説明

乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法

【課題】乳酸菌を含有する冷菓中に混在する乳酸菌以外の生菌数を、簡便かつ迅速に測定する。
【解決手段】乳酸菌を含有する冷菓を500倍〜10000倍に希釈して測定試料を調製する。測定試料は、ブロムクレゾールパープルが添加された標準寒天培地で培養する。ブロムクレゾールパープルは、標準寒天培地1000mlあたり0.01〜0.04g添加する。培養に際しては混釈法を用いる。希釈による栄養制限等によって乳酸菌の生育が抑制されるため、実用上、十分な検出精度でもって、簡便かつ迅速に生菌数を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生きた乳酸菌を含有する冷菓中に混在する、乳酸菌以外の細菌の生菌数の測定方法に関し、とくに乳酸菌を添加したアイスクリーム類に好適な生菌数の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生きた乳酸菌を含む冷菓といえば、たとえばフローズンヨーグルトがある。乳酸菌には、整腸作用等、様々な健康促進効果が認められることから、近年再び注目を集めている。
【0003】
一方、冷たい菓子(冷菓)の代表格としてアイスクリームがある。アイスクリームは、関連法令によれば、乳固形分や乳脂肪分の違いによって、アイスクリームとアイスミルクとラクトアイスとに分類されており、これらを含めてアイスクリーム類として定義されている。最近では、このアイスクリーム類に乳酸菌を添加した新しい冷菓も提案されている。この乳酸菌入りのアイスクリーム類は、単にアイスクリーム類に乳酸菌の機能性が付与されているだけでなく、発酵乳の爽やかな後味が加わることで、従来のアイスクリームにはなかった口当たりのよい新たな風味が実現されている。
【0004】
ところで、これら冷菓は、関連法令によって成分規格が規定されているため、冷菓を製造するメーカーは、その基準が満たされていることを常時測定して検査する必要がある。その基準の一つに細菌数(生菌数、生きている細菌数)の規格項目がある。
【0005】
しかし、この細菌数は細菌汚染の指標であるため、検査対象に乳酸菌が含まれる場合には、乳酸菌を除いた細菌数をもって細菌数とする必要がある。検査対象に乳酸菌が含まれる場合の生菌数の測定方法としては、たとえば、非特許文献1,2がある。
【0006】
【非特許文献1】「食品衛生検査指針 微生物編 2004」、社団法人 日本食品衛生協会、2004年6月30日、p.579−580
【非特許文献2】「Butter,fermented milks and fresh cheese −Enumeration of contaminating microorganisms−Colony‐count technique at 30℃」、ISO13559:2002(E)(IDF153:2002(E))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フローズンヨーグルト等、検査対象が多量に乳酸菌を含む場合、その乳酸菌だけを除いて一般細菌の生菌数を測定することは難しく、十分な測定方法が確立されていないのが実情である。
【0008】
たとえば、標準寒天培地を用いた定法に従って一般細菌数を測定し、コロニーの形状等から乳酸菌と一般細菌とを選別することが考えられるが、検査対象が多量に乳酸菌を含む場合、乳酸菌が一般細菌よりも圧倒的に多くなってしまい、それらの判別に経験を要するうえ、精度に欠け実用的でない。また、この標準寒天培地に乳酸菌測定用の培地を併用する方法も考えられる。つまり、乳酸菌を含む総菌数と乳酸菌数とをそれぞれ測定して、総菌数から乳酸菌数を減算することによって算出するのであるが、測定に手間がかかり過ぎて、これもまた実用性に欠ける。
【0009】
そこで、本発明者らは、先の非特許文献1の「乳酸菌を加えた粉末清涼飲料の細菌数(生菌数、ただし乳酸菌を除く)の測定方法」に示されているペニシリンGカリウム添加ブドウ糖加寒天培地や、4%塩化ナトリウム含有BCP加プレートカウント寒天培地などの適用を試みたが、検査対象によっては、乳酸菌のコロニー形成が認められ、一般細菌のみを選択的に検出することができなかった。
