説明

予測装置、予測システム及びプログラム

【課題】監視対象装置における異常の発生についての予測を精度よく行うことができるようにする。
【解決手段】 本例の予測装置Sでは、装置情報収集部11が、異常予測の対象となる画像形成装置Pから状態情報を取得し、距離算出部13が、装置情報収集部11により取得された状態情報に基づいて、予測対象の異常毎に正常空間及び異常空間に対する距離を算出し、距離変化分算出部14が、距離算出部13による算出結果に基づいて、予測対象の異常毎に正常空間に対する距離の変化分及び異常空間に対する距離の変化分を算出し、異常発生予測部15が、距離算出部13及び距離変化分算出部14による算出結果に基づいて、異常予測の対象となる画像形成装置Pにおいて近い将来に発生する可能性が高いと推定される異常を予め定められた条件に基づいて特定し、その異常が発生する時期について予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測装置、予測システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
監視対象装置(例えば、画像形成装置)における異常の発生についての予測に関し、種々の発明が提案されている。
例えば、画像形成装置から複数種類の情報を定期的に取得し、正常状態に対するマハラノビス距離を指標値として算出して、指標値が閾値を超えたら異常発生の可能性が高いと判定する発明が提案されている(特許文献1参照)。
例えば、被検対象の正常状態の指標として互いに値の異なる複数の正常指標情報を用意しておき、環境情報などの特定情報に応じて正常指標情報を切り替えて指標値を算出して異常判定を行う発明や、更に、異常有無の判定頻度を指標値の上昇率に応じて変化させる発明が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−017874号公報
【特許文献2】特開2005−258384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、監視対象装置における異常の発生についての予測を精度よく行うことができる技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は、予測対象の異常に関連する監視項目について監視対象装置で検出された状態を取得する取得手段と、前記取得手段により取得された状態について、前記異常が発生している場合の状態を表す空間として予め定められた異常空間に対する距離を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された前記異常空間に対する距離に基づいて、前記監視対象装置における前記異常の発生について予測する予測手段と、を備えたことを特徴とする予測装置である。
【0006】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の予測装置において、前記予測手段は、前記監視対象装置において異なる時点で検出された状態についてそれぞれ算出された前記異常空間に対する距離の推移に基づいて、前記監視対象装置において前記異常が発生する時期を予測する、ことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の予測装置において、前記算出手段は、前記取得手段により取得された状態について、前記異常が発生していない場合の状態を表す空間として予め定められた正常空間に対する距離を更に算出し、前記予測手段は、前記算出手段により算出された前記異常空間に対する距離が前記算出手段により算出された前記正常空間に対する距離よりも短い場合に、前記監視対象装置において前記異常が発生する時期の予測を行う、ことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の本発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の予測装置において、予測対象の異常に関連する監視項目以外の監視項目であって、当該異常が発生している複数の監視対象装置のうち一部の監視対象装置で検出された状態の変化具合が基準以上の共通性を有する監視項目を、前記一部の監視対象装置を特定する装置属性を有する監視対象装置についての前記異常に関連する監視項目に追加する追加手段を備えた、ことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の本発明は、監視対象装置と、予測装置と、を有し、前記監視対象装置は、予測対象の異常に関連する監視項目の状態を検出する検出手段を備え、前記予測装置は、前記監視対象装置で検出された前記異常に関連する監視項目の状態を前記監視対象装置から取得する取得手段と、前記取得手段により取得された状態について、前記異常が発生している場合の状態を表す空間として予め定められた異常空間に対する距離を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された前記異常空間に対する距離に基づいて、前記監視対象装置における前記異常の発生について予測する予測手段と、を備えた、ことを特徴とする予測システムである。
