説明

二次電池用多孔質電極

【課題】充放電サイクル特性が良好であり、二次電池の容量を向上させることのできる電極を提供すること。
【解決手段】集電体3の表面に、互いに離間した複数の多孔質ドメイン構造2の集合として形成され、多孔質ドメイン構造2が、平面視で鋭角を持たない多角形形状であり、かつ前記多角形形状の最大径が120μm以下である電極1を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用として好ましく使用することのできる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やラップトップコンピュータ、あるいはカメラ一体型VTR等の携帯機器が大きな市場を形成している。このような携帯機器に使用される電源として、軽量、小型、高エネルギー密度を有する二次電池の要望が強い。特に、リチウムイオン二次電池は、これらの要求特性の点で他の二次電池に比較して優位性があり、携帯機器への採用が進んでいる。リチウムイオン二次電池では、放電時に、負極に存在するリチウムが酸化されてリチウムイオンとなって放出される一方、正極ではリチウムイオンが還元されてリチウム化合物となって吸蔵される。また、充電時には、負極においてリチウムイオンが還元されてリチウムとなって吸蔵される一方、正極に存在するリチウム化合物が酸化されてリチウムイオンとなって放出される。このように、リチウムイオン二次電池では、充放電時に、リチウムイオンが、正極と負極の間を移動し、いずれかの電極においてリチウム又はリチウム化合物として吸蔵される。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池の負極材料として、黒鉛等の炭素材料が使用される。例えば、黒鉛を負極材料として用いると、リチウムが黒鉛層間に吸蔵されることにより充放電がなされる。しかしながら、黒鉛は、リチウムイオンの黒鉛結晶中へのインターカレーションを充放電の原理としているため、最大リチウム導入化合物であるLiCから計算して、372mAh/g以上の充放電容量が得られないという欠点がある。
【0004】
一方で、負極にリチウムと合金化する金属材料を使用する研究も鋭意行われている。そして、このような金属材料を負極とするものにおいては、黒鉛の充放電容量の372mAh/gよりも大きな容量が得られることが報告されている。しかしながら、これらの材料を使用した負極は、リチウムと合金を形成する際に大きな体積膨張を起こして内部に応力を発生させるため、充電と放電とを繰り返すことにより合金が微粉化し、良好な充放電サイクル特性(すなわち電極の寿命)が得られないという問題がある。
【0005】
このようなことから、特許文献1には、リチウムと合金化することのできる金属からなり、多孔質構造を有するリチウム二次電池用の負極が提案されている。このような負極を使用することにより、負極材料がリチウムと合金を形成する際の体積変化に伴う内部応力が緩和され、充放電サイクル特性の向上を図ることができる。また、非特許文献1には、特許文献1に記載された多孔質電極を、集電体の表面で互いに離間した複数の円柱構造に分割して形成させることが提案されている。このような負極によれば、充放電における負極の内部応力がさらに緩和されるので、より一層、充放電サイクル特性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−260886号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Woo、岡田、棟方、金村、「リチウムイオン二次電池用ドメイン構造を有する多孔性Sn−Ni合金負極の作製および特性評価」、第50回電池討論会公演要旨集3A01、(社)電気化学電池技術委員会(2009年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された多孔性負極をリチウムイオン二次電池に適用することにより、これまでの合金型負極に比べて寿命が改善される。しかしながら、このような多孔性負極であっても、負極における内部応力による影響は依然として存在し、充放電の繰り返しに伴う負極へのクラックの発生が認められる点で改善の余地があった。この点、非特許文献1に記載された負極によれば、負極へのクラックの発生が大きく抑制され、寿命も大きく向上する。しかしながら、非特許文献1に記載された負極は、集電体の表面で互いに離間した円柱構造の集合として形成されるので、集電体の表面のうち負極が形成されない未使用箇所も多く、電池容量の向上という点では改善の余地があった。
【0009】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、充放電サイクル特性が良好であり、二次電池の容量を向上させることのできる電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、集電体の表面に、電極を互いに離間した複数の多孔質ドメイン構造の集合として形成させ、この多孔質ドメイン構造を、鋭角を持たない多角形形状とし、かつその最大径を120μm以下とすることにより、充放電サイクル特性と電池容量との両方を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、集電体の表面に、互いに離間した複数の多孔質ドメイン構造の集合として形成され、前記多孔質ドメイン構造が、平面視で鋭角を持たない多角形形状であり、かつ前記多角形形状の最大径が120μm以下である電極である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、充放電サイクル特性が良好であり、二次電池の容量を向上させることのできる電極が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の電極の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の電極の第1実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の電極の第1実施形態におけるドメイン構造を示す拡大斜視図である。
【図4】(A)から(D)は、各種の平面視形状を有するドメイン構造を作製した場合における各ドメイン構造の配置状態を説明する図である。
【図5】本発明の電極の第2実施形態を示す平面図である。
【図6】(A)〜(F)は、本発明の第1実施形態の電極における作製手順の一例を順次示す斜視図である。
【図7】フレキシブル基板に設けた実施例1及び2並びに比較例1の電極における、サイクル回数に対する放電容量を示すプロットである。
