説明

乾燥土壌における塩類集積抑制・保水能向上方法

【課題】 乾燥土壌の塩類集積を抑制すると共に土壌の保水能を向上させて、乾燥土壌の緑地化や耕地化を促進する方法の提供。
【解決手段】 乾燥土壌に、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を添加して発酵させて、乾燥土壌における塩類集積の抑制し且つ保水能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥土壌における塩類の集積を抑制すると共に、保水能を向上させる方法に関する。より詳細には、本発明は、乾燥土壌の緑化や耕地化、農業などにおいて深刻な問題となっている乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境変化により土壌の乾燥地化が急速に進み、大きな社会問題となっている。このような乾燥地では単に灌漑しても土壌に保水力がないため、その緑化・耕地化は困難である。さらに、灌漑により土壌の深層部に含まれる塩類が地表近くまで析出してしまい、却って塩害を被ってしまうことが多い。一度そのような塩害を被った土壌では、農作物を含め植物が生育できず、さらに深刻な問題となっている。
【0003】
乾燥土壌の緑化・耕地化に関しては種々の方法が提案されている。例えば、砂漠地帯に易吸水性・難放水性を有する保水フィルムを敷き詰める方法(特許文献1参照)、シリカヒドロゲルを包装し、さらに上面を金属繊維で覆った上で乾燥土壌に埋設する方法(特許文献2参照)がある。しかし、これらの方法は広大な土地に処理を施すには現実的ではなく、また土壌の塩害を防止することは困難であった。
【0004】
また、天然多糖類を土壌保水剤として用いる方法(特許文献3参照)や、架橋ポリアミン系樹脂を土壌改良剤として用いる方法(特許文献4参照)が提案されている。しかし、これらは土壌の保水能を向上させることはできるが、土壌の塩害を防止することは困難であった。
【0005】
一方、土壌の塩害を防止する方法としては、例えば土中に上部を露出せしめてパルプ部材を所定の間隔で埋設することが提案されている(特許文献5参照)。この方法では、塩類はパルプ部材に集積するが、その一方でパルプ部材が土壌中の水分を吸収してしまうため土壌の乾燥化を促進するという問題があり、スプリンクラー等の灌漑手段を必要とする。
【0006】
【特許文献1】特開平10−313684号公報
【特許文献2】特開平06−22648号公報
【特許文献3】特開平06−254393号公報
【特許文献4】特開平11−61129号公報
【特許文献5】特開平06−141680号公報
【非特許文献1】土壌環境分析法編集委員会編「土壌環境分析法」第2刷,株式会社博友社,2000年4月25日,p208−211
【非特許文献2】土壌環境分析法編集委員会編「土壌環境分析法」第2刷,株式会社博友社,2000年4月25日,p243−245
【非特許文献3】土壌環境分析法編集委員会編「土壌環境分析法」第2刷,株式会社博友社,2000年4月25日,p50−52
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記の如き従来の問題と実状に鑑み、砂漠のような乾燥度の大きな土壌や乾燥度は小さいものの乾燥状態にあって植物の生育しにくい種々の乾燥土壌において、農作物や緑化用植物などがより容易に且つ継続的に生育可能となるように、土壌中の塩類集積を抑制すると共に土壌の保水能を向上させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意研究した結果、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を乾燥土壌に添加して発酵させると、土壌中の塩類集積が抑制され、しかも土壌の保水能力が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 乾燥土壌に小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を添加して発酵させることを特徴とする乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上方法である。
そして、本発明は、
(2) 土壌の質量に対して、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を0.1〜10質量%の割合で添加する前記(1)の乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上方法;および、
(3) 発酵資材における小麦フスマまたは/および末粉の含有量が60質量%以上である前記(1)または(2)の乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上方法;