【0010】
請求項6に記載の本発明は、コンピュータに、予測対象の異常に関連する監視項目について監視対象装置で検出された状態を取得する取得機能と、前記取得機能により取得された状態について、前記異常が発生している場合の状態を表す空間として予め定められた異常空間に対する距離を算出する算出機能と、前記算出機能により算出された前記異常空間に対する距離に基づいて、前記監視対象装置における前記異常の発生について予測する予測機能と、を実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1、5、6に記載の本発明によると、監視対象装置における異常の発生の予測に関し、予測対象の異常の発生について、本発明を適用しない場合に比べて精度よく予測することができる。
【0012】
請求項2に記載の本発明によると、予測対象の異常が発生する時期を、本発明を適用しない場合に比べて精度よく予測することができる。
【0013】
請求項3に記載の本発明によると、予測対象の異常が発生する時期の予測を、その異常が発生する可能性が或る程度高まった場合に行うことができる。
【0014】
請求項4に記載の本発明によると、予測対象の異常に関連する監視項目を、監視対象装置の設置環境(例えば地域)や機種等の装置属性に応じて異ならせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る予測システムの機能ブロックを例示する図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る予測システムによる予測処理のフローを例示する図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る予測システムにおいて算出された正常空間に対する距離及び異常空間に対する距離の推移を例示する図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る予測システムにおいて予測装置として動作するコンピュータの主要なハードウェア構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態に係る予測システムの機能ブロックを例示してある。本例の予測システムは、用紙等の媒体に画像形成を施す画像形成装置P、画像形成装置Pの管理者や保守担当者などに利用される保守情報入力端末T、画像形成装置Pにおける異常の発生について予測する予測装置S、を有している。図1の例では、2台の画像形成装置Pと1台の保守情報入力端末Tとを示してあるが、これらの台数は任意である。
【0017】
画像形成装置Pは、遠隔監視により異常予測の対象となる監視対象装置の一例であり、印刷装置(プリンタ)、複写装置(コピー機)、ファクシミリ装置、印刷・複写・ファクシミリ等の機能を複合的に備えた複合機などが含まれる。なお、監視対象装置としては画像形成装置Pに限定されず、予測装置Sとの間で無線又は有線により通信可能な種々の装置を対象とすることができ、例えば、複数系統(例えば運用系と予備系の2系統)を有しない装置や、常時稼動を想定して設置された装置など、障害の発生に際して速やかに対応することが求められる装置が主な対象とされる。
【0018】
本例の画像形成装置Pは、装置内部の温度や湿度などの種々の監視項目について状態を検出するための複数の検出部(センサ)を有しており、間欠的(例えば、予め定められた時間間隔毎、予め定められた枚数の画像形成処理を実行する毎、装置が予め定められた動作モードに切り換わった際など)に各監視項目の状態の検出を行い、各監視項目について検出された状態(検出値)を示す状態情報を装置内部の記憶部に格納している。装置内部の記憶部に蓄積された状態情報は、予め定められた時間間隔毎に、或いは外部からの指示に応じて、予測装置Sに対して無線又は有線による通信によって送信される。外部からの指示としては、画像形成装置P自身で受け付けた指示や、予測装置S或いは保守情報入力端末T等の他の装置から画像形成装置Pに送信された指示などが挙げられる。
【0019】
保守情報入力端末Tは、操作者から受け付けた操作に応じて、無線又は有線による通信により、予測装置Sへ情報を送信することや、予測装置Sから受信した情報に基づく表示を当該保守情報入力端末Tに設けられた表示装置により出力すること等を行う。本例の保守情報入力端末Tは、画像形成装置Pの設置場所に訪問して保守作業を実際に行った保守担当者やその報告を受けた者などから、画像形成装置Pに対して実施した保守作業に関する保守情報の入力を受け付けて、予測装置Sへ送信する。また、画像形成装置Pにおける障害の発生に係る予測結果に関する情報を予測装置Sから受信して、その表示装置により表示出力する。
