説明

二元細孔シリカの製造方法

【課題】珪酸アルカリ水溶液を用いる二元細孔シリカの製造において、その生産性を向上させ、また製造工程から発生する洗浄廃液量を削減し、且つ、高純度の二元細孔シリカが得られる二元細孔シリカの製造方法を提供する。
【解決手段】珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を含むゾル液を、該ゾル液中の相分離が過渡の状態でゲル化させた後、得られる湿潤ゲルに洗浄液を加え、加圧または減圧濾過することにより、該湿潤ゲルを洗浄することを特徴とする二元細孔シリカの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカの新規な製造方法に関する。詳しくは、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカの不純物量の低減が短時間で可能となるため、生産性が向上し、更に、廃液量削減が可能となる二元細孔シリカの新規な製造方法に関する。本発明により得られる二元細孔シリカは、クロマトグラフィー用カラム、固体触媒、触媒担体、吸着材、分離材などの材料として好適に利用される。
【背景技術】
【0002】
本発明において、二元細孔シリカとは、マイクロメートル領域の平均細孔径のマクロ細孔と、ナノメートル領域の平均細孔径のナノ細孔を有するシリカである。特に、本発明の製造方法により得られる二元細孔シリカは、連通したマクロ細孔を有するものである。
【0003】
従来知られている、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカは、特許文献1〜3において示されるように、原料としてテトラエトキシシランの如きケイ素アルコキシドや、珪酸アルカリ水溶液を用いて製造される。
【0004】
これらの方法において、ケイ素アルコキシドを原料とする場合には、不純物量が少なく、かかる不純物を除去するのに時間がかからないため、生産性はよいが、ケイ素アルコキシドが非常に高価であるため、生産コストが高くなるといった問題があった。
【0005】
一方、珪酸アルカリ水溶液を原料とする場合には、原料コストを安くすることが可能となるため、工業的に有利な方法である。このような珪酸アルカリ水溶液を原料とした二元細孔シリカの製造方法を具体的に示せば、特許文献2、3に示すように、以下の方法により行われる。
1)珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を含むゾル液を調製する。
2)該ゾル液を、温度、pH等を調整しながら、該ゾル液中の相分離(重合が進行中のシリカを含む相と水溶性有機化合物を含む溶媒相との相分離)が過渡の状態において、ゾルゲル反応によってゲル化させ、塊状の湿潤ゲルを得る。この操作によって、湿潤ゲル中に連通したマクロ細孔が形成され、最終的に得られるシリカが、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカとなる。
3)塊状の湿潤ゲルは不純物としてアルカリ金属を含むため、該湿潤ゲルをそのまま水に浸漬させ、放置することにより不純物の除去を行う。
4)不純物を除去した塊状の湿潤ゲルを、所定濃度の塩基性水溶液中に浸漬させ、放置する。この操作によって、湿潤ゲルが有するナノ細孔を、所望の平均細孔径に制御する。
5)湿潤ゲルを加熱処理により脱水し、二元細孔シリカを得る。
6)必要に応じて、粉砕、分級等により粒度を調整して、所望の粒子径の二元細孔シリカを得る。
【0006】
珪酸アルカリ水溶液を原料とする場合には、以上の通りであるが、上記3)に示した通り、ゲル化が生じる際(湿潤ゲルとなる際)に、不純物としてアルカリ金属を取り込むため、この不純物を取り除く必要があった。
この不純物を取り除く方法として、具体的に、特許文献2には、塊状の湿潤ゲルを洗浄する条件として、厚さ5mm〜1cm程度の湿潤ゲルを用いることが記載されており、1cm程度の大きさで12時間以上、水の中で放置することが示されている。水中で放置する理由は、湿潤ゲルは脆く、しかも該湿潤ゲルには連通するマクロ細孔が存在するため、圧力等をかけると、マクロ細孔が消失したり、形状が変形して濾過等の処理が困難になると考えられていたからである。
【0007】
しかしながら、水中で放置する方法では、不純物が静水中へ溶出するのに時間がかかるため、長時間の処理が必要となり、生産性が低下するため改善の余地があった。また、該方法で湿潤ゲルを洗浄する場合、二元細孔シリカ中に含まれる不純物の除去効率が悪く、非常に高純度の二元細孔シリカを得ることが困難であった。更に、二元細孔シリカの純度を高めようとした場合には、処理時間が長時間に及び、使用する洗浄水の量も多くなり、廃液量が多くなるといった問題もあった。
【0008】
【特許文献1】特開平3−8729号公報
【特許文献2】特開平2005−162504号公報
【特許文献3】国際公開第WO2002/85785号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、安価な珪酸アルカリ水溶液を原料として、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカの製造方法において、不純物であるアルカリ金属の除去にかかる時間を短縮し、生産性を向上させ、更に、高純度の二元細孔シリカが得られる製造方法を提供することにある。また、不純物を除去する際の洗浄液の量を低減することにより、廃液の量を低減することが可能な二元細孔シリカの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカの製造方法において、得られる湿潤ゲルを加圧または減圧濾過を利用して洗浄することにより、生産性を向上させるだけでなく、廃液量の削減が可能となり、且つ二元細孔シリカ中に含まれる不純物濃度を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を含むゾル液を、該ゾル液中の相分離が過渡の状態でゲル化させた後、得られる湿潤ゲルに洗浄液を加え、加圧または減圧濾過することにより、該湿潤ゲルを洗浄することを特徴とする二元細孔シリカの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明を行うことによって、二元細孔シリカの生産性を向上させるだけでなく、二元細孔シリカの製造工程より発生する廃液量の削減が可能となり、且つ二元細孔シリカ中に含まれる不純物濃度を効率的に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、連通するマクロ細孔を有する二元細孔シリカの製造方法であって、珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を含むゾル液を、該ゾル液中の相分離が過渡の状態でゲル化させた後、得られる湿潤ゲルを加圧または減圧濾過を利用して洗浄するものである。また、本発明において、二元細孔シリカは、前記洗浄した湿潤ゲルに、熟成処理、乾燥処理、焼成処理等を行うことにより得ることができる。また、必要に応じて水熱処理、粉砕等を行うこともできる。
