乾式試薬層において低い活性を有する、速い反応速度の酵素
本発明は、分析物を測定する方法およびそのために適した診断素子に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物を測定する方法およびそのために適した診断素子に関する。
【背景技術】
【0002】
診断素子は、臨床的に意義のある分析方法の重要な構成成分である。これに関連して、主要な目的は、たとえば代謝物や基質などの分析物の測定であって、たとえば、分析物に特異的な酵素の助けをかりて直接的にまたは間接的に測定される。このケースでは分析物は、酵素−補酵素複合体の助けをかりて変換され、続いて定量される。この過程では、測定されるべき分析物は適切な酵素、補酵素および任意には、メディエーターと接触され、そして、補酵素は、物理化学的に酵素反応により、たとえば酸化または還元されることにより変えられる。メディエーターが追加で使用される場合、このメディエーターは通常、分析物の反応中に遊離される電子を還元された補酵素から光学的指示薬または電極の伝道成分に移動させるので、この過程はたとえば光化学的または電気化学的に検出することができる。較正により、測定された値と測定されるべき分析物の濃度とのあいだの直接的な関係がもたらされる。
【0003】
先行技術より公知の診断素子は、限られた有効期限によって、および、その有効期限を全うするための周囲環境に対する特別な必要性、たとえば冷蔵または乾式貯蔵によって特徴づけられる。したがって、ある種の適用においては、たとえば血糖自己測定などのエンドユーザー自身によって行われる試験の場合には、誤りであるが気づかれることのない間違った測定システムの保管によって、消費者によって認識されることがほぼ不可能な、かつ、それぞれの疾患の誤った処置につながるかもしれないような、誤った結果が生じる可能性がある。誤りを含む結果は、主として、このような診断素子に使用される酵素、補酵素およびメディエーターが一般的に、水分および熱と敏感に反応して時間と共に不活性化されるという事実によるものである。
【0004】
診断素子の安定性を増加させるために使用されている既知の手段は、安定な酵素の使用、たとえば好熱性生物由来の酵素の使用である。さらに、酵素は、化学的修飾によって、そして、特には架橋によって安定化され得る。さらには、たとえばトレハロース、ポリビニルピロリドンおよび血清アルブミンなどの酵素安定剤を添加することも可能であり、また、酵素をたとえば光重合によってポリマーネットワーク内に封入することも可能である。
【0005】
酵素を安定化させるもう一つの方法は、部位特異的にまたは非部位特異的に導入される変異によるものである。この点に関して、酵素のDNAコードの標的変化を利用して該当酵素の特性に特異的に影響を与える組み替え技術の使用が特に適していることが立証されてきた。
【0006】
Baikらは、アミノ酸置換E170K、Q252LまたはE170K/Q252Lを含む、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素の3つの突然変異体の単離および特性評価について記載している(Appl. Environ. Microbiol (2005), 71, 3285)。変異体E170KおよびQ252Lが、低い塩濃度および高いpH値において低い安定性しか有さないのに対し、二重変異体は、二量体−二量体の界面における増強された相互作用のため、試験条件下で顕著に増大された安定性を示す。
【0007】
Vazquez-Figueroaらは、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)およびバチルス リケニホルミス(Bacillus licheniformis)由来のグルコース脱水素酵素の155、170および252位にアミノ酸置換を導入することを含む、熱安定性グルコース脱水素酵素の開発を開示している。この点に関して、E170KおよびQ252Lの変異は、個別におよび組み合わせて、バチルス ズブチルス由来のグルコース脱水素酵素の安定化をもたらすと述べられている。
【0008】
しかしながら、野生型変異体に比べて遺伝的に修飾された安定化酵素が使用される場合、それらは通常、対応する野生型酵素と比較して顕著に低い活性しか有していないという問題を生じ、したがって、単位時間あたりより低い基質の代謝回転の原因となる。高い比活性を有する酵素が、血糖の検出においてなど臨床化学および診断化学における使用には好ましいという事実を考慮すると、安定化酵素の使用は多くの場合、天然の酵素の使用の容認し難い代替でしかない。
【0009】
別の困難性は、単位時間あたりの高い代謝回転と相関する高い酵素活性は、いずれの場合も個々の天然の補酵素によってのみ通常もたらされることである。天然の補酵素の代わりに人工の補酵素が使用される場合、酵素活性は通常大幅に低下し、そしてそれにより、基質の代謝回転の速度は低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の基礎である目的は、先行技術の欠点が少なくとも部分的に取り除かれている、とりわけグルコースを測定するための安定な診断素子を提供することであった。特に、診断素子は、酵素と同様に補酵素の高い安定性を保証すると同時に一方で、基質の高い代謝回転を保障すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、
a)分析物を含む試料を
i)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素および
ii)人工の補酵素
を含む乾式試薬層を含んでなる診断素子に接触させる工程、ならびに、
b)分析物の存在または/および量を測定する工程
を含んでなる、分析物を測定するための方法により、本発明にしたがい達成される。
【発明の効果】
【0012】
驚くべきことに、本発明の範囲内で、キュベット試験(cuvette test)では人工の補酵素の存在下で非常に低い活性しか有さなかった変異された脱水素酵素が、テストストリップのような乾式試薬層を含む診断素子において、より速い反応速度を示し、天然の補酵素(野生型補酵素)の存在下の場合と少なくとも同量の代謝回転量を生み出すことが見出された。この理由はおそらく、含有物が高濃度である場合、酵素の活性以外のほかの要因が代謝回転速度に決定的な影響を及ぼすという事実によるものであり、そしてこの点に関して、酵素、補酵素、還元型補酵素、分析物および酸化された分析物との間の複合体形成の状態がとりわけ非常に重要であるようである。
【0013】
この点に関して、本発明の方法は、好ましい実施様態において、本明細書に記載される診断素子中の分析物の代謝回転速度が、人工の補酵素の代わりに対応する野生型補酵素を含んでなる、対応する診断素子中の分析物の代謝回転速度と同等かまたはより速いことを規定している。本発明により使用される診断素子中の分析物の代謝回転速度は、野生型補酵素を含む診断素子中の分析物の代謝回転速度と比較して、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、そして最も好ましくは少なくとも100%、たとえば100%から200%増大する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。1556.2kU/100g質量の酵素活性。
【0015】
【図1B】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。1004.0kU/100g質量の酵素活性。
【図1C】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。502.0kU/100g質量の酵素活性。
【図1D】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。251.0kU/100g質量の酵素活性。
【図1E】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。25.10kU/100g質量の酵素活性。
【図2】補酵素としてのcarbaNAD/carbaNADH存在下、0.0mg/dL、34.4mg/dL、141.2mg/dL、236.6mg/dL、333.8mg/dLおよび525.8mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の変異によって得られた、グルコース脱水素酵素の二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの反応速度。酵素活性:4.60kU/100g質量。
【図3】グルコノラクトンを用いた滴定前後における、グルコース脱水素酵素(GlucDH)/NADH複合体の蛍光スペクトル。
【図4】グルコースを用いた滴定前後における、グルコース脱水素酵素(GlucDH)/NADH複合体の蛍光スペクトル。
【図5A】野生型グルコース脱水素酵素およびNADHの存在下、種々のグルコース濃度における、グルコース変換の反応速度。77.0mg/dL、207.0mg/dL、300.0mg/dLおよび505.0mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、追加のグルコノラクトン添加なしの反応速度。
【図5B】野生型グルコース脱水素酵素およびNADHの存在下、種々のグルコース濃度における、グルコース変換の反応速度。96.2mg/dL、274.0mg/dL、399.0mg/dLおよび600.0mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、追加のグルコノラクトン添加下の反応速度。
【図6】グルコース脱水素酵素の二重変異体GlucDH_E170K_K252Lのアミノ酸配列の表示。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願で使用される用語「変異された脱水素酵素(mutated dehydrogenase)」または「脱水素酵素の変異体(dehydrogenase mutant)」は、天然の脱水素酵素(野生型脱水素酵素)の遺伝的に改変された変異体であって、同じ数のアミノ酸を有するが野生型脱水素酵素と比較して改変されたアミノ酸配列、すなわち野生型脱水素酵素とは少なくとも1つのアミノ酸が異なる変異体を意味する。
【0017】
変異された脱水素酵素は、あらゆる生物学的源由来の野生型脱水素酵素からの突然変異により得ることができる。ここで、用語「生物学的源」とは、本発明の意味において、細菌などの原核生物ならびに哺乳類および他の動物などの真核生物の両方を含む。変異の導入は、部位特異的にまたは非部位特異的に起こすことができ、好ましくはこの分野で既知であり、特別な要件および条件にしたがって、天然の脱水素酵素のアミノ酸配列内で少なくとも1つのアミノ酸置換が生じる組換え法を用いて部位特異的に行われる。
【0018】