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、土壌に特別な設備を設けたり、高価な材料を地中に埋設する工事などを要することなく、簡便に、且つ低コストで、乾燥土壌における塩害の防止または緩和と、保水能力の向上を同時に達成することができる。
本発明の方法で用いる小麦フスマおよび/または末粉を主体とする発酵資材は小麦に由来し安全性に優れるため、環境汚染などの問題を生ずることなく、乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上を安全に且つ円滑に達成することができる。
特に、本発明の方法による場合は、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を乾燥土壌に添加して発酵させることにより、土壌の陽イオン交換容量が高くなり、それによって地下水の組み上げなどに伴って土壌の深層部から表面部に移行して集積した塩類が土壌中にトラップされるようになって、水中に溶解する塩類の量が低減するため、植物における塩害が防止または緩和され、それと同時に土壌の保水能力を高めることができる。
さらに、本発明の方法による場合は、小麦フスマおよび/または末粉を主体とする発酵資材を乾燥土壌に添加して発酵させることにより、植物の生育が改善される。
そのため、本発明の方法による場合は、乾燥土壌の緑化や耕地化を、安全に、簡便に且つ低コストで行うことができ、しかも緑化や耕地化された土壌の緑化状態の維持をも行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明は、乾燥土壌に小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を添加し発酵させて、乾燥土壌における塩類集積の抑制と共に保水能を向上させる方法である。
ここで、本発明の方法で対象としている「乾燥土壌」とは、砂漠のような乾燥度の大きな土壌、砂漠より乾燥度は小さいが乾燥のかなり進んだ土壌、または乾燥度は前者に比べて小さいが水分含量が少ないためにそのままでは植物の生育が困難であったり植物が良好に生育しない土壌であって、塩類集積の被害が発生しているかまたは発生する恐れがあり、緑化や耕地化のために保水能の向上と塩類集積の抑制が必要な乾燥土壌および半乾燥土壌のいずれをも包含する。
さらに、本明細書における「塩類集積」とは、水分に溶解して植物の根などから吸収されて植物に塩害をもたらす塩類(一般に土壌などにトラップされておらずに遊離した塩または塩イオンの形態になっている塩類)の集積をいい、したがって「塩類集積の抑制」とは前記した塩類が集積するのを抑制することを意味する。
【0012】
本発明で用いる小麦フスマは、周知のように小麦粒の外皮であり、また末粉(すえこ)は小麦粒外皮に付着する胚乳部(小麦粉)と小麦フスマを含む粉状物であり、いずれも小麦製粉時の副産物として得られるものである。本発明で用いる発酵資材は、小麦フスマおよび末粉のいずれか一方のみを含有していても、または両者を含有していてもよい。また、小麦フスマおよび末粉は、発酵済みのものを用いてもよい。
本発明で用いる発酵資材は、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする。発酵資材における小麦フスマおよび/または末粉の含有量(小麦フスマと末粉の両方を含む場合は両者の合計含有量)は、発酵資材の乾燥質量に基づいて、一般に50質量%以上とするのがよく、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。発酵資材における小麦フスマおよび/または末粉の含有量が、少ないと、土壌に添加したときに発酵が円滑に進みにくくなり、また土壌に添加する発酵資材の必要量が増加し、発酵資材の添加時の作業効率の低下、コストの上昇などを生じ易くなる。
【0013】
本発明で用いる発酵資材は、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする限りは、必要に応じて澱粉質材料、骨粉、魚粉、有機質肥料、フミン酸、廃糖蜜などの他の材料の1種または2種以上を含有していてもよい。
また、発酵資材の形態は土壌への添加が容易である限りは特に制限されず、例えば粉末状、顆粒状、ペレット状、その他の粒状などのいずれでもよい。
発酵資材の水分含量は特に限定されないが、変色・腐敗防止など保存安定性、取り扱い性などの観点から、15質量%以下であること好ましい。
【0014】
