説明

二次元分布分画方法

【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、二種類以上の粒子集団を含有する測定用試料を、種々の被分析粒子について二つの分析パラメータを測定し得る粒子分析装置によって測定したとき、その二つの分析パラメータを二軸として描いた二次元分布図内に分画線を引き、一つの粒子集団を他の粒子集団から分画する方法に関する。
(従来の技術)
被分析粒子について二次元分布図を描き、分布図内に分画線を引くことにより、一つの粒子集団を他の粒子集団から分画することは、従来よく行われていた。たとえば、米国特許第4325706号には、アクリジンオレンジで蛍光染色された血液試料をフローサイトメータで測定し、個々の粒子から検出された蛍光信号と散乱光信号とから描かれる二次元分布図上に分画線を引き、血液試料中の粒子集団を分画する方法が記載されている。第9図は、上記米国特許明細書中のFig.8B.を引用したものである。横軸は粒子から検出される赤色蛍光の信号強度を表し、縦軸は粒子から検出される散乱光の信号強度を表す。図中、中央の赤血球(RBC)粒子集団および網赤血球(RETICS)粒子集団は、斜め上方に伸びる直線状の分画線(LINEAR DISCRIMINANT)により、血小板(PLT)粒子集団から分画されている。
(発明が解決しようとする課題)
二次元分布図上の粒子集団が、上記のように直線状の分画線により分画される場合、分画線の引き方も簡単であり、問題は無いが、実際には複雑な分画線を引く必要が有ることが多い。上記米国特許において使用されるアクリジンオレンジは、染色液自体によるバックグラウンド蛍光が強いため、血球そのものに由来する蛍光強度測定に誤差を与えやすい等、実際には使用しにくい染料であることを見出され、このことは特開昭61−280565号公報に記載されている。そのため、同公報には、アクリジンオレンジの代わりに、実用的に使い易い染料オーラミンO(Auramine 0)を網赤血球測定用試薬として用いることが開示されている。ところが、オーラミンOを用いた場合には、第1図の分布図から分かるように、直線状の簡単な分画線によっては、赤血球粒子集団および網赤血球粒子集団と血小板粒子集団とを分画することができない。図の横軸は蛍光相対強度を表し、縦軸は前方散乱光相対強度を表す。図中の各点は個々の粒子に対応する。図中のAは赤血球粒子集団を表し、Bは網赤血球粒子集団を表し、Cは血小板粒子集団を表す。図中の曲線は、赤血球粒子集団および網赤血球粒子集団と血小板粒子集団とを分画する分画線である。なお、図中上下方向に引かれた直線は、本発明においては直接の課題とはしないが、赤血球粒子集団と網赤血球粒子集団とを分画する分画線であり、参考として記載したものである。以下、第2図〜第6図においても符号や線は同じ意味を表す。第1図は健常者の血液試料を測定したときの結果であるが、特異な検体を測定した場合には、第2図に示すように、血小板粒子集団(C)の分布が健常者のものと比べて、右上方へ大きく膨らむ。その結果、分画線の位置は第1図と第2図とでは明らかに異なっている。このことは、血小板および/または網赤血球の粒子計数を正確に行うため測定検体ごとに最適の分画線を見つける必要が有ることを意味する。
本発明は、二次元分布図において、測定検体ごとに分画曲線を一定の原則を導入して自動的に引くことによる、一つの粒子集団と他の粒子集団とを分画する方法の提供を目的とするものである。
(問題を解決するための手段)
本発明の二次元分布分画方法は、上述のような目的を達成するため、二次元分布図内に分画線を引き、測定用試料中の一つの粒子集団を他の粒子集団から分画する方法において、下記のステップにより構成する:(a)二次元分布図を格子状の複数の領域に分割し、各領域内に含まれる粒子数を求めるステップ、(b)上記各領域の内、特定の一列を形成する複数の領域の中から、その中に含まれる粒子数が最も少ない領域を選定するステップ、(c)上記特定の一列の隣の列を形成する複数の領域の内、上記(b)で選定された領域に近接する領域の中から、その中に含まれる粒子数が最も少ない領域を選定するステップ、(d)上記隣の列に次々と隣り合う各列において、直前の列で選定された領域に近接する領域の中から、その中に含まれる粒子数が最も少ない領域を順次選定するステップ、(e)上記各列においてそれぞれ選定された各領域内に代表点を設定し、それらの代表点を結んで近似曲線を求め、これを分画線とするステップ。
〔実施例〕
以下、本発明の一実施例について詳述する。
まず、本実施例における二次元分布を得るために使用されるフローサイトメータの光学系の一具体例を第8図に示された図面に基づいて説明する。第8図は、前方散乱光と側方散乱光と蛍光とを測定する場合を示している。本実施例においては、前方散乱光強度および蛍光強度パラメータとした二次元分布図を対象としているが、測定目的が異なれば、パラメータの他の組み合わせ、たとえば、側方散乱光強度および蛍光強度をラメータとした二次元分布図を対象とすることもあり得る。