【図8】フレキシブル基板に設けた実施例1及び2並びに比較例1の電極における、サイクル回数に対する容量維持率を示すプロットである。
【図9】実施例1の負極におけるサイクル回数に対する放電容量の推移を示すプロットである。
【図10】実施例1の負極を適用したリチウムイオン二次電池における充放電特性を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の電極の第1実施形態を示す斜視図である。図2は、本発明の電極の第1実施形態を示す平面図である。図3は、本発明の電極の第1実施形態におけるドメイン構造を示す拡大斜視図である。
【0015】
図1又は図2に示すように、電極1は、集電体3の表面に、互いに離間した複数のドメイン構造2の集合として形成される。これらドメイン構造2の一つ一つにおいて、正極反応又は負極反応を生じ、それらの反応で生じた電流が集電体3に集められる。
【0016】
本発明の電極1が使用される電池として、充放電が可能な二次電池が挙げられる。このような二次電池としては、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池が挙げられる。以下、本発明の実施形態としてリチウムイオン二次電池の電極について説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、充放電に伴って電極からのイオンの放出又は電極へのイオンの吸蔵を生じる二次電池において好ましく適用される。
【0017】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用の電極1は、負極又は正極のいずれであってもよい。本実施形態の電極1が負極である場合、当該電極1は、リチウムと合金化する金属又は合金で構成される。このような金属又は合金としては、スズ、鉛、銀、これらの金属を含む合金等が例示される。これらの中でも、材料コストを考慮するとスズ又はSi−Ni等のスズ合金が実用的である。スズ合金を負極として使用する場合、当該負極におけるスズの含有量は、5質量%〜99.995質量%の範囲のものを使用すればよい。
【0018】
本実施形態の電極1が正極である場合、当該電極1としては、リチウムイオンを充放電時に吸蔵及び放出できる金属カルコゲン化合物などが好ましく使用される。このような金属カルコゲン化合物としては、バナジウムの酸化物、バナジウムの硫化物、モリブデンの酸化物、モリブデンの硫化物、マンガンの酸化物、クロムの酸化物、チタンの酸化物、チタンの硫化物及びこれらの複合酸化物、複合硫化物が挙げられる。好ましくは、Cr、V、V18、VO、Cr、MnO、TiO、MoV、TiSMoS、MoSVS、Cr0.250.75、Cr0.50.5等である。また、LiMY(Mは、Co、Ni等の遷移金属、Yは、O、S等のカルコゲン原子)、LiM(MはMn、YはO)、WO等の酸化物、CuS、Fe0.250.75、Na0.1CrS等の硫化物、NiPS、FePS等のリン、硫黄化合物、VSe、NbSe等のセレン化合物等も好ましく使用される。
【0019】
電極1は、集電体3の表面に形成される。集電体3としては、電気伝導性を有する材料であれば公知のものを全て使用することができる。このような材料としては、銅、ニッケル、ステンレス等が挙げられるが、銅が好適に使用される。なお、特に限定されないが、集電体3として、例えば加熱等の処理により電極1と合金化する金属を使用した場合、電極1を構成するドメイン構造2と集電体3との境界付近に、ドメイン構造2を構成する金属と集電体3を構成する金属との合金層(図示せず)を形成させることができる。このような合金層を形成させると、ドメイン構造2と集電体3との密着性が向上し、充放電の際のドメイン構造2の膨張又は収縮による集電体3からのドメイン構造2の脱離を抑制することができるので好ましい。集電体3は、板状又は箔状のものが実用的である。
【0020】
なお、本実施形態において、集電体3の表面に設けられる各ドメイン構造2の極性は同一である。そのため、ドメイン構造2の集合体は、一つの電極として扱うことができる。つまり、ドメイン構造2の集合体である電極1は、正極又は負極のいずれかである。電極1が負極の場合、セパレータ等を介して不図示の正極が設けられて電池となる。また、電極2が正極の場合、セパレータ等を介して不図示の負極が設けられて電池となる。
【0021】
電極1を構成するドメイン構造2は、集電体3の上方からの平面視で、鋭角を持たない多角形形状として形成される。後述するが、本実施形態のドメイン構造2は、集電体3の表面まで貫通し、平面視でドメイン構造2と同じ形状である貫通孔を有するレジスト膜を鋳型として、当該貫通孔にドメイン構造2を構成する金属を充填することにより形成される。この場合、鋳型となる貫通孔に鋭角となる箇所が含まれると、貫通孔に金属を充填する際に、鋳型に生じる応力が当該鋭角の箇所に集中して鋳型にクラックを生じ、ドメイン構造2を意図した形状に形成することができなくなる可能性がある。そのような観点から、本発明では、ドメイン構造2を、集電体3の上方からの平面視で、鋭角を持たない多角形形状として形成させる。
【0022】
ドメイン構造2の形状としては、鋭角を持たない多角形形状の断面を有する多角柱形状が挙げられ、例えば、四角柱、五角柱、六角柱、七角柱、八角柱等が挙げられる。これらの中でも、集電体3の上方からの平面視で、長方形、正方形又は正六角形である多角柱形状であることが好ましいが、その理由については後述する。なお、本発明の理解を容易にするために、本実施形態では、ドメイン構造2が集電体3の上方からの平面視で正六角形であり、かつそれぞれのドメイン構造2の離間幅が同一である電極1について説明する。この場合、電極1は、集電体3の上方からの平面視でハニカム形状に配置された複数のドメイン構造2からなる。ドメイン構造2の高さは、電極1に要求される寸法や充放電容量等に応じて適宜決定すればよいが、一例として、18μm〜50μmが挙げられる。
【0023】
本実施形態の電極1において、電極1を構成する複数のドメイン構造2は、図1に示すように、互いに離間して配置され、かつ、図3に示すように、それぞれ多孔質体として形成される。このことが本発明のポイントの一つである。
従来、例えば、リチウムイオン二次電池のように、電極からのイオンの放出又は電極へのイオンの吸蔵を伴う二次電池において電極を合金等の金属材料で形成させると、その電極は、充放電の際に、合金化及び脱合金化に伴う体積変化により大きな内部応力を発生させ、この内部応力により微粉化してその後の充放電容量を減少させる。本発明者らは、このような体積変化に伴う内部応力が、従来の二次電池における電極が箔状や板状等といった隙間のない一塊の構造として形成されていたことに伴って生じていたことを見出し、電極1を互いに離間した複数の多孔質ドメイン構造2の集合として形成させればこれらの問題を解決できることを知見した。
