説明

乾麺類の製造方法

【課題】機械製麺法により、弾力性、歯切れ感などの食感、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれなどの点において、手延べ麺類と同等以上の品質を有する乾麺類を製造しうる方法を提供すること。
【解決手段】麺帯を麺線に切り出し、該麺線を乾燥して乾麺類を製造する方法において、麺線を水分15質量%以下に乾燥後、得られた乾麺類を、遠赤外線照射下において、温度60〜70℃の雰囲気で24〜60時間熟成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾麺類の製造方法、詳しくは、乾燥後の麺線を熟成させることにより、機械製麺法により手延べ麺類と同等以上の品質を有する乾麺類を製造しうる乾麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺帯機、複合機、圧延ロールなどを用いた機械製麺法が広く採用されている。また、押出機を用いて麺帯を製造する押出製麺法も知られている。
しかし、一般に、これらの機械製麺法では、手延べ麺類と比較して、弾力性、歯切れ感などの食感、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれなどの点において十分に満足しうる麺類が得られていない。
【0003】
このような従来の機械製麺法の欠点を解消するために、例えば、小麦粉、澱粉の選択、原料配合の調整、麺質改良剤の使用、工程の改良、製麺機械の改良など、種々の方法が提案されている。また、麺を多層麺にする製麺方法も知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。
また、手延べ素麺に匹敵するような良好な食感及び食味を有する乾麺を得るために、乾麺を60〜100℃の温度で1〜20時間熟成させることが提案されている(特許文献5参照)。
しかし、これらの改良方法によって得られる麺類は、従来の機械製麺法により得られる麺類に比較して品質が向上しているものの、十分に満足しうるものではなく、さらなる改良が求められている。
【0004】
また、麺類を遠赤外線照射処理する技術も知られている。例えば、生麺の熟成を短時間で効果的に行うために、生麺に遠赤外線を照射する生麺の熟成方法(特許文献6参照)、生麺を遠赤外線照射処理により乾燥する乾燥麺類の製造方法(特許文献7参照)、マイクロ波加熱処理による麺線の膨化乾燥前に、麺線内部の温度を速やかに昇温させるために、麺線を遠赤外線照射処理する即席麺類の製造方法(特許文献8参照)などがある。
【0005】
【特許文献1】特開昭51−79749号公報
【特許文献2】特開平8−9909号公報
【特許文献3】特開平10−248510号公報
【特許文献4】特開平11−151071号公報
【特許文献5】特開2004−222546号公報
【特許文献6】特開昭61−67451号公報
【特許文献7】特開昭61−115454号公報
【特許文献8】特開昭60−141246号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、機械製麺法により、弾力性、歯切れ感などの食感、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれなどの点において、手延べ麺類と同等以上の品質を有する乾麺類を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、種々検討した結果、常法により製麺・乾燥した乾麺類を遠赤外線照射下において、特定の雰囲気下に保管することによって熟成させることにより、上記目的を達成する乾麺類が得られることを知見し、斯かる知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、麺帯を麺線に切り出し、該麺線を乾燥して乾麺類を製造する方法において、麺線を水分15質量%以下に乾燥後、得られた乾麺類を、遠赤外線照射下において、温度60〜70℃の雰囲気で24〜60時間熟成させることを特徴とする乾麺類の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の乾麺麺の製造方法によれば、弾力性、歯切れ感などの食感、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれなどの点において、手延べ麺類と同等以上の品質を有する乾麺類を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の乾麺類の製造方法について詳細に説明する。
