説明

乳頭筋位置制御装置、システム及び方法

例示の実施形態によると、乳頭筋位置制御装置は一般に、第1アンカー、第2アンカー、及び、支持構造体を備えている。第1アンカーは心室の自然位置にある心臓弁に固着される構成になっている。第2アンカーは心臓弁の筋肉壁に固着される構成になっている。支持構造体は、その長さを調節することができる構成にされるとともに、第1アンカー及び第2アンカーに連結される構成にされて、支持構造体の長さを調節することで、第1アンカーと第2アンカーの間の距離を変動させることができるように図っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願に対する相互参照〕
本願は2005年12月15日出願の米国特許仮出願第60/750,561号の優先権を主張するものであり、かかる出願の全体はここに引例に挙げることにより以下に完全に明示されているものとする。
【0002】
本発明の種々の実施形態は、広義には、心臓弁修復装置及び心臓弁修復方法に関するものであり、特に、心臓房室弁の乳頭筋を位置決めして制御することができる装置及びその方法に関連している。
【背景技術】
【0003】
先進国と発展途上国の両方において、心臓血管疾患は死因の約50%となっている。心臓疾患を原因とする死の危険は、エイズ及び種々の種類の癌を組合せた全ての症候に起因する死の危険よりも高い。世界的に、心臓血管疾患を原因として年間1200万人が死亡している。心臓血管疾患は米国では第1の死因であり、年間95万人を死に追いやっている。また、心臓血管疾患が原因で疾患に罹ったり生活の質の低下を余儀なくされたりしている人の数も相当なものになっている。米国だけでも約6千万人が何らかの形態の心臓疾患に罹っている。よって、広範は形態の心臓疾患を治療し、治癒し、回復を図るための装置や方法やシステムを進歩させる必要性は多大である。
【0004】
正常な心機能は、本来、心臓の4つの小室に血液を渡すことができるようにする心臓の4個の弁の各々を適切に機能させることに依存している。4個の心臓弁は線維組織から構成された複数の弁膜尖すなわち弁葉からなり、弁葉が心臓壁に付着している。心臓の4つの小室は上位小室である右心房と左心房、及び、下位小室である右心室と左心室からなる。4個の心臓弁は、これら心臓小室への血液の流入及び小室相互の間の血流を制御しているが、三尖弁、僧帽弁、肺動脈弁、及び、大動脈弁からなる。心臓弁は、弁を開閉する多数の可動弁葉からなる複雑な構造体である。例えば、僧帽弁は2枚の弁葉を含んでおり、三尖弁は3枚の弁葉を含んでいる。大動脈弁及び肺動脈弁はそれぞれ、「弁膜尖」と呼ぶほうが適当である3枚の弁葉を含んでいるが、この呼び名はこれら弁葉の半月形状に由来するものである。
【0005】
心臓周期は、4つの小室の内部で酸素添加血液と脱酸素血液の両方を汲出して分配することに関与している。肺で酸素濃度を高めた酸素添加血液は左心房すなわち左上位小室に入る。その後、逆止弁である僧帽弁が酸素添加血液を左心室に向かわせる。左心室の収縮により酸素添加血液が大動脈弁を通して大動脈に汲出されてから、血流に混入される。左心室が収縮すると、僧帽弁が閉じて、酸素添加血液が大動脈に渡される。脱酸素血液が体内から右心房を経由して帰還する。このような脱酸素血液は三尖弁を通って右心室に流入する。右心室が収縮すると、三尖弁が閉じて、脱酸素血液が肺動脈弁を通して汲出される。脱酸素血液は肺血管床に向かわされて酸素添加され、ここまでの心臓周期が繰り返される。
【0006】
僧帽弁逆流は最もよくある心臓疾患症候の1つであり、深刻さに応じて多段階に区分される。年齢が55歳を越えると、心臓エコー図を撮ると、男女のほぼ20%に或る程度の僧帽弁逆流が見られる。僧帽弁逆流又は僧帽逆流は、僧帽弁がきつく閉鎖しない症状である。その原因は、左心室が収縮した時に僧帽弁弁葉が完全に閉じることができない結果、過負荷となった左心室のせいで血液が左心房に逆流してしまうことである。これにより、血液が心臓内で逆流するのを許してしまい、それが延いては、鬱血性心不全や酷い心拍不整(不整脈)などのような深刻な心臓疾患を生じる結果となる恐れがある。心臓弁逆流は、治癒されない場合は致命傷となる恐れのある進行性症候である。
【0007】
また、僧帽弁逆流を矯正しようと試みて何らかの形態の外科手術を受けた患者の約40%の逆流測定レベルが1度か2度上昇するという結果に終わる。これは逆流指標が上昇するという結果になっているが、このような患者は、術後の時間経過とともに一旦は改善された逆流指標が劣化するのが通例であるため、将来的に再手術をすることになる可能性があるが、これは、逆流測定レベルが1度か2度上昇することで心臓弁の機能性にマイナスの効果をもたらすせいである。
【0008】
僧帽弁と同様に、他の房室弁の機能も、弁葉、腱索、及び、乳頭筋などの複数の弁構成部の複雑な相互作用を含んでいる。これら弁構成部のうちの1つが、又は、複雑な相互作用の諸機能のうちの1つが不全状態となると、僧帽弁還流を生じる結果となることがある。例えば、弁葉組織が過剰であったり、弁葉組織が不適切であったり、又は、弁葉の運動が抑制されると、僧帽逆流を生じる恐れがある。
【0009】
僧帽弁の形状を矯正してその幾何学的形状を制御するのを支援する技術は、目下、複数存在している。例えば、従来技術の1つは、高額な外科操作を採用して心室を外科手術で成型し直す処置を含んでいる。また別な従来技術は、リング又はその他の弁輪形成装置を使って心室の弁輪の幾何学的形状を成型し直す処置を含んでいる。また別な従来の装置は、マイオコール・インコーポレーティッド(Myocor, Inc.、米国ミネソタ州メイプルグローヴ)が製造し、米国特許第6,332,893号及び第7,077,862号に記載されているコアプシス・デバイス(CoApsys Device)である。
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,332,893号
【特許文献2】米国特許第7,077,862号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような従来技術は、それぞれの目的を果たしてはいるが、欠点を有している。例えば、これら従来技術のうちの或るものは、場合によっては、広範な外科手術を必要とすることがあるが、このような手術は患者に対して付随して起こりそうな危険を増大させる恐れがある。また、これらの技術は、房室弁の乳頭筋を利用して乳頭筋を先端で調節することにより弁の幾何学的形状を成型し直して心臓弁逆流を抑制することはしない。更に、このような従来装置は、微調整を拍動している心臓に施して房室弁の血液逆流を抑制し、緩和し、なくすことができるようにするものでもない。
【0012】
これに加えて、房室弁の弁輪に対して乳頭筋の位置を制御する装置及び方法が必要である。更に、位置決め装置を使って乳頭筋を設置し直すことで血液逆流を抑制し、緩和し、なくすのを支援する装置及び方法が必要である。更にまた、房室弁の乳頭筋とこれに関与する弁輪との間の位置を先端で調節できるようにする装置及びプロセスが必要である。微調整を拍動している心臓に施して房室弁の血液逆流を抑制し、緩和し、なくすことができるようにする装置及び方法が更にまた必要である。本発明の種々の実施形態の目的は、上述のような乳頭筋位置決め装置、乳頭筋位置決めシステム、乳頭筋位置決めプロセス、及び、乳頭筋位置決め方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、房室弁の乳頭筋及び弁輪の位置決めを制御することができる装置及び方法を提示している。いくつかの実施形態によると、本発明は、房室弁の乳頭筋とこれに関与する弁輪との間の相対位置を制御することで弁輪の幾何学的形状を成型し直すのを支援し、血液流の逆流を抑制し、緩和し、なくすことができるようにする方法、移植片、及び、器具を含んでいる。いくつかの実施形態は弁輪形成装置と併用することができ、また、他の実施形態は弁輪形成装置を使用する必要はない。
【0014】
概説すると、乳頭筋位置決め装置は第1のアンカー(固定具)、第2のアンカー、及び、支持構造体を含んでいる。「アンカー」という語は、場合によっては、本件では「パッド」と同義で使用される。第1の固定部材は、心室の自然位にある弁に固定的に接続するよう構成されており、第2の固定部材は、弁の筋肉壁に固定的に接続するよう構成されている。支持構造体は、調節自在な長さを有するよう構成されているとともに、第1の固定部材及び第2の固定部材に連結されている。この構成では、支持構造体の長さは第1の固定部材と第2の固定部材の間の距離を変動させるように調節することができるが、これにより、自然位にある弁と筋肉壁との間の距離を変動させることができる。
【0015】
本発明の装置の実施形態はまた、また別な特徴を含んでいる。例えば、第1の固定部材は弁輪に固着される弁輪形成リングである。第2の固定部材は乳頭筋の筋肉壁に刺し通されると、調節自在な長さの支持構造体が乳頭筋と第1の固定部材との間の距離を変動させることができるようになる。更にまた、本発明の装置は、弁の内部に配置された内部拘束部及び弁の外部に配置された外部拘束部のうちの一方を更に備えている。これら拘束部は乳頭筋の側面位置を変えることができる。
【0016】
更にまた別な特徴は、本発明により複数の装置に好適なように企図されている。例えば、支持構造体は略円形又は略正方形の断面形状を有している。第1の固定部材及び第2の固定部材は各々が支持構造体に係合するようにロック部材を備えている。支持構造体は、その長さ方向をロックする即ち固定することができるようにした内部ロック領域を有している。第1の固定部材は、弁輪の外辺部の少なくとも一部を巡って延在している可撓性アームが設けられている、弁輪アンカーである。第1の固定部材は、弁輪形成装置に接続するようになった接続機構を有している。また、支持構造体はその内部が、ネジ山を有する領域と対応してネジが設けられており、支持構造体の長さを調節することができるように図っている。
【0017】
本発明の実施形態はまた、乳頭筋を位置決めする方法を含んでいる。概説すると、人間の心臓弁筋肉と心臓弁輪との間の距離を制御する方法は、心臓弁筋肉と弁輪との間に設置されるように構成された装置を設ける工程と、心臓弁筋肉と弁輪との間に装置を配置する工程と、心臓弁筋肉と弁輪との間の距離を変える装置の長さを調節する工程とを含んでいる。本発明の位置決め方法は、また、弁輪リング及び乳頭筋のうちの少なくとも一方に装置を取付ける工程を含んでいる。本発明の位置決め方法のまた別な特徴は、装置の一方端をその他方端に相関的に回転させて装置の長さを調節する工程を含んでいる。
【0018】
本発明の方法のまた別な実施形態は、更に別な工程を含んでいてもよい。例えば、本発明の方法は、装置の一方端をその他方端に相関的に屈曲させて装置の長さを調節する工程を含んでいることもある。また、本発明の方法は、心臓弁筋肉の乳頭筋の近位の少なくとも1箇所の外部領域に装置を取付ける工程、又は、心臓弁筋肉に張力を加えて心臓弁筋肉の形状を変える引張り部材を設ける工程を含んでいることもある。心臓弁筋肉は先端を有している乳頭筋であり、装置の一方端は乳頭筋の先端に取付けられる。また、装置の一方端は乳頭筋の基部の近位に取付けられ、装置の一方端は乳頭筋の外部の少なくとも一部に固着される。本発明の或る方法によると、装置は、その長さを調節するようになっている、互いに対になる相互ロック部材が設けられているようにしてもよい。また、或る方法によると、装置は多数の支持構造体を備えており、その各々が別個の乳頭筋に接続されている。多数の支持構造体は調節自在な長さ方向を備えており、心臓弁筋肉と弁輪との間の距離を変えることができる。
【0019】