【0024】
このため、本実施形態のドメイン構造2は、図3に示すように、複数の空孔21を有する多孔質体として形成される。本実施形態では、これらの空孔が略球状として設けられ、かつこの略球状の空孔が最密充填となるように設けられるが、本発明はこれに限定されない。本実施形態のドメイン構造2がこのような多孔質体であることにより、充放電に伴ってドメイン構造2を構成する金属材料22が体積変化を生じたとしても、ドメイン構造2の内部に含まれる空孔21が、金属材料22の体積変化を吸収し、内部応力の発生を緩和させる。つまり、充電によってドメイン構造2を構成する金属材料22が膨張する場合には、ドメイン構造2に含まれる空孔21は、金属材料22がこの空孔21を埋めるように膨張するための空間を提供し、内部応力の発生を緩和する。逆に、放電によってドメイン構造2を構成する金属材料22が収縮する場合には、ドメイン構造2に含まれる空孔21を埋めるように膨張していた金属材料22は収縮し、空孔21がほぼ元の大きさまで復元される。このように、ドメイン構造2に含まれる空孔21は、金属材料22が膨張又は収縮する際の緩衝作用を呈し、ドメイン構造2の内部に生じる内部応力を緩和させる。空孔21の孔径としては、0.05〜5μm程度が例示されるが、特に限定されない。
【0025】
ドメイン構造2の堆積に占める空孔21の体積、すなわち空孔率は、ドメイン構造2の機械的強度及び必要とする内部応力緩和効果の程度を考慮して、適宜決定すればよい。空孔率としては、10〜98%が好ましく例示され、50〜80%がより好ましく例示される。
【0026】
ドメイン構造2は、図1に示すように、複数のドメイン構造2が互いに離間するように配置される。上述の通り、ドメイン構造2は、その内部に空孔21を有することによって、内部に発生する応力を緩和させる。しかしながら、各ドメイン構造2が互いに連結して設けられた場合、つまり、電極がドメイン構造を持たずに一枚の板状の多孔質体として設けられていた場合には、電極の高さ方向と垂直の方向(以下、この段落において横方向と呼ぶ。)に発生する内部応力を吸収しきれない可能性がある。この場合、横方向の応力によって、電極にクラックを生じたり、電極と集電体との間の剥離を生じたりするおそれがある。そのため、本実施形態のドメイン構造2は、複数のドメイン構造2が互いに離間するように配置される。これにより、充放電時におけるドメイン構造2の横方向への応力が緩和され、上記の問題の発生を抑制することができる。
【0027】
上述の通り、ドメイン構造2は、集電体の上方からの平面視で鋭角を持たない多角形形状であるが、この多角形形状の最大径が120μm以下であるように形成される。つまり、ドメイン構造2は、平面視した場合の最大径が120μm以下であるように形成される。本発明者らは、電極の形状を調査するにあたり、一体として形成されドメイン構造を持たない多孔質電極を製作し、その充放電におけるクラックの生じ方を検討してきた。その結果、本発明者らは、充放電を繰り返すことによって、一体の多孔質電極がクラックによって50〜60μm程度の大きさに分割されることを見出し、平面視における電極の最大径が120μm以下であれば、電極におけるクラックの発生を抑制できることを知見した。この知見に基づき、本発明では、電極を複数のドメイン構造2に分割して形成させ、このドメイン構造2を平面視した場合の最大径を120μm以下とする。ドメイン構造2を平面視した場合の最大径は、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。なお、「ドメイン構造2を平面視した場合の最大径」とは、ドメイン構造2を平面視した際に観察される多角形形状において、当該多角形形状の中心を通り、当該多角形形状を二つに分断する分断線の長さの中で最大のものを意味する。このような分断線の長さとしては、図2に示す長さyが挙げられる。また、各ドメイン構造2における離間幅xは、10〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましく、10〜20μmがさらに好ましい。なお、各ドメイン構造2における離間幅は、後に説明する理由から全て同一であることが好ましいが、必ずしも全て同一である必要はない。
【0028】
次に、ドメイン構造2の形状について説明する。上記のように、本実施形態の電極1では、集電体3の表面に各ドメイン構造2が互いに離間して配置される。このとき、集電体3の表面に十分な面積の電極を形成させ、二次電池の容量を最大化するとの観点からは、集電体の表面に隙間無くドメイン構造を敷き詰めて電極を作製すればよい。しかし、集電体の表面に隙間無く電極を敷き詰めると、上記の通り、電極にクラックを生じたり、電極と集電体との間の剥離を生じたりするおそれがある。このような問題の発生を抑制しつつ、かつ十分な充放電容量を確保するためには、各ドメイン構造2を互いに離間させ、かつ集電体3の表面で電極を設けない箇所の面積を極力少なくすることが必要である。
【0029】
以上のような観点からは、ドメイン構造2の平面視形状が長方形、正方形又は正六角形であることが好ましい。このことを、図4を参照しながら説明する。図4の(A)から(D)は、各種の平面視形状を有するドメイン構造を作製した場合における各ドメイン構造の配置状態を説明する図である。
【0030】
図4において、(A)は平面視で丸型の、(B)は平面視で正八角形の、(C)は平面視で正方形の、(D)は平面視で正六角形のドメイン構造の平面図である。図4(C)及び(D)に示すように、ドメイン構造の平面視形状が正方形又は正六角形の場合には、各ドメイン構造の離間幅を全て均等なc又はdとなるように各ドメイン構造を配置することができる。このとき、c又はdを0に近づけることによって、集電体表面における全てのドメイン構造の面積占有率を100%に近づけることができる。このことは、ドメイン構造の平面視形状が長方形である場合にも同様に当てはまる。このように、ドメイン構造の平面視形状が長方形、正方形又は正六角形であれば、必要な離間幅を確保しつつ、集電体表面におけるドメイン構造の面積占有率を自在に設計できるので、電気容量の大きな電極を設計することが可能になる。
【0031】