本発明における乾麺類の熟成は、乾麺類を、遠赤外線照射下において、温度60〜70℃、好ましくは60〜65℃の雰囲気下に、24〜60時間、好ましくは48〜54時間置くことにより行われる。
熟成させる乾麺類は、水分15質量%以下、好ましくは水分10〜15質量%のものである。この乾麺類は、包装されたものでも、未包装の状態のものでもよい。
【0011】
熟成温度が60℃未満であると、食感、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれの点において効果が得られるのに長時間を要し、また熟成温度が70℃超であると、硬すぎる食感となり、また麺線の褐変化が進行し、外観が劣化する。
熟成時間が24時間未満であると、食感の改良や、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれの点において十分な効果が得られず、また熟成時間が60時間超であると、硬すぎる食感となり、また麺線の褐変化が進行し、外観が劣化する。
【0012】
遠赤外線照射は、乾麺類の品温が雰囲気温度を上回らない条件で行うことが好ましく、乾麺類の品温が60〜65℃となる条件で行うことがより好ましい。
遠赤外線の波長は特に制限されるものではないが、8〜11μmの範囲の遠赤外線を使用するのが好ましく、9〜10μmの範囲の遠赤外線を使用するのがより好ましい。
遠赤外線照射装置は、特に制限されるものではなく、各種の市販の装置を用いることができる。例えば、ソリヂオン(株)製遠赤外線加熱装置などである。
【0013】
乾麺類の熟成を行う上記雰囲気内の湿度は、包装された乾麺類の場合には特に限定されないが、未包装の乾麺類の場合には40〜80%であることが好ましく、50〜70%であることがより好ましい。
未包装の乾麺類について、上記雰囲気内の湿度が低すぎると、熟成中に乾燥が進行し、製品歩留の低下を招き、また上記雰囲気内の湿度が高すぎると、熟成中に麺線が吸湿し、製品水分の上昇により製品の保存性が悪化する。
【0014】
本発明において、麺帯の調製、麺線への切り出し、麺線の乾燥は、麺類の種類に応じて常法により行うことができる。
例えば、麺帯の調製は、圧延ロールを用いるロール圧延製麺法、押出機を用いる押出製麺法などにより行うことができる。
また、麺線の乾燥は、麺類の種類により異なるが、クラック、短麺、縦割れの発生につながる急激な乾燥を避け、乾燥後水分を15質量%以下、特に10〜15質量%まで低下させるのが好ましい。
【0015】
本発明で用いられる麺帯としては、ロール圧延麺帯でもよく、押出し麺帯でもよく、特に制限されるものではないが、押出し麺帯を用いることが好ましい。
押出し麺帯を用いることにより、得られる乾麺類の滑らかさ、光沢や透明感などの外観、茹で伸びの遅さ、麺ほぐれなどが一層向上する。
押出し麺帯とは、製麺原料に加水して調製した麺生地を押出機で押し出して製造されたものであり、必要により、押し出した麺帯をロール等で圧延して厚みの調整をしてもよい。
押出機としては、押出製麺法で従来用いられている押出機を用いることができ、例えば、スパゲティ、マカロニ製造用の一軸押出機や二軸押出機等が用いられる。
麺生地の押出し条件は、常圧下でも良いが、減圧下で行うことが好ましく、より好ましくは、減圧度−0.08〜−0.10MPaの条件下で行う。
【0016】
押出し麺帯を製造するための製麺原料としては、麺類の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、小麦粉(薄力小麦粉、中力小麦粉、準強力小麦粉、強力小麦粉、デュラム小麦粉)、そば粉、澱粉類(タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、甘薯澱粉、及びそれらの化工澱粉等)、米粉、山芋粉等の穀粉類を用いることができる。
また、上記製麺原料には、必要に応じて、製麺の際に従来から用いられている添加剤、例えば、食塩、かん水(かん粉)、酵素、乳化剤、増粘剤、防腐剤、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、油脂類、調味料、香辛料、着色料等を配合してもよい。