このようにして得られ、そして、本発明の方法において使用される脱水素酵素の変異体は、好ましくは、対応する野生型脱水素酵素と比較して、増大した熱または/および加水分解安定性を有する。このような変異体の例は、とりわけ、Baik(Appl. Environ. Microbiol (2005), 71, 3285)、Vazquez-Figueroa(ChemBioChem (2007), 8, 2295)および国際公開第2005/045016号に記述されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0019】
本発明の意味での変異された脱水素酵素は、とくに好ましくは、対応する野生型脱水素酵素と比較して低下した比酵素活性を有する。本願で使用される用語「比酵素活性(specific enzyme activity)」(U/mg酵素で表現される)とは、所定の条件下で毎分、酵素1ミリグラム当たり転換される基質の量を意味する。一方、用語「凍結乾燥物活性(lyophilisate activity)」とは、所定の条件下で毎分、補助物質とともに酵素を含む凍結乾燥物1ミリグラム当たり転換される基質の量を意味する。
【0020】
本発明の方法において使用される変異された脱水素酵素は、好ましくは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の変異された脱水素酵素であって、好ましくは、変異されたアルコール脱水素酵素(EC 1.1.1.1;EC 1.1.1.2)、変異されたL−アミノ酸脱水素酵素(1.4.1.5)、変異されたグルコース脱水素酵素(EC 1.1.1.47)、変異されたグルコース−6−リン酸塩脱水素酵素(EC 1.1.1.49)、変異されたグリセロール脱水素酵素(EC 1.1.1.6)、変異された3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(E.C.1.1.1.30)、変異された乳酸脱水素酵素(EC 1.1.1.27、EC 1.1.1.28)、変異されたリンゴ酸脱水素酵素(EC 1.1.1.37)および変異されたソルビトール脱水素酵素から選択される。
【0021】
本発明の範囲内で変異されたグルコース脱水素酵素が使用される場合には、対応する野生型グルコース脱水素酵素と比較して、1または複数の改変されたアミノ酸を基本的にはそのアミノ酸配列のどの位置で含んでもよい。変異されたグルコース脱水素酵素は好ましくは、野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列の170位および252位の少なくともどちらかに変異を含み、170位および252位に変異を有する変異体が特に好ましい。変異されたグルコース脱水素酵素がこれらの変異に加えてそれ以上の変異を含まない場合が有利であることが立証された。
【0022】
170位または/および252位における変異は、基本的には、安定化、たとえば野生型脱水素酵素の熱または/および加水分解安定性の増大をもたらすような、あらゆるアミノ酸置換を含み得る。170位での変異は、好ましくは、グルタミン酸からアルギニンまたはリジンへのアミノ酸置換、特に好ましくは、グルタミン酸からリジンへのアミノ酸置換を含み、一方、252位に関しては、リジンからロイシンへのアミノ酸置換が好ましい。
【0023】
前記のグルコース脱水素酵素の変異体を作製するために使用される野生型グルコース脱水素酵素は、好ましくは細菌由来であり、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)またはバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来、とりわけバチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素が特に好ましく用いられる。最も好ましい態様において、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の変異により得られる、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する変異されたグルコース脱水素酵素GlucDH_E170K_K252Lが、本発明の方法の範囲内で使用される。
【0024】
本発明にしたがって、本明細書で記述される診断素子は、分析物に特異的である変異された脱水素酵素に加えてさらに人工の補酵素を含んでなるものである。本発明の意味の範囲内で、人工の補酵素は、天然の補酵素と比較して化学修飾されている補酵素であり、天然の補酵素と比較して、大気圧下、湿度、特に0℃から50℃までの範囲の温度、特にpH4からpH10までの範囲の酸および塩基、または/ならびに、アルコールもしくはアミンなどの求核試薬に対してより高い安定性を有し、そしてこのため、同一の環境条件下で天然の補酵素よりもより長い期間にわたってその活性を示すことが可能である。
【0025】
人工の補酵素は、好ましくは、天然の補酵素と比較してより高い加水分解安定性を有しており、試験条件下で加水分解に対し完全に抵抗性であることが特に好ましい。人工の補酵素は、天然の補酵素と比較して脱水素酵素に対する結合定数が低下しており、たとえば2倍またはそれ以上減少した結合定数を有する。
【0026】
本発明による方法の範囲内で使用され得る人工の補酵素の好ましい例は、人工のNAD(P)/NAD(P)H化合物、すなわち、天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)もしくは天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)の化学誘導体、または式(I)の化合物である。
【0027】
【化1】
【0028】
人工の補酵素が、人工のNAD(P)/NAD(P)H化合物である場合、人工のNAD(P)/NAD(P)H化合物は、好ましくは、たとえばリン酸残基などのリン含有基にグリコシル結合なしに、直鎖もしくは環状の有機残基によって、特には環状の有機残基によって連結される、3−ピリジンカルボニルまたは3−ピリジンチオカルボニル残基を含む。
【0029】
人工の補酵素は、特に好ましくは一般式(II)を有する化合物またはその塩、または必要に応じてそれらの還元型
【化2】
(式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基であって、
ただしZおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない)
から選択される。
【0030】
式(II)の化合物において、Zは、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する直鎖状残基であって、好ましくは4個の炭素原子を有し、そのうちの1または2個の炭素原子が任意には1もしくはそれ以上のO、SおよびNから選択されるヘテロ原子によって置換されている直鎖状残基であるか、または、任意にはO、SおよびNから選択されるヘテロ原子ならびに任意には1もしくはそれ以上の置換基を含む5または6個の炭素原子を有する環状基、ならびに、CR42残基を含む残基であり、ここでCR42は環状基およびX2に結合しており、R4はそれぞれ独立してH、F、Cl、CH3である。
【0031】
Zは、特に好ましくは、飽和のまたは不飽和の炭素環式または複素環式の5員環であり、とりわけ一般式(III)を有する化合物である。
【0032】
【化3】
式中、R5'とR5''のあいだは単結合または二重結合であってもよく、ここで、
R4=それぞれ独立してH、F、Cl、CH3を意味し、
R5=CR42、
R5'とR5''のあいだが単結合である場合、R5'=O、S、NH、C1〜C2−アルキル、CR42、CHOH、CHOCH3、およびR5''=CR42、CHOH、CHOCH3、
R5'とR5''のあいだが二重結合である場合、R5'=R5''=CR4、ならびに
R6、R6'=それぞれ独立してCHまたはCCH3を意味する。
【0033】
好ましい実施態様において、本発明の化合物は、アデニンもしくはたとえばC8−およびN6−置換アデニンなどのアデニン類似体、7−デアザなどのデアザ変異体、8−アザなどのアザ変異体、または7−デアザもしくは8−アザなどの組合せ、またはホルモマイシンなどの炭素環類似体を含み、7−デアザ変異体はハロゲン、C1〜C6−アルキニル、C1〜C6−アルケニルまたはC1〜C6−アルキルによって7位が置換され得る。
【0034】
また別の好ましい実施形態では、化合物は、リボースの代わりに、たとえば2−メトキシデオキシリボース、2’−フルオロデオキシリボース、ヘキシトール、アルトリトール、またはビシクロ糖、LNA糖およびトリシクロ糖などの多環類似体を含むアデノシン類似体を含む。
【0035】
特に、式(II)の化合物において、(ジ)ホスフェート酸素を等電子数的に、たとえばO-をS-またはBH3-によって、OをNH、NCH3またはCH2によって、および=Oを=Sによって置換してもよい。本発明の式(II)の化合物において、Wは、好ましくはCONH2またはCOCH3である。
【0036】
式(III)の基において、R5は好ましくはCH2である。さらに、R5'はCH2、CHOHおよびNHから選択されることが好ましい。特に好ましい実施態様では、R5'およびR5''はいずれの場合にもCHOHである。なお、さらに好ましい実施態様では、R5'がNHかつR5''がCH2である。R4がH、R5がCH2、R5'およびR5''がCHOHかつR6およびR6'がCHである式(III)の化合物が最も特に好ましい。
【0037】
最も特に好ましい実施態様において、人工の補酵素は、文献(J. T. Slama, Biochemisty (1998), 27, 183 および Biochemistry (1989), 28, 7688)より公知のカルバNAD化合物である。本発明により使用され得る他の安定な補酵素は、国際公開第98/33936号、国際公開第01/49247号、国際公開第2007/012494号、米国特許第5,801,006号明細書、米国特許出願11/460,366号明細書およびBlackburnらによる文献(Chem. Comm. (1996), 2765)に記述されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0038】
本発明の方法で使用される診断素子は、変異された脱水素酵素および人工の補酵素を含有する、乾式試薬層を含んでなるものであって、分析物を含む試料によって湿潤されることが可能であればどのような診断素子でもよい。変異された脱水素酵素および人工の補酵素に加えて、試薬層は任意には、たとえば適切なメディエーターならびに適切な補助物質または/および添加剤などの、分析物の定性的検出または定量的測定のために使用される別の試薬を含んでいてもよい。
【0039】
水性または非水性溶液の形態で分析物が適用され得る診断素子が、本発明の範囲内で好ましく使用される。本発明の特に好ましい実施態様において、診断素子は、テストテープ、テストディスク、テストパッド、テストストリップ、テストストリップドラム、または国際公開第2005/084530号に記載の診断素子であり、本明細書はこれを明確に参照している。本願で記述される診断素子は、いずれの場合にも、分析物を含む試料と接触させられることが可能な、かつ、分析物の定性的または/および定量的測定を適切な方法を用いて可能にする、少なくとも1つの試験領域を含む。
【0040】