【0015】
尚、上記のような湿潤ゲルの調製、その他の処理については、公知の方法、例えば前述の特許文献2、3記載の方法を何ら制限なく採用することができる。
【0016】
(原料の説明)
本発明において、シリカ源として使用する原料は、前述したように、安価で入手可能な珪酸アルカリであり、本発明は、この珪酸アルカリの水溶液を使用する。珪酸アルカリ水溶液の種類や濃度は特に限定されないが、JIS規格の珪酸アルカリ水溶液である珪酸ナトリウムJIS3号またはそれと同等のものがシリカ源として取扱いやすい。具体的には、SiO/NaOモル比が2.0〜4.0、珪酸濃度がSiOと換算で20〜40g/100ccであるものが好適である。
【0017】
本発明において、前記水溶性有機化合物は、下記に詳述するゾル液中で相分離を誘起するために適当な濃度の溶液を形成できるものであって、珪酸アルカリ水溶液中において均一に溶解することができるものを使用する。具体的には、高分子金属塩であるポリスチレンスルホン酸のナトリウム塩またはカリウム塩、高分子酸であって解離してポリアニオンとなるポリアクリル酸、高分子塩基であってポリカチオンを生ずるポリアクリルアミンまたはポリエチレンイミン、中性高分子であって主鎖にエーテル結合を持つポリエチレンオキシド、側鎖にヒドロキシル基を有するポリビニルアルコール、もしくはカルボニル基を有するポリビニルピロリドン、更には、界面活性剤であるアルキル硫酸塩、具体的には、ドデシル硫酸ナトリウム等も使用可能である。尚、アルキル硫酸塩を使用する場合には、極性有機溶媒、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性アルコール、アセトン、ピナコリン、アセトフェノン等のケトン類を併用して使用することが好ましい。これらのうち、水溶性有機化合物は、取扱が容易となる点で、ポリアクリル酸およびポリビニルアルコール、ドデシル硫酸ナトリウム等を使用することが好ましい。中でも、ポリアクリル酸は、分子量15,000〜300,000、好ましくは20,000〜150,000のものが好適である。
【0018】
本発明において、前記酸は、シリカ源となる珪酸アルカリの加水分解反応の触媒として働き、ゲル化を促進するために添加されるものである。本発明では、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸、または有機酸を使用することができる。中でも硝酸、硫酸を使用することが好ましい。
【0019】
(ゾル液の調製方法について)
本発明の二元細孔シリカの製造方法では、先ず、前記珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を含むゾル液を調製する。このゾル液の調整は、水を溶媒とし、該ゾル液は、前記珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を混合することにより得ることができる。
【0020】
本発明において、珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を混合し、ゾル液を調製する方法としては、攪拌槽を用いたバッチ方法、或いは連続方法を採用できる。ゾル液を調製するための具体的な混合方法としては、酸、水溶性有機化合物を混合した後に、珪酸アルカリ水溶液を添加して混合する方法、或いは酸に珪酸アルカリ水溶液を添加して混合した後に、水溶性有機化合物を添加して混合する方法等が挙げられる。ゾル液を調製する際に使用する攪拌機は、特に制限されるものではなく、公知の一般攪拌機や混合機を使用できる。撹拌機を例示すると、バッチ方式の場合においては、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を有する一般攪拌機、二軸遊星型攪拌機、ニーダー型攪拌機、ヘンシェル型攪拌機、円錐スクリュー型攪拌機、単軸リボン型攪拌機等が挙げられ、連続方法の場合においては、スタティックミキサー等のインライン型攪拌機、Y字型反応装置などが挙げられる。
【0021】
本発明において、前記方法により得られるゾル液中の各原料の組成(濃度)は、連通するマクロ細孔を有する二元細孔シリカを製造する上で非常に重要となる。つまり、ゾル液の組成が、該ゾル液中の相分離が過渡の状態において、該ゾル液をゲル化させられるかどうかの一要因となる。
【0022】
連通するマクロ細孔を有する二元細孔シリカを得るためには、ゾル液中の組成は、使用する珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸の種類、その他の製造条件によって異なるため、予め実験により詳細な各原料の組成範囲を確認しておくことが好ましい。例えば、珪酸アルカリ水溶液に3号珪酸ナトリウム水溶液、水溶性有機化合物にポリアクリル酸、酸に硫酸を用いた場合、好ましいゾル液の組成は、以下に示す組成である。即ち、ゾル液中のSiO含有率が5〜15質量%、またポリアクリル酸の濃度が2〜5質量%、更に硫酸の濃度が5〜9質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明において、ゾル液のpHは、4以下とすることが好ましく、特に1以下にすることが好ましい。該ゾル液のpHが4を超える場合には、シリカ粒子の析出が生じ、均質なゾル液を調製することが困難となる。従って、一旦均質なゾル液を調製した後、該ゾル液中の相分離が過渡の状態でゲル化させ、マクロ細孔及びシリカ骨格が三次元網目状に相互に絡み合った構造を有する(連通するマクロ細孔を有する)二元細孔シリカを得るためには、ゾル液を強酸性とすることが重要である。このゾル液のpH調整には、酸が使用できる。