【0010】
また、先の非特許文献2には、国際規格として「発酵乳等の汚染細菌の計測法」(以下、単にIDF153法という)が示されているが、作業負担の大きい塗抹法によるものであるうえ、培養条件が30℃、72時間と期間を要するため、正確かつ迅速を要する品質管理の現場においては扱い難い。また、この方法の場合、培地への選択剤の添加が不可欠であり、選択剤の選定や培地調製という煩雑な作業を要し、汎用性に欠けるという不利もある。
【0011】
そこで、本発明は前記問題点に鑑み、フローズンヨーグルトや乳酸菌入りのアイスクリームなどの、生きた乳酸菌を多量に含む冷菓中に混在する乳酸菌以外の生菌数を、簡便でありながら、迅速に測定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の本発明は、乳酸菌を含有する冷菓中に混在する乳酸菌以外の細菌数を測定する乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法である。そして、上記課題を解決するため、前記冷菓を500倍〜10000倍に希釈して測定試料を調製する工程と、前記測定試料を、ブロムクレゾールパープル(BCP)が添加された標準寒天培地で培養する工程と、培養後に検出されるコロニー数を計数する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法であって、ブロムクレゾールパープルが、標準寒天培地1000mlあたり0.01〜0.04g添加されていることを特徴とする。
【0014】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法であって、混釈法を用いて培養することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の本発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法であって、前記冷菓が、乳酸菌が添加されたアイスクリーム類を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
生きた乳酸菌を多量に含む冷菓の生菌数を、実用上、十分な検出精度でもって、簡便かつ迅速に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、乳酸菌を含む冷菓中に混在する乳酸菌以外の細菌数(生菌数)を測定する測定方法である。そして、その測定の工程に、測定対象の冷菓を500倍〜10000倍に希釈して測定試料を調製する工程と、測定試料を標準寒天培地で培養する工程と、培養後に検出されるコロニー数を計数する工程と、を含むことに特徴がある。以下、図面を参照しつつ、本発明の最良の実施の形態について説明する。
【0018】
本発明において、乳酸菌とは、たとえばヨーグルトに代表される発酵乳中に含まれる細菌であって、乳酸を多量につくる細菌群の総称である。細菌学的には、Lactobacillus属や、Lactococcus属、Streptococcus属などの分類に属している。乳酸菌には多くの種類が存在するが、本発明では、乳酸菌の種類については、とくに限定しない。しかしながら、その中でも、発酵乳を製造する際に使用されるスターターとしての乳酸菌、たとえば、乳酸球菌(Streptococcus thermophilus)や乳酸桿菌(Lactobacillus bulgaricus)などを含む場合に好適である。とくに乳酸球菌は、乳酸菌の中でも一般細菌とともに検出され易いが、これの生育を効果的に抑制することができる。
【0019】
本発明が測定対象とするのは、たとえば、フローズンヨーグルトなどの生きた乳酸菌を多量に含む冷菓である。乳酸菌を別途添加したアイスクリーム類も測定対象に含む。すなわち、本発明では、生きた乳酸菌が多量に含まれる菓子であって、流通時あるいは保管時には冷凍状態で取り扱われる冷たい菓子(冷菓)を測定対象とする。
【0020】
