説明

事例構築装置およびその事例構築方法

【構成】 警告システム10はサーバ12を含み、このサーバ12は事例構築装置として機能する。仮DB(36)には、日々発生する事故の事例についての事例情報が蓄積される。サーバ12は、蓄積された事例情報のうち、事故の内容が同じものをグループ化し(S91)、グループ化した複数の事例情報のうち、事故が発生したときの行動(処置)や事故が発生したときに使用していた物(薬品・器具)が同じまたは類似するものをまとめる(S105,S107,S111,S113)。このようにして、複数の事例情報から同じ事故の内容のものについて、1つの新しい事故の事例情報が作成される。
【効果】 複数の事例を1つにまとめるので、同様の事例が重複して構築されることがなく、最適な事例を構築することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は事例構築装置およびその事例構築方法に関し、特にたとえば、或る業務についての事故の事例についての事例データを知識としてデータベースに構築する、事例構築装置およびその事例構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の事例構築装置の一例が特許文献1に開示される。この特許文献1の警告システムによれば、看護師が看護業務を行うとき、当該看護業務に対応するシナリオに従って実際の業務が実行されているか否かを判断する。具体的には、看護師の実際の業務と、看護業務に対応するシナリオとから看護業務の目標を得られるかどうかを判断する。そして、看護業務の目標を得られないことが判断されたときに、シナリオ違反のアラームを看護師に与える。
【特許文献1】特開2007−34738号公報[G08B 21/02, G06Q 50/00, G06N 5/04, A61G 12/00]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この背景技術では、必要なときにのみ看護師にアラームを与えるようにしてあるが、シナリオ違反かどうかの判断処理を実行する場合に、データベースに記憶されているすべてのシナリオを検索するようにしてあるため、処理が膨大となり、判断処理に時間がかかってしまう恐れがあった。
【0004】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、事例構築装置およびその事例構築方法を提供することである。
【0005】
また、この発明の他の目的は、シナリオ違反の判断処理を軽減するためのデータベースを構築できる、事例構築装置およびその事例構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および補足説明等は、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、本発明を何ら限定するものではない。
【0007】
第1の発明は、或る業務についての事故の事例についての事例データを記録し、当該事例データを知識としてデータベースに構築する事例構築装置であって、事故の内容と事故が発生したときの処置の内容と事故が発生したときに使用していた物の名称とを含む事故情報を少なくとも含む事例情報を記憶する事例情報記憶手段、事例情報記憶手段に記憶された複数の事例情報のうち、事故の内容が一致する事例情報をグループ化するグループ化手段、グループ化手段によってグループ化された複数の事例情報の中で、事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在するか否かを判断する事故情報判断手段、事故情報判断手段によって事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する新規事例作成手段、および新規事例作成手段によって作成された新規の事例情報をデータベースに登録する登録手段を備える、事例構築装置である。
【0008】
第1の発明では、事例構築装置(12)は、或る業務(たとえば、看護業務)についての事故の事例についての事例データをデータベース(30)に構築する。事例情報記憶手段(12,36)は、事故の内容と事故が発生したときの処置(行動)の内容と事故が発生したときに使用していた物(薬品・器具)の名称とを含む事故情報を少なくとも含む事例情報を記憶する。たとえば、日々発生する事故の事例情報が蓄積されているのである。グループ化手段(12,S91)は、事例情報記憶手段に記憶された複数の事例情報のうち、事故の内容が一致する事例情報をグループ化する。事故情報判断手段(12,S103,S109)は、
グループ化手段によってグループ化された複数の事例情報の中で、事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在するか否かを判断する。新規事例作成手段(12,S105,S107,S111,S113,S115,S117,S119,S121)は、事故情報判断手段によって事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する。つまり、同じまたは類似する処置を行っていたときに発生した事故や同じまたは類似する物を使用ないし所持していたときに発生した事故についての事例情報がまとめられる(統合される)。登録手段(12,S123)は、新規事例作成手段によって作成された新規の事例情報をデータベースに登録する。
【0009】
第1の発明によれば、同じ事故の内容について、同じまたは類似する処置の内容や物の名称をまとめることにより1つの事故の事例情報を作成するので、同様の事故の事例情報が重複してデータベースに登録されるのを回避することができる。つまり、最適な事故の事例情報を構築することができる。
【0010】
第2の発明は第1の発明に従属し、新規事例作成手段は、事故情報判断手段によって事故が発生したときの処置の内容が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、当該類似する事例情報に含まれる事故が発生したときに使用していた物の名称のそれぞれを含むように、グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する。
【0011】
第2の発明では、新規事例作成手段は、事故情報判断手段によって事故が発生したときの処置の内容が少なくとも類似する、つまり同一のまたは類似する事例情報が存在することが判断されたとき、当該類似する事例情報に含まれる事故が発生したときに使用していた物の名称のそれぞれを含むように、たとえば、リストにして記述することにより、グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する。ただし、同一の事例情報については、そのまま物の名称を記述した新規の事例情報が作成される。
【0012】
第2の発明によれば、類似する物については、それぞれを含むようにリストにするので、同様の事例情報が重複して作成されるのを回避することができる。
【0013】
第3の発明は第1の発明に従属し、新規事例作成手段は、事故情報判断手段によって事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、当該類似する事例情報に含まれる事故が発生したときの処置の内容のそれぞれを含むように、グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する。
【0014】
第3の発明では、新規事例作成手段は、事故情報判断手段によって事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する、すなわち同一のまたは類似する事例情報が存在することが判断されたとき、当該類似する事例情報に含まれる事故が発生したときの処置の内容のそれぞれを含むように、グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する。ただし、同一の事例情報については、そのまま処置の内容を記述した新規の事例情報が作成される。
【0015】
第3の発明においても、第2の発明と同様に、同様の事例情報が重複して作成されるのを回避することができる。
【0016】
第4の発明は第1ないし第3の発明に従属し、新規事例作成手段は、事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称に類似する内容を追加する追加手段を含む。
【0017】
第4の発明では、追加手段(12,S115)は、事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称に類似する内容を追加する。つまり、実際に発生した事故の事例のみならず、それに類似する内容(類型)が追加される。
【0018】
第4の発明によれば、実際に発生した事故の事例のみならず、その類型を含む新しい事故の事例情報が作成されるので、より最適な事故の事例情報を構築することができる。
【0019】
第5の発明は、或る業務についての事故の事例についての事例データを記録し、当該事例データを知識としてデータベースに構築する事例構築装置の事例構築方法であって、(a)事故の内容と事故が発生したときの処置の内容と事故が発生したときに使用していた物の名称とを含む事故情報を少なくとも含む事例情報を記憶し、(b)ステップ(a)によって記憶された複数の事例情報のうち、事故の内容が一致する事例情報をグループ化し、(c)ステップ(b)によってグループ化された複数の事例情報の中で、事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在するか否かを判断し、(d)ステップ(c)によって事故が発生したときの処置の内容または事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成し、そして(e)ステップ(d)によって作成された新規の事例情報をデータベースに登録する、事例構築方法である。
