説明

乾電池用炭素集電体とその製造方法

【課題】乾電池用の集電棒としての特性に優れた炭素集電体を低コストで提供する。
【解決手段】黒鉛粉末と粘土粉末と添加剤と水とを混合し、混合物を減圧にして脱気した後圧縮成形して予備成形物とし、予備成形物を押し出し成形により所望の断面形状を有する成形物とし、成形物を乾燥焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾電池用炭素集電体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来マンガン電池用の集電棒に用いる炭素棒は、外部空気が電池内部に進入することによる電池性能の劣化を防ぐ目的で、パラフィンワックスなどを含浸して炭素棒から直接電池内部へ空気が入るのを阻止するなどしている。その一方で、このパラフィンワックス含浸により、電池内部の電解液が毛細管現象による炭素棒からの吸い上げで正極端子板を腐食することも防いでいる。
【0003】
乾電池製造に際して、複雑な封口構造を用いて外部空気の侵入を防いだとしても、例えば、炭素棒にワックス含浸の不具合が生じるといった原因などで炭素棒自体に通気性の点で問題がある場合には、電池内部への空気侵入や、電池内部の電解液が毛細管現象により正極端子板を腐食することなどは免れない。また使用環境における保存安定性を考慮すると、含浸するワックス量を可能な限り少なくしたいところであった。
【0004】
下記特許文献1には、ワックスを含浸させた炭素棒の正極合剤上面から突出した部分を加熱してこの部分に含浸しているワックスを表面に溶出させた後、徐冷してこの溶出させたワックスを固化させることにより、炭素棒に不具合があっても電池内部への空気侵入を阻止することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、融点90℃以上のパラフィンワックスを使用して、高温貯蔵性を向上させることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、炭素棒を80℃から150℃に加熱保温したオイルまたは加熱溶解後保温したパラフィンワックス中に3分間から10分間浸漬し、次いで取り出した後、同じ温度またはそれよりも高い温度で加熱することで、防水剤を均一に含浸させることが記載されている。
特許文献4には、マンガン乾電池の封口部の気密性を向上させるための封口材として、ポリブテンを含む分散媒と、0.1(cm2/g)以上の隠蔽力を有する添加剤とを含む封口材を使用して、製造工程中での封口剤の塗布状態を適確に検知することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−168968号公報
【特許文献2】特開平3−297063号公報
【特許文献3】特開平7−94189号公報
【特許文献4】特開2003−272578
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、乾電池用の集電棒としての特性に優れた炭素集電体を低コストで提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、無機結合材の焼結物と、前記無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末とを含む乾電池用炭素集電体が提供される。
【0010】
前記無機結合材の焼結物は、例えば、カオリナイト系、セリサイト系、モンモリロナイト系、ベントナイト系の粘土類、ゼオライト、ケイソウ土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂及びシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも一種の無機結合材を前記炭素粉末とともに焼成して得られるものである。
【0011】
この炭素集電体は、酸化チタン、雲母、タルク、窒化硼素、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二硫化モリブテン及び二硫化タングステンからなる群れから選択される少なくとも一種の体質材をさらに含む場合がある。これら体質材は粘土類など無機結合材と同様に電気的に絶縁性であるが、その粒子形状が板状であるなどから、予め添加することにより集電体の構造を補強する効果を期待することができる。