これに対して、図4の(A)に示すように、ドメイン構造の平面視形状が丸型である場合には、各ドメイン構造の離間幅として異なる幅であるa1及びa2が必ず存在することになり、これらのうちのいずれか一方を0に近づけたとしても、他方を0に近づけることはできない。このため、必要とされる離間幅以外のデッドスペースが必ず存在することとなり、集電体表面における全てのドメイン構造の面積占有率には上限が存在する。事実、平面視形状が丸型のドメイン構造では、集電体表面における全てのドメイン構造の面積占有率を74%超の数値とすることができない。このような問題は、b1及びb2という離間幅が存在する平面視形状が正八角形であるドメイン構造でも生じるものであり、平面視でそれ以外の多角形形状(長方形、正方形及び正六角形を除く)を呈するドメイン構造でも同様に生じるものである。
【0032】
次に、本実施形態の電極1を使用してなるリチウムイオン二次電池(図示せず)について説明する。
【0033】
このリチウムイオン二次電池は、既に説明した電極1、及び以下に説明する電解液、電極1と反対の極性である電極、その他の電池構成要素であるセパレータ、ガスケット、集電体、封口板、セルケース等を適宜組み合わせて構成される。リチウムイオン二次電池の形状は、筒型、角型、コイン型等、特に限定されない。また、作製されるリチウムイオン二次電池の構造としては、特に限定されるものでなく、基本的には、セル床板上に負極を乗せ、その上に電解液及びセパレータを、さらに負極と対向するように正極を乗せ、ガスケット、封口板と共にかしめて二次電池としたものが挙げられる。
【0034】
電解液に使用される溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、γ−ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジオキソラン等の有機溶媒を単独又は二種以上混合したものが挙げられる。これらの溶媒に、0.5〜2.0M程度のLiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO等の電解質を溶解させて電解液とすればよい。
【0035】
電極1と反対の極性である電極については、既に説明した、正極又は負極として使用することのできる材料を使用することができる。これらの材料を集電体に塗布等して使用すればよい。なお、リチウムイオン二次電池の正極又は負極の一方として本実施形態の電極1を使用してもよいし、正極及び負極として本実施形態の電極1を使用してもよい。
【0036】
電解液を保持するセパレータは、一般的に保液性に優れた材料を使用すればよい。例えば、ポリオレフィン系樹脂の不織布や多孔性フィルム等を使用すればよい。これらは上述の電解液を含浸させることで機能を発現させることができる。
【0037】
次に、本実施形態の電極1を製造する方法の一実施態様について、図面を参照しながら説明する。図5(A)〜(F)は、本実施形態の電極における作製手順の一例を順次示す斜視図である。なお、図5(A)〜(F)は、理解を容易にするために、複数のドメイン構造2の集合である電極1のうち一つのドメイン構造2に注目し、これを拡大して表示した図である。また、以下に述べる製造方法の一実施態様は、ドメイン構造2の平面視形状が正六角形のものについての説明だが、本発明の電極1の平面視形状はこれに限定されない。さらに、上述の電極1で述べた内容と重複する事項については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
本実施態様の製造方法は、レジスト層形成工程、パターニング工程、テンプレート導入工程、金属材料埋め込み工程及びテンプレート除去工程を備える。以下、各工程について説明する。
【0039】
[レジスト層形成工程]
本実施態様の製造方法では、ドメイン構造2を所望の形状となるように作製するために、レジスト組成物を使用して作製した鋳型を使用する。この工程は、図5(A)から(B)に示すように、集電体3の表面にレジスト組成物を塗布してレジスト層5を形成させる工程である。
【0040】
使用するレジスト組成物は、ネガタイプでもポジタイプでもよい。ネガタイプのレジスト組成物は、もともと現像液に対して可溶であるが、紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射を受けることにより現像液に対して不溶となる性質を有する。一方、ポジタイプのレジスト組成物は、もともと現像液に対して不溶であるが、紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射を受けることにより現像液に対して可溶となる性質を有する。
【0041】
レジスト組成物としては、特に限定されず、公知のものを使用することができる。このようなレジスト組成物としては、(1)エポキシ基を有する化合物及びカチオン重合開始剤を含むカチオン重合系レジスト組成物、(2)ノボラック樹脂及び感光剤を含むノボラック系レジスト組成物、(3)酸解離性の脱離基を有し、当該脱離基が露光により光酸発生剤から発生する酸の作用で脱離することによりアルカリ可溶性が増大する樹脂、及び光酸発生剤を含む化学増幅系レジスト組成物、(4)エチレン性の不飽和結合を有するモノマー及び/又は樹脂、並びにラジカル重合開始剤を含むラジカル重合系レジスト組成物等が例示される。上記例示のうち、(1)及び(4)がネガタイプのレジスト組成物となり、(2)及び(3)がポジタイプのレジスト組成物となる。
【0042】
集電体3の表面にレジスト組成物を塗布してレジスト層5を形成させる方法としては、公知の方法を特に制限なく使用することができる。レジスト層5には、後に説明するように、ドメイン構造2を形成させるための鋳型となるガイド孔51が形成される。このガイド孔51は、所望とする高さのドメイン構造2を形成させるのに十分な深さを有するように形成させる必要がある。レジスト層5の厚さは、将来、ガイド孔51の深さとなるので、必要とされるガイド孔51の深さを考慮して、適宜決定される。レジスト層5の厚さとして、18〜50μmが例示されるが、特に限定されない。
【0043】
[パターニング工程]
次に、パターニング工程について説明する。パターニング工程は、上記レジスト層形成工程の後に行われる工程であり、図5(C)で示される工程である。この工程では、上記レジスト層形成工程で形成されたレジスト層5に、作製しようとするドメイン構造2と平面視で同一形状となる形状のガイド孔51を形成させる。ガイド孔51は、集電体3の表面までレジスト層5を貫通する貫通孔として形成される。
【0044】
この工程では、まず、作製しようとするドメイン構造2と平面視で同一形状となるマスクを介して、上記レジスト層形成工程で形成されたレジスト層5を選択露光させる。これにより、レジスト層5がネガ型のレジスト組成物で形成されている場合には、将来ガイド孔51とならない箇所が硬化して現像液に不溶となり、将来ガイド孔51となる部分は現像液に対して可溶のままとなる。また、レジスト層5がポジ型のレジスト組成物で形成されている場合には、将来ガイド孔51となる部分が現像液に対して可溶となり、将来ガイド孔51とならない箇所が現像液に対して不溶のままとなる。
