説明

二次電池用電極の製造方法

【課題】電池抵抗が低く、かつ電極活物質層が剥がれ難い、耐久性に優れた二次電池用電極を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明により提供される二次電池用の電極を製造する方法は、増粘剤粉末と電極活物質粉末とを混合する粉体混合工程(S10)と、粉体混合工程で得られた粉体混合物と水とを混練する混練工程(S20)と、混練工程で得られた混練物と増粘剤水溶液とを混ぜることで電極活物質層形成用ペーストを得る増粘剤水溶液混合工程(S30)と、電極活物質層形成用ペーストを電極集電体に付与して該集電体上に電極活物質層を形成する工程(S50)と、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極を製造する方法に関する。詳しくは、該電極の電極活物質層を形成するための組成物の調製工程に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池やニッケル水素電池等の二次電池は、電気を駆動源とする車両搭載用電源、あるいはパソコン及び携帯端末その他の電気製品等に搭載される電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。
【0003】
この種の二次電池の典型的な電極(正極および負極)は、電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質を主成分とする電極活物質層(具体的には、正極活物質層および負極活物質層)が電極集電体の上に形成された構成の電極を備える。かかる電極活物質層は、電極活物質をバインダや増粘剤とともに適当な溶媒を添加して調製したペーストまたはスラリー状組成物(以下、「電極活物質層形成用ペースト」、「正極活物質層形成用ペースト」、または「負極活物質層形成用ペースト」と略称する場合がある。)を電極集電体に付与(典型的には塗工乾燥)することによって形成される。上記電極の製造方法に関する従来技術として特許文献1及び2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−092760号公報
【特許文献2】特開2009−099441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、負極活物質層形成用ペーストを形成するにあたって、負極活物質と増粘剤とを少量の水で混練(固練り)し、次いで、水で希釈するという2段階の混練方法が用いられている。しかし、希釈時に水を用いると、負極集電体上に塗布された負極活物質層形成用ペーストを乾燥する際、塗料の対流によって集電体近傍のバインダがペースト塗布物の表面に移動してペースト塗布物の表面に偏析(マイグレーション)する。その結果、負極活物質層と集電体との密着性(接合強度)が低下し、充放電を繰り返すうちに負極活物質層が剥がれ落ちるという問題がある。
特許文献1には、黒鉛(負極活物質)に増粘剤水溶液を加えて固練りした後、該混練物を増粘剤水溶液で希釈する技術が記載されている。かかる技術によると、希釈時に増粘剤水溶液を用いているので、上述したようなバインダのマイグレーション(偏析)は抑制されるものの、固練り時に増粘剤水溶液を投入しているため、水分を吸収して膨潤した増粘剤が負極活物質の表面を広く被覆する虞がある。膨潤した増粘剤が負極活物質の表面を広く被覆すると、増粘剤により電子の授受が妨げられ、電極の反応抵抗が増大するため好ましくない。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電池抵抗が低く、かつ電極活物質層が剥がれ難い、耐久性に優れた二次電池用電極を製造し得る製造方法を提供することである。また、そのような電極を負極として備える二次電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、本発明により、電極集電体の表面に電極活物質層が形成された二次電池用の電極を製造する方法が提供される。ここで開示される製造方法は、以下の工程、すなわち、(1).増粘剤粉末と電極活物質粉末とを混合する粉体混合工程、(2).上記粉体混合工程で得られた粉体混合物と水とを混練(典型的には固練り)する混練工程、(3).上記混練工程で得られた混練物と増粘剤水溶液とを混ぜることで電極活物質層形成用ペーストを得る増粘剤水溶液混合工程、(4).上記電極活物質層形成用ペーストを電極集電体に付与して該集電体上に電極活物質層を形成する工程、を包含する。