製麺原料への加水量は、穀粉類100質量部に対し、好ましくは28〜40質量部、より好ましくは33〜38質量部である。
【0017】
また、本発明で用いられる麺帯は、多層麺帯であることが好ましく、特に、外層用麺帯が押出し麺帯で且つ内層用麺帯がロール圧延麺帯である三層麺帯であることが好ましい。
上記三層麺帯における外層用の押出し麺帯は、比重が1.3〜1.6g/cm3 であることが好ましく、比重が1.5〜1.6g/cm3 であることがより好ましい。
外層用の押出し麺帯の比重の調整は、押出しノズル・ダイスの形状や、ミキシング・押出し時の真空度等により行うことができる。
【0018】
外層用の押出し麺帯を製造するための外層用製麺原料としては、麺類の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、前記の押出し麺帯を製造するための製麺原料として例示した前記の穀粉類や添加剤と同様のものを適宜用いることができる。
外層用製麺原料への加水量は、穀粉類100質量部に対し、好ましくは28〜40質量部、より好ましくは33〜38質量部である。
【0019】
上記三層麺帯における内層用のロール圧延麺帯とは、製麺原料に加水して調製した麺生地をロール圧延して製造されたものである。
ロール圧延の条件は、急激な圧延を避けるのが好ましく、より好ましくは、圧延比を30〜50%とする。なお、ここでいう圧延比は次式から算出する値である。圧延比(%)=(圧延前厚み−圧延後厚み)/(圧延前厚み)。
【0020】
内層用のロール圧延麺帯は、比重が1.0〜1.3g/cm3 であることが好ましく、比重が1.1〜1.2g/cm3 であることがより好ましい。
内層用のロール圧延麺帯の比重の調整は、麺帯複合時のロール間隔やロール圧力等により行うことができる。
【0021】
内層用のロール圧延麺帯を製造するための内層用製麺原料としては、麺類の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、前記の押出し麺帯を製造するための製麺原料として例示した前記の穀粉類や添加剤と同様のものを適宜用いることができる。内層用製麺原料と外層用製麺原料とは、同じものでもよく、異なっていてもよい。
内層用製麺原料への加水量は、穀粉類100質量部に対し、好ましくは28〜45質量部、より好ましくは33〜40質量部である。
【0022】
三層麺の製造は、まず、上記内層用のロール圧延麺帯を、2枚の上記外層用の押出し麺帯で挟んで複合圧延して三層麺帯を製造する。
複合圧延は、常法により行うことができ、内層用麺帯の圧延同様、急激な圧延を避けるのが好ましい。
【0023】
上記三層麺帯は、三層麺帯全体の厚みに対して、内層の厚みが30〜95%、2つの外層の合計厚みが5〜70%であるのが好ましく、内層の厚みが50〜90%、2つの外層の合計厚みが10〜50%であるのがより好ましい。2つの外層の厚みは、異なっていてもよいが、同程度の厚みであるのが好ましい。
内層の厚みが厚すぎると、硬く、歯切れの悪い食感となり、また内層の厚みが薄すぎると、滑らかな食感や、光沢・透明感のある外観が得られない。
【0024】
三層麺帯の麺線への切り出し、該麺線の乾燥は、常法により行うことができる。該麺線の乾燥条件は、クラック、短麺、縦割れの発生につながる急激な乾燥を避け、乾燥後水分を15質量%以下、特に10〜15質量%まで低下させるのが好ましい。
【0025】
本発明により得られる乾麺類は、特に制限されず、例えば、素麺、うどん、きしめん、冷麦、中華麺、日本そば等のいずれであってもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら制限されるものではない。
【0027】
実施例1(素麺)
〔素麺の製造〕
準強力小麦粉100質量部に対し、10%食塩水36質量部を加え、ピンミキサーにて10分間ミキシングを行い、得られた麺生地を、常法に従い、ロールにて最終麺線厚みが1.0mmになるように圧延比30〜50%で圧延し、切刃(#28丸刃)を用いて麺線とした。
この麺線を常法に従い、穏やかな温湿条件下で乾燥し、素麺(水分13.5質量%)を得た。
〔素麺の熟成〕
得られた素麺を包装後、遠赤外線照射下において、温度60℃の雰囲気で48時間熟成させた。遠赤外線の波長は約9.3μmで、素麺の品温が60℃を上回らない条件とした。