本明細書で使用される用語「テストテープ(test tape)」は、通常1個以上の個別の試験領域、好ましくは少なくとも10個の個別の試験領域、より好ましくは少なくとも25個の個別の試験領域および最も好ましくは少なくとも50個の個別の試験領域を含む、テープ様の診断素子を意味する。個別の試験領域は、好ましくは数ミリメートルから数センチメートルの距離で、たとえば互いどうしが2.5cmより短い距離でそれぞれ配置され、そして、テストテープは任意には、連続した試験領域の間に、テープ移動中の移動した距離を記録するためのまたは/および較正のためのマーカー領域を含んでいてもよい。このようなテストテープは、たとえば欧州特許出願公開1739,432号明細書に記述されており、その開示は、参照として明確に組み込まれる。
【0041】
本明細書で使用される用語「テストディスク(test desk)」は、1またはそれ以上の個別の試験領域、たとえば少なくとも10の個別の試験領域を含むことのできるディスクの形状をした診断素子を意味する。ある実施態様において、テストディスクは、試験薬品の薄層で、たとえば約20μmの厚さを有する層でコートされており、分析物の試料をその上に塗布することができ、それによって、大きさに程度の差はあるがテストディスクの領域が試料量に依存して試料によって湿潤され、分析物を測定するために使用され得る。薬品の層を通じて水分が通過するため、部分的にまたは完全に湿潤し得るテストディスクの非濡れ領域は、引き続き分析物のさらなる測定に利用可能である。
【0042】
本発明の方法は、光化学的にまたは電気化学的に検出可能であるあらゆる生物学的または化学的物質の測定に使用することができる。分析物は好ましくは、マレイン酸、アルコール、アンモニウム、アスコルビン酸、コレステロール、システイン、グルコース、グルコース−6−リン酸、グルタチオン、グリセロール、尿素、3−ヒドロキシ酪酸塩、乳酸、5’−ヌクレオチダーゼ、ペプチド、ピルビン酸塩、サリチル酸塩およびトリグリセリドからなる群より選択されるが、グルコースが特に好ましい。この点に関し、分析物はあらゆる起源由来であり得るが、限定はされないが、全血、血漿、血清、リンパ液、胆汁、脳脊髄液、細胞外組織液、尿、および唾液または汗などの腺分泌物を含む体液中に好ましくは含有され得る。全血、血漿、血清もしくは細胞外組織液由来の試料中の分析物の存在および/または量は、好ましくは本明細書で記述される診断素子によって測定される。
【0043】
分析物の定性的または/および定量的測定は、あらゆる方法で行われ得る。この目的のためには、先行技術から公知であり、かつ、手動でもしくは適切な手段を使用することによって分析されるかまたは読み出されることが可能である測定可能な信号を発生できる、酵素反応を検出するための全ての方法が、基本的には使用され得る。本発明の範囲内で、たとえば吸収、蛍光、円偏光二色性(CD)、旋光分散(ORD)、屈折率測定などの測定を含む光学的検出法および電気化学的技術が好ましくは使用される。分析物の存在または/および量は、とくに好ましくは、光度計測的または蛍光計測的に、たとえば人工の補酵素の蛍光計測的に検出可能な変化によって間接的に測定される。
【0044】
別の側面では、本願は、分析物を測定するための診断素子であって、
(a)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素、および
(b)人工の補酵素
を含有する乾式試薬層を含んでなる診断素子に関する。
【0045】
診断素子の、および、診断素子に含有される変異された脱水素酵素または診断素子に含有される人工の補酵素の好ましい実施態様に関し、様態は発明の方法に関する記載とあわせて参照される。
【0046】
本発明はさらに以下の図面および実施例によって説明される。
【実施例】
【0047】
実施例1:E170KおよびK252Lのアミノ酸置換を有する、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素の二重変異体(GlucDH_E170K_K252L)の調製
【0048】
天然の脱水素酵素と比較して安定化されている酵素を作製するために、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素の核酸配列が、プラスミドpKK177に導入された(EcoRIおよびHindIIIを用いてクローニングされた)。E170KおよびK252Lの変異が、野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列において、部位特異的変異によって始めに170位に、そして続いて、部位特異的変異によって252位に導入された。それぞれの変異誘発工程は、PCR反応の一部として、特異的にデザインされたプライマーを用いて行われた。
【0049】
得られたPCR産物は大腸菌XL1blue MRF’に形質転換された。細胞が取り出され、プラスミドを含むクローンが終夜で培養され、そして、酵素活性が温度負荷(負荷試験:50℃で30分)の前後で測定された。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
陽性クローンはさらに2回シークエンシングの前に試験された。この方法によって得られた二重変異体GlucDH_E170K_K252Lは、生産菌株である大腸菌NM522に、ヘルパープラスミドとしてpUB−520を用いて形質転換された。
【0052】
実施例2:二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの精製
【0053】
それぞれの10g生物量が、pH6.5の30mMリン酸カリウム緩衝液50mLに取り出され、そして、約800barで破砕された。細胞片を分離した後、DEAEセファロース(GE Healthcare Company)上、1mLのカラム容量あたり40mgより少ないタンパク質のロード量で、かつ、緩衝液A(pH6.5の30mMリン酸カリウム緩衝液)から緩衝液B(緩衝液A+500mMの塩化ナトリウム)までの線形グラディエントを用いて、クロマトグラフィーを行った。グルコース脱水素酵素活性を呈する画分がまとめられ、そして、硫酸アンモニウム(Aldrich Company)を用いて、230mS/cmの電導度に調節された。
【0054】
遠心分離後、透明な上澄みが、フェニルセファロースFF(GE Healthcare Company)上、1mLのカラム容量あたり最大10mgのタンパク質のロード量でクロマトグラフィーにより分離された。溶離は、硫酸アンモニウムを用いて230mS/cmの電導度に調節された緩衝液Aから純粋な緩衝液Aまでの線形グラディエントを用いて行われた。画分はその酵素活性を試験され、まとめられ、pH6.5の60mMリン酸カリウム緩衝液中、約50mg/mLの濃度に再緩衝液化され、濃縮されそして凍結乾燥された。
【0055】
実施例3:バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素および二重変異体GlucDH_E170K_K252Lのキュベット試験における活性の測定
【0056】
NAD/NADHまたはcarbaNAD/carbaNADHの存在下、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素および実施例1で作製された二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの、比活性度または凍結乾燥物活性度を試験するために、両方の酵素に対しグルコース脱水素酵素活性試験が行われた。
【0057】
試薬溶液の調製
トリス緩衝液(0.1M、pH8.5;0.2M Nacl)
11.68gのNaCl(Sigma−Aldrich Company)および12.11gのトリス(Sigma−Aldrich Company)を約900mLの再蒸留水に溶解し、1N HClを用いてpH8.5に調製し、そして、再蒸留水を用いて1000mLとした。
【0058】
希釈緩衝液(3.8mM NAD;0.1Mトリス、pH8.5;0.2M NaCl)
250mgのNAD(Roche Company)を100mLのトリス緩衝液(0.1M、pH8.5;0.2M NaCl)に溶解した。
【0059】
グルコース溶液
2gのD(+)グルコース一リン酸(Sigma−Aldrich Company)を10mLの再蒸留水に溶解した。溶液は、2時間の室温放置および変旋光平衡の調節の後、使用可能であった。
【0060】
NAD溶液(15mM)
10mgのNAD(Roche Company)を1mLの再蒸留水に溶解した。
【0061】
carbaNAD溶液(15mM)
10mgのcarbaNAD(Roche Company)を1mLの再蒸留水に溶解した。
【0062】
試料の調製
測定準備のため、試験される酵素10mgを1mLの希釈緩衝液に溶解し、そして、再構成を可能にするために室温で60分間静置した。続いて、希釈緩衝液で0.12から0.23U/mLに希釈した。
【0063】
測定手順
測定を行うために、1.35mLのトリス緩衝液、0.1mLのグルコース溶液、および、0.05mLのNAD溶液または0.05mLのcarbaNAD溶液(ともに25度でインキュベートされた)を、プラスティック製キュベットにピペットで取り出し、混合し、そして、キュベットキャリッジ中25度でインキュベートした。
【0064】
溶液の吸光度がもはや変化しなくなった(対照値)後、0.025mLの試料をキュベットに導入することにより反応を開始し、そして、試料の吸光度を5分の間測定した。
【0065】
測定波長:340nm
試験容量:1.525mL
光路長:1cm
温度:25度
評価範囲:1〜5分
【0066】
評価
それぞれの酵素の水溶液中での活性が以下の式を用いて評価された:
活性=(1.525×ΔA/分×希釈因子)/(ε340×0.025×1)U/mL
式中:
ΔA=At−A0=吸光度の経時変化の傾き
ε340=6.3[1×mmol-1×cm-1]
【0067】
測定の結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示されるように、WT−glucDH/carbaNAD(8.2U/mg酵素)系のキュベット中、標準状態での活性は、WT−GlucDH/NAD(484U/mg酵素)系の活性と比較して2桁小さい。同様に、二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの、人工の補酵素carbaNADの存在下での活性(3.7U/mg酵素)は、天然の補酵素NADの存在下(270U/mg酵素)と比較して約2桁小さい。
【0070】
実施例4:乾式試薬層中の、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素および二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの反応速度の測定
【0071】
バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の天然のグルコース脱水素酵素(WT−GlucDH)または実施例1で調製された二重変異体GlucDH_E170K_K252Lのどちらか一方を、補酵素としてのNAD/NADHまたはcarbaNAD/carbaNADHと組み合わせて含む、種々のテストストリップが、酵素の反応速度を測定するために調製された。