【0008】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいい、リチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の化学反応を伴ういわゆる化学電池と、電気二重層キャパシタ等のいわゆる物理電池とを包含する用語である。また、本明細書において「電極活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および脱離)可能な活物質をいう。また、「チクソトロピー指数(TI値)」とは、回転速度aにおける粘度ηaと、回転速度bにおける粘度ηbの比(ηb/ηa)で表される指標であり、ここでは液温25℃に保持されたB型粘度計を用い、回転速度aが20rpm、回転速度bが2rpmのときの値を示す。電極活物質層形成用ペーストのTI値が大きいほど、塗工乾燥時における塗料の対流が抑制され、過度なマイグレーション(集電体近傍のバインダがペースト塗布物の表層部に移動して偏析すること)がより良く抑えられるものと考えられる。
【0009】
本発明の電極の製造方法によると、粉末状の増粘剤と電極活物質とを混合した後、水を加えて固練りする構成となるため、固練り時に増粘剤水溶液を投入したときのような、水分を吸収して膨潤した増粘剤が負極活物質の表面を広く被覆することを回避し、これによる反応抵抗の増大を防止することができる。さらに、増粘剤水溶液混合工程において増粘剤水溶液を用いるので、水で希釈する場合に比べて、電極活物質層形成用ペーストのTI値が大きくなり、過度なマイグレーション(集電体近傍のバインダがペースト塗布物の表層部に移動して偏析すること)がより良く抑えられる。そのため、電極集電体に対する密着性(接合強度)が高い電極活物質層を形成することができる。したがって、本発明によると、電池抵抗がより低く、かつ電極活物質層が剥がれ難い、耐久性に優れた(例えばサイクル耐久後における容量維持率が高い)二次電池を提供することができる。
【0010】
ここで開示される電極製造方法の好ましい一態様では、上記電極活物質100質量部に対して上記粉体混合工程で投入される増粘剤の量Aが、上記電極活物質100質量部に対して上記増粘剤水溶液混合工程で投入される増粘剤の量Bよりも多い。例えば、上記粉体混合工程で投入される増粘剤の量Aと、増粘剤水溶液混合工程で投入される増粘剤の量Bとの比率(A/B)としては、概ね1<A/B≦10の範囲内が適当であり、好ましくは2≦A/B≦8であり、特に好ましくは2≦A/B≦5である。かかる構成によると、粉体混合工程で投入される増粘剤の量と、増粘剤水溶液混合工程で投入される増粘剤の量との比率が適切なバランスにあるので、上述した効果をより良く発揮することができる。
【0011】
ここで開示される電極製造方法の好ましい一態様では、上記電極活物質層形成用ペーストのチクソトロピー指数(TI値)が、概ね3.0以上であり、好ましくは3.5以上であり、特に好ましくは4.0以上である。電極活物質層形成用ペーストのTI値が3.0未満であると、乾燥中の塗料の対流が活発となり、バインダのマイグレーション(偏析)が促進される虞がある。その一方、上記ペーストのTI値が大きくなりすぎると、せん断速度差による粘度の差が大きくなる。電極作製工程において、粘度が影響する工程が存在し、それぞれせん断速度が異なっている。せん断速度差による粘度の差が大きくなると、配管、フィルター等による詰まりが発生する可能性があり好ましくない。このような観点からは概ね10以下が好ましい。
【0012】
ここで開示される電極製造方法の好ましい一態様では、上記電極活物質は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な炭素粒子である。炭素粒子表面への膨潤増粘剤の被覆を抑制することによって該電極を備える二次電池の出力特性を向上させることができる。本発明に係る製造方法によると、固練り時に粉末状の増粘剤を投入しているので、固練り時に増粘剤水溶液を投入したときのような、水分を吸収して膨潤した増粘剤同士が結合して炭素粒子の表面を広く被覆することを防止することができる。そのため、膨潤増粘剤の被覆による不具合が生じず、出力特性に優れた二次電池用の電極を製造することができる。
【0013】
好ましくは、上記増粘剤はセルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC))である。増粘剤として好ましいセルロース誘導体は、水に溶解するポリマーであって、水に溶解して混練することによって適度な粘性を有する。
【0014】
また、本発明によると、ここに開示されるいずれかの方法により製造された電極を負極として備える二次電池が提供される。かかる二次電池は、上記性能を有する電極を負極に備えることから、優れた性能を示すものであり得る。例えば、サイクル特性がよい、出力特性に優れる、耐久性が高い、生産安定性がよい、のうちの少なくとも一つ(好ましくは全部)を満たすものであり得る。
【0015】
さらに、そのような構成の二次電池は、例えば自動車等の車両に搭載される電池(典型的には駆動電源用途の電池)として好適である。したがって本発明によると、ここに開示される何れかの二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、該二次電池を動力源として備える車両(例えば家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)等)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る二次電池を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る捲回電極体を説明するための図である。
