説明

二次電池用活物質ペースト製造装置及びその製造方法

【課題】特に装置を大きくすることなく,効率的に磁性金属異物を捕獲することができるとともに,メンテナンスが容易な二次電池用活物質ペースト製造装置及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の装置は,電極活物質ペーストの材料を収容する混練容器11と,混練容器11内で回転することにより電極活物質ペーストの材料を混練する攪拌翼12,13,14とを有し,混練容器11および攪拌翼12,13,14の少なくとも一部が磁性材料で形成されている混練部と,混練容器11の外部に設けられ,両端において混練容器11の内部と連通されている循環経路21と,循環経路21内に配置され,磁力により磁性異物を捕獲する捕獲部23と,混練中の電極活物質ペーストの材料を,混練容器11から循環経路21へと引き込んで,捕獲部23に通させるポンプ22とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,リチウムイオン二次電池の電極板に使用される活物質ペーストを製造するための製造装置及び製造方法に関する。さらに詳細には,活物質ペースト中の磁性異物を効率的に除去して,良好な活物質ペーストを製造することのできる二次電池用活物質ペースト製造装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電極板に使用される活物質ペーストは,溶媒中で活物質に導電材や結着剤等を混練して製造される。その製造工程では,従来より,容器内で回転する翼を有する混練装置が用いられている。この混練装置等の活物質ペースト製造用の設備には,強度等の必要から金属部材が多く用いられており,設備部材の摩耗等によって,混練処理中に活物質ペースト中に金属異物が混入するという問題があった。金属異物が混入することは,二次電池における短絡の原因となるため好ましくない。そのため活物質ペーストから金属異物を取り除く必要がある。
【0003】
そのために従来より,金属異物を取り除くことが行われている。例えば,混練装置によって製造された活物質ペーストを貯蔵する貯蔵タンクと他の貯蔵タンクまたは塗工機などとを連結する連結路中に,異物除去手段として,棒状の永久磁石を有する磁選機が配置されているものがある。ポンプ等によって連結路に活物質ペーストを流し,磁選機の永久磁石のまわりを通過させることにより,永久磁石によって活物質ペースト中の金属異物のうち磁性体のものが捕獲される。その一方で,前記金属部材として,フェライト系ステンレス鋼等の磁性のものを用いるのである。こうすると,金属異物のほとんどは磁性体なので,磁選機によって捕獲し除去することができる。
【0004】
このような磁選機で永久磁石から遠い位置にある異物も確実に捕獲するためには,活物質ペーストが磁選機に進入してから脱出するまでの間に,異物が永久磁石の位置まで移動できることが必要である。活物質ペースト中に混在する異物は,活物質ペーストの粘度が低いほど移動しやすい。従って,磁選機を通過させるときに活物質ペーストがより低粘度な状態であることが望まれる。また,活物質ペーストが磁選機に進入してから脱出するまでの時間がより長いほど,異物が移動するための時間を稼ぐことができる。磁選機自体や製造装置を大型化することなく,活物質ペーストの滞在時間を長くするためには,磁選機を通過する活物質ペーストの流速が遅いことが望ましい。
【0005】
なお,特許文献1には,流路中に凹部を形成し,その中に磁石を配置した製造装置が開示されている。この文献には,容器の底面に凹部を設けて,その中に磁石を埋め込んだ実施例も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−038013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,リチウムイオン二次電池の電極板用の活物質ペーストは,構造粘性およびチクソトロピー性を有する材料である。そのため,図7に示すように,活物質ペーストの粘度は剪断速度に依存し,低剪断速度では高粘度である。前述の磁選機の例では,活物質ペーストの流速が遅いということは,剪断速度が遅いことであり,従って高粘度な状態である。つまり,装置を大型化することなく,低粘度と低流速とをともに満たすようにすることは困難であった。
【0008】
