す。また、同定結果を下記表4及び表5に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
以上より、「T998」、「L204」は、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイおよびラクトバチルス・ラムノサスであり、「L205」は、ラクトバチルス・ブヒネリであり、「e15」及び「ス86」は、ラクトバチルス・プランタラムであることが分かった。
なお、上述のとおり「L205」単独ではヨーグルトの生成能が非常に弱かったが「L204」と併用することにより、ヨーグルト生成能が向上した。即ち、「L204」を初発菌数1×10cfu/mlとなるように添加してヨーグルトを生成した場合、33℃発酵で、100%のゲル化は発酵時間が24時間を越えたが、更に「L205」を初発菌数5×10cfu/ml以上併用して添加して発酵させると、100%のゲル化は24時間以内に行うことができ、かつ発酵24時間でのpHを4.5以下にすることができた。「L204」と「L205」とを併用してヨーグルトと製造する場合、「L204」の乳酸菌の添加量は、原料100質量部に対して、乳酸菌数として、好ましくは10〜1012cfuであり、より好ましくは10〜1011cfuである。また、この場合、「L205」の乳酸菌の添加量は、原料100質量部に対して、乳酸菌数として、好ましくは10〜1011cfuであり、より好ましくは10〜1010cfuである。
【0039】
〔2〕ヨーグルトの製造
上記(1)の乳酸菌の分離により得られた「T998」、「L204」、「L205」、「e15」及び「ス86」の6種類の乳酸菌を用いて、乳酸発酵製品としてヨーグルトを製造した。
【0040】
実施例1(T998によるヨーグルトの製造)
原料として牛乳3kg、グラニュ糖0.195kgを混合して、原料混合物を調製した。次いで、上記原料混合物を60℃に加温した後、60℃に保持したまま、ホモジナイザーを用いて、130kg/cmの圧力により、原料混合物を均質化した。さらに原料混合物を均質化した後、85℃で5分間、熱処理を行った。その後、上記原料混合物を33℃に冷却した後、冷却された上記原料混合物にすんき漬及び/又はすんき漬の漬液からから分離した乳酸菌T998を2.28×1011cfu添加した。次いで、上記乳酸菌を添加した原料混合物を容器に充填した後、33℃で発酵させた。発酵は24時間行い、発酵後10℃以下に冷却し、乳酸発酵製品を得た。得られた乳酸発酵製品のpHは4.2であり、上記原料混合物はゲル化によりカードを形成し、ヨーグルトとなっていた。
【0041】
実施例2(L204及びL205によるヨーグルトの製造)
実施例1における乳酸菌T998に代えて、L204及びL205を〕すんき漬及び/又はすんき漬の漬液からから分離した乳酸菌として用いて、L204及びL205の添加量を、それぞれ1.90×1011cfu(L204)、及び1.18×1010cfu(L205)とした以外は、実施例1と同様にして、乳酸発酵製品を得た。得られた乳酸発酵製品のpHは4.2であり、上記原料混合物はゲル化によりカードを形成し、ヨーグルトとなっていた。
【0042】
実施例4(e15によるヨーグルトの製造)
実施例1における乳酸菌T998に代えて、e15をすんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離した乳酸菌として用いて、e15の添加量を3.00×1012cfuとし、発酵時間を48時間とした以外は、実施例1と同様にして、乳酸発酵製品を得た。得られた乳酸発酵製品のpHは4.6であり、原料混合物のゲル化によりカードを形成し、ヨーグルトとなっていた。
【0043】
実施例5(ス86によるヨーグルトの製造)
実施例1における乳酸菌T998に代えて、ス86をすんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離した乳酸菌として用いて、ス86の添加量を、3.00×1012cfuとし、発酵時間を48時間にした以外は、実施例1と同様にして、乳酸発酵製品を得た。得られた乳酸発酵製品のpHは4.6であり、上記原料混合物はゲル化によりカードを形成し、ヨーグルトとなっていた。
【0044】
〔3〕官能検査及び外観評価
上記実施例1〜5により得られたヨーグルトに関して、「酸味」、「食味」及び「カードの滑らかさ」の3項目について、下記の基準に従って、官能検査、並びに外観について評価した。上記評価結果を下記表6に示す。
酸味に関しては、良好な酸味を示すものを3点、酸味が可であるものを2点、酸味が弱いものを1点として評価した。
食味に関しては、美味しいかったものを3点、可である物を2点、まずかったものを1点として評価した。
カードの滑らかさに関しては、きめ細やかな舌触りのものを3点、可であるものを2点、舌触りが滑らかでなかったものを1点として評価した。
外観に関しては、カードの表面が均一で滑らかのものを3点、可であるものを2点、表面が均一でなくざらついているものを1点として評価した。
【0045】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は発酵関連分野、特に、発酵食品製造分野において広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被発酵原料をすんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を利用して発酵することによって得られたことを特徴とする乳酸発酵製品。
【請求項2】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリ及びラクトバチルス・プランタラムから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の乳酸発酵製品。
【請求項3】
前記乳酸発酵製品が、ヨーグルトである請求項1又は2に記載の乳酸発酵製品。
【請求項4】
すんき漬及び/又はすんき漬の漬液から分離された乳酸菌を、被発酵原料に添加した後、発酵させることを特徴とする乳酸発酵製品の製造方法。
【請求項5】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・パラカゼイ、ラクトバチルス・パラカゼイ・サブスピーシーズ・トレランス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ブヒネリ及びラクトバチルス・プランタラムから選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の乳酸発酵製品の製造方法。
【請求項6】
前記乳酸発酵製品が、ヨーグルトである請求項4又は5に記載の乳酸発酵製品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−105639(P2012−105639A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230185(P2011−230185)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(504063688)有限会社エイチ・アイ・エフ (1)
【出願人】(391001619)長野県 (64)
【Fターム(参考)】