【図3】図2のIII−III断面を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る電極の製造フローを示す図である。
【図5】引張試験で使用した引張試験機を模式的に示す図である。
【図6】二次電池を搭載した車両(自動車)を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
ここに開示される二次電池用の電極を製造する方法の好適な実施形態の一つとして、電極集電体の表面に電極活物質層が形成されたリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン電池)用の負極を製造する方法を例にして詳細に説明するが、本発明の適用対象をかかる電極または電池に限定する意図ではない。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0019】
図1は、一実施形態に係る角型形状のリチウム二次電池を模式的に示す図である。図示するように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)のケース40を備える。このケース(外容器)40は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体42と、その開口部を塞ぐ蓋体44とを備える。ケース40の上面(すなわち蓋体44)には、捲回電極体80の正極50と電気的に接続する正極端子92および該電極体80の負極60と電気的に接続する負極端子94が設けられている。ケース40の内部には、例えば長尺シート状の正極(正極シート)50および長尺シート状の負極(負極シート)60を計二枚の長尺シート状セパレータ(セパレータシート)70とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体80が収容される。
【0020】
正極シート50および負極シート60は、図2及び図3に示すように、それぞれ、長尺シート状の電極集電体の両面に電極活物質を主成分とする電極活物質層が設けられた構成を有する。これらの電極シート50、60の幅方向の一端には、いずれの面にも上記電極活物質層が設けられていない電極活物質層非形成部分が形成されている。上記積層の際には、正極シート50の正極活物質層非形成部分と負極シート60の負極活物質層非形成部分とがセパレータシート70の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート50と負極シート60とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体80の捲回方向に対する横方向において、正極シート50および負極シート60の電極活物質層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート50の正極活物質層形成部分と負極シート60の負極活物質層形成部分と二枚のセパレータシート70とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層の非形成部分)82および負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層の非形成部分)84には、正極リード端子96および負極リード端子98がそれぞれ付設されており、上述の正極端子92および負極端子94とそれぞれ電気的に接続される。
【0021】
以下、本実施形態に係るリチウム二次電池100の負極の各構成要素について説明する。ここで開示されるリチウム二次電池用の負極シート60は、負極集電体62の表面に負極活物質層64が形成された構成を備える。負極を構成する負極集電体62の構成材料としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金が挙げられる。また、負極集電体62の形状は、本実施形態に係る捲回型の電極体80を備える電池においては、シート状または箔状の負極集電体62を好ましく適用し得る。
【0022】
<負極活物質>
負極活物質層64を構成する負極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、好適な負極活物質として、電荷担体(ここではリチウム)を可逆的に吸蔵および放出可能な炭素材料が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(炭素粒子)が好ましく用いられる。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。特に黒鉛粒子は、粒径が小さく単位体積当たりの表面積が大きいことからより急速充放電(例えば高出力放電)に適した負極活物質となり得る。