【0024】
また、上記ゾル液を調整する際の温度、各原料を混合する際の温度は0〜80℃、好ましくは20〜70℃の範囲に調整することが好ましい。
【0025】
尚、上記にゾル液の調製の好ましい条件を示したが、所望する二元細孔シリカを得ようとした場合には、予め実験により上記条件等を詳細に確認しておくことが好ましい。
【0026】
(湿潤ゲルの製造について(ゲル化について))
本発明においては、前記方法により調製されたゾル液をゲル化させ、湿潤ゲルを得る。この湿潤ゲルは、前記の通り、ゾル液中の相分離、即ち、重合が進行しているシリカ分を含む相と、水溶性有機化合物を含む溶媒相との相分離が過渡の状態において、該ゾル液をゲル化させ、相分離が完全に起こる前の状態でその構造を固定させて得られるものである。
【0027】
本発明において、前記湿潤ゲルを得る方法を例示すると、前記ゾル液を密閉容器などに入れ、温度が0〜80℃、好ましくは20〜70℃の範囲、ゲル化に要する時間としては、10分〜1週間、好ましくは1時間〜48時間滞留させることにより行う。また、前記ゾル液に対して、比重、粘度、液温等を最適化した非水溶液中に該ゾル液を滴下し、該ゾル液をゲル化させる油中成形造粒法により、湿潤ゲルを得ることもできる。油中成形造粒法を採用することにより、ビーズ状の湿潤ゲルを得ることができる。通常、これら湿潤ゲルに含まれる水分は、50〜90質量%である。
【0028】
尚、前記に湿潤ゲルを得る方法の好ましい例を示したが、最終的に得られる二元細孔シリカにおいて、マクロ細孔の細孔径は、ゾル液の組成に大きく影響され、その他、ゾル液調製温度、ゲル化温度、時間にも影響されるため、所望するマクロ細孔の細孔径を有する二元細孔シリカを製造するためには、予め実験により、これらの条件を精密に決定しておくことが好ましい。
【0029】
本発明の湿潤ゲルは、下記に詳述する乾燥処理後、または焼成処理後に得られる二元細孔シリカのマクロ細孔の細孔径が0.5〜20μmとなるように、その製造時の条件を公知の方法、例えば、特許文献1〜3に記載の方法を採用して製造することが好ましい。上記範囲の連通するマクロ細孔を有する二元細孔シリカの製造条件においては、湿潤ゲルにおけるマクロ細孔の細孔径は、該二元細孔シリカのマクロ細孔よりも大きなものと考えられるため、下記に詳述する洗浄の際に、有効に働くものと推定される。
【0030】
(洗浄する湿潤ゲルの大きさについて)
本発明において、洗浄する湿潤ゲルの大きさは、洗浄装置等の能力により適宜決定してやればよいが、10mm以下、好ましくは5mm以下であることが好ましい。尚、本発明において、湿潤ゲルの大きさは、下記に詳述する方法で測定されるものであり、最大径が10mm以下であることが好ましい。かかる範囲の大きさの湿潤ゲルを洗浄することにより、下記に詳述する洗浄方法において、その効果がより発揮されるため好ましい。また、湿潤ゲルの大きさの下限は、連通したマクロ細孔が維持できる大きさまでであり、通常1μm以上である。
【0031】
本発明において、10mm以下の湿潤ゲルを得る方法は、特に制限されるものではなく、10mm以下の密閉容器中で湿潤ゲルとする方法、油中成形造粒法により10mm以下の湿潤ゲルとする方法、一旦湿潤ゲルを得た後、該湿潤ゲルを破砕して10mm以下の大きさにする方法等が採用される。中でも工業的な生産を考慮すると、湿潤ゲルを10mm以下の大きさに破砕する方法を採用することが好ましい。
【0032】
本発明において、湿潤ゲルを破砕する方法としては、得られる二元細孔シリカのマクロ細孔を潰さないような条件で破砕してやればよく、密閉容器中で製造した湿潤ゲルを、下記に詳述する攪拌機で10mm以下の大きさになるまで破砕してやればよい。また、湿潤ゲルを製造する際に、密閉容器を下記に詳述する撹拌機内とすれば、湿潤ゲルを撹拌機に移す操作がなくなり、工程が簡略化されると共に、生産性をより向上することができる。破砕する湿潤ゲルは、通常、水分を50〜90質量%含んでいるものであり、撹拌機内でゾル液を湿潤ゲルとしても、該湿潤ゲルの硬度が高くないものであり、撹拌機に強い負荷をかけることなく、容易に破砕することができる。
【0033】
本発明において、湿潤ゲルを撹拌機で破砕する場合には、助剤として液体を添加することが好ましい。助剤を添加して、湿潤ゲルを破砕することにより、該湿潤ゲルが撹拌羽根等の装置に付着することなく、破砕することができる。使用する助剤としては、水、アルコール等の金属塩、あるいは水溶性有機化合物を溶解させることができる液体であれば、制限なく使用することが可能である。中でも、後の洗浄等を考慮すると水が好ましい。また、使用する助剤の量は、湿潤ゲルの重量1に対して、0.3〜5倍であることが好ましい。
【0034】
本発明において、湿潤ゲルを破砕する破砕装置は、特に制限されるものではなく、公知の一般攪拌機や混合機を使用できる。例示すると、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を有する一般攪拌機、二軸遊星型攪拌機、ニーダー型攪拌機、ヘンシェル型攪拌機、円錐スクリュー型攪拌機、単軸リボン型攪拌機等が挙げられる。これらの装置を用い、マクロ細孔が潰されない条件で湿潤ゲルを破砕してやればよい。
【0035】
(湿潤ゲルの洗浄方法について)
本発明の最大の特徴は、上記方法により得られた湿潤ゲルに洗浄液を添加し、加圧または減圧濾過することにより、該湿潤ゲルを洗浄することである。
【0036】
珪酸アルカリを原料とする二元細孔シリカにおいて、前記湿潤ゲルは、不純物としてナトリウム等のアルカリ金属を多量に含んでいる。そのため、マクロ細孔を有する湿潤ゲルを乾燥する前に洗浄する必要がある。これは、洗浄することなしに湿潤ゲルをそのまま乾燥させると、乾燥が進むにつれて湿潤ゲルの崩壊が進み、マクロ細孔の崩壊、或いはナノ細孔の崩壊が起こり、所望する二元細孔シリカが得られないためである。
【0037】