本発明で対象とする「乾燥土壌」は上記したとおりであって、本発明の方法は、塩類集積の被害が発生しているかまたはその恐れのある乾燥土壌や半乾燥土壌などの乾燥した土壌のいずれに対しても適用可能である。本発明の方法は、例えば、乾燥化してそのままでは緑化・耕地化に困難な砂漠やその他の土壌、比較的乾燥した気候下にある農地における耕作閑期の土壌などに対して有効に適用することができる。
【0015】
小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材の土壌への添加量は、土壌の種類や質、水分含量、予想される塩類集積被害の程度などにより異なり得るが、一般的には、土壌の質量に対して、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましく、3〜5質量%が更に好ましい。
【0016】
小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材の土壌への添加方法は、土壌中において発酵資材の発酵が進行するのであれば特に限定されず、例えば、土壌表面に散布してもよいし、土壌に混和してもよい。そのうちでも、土壌に混和するのが、発酵が円滑に行われて、保水能の向上および塩類集積の抑制作用がより高くなる点から好ましい。
【0017】
小麦フスマおよび/または末粉を主体する発酵資材を添加して発酵させる際の土壌中の水分含量は、発酵資材の土壌中での発酵を十分に行わせて土壌の保水能を向上させ、それと同時に土壌の陽イオン交換容量を増加させて土壌中での塩類集積を抑制するために、以下に説明する「最大容水量」の20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることが更に好ましい。発酵資材の発酵時における水分含量が前記値よりも小さいと、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を土壌に添加しても発酵が円滑に進行しにくくなり、その結果、土壌の陽イオン交換容量および保水率を十分に向上させることが困難となり易い。
発酵資材を添加する乾燥土壌の水分含量が、元々「最大容水量」の20%以上である場合は、該乾燥土壌の発酵資材を添加し給水せずにそのまま発酵を行わせてもよいし、必要に応じて例えば一時的にまたは発酵が進行する間のみ給水して水分含量をより高めて発酵を行わせてもよい。
発酵資材を添加する乾燥土壌の水分含量が、「最大容水量」の20%よりも少ない場合には、例えば、一時的にまたは発酵が進行する間のみ、給水を行って発酵に必要な水分含量を保持させることが好ましい。
【0018】
土壌の保水能の測定法には種々の方法があるが、本発明では土壌の保水能を「最大容水量」および「正常生育有効水分量」を指標として評価した。
ここで、「最大容水量」とは、土壌が保持できる最大の水量であって、土壌が水で満たされて飽和したときの水量である。また、「正常生育有効水分量」とは、正常に生育する植物により利用される水分量であり、この正常生育有効水分量が多い程、植物が良好に生育できると考えられている。本発明で採用した「最大容水量」および「正常生育有効水分量」の具体的な測定法は、以下の実施例に記載するとおりである。
【0019】
本明細書でいう「陽イオン交換容量」(Cation Exchange Capacity;CEC)とは、土壌が交換できる最大の陽イオン量であって、土壌の持つ負荷電の総量である。つまり、陽イオン交換容量は土壌がどれだけの量の塩類を吸着しうるかを数値的に示すものであり、土壌中における塩類集積の抑制能または緩和能の指標とすることができる。本発明においては、土壌の陽イオン交換容量を、以下の実施例の項に記載したセミミクロショーレンベルガー法により測定した。
【0020】
小麦フスマおよび/または末粉を主体とする発酵資材を乾燥土壌に添加して発酵させる本発明の方法は、土壌の最大容水量および正常生育有効水分量、特に植物の生育に重要な正常生育有効水分量を向上させることができ、しかも塩類集積にも関連する地表からの水分蒸発を抑制する効果をも有する。
さらに、本発明の方法は土壌中における塩類集積を抑制または緩和することができ、この効果は陽イオン交換容量の顕著な向上により確認されている。
【実施例】
【0021】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例などを記載するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
以下の例において、試料(発酵資材を未添加の土壌、小麦フスマの添加直後の土壌と小麦フスマの混合物、および発酵処理を行った後の土壌または土壌と小麦フスマの混合物)の陽イオン交換容量、最大容水量、正常生育有効水分量および土壌塩濃度は次のようにして測定した。
【0022】
(一)陽イオン交換容量
セミミクロショーレンベルガー法(非特許文献1を参照)に従って土壌の陽イオン交換容量を測定した。具体的には、以下の手順に従って測定した。