本発明のまた別な実施形態によると、乳頭筋位置決めシステムは、第1の支持構造体及び第1の調節機構を備えている。第1の支持構造体は第1の乳頭筋に連結されており、第1の調節機構は、第1の支持構造体に連結されて第1の支持構造体の長さを調節することで、第1の乳頭筋を位置決めすることができる。本発明のシステムはまた、第2の乳頭筋に連結されている第2の支持構造体と、第2の支持構造体に連結されて第2の支持構造体の長さを調節することで第2の乳頭筋を位置決めする第2の調節機構とを備えている。本発明のシステムはまた、房室弁の弁輪に連結されているとともに第1の調節機構及び第2の調節機構に連結されている弁輪形成装置を有している。この構成では、第1の調節機構及び第2の調節機構は弁輪の近位に設置される。また、本発明のシステムは、第1の乳頭筋の近位に配置される固定部材を備えている。固定部材は、第1の支持構造体が第1の乳頭筋に連結されるように、第1の支持構造体を受容する。
【0020】
上記以外の特徴もまた別なシステム実施形態に従って企図されている。例えば、固定部材は第1の乳頭筋の外部位置又は第1の乳頭筋の基端から遠隔位置の関与している心臓弁壁の外表面位置のうち一方の位置に取付けられる。また、支持構造体は、第1の乳頭筋を囲むループ状にされた縫合糸であってもよい。また別な構成では、第1の調節機構は1対のネジ加工を施した部材であって、これらが相互作用することで第1の支持構造体の長さを調節することができる。ネジ加工を施した部材の一方は第1の支持構造体に連結される。変形例として、第1の調節機構は、第1の支持構造体にロックできる態様で係合して第1の支持構造体の長さを固定するピンを含んでいる。第1の支持構造体は半剛性の細長いロッドで、実質的に1方向のみの態様で屈曲する。また、いくつかの実施形態によると、第1の支持構造体は内部防護ワイヤを収納して、第1の支持構造体を固着させることができる。
【0021】
更にまた、本発明は更に別な方法実施形態を含んでいる。この別な方法実施形態によると、乳頭筋を位置決めする方法は、支持構造体の第1端を乳頭筋に連結する工程と、支持構造体の第2端を心臓弁の弁輪の近位で連結する工程と、調節装置を使って乳頭筋の位置を実質的に先端方向に調節することで、乳頭筋が弁輪により近接して設置されるようにする工程とを含んでいる。本発明の方法はまた、固定部材を乳頭筋の近位に設け、固定部材に支持構造体の第1端を受容させるようにした工程を含んでいる。本発明の方法はまた、弁輪に連結された弁輪形成装置に調節装置を連結する工程を含んでいる。また別な方法実施形態は、乳頭筋又は弁輪のうち少なくとも一方の近位に調節装置を設置する工程を含んでいる。乳頭筋を圧縮させてその形状、位置、及び、長さのうちの少なくとも1つの変えることも、この方法実施形態に含まれている。
【0022】
本発明のまた別な実施形態においては、乳頭筋位置決め装置は、一般に、支持構造体及び調節機構を備えている。支持構造体は乳頭筋と弁輪との間に配置されるとよい。調節装置は支持構造体にロックできる態様で係合して、支持構造体の長さを変えるとともに、支持構造体の長さを変更後の寸法に固定することができる。弁輪、この弁輪に連結された弁輪形成装置、及び、乳頭筋のうちの少なくとも1つの近位に調節装置が取付けられ、又は、調節装置の一部が乳頭筋の内側に配置される。また、支持構造体及び調節装置の少なくとも一方は1対のネジ加工を施した部材を含んでいる。この構成において、1対のネジ加工を施した部材は付与された機械力に反応して相互作用し、ネジ加工を施した部材の一方が他方に相対的に移動してロックできる態様で係合することができるように図っている。
【0023】
従って、本発明のいくつかの実施形態の一局面は、房室弁の弁輪の幾何学的形状、寸法、及び、面積を制御し、また、房室弁の乳頭筋と弁輪との間の相対位置を制御することである。
本発明のいくつかの実施形態のまた別な局面は、房室弁の乳頭筋と弁輪との間の相対位置を制御することである。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態のまた別な局面は、房室弁の乳頭筋と弁輪との間の先端位置を制御するための心臓血管移植片を提供することである。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態による上記以外の局面は、房室弁の腱索力分布を制御するための心臓血管移植片、又は、乳頭筋の長さを減じるための心臓血管移植片を提供することを含んでいる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態による更に別な局面は、経皮搬送されて、又は、胸腔鏡内視搬送されて、房室弁の乳頭筋と弁輪との間の相対位置を制御することができるようにした心臓血管移植片を提供することを含んでいる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によるまた別な局面は、拍動している心臓に対して微調整されて、血液流の逆流を抑制し、緩和し、なくすことができるようにした心臓血管移植片を提供することを含んでいる。
【0028】
本発明の各実施形態の上述の局面及び特徴は、添付の図面と関連付けて本発明の特定の具体的な実施形態の後段の説明を吟味すれば、当業者には明白となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
ここで図面を参照すると、複数の図に亘って同一参照番号が同一構成部分を示しながら、本発明の例示の実施形態が詳細に記載されている。この記載事項全体にわたり、種々の構成要素が特定の値又は特定のパラメータ有していると認識されるが、これらの項目は例示の実施形態として提示されているにすぎない。例えば、ある実施形態は僧帽弁に特に言及することで説明されているが、本発明の各実施形態はどの房室弁と関連付けて利用されてもかまわないものと解釈するべきである。従って、例示の実施形態は本発明の種々の局面及び限定するものではなく、というのも、これに類似する多数のパラメータ、寸法、範囲、値、又は、これらの各種組合せを実施することができるからである。
【0030】
図1は、僧帽弁100を例示している。図示のように、僧帽弁100は、僧帽弁輪105、前僧帽弁弁葉110、後僧帽弁弁葉115、腱索120、内側乳頭筋135、及び、外側乳頭筋140を含んでいる。「僧帽弁輪」という語は、左心房床と連続している弁葉付着部の楕円領域のことを指して言う。僧帽弁輪105は前僧帽弁輪125と後僧帽弁輪130から構成されている。僧帽弁輪105は、サドル状であり、サドルの基部が内側と外側の位置にある。前僧帽弁輪125に付着しているのが前僧帽弁弁葉110であり、後僧帽輪130に付着しているのが後僧帽弁弁葉115である。前僧帽弁弁葉110及び後僧帽弁弁葉115が合流している領域は、外側交連145及び内側交連150と表現されている。
【0031】
図1に描かれている僧帽弁100の種々の構成部が心臓の内部の左心房と左心室の間で血流を制御している。正常な僧帽弁では、心房圧が心室圧を超過すると、弁葉110、115が心室の中に向けて開いた状態となる。心室圧が上昇すると、弁葉が互いに合流して閉鎖し、弁輪105の領域を覆う。よって、図1に例示するように、心拡張期は前僧帽弁弁葉110及び後僧帽弁弁葉115が開いて、僧帽弁100を通して血液が流動することができるようにする。これとは逆に、心収縮期には、前僧帽弁弁葉110及び後僧帽弁弁葉115は互いに重なり合って僧帽弁100を閉鎖し、血液の逆流が左心房に流入するのを阻止する。加齢に伴い、また、その他の要因により、僧帽弁100及びその構成部は正確に機能するのを止め、そのせいで血液を逆流させてしまう。
【0032】
本件に論じられている本発明の種々の実施形態を個々に探査する作業の一部として、本願発明者らは幾つかの研究を実施した。これらの研究により発明者らは、房室弁の乳頭筋位置を制御することにより、異常をきたした房室弁に正常な機能特性を回復させることができると結論付けるに至った。僧帽弁に関しては、このような正常な機能特性の具体例として、弁葉110ともう一方の弁葉115の間の閉鎖状態を改善することで心臓の左心房と左心室の間の血液逆流を抑制し、緩和し、更に、なくすのを助ける点が挙げられる。本発明の種々の実施形態を後段で論じるのに加えて、発明者らの研究結果及びその方法論の或る部分も提示することで、本発明の種々の実施形態に付随する概念及び細部を更に説明している。
【0033】
〔研究方法論及び研究結果の説明〕
本願発明者らは7名のヒトと4頭の豚の心臓弁を研究するにあたり、標準的心房モデルを使った心臓左心室模擬実験装置、即ち、シミュレータを利用した。乳頭筋変位による腱索力及び僧帽弁逆流の変動は、研究基準として、正常な乳頭筋位置を利用している。乳頭筋を8種類の異なる乳頭筋位置に変位させた。図2は、乳頭筋の研究の間に発明者らが利用した正常な乳頭筋位置に基づく空間基準系を例示している。
【0034】
図2に示す変位基準は、正常な乳頭筋位置である。研究において、乳頭筋変位は全て対称であり、よって、2つの乳頭筋は両方とも均等に変位させられ、それぞれの位置に達していた。研究では、乳頭筋位置は全て、正常位置から先端方向、横方向、及び、後ろ方向に5ミリメートルだけベクトル変位させて設けられた。図2に例示されているのは、発明者らが研究中に採用した種々の変位位置を示す変位基準系205である。後段の表(表1)は、図2に例示されている変位基準系205を用いて発明者らが利用した乳頭筋のベクトル成分の概要を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
心周期の間、僧帽弁は非常に動的な環境の中に保たれるが、この環境は弁輪変位量、心室運動量、及び、乳頭筋収縮量によって記述される。この環境の中にあって、基底腱索は乳頭筋の先端から弁輪までの間を比較的一定の距離に維持し、全体的な弁の幾何学的形状を維持するとともに弁葉の運動を周囲環境の運動から隔絶しようと指向する。僧帽弁の幾何学的かつ解剖学的構造により、癒合を制御する腱索の、とりわけ、弁を適切に封鎖することに関与する腱索の環境変化に対する感度を鈍らせることを確実なものにする必要がある。よって、中間腱索は基底腱索と比較して乳頭筋位置の変動に対する感度が鈍いが、末端腱索は全種類の腱索の中でも、乳頭筋位置変化に対する感度が最も鈍い。
【0037】
このような特性は、複数の異なる乳頭筋位置が比較された場合の腱索力の標準分布によって明確に示される。更に、乳頭筋の変位方向は、どの腱索の張力が変動したかということに直接関連している。例えば、先端方向変位は2つの弁葉の両方の派生腱索に張力を及ぼすが、後ろ方向変位は、後弁葉に入り込んでいる腱索に加えられる力を低減する傾向にある。弁輪の付近に入り込んでいる腱索に加えられる張力は、乳頭筋がどの方向に変位しても影響を受ける。先端方向変位は前支持腱索にかかっている張力を相当に増大させる。乳頭筋が先端方向に変位させられると、僧帽弁の癒合時の幾何学的形状が変化する。このように、先端方向の変位は弁葉の幾何学的形状を突起状にし、幾何学的形状が突起状になると、中間腱索は弁葉運動を制限する。
【0038】
前支持腱索についての研究結果の示すところでは、乳頭筋の先端方向の変位は弁葉を突出形状にし、前支持腱索に加えられる負荷を相当に増大させる。位置500から位置505へと乳頭筋を設置し直した場合の力の減少は、腱索と別な腱索との間の負荷の再配分に関連している可能性が高い。後乳頭筋変位は後中間腱索に加えられる張力を約37%だけ減少させた。この乳頭筋再設置は癒着線を後方に配置し直し、この弁輪により覆われている開口の面積を低減するとともに、この腱索の挿入角度を小さくする。このような変化は両方ともが、結果として生じる力ベクトルを低減させる。位置500に付随する張力上昇は、前支持腱索について既に解説した、突起形状を作るのと同じ説明がつく。
【0039】
