説明

二次元多色法温度計測装置

【課題】 一層高い測定精度の高い二次元多色法温度計測装置を提供する。
【解決手段】 ノイズ減算処理手段38によって固定ノイズが除去され、ゲイン補正手段40によって入射光量と出力値Eとの関係が線形化された後、フラット補正手段44によって、第1補正値E''1ijおよび第2補正値E''2ijが、第1補正基準値Ebijおよび第2補正基準値Eb''2ijで除されることにより第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijが算出されると、放射強度比算出手段46によって、これら第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijを用いて放射強度比Rが算出される。そのため、第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijの比は、光学系のばらつきが緩和されることによって真の放射強度比に近い値になるので、温度変換関数にこの比を適用することにより、温度分布の測定精度が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定部材の表面温度を高い精度で測定するための二次元多色法温度計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、焼成炉や加熱炉内の物体の表面温度、発熱体の表面温度などの温度分布を正確に測定することが必要とされる場合がある。このような用途に対して、二色温度計の測定原理を利用して、物体から放射される光エネルギのうち予め選択された相互に異なる2波長を用いてイメージセンサにて物体の画像を検出し、検出された一対の画像の同じ部分毎に放射強度の比(放射強度比)を求め、その放射強度比に基づいて物体の表面温度分布を測定する二次元多色法温度計測装置が提案されている(例えば、特許文献1乃至4等を参照)。これによれば、被測定部材表面の放射率が不明であっても、相互に異なる2つの波長毎の放射強度比と被測定部材の表面温度との間で相関関係が成立することを利用し、予め求められた関係式から実際の放射強度比に基づいて表面温度分布が算出される。
【特許文献1】特開平8−043212号公報
【特許文献2】特開平8−152360号公報
【特許文献3】特開2001−272278号公報
【特許文献4】特開2003−166880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記のようにイメージセンサ上に形成された2画像の同じ部分(同一座標)毎の放射強度比を算出する二色法において正確な温度分布を得るためには、それら2画像に2波長の放射強度分布がそれぞれ正確に反映されていること、すなわち、イメージセンサの出力値分布が放射強度分布に一致することが必要である。しかしながら、これら2波長は、レンズ、フィルター、プリズムやハーフミラー等で分岐させられることによって互いに異なる2つの光路を経由してイメージセンサに入射する。そのため、光学系をそれら2つの光路が均質になるように構成することが困難であることから、イメージセンサ上に生成される2画像に光学系に起因する周辺減光や輝度ムラの相違が生じて、出力値分布が放射強度分布と異なるものとなり、延いては温度分布の測定精度が低下する問題があった。例えば、極端な場合には、1500(℃)程度の熱源の測定時に、現実には存在し得ない500(℃)もの温度勾配が検出され得るのである。
【0004】
上記の問題は、周辺減光や輝度ムラに起因するばらつきに対して放射強度比の変化が小さいほど顕著である。例えば、測定精度を高めるためには、2波長の波長間隔を可及的に小さくして観測対象の輻射率波長依存性の影響を排除することが望まれる。しかしながら、このようにすると、それら2波長の温度変化に対する放射強度比の変化が小さくなるので光学系に起因する測定精度低下が生じ、結局、測定精度を高めることができないのである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、一層高い測定精度の高い二次元多色法温度計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、被測定部材の表面から放射される光のうちから選択された第1波長および第2波長の光を検出し、それら第1波長および第2波長の2波長間の放射強度比とそれら2波長間の放射強度比を与える光を放射する物体の温度との相対関係を用いて、前記被測定部材表面の温度分布を測定するための二次元多色法温度計測装置であって、(a)前記第1波長および前記第2波長の光をそれぞれ検出するための第1位置および第2位置を備え且つ各々で検出した入射光量に対応する第1出力値および第2出力値を出力する焦点面検出器と、(b)前記第1位置および前記第2位置の各々における所定の均一光源に対応する出力値として予め記憶された第1基準出力値および第2基準出力値に対する前記第1出力値および前記第2出力値の比をそれぞれ第1比および第2比として算出するフラット補正手段と、(c)前記第1比および前記第2比の比を前記放射強度比として算出する放射強度比算出手段とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、フラット補正手段によって、予め記憶された第1基準出力値に対する第1出力値の比として第1比が算出されると共に、予め記憶された第2基準出力値に対する第2出力値の比として第2比が算出される一方、放射強度比算出手段によって、これら第1比および第2比を用いて放射強度比が算出される。そのため、均一光源に対する第1基準出力値および第2基準出力値の分布は、本来的に平坦であるはずの出力値に対して、周辺減光や輝度ムラ等の光学系に起因するばらつきが第1波長および第2波長の場合と同様にそれぞれ反映されたものであるので、第1出力値および第2出力値をそれぞれ第1基準出力値および第2基準出力値に対する比(すなわち第1比および第2比)にそれぞれ置き換えることにより、第1波長の光の光路と第2波長の光の光路とが相違する光学系に起因するばらつきが緩和される。したがって、これら第1比と第2比との比は、上記ばらつきが緩和されることによって真の放射強度比に近い値になるので、前記相対関係にこの比を適用することにより、温度分布の測定精度が高められる。
【0008】
なお、本願において、「均一光源」とは、測定範囲の全域において均一温度且つ放射率が均一な基準となる光源(対象物)を言うものである。このような基準となる光源としては、例えば、積分球や黒体炉等の表面輝度分布が均一なものが挙げられる。また、前記焦点面検出器は、受光面に多数の受光素子を備えたイメージセンサ等であって、その受光素子毎に入射光量に応じた電流値等の出力値を発生させるものである。また、前記第1位置および第2位置は、1個の焦点面検出器の受光面を複数に分割して形成されたものであっても、2個の焦点面検出器の一方に前者が他方に後者がそれぞれ設けられたものであってもよい。