(1) 底部に連通孔を有する筒状の浸透管(内径13mm、長さ120mm)の底部に脱脂綿の小片を詰めて支持層とし、その上に水に浸して水分を飽和させたセルロースパウダーを5〜10mmの厚さに詰めて表面が平らな濾過層を形成した後、浸透管の底部の連通孔に栓をした。
(2) 上記(1)とは別に、pH7.0に調整した1M酢酸アンモニウム液100mlを洗浄液容器に充填し、洗浄液容器中の酢酸アンモニウム液を上記(1)で準備した浸透管の上部開口から浸透管の深さの約6分目まで注入し、次いで浸透管の上部開口から試料(発酵資材未添加の土壌、発酵資材の添加直後の土壌、または発酵資材を添加して発酵させた後の土壌)7gを少量ずつ気泡が入らないように落下沈降させて充填した。
(3) 浸透管の底部の連通孔の栓を外した後、浸透管の底部に浸透管から滴下した液を集めるための受け器を連結し、浸透管の上部開口から洗浄液容器中の残りの酢酸アンモニウム液を浸透管に気泡が入らないように流し入れて浸透管に充填した試料中に酢酸アンモニウム液を浸透させた。この際に、酢酸アンモニウム液の滴下速度を調整して、浸透管内での試料への酢酸アンモニウムの浸透時問(浸透管に注入した酢酸アンモニウム液の全量が浸透管の底部から受け器中に滴下するのに要した時間)が約8時間になるように調節した。
【0023】
(4) 上記で用いた洗浄液容器に80%エタノール50ml入れ、洗浄液容器中の前記エタノールを、酢酸アンモニウム液を滴下させた後の試料充填浸透管にその上部開口より流し入れて、約4時間かけて浸透管の底部から滴下させ、この滴下液は廃液として廃棄した。エタノール滴下液を廃棄した後の受け器をイオン交換水でよく洗浄した。
(5) 上記の洗浄液容器にpH7.0に調整した1M塩化カリウム溶液100mlを入れ、洗浄液容器中の塩化カリウム溶液を、エタノールを滴下させた後の試料充填浸透管にその上部開口より流し入れて、同様にして浸透管の底部から滴下させた。この滴下工程により、上記(2)および(3)の操作で試料に吸着されたアンモニウムイオンは、イオン交換によって試料から遊離して滴下液中に抽出された。この滴下液の全量をイオン交換水により200mlに定容し、低温(約4℃)保存して、インドフェノール法(非特許文献2を参照)により、溶液中のアンモニウムイオンの測定用(CEC測定用の試料溶液)に供した。
【0024】
(6) 上記(5)で得られたCEC測定用の試料溶液の1μlを25ml容メスフラスコに採り、0.5Mリン酸緩衝液1mlを加え撹拌した後、EDTA溶液0.5mlを加えて撹拌した。ニトロプルシド試薬2.5mlと次亜塩素酸試薬2.5mlを素早く加え、イオン交換水で定容した。37℃に設定したインキュべーターで2時間静置し、発色したのを確認した。その後、吸光光度計で625nmの吸光度を測定した。
(7) 標準試料として、アンモニウムイオン濃度が0.2ppm、0.4ppm、0.6ppm、0.8ppmの液を調製し、各溶液をインキュべーターで2時間静置した後、吸光光度計で625nmの吸光度を測定して検量線を作成した。
(8) 上記(6)で測定した吸光度を上記(7)で作成した検量線に当て嵌めて、上記の(5)で得られた液中のアンモニウムイオン濃度を求めた。
(9) 上記(8)で得られたアンモニウムイオン濃度の値を、試料(発酵資材未添加の土壌、発酵資材の添加直後の土壌、または発酵資材を添加して発酵させた後の土壌)1kg当たりの陽イオン交換容量(CEC)とした。
【0025】
(二)最大容水量
(1) 直径8.5cm、高さ1.4cmのプラスチック製シャーレの底面に、電動ドリルで直径約2mmの穴をほぼ等間隔で約100個開けて、ヒルガード式の最大容水量測定皿に相似した測定皿を作製した。
(2) 上記(1)で作製した測定皿を使用して、ヒルガード法(非特許文献3を参照)に準拠した以下の方法で試料の最大容水量を測定した。
(3) 測定皿の底面と同じ大きさに切った濾紙(No.2)を測定皿に敷き、測定皿と濾紙の合計の質量(A)(g)を測定した。
(4) 濾紙を敷いた前記測定皿に試料(発酵資材未添加の土壌、発酵資材の添加直後の土壌、または発酵資材を添加して発酵させた後の土壌)を充填して、そのときの質量(B)(g)を測定した。なお、試料の測定皿への充填は、最密充填になるように測定皿を机上で叩きながら行った。
【0026】
(5) プラスチック製のトレイの中に水をはり、上記(4)で試料を充填した測定皿を、試料皿の底部をトレイの底面から離した状態でトレイ中に配置し、試料皿の底面に開けた穴を通してトレイ中の水を試料皿中の試料に吸収させた。その際に、測定皿の底面の穴から常に水を吸収できるように、トレイ皿に水を随時補給しながらこの吸収操作を24時問行った。