さらに,活物質ペーストでは,混練処理終了後の保管時間の経過によって,活物質ペーストの粘度が次第に上昇することも知られている。図7中で太い実線で示す混練終了直後の性質に比較して,1時間静置した後には,図中で細い実線で示すように粘度が大きくなってしまう。製造工程の都合上,混練工程の終了後に磁選処理の工程を行うまでの間には,1時間程度の保管時間が発生することは多くある。その間に,活物質ペーストの粘度が上昇してしまい,異物の捕獲効率がさらに低下するという問題点があった。
【0009】
また,特許文献1に記載されている装置では,流路に凹部が形成されているため,その凹部内の活物質ペーストが,そこだけで渦をなすおそれがある。このようになると,凹部内の活物質ペーストのみが磁石の作用を受け,磁石の作用が,凹部外の活物質ペーストの全体にまで及ばないおそれがある。また,捕獲した磁性異物を取り除くためのメンテナンスが煩雑であるという問題点があった。
【0010】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,特に装置を大きくすることなく,効率的に磁性金属異物を捕獲することができるとともに,メンテナンスが容易な二次電池用活物質ペースト製造装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の二次電池用活物質ペースト製造装置は,電極活物質ペーストの材料を混練してペースト状にするための二次電池用活物質ペースト製造装置であって,電極活物質ペーストの材料を収容する混練容器と,混練容器内で回転することにより電極活物質ペーストの材料を混練する攪拌翼とを有し,混練容器および攪拌翼の少なくとも一部が磁性材料で形成されている混練部と,混練容器の外部に設けられ,両端において混練容器の内部と連通されている循環経路と,循環経路内に配置され,磁力により磁性異物を捕獲する捕獲部と,混練中の電極活物質ペーストの材料を,混練容器から循環経路へと引き込んで,捕獲部に通させるポンプとを有するものである。
【0012】
本発明の二次電池用活物質ペースト製造装置によれば,電極活物質ペーストの材料を混練容器に収容し,混練容器内で攪拌翼を回転させて,収容した材料を混練することができる。この混練容器の外部に循環経路とポンプが設けられているので,混練中の電極活物質ペーストの材料を循環経路に引き込んで混練容器内との間で循環させることができる。この循環経路内に捕獲部が配置されているので,循環する電極活物質ペーストの材料は捕獲部を通ることになる。従って,混練処理によって粘度が低くなっている状態の材料を,複数回にわたって捕獲部に通すことができる。低粘度であるので,異物は移動しやすく,捕獲されやすい。また,複数回通すことができるので,特別に低流速としなくても,異物を捕獲できる。従って,特に装置を大きくすることなく,効率的に磁性金属異物を捕獲することができる。さらに,混練容器の外部に設けられているので,循環経路や捕獲部のメンテナンスは容易である。
【0013】
さらに本発明では,捕獲部は,複数個の長尺状の磁石を互いに隙間を空けて並べた磁石板で構成されるとともに,複数枚の磁石板が,隣り合う磁石板同士で長尺状の磁石の方向が異なるように,循環経路における電極活物質ペーストの材料の流通方向に積層されたものであることが望ましい。
このようなものであれば,循環経路における電極活物質ペーストの材料は,複数個の磁石の間の隙間を通るとともに,隣り合う磁石板によって乱流となって流れる。従って,循環経路中の材料のほとんどは,磁石のごく近くを通ることになる。従って,さらに効率的に磁性金属異物を捕獲することができる。
【0014】
さらに本発明では,磁石は電磁石であることが望ましい。
電磁石であれば,給電を停止すれば捕獲した異物を容易に除去できるので,捕獲部の洗浄が容易である。
【0015】
さらに本発明では,混練容器から電極活物質ペーストの材料を循環経路へ引き込む取り出し口は,循環経路から混練容器へ戻す戻し口より下方にあることが望ましい。
本発明による捕獲の対象は,鉄等の電極活物質ペーストの材料より重い異物であるので,このようになっていることにより,効率よく異物を捕獲することができる。
【0016】
さらに本発明は,電極活物質ペーストの材料を混練してペースト状にするための二次電池用活物質ペースト製造方法であって,電極活物質ペーストの材料を収容する混練容器と,混練容器内で回転する攪拌翼とを有し,混練容器および攪拌翼の少なくとも一部が磁性材料で形成されている混練部により電極活物質ペーストの材料を混練し,混練中の電極活物質ペーストの材料を,混練容器から,磁力により磁性異物を捕獲する捕獲部を有する外部の循環経路へと引き込んで,混練容器との間で循環させ,循環中に,電極活物質ペーストの材料を捕獲部に通すことにより,磁性異物を捕獲する二次電池用活物質ペースト製造方法にも及ぶ。