【0009】
ここで、好適には、前記二次元多色法温度計測装置は、(d)前記焦点面検出器の入射光量とは無関係な出力値である固定ノイズを前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値から減じた第1減算出力値、第2減算出力値、第1減算基準出力値、および第2減算基準出力値をそれぞれ算出するノイズ減算処理手段を含み、(b')前記フラット補正手段は、前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値に代えて、前記ノイズ減算処理手段の出力値をそれぞれ用いて、前記第1比および前記第2比の算出処理を行うものである。このようにすれば、固定ノイズが除去されることによって真の出力値との誤差が解消され或いは減じられた減算出力値が温度分布算出に用いられるので、焦点面検出器の出力値に直ちにフラット補正を施す場合に比較して真の放射強度比からの誤差が小さくなり、温度分布の測定精度が更に高められる。
【0010】
因みに、焦点面検出器の出力には、入射光量に応じた出力に加えて、それとは無関係に発生する出力すなわち固定ノイズが常に含まれる。この固定ノイズは、例えば、入射光量が零であるにも関わらず熱に由来して発生するダークノイズ、読み出し時に発生するデータの取りこぼしすなわち読み出しノイズ、或いは、放射線ダメージ等であって、何れも原因の判っている固定的なもの、すなわち系統誤差である。また、ダークノイズは1回の露光時間が長くなるに従って増大し、読み出しノイズは1回の読み出し毎に発生するものであって一定値である。したがって、計測条件を一定に定めれば、これらの固定ノイズは、入射光量の如何に関わらず一定の値だけ出力値を高めることから、第1出力値および第2出力値にそれぞれフラット補正を施した第1比および第2比から算出される放射強度比は、その固定ノイズと入射光量に対する真の出力値との比に応じた値だけ真の値から外れたものになる。上記態様によれば、第1位置および第2位置における固定ノイズをそれぞれ予め測定してこれを減じることによって、固定ノイズに起因する第1出力値および第2出力値の誤差が排除されるので、算出される放射強度比の真の放射強度比に対する誤差が小さくなり、温度分布の測定精度が一層高められる。なお、この効果は、固定ノイズの大きさに対して出力値が小さいほど、すなわち入射光量が少なくなってS/N比が小さくなるほど顕著である。
【0011】
また、好適には、前記二次元多色法温度計測装置は、(e)前記焦点面検出器の入射光量と出力値とが線形関係となるようにその出力値の大きさに応じて予め定められたゲイン補正関数を用いて前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値、または前記ノイズ減算処理手段の出力値を演算処理することにより第1補正値、第2補正値、第1補正基準値、および第2補正基準値をそれぞれ算出するゲイン補正手段を含み、(b'')前記フラット補正手段は、前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値、または前記ノイズ減算処理手段の出力値に代えて、前記ゲイン補正手段により算出された補正値を用いて、前記第1比および前記第2比の算出処理を行うものである。このようにすれば、入射光量と出力値との関係が線形関係に修正された補正値が温度分布算出に用いられるので、温度分布の測定精度が更に高められる。すなわち、第1位置および第2位置の各々について、出力値の大きさに応じたゲイン補正関数を予め作成して、出力値等をそのゲイン補正関数を用いて演算処理することにより、線形関係から外れるような入射光量の場合にも、入射光量と出力値とが線形関係にあるとした場合の誤差が解消され或いは減じられた補正値に、同様に処理された補正基準値を用いてそれぞれフラット補正が施されるので、入射光量の比が補正値の比に好適に反映され、第1出力値および第2出力値或いは第1減算出力値および第2減算出力値を用いて直ちにフラット補正を施す場合に比較して真の放射強度比からの誤差が一層小さくなり、温度分布の測定精度が一層高められる。また、この結果、温度変化に対する応答関数の異なる2つの波長を用いた場合でも、理論予測によって高精度で温度を測定することができる。
【0012】
特に、ゲイン補正手段が前記ノイズ減算処理手段の出力値を処理するものである場合には、固定ノイズを除去することによる誤差縮小効果に加えてゲイン補正による誤差縮小効果が重畳されるので、真の放射強度比に一層近づいた第1比と第2比との比が得られ、測定精度が一層高められる。すなわち、前記フラット補正は、第1波長および第2波長に対応する第1出力値および第2出力値の第1基準出力値および第2基準出力値に対する比に置換することによって光学系に起因する誤差を緩和するものであるため、基準出力値および処理対象となる出力値が固定ノイズを含み或いは入射光量に対して線形関係にない場合には、算出した比が均一光源の放射強度に対する比からずれた値になる。そのため、フラット補正に先立ってノイズ減算処理およびゲイン補正の少なくとも一方、一層好ましくは両方を実施すれば、このようなずれを緩和し或いは解消することができるのである。
【0013】
因みに、焦点面検出器における入射光量と出力値との関係は、例えば、入射光量が少ない範囲では略線形関係に保たれるが、一定の入射光量を超えると線形関係が崩れ、例えば出力値の増加率が小さくなる。このとき、線形関係からのずれの大きさは波長や入射光量等に応じて相違し、すなわち焦点面検出器の波長感度特性が一様ではないため、線形関係が崩れた範囲では、第1出力値と第2出力値との比が、それらの入射光量の比すなわち真の放射強度比と相違することとなる。このような線形関係の崩れに起因する精度低下を避けて高い測定精度を得るためには、出力値の比が放射強度比と等しくなるように線形関係に保たれる入射光量の範囲で利用すればよい。その一方、感度を高めて測定精度を向上させるためには、受光時間を長くして入射光量を可及的に多くし、延いては出力値を高めることが望ましい。上記態様によれば、前記ゲイン補正手段によって入射光量と出力値とが線形関係に修正されることから、これらを両立させて実質的に線形関係に保ちつつ出力値を高め得るので、一層高い測定精度が得られるのである。
【0014】