このフローサイトメータの光学系10に使用される光源は、たとえば、波長;488nm、出力;10mWのアルゴンイオンレーザ12である。レーザ12から発せられた光は、シリンドリカルレンズ16によって絞られ、フローセル14中を流れる測定用試料を照射する。レーザ光が測定用試料中の粒子に当たると、レーザ光は散乱され、粒子が蛍光染色されている場合には、蛍光が発せられる。側方へ発せられた散乱光および蛍光は、コンデンサレンズ18によって集められ、アパーチャ20を通過したのち、ダイクロイックミラー22に達する。
ダイクロイックミラー22は側方散乱光24を反射し、蛍光26を透過させる。ダイクロイックミラー22によって反射された側方散乱光24は光電子増倍管28によって測定される。ダイクロイックミラー22を透過した蛍光26はカラーフィルター40を透過したのち光電子増倍管42によって測定される。側方散乱光を測定しない場合には、ダイクロイックミラー22および光電子増倍管28は不要となる。
一方、フローセル14を前方へ透過したレーザ光および測定試料中の粒子によって光軸36に沿って前方へ散乱された散乱光はビームストッパ30によって遮断され、フォトダイオード34に直接入らないようにされている。狭角の前方散乱光のうちビームストッパ30によって遮断されなかった光は、コンデンサーレンズ32によって集光され、つづいてフォトダイオード34で受光される。
血液を染料オーラミンOで蛍光染色して測定用試料とし、上記フローセル14に流し、上記フローサイトメータで蛍光および前方散乱光を測定し、蛍光強度および前方散乱光強度を二軸とする二次元分布図を描くと、第3図に示す図が得られる。縦軸,横軸や符号の意味は前述の通りである。蛍光強度および前方散乱光強度は、各々、フルスケールを分解能256に等分割するアナログ/デジタル変換処理を施された後、表示されている。網赤血球はオーラミンOによって特異的に染色され、蛍光を発するので、網赤血球粒子集団は図中Bで囲まれた範囲に出現する。赤血球は散乱光強度は大きいが、弱い蛍光しか発しないので、赤血球粒子集団は図中Aで囲まれた範囲に出現する。血小板は蛍光強度、散乱光強度ともに弱いので、血小板粒子集団は図中Cで囲まれた範囲に出現する。各範囲内の粒子数をカウントすれば、測定用試料中に存在する各粒子集団の粒子数を知ることができる。そのためには、二次元分布図上で各粒子集団を分画する分画線を引く必要がある。本実施例においては、赤血球粒子集団および網赤血球粒子集団(以下、これらの集団が存在する領域を赤血球領域と呼ぶ)と血小板粒子集団(以下、血小板粒子集団が存在する領域を血小板領域と呼ぶ)とを分画する分画線の引き方を対象とする。
まず、第3図の二次元分布図を第4図に示される枡目により囲まれた16×16の領域に分割する。その各領域に含まれるドット数(粒子数)を求め、そのデータを、16×16の各領域に対応する16×16の二次元の各配列に代入する。二次元配列の一例を第7図に示す。各配列をDIM(i,j);(i=0〜15,j=0〜15)で表す。
第4図に示される各領域は第7図に示される各配列に配置上も完全に対応しており、第7図における横方向、縦方向は、それぞれ第4図におけるX方向、Y方向に対応している。ここで、第7図の縦方向の並びを列と呼ぶことにする。
次に、各列において赤血球領域と血小板領域との境界を探す。それは、以下に述べる手順に従い、データの疎な領域(配列)を順次見つけていくことにより行われる。まず最初に、第0列に着目する。第0列においては、赤血球領域と血小板領域との境界がDIM(i,0);(i=0〜7)の配列の範囲内に有ることが経験的に判っている(第4図参照)。したがって、二次元配列DIM(i,0);(i=0〜7)の中から最も小さい値を持つ配列を探し、そのときのiをMIN(0)に代入する。なお、第4図より理解されるように、第0列のi=0,1の配列には血小板粒子集団の密度の濃い領域が存在するので、上記疎の領域を探す場合に、i=0,1の配列を予め除き、i=2〜7の配列から探すようにしてもよい。次に第1列に移る。赤血球領域と血小板領域との境界は連続的であることが期待されるから、第1列での疎の領域の探索範囲は、第0列で見つけた境界配列すなわちDIM(MIN(0),0)に近接する範囲に限られる。すなわち、DIM(MIN(0)−1,1),DIM(MIN(0),1),DIM(MIN(0)+1,1)、以上三つの配列の中で最も小さい値を持つ配列を探し、そのiをMIN(1)に代入する。以下、第2列〜第15列について上記第一列と同様の操作を繰り返し、MIN(2)〜MIN(15)を求める。
以上の操作により、第5図において■で表される、分布の疎の領域が選び出される。