【0020】
第5の発明においても、第1の発明と同様に、最適な事故の事例情報を構築することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、同じ事故の内容について、同じまたは類似する処置の内容や物の名称をまとめることにより1つの事故の事例情報を作成するので、同様の事故の事例情報が重複してデータベースに登録されるのを回避することができる。つまり、最適な事故の事例情報を構築することができる。
【0022】
この発明の上述の目的,その他の目的,特徴および利点は、図面を参照して行う以下の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1を参照して、この発明の一実施例である警告システム10は、たとえば病院に適用され、少なくとも、警告装置および事故の事例を構築する事例構築装置として機能するサーバ12を含む。このサーバ12は、有線或いは無線による通信回線(ネットワーク)14を介して複数の看護師用端末(以下、単に「端末」という。)16、複数の通過センサ18および複数の中継器20に接続される。端末16は、PDAやPHSのような携帯型の端末であり、看護師毎に割り当てられる。通過センサ18は、赤外線を受光する受光装置であり、入院患者を収容する病棟内の廊下や診察室、手術室、トイレ、階段室、病室および看護師詰所などの各部屋の出入り口などに配置される。中継器20は、PDAや携帯型のコンピュータのような携帯型の装置であり、看護師毎に割り当てられる。
【0024】
図2はサーバ12の具体的な構成を示すブロック図であり、サーバ12には、図1では省略したが、モニタ装置22が接続される。モニタ装置22は、たとえば、複数の対物センサ、複数の集音マイク(音センサ)および複数のビデオカメラ(イメージセンサ)などのセンサを含む。図示は省略するが、この実施例では、複数の対物センサは、体温計、血圧計、注射器、点滴注射器(注入器)、血液採取用試験管、検尿コップなどの器具(医療機器など)を格納してある格納箱(格納庫)の取り出し部分(出入り口)、格納箱(格納庫)の鍵やナースコール端末などに設置され、それらの器具等についての使用(取り出し)の有無を検知する。ただし、これらの器具等に、電子タグ情報(RF−ID)やバーコードのような識別情報を付加しておき、タグ情報やバーコードを読み取ることにより、その使用の有無を検出するようにしてもよい。
【0025】
複数の集音マイクは、入院患者を収容する病棟内の廊下および病室(ベッド或いはその近傍)などに設置され、周囲音を集音する。さらに、複数のビデオカメラは、集音マイクと同様に、入院患者を収容する病棟内の廊下および病室(ベッド或いはその近傍)などに設置されるとともに、看護師詰所などにも設置され、主として、看護業務を行う看護師(の行動)を撮影する。ここで、看護業務とは、問診、検温、検圧、注射、投薬、点滴注射、退院指導などの看護師が行うべき業務の総称である。ただし、この実施例では、単に「看護業務」という場合には、任意の1つの業務を示す。
【0026】
また、図2に示すように、サーバ12には、8つのデータベース(DB)が接続される。具体的には、属性DB24、電子カルテDB26、シナリオDB28、知識DB30、行動履歴DB32、病棟イベントDB34、仮DB36およびグループDB38がサーバ12に接続される。
【0027】
属性DB24は、この警告システム10が適用される病棟(病院)内で働く者(この実施例では、看護師)についての属性情報を記憶する。この実施例では、属性情報とは、看護師としての職歴(経験年数(たとえば、月日))および当該病院(病棟)や現在の部署での経験(継続年数(たとえば、月日))を意味する。
【0028】
電子カルテDB26には、現在入院中或いは治療中の患者についての電子カルテが記録される。図示は省略するが、この電子カルテは、医師等が記載するカルテの内容から必要な事項を抽出するとともに、必要な事項を追加して、電子データにしたものである。たとえば、電子カルテには、患者名、担当看護師名(または、識別情報(看護師ID))、性別、病名、病状、処方(どのような注射や点滴、或いは投薬をするかという処方および処方する時間)、リハビリの状況、入院暦、患者に対する注意事項などの情報の電子データ(テキストデータ)が記述される。
【0029】
シナリオDB28には、看護業務の正しい行動手順(シナリオ)が記述される。ただし、看護業務の実行の際に使用する器具についての情報やその使用方法についての情報も含まれる。ここで、シナリオsは、看護師の業務マニュアルを参照して作成された、看護業務における行動ないし動作(イベント)の集合であり、基本的な手順(時系列)に従って並べられる。ただし、後述するように、シナリオDB28に登録されたシナリオsと一致しない行動列が発見された場合には、新しいシナリオsとして追加される。たとえば、シナリオsは数1で示される。ただし、数1において、「in chronological order」としてあるのは、すべてのイベントeを必ずしも手順(時系列)に従って実行する必要はないが、一部に時系列に従って実行する必要があるイベントeを含んでいることを意味する。
【0030】
[数1]


【0031】
たとえば、シナリオsi,h,は、それぞれ、複数のイベントによって構成され、数2で示される。
【0032】
[数2]
={ei1=注射器を準備する,ei2=蒸留水とダイアモックス(Diamox)とを準備する,ei3=ダイアモックスを溶かす,ei4=ダイアモックスを溶かしたものを吸引する,ei5=待つ,ei6=注射をする}
={eh1=各種モニタの電源の確認,eh2=点滴のセット,eh3=必要物品の準備,eh4=吸引をセット,eh5=腰・硬麻の準備,eh6=ライト・ヘッドの位置を確認}
={ea1=病棟看護師より申し送りを受ける,ea2=コスト表にIDカードを押す,ea3=麻酔医に患者の血圧等を報告,ea4=胸写をシャーカステンにかける,ea5=モニタ類の装着,ea6=血管確保の介助,ea7=腰・硬麻の介助,ea8=麻酔導入の介助,ea9=導尿・深部体温モニタの装着,ea10=電気メスの対極板の貼付,ea11=体位をとる,ea12=L枠、メーヨ台、ライトの設置、ea13=ガウンテクニックの介助,ea14=イソジン、生食を器機台に出す、ea15=電気メス、吸引のコード接続}
ただし、シナリオs(他のシナリオsh,も同様。)は、数3に示すように、複数のシナリオsin(以下、説明の都合上、「部分シナリオ」ということがある。)の集合で表わすことができる。詳細な説明は省略するが、各部分シナリオsijは、2以上のイベント(e)の集合(イベント群)で表わされる。また、数3において、Oはシナリオsを実行した場合における最終的な目標であり、Oijは部分シナリオsijを実行した場合における下位の(補助的な)目標である。ただし、最終的な目標(最終目標)は、看護師がシナリオsに従って看護業務を実行することにより得られる。つまり、最終目標は、看護行為による正しい結果である。また、下位の目標(下位目標)は、部分シナリオsijに従って看護業務の一部を実行することにより得られる。
【0033】
[数3]
={si1,si2,…,sin;O
ij={ej1,ej2,…,ejk;Oij
ただし、たとえば、或る部分シナリオsil(c)={el1,el2,…,elm;Oil}は時系列に従って実行する必要があるが、他の部分シナリオsip(n)={ep1,ep2,…,epq;Oip}は時系列に従って実行する必要はない。たとえば、数2に示した例では、イベントei4(ダイアモックスを溶かしたもの吸引する)は、イベントei6(注射する)の前に実行されている必要がある。
【0034】
なお、図示は省略するが、時系列に従って実行する必要のある部分シナリオであるか否かの情報は、各部分シナリオにラベルを付して識別可能としてある。ただし、部分シナリオであるか否かの情報は、各部分シナリオに対応づけて別途記憶しておいてもよい。
【0035】
知識DB30には、公理および仮説についてのデータが記憶される。この実施例では、公理とは、該当の患者に対する処方または処置の理想状態が必然的に得られる事象、行為、または要素などとその理想状態の因果律、さらにもっと一般的に言えば、どのような場合でも関係が崩れることがない、そのような関係(一般的事実)のことである。また、仮説とは、モニタ手段(この実施例では、通過センサ18、中継器20、モニタ装置22)やRFID(タグ情報)などで観測可能な事象、行為、要素など、可変なもの、同時に成り立たない可能性があるもの(イベント)をいう。また、知識DB30には、看護業務に関する知識も記憶される。具体的には、看護業務毎に、看護業務を行うときの両手、胸および腰についての加速度の時間変化(加速度データ)を予め取得して、これを辞書データとして記憶してある。ただし、看護師毎に看護業務を行う手順、癖或いは身体的な特徴(身長,手の長さなど)が異なるため、看護師毎に辞書データを記憶するようにしてもよい。さらに、知識DB30には、類義語辞書が記憶される。この類義語辞書は、類似する用語を検索可能な辞書であり、一般的な用語(言葉)のみならず、複数の看護業務の名称(シナリオ名)についての総括名称、類似する薬品や器具の名称についても検索可能である。また、知識DB30には、アクシデントやインシデント(事故)についての事例の情報(事例情報)のデータ(事例データ)が識別情報(事故ラベル)を付して識別可能に記憶される。この事例データは、参照するシナリオを特定する(絞り込む)ために用いる。たとえば、看護師が看護業務を行う際に、その状況(行動,現在位置,使用する薬品・器具など)から事例データが特定され、特定された事例データが示す看護業務の名称(シナリオ名)に応じたシナリオが参照するシナリオとして特定される。ただし、後述するように、学習することにより、新しい事故の事例情報の事例データが知識DB30に登録(追加)される。