【0017】
さらに本発明では,捕獲部として,複数個の長尺状の磁石を互いに隙間を空けて並べた磁石板で構成されるとともに,複数枚の磁石板が,隣り合う磁石板同士で長尺状の磁石の方向が異なるように,循環経路における電極活物質ペーストの材料の流通方向に積層されたものを用いることが望ましい。
【0018】
さらに本発明では,磁石として電磁石を用いることが望ましい。
【0019】
さらに本発明では,混練容器から電極活物質ペーストの材料を循環経路へ引き込む取り出し口は,循環経路から混練容器へ戻す戻し口より下方にあることが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の二次電池用活物質ペースト製造装置及びその製造方法によれば,特に装置を大きくすることなく,効率的に磁性金属異物を捕獲することができるとともに,メンテナンスが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本形態の混練装置を示す断面図である。
【図2】本形態の捕獲部を示す断面図である。
【図3】捕獲部の電磁石板の例を示す説明図である。
【図4】捕獲部の別の例を示す説明図である。
【図5】実験の結果を示すグラフ図である。
【図6】混練装置の別の例を示す説明図である。
【図7】活物質ペーストの剪断速度と粘度との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下,本発明を具体化した形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池の電極板に用いられる活物質ペーストを製造する製造装置に含まれる混練装置に本発明を適用したものである。
【0023】
本形態の混練装置10は,図1に示すように,混練容器11と,その内部に備えられたアンカー翼12,デスパー翼13,ホモジ翼14を有するものである。これらのアンカー翼12,デスパー翼13,ホモジ翼14は,それぞれ,混練容器11に入れられた材料を分散させるまたは攪拌する機能が異なり,これらを組み合わせることで良好な混練処理を可能とするものである。この混練容器11と各翼12,13,14との全体が,混練部に相当する。
【0024】
各翼12,13,14や混練容器11は,主に,磁性を有するステンレス鋼によって形成されている。少なくとも,アンカー翼12,デスパー翼13,ホモジ翼14のうち混練する材料に直接接触する部分は磁性ステンレス鋼で形成されている。また,混練部のうちステンレス鋼以外の部分は,必要な強度等に応じて,樹脂やセラミックス等の非金属材料が選択されている。非磁性の金属部材はほとんど含まれていない。なお,各翼12,13,14はいずれも,従来より用いられているものを用いればよく,ここでは説明を省略する。
【0025】
本形態の混練装置10は,図1に示すように,混練容器11の外部に接続された循環経路21を有している。循環経路21の両端部は,互いに異なる箇所で混練容器11と接続されている。具体的には,混練容器11の最下部の取り出し口16と,混練可能な最大量の材料を投入したときの材料の上面と同等かそれより少し上方の戻し口17とに接続されている。また,循環経路21の途中の箇所には,ポンプ22と捕獲部23とが配置されている。
【0026】
ポンプ22は,混練容器11に入れられている材料(ここでは,混練処理の途中である活物質ペーストの材料)の一部を循環経路21に流すためのものである。材料は,図1中に矢印で示すように,混練容器11の取り出し口16から引き出され,上へ向かって流れて,戻し口17から混練容器11内へ戻る。引き出された材料は,循環経路21を流れる途中で,捕獲部23を通る。
【0027】
捕獲部23は,内部に磁石を有し,通過する材料中に含まれる磁性物をこの磁石に吸い付けて捕獲するためのものである。本形態の捕獲部23は,図2に示すように,循環経路21の内周側の壁面に接して,5枚の板状の電磁石板31が重ねて配置されているものである。5枚の板状の電磁石板31は,いずれも同様の部材であり,その板面を材料の流通方向(図中に白抜きの矢印で示す)に直交させて配置されている。ただし,後述するように,各電磁石板31は,板面内の方向が異なる。
【0028】
本形態の電磁石板31は,図3に示すように,長尺状の電磁石32を互いに隙間を空けて複数個並べ,その全体で略円板状とされているものである。ここでは,電磁石板31は,長さの異なる電磁石32を,並行に等間隔に並べたものとした。なお,本形態の電磁石32は,長尺状ではあっても,その長手方向に沿って複数の磁極が並んでいるものである。両端部のみに磁極があるわけではない。