【0012】
前記炭素粉末は、例えば、カーボンブラック、黒鉛粉末またはコークス粉末である。この黒鉛粉末は、結晶化度の高い高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、キッシュ黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛等である。使用する黒鉛粉末の種類と量は、電池用集電体に必要な固有抵抗値や強度といった特性等により適宜選択され、単独でも二種以上の混合体でも使用することができる。黒鉛粉末の粒径は、成形性及び黒鉛の一方向への配向制御の容易さや強度特性から平均粒径が100μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、炭素粉末と無機結合材粉末とを混合して混合物とし、前記混合物を成形して所望の形状の成形物とし、前記成形物を乾燥焼成することを含む乾電池用炭素集電体の製造方法もまた提供される。
【0014】
この方法は、成形して所望の形状の成形物とする前に前記混合物を圧縮成形して予備成形物とすることをさらに含むことがある。
【0015】
この方法は、圧縮成形して予備成形物とする前に前記混合物を減圧にして脱気することをさらに含むこともある。
【0016】
前記成形物を乾燥焼成することは、例えば、160℃以下の温度で前記成形物の水分を蒸発せしめて乾燥させ、乾燥物を900℃以上1300℃以下の温度で焼成することを含む。
【0017】
前述した体質材がさらに混合されることにより特性制御も可能となる。粘土の融着による集電棒の方が、エネルギーコスト、形状管理の面で低コストである。また、結合材としての粘土類は、フラン樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂と比べて安価であることも優位である。
【0018】
加えて、本発明により得られる電池用炭素系集電棒は、化学的に安定であるため電解液により変化することもない。
【0019】
前述の炭素粉末としては、カーボンブラック、黒鉛、コークス粉等が挙げられているが、使用する炭素粉末種と量は、目的とする集電棒の抵抗値・形状により適宜選択され、単独でも二種以上の混合体でも使用することができるが、特に形状制御の簡易さから黒鉛を使用することが好ましい。
【0020】
前述の炭素粉は電気良電体として、そして粘土類などの無機結合材及び体質材は導電阻害物質として作用しており、集電棒内で電流は導電阻害物質を飛び越え、いわゆるホッピングしながら炭素粉末を媒体として流れる。この為これら2つないし3つの成分の種類やその比率等を変え、それらを均一に混合、分散させ焼成することにより、所望の固有抵抗値を有する電池用炭素系集電体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態について具体的に説明する。本発明の一実施形態としての電池用炭素系集電棒の製造方法は、黒鉛粉末と粘土粉末と添加剤と水とを混合して混合物とする工程と、該混合物を圧縮成形により予備成形する工程と、該予備成形された予備成形物を押し出し成形により所望の断面形状となる成形物とする工程と、該成形物を乾燥焼成する工程とを少なくとも含む電池用炭素系集電棒の製造方法であって、上記予備成形する工程で、圧縮成形する前に前記混合物が減圧にして脱気されることを特徴とする。減圧にして脱気した後に圧縮成形により加圧することで内部の気泡を完全に取り除くことができる。
【0022】
上記方法に用いる黒鉛粉末は、鉛筆芯などに用いるものを使用することができる。通常、黒鉛は製法により天然黒鉛又は人造黒鉛があり、また、結晶度の相違により鱗状黒鉛又は土状黒鉛に分類されるが、目的とする集電棒の物性により適宜選択すればよく、本発明では、黒鉛の種類については格別に限定されるものではない。また、抵抗値の調整目的などで、必要に応じてカーボンブラックを配合してもよい。また、上記の方法に用いる黒鉛粉末は、粘土粉末と添加剤類と共に配合量を限定した水を用いて縦軸高速混合機にて分散、混合することから、平均粒子径が15μm以下、好ましくは、10μm以下であることが望ましい。
【0023】
