説明

予混合圧縮着火ガソリンエンジン用燃料油組成物

【課題】CAI燃焼が成立する負荷条件の範囲で使用できる燃料油組成物に求められる性状や組成を把握し、従来のガソリンではなし得ない範囲までCAI燃焼の燃焼範囲を拡大することができる燃料組成物を提供する。
【解決手段】硫黄分が10質量ppm以下で、90容量%留出温度が260.0℃以下で、着火性指数(IQI)が25以上で、アンチノック性指数(AKI)が50以上で、CO2排出原単位(CO2I)が0.070(CO2−g/kJ)以下で、且つ芳香族性(Ha/Htotal)が0.080以下であることを特徴とする予混合圧縮着火エンジン用燃料油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予混合圧縮着火(CAI:Controlled Auto-ignition)エンジン用の燃料油組成物に関し、特には、予混合圧縮着火(CAI)エンジンに用いた際に、予混合圧縮着火(CAI)燃焼を確保できるエンジンの運転範囲を、従来のガソリンではなし得ない範囲まで拡大することが可能で、且つCO2の排出が少ない燃料油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車から排出される窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)は、大気中におけるこれら有害成分濃度に一定の寄与があるため、大気環境改善の観点から、これら有害排出ガス成分の削減が強く求められている。一方、地球温暖化防止のためには、化石燃料の燃焼で排出されるCO2の削減が必要であり、自動車からのCO2排出の削減、即ち、自動車の燃料消費効率(燃費)の向上が強く求められている。このように、自動車においては、有害ガス成分の排出削減とCO2の排出削減を同時に達成する必要があり、昨今、その対応技術として、予混合圧縮着火(HCCI:Homogeneous Charged Compression Ignition)エンジンが注目されている。一般に、ディーゼルエンジンでHCCI燃焼を達成するPCCI(Premixed Charged Compression Ignition)エンジンに対し、ガソリンエンジンでHCCI燃焼を達成するエンジンはCAIエンジンと呼ばれている。
【0003】
CAIエンジンでは、燃焼の開始(着火)を燃料の自己着火に依存しているので、燃焼室内の温度が低い冷機時や低負荷条件下では、着火性の良好な燃料が必要となる。しかしながら、着火性の良好な燃料は、燃焼室内の温度が高い高負荷条件下では、燃焼室内で多点同時着火による急激な燃焼(ノッキング)を起こし、燃焼騒音の増大やエンジンの損傷を引き起こしてしまう。そのため、燃焼室内の温度が高い高負荷条件下では、着火性の低い燃料、即ち、緩慢な燃焼挙動を示すアンチノック性の高い燃料が求められる。従って、CAIエンジン用燃料としては、広範囲な負荷条件でCAI燃焼が成立するように、燃料の着火性やアンチノック性を最適な値に制御する必要がある。さらに、燃料からのCO2を削減するためには、単位発熱量当たりのCO2排出量が少ないことが望まれ、CO2排出原単位が小さく、且つCAI燃焼範囲が広い燃料が必要である。
【0004】
従来型ガソリンエンジンやディーゼルエンジン用燃料の着火性やアンチノック性を表現する尺度(評価指標)としては、セタン価やオクタン価があるが、CAIエンジン用燃料の着火性や燃焼性を記述し、CAI燃焼が成立する負荷条件の範囲で使用できる燃料油組成物に求められる性状や組成を把握するためには、これらの評価指標は不十分であることが知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−91657号公報
【非特許文献1】Paul W. Besonette, Charles H. Schleyer, Kevin P Duffy, William L. Hardy and Michael P. Liechty, ”Effects of Fuel Property Changes on Heavy-Duty HCCI Combustion”, SAE Paper 2007-01-0191, 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、CAI燃焼が成立する負荷条件の範囲で使用できる燃料油組成物に求められる性状や組成を把握し、従来のガソリンではなし得ない範囲までCAI燃焼の燃焼範囲を拡大することが可能で、且つCO2の排出が少ない燃料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、CAIエンジン用燃料の着火性や燃焼性を記述し、CAI燃焼が成立する負荷条件の範囲を精度よく予測するためには、着火や燃焼挙動に直接影響する燃料の分子構造に立脚した尺度が有益と考え、多成分系である自動車用燃料の平均的な分子構造を表現する評価指標を開発した。そして、特定の蒸留性状を有し、新規に創出した着火性やアンチノック性指標が特定の範囲にある燃料油組成物を予混合圧縮着火(CAI)エンジンに用いることで、CAI燃焼が成立するエンジンの運転範囲が、従来の自動車用燃料(ガソリン、軽油)ではなし得ない範囲まで拡大することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明の予混合圧縮着火(CAI)エンジン用燃料油組成物は、