【0023】
負極活物質層64は、負極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において負極活物質層の構成成分として使用され得る材料を含有する。そのような材料として、負極活物質のバインダ(結着剤)として機能し得る水に分散するポリマー材料、負極活物質層形成用ペーストの増粘剤として機能し得る水に溶解するポリマー材料が挙げられる。
【0024】
<増粘剤>
水に溶解して増粘剤として機能し得るポリマー材料としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC;典型的にはナトリウム塩)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロース誘導体、または、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。これらのうち、セルロース誘導体(例えばCMC)を特に好ましく使用し得る。なお、このようなポリマー材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
<バインダ>
バインダとして機能し得る水に分散するポリマー材料としては、例えば、酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アラビアゴム等のゴム類、または、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂が例示される。なかでもスチレンブタジエンブロック共重合体(SBR)を好ましく使用し得る。なお、このようなポリマー材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
特に限定するものではないが、負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は凡そ80質量%以上(例えば80質量%〜99質量%)とすることができ、凡そ90質量%以上(例えば90質量%〜99質量%、より好ましくは95質量%〜99質量%)であることが好ましい。また、増粘剤を含む組成の負極活物質層は、該負極活物質層に占める増粘剤の割合を例えば0.3質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。また、バインダを含む組成の負極活物質層は、該負極活物質層に占めるバインダの割合を例えば0.3質量%〜15質量%とすることができ、凡そ1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0027】
ここに開示される電極製造方法で使用される電極活物質層形成用ペースト(本実施形態においては負極活物質層形成用ペースト)は、上述した負極活物質、増粘剤、及び、必要に応じてバインダが水に分散された形態の水系組成物であり得る。また、ここに開示される負極活物質層64は、かかる負極活物質層形成用ペーストを負極集電体62上に付与(塗工乾燥)して形成されたものであり得る。
【0028】
次に、本発明に係る二次電池用の電極の製造方法の好ましい態様の一例につき、リチウム二次電池(リチウムイオン電池)用の負極の製造方法を例にして、図4に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0029】
図4に示すように、ここに開示される電極製造方法では、増粘剤粉末と電極活物質粉末(ここでは負極活物質粉末)とを混合する粉体混合工程(ステップS10)と、粉体混合工程で得られた粉体混合物と水とを混練(典型的には固練り)する混練工程(ステップS20)と、混練工程で得られた混練物と増粘剤水溶液とを混ぜることで電極活物質層形成用ペースト(ここでは負極活物質層形成用ペースト)を得る増粘剤水溶液混合工程(ステップS30)と、電極活物質層形成用ペーストを電極集電体(ここでは負極集電体)に付与して該集電体上に電極活物質層を形成する工程(ステップS50)と、を包含する。この実施形態では、上記増粘剤水溶液混合工程の後、バインダを混合することにより、最終的に電極活物質層形成用ペーストが完成する(ステップS40)。以下、各工程を詳細に説明する。
【0030】
<増粘剤、増粘剤水溶液の用意>