粘土粉末は、結合剤として用いるものである。粘土種としては、例えば、カオリナイト系加水ハロイサイトやモンモリロナイト系ベントナイトのように鉛筆芯などに用いるものを使用することができる。粘土粉末は、黒鉛粉末と添加剤としてのβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩と共に配合量を限定した水を用いて縦軸高速混合機にて分散、混合する。そのため、アンドリアゼン氏法による測定で粒径3μm以下の粒子が97質量%以上で、かつ10μm以上の粒子が1質量%以下の微粒子となることが必要である。3μm以下の粒子が97質量%未満であったり、10μm以上の粒子が1質量%を超える粘土粉末を用いると、得られる集電棒では強度が低下したり、均一な物性が得られない等の欠点が生じることとなり、好ましくない。
【0024】
この電池用炭素系集電棒は、粘土の融着による集電棒であることから、エネルギーコスト、形状管理の面で低コストであり、電気特性、曲げ強度などの機械的特性の特性制御も可能である。加えて化学的に安定であるため電解液により変化することもない優れた特徴を有している。
【実施例】
【0025】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1〕
天然鱗状黒鉛粉末67部、天然土状黒鉛粉末12部、ドイツ粘土粉末21部、アラビアガム粉末4部、水5部にβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩1.7部を溶解したもの、および水(精製水)27部をヘンシェルミキサーに投入して撹拌した。次いで、加熱しながら撹拌し、水分を22.5質量%に調整して取り出した。
【0027】
次に、上記水分調整した配合組成物を減圧して脱気した後に圧縮成形して予備成形物を得、次いで、これをラム式押出成形機を用いて、断面が円形状になるように押出成形し、所望の長さに切断後、乾燥機に入れて150℃で水分を蒸発せしめて乾燥させた。次に、この乾燥物を蓋の内部を黒鉛板で封止した炭素珪素製の耐熱坩堝に挿入し、焼成炉中で1150℃迄昇温して焼成し、徐冷することにより焼成炭素棒を得た。該焼成炭素棒を切断し、160℃に加熱したパラフィンワックス中に浸漬して油含浸を施し、直径4mm、長さ47mm、固有抵抗2,500μΩ・cm、曲げ強度70MPaの電池用炭素系集電棒を得た。この後常法によりこれを電池に組み込んで、単三型マンガン乾電池を作製した。作製した乾電池の開路電圧測定とパルス放電試験によるサイクル試験の結果、電圧降下も小さくサイクル数も大きな値を示し優れた貯蔵特性を確認した。
【0028】
〔実施例2〕
天然鱗状黒鉛粉末70部、ドイツ粘土粉末30部、アラビアガム粉末4部、水5部にβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩1.7部を溶解したもの、および水(精製水)27部をヘンシェルミキサーに投入して撹拌した。次いで、加熱しながら撹拌し、水分を25.6質量%に調整して取り出した。
【0029】
次に、上記水分調整した配合組成物を減圧して脱気した後に圧縮成形して予備成形物を得、次いで、これをラム式押出成形機を用いて、断面が円形状になるように押出成形し、所望の長さに切断後、乾燥機に入れて150℃で水分を蒸発せしめて乾燥させた。次に、この乾燥物を蓋の内部を黒鉛板で封止した炭素珪素製の耐熱坩堝に挿入し、焼成炉中で1150℃迄昇温して焼成し、徐冷することにより焼成炭素棒を得た。この焼成炭素棒を切断し、160℃に加熱したパラフィンワックス中に浸漬して油含浸を施し、直径4mm、長さ47mm、固有抵抗4,000μΩ・cm、曲げ強度98MPaの電池用炭素系集電棒を得た。この後常法によりこれを電池に組み込んで、単三型マンガン乾電池を作製した。
【0030】
実施例1と同様に、作製した乾電池の開路電圧測定とパルス放電試験によるサイクル試験の結果、電圧降下も小さくサイクル数も大きな値を示し優れた貯蔵特性を確認した。
【0031】
〔実施例3〕
天然鱗状黒鉛粉末67部、天然土状黒鉛粉末12部、窒化硼素粉末5部、ドイツ粘土粉末16部、アラビアガム粉末4部、水5部にβ−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩1.7部を溶解したもの、および水(精製水)27部をヘンシェルミキサーに投入して撹拌した。次いで、加熱しながら撹拌し、水分を22.5質量%に調整して取り出した。
【0032】