先端方向変位と横方向変位を組合せることで相当な張力増大を誘発するが、これは、弁葉を突起形状にしたうえに後中間腱索を伸張させて向きを変えたせいである。この効果は位置555では緩和されているが、これは、この位置に付随する後方運動が原因である。前末端腱索及び後末端腱索に加えられる力は、複数の異なる乳頭筋位置について比較的同質であった。僧帽弁は高度に動的な環境で作動するような構成になっているため、末端腱索が弁葉の先端の癒合を制御すると、末端腱索の張力は乳頭筋位置の変化に対する感度が鈍る。後基端腱索に加えられる張力は乳頭筋変位にたいして非常に高感度であった。後方変位は、腱索の角度の向きを変えるので、後基端腱索に加えられる張力を低減する。このような運動は力の空間的横方向成分を減じるため、結果として生じる力全体を低減することになる。腱索は引伸ばし運動に対しては非直線的な機械反応を示すため、先端方向変位は、後基端腱索が事前に引張られているせいで、そこに加えられる心収縮期の最大張力を増大させる。事前に引張られている腱索は、癒合している間は引張り力が同じでも、加えられる張力は高くなる。乳頭筋の横方向変位は後基端腱索に加えられる力を低減する。このような低減の原因は、他の腱索に関連する負荷が分配しなおされるせいだと思われる。
【0040】
選択実験では、交連部腱索は弁輪付近で尚且つ弁の中隔側面中点(弁の後ろ部分)より下位に入り込んでおり、よって、乳頭筋変位を原因とする力変動の傾向は後基端腱索に存在する傾向と類似していた。同様に、事前に引張りを加えることで、乳頭筋が先端方向に運動している間、後基端腱索に加えられる力が増大する。これに加えて、乳頭筋の後方再配置と横方向再配置の両方が、これら腱索に加えられる力を減少させた。これら運動が交連部腱索に加えられる力に対して相対的に寄与し合うことと、後基端腱索の力に対して寄与することとは異なっているのが当然であるが、それは、これら腱索が弁に入り込む角度と位置が異なっているせいである。
【0041】
最後に、先端方向変位に関与する位置(500、505、550、555)は臨床的にかなりのレベルの僧帽弁逆流(>20%)を示した。乳頭筋の横方向変位又は後方変位に関与する他の位置は臨床的に意味のある僧帽弁逆流を誘発していない。横方向変位と後方変位の両方に関与する位置505のみが逆流増大を示した。
【0042】
この研究結果は、複数の異なる種類の腱索に存在する心収縮時の最大張力に及ぼされる乳頭筋変位の効果を明らかにしている。先端方向運動は派生腱索に加えられる心収縮時の最大張力を増大させるが、心臓弁の背面側の腱索は、乳頭筋を後方運動させた後では心収縮時の最大張力が低下している。弁輪付近に入り込んでいる腱索は、乳頭筋を横方向変位、後方変位、及び、先端方向変位させることにより影響を受けた。この研究結果はまた、乳頭筋を配置し直すことが原因で起こる張力変化は腱索挿入部の僧帽弁弁輪からの距離を増大させるのに伴って減少することも示している。弁輪付近に入り込んでいる腱索は乳頭筋位置の変化に最も敏感であるが、先端弁葉に入り込んでいる腱索は乳頭筋の配置し直しに対して最も影響が少ない。これに加えて、僧帽弁逆流は乳頭筋の先端方向変位に関与しており、よって、中間腱索及び基端腱索の張力増大にも関与している。
【0043】
乳頭筋変位に関する第2の研究は、弁輪拡張と乳頭筋の対称変位及び非対称変位の両方との間の相互作用を解明するよう設計された。豚の僧帽弁は、正常な寸法の弁輪の正常な乳頭筋位置に取付けられている時は、有効に閉鎖して、中心の癒合長さは約15.8±2.1ミリメートルで、尚且つ、エコー検査で検出できる僧帽弁逆流は存在しなかった。拡張時の僧帽弁弁輪、変位後の乳頭筋、又は、その両方ともについて、逆流が生じている。測定対象となった中心の癒合長さは弁輪拡張及び乳頭筋変位に伴って減少した。大型弁輪を使って乳頭筋を対称変位させている間は、癒合長さがその最小値である約0.4±0.5に達している。
【0044】
僧帽弁逆流量は、弁輪拡張及び乳頭筋範囲に伴って増大した。大型弁輪を使って乳頭筋を対称変位させた場合は、この量が約18.5±10.2ミリリットルに達している。逆流量は中心部の癒合長さと相関関係にあった(r = 約0.71)。後乳頭筋を非対称に拘束することで、僧帽弁逆流量は正常な弁輪については4.1±1.9ミリリットルになり、中間寸法の弁輪については12.4±4.3ミリリットルに、また、大型弁輪については20.1±12.5ミリリットルになった。前乳頭筋を非対称に拘束することで、僧帽弁逆流量は正常な弁輪については3.6±1.8ミリリットル、中間寸法の弁輪については10.5±3.5ミリリットル、大型弁輪については19.6±9.9ミリリットルになった。
【0045】
拡張時の僧帽弁弁輪モデルにおいて前弁輪と後弁輪との間の距離を増すことで弁葉の癒合長さを短くし、弁葉の端縁に向かう方向に癒合線を移動させた。この意味するところは、同じ体組織量で覆わなければならない開口面積がより広くなること、よって、弁葉の重なり部分が減ることである。拡張性左心室梗塞形成又は左心室拡張を臨床的に観察することで分かったのは、両方の乳頭筋が左心室の中心部から離れる向きに放射方向に移動することである。この状況を模擬的に再現した本件発明者らの研究では、乳頭筋の先端方向変位、後方変位、及び、横方向変位が実施された。実際、先端方向変位は、腱索が硬いせいで制約を受けた。この結果は他の研究者の測定と一致しており、これらの研究者の観察では、乳頭筋の先端と僧帽弁弁輪との間の距離は比較的一定であった。心収縮期には乳頭筋が対称変位した状態で、僧帽弁の前弁葉と後弁葉の両方ともが制限された。
【0046】
乳頭筋の対称変位は癒合線を弁輪平面に平行に心室に向けて移動させ、弁の中心領域において漏れを起こす空隙と逆流とを生じた。これは拡張性心筋梗塞に罹っている患者に見られる現象に類似しているが、両方の乳頭筋の根元の領域が影響を受け、後で配置し直すことになる。局所心筋梗塞は局所的な効果を生じるが、これは不均一な乳頭筋変位を生じる結果となることがあり、とりわけ、影響を受けた領域が乳頭筋を1つしか含んでいない場合にはその恐れがある。乳頭筋の非対称変位は、弁の拘束された側における弁葉の動きを制限していた。交連部弁葉は乳頭筋変位によってより影響を受けやすいように思われたが、その根拠は、交連部弁葉が後弁葉及び前弁葉よりも短く、それゆえに、癒合面積が小さくなることが特徴的であったからである。弁輪が拡張した状態で、尚且つ、乳頭筋が拘束されている時には、交連部弁葉はそれぞれの癒合領域が小さくなり、漏出を起こす空隙が発生していた。更に、一方の乳頭筋のみを拘束すると(すなわち、非対称に拘束すると)、心収縮期には弁の両側の交連部弁葉が心房に向かって膨らむが、これは、弁のこの領域において腱索が比較的弛緩した結果である。
【0047】
上述のような観察結果は、弁葉が不規則な起伏形状になって膨らむことを説明しているが、後左心室壁の急性心筋梗塞の生体としての羊モデルを利用した実験の観察結果と一致している。交連側の張力増加は結果として空隙の位置が中心から外れたところにくる状態で不規則な癒合を生じ、更にその結果、弁の拘束側でかなりの僧帽弁逆流を生じたが、これもまた臨床観察結果と一致しており、この場合、逆流噴射は梗塞側で見られた。虚血性心筋梗塞も前弁葉運動を制限し、後弁葉の逸脱を生じた。
【0048】
弁閉鎖時の弁葉の幾何学的形状は、弁輪拡張及び乳頭筋位置の影響を受けていた。乳頭筋の対称変位が原因で、癒合線の中心領域で漏出を起こす空隙が生じ、更に、その後の逆流が生じた。乳頭筋の非対称拘束により、拘束側に漏出を起こす空隙が生じたが、酷い逆流を緩和した。交連弁葉が起伏形状になったうえに膨らむことで、上述の状況では、僧帽弁逆流にとって脆弱点を生じた。一般に、弁輪が拡張した同じような状況下では、乳頭筋の非対称変位は乳頭筋の対称変位と比べてより大規模な逆流を誘発した。
【0049】
要約すると、発明者らの研究の示すところでは、乳頭筋変位は僧帽弁逆流と関与している。弁輪面積が広くなると弁葉癒合部が小さくなり、逆流を生じる結果となる。これに加えて、乳頭筋変位は弁葉の癒合不全とその後の逆流を生じることがある。本件発明者らは、乳頭筋変位を原因とする逆流は、乳頭筋が非対称的に変位された場合のほうが激しいことも見出した。本件発明者らは、先端方向変位は乳頭筋変位を原因とする逆流の重要な決定要因であることも看破した。
【0050】
先端方向変位は、中間腱索に加えられる張力に影響し、弁葉運動を制限する。従って、乳頭筋位置を制御することが僧帽弁逆流を矯正するための要因であることが分かった。弁輪と乳頭筋との間の交連領域相互の間を一定の距離にすることを斟酌して、この距離を後段で説明される本発明の種々の実施形態によって制御することで、異常機能の房室弁に対して正常な弁機能を回復させることができる。
【0051】
〔実施形態の説明〕
ここで特に他の図面を参照するが、図3は、本発明のいくつかの実施形態による、乳頭筋位置を制御するための乳頭筋支持構造体を備えている装置300を示している。装置300は弁輪と乳頭筋の先端との間の線Lに沿った距離の制御を行うことができるように構成されている。場合によっては、本明細書において、線L沿いの距離を、乳頭筋とこれに結合した房室弁との間の「先端方向距離」と呼ばれる。
【0052】
図3に示すように、装置300は種々の構成要素を有している。このような構成要素の具体例として、弁輪形成装置305、第1の支持構造体310、第2の支持構造体315、第1の乳頭筋パッド320、第2の乳頭筋パッド325、第1の心室壁パッド330、第2の心室壁パッド335などがある。図示のように、2つの支持構造体310、315は、弁輪形成装置305と乳頭筋パッド及び心室壁パッドとの間に配置され且つ結合されている。より詳細に説明すると、第1の支持構造体310は、弁輪形成装置305と第1の乳頭筋パッド320の間に結合され、且つ、第1の乳頭筋パッド320と第1の心室壁パッド330の間に結合されている。同様に、第2の支持構造体315は、弁輪形成装置305と第2の乳頭筋パッド325の間に結合され、且つ、第2の乳頭筋パッド325と第2の心室壁パッド335の間に結合されている。後でより詳細に説明するように、その他の実施形態は、支持構造体を1つだけ利用してもよいし、弁輪形成装置を備えていなくてもよいし、弁輪形成装置及び乳頭筋に取付けるための異なる機構を利用してもよい。
【0053】
装置300により、支持構造体310、315が線Lの長さを変化させることができるように移動可能であることが好ましい。例えば、乳頭筋パッド320、325及び心室壁パッド330、335は、支持構造体310、315を移動させることができるように構成され、それにより、支持構造体の長さを調節する、即ち、変化させることができる。いくつかの実施形態によれば、乳頭筋パッド320、325と心室壁パッド330、335のうちの一方又は両方は、乳頭筋と弁輪との間の距離を調節して或る長さに固定することを可能にするロック機構又はその他の圧力機構を有している。例えば、パッドは、支持構造体310、315を静止位置に固定するクランプ機構又はピン機構を有する。乳頭筋の弁輪に対する相対的な移動により、弁葉の幾何学的形状を変えたり変化させたりして、血液逆流を制御し、減少させ、なくす。
【0054】
弁輪形成装置305は、種々の特性を有している。実際、いくつかの実施形態によれば、弁輪形成装置305は、近位リング307を有するのがよい。近位リング307は、剛性であってもよいし、可撓性であってもよいし、一周していてもよいし、部分的であってもよいし、多数のリンク(連結部)を有していてもよい。近位リング307はまた、生体適合性材料で構成されていてもよいし生体適合性の層によって被覆された非生体適合性材料で構成されてもよい。例えば、近位リング307は、生体適合性金属又は生体適合性重合体で構成される。近位リング307は、縫合層によって被覆されており、近位リングは、縫合糸を使って弁輪に取付けられることが可能である。近位リング307は、クランプ、フック、縫合糸、又は、その他の各種固定機構を使って、房室弁の弁輪に取付けられる。