【0045】
選択露光を受けたレジスト層5は、現像される。現像は、公知の現像液を使用し、公知の方法により行うことができる。このような現像液としては、例えば、アルカリ性の水溶液が例示される。また、現像方法としては、浸漬法、スプレー法等が例示される。
【0046】
現像されたレジスト層5には、作製しようとするドメイン構造2と平面視で同形状、かつ集電体3の表面まで貫通するガイド孔51が形成される。ガイド孔51が形成されたレジスト層5は、必要に応じて、紫外線等の活性エネルギー線を照射するアフターキュアや、追加の熱処理であるポストベークが施される。
【0047】
[テンプレート導入工程]
次に、テンプレート導入工程について説明する。テンプレート導入工程は、上記パターニング工程の後に行われる工程であり、図5(D)で示される工程である。この工程では、上記パターニング工程で形成されたガイド孔51の底部に存在する集電体3の表面に、ポリスチレンやPMMA(ポリメチルメタクリレート)等の高分子微粒子6を堆積させる。これらの高分子微粒子6は、ドメイン構造2における空孔21を形成させるために使用される。つまり、本工程で高分子微粒子6を堆積させた後、後述する金属材料埋め込み工程にて、ガイド孔51に電極材料である金属材料22を埋め込み、さらに、後述するテンプレート除去工程にて高分子微粒子6を取り除くことにより、空孔21が形成される。すなわち、高分子微粒子6は、ドメイン構造2における空孔21を形成させるための鋳型である。
【0048】
高分子微粒子6の材質は、後述するテンプレート除去工程にて溶剤や加熱処理等によって除去可能なものであれば特に限定されず、ポリスチレン、PMMA等が例示される。高分子微粒子6の形状は、特に限定されないが、球形であることが好ましい。高分子微粒子6が球形であることにより、ガイド孔51の内部に高分子微粒子6を最密充填させることができ、好ましい。
【0049】
高分子微粒子6の粒径としては、例えば0.05〜5μmが挙げられる。使用する高分子微粒子6の粒径によって、ドメイン構造2における空孔21の孔径を調節することができる。
【0050】
高分子微粒子6をガイド孔51の内部に堆積させる方法としては、電気泳動を用いることができる。この場合、ガイド孔51の底部に露出する集電体3を電気泳動のための電極とし、この集電体3と集電体3に対する対極とを、高分子微粒子6を懸濁させた液体中に浸漬させ、これらに、高分子微粒子6を集電体3の表面に堆積させるための電場を印加すればよい。また、高分子微粒子6を懸濁させた液体をガイド孔51の内部へ供給し、次いで供給された懸濁液に含まれる液体を乾燥させることによって高分子微粒子6を堆積させる方法や、遠心分離法により高分子微粒子6をガイド孔51の内部に堆積させる方法を採用してもよい。高分子微粒子6をガイド孔51の内部で堆積させる厚さは、形成させるドメイン構造2の高さを考慮して適宜決定すればよい。通常、ガイド孔51の深さ、すなわちレジスト層5の高さは作製するドメイン構造2の高さを考慮して決定されるので、高分子微粒子6を堆積させる厚さは、ガイド孔51の深さと一致させればよいが、特に限定されない。
なお、高分子微粒子6をガイド孔51の内部に堆積させる手段として電気泳動を使用する場合、当該電気泳動において使用する液体に、アミジン化合物や硫酸エステル化合物のような高分子微粒子6の表面に電荷を与える化合物を添加しておくことが好ましい。
【0051】
高分子微粒子6をガイド孔51の内部に堆積させた後、80〜120℃程度で熱処理を行うことにより、高分子微粒子6の粒子同士を融着させることが好ましい。この熱処理を行うことにより、後述する金属材料埋め込み工程において、高分子微粒子6を固定された状態に維持することができる。金属材料埋め込み工程において、高分子微粒子6がガイド孔51の内部で規則的な配列を維持することにより、最終的に得られるドメイン構造2における空孔21も規則的に配列することになる。
【0052】
[金属材料埋め込み工程]
次に、金属材料埋め込み工程について説明する。金属材料埋め込み工程は、上記テンプレート導入工程の後に行われる工程であり、図5(E)で示される工程である。この工程では、高分子微粒子6が堆積されたガイド孔51の内部に、正極又は負極を形成させる金属材料22を充填させる。
【0053】
ガイド孔51の内部に充填させる金属材料22は、作製されるドメイン構造2が正極又は負極のいずれを構成するものかに応じて適宜選択される。正極を構成するための金属材料及び負極を構成するための金属材料については、既に説明した通りであるので、ここでの説明を省略する。
【0054】
ガイド孔51の内部に金属材料22を充填する方法としては、公知のめっき液を使用して金属材料22を集電板3の表面に電気的に析出させるめっき法、金属材料22の微粒子を懸濁させた液体を使用した電気泳動により、金属材料22を集電板3の表面に堆積させる電気泳動法、金属材料22の微粒子を懸濁させた液体をキャピラリーによりガイド孔51の内部に直接注入し、次いで乾燥させるインジェクション法が例示される。ガイド孔51の内部に充填する金属材料22の種類に応じて、これらの方法を適宜選択することができる。
【0055】
上述のテンプレート導入工程でガイド孔51の内部に堆積させた高分子微粒子6は、金属材料埋め込み工程を経ることで、金属材料22に埋まることになる。これにより、ガイド孔51の内部において、高分子微粒子6の存在する箇所には金属材料22が存在せず、高分子微粒子6の存在しない箇所にのみ金属材料22が存在することになる。
【0056】
[テンプレート除去工程]
次に、テンプレート除去工程について説明する。テンプレート除去工程は、上記金属材料埋め込み工程の後に行われる工程であり、図5(F)で示される工程である。この工程では、金属材料22に埋まっている高分子微粒子6を除去する。これにより、高分子微粒子6の存在していた箇所が空間となり、空孔21が形成される。
【0057】
高分子微粒子6を除去するには、高分子微粒子6を溶解することのできる溶剤に、形成中のドメイン構造2を浸漬させればよい。このような溶剤は、高分子微粒子6の種類に応じて適宜選択される。その一例として、トルエン、アセトン、酢酸エチル、リモネン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル等を挙げることができる。形成中のドメイン構造6を溶剤に浸漬させる時間は、高分子微粒子6の溶解状況に応じて適宜決定すればよいが、一例として24時間程度が挙げられる。