【0020】
予測装置Sは、装置情報収集部11、正常・異常空間生成部12、距離算出部13、距離変化分算出部14、異常発生予測部15、状態情報記憶部16、保守情報記憶部17、空間情報記憶部18、距離情報記憶部19などの機能部を有しており、予測対象となる複数の異常の中から画像形成装置Pにおいて近いうちに発生する可能性が高い異常の特定やその発生時期の予測などを行う。
【0021】
装置情報収集部11は、画像形成装置Pから送信される状態情報を取得して、状態情報記憶部16に格納する。本例の状態情報には、監視項目を識別する項目ID、当該監視項目について検出された状態(検出値)、当該監視項目の状態を検出した日時などが記録されており、更に、その対象となった画像形成装置Pを一意に識別する装置IDや機種を識別する機種IDなどが対応付けられている。
【0022】
また、装置情報収集部11は、保守情報入力端末Tから送信される保守情報を取得して、保守情報記憶部17に格納する。本例の保守情報には、保守作業の内容を示す保守内容、当該保守作業が実施された日時、当該保守作業による除去対象の異常などが記録されており、更に、その対象となった画像形成装置Pを一意に識別する装置IDや機種を識別する機種IDなどが対応付けられている。
本例では、保守情報入力端末Tにより保守担当者等から受け付けた保守情報を通信により取得するようにしているが、他の構成により保守情報を取得してもよく、例えば、保守作業の対象となった画像形成装置Pで保守情報の入力を受け付けて通信により取得する構成や、予測装置Sで保守情報の入力を直接受け付ける構成等を用いることができる。
【0023】
正常・異常空間生成部12は、状態情報記憶部16に記憶されている状態情報及び保守情報記憶部17に記憶されている保守情報に基づいて、予測対象となる複数の異常のそれぞれについて、異常が発生していない場合の状態を表す正常空間と、異常が発生している場合の状態を表す異常空間を生成し、それぞれの空間を表す空間情報を空間情報記憶部18に記憶させる。予測対象の異常毎に生成された正常空間及び異常空間の空間情報は、以後の処理において、該当する異常の発生について予測を行う際に用いられる。
【0024】
正常・異常空間生成部12において実行される空間情報の生成処理について説明する。
本例の正常・異常空間生成部12では、予測対象となる複数の異常のそれぞれを順番に処理対象として、以下の処理を行う。
まず、処理対象の異常を解消するための保守作業が実施された複数の画像形成装置Pにおいて状態が検出された種々の監視項目の中から、複数の画像形成装置Pのそれぞれにおいて保守作業の前後で状態(検出値)に特徴的な変化(例えば、保守作業の前後における状態の差が閾値以上)が共通に生じた1以上の監視項目を当該処理対象の異常に関連する監視項目として特定する。
【0025】
そして、特定された監視項目のそれぞれについて、保守作業が実施される前の状態に係る統計値(例えば、平均)を算出し、算出された各監視項目の状態の統計値を要素としたベクトル空間を処理対象の異常についての異常空間として空間情報を生成する。また、特定された監視項目毎に保守作業が施された後の状態に係る統計値(例えば、平均)を算出して、出された各監視項目の状態の統計値を要素としたベクトル空間を処理対象の異常についての正常空間として空間情報を生成する。
その後、それぞれの空間情報に対し、異常を識別する異常IDなどを対応付けて空間情報記憶部18に記憶させる。
【0026】
この結果、本例における正常空間及び異常空間では、その対象となる異常に関連して変化したと推定される監視項目が空間の構成要素に用いられ、一方、当該異常とは無関係であると推定される監視項目については空間の構成要素から除外されている。このため、本例における正常空間及び異常空間の構成要素に係る監視項目は、その対象となる異常に応じたものとなっている。
【0027】
なお、本例では、事前に、試験用に用意された画像形成装置Pについてストレス試験などを行って障害を意図的に発生させ、その際に収集された情報に基づいて空間情報の生成処理を行い、その結果生成された空間情報を初期値として空間情報記憶部18に記憶させており、その後、市場で実際に運用されている複数の画像形成装置Pについて収集された情報に基づいて、予め定められた期間(例えば1月)毎に空間情報の生成処理を実行し直して、空間情報記憶部18の空間情報を更新している。なお、予め定められた日時の到来に応じて空間情報を更新する構成や、システムの管理者等により入力された指示に応じて空間情報を更新する構成などのように、他の条件を契機にして空間情報を更新するようにしてもよい。