【0036】
たとえば、事故の事例情報の内容は次の通りである。或るイベント(看護業務)について事故が発生した場合に、当該事故の識別情報(事故ラベル)に対応して、理由、事故、属性情報(職歴、部署経験)、時間、場所および背景の各情報が記録される。ただし、背景の情報は省略してもよい。これらの情報は、たとえば、テキストで記述される。
【0037】
なお、看護師のみならず、医師や清掃員のように、病院(病棟)内で勤務する者についてのすべての事故の事例について管理する場合には、属性情報として、職務の種類(医師,看護師,清掃員などの別)を記録するようにしてもよい。
【0038】
理由の情報としては、当該事故の発生した看護業務の名称(シナリオ名)が記憶される。事故詳細の情報としては、薬品名または器具のような看護業務に使用する物の名称、事故が発生したときの処置の内容、事故の詳細についての内容(事故の内容)が記憶される。たとえば、事故が発生したときの処置の内容としては、オーダー、伝達、輸血、点滴注射、注射、投薬などのイベントであり、当該看護業務の名称と一致することもある。また、事故の内容は、過剰投与、混注ミス、薬剤混同、患者取り違えなどである。職歴の情報としては、看護師としての経験年数(たとえば、年月)が記憶される。部署経験の情報としては、当該部署に配属されてからの継続年数(たとえば、年月)が記憶される。時間の情報としては、事故が発生した時刻(時分)ないし時間帯が記憶される。場所の情報としては、事故が発生した場所が、病室、トイレ、浴室、洗濯室、廊下、階段室、診察室、手術室、レントゲン室などのように具体的に記憶される。背景の情報としては、同じ名前の患者が存在すること、ナースコールで呼び出されたこと、忙しかったこと、複数種類の薬品が存在することなどのように、事故の背景に有る様々な事情(状況)が記憶される。
【0039】
ただし、理由の情報については、後述する行動履歴DB32に記憶された加速度データおよび音声データと、知識DB30に記憶された辞書データとから特定することができる。また、職歴の情報や部署経験の情報については、属性DB24から取得することができる。そして、場所の情報および時間の情報については、後述する病棟イベントDB34から取得することができる。
【0040】
行動履歴DB32は、看護師の行動履歴のデータ(行動履歴データ)を看護師毎に記憶する。行動履歴データは、中継器20から送信される加速度データおよび音声データを意味する。ただし、行動履歴データは、看護業務毎に1つのファイルとして記憶される。たとえば、各ファイルには、該当する看護師の看護師IDのラベルが付される。
【0041】
病棟イベントDB34は、上述した通過センサ18から得られるデータと、上述したモニタ装置22から得られる対物検知データ、音声データおよび映像データと(これらのデータをまとめて「病棟イベントデータ」という。)を記録する。通過センサ18から得られるデータには、後述するように、当該通過センサ18の識別情報に、検知した看護師の看護師IDが付加されている。対物検知データには、検知する対象となる医療器具等の名称のような識別情報がタグとして付される。音声データには、集音マイク24の設置場所を示す識別情報がタグとして付される。映像データには、ビデオカメラ28の設置場所を示す識別情報がタグとしてとして付される。つまり、対物検知データから検知対象物を特定することができ、音声データや映像データのタグから集音したり映像を取得した場所を特定したりすることができる。
【0042】
ここで、サーバ12は、その内部に時計回路12aを有している。この時計回路12aは、日付および時間を計時する。したがって、サーバ12は、時計回路12aから日付および時間を検出し、上述のような病棟イベントデータを取得したときの時間(時間データ)を、当該病棟イベントデータに付加する。たとえば、サーバ12は、通過センサ18からのデータを受信すると、そのデータに時間データを付加して、病棟イベントDB34に記録する。また、対物検知データの入力があると、サーバ12は当該対物検知データに時間データを付加して、病棟イベントDB34に記録する。集音マイクは、たとえば、物が落下したときに生じる音や、人間が発した大声などを集音することを目的とするため、所定のレベル以上の音が入力されたときに、当該音に対応する音データがサーバ12に入力され、サーバ12は当該音データに時間データを付加して、病棟イベントDB34に記録する。したがって、たとえば、患者が転倒したり、ナースコール端末が押されたりしたことが記憶される。ただし、基本的にはタイムラプス(間欠記録)ではあるものの、時系列的に映像データが蓄積される。
【0043】
仮DB36は、事故が発生した場合に、その事故の事例情報を記憶(蓄積)するために用いられる。この仮DB36に記憶された事故の事例情報は、予め作成された知識DB30に登録されているものとは異なり、事故が発生した場合に、知識DB30に登録されている事例情報と同様にして作成されたものである。また、グループDB38は、新しい事故の事例情報を作成する際の作業領域ないしバッファ領域として用いられる。したがって、グループDB38に代えて、サーバ12の内部メモリ(ハードディスクやRAMなど)を用いるようにしてもよい。ただし、図1および図2では、サーバ12の内部メモリは省略してある。
【0044】
図3は端末16の電気的な構成を示すブロック図である。図3を参照して、端末16はCPU40を含み、このCPU40には、メモリ42,キースイッチ44,LCDドライバ46,モータドライバ50,無線LAN54およびアンプ56が接続される。また、LCDドライバ46にはLCD48が接続され、モータドライバ50には振動モータ52が接続され、そして、アンプ56にはスピーカ58が接続される。
【0045】
なお、上述したように、端末16としてPHSを用いる場合には、図3に示すような構成において、さらに通話(電話)機能が備えられる。
【0046】
CPU40は、端末16の全体制御を司る。メモリ42は、ROMやRAMを含む。この実施例では、端末16は主として情報提示装置として機能し、ROMには、情報提示のためのプログラム(情報提示プログラム)や情報提示のために必要なデータ(画像データ,音データ)が記憶されている。RAMは、CPU40の記憶領域、作業領域およびバッファ領域として用いられる。
【0047】
なお、この実施例では、情報提示のために必要なプログラムやデータをROMに記憶するようにしてあるが、サーバ12からダウンロードするようにしてもよい。このようにすれば、ROMの使用容量を削減することができる。
【0048】
キースイッチ44は、テンキー、十字キーのようなカーソルキーおよび選択キーなどの各種キーないしボタン(スイッチ)であり、看護師の指示入力に用いられる。LCDドライバ46はLCD48の駆動装置であり、CPU40からの指示に従ってLCD48に画像を表示する。図示は省略するが、LCD48には、看護業務に関するメッセージなどの情報を提示するための画面が表示される。モータドライバ50は、振動モータ52の駆動装置であり、CPU40からの指示に従って振動モータ52を駆動する。たとえば、サーバ12から情報の提示があると、振動モータ52を駆動することにより、端末16を振動させて、その旨をユーザに知らせる。または、スピーカ58から通知音(音声,音楽)を出力して、情報の提示がある旨をユーザに知らせるようにしてもよい。このとき、CPU40からの音データ(音、音声ないし音楽のデータ)は、アナログの音(音声)信号に変換された後、アンプ56で増幅され、スピーカ58から出力される。ただし、振動および音(音楽)の両方で通知するようにしてもよい。
【0049】
無線LAN54は、CPU40の指示に従って、看護師がキースイッチ44を用いて入力した指示入力(コマンド)を、ネットワーク14を介してサーバ12に送信する。詳細な説明は省略するが、サーバ12では、端末16の無線LAN54のMACアドレスを看護師IDに対応づけて管理しているため、通信している端末16の使用者(看護師)をサーバ12側で認識することが可能である。ただし、メモリ42(ROM)に看護師IDを記憶しておき、コマンドとともに看護師IDをサーバ12に送信するようにしてもよい。また、無線LAN54は、サーバ12から送信された情報(画面表示に関する情報)を受信して、CPU40に与える。
【0050】
図4に示すように、通過センサ18は、第1受光モジュール72および第2受光モジュール74を含み、第1受光モジュール72および第2受光モジュール74は、ゲートの上部であり、互いに異なる側面に装着される。また、ゲートの上に載置されるケース180内には、通過センサ18の受光モジュール(72,74)以外のコンポーネント(CPU70,RAM76,無線LAN78:図6参照)が内蔵される。ただし、ゲートは分かり易く示すために図示しただけであり、通常は、看護師詰所、診察室、病室のような部屋の出入り口、廊下と廊下との連結部(十字路、T字路など)、廊下と階段との連結部のような要所に通過センサ18は設置される。また、必要であれば、エレベータのゲートに設置されてもよい。
【0051】
また、図5に示すように、各看護師の頭部には、赤外線信号を発信する送信機110が装着される。たとえば、送信機110は、クリップのような固定器具を用いて、ナースキャップや頭髪に固定される。送信機110が発信する赤外線信号は、たとえば、8ビットの固定のパターン(看護師ID)である。
【0052】
図6は通過センサ18の電気的な構成を示すブロック図である。図6を参照して、通過センサ18はCPU70を含み、CPU70には、第1受光モジュール72、第2受光モジュール74、RAM76および無線LAN78が接続される。各通過センサ18の受光モジュール(72,74等)のそれぞれには、固有の識別情報(受光モジュールID)が割り当てられている。各受光モジュール(72,74等)は、送信機110(図5参照)からの赤外線信号を検出する。ここで、送信機110から送信される赤外線信号は、上述したように、8ビットの固定のパターン(看護師ID)である。たとえば、受光モジュール(72,74)は、看護師IDを受信すると、受信した看護師IDをCPU70に与える。CPU70は、看護師IDを受信した受光モジュール(72,74)の受光モジュールIDを当該看護師IDに付加して、RAM76に記憶(一時記憶)し、その後、無線LAN78およびネットワーク14を介して、サーバ12に送信する。
