説明

二層めっき基板の密着性評価方法

【課題】 二層めっき基板における金属被膜層とポリイミド基板層との間の密着性について、簡便且つ迅速な方法により、剥離モードを含めて評価することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 二層めっき基板を金属被膜層とポリイミド基板層の間で剥離した後、得られた金属被膜層側の剥離界面を顕微赤外分光法により、特に全反射プリズムを試料である金属被膜層側の剥離界面に密着させる全反射吸収分光法を用いて測定し、1725〜1740cm−1で検出されるポリイミド由来の官能基であるC=O伸縮振動のピーク強度に基づいて剥離モードを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層めっき基板の評価方法に関し、更に詳しくは二層めっき基板における金属被膜層とポリイミド基板層の間の密着性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性を有し、また機械的、電気的及び化学的特性においても他のプラスティック材料に比べ遜色のないことから、例えばプリント配線板(PWB)、フレキシブルプリント配線板(FPC)、テープ自動ボンディング用テープ(TAB)、チップオンフィルム(COF)等の電子部品用の絶縁基板材料として多用されている。これらPWB、FPC、TAB、COFは、フィルム状ポリイミド基板の少なくとも片面に導体層として一般的に銅を被覆した金属被膜ポリイミド基板を使用し、その金属被膜をフォトリソグラフィー法によってパターニングして得られる。
【0003】
ところで、上記金属被膜ポリイミド基板には、ポリイミド基板の表面に接着剤層を介して金属箔を貼り合わせた三層基板と、ポリイミド基板の表面に接着剤を用いずに金属層を設けた二層基板とがある。更に、この二層基板としては、金属箔の表面に樹脂の塗布と熱硬化によりポリイミド樹脂層を形成して製造されるものと、ポリイミド基板の表面に乾式めっき法や無電解めっき法により導電性を有する極薄のシード層を設け、そのシード層を介して電気めっき法により銅などの金属層を形成して製造されるものとがあり、後者を二層めっき基板と称している(特許文献1参照)。
【0004】
近年では、電子機器における高性能化、高機能化の要求が高まり、それに伴って使用される回路基板材料の高密度化が進み、その配線ピッチ(配線幅/スペース幅)は益々狭くなっている。このよう事情から、金属被膜ポリイミド基板として導体層である金属被膜の厚みを薄く且つ自由にコントロールできる二層めっき基板が注目されている。かかる二層めっき基板の高密度化には、配線の幅と間隔を小さくする、即ちファインピッチ化することが必要であるが、そのためには金属被膜層とポリイミド基板層の間の高い密着性が求められる。
【0005】
一般に、二層めっき基板における金属被膜層とポリイミド基板層の密着性の評価方法としては、JIS C 6471「フレキシブルプリント配線板用銅張積層板試験方法」や、JIS C 6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に規定されている90°方向及び180°方向の引き剥がし方法によるピール強度などが用いられている。しかし、上記ピール強度による密着性評価では、最も密着力が低い層がどこであるか、即ち引き剥がされた場所が金属被膜層とポリイミド基板層の界面か又はそれらの層内部であるのか判別できなかった。
【0006】
即ち、二層めっき基板の金属被膜層とポリイミド基板層を剥離したときの剥離モードについては、一般的に、ポリイミド基板の内部破壊で剥離する凝集破壊モード、ポリイミド基板層と金属被膜層の界面で剥離する界面破壊モード、及び凝集破壊モードと界面破壊モードの混合した混合モードとに分類されている。二層めっき基板の密着性評価において、上記3種の剥離モードの何れに属していのるかを判定することは、剥離が起こる場所、即ち密着性が最も劣る場所の解析とその対策検討に関する点で重要である。
【0007】
一方、界面表面分析手法については、電子顕微鏡観察(SEM)やガスクロマトグラフ法などが知られている。しかし、これらの評価方法では試料に対して染色や分解などの前処理が必要であるため(非特許文献1参照)、試料を破壊せずに分析することはできず、また分析操作も煩雑で時間がかかるという問題があった。また、電子顕微鏡観察では、反射電子像を用いてポリイミド構成元素であるC、O、Nなどの軽元素分布を確認することは可能であるが、定量化することは難しかった。更に、ガスクロマトグラフ法はバルクの分析であるため、必ずしも界面情報を反映していないなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−205799号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本分析化学会高分子分析研究懇談会編,「高分子分析ハンドブック」,朝倉書店,2008年9月,p.142,p.333
