説明

乾燥装置

【課題】乾燥工程において、集電体に塗布された電極スラリー内で生じる対流(マイグレーション)や濃度拡散の影響を小さく抑えること
【解決手段】
乾燥装置10は、乾燥炉12;乾燥炉12に配置され、シート状の集電体210を搬送する複数のガイドローラ14;及び、乾燥炉12に配置される複数のガイドローラ14のうち少なくとも一部のガイドローラ14aに設けられ、当該ガイドローラ14aに振動を付与する振動付与装置16;を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥装置、例えば、集電体に塗布された電極スラリーを乾燥させる乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の電極には、帯状(シート状)の集電体に塗布した電極スラリーを乾燥させた塗膜(合材層)を有する電極シートが用いられる場合がある。かかる電極シートでは、製造工程において、電極スラリー中に分散溶解されている電極活物質が沈降したり、乾燥中に塗膜内部で対流が起こったりする場合がある。その結果、空気との界面部分にバインダが多く、逆に、集電体との境界部分ではバインダが減少した塗膜が形成される場合がある。集電体との境界部分においてバインダが減少した塗膜が形成された場合には、電極活物質を含む塗膜が電極シートから剥がれ易くなる。
【0003】
これに対して、特開平9−134718号公報(特許文献1)には、電極スラリーを2回以上の塗布工程及び乾燥工程に分けて塗布、乾燥して所定の膜厚の塗膜を集電体上に形成することが開示されている。
【0004】
また、特開2005−050755号公報(特許文献2)には、固形分の濃度が異なる複数の電極スラリーを調整し、塗膜の表面側から集電体側に向けて固形分(電極活物質、導電材及びバインダ)の濃度が順次大きくなるように集電体上に塗布して、固形分の濃度が異なる薄膜層を複数積層することが開示されている。
【0005】
また、特開2003−109598号公報(特許文献3)には、電極スラリーに、粒径分布を持っているバインダを用いることが開示されている。これにより、バインダを介して電極活物質同士が密着し易くなり、密着強度に優れた電極が得られるとされている。
【0006】
また、特開2006−54096号公報(特許文献4)には、結着剤としてカルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose, CMC)及び非水溶性結着剤を含み、更に150℃以上の沸点を有する水溶性有機化合物を含有するリチウム二次電池電極用スラリーが用いられている。そして、このリチウム二次電池電極用スラリーを、集電体上に塗布後、乾燥条件として、JIS K 5500で規定される半硬化乾燥状態に到達するまでの水と水溶性有機化合物の蒸発速度を、該集電体の片面1m当たりの平均で100g/分以上として乾燥させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−134718号公報
【特許文献2】特開2005−050755号公報
【特許文献3】特開2003−109598号公報
【特許文献4】特開2006−54096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電池の生産効率を上げる方法の一つとして、電極スラリーを集電体に塗布した後の乾燥工程において、電極スラリーを急激に高温の雰囲気に晒して短時間で乾燥させることが考えられる。しかしながら、電極スラリーを急激に高温の雰囲気に晒して短時間で乾燥させた場合には、集電体に塗布された電極スラリー内で対流(マイグレーション:migration)や濃度拡散が生じるため、電極スラリー中のバインダが、電極スラリーの上層に移動する傾向がある。これに対して、特許文献1に記載されているように、電極スラリーを2回以上の塗布工程及び乾燥工程に分けて塗工する場合には、製造時間が掛かり、生産コストが嵩む。また、特許文献2に記載された方法では、電極スラリーの調整が煩雑になる。また、特許文献3に記載された方法や特許文献4に記載された方法では、電極スラリーの材料に制約が生じる。本発明は、乾燥工程において、集電体に塗布された電極スラリー内で生じる対流(マイグレーション)や濃度拡散の影響を小さく抑えることができる新規な方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る乾燥装置は、乾燥炉;乾燥炉に配置され、シート状の集電体を搬送する複数のガイドローラ;及び、乾燥炉に配置される複数のガイドローラのうち少なくとも一部のガイドローラに設けられ、当該ガイドローラに振動を付与する振動付与装置;を備えている。この乾燥装置によれば、集電体に塗布された電極スラリーを乾燥させる工程において、電極スラリーに対流(マイグレーション)や濃度拡散が生じるのを抑制できる。