【0055】
上述のように、支持構造体310、315は、いくつかの実施形態によると、弁輪形成装置305に結合される。弁輪形成装置305は、永久的に又は一時的に支持構造体310、315に結合され又は係合される。例えば、支持構造体310、315は、弁輪形成装置305と一体成型されて単体装置を構成してもよいし、弁輪形成装置305と別個に製造されてもよい。支持構造体310、315が弁輪形成装置305に永久的に結合されない実施形態については、支持構造体310、315は、取付け部材を有し、取付け部材により、支持構造体を任意の弁輪形成装置に連結させるのがよい。本発明の実施形態のこのような有利な特徴により、患者の体内に既に配置済み又は移植済みの弁輪形成装置や、異なる製造業者が製造した弁輪形成装置と併用することが可能である。変形例として、支持構造体310、315は、クランプを有し、それにより、支持構造体310、315が弁輪形成装置305の上に締付けられてもよい。支持構造体を房室弁弁輪又は弁輪形成装置に結合させるその他の技術を以下に説明する。
【0056】
装置300の支持構造体310、315も種々の特徴を有している。上述のように且つ図3に示すように、支持構造体310、315は、乳頭筋及び弁輪形成装置305に連結される。変形例として、支持構造体310、315は、乳頭筋と、房室弁の弁輪又は房室弁の壁との間に連結されてもよい。支持構造体310、315は、細長いロッド、ワイヤ、縫合糸、その他の同様の各種引張り部材等のいずれであってもよい。支持構造体310、315は、種々の材料で構成することができるが、具体的には、生体適合性金属、生体適合性重合体、生体適合性シルク、その他の生体適合性材料、コラーゲン、生体工学加工されたコード、これら以外の生体工学材料などがあるが、これらに限定されない。支持構造体310、315はまた、摺動自在に連結されてもよいし、又は、別な態様でパッド320、325、330、335と相互作用して、装置300の移植後に先端方向距離Lを調節して微調整を可能にしてもよい。
【0057】
装置300のパッド320、325、330、335は、種々の特性を有している。詳細に説明すると、乳頭筋パッド320、325は、乳頭筋に損傷を与えないように支持構造体310、315に乳頭筋を貫通させ(刺し通し)、且つ、支持構造体310、315が乳頭筋に結合した複数の腱索同士が絡み合うことがないようにすることが好ましい。図示のように、乳頭筋パッド320、325は、乳頭筋の先端に取付けられ又は固着される。他の実施形態では、乳頭筋パッド320、325は、それらを乳頭筋の基端の外側又はその近位に沿って取付けられ又は固着されるその他の形態を有していてもよい。具体的構成としては、ドーナッツ状の乳頭筋連結装置が挙げられる。心室壁パッド330、335は、それに堅固に固定された支持体を心室壁の外面上に有する。心室壁パッド330、335は、種々の長さであってよい。
【0058】
装置300のパッド320、325、330、335は、種々の構成で支持構造体310、315に連結される。いくつかの実施形態によると、取付けパッド320、325、330、335は、支持構造体310、315を受入れる孔を有する。このような構成により、支持構造体310、315が取付けパッド320、325、330、335に対して移動することを可能にし、且つ、先端方向距離Lを調節することを可能にし、それにより、乳頭筋とそれに結合した弁輪形成装置又は弁輪と間の相対位置を制御する。
【0059】
図4は、本発明のいくつかの実施形態により、弁輪支持アンカーを有する乳頭筋の位置を制御する装置400を例示している。図示のように、装置400は一般に、弁輪アンカー405、支持構造体410、及び乳頭筋取付けシステム415を有している。図示のように、弁輪アンカー405は、房室弁425の弁輪420に結合され、乳頭筋取付けシステム415は、房室弁425の乳頭筋430に結合されている。装置400は、弁輪420と乳頭筋430との間の先端方向距離Lを調節することが可能であり、それにより、弁輪420とそれに結合した弁葉(図示せず)の幾何学的形状を制御する。
【0060】
図示のように、支持構造体410は、弁輪420と乳頭筋430の間に配置されている。いくつかの実施形態では、支持構造体410は、(弁輪形成リングを必要とすることなしに)房室弁425の弁輪420に直接固定され、別の実施形態では、支持構造体410は、弁輪形成リングに連結される。弁輪アンカー405は、支持構造体410を弁輪405に固定することを可能にする多数の取付け機構であるのがよい。例えば、このような取付け機構は、1個又は複数個のフック、クランプ面、傘型装置などを含むが、これらに限定されない。更にまた、弁輪アンカー405は、アーム部材406、407等の広がるように延びるアーム部材を有し、アーム部材は、弁輪420の周囲の少なくとも一部の周りを延びている。アーム部材406、407は、支持構造体410が弁輪405に添った種々の位置に取付けられるように、又は、種々の種類の弁輪形成装置が取付けられるように、可変の可撓性を有している。弁輪アンカー405は、いくつかの実施形態では、支持構造体410に永久的に連結されてもよいし、弁輪アンカー405及び支持構造体410を何度でも分離して再取付けすることができるように、取外し可能に固定されてもよい。
【0061】
図示のように、支持構造体410はまた、乳頭筋取付けシステム415を介して乳頭筋430に連結されている。乳頭筋取付けシステム415は、第1パッド435及び第2パッド440等の多数のパッドを備えており、パッドは、乳頭筋取付けシステム415を乳頭筋430に固定することを可能にし、又は、乳頭筋を包囲することを可能にする。例えば、第1パッド435及び第2パッド440は、乳頭筋430の近位に縫合される。変形例として、パッド435、440は、乳頭筋430に直接的に固定されなくてもよく、支持構造体410に摺動自在に結合されていてもよい。更にまた、1枚以上のパッドが或る長さまでロック式に支持構造体410に係合して、弁輪420と乳頭筋430の間の先端方向距離を調節するようにしてもよい。このような構成によっても、パッド435、440を支持構造体410の軸線方向に移動させることで乳頭筋430を包囲し、乳頭筋430の形状を変えることができる。
【0062】
乳頭筋システム415は、乳頭筋430を弁輪420に対して移動させることができることが好ましい。このように移動させることで先端方向距離Lを調節することができるとともに、房室弁425が関わっている可能性のある血液逆流を制限し、緩和し、なくすように、弁輪の幾何学的形状を変えることができる。先端方向への移動は本発明の種々の実施形態によって種々の仕方でなし得る。例えば、弁輪420と乳頭筋430の間に配置されている支持構造体410の部分は、支持構造体の軸線に沿って第1パッド435及び第2パッド440を移動させることにより調節することができる。第1パッド435及び第2パッド440は、それぞれの内側に内部開口を有し、これら開口により支持構造体410が第1パッド435及び第2パッド440を摺動自在に貫通することができるようになっている。支持構造体410の長さを、最適な先端方向距離修正量に対応する適正量だけ調節したら、パッド435、440を使って支持構造体を適正量位置に固定することができる。支持構造体410の移動について、乳頭筋430を基点にした移動として説明したが、他の実施形態では、弁輪420及び弁輪アンカー405の一方又は両方を基点にした移動を利用してもよい。
【0063】
第1パッド435と第2パッド440の一方又は両方ともがロック機構を備えていてもよい。ロック機構は、パッド435、440を支持構造体410の軸線沿いの或る位置に固定することができるようにする。ロック機構の具体例として、螺合式ネジ装置、ピン固定装置、移動止め機構、その他の支持構造体410に圧力を加えることができる多数の機構等が挙げられるが、これらに限定されない。ロック機能は、装置400を調節して先端方向距離Lを固定することで弁輪420の組織形態に最適な変更を加え、それにより、弁輪420に対する乳頭筋430の特殊な制御と位置決めを行うことができるようにするのが有利である。
【0064】
図5は、本発明のいくつかの実施形態による、乳頭筋の位置を制御する装置500を例示している。装置500は、一般に、弁輪リング505、支持構造体510、乳頭筋取付けシステム515、及び、拘束部520を備えている。拘束部520は、外部拘束部(弁の外側に設置されている)として例示されているが、弁の内側に設置される内部拘束部であってもよい。簡略化するために、弁輪リング505、支持構造体510、及び、乳頭筋取付けシステム515の細部は、装置500と関連させて詳細に論じないが、それは、該当する項目が本件の他所で既に説明されたものに一致する名称の部材と類似している特性及び細部を有しているからである。図5に示すように、弁輪リング505は、心臓弁の弁輪に連結され、乳頭筋取付けシステム515は、弁輪リング505から延びている支持構造体510を乳頭筋に固着させることができる。拘束部520は、外部拘束部であるため、乳頭筋取付けシステム515を部分的に隠して図中で確認できなくしている。
【0065】
弁輪リング505は種々の特性を備えていてもよい。例えば、弁輪リング505は、可撓性リング、剛性リング、又は、多リンク(連結)リングである。弁輪リング505は<全周環でも部分周環でもよい。また、弁輪リング505は、サドル高さ対交連長さの割合が約0%から約30%の間であるとよい。或る好ましい実施形態では、弁輪リング505は、チタンワイヤ、ステンレス鋼、ニチノール、その他の各種生体適合性金属、又は、これらの各種組合せから構成されているとよい。また別な実施形態においては、弁輪リング505は、生体適合性重合体から構成されていてもよい。弁輪リング505は、心臓弁の弁輪に連結される場合には、縫合用折返し部によって被覆されている。折返し部の材料はダクロン(登録商標:Dacron)又はその他の生体適合性の縫合支持重合体であってもよい。弁輪リング505は、縫合糸、クランプ具、チタンクリップ、フック、又は、その他の固定機構によって弁輪に取付けられる。
【0066】
弁輪リング505は、他の実施形態のリングと同様、種々の方法を用いて配置することができる。例えば、弁輪リング505をつぶして、カテーテルの中を血管内配送してもよいし、又は、長いアームにより胸腔鏡で内視しながら配送してもよい。弁輪リング505は、それが部分的である場合、配送中、カテーテルの管腔の内部で拡張される。弁輪リング505は、一連のリンク(連結部)から構成されている場合、本発明のいくつかの実施形態による観血を少なくする方法(又は、観血を最小にする方法)を利用して配送するのに、逆向きに開口する。
【0067】
支持構造体510も種々の特性を備えている。例えば、支持構造体510は、弁輪リング505に恒久的に取付けられてもよい。支持構造体510は、後退させることができるとともに、ラッチ機構、ロック機構、又は、ネジ機構により弁輪リング505に取付けられる。支持構造体510を弁輪リング505に取付け又は結合させるための上記以外の機構としては、ネジ、クランプ、結び糸、クリップなどが挙げられる。或る好ましい実施形態では、支持構造体510は、1つ又は複数の細長い棒である。支持構造体510は、剛性があってもよいし、可撓性であってもよいし、直線であってもよいし、湾曲していてもよい。これに加えて、支持構造体510は、1種類の構成材料から形成されていてもよいし、複数種類の構成材料から形成されていてもよい。例えば、支持構造体510は複数の細い金属ワイヤから形成されていてもよい。支持構造体510は種々の材料を利用した構成にされるが、例えば、チタン、ステンレス鋼、生体適合性合金、生体適合性重合体、ゴアテックス、シルク、又は、これら以外の各種生体適合性材料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