【0053】
サーバ12では、受光モジュールIDが付加された看護師IDを受信すると、受信した受光モジュールIDに対応する場所を看護師IDが示す看護師の現在位置として検出する。
【0054】
なお、この実施例では、端末16の処理負担の軽減やメモリ42の容量節約のために、サーバ12側で、当該看護師の現在位置を特定するようにしてあるが、通過センサ18がネットワーク14を介して受光モジュールIDと看護師IDとを端末16に送信し、当該端末16が看護師自身の現在位置を特定するようにしてもよい。
【0055】
図7は中継器20の電気的な構成を示すブロック図である。図7を参照して、中継器20はCPU90を含む。CPU90には、メモリ92,エンコーダ94,非接触センサ98,加速度センサ100および無線LAN102が接続される。メモリ92は、ワークメモリないしバッファメモリとして働き、CPU90によって使用される。エンコーダ94にはピンマイク96が接続され、エンコーダ94は、ピンマイク96から入力される音声信号をMP3のような圧縮音声データ(以下、単に「音声データ」という。)に変調してCPU90に入力する。このように、音声信号を圧縮変調するのは、メモリ92の使用量を比較的少なくするためであり、また、後述するように、無線LAN102を介して送信するデータのデータ量を低減するためである。たとえば、看護師は、ピンマイク96を通して、開始するまたは終了した看護業務の内容を音声で入力する。したがって、サーバ12は、音声を解析することにより、看護師が行っている看護業務の内容およびその開始と終了とを知ることができる。
【0056】
なお、図7では、簡単のため、複数の加速度センサ100a,100b,100c,100dを、加速度センサ100として包括的に示してある(図5参照)。
【0057】
ここで、図5を参照して分かるように、端末16,中継器20および赤外線を発信する送信機110は、各作業者(看護師)に装着される。図5に示すように、端末16は、看護師の手首に装着される。図示は省略するが、端末16のLCD48が見えるように、腕時計を装着するように、バンドのような固定器具を用いて装着される。
【0058】
また、中継器20では、ピンマイク96,非接触センサ98および加速度センサ100(100a,100b,100c,100d)以外の回路コンポーネント(図7参照)はボックス200に収容され、ボックス200は看護師の腰部(ベルト部分)に装着される。
【0059】
図5に示すように、ピンマイク96は、看護師の衣服(白衣)の襟元付近に装着される。また、非接触センサ98は、ペン型のケースに収容され、看護師の白衣の胸ポケットに挿すように収納される。ただし、図面では、分かり易く示すために、ペン型のケースを胸ポケットの外部に記載してある。
【0060】
また、看護師の両手(両腕)、胸および腰などには、加速度センサ100が装着される。この実施例では、加速度センサ100aが右腕に装着され、加速度センサ100bが左腕に装着され、加速度センサ100cが胸に装着され、そして、加速度センサ100dが腰に装着される。ただし、図5では、分かり易く示すために、各加速度センサ100を白衣の外部に記載してあるが、各加速度センサ100は、実際には、ゴムバンドのような適宜の固定器具を用いて、白衣の内部で腕などに固定される。
【0061】
なお、図5においては省略するが、非接触センサ98と加速度センサ100とは接続線を用いてボックス200内のCPU90に電気的に接続され、ピンマイク96は接続線を用いてボックス200内のエンコーダ94に電気的に接続される。ただし、接続線を用いずに、ブルートゥースのような近距離無線によって接続するようにしてもよい。つまり、電気的に接続されればよいのである。
【0062】
また、この実施例で用いるピンマイク96は指向性を有するものである。これは、ピンマイク96を装着する看護師の音声のみを検出するようにするためであり、さらには、患者のプライバシーを守るためでもある。
【0063】
非接触センサ98としては、焦電センサを用いることができ、CPU90は非接触センサ98からの入力に応じてピンマイク96をオン/オフする。この実施例では、非接触センサ98すなわち焦電センサの前で、看護師が手を2回上下させると、その検出信号がCPU90に入力され、これに応じて、CPU90はピンマイク96をオンし、その後、看護師が焦電センサの前で、手を2回上下させると、ピンマイク96をオフする。ただし、CPU90は、看護師の操作によらないで、所定時間(10秒)が経過した場合にもピンマイク96をオフするようにしてある。
【0064】
加速度センサ100は、たとえば、多軸(3軸)の加速度センサであり、サンプリング周波数が200Hzであり、加速度は±3G(Gは重力)まで計測可能である。この中継器20では、加速度センサ100で検出される加速度のデータ(加速度データ)がCPU90に与えられる。CPU90は、加速度センサ100からの加速度データをメモリ92に記憶(一時記憶)し、一定時間(たとえば、10秒)毎に、その一定時間分の加速度データを、無線LAN102およびネットワーク14を介してサーバ12に送信する。上述したように、知識DB30には、予め看護業務を実行した場合の加速度データの時間変化を辞書データとして記憶しているので、中継器20から送信される加速度データと比較することにより、実行中の看護業務の内容を特定することができる。たとえば、辞書データと中継器20からの加速度データとを、周知のDPマッチングの方法により、比較することにより、看護業務を特定することができる。
【0065】
なお、加速度センサ100に代えて、ジャイロセンサ、照度センサまたは温度センサなどの他のセンサを用いることもできる。他のセンサを用いる場合には、その他のセンサの出力がサーバ12に送信される。ただし、かかる場合には、他のセンサを用いて予め取得されたデータが看護業務に対応付けられた辞書データとして知識DB30に記憶される。
【0066】
上述したように、サーバ12は、通過センサ18からのデータに基づいて看護師の現在位置(所在)を知ることができる。また、モニタ装置22(対物センサ)の出力によって、看護師が使用する器具等を知ることができる。さらに、モニタ装置22(集音マイク)の出力およびピンマイク96を通して入力される音声に基づいて看護師が実行しようとする看護業務を知ることもできる。さらにまた、モニタ装置22(ビデオカメラ)の撮影映像(画像データ,映像データ)を分析したり、中継器20からの加速度データを辞書データと比較したりすることにより、看護師の行動を検出(特定)することもできる。たとえば、このようなモニタ手段(サーバ12,通過センサ18,中継器20,モニタ装置22)の検出結果を複合的に勘案すれば、看護師の行動(イベント)を比較的正確に検出することができる。以下、同様である。
【0067】
なお、モニタ装置22(集音マイク)の出力(音声)を解析したり、モニタ装置22(ビデオカメラ)の撮影映像を解析したりすることにより、病院(病棟)内に存在する他の者すなわち医師、清掃員、患者等の様子を知ることもできる。
【0068】
また、看護師の行動が目標を達成するか否かの推論は、数4に従って行われる。ただし、背景知識Fとしては、知識DB30に含まれる公理も含まれる。
【0069】
[数4]


【0070】
ただし、∪は論理のORを意味する。
【0071】
また、最終目標Oをサブ目標Oの部分集合と考えると、数5に従って推論することも可能である。
【0072】
[数5]


【0073】
ここで、推論結果がサブ目標Oを得ることができる場合には、次の部分シナリオについての推論を行う。ただし、当該サブ目標Oが最終目標Oと一致する場合には、看護業務を終了したと判断する。
【0074】
一方、推論結果がサブ目標Oを得ることができない場合には、次のいずれかの場合に、看護業務がシナリオに違反していることを警告する。これは、医療事故や医療ミスが発生するのを事前に防止するためである。具体的には、推論結果がサブ目標Oを得ることができない場合には、看護師が別の看護業務に移行したかどうかを判断する。ここで、看護師の行動が、戻るべき、または、進むべきイベントに復帰または到達し得ないときに、別の看護業務に移行したと判断される。
【0075】
看護師が別の看護業務に移行していなければ、現在の看護業務を途中で終了しようとしているかどうかを判断する。たとえば、看護師が現在の看護業務に全く関係のないイベントを実行したり、途中のイベントを飛ばして最後のイベントを実行しようとしたり(たとえば、ダイアモックスを溶かさないで、注射しようとする。)すると、現在の看護業務を途中で終了しようとしていると判断する。
【0076】
また、看護師が別の看護業務に移行すると、当該別の看護業務を終了した後に、元の看護業務(上述の現在の看護業務)に戻るか否かを判断する。別の看護業務を終了したか否かは、当該別の看護業務についてのシナリオに含まれる最後のイベントを実行したか否かで判断される。また、元の看護業務に戻ったか否かは、看護師の行動が元の看護業務に対応するシナリオに含まれる、かつ実行すべきであるイベントと一致するか否かで判断される。
【0077】
現在の看護業務を途中で終了しようとする場合、または、別の看護業務を終了した後に元の看護業務に戻らない場合には、当該看護業務についてのシナリオの正しい最終目標を得ることができない。つまり、上述したような医療事故などの不都合を引き起こす可能性があるため、看護師にシナリオに違反していることの警告を与えるようにしてある。
【0078】