冷菓は、冷凍下で流通されることから、製造後は温度条件により一般細菌は増殖できない。したがって、製造後に生菌数を検査して規格内にあることを確認すれば、以後、菌数の増加を心配する必要が無い。そして、たとえば、先のアイスクリーム類の細菌数の規格をみると、アイスクリームは、1gあたり100,000(1×10)cfu(colony forming unit)以下、アイスミルクおよびラクトアイスは、1gあたり50,000(5×10)cfu以下となっており、検出下限菌数が比較的高くても規格を満たすか否かの判断ができ、測定条件的には有利だからである。
【0021】
しかしながら、ヨーグルト等の発酵乳には、通常、1gあたり約10cfuの乳酸菌が含まれている。そのため、この中に混在する一般細菌だけを選択的に測定するのは容易でない。
【0022】
ところが、乳酸菌は、他の一般細菌と比べると栄養要求性が高い傾向がある。そこで、本発明者らは、冷菓の特質を考慮すれば、測定時の希釈率を十分に高めて、冷菓由来の栄養源、つまり、乳酸菌の生育にとって有効と思われる栄養源の培地への持込量を少なくすれば、一般細菌だけを選択的に測定できると考えた。そして、実験により検証した結果、実用的な測定方法を得るに至ったのである。
【0023】
すなわち、本発明では、測定する冷菓を、まず500倍〜10000倍、規格や検査精度を考慮すれば、好ましくは500倍〜5000倍に希釈して測定試料を調製する。10倍希釈の単純な繰り返しで対処できるため、より好ましくは、1000倍に希釈する。そうすることで、まず、栄養制限によって乳酸菌の生育を効果的に抑制することができ、多量の乳酸菌が含まれていても、そこに混在している一般細菌だけを選択して測定することが可能となる。しかし、培地に黄変等が認められず、一般細菌を測定できる場合もあり、その場合には、必ずしも希釈倍率には限定されない。なお、希釈倍率は、厳密な精度を求めるものではない。これら数値は、実用上、許容できる程度の前後幅を含む。
【0024】
図1に、本発明の測定方法の概要を示す。図1の(a)に示すように、クリーンベンチ等の無菌環境下で、たとえば、測定対象である乳酸菌を含む冷菓から1gを採取し、生理食塩水(塩分濃度0.85%)の入った滅菌済み試験管で希釈を繰り返して、1000倍まで段階的に希釈する。そして、冷菓を1000倍に希釈調製した溶液を測定試料Sとする。
【0025】
培養には、一般細菌の培養に適した培地、すなわち、常用されている一般細菌測定用の標準寒天培地を用いて培養する。
【0026】
標準寒天培地には、ブロムクレゾールパープル(BCP)を添加するのが好ましい。詳しくは、標準寒天培地1000mlあたり0.01〜0.04gのBCPを添加する。好ましくは、0.02〜0.03gのBCPを添加する。BCPは、青系色素からなるPH指示薬である。培地では、たとえば、乳酸菌測定用の公定培地であるBCP加プレート寒天培地に用いられている。なお、この実施の形態では、標準寒天培地1000mlあたり0.025gのBCPを添加している。
【0027】
ここで、上記各培地の組成を図2に示す。図2には、標準寒天培地と、BCP加プレート寒天培地と、標準寒天培地にBCPを添加した培地(以下、単にBlue−SMAという)とを対比して示してある。いずれの培地も、基本組成であるペプトン、酵母エキス、ブドウ糖および寒天の含量は同じである。標準寒天培地に対して相違するのは、Blue−SMAは、BCPを含み、BCP加プレート寒天培地は、さらにtween80(登録商標)とL−システインを含む点である。
【0028】
tween80およびL−システインは、乳酸菌の栄養要求性にあわせて添加される栄養源である。したがって、これを含まない標準寒天培地やBlue−SMAは、それだけ乳酸菌の増殖を抑制することができる。
【0029】
BCPは、BCP加プレート寒天培地においては、乳酸菌が生成する乳酸によってコロニーの周辺が黄変するのを利用して、目視による乳酸菌の検出を容易にするために用いられている。一方、本発明では、何らかの酸を生成する一般細菌のコロニーの周辺が黄変することを利用して、目視による一般細菌の検出を容易にすることや、コントラストを高めて検出されるコロニーの判別を容易にすることのために用いる。
【0030】
さらに、実験の過程で標準寒天培地にBCPを添加することで、乳酸菌の生育を抑制する効果が認められており、本発明におけるBCPは、乳酸菌の生育抑制効果にも寄与し得ることがわかっている。その実験結果を図3に示す。図3は、乳酸菌を含むある冷菓を試料に生菌数の測定を行った結果を示している。そこでは、同じ所定条件の下、試料(S)の希釈率を変えて標準寒天培地(MERCK社製)と、その標準寒天培地にBCPを添加して調製したBlue−SMAとで比較実験を行った(N=2、それぞれの試料に対して2回測定)。