【0029】
本形態の電磁石板31はまた,図3に示すように,各電磁石32に直交する2本の支柱33を有している。この支柱33は,各電磁石32を支えているとともに,電磁石32に給電するための給電経路を内蔵している。循環経路21を流れる材料は,この電磁石板31を,板面に垂直な方向(この図では紙面に垂直な方向)に各電磁石32の間を通って通過する。
【0030】
そして,本形態の捕獲部23は,図2に示すように,この電磁石板31を5枚重ねたものであり,隣り合う電磁石板31同士で電磁石32の方向が異なるように積層されている。例えば,1枚ごとに電磁石32の方向を互いに90度ずつずらして重ねたものである。図3に示したように各電磁石32を横方向に向けた電磁石板31(図2では,31Aとした)に,各電磁石32を縦方向に向けた電磁石板31(図2では,31Bとした)を重ねる。さらに横・縦・横の電磁石板31が重ねられることによって,図2に示す捕獲部23が形成されている。
【0031】
従って,循環経路21を流れる活物質ペーストの材料は,これらの各電磁石板31の格子状にクロスする電磁石32の間の隙間を縫って流れることになる。従って,捕獲部23の内部で材料の乱流流れを起こすことができる。つまり,循環経路21を流れる材料のほとんどがどこかで電磁石32のごく近くを通る。これにより,捕獲部23は,材料に混入した磁性異物を,確実に捕獲することができる。
【0032】
本形態の混練装置10を用いて混練処理を行う場合には,まず,混練容器11に,二次電池の電極活物質ペーストを製造するための各種の材料を投入する。そして,アンカー翼12,デスパー翼13,ホモジ翼14をそれぞれ回転させ,混練処理を開始する。混練処理を受けることにより,活物質ペーストの材料は,構造粘性によって粘度が低下する。混練処理を継続することにより,材料は,そのチクソトロピー性によりさらに粘性が低くなる。
【0033】
この状態で取り出し口16を開放し,ポンプ22を起動することにより,循環経路21へと混練中の材料を流すことができる。従って,循環経路21内の材料は,かなり粘度の低い状態となっている。そして,材料は,循環経路21を流れて捕獲部23を通過することにより,電磁石板31の電磁石32に接触するか,またはごく近くを通る。このときには,電磁石板31の各電磁石32に給電し,磁力を発生させておく。これにより,混入している磁性異物は,電磁石32の磁力によって引きつけられ,捕獲部23によって捕獲される。
【0034】
本形態の混練装置10によれば,混練容器11中の材料の流速とは無関係に,ポンプ22によって循環経路21中の流速を調整することができる。従って,電磁石板31の形状や大きさ,混練中の材料の粘度等に応じて,適切な流速を選択することができる。また,混練処理を行っている間中,繰り返し循環経路21へ材料を循環させることにより,複数回の磁選処理を行うことができるので,確実に磁性異物を捕獲することができる。
【0035】
さらに,捕獲部23が混練容器11の外部に設けられているので,取り外して捕獲した異物を回収する等のメンテナンスは容易である。特に,電磁石32を用いているので,給電を停止すれば磁力が無くなって吸着されていた異物は剥がれる。すなわち,捕獲部23の洗浄は容易である。
【0036】
また,混練容器11の最下部から材料を引きだしているので,材料中の鉄含有量の比較的多い部分を重点的に磁選処理することができる。鉄は,活物質ペーストより重く,材料中で下に溜まるからである。なお,混練容器11自体は,従来から用いられているものをそのまま使用できる。
【0037】
また,電磁石板31による捕獲部23に代えて,図4に示すような,永久磁石41を有する捕獲部42とすることもできる。ここでは,棒状の永久磁石41を長手方向に並べて,循環経路21の内壁からやや離して流路中央部に配置したものを図示している。この捕獲部42を使用すると,永久磁石41の周囲を活物質ペーストが流れ,その途中で永久磁石41に磁性異物が捕獲される。
【0038】
本発明者らは,本発明の効果を確かめるための実験を行った。この実験では,以下の実施例1,2及び比較例1,2の混練装置を用いて混練処理を行い,各種の活物質ペーストを製造した。製造された活物質ペーストについて,それぞれ鉄の含有量を検出した。鉄の検出は,ICP−MS分析(誘導結合プラズマ質量分析装置)によって行った。検出結果を図5のグラフに示す。また,比較のために混練前の原材料についても鉄の含有量を検出し,比較例3とした。
【0039】