なお、看護師が或る看護業務を行っている場合に、他の看護業務を頼まれることは日常茶飯事であり、単に他の看護業務に移行したことだけでは警告を発しないようにしてある。これは、警告の乱発を防止して、医療事故や医療ミスが発生する恐れのあるような本当に必要なときだけ警告を与えて、警告システム10としての機能を十分に発揮させるためである。
【0079】
具体的には、サーバ12は図8および図9に示すフロー図に従って全体処理を実行する。ただし、図8および図9に示す全体処理は、着目する1人の看護師について一定時間(たとえば、15分〜30分)毎に実行される。つまり、全体処理は看護師毎に実行される。図8に示すように、サーバ12は全体処理を開始すると、ステップS1で、業務を確認する。ここでは、図示しないワークフローのデータを参照して、着目する看護師が担当する患者について行うべき看護業務が有るかどうかを判断するのである。ただし、ワークフローは、当該着目する看護師の一日の看護業務が時系列に従って記述された表であり、電子カルテなどに基づいて作成される。
【0080】
続くステップS3では、看護業務の開始時間であるかどうかを判断する。つまり、開始すべき看護業務が有るかどうかを判断する。ただし、厳密に看護業務の開始時間であるかを判断する必要はなく、看護業務の開始時間の前後一定時間(たとえば、3〜5分)内であるかどうかを判断するようにしてある。
【0081】
ステップS3で“NO”であれば、つまり看護業務の開始時間でなければ、そのまま同じステップS3に戻る。ただし、無駄な処理を削減するために、一定時間(たとえば、3〜5分)待機してから、ステップS3に戻るようにしてもよい。一方、ステップS3で“YES”であれば、つまり看護業務の開始時間であれば、ステップS5で、着目する看護師が看護業務を開始したかどうかを判断する。ここでは、着目する看護師の看護師IDを検出する通過センサ18が変化したり、ビデオカメラで撮影される当該看護師に動きがあったり、当該看護師がピンマイク96を通して看護業務を開始することの音声入力があったりしたかどうかを判断する。
【0082】
ステップS5で“NO”であれば、つまり看護業務を開始していなければ、ステップS7で、業務開始のアラーム(警告)を発して、ステップS5に戻る。ここで、警告は、たとえば、着目する看護師に割り当てられた端末16に、看護業務を開始すべき旨のメッセージを送信することにより行う。なお、メッセージのような情報が端末16に送信されると、上述したように、音ないし振動またはその両方で当該端末16を装着する看護師にメッセージ(情報)があることが報知される。
【0083】
一方、ステップS5で“YES”であれば、つまり看護業務を開始すれば、ステップS9で、看護師の現在の状況を検出する。具体的には、ここでは、サーバ12は、看護師の現在位置、現在の行動(処置)および看護師が所持ないし使用する薬品・器具を、通過センサ18からのデータ、中継器20からのデータまたはモニタ装置22からのデータに基づいて検出する。ここで、通過センサ18からのデータに基づいて看護師の現在位置を検出するのは、中継器20からのデータに基づいて処置(イベント)を特定できない場合であっても、当該看護師の現在位置と当該看護師のワークフローとに基づいて、処置を特定できる場合があるからである。たとえば、看護師の現在位置がレントゲン室や病室であれば、患者のレントゲン撮影の補助を行ったり、患者の検温、検圧、注射または点滴注射を行ったりしていることを特定(推定)することができる。また、モニタ装置22の出力から使用している物(薬品・器具)を特定することができる。
【0084】
次のステップS11では、処置や薬品・器具を、特定可能かどうかを判断する。ステップS11で“NO”であれば、つまり処置や薬品・器具を特定できなければ、そのまま図9に示すステップS15に進む。かかる場合には、事故の事例情報(事例データ)を特定できないため、シナリオsを絞り込むことができない。したがって、後述するステップS15において、シナリオDB28に記憶された全シナリオsを参照することとなる。一方、ステップS11で“YES”であれば、つまり処置や薬品・器具を特定できれば、ステップS13で、シナリオDB28に記憶された全シナリオsのうち、特定した処置や薬品・器具を含む事例データを知識DB30から抽出し、抽出した事例データが示すシナリオsを特定(選択)する。ただし、後述するように、事例データが示す事例情報の理由の情報として、シナリオ名の総括名称が記述されている場合には、総括名称が示すすべてのシナリオsが特定される。たとえば、ステップS13では、サーバ12は、シナリオDB28において、特定したシナリオsのみにフラグを立てたり、サーバ12の内部メモリに特定したシナリオsのみを読み出したりすることにより、ステップS15において参照するシナリオsを絞り込むのである。これによって、参照するシナリオsの数が大幅に削減される。
【0085】
なお、この実施例では、処置や薬品・器具のような事故詳細の情報のみに基づいて事例データ(シナリオ名)を特定するようにしたが、事例データが示す事例情報には、職歴、部署経験、場所および背景の情報も含まれるため、事故詳細の情報に加えて、職歴、部署経験、場所および背景の情報のうちの少なくとも1つ以上をさらに満たす事例データ(シナリオ名)を特定するようにしてもよい。
【0086】
図9に示すように、ステップS15では、イベントeを含むシナリオsが有るかどうかを判断する。ここでは、サーバ12は、上述のようにして、着目する看護師の行動を検出する。そして、サーバ12は、シナリオDB28の全部または特定した一部のシナリオsを参照して、検出した行動と一致するイベントeを含むシナリオsが存在するかどうかを判断する。
【0087】
ステップS15で“YES”であれば、つまり看護師の行動と一致するイベントeを含むシナリオsがあれば、ステップS17で、目標Oを確認する。ここで、目標Oは、シナリオsに従って業務を行った場合に得られる目標である。ステップS17では、イベントeを含むシナリオsの目標Oが、ステップS9で検出された看護業務(最終目標O)と一致するかどうかを確認しているのである。
【0088】
続くステップS19では、現在の背景知識Fと行動eを含むすべてのシナリオsとから最終目標Oを説明できないかどうかどうかを判断(確認)する。ステップS19で“YES”であれば、つまり現在の背景知識Fと行動eを含むすべてのシナリオsとから最終目標Oを説明できない場合には、そのままステップS15に戻って、シナリオsの検出および目標Oの確認を再度実行する。しかし、ステップS19で“NO”であれば、つまり現在の背景知識Fと行動eを含むすべてのシナリオsとから最終目標Oを説明できる場合には、ステップS21で、後述する各サブ目標達成の確認および警告処理(図10および図11参照)を実行して、全体処理を終了する。
【0089】
また、ステップS15で“NO”であれば、つまり看護師の行動と一致するイベントeを含むシナリオsが存在しなければ、ステップS23で、当該看護師の一連の行動(イベントe)を獲得する。続くステップS25では、着目する看護師が当該看護業務を終了したかどうかを判断する。ステップS25で“NO”であれば、つまり着目する看護師が当該看護業務を終了していなければ、そのままステップS23に戻る。一方、ステップS25で“YES”であれば、つまり着目する看護師が当該看護業務を終了すれば、ステップS27で、着目する看護師の一連の行動を新しいシナリオsとしてシナリオDB28に記憶(追加)して、全体処理を終了する。
【0090】
なお、この実施例では、看護師の行動と一致するシナリオsが存在しない場合には、当該看護師の一連の行動を新しいシナリオsとしてシナリオDB28に記憶するようにしてあるが、このような一連の行動を別途データベースに蓄積しておき、学習処理によって統合(一般化)するなどして新しいシナリオsを作成するようにしてもよい。
【0091】
図10および図11は、図9に示したステップS21の各サブ目標達成の確認(推論)および警告処理を示すフロー図である。サーバ12は、各サブ目標達成の確認および警告処理を開始すると、ステップS41で、変数jを初期化する(j=1)。続くステップS43では、現在の背景知識Fと部分シナリオsijとからサブ目標Oを説明できないかどうかを判断(確認)する。ステップS43で“NO”であれば、つまり現在の背景知識Fと部分シナリオsijとからサブ目標Oを説明できると推論されれば、サブ目標Oを達成できると判断し、ステップS45で、シナリオsijが時系列順に実行すべきイベントを含むかどうかを判断する。これは、部分シナリオsijに付されたラベルを参照して判断する。
【0092】
ステップS45で“NO”であれば、つまりシナリオsijが時系列順に実行すべきイベントを含んでいない場合には、そのままステップS51に進む。しかし、ステップS45で“YES”であれば、つまりシナリオsijが時系列順に実行すべきイベントを含む場合には、ステップS47で、当該イベントが時系列順に実行されているか否かを判断する。ここでは、看護師の行動を検出し、当該行動がシナリオsijに含まれるイベントに従って実行されようとしているか否かを判断する。
【0093】
ステップS47で“NO”であれば、つまりイベントが時系列順に実行されていなければ、ステップS49で、シナリオ違反をアラームして、ステップS47に戻る。しかし、ステップS47で“YES”であれば、つまりイベントが時系列順に実行されている場合には、ステップS51で、現在の業務をすべて終了したかどうかを判断する。つまり、シナリオsに含まれるすべてのイベントeの実行を終了し、目標Oを達成(ワークフローが示す看護業務を完了)したかどうかを判断する。ステップS51で“NO”であれば、つまり現在の業務をすべて終了していなければ、ステップS53で、変数jをインクリメントして(j=j+1)、ステップS43に戻る。つまり、次のサブ目標Oj+1を達成するか否かの推論を行う。しかし、ステップS51で“YES”であれば、つまり現在の業務をすべて終了すれば、各サブ目標達成の確認および警告処理をリターンする。