【0072】
具体的には、まず初めに、pH7.0の1Mリン酸緩衝液18.4g、ガントレッツ(Gantrez)S97(International Specialty Products Company)1.4g、16%のNaOH溶液2.94g、Mega8(Sigma−Aldrich Company)、Geropon T77(Rhone−Poulenc Company)およびポリビニルピロリドン 25000(Fluka Company)1.90gからなる部分溶液1が、このために調製された。
【0073】
この部分溶液が続いて、0.50gの塩化ナトリウム、21.3gの再蒸留水、4.43gのTranspafill(Evonik Company)および2.95gのPropiofan(BASF Company)からなる部分溶液2、ならびに、冷蔵庫中で終夜冷却された部分溶液3と混合されたが、後者は、pH7.0の1Mリン酸緩衝液17.4g、塩化ナトリウム0.50g、2Mのリン酸水素二カリウム14.35gならびに下記の表3にそれぞれの場合において述べられている個々の量の脱水素酵素、補酵素および任意にはウシ血清アルブミン(BSA;Roche Company)からなる。減量された量の天然の脱水素酵素が使用される場合、テストストリップのマトリックス特性を可能な限り一定に保つために、酵素的に不活性なウシ血清アルブミンが処方に添加された。
【0074】
【表3】
【0075】
この方法によって得られたテストストリップが、励起LED(375nm)および従来型検出器(BPW34 blue−enhanced)を含む、実験室用測定機器(Roche Companyの自作)によって測定された。適用された試料物質は、調整されたグルコース値を含む血液であった。測定結果が図1および2に示されている。
【0076】
1A〜1Eの図に示すとおり、NAD存在下の野生型グルコース脱水素酵素によるグルコースの変換の反応速度はテストストリップ中の酵素量の減少に伴い低下した。したがって、carbaNAD存在下の二重変異体GlucDH_E170K_K252Lによるグルコースの変換の反応速度は、4.60kU/100g質量(表3参照)しかない顕著により低い酵素活性のために、より悪い結果さえもたらすであろうことが予期された。
【0077】
図2は、補酵素としてcarbaNAD存在下、実施例1によって得られた変異されたグルコース脱水素酵素の反応速度を示している。図2に示されるとおり、低下した酵素活性にともない予期される反応速度の低下は起こっていない。むしろ、二重変異体はcarbaNAD存在下で、表3に記載の、対応する野生型グルコース脱水素酵素および天然の補酵素NADを含む全ての処方と比べてより良好な反応速度を示している。
【0078】
実施例3および4に記載されている結果を考慮したならば、乾式試薬層中のグルコースの代謝回転率を決定づけるものは、酵素の活性ではなく、むしろ、酵素、補酵素、還元型補酵素、グルコースおよびグルコノラクトンの間の複合体形成の状態であるようであり、その複合体形成の状態は明らかに、野生型酵素とNAD/NADHとの場合よりも、実施例1において調製された変異体とcarbaNAD/carbaNADHの場合に、より良好である。
【0079】
実施例5:グルコース脱水素酵素、NADHおよびグルコースまたはグルコラクトンからなる三重複合体の検出
【0080】
酵素、還元型補酵素およびグルコースまたはグルコラクトンからなる三重重複合体の存在を確認するために、NADHの蛍光特性をもとにした分析物の結合実験がキュベット試験において行われた。
【0081】
この目的のために、1mgのNADH(Roche Company)が1mLのリン酸緩衝液に溶解され、そして、関連する蛍光スペクトルが記録された。続いて、10mgのバチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素(GlucDH)が添加されると、ただちに、文献より公知の複合体GlucDH−NADHが形成し、NADHの顕著な長寿命性(遊離状態における0.4nsと比較して3ns)によって複合体はシフトした発光極大を450nmに生じた(図3参照)。この複合体のグルコラクトンによる滴定は蛍光を減少させ、一方、同時に発光極大を427nmにシフトさせたが、後者は、GlucDH−NADH−グルコラクトン三重複合体である新規複合体の存在を示している(図3参照)。
【0082】
蛍光の減少、これはまた寿命の短縮にも対応しているが、この減少はおそらくNADH−グルコラクトンの酸化還元対による迅速なエネルギー減少によるものと思われる。二元複合体GlucDH−NADHがグルコースで滴定された場合には、効果のないGlucDH−NADH−グルコース三重複合体が形成され、還元種の欠如により、これは特別な様式でエネルギーを低下させることができないので、したがって、同じ発光極大において、より長い寿命およびより高い強度さえも示す傾向がある。
【0083】
三重複合体GlucDH−NADH−グルコラクトンの開裂および、それによる酵素の再利用可能性が、乾式試薬層中でのグルコースのグルコノラクトンへの変換速度を決定しているのならば、(反応中に形成されたグルコノラクトンに加えて)追加されるグルコノラクトンはそれ以上の酵素複合体を抑制するはずであるから、グルコノラクトンの添加はグルコースの変換速度を低下させるはずである。
【0084】
この仮定は、本出願の実施例4による、グルコラクトンの非存在下(図5A参照)または存在下(図5B参照)の乾式試薬層に血液が適用された、反応速度測定で確認された。図5Bは、図5Aで測定された試料と比較して、変換の顕著な減少を示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析物を測定する方法およびそのために適した診断素子に関する。
【背景技術】
【0002】
診断素子は、臨床的に意義のある分析方法の重要な構成成分である。これに関連して、主要な目的は、たとえば代謝物や基質などの分析物の測定であって、たとえば、分析物に特異的な酵素の助けをかりて直接的にまたは間接的に測定される。このケースでは分析物は、酵素−補酵素複合体の助けをかりて変換され、続いて定量される。この過程では、測定されるべき分析物は適切な酵素、補酵素および任意には、メディエーターと接触され、そして、補酵素は、物理化学的に酵素反応により、たとえば酸化または還元されることにより変えられる。メディエーターが追加で使用される場合、このメディエーターは通常、分析物の反応中に遊離される電子を還元された補酵素から光学的指示薬または電極の伝道成分に移動させるので、この過程はたとえば光化学的または電気化学的に検出することができる。較正により、測定された値と測定されるべき分析物の濃度とのあいだの直接的な関係がもたらされる。
【0003】
先行技術より公知の診断素子は、限られた有効期限によって、および、その有効期限を全うするための周囲環境に対する特別な必要性、たとえば冷蔵または乾式貯蔵によって特徴づけられる。したがって、ある種の適用においては、たとえば血糖自己測定などのエンドユーザー自身によって行われる試験の場合には、誤りであるが気づかれることのない間違った測定システムの保管によって、消費者によって認識されることがほぼ不可能な、かつ、それぞれの疾患の誤った処置につながるかもしれないような、誤った結果が生じる可能性がある。誤りを含む結果は、主として、このような診断素子に使用される酵素、補酵素およびメディエーターが一般的に、水分および熱と敏感に反応して時間と共に不活性化されるという事実によるものである。
【0004】
診断素子の安定性を増加させるために使用されている既知の手段は、安定な酵素の使用、たとえば好熱性生物由来の酵素の使用である。さらに、酵素は、化学的修飾によって、そして、特には架橋によって安定化され得る。さらには、たとえばトレハロース、ポリビニルピロリドンおよび血清アルブミンなどの酵素安定剤を添加することも可能であり、また、酵素をたとえば光重合によってポリマーネットワーク内に封入することも可能である。
【0005】
酵素を安定化させるもう一つの方法は、部位特異的にまたは非部位特異的に導入される変異によるものである。この点に関して、酵素のDNAコードの標的変化を利用して該当酵素の特性に特異的に影響を与える組み替え技術の使用が特に適していることが立証されてきた。
【0006】
Baikらは、アミノ酸置換E170K、Q252LまたはE170K/Q252Lを含む、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のグルコース脱水素酵素の3つの突然変異体の単離および特性評価について記載している(Appl. Environ. Microbiol (2005), 71, 3285)。変異体E170KおよびQ252Lが、低い塩濃度および高いpH値において低い安定性しか有さないのに対し、二重変異体は、二量体−二量体の界面における増強された相互作用のため、試験条件下で顕著に増大された安定性を示す。
【0007】
Vazquez-Figueroaらは、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)、バチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)およびバチルス リケニホルミス(Bacillus licheniformis)由来のグルコース脱水素酵素の155、170および252位にアミノ酸置換を導入することを含む、熱安定性グルコース脱水素酵素の開発を開示している。この点に関して、E170KおよびQ252Lの変異は、個別におよび組み合わせて、バチルス ズブチルス由来のグルコース脱水素酵素の安定化をもたらすと述べられている。
【0008】
しかしながら、野生型変異体に比べて遺伝的に修飾された安定化酵素が使用される場合、それらは通常、対応する野生型酵素と比較して顕著に低い活性しか有していないという問題を生じ、したがって、単位時間あたりより低い基質の代謝回転の原因となる。高い比活性を有する酵素が、血糖の検出においてなど臨床化学および診断化学における使用には好ましいという事実を考慮すると、安定化酵素の使用は多くの場合、天然の酵素の使用の容認し難い代替でしかない。
【0009】
別の困難性は、単位時間あたりの高い代謝回転と相関する高い酵素活性は、いずれの場合も個々の天然の補酵素によってのみ通常もたらされることである。天然の補酵素の代わりに人工の補酵素が使用される場合、酵素活性は通常大幅に低下し、そしてそれにより、基質の代謝回転の速度は低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の基礎である目的は、先行技術の欠点が少なくとも部分的に取り除かれている、とりわけグルコースを測定するための安定な診断素子を提供することであった。特に、診断素子は、酵素と同様に補酵素の高い安定性を保証すると同時に一方で、基質の高い代謝回転を保障すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、
a)分析物を含む試料を