【0058】
高分子微粒子6を溶解させた後、形成中のドメイン構造2を、溶剤の中から取り出してアセトン等の溶剤によりリンス洗浄し、その後、真空乾燥させることにより、電極1を構成するドメイン構造2が完成する。
【0059】
なお、金属材料22に埋まっている高分子微粒子6を除去する方法として、高温で加熱するアッシング法を使用してもよい。
【0060】
以上の各工程を経ることにより、ドメイン構造2が形成される。なお、上記では、理解を容易にするために、一つのドメイン構造2に注目して製造方法の説明を行ったが、電極1は複数のドメイン構造2の集合体であるので、実際には、集電体3の表面に複数のドメイン構造2が形成される。複数のドメイン構造2は、同時に集電体3の表面に形成させてもよいし、上記各工程を繰り返すことにより、1個又は数個ずつを集電体3の表面に順次形成させてもよい。複数のドメイン構造2を同時に集電体3の表面に形成させる場合、上記パターン形成工程にて、ドメイン構造2の平面視形状と同一の形状である図形が所定の離間距離を介して複数形成されたマスクを使用して、レジスト層5を選択露光すればよい。
【0061】
これらの工程を経て形成されたドメイン構造2は、その周囲をレジスト層5に囲まれた状態となっている。ドメイン構造2は、この状態のままで電極として使用されてもよいし、必要に応じて、周囲に存在するレジスト層5を除去してから電極として使用されてもよい。ドメイン構造2の周囲に存在するレジスト層5を除去方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば、高温で加熱することによりレジスト層5を分解させるアッシング法、エッチング法等が挙げられる。レジスト層5が除去されると、図3に示すように、集電体3の表面に多角柱形状として形成されたドメイン構造2が露出する。
【0062】
次に、本発明の第2実施形態について、図面を参照しながら説明する。図5は、本発明の電極の第2実施態様を示す平面図である。上述の第1実施形態の電極1は、一枚の集電体3の表面に同一の極性であるドメイン構造2の集合体として形成された。つまり、第1実施形態の電極1は、同一平面上に、正極又は負極のいずれかとして形成される。これに対して、第2実施形態では、一枚の基材4の表面に、帯状の正極集電体3a及び負極集電体3bが交互に設けられ、正極集電体3aの表面に正極である電極1aが、負極集電体3bの表面に負極である電極1bがそれぞれ形成される。つまり、本実施形態では、同一平面上に、正極1a及び負極1bの両方が交互に形成される。正極1aと負極1bとが交互に繰り返される回数は、1回以上であり、特に限定されない。また、基材4の表面に形成される正極1aと負極1bとが同じ数である必要は必ずしもない。
【0063】
正極1aは、正極集電体3aの表面に、一列に並んだ正極ドメイン構造2aの集合として形成される。また、負極2bは、負極集電体3bの表面に、一列に並んだ負極ドメイン構造2bの集合として形成される。正極ドメイン構造2a及び負極ドメイン構造2bの構造及び形成方法は、既に説明したドメイン構造2と同様である。なお、図5では、理解を容易にするために、正極ドメイン構造2a及び負極ドメイン構造2bの平面視形状を正六角形で表すが、正極ドメイン構造2a及び負極ドメイン構造2bの平面視形状は正六角形に限定されない。
【0064】
正極集電体3a及び負極集電体3bは、帯状であり、基板4の表面で交互に設けられる。このような正極集電体3a及び負極集電体3bは、例えば、対向する櫛型形状の金属箔として各集電体3a及び3bを形成し、これらを、それぞれの櫛型形状の歯の部分にて互いに組み合うように配置すればよい。この場合、櫛型形状の歯の部分に電極3a及び3bが設けられ、櫛型形状の峰の部分から正電流及び負電流が取り出される。なお、電池のショートを避けるために、正極集電体3aと負極集電体3bとは、互いに離間して配置される。なお、正極集電体3a及び負極集電体3bを構成する材質としては、既に説明した集電体3と同様のものを使用することができる。また、正極集電体3a及び負極集電体3bを形成させる方法としては、基板4の表面に金属箔を積層させ、公知の手法により所望とする形状に当該金属箔を加工する方法が例示される。
【0065】
本実施形態における正極ドメイン構造2a及び負極ドメイン構造2b(以下、「ドメイン構造2a及び2b」とも呼ぶ。)の形状は、特に限定されないが、上記第1実施形態と同様に、平面視形状が長方形、正方形又は正六角形となるように設けられることが好ましい。その理由としては、上述の第1実施形態で述べたものに加えて、次に説明するものが挙げられる。
【0066】
既に説明したように、ドメイン構造2a及び2bの平面視形状が長方形、正方形又は正六角形であることにより、各ドメイン構造2a及び2bの離間距離を均一にすることができる。本実施形態では、上述のように、正極ドメイン構造2aと負極ドメイン構造2bとが、集電体3a及び3bの長さ方向と垂直な方向(すなわち図5における横方向)に、交互に配置されるので、各ドメイン構造2a及び2bの離間距離が均一であれば、正極ドメイン構造2aと負極ドメイン構造2bとが互いに均一な離間距離で配置されることになる。ドメイン構造2a及び2bがこのように配置されることにより、電池に高速充放電適性を付与することができるので好ましい。各ドメイン構造2a及び2bの離間距離を同一にするために、それぞれの集電体3a、3bの離間距離も同一であることが好ましい。
【0067】
基板4は、その表面に正極集電体3a及び負極集電体3bが設けられるので、これらがショートするのを防止するとの観点から、絶縁性を示す表面を有することが望ましい。このような基材4としては、特に限定されないが、表面に酸化膜を有するシリコン基板が例示される。
【0068】
図示しないが、上記第2実施形態の変形例として、ドメイン構造2a及び2bの配置を、一つの正極ドメイン構造2aの周囲には負極ドメイン構造2bのみが存在し、かつ一つの負極ドメイン構造2bの周囲には正極ドメイン構造2aのみが存在するようにしてもよい。つまり、上記第2実施形態では、図5における横方向(集電体3a及び3bの長さ方向と垂直な方向)に隣り合う各ドメイン構造の極性が反対である一方で、図5における縦方向(集電体3a及び3bの長さ方向)に隣り合う各ドメイン構造の極性が同一だったが、この変形例では、図5における横方向のみならず縦方向に隣り合う各ドメイン構造の極性も反対となる。この場合、正極集電体及び負極集電体は、互いにショートしないように適宜配置される。
【0069】
以上、本発明の具体的な実施形態を挙げて具体的に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の構成の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0070】