【0094】
また、ステップS43で“YES”であれば、つまり現在の背景知識Fとシナリオsijとからサブ目標Oを説明できないと推論されれば、サブ目標Oを達成できないと判断し、図11に示すステップS55で、別の看護業務へ移ったかどうかを判断する。ステップS55で“NO”であれば、つまり別の看護業務に移っていなければ、ステップS57で、現在の看護業務を途中で終了したかどうかを判断する。
【0095】
ステップS57で“NO”であれば、つまり現在の看護業務を途中で終了していない場合には、そのまま図10に示したステップS43に戻る。一方、ステップS57で“YES”であれば、つまり現在の看護業務を途中で終了した場合には、そのままステップS63に進む。
【0096】
また、ステップS55で“YES”であれば、つまり別の看護業務に移った場合には、ステップS59で、当該別の看護業務に対応するシナリオsを確認して、ステップS61に進む。なお、この実施例では、簡単のため、別の看護業務に対応するシナリオsの確認処理については、1つのステップ(処理)で示してあるが、厳密には、図9に示したステップS15〜ステップS19と同様の処理が実行されるのである。これは、途中で別の看護業務に移行した場合であっても、当該別の看護業務において医療事故等が発生する可能性もあり、当該別の看護業務についてもシナリオを用いた推論により、シナリオ違反の発生を事前に発見し、その警告を与えるためである。
【0097】
ステップS61では、元の看護業務に戻るか否かを判断する。ここで、元の看護業務は、ステップS55で“YES”と判断される直前までに行っていた看護業務(上述の現在の看護業務)である。ステップS61で“YES”であれば、つまり元の看護業務に戻る場合には、そのままステップS43に戻る。しかし、ステップS61で“NO”であれば、つまり元の看護業務に戻らない場合には、ステップS63で、シナリオ違反のアラームを与えて、ステップS61に戻る。
【0098】
なお、図示等は省略したが、ステップS43,S47,S51,S55,S57,S61の処理では、着目する看護師の行動が検出される。
【0099】
このように、看護師の看護業務における行動等とシナリオとから得られる結果を推論し、推論結果が所望の目標を達成できない場合にのみ警告を発するので、警告の乱発を防止し、本当に必要なときだけ警告することができる。また、事例データに基づいてシナリオを絞り込むので、判断処理(S15,S19,S47など)の誤りを少なくすることができる。
【0100】
なお、この実施例では、事故が発生するおそれのある看護師のみに警告を与えるようにしてあるが、当該看護師以外の者(医師、他の看護師、師長)にも警告するようにして、医療事故等を確実に防止するようにしてもよい。
【0101】
以上のように、知識として記憶してある事故の事例情報に基づいて、参照するシナリオsを絞り込むことができるので、全部のシナリオsを参照する場合に比べて、シナリオ違反のアラーム(警告)を発するか否かの判断処理を軽減することができる。したがって、最適な事例情報を構築することができれば、警告を発するか否かの判断処理をさらに軽減することができると考えられる。
【0102】
このため、この実施例では、日々発生する事故の事例を収集(記憶)しておき、同様の事故の事例については1つにまとめて新しい事故の事例として登録(追加)するようにしてある。
【0103】
上述したように、事故の事例情報の事例データには、事例情報に事故ラベルが付され、事例情報には、理由、事故、属性情報、時間、場所および背景の各情報が含まれる。たとえば、「4月の或る早朝、勤務異動してきて間もない看護師がインスリン注射を担当しました。薬品庫からインスリンのバイアルを取り出し、いつものごとく注射器に予定量を扱い、患者さんの所へ出かけて注射してきました。その後、バイアルを薬品庫に戻すときに、「ノボリン30R(40)」と書いたバイアルがあります。自分が持っているインスリンのバイアルには「ノボリン30R(100)」と書かれてありました。患者さんに、「ノボリン30R(40)」のつもりで、「ノボリン30R(100)」の方を注射してしまいました。」という事故の事例がある。
【0104】
このような事故の事例では、事例情報は次のように示される。具体的には、事故の事例情報(1)として、{理由,事故詳細,職歴,部署経験,時間,場所,背景}={インスリン注射,事故,3年,1年,6:00,病室,異動直後,複数種類の薬品}と表わすことができる。ただし、事故詳細の情報は、{薬品,処置,事故の内容}={ノボリン30R(100),注射,過剰投与}である。また、背景の情報として、{異動直後,複数種類の薬品}が記述されている。
【0105】
また、詳細な具体例は省略するが、同様の事故の事例情報(2)として、{理由,事故,職歴,部署経験,時間,場所,背景}={ノボリン注射,事故,2年6月,10か月,11:00,病室,複数種類の薬品}が得られ、同様に事故の事例(3)として、{理由,事故,職歴,部署経験,時間,場所,背景}={インスリン注射,事故,10年,5年,16:00,病室,複数種類の薬品}が得られたと仮定する。ただし、事故の事例情報(2)および(3)において、事故詳細の情報は、{薬品,処置,事故の内容}={ノボリン30R(100),注射,過剰投与}と仮定する。
【0106】
たとえば、事故の事例情報(1)と事故の事例情報(2)とを学習処理によってまとめる(統合する)と、新しい事故の事例情報として、{理由,事故詳細,職歴,部署経験,時間,場所,背景}={注射,事故詳細,短期(3年未満),短期(1年以内),♯,病室,異動直後,複数種類の薬品}を得ることができる。ただし、事故詳細の情報は、{薬品,処置,事故の内容}={ノボリン30R(100),注射,過剰投与}である。
【0107】
また、事故の事例情報(1)と事故の事例情報(3)とを学習処理によってまとめると(事故の事例情報(1)−(3)をまとめる場合も同様)、新しい事故の事例として、{理由,事故詳細,職歴,部署経験,時間,場所,背景}={注射,事故,♯,♯,♯,病室,複数種類の薬品}を得ることができる。ただし、事故詳細の情報は、{薬品,処置,事故の内容}={ノボリン30R(100),注射,過剰投与}である。
【0108】
ここで、複数の事故の事例情報から1つの新しい事故の事例情報を作成する方法(学習方法)について説明することにする。まず、複数の事故の事例情報のうち、事故詳細の情報に含まれる「事故の内容」が同じものをグループ化する。次に、理由の情報と事故詳細の情報のうちの「事故の内容」とが入力された或る列を作成する。ここで作成される或る列は、理由の情報および事故詳細の情報のうちの「事故の内容」以外の事故(「事故の内容」を除く。),職歴,部署経験,時間,場所,背景の各情報が空欄にされた配列である。このとき、類義語辞書を参照することにより、理由の情報については、可能であれば総括名称にまとめられる。上述の例では、“インシュリン注射”と“ノボリン注射”との総括名称である“注射”が或る列の理由の情報として格納される。なお、「事故の内容」が同じものをグループ化しているため、或る列においても「事故の内容」として“過剰投与”が格納される。
【0109】
続いて、グループ化された複数の事故の事例情報の中で、事故詳細の情報に含まれる「処置」の内容が同じものまたは類似するものが存在するかどうかが判断される。ただし、「処置」の内容が類似するか否かは、知識DB30内の類義語辞書を参照して判断される。「処置」の内容が少なくとも類似する場合には、それらの事故詳細の情報に含まれる「薬品」または「器具」を或る列に格納するとともに、その「処置」を或る列に格納する。ただし、「薬品」,「器具」,「処置」の内容が同じである場合には、各事故の事例情報をまとめるべく、「薬品」,「器具」,「処置」の内容を或る列にそのまま格納し、「薬品」,「器具」,「処置」の内容が類似する場合には、各事故の事例情報をまとめるべく、それぞれの「薬品」,「器具」,「処置」の内容をリストにして或る列に格納する。
【0110】
ただし、「処置」の内容が非類似である場合には、事故詳細の情報に含まれる「薬品,器具」が同一のものまたは類似するものが有るかどうかが判断される。「薬品,器具」の内容が類似するか否かもまた、類義語辞書を参照して判断される。「薬品,器具」の内容が少なくとも類似する場合には、それらの事故詳細の情報に含まれる「処置」を或る列に格納するとともに、その「薬品,器具」を或る列に格納する。「薬品」,「器具」,「処置」を或る列に格納する方法は上記のとおりであるが、ここでは、前提として、「処置」が非類似であるため、各事故の事例情報についての「処置」の内容がリストにされて或る列に格納される。
【0111】
このようにして、事故詳細の情報が、グループ化された複数の事故の事例情報について統合されるのである。
【0112】
さらに、この実施例では、類義語辞書を参照して、類似する「処置」,「薬品」,「器具」が追加される。類似する他の「処置」を行う場合や類似する他の「薬品・器具」を使用する場合にも同様の事故が発生する可能性があると考えられるからである。したがって、たとえば、上述の事例情報には、(シグマート 2mg/V,シグマート 48mg/V)や(ミスリロール 5mg/10mL/A,ミスリロール 25mg/50mL/A)などの薬品が、事故詳細の情報における薬品のリストに追加される。したがって、或る列では「薬品」のリストとして、{ノボリン,シグマート,ミスリロール…}が記述される。
【0113】
次に、グループ化された複数の事故の事例情報の中で、理由の情報および事故詳細の情報以外の情報、すなわち職歴、部署経験、時間、場所、背景の各情報のうち、同じ内容のものがあるかどうかが判断される。
【0114】