なお、前記「出力値の大きさに応じて予め定められたゲイン補正関数」は、例えば、出力値の大きさの範囲毎に相互に異なる複数の一次関数で出力値と入射光量との関係を表したものである。すなわち、線形関係が成立しており、或いは線形関係が成立していると見なし得る出力値の範囲毎に関数を定め、得られた出力値に応じた適切な関数を用いて入射光量を求め、その入射光量を用いてフラット補正やノイズ減算処理を施すことにより、実質的にゲイン補正を行うことができる。また、上記ゲイン補正関数は、例えば、入射光量と出力値とが線形関係であるとした場合の出力値(すなわち仮想出力値)と実際の出力値との差を、その実際の出力値に加算するものである。この加算値は、仮想出力値よりも実際の出力値が大きい場合には負の値が用いられ、小さい場合には正の値が用いられる。ゲイン補正関数は焦点面検出器の特性に応じて定められるものであって、例えば上記のような関数が挙げられるが、何れの場合にも出力値と入射光量とが実質的に線形関係となるので、何れを用いて演算処理をしても略同一の放射強度比が得られ、高い測定精度を得ることができる。したがって、請求の範囲にいう「第1比および第2比」は、第1出力値および第2出力値を第1基準出力値および第2基準出力値でそれぞれ除したものも、出力値から求めた第1波長および第2波長の光の入射光量を均一光源の場合の入射光量で除したものも含まれる。
【0015】
また、好適には、前記二次元多色法温度計測装置は、測定対象に依存するが、例えば、前記第1波長および前記第2波長として、例えば中心波長が300〜3000(nm)の範囲内の波長を用いるものである。一層好適には、中心波長の波長間隔が50〜500(nm)以下となるように決定された2波長が前記第1波長および前記第2波長として用いられる。このようにすれば、波長間隔が十分に小さい2波長を用いて温度分布が測定されることから、被測定部材の放射率波長依存性の影響が小さくなるので、測定精度が一層高められる。すなわち、第1波長および第2波長は、用いられる焦点面検出器の特性に応じて、可視光域や赤外線領域、紫外線領域等の範囲内から適宜定められるが、例えば上記波長を用いることが好ましい。
【0016】
また、好適には、前記焦点面検出器は、前記第1波長および前記第2波長の光が互いに異なる角度で入射させられるものである。このような光学系が用いられる場合には、焦点面検出器の第1位置および第2位置における第1出力値および第2出力値の分布が、それら互いに異なる入射角度に応じて変形させられたものとなるので、そのまま放射強度比を算出しても、被測定部材表面の同一位置に対応する放射強度比を求めることができず、温度分布の測定精度が低下する。そのため、このような構成の光学系に本発明を適用すると、上記入射角度に応じた変形が除去されるので温度分布の測定精度が高められ、特に高い効果が得られる。
【0017】
なお、光学系のミラー等の配置にもよるが、例えば、上記変形が1〜2(%)程度に留まるような装置構成も容易である。したがって、本発明は、それよりも高い測定精度を得ようとするときに特に有効である。
【0018】
因みに、第1波長の光および第2波長の光が互いに平行となるように光学系を構成すれば、上記のような入射角度の相違に起因する問題は生じない。しかしながら、完全な平行を実現することは極めて困難であり、しかも、仮に平行が実現できても、分光に伴う像の歪みを完全になくすことも困難である。すなわち、光学系に起因する周辺減光や輝度ムラ等を完全に排除することは、著しい装置コストの増大を甘受しても、現状では不可能と言え、ここに本発明のフラット補正等を適用する価値がある。
【0019】
また、好適には、前記第1位置および前記第2位置は、単一の焦点面検出器の受光面の相互に異なる位置にそれぞれ設けられる。このような単板式の光学系においては、複数の焦点面検出器が用いられる多板式の場合における精度低下要因、すなわち2つの焦点面検出器の受ける温度変化や振動等の外乱が相違し延いては第1出力値および第2出力値の分布が相対変位することが無いので、本発明のフラット補正等を施す効果が一層顕著に得られる。しかも、単板式によれば、必要な焦点面検出器の個数が少なくなるので、多板式に比較して装置コスト面でも有利である。なお、多板式においても、上記外乱が達成しようとする測定精度に対して十分に小さい場合、すなわち、2つの焦点面検出器の支持構造等がそれぞれの受ける外乱の相違が十分に小さくなるように構成されている場合には本発明の効果を享受し得る。
【0020】
また、好適には、本発明は、放射率が未知の高温体の高精度温度監視および制御に好適に適用され、高い効果が期待できる。例えば、酸化による放射率変化の大きな鉄鋼および一般に複雑な放射率の分光特性を有するセラミックスの温度計測(例えばアルミナ基板の温度分布測定)、粉体であるために空間的な分離が困難で放射率の補正そのものが困難なプラズマ溶射物質や火炎中の煤の温度計測等で特に有用である。また、窯業の焼成、絵付け、電子部品の加熱処理、鉄鋼の加熱処理といった様々な温度分布測定にも好適に用いられる。
【0021】
また、測定された被測定部材の温度分布は、例えば、温度範囲毎に定めた色で表示されるが、等高線や濃淡などによって表示されても差し支えない。
【0022】
また、前記焦点面検出器は、例えば、光検出面を備えたCCD素子が用いられるが、カラー撮像管など他の光検出素子で構成してもよい。
【0023】
また、好適には、前記二次元多色法温度計測装置を用いた温度分布測定方法は、(a)被測定部材の表面から放射される光のうちから選択された第1波長および第2波長の光を焦点面検出器でそれぞれ検出して第1波長に対応する第1出力値および第2波長に対応する第2出力値をそれぞれ得る測定工程と、(b)前記第1位置および前記第2位置における所定の均一光源に対応する出力値として予め記憶された第1基準出力値および第2基準出力値に対する前記第1出力値および第2出力値の比をそれぞれ第1比および第2比として算出するフラット補正工程と、(c)それら第1比および第2比の比を放射強度比として算出する放射強度比算出工程と、(d)算出された放射強度比と予め記憶された放射強度比および温度の変換関数とから前記被測定部材の温度分布を算出する温度分布算出工程とを、含むものである。
【0024】
このようにすれば、測定工程において測定された第1出力値および第2出力値を、フラット補正工程において第1基準出力値および第2基準出力値に対する比すなわち第1比および第2比に置換されると、放射強度比算出工程において、それら第1比および第2比の比すなわち放射強度比が算出され、更に温度分布算出工程において、予め記憶された放射強度比と温度との関係に基づいて、被測定部材の温度分布が算出される。したがって、第1出力値および第2出力値に代えてそれらの均一光源に対する比が放射強度比の算出に用いられるので、第1波長の光および第2波長の光の光学系の相違に起因する放射強度比のばらつきが緩和され、温度分布の測定精度が高められる。
【0025】
好適には、前記温度分布測定方法は、(e)前記焦点面検出器の入射光量とは無関係な固定ノイズを前記第1出力値および第2出力値からそれぞれ減じた第1減算出力値および第2減算出力値をそれぞれ算出するノイズ減算工程を含み、(b')前記フラット補正工程は、前記第1出力値および前記第2出力値に代えてそれら第1減算出力値および第2減算出力値を用いると共に、前記第1基準出力値および前記第2基準出力値に代えてそれらから前記固定ノイズを減じた第1減算基準出力値および前記第2減算基準出力値を用いて、前記第1比および前記第2比を算出するものである。このようにすれば、光学系の相違に起因する誤差要因を除去するための基準出力値との比の算出が、固定ノイズを減じた減算出力値を用いて行われるので、真の放射強度比からの誤差が一層小さくなって測定精度が一層高められる。