【0031】
図3に示すように、BCPを添加していない標準寒天培地においては、10倍希釈は判別不可であり、100倍希釈ではコロニーが多過ぎて計数できず(TNTC;Too Numerous To Count)、1000倍希釈でも菌の生育が認められた(たとえば、2.9×10cfu/g)。それに対して、BCPを添加したBlue−SMAでは、100倍希釈までは黄変が認められたものの、1000倍希釈ではコロニーの形成が認められなかった。すなわち、希釈による栄養制限とBCP添加の相乗効果とで乳酸菌の生育が効果的に抑制できたものと考えられる。
【0032】
次に、培養の操作について説明する。操作に先立って、培地は予め十分量つくって小分けして滅菌しておく。そして、操作時に培地の必要量を加温して液状にする。そうすることで、まとめて作業ができ、効率よく作業できる。液状の培地(滅菌後に加温して溶解した培地)は、そのまま菌に影響を与えない温度、たとえば40℃前後に保持する。
【0033】
そして、図1の(b)に示すように、準備した測定試料Sの1mlを適量の培地(Blue−SMA)とともに滅菌済みのシャーレPに流し入れ、混ぜ合わせながら直ちに固化させる。培地が固化したシャーレPは、図1の(c)に示すように、下を向けた状態で、恒温器Tに保管して所定条件の下で培養する(混釈法)。操作は単に培地と測定試料とを混ぜ合わせるだけであるため、多数の検査が必要であっても簡便かつ迅速に処理できる。
【0034】
なお、予めシャーレPに培地を固化させて培地平板を作製した後、その上に測定試料を滴下してコンラジ棒等で平板上に拡げて培養する方法(塗抹法)もあるが、塗抹法で検出下限菌数を低くしようとすると、シャーレの枚数を多くしなければならなくなるなどのため、準備や操作に手間を要し、実用面で混釈法に劣る。
【0035】
培養条件は、一部の低温細菌や中温細菌を対象とする場合には、30℃、48時間相当の条件で培養する。中温細菌を対象とする場合には、35℃、48時間相当の条件で培養する。もっとも、培養条件は、必要に応じて適宜調製することができる。また、ここで示す培養条件の数値は、至適条件であって、厳密な精度を求めるものではない。これら数値は、実用上、許容できる程度の前後幅を含む。
【0036】
所定条件の下で培養した後、固化した培地に形成されたコロニーを目視により計数する。そして、得られた計数値を基に、希釈倍率から冷菓の単位量あたりの生菌数を算出するのである。乳酸菌は、生育が抑制されてコロニーを形成しないため、安心して計測できる。
【0037】
そして、このとき、BCPが所定量添加してあると、コントラストが高まるため、コロニーの判別が容易である。つまり、混釈法の場合、培地の内部でコロニーが形成されるため、コロニーが微小になる傾向があるが、その場合であっても、コントラストによってコロニーがくっきりと見えるからである。
【0038】
以上のように、本発明の測定方法によれば、従来用いられている培地を工夫して冷菓を所定倍希釈するだけで、これまで手間と時間を要していた、乳酸菌を多量に含む冷菓の細菌検査を簡単かつ迅速に行うことが可能となるのである。
【0039】
もっとも、希釈する分、検出下限菌数は高くなるが、冷菓を対象としているため、その規格基準を考慮すれば、規格を満たすか否かの判断には十分である。たとえば、アイスクリームであれば、規格基準が100,000(1×10)cfu/ml以下なので、10000倍に希釈しても、シャーレ中に10個のコロニーが検出されるか否かで規格基準を満たすか否かの判断を行うことができ、ラクトアイスやアイスミルクであれば、規格基準が50,000(5×10)cfu/ml以下なので、5000倍に希釈しても、シャーレ中に10個のコロニーが検出されるか否かで規格基準を満たすか否かの判断を行うことができる。
【0040】
{第1実施例}
第1実施例として、本発明の測定方法(以下、Blue−SMA法という)を、先に説明したIDF153法による測定方法と比較した実験を示す。
【0041】