【0028】
実施例2(三層素麺)
〔外層用の押出し麺帯の製造〕
準強力小麦粉100質量部に対し、10%食塩水36質量部を加え、ピンミキサーにて10分間ミキシングを行い、得られた麺生地を減圧度−0.08MPaの条件下で、一軸押出機により押出して、厚み3.0mm及び比重1.5g/cm3の外層用麺帯を得た。
〔内層用のロール圧延麺帯の製造〕
準強力小麦粉100質量部に対し、10%食塩水36質量部を加え、ピンミキサーにて10分間ミキシングを行い、得られた麺生地をロールにて複合圧延し、厚み6.0mm及び比重1.1g/cm3の内層用麺帯を得た。
〔三層素麺の製造〕
上記内層用麺帯を、2枚の上記外層用麺帯で挟んで、常法に従い、複合圧延して三層麺帯を得た。このとき、三層麺帯は、三層麺帯全体の厚みに対して、内層の厚みが50%で、2つの外層の合計厚みが50%であった。
得られた三層麺帯を最終麺線厚みが1.0mmになるように圧延比30〜50%で圧延し、切刃(#28丸刃)を用いて麺線とした。
この麺線を常法に従い、穏やかな温湿条件下で乾燥し、三層素麺(水分13.5質量%)を得た。
〔三層素麺の熟成〕
得られた三層素麺を包装後、遠赤外線照射下において、温度60℃の雰囲気で48時間熟成させた。遠赤外線の波長は約9.3μmで、三層素麺の品温が60℃を上回らない条件とした。
【0029】
比較例1
実施例1と同様に素麺を製造、包装後、遠赤外線照射を行わず、温度60℃の雰囲気で48時間熟成させた。
【0030】
比較例2
実施例1と同様に素麺を製造、包装後、遠赤外線照射下において、温度80℃の雰囲気で48時間熟成させた。遠赤外線の波長は約9.3μmで、素麺の品温が80℃を上回らない条件とした。
【0031】
比較例3
実施例1と同様に素麺を製造、包装後、遠赤外線照射下において、温度60℃の雰囲気で72時間熟成させた。遠赤外線の波長は約9.3μmで、素麺の品温が60℃を上回らない条件とした。
【0032】
比較例4
実施例1と同様に得られた麺線を遠赤外線照射により水分13.5質量%に乾燥後、得られた素麺を包装し、遠赤外線照射を行わず、温度60℃の雰囲気で48時間熟成させた。
【0033】
試験例1
実施例1、2及び比較例1〜4で得られた素麺、三層素麺を2分30秒茹で、冷水にさらした後、食感(滑らかさ、弾力性、歯切れ感)、外観(光沢、透明感)、茹で伸び、麺ほぐれの点について、下記の評価基準に従ってパネラー5名で評価を行った。
その結果の平均値は表1のとおりであった。
【0034】
◎食感(滑らかさ、弾力性、歯切れ感)の評価基準
5:非常に良い。
4:良い。
3:普通。
2:悪い。
1:非常に悪い。
【0035】
◎外観の評価基準
5:光沢、透明感が非常に強い。
4:光沢、透明感が強い。
3:光沢、透明感あり。
2:光沢、透明感が乏しい。
1:光沢、透明感が非常に乏しい。
【0036】
◎茹で伸び
5:非常に遅い。
4:遅い。
3:普通。
2:早い。
1:非常に早い。
【0037】
◎麺ほぐれ
5:非常に良い。
4:良い。
3:普通。
2:悪い。
1:非常に悪い。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺帯を麺線に切り出し、該麺線を乾燥して乾麺類を製造する方法において、麺線を水分15質量%以下に乾燥後、得られた乾麺類を、遠赤外線照射下において、温度60〜70℃の雰囲気で24〜60時間熟成させることを特徴とする乾麺類の製造方法。
【請求項2】
遠赤外線照射を、乾麺類の品温が雰囲気温度を上回らない条件で行う請求項1に記載の乾麺類の製造方法。
【請求項3】
麺帯として、押出し麺帯を用いる請求項1又は2に記載の乾麺類の製造方法。
【請求項4】
麺帯が多層麺帯である請求項1〜3のいずれかに記載の乾麺類の製造方法。
【請求項5】
多層麺帯が、外層用麺帯が押出し麺帯で且つ内層用麺帯がロール圧延麺帯である三層麺帯である請求項4に記載の乾麺類の製造方法。

【公開番号】特開2010−130979(P2010−130979A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311963(P2008−311963)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(398012306)日清フーズ株式会社 (139)
【Fターム(参考)】