次に、各■で表される領域の座標上の中心点を代表点とし、16個の代表点を使用して最小自乗近似曲線を求める。求めた近似曲線を第6図に示す。これが、赤血球領域と血小板領域とを分画する分画線である。
第1図および第2図中に示した分画曲線も上記方法によって求めたものである。両図に示されるように赤血球領域と血小板領域とは、きれいに分画されており、測定検体ごとに最適の分画曲線を求められることが、示された。
なお、本実施例の場合には、上述の通り、第4図の左側の列から分布の疎の領域の探索を開始する方が望ましいが、測定対象が替わったときには、二次元分布の状態によっては、最右端の列を第0列として、図の右側から分布の疎の領域の探索を開始する場合もあり得る。
(発明の効果)
本発明の方法によれば、測定検体ごとに最適の分画曲線を二次元分布図において自動的にひくことができ、単純な直線状の分画線では分画できない場合であっても、一つの粒子集団と他の粒子集団とを正確に分画し、それによってこれら粒子集団のそれぞれの構成粒子数を高精度で計数することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
第1図および第2図は本発明の方法により二次元分布図上に分画線を引いた例を示す分布図であり、第1図は健常者検体の場合、第2図は特異検体の場合を示す図、第3図3図は血液をオーラミン0で染色し、フローサイトメータで測定したときに得られる二次元分布図の一例を示す図、第4図は二次元分布図を16×16の領域に分割した様子を示す図、第5図は二次元分布図において分布の疎の一連の領域を見つけた様子を示す図、第6図は第5図に示す分布の疎の領域を基に求められた分画曲線を示す図、第7図は第4図の各領域内の粒子数を格納する各配列を示す図、第8図は本発明の一実施例に使用されるフローサイトメータの光学系の一具体例を示す概略図、第9図は従来の方法により引かれた分画線を示す二次元分布図である。
10……フローサイトメータの光学系、
12……レーザ、14……フローセル、
16……シリンドリカルレンズ、
18……コンデンサーレンズ、
20……アパーチャ、
22……ダイクロイックミラー、
26……蛍光、30……ビームストッパ、
32……コンデンサレンズ、34……フォトダイオード、
36……前方散乱光、40……カラーフィルター、
42……光電子増倍管、A……赤血球粒子集団、
B……網赤血球粒子集団、C……血小板粒子集団。

【特許請求の範囲】
【請求項1】二次元分布図内に分画線を引き、測定用試料中の一つの粒子集団を他の粒子集団から分画する方法において、(a)二次元分布図を格子状の複数の領域に分割し、各領域内に含まれる粒子数を求めるステップ、(b)上記各領域の内、特定の一列を形成する複数の領域の中から、その中に含まれる粒子数が最も少ない領域を選定するステップ、(c)上記特定の一列の隣の列を形成する複数の領域の内、上記(b)で選定された領域に近接する領域の中から、その中に含まれる粒子数が最も少ない領域を選定するステップ、(d)上記隣の列に次々と隣り合う各列において、直前の列で選定された領域に近接する領域の中から、その中に含まれる粒子数が最も少ない領域を順次選定するステップ、(e)上記各列においてそれぞれ選定された各領域内に代表点を設定し、それらの代表点を結んで近似曲線を求め、これを分画線とするステップ、によって構成されたことを特徴とする二次元分布分画方法。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第7図】
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【第5図】
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【第6図】
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【第8図】
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【第9図】
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【特許番号】第2674704号
【登録日】平成9年(1997)7月18日
【発行日】平成9年(1997)11月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−140309
【出願日】昭和63年(1988)6月7日
【公開番号】特開平1−308964
【公開日】平成1年(1989)12月13日
【出願人】(999999999)東亜医用電子株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭61−71337(JP,A)
【文献】特開 昭62−134559(JP,A)