測定対象には、発酵乳が40%使用された乳酸菌入りのアイスクリームを用いた。これには、無脂乳固形分12.5%、乳脂肪分13.5%が含まれるとともに、乳酸菌が約10cfu/g含まれている。含まれる乳酸菌は、発酵乳製造時に用いられたスターターの乳酸菌である。具体的には、Streptococcus thermophilus OLS3290株(FERM P−19638)、Lactobacillus bulgaricus OLL1073R−1株(FERM BP−10741)の2種である。この乳酸菌入りアイスクリームのロット別の計17サンプルについて測定を行った。
【0042】
培地には、先に説明した、標準寒天培地にBCPを添加した培地(Blue−SMA、MERCK社製)を用いた。培養温度は30℃と35℃、培養期間はいずれも48時間とした。
【0043】
測定試料には、測定対象である乳酸菌入りアイスクリームを、滅菌済み生理食塩水(塩分濃度0.85%)で10倍(10−1)、100倍(10−2)、1000倍(10−3)に希釈したものを用いた。35℃では、それに加えて10000倍(10−4)、100000倍(10−5)に希釈して、それぞれを測定試料とした。
【0044】
得られた各測定試料1mlは、適量のBlue−SMAと滅菌シャーレに混釈して固化させた後、それぞれ各温度で48時間培養し、検出されたコロニー数を目視により計数した。
【0045】
比較対象として、上記の測定と同時に上記各17サンプル対して、IDF153法に従い測定を行った。具体的には、同法所定の培地で滅菌シャーレに培地平板を作製した。そして、先の100倍〜10000倍に希釈した各測定試料0.1mlを培地平板上に塗抹した後、30℃、72時間培養し、検出したコロニー数を目視により計数した。
【0046】
そのほか、各サンプルに含まれる乳酸菌数についても、乳等省令に従って測定した。
【0047】
Blue−SMA法において、10倍希釈では、いずれも培地全体にわたる黄変が認められた。また、100倍希釈でも培地の変色が認められた。そのため、これらについては、乳酸菌の影響があると判断し、測定対象から除外した。一方、1000倍希釈以上では、培地に変色は認められなかった。そこで、1000倍希釈以上の測定試料を採用し、各測定試料の培地に形成されたコロニー数を計数した。その計数結果を図4に示す。図4に示すように、測定を行った乳酸菌入りアイスクリーム17サンプルのいずれにも、約10〜10cfu/gの乳酸菌が含まれていた。そして、1000倍希釈相当の計数結果に基づき、希釈倍率から冷菓1gあたりの生菌数を算出した。その算出結果は、図5の表、および図6、図7のグラフに示す。なお、その場合の検出限界は、1000cfu/gである(<1000)。
【0048】
図4および図5に示すように、Blue−SMA法では、検出無しから最大37000cfu/gの生菌数が測定された。なお、図4において、サンプルNo.11の100000倍(10−5)など、希釈倍率からすれば本来検出されないはずの一部に検出が認められているが、これは、細菌検査に伴う操作上の誤差と考える。したがって、数個程度の計数値では、定性的にみても精度が低いため、規格に対して検出の有無を判断するのは難しい。そこで、本実施例では、ある程度まとまった数の検出値でもって対比できる1000倍希釈について評価を行うこととした。そして、図5に示すように、1000倍希釈の測定試料における結果をみると、30℃では、検出無しは9サンプル、1000cfu/gレベルは6サンプル、10000cfu/gレベルは2サンプルであった。同様に、35℃では、検出無しは7サンプル、1000cfu/gレベルは4サンプル、10000cfu/gレベルは6サンプルであった。
【0049】
対して、IDF153法では、検出無しから最大27000cfu/gの生菌数が測定された。そして、1000倍希釈に相当する測定試料(10−2)における結果をみると、検出無しは8サンプル、1000cfu/gレベルは6サンプル、10000cfu/gレベルは3サンプルであった。
【0050】
図6、図7は、図5に示す結果から、冷菓の1000倍希釈相当の測定試料における、Blue−SMA法とIDF153法での各サンプルの生菌数の測定結果を対比して示したグラフである。図6は培養温度が30℃の結果であり、図7は培養温度が35℃の結果である。各グラフに示されるように、Blue−SMA法は、30℃、35℃のいずれの場合も、IDF153法とほぼ同じ検出傾向が認められた。とくに、生菌数が少なくて誤差が大きいレベルでは多少の相違は認められるものの、生菌数が多くなると、よりその傾向が認められた。