図5に示すように、装置500は、1つの支持構造体510と、弁輪リング505を利用している。しかしながら、本発明のその他の実施形態は、多数の支持構造体510を利用して弁輪リング505は使わずに包囲処置している点を理解するべきである。例えば、いくつかの実施形態は1つの又は複数の生体適合性支持構造体510を備えており、支持構造体は、弁輪と乳頭筋との間又は弁輪と心室壁との間に延びている。従って、支持構造体510の一方端は、支持構造体510を弁輪に連結することができる固定機構が設けられている。固定機構は一連のフック、クランプ具、開閉式の傘部材、形状記憶合金メッシュのいずれかから構成されているとよい。
【0069】
図5はまた、拘束部520が房室弁の外部の周囲に設けられている態様を例示している。拘束部520を使って、2つの乳頭筋(例えば、内側乳頭筋と外側乳頭筋)の間の横方向距離を制御するのを支援するとともに、弁が伸展又は拡張した時に、弁の外部を成型し直すのを助けることができる。この横方向距離は、図5では直線DPMと表示されている。横方向距離を制御することで、乳頭筋とこれに対応する弁輪との間の先端方向距離を制御するのを補助することができる。本発明の別な実施形態に従って横方向距離の制御機構を利用してもよいものと理解するべきである。拘束部520の上記以外の特徴は、半径方向内向きの力を心臓弁壁に付与することにより、心臓弁壁の横方向成長を抑制する処置を含んでいてもよい。
【0070】
拘束部520はまた別な特徴を有している。例えば、拘束部520は、心臓弁壁の外部に沿った多数の点に取付けられて、内側乳頭筋と外側乳頭筋との間の距離を制御することができる。上述のように、拘束部520は弁の内側で、内側乳頭筋と外側乳頭筋の間の位置にくるように内部設置するとよい。例えば、或る構成では、内部拘束部は、縫合糸又はその他の引張り部材部材であって内側乳頭筋及び外側乳頭筋に連結されるようにしたものか、又は、内側乳頭筋及び外側乳頭筋の近位で心臓弁壁沿いの複数の位置に連結されるようにしたものにするとよい。拘束部520は多数の材料から製造することができ、また、1種類以上の材料から構成されていてもよく、その具体例として重合体材料、金属メッシュ、布材料などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
拘束部520は、調節自在な長さを有するのがよい。例えば、拘束部520は、その両端が乳頭筋取付けシステム515に固着される。拘束部520の一方端又は両端を乳頭筋取付けシステム515に対して相対的に移動させると、締付け効果により横方向長さDPMを減少させ、長さ調節が行われる。また、いくつかの実施形態では、乳頭筋取付けシステム515は、ロック機構又は固定機構を備えており、拘束部520の最適長さが得られた後、その長さを固定することができる。例えば、装置は少なくとも一部が乳頭筋の内側に置かれて、拘束部520の長さを調節してから締付け又はピン留めすることで、拘束部を或る長さにすることができる。
【0072】
図6は、本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置600が、乳頭筋を刺し通すことをしない支持構造体を備えているのを例示している。一般に、装置600は、弁輪リング605、支持構造体610、及び、心室壁パッド615を備えている。この実施形態においては、支持構造体610及び心室壁パッド615は、乳頭筋620が支持構造体610によって刺し通されることがないようにするのに適した構成となっている。このような構成が有利となるのは、乳頭筋の刺し通しが患者に益をもたらすことが無さそうな場合、又は、乳頭筋を支持構造体610に相対的に移動させることで装置600を不適切に機能させることになりそうな場合である。
【0073】
支持構造体610を乳頭筋610の外部の周りに位置決めしたことにより、心室壁パッド615が変形されることがある。図6で分かるように、心室壁パッド615は乳頭筋620よりも下方に延びて、乳頭筋620の近位で心臓弁外壁を受入れるように例示されている。また、図示のように、心室壁パッド615の最下端625は、心臓弁外壁を受入れるように湾曲している。心室壁パッド615のこのような形状により、心臓弁壁に付与された圧力が心臓弁壁又は乳頭筋620を傷つけないのが確実となるとともに、同圧力が乳頭筋620の位置を制御するのに十分であることを確保する。
【0074】
本発明の上記以外の各実施形態と同様、装置600は、弁輪リング605と乳頭筋620の間の先端方向距離Lを調節するのに適した構成となっているのが好ましい。このような距離の調節は、支持構造体610の軸線に沿って心室壁パッドを移動又は摺動させることにより行われる。よって、心室壁パッド615は、心室壁パッド615を支持構造体610の軸線沿いの或る位置に固定することができるロック機構を有することが好ましい。このような有利な特徴により、装置600の配置後、最適な先端方向距離Lを得ることができる。例えば、装置600が患者体内に外科手術で配置された後、血液逆流を緩和し又はなくすように先端方向距離Lを修正することができる。
【0075】
図7は、本発明のいくつかの実施形態による、支持構造体を利用して乳頭筋の位置を制御する装置700の長さを変動することができるのを例示している。一般に、装置700は、弁輪リング705、2つの支持構造体710、711、及び、取付けシステム715を備えている。支持構造体710、711は、弁輪リング705と取付けシステム715の間に配置されているとともに両部材に連結されている。図示のように、取付けシステムは、乳頭筋720に取付けられている。他の実施形態においては、取付けシステム715は心室壁に連結されてもよい。また、取付けシステム715は、心室壁の内面又は外面に連結されることにより、心室壁に固定されてもよい。取付けシステム715は、支持構造体710、711の長さ方向に沿って軸線方向に移動し、乳頭筋720と弁輪リング705との間の先端方向距離Lを制御することができる。
【0076】
取付けシステム715は他の構成要素も含んでいる。このような構成要素の一例として、対向する端部材730、735の間に配置されている引張り部材725が挙げられる。端部材730、735は各々、支持構造体710、711を受入れる開口を有している。この構成により、端部材730、735を支持構造体710、711の軸線に沿って移動させると、端部材730、735が引張り部材725を圧縮することを可能にする。有利なことに、この構成はまた、乳頭筋720の軸線方向運動を制限し、乳頭筋720の長さを制御することができるようにし、又は、その両方を実施することができる。このような構成は、両乳頭筋720のうちの一方が損傷した場合、又は、適切に機能しなくなった場合に望ましい。いくつかの実施形態によると、支持構造体の軸線に沿う取付けシステム715の位置を、体外又は心臓の外部で制御するようにしてもよい。例えば、医者は観血を最小にするプロセスにより調節器具を患者(心臓が拍動している)の体内に挿入してから、この調節器具を使って、支持構造体710、711の長さを調節し、又は、微調整し、血液逆流を制限し、なくすことができる。
【0077】
また別な実施形態においては、取付けシステム715は、患者の体外の遠隔調節装置によって遠隔制御することができる。このような遠隔調節装置は、高周波信号、マイクロ波信号、又は、その他の不可視エネルギーを送信し、1つ又は複数の支持構造体710の長さを調節するように取付けシステムを作用させ、又は、そのように指示を出す。従って、取付けシステム715は、そのような指示を受信したり、取付けシステム715又は患者の近辺の遠隔調節装置に状況情報を送信したりする信号送受信装置を備えているとよい。取付けシステム715を使って、遠隔手段により乳頭筋720の長さを増減することができるが、これは、乳頭筋720の先端とこれに対応する心室壁との間の組織を圧迫することによって実施される。
【0078】
上述のように、取付けシステム715は、支持構造体710、711の長さ方向に沿って軸線方向に移動させることができる。この有利な特徴を実施することができるようにするために、取付けシステム715は、第1外部パッド740及び第2外部パッド742のような、調節自在でロック可能な機構を備えているのがよい。図示のように、第1外部パッド740は、図中の心臓弁の外壁に配置されている。第2外部パッド742は、図示した心臓弁の外壁に配置される第1部分及び乳頭筋の内側に一部が配置される第2部分を含んでいる。
【0079】
パッド740、742の拡大図に示すように、これらパッドは支持構造体710、711を固定自在に係合させることができる特徴を有している。例えば、第1パッド740は、支持構造体710に形成された移動止め部材を受入れる切欠きを設けた内部開口を有しているとよい。支持構造体710に付与される軸線方向力は、切欠きを設けた内部開口に沿って支持構造体710の移動止め部材を移動させることができる。また、第1パッド742は、支持構造体711に固定自在に係合するピン式クランプ部材を備えているとよい。ピン式クランプ部材は支持構造体及びピン743を受入れるシャフトを備えており、ピンは、支持構造体に向けて押されて支持構造体をクランプ固定する。パッド740、742が図解されているが、本発明のいくつかの実施形態では、乳頭筋の近位に支持構造体の長さ調節機構が設けられている。
【0080】
図8は、本発明のいくつかの実施形態による、内部にネジ山を有する支持構造体を利用して乳頭筋の位置を制御する装置800を例示している。装置800は、一般に、第1支持構造体810及び第2支持構造体815を備えている。本発明のいくつかの実施形態によると、装置800はまた、弁輪サドルリング805を備えていてもよい。装置800は房室弁に配置されて、房室弁の弁輪と乳頭筋との間の先端方向距離を減少させることにより、房室弁に関わる僧帽弁逆流を制限し、緩和し、なくすことができる。弁輪サドルリング805は、弁輪に縫合され、又は、その他の仕方で取付けられ、支持構造体810、815は、弁内において乳頭筋まで延びている。支持構造体810、815は、クランプ部材815、835により、又は、その他の種々の固定機構又は連結機構により、弁輪サドルリング805に結合されている。支持構造体810、815は、生体適合性材料(ゴアテックス(登録商標)など)で被覆され、心臓弁の乳頭筋を刺し通し、心臓弁の筋肉壁の外側に配置されている外部パッド820、840に連結される。
【0081】
支持構造体810、815は、それぞれの長さを調節するのに適した構成を有する。支持構造体810、815の長さ調節を利用して、弁輪サドルリング805と外部パッド820、840との間の距離を変えることができる。弁輪サドルリング805と外部パッド820、840との間の距離を変えることにより、弁輪と乳頭筋との間の先端方向距離が修正される。先端方向距離を修正した結果、弁輪の組織形態及び幾何学的形状を再び形状決めすることができ、それにより、弁輪の複数の弁葉を互いに引寄せることができる。
【0082】
支持構造体810、815は、支持構造体の長さを修正することができる内部を有している。例えば、支持構造体810は、複数の移動止めが設けられた内部830を有し、これにより、軸線方向力界面部材825に力が付与されると、内部が移動させられて、移動止めに対応する開口に整合して固定される。例えば、軸線方向力界面部材825は、縫合糸又はワイヤであり、軸線方向の力を受けると、支持構造体810の長さを減少させ、弁輪サドルリング805及び外部パッド820を互いに引寄せる。
【0083】