【0028】
距離算出部13は、状態情報記憶部16に記憶されている状態情報及び空間情報記憶部18に記憶されている空間情報に基づいて、予測対象となる複数の異常のそれぞれについて、その異常に関連する監視項目について異常予測の対象となる画像形成装置Pで検出された状態に対する正常空間の距離及び異常空間の距離を算出し、それぞれの距離を表す距離情報を距離情報記憶部19に記憶させる。
【0029】
距離算出部13において実行される距離の算出処理について説明する。
本例の距離算出部13では、予測対象となる複数の異常のそれぞれを順番に処理対象として、以下の処理を行う。
まず、処理対象の異常についての正常空間及び異常空間の構成要素に係る各監視項目について、異常予測の対象となる画像形成装置Pから取得された状態情報に含まれる該当する状態(検出値)をそれぞれ抽出してベクトル化する。
次いで、抽出されたベクトルと処理対象の異常についての正常空間とのマハラノビス距離を当該正常空間に対する距離として算出する。また、抽出されたベクトルと処理対象の異常についての異常空間とのマハラノビス距離を当該異常空間に対する距離として算出する。
その後、それぞれの距離を表す距離情報に対し、画像形成装置Pを識別する装置ID、異常を識別する異常ID、距離を算出した日時などを対応付けて距離記憶部19に記憶させる。
【0030】
この結果、本例の距離記憶部19には、画像形成装置P毎及び予測対象の異常毎に、異なる時点で検出された状態についてそれぞれ算出された正常空間に対する距離及び異常空間に対する距離を表す距離情報が格納される。
本例では、画像形成装置Pから状態情報が取得されて状態情報記憶部16に格納される度に、その状態情報(すなわち、最新の状態情報)について距離を算出しているが、検出時点が異なる複数の状態情報について一括して距離を算出してもよい。
また、本例では、正常空間及び異常空間に対する距離としてマハラノビス距離を用いているが、他の手法により算出される距離を用いてもよい。
【0031】
距離変化分算出部14は、距離情報記憶部19に記憶されている距離情報に基づいて、予測対象となる複数の異常のそれぞれについて、異常予測の対象となる画像形成装置Pに係る正常空間に対する最新の距離と前回の距離との変化分、及び、異常空間に対する最新の距離と前回の距離との変化分を算出する。
【0032】
異常発生予測部15は、距離算出部13による算出結果(距離情報記憶部19の記憶内容)及び距離変化分算出部14の算出結果に基づいて、異常予測の対象となる画像形成装置Pにおいて近い将来に発生する可能性が高いと推定される異常を予め定められた条件に基づいて特定し、その異常が発生する時期について予測する。
【0033】
異常発生予測部15において実行される異常発生の予測処理について説明する。
本例の異常発生予測部15は、以下の(条件1)〜(条件3)に基づいて、予測対象となる複数の異常の中から、異常予測の対象となる画像形成装置Pにおいて近い将来に発生する可能性が高いと推定される異常を特定する。
【0034】
(条件1)「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」となる異常が1つの場合は、当該異常を選出する。
(条件2)「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」となる異常が複数の場合は、異常空間に対する最新の距離と前回の距離との変化分(但し、異常空間に近づく方向の変化)が最も大きい異常を選出する。
(条件3)「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」となる異常がない場合は、正常空間に対する最新の距離と前回の距離との変化分及び異常空間に対する最新の距離と前回の距離との変化分に基づいて、予め定められた期間内に「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」となる異常があるかを判定して、該当する異常を選出する。該当する異常が複数の場合には、異常空間に対する最新の距離と前回の距離との変化分(但し、異常空間に近づく方向の変化)が最も大きい異常を選出する。
【0035】
その後、(条件1)〜(条件3)に基づいて選出された異常を、近い将来に発生する可能性が高いと推定される異常として特定し、異常空間に対する距離の推移に基づいて、異常が発生する時期を予測する。本例では、異常空間に対する距離が予め定められた閾値未満(又は閾値以下)となる時点を異常が発生する時期として予測している。
【0036】