この実施形態では、はじめに、水に溶解するポリマー材料からなる増粘剤(例えばCMC)粉末と、該増粘剤粉末を水に溶かした増粘剤水溶液とを用意(例えば調製)する。増粘剤水溶液の調製は、増粘剤粉末に水を添加して混練することにより行われる。かかる増粘剤水溶液の調製は、増粘剤の凝集物がなくなり、溶液全体に均等な粘性が得られるまで十分に混練することが好ましい。上記混練に用いる装置は特に限定するものではないが、例えば、プラネタリーミキサー、ホモジナイザー、ディスパー、ボールミル、ニーダ、ミキサー等が挙げられる。特に、プラネタリーミキサーはブレード軸がタンク内で遊星運動し強力に混練することができるため好適に用いられる。必要に応じて、増粘剤水溶液をフィルターに通液してもよい。増粘剤水溶液をフィルターに通液することによって、塗工欠陥になり得るサイズ(例えば直径500μm以上、好ましくは300μm以上、特に好ましくは100μm以上)の未溶解成分や混入異物を取り除くことができる。増粘剤水溶液の濃度は増粘剤の分子量やエーテル化度などにより決定され、特に限定されないが、概ね0.3質量%〜2質量%であり、好ましくは0.5質量%〜1質量%である。このような濃度範囲の増粘剤水溶液を用いることにより、増粘剤水溶液混合工程において最終的なペーストの粘度およびTI値を好適に調整し得る。
【0031】
<粉体混合工程>
このようにして増粘剤粉末と増粘剤水溶液とを用意したら、次に、ステップS10で、上記用意した増粘剤粉末と電極活物質(ここでは負極活物質)粉末とを粉体同士で混合する工程を行う。該粉体混合に用いる装置は特に限定するものではないが、例えば、プラネタリーミキサー、ディスパー、ボールミル、ニーダ、ミキサー等が挙げられる。特にプラネタリーミキサーの使用が好ましい。例えば、プラネタリーミキサーに負極活物質粉末(例えばカーボン粉末)および増粘剤粉末(例えばCMC粉末)を投入し、粉体のみの状態で混合して粉体混合物を調製するとよい。なお、ここでは、ペーストに添加すべき全ての増粘剤を投入するのではなく、混練工程より前の粉体混合工程において粉末状の形態で投入される増粘剤と、混練工程より後の増粘剤水溶液混合工程において水に溶解した液状の形態で投入される増粘剤とに分けて投入する構成としている。
【0032】
かかる粉体混合工程では、負極活物質と増粘剤とが均一に混合した状態となるまで十分に混ぜ合わせることが好ましい。例えば、プラネタリーミキサーの攪拌翼を比較的低い回転数(例えば、15rpm程度)で5〜10分程度回転させるとよい。均一混合性を高める観点からは、負極活物質粉末のレーザ散乱法に基づく平均粒径(D50)は、概ね5μm〜30μmが適当であり、好ましくは8μm〜25μmである。
【0033】
<混練工程>
次に、ステップS20では、上記粉体混合工程で得られた粉体混合物と少量の水とを混練(典型的には固練り)する工程を行う。この混練工程においては、混練物の粘度が比較的高い状態にあるので、負極活物質と増粘剤の粉体同士が強いせん断力で擦り合わされる。そのため、各粉体の凝集塊(ダマ)を解いて均一に分散させることができる。また、粉末状の増粘剤と負極活物質とを混合した後、水を加えて固練りする構成となるため、固練り時に増粘剤水溶液を投入したときのような、水分を吸収して膨潤した増粘剤が負極活物質の表面を広く被覆することを防止することができる。水分を吸収して膨潤した増粘剤が負極活物質の表面を広く被覆すると、増粘剤により電子の授受が妨げられ、負極の反応抵抗が増大する虞がある。
他方、上記の通り、本実施形態に係る製造方法では、負極活物質表面への膨潤増粘剤の被覆を抑制することができるため、膨潤増粘剤の被覆による不具合が生じず、反応抵抗がより低く、高出力を実現することができる。
【0034】
かかる混練工程では、混練時の粉体に強いせん断力がかかるように、固練りをするに際しての混練条件を適切に調節することが望ましい。例えば、粉体に溶媒(水)を徐々に加えていくと、混練トルクが上昇し、ピークを迎え、減少していく。かかる知見に基づいて、混練時の粉体に適切なせん断力がかかるように、混練トルクを適宜調節するとよい。固練り時間は、例えば30分〜2時間程度とすることができる。一例を挙げると、プラネタリーミキサーの攪拌翼を比較的低い回転数(例えば、15rpm程度)で10〜20分程度回転させる荒練りを行った後、より高い回転数(例えば、35rpm程度)で30分〜2時間程度回転させる固練りを行うとよい。これにより、活物質と増粘剤とが強い力(例えば剪断力)で練られるため、増粘剤の分散が進み、活物質と増粘剤とが分散されて均一な状態となる。また、混練時の水の含有量としては特に限定されるものでないが、混練物全体の概ね20質量%〜50質量%が適当であり、好ましくは30質量%〜40質量%である。このような水の含有量の範囲内であれば、粉体に強いせん断力がかかり、粉体の凝集塊が短時間で分散されて均一な状態の混練物を作製することができる。
【0035】
<増粘剤水溶液混合工程>
次いで、ステップS30において、上記混練工程で得られた混練物と増粘剤水溶液とを混ぜることで電極活物質層形成用ペースト(ここでは負極活物質層形成用ペースト)を得る工程を行う。例えば、増粘剤水溶液をプラネタリーミキサーに投入し、混練工程での回転数(例えば、35rpm程度)を維持したまま10〜20分程度回転させるとよい。これにより、最終的なペーストの粘度や固形分率の調整が行われる。
【0036】