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来の事情に鑑みてなされたものであり、二層めっき基板における金属被膜層とポリイミド基板層との間の密着性について、簡便且つ迅速な方法により、金属被膜層とポリイミド基板層を剥離したときの剥離モードを含めて評価することが可能な、二層めっき基板の密着性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明が提供する二層めっき基板の密着性評価方法は、二層めっき基板を金属被膜層とポリイミド基板層の間で剥離した後、得られた金属被膜層側の剥離界面を顕微赤外分光法により測定し、1725〜1740cm−1で検出されるポリイミド由来の官能基であるC=Oの伸縮振動のピーク強度に基づいて密着性を評価することを特徴とする。
【0012】
上記本発明による二層めっき基板の密着性評価方法では、前記顕微赤外分光法の測定において、全反射プリズムを試料である金属被膜層側の剥離界面に密着させる全反射吸収分光法(Attenuated Total Reflectance(ATR)法)を使用することが好ましい。
【0013】
また、上記本発明による二層めっき基板の密着性評価方法では、前記C=Oの伸縮振動のピーク強度に基づいて金属被膜層とポリイミド基板層の間の剥離モードを判定し、得られた剥離モードにより密着性を評価することができる。その場合、前記金属被膜層とポリイミド基板層の間の剥離モードは、C=Oの伸縮振動のピーク強度が0.08以上の場合を凝集破壊モード、0.04未満の場合を界面破壊モード、0.04以上0.08未満の場合を界面破壊と凝集破壊の混合モードとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二層めっき基板の金属被膜層とポリイミド基板層の間の密着性を、測定試料に対して染色や分解などの前処理を必要としない簡便な方法によって、迅速に評価することができる。特に金属被膜層とポリイミド基板層との間の剥離モードを判定することができるため、ファインピッチ化に好適な二層めっき基板の密着力評価において迅速な解析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】凝集破壊モードの具体例を示す赤外吸収スペクトルである。
【図2】界面破壊モードの具体例を示す赤外吸収スペクトルである。
【図3】図1の凝集破壊モードを示す試料の電子顕微鏡での反射電子像写真である。
【図4】図2の界面破壊モードを示す試料の電子顕微鏡での反射電子像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の二層めっき基板の密着性評価方法では、二層めっき基板における金属被膜層とポリイミド基板層の間で剥離したとき、その金属被膜層側の剥離界面を顕微赤外分光法により測定する。この測定により、金属被膜層側の剥離界面に残渣として残っているポリイミドのイミド環が有するC=Oの伸縮振動の吸光度が得られるので、そのピーク強度から金属被膜層とポリイミド基板層の間の密着性を評価し、更には剥離モードを判定するものである。
【0017】
具体的な測定方法としては、まず、二層めっき基板を金属被膜層とポリイミド基板層の間で剥離する。剥離方法については特に限定されないが、JIS C 6471「フレキシブルプリント配線板用銅張積層板試験方法」やJIS C 6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に規定されている90°方向及び180°方向の引き剥がし方法によれば、同時にピール強度を測定することができるため便利である。
【0018】
二層めっき基板を金属被膜層とポリイミド基板層の間で剥離した後、得られた金属被膜層側を試料として、その剥離界面を公知の顕微赤外分光法によって測定する。顕微赤外分光法による測定には市販の顕微赤外分光装置を使用して、試料である剥離後の金属被膜層側を破壊せずに測定することができる。特に全反射吸収分光法(ATR法)により、全反射プリズムを試料である金属被膜層側の剥離界面に密着させて測定することが好ましい。尚、上記全反射プリズムとしては、一般的に使用されているGe、ZnSeなどの使用が可能である。
【0019】