従来の技術において、この洗浄は、水中に湿潤ゲルを放置することにより行われていた。具体的には、1cmの大きさのもので12時間以上放置することにより洗浄が行われていた。これは、上記湿潤ゲルが連通するマクロ細孔を有するため、圧力下で洗浄する、例えば、湿潤ゲルに洗浄液を加え、濾過装置を利用して、加圧または減圧しながら、洗浄と濾過を行う場合には、上記湿潤ゲルは脆いため、不向きであると考えられていたからである。つまり、湿潤ゲルが脆く、しかも該湿潤ゲル自体に連通するマクロ細孔が存在するため、該湿潤ゲルに圧力を加え洗浄すると、マクロ細孔が消失したり、簡単に湿潤ゲルが変形し、濾材を直に詰まらせるおそれがあると考えられていたからである。
【0038】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、湿潤ゲルに洗浄液を加え、濾過装置を利用して、加圧または減圧下で湿潤ゲルの洗浄と濾過を行った場合においても、上記のような問題は起こらず、それどころか従来の水中に放置して洗浄する方法よりも短時間で、しかも少ない水の量で不純物を低減できることが分かった。更に、加圧または減圧下で洗浄、濾過を行ったとしても、得られる二元細孔シリカの連通するマクロ細孔が消失しないことが明らかとなった。これらの理由は明らかではないが、本発明の対象となる湿潤ゲルが、連通するマクロ細孔を有することにより、かかる効果を発揮させているものと考えられる。つまり、圧力下で洗浄が出来ない一つの要因として考えられていた連通するマクロ細孔に、洗浄液が通液されるため、濾材を詰まらせることなく、しかも短時間で効率良く、不純物の低減が可能になると考えられる。これは、下記の実施例、比較例において示しているが、最終的に得られるシリカに、連通したマクロ細孔を有さない場合の湿潤ゲルと、本発明対象となる湿潤ゲルとの洗浄結果からも、そのように推定される。
【0039】
本発明において、湿潤ゲルを洗浄する洗浄液は、水を使用することが好ましく、不純物を溶解できる範囲であれば、水溶性の有機溶媒、酸等を含んだものであってもよい。また、使用する洗浄液の量は、特に制限されるものではなく、不純物が十分低減できる量を使用してやればよいが、加圧または減圧濾過して洗浄する場合には、湿潤ゲルの質量1に対して、2〜10倍の質量の洗浄液(水換算の質量)で十分に不純物を低減することができる。
【0040】
本発明において、前記湿潤ゲルに洗浄液を添加し、加圧または減圧濾過することにより、該湿潤ゲルを洗浄する方法は、具体的には以下の方法により行われる。
【0041】
先ず、湿潤ゲル、または、破砕された湿潤ゲル及び破砕時に添加した助剤を、ベルトフィルター、加圧濾過機、トレイフィルター、フィルタープレス、リーフフィルター等の通液によって湿潤ゲルが系外に流出しないような濾過装置(洗浄装置)内に導入する。これら濾過装置には、攪拌機を具備したものも好適に使用される。破砕時に助剤を使用したものは、該助剤を加圧または減圧濾過して分離した後、洗浄することもできる。尚、湿潤ゲルが系外に流出しないために使用する濾材には、金属製の金網、濾布、濾紙などを使用してやればよい。
【0042】
次いで、該濾過装置内で湿潤ゲルに洗浄液を加え、加圧または減圧濾過することにより、湿潤ゲルの洗浄を行い、更に不純物を含む洗浄液と湿潤ゲルの濾別を行う。また、湿潤ゲルの連通するマクロ細孔が消失しない条件下で、湿潤ゲルと洗浄液とを向流で接触させる前処理、または湿潤ゲルと洗浄液とを撹拌する前処理等を行った後、加圧または減圧濾過して湿潤ゲルを洗浄することもできる。本発明の対象なる湿潤ゲルは、連通するマクロ細孔を有するため、濾過装置内で洗浄と濾過を行うことにより、不純物を十分に低減できる。
【0043】
本発明において、加圧または減圧濾過にかかる際の圧力差、つまり、該湿潤ゲルの入口(洗浄液が入ってくる側)、及び出口(洗浄液が出て行く側)の間の圧力差は、0.02MPa以上であることが好ましい。圧力差を0.02MPa以上とすることにより、効率良く洗浄することができる。このような圧力差をかけても、本発明の湿潤ゲルは、短時間で通液することができ、更に、不純物をより低減することが可能となる。圧力差の上限は、湿潤ゲルの形状が変化しない範囲で適宜決定すればよく、通常、1MPa以下であることが好ましい。尚、湿潤ゲルを加圧または減圧濾過する際、操作性を考慮すると、湿潤ゲル層の厚みは、200mm以下、更には100mm以下であることが好ましい。
【0044】
また、本発明において、上記方法により洗浄を行う際には、湿潤ゲルの大きさを10mm以下にすることにより、洗浄効果が高くなるため好ましい。この場合、湿潤ゲルと湿潤ゲルとの間に通液される洗浄液もあるが、本発明の湿潤ゲルは、連通するマクロ細孔を有するため、該洗浄液もマクロ細孔に浸透し、より不純物を低減できるものと考えられる。
【0045】
更に、下記に詳述する乾燥処理後、または焼成処理後に得られる二元細孔シリカにおいて、連通したマクロ細孔の細孔径が0.5〜20μmとなる湿潤ゲルを洗浄することが好ましい。二元細孔シリカの連通したマクロ細孔の細孔径が上記範囲にあることにより、乾燥、焼成等により収縮していない湿潤ゲルにおいて、連通したマクロ細孔の細孔径は、少なくとも0.5〜20μmよりも大きくなるものと推定される。そのため、得られる二元細孔シリカの連通するマクロ細孔の細孔径が0.5μm以上であることにより、洗浄効果が高くなる。一方、該マクロ細孔の細孔径が20μm以下であることにより製造が容易となる。更に、得られる二元細孔シリカにおいて、連通したマクロ細孔の細孔径が0.5〜20μmであることにより、その用途が広がるため好ましい。
【0046】
本発明においては、湿潤ゲルの洗浄度合は以下の方法により確認できる。湿潤ゲルを洗浄した洗浄液の電気伝導度を測定することにより、該洗浄液中の不純物の量を確認できる。湿潤ゲル内に存在するアルカリ金属の濃度が高いほど、排出される洗浄液の電気伝導度は高くなる。洗浄装置(濾過装置)から排出される洗浄液の電気伝導度が、所望の電気伝導度まで下がることを確認することにより、湿潤ゲルの洗浄が完了したと判断できる。本発明においては、上記範囲の洗浄液量で十分に湿潤ゲル中の不純物(アルカリ金属)を低減できるが、このような方法で洗浄度合いを確認することにより、最適な量の洗浄液で洗浄できるようになる。
【0047】
(後処理の説明:熟成、乾燥、焼成、粉砕について)