実施例1:図1に示した電磁石板31による捕獲部23を有する混練装置である。電磁石板31は,1T相当の電磁石板31を5枚重ねたものとした。また,電磁石32同士の間隔は,5mmとした。
実施例2:図4に示した永久磁石41による捕獲部42を有する混練装置である。永久磁石41は,1Tの棒磁石(φ25mm×長さ100mm)を5本,長手方向に連結したものとした。また,永久磁石41と循環経路21の内壁との間隔は,5mmとした。
比較例1:循環経路21を有しない従来の混練装置である。混練容器自体は実施例1,2のものと同等であり,容器や翼の各部の使用材料も実施例のものと同じである。混練処理の終了後,この混練装置に,連結流路と磁選機(実施例2と同様の永久磁石41によるもの)とを接続して,磁選処理を行った。
比較例2:循環経路21を有しない従来の混練装置(比較例1と同種のもの)である。磁選機は用いなかった。
【0040】
この実験では,どの例でも合計11.7リットルの活物質ペーストの材料を使用した。比較例3以外では,それぞれ混練容器に仕込み,30分間混練処理を行った。実施例1及び実施例2では,混練処理を継続中,常時,循環経路21へ材料を流した。循環経路21の流量は,7000cc/minとした。流量×処理時間より,流通したのべ体積は,210リットルであった。仕込量に対して換算すると,材料は平均18回循環経路21に流れたこととなる。なお,捕獲部における材料の剪断速度は,実施例1では20s-1,実施例2では50s-1であった。
【0041】
比較例1では,30分の混練処理の終了後,1時間程度保管した後に磁選機を通過させることにより磁選処理を行った。この場合,混練終了後の材料を1回だけ磁選機に通すので,磁選機を通過した材料ののべ体積は,仕込みと同じく11.7リットルである。その流量は250cc/minとした。また,全量が通過するまでの通過時間は59secであった。従って,比較例における材料の剪断速度を算出すると,1.7s-1であった。なお,比較例2では,混練処理を行ったのみで磁選処理を行わなかった。
【0042】
実験の結果は,図5に示す通りであった。それぞれの活物質ペーストの鉄の含有量は,実施例1では約9ppm,実施例2では約13ppm,比較例1では約18ppmであった。従って,実施例1と実施例2とはいずれも,比較例1より良好に鉄の捕獲ができたことが確認できた。なお,比較例2の混練処理直後の鉄含有量は48ppmであった。比較例3の原材料の鉄含有量は2ppmであった。このことから,混練処理によって鉄が混入してしまうことも確認された。おそらく,混練装置の部材の磁性ステンレス鋼に起因していると考えられる。
【0043】
以上詳細に説明したように本形態の混練装置によれば,混練処理中の材料を循環経路21に流しているので,循環経路21中の捕獲部23が材料中の磁性異物を捕獲できる。混練処理の間は何度も循環経路21へ材料を流すことができるので,流速をある程度早くしても,捕獲のチャンスは多い。また,混練容器中でも材料には剪断速度が印加されているため,材料は,そのチクソトロピー性と構造粘性とにより,低粘度な状態が維持される。つまり,比較的粘度の小さい状態の材料を何度も捕獲部23に流すことができる。従って,効率よく磁性異物の捕獲が可能となっている。さらに,混練処理と同時に行うので,磁選処理のためだけの処理時間が不要であり,工程全体としての短時間化が可能となった。これにより,特に装置を大きくすることなく,効率的に金属異物を捕獲することのできる二次電池用活物質ペースト製造装置となっている。
【0044】
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,本形態では,電磁石板31の向きを90度ずつずらして重ねているが,このずらす角度は90度に限らない。例えば,45度ずつまたは36度ずつ順にずらして,各電磁石32が螺旋を描くように並べてもよい。また,電磁石板31の数は,2枚以上であることが望ましいが,5枚に限るものではない。さらに,電磁石に限らず,永久磁石を間隔をおいて互いに平行に並べた磁石板を用いて捕獲部を構成することもできる。
【0045】
また,循環経路21を設ける箇所は図示のものに限らない。流通させる方向も下から上向きに限るものではない。上から下向きに流してもよいし,攪拌方向に沿って循環経路を設けても良い。さらに,図6に示すように,ポンプ22の下流側に三方弁24を設ければ,混練処理が終了した後に,活物質ペーストを取り出すための流路25を形成しておくこともできる。また,本形態では,混練装置として,アンカー翼,デスパー翼,ホモジ翼を有するものを例示しているが,これに限るものではない。これらの翼のうちいずれか1種あるいは2種を備えるものであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 混練装置