顕微赤外分光法による赤外吸収スペクトルのうちポリイミドのイミド環に由来する代表的なピークとしては、1770〜1780cm−1付近で検出されるイミド環の伸縮振動のピークと、1725〜1740cm−1で検出されるC=Oの伸縮振動のピークとがある。通常は1725〜1740cm−1で検出されるC=Oの伸縮振動のピークがより強く検出されるため、本発明では上記C=O伸縮振動のピーク強度に基づいて密着性を評価する。即ち、1725〜1740cm−1で検出されるC=O伸縮振動のピーク強度が高いほど、二層めっき基板の密着性が優れていると評価することができる。
【0020】
また、本発明によれば、金属被膜層とポリイミド基板層の間の剥離モードを判定することができる。具体的には、金属被膜層とポリイミド基板層の間の剥離モードについて、本発明では、ポリイミド由来の官能基であるC=Oの伸縮振動のピーク強度に基づいて、該ピーク強度が0.08以上である場合を「凝集破壊モード」、0.04未満である場合を「界面破壊モード」、そして0.04以上0.08未満の場合を「界面破壊と凝集破壊の混合モード」と判定する。
【0021】
一般的に、PWBやFPCなどの金属被膜ポリイミド基板における接着分野では、剥離した金属被膜層側に均一にポリイミド残渣が被着している場合を「凝集破壊モード」といい、剥離した金属被膜層側にポリイミド残渣が被着していないか又は被着していても不均一である場合を「界面破壊モード」と称している。金属被膜層とポリイミド基板層とからなる二層めっき基板においては、特にポリイミド基板にプラズマ処理などの前処理を実施しない場合、ピール強度などで測定した密着性が高いと凝集破壊モードで剥離することが知られている。
【0022】
実際に、二層めっき基板を金属被膜層とポリイミド基板層の間で剥離して得られた金属被膜層側を試料として、その剥離界面を顕微赤外分光法によって測定した結果の代表的なスペクトルを図1及び図2に示す。また、図1及び図2のスペクトルを得た各試料について、それぞれ電子顕微鏡で観察した際の反射電子像の写真を図3及び図4に示す。
【0023】
図1でのC=O伸縮振動のピーク強度は約0.1であることから、この試料の剥離モードは本発明により「凝集破壊モード」と判定できる。一方、この試料の電子顕微鏡での反射電子像写真である図3から、剥離モードは「凝集破壊モード」であることが分かる。即ち、金属被膜層側の剥離界面にポリイミド基板層に由来する軽元素、即ちポリイミドが全体的に残留し、金属被膜層がほとんど露出していないため、反射電子像の視野全体が暗いコントラストで表示されている。
【0024】
また、図2でのC=O伸縮振動のピーク強度は約0.03であることから、この試料の剥離モードは本発明により「界面破壊モード」と判定される。一方、この試料の電子顕微鏡での反射電子像写真である図4から、剥離モードは「界面破壊モード」であることが分かる。即ち、金属被膜層側の剥離界面にポリイミドに由来する軽元素が殆ど無い、即ちポリイミドの残留が見られず、金属被膜層が露出しているため、反射電子像の視野全体が明るいコントラストで表示されている。
【実施例】
【0025】
[実施例1]
銅被膜層とポリイミド基板層からなる二層めっき基板Aを、JIS C 6471「フレキシブルプリント配線板用銅張積層板試験方法」に規定された90°方向の引き剥がし方法により、銅被膜層とポリイミド基板層の間で剥離してピール強度を測定したところ、90°ピール強度は502N/mであった。
【0026】
次に、上記のピール強度測定での引き剥がし方法により銅被膜層とポリイミド基板層の間で剥離して得られた金属被膜層側を試料とし、日本分光(株)製の顕微赤外分光装置(FTIR680Plus、IRT−30)を使用して、全反射吸収分光法(ATR法)を用いた顕微赤外分光法により、全反射プリズムを試料である金属被膜層側の剥離界面に密着させて測定した。尚、測定条件は、入射角50〜60°、アパーチャ160×160μm、反射回数1回、積算回数100回、解像度4cm−1とした。また、ATR法での全反射プリズムはZnSeを用いた。
【0027】
上記顕微赤外分光法により得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1735cm−1で検出されたC=O伸縮振動のピーク強度は0.105であった。このC=O伸縮振動のピーク強度は0.08以上であることから、上記二層めっき基板Aの剥離モードは凝集破壊モードであると判定された。
【0028】
[実施例2]
銅被膜層とポリイミド基板層からなる二層めっき基板Bを、上記実施例1と同様にJIS C 6471に基づく90°方向の引き剥がし方法により、銅被膜層とポリイミド基板層の間で剥離してピール強度を測定したところ、90°ピール強度は352N/mであった。
【0029】
次に、上記の銅被膜層とポリイミド基板層の間で剥離して得られた金属被膜層側を試料として、上記実施例1と同じ顕微赤外分光装置を使用し、上記実施例1と同じ測定条件及びZnSeの全反射プリズムにて、全反射吸収分光法(ATR法)を用いた顕微赤外分光法により測定した。