(6) 次いで、試料を充填した測定皿を、トレイから取り出し、測定皿の底面に開けた全ての穴が外側から塞がれないようにして2時間放置して、測定皿の底面の穴から余分の水を流出させて水切りを行い、その時の質量(C)(g)(測定皿、吸水した試料および吸水した濾紙の合計質量)を測定した。この測定は、測定皿の側面などに付着していた余分な水を拭き取って行った。
(7) 上記(1)で作製した試料皿に、上記(2)で用いたのと同じ種類および寸法の濾紙(No.2)を敷き、試料を充填せずに、上記(3)〜(6)と同様の操作(空試験)を行って、濾紙の吸水量を測定したところ、1枚当たりの吸水量(D)は1.31gであった。
【0027】
(8) 上記で得られた測定値から、下記の数式により試料1g当りの最大容水量を求めた。

最大容水量(g/g)=(C−B−D)/(B−A)
[但し、D(濾紙1枚当たりの吸水量)=1.31g]
【0028】
(三)正常生育有効水分量
(1) 試料50g分に相当する最大容水量相当のイオン交換水[上記(二)で求められた最大容水量(g/g)の50質量倍のイオン交換水]を容器に入れ、そこに試料(発酵資材未添加の土壌、発酵資材の添加直後の土壌、または発酵資材を添加して発酵させた後の土壌)50gを入れてよく混合した。
(2) 遠心管内に、底面が篩面(通液性)になっている篩管を挿入し、該篩管の底面に、底面と同じ大きさに切った濾紙(No.2)を敷いた後、篩管の底面から高さ2.5cmまで、上記(1)で調製した試料とイオン交換水の混合物を充填した。
(3) 試料とイオン交換水の混合物を充填した前記(2)の遠心管を遠心機にセットして、500rpmで5分間の遠心を行って、遠心後の全体の質量(E)(g)(遠心管、篩管、濾紙、試料およびこの500ppmの遠心後の試料および濾紙中に含まれているイオン交換水の合計質量)を測定した。この遠心操作により排出された自由水(概ね、試料に吸着されておらずに試料粒子間の間隙に存在していた水)は廃棄した。
(4) 次に、2000rpmで5分間の遠心を行って、遠心後の全体の質量(F)(g)(遠心管、篩管、濾紙、試料およびこの2000ppmの遠心後の試料および濾紙中に含まれているイオン交換水の合計質量)を測定した。
(5) 下記の数式により、試料1g当たりの正常生育有効水分量を求めた。

正常生育有効水分量(g/g)=(E−F)/50
【0029】
(四)土壌塩濃度
土壌の塩濃度は、土壌の電気伝導率(EC)により示した。なお、以下の実施例および比較例では、土壌として、塩(NaCl 1202mg/kg、MgCl2 155mg/kg,CaCl2 180mg/kg)を加えて、EC=3dS/mに調整したものを用いた。
【0030】
《実施例1》
(1) 試料用の土壌として、土色が赤色で、Soil Taxonomyにおける土壌目がOxisolに属すると推測される秋田県角館市長野の土壌を用いた。
この土壌の陽イオン交換容量、最大容水量および正常生育有効水分量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すように、陽イオン交換容量(CEC)は32.56mol/kg、最大容水量は0.76g/g、および正常生育有効水分量は0.16g/gであった。
(2) 上記(1)の土壌に、土壌の質量に対して小麦フスマを5質量%の割合で添加して全量を2000gにして均一に混合し、ワグネルポットに充填した。この際に、土壌と小麦フスマの混合物の一部を採取して、陽イオン交換容量、最大容水量および正常生育有効水分量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すように、陽イオン交換容量(CEC)は30.12mol/kg、最大容水量は0.84g/g、および正常生育有効水分量は0.22g/gであった。
(3) ワグネルポットに充填した土壌と小麦フスマの混合物に、イオン交換水を逐次添加して発酵期間中の混合物の水分含量を土壌の最大容水量の60%に維持し、また 塩水溶液を逐次添加して土壌塩濃度をEC 3ds/mに維持した。その状態で、温度25℃、湿度35%の条件下で、明期8時間および暗期16時間の条件にて30日間発酵させた。30日間発酵させた後の混合物の陽イオン交換容量、最大容水量および正常生育有効水分量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すように、陽イオン交換容量(CEC)は40.88mol/kg、最大容水量は1.05g/g、および正常生育有効水分量は0.26g/gであった。
【0031】
《比較例1》