11 混練容器
12 アンカー翼
13 デスパー翼
14 ホモジ翼
16 取り出し口
17 戻し口
21 循環経路
22 ポンプ
23 捕獲部
31 電磁石板
32 電磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質ペーストの材料を混練してペースト状にするための二次電池用活物質ペースト製造装置において,
電極活物質ペーストの材料を収容する混練容器と,前記混練容器内で回転することにより電極活物質ペーストの材料を混練する攪拌翼とを有し,前記混練容器および前記攪拌翼の少なくとも一部が磁性材料で形成されている混練部と,
前記混練容器の外部に設けられ,両端において前記混練容器の内部と連通されている循環経路と,
前記循環経路内に配置され,磁力により磁性異物を捕獲する捕獲部と,
混練中の電極活物質ペーストの材料を,前記混練容器から前記循環経路へと引き込んで,前記捕獲部に通させるポンプとを有することを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池用活物質ペースト製造装置において,
前記捕獲部は,
複数個の長尺状の磁石を互いに隙間を空けて並べた磁石板で構成されるとともに,
複数枚の前記磁石板が,隣り合う磁石板同士で前記長尺状の磁石の方向が異なるように,前記循環経路における電極活物質ペーストの材料の流通方向に積層されたものであることを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造装置。
【請求項3】
請求項2に記載の二次電池用活物質ペースト製造装置において,
前記磁石は電磁石であることを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の二次電池用活物質ペースト製造装置において,
前記混練容器から電極活物質ペーストの材料を前記循環経路へ引き込む取り出し口は,前記循環経路から前記混練容器へ戻す戻し口より下方にあることを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造装置。
【請求項5】
電極活物質ペーストの材料を混練してペースト状にするための二次電池用活物質ペースト製造方法において,
電極活物質ペーストの材料を収容する混練容器と,前記混練容器内で回転する攪拌翼とを有し,前記混練容器および前記攪拌翼の少なくとも一部が磁性材料で形成されている混練部により電極活物質ペーストの材料を混練し,
混練中の電極活物質ペーストの材料を,前記混練容器から,磁力により磁性異物を捕獲する捕獲部を有する外部の循環経路へと引き込んで,前記混練容器との間で循環させ,
循環中に,電極活物質ペーストの材料を前記捕獲部に通すことにより,磁性異物を捕獲することを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の二次電池用活物質ペースト製造方法において,
前記捕獲部として,
複数個の長尺状の磁石を互いに隙間を空けて並べた磁石板で構成されるとともに,
複数枚の前記磁石板が,隣り合う磁石板同士で前記長尺状の磁石の方向が異なるように,前記循環経路における電極活物質ペーストの材料の流通方向に積層されたものを用いることを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の二次電池用活物質ペースト製造方法において,
前記磁石として電磁石を用いることを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7までのいずれか1つに記載の二次電池用活物質ペースト製造方法において,
前記混練容器から電極活物質ペーストの材料を前記循環経路へ引き込む取り出し口は,前記循環経路から前記混練容器へ戻す戻し口より下方にあることを特徴とする二次電池用活物質ペースト製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−186113(P2012−186113A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50014(P2011−50014)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】