同様に、支持構造体815は、ネジ山が形成された内部を有し、支持構造体815の一方端を回転させることにより、支持構造体の長さを調節することができるようにしてもよい。このようにネジ山を有する内部830により、支持構造体815の長さを増減させることができる。いくつかの実施形態によると、支持構造体830は、パッド840に対応する一方の端にレバー845を有し、レバー845の回転により、支持構造体815の長さを変化させる。その他の実施形態では、ネジをレバー845の代わりにしてもよく、ネジの回転により支持構造体815の長さを修正してもよい。
【0084】
支持構造体810、815はまた、或る内部可撓性特性を有している。例えば、支持構造体810、815には、図示されているように、両方の支持構造体を互いに向けて内側に屈曲させることができる内部螺旋構造が設けられている。また、支持構造体810、815には、両方の支持構造体を互いから離隔する方向に屈曲させることができない内部螺旋構造が設けられていてもよい。他の実施形態では、支持構造体810、815は、心臓の僧帽弁の内部の心房側及び心室側のうち一方又は両方からの横方向運動を制限することができる。このような有利な特徴は、例えば、心室壁の拡大を阻止するのを助け、従って、支持構造体810、815を助けて乳頭筋のうち一方又は両方の位置を制御することができるようにする。
【0085】
具体的な内部螺旋構造は一方向屈曲構造部を備えている。この種の屈曲構造は、折れ曲がらない方向とは反対方向に向けて先細りになる、複数の内部構成要素を含んでいる。このように折れ曲がる方向に向けて先細りにすることで、内部螺旋構造は、支持構造体810、815を囲むことができる。いくつかの実施形態においては、複数の内部構成要素は、一般に、三角形状を有している。また別な構成では、内部構成部は、断面がT字形等の形状にされてもよい。支持構造体が屈曲しないようにすることで、患者体内で心臓弁壁の形を整え、装置800を移植するのを助けることができるのが有利である。
【0086】
支持構造体810、815はまた、内部安全特性を備えている。支持構造体810、815が粉砕又は破砕することがあるかもしれないため、安全ワイヤが支持構造体810、815の内部に配置されている。安全ワイヤは、支持構造体810、815の内部全長にわたって横断している。安全ワイヤは、概ねその周囲に支持構造体810、815が配置されているせいで、支持構造体の粉砕片を全部一緒に保持し、又は、全部一緒に連結させることができる。
【0087】
図9は、本発明のいくつかの実施形態による、乳頭筋の位置を制御するまた別な装置900を例示している。装置900は、心房901の中に通した調節器具902を使って、僧帽弁の2つの乳頭筋の位置を調節することができるようにする。一般に、装置900は弁輪リング905を備えており、図9に示すように、弁輪リング905は、縫合糸915、916によって乳頭筋A及び乳頭筋Bに連結される。装置900はまた、調節機構909、910、乳頭筋パッド920、及び、心室壁パッド925を備えている。調節機構909、910を使って、縫合糸915、916の長さを調節することができる。縫合糸915、916の長さを調節することで乳頭筋A、Bの位置を変え、弁輪リング905及び僧帽弁の弁輪に両乳頭筋をより近接させることができる。調節機構909、910は弁輪、乳頭筋A、B、又は、その両方の近位に据付けられ、縫合糸915、916の長さ調節を多数の部位で実施できるように図っている。
【0088】
いくつかの実施形態においては、調節機構909、910は体外から遠隔調節されるようにしてもよい。例えば、遠隔調節装置(図示せず)を使って、調節機構909、910を作動させることができる。遠隔調節装置は高周波信号、マイクロ波信号、熱エネルギー、又は、その他の不可視エネルギーを調節機構909、910に送信する。調節機構909、910はそのような信号を受信すると、それに応答して自動的に調節機構909、910を作動させて、縫合糸915、916の長さを調節することができる。また、調節機構909、910は体外に状況情報を送信して、患者の状況、装置900の状況、調節機構909、910の状況、縫合糸915、916の状況、又は、これらの各種組合せの状況について知らせる。
【0089】
装置900の構成要素は、僧帽弁の内側に移植されて、僧帽弁逆流を緩和し、制限し、又はなくすことができる。弁輪リング905は、僧帽弁の弁輪に縫合される。弁輪リング905を使って弁輪の形状を変えてもよいし、どの実施形態であれ使用しなくてもよい。調節機構909、910は、弁輪リング905に固着される。この実施形態では、調節機構は、弁輪リング905にクランプ固定される。調節機構909、910は、縫合糸915、916の長さを変えることができる内部装置を備えているのが好ましい。また、図示のように、2個の調節機構の両方ともが図示された僧帽弁の心房の近位に配置されて、心房の中を通して調節機構を調整することができるように構成されている。例えば、調節装置902は図示のように心房901の中に挿入されて、縫合糸915、916の長さを調節することができる。心房901の近位に調節機構909、910が配置されることで、外科手術中又は術後の処置中に調節機構909、910に接近することができるようにするのが有利である。その他の実施形態では、調節機構は乳頭筋A、Bのうち一方又は両方の近位に配置されてもよい。
【0090】
調節機構910の拡大図に示すように、本発明のいくつかの実施形態による調節機構は種々の構成要素を含んでいる。図示のように、調節機構910は、一般に、クランプ部材911、ハウジング912、ネジ山を有する内部ボルト913、及び、ネジ山を有する内部ナット914を含んでいる。ネジ山を有する内部ナット914の取付け箇所は、縫合糸916を調節機構910に固着させることが可能である。クランプ911は、調節機構910を弁輪又は弁輪形成装置に固着させることが可能である。
【0091】
図示のように、ハウジング912は、ネジ山を有する内部ボルト913とネジ山を有する内部ナット914を収容している。ネジ山を有する内部ボルト913のヘッド部は、ハウジング912の皿穴の中に配置される。ネジ山を有する内部ボルト913はまた、ハウジング912に回転自在に取付けられ、ハウジング912の内側で回転することができるようなっている。この例示の実施形態において、ネジ山を有する内部ボルト913は、調節装置902と連結され又は対応するヘッド部を有している。これにより、調節装置902は、機械的トルク力をネジ山を有するボルト913に伝達して、ネジ山を有するボルト913を回転させることができる。ネジ山を有する内部ナット914はハウジングの内側に配置されている。図示のように、ネジ山を有する内部ナット914は、ハウジング912の対向する内壁の近位に位置し、又は、両方の内壁の間に位置する。ネジ山を有する内部ボルト913の回転により、ネジ山を有する内部ナット914を、ネジ山を有する内部ボルト913の長さ方向に沿って移動させる。いくつかの実施形態においては、ネジ山を有する内部ナット914は、約0.1センチメートルから約5センチメートルの間になるように構成される。また、ネジ山を有する内部ボルト913とネジ山を有する内部ナット914のネジピッチ数は、厳密で特殊な動きを行えるように非常に精細にされ、そのような動きを縫合糸916の極めて厳密な長さの変化に転換することができる。
【0092】
図9はまた、本発明のいくつかの実施形態により利用できる乳頭筋パッド920の特殊な配置を例示している。乳頭筋パッド920を利用して、乳頭筋Aに縫合糸915を取付けることができる。乳頭筋パッド920は、図示のように、乳頭筋Aの基端の外側を概ね取り囲んで据付けられる環状装置にするとよい。変形例として、乳頭筋パッド920は、上記とは異なる位置、すなわち、乳頭筋Aの外側に沿った、又は、乳頭筋Aの先端の複数の位置に配置されてもよい。この実施形態では、乳頭筋パッド920は、僧帽弁の内側に配置され、心臓の周辺領域が影響を受けないようにしてもよいが、他の実施形態では、乳頭筋パッド920は僧帽弁の外側で乳頭筋Aの近位に配置するとよい。
【0093】
装置900はまた、本発明のいくつかの実施形態により、心室パッド(心室壁パッド925)が僧帽弁の外側に配置又は設置される態様を例示している。実際は、図示のように、心室壁パッド925は、僧帽弁の外側に沿って乳頭筋Bの近位に配置される。心室壁パッド925は、この位置で僧帽弁の外壁に縫合されてもよいし、又は、その他の仕方で取付けられてもよい。変形例として、心室壁パッド925は、縫合糸916によって適所に取付けられてもよい。心室壁パッド925は、縫合糸916を受入れる多数の開口を有している。縫合糸916を短くしてその長さ調節をした結果として、心室壁パッド925に付与された力により乳頭筋Bに締付け効果を生じさせる。縫合糸916の長さを減少させることに伴う締付け効果により、乳頭筋Bの先端方向位置を制御し、僧帽弁の弁輪に乳頭筋Bを引寄せることができる。
【0094】
図9に示すように、縫合糸915、916は、一般に、僧帽弁の弁輪を乳頭筋A、Bに結合させることができる。より詳細に説明すると、縫合糸915、916は、調節機構909、910(弁輪に連結されている)をパッド920、925(乳頭筋A、Bに連結されている)に連結する。縫合糸915、916は、ループ形状で例示されているが、ここでは、縫合糸915、916は、パッド920、925の周囲を輪で囲み、又は、両パッドに通して輪状にされてから、縫合糸915の端部は調節機構909に連結され、縫合糸916の端部は調節機構910に連結される。また別な実施形態においては、縫合糸915、916は輪にされなくてもよい。変形例として、他の支持部材を縫合糸915、916の代用として使ってもよいし、縫合糸と一緒に使ってもよいが、そのような支持部材の具体例として、ワイヤ、長いロッド、生体適合性金属、生体適合性重合体、生体適合性シルク、これら以外の生体適合性材料、コラーゲン、生体工学加工されたコード、その他の生体工学加工された材料のいずれかが挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
図10は、本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置1000が圧縮力を利用しているところを例示している。装置1000は、一般に、内部パッド1005、支持構造体1010、外部パッド1015、引張り部材1020、及び、張力制御部材1025を備えている。図示のように、内部パッド1005は、乳頭筋1035の先端1030の近位に置かれる。支持構造体1010は、内部パッド1005から乳頭筋1035の中を通り心臓弁壁1040の外部まで延びている。外部パッド1015は、心臓弁壁1040の外部の近位に設置され、引張り部材1025は、外部パッド1015と張力制御部材1025との間に配置される。支持構造体1010は、内部パッド1005の一方の表面に連結され、外部パッド1015の内部に設けられた開口と張力制御部材1025の内部に設けられた開口の中に配置される。
【0096】
乳頭筋1035の長さは、装置1000を利用して制御される。例えば、張力制御部材1025は調節により内部パッド1005に引寄せられ、このような動きで内部パッド1005と外部パッド1015の間の支持構造体1010の長さを減少させることができる。このようにして長さを減少させることにより、乳頭筋1035を圧縮させることができるが、これは、乳頭筋1035の先端1030を、この乳頭筋に結合している弁輪に対して相対的に制御する仕方で行うことができる。
【0097】
装置1000には、本発明の実施形態に従って種々の応用例がある。装置1000は独立型装置として使用されてもよいし、又は、図4に例示されている装置のような、単体の支持構造体を備えている装置と連携させて使用されてもよい。このような構成では、装置400、1000は、第1の乳頭筋を圧縮することで弁輪の位置を制御することができるほかに、第2の乳頭筋を先端方向に調節することができるシステムを形成することができる。装置1000はまた、いくつかの実施形態においては、乳頭筋の長さ又は形状を制御するために使用される。