【0026】
また、好適には、前記温度分布測定方法は、(f)前記焦点面検出器の入射光量と出力値とが線形関係となるようにその出力値に応じて予め定められたゲイン補正関数を用いて前記第1出力値および前記第2出力値または前記第1減算出力値および前記第2減算出力値を演算処理することにより第1補正値および第2補正値をそれぞれ算出するゲイン補正工程を含み、(b'')前記フラット補正工程は、前記第1出力値および前記第2出力または前記第1減算出力値および前記第2減算出力値に代えて、前記第1補正値および前記第2補正値を用いると共に、前記第1基準出力値および前記第2基準出力値または前記第1減算基準出力値および前記第2減算基準出力値に代えて、前記ゲイン補正工程で算出された第1補正基準値および第2補正基準値を用いて、前記第1比および前記第2比を算出するものである。このようにすれば、光学系の相違に起因する誤差要因を除去するための基準出力値との比の算出が、入射光量との関係が実質的に線形関係に補正された補正値を用いて行われるので、測定精度が一層高められる。また、補正値が固定ノイズを除去した減算出力値から算出される場合には、固定ノイズの影響も排除されるので、更に測定精度が高められる。
【0027】
なお、前記ノイズ減算工程およびゲイン補正工程は、これらの処理が共に施された入射光量と出力値との関係を予め記憶し、その関係(すなわち出力値−入射光量関数)から、出力値に対応する入射光量を求めることにより、実質的に一括して実施される工程であってもよい。
【0028】
また、好適には、前記二次元多色法温度計測装置の較正方法は、(a)黒体炉の温度を変化させつつ標準温度計で標準温度を測定する標準温度測定工程と、(b)その標準温度測定と同時に、黒体炉から放射される放射エネルギーのうちから選択された第1波長および第2波長の光を二次元多色法温度計測装置で検出して第1出力値および第2出力値をそれぞれ得る測定工程と、(c)予め記憶された均一光源に対応する第1基準出力値および第2基準出力値に対するそれら第1出力値および第2出力値の比をそれぞれ第1比および第2比として算出するフラット補正工程と、(d)それら第1比および第2比の比を放射強度比として算出する放射強度比算出工程と、(e)算出された放射強度比と同時に測定された標準温度との関係から放射強度比と温度との変換関数を作成する温度変換関数作成工程とを、含むものである。
【0029】
このようにすれば、標準温度測定工程で標準温度が測定される一方、測定工程において測定された第1出力値および第2出力値が、フラット補正工程において第1基準出力値および第2基準出力値に対する比すなわち第1比および第2比に置換され、放射強度比算出工程において、それら第1比および第2比の比すなわち放射強度比が算出されると、温度変換関数作成工程において、同時に測定された標準温度と放射強度比との関係から温度変換関数が作成される。したがって、第1出力値および第2出力値に代えてそれらの均一光源に対する比が放射強度比の算出に用いられるので、前述した温度分布測定方法の場合と同様に、光学系の相違に起因する放射強度比のばらつきが緩和された温度変換関数が得られる。すなわち、温度較正の精度が高められ、温度分布測定は、このようにして作成された温度変換関数を用いて行われるので、高い測定精度が得られる。なお、上記態様において「同時に」とは、完全な時間的同一に限定されるものではなく、例えば、JIS C 1612:2000「放射温度計の性能試験法通則」の「附属書1(規定) 較正方法」の図1a)に示されるように、標準温度計と交互に測定する場合等、実質的に同時と取扱い得るものも含まれる。
【0030】
好適には、上記較正方法は、(f)前記焦点面検出器の入射光量とは無関係な固定ノイズを前記第1出力値および第2出力値からそれぞれ減じた第1減算出力値および第2減算出力値をそれぞれ算出するノイズ減算工程を含み、(c')前記フラット補正工程は、前記第1出力値および前記第2出力値に代えてそれら第1減算出力値および第2減算出力値を用いると共に、前記第1基準出力値および前記第2基準出力値に代えてそれらから前記固定ノイズを減じた第1減算基準出力値および前記第2減算基準出力値を用いて、前記第1比および前記第2比を算出するものである。このようにすれば、光学系の相違に起因する誤差要因を除去するための基準出力値との比の算出が、固定ノイズを減じた減算出力値を用いて行われるので、真の放射強度比からの誤差が一層小さくなって温度較正の精度が一層高められる。
【0031】
また、好適には、前記温度分布測定方法は、(g)前記焦点面検出器の入射光量と出力値とが線形関係となるように出力値に応じて予め定められたゲイン補正関数を用いて前記第1出力値および前記第2出力値または前記第1減算出力値および前記第2減算出力値を演算処理することにより第1補正値および第2補正値をそれぞれ算出するゲイン補正工程を含み、(c'')前記フラット補正工程は、前記第1出力値および前記第2出力または前記第1減算出力値および前記第2減算出力値に代えて、前記第1補正値および前記第2補正値を用いると共に、前記第1基準出力値および前記第2基準出力値または前記第1減算基準出力値および前記第2減算基準出力値に代えて、入射光量と出力値との関係が同様に実質的に線形関係に修正された第1補正基準値および第2補正基準値を用いて、前記第1比および前記第2比を算出するものである。このようにすれば、光学系の相違に起因する誤差要因を除去するための基準出力値との比の算出が、入射光量との関係が線形関係に補正された補正値を用いて行われるので、温度較正の精度が一層高められる。また、補正値が固定ノイズを除去した減算出力値から算出される場合には、固定ノイズの影響も排除されるので、更に温度較正の精度が高められる。
【0032】
また、前記温度分布測定および温度較正を行うに際しては、前記固定ノイズ、および前記基準出力値を予め測定すると共に、前記ゲイン補正関数を予め決定する必要があるが、これらは例えば以下のようにして測定され或いは決定される。
【0033】
すなわち、固定ノイズは、例えば、焦点面検出器への入射光量が0のときの出力値を座標毎に測定することにより得ることができる。この値は、光が入射しない状態で測定されることから、波長依存性が無く、しかも入射光量にも影響されないものである。
【0034】
また、ゲイン補正関数は、例えば、座標毎に、相互に異なる多数の入射光量に対する出力値を測定し、それらの値から適当な線形関数を導出した上で、出力値の適当な範囲毎にその線形関数からの隔たりを算出し、線形関係に修正するための補正量或いは補正式をその範囲毎に各座標について算出することで得られる。或いは、座標毎に、近似的に線形関係にあると認め得る出力値の範囲毎に異なる複数の関数を導出することで得られる。何れにしても、この入射光量との出力値との関係は、焦点面検出器におけるエネルギ流量のみを見ることになるので、これも波長依存性がない。