この増粘剤水溶液混合工程においては、混練物を増粘剤水溶液で希釈するので、水で希釈する場合に比べて、ペーストのTI値が大きくなる。例えば、市販されるB型粘度計を用い、液温を25℃に調整してからロータを2rpm、20rpmでそれぞれ回転させて測定したときのTI値が、概ね3.0以上であり、好ましくは3.5以上であり、より好ましくは4.0以上であり、特に好ましくは5.0以上である。ペーストのTI値が3.0以上であると、該ペーストを塗工して乾燥した際のマイグレーション(集電体近傍のバインダがペースト塗布物の表層部に移動して偏析すること)がより良く抑えられ、電極活物質層が剥がれ難い電極が得られる。TI値の上限値は特に制限されないが、上記ペーストのTI値が大きくなりすぎると、せん断速度差による粘度の差が大きくなる。電極作製工程において、粘度が影響する工程が存在し、それぞれせん断速度が異なっている。せん断速度差による粘度の差が大きくなると、配管、フィルター等による詰まりが発生する可能性があり好ましくない。このような観点からは概ね10以下であり、好ましくは7以下である。
【0037】
ここで開示される負極活物質層形成用ペーストの好適例として、市販されるB型粘度計を用い、液温を25℃に調整してからロータを20rpmで回転させて測定したときの負極活物質層形成用ペーストの粘度が、5000〜10000mPa・sであり、かつ、ロータを2rpmで回転させて測定したときの負極活物質層形成用ペーストの粘度が、30000〜55000mPa・sの範囲であるもの、ロータを20rpmで回転させて測定したときの負極活物質層形成用ペーストの粘度が、6000〜10000mPa・sであり、かつ、ロータを2rpmで回転させて測定したときの負極活物質層形成用ペーストの粘度が、25000〜55000mPa・sの範囲であるもの、ロータを20rpmで回転させて測定したときの負極活物質層形成用ペーストの粘度が、9000〜10000mPa・sであり、かつ、ロータを2rpmで回転させて測定したときの負極活物質層形成用ペーストの粘度が、50000〜55000mPa・sの範囲であるもの、等が挙げられる。このような所定範囲内の粘度を有することにより、従来得ることができなかったマイグレーション抑制効果と良好な塗工性との双方を満足する負極活物質層形成用ペーストとすることができる。
【0038】
ここで開示される電極製造方法の好ましい技術では、電極活物質100質量部に対して粉体混合工程で投入される増粘剤の量Aが、電極活物質100質量部に対して増粘剤水溶液混合工程で投入される増粘剤の量Bよりも多い。例えば、粉体混合工程で投入される増粘剤の量Aと、増粘剤水溶液混合工程で投入される増粘剤の量Bとの比率(A/B)としては、概ね1<A/B≦10の範囲内が適当であり、好ましくは2≦A/B≦8であり、特に好ましくは2≦A/B≦5である。かかる構成によると、粉体混合工程で投入される増粘剤の量と、増粘剤水溶液混合工程で投入される増粘剤の量との比率が適切なバランスにあるので、上述した効果をより良く発揮することができる。例えば、電池抵抗がより低く、かつ、電極活物質層がより剥がれ難い、耐久性に優れた(例えばサイクル耐久後における容量維持率が高い)二次電池用負極を製造することができる。
【0039】
そして、上記ステップS40で、上記混練物の希釈が行われた後、バインダを混合することにより、最終的な負極活物質層形成用ペーストが完成する。
【0040】
その後、上記ステップS50で、負極活物質層形成用ペーストを負極集電体に塗布して該集電体上に負極活物質層を形成する工程を行う。負極集電体の表面に上記調製した負極活物質層形成用ペーストを塗布し、該ペーストに含まれる溶媒である水を揮発させて乾燥させることにより負極活物質層を形成することができる。上記のようにTI値が3.0以上である負極活物質層形成用ペーストが用いられて負極集電体表面に形成された負極活物質層は、剥離し難い。したがって、ここに開示される製造方法によると、電極活物質層の破れまたは剥離による容量維持率の低下等が抑制されたサイクル特性のよい二次電池用の電極を製造することができる。
【0041】
このような活物質層形成用ペーストを負極集電体に塗工する操作は、従来の一般的なリチウム二次電池用負極を作製する場合と同様にして行うことができる。例えば、適当な塗工装置(ダイコーター、スリットコーター、コンマコーター等)を使用して、上記負極集電体に所定量の上記活物質層形成用ペーストを均一な厚さに塗工することにより製造され得る。その後、乾燥炉で負極活物質層形成用ペースト中の溶媒(水)を揮発させることによって、負極活物質層形成用ペースト中の溶媒(水)を除去する。負極活物質層形成用ペーストから溶媒(水)を除去することによって、負極活物質層が形成される。このようにして、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極(負極シート)を得ることができる。なお、乾燥後、必要に応じて適当なプレス処理(例えばロールプレス処理)を施すことによって、負極活物質層の厚みや密度を適宜調整することができる。
【0042】