【0098】
図11は、本発明のいくつかの実施形態に従って、乳頭筋の位置を制御する装置1100が圧縮力を利用しているのを例示した図である。装置1100は、図10に例示されている装置1000と動作が類似しているが、簡潔にする目的で、図10を参照しながら既に図示して説明した対応する特徴については図10と同一参照番号が図11でも使用されている。図10と図11の間の差異の1つは、図10の支持構造体1010は乳頭筋1035を刺し通すが、図11の支持構造体1110は、乳頭筋1035を刺し通していない点である。むしろ、図11に例示されている装置1100の支持構造体1110は、乳頭筋1035の外面に沿って位置決めされている。このような構成が有益かつ有利であるのは、乳頭筋を刺し通す必要が無い場合に望ましいからである。また、このような構成は、機能性が衰えた乳頭筋を制御するのを支援するのに望ましいことがある。装置1100の支持構造体1110もまた、図11に示すように、乳頭筋1035の先端1030の周りに湾曲する内部パッド1105を有しているという点で、異なっている。
【0099】
図12は、僧帽弁を再び形状決めするにあたり僧帽弁に結合している乳頭筋の位置を制御することにより実施することができる、本発明の方法1200の実施形態を論理フロー図で例示している。この方法のいくつかの実施形態によれば、移植片全体又はその各部を、拍動している心臓に経皮的に搬送し、別な実施形態では、移植片全体又はその各部を、胸腔鏡を使った内視により拍動している心臓に配送する。当業者には分かることであるが、この方法1200は、本発明の一実施形態にすぎず、また、方法1200は種々の工程を含んでおり、又は、種々の順序で実施することができる。
【0100】
方法1200は、患者に実施される外科手術中に工程1205で開始される。この場合の外科手術は、患者の心臓を修理又は修復する心臓切開術、又は、僧帽弁などの房室弁に関わる逆流を矯正する心臓切開術が考えられる。他の実施形態では、外科手術は、外科手術移植片を患者の体内に挿入するにあたり肉体管腔を利用する、観血を最小にする技術を利用して実施される。方法1200は、工程1210でも継続され、この段階で、外科医が患者の心臓を停止させ、心臓をバイパスさせ、乳頭筋制御装置を患者の心臓の内部に配置又は移植する。方法1200は、拍動している心臓にも実施することができ、そのような場合、心臓をバイパスさせない。
【0101】
次に、逆流を制限し、減少させ、なくす目的を達成するために、乳頭筋制御装置を患者の心臓の内側に配置する。乳頭筋制御装置は、図2から図11に例示されたものなどのような、既に先に説明した例示の実施形態のうちのいずれかであればよい。乳頭筋制御装置を種々の態様で移植することができ、また、移植は利用される外科処置、患者の健康状態、又は、その他の各種要因で決まる。例えば、方法1200によれば、工程1215において、乳頭筋制御装置は弁輪及び弁輪形成装置のうち少なくとも一方に取付けられる(又は、固定される)。
【0102】
すなわち、いくつかの実施形態においては、乳頭筋制御装置は弁輪に直接取付けられてもよいし、弁輪形成装置に直接取付けられてもよいし、又は、その両方であってもよい。乳頭筋制御装置を固定するのに、クランプ部材、縫合糸、フック、波型加工部材、又は、その他の各種連結機構などを利用することができる。弁輪形成装置に取付ける場合は、乳頭筋制御装置は、弁輪形成装置に永久的に連結されてもよいし、又は、弁輪形成装置への取付と再取付けを行えるようにしてもよい。また、弁輪形成装置を患者の体内に事前に移植してもよいし、又は、方法1200の最中に移植してもよい。
【0103】
乳頭筋制御装置を弁輪及び弁輪形成装置のうち少なくとも一方に連結させた後、工程1220において、乳頭筋制御装置を少なくとも1つの乳頭筋に連結させる。乳頭筋制御装置をこの態様で連結することで、今度は、工程1225で、少なくとも1つの乳頭筋を弁輪及び弁輪形成装置のうち少なくとも一方に連結する。乳頭筋制御装置をこの態様で連結することで、乳頭筋を調節し、すなわち、乳頭筋を移動させて、乳頭筋の異常な動きを調整することができるのが有利である。実際に、乳頭筋制御装置を乳頭筋に連結することで、乳頭筋の位置を制御して弁輪に向けて先端方向に移動させることができ、工程1230において、初期先端方向調節を行う。本件発明者らは、乳頭筋の先端方向への移動を制御することで、弁葉の幾何学的形状を変えることができるのを見出した。
【0104】
乳頭筋制御装置は種々の連結と機能的特性を備えている。例えば、乳頭筋制御装置は多連結構造体を有している。このような多連結構造体により、弁輪相互の間の連結又は結合も、2つの乳頭筋への連結又は結合も行うことができる。また、乳頭筋制御装置は、長さを調節することができる連結構造体を備えているのが好ましい。例えば、連結構造体それら自体は、接続構造体の長さを変えるように相互作用する多部品を有していてもよい(例えば、ネジ山を有する内部構成部)。変形例として、乳頭筋制御装置は、長さ調節機構を備えており、この機構は、支持構造体の長さに沿って移動することにより、乳頭筋と弁輪との間の先端方向距離を調節する。
【0105】
長さ調節機構は、支持構造体と相互作用し(例えば、摺動自在に係合し)、先端方向距離を最適長さまで変化させることを可能にする。最適長さとは、逆流をなくし、又は、逆流を十分な量まで制限する長さである。長さ調節機構はまた、支持構造体の長さを最適長さに固定することができるロック機構(例えば、ピン型ロック、移動止め部材、又は、クランプ部材)を備えていてもよい。本発明の種々の実施形態に従って、長さ調節機構は、弁輪の近位、乳頭筋の近位、又は、その両方に配置される。従って、長さ調節機構を利用して支持構造体の長さを調節し、乳頭筋と弁輪の間の先端方向距離を修正することで逆流を緩和することを可能にする。
【0106】
乳頭筋制御装置を移植した後、工程1235において、外科手術を完了する。外科手術に患者の心臓停止が必要であった場合、患者の心臓はこの時点で再始動させる。患者の心臓を約5分間作動させ、この時点の心臓機能を正常動作に近づけることが好ましい。待機後、工程1240において、乳頭筋制御装置を更に調節してもよい。このような調節は、例えば、医者がドップラー逆流効果を解析する際に実施される。この特性により、拍動している心臓に対して乳頭筋制御装置を微調整することができるようにすることが有利である。また、この特性により、逆流データを監視しながら乳頭筋の先端方向調節を実時間体制で実施して、逆流を制限し、減少させ、なくすことができる。
【0107】
上記のような更なる調節を術後のいかなる時に実施してもよいことを理解すべきである。例えば、数分間の待機の後、医者は調節を実施するのがよい。変形例として、乳頭筋制御装置に対する調節は、外科手術が上手く終わった後、又は、患者が完治した後の数日後、数ヵ月後、又は、数年後に行うことができる。これにより医者は観血を最小にする処置を利用して乳頭筋制御装置に接近し、支持構造体の長さを変えることにより、弁輪に相対的な乳頭筋の先端方向長さを変える。従って、工程1245において、乳頭筋制御装置に対する調節を繰返し、工程1245において、心臓弁逆流を制御し、工程1250において方法1200を完了する。
【0108】
本発明の実施形態は特定の例示の実施形態、プロセス工程、及び、本件に開示されている材料に限定されるものではなく、というのも、このような実施形態、プロセス工程、及び、材料は幾分かは変更が利くからである。更に、本件で採用されている表現は例示の実施形態を説明する目的で使用されているにすぎず、これら表現は限定するものと解釈するべきではなく、というのは、本発明の種々の実施形態は添付の特許請求の範囲の各請求項とその均等物によってのみ限定されるからである。
【0109】
このように、本発明の種々の実施形態を具体的実施例に特に言及しながら詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲に限定されているような本発明の範囲内で各種変更及び修正を遂行することができることを、当業者は理解するだろう。従って、本発明の種々の実施形態の範囲は上述の実施形態に限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲の各請求項とその均等物全部によってのみ、限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】僧帽弁及びそれに付随している他の構成器官を例示した図である。
【図2】本願発明者らが乳頭筋位置の探査中に使用した、正常な乳頭筋位置に基づく空間基準系を例示した図である。
【図3】本発明のいくつかの実施形態により、多数の乳頭筋の位置を制御する装置が弁輪リングを含んでいるのを例示した図である。
【図4】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置が弁輪支持アンカーを含んでいるのを例示した図である。
【図5】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置が弁輪リング及び外部拘束部を含んでいるのを例示した図である。
【図6】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置が乳頭筋を刺し通すことの無い支持体を含んでいるのを例示した図である。
【図7】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置が長さを変動させることができる支持構造体を含んでいるのを例示した図である。
【図8】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置が内側にネジ山を有する支持構造体を含んでいるのを例示した図である。
【図9】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御するまた別な装置を例示した図である。
【図10】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置が圧縮力システムを含んでいるのを例示した図である。
【図11】本発明のいくつかの実施形態により、乳頭筋の位置を制御する装置がまた別な圧縮力システムを含んでいるのを例示した図である。
【図12】本発明の方法実施形態が関与する乳頭筋の位置を制御することにより房室弁を修復することができるのを描いた論理フロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳頭筋位置決め装置であって、
心室の心臓の自然位置の弁に固定されるように構成された第1アンカーと、
心臓弁の筋肉壁に固定されるように構成された第2アンカーと、
長さを調節することができるとともに、前記第1アンカー及び前記第2アンカーに連結されるように構成された支持構造体と、を有し、
前記支持構造体の長さを調節することにより、前記第1アンカーと前記第2アンカーの間の距離を変えるようにした、乳頭筋位置決め装置。
【請求項2】
前記第1アンカーは、弁の弁輪に固定される弁輪形成リングである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2アンカーは乳頭筋の位置で前記筋肉壁を刺し通し、長さを調節することができる支持構造体が乳頭筋と前記第1アンカーとの間の距離を変えることができる、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
更に、心臓弁内に配置される内部拘束部及び心臓弁の外側の周りに配置される外部拘束部のうちの一方を有し、