i)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素および
ii)人工の補酵素
を含む乾式試薬層を含んでなる診断素子に接触させる工程、ならびに、
b)分析物の存在または/および量を測定する工程
を含んでなる、分析物を測定するための方法により、本発明にしたがい達成される。
【発明の効果】
【0012】
驚くべきことに、本発明の範囲内で、キュベット試験(cuvette test)では人工の補酵素の存在下で非常に低い活性しか有さなかった変異された脱水素酵素が、テストストリップのような乾式試薬層を含む診断素子において、より速い反応速度を示し、天然の補酵素(野生型補酵素)の存在下の場合と少なくとも同量の代謝回転量を生み出すことが見出された。この理由はおそらく、含有物が高濃度である場合、酵素の活性以外のほかの要因が代謝回転速度に決定的な影響を及ぼすという事実によるものであり、そしてこの点に関して、酵素、補酵素、還元型補酵素、分析物および酸化された分析物との間の複合体形成の状態がとりわけ非常に重要であるようである。
【0013】
この点に関して、本発明の方法は、好ましい実施様態において、本明細書に記載される診断素子中の分析物の代謝回転速度が、人工の補酵素の代わりに対応する野生型補酵素を含んでなる、対応する診断素子中の分析物の代謝回転速度と同等かまたはより速いことを規定している。本発明により使用される診断素子中の分析物の代謝回転速度は、野生型補酵素を含む診断素子中の分析物の代謝回転速度と比較して、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、そして最も好ましくは少なくとも100%、たとえば100%から200%増大する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。1556.2kU/100g質量の酵素活性。
【0015】
【図1B】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。1004.0kU/100g質量の酵素活性。
【図1C】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。502.0kU/100g質量の酵素活性。
【図1D】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。251.0kU/100g質量の酵素活性。
【図1E】補酵素としてのNAD/NADH存在下、0.0mg/dL、35.2mg/dL、54.2mg/dL、146.6mg/dL、249.0mg/dL、338.6mg/dLおよび553.6mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の反応速度。25.10kU/100g質量の酵素活性。
【図2】補酵素としてのcarbaNAD/carbaNADH存在下、0.0mg/dL、34.4mg/dL、141.2mg/dL、236.6mg/dL、333.8mg/dLおよび525.8mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の変異によって得られた、グルコース脱水素酵素の二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの反応速度。酵素活性:4.60kU/100g質量。
【図3】グルコノラクトンを用いた滴定前後における、グルコース脱水素酵素(GlucDH)/NADH複合体の蛍光スペクトル。
【図4】グルコースを用いた滴定前後における、グルコース脱水素酵素(GlucDH)/NADH複合体の蛍光スペクトル。
【図5A】野生型グルコース脱水素酵素およびNADHの存在下、種々のグルコース濃度における、グルコース変換の反応速度。77.0mg/dL、207.0mg/dL、300.0mg/dLおよび505.0mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、追加のグルコノラクトン添加なしの反応速度。
【図5B】野生型グルコース脱水素酵素およびNADHの存在下、種々のグルコース濃度における、グルコース変換の反応速度。96.2mg/dL、274.0mg/dL、399.0mg/dLおよび600.0mg/dLのグルコース濃度(上から下に向かって示される)における、追加のグルコノラクトン添加下の反応速度。
【図6】グルコース脱水素酵素の二重変異体GlucDH_E170K_K252Lのアミノ酸配列の表示。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願で使用される用語「変異された脱水素酵素(mutated dehydrogenase)」または「脱水素酵素の変異体(dehydrogenase mutant)」は、天然の脱水素酵素(野生型脱水素酵素)の遺伝的に改変された変異体であって、同じ数のアミノ酸を有するが野生型脱水素酵素と比較して改変されたアミノ酸配列、すなわち野生型脱水素酵素とは少なくとも1つのアミノ酸が異なる変異体を意味する。
【0017】
変異された脱水素酵素は、あらゆる生物学的源由来の野生型脱水素酵素からの突然変異により得ることができる。ここで、用語「生物学的源」とは、本発明の意味において、細菌などの原核生物ならびに哺乳類および他の動物などの真核生物の両方を含む。変異の導入は、部位特異的にまたは非部位特異的に起こすことができ、好ましくはこの分野で既知であり、特別な要件および条件にしたがって、天然の脱水素酵素のアミノ酸配列内で少なくとも1つのアミノ酸置換が生じる組換え法を用いて部位特異的に行われる。
【0018】
このようにして得られ、そして、本発明の方法において使用される脱水素酵素の変異体は、好ましくは、対応する野生型脱水素酵素と比較して、増大した熱または/および加水分解安定性を有する。このような変異体の例は、とりわけ、Baik(Appl. Environ. Microbiol (2005), 71, 3285)、Vazquez-Figueroa(ChemBioChem (2007), 8, 2295)および国際公開第2005/045016号に記述されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0019】
本発明の意味での変異された脱水素酵素は、とくに好ましくは、対応する野生型脱水素酵素と比較して低下した比酵素活性を有する。本願で使用される用語「比酵素活性(specific enzyme activity)」(U/mg酵素で表現される)とは、所定の条件下で毎分、酵素1ミリグラム当たり転換される基質の量を意味する。一方、用語「凍結乾燥物活性(lyophilisate activity)」とは、所定の条件下で毎分、補助物質とともに酵素を含む凍結乾燥物1ミリグラム当たり転換される基質の量を意味する。
【0020】
本発明の方法において使用される変異された脱水素酵素は、好ましくは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の変異された脱水素酵素であって、好ましくは、変異されたアルコール脱水素酵素(EC 1.1.1.1;EC 1.1.1.2)、変異されたL−アミノ酸脱水素酵素(1.4.1.5)、変異されたグルコース脱水素酵素(EC 1.1.1.47)、変異されたグルコース−6−リン酸塩脱水素酵素(EC 1.1.1.49)、変異されたグリセロール脱水素酵素(EC 1.1.1.6)、変異された3−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(E.C.1.1.1.30)、変異された乳酸脱水素酵素(EC 1.1.1.27、EC 1.1.1.28)、変異されたリンゴ酸脱水素酵素(EC 1.1.1.37)および変異されたソルビトール脱水素酵素から選択される。
【0021】
本発明の範囲内で変異されたグルコース脱水素酵素が使用される場合には、対応する野生型グルコース脱水素酵素と比較して、1または複数の改変されたアミノ酸を基本的にはそのアミノ酸配列のどの位置で含んでもよい。変異されたグルコース脱水素酵素は好ましくは、野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列の170位および252位の少なくともどちらかに変異を含み、170位および252位に変異を有する変異体が特に好ましい。変異されたグルコース脱水素酵素がこれらの変異に加えてそれ以上の変異を含まない場合が有利であることが立証された。
【0022】
170位または/および252位における変異は、基本的には、安定化、たとえば野生型脱水素酵素の熱または/および加水分解安定性の増大をもたらすような、あらゆるアミノ酸置換を含み得る。170位での変異は、好ましくは、グルタミン酸からアルギニンまたはリジンへのアミノ酸置換、特に好ましくは、グルタミン酸からリジンへのアミノ酸置換を含み、一方、252位に関しては、リジンからロイシンへのアミノ酸置換が好ましい。
【0023】
前記のグルコース脱水素酵素の変異体を作製するために使用される野生型グルコース脱水素酵素は、好ましくは細菌由来であり、バチルス メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)またはバチルス チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)由来、とりわけバチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素が特に好ましく用いられる。最も好ましい態様において、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素の変異により得られる、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する変異されたグルコース脱水素酵素GlucDH_E170K_K252Lが、本発明の方法の範囲内で使用される。
【0024】
本発明にしたがって、本明細書で記述される診断素子は、分析物に特異的である変異された脱水素酵素に加えてさらに人工の補酵素を含んでなるものである。本発明の意味の範囲内で、人工の補酵素は、天然の補酵素と比較して化学修飾されている補酵素であり、天然の補酵素と比較して、大気圧下、湿度、特に0℃から50℃までの範囲の温度、特にpH4からpH10までの範囲の酸および塩基、または/ならびに、アルコールもしくはアミンなどの求核試薬に対してより高い安定性を有し、そしてこのため、同一の環境条件下で天然の補酵素よりもより長い期間にわたってその活性を示すことが可能である。
【0025】
人工の補酵素は、好ましくは、天然の補酵素と比較してより高い加水分解安定性を有しており、試験条件下で加水分解に対し完全に抵抗性であることが特に好ましい。人工の補酵素は、天然の補酵素と比較して脱水素酵素に対する結合定数が低下しており、たとえば2倍またはそれ以上減少した結合定数を有する。
【0026】
本発明による方法の範囲内で使用され得る人工の補酵素の好ましい例は、人工のNAD(P)/NAD(P)H化合物、すなわち、天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)もしくは天然のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)の化学誘導体、または式(I)の化合物である。