【0010】
この場合、振動付与装置は、例えば、ガイドローラに15kHz以上の振動を付与するとよい。また、乾燥炉は、シート状の集電体を乾燥させる領域のうち、前半の領域に設けられたガイドローラに振動付与装置が設けられていてもよい。また、振動付与装置は振動子を有し、ガイドローラは、固定軸に、軸受を介して装着された転動軸を備え、固定軸に振動子が取り付けられていてもよい。
【0011】
また、本発明に係る振動付与装置付きガイドローラは、固定軸に、軸受を介して装着された転動軸を備えたガイドローラであって、固定軸に振動子が取り付けられていてもよい。かかる、ガイドローラは、振動子から固定軸及び軸受を通じて転動軸に振動が付与される。固定軸は、固定的に配設されており、振動子への配線が容易であり、集電体を搬送する転動軸に適切に振動を付与することができる。かかる振動付与装置付きガイドローラは、本発明にかかる乾燥装置に好適に用いることができる。
【0012】
また、本発明に係る電極シート製造方法は、帯状の集電体に電極活物質を含む塗膜が形成された電極シートの製造方法であって、帯状の集電体に電極活物質を含む電極スラリーを塗布する電極スラリー塗布工程と、電極スラリー塗布工程で、電極スラリーが塗布された集電体に振動を付与させながら乾燥させる乾燥工程と、を備えている。この電極シート製造方法によれば、集電体に塗布された電極スラリーを乾燥させる工程において、電極スラリーに対流(マイグレーション)や濃度拡散が生じるのを抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る乾燥装置を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係る乾燥装置を含む電極スラリー塗工装置を示す図
【図3】本発明の一実施形態に係るガイドローラの構造を示す部分断面図。
【図4】乾燥工程における電極スラリー中の粒子の挙動を示す図。
【図5】乾燥工程における電極スラリー中の粒子の挙動を示す図。
【図6】リチウムイオン二次電池の構成例を示す図。
【図7】リチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図。
【図8】リチウムイオン二次電池の捲回電極体の構造を示す断面図。
【図9】リチウムイオン二次電池が搭載された車両を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る乾燥装置を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、同じ作用を奏する部材、部位には、適宜に同じ符号を付している。
【0015】
この実施形態に係る乾燥装置10は、図1に示すように、乾燥炉12と、ガイドローラ14と、振動付与装置16とを備えている。この実施形態では、乾燥装置10は、帯状の集電体210に塗布された電極スラリー200を乾燥させる装置である。かかる乾燥装置10は、例えば、図2に示すように、帯状の集電体210に電極スラリー200を塗布し、電極スラリー200を乾燥させる一連の処理を行なう電極スラリー塗工装置100に用いられている。図2に示す例では、集電体210は、複数のガイドローラ212に沿って、供給ロール220から電極スラリー塗布装置230、乾燥装置10を順に通って巻取ロール240に至る搬送経路に沿って搬送される。
【0016】
電極スラリー塗布装置230は、集電体210に電極スラリー200を塗布する装置である。この実施形態では、電極スラリー塗布装置230は、タンク232、ポンプ234、ダイ236を備えている。タンク232は、電極活物質、導電材及びバインダが調整された電極スラリー200が貯留されている。ポンプ234は、タンク232に貯留された電極スラリー200をダイ236に供給する装置である。ダイ236は、ポンプ234から供給された電極スラリー200を集電体210に吐出する。
【0017】