本発明においては、前記方法により洗浄された湿潤ゲルを、次いで、ナノ細孔を制御する熟成処理を行うことが好ましい。この熟成処理は、洗浄が完了した湿潤ゲルに塩基性水溶液を含浸させて放置することにより行う。この熟成処理は、0.01〜10規定の塩基性水溶液中で0〜80℃の範囲において実施することが好ましい。また、熟成を行う場合の処理時間は、通常1時間〜3日の範囲において実施され、ナノ細孔の平均細孔径を適宜選択することができる。更に、熟成を実施する場合の反応容器には、攪拌操作が可能な装置を用いることもできる。具体的には、攪拌機が具備された反応装置、或いは反応容器自体が回転する反応装置等が挙げられる。攪拌機が具備された反応装置に使用される攪拌機を例示すると、プロペラ羽根、タービン羽根、パドル翼等を有する一般攪拌機、二軸遊星型攪拌機、ニーダー型攪拌機、ヘンシェル型攪拌機、円錐スクリュー型攪拌機、単軸リボン型攪拌機等が挙げられる。上記に示した攪拌操作を付加させることによって、ナノ細孔の制御が効率的に行うことが可能となる。
【0048】
これら熟成処理の条件は、所望するナノ細孔の平均細孔径となる時間を予め実験により求め、適宜選択して実施してやればよい。このような熟成処理によって、通常、二元細孔シリカのナノ細孔の平均細孔径は1nm〜20nmの範囲に制御される。
【0049】
本発明においては、前記熟成処理した湿潤ゲルを、塩基性水溶液と分離して脱液した後、乾燥処理を行うことが好ましい。湿潤ゲルの乾燥を行う際には、バッチ方法、または連続方法を採用できる。湿潤ゲルの乾燥において、乾燥に要する時間は、通常3日以内、好ましくは1日以内に実施される。湿潤ゲルの乾燥において、乾燥に要する温度は、通常30〜250℃、好ましくは50〜200℃の範囲において実施される。
【0050】
本発明において、乾燥に使用される装置としては、公知のものが特に制限なく使用される。例示すると、送風乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置、噴霧乾燥装置、回転乾燥装置、攪拌乾燥装置、流動層乾燥装置、バンド通気乾燥装置、通気回転乾燥装置、円筒乾燥装置、遠赤外線乾燥装置、凍結乾燥装置等が挙げられる。また、これらの乾燥装置にチョッパー等の解砕機、乾燥装置本体を振動させるための振動装置などを付与した装置を使用することが好ましい。これらを付与することによって、乾燥する湿潤ゲルの表面積向上、或いは湿潤ゲルの流動化が促進されるため、乾燥効率を向上させることができる。
【0051】
本発明においては、上記乾燥処理を行った二元細孔シリカを焼成処理することもできる。この焼成処理により、マクロ細孔、及びナノ細孔構造をより強固に維持できる。二元細孔シリカの焼成を実施する場合には、バッチ方法、または連続方法を採用できる。二元細孔シリカの焼成を実施する場合には、大気下、あるいは窒素、希ガスなどの不活性ガス雰囲気下のいずれの場合においても実施可能である。焼成を実施する場合の温度は、通常400〜1,100℃、好ましくは500〜900℃で実施される。
【0052】
本発明において、二元細孔シリカの焼成を行う装置としては、特に制限はないが、例示すると、箱型炉、ロータリーキルン炉、プッシャー型トンネル炉、ローラハース型トンネル炉、ベルト式連続炉、回転レトルト炉、ころがり焼成炉、エレベーター炉、真空炉などが挙げられる。
【0053】
また、本発明においては、水熱処理を行うこともできる。この水熱処理によりナノ細孔の細孔径を制御することができる。この水熱処理とは、湿潤ゲル、または乾燥、焼成後の二元細孔シリカの重量に対して、20〜40質量%のイオン交換水を存在させて、オートクレーブ内で100〜150℃の温度で実施することができる。また、水熱処理の時間は、目的とするナノ細孔が得られるまでの時間を予め実験により決定しておけばよい。この水熱処理は、湿潤ゲルの洗浄後、乾燥後、焼成後のいずれの段階で行ってもよいが、焼成後に行なうことが最も効果的である。
【0054】
本発明においては、乾燥処理または焼成処理が終了した二元細孔シリカを、必要に応じて更に破砕することにより、所望する粒径の粒子とすることもできる。二元細孔シリカを破砕する方法は特に限定されるものではなく、一般的に知られている破砕方法、例えばボールミル、アトリッションミル、ジェットミル、ロールミル、カッターミル、らいかい機、乳鉢等が用いられる。この操作によって、二元細孔シリカ粒子の平均粒子径は通常5μm〜10mmまで制御される。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例を示して、本発明を更に具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何ら制限されるものではない。
【0056】
(マクロ細孔の細孔径、ナノ細孔の細孔径、及び細孔容積の測定)
予め120℃、12時間乾燥させた測定用試料を、水銀圧入法(カンタクローム社製、POREMASTER−60)によりマクロ細孔の細孔径、ナノ細孔の細孔径、及び細孔容積を測定した。測定で得られた細孔径分布において、マイクロメートル領域に現れる最大ピークの孔径をマクロ細孔の細孔径とした。測定で得られた細孔径分布において、ナノメートル領域に現れる最大ピークの孔径をナノ細孔の細孔径とした。測定で得られた細孔径分布において、測定範囲で得られた細孔径に対する微分値を、全て積分することによって、細孔容積を決定した。
【0057】
(湿潤ゲル、及び二元細孔シリカの粒子径の測定)
湿潤ゲル、及び二元細孔シリカの粒子径をレーザー回折散乱法粒度分布計(コールター社製LS−230)により測定した。測定用の分散液の調製は「粒子計測技術」(粉体工学会編、1994年日刊工業社出版、23頁)に準じた。尚、二元細孔シリカの平均粒子径の算出については、重量積算分布の50%となる粒子径を平均粒子径とした。
【0058】
(洗浄廃液の電気伝導度の測定)
通液による洗浄によって発生した洗浄廃液を、電気伝導度計(メトラートレド製、MPC−227)により電気伝導度を測定した。
【0059】
(二元細孔シリカ中に含まれるナトリウム濃度の測定)
二元細孔シリカを白金皿に採り、フッ化水素酸を加えて加熱することによって二元細孔シリカを完全に揮散除去した。希硝酸に溶解させた測定液を用いて、原子吸光光度計(日立製作所製、偏光ゼーマン原子吸光光度計)によりナトリウムを定量した。
【0060】
(洗浄時間の算出)
湿潤ゲルを洗浄装置内(濾過機内)に導入し、通液を開始してから、洗浄が完了するまでに要した時間を洗浄時間とした。