同じ内容のものがあれば、同じ内容のものについては、それらの事故の事例情報をまとめるべく、そのままの内容を或る列に格納する。そして、同じ内容で無いものについては、それらを含むようにまとめた内容を或る列に格納する。たとえば、グループ化されたすべての事故の事例情報において、場所の情報が「レントゲン室」を示す場合には、或る列の場所の情報についても「レントゲン室」が記述される。また、たとえば、グループ化された3つの事故の事例情報において、職歴が、それぞれ、1年,半年,10か月である場合には、或る列の職歴については「1年未満」または「短期」などが記述される。他の情報についても同様である。
【0115】
この実施例では、職歴の情報については、3年未満(短期)、3年以上10年未満、10年以上(ベテラン)のような3つの区分でまとめる(分類する)ようにしてある。ただし、2区分以上をまとめる場合には、職歴は事故の要因とは関係ないとして、或る列の職歴の情報として「♯」が記述される。また、部署経験の情報については、1年未満(短期)、1年以上5年未満、5年以上(ベテラン)のような3つの区分でまとめるようにしてある。ただし、2区分以上をまとめる場合には、部署経験は事故の要因とは関係ないとして、或る列の部署経験の情報として「♯」が記述される。
【0116】
なお、これらの年月の数値は例示であり、実際には、この警告システム10が適用される病院等において実験するなどして経験的に得られた数値を設定すればよい。
【0117】
また、たとえば、時間の情報については、早朝(4時−8時)、午前(8時−12時)、午後(12時−16時)、夕方(16時−20時)、夜間(20時−4時)のような5つの区分でまとめるようにしてある。ただし、3区分以上をまとめる場合や隣接しない2区分をまとめる場合には、時間(帯)は事故の要因とは関係ないとして、或る列の時間の情報として「♯」が記述される。
【0118】
さらに、たとえば、場所の情報については、病室、トイレ、浴室、洗濯室、廊下、階段室、診察室、手術室、レントゲン室などの具体的な場所が一義的に決定されるため、これらのうちの2つないし3つを1つにまとめるようなことは困難である。したがって、グループ化された事例情報の場所の情報が異なる場合には、場所は事故の要因とは関係ないとして、或る列の場所の情報として「♯」が記述される。
【0119】
さらにまた、たとえば、背景の情報としては、上述したように、同じ名前の患者が存在すること、ナースコールで呼び出されたこと、忙しかったこと、複数種類の薬品が存在することなどの具体的な内容で決定されるため、これらのうちの2つないし3つを1つにまとめるようなことはできない。したがって、グループ化された事例情報の場所の情報が異なる場合には、背景の内容は事故の要因とは関係ないとして、或る列の背景の情報として「♯」が記述される。
【0120】
なお、これらは単なる例示であり、区分の仕方やまとめ方は適宜変更可能であり、警告システム10が設置(適用)される病院や病棟毎に設定することも可能である。
【0121】
このように、同じ事故の内容の事例情報では、理由の情報は、可能であれば総括名称でまとめられ、職歴、部署経験、時間、場所および背景の各情報については、同様の内容についてはまとめるようにし、事故詳細の情報に含まれる薬品・器具や処置については、同じ内容でない場合には、リストとしてそれぞれを記述することにより、或る程度の幅を持たせるようにしてある。このようにして、或る列の空欄を埋めることにより、新しい事故の事例情報が作成される。そして、作成された新しい事故の事例情報が知識DB30に登録(追加)される。
【0122】
具体的には、サーバ12は、図12ないし図14に示すフロー図に従って事例構築処理を実行する。なお、事例構築処理は、たとえば、事故の事例情報が所定個数(たとえば、30個)以上仮DB36に記憶された場合や一定期間(たとえば、30日)が経過した場合に、実行される。ただし、サーバ12の管理者等が必要に応じてこの事例構築処理を実行させるようにしてもよい。また、事例構築処理は、上述した全体処理(図8および図9)と並列的に実行される。
【0123】
図12に示すように、サーバ12は、事例構築処理を開始すると、ステップS81で、変数Countを初期化する(Count=0)。この変数Countは、事故の事例についてのグループの数をカウントするためのカウンタである。続くステップS83では、仮DB36からデータを読み込む。つまり、サーバ12は、仮DB36に記憶された事故の事例情報についてのデータをすべて読み出し、図示しないRAMのような内部メモリに記憶(ロード)する。次のステップS85では、変数iを初期化する(i=1)。この変数iは、ロードされた事故の事例情報についての事例データを識別可能にカウントするための変数である。
【0124】
続いて、ステップS87では、抜き出した(選択した)1つのデータを基準として、i番目のデータと比較する。つまり、読み込んだ事故の事例情報のうちの1つを基準の事例情報とし、他の事故の事例情報と順次比較するのである。次のステップS89では、基準の事例情報とi番目の事例情報とが同じ事故のものであるかどうかを判断する。つまり、比較する2つの事例情報が示す事故詳細の情報のうち、「事故の内容」が同じであるかどうかを判断するのである。ステップS89で“NO”であれば、つまり異なる事故のものであれば、そのままステップS95に進む。
【0125】
しかし、ステップS89で“YES”であれば、つまり同じ事故のものであれば、ステップS91で、基準の事例情報とi番目の事例情報とをグループにまとめる。たとえば、基準の事例情報の識別情報(事故ラベル)とi番目の事例情報の事故ラベルとがグループ化される。そして、ステップS93で、変数Countをインクリメントして(Count=Count+1)、ステップS95に進む。
【0126】
ステップS95では、すべてのデータと比較したかどうかを判断する。つまり、変数iが仮DB36から読み込んだ事故の事例情報のデータの総数以上であるかどうかを判断する。ステップS95で“NO”であれば、つまり比較していないデータが有れば、次の(i+1番目の)データと比較するべく、ステップS97で、変数iをインクリメントして(i=i+1)、ステップS87に戻る。一方、ステップS95で“YES”であれば、つまりすべてのデータと比較すれば、ステップS99で、変数Countが0よりも大きいかどうかを判断する。つまり、この事例構築処理では、同じ或いは類似する事例情報をまとめるようにしてあるため、少なくとも2つの事例情報をグループにまとめたかどうかを判断しているのである。
【0127】
ステップS99で“NO”であれば、つまり変数Countが0であれば、グループ化された事例情報が無いと判断して、そのまま事例構築処理を終了する。一方、ステップS99で“YES”であれば、つまり変数Countが1以上であれば、グループ化された事例情報が有ると判断して、図13に示すステップS101で、理由の情報および事故詳細の情報のうちの事故の内容のみを入力した或る列をグループDB38に作成する。
【0128】
続くステップS103では、グループの中で、処置が少なくとも類似するものがあるかどうかを判断する。なお、類似するか否かは、知識DB30に記憶された類義語辞書を参照して判断される。以下、同様である。ステップS103で“YES”であれば、つまりグループの中で、処置が少なくとも類似するものが有る場合には、ステップS105で、薬品または器具を或る列に格納し、ステップS107で、処置を或る列に格納して、ステップS115に進む。ただし、ステップS105では、グループ化された事例情報に記述された薬品または器具が同じ場合には、そのまま当該薬品または器具を或る列に格納する。また、ステップS105では、グループ化された事例情報に記述された薬品または器具が類似する(異なる)場合には、それぞれの事例情報に記述された薬品または器具をリストにして或る列に格納する。同様に、ステップS107では、グループ化された事例情報に記述された処置が同じ場合には、そのまま当該処置を或る列に格納する。また、ステップS107では、グループ化された事例情報に記述された処置が類似する(異なる)場合には、それぞれの事例情報に記述された処置をリストにして或る列に格納する。
【0129】
また、ステップS103で“NO”であれば、つまりグループの中で、処置が非類似であれば、ステップS109で、グループの中で、薬品または器具すなわち使用する物が少なくとも類似するものがあるかどうかを判断する。ステップS109で“NO”であれば、つまりグループの中で、薬品または器具が非類似であれば、新しい事例情報として追加するのは不適切であると判断して、図14に示すように、そのまま事例構築処理を終了する。
【0130】
しかし、ステップS109で“YES”であれば、つまりグループの中で、薬品または器具が少なくとも類似するものが有る場合には、ステップS111で、処置を或る列にリストとして格納し、ステップS113で、薬品または器具を或る列に格納して、ステップS115に進む。ただし、グループ化された事例情報の処置はステップS103で“NO”と判断されているため、非類似の処置である。したがって、ステップS111では、グループ化された事例情報のそれぞれに記述された処置をリストにして或る列に格納する。ただし、ステップS113では、グループ化された事例情報に記述された薬品または器具が同じ場合には、そのまま当該薬品または器具を或る列に格納する。また、ステップS113では、グループ化された事例情報に記述された薬品または器具が類似する(異なる)場合には、それぞれの事例情報に記述された薬品または器具をリストにして或る列に格納する。
【0131】
ステップS115では、処置、薬品または器具のそれぞれについて、似たものをリストに追加する。ここでは、類義語辞書を参照して、類似する処置や薬品,器具をリストに追加して、より多くの事例に当てはまる事例情報を作成するのである。そして、図14に示すステップS117では、グループの中で、理由および事故以外の情報、つまり職歴、部署経験、時間、場所および背景の各情報で同じものがあるかどうかを判断する。