・硫黄分が10質量ppm以下で、
・90容量%留出温度が260.0℃以下で、
・下記式(1):
IQI=Ha×(−1723)+Ha×Ha×(228)+Ho×(−1988)+Ho×Ho×(3696)+Hα×(−1607)+Hα×Hα×(71)+Hβ×(−1529)+Hβ×Hβ×(41)+Hγ×(−1677)+Hγ×Hγ×(75)+1618 ・・・ (1)
[式中、Haは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの9.20〜6.20ppmのピークの面積の割合であり、Hoは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの6.00〜4.20ppmのピークの面積の割合であり、Hαは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの4.17〜2.00ppmのピークの面積の割合であり、Hβは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの2.00〜1.00ppmのピークの面積の割合であり、Hγは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの1.00〜0.50ppmのピークの面積の割合であり、ここで、スペクトル位置は内部標準物質として用いたテトラメチルシラン(TMS)からの化学シフト位置を指し、0ppmはTMSのスペクトル位置である]で定義される着火性指数(IQI)が25以上で、
・下記式(2):
AKI=Ha×(8321)+Ha×Ha×(1194)+Ho×(9818)+Ho×Ho×(4481)+Hα×(10660)+Hα×Hα×(−696)+Hβ×(9538)+Hβ×Hβ×(−209)+Hγ×(9479)+Hγ×Hγ×(97)−9447 ・・・ (2)
[式中、Ha、Ho、Hα、Hβ、及びHγは、上記と同義である]で定義されるアンチノック性指数(AKI)が50以上で、
・下記式(3):
CO2I=1000×{(16×2+12)/12}×(C/100)/(真発熱量)} ・・・ (3)
[式中、Cは、元素分析で求めた炭素の質量割合(%)で、真発熱量(kJ/kg)は、下記式(4):
真発熱量(kJ/kg)=4.184×[8100×C/100+29000×{H/100−O/(8×100)}+2200×0/1000000−600×0/1000000] ・・・ (4)
{式中、Cは元素分析で求めた炭素の質量割合(%)で、Hは元素分析で求めた水素の質量割合(%)で、Oは元素分析で求めた酸素の質量割合(%)である}で示した計算値である]で定義されるCO2排出原単位(CO2I)が0.070(CO2−g/kJ)以下で、且つ
・下記式(5):
Ha/Htotal=Ha/(Ha+Ho+Hα+Hβ+Hγ) ・・・ (5)
[式中、Haは上記と同義であり、HtotalはHa、Ho、Hα、Hβ、Hγの合計である]で定義される芳香族性(Ha/Htotal)が0.080以下である
ことを特徴とする。
【0009】
なお、本発明において、硫黄分はJIS K2541−6に従って測定され、90容量%留出温度はJIS K2254に従って測定され、1H−NMRスペクトルは日本電子(株)製核磁気共鳴装置(AL−400型)に従って測定される。また、上記式(4)は、式の最後2項に示した様に硫黄分、水分の質量割合(ppm)を無視した経験式である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の蒸留性状を有し、CO2排出原単位が小さい上に、新規に創出した着火性と燃焼性指標が特定の範囲にある燃料油組成物を予混合圧縮着火(CAI)エンジンに用いることで、CAI燃焼が成立する負荷条件の範囲を、従来の自動車用燃料(ガソリン、軽油)ではなし得ない範囲まで拡大することが可能となり、CO2の削減に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の予混合圧縮着火(CAI)エンジン用燃料油組成物は、硫黄分が10質量ppm以下で、90容量%留出温度が260.0℃以下で、上記式(1)で定義される着火性指数(IQI)が25以上で、上記式(2)で定義されるアンチノック性指数(AKI)が50以上であることを特徴とする。また、本発明の予混合圧縮着火(CAI)エンジン用燃料油組成物は、燃焼時のCO2排出量を低減する観点から上記式(3)で定義されるCO2排出原単位(CO2I)が0.070(CO2−g/kJ)以下で、有害排出ガス成分の排出を抑制する観点から上記式(5)で定義される芳香族性(Ha/Htotal)が0.080以下である。
【0012】