乾燥炉12は、帯状の集電体210に塗布された電極スラリー200を乾燥させる乾燥雰囲気を形成する炉である。乾燥炉12には、箔状の集電体210を通す搬送路を備えている。この実施形態では、乾燥炉12は、搬送路の前半に設けられた予備乾燥部分12aと、搬送路の後半に設けられた本乾燥部分12bとを備えている。予備乾燥部分12aは、本乾燥部分12bに比べて低い温度に設定される。予備乾燥部分12aは、例えば、乾燥工程の前半において、対流を小さく抑えることができる程度の低い温度雰囲気に設定される。本乾燥部分12bは、予備乾燥工程の後において、電極スラリー200を所望の状態に乾燥させることができる程度に高い温度雰囲気に設定される。
【0018】
乾燥炉12には、ガイドローラ14と、振動付与装置16とを備えている。ガイドローラ14は、帯状の集電体210を案内する。乾燥炉12には、乾燥炉12内に設定される搬送経路に沿って複数のガイドローラ14が配置されている。この実施形態では、振動付与装置16は、ガイドローラ14に振動を付与する装置であり、乾燥炉12に配置された複数のガイドローラ14に設けられている。
【0019】
この実施形態では、振動付与装置16は、乾燥炉12に配置された複数のガイドローラ14のうち、予備乾燥部分12aに配置された一部のガイドローラ14aに設けられている。この実施形態では、振動付与装置16は、例えば、振動子16aと、振動子16aを駆動させる駆動装置16bを備えている。
【0020】
振動子16aは、ガイドローラ14に振動を与える振動発生素子であり、例えば、ランジュバン型振動子を用いることができる。駆動装置16bは、振動子16aに振動を生じさせる装置である。この実施形態では、駆動装置16bは、振動子16aとしてのランジュバン型振動子の駆動端子に高周波電圧を印加する。この実施形態では、振動子16aとしてのランジュバン型振動子の振動子が用いられており、駆動装置16bによって、発振周波数を制御できる。この実施形態では、振動子16aは、周波数が15kHz〜80kHzの間で任意に調整することができ、超音波レベルの振動数で振動することができる。
【0021】
この実施形態では、振動付与装置16が設けられたガイドローラ14aは、図3に示すように、固定軸42と、軸受44と、転動軸46とを備えている。固定軸42は、ガイドローラ14aの中心軸に沿って配設される軸である。固定軸42の軸方向の両端部には、軸受44(この実施形態では、ラジアル軸受)が装着されている。転動軸46は、かかる軸受44を介して固定軸42の外周に転動自在に装着されている。この実施形態では、ガイドローラ14aは、図示は省略するが、固定軸42を介して乾燥炉12に取り付けられている。また、振動付与装置16の振動子16aは、固定軸42に取り付けられており、固定軸42、軸受44を介して、転動軸46に振動を伝えている。
【0022】
乾燥炉12の予備乾燥部分12aでは、本乾燥部分12bに比べて温度が低い乾燥雰囲気に調整されているものの、外部雰囲気よりは高温である。集電体210に塗布された電極スラリー200は、予備乾燥部分12aで徐々に乾燥する。この際、集電体210に塗布された電極スラリー200は、乾燥炉12に入ると、急激に高温の雰囲気に晒される。かかる振動付与装置16が設けられていない場合、集電体210に塗布された電極スラリー200内で対流(マイグレーション)や濃度拡散が生じる。この場合、例えば、図4(a)〜(c)に示すように、電極スラリー200中の電極活物質202が沈降し、電極スラリー200中のバインダ204が電極スラリー200の上層に移動する。これによって、図4(c)に示すように、電極スラリー200を乾燥させた塗膜200aでは、集電体210の境界部分にバインダ204が少なくなる。
【0023】
これに対して、この実施形態では、乾燥炉12は、図1及び図2に示すように、予備乾燥部分12aに配置されたガイドローラ14aに振動付与装置16が設けられている。ガイドローラ14aは超音波レベルの振動数で振動し、ガイドローラ14aによって搬送される集電体210に振動を付与する。ガイドローラ14aによって振動が付与された集電体210は、図5に示すように、集電体210に塗布された電極スラリー200に振動が伝わる。これにより、電極スラリー200中の粒子に振動が伝わる。電極スラリーの粒子に振動が伝わり、粒子が任意の方向に移動する。このため、例えば、図5(a)、(b)に示すように、電極スラリー200中の電極活物質202が沈降したり、電極スラリー200中のバインダ204が電極スラリー200の上層に移動したりするのを抑制することができる。これによって、電極スラリー200が乾燥した塗膜200aにおいて、集電体210との境界部分にバインダ204が少なくなるのを防止できる。
【0024】