なお、上記のように異常が発生する時期を予測する他に、単に、近日中に発生する(或いは既に発生している)可能性が高い異常を予測してもよい。具体的には、例えば、予測対象となる複数の異常のそれぞれについて、異常空間に対する最新の距離が予め定められた閾値未満(又は閾値以下)であるかを判定し、閾値未満(又は閾値以下)であると判定された異常を、近日中に発生する(或いは既に発生している)可能性が高い異常であると予測する。
【0037】
図2には、本例の予測装置Sによる予測処理のフローを例示してある。
本例の予測装置Sでは、装置情報収集部11が、異常予測の対象となる画像形成装置Pから状態情報を取得し(ステップS11)、距離算出部13が、装置情報収集部11により取得された状態情報に基づいて、予測対象の異常毎に正常空間及び異常空間に対する距離(本例ではマハラノビス距離)を算出し(ステップS12)、距離変化分算出部14が、距離算出部13による算出結果に基づいて、予測対象の異常毎に正常空間に対する距離の変化分及び異常空間に対する距離の変化分を算出する(ステップS13)。
【0038】
その後、異常発生予測部15が、距離算出部13により予測対象の異常毎に算出された正常空間に対する距離と異常空間に対する距離を比較して(ステップS14)、予測対象となる全ての異常について、「正常空間に対する距離<異常空間に対する距離」という条件を満たすか否かを判定する(ステップS15)。
【0039】
ステップS15において肯定的な判定結果(YES)が得られた場合には、更に、予め定められた期間内に「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」という条件を満たす異常があるか否かを判定する(ステップS16)。この判定において肯定的な判定結果(YES)が得られた場合には、その異常が発生する時期を異常空間に対する距離の推移に基づいて予測し(ステップS19)、否定的な判定結果(NO)が得られた場合には、処理を終了する。
【0040】
一方、ステップS15において否定的な判定結果(NO)が得られた場合には、「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」となる異常は1つであるか否かを判定する(ステップS17)。この判定において肯定的な判定結果(YES)が得られた場合には、その異常が発生する時期を異常空間に対する距離の推移に基づいて予測し(ステップS19)、否定的な判定結果(NO)が得られた場合には、異常空間に対する距離の変化分が最も大きい異常を選出して(ステップS18)、その異常が発生する時期を異常空間に対する距離の推移に基づいて予測する(ステップS19)。
【0041】
上記の予測処理を行った結果は、保守情報入力端末Tに送信され、保守情報入力端末Tの表示装置により表示出力される。なお、例えば、予め定められた送信先(画像形成装置Pの管理者や保守担当者など)に宛ててメール送信する等、他の出力手法を用いて予測結果の出力を行うようにしてもよい。
【0042】
なお、上記の予測処理は一例に過ぎず、以下に幾つかの変形例を示しておく。
例えば、「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」となる全ての異常について発生時期の予測を行うようにしてもよい。なお、「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」となった際に1度だけ発生時期の予測を行ってもよく、或いは「正常空間に対する距離>異常空間に対する距離」の状態である場合に発生時期の予測を複数回繰り返してもよい。
例えば、異常が発生する可能性が高い順(異常空間に対する距離が近い順)に予め定められた数の異常を選出して発生時期の予測を行うようにしてもよい。
なお、複数の異常について発生時期の予測が行われた場合には、発生時期が近い順に予め定められた数の異常について予測結果を出力するようにしてもよい。
【0043】
図3には、本例の予測システムにおいて算出された正常空間に対する距離及び異常空間に対する距離の推移を例示してある。縦軸は、各異常について算出された距離を表しており、横軸は、日時の経過を表している。また、αは、異常空間に対する距離に関する閾値で示してあり、異常空間に対する距離がα未満(又はα以下)となる時点において異常が発生すると予測される。
【0044】
図3(a)には、異常Aについて算出された正常空間に対する距離LA1及び異常空間に対する距離LA2を例示してあり、図3(b)には、異常Bについて算出された正常空間に対する距離LB1及び異常空間に対する距離LB2を例示してあり、図3(c)には、異常Cについて算出された正常空間に対する距離LC1及び異常空間に対する距離LC2を例示してある。
【0045】
図3によれば、異常Aについては、正常空間に対する距離LA1が次第に増加(正常空間から離れる方向に推移)しているが、異常空間に対する距離LA2も次第に増加(異常空間からも離れる方向に推移)しており、当面は異常Aが発生しないことが分かる。