上述のように、従来、燃料の着火性の指標として用いられてきたセタン価(CN)及びリサーチ法オクタン価(RON)は、CAIエンジン用燃料の着火性の指標としては必ずしも適切とはいえない。ところで、着火や燃焼は化学反応であり、本発明者らは、予混合気が準備されるCAIエンジンでは、燃料の化学的特性、すなわち分子構造が支配的になると考えた。そして、本発明者らは、この考えを基に、従来から用いられてきたセタン価やオクタン価に変わる多成分系燃料の着火・燃焼性を表す尺度として、これらよりも有益な指標としてIQIとAKIを創出した。なお、1H−NMRスペクトルにおいて、9.20〜6.20ppmのピークは芳香族環に結合する水素に対応し、6.00〜4.20ppmのピークは二重結合の炭素に結合する水素に対応し、4.17〜2.00ppmのピークは芳香族環に隣接したメチレン水素に対応し、2.00〜1.00ppmのピークはアルキル基に隣接したメチレン水素に対応し、1.00〜0.50ppmのピークはアルキル基に隣接したメチル水素に対応するものである。
【0013】
そして、本発明の燃料油組成物は、上記式(1)で定義されるIQIが十分高いため、CAI燃焼を確保できる負荷条件の下限値が十分低い。また、本発明の燃料油組成物は、上記式(2)で定義されるAKIが十分高いため、CAI燃焼を確保できる負荷条件の上限値が十分高い。従って、本発明の燃料油組成物は、CAI燃焼を確保できる負荷条件の上限値が十分高く且つ下限値が十分低いため、CAI燃焼が成立する負荷条件の範囲を、従来の自動車用燃料(ガソリン、軽油)ではなし得ない範囲まで拡大することができ、CAIエンジンに特に好適である。
【0014】
<硫黄分>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であり、好ましくは1質量ppm以下である。本発明の燃料油組成物は、硫黄分が10質量ppm以下であるため、燃焼生成物である硫黄酸化物が少なく、環境負荷の低減に寄与できる。また、硫黄分は、排出ガス浄化触媒を被毒するので、硫黄分の低減は、排出ガス浄化触媒の性能の維持を通じても、環境負荷の低減に寄与できる。更に、NOx吸蔵還元触媒を装着した車輌においては、該触媒の硫黄被毒の再生に燃料を使用するので、硫黄分の低減は、燃費の向上にも寄与する。そして、これらの効果は、硫黄分が低い程顕著であるため、本発明の燃料油組成物中の硫黄分は、1質量ppm以下であることが好ましい。
【0015】
<90容量%留出温度(T90)>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物は、90容量%留出温度(T90)が260.0℃以下であり、好ましくは255.0℃以下、さらに好ましくは250℃以下であり、特には200℃以下である。燃料油組成物の後留部分の揮発性は、燃料油組成物と空気との混合気の形成や燃焼性に影響し90容量%留出温度(T90)が260.0℃を超えると、十分な予混合気が得られなくなる。また、T90が極端に高くなると燃料の後留分が燃焼室壁に付着し、潤滑油の希釈の原因になるので、T90は260.0℃以下である。さらに、特に限定されるものではないが、本発明の燃料油組成物は、吸気弁や噴射ノズルの清浄性を維持する観点から、90容量%留出温度(T90)が120℃以上であることが好ましい。
【0016】
<着火性指数(IQI)>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物は、CAI燃焼を確保できる負荷条件の下限値に影響を及ぼす上記式(1)で定義されるIQIが25以上であり、好ましくは27以上、さらに好ましくは30以上である。燃料の着火性を向上させるために、エンジン側では圧縮比の向上等の対策が採られるが、燃料の確実な着火と燃焼の安定性とを確保するためには、燃料自体のIQIを25以上とすることが必要であり、好ましくは27以上である。なお、特に限定されるものではないが、本発明の燃料油組成物のIQIは、60以下であることが好ましく、50以下であることが更に好ましい。
【0017】
<アンチノック性指数(AKI)>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物は、CAI燃焼を確保できる負荷条件の上限値に影響を及ぼす上記式(2)で定義されるAKIが50以上であり、好ましくは54以上、さらに好ましくは60以上である。高負荷条件下での急激な燃焼に伴う騒音やNOxの増大やエンジンの損傷を避ける緩慢な燃焼を確保するためには、AKIを50以上とすることが必要である。なお、急激な燃焼を回避するために、エンジン側では排気ガス再循環装置(EGR)の導入等の対策が講じられるが、高負荷運転領域を拡大するためには、AKIを50以上とすることが必要であり、54以上とすることが好ましい。なお、特に限定されるものではないが、本発明の燃料油組成物のAKIは、95以下であることが好ましく、90以下であることが更に好ましい。
【0018】
<CO2排出原単位(CO2I)>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物は、上記式(3)で定義されるCO2Iが0.070(CO2−g/kJ)以下である。エンジンから排出されるCO2を削減するためには、燃料の単位発熱量当たりのCO2排出量が少ない燃料が必要であり、CO2Iは0.070(CO2−g/kJ)以下である必要がある。
【0019】