このように、この実施形態では、乾燥炉12に配置された複数のガイドローラ14のうち少なくとも一部のガイドローラ14aに、ガイドローラ14aに振動を付与する振動付与装置16が設けられている。このため、乾燥炉12内を搬送される集電体210に振動を付与することができる。これにより、電極スラリー200中の電極活物質202が沈降したり、電極スラリー200中のバインダ204が電極スラリー200の上層に移動したりするのを抑制することができる。
【0025】
予備乾燥部分12aでは、電極スラリー200中の粒子の移動が規制される程度に電極スラリー200が乾燥するとよい。その後の本乾燥部分12bでは、集電体210は高温雰囲気に晒されるが、電極スラリー200中の粒子が移動することがない。これにより、図5(b)に示すように、電極スラリー200が乾燥した塗膜200aにおいて、集電体210との境界部分にバインダ204が少なくなるのを防止でき、塗膜200aが集電体210から剥がれにくくなる。
【0026】
また、この実施形態では、乾燥炉12は、予備乾燥部分12aに設けられたガイドローラ14aに振動付与装置16が設けられている。そして、予備乾燥部分12aで、電極スラリー200が塗布された集電体210に振動を付与しながら乾燥させることができる。このため、予備乾燥部分12aにおいて、電極スラリー200中の粒子の移動が小さく抑えられる。このため、予備乾燥部分12aの温度雰囲気を高く設定しても、電極スラリー200中の電極活物質202が沈降したり、電極スラリー200中のバインダ204が電極スラリー200の上層に移動したりするのを抑制することができる。これにより、乾燥炉12の予備乾燥部分12aの温度雰囲気を高くすることができ、より短時間で電極スラリー200を乾燥させることができ、電極シートの生産性を向上させることができる。
【0027】
かかる乾燥装置10を用いた場合には、集電体210に塗布された電極スラリー200の乾燥工程において、対流(マイグレーション)や濃度拡散を抑制できる。このため、電極スラリー200中の電極活物質202が沈降したり、電極スラリー200中のバインダ204が電極スラリー200の上層に移動したりするのを防止できる。このため、集電体210に塗布された塗膜200aが、剥離しにくい電極シートを作製することができる。集電体210に電極スラリー200が塗工された電極シートは、例えば、図6に示すように、リチウムイオン二次電池300に用いられる。図6は、集電体210に電極スラリー200が塗工された電極シートが用いられるリチウムイオン二次電池300の概略構成を示している。
【0028】
例えば、このリチウムイオン二次電池300は、図6に示すように、矩形の金属製の電池ケース300aに構成されている。電池ケース300aには、捲回電極体310が収容されている。この実施形態では、捲回電極体310は、図7及び図8に示すように、帯状電極として、正極シート311と、負極シート313を備えている。また、帯状セパレータとして、第1セパレータ312と、第2セパレータ314を備えている。そして、正極シート311と、第1セパレータ312と、負極シート313と、第2セパレータ314の順で重ねられて巻き取られている。
【0029】
正極シート311は、集電体シート311cとしてのアルミニウム箔(集電体210(図1及び図5参照)に相当)の両面に正極活物質(電極活物質202(図5参照)に相当)を含む電極材料311dが塗工されている。負極シート313は、集電体シート313cとしての銅箔(集電体210(図1及び図5参照)に相当)の両面に負極活物質(電極活物質202(図5参照)に相当)を含む電極材料313dが塗工されている。セパレータ312、314は、イオン性物質が透過可能な膜であり、この実施形態では、ポリプロピレン製の微多孔膜が用いられている。
【0030】
また、この実施形態では、電極材料311d、313dは集電体シート311c、313cの幅方向片側に偏って塗工されている。集電体シート311c、313cの幅方向反対側の縁部には電極材料311d、313dが塗工されていない。正極シート311と負極シート313のうち、集電体シート311c、313cに電極材料311d、313dが塗工された部位を塗工部311a、313aといい、集電体シート311c、313cに電極材料311d、313dが塗工されていない部位を未塗工部311b、313bという。
【0031】