これに対し、異常Bについては、正常空間に対する距離LB1が次第に増加(正常空間から離れる方向に推移)する一方で、異常空間に対する距離LB2が次第に減少(異常空間からも近づく方向に推移)しており、異常Bの発生に近づきつつあることが分かる。また、異常Cについても異常Bと同様に、正常空間に対する距離LC1が次第に増加(正常空間から離れる方向に推移)する一方で、異常空間に対する距離LC2が次第に減少(異常空間からも近づく方向に推移)しており、異常Cの発生に近づきつつあることが分かる。そして、異常空間に対する距離の減少度合いによれば、異常Bの方がα未満(又はα以下)となるまでの日数が短く、緊急度が高いことが分かる。
【0046】
ここで、これまで説明した予測システムでは、予測対象の異常毎の正常空間及び異常空間の構成要素に係る監視項目として、異常予測の対象となる全ての画像形成装置Pにおいて共通の監視項目を用いているが、更に、画像形成装置Pの設置環境(例えば地域)や機種等の装置属性に応じた固有の監視項目を付加的に用いるようにしてもよい。
【0047】
画像形成装置Pの装置属性に応じた固有の監視項目を付加的に用いる構成の一例について説明する。
例えば、正常・異常空間生成部12において、予測対象となる複数の異常のそれぞれを順番に処理対象として、以下の処理を行う。
まず、処理対象の異常を解消するための保守作業が実施された複数の画像形成装置Pにおいて状態が検出された種々の監視項目(共通の監視項目を除く)の中から、一部の画像形成装置Pにおいて保守作業の前後で状態(検出値)に特徴的な変化(例えば、保守作業の前後における状態の差が閾値以上)が共通に生じた1以上の監視項目を特定する。特定された監視項目は、当該一部の画像形成装置Pが共通に有する装置属性と同じ装置属性を有する画像形成装置P群に対して付加的に適用される固有の監視項目となる。
【0048】
次いで、全ての画像形成装置Pに適用される共通の監視項目及び一部の画像形成装置Pについて特定された固有の監視項目のそれぞれについて、保守作業が実施される前の状態に係る統計値(例えば、平均)を算出し、算出された各監視項目の状態の統計値を要素としたベクトル空間を処理対象の異常についての異常空間として空間情報を生成する。また、特定された監視項目毎に保守作業が施された後の状態に係る統計値(例えば、平均)を算出して、出された各監視項目の状態の統計値を要素としたベクトル空間を処理対象の異常についての正常空間として空間情報を生成する。
その後、それぞれの空間情報に対し、異常を識別する異常ID、装置属性を識別する属性IDなどを対応付けて空間情報記憶部18に記憶させる。
【0049】
そして、異常の発生についての予測においては、異常予測の対象となる画像形成装置Pの装置属性を参照し、該当する装置IDが対応付けられた正常空間及び異常空間の空間情報が正常・異常空間生成部12に存在する場合には、これらの空間に対する距離を算出して予測を行うようにする。
【0050】
固有の監視項目を特定する手法としては、例えば、クラスター分析を利用する手法が挙げられる。すなわち、画像形成装置P毎に各監視項目(共通の監視項目を除く)の状態を要素としたデータ群を形成し、画像形成装置P毎のデータ群を予め定められた分類レベル(分類の粒度)でクラスタリング処理を行って複数の集合に分類し、分類に寄与した監視項目を、分類された複数の集合のうち保守作業の前後における状態の変化が大きい集合を選出し、その集合に対応する画像形成装置P群について固有の監視項目とする。なお、複数の集合が選出された場合には、各集合に対応する画像形成装置P群毎に固有の監視項目として追加される。
【0051】
図4には、本例の予測システムにおいて予測装置Sとして動作するコンピュータの主要なハードウェア構成を例示してある。
本例では、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)31、CPU31の作業領域となるRAM(Random Access Memory)32や基本的な制御プログラムを記録したROM(Read Only Memory)33等の主記憶装置、本発明の一実施形態に係るプログラムや各種データを記憶する補助記憶装置(例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気ディスクや、フラッシュメモリ等の書き換え可能な不揮発性メモリなど)34、各種情報を表示出力するための表示装置及び操作者により入力操作に用いられる操作ボタンやタッチパネル等の入力機器とのインタフェースである入出力I/F35、他の装置との間で有線又は無線により通信を行うインタフェースである通信I/F36、等のハードウェア資源を有するコンピュータにより構成されている。