<芳香族性(Ha/Htotal)>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物は、上記式(5)で定義されるHa/Htotalが0.080以下である。Ha/Htotalが0.080を超えると、有害排出ガス成分の排出を十分に抑制することができない。なお、Ha/Htotalが大きくなると芳香族環に結合する水素が多くなり、有害排出ガスの増大に繋がるので、Ha/Htotalは0.070以下であることが好ましい。特に、NOxやCOは、Ha/Htotalに影響されるので、Ha/Htotalは0.069以下であることが更に好ましい。なお、特に限定されるものではないが、本発明の燃料油組成物のHa/Htotalは、0.010以上であることが好ましい。
【0020】
<燃料油組成物の調製>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物は、上記の性状を満たすように、石油系ナフサや接触分解ガソリン基材及び接触改質ガソリン基材の飽和水素化燃料から調製することができる。
【0021】
<添加剤>
本発明のCAIエンジン用燃料油組成物には、燃料油組成物の安定性を確保するための酸化防止剤、エンジンの清浄性を確保するための清浄剤等を適宜添加することができる。
【0022】
上記酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2-t-ブチルフェノール等のフェノール系酸化防止剤や、N,N'-ジイソプロピル-p-フェニレンジアミン、N,N'-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン等のアミン系酸化防止剤、及びこれらの混合物が挙げられる。これら酸化防止剤の添加量は、0.05〜1質量%の範囲が好ましい。
【0023】
上記清浄剤としては、コハク酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミン等が挙げられる。これら清浄剤の添加量は、特に限定されず、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0024】
<予混合圧縮着火エンジン>
上述した本発明の燃料油組成物は、予混合圧縮着火(CAI)エンジンに用いられる。該CAIエンジンは、HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition)エンジンとも呼ばれ、従来のディーゼルエンジンと同様に圧縮着火であるが、燃料噴射時期、燃料噴射圧力や噴射パターン、EGR、圧縮比、燃焼室構造などを最適化して達成される燃料と空気が十分に混合した予混合気の燃焼で形成される予混合火炎のみで燃焼を完結する燃焼方式である。したがって、熱発生のパターンを観察すると冷炎に伴う微弱な熱発生(観察されない場合もあるが)に続いて主燃焼である予混合火炎による1つの熱発生ピークが観察される。従来型ディーゼル燃焼では予混合火炎と拡散火炎に伴う2つのピークが観察される点で、大きく異なっている。また、予混合火炎の伝播で燃焼が完結するガソリンエンジンとも異なり、高効率であるという特徴を有する。
【0025】
そして、かかる予混合圧縮自己着火(CAI)エンジンに上述した本発明の燃料油組成物を用いることで、CAI燃焼を確保できる負荷条件の範囲を、従来の自動車用燃料(ガソリン、軽油)ではなし得ない範囲まで拡大できるため、従来の自動車用燃料を用いた場合よりも、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)等の有害排出ガス成分を削減しつつ、自動車の燃費を向上させることができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
以下の供試燃料に対して、下記の方法で性状分析を行った。
<供試燃料の調製>
・RG:市販のレギュラーガソリンを準備した。
・RFG:重質ナフサを固体触媒により移動床式反応装置を用いて反応させることにより、芳香族分の高い炭化水素に改質し、ペンタン留分以下を蒸留分離することにより得られたオクタン価106のガソリンを用いた。
・ALK:流動接触分解装置から留出されるブチレンと常圧蒸留装置から留出されるブタンを原料油にして、硫酸接触法により異性化させることにより得られたオクタン価95.5のアルキレートガソリンを用いた。
・GTL:(株)ジョモサンエナジーからモスガス品として購入したFT合成したパラフィン系燃料
・燃料−1:原油の常圧蒸留で得られる軽質ガソリンを水素化精製して製造されるナフサを原料として接触改質を行い、得られた接触改質ガソリン基材を水素化処理により全量ナフテン成分にした燃料を50容量%、RGを50容量%混合した。
・燃料−2:中東原油を常圧蒸留により170〜360℃の沸点に分離して、水素化脱硫を行い、さらに精密蒸留により280℃以上を抜き出したものを50容量%、RGを50容量%混合した。
【0028】
<燃料の性状分析法>
・密度:JIS K2249「原油及び石油製品密度試験法」
・蒸留性状:JIS K2254「蒸留試験法」
・硫黄分:JIS K2541−6「硫黄分試験法(紫外蛍光法)」