【0027】
【化1】
【0028】
人工の補酵素が、人工のNAD(P)/NAD(P)H化合物である場合、人工のNAD(P)/NAD(P)H化合物は、好ましくは、たとえばリン酸残基などのリン含有基にグリコシル結合なしに、直鎖もしくは環状の有機残基によって、特には環状の有機残基によって連結される、3−ピリジンカルボニルまたは3−ピリジンチオカルボニル残基を含む。
【0029】
人工の補酵素は、特に好ましくは一般式(II)を有する化合物またはその塩、または必要に応じてそれらの還元型
【化2】
(式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基であって、
ただしZおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない)
から選択される。
【0030】
式(II)の化合物において、Zは、好ましくは4〜6個の炭素原子を有する直鎖状残基であって、好ましくは4個の炭素原子を有し、そのうちの1または2個の炭素原子が任意には1もしくはそれ以上のO、SおよびNから選択されるヘテロ原子によって置換されている直鎖状残基であるか、または、任意にはO、SおよびNから選択されるヘテロ原子ならびに任意には1もしくはそれ以上の置換基を含む5または6個の炭素原子を有する環状基、ならびに、CR42残基を含む残基であり、ここでCR42は環状基およびX2に結合しており、R4はそれぞれ独立してH、F、Cl、CH3である。
【0031】
Zは、特に好ましくは、飽和のまたは不飽和の炭素環式または複素環式の5員環であり、とりわけ一般式(III)を有する化合物である。
【0032】
【化3】
式中、R5'とR5''のあいだは単結合または二重結合であってもよく、ここで、
R4=それぞれ独立してH、F、Cl、CH3を意味し、
R5=CR42、
R5'とR5''のあいだが単結合である場合、R5'=O、S、NH、C1〜C2−アルキル、CR42、CHOH、CHOCH3、およびR5''=CR42、CHOH、CHOCH3、
R5'とR5''のあいだが二重結合である場合、R5'=R5''=CR4、ならびに
R6、R6'=それぞれ独立してCHまたはCCH3を意味する。
【0033】
好ましい実施態様において、本発明の化合物は、アデニンもしくはたとえばC8−およびN6−置換アデニンなどのアデニン類似体、7−デアザなどのデアザ変異体、8−アザなどのアザ変異体、または7−デアザもしくは8−アザなどの組合せ、またはホルモマイシンなどの炭素環類似体を含み、7−デアザ変異体はハロゲン、C1〜C6−アルキニル、C1〜C6−アルケニルまたはC1〜C6−アルキルによって7位が置換され得る。
【0034】
また別の好ましい実施形態では、化合物は、リボースの代わりに、たとえば2−メトキシデオキシリボース、2’−フルオロデオキシリボース、ヘキシトール、アルトリトール、またはビシクロ糖、LNA糖およびトリシクロ糖などの多環類似体を含むアデノシン類似体を含む。
【0035】
特に、式(II)の化合物において、(ジ)ホスフェート酸素を等電子数的に、たとえばO-をS-またはBH3-によって、OをNH、NCH3またはCH2によって、および=Oを=Sによって置換してもよい。本発明の式(II)の化合物において、Wは、好ましくはCONH2またはCOCH3である。
【0036】
式(III)の基において、R5は好ましくはCH2である。さらに、R5'はCH2、CHOHおよびNHから選択されることが好ましい。特に好ましい実施態様では、R5'およびR5''はいずれの場合にもCHOHである。なお、さらに好ましい実施態様では、R5'がNHかつR5''がCH2である。R4がH、R5がCH2、R5'およびR5''がCHOHかつR6およびR6'がCHである式(III)の化合物が最も特に好ましい。
【0037】
最も特に好ましい実施態様において、人工の補酵素は、文献(J. T. Slama, Biochemisty (1998), 27, 183 および Biochemistry (1989), 28, 7688)より公知のカルバNAD化合物である。本発明により使用され得る他の安定な補酵素は、国際公開第98/33936号、国際公開第01/49247号、国際公開第2007/012494号、米国特許第5,801,006号明細書、米国特許出願11/460,366号明細書およびBlackburnらによる文献(Chem. Comm. (1996), 2765)に記述されており、その開示は、本明細書に参照として明確に組み込まれる。
【0038】
本発明の方法で使用される診断素子は、変異された脱水素酵素および人工の補酵素を含有する、乾式試薬層を含んでなるものであって、分析物を含む試料によって湿潤されることが可能であればどのような診断素子でもよい。変異された脱水素酵素および人工の補酵素に加えて、試薬層は任意には、たとえば適切なメディエーターならびに適切な補助物質または/および添加剤などの、分析物の定性的検出または定量的測定のために使用される別の試薬を含んでいてもよい。
【0039】
水性または非水性溶液の形態で分析物が適用され得る診断素子が、本発明の範囲内で好ましく使用される。本発明の特に好ましい実施態様において、診断素子は、テストテープ、テストディスク、テストパッド、テストストリップ、テストストリップドラム、または国際公開第2005/084530号に記載の診断素子であり、本明細書はこれを明確に参照している。本願で記述される診断素子は、いずれの場合にも、分析物を含む試料と接触させられることが可能な、かつ、分析物の定性的または/および定量的測定を適切な方法を用いて可能にする、少なくとも1つの試験領域を含む。
【0040】
本明細書で使用される用語「テストテープ(test tape)」は、通常1個以上の個別の試験領域、好ましくは少なくとも10個の個別の試験領域、より好ましくは少なくとも25個の個別の試験領域および最も好ましくは少なくとも50個の個別の試験領域を含む、テープ様の診断素子を意味する。個別の試験領域は、好ましくは数ミリメートルから数センチメートルの距離で、たとえば互いどうしが2.5cmより短い距離でそれぞれ配置され、そして、テストテープは任意には、連続した試験領域の間に、テープ移動中の移動した距離を記録するためのまたは/および較正のためのマーカー領域を含んでいてもよい。このようなテストテープは、たとえば欧州特許出願公開1739,432号明細書に記述されており、その開示は、参照として明確に組み込まれる。
【0041】
本明細書で使用される用語「テストディスク(test desk)」は、1またはそれ以上の個別の試験領域、たとえば少なくとも10の個別の試験領域を含むことのできるディスクの形状をした診断素子を意味する。ある実施態様において、テストディスクは、試験薬品の薄層で、たとえば約20μmの厚さを有する層でコートされており、分析物の試料をその上に塗布することができ、それによって、大きさに程度の差はあるがテストディスクの領域が試料量に依存して試料によって湿潤され、分析物を測定するために使用され得る。薬品の層を通じて水分が通過するため、部分的にまたは完全に湿潤し得るテストディスクの非濡れ領域は、引き続き分析物のさらなる測定に利用可能である。
【0042】
本発明の方法は、光化学的にまたは電気化学的に検出可能であるあらゆる生物学的または化学的物質の測定に使用することができる。分析物は好ましくは、マレイン酸、アルコール、アンモニウム、アスコルビン酸、コレステロール、システイン、グルコース、グルコース−6−リン酸、グルタチオン、グリセロール、尿素、3−ヒドロキシ酪酸塩、乳酸、5’−ヌクレオチダーゼ、ペプチド、ピルビン酸塩、サリチル酸塩およびトリグリセリドからなる群より選択されるが、グルコースが特に好ましい。この点に関し、分析物はあらゆる起源由来であり得るが、限定はされないが、全血、血漿、血清、リンパ液、胆汁、脳脊髄液、細胞外組織液、尿、および唾液または汗などの腺分泌物を含む体液中に好ましくは含有され得る。全血、血漿、血清もしくは細胞外組織液由来の試料中の分析物の存在および/または量は、好ましくは本明細書で記述される診断素子によって測定される。
【0043】
分析物の定性的または/および定量的測定は、あらゆる方法で行われ得る。この目的のためには、先行技術から公知であり、かつ、手動でもしくは適切な手段を使用することによって分析されるかまたは読み出されることが可能である測定可能な信号を発生できる、酵素反応を検出するための全ての方法が、基本的には使用され得る。本発明の範囲内で、たとえば吸収、蛍光、円偏光二色性(CD)、旋光分散(ORD)、屈折率測定などの測定を含む光学的検出法および電気化学的技術が好ましくは使用される。分析物の存在または/および量は、とくに好ましくは、光度計測的または蛍光計測的に、たとえば人工の補酵素の蛍光計測的に検出可能な変化によって間接的に測定される。
【0044】
別の側面では、本願は、分析物を測定するための診断素子であって、
(a)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素、および
(b)人工の補酵素
を含有する乾式試薬層を含んでなる診断素子に関する。
【0045】
診断素子の、および、診断素子に含有される変異された脱水素酵素または診断素子に含有される人工の補酵素の好ましい実施態様に関し、様態は発明の方法に関する記載とあわせて参照される。
【0046】
本発明はさらに以下の図面および実施例によって説明される。
【実施例】
【0047】
実施例1:E170KおよびK252Lのアミノ酸置換を有する、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素の二重変異体(GlucDH_E170K_K252L)の調製
【0048】
天然の脱水素酵素と比較して安定化されている酵素を作製するために、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来のグルコース脱水素酵素の核酸配列が、プラスミドpKK177に導入された(EcoRIおよびHindIIIを用いてクローニングされた)。E170KおよびK252Lの変異が、野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列において、部位特異的変異によって始めに170位に、そして続いて、部位特異的変異によって252位に導入された。それぞれの変異誘発工程は、PCR反応の一部として、特異的にデザインされたプライマーを用いて行われた。
【0049】
得られたPCR産物は大腸菌XL1blue MRF’に形質転換された。細胞が取り出され、プラスミドを含むクローンが終夜で培養され、そして、酵素活性が温度負荷(負荷試験:50℃で30分)の前後で測定された。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
陽性クローンはさらに2回シークエンシングの前に試験された。この方法によって得られた二重変異体GlucDH_E170K_K252Lは、生産菌株である大腸菌NM522に、ヘルパープラスミドとしてpUB−520を用いて形質転換された。