図7は、正極シート311と、第1セパレータ312と、負極シート313と、第2セパレータ314とが順に重ねられた状態を示す幅方向の断面図である。正極シート311の塗工部311aと負極シート313の塗工部313aは、それぞれセパレータ312、314を挟んで対向している。図7及び図8に示すように、捲回電極体310の捲回方向に直交する方向(巻き軸方向)の両側において、正極シート311と負極シート313の未塗工部311b、313bが、セパレータ312、314からそれぞれはみ出ている。当該正極シート311と負極シート313の未塗工部311b、313bは、捲回電極体310の正極と負極の集電部311b1、313b1をそれぞれ形成している。
【0032】
電池ケース300aには、図6に示すように、正極端子301と負極端子303が設けられている。正極端子301は捲回電極体310の正極集電部311b1に電気的に接続されている。負極端子303は捲回電極体310の負極集電部313b1に電気的に接続されている。かかる電池ケース300aには電解液が注入される。電解液は、適当な電解質塩(例えばLiPF6等のリチウム塩)を適当量含むジエチルカーボネート、エチレンカーボネート等の混合溶媒のような非水電解液で構成できる。
【0033】
かかるリチウムイオン二次電池300は、充放電時に、正極活物質及び負極活物質に膨張収縮が生じる。繰り返し充放電が行われると、正極活物質及び負極活物質の膨張収縮が繰り返される。かかる正極活物質及び負極活物質の膨張収縮に起因して、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれる事象が生じ得る。
【0034】
しかし、この実施形態に係る乾燥装置10が用いられた場合には、図5に示すように、集電体210との境界部分においてバインダ204の割合が概ね維持される。このため、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれ難いリチウムイオン二次電池300(図6及び図7参照)を提供することができる。
【0035】
また、かかるリチウムイオン二次電池300では、集電体シート311c、313cに塗工された電極材料311d、313dの成分によって、電池性能が変わる。このため、所望の電池性能を得るには、電極材料311d、313dの成分を適切に調整することが必要である。この実施形態に係る乾燥装置10は、図5に示すように、集電体210に塗布された状態を概ね維持しつつ、電極スラリー200を乾燥させることができる。このため、乾燥工程においてバインダ204や電極活物質202の偏りは緩和される。また、ダイ236(図2参照)に供給される電極スラリー200の成分比率は適切に調整するとよい。このように、電極スラリー200の成分調整も容易に行える。
【0036】
このように、この実施形態に係る乾燥装置10は、図1に示すように、乾燥炉12に配置されたガイドローラ14aに振動を付与する振動付与装置16が設けられている。このため、図5に示すように、集電体210に塗布された状態を概ね維持しつつ、電極スラリー200を乾燥させることができ、集電体210と電極スラリー200との境界部分において、バインダ204の割合を維持できる。これにより、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれ難いリチウムイオン二次電池300(図6及び図7参照)を提供することができる。
【0037】
かかるリチウムイオン二次電池300は、集電体シート311c、313cから電極材料311d、313dが剥がれ難いので、充放電が繰り返され、その耐久性に対する要求が高い車両用の二次電池として好適である。かかるリチウムイオン二次電池300は、複数個が組み合わされて組電池1000を構成し、図9に示すように、車両2000の電源として搭載される。本発明はかかる車両用の電池の性能の安定性や、長寿命化に寄与する。かかる車両2000について、具体的に一例を挙げれば、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車の電源(二次電池)として適用できる。
【0038】
以上、本発明の一実施形態に係る乾燥装置を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されない。
【0039】
乾燥装置10は、例えば、図1及び図2に示すように、乾燥炉12;乾燥炉12に配置され、帯状(シート状)の集電体210を搬送する複数のガイドローラ14;及び、乾燥炉12に配置される複数のガイドローラ14のうち少なくとも一部のガイドローラ14aに設けられ、当該ガイドローラ14aに振動を付与する振動付与装置16;を備えているとよい。この場合、乾燥炉、ガイドローラ、振動付与装置の具体的構成は、それぞれ上述した実施形態に限定されない。
【0040】