前記内部拘束部及び前記外部拘束部の他方は、筋肉の横方向の位置を変えるように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記支持構造体は、略円形の断面形状又は略正方形の断面形状を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1アンカー及び前記第2アンカーのうちの一方は、前記支持構造体に係合するロックを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記支持構造体は、その長さを適所でロックすることが可能な内部ロック領域を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第1アンカーは、弁輪の周りを少なくとも一部延びる可撓性アームを有する弁輪アンカーである、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記第1アンカーは、弁輪形成装置に連結されるように構成された連結機構を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記支持構造体は、互いに対応してネジが切られた内部領域を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
患者の心臓の心臓弁筋肉と弁輪との間の距離を制御する方法であって、
心臓弁筋肉と弁輪の間に設置される構成の装置を設ける工程と、
心臓弁筋肉と弁輪の間に前記装置を配置する工程と、
前記装置の長さを調節して、心臓弁筋肉と弁輪の間の距離を変える工程とを含んでいる、方法。
【請求項12】
弁輪リング及び乳頭筋のうち少なくとも一方に前記装置を取付ける工程を更に含んでいる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記装置の一方端をその他方端に相対的に回転させて、前記装置の長さを調節する工程を更に含んでいる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記装置の一方端をその他方端に相対的に屈曲させて、前記装置の長さを調節する工程を更に含んでいる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記装置を前記心臓弁筋肉の乳頭筋の近位の少なくとも1つの外側領域に取付ける工程を更に含んでいる、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記心臓弁筋肉に張力を加える引張り部材を設けて、前記心臓弁筋肉の形状を変える工程を更に含んでいる、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記心臓弁筋肉は先端を有している乳頭筋であり、前記装置の一方端は乳頭筋の先端に取付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記心臓弁筋肉は基端を有している乳頭筋であり、前記装置の一方端は乳頭筋の基端の近位に取付けられる、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記心臓弁筋肉は外側を有している乳頭筋であり、前記装置の一方端は乳頭筋の外側の少なくとも一部に固着される、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は互いに対応してロック動作する内部ロック部材が設けられた装置を設ける工程を更に含んでおり、前記ロック部材は前記装置の長さを調節するのに適している、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
前記装置は多数の支持構造体を備えており、前記支持構造体は各々が別個の乳頭筋に接続されており、前記多数の支持構造体は長さを調節することができ、心臓弁筋肉と弁輪の間の距離を変えることができる、請求項11に記載の方法。
【請求項22】
乳頭筋制御装置であって、
乳頭筋の近位に結合されるべき第1アンカーと、
弁輪形成装置に結合されるように構成された第2アンカーと、を有し、
前記第2アンカーは、乳頭筋と弁輪形成装置との間の距離を調節することができるように、前記第1アンカー及び前記第2アンカーに結合される支持構造体の長さを調節する調節機構を有する装置。
【請求項23】
前記第1アンカーは、乳頭筋の外側の少なくとも一部の周りに固定される、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
前記第1アンカーは、パッドを有し、前記支持構造体は、乳頭筋を包囲するように前記パッドに連結される、請求項22に記載の装置。
【請求項25】
前記第2アンカーは、前記弁輪形成装置の外面に連結されるクランプを有する、請求項22に記載の装置。
【請求項26】
前記支持構造体は、生体適合性材料、生体工学加工材料、及び、コラーゲンのうち少なくとも1つを含む、請求項22に記載の装置。
【請求項27】
前記支持構造体は、外科用縫合糸を含む、請求項22に記載の装置。
【請求項28】
前記調節機構は、ネジ山を有し且つ互いに対応する内部領域部を有し、前記内部領域部の一方は、その回転により前記支持構造体の長さを調節するように前記支持構造体に連結される、請求項22に記載の装置。
【請求項29】
前記調節機構は、更に、ネジ山を有する挿入部と、ネジ山を有するケーシングとを有し、前記ネジ山を有する挿入部は、回転力を受入れるように構成され、前記ネジ山を有するケーシングは、前記縫合糸に連結され、前記ネジ山を有する挿入部を回転させることにより、前記支持構造体の長さを調節する、請求項22に記載の装置。
【請求項30】
前記調節機構は、前記支持構造体を固定長さに固定するロック装置を有する、請求項22に記載の装置。
【請求項31】
乳頭筋位置決めシステムであって、
第1乳頭筋に結合される第1支持構造体と、
前記第1支持構造体の長さを調節して第1乳頭筋を位置決めするように、前記第1支持構造体に結合される第1調節機構と、を有する乳頭筋位置決めシステム。
【請求項32】
更に、第2乳頭筋に結合される第2支持構造体と、
前記第2支持構造体の長さを調節して第2乳頭筋を位置決めするように、前記第2支持構造体に結合される第2調節機構と、を有する請求項31に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項33】
更に、僧帽弁の弁輪に連結される弁輪形成装置を有し、前記弁輪形成装置は、前記第1調節機構及び前記第2調節機構が弁輪の近位に位置するように、前記第1調節機構及び前記第2調節機構に結合される、請求項32に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項34】
更に、第1乳頭筋の近位に配置されたアンカーを有し、前記アンカーは、前記第1支持構造体が第1乳頭筋に結合されるように前記第1支持構造体を受入れる、請求項31に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項35】
前記アンカーは、第1乳頭筋の外面に、又は、第1乳頭筋に対応する心臓弁壁の外面であって第1乳頭筋の下に取付けられる、請求項34に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項36】
前記支持構造体は、第1乳頭筋の周りに輪を形成する縫合糸である、請求項34に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項37】
前記第1調節機構は、前記第1支持構造体の長さを調節するように互いに相互作用するネジ山付き構成要素を有し、前記ねじ山付き構成要素の一方は、前記第1支持構造体に結合される、請求項34に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項38】
前記第1調節機構は、前記第1支持構造体の長さを固定するように前記第1支持構造体に固定可能に係合するピンを有する、請求項34に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項39】
前記第1支持構造体は、半剛性の細長いロッドであり、前記細長いロッドは、実質的に一方向に曲がる、請求項34に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項40】
前記第1支持構造体は、前記第1支持構造体を固着する内部安全ワイヤを収容する、請求項34に記載の乳頭筋位置決めシステム。
【請求項41】
乳頭筋を位置決めする方法であって、
支持構造体の第1端を乳頭筋に連結する工程と、
前記支持構造体の第2端を心臓弁の弁輪の近位に連結する工程と、
調節装置を用いて乳頭筋の位置を実質的に先端方向に調節することで、弁輪に乳頭筋をより近接させて設置するようにした、方法。
【請求項42】
乳頭筋を位置決めする前記方法は、乳頭筋の近位に固定部材を設ける工程を更に含んでおり、前記固定部材は前記支持構造体の前記第1端を受容する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
乳頭筋を位置決めする前記方法は、弁輪に連結された弁輪形成装置に前記調節装置を連結する工程を更に含んでいる、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
乳頭筋を位置決めする前記方法は、乳頭筋及び弁輪のうち少なくとも一方の近位に前記調節装置を設置する工程を更に含んでいる、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
乳頭筋を位置決めする前記方法は、乳頭筋を圧縮させて乳頭筋の形状、位置、及び、長さのうちの少なくとも1つを変える工程を更に含んでいる、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
乳頭筋位置決め装置であって、
乳頭筋と弁輪の間に配置される支持構造体と、
前記支持構造体の長さを変更し且つ前記支持構造体の長さを変更長さに固定するように、前記支持構造体に固定可能に係合する調節装置と、を有する乳頭筋位置決め装置。
【請求項47】
前記調節装置は、弁輪、弁輪に結合される弁輪形成装置、及び乳頭筋のうちの少なくとも1つの近位に配置され、又は、乳頭筋の内側に部分的に配置される、請求項46に記載の乳頭筋位置決め装置。
【請求項48】
前記支持構造体又は前記調節装置は、互いに相互作用するネジ山付き構成要素を有し、前記ネジ山付き構成要素の一方は、他方に対して移動することができ、他方に固定可能に係合する、請求項46に記載の乳頭筋位置決め装置。
【請求項49】
前記調節装置は、遠隔作動装置からの指示を受取り、それに応答して前記支持構造体の長さを調節するように構成される、請求項46に記載の乳頭筋位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2009−519783(P2009−519783A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545997(P2008−545997)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/062185
【国際公開番号】WO2007/100408
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(504466834)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (17)
【Fターム(参考)】