【0035】
また、基準出力値は、積分球や黒体炉等の均一光源の入射表面輝度分布を前記第1位置および前記第2位置の各々の全域について測定することによって得られるものである。この基準出力値は、前述した説明から明らかなように、測定値すなわち被測定部材に対応する出力値分布の均一光源に対する相対的な出力値分布、すなわち比入射光量を算出するためのものであるので、被測定部材を測定して得た出力値と同一の処理が施される必要がある。そのため、測定値に対して前記ノイズ除去および前記ゲイン補正の少なくとも一方が施される場合には、基準出力値も同一の処理が施された値が用いられる。なお、出力値からそれに対応する入射光量を求めて、その入射光量にフラット補正を施す場合には、例えば上記基準出力値に代えてその基準出力値に対応する基準入射光量が求められ、予め記憶される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0037】
図1は、本発明の一実施例である温度分布測定装置10の構成を説明する図である。図1において、焼成炉、加熱炉などの炉内において加熱されている被測定部材12の表面から放射された光は、レンズ装置14によって第1光路16および第2光路18に2分されて第1ミラー20および第2ミラー22に集光させられ、それらミラー20,22で反射されて第3ミラー24,第4ミラー26に向かわせられ、それらミラー24,26に反射されることにより、多数の光検出素子が配列された光検出面28を備えたCCD素子30に入射してその光検出面28に結像させられるようになっている。本実施例においては、上記CCD素子30が焦点面検出器に相当し、第1光路16および第2光路18の光は、その光検出面28に対して斜め方向から(すなわち光検出面28の法線に対して所定の角度を以て)入射させられる。また、本実施例では上記レンズ装置14およびミラー20〜26によって光学系が構成されているが、これに代えてミラーおよびハーフミラーを組み合わせて光路を略直角に曲げることにより平行光に分光し、光検出面28に垂直に入射させるような他の構成の光学系が備えられていても差し支えない。
【0038】
上記レンズ装置14内には、例えば光波干渉を利用して所定の波長帯の光を選択的に透過させる所謂干渉フィルタや1乃至複数枚のレンズ32等が備えられている。そのため、例えば中心波長600(nm)且つ半値幅10(nm)程度の第1波長(帯)λ1の光は、レンズ装置14への入射角度に対して一定の角度だけ傾斜した上記第1光路16に送られ、例えば中心波長650(nm)且つ半値幅10(nm)程度の第2波長(帯)λ2の光は、上記第1波長λ1の光とは反対側に一定の角度だけ傾斜した上記第2光路18に送られる。なお、レンズ装置14の詳細な構成は本実施例を理解するために必要では無いので細部の説明は省略する。
【0039】
上記第1波長λ1および第2波長λ2は、例えば以下のようにして決定されている。先ず、プランクの式により測定温度範囲の最低温度における黒体の波長と放射(輻射)強度との間の関係すなわち図2に示す曲線L1が求められ、次いで室温における被測定部材12からのバックグラウンド放射強度EBGが測定される。次いで、そのバックグラウンド放射強度EBGの3倍値すなわち3×EBGを上まわる曲線L1上の任意の1点が第1波長λ1として決定される。検出誤差以上の強度を用いて測定精度を高める為である。次に、第1波長λ1の1/12の波長以下の波長Δλだけ例えば第1波長λ1を600(nm)とすれば50(nm)(=Δλ)だけ第1波長λ1から上または下へずらした波長例えば650(nm)が第2波長λ2として決定される。後述の2色温度計の原理を示す近似式(式1)を成立させる為である。なお、第1波長λ1および第2波長λ2は、放射強度の測定精度を維持する為に相互の波長が重ならないように、以下において決定する半値幅の2倍以上の差が設けられるようにする。そして、上記第1波長λ1および第2波長λ2は、単色光の性質を維持する為に、その中心波長の1/20以下、例えば20(nm)程度以下の半値幅が用いられる。
【0040】
図1の光学系において、例えばミラー20〜26の光軸に対する角度が適宜定められることにより、第1光路16および第2光路18をそれぞれ進んだ光によって、CCD素子30の光検出面28において波長の異なる2画像が結像されるようになっている。すなわち、CCD素子30には、例えば図3に示すように、被測定部材12の表面から放射される光のうちから選択された第1波長λ1の被測定部材12の第1画像G1が光検出面28上の第1位置B1に結像され、且つ被測定部材12の表面から放射される光のうちから選択された第2波長λ2の被測定部材12の第2画像G2が、光検出面28上の上記第1位置B1とは異なる第2位置B2に結像させられるようになっている。これにより、光検出面28に配列された多数の光検出素子により、上記第1画像G1の各部位の放射強度および第2画像G2の各部位の放射強度が素子単位すなわち画素単位で検出され、演算制御装置34にその出力信号が送られるようになっている。
【0041】
上記演算制御装置34は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェイスなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUは予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号、すなわち上記光検出面28に配列された多数の光検出素子からの信号を処理し、画像表示器36に被測定部材12の表面温度分布を表示させる。
【0042】
図4は、演算制御装置34の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。測定対象物、例えば被測定部材12から放射された光が第1波長および第2波長に2分されてその画像がCCD素子30に結像させられると、その出力信号が制御装置34に送られ、ノイズ減算処理手段38によって出力値のうちのダークノイズ等の固定ノイズが減算除去される。処理されたデータは、ゲイン補正手段40によって入射光量と出力値との関係が線形化させられ、その出力値が基準出力値作成手段42およびフラット補正手段44によって処理される。基準出力値記憶手段42は、測定対象物が均一光源である基準出力値の作成プロセスにおいて、上記処理によって線形化された出力値をフラット補正のための基準出力値としてRAMに記憶する。すなわち、基準出力値の作成は、上記ノイズ減算処理手段38およびフラット補正手段44によって行われ、これが記憶されるのである。フラット補正手段44は、測定対象物が被測定部材12である場合の出力値の上記基準出力値に対する比(すなわち比出力値)、或いは出力値に対応する入射光量の基準出力値に対応する基準入射光量に対する比(すなわち比入射光量)を、第1波長および第2波長の各々について算出する(すなわち第1比および第2比を求める)。放射強度比算出手段46は、算出された第1比および第2比の比を放射強度比として求める。温度変換関数作成手段48は、被測定部材12に代えて黒体炉の画像が撮影され且つ標準温度計で同時に標準となる温度を測定する温度較正時において、放射強度比と温度との関係データである温度変換関数を作成する。温度算出手段50は、放射強度比算出手段46によって算出された放射強度比とその温度変換関数とから被測定部材12の温度を算出する。算出された温度データは画像化され、画像表示器36により熱画像として表示される。
【0043】
図5は、温度分布測定時における上記演算制御装置34の各手段の処理内容を詳細に説明するためのフローチャートである。ステップS1では、光検出面28に配列された多数の光検出素子からの信号により、第1画像G1の各部位の出力値E1ijおよび第2画像G2の各部位の出力値E2ijが素子単位すなわち画素単位で読み込まれる。これら出力値E1ijおよびE2ijは、それぞれ被測定部材12から放射された光のうちの第1波長および第2波長の放射強度に対応する値であるが、以下の各ステップの説明から明らかなように放射強度に正確に対応するものではない。次に、ステップS2では、読込まれた出力値E1ijおよびE2ijから各画素毎のダークノイズ等の固定ノイズを減算して、固定ノイズを含まない第1減算出力値E'1ijおよび第2減算出力値E'2ijを算出する。本実施例においては、制御装置34のうちこのステップS2を実施するために係る部分がノイズ減算処理手段に相当するが、要求される測定精度に対して固定ノイズが十分に小さい場合には実施されなくともよい。
【0044】
図6は、1画素の固定ノイズの一例を説明する図である。図示のように、1画素分の光検出素子においては、入射光量の増加に伴って出力値が増大する傾向があるが、入射光量が0の場合でも出力値はN以下にならない。この出力値Nが光検出素子固有の固定ノイズの大きさであり、斜線で示すように入射光量の如何に関わらず一定値を示す。すなわち、出力値は全域に亘ってNだけ大きい値になる。出力値の比に基づいて温度を決定する温度分布測定装置10では、このように出力値の零点がNだけ狂っていると出力値の比が入射光量比すなわち放射強度比に対応しないので、温度測定精度を低下させる。そのため、このステップS2では、読み込まれた出力値E1ijおよびE2ijから、予め測定され且つ画素毎に記憶されているこの固定ノイズNを減じることにより、0点を通りy=axで表される直線上に略乗った例えば図7に示される関係を得る。これにより、固定ノイズによる誤差を取り除く。なお、この図7および後述する図8においても、縦軸の表示は便宜上「出力値」とした。
【0045】
次に、ステップS3では、固定ノイズNが減じられた第1減算出力値E'1ijおよび第2減算出力値E'2ijにゲイン補正を施すことにより、入射光量と出力値との関係を線形関係に補正して、第1補正値E''1ijおよび第2補正値E''2ijを算出する。すなわち、入射光量に対する出力値の増加率が略一定になるようにそれらの関係を修正する。或いは、実質的に線形関係に保たれていると認めれる出力値の区間毎に、相互に傾きの異なる複数の関数、すなわち出力値と入射光量との関係を作成する。本実施例においては、制御装置34のうちこのステップS3を実施するために係る部分がゲイン補正手段に相当するが、線形関係の崩れの程度が要求測定精度に対して十分に小さい場合には実施されなくともよい。
【0046】
例えば、図7に示される例では、入射光量が比較的少ない範囲では入射光量と出力値との関係が略直線に保たれているが、入射光量がM以上になると入射光量に対する出力値の増加率が低下する。このような光検出素子の特性は、2波長の放射強度比に基づいて温度を決定する本実施例の温度分布測定装置10では、直線に保たれていない入射光量M以上に対応する出力値が温度算出に用いられると、出力値の比が放射強度比に対応しないので、温度測定精度を低下させる。そのため、このステップS3では、入射光量M以上のときの出力値を補正することにより、図8に実線で示されるように入射光量と出力値との関係を線形関係に修正し、入射光量の全域に亘って出力値の比を放射強度比に略一致させる。図8において、一点鎖線は補正前の出力値を表しており、入射光量が多くなるほど出力値の補正量が大きくなる。したがって、この補正処理では、出力値に応じて、入射光量M以上に対応する出力値に対して、出力値が大きくなるほど大きい補正値を加算するか、適当な係数を乗ずる等によって出力値を補正すればよい。具体的な補正処理内容は、光検出素子毎の入射光量と出力値との関係に応じて定められる。補正量は、入射光量に応じて変化するが波長依存性は無く、適当な波長を用いて予め測定され且つ記憶されたデータに基づいて上記補正が行われる。
【0047】
また、図示は省略するが、前述したように傾きの相互に異なる複数の関数が用いられる場合には、出力値に応じた適切な関数を用いて、その出力値に対応する入射光量を求めることになる。すなわち、図8に示す例では、出力値が補正されることによって線形関係が得られているが、出力値から真の入射光量を推定する関数を決定し、実質的に線形関係に修正することもできる。その場合には、第1補正値E''1ijおよび第2補正値E''2ijは、出力値から推定された入射光量である。
【0048】
次に、ステップS4では、固定ノイズ減算およびゲイン補正が施された第1補正値E''1ijおよび第2補正値E''2ijに対してフラット補正を施して、光学系の不均一性すなわち第1光路16および第2光路18に設けられたレンズ32やミラー20等の相違に起因するばらつきが除去された第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijを算出する。すなわち、光学系の不均一性に起因する輝度ムラや周辺減光を実質的に補正した比出力値の分布(出力値分布)或いは比入射光量の分布(入射光量分布)を算出する。本実施例においては、制御装置34のうちこのステップS4を実施するために係る部分がフラット補正手段に相当する。
【0049】
図9、図10は、上記フラット補正の原理および作用を説明する図である。図9において、実線(測定値)は上述した被測定部材12の入射表面輝度分布の一例、すなわち第1位置B1或いは第2位置B2の任意の直線上に位置する各画素の補正値E''1ij或いはE''2ijの分布(以下、測定値分布という)を表しており、破線(基準値)はその各画素の基準となる均一光源の入射表面輝度分布(以下、基準値分布という)、すなわち上記補正値E''1ij或いはE''2ijに対応する同一位置の補正基準値Eb''1ij或いはEb''2ijの分布を表している。
【0050】
上記基準値分布は、予め温度分布測定装置10で積分球等の表面輝度分布が一様な均一光源を撮影して得た基準出力値Ebを処理したものである。表面輝度分布が一様な光源の入射表面輝度は、本来的に一様な分布を示す。したがって、入射表面輝度が図9のように両端部で低下すると共に中央部に凹凸が存在するのは、光学系に起因する周辺減光および輝度ムラが現れたものである。このような光学系の影響は同一の光学系が用いられる場合にはどのような測定対象に対しても同様に現れるため、実線で示す測定値分布には上記光学系の影響が含まれている。なお、上記基準値分布は測定値分布と同様に、均一光源に対する光検出素子の出力値(すなわち基準出力値Eb)にステップS2のノイズ除去およびステップS3のゲイン補正を施して算出されたものである。また、補正基準値Eb''1ijおよびEb''2ijの分布形状は光学系のみに依存することから、種々の測定に対して共通のデータを用いることができる。
【0051】
上記ステップS4では、第1補正値E''1ijおよび第2補正値E''2ijを、それらが測定される第1位置B1および第2位置B2の各々すなわち光学系毎に、全画素について予め測定され且つ記憶された補正基準値Eb''1ijおよびEb''2ijでそれぞれ除算することにより、光学系に起因する同一の影響を受けた補正基準出力値Eb''1ijおよびEb''2ijに対する第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijに変換される。すなわち、第1補正値E''1ijおよび第2補正値E''2ijの補正基準値Eb''1ijおよびEb''2ijに対する比(すなわち比入射光量)が画素毎に求められる。これにより、例えば図10に示されるように、光学系に起因する影響が除去された比入射光量分布が得られる。この処理結果から明らかなように、前記図9は略一様な放射強度の測定例を表示している。なお、図10において示される僅かな凹凸は、被測定部材12の実際の温度分布が現れたものである。
【0052】
次に、ステップS5では、被測定部材12の各位置における第1波長λ1と第2波長λ2の放射強度比Rijが画素毎に算出される。すなわち、上記のようにして画素毎に算出された第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijを用いて、光検出面28内の第1位置B1に結像された第1画像G1および第2位置B2に結像された第2画像G2のうちの同じ部分に位置する光検出素子対がそれぞれ検出する第1波長λ1の放射強度に対応する第1比E'''1ijと第2波長λ2の放射強度に対応する第2比E'''2ijとの比Rij(=E'''1ij/E'''2ij)が算出される。
【0053】
このとき、本実施例では前記図1に示されるように光検出面28に対して第1波長および第2波長の光が相互に異なる角度で入射させられていても、その入射角度に応じて生じる光検出面28上の画像の歪みが、前記ステップS4のフラット補正によって打ち消される。したがって、第1位置B1および第2位置B2の画素(座標)相互の対応関係の精度が高められるので、放射強度比Rijの算出精度が高められる。すなわち、上記のように第1比E'''1ijと第2比E'''2ijとの比として算出されたRijは、実際の放射強度比に略一致する。したがって、このような補正の結果得られた入射強度比Rijを以下の説明においては、必要に応じて放射強度比と称する。
【0054】
次に、ステップS6において、予め演算制御装置34に記憶された図11に示されるような放射強度比と温度値との関係に基づいて、上記画素毎に算出された放射強度比Rijより、被測定部材12の画像を構成する画素毎の温度Tijが導出される。温度Tijの導出に用いられる関係は、例えば式1に示す2色温度計の測定原理を示す近似式から得られるものである。式1は、放射率を用いなくとも異なる2波長λ1およびλ2における放射強度比Rから被測定部材12の表面温度Tを求めることができるように導かれたものである。以下の式において、λ2>λ1であって、Tは絶対温度を、C1は放射(Planck)第1定数、C2は放射(Planck)第2定数をそれぞれ示している。
【0055】
(式1)
R=(λ2/λ1)5exp[(C2/T)・(1/λ2−1/λ1)]
【0056】
上式1は、以下のようにして求められる。すなわち、波長λにおいて単位時間、単位面積あたりに黒体から放射される放射強度(エネルギ)Ebおよびλはプランク(Planck)の式である式2に従うことが知られている。また、exp(C2/λT)>>1である場合には、ウイーン(Wien)の近似式である式3が成り立つことが知られている。通常の物体は灰色であると考えることができる為、放射率εを代入して書き換えることにより式4が導出される。この式4を用いて2波長λ1およびλ2の放射強度E1およびE2の比Rを求めると式5が導かれる。上記2波長λ1およびλ2が近接している場合には、放射率εの依存性を無視することができ、ε1=ε2と近似することができるので、前記式1が得られる。これによれば、放射率εの異なる物体であっても、それに影響なく温度Tを求めることができるのである。
【0057】
(式2)
Eb=C1/λ5[exp(C2/λT)−1]
(式3)
Eb=C1exp(−C2/λT)/λ5
(式4)
E=ε・C1exp(−C2/λT)/λ5
(式5)
R=(ε1/ε2)・(λ2/λ1)5exp[(C2/T)・(1/λ2−1/λ1)]
【0058】
なお、上記図11は、例えば黒体炉の温度を適当な速度で変化させつつ温度分布測定装置10および図示しない標準温度計で同時に測定し、例えば図12に示されるフローチャートに従ってその測定値を処理することにより作成されたものである。図12において、ステップR1〜R5は、図5のステップS1〜S5と同一の処理である。すなわち、先ず、ステップR5までの各ステップにおいて光検出素子からの出力値Eijを処理し、上述した温度測定の場合と同様にして各画素毎の放射強度比Rijを算出する。次いで、算出された放射強度比Rijを標準温度計による測定温度と対応づけることにより、図11に示される温度変換関数が得られる。
【0059】
以上のようにして、例えば図11に示す関係から被測定部材12の画像を構成する画素毎の温度Tijが算出されると、続くステップS7において、予め演算制御装置34に記憶された関係から上記画素毎に算出された実際の温度Tijに基づいて被測定部材12の表面の温度分布が表示される。図13に温度勾配を等高線で表した熱画像の一例を示す。この図13は、第1波長λ1を750(nm)程度、第2波長λ2を800(nm)程度の近接した2波長に設定し、例えば1100(℃)に設定した黒体炉の温度分布を測定したものであるが、内周部が一様な温度で外周部の温度が僅かに低くなった熱画像が得られている。この円形の視野内における温度勾配は、測定毎に多少のばらつきがあるものの概ね10(℃)未満であり、通常知られている黒体炉内の温度分布が略再現されている。
【0060】
これに対して、前記ステップS2〜S4の補正処理が施されない従来の温度分布測定装置によって得られる熱画像では、図14に示されるように内周部に著しい温度勾配が認められ、視野内における温度勾配は200(℃)にも及ぶ。すなわち、1100(℃)に設定された黒体炉ではあり得ない著しく大きな温度勾配が現れている。
【0061】
要するに、本実施例によれば、ノイズ減算処理手段38によって固定ノイズが除去され、ゲイン補正手段40によって入射光量と出力値Eとの関係が線形化された後、フラット補正手段44によって、第1補正値E''1ijおよび第2補正値E''2ijが、予め記憶された第1補正基準値Ebijおよび第2補正基準値Eb''2ijで除されることにより第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijが算出されると、放射強度比算出手段46によって、これら第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijを用いて放射強度比Rが算出される。そのため、第1補正値E''1ijを第1補正基準値Eb''1ijに対する比である第1比E'''1ijに、第2補正値E''2ijを第2補正基準値Eb''2ijに対する比である第2比値E'''2ijにそれぞれ置き換えることにより、光学系に起因するばらつきが緩和されることから、これら第1比E'''1ijおよび第2比E'''2ijの比は、上記ばらつきが緩和されることによって真の放射強度比に近い値になるので、温度変換関数にこの比を適用することにより、温度分布の測定精度が高められる。
【0062】
しかも、本実施例においては、フラット補正に加えてノイズ減算およびゲイン補正が施されていることから、固定ノイズNが除去されることによって真の出力値との誤差が解消され或いは減じられると共に、入射光量との関係が線形関係に修正された補正出力値E''が温度分布算出に用いられるので、温度分布の測定精度が更に高められる。
【0063】
また、本実施例においては、第1波長λ1に750(nm)程度、第2波長λ2に800(nm)程度の波長が選択されることにより、波長間隔が十分に小さい2波長を用いて温度分布が測定されることから、被測定部材の放射率波長依存性の影響が小さくなるので、測定精度が一層高められる。
【0064】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施例である温度分布測定装置の構成を説明する概略図である。
【図2】図1の第1フィルタの波長と第2フィルタの波長を決定する方法を説明する図である。
【図3】図1の画像検出装置の光検出面上に結像された第1画像および第2画像を説明する図である。
【図4】図1の演算制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】図1の演算制御装置の制御動作の要部を説明するフローチャートである。
【図6】CCD素子の出力信号に含まれるダークノイズを説明するための入射光量と出力値との関係を説明する図である。
【図7】図6に示す関係からダークノイズを減算した後の入射光量と出力値との関係を説明する図である。
【図8】図7に示す関係を補正したデータを示す図である。
【図9】積分球および被測定部材の放射強度をそれぞれ測定して光検出面上の位置と入射表面輝度との関係を示す図である。
【図10】図9に示す積分球の入射表面輝度データで被測定部材の入射表面輝度データを除算した結果を示す図である。
【図11】放射強度比と温度値との関係を説明する図である。
【図12】図11に示す温度変換関数を作成するための演算制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【図13】図1の温度分布測定装置により得られる熱画像の一例における温度勾配を等高線で示した図である。
【図14】フラット補正を施さない従来の温度分布測定により得られる熱画像の一例を示す図13に対応する図である。
【符号の説明】
【0066】
10:温度分布測定装置、38:ノイズ減算処理手段、40:ゲイン補正手段、44:フラット補正手段、46:放射強度比算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定部材の表面から放射される光のうちから選択された第1波長および第2波長の光を検出し、それら第1波長および第2波長の2波長間の放射強度比とそれら2波長間の放射強度比を与える光を放射する物体の温度との相対関係を用いて、前記被測定部材表面の温度分布を測定するための二次元多色法温度計測装置であって、
前記第1波長および前記第2波長の光をそれぞれ検出するための第1位置および第2位置を備え且つ各々で検出した入射光量に対応する第1出力値および第2出力値を出力する焦点面検出器と、
前記第1位置および前記第2位置の各々における所定の均一光源に対応する出力値として予め記憶された第1基準出力値および第2基準出力値に対する前記第1出力値および前記第2出力値の比をそれぞれ第1比および第2比として算出するフラット補正手段と、
前記第1比および前記第2比の比を前記放射強度比として算出する放射強度比算出手段と
を、含むことを特徴とする二次元多色法温度計測装置。
【請求項2】
前記焦点面検出器の入射光量とは無関係な出力値である固定ノイズを前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値から減じた第1減算出力値、第2減算出力値、第1減算基準出力値、および第2減算基準出力値をそれぞれ算出するノイズ減算処理手段を含み、
前記フラット補正手段は、前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値に代えて、前記ノイズ減算処理手段の出力値をそれぞれ用いて、前記第1比および前記第2比の算出処理を行うものである請求項1の二次元多色法温度計測装置。
【請求項3】
前記焦点面検出器の入射光量と出力値とが線形関係となるようにその出力値の大きさに応じて予め定められたゲイン補正関数を用いて前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値、または前記ノイズ減算処理手段の出力値を演算処理することにより第1補正値、第2補正値、第1補正基準値、および第2補正基準値をそれぞれ算出するゲイン補正手段を含み、
前記フラット補正手段は、前記第1出力値、前記第2出力値、前記第1基準出力値、および前記第2基準出力値、または前記ノイズ減算処理手段の出力値に代えて、前記ゲイン補正手段により算出された補正値を用いて、前記第1比および前記第2比の算出処理を行うものである請求項1または請求項2の二次元多色法温度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−10382(P2006−10382A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184838(P2004−184838)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】