そして、本発明の一実施形態に係るプログラムを補助記憶装置34等から読み出してRAM32に展開し、これをCPU31により実行させることで、本発明の一実施形態に係る予測装置Sの各機能をコンピュータ上に実現している。
【0052】
なお、本例では、予測装置Sの各機能部を1台のコンピュータに設ける構成としてあるが、各機能部を複数台のコンピュータに分散して設ける構成としてもよい。
また、本発明の一実施形態に係るプログラムは、例えば、当該プログラムを記憶したCD−ROM等の外部記憶媒体から読み込む形式や、通信回線等を介して受信する形式などにより、本例に係るコンピュータに設定される。
また、本例のようなソフトウェア構成により各機能部を実現する態様に限られず、それぞれの機能部を専用のハードウェアモジュールで実現するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
P:画像形成装置、 T:保守情報入力端末T、 S:予測装置、
11:装置情報収集部、 12:正常・異常空間生成部、 13:距離算出部、 14:距離変化分算出部、 15:異常発生予測部、 16:状態情報記憶部、 17:保守情報記憶部、 18:空間情報記憶部、 19:距離情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測対象の異常に関連する監視項目について監視対象装置で検出された状態を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された状態について、前記異常が発生している場合の状態を表す空間として予め定められた異常空間に対する距離を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された前記異常空間に対する距離に基づいて、前記監視対象装置における前記異常の発生について予測する予測手段と、
を備えたことを特徴とする予測装置。
【請求項2】
前記予測手段は、前記監視対象装置において異なる時点で検出された状態についてそれぞれ算出された前記異常空間に対する距離の推移に基づいて、前記監視対象装置において前記異常が発生する時期を予測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記取得手段により取得された状態について、前記異常が発生していない場合の状態を表す空間として予め定められた正常空間に対する距離を更に算出し、
前記予測手段は、前記算出手段により算出された前記異常空間に対する距離が前記算出手段により算出された前記正常空間に対する距離よりも短い場合に、前記監視対象装置において前記異常が発生する時期の予測を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の予測装置。
【請求項4】
予測対象の異常に関連する監視項目以外の監視項目であって、当該異常が発生している複数の監視対象装置のうち一部の監視対象装置で検出された状態の変化具合が基準以上の共通性を有する監視項目を、前記一部の監視対象装置を特定する装置属性を有する監視対象装置についての前記異常に関連する監視項目に追加する追加手段を備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項5】
監視対象装置と、予測装置と、を有し、
前記監視対象装置は、予測対象の異常に関連する監視項目の状態を検出する検出手段を備え、
前記予測装置は、前記監視対象装置で検出された前記異常に関連する監視項目の状態を前記監視対象装置から取得する取得手段と、前記取得手段により取得された状態について、前記異常が発生している場合の状態を表す空間として予め定められた異常空間に対する距離を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された前記異常空間に対する距離に基づいて、前記監視対象装置における前記異常の発生について予測する予測手段と、を備えた、
ことを特徴とする予測システム。
【請求項6】
コンピュータに、
予測対象の異常に関連する監視項目について監視対象装置で検出された状態を取得する取得機能と、
前記取得機能により取得された状態について、前記異常が発生している場合の状態を表す空間として予め定められた異常空間に対する距離を算出する算出機能と、
前記算出機能により算出された前記異常空間に対する距離に基づいて、前記監視対象装置における前記異常の発生について予測する予測機能と、
を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−37991(P2012−37991A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175855(P2010−175855)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】