実施例1で用いたのと同じ土壌2000gをワグネルポットに充填し、実施例1の(3)と同様にして土壌の水分含量を最大容水量の60%に維持すると共に土壌塩濃度ECを3ds/mに維持し、温度25℃、湿度35%の設定・条件下で、明期8時間および暗期16時間の条件にて30日間発酵処理を行った。発酵処理30日後の土壌の陽イオン交換容量、最大容水量および正常生育有効水分量を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すように、陽イオン交換容量(CEC)は33.49mol/kg、最大容水量は0.86g/g、および正常生育有効水分量は0.17g/gであった。
【0032】
【表1】

【0033】
上記の表1の結果にみるように、乾燥土壌に小麦フスマを添加して発酵させた実施例1では、発酵前の陽イオン交換容量を100%とすると、30日後の陽イオン交換容量が135.7%と大きく上昇していた。一方、小麦フスマ未添加の比較例1の土壌では、最初の陽イオン交換容量を100%とすると、30日後の陽イオン交換容量が102.9%であって陽イオン交換容量が殆ど増加していなかった。しかも、陽イオン交換容量の値自体においても、30日後において、実施例1では40.88mol/kgであったに対して、比較例1では33.49mol/kgと実施例1に比べて大幅に低いものであった。
かかる結果から、乾燥土壌に小麦フスマおよび/または末粉を主体とする発酵資材を添加して発酵させる本発明の方法による場合は、土壌の陽イオン交換容量が増加し、土壌に塩類集積の抑制作用が付与されることが確認された。
【0034】
上記の表1の結果にみるように、乾燥土壌に小麦フスマを添加して発酵させた実施例1では、発酵前の最大容水量を100%とすると、30日後の最大容水量が125.0%に増加していた。一方、小麦フスマ未添加の比較例1の土壌では、最初の最大容水量を100%とすると、30日後の最大容水量が115.8%であって、最大容水量の増加割合が実施例1に比べて低いものであった。しかも、最大容水量の値自体においても、30日後において、実施例1では1.05g/gであったのに対して、比較例1では0.88g/gであり実施例1に比べてかなり低いものであった。
【0035】
さらに、上記の表1の結果にみるように、乾燥土壌に小麦フスマを添加して発酵させた実施例1では、発酵前の正常生育有効水分量を100%とすると、30日後の正常生育有効水分量が118.2%に増加していた。一方、小麦フスマ未添加の比較例1の土壌では、最初の正常生育有効水分量を100%とすると、30日後の正常生育有効水分量が106.3%であって、正常生育有効水分量の増加割合が実施例1に比べて低いものであった。しかも、正常生育有効水分量の値自体においても、30日後において、実施例1では0.26g/gであったのに対して、比較例1では0.17g/gであり実施例1に比べてかなり低いものであった。
【0036】
上記の結果から、乾燥土壌に小麦フスマおよび/または末粉を主体とする発酵資材を添加して発酵させる本発明の方法による場合は、土壌の保水能が向上し、植物の生育に必要な保水能が土壌に付与されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の方法による場合は、環境汚染などを招くことなく、更には特別の設備などを要することなく、安全に、簡便に、しかも低コストで乾燥土壌における塩類の集積を抑制すると共に保水能を向上させることができる。そのため、本発明の方法は、砂漠のような乾燥の大きな土壌、砂漠より乾燥は小さいが乾燥のかなり進んだ土壌、乾燥度合いは前者に比べて小さいが水分含量が少ないためにそのままでは植物の生育が困難であったり植物が良好に生育しない土壌などの種々の乾燥土壌における塩類集積の被害の抑制や防止、緑化や耕地化技術と有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥土壌に小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を添加して発酵させることを特徴とする乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上方法。
【請求項2】
土壌の質量に対して、小麦フスマまたは/および末粉を主体とする発酵資材を0.1〜10質量%の割合で添加する請求項1記載の乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上方法。
【請求項3】
発酵資材における小麦フスマまたは/および末粉の含有量が60質量%以上である請求項1または2記載の乾燥土壌における塩類集積の抑制および保水能の向上方法。

【公開番号】特開2006−75034(P2006−75034A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−260460(P2004−260460)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(301049777)日清製粉株式会社 (128)
【Fターム(参考)】