上述した実施形態では、例えば、図1に示すように、乾燥炉12に配置される複数のガイドローラ14のうち予備乾燥部分12aに設けられたガイドローラ14aに、振動付与装置16が設けられている。このように、乾燥炉12は、シート状の集電体210を乾燥させる領域のうち、前半の領域に設けられたガイドローラ14aに振動付与装置16が設けられていてもよい。また、乾燥装置は、かかる形態に限定されず、乾燥炉12に設けられた全てのガイドローラ14に振動付与装置16を設けてもよい。したがって、例えば、本乾燥部分12bに設けられたガイドローラ14に振動付与装置16を設けてもよい。また、予備乾燥部分12aに設けられた全てのガイドローラ14aに振動付与装置16が設けられた形態に限定されず、予備乾燥部分12aに設けられた一部のガイドローラ14aに振動付与装置16を設けてもよい。
【0041】
また、振動付与装置16が、ガイドローラ14aに付与する振動は、乾燥炉12内を搬送される集電体210に対して、集電体210に塗布された電極スラリー200中の電極活物質202やバインダ204が移動するのを抑制できる程度の振動であればよい。かかる振動数、振幅は、かかる効果を奏するように適当に設定するとよい。振動付与装置16は、例えば、15kHz以上、より好ましくは、20kHz以上の振動数を有する振動をガイドローラ14aに付与するとよい。かかる振動により、電極スラリー200中の電極活物質202やバインダ204が移動するのを適切に抑制できる。また、超音波レベル(例えば、15kHz以上、より好ましくは、20kHz以上の振動数を有する振動をガイドローラ14aに付与した場合には、振動に伴う音を小さく抑えることができる。
【0042】
また、ガイドローラ14aに付与する振動の振動数の上限についても、集電体210に塗布された電極スラリー200中の電極活物質202やバインダ204が移動するのを抑制できる程度の振動に設定するとよい。例えば、80kHz以下、50kHz以下としてもよい。また、ガイドローラ14aに付与する振動の振動数は、集電体210に塗布される電極スラリー200に応じて適当な振動数に設定するとよい。
【0043】
また、この実施形態では、乾燥炉12には、複数のガイドローラ14が、集電体210の搬送経路に沿って並んでいるが、振動付与装置16を設けるガイドローラ14aは、適当な間隔で配置するとよい。この場合、集電体210の搬送速度、ガイドローラ14aに付与する振動数などを勘案して、適当な間隔で配置するとよい。なお、電極スラリー200中の電極活物質202が沈降したり、電極スラリー200中のバインダ204が電極スラリー200の上層に移動したりするのを抑制することができる程度の振動を集電体210に付与するとよい。この場合、例えば、1回の振動に対して集電体210が進む距離を適当に調整するとよい。
【0044】
当該調整について、集電体210の搬送速度がV(m/s)であり、ガイドローラ14aに付与する振動数がf(Hz)である場合に、ガイドローラ14aの間隔x(m)を、x=(V/f)にすると、搬送される集電体210に対して1m当りに1回の振動が付与される。例えば、種々の検討により得られた本発明者の知見によれば、集電体210に適当な張力を付与しつつ搬送する場合において、ガイドローラ14aの間隔x(m)は、例えば、0.001(V/f)≦x≦5(V/f)(より好ましくは、0.01(V/f)≦x≦2(V/f))になるように設定してもよい。かかる設定は、例えば、集電体210の搬送速度V、ガイドローラ14aに付与する振動数f、及び、振動付与装置16を設けるガイドローラ14aの間隔xを調整するとよい。これにより、電極スラリー200中の電極活物質202が沈降したり、電極スラリー200中のバインダ204が電極スラリー200の上層に移動したりするのを抑制することができる程度の振動を集電体210に付与することができる。かかる効果は、電極スラリー200の種類に関わらず、概ね得られる。
【0045】
ここで、xが、x≦2(V/f)であれば、搬送される集電体210に対して少なくとも2m当りに1回の振動を付与することができる。これにより、1回の振動に対して、集電体210が進む距離が長くなりすぎるのを防止できる。また、xが、0.01(V/f)≦xであれば、1回の振動に対して、集電体210が進む距離が1cm以上にすることができる。これにより、1回の振動に対して、集電体210が進む距離が短くなりすぎるのを防止できる。なお、搬送される集電体210に適切な振動が付与されるとよく、0.01(V/f)≦x≦2(V/f)の範囲を超えて、集電体210の搬送速度V、ガイドローラ14aに付与する振動数f、及び、振動付与装置16を設けるガイドローラ14aの間隔xを調整してもよい。