【0052】
実施例2:二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの精製
【0053】
それぞれの10g生物量が、pH6.5の30mMリン酸カリウム緩衝液50mLに取り出され、そして、約800barで破砕された。細胞片を分離した後、DEAEセファロース(GE Healthcare Company)上、1mLのカラム容量あたり40mgより少ないタンパク質のロード量で、かつ、緩衝液A(pH6.5の30mMリン酸カリウム緩衝液)から緩衝液B(緩衝液A+500mMの塩化ナトリウム)までの線形グラディエントを用いて、クロマトグラフィーを行った。グルコース脱水素酵素活性を呈する画分がまとめられ、そして、硫酸アンモニウム(Aldrich Company)を用いて、230mS/cmの電導度に調節された。
【0054】
遠心分離後、透明な上澄みが、フェニルセファロースFF(GE Healthcare Company)上、1mLのカラム容量あたり最大10mgのタンパク質のロード量でクロマトグラフィーにより分離された。溶離は、硫酸アンモニウムを用いて230mS/cmの電導度に調節された緩衝液Aから純粋な緩衝液Aまでの線形グラディエントを用いて行われた。画分はその酵素活性を試験され、まとめられ、pH6.5の60mMリン酸カリウム緩衝液中、約50mg/mLの濃度に再緩衝液化され、濃縮されそして凍結乾燥された。
【0055】
実施例3:バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素および二重変異体GlucDH_E170K_K252Lのキュベット試験における活性の測定
【0056】
NAD/NADHまたはcarbaNAD/carbaNADHの存在下、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素および実施例1で作製された二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの、比活性度または凍結乾燥物活性度を試験するために、両方の酵素に対しグルコース脱水素酵素活性試験が行われた。
【0057】
試薬溶液の調製
トリス緩衝液(0.1M、pH8.5;0.2M Nacl)
11.68gのNaCl(Sigma−Aldrich Company)および12.11gのトリス(Sigma−Aldrich Company)を約900mLの再蒸留水に溶解し、1N HClを用いてpH8.5に調製し、そして、再蒸留水を用いて1000mLとした。
【0058】
希釈緩衝液(3.8mM NAD;0.1Mトリス、pH8.5;0.2M NaCl)
250mgのNAD(Roche Company)を100mLのトリス緩衝液(0.1M、pH8.5;0.2M NaCl)に溶解した。
【0059】
グルコース溶液
2gのD(+)グルコース一リン酸(Sigma−Aldrich Company)を10mLの再蒸留水に溶解した。溶液は、2時間の室温放置および変旋光平衡の調節の後、使用可能であった。
【0060】
NAD溶液(15mM)
10mgのNAD(Roche Company)を1mLの再蒸留水に溶解した。
【0061】
carbaNAD溶液(15mM)
10mgのcarbaNAD(Roche Company)を1mLの再蒸留水に溶解した。
【0062】
試料の調製
測定準備のため、試験される酵素10mgを1mLの希釈緩衝液に溶解し、そして、再構成を可能にするために室温で60分間静置した。続いて、希釈緩衝液で0.12から0.23U/mLに希釈した。
【0063】
測定手順
測定を行うために、1.35mLのトリス緩衝液、0.1mLのグルコース溶液、および、0.05mLのNAD溶液または0.05mLのcarbaNAD溶液(ともに25度でインキュベートされた)を、プラスティック製キュベットにピペットで取り出し、混合し、そして、キュベットキャリッジ中25度でインキュベートした。
【0064】
溶液の吸光度がもはや変化しなくなった(対照値)後、0.025mLの試料をキュベットに導入することにより反応を開始し、そして、試料の吸光度を5分の間測定した。
【0065】
測定波長:340nm
試験容量:1.525mL
光路長:1cm
温度:25度
評価範囲:1〜5分
【0066】
評価
それぞれの酵素の水溶液中での活性が以下の式を用いて評価された:
活性=(1.525×ΔA/分×希釈因子)/(ε340×0.025×1)U/mL
式中:
ΔA=At−A0=吸光度の経時変化の傾き
ε340=6.3[1×mmol-1×cm-1]
【0067】
測定の結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2に示されるように、WT−glucDH/carbaNAD(8.2U/mg酵素)系のキュベット中、標準状態での活性は、WT−GlucDH/NAD(484U/mg酵素)系の活性と比較して2桁小さい。同様に、二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの、人工の補酵素carbaNADの存在下での活性(3.7U/mg酵素)は、天然の補酵素NADの存在下(270U/mg酵素)と比較して約2桁小さい。
【0070】
実施例4:乾式試薬層中の、バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素および二重変異体GlucDH_E170K_K252Lの反応速度の測定
【0071】
バチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の天然のグルコース脱水素酵素(WT−GlucDH)または実施例1で調製された二重変異体GlucDH_E170K_K252Lのどちらか一方を、補酵素としてのNAD/NADHまたはcarbaNAD/carbaNADHと組み合わせて含む、種々のテストストリップが、酵素の反応速度を測定するために調製された。
【0072】
具体的には、まず初めに、pH7.0の1Mリン酸緩衝液18.4g、ガントレッツ(Gantrez)S97(International Specialty Products Company)1.4g、16%のNaOH溶液2.94g、Mega8(Sigma−Aldrich Company)、Geropon T77(Rhone−Poulenc Company)およびポリビニルピロリドン 25000(Fluka Company)1.90gからなる部分溶液1が、このために調製された。
【0073】
この部分溶液が続いて、0.50gの塩化ナトリウム、21.3gの再蒸留水、4.43gのTranspafill(Evonik Company)および2.95gのPropiofan(BASF Company)からなる部分溶液2、ならびに、冷蔵庫中で終夜冷却された部分溶液3と混合されたが、後者は、pH7.0の1Mリン酸緩衝液17.4g、塩化ナトリウム0.50g、2Mのリン酸水素二カリウム14.35gならびに下記の表3にそれぞれの場合において述べられている個々の量の脱水素酵素、補酵素および任意にはウシ血清アルブミン(BSA;Roche Company)からなる。減量された量の天然の脱水素酵素が使用される場合、テストストリップのマトリックス特性を可能な限り一定に保つために、酵素的に不活性なウシ血清アルブミンが処方に添加された。
【0074】
【表3】
【0075】
この方法によって得られたテストストリップが、励起LED(375nm)および従来型検出器(BPW34 blue−enhanced)を含む、実験室用測定機器(Roche Companyの自作)によって測定された。適用された試料物質は、調整されたグルコース値を含む血液であった。測定結果が図1および2に示されている。
【0076】
1A〜1Eの図に示すとおり、NAD存在下の野生型グルコース脱水素酵素によるグルコースの変換の反応速度はテストストリップ中の酵素量の減少に伴い低下した。したがって、carbaNAD存在下の二重変異体GlucDH_E170K_K252Lによるグルコースの変換の反応速度は、4.60kU/100g質量(表3参照)しかない顕著により低い酵素活性のために、より悪い結果さえもたらすであろうことが予期された。
【0077】
図2は、補酵素としてcarbaNAD存在下、実施例1によって得られた変異されたグルコース脱水素酵素の反応速度を示している。図2に示されるとおり、低下した酵素活性にともない予期される反応速度の低下は起こっていない。むしろ、二重変異体はcarbaNAD存在下で、表3に記載の、対応する野生型グルコース脱水素酵素および天然の補酵素NADを含む全ての処方と比べてより良好な反応速度を示している。
【0078】
実施例3および4に記載されている結果を考慮したならば、乾式試薬層中のグルコースの代謝回転率を決定づけるものは、酵素の活性ではなく、むしろ、酵素、補酵素、還元型補酵素、グルコースおよびグルコノラクトンの間の複合体形成の状態であるようであり、その複合体形成の状態は明らかに、野生型酵素とNAD/NADHとの場合よりも、実施例1において調製された変異体とcarbaNAD/carbaNADHの場合に、より良好である。
【0079】
実施例5:グルコース脱水素酵素、NADHおよびグルコースまたはグルコラクトンからなる三重複合体の検出
【0080】
酵素、還元型補酵素およびグルコースまたはグルコラクトンからなる三重重複合体の存在を確認するために、NADHの蛍光特性をもとにした分析物の結合実験がキュベット試験において行われた。
【0081】
この目的のために、1mgのNADH(Roche Company)が1mLのリン酸緩衝液に溶解され、そして、関連する蛍光スペクトルが記録された。続いて、10mgのバチルス ズブチルス(Bacillus subtilis)由来の野生型グルコース脱水素酵素(GlucDH)が添加されると、ただちに、文献より公知の複合体GlucDH−NADHが形成し、NADHの顕著な長寿命性(遊離状態における0.4nsと比較して3ns)によって複合体はシフトした発光極大を450nmに生じた(図3参照)。この複合体のグルコラクトンによる滴定は蛍光を減少させ、一方、同時に発光極大を427nmにシフトさせたが、後者は、GlucDH−NADH−グルコラクトン三重複合体である新規複合体の存在を示している(図3参照)。
【0082】
蛍光の減少、これはまた寿命の短縮にも対応しているが、この減少はおそらくNADH−グルコラクトンの酸化還元対による迅速なエネルギー減少によるものと思われる。二元複合体GlucDH−NADHがグルコースで滴定された場合には、効果のないGlucDH−NADH−グルコース三重複合体が形成され、還元種の欠如により、これは特別な様式でエネルギーを低下させることができないので、したがって、同じ発光極大において、より長い寿命およびより高い強度さえも示す傾向がある。
【0083】
三重複合体GlucDH−NADH−グルコラクトンの開裂および、それによる酵素の再利用可能性が、乾式試薬層中でのグルコースのグルコノラクトンへの変換速度を決定しているのならば、(反応中に形成されたグルコノラクトンに加えて)追加されるグルコノラクトンはそれ以上の酵素複合体を抑制するはずであるから、グルコノラクトンの添加はグルコースの変換速度を低下させるはずである。
【0084】
この仮定は、本出願の実施例4による、グルコラクトンの非存在下(図5A参照)または存在下(図5B参照)の乾式試薬層に血液が適用された、反応速度測定で確認された。図5Bは、図5Aで測定された試料と比較して、変換の顕著な減少を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)分析物を含む試料を
i)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素および
ii)人工の補酵素
を含む乾式試薬層を含んでなる診断素子に接触させる工程、ならびに、
b)分析物の存在または/および量を測定する工程
を含んでなる、分析物を測定するための方法。
【請求項2】
前記診断素子中の分析物の代謝回転速度が、人工の補酵素の代わりに対応する野生型補酵素を含んでなる、対応する診断素子中の分析物の代謝回転速度と同等かまたはより速く、とりわけ、少なくとも20%速いことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
対応する野生型脱水素酵素と比較して低下した比酵素活性を有する、変異された脱水素酵素を使用することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記変異された脱水素酵素として、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の変異された脱水素酵素を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記変異された脱水素酵素として、変異されたグルコース脱水素酵素(EC 1.1.1.47)を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、対応する野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列の170位または/および252位に変異を、とりわけ、170位および252位に変異を含むことを特徴とする請求項5記載の方法であって、
170位における変異が、好ましくは、グルタミン酸からアルギニンもしくはリジンへのアミノ酸置換、とりわけ、リジンへのアミノ酸置換を含み、または/および、252位における変異が、好ましくは、リジンからロイシンへのアミノ酸置換を含む方法。
【請求項7】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、バチルス メガテリウム、バチルス ズブチルスまたはバチルス チューリンゲンシス由来、とりわけ、バチルス ズブチルス由来の野生型グルコース脱水素酵素の変異により得られるグルコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記人工の補酵素として、人工のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)化合物、人工のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物または式(I)の化合物
【化1】
を使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記人工の補酵素として、一般式(II)の化合物またはその塩、または必要に応じてそれらの還元型
【化2】
(式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸エステル基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基であって、
ただしZおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない)
を使用することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記人工の補酵素として、carbaNADを使用することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記診断素子として、テストテープ、テストディスク、テストパッド、テストストリップまたはテストストリップドラムを使用することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物の存在または/および量を、光度計測的または蛍光計測的に測定することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
分析物を測定するための診断素子であって、
(a)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素、および
(b)人工の補酵素
を含有する乾式試薬層を含んでなる診断素子。
【請求項15】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項14記載の診断素子。
【請求項1】
a)分析物を含む試料を
i)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素および
ii)人工の補酵素
を含む乾式試薬層を含んでなる診断素子に接触させる工程、ならびに、
b)分析物の存在または/および量を測定する工程
を含んでなる、分析物を測定するための方法。
【請求項2】
前記診断素子中の分析物の代謝回転速度が、人工の補酵素の代わりに対応する野生型補酵素を含んでなる、対応する診断素子中の分析物の代謝回転速度と同等かまたはより速く、とりわけ、少なくとも20%速いことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
対応する野生型脱水素酵素と比較して低下した比酵素活性を有する、変異された脱水素酵素を使用することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記変異された脱水素酵素として、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)依存性またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)依存性の変異された脱水素酵素を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記変異された脱水素酵素として、変異されたグルコース脱水素酵素(EC 1.1.1.47)を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、対応する野生型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列の170位または/および252位に変異を、とりわけ、170位および252位に変異を含むことを特徴とする請求項5記載の方法であって、
170位における変異が、好ましくは、グルタミン酸からアルギニンもしくはリジンへのアミノ酸置換、とりわけ、リジンへのアミノ酸置換を含み、または/および、252位における変異が、好ましくは、リジンからロイシンへのアミノ酸置換を含む方法。
【請求項7】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、バチルス メガテリウム、バチルス ズブチルスまたはバチルス チューリンゲンシス由来、とりわけ、バチルス ズブチルス由来の野生型グルコース脱水素酵素の変異により得られるグルコース脱水素酵素であることを特徴とする請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記人工の補酵素として、人工のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)化合物、人工のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP/NADPH)化合物または式(I)の化合物
【化1】
を使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記人工の補酵素として、一般式(II)の化合物またはその塩、または必要に応じてそれらの還元型
【化2】
(式中、
A=アデニンまたはその類似体、
T=それぞれ独立してO、S、
U=それぞれ独立してOH、SH、BH3-、BCNH2-、
V=それぞれ独立してOHまたはリン酸基、または2つの基が環状リン酸エステル基を形成する、
W=COOR、CON(R)2、COR、CSN(R)2、R=それぞれ独立してHまたはC1〜C2−アルキル、
X1、X2=それぞれ独立してO、CH2、CHCH3、C(CH3)2、NH、NCH3、
Y=NH、S、O、CH2、
Z=直鎖状または環状有機残基であって、
ただしZおよびピリジン残基は、グリコシル結合により連結されない)
を使用することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記人工の補酵素として、carbaNADを使用することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記診断素子として、テストテープ、テストディスク、テストパッド、テストストリップまたはテストストリップドラムを使用することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記分析物の存在または/および量を、光度計測的または蛍光計測的に測定することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
分析物を測定するための診断素子であって、
(a)分析物に特異的な、変異された脱水素酵素、および
(b)人工の補酵素
を含有する乾式試薬層を含んでなる診断素子。
【請求項15】
前記変異されたグルコース脱水素酵素が、配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項14記載の診断素子。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【公表番号】特表2012−517816(P2012−517816A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550531(P2011−550531)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051801
【国際公開番号】WO2010/094632
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051801
【国際公開番号】WO2010/094632
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(501205108)エフ ホフマン−ラ ロッシュ アクチェン ゲゼルシャフト (285)
【Fターム(参考)】
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