このようにして得られたリチウム二次電池用の負極60は、図2および図3に示すように、負極活物質および増粘剤を含む負極活物質層64が負極集電体62に保持された構成を有する。この負極活物質層64は、固練り時に粉末状の増粘剤を用い、かつ、希釈時に増粘剤水溶液を用いた負極活物質層形成用ペーストを負極集電体62上に付与することによって形成されたものである。そのため、得られた負極活物質層64は、過度なマイグレーション(集電体近傍のバインダが表層部に移動して偏析すること)がより良く抑えられ、バインダが好ましく分散したものとなり得る。例えば、該負極活物質層64を上下方向(厚さ方向)の中央で2分割したときのバインダ偏在度(上層側のバインダ量/下層側のバインダ量)が、2.0以下(例えば0.8〜2.0、好ましくは1.5以下、例えば1.0〜1.5)になる。このことによって、集電体62の表面に適量のバインダが配置され、負極活物質層64と集電体62の接合強度を高めることができる。なお、活物質層中のバインダ量の分布は、例えば、バインダがSBRの場合、BrもしくはOs(オスミウム)で染色したバインダの電子線マイクロアナライザ(EPMA)による分布断面観察により調べることができる。
【0043】
また、上記得られたリチウム二次電池用の負極60は、ペーストに添加すべき全ての増粘剤を一度に投入するのではなく、混練工程より前の粉体混合工程において粉形態で投入される増粘剤と、混練工程より後の増粘剤水溶液混合工程において水に溶かした液状形態で投入される増粘剤とに分けて投入されたペーストを用いて形成されている。そのため、ここで開示される負極活物質層に含まれる増粘剤は、相対的に分子量の小さい第1のピークと相対的に分子量の大きい第2のピークとの2つのピークを有するバイモーダルな分子量分布を有し得る。例えば、上記増粘剤がカルボキシメチルセルロース(CMC)である場合、当該ピークのうち相対的に分子量の小さい第1のピークのトップの質量平均分子量が500000〜1000000の範囲に存在し、且つ、該ピークのうち相対的に分子量の大きい第2のピークのトップの質量平均分子量が2500000〜5000000の範囲に存在する。このうち、相対的に分子量の小さい第1のピークが、増粘剤水溶液混合工程において液状形態で投入されたCMCの分子量に相当し、相対的に分子量の大きい第2のピークが、粉体混合工程において粉形態で投入されたCMCの分子量に相当する。かかる分子量の測定は、例えばゲル浸透クロマトグラフGPC(機器No.GPC-MALLS2)を用いて行うことができる(検出器:示差屈折率検出器RI(Waters製、RI-2414、感度×512)、カラム:TSKgel GMPWXL×2(東ソー社製、S/N E0027、M0110、φ7.8mm×30cm)、溶媒:0.1M塩化ナトリウム水溶液、流速:0.7mL/min、カラム温度23℃、標準試料:単分散プルラン(昭和電工製))。
【0044】
ここに開示される方法により製造された負極60を備えるリチウム二次電池100を構成するその他の材料および部材自体は、従来同種の電池に備えられるものと同様でよく、特に制限はない。以下、その他の構成要素について説明するが、本発明を係る実施形態に限定することを意図したものではない。
【0045】
例えば、正極(正極シート)50は、図2及び図3に示すように、シート状の正極集電体52(例えばアルミニウム箔)の上に正極活物質層54が形成された構成であり得る。上記正極活物質層54は、正極活物質、および必要に応じて添加される導電材、バインダ、増粘剤等の各種添加材を適当な溶媒に混合されてなる組成物(正極活物質層形成用ペースト)を正極集電体52に塗布し、該溶媒を乾燥させて圧縮成型することにより形成される。
【0046】
上記正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が用いられ、従来からリチウム二次電池に用いられる物質(例えば層状構造の酸化物やスピネル構造の酸化物)の一種または二種以上を特に限定することなく使用される。例えば、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物等のリチウム含有遷移金属酸化物が挙げられる。一般式がLiMPO(MはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種以上の元素;例えばLiFePO、LiMnPO)で表記されるオリビン型リン酸リチウムを上記正極活物質として用いてもよい。
【0047】
上記導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末等を用いることができる。また、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、銅、ニッケル等の金属粉末類およびポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料などを単独又はこれらの混合物として含ませることができる。なお、これらのうち一種のみを用いられていても二種以上が併用されていてもよい。
【0048】