例えば、上記実施形態において、各ドメイン構造2、2a、2bは、平面視で正六角形の形状だったが、これに限定されず、平面視で鋭角を持たない多角形形状であればよい。
【0071】
また、上記実施形態において、電極1、1a、1bは、リチウムイオン二次電池用の電極だったが、これに限定されず、充放電時に、電極の膨張や収縮を伴う二次電池において好ましく使用することができる。このような二次電池としては、電極を構成する材料からの金属イオンの放出及び電極を構成する材料への金属の吸蔵を伴う二次電池の他、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等のような一般的な二次電池が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示すことにより本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
[レジスト組成物]
クレゾール型ノボラック樹脂(m−クレゾール:p−クレゾール=6:4(質量比)、質量平均分子量30000)70質量部と、感光剤として1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニルイソプロピリデニル)ベンゼンのナフトキノン−1,2−ジアジド−5−スルホン酸時エステル15質量部と、可塑剤としてポリメチルビニルエーテル(質量平均分子量100000)15質量部とに対して、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を固形分濃度が40質量%になるように添加してから、混合して溶解させ、レジスト組成物を調製した。このレジスト組成物は、ノボラック系であり、ポジ型である。
【0074】
[実施例1]
Cu箔であるフレキシブル基板(厚さ50μm)、及びCu膜を表面に有するハード基板(厚さ750μmのシリコンウェーハの表面に5000ÅのCuスパッタ膜を形成させた基板)のそれぞれについて、Cu箔又は膜が設けられた表面に上記レジスト組成物を塗布し、レジスト組成物に含まれていた溶剤を蒸発させ、厚さ20μmのレジスト層を形成させた。このレジスト層にフォトマスクを通して、紫外線(ghi混合線、3000mJ/cm)を照射し、次いでアルカリ現像液で現像し、純水で洗浄した。これにより、Cu箔又は膜の表面に、1辺が50μmの正六角形であり、Cu箔又は膜の表面まで貫通する複数の貫通孔(ガイド孔)をハニカム状に形成させた。なお、隣接する貫通孔同士の全ての離間幅を15μmとした。
次に、ポリスチレンの単分散球状粒子(直径1μm、以下「ポリスチレン粒子」と呼ぶ。)を0.43質量%の濃度で2−プロパノール(80mL)に分散させ、懸濁液を調製し、この懸濁液中で、貫通孔により一部が露出したCu箔又は膜を作用極(陰極)、Ni板(3cm×4cm、厚さ0.3mm)を対極(陽極)として電極間距離を1cmとし600Vの電圧を印加し、1分間電気泳動を行った。この操作により、複数の貫通孔のそれぞれにポリスチレン粒子を堆積させた。その後、基板ごと110℃の温度にて15分間加熱することにより、貫通孔の中に堆積しているポリスチレン粒子同士を熱融着させた。
次に、蒸留水に、NiCl・6H0を0.075mol/L、SnCl・2HOを0.175mol/L、Kを0.50mol/L、及びNHCHCOOHを0.125mol/Lの濃度になるようにそれぞれ添加し、さらにこの水溶液のpHが8.5になるように28%アンモニア水を添加した。得られた水溶液をSn−Niめっき浴として使用し、貫通孔により一部が露出したCu箔又は膜を作用極(陰極)、Sn板を対極(陽極)として、電解めっき処理を行った。電解めっき処理は、1.75mAの定電流を1.5時間通電させて行った。
電解めっき処理を経た基板をトルエンに24時間浸漬させてからアセトンで洗浄することにより、貫通孔に堆積したポリスチレン粒子を除去し、さらに真空乾燥を行った。これらの手順を経て、多孔質のSn−Ni合金からなるドメイン構造を複数有する電極を、フレキシブル基板及びハード基板のそれぞれについて形成させた。この電極を実施例1の電極とした。なお、形成させた電極の厚さは、フレキシブル基板及びハード基板のいずれの場合も10μmだった。
【0075】
[実施例2]
レジスト層に形成させた貫通孔の形状を1辺が50μmの正方形とし、この貫通孔を、隣接する貫通孔同士の離間幅を全て15μmとして、全ての目地が遮られない直線となるタイル状に配置し、かつ電解メッキ処理の通電時間を1時間にしたこと以外は、実施例1と同様の手順にて実施例2の電極を形成させた。なお、本実施例の電極におけるドメイン構造は、平面視で、図4(C)に示すような配置である。また、形成させた電極の厚さは、フレキシブル基板及びハード基板のいずれの場合も20μmだった。
【0076】
[比較例1]
レジスト層に形成させた貫通孔の形状を直径が18μmの円とし、この貫通孔を、貫通孔同士の横方向及び縦方向の離間幅が全て17μmとして、千鳥状に配置し、かつ電解メッキ処理における定電流を1.37mAとし、通電時間を0.9時間としたこと以外は、実施例1と同様の手順にて比較例1の電極を形成させた。なお、形成させた電極の厚さは、フレキシブル基板及びハード基板のいずれの場合も20μmだった。
【0077】
実施例1及び2並びに比較例1の電極のそれぞれについて、電極形成部における単位面積当たりの電極の質量を測定した結果、実施例1の電極が4.5〜5.0mg/cm、実施例2の電極が4.0〜4.5mg/cm、比較例1の電極が2.2〜2.6mg/cmだった。このことから、本発明の電極は、平面視で丸型の形状のドメイン構造を有する電極よりも質量が大きく、より多くの電極材料を保有することがわかる。
【0078】