【0051】
したがって、Blue−SMA法は、IDF153法と同程度の検出精度を有していることがわかる。
【0052】
{第2実施例}
第2実施例として、BCPの添加量の影響を確認した実験を示す。本実験では、乳酸菌を含むある冷菓を試料に、Blue−SMAのBCPの添加量だけを変えて、生菌数の測定を行った。
【0053】
標準寒天培地1000mlあたりのBCPの添加量を0.020g、0.025g、0.030gとしたBlue−SMAを調製した。そして、希釈率の異なる各試料(10倍〜1000倍)に対し、調製したBlue−SMAを用いて生菌数の測定を行った(N=2、それぞれの試料に対して2回測定)。なお、培養条件は、いずれも温度35℃、48時間培養であり、操作等、その他も同じ条件の下で行った。各サンプルに含まれる乳酸菌数についても、乳等省令に従って測定した。
【0054】
その結果を図8に示す。図8に示すように、いずれのBCPの添加量でも、10倍および100倍希釈では黄変が認められ、乳酸菌の影響が認められたが、500倍希釈および1000倍希釈では黄変は認められず、コロニーの発生も認められなかった。図示はしないが、測定を行った各サンプルにおいて、約10〜10cfu/gの乳酸菌が認められた。したがって、少なくとも上記のBCPの添加量であれば、乳酸菌生育の抑制効果に違いはなく、確実かつ安定して測定できることがわかった。
【0055】
以上説明したとおり、本発明によれば、IDF153法等、これまで時間と手間をかけなければ測定できなかった、生きた乳酸菌が多量に含まれる冷菓の生菌数を、実用上十分な検出精度でもって、簡便かつ迅速に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の測定方法の概略を説明する図である。
【図2】各種培地の組成を示す図である。
【図3】BCP添加による乳酸菌の生育抑制効果を示す実験結果を表した図である。
【図4】第1実施例の実験結果を示す図である。
【図5】第1実施例の実験結果を示す図である。
【図6】第1実施例の実験結果を示すグラフである。
【図7】第1実施例の実験結果を示すグラフである。
【図8】第2実施例の実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
S 測定試料
P シャーレ
T 恒温器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を含有する冷菓中に混在する乳酸菌以外の細菌数を測定する乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法であって、
前記冷菓を500倍〜10000倍に希釈して測定試料を調製する工程と、
前記測定試料を、ブロムクレゾールパープルが添加された標準寒天培地で培養する工程と、
培養後に検出されるコロニー数を計数する工程と、
を含むことを特徴とする乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法であって、
ブロムクレゾールパープルが、標準寒天培地1000mlあたり0.01〜0.04g添加されていることを特徴とする乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法であって、
混釈法を用いて培養することを特徴とする乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法であって、
前記冷菓が、乳酸菌が添加されたアイスクリーム類を含むことを特徴とする乳酸菌入り冷菓の生菌数の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−187972(P2008−187972A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27027(P2007−27027)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【Fターム(参考)】