【0046】
例えば、搬送される集電体210の搬送速度を速くする場合には、ガイドローラ14aに付与する振動数を高くしたり、振動付与装置16が設けられたガイドローラ14aの間隔を狭くしたりするとよい。また、搬送される集電体210の搬送速度に応じて、ガイドローラ14aに付与する振動数を調整する制御装置(図示省略)を設けても良い。
【0047】
また、電極スラリー200に含まれる粒子材料、集電体210に用いられる材料は、上記実施形態に限定されない。電極スラリー200は、例えば、種々の電極活物質202、バインダ204(結着材)、導電材などを含んでいると良い。また、集電体210には、例えば、電池の集電電極に用いられる種々の材料が用いられる。
【0048】
また、かかる乾燥装置10に適用可能なガイドローラ14aとして、図3に示すように、固定軸42に、軸受44を介して装着された転動軸46を備えて、固定軸42に振動子16aが取り付けられた、振動付与装置付きガイドローラ14aを例示したが、振動付与装置付きガイドローラ14aの構成は、上記の実施形態に限定されない。
【0049】
また、かかる乾燥装置10は、帯状の集電体に電極活物質を含む塗膜が形成された電極シートの製造方法に適用できる。すなわち、帯状の集電体に電極活物質を含む塗膜が形成された電極シートの製造方法は、図2に示すように、帯状の集電体210に電極活物質202を含む電極スラリー200を塗布する電極スラリー塗布工程(s1)と、電極スラリー塗布工程(s1)で、電極スラリー200が塗布された集電体210に振動を付与させながら乾燥させる乾燥工程(s2)とを備えているとよい。電極シート製造方法は、正極と負極の何れの電極シートの製造にも適用できる。
【符号の説明】
【0050】
10 乾燥装置
12 乾燥炉
12a 予備乾燥部分
12b 本乾燥部分
14 ガイドローラ
14a ガイドローラ(振動付与装置付きガイドローラ)
16 振動付与装置
16a 振動子
16b 駆動装置
42 固定軸
44 軸受
46 転動軸
100 電極スラリー塗工装置
200 電極スラリー
200a 塗膜
202 電極活物質
204 バインダ
210 集電体
212 ガイドローラ
220 供給ロール
230 電極スラリー塗布装置
232 タンク
234 ポンプ
236 ダイ
240 巻取ロール
300 リチウムイオン二次電池
300a 電池ケース
301 正極端子
303 負極端子
310 捲回電極体
311 正極シート
311a 塗工部
311b 未塗工部
311b1 正極集電部
311c 集電体シート
311d 電極材料
312 セパレータ
313 負極シート
313a 塗工部
313b 未塗工部
313b1 負極集電部
313c 集電体シート
313d 電極材料
314 セパレータ
1000 組電池
2000 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥炉;
前記乾燥炉に配置され、シート状の集電体を搬送する複数のガイドローラ;及び、
前記乾燥炉に配置される複数のガイドローラのうち少なくとも一部のガイドローラに設けられ、当該ガイドローラに振動を付与する振動付与装置;
を備えた、乾燥装置。
【請求項2】
前記振動付与装置は、前記ガイドローラに15kHz以上の振動を付与する、請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記乾燥炉は、シート状の集電体を乾燥させる領域のうち、前半の領域に設けられたガイドローラに前記振動付与装置が設けられている、請求項1又は2に記載された乾燥装置。
【請求項4】
前記振動付与装置は振動子を有し、
前記ガイドローラは、固定軸に、軸受を介して装着された転動軸を備え、
前記固定軸に前記振動子が取り付けられた、請求項1から3までの何れか一項に記載された乾燥装置。
【請求項5】
固定軸に、軸受を介して装着された転動軸を備えた前記ガイドローラであって、前記固定軸に振動子が取り付けられた、振動付与装置付きガイドローラ。
【請求項6】
帯状の集電体に電極活物質を含む塗膜が形成された電極シートの製造方法であって、
前記帯状の集電体に前記電極活物質を含む電極スラリーを塗布する電極スラリー塗布工程と、
前記電極スラリー塗布工程で、前記電極スラリーが塗布された集電体に振動を付与させながら乾燥させる乾燥工程と、
を備えた、電極シート製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate