説明

二次電池の状態検知方法

【課題】電池の劣化状態を非破壊的方法により正確に検知する方法を提供する。
【解決手段】二次電池の状態検知方法であって、前記二次電池のある充電深度におけるエントロピー変化量を測定する工程と、前記工程の後に前記二次電池の充電を行う工程とを繰り返し行い、充電深度に対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きに基づいて前記二次電池の劣化状態を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の状態検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯用機器の電源として様々な電池が用いられているが、電池の劣化状態を正確に検知できないため、予想よりも早く電池が消耗して携帯用機器が使用できなくなる場合がある。そこで電池の状態を非破壊的方法により正確に検知する方法が望まれている。
【0003】
特許文献1では、LiMn2O4のリチウム挿入における実験によって決定された開回路電圧(Open Circuit Voltage:OCV)とエントロピー変化量(ΔS)を用いて、電極材料の評価を行う方法が提案されている。しかしながら、上記方法では電池の劣化状態を正確に検知することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009-506483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電池の劣化状態を非破壊的方法により正確に検知する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、二次電池の状態検知方法であって、前記二次電池のある充電深度におけるエントロピー変化量を測定する工程と、前記工程の後に前記二次電池の充電を行う工程とを繰り返し行い、充電深度に対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きに基づいて前記二次電池の状態を検知することを特徴としている。
【0007】
本発明によれば、充電深度に対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きが電池の劣化状態によって大きく変化するため、その変化に基づいて電池の劣化状態を非破壊的方法により正確に検知することができる。
【0008】
前記エントロピー変化量は複数の異なる温度における開回路電圧を測定することによって求められる。より具体的には、式1に測定された温度と開回路電圧の値を代入することによりエントロピー変化量が求められる。
(式1)
【0009】

【0010】
(ΔS: エントロピー変化量, F: ファラデー定数, ΔE: 開回路電圧, T: 温度)
リチウム二次電池の正極活物質中に二相の結晶構造が共存する充電深度で、エントロピー変化量の傾きが大きく変化するため、当該充電深度で上記の状態検知方法により劣化状態の検知を行うことで、検知精度を上げることができる。
【0011】
また、リチウムの標準電極電位に対する前記リチウム二次電池の正極電位が2.75V以下になるまで前記リチウム二次電池を放電した後、上記の状態検知方法により劣化状態の検知を行うことで、検知精度を上げることができる。
【0012】
さらに、前記充電深度におけるリチウムの標準電極電位に対する前記リチウム二次電池の正極電位が、3.905V〜3.913Vの範囲にあるときの前記充電深度に対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きを求めることで、劣化状態の検知精度を上げることができる。
【0013】
前記充電深度がLixMO2(MはNi、Co、及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素、0≦x≦1)のリチウム量xで表される場合、前記リチウム量xに対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きが、−160以下であるときに前記二次電池が劣化状態にあると診断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、充電深度に対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きが、電池の劣化状態によって大きく変化するため、その変化に基づいて電池の劣化状態を非破壊的方法により正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1〜3及び比較例1〜3で用いたラミネートセル
【図2】実施例1〜3及び比較例1〜3で用いた試験セル
【図3】実施例1で測定した各温度における開回路電圧
【図4】実施例1で測定した開回路電圧の温度依存性
【図5】実施例1におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量とOCV曲線
【図6】実施例2におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量とOCV曲線
【図7】実施例3におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量とOCV曲線
【図8】比較例1におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量とOCV曲線
【図9】比較例2におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量とOCV曲線
【図10】比較例3におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量とOCV曲線
【図11】実施例3におけるリチウム量x=0.964のときの正極活物質のX線回折パターン
【図12】実施例3におけるリチウム量x=0.882のときの正極活物質のX線回折パターン
【図13】実施例1におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量曲線の傾き
【図14】実施例2におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量曲線の傾き
【図15】実施例3におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量曲線の傾き
【図16】比較例1におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量曲線の傾き
【図17】比較例2におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量曲線の傾き
【図18】比較例3におけるリチウム量xに対するエントロピー変化量曲線の傾き
【図19】実施例1〜3及び比較例1〜3のエントロピー変化量曲線の傾きと容量維持率の関係
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的な実施態様により説明するが、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0017】
(実施例1)
<ラミネートセルの作製>
正極活物質、導電剤、及び結着剤の総重量に対して、正極活物質としてのコバルト酸リチウムを95重量部、導電剤としての炭素を2.5重量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを2.5重量部の割合で混合した。この混合物にN−メチル−2−ピロリドンを加えてスラリー状にし、このスラリーをアルミ箔からなる集電体の両面に塗布し乾燥させた。得られた電極を圧延し板状に切り出し、タブ1を付けることによって正極2を作製した。
【0018】
負極活物質、増粘剤、及び結着剤の総重量に対して、負極活物質としてのグラファイトを98重量部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースを1重量部、結着剤としてのスチレンブタジエンラバーを1重量部の割合で混合させた。この混合物に水を加えてスラリー状にし、このスラリーを銅箔からなる集電体の両面に塗布し乾燥させた。得られた電極を圧延し板状に切り出し、タブ1を付けることによって負極3を作製した。
【0019】
上記のように作製した正極2と負極3を、ポリエチレン製のセパレータ4を介して対向させ、これらをスパイラル状に巻き、プレスして扁平電極体を作製した。この扁平電極体を、アルミラミネートフィルム5で構成された電池容器に挿入し、これに非水電解液6を注入した後封止することにより、設計容量700mAhのラミネートセル(図1)を作製した。
【0020】
ここで非水電解液6は、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比30:70の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウムを1mol/lの濃度になるように添加したものを用いた。
【0021】
作製したラミネートセルを、700mAの定電流値で電圧が4.4Vに達するまで定電流充電を行い、その後電流値が35mAに達するまで定電圧充電を行った。その後、700mAの定電流値で電圧が2.75Vに達するまで放電を行ったところ、放電容量は700mAhであった。
【0022】
<劣化試験>
作製したラミネートセルについて、700mAの定電流値で電圧が4.4Vに達するまで定電流充電を行い、その後電流値が35mAに達するまで定電圧充電を行った。その後、700mAの定電流値で、電圧が2.75Vに達するまで放電を行う充放電試験を1サイクルとし、100サイクル試験を行った。その後、ラミネートセルを解体し、正極を5.7cm×2.5cmの板状に切り出し、ジエチルカーボネートにより洗浄、乾燥後、タブを付けることによって作用極7を作製した。この作用極7と、8.0cm×4.0cmの大きさのリチウム金属を用いた対極8及び参照極9と、前記非水電解液6と、前記セパレータ4とを用いて試験セル10(図2)を作製した。
【0023】
<測定前充放電>
作製した試験セルについて、まず電流密度0.75mA/cm2の定電流で、参照極を基準とする作用極の電位が4.3Vに達するまで充電を行った後、電流密度0.75mA/cm2の定電流で、参照極を基準とする作用極の電位が2.75Vに達するまで放電を行う充放電試験を2回繰り返した。その後電流密度15mA/gの定電流で、参照極を基準とする作用極の電位が4.3Vに達するまで充電を行った後、電流密度15mA/gの定電流で、参照極を基準とする作用極の電位が2.75Vに達するまで放電を行って放電容量Q1を算出した。尚、上記の電流密度は電流値を活物質、導電剤、及び結着剤の総重量で割ったものとした。この放電容量Q1を元に、以後の測定の電流密度を算出した。
【0024】
<エントロピー算出方法>
上記の測定前充放電後の試験セルについて、25℃、15℃、5℃、−5℃で各10分間開回路電圧を測定し(図3)、その平均値から最小二乗法により直線の傾きを求め(図4)、式1よりエントロピー変化量を算出した。その後、0.05Itの電流密度を10分間印加し充電を行い、その後少なくとも120分放置した。これらの工程を繰り返し行い、正極のコバルト酸リチウムの化学式LixCoO2(0≦x≦1)のリチウム量xに対するエントロピー変化量をプロットした(図5)。
【0025】
(実施例2)
実施例1で行った劣化試験の代わりに以下の劣化試験を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム量xに対するエントロピー変化量をプロットした(図6)。
【0026】
<劣化試験>
実施例1と同様の方法で作製したラミネートセルを、室温で700mAの定電流値で電圧が4.4Vに達するまで定電流充電し、その後、電流値が35mAに達するまで定電圧充電を行った。その後、60℃の恒温槽で20日間保管した。
【0027】
(実施例3)
実施例1で行った劣化試験を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム量xに対するエントロピー変化量をプロットした(図7)。
(比較例1)
実施例1の測定前充放電及びエントロピー算出方法の代わりに以下の測定前充放電及びエントロピー算出方法を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム量xに対するエントロピー変化量をプロットした(図8)。
【0028】
<測定前充放電>
実施例1の<測定前充放電>の操作を行った後、0.05Itの電流密度で参照極を基準とする作用極の電位が5.0Vに達するまで充電を行った。
【0029】
<エントロピー算出方法>
0.05Itの電流密度を10分間印加し充電する代わりに、同じ条件で放電を行った以外は実施例1のエントロピー算出方法と同様にしてリチウム量xに対するエントロピー変化量をプロットした。
(比較例2)
比較例1で行った劣化試験の代わりに実施例2の劣化試験を行ったこと以外は、比較例1と同様にしてリチウム量xに対するエントロピー変化量をプロットした(図9)。
【0030】
(比較例3)
比較例1で行った劣化試験を行わなかったこと以外は、比較例1と同様にしてリチウム量xに対するエントロピー変化量をプロットした(図10)。
【0031】
表1に<測定前充放電>で測定した実施例3に対する実施例1及び2の容量維持率を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表2に<測定前充放電>で測定した比較例3に対する比較例1及び2の容量維持率を示す。
【0034】
【表2】

【0035】
実施例1〜3に対応する図5〜7で見られる三つの極大は、正極の相転移に対応していると考えられる。実施例3で見られる充電開始直後のエントロピー変化量曲線の長い平坦部は、実施例1及び2では見られなかった。
【0036】
ここで実施例3のリチウム量xが0.964及び0.882のときの正極活物質のX線回折パターンを図11及び図12にそれぞれ示す。図11にはO3I構造しか見られないが、図12にはO3I構造と共にO3II構造が見られる(2θ=65°付近)。従って、実施例3で見られた平坦部は、O3I+II構造の二相共存領域であると考えられる。
【0037】
比較例1〜3に対応する図8〜10についても、実施例1〜3と同様に三つの極大が見られる。しかし、充電開始直後のエントロピー変化量曲線の平坦部は、図8〜10で現れ方に違いはなかった。
【0038】
従って、<エントロピー算出方法>においてエントロピー変化量を測定する工程とその後に充電を行う工程とを繰り返した実施例では、図5〜7より電池の劣化状態が正確に検知できるが、<エントロピー算出方法>においてエントロピー変化量を測定する工程とその後に放電を行う工程とを繰り返した比較例では、図8〜10より電池の劣化状態が正確に検知できないことが判る。
【0039】
続いて、参照極を基準とする作用極の電位が3.905V〜3.913Vの間の実施例1〜3のエントロピー変化量曲線の傾きを最小二乗法で求め図13〜15に示す。同様に比較例1〜3のエントロピー変化量曲線の傾きを図16〜18に示す。実施例3ではエントロピー変化量曲線の傾きが−18.311であったのに対し、実施例1では−177.59、実施例2では−104.51と大きく変化した。一方、比較例3ではエントロピー変化量曲線の傾きが−30.915であったのに対し、比較例1では−27.244、比較例2では−31.357とあまり変化がなかった。
【0040】
求められたエントロピー変化量曲線の傾きと容量維持率の関係を図19に示す。実施例1〜3及び比較例1〜3についてそれぞれ最小二乗法で直線の傾きを求めたところ、比較例1〜3の傾きの絶対値が0.1以下であるのに対して、実施例1〜3の傾きは約4.9と約50倍大きな値を示した。実施例1〜3のように、上記直線の傾きが大きければ、二次電池の正確な劣化状態を定量的に検知することが可能となる。また、この方法によれば一部の充電深度の領域でエントロピー測定を行うことで、二次電池の劣化状態が検知できるため、充放電試験を行って容量維持率を求める方法よりも簡便である。
【0041】
容量維持率が70%以下になった場合に、電池が劣化したと診断する場合、実施例3より3.905V〜3.913Vの間のエントロピー変化量曲線の傾きが-160以下であればその二次電池が劣化状態にあると診断することができる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・タブ
2・・・正極
3・・・負極
4・・・セパレータ
5・・・アルミラミネートフィルム
6・・・非水電解液
7・・・作用極
8・・・対極
9・・・参照極
10・・・試験セル





【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の状態検知方法であって、
前記二次電池のある充電深度におけるエントロピー変化量を測定する工程と、
前記工程の後に前記二次電池の充電を行う工程とを繰り返し行い、
充電深度に対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きに基づいて前記二次電池の状態を検知する二次電池の状態検知方法。
【請求項2】
複数の異なる温度における開回路電圧を測定することによって前記エントロピー変化量を求めることを特徴とする請求項1に記載の二次電池の状態検知方法。
【請求項3】
前記温度が−5℃以上25℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の二次電池の状態検知方法。
【請求項4】
前記二次電池がリチウム二次電池であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の二次電池の状態検知方法。
【請求項5】
前記充電深度において前記リチウム二次電池の正極活物質中に二相の結晶構造が共存することを特徴とする請求項4に記載の二次電池の状態検知方法。
【請求項6】
リチウムの標準電極電位に対する前記リチウム二次電池の正極電位が2.75V以下になるまで前記リチウム二次電池を放電した後、請求項4又は5に記載の方法を行うことを特徴とする二次電池の状態検知方法。
【請求項7】
前記リチウム二次電池の正極活物質がコバルト酸リチウムを含むことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の二次電池の状態検知方法。
【請求項8】
前記充電深度におけるリチウムの標準電極電位に対する前記リチウム二次電池の正極電位が、3.905V〜3.913Vの範囲にあることを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の二次電池の状態検知方法。
【請求項9】
前記充電深度がLixMO2(MはNi、Co、及びMnからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素、0≦x≦1)のリチウム量xで表されることを特徴とする請求項8に記載の二次電池の状態検知方法。
【請求項10】
前記リチウム量xに対する測定されたエントロピー変化量曲線の傾きが、−160以下であるときに前記二次電池が劣化状態にあると診断することを特徴とする請求項9に記載の二次電池の状態検知方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−113688(P2011−113688A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266934(P2009−266934)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】