【0061】
(洗浄倍率の算出)
湿潤ゲルを洗浄するのに使用した洗浄液の重量と、使用した湿潤ゲルの重量を用いて、以下の式により、洗浄倍率を算出した。
洗浄倍率(g/g)=(洗浄液重量)/(使用湿潤ゲル重量)
【0062】
実施例1
3号珪酸ナトリウム水溶液135.1g、平均分子量25,000のポリアクリル酸16.9g、60質量%硝酸96.1g、イオン交換水251.9gを用いて、プロペラ型攪拌機を用いて35℃で攪拌し均一なゾル液を調製した。このときのゾル液中に含まれるSiO含有率は8.1質量%、ポリアクリル酸の濃度は3.4質量%、硝酸の濃度は11.5質量%である。その後、密閉容器内にゾル液を投入し、35℃において静置しゲル化させた。得られた湿潤ゲルの成形体384gを、プロペラ型攪拌機を具備した攪拌槽内に投入した後、更にイオン交換水300gを該攪拌槽内に投入した。その後、攪拌機を起動し湿潤ゲルを破砕した。破砕した湿潤ゲルの粒子径は、最小径で4μm、最大径で1.7mmであった。その後、湿潤ゲルを含むスラリーを、濾紙を具備したヌッチェ型濾過機内に導入し、圧力差0.1MPaにおいて脱水操作を行い、濾過機内に湿潤ゲルのケーキ層を形成させた。その後、更に、洗浄液としてイオン交換水2,200gを該濾過機内に導入し、圧力差0.1MPaにおいて通水し、湿潤ゲルの洗浄を実施した。洗浄時間は17分、洗浄によって発生した洗浄廃液の電気伝導度は0.03mS/cm、洗浄倍率は5.7g/gであった。洗浄が完了した湿潤ゲルは、ヌッチェ型濾過機により脱水処理を行った後、湿潤ゲル80g、及び0.1規定のアンモニア水溶液80gを密閉容器に投入し、50℃で24時間静置保存を行い、熟成を行った。その後、アンモニア水溶液を除去した湿潤ゲルを、送風乾燥機により50℃、24時間において乾燥させた。更に、乾燥後の試料を、箱型の電気炉により焼成温度600℃、焼成時間2hで焼成させた。焼成後の試料を、乳鉢により粉砕後、平均粒子径128μmの二元細孔シリカ粒子を得た。該二元細孔シリカ粒子に含まれるナトリウム濃度は6ppmであった。得られた二元細孔シリカの細孔分布を測定したところ、マクロ細孔の細孔径は1.7μm、ナノ細孔の細孔径は6.7nm、細孔容積は2.2cc/gであった。粉砕後の試料を電子顕微鏡で観察したところ、図1に示すような連通したマクロ細孔を確認した。二元細孔シリカの作製条件、及び物性を表1に示す。
【0063】
実施例2
3号珪酸ナトリウム水溶液810g、平均分子量25,000のポリアクリル酸101g、60質量%硝酸577g、イオン交換水1512gを用いて、プロペラ型攪拌機を用いて室温で攪拌し均一なゾル液を調製した。このときのゾル液中に含まれるSiO含有率は8.1質量%、ポリアクリル酸の濃度は3.4質量%、硝酸の濃度は11.5質量%であり、実施例1と同様である。その後、ヘンシェル型攪拌機内に混合液を投入し、温度20℃において静置しゲル化させ、湿潤ゲルの成形体を作製した。更に、イオン交換水を1,500g反応容器内に投入した後、攪拌機を起動し湿潤ゲルを破砕した。破砕した湿潤ゲルの粒子径は最小径で2μm、最大径で1.6mmであった。その後、湿潤ゲル367gを含むスラリー800gを、濾紙を具備したヌッチェ型濾過機内に導入し、圧力差0.1MPaにおいて脱水操作を行い、濾過機内に湿潤ゲルのケーキ層を形成させた。その後、更にイオン交換水1,500gをヌッチェ型濾過機内に導入し、圧力差0.1MPaにおいて通水し、湿潤ゲルの洗浄を実施した。洗浄時間は18分、洗浄によって発生した洗浄廃液の電気伝導度は0.29mS/cm、洗浄倍率は4.1g/gであった。洗浄が完了した湿潤ゲルは、ヌッチェ型濾過機を用いて脱水処理を行った後、湿潤ゲル360g、及び0.1規定のアンモニア水溶液900gを、プロペラ型攪拌機を具備した密閉型反応容器中に投入し、50℃で5時間攪拌しながら、熟成を行った。その後、アンモニア水溶液を除去した湿潤ゲルを、送風乾燥機により50℃、24時間において乾燥させた。更に、乾燥後の試料を、箱型の電気炉により焼成温度600℃、焼成時間2hで焼成させた。焼成後の試料を、乳鉢を用いて粉砕後、平均粒子径135μmの二元細孔シリカ粒子を得た。該二元細孔シリカ粒子に含まれるナトリウム濃度は55ppmであった。得られた二元細孔シリカの細孔分布を測定したところ、マクロ細孔の細孔径は5.4μm、ナノ細孔の細孔径は6.3nm、細孔容積は1.7cc/gであった。粉砕後の試料を電子顕微鏡で観察したところ、連通したマクロ細孔を確認した。二元細孔シリカの作製条件、及び物性を表1に示す。
【0064】
実施例3
3号珪酸ナトリウム水溶液1080g、平均分子量25,000のポリアクリル酸135g、60質量%硝酸768g、イオン交換水2017gを用いて、プロペラ型攪拌機を用いて35℃で攪拌し均一なゾル液を調製した。このときのゾル液中に含まれるSiO含有率は8.1質量%、ポリアクリル酸の濃度は3.4質量%、硝酸の濃度は11.5質量%であり、実施例1と同様である。その後、密閉容器内に混合液を投入し、温度35℃において静置しゲル化させ、湿潤ゲルの成形体を作製した。得られた湿潤ゲルの成形体3210gを、プロペラ型攪拌機を具備した攪拌槽内に投入した後、更にイオン交換水3,300gを該攪拌槽内に投入した。その後、攪拌機を起動し湿潤ゲルを破砕した。破砕した湿潤ゲルの粒子径は最小径で2μm、最大径で1.5mmであった。湿潤ゲルを含むスラリーを、濾紙を具備した加圧濾過機内に導入し、圧力差0.2MPaにおいて脱水操作を行い、濾過機内に湿潤ゲルのケーキ層を形成させた。その後、更にイオン交換水18,000gを加圧濾過機内に導入し、圧力差0.2MPaにおいて通水し、湿潤ゲルの洗浄を実施した。洗浄時間は83分、洗浄によって発生した洗浄廃液の電気伝導度は0.25mS/cm、洗浄倍率は5.6g/gであった。洗浄が完了した湿潤ゲルは、加圧濾過機を用いて脱水処理を行った後、湿潤ゲル3040g、及び0.1規定のアンモニア水溶液3040gを、密閉容器中に投入し、50℃で24時間静置保存し、熟成を行った。その後、アンモニア水溶液を除去した湿潤ゲルを、解砕機を具備した連続式の気流式乾燥機により熱風温度200℃、投入流量13.5kg/h、処理時間11分において乾燥させた。更に、乾燥後の試料を、箱型の電気炉を用いて焼成温度600℃、焼成時間2hで焼成させた。焼成後の試料を、乳鉢を用いて粉砕後、平均粒子径58μmの二元細孔シリカ粒子を得た。該二元細孔シリカ粒子に含まれるナトリウム濃度は47ppmであった。得られた二元細孔シリカの細孔分布を測定したところ、マクロ細孔の細孔径は1.2μm、ナノ細孔の細孔径は7.4nm、細孔容積は3.4cc/gであった。粉砕後の試料を電子顕微鏡で観察したところ、連通したマクロ細孔を確認した。二元細孔シリカの作製条件、及び物性を表1に示す。