次に、上記水分調整した配合組成物を減圧して脱気した後に圧縮成形して予備成形物を得、次いで、これをラム式押出成形機を用いて、断面が円形状になるように押出成形し、所望の長さに切断後、乾燥機に入れて150℃で水分を蒸発せしめて乾燥させた。次に、この乾燥物を蓋の内部を黒鉛板で封止した炭素珪素製の耐熱坩堝に挿入し、焼成炉中で1150℃迄昇温して焼成し、徐冷することにより焼成炭素棒を得た。該焼成炭素棒を切断し、160℃に加熱したパラフィンワックス中に浸漬して油含浸を施し、直径4mm、長さ47mm、固有抵抗2,500μΩ・cm、曲げ強度90MPaの電池用炭素系集電棒を得た。この後常法によりこれを電池に組み込んで、単三型マンガン乾電池を作製した。
【0033】
実施例1と同様に、作製した乾電池の開路電圧測定とパルス放電試験によるサイクル試験の結果、電圧降下も小さくサイクル数も大きな値を示し優れた貯蔵特性を確認した。
【0034】
〔比較例1〕
一般の等方性黒鉛材料のブロックから、切削加工により直径4mm、長さ47mmの丸棒を得た後、160℃に加熱したパラフィンワックス中に浸漬して油含浸を施し、固有抵抗1,100μΩ・cm、曲げ強度50MPaの電池用炭素系集電棒を得た。この後常法によりこれを電池に組み込んで、単三型マンガン乾電池を作製した。
【0035】
実施例1と同様に、作製した乾電池の開路電圧測定とパルス放電試験によるサイクル試験の結果、一定の貯蔵特性を確認したものの、集電棒の加工など材料の有効活用、製造に費やされた費用を考慮すると、有効な手段ではないと確認した。
【0036】
〔比較例2〕
一般の押出成形黒鉛材料から、加工により直径4mm、長さ47mmの丸棒を得た後、160℃に加熱したパラフィンワックス中に浸漬して油含浸を施し、固有抵抗700μΩ・cm、曲げ強度25MPaの電池用炭素系集電棒を得た。この後常法によりこれを電池に組み込んで、単三型マンガン乾電池を作製した。
【0037】
実施例1と同様に、作製した乾電池の開路電圧測定とパルス放電試験によるサイクル試験の結果、一定の貯蔵特性を確認したものの、集電棒の加工など材料の有効活用、製造に費やされた費用、低強度による取り扱いのしにくさなどを考慮すると、有効な手段ではないと確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機結合材の焼結物と、
前記無機結合材の焼結物中に均一に分散した炭素粉末とを含む乾電池用炭素集電体。
【請求項2】
前記無機結合材の焼結物は、カオリナイト系、セリサイト系、モンモリロナイト系、ベントナイト系の粘土類、ゼオライト、ケイソウ土、活性白土、シリカ、リン酸アルミニウム、シリコーン樹脂及びシリコーンゴムからなる群から選択される少なくとも一種の無機結合材を前記炭素粉末とともに焼成して得られるものである請求項1記載の乾電池用炭素集電体。
【請求項3】
酸化チタン、雲母、タルク、窒化硼素、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二硫化モリブテン及び二硫化タングステンからなる群れから選択される少なくとも一種の体質材をさらに含む請求項1または2記載の乾電池用炭素集電体。
【請求項4】
前記炭素粉末はカーボンブラック、黒鉛粉末またはコークス粉末である請求項1〜3のいずれか1項記載の乾電池用炭素集電体。
【請求項5】
炭素粉末と無機結合材粉末とを混合して混合物とし、
前記混合物を成形して所望の形状の成形物とし、
前記成形物を乾燥焼成することを含む乾電池用炭素集電体の製造方法。
【請求項6】
成形して所望の形状の成形物とする前に前記混合物を圧縮成形して予備成形物とすることをさらに含む請求項5記載の方法。
【請求項7】
圧縮成形して予備成形物とする前に前記混合物を減圧にして脱気することをさらに含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記成形物を乾燥焼成することは、160℃以下の温度で前記成形物の水分を蒸発せしめて乾燥させ、
乾燥物を900℃以上1300℃以下の温度で焼成することを含む請求項5〜7のいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2012−204080(P2012−204080A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66357(P2011−66357)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】