・セタン価(CN):JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」に規定された実測法(指数は適用できない)
・リサーチ法オクタン価(RON):JIS K2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」
1H−NMRスペクトルは日本電子(株)製核磁気共鳴装置(AL−400型)に従って測定
・炭素の質量割合:元素分析で測定
・真発熱量:元素分析で求めた炭素の質量割合、水素の質量割合、酸素の質量割合を用いて、上記式(4)に従って算出
【0029】
<供試燃料の評価>
単気筒で排気量が1.8(L)のエンジンを用いて、市販ガソリン(RG)に比較して上述の各燃料のCAI燃焼範囲を相対的に評価した。CAI燃焼の低負荷限界は、着火の安定性で、高負荷限界は熱発生率の最大値で決定した。RFGやALKでは、RGとほぼ同等のCAI燃焼範囲を示すが、GTLはAKIが小さく高負荷限界がRGよりも小さい。一方、水素化RFGとRGの混合品(燃料−1)及び軽質軽油とRGの混合品(燃料−2)は適度なIQIとAKIを有しているので、CAI燃焼範囲がRGよりも広くなっている。表1にRGを基準としたCAI燃焼範囲をRGと同等の場合を△、RGよりも広い場合を○、RGよりも狭い場合を×、RGと上下限ともに同等の場合を△/△、RGと上限が同等ながら下限が狭い場合を△/×で記載した。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、本発明で規定する性状を満たす燃料組成物は、市販ガソリンに比較して、CAI燃焼範囲を拡大させることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄分が10質量ppm以下で、90容量%留出温度が260.0℃以下で、
下記式(1):
IQI=Ha×(−1723)+Ha×Ha×(228)+Ho×(−1988)+Ho×Ho×(3696)+Hα×(−1607)+Hα×Hα×(71)+Hβ×(−1529)+Hβ×Hβ×(41)+Hγ×(−1677)+Hγ×Hγ×(75)+1618 ・・・ (1)
[式中、Haは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの9.20〜6.20ppmのピークの面積の割合であり、Hoは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの6.00〜4.20ppmのピークの面積の割合であり、Hαは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの4.17〜2.00ppmのピークの面積の割合であり、Hβは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの2.00〜1.00ppmのピークの面積の割合であり、Hγは燃料油組成物の1H−NMRスペクトルの1.00〜0.50ppmのピークの面積の割合であり、ここで、スペクトル位置は内部標準物質として用いたテトラメチルシラン(TMS)からの化学シフト位置を指し、0ppmはTMSのスペクトル位置である]で定義される着火性指数(IQI)が25以上で、
下記式(2):
AKI=Ha×(8321)+Ha×Ha×(1194)+Ho×(9818)+Ho×Ho×(4481)+Hα×(10660)+Hα×Hα×(−696)+Hβ×(9538)+Hβ×Hβ×(−209)+Hγ×(9479)+Hγ×Hγ×(97)−9447 ・・・ (2)
[式中、Ha、Ho、Hα、Hβ、及びHγは、上記と同義である]で定義されるアンチノック性指数(AKI)が50以上で、
下記式(3):
CO2I=1000×{(16×2+12)/12}×(C/100)/(真発熱量)} ・・・ (3)
[式中、Cは、元素分析で求めた炭素の質量割合(%)で、真発熱量(kJ/kg)は、下記式(4):
真発熱量(kJ/kg)=4.184×[8100×C/100+29000×{H/100−O/(8×100)}+2200×0/1000000−600×0/1000000] ・・・ (4)
{式中、Cは元素分析で求めた炭素の質量割合(%)で、Hは元素分析で求めた水素の質量割合(%)で、Oは元素分析で求めた酸素の質量割合(%)である}で示した計算値である]で定義されるCO2排出原単位(CO2I)が0.070(CO2−g/kJ)以下で、且つ
下記式(5):
Ha/Htotal=Ha/(Ha+Ho+Hα+Hβ+Hγ) ・・・ (5)
[式中、Haは上記と同義であり、HtotalはHa、Ho、Hα、Hβ、Hγの合計である]で定義される芳香族性(Ha/Htotal)が0.080以下である
ことを特徴とする予混合圧縮着火エンジン用燃料油組成物。

【公開番号】特開2010−106183(P2010−106183A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281248(P2008−281248)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)