【0065】
比較例1
実施例1と同様の方法でゾル液を調製した後、密閉容器内に該ゾル液を投入し、35℃において静置しゲル化させ、湿潤ゲルの成形体384gを得た。その後、該湿潤ゲルを、プロペラ型攪拌機を具備した攪拌槽内に投入した後、更にイオン交換水300gを該攪拌槽内に投入し、攪拌機を起動し湿潤ゲルを破砕した。破砕した湿潤ゲルの粒子径は最小径で3μm、最大径で1.6mmであった。標準篩を用いて湿潤ゲルとイオン交換水を分離した後、得られた湿潤ゲル384gを、イオン交換水2,200gを用いて、保存容器内で、浸漬させた状態で洗浄を行った。洗浄時間は1日、洗浄によって発生した洗浄廃液の電気伝導度は1.15mS/cm、洗浄倍率は5.7g/gであった。洗浄が完了した湿潤ゲルは、標準篩を用いて脱水処理を行った後、湿潤ゲル80g、及び0.1規定のアンモニア水溶液80gを、密閉容器中に投入し、50℃で24時間静置保存し、熟成を行った。その後、アンモニア水溶液を除去した湿潤ゲルを、送風乾燥機により50℃、24時間において乾燥させた。更に、乾燥後の試料を、箱型の電気炉を用いて焼成温度600℃、焼成時間2hで焼成させた。焼成後の試料を、乳鉢を用いて粉砕後、平均粒子径123μmの二元細孔シリカ粒子を得た。該二元細孔シリカ粒子に含まれるナトリウム濃度は217ppmであった。得られた二元細孔シリカの細孔分布を測定したところ、マクロ細孔の細孔径は2.0μm、ナノ細孔の細孔径は6.0nm、細孔容積は2.1cc/gであった。粉砕後の試料を電子顕微鏡で観察したところ、連通したマクロ細孔を確認した。二元細孔シリカの作製条件、及び物性を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例1〜3からも明らかなように、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカの製造において、湿潤ゲルを加圧、あるいは減圧濾過によって洗浄した場合、洗浄に要する時間が短く、二元細孔シリカの生産性が向上したことが明らかである。また、実施例1〜3においては、高純度の二元細孔シリカが得られた。
【0068】
一方、比較例1は、従来実施されていた洗浄方法であり、実施例1と同等の粒度を有する湿潤ゲルを静水中に浸漬させて、静置保存することによって洗浄を行ったものである。実施例の洗浄方法と比較して洗浄に要する処理時間が長くなっても、二元細孔シリカに残存するナトリウム濃度が高かった。この結果から、実施例と同程度の純度の二元細孔シリカを得るためには、洗浄液をより多く使用しなければならないことが明らかである。
【0069】
実施例4
3号珪酸ナトリウム水溶液128.3g、平均分子量25,000のポリアクリル酸16.5g、95質量%硫酸37.9g、イオン交換水317.3gを用いて、プロペラ型攪拌機を用いて50℃で攪拌し均一なゾル液を調製した。このときのゾル液中に含まれるSiO含有率は7.7質量%、ポリアクリル酸の濃度は3.3質量%、硫酸の濃度は7.2質量%である。その後、密閉容器内にゾル液を投入し、50℃において静置しゲル化させた。得られた湿潤ゲルの成形体380gを、プロペラ型攪拌機を具備した攪拌槽内に投入した後、更にイオン交換水700gを該攪拌槽内に投入した。その後、攪拌機を起動し湿潤ゲルを破砕した。破砕した湿潤ゲルの粒度は最小径で2μm、最大径で1.6mm(最大径)であった。湿潤ゲルを含むスラリーを、濾紙を具備した加圧濾過機内に導入し、圧力差0.2MPaにおいて脱水操作を行い、濾過機内に湿潤ゲルのケーキ層を形成させた。その後、更にイオン交換水2,000gを加圧濾過機内に導入し、圧力差0.2MPaにおいて通水し、湿潤ゲルの洗浄を実施した。洗浄時間は8分、洗浄によって発生した洗浄廃液の電気伝導度は0.29mS/cm、洗浄倍率は5.3g/gであった。洗浄が完了した湿潤ゲルは、加圧濾過機により脱水処理を行った後、湿潤ゲル80g、及び0.1規定のアンモニア水溶液80gを密閉容器中に投入し、50℃で24時間静置保存を行い、熟成を行った。その後、アンモニア水溶液を除去した湿潤ゲルを、送風乾燥機により50℃、24時間において乾燥させた。更に、乾燥後の試料を、箱型の電気炉により焼成温度600℃、焼成時間2hで焼成させた。焼成後の試料を、乳鉢により粉砕後、平均粒子径137μmの二元細孔シリカ粒子を得た。該二元細孔シリカ粒子に含まれるナトリウム濃度は54ppmであった。得られた二元細孔シリカの細孔分布を測定したところ、マクロ細孔の細孔径は2.4μm、ナノ細孔の細孔径は6.2nm、細孔容積は1.8cc/gであった。粉砕後の試料を電子顕微鏡で観察したところ、連通したマクロ細孔を確認した。二元細孔シリカの作製条件、及び物性を表2に示す。
【0070】
比較例2
実施例4と同量の3号珪酸ナトリウム水溶液、及び平均分子量25,000のポリアクリル酸を用い、更に、95質量%硫酸25.3g、イオン交換水329.9gを用いて、プロペラ型攪拌機を用いて50℃で攪拌し均一なゾル液を調製した。このときのゾル液中に含まれるSiO含有率は7.7質量%、ポリアクリル酸の濃度は3.3質量%、硫酸の濃度は4.8質量%である。その後、密閉容器内に混合液を投入し、50℃において静置しゲル化させた。実施例4と同様に、得られた湿潤ゲルの成形体380gを用いて、プロペラ型攪拌機を具備した攪拌槽内に投入した後、更にイオン交換水700gを該攪拌槽内に投入した。その後、攪拌機を起動し湿潤ゲルを破砕した。破砕した湿潤ゲルの粒子径は最小径で7μm、最大径で1.8mmであった。その後、湿潤ゲルを含むスラリーを、濾紙を具備した加圧濾過機内に導入し、実施例4と同様に、圧力差0.2MPaにおいて脱水操作を行い、濾過機内に湿潤ゲルのケーキ層を形成させた。その後、実施例4と同様に、更にイオン交換水2,000gを該濾過機内に導入し、圧力差0.2MPaにおいて通水し、湿潤ゲルの洗浄を実施した。