フレキシブル基板に設けた実施例1及び2並びに比較例1の電極のそれぞれについて、セパレータを介して金属リチウムと対向させ、電極及び金属リチウムの間を電解液(1mol/LのLiClOを溶解させたエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(v/v)混合液)で満たして電気化学測定セルを作製した。この場合、金属リチウムが対極および参照極となり、作用極である実施例1、実施例2又は比較例1の電極の負極特性が評価される。作製した電気化学測定セルのそれぞれについて、二電極式電気化学測定に基づき、充放電を1〜4サイクル繰り返したときの放電容量を測定した。なお、放電特性の測定には、北斗電工株式会社製、HSV−100型測定器を使用し、電位範囲を0〜2.5Vとし、電流密度0.1mAcm−2で0Vまで定電流充電後に電流密度が0.01mAcm−2以下になるまで0Vで定電位充電した。その後、電流密度0.1mAcm−2で2.5Vまで定電流放電した。得られた放電容量をその電極の厚さで除して、単位厚さあたりの放電容量を算出した結果を表1に示す。また、フレキシブル基板に設けた実施例1及び2並びに比較例1の電極における、サイクル回数に対する放電容量を示すプロットを図7に示す。さらに、フレキシブル基板に設けた実施例1及び2並びに比較例1の電極について、1サイクル目の放電容量維持率を100%とした場合のサイクル回数に対する放電容量維持率(%)を示すプロットを図8に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、実施例1及び2の電極は、比較例1の電極よりも大きな放電容量を示すことが理解される。このことから、本発明の有効性が理解される。
また、図8に示すように、本発明の電極の中でも、実施例1の電極は、充放電を繰り返した際の放電容量の低下が実施例2の電極よりも小さいことが理解される。このことから、良好な充放電サイクル特性を得るとの観点において、電極を構成するドメイン構造の平面視形状が正六角形であることが好ましいと理解される。
【0081】
上記のように、良好な充放電サイクル特性を得るとの観点から好ましかった実施例1の電極について、二電極式電気化学測定に基づき、充放電を1〜100サイクル繰り返したときの放電容量を測定した。まず、セパレータを介して実施例1の電極を金属リチウムと対向させ、電極及び金属リチウムの間を電解液(1mol/LのLiClOを溶解させたエチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(v/v)混合液)で満たして電気化学測定セルを作製した。この場合、金属リチウムが対極および参照極となり、作用極である実施例1の電極の負極特性が評価される。作製した電気化学測定セルについて、二電極式電気化学測定に基づき、充放電を1〜100サイクル繰り返したときの放電容量を測定した。なお、放電特性の測定には、北斗電工株式会社製、HSV−100型測定器を使用し、電位範囲を0〜2.5Vとし、電流密度0.1mAcm−2で0Vまで定電流充電後に電流密度が0.01mAcm−2以下になるまで0Vで定電位充電した。その後、電流密度0.1mAcm−2で2.5Vまで定電流放電した。このサイクル試験の結果について、サイクル回数に対する放電容量の推移を示すプロットを図9に示す。また、参考として、一般的なグラファイト電極を負極とした場合の放電容量(360mAhg−1)を図9に示す。
【0082】
図9に示すように、実施例1の電極は、充放電サイクルが100サイクルに達してもなお高い放電容量を維持することがわかる。このことから、本発明を適用することにより、従来、高容量だが長寿命を達成するのが困難であった合金系負極の寿命を大幅に向上できることがわかる。
【0083】
次に、実施例1の電極を負極として使用し、この負極にリチウムイオン二次電池の正極となるLiNi0.8Co0.15Al0.05電極を組み合わせたリチウムイオン二次電池を作製した。まず、実施例1の電極を28mm×68mmのサイズに切断し、負極を作製した。次いで、正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Al0.05を94質量%、導電剤として導電カーボン(アセチレンブラック)を3質量%、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3質量%の割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドン溶剤を加えて混合したものを集電体であるアルミ箔(厚さ16μm)の表面に塗布し、乾燥、加熱処理して正極を作製した。作製した正極と負極とは電気容量(30mAh)がほぼ同じになるように調整した。
【0084】
そして、これらの正負極電極を、ポリオレフィン系微多孔性フィルムのセパレータを介して積層した後、渦巻状に券回して発電要素を作製し、これをラミネートフィルムケースに収納した後、電解液(1mol/LのLiPFを溶解させたエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート=3:7(v/v)混合液)を注液し、ラミネート加工により封止してリチウムイオン二次電池(50mm×90mm)を作製した。なお、ラミネート加工は、業務用卓上型密封包装機(シャープ株式会社製、旭化成パックス株式会社販売、商品名SQ−303)を使用し、接合部温度約180℃、吸気性能66.7kPa、吸気時間10秒として実施した。
【0085】
作製したリチウムイオン二次電池を用いて、室温(25℃)において、充電及び放電を1回ずつ行った。その際に観察された充放電特性のプロットを図10に示す。なお、充電条件は、電位範囲を2〜4.3Vとし、電流密度4mAcm−2で4.3Vまで定電流充電後に電流密度が0.5mAcm−2以下になるまで4.3Vで定電位充電した。その後、電流密度4mAcm−2で2Vまで定電流放電した。
【0086】
図10に示すように、作製されたリチウムイオン二次電池が充放電特性を備えることが理解され、本発明の電極が二次電池の作製に有用であることが示された。
【符号の説明】
【0087】
1 電極
2 ドメイン構造(多孔質ドメイン構造)
3 集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に、互いに離間した複数の多孔質ドメイン構造の集合として形成され、
前記多孔質ドメイン構造が、平面視で鋭角を持たない多角形形状であり、かつ前記多角形形状の最大径が120μm以下である電極。
【請求項2】
前記ドメイン構造の形状が平面視で長方形、正方形又は正六角形である請求項1記載の電極。
【請求項3】
前記ドメイン構造は、各ドメイン構造の離間幅が一定となるように配置される請求項1又は2記載の電極。
【請求項4】
二次電池用である請求項1〜3のいずれか1項記載の電極。
【請求項5】
前記二次電池がリチウムイオン二次電池である請求項4記載の電極。
【請求項6】
請求項5記載の電極を使用してなるリチウムイオン二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−43770(P2012−43770A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28752(P2011−28752)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】