【0132】
ステップS117で“YES”であれば、つまりグループの中で、理由および事故以外の情報で同じものが有る場合には、職歴、部署経験、時間、場所および背景の各情報について同じものはそのまま或る列に格納し、異なるものはそれらを含むようにまとめて或る列に格納して、ステップS123に進む。一方、ステップS117で“NO”であれば、つまりグループの中で、理由および事故以外の情報で同じものが無い場合には、職歴、部署経験、時間、場所よび背景の各情報について、異なるものを含むようにまとめて或る列に格納して、ステップS123に進む。ステップS123では、或る列すなわち新しい事故の事例情報についての事例データを知識DB30に登録(追加)して、知識構築処理を終了する。
【0133】
なお、この実施例では、新しく作成された事故の事例情報をそのまま知識DB30に追加するようにしたが、同じ事例情報が知識DB30に既に登録されている場合には、追加しないようにしてもよい。また、類似する事例情報が知識DB30に既に登録されている場合には、当該類似する事例情報と新しい事例情報とをまとめることにより、既に登録されている事例情報を再構築するようにしてもよい。ただし、まとめ方は、グループ化された複数の事例情報をまとめる方法(ステップS101−ステップS121)と同様である。
【0134】
また、図12−図14に示す事例構築処理では、1つのグループについてのみ説明したが、1つのグループについての事例構築処理を終了した後に、残りの事故の事例情報について再度事例構築処理を実行し、これを繰り返し、グループが作成できなくなった時点で、事例構築処理を終了するようにしてもよい。
【0135】
この実施例によれば、複数の事故の事例情報のうち、同じまたは類似するものを1つにまとめた新しい事故の事例情報を作成して知識DBに登録するので、同様の事故の事例情報が重複して作成されることがない。つまり、最適な事故の事例情報を構築することができる。したがって、最適な事故の事例情報に基づいて参照するシナリオを絞り込むことができ、警告を発するか否かの判断処理が大幅に軽減される。
【0136】
なお、この実施例では、看護師についての行動を監視し、看護師の行動に起因する事故を防止するようにしたが、医師や清掃員など、病院(病棟)内で勤務する他の人員の行動に起因する事故を防止するようにしてもよい。かかる場合には、医師や清掃員などに、端末16、中継器20、ピンマイク96、非接触センサ98、加速度センサ100および送信機110などを装着(所持)させる必要がある。また、看護師、医師および清掃員など、病院(病棟)内で勤務するすべての人員に起因する事故を防止するようにしてもよい。かかる場合には、事故の事例としては、すべての人員について記憶され、また、事故の事例に含まれる属性情報として、職務(医師、看護師、清掃員など)の区別も記述される。
【0137】
また、この実施例では、予め事故の事例についての事例データが知識DBに登録されていることを前提として説明したが、知識DBに予め事例データを登録しておく必要性はなく、初めから(1から)事例データを構築することもできる。
【0138】
さらに、この実施例では、看護業務についての事故の事例を構築する場合について説明したが、他の業務についての事故の事例を構築するようにしてもよい。たとえば、劇薬を扱うような試験(実験)施設ないし工場における業務や自動車などの組み立て作業を行う工場における業務の事故の事例を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1はこの発明の事例構築装置としてのサーバを含む警告システムの構成の一例を示す図解図である。
【図2】図2は図1に示すサーバの電気的な構成を示す図解図である。
【図3】図3は図1に示す看護師用端末の電気的な構成を示す図解図である。
【図4】図4は図1に示す通過センサの設置状況を説明するための図解図である。
【図5】図5は看護師用端末、中継器および送信機を看護師に装着した状態を示す図解図である。
【図6】図6は図1に示す通過センサの電気的な構成を示す図解図である。
【図7】図7は図1に示す中継器の電気的な構成を示す図解図である。
【図8】図8は図1に示すサーバの全体処理の一部を示すフロー図である。
【図9】図9は図1に示すサーバの全体処理の他の一部であって、図8に後続するフロー図である。
【図10】図10は図1に示すサーバの各サブ目標達成確認および警告処理の一部を示すフロー図である。
【図11】図11は図1に示すサーバの各サブ目標達成確認および警告処理の他の一部であって、図10に後続するフロー図である。
【図12】図12は図1に示すサーバの事例構築処理の一部を示すフロー図である。
【図13】図13は図1に示すサーバの事例構築処理の他の一部であって、図12に後続するフロー図である。
【図14】図14は図1に示すサーバの事例構築処理のその他の一部であって、図13に後続するフロー図である。
【符号の説明】
【0140】
10 …警告システム
12 …サーバ
16 …看護師用端末
18 …通過センサ
20 …中継器
22 …モニタ装置
24,26,28,30,32,34,36,38 …データベース
40,70,90 …CPU
42,92 …メモリ
44 …キースイッチ
48 …LCD
52 …振動モータ
54,78,102 …無線LAN
72,74 …受光モジュール
76 …RAM
96 …ピンマイク
98 …非接触センサ
100 …加速度センサ
110 …送信機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
或る業務についての事故の事例についての事例データを記録し、当該事例データを知識としてデータベースに構築する事例構築装置であって、
事故の内容と事故が発生したときの処置の内容と事故が発生したときに使用していた物の名称とを含む事故情報を少なくとも含む事例情報を記憶する事例情報記憶手段、
前記事例情報記憶手段に記憶された複数の事例情報のうち、事故の内容が一致する事例情報をグループ化するグループ化手段、
前記グループ化手段によってグループ化された複数の事例情報の中で、前記事故が発生したときの処置の内容または前記事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在するか否かを判断する事故情報判断手段、
前記事故情報判断手段によって前記事故が発生したときの処置の内容または前記事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、前記グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する新規事例作成手段、および
前記新規事例作成手段によって作成された新規の事例情報を前記データベースに登録する登録手段を備える、事例構築装置。
【請求項2】
前記新規事例作成手段は、前記事故情報判断手段によって前記事故が発生したときの処置の内容が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、当該類似する事例情報に含まれる事故が発生したときに使用していた物の名称のそれぞれを含むように、前記グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する、請求項1記載の事例構築装置。
【請求項3】
前記新規事例作成手段は、前記事故情報判断手段によって前記事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、当該類似する事例情報に含まれる事故が発生したときの処置の内容のそれぞれを含むように、前記グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成する、請求項1記載の事例構築装置。
【請求項4】
前記新規事例作成手段は、前記事故が発生したときの処置の内容または前記事故が発生したときに使用していた物の名称に類似する内容を追加する追加手段を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の事例構築装置。
【請求項5】
或る業務についての事故の事例についての事例データを記録し、当該事例データを知識としてデータベースに構築する事例構築装置の事例構築方法であって、
(a)事故の内容と事故が発生したときの処置の内容と事故が発生したときに使用していた物の名称とを含む事故情報を少なくとも含む事例情報を記憶し、
(b)前記ステップ(a)によって記憶された複数の事例情報のうち、事故の内容が一致する事例情報をグループ化し、
(c)前記ステップ(b)によってグループ化された複数の事例情報の中で、前記事故が発生したときの処置の内容または前記事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在するか否かを判断し、
(d)前記ステップ(c)によって前記事故が発生したときの処置の内容または前記事故が発生したときに使用していた物の名称が少なくとも類似する事例情報が存在することが判断されたとき、前記グループ化した事例情報を1つにまとめて新規の事例情報を作成し、そして
(e)前記ステップ(d)によって作成された新規の事例情報を前記データベースに登録する、事例構築方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−211238(P2009−211238A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51536(P2008−51536)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人情報通信研究機構「民間基盤技術研究促進制度/日常行動・状況理解に基づく知識共有システムの研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】