洗浄時間は143分、洗浄によって発生した洗浄廃液の電気伝導度は3.10mS/cm、洗浄倍率は5.3g/gであった。洗浄が完了した湿潤ゲルは、加圧濾過機により脱水処理を行った後、湿潤ゲル80g、及び0.1規定のアンモニア水溶液80gを密閉容器に投入し、50℃で24時間静置保存を行い、熟成を行った。その後、アンモニア水溶液を除去した湿潤ゲルを、送風乾燥機により50℃、24時間において乾燥させた。更に、乾燥後の試料を、箱型の電気炉により焼成温度600℃、焼成時間2hで焼成させた。焼成後の試料を、乳鉢により粉砕後、平均粒子径167μmのシリカ粒子を得た。該シリカ粒子に含まれるナトリウム濃度は586ppmであった。得られたシリカの細孔分布を測定したところ、マクロ細孔はなく、ナノ細孔の細孔径は6.1nm、細孔容積は1.1cc/gであった。粉砕後の試料を電子顕微鏡で観察したところ、図2に示されるように、マクロ細孔は確認されなかった。シリカの作製条件、及び物性を表2に示す。
【0071】
比較例3
実施例4と同量の3号珪酸ナトリウム水溶液、及び平均分子量25,000のポリアクリル酸を用い、更に、95質量%硫酸48.9g、イオン交換水306.3gを用いて、プロペラ型攪拌機を用いて50℃で攪拌し均一な混合液を作製した。このときのゾル液中に含まれるSiO含有率は7.7質量%、ポリアクリル酸の濃度は3.3質量%、硫酸の濃度は9.3質量%である。その後、密閉容器内に混合液を投入し、50℃において静置しゲル化させた。実施例4と同様に、得られた湿潤ゲルの成形体380gを、プロペラ型攪拌機を具備した攪拌槽内に投入した後、更にイオン交換水700gを該攪拌槽内に投入した。その後、攪拌機を起動し湿潤ゲルを破砕した。破砕した湿潤ゲルの粒度は最小径で4μm、最大径で1.6mmであった。湿潤ゲルを含むスラリーを、濾紙を具備した加圧濾過機内に導入し、実施例4と同様に、圧力差0.2MPaにおいて脱水操作を行い、濾過機内に湿潤ゲルのケーキ層を形成させた。その後、実施例4と同様に、更にイオン交換水2,000gを加圧濾過機内に導入し、圧力差0.2MPaにおいて通水し、湿潤ゲルの洗浄を実施した。洗浄時間は194分、洗浄によって発生した洗浄廃液の電気伝導度は3.51mS/cm、洗浄倍率は5.3g/gであった。洗浄が完了した湿潤ゲルは、湿潤ゲル80g、及び0.1規定のアンモニア水溶液80gを密閉容器に投入し、50℃で24時間静置保存を行い、熟成を行った。その後、アンモニア水溶液を除去した湿潤ゲルを、送風乾燥機により50℃、24時間において乾燥させた。更に、乾燥後の試料を、箱型の電気炉により焼成温度600℃、焼成時間2hで焼成させた。焼成後の試料を、乳鉢により粉砕後、平均粒子径178μmの二元細孔シリカ粒子を得た。該二元細孔シリカ粒子に含まれるナトリウム濃度は664ppmであった。粉砕後の試料を電子顕微鏡で観察したところ、図3に示すような、10μm程度の孤立したマクロ細孔が確認された。二元細孔シリカの作製条件、及び物性を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
実施例4は、連通したマクロ細孔が有する二元細孔シリカの製造において、湿潤ゲルを加圧濾過によって洗浄したものであり、その場合、洗浄に要する時間が短く、二元細孔シリカの生産性が向上したことが明らかである。また、二元細孔シリカの製造工程より発生した洗浄廃液量も削減されたばかりでなく、二元細孔シリカ中に含まれる不純物であるナトリウム濃度が低い。
【0074】
比較例2、3は、湿潤ゲルよりシリカを製造する方法において、湿潤ゲルを実施例4と同等程度の粒度に破砕し、その後該湿潤ゲルを実施例4と同等の条件で加圧濾過によって洗浄したものである。比較例2は、硫酸濃度を低くし、マクロ細孔を有さない湿潤ゲルの洗浄結果である。一方、比較例3は、硫酸濃度が高く、マクロ細孔は有するが、連通していない細孔(孤立細孔)を有する湿潤ゲルの洗浄結果である。
【0075】
比較例2、3とも、実施例4と比較して洗浄に要する処理時間が長くなっているにもかかわらず、残存するナトリウム濃度が高いことが明らかとなった。
【0076】
以上のことから、連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカの製造方法において、湿潤ゲルを加圧あるいは減圧濾過によって洗浄を行うことにより、二元細孔シリカの生産性が向上するだけでなく、洗浄廃液量の削減も可能であり、且つ純度の高い二元細孔シリカが得られることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1の連通したマクロ細孔を有する二元細孔シリカの電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例2のマクロ細孔を有さないシリカの電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例3の孤立したマクロ細孔を有するシリカの電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸アルカリ水溶液、水溶性有機化合物、及び酸を含むゾル液を、該ゾル液中の相分離が過渡の状態でゲル化させた後、得られる湿潤ゲルに洗浄液を加え、加圧または減圧濾過することにより、該湿潤ゲルを洗浄することを特徴とする二元細孔シリカの製造方法。
【請求項2】
湿潤ゲルの大きさを10mm以下にして洗浄することを特徴とする請求項1に記載の二元細孔シリカの製造方法。
【請求項3】
加圧または減圧濾過における圧力差を0.02〜1MPaとすることを特徴とする請求項1又は2に記載の二元細孔シリカの製造方法。
【請求項4】
得られる二元細孔シリカの連通したマクロ細孔の細孔径が、0.5〜20μmの範囲となることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の二元細孔シリカの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−269588(P2007−269588A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98279(P2006−98279)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】