【0030】
上記顕微赤外分光法により得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1735cm−1で検出されたC=Oの伸縮振動のピーク強度は0.028であった。このC=O伸縮振動のピーク強度は0.04未満であることから、上記二層めっき基板Bの剥離モードは界面破壊モードであると判定された。
【0031】
[実施例3]
銅被膜層とポリイミド基板層からなる二層めっき基板Cを、上記実施例1と同様にJIS C 6471に基づく90°方向の引き剥がし方法により、銅被膜層とポリイミド基板層の間で剥離してピール強度を測定したところ、90°ピール強度は415N/mであった。
【0032】
次に、上記の銅被膜層とポリイミド基板層の間で剥離して得られた金属被膜層側を試料として、上記実施例1と同じ顕微赤外分光装置を使用し、上記実施例1と同じ測定条件及びZnSeの全反射プリズムにて、全反射吸収分光法(ATR法)を用いた顕微赤外分光法により測定した。
【0033】
上記顕微赤外分光法により得られた赤外吸収スペクトルにおいて、1735cm−1で検出されたC=Oの伸縮振動のピーク強度は0.057であった。このC=O伸縮振動のピーク強度は0.04以上0.08未満であることから、上記二層めっき基板Cの剥離モードは凝集破壊モードと界面破壊モードの混合モードであると判定された。
【0034】
上記した実施例1〜3の結果から分かるように、本発明により二層めっき基板の金属被膜層側の剥離界面を顕微赤外分光法により測定して得られるC=O伸縮振動のピーク強度と、JISに定められた二層めっき基板のピール強度との間に相関が認められることから、本発明による密着性評価方法は有効であることが確認された。
【0035】
また、従来から一般的に用いられている二層めっき基板のピール強度の測定では、二層めっき基板の最も密着力が低い層がどこであるか判別できず、即ち剥離モードを知ることができなかった。電子顕微鏡観察やガスクロマトグラフ法などの界面表面分析手法も従来から知られているが、数値化あるいは定量化が困難な評価方法であった。
【0036】
このような従来の方法に対して、顕微赤外分光法を用いる本発明では、C=O伸縮振動のピーク強度により密着性の評価を数値化することができるうえ、金属被膜層とポリイミド基板層との間の剥離モードを判定することも可能である。しかも、二層めっき基板を剥離して得た金属被覆膜側の試料には前処理の必要がなく、且つ測定時間が1試料当たり約3分と短時間であって、非常に迅速な評価が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二層めっき基板の金属被膜層とポリイミド基板層の密着性を評価する方法であって、該二層めっき基板を金属被膜層とポリイミド基板層の間で剥離した後、得られた金属被膜層側の剥離界面を顕微赤外分光法により測定し、1725〜1740cm−1で検出されるポリイミド由来の官能基であるC=Oの伸縮振動のピーク強度に基づいて密着性を評価することを特徴とする二層めっき基板の密着性評価方法。
【請求項2】
前記顕微赤外分光法の測定において、全反射プリズムを試料である金属被膜層側の剥離界面に密着させる全反射吸収分光法を使用することを特徴とする、請求項1に記載の二層めっき基板の密着性評価方法。
【請求項3】
前記C=Oの伸縮振動のピーク強度に基づいて金属被膜層とポリイミド基板層の間の剥離モードを判定し、得られた剥離モードにより密着性を評価することを特徴とする、請求項1又は2に記載の二層めっき基板の密着性評価方法。
【請求項4】
前記金属被膜層とポリイミド基板層の間の剥離モードは、C=Oの伸縮振動のピーク強度が0.08以上の場合を凝集破壊モード、0.04未満の場合を界面破壊モード、0.04以上0.08未満の場合を界面破壊と凝集破壊の混合モードとすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の二層めっき基板の密着性評価方法。
【請求項5】
前記金属被膜層の金属が銅であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の二層めっき基板の密着性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−194014(P2012−194014A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57379(P2011−57379)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】