また、正負極シート50,60間に使用されるセパレータシート70の好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。例えば、合成樹脂製(例えばポリエチレン等のポリオレフィン製)多孔質セパレータシートを好適に使用し得る。なお、電解質として固体電解質もしくはゲル状電解質を使用する場合には、セパレータが不要な場合(すなわちこの場合には電解質自体がセパレータとして機能し得る。)があり得る。
【0049】
かかる構成の捲回電極体80をケース本体42(図1)に収容し、そのケース本体42内に適当な非水電解液を配置(注液)する。ケース本体42内に上記捲回電極体80と共に収容される非水電解液としては、従来のリチウムイオン電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。例えば、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた非水電解液を用いることができる。
【0050】
上記非水電解液を捲回電極体80とともにケース本体42(図1)に収容し、ケース本体42の開口部を蓋体44(図1)で封止することにより、本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築(組み立て)が完成する。なお、ケース本体42の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。また、上記電池ケース40の構造、大きさ、材料(例えば金属製またはラミネートフィルム製であり得る)等について特に制限はない。
【0051】
このようにして構築された二次電池は、上記のように電池抵抗が低く、かつ接着性のよい電極活物質層を備えた電極(例えば負極)を用いて構築されていることから、優れた電池性能を示すものである。例えば、上記電極を用いて電池を構築することにより、サイクル特性がよい、出力特性に優れる、耐久性が高い、生産安定性がよい、のうちの少なくとも一つ(好ましくは全部)を満たす二次電池を提供することができる。
【0052】
以下、本発明に関する試験例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0053】
<試験例1>
本発明に係る二次電池用の電極を作製し、該電極における電極活物質層の引張試験を行い剥離強度について評価した。以下、具体的な方法を示す。
【0054】
[リチウム二次電池用の負極の作製]
(実施例1)
負極活物質層形成用ペーストの作製を目的として、カーボン粉末(負極活物質)100質量部とCMC粉末(増粘剤)0.7質量部とをプラネタリーミキサー(商品名ハイビスディスパーミックス、プライミクス株式会社製)に投入し、回転数15rpmで5分間、粉体同士で混練した(粉体混合工程)。次いで、固形分率が約62質量%となるように純水を投入し、回転数15rpmで10分間混練したのち、さらに回転数35rpmで60分間固練りした(混練工程)。この混練物にCMC溶液(CMC0.3質量部を純水に溶解したものを使用した。)を投入し、回転数35rpmで10分間混練した(増粘剤水溶液混合工程)。その後、SBR(バインダ)1質量部を混合して目的の負極活物質層形成用ペーストを得た。なお、負極活物質層形成用ペーストに占める固形分の最終的な割合は54質量%となるように調整した。得られた負極活物質層形成用ペーストの粘度およびTI値を、市販されるB型粘度計を用い、液温を25℃に調整してからロータを2rpm、20rpmでそれぞれ回転させて測定した。TI値は、回転速度2rpm時と回転速度20rpm時の粘度比(回転速度2rpmのときの粘度/回転速度20rpmのときの粘度)とした。結果を表1に示す。
また、得られた負極活物質層形成用ペーストを長尺シート状の銅箔(負極集電体)の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極活物質層が設けられた負極シートを作製した。負極活物質層形成用ペーストの塗布量は、両面合わせて約10mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0055】
(実施例2)
粉体混合工程で投入されるCMCを0.8質量部とし、かつ、増粘剤水溶液混合工程で投入されるCMCを0.2質量部としたこと以外は実施例1と同様にして負極シートを作製した。
【0056】
(実施例3)
粉体混合工程で投入されるCMCを0.9質量部とし、かつ、増粘剤水溶液混合工程で投入されるCMCを0.1質量部としたこと以外は実施例1と同様にして負極シートを作製した。
【0057】
(実施例4)
粉体混合工程で投入されるCMCを0.7質量部とし、かつ、増粘剤水溶液混合工程で投入されるCMCを0.1質量部としたこと以外は実施例1と同様にして負極シートを作製した。
【0058】
(比較例1)
粉体混合工程で投入されるCMCを1.0質量部としたこと、および、増粘剤水溶液混合工程に純水を用いたこと以外は実施例1と同様にして負極シートを作製した。
【0059】
(比較例2)
CMC粉末(増粘剤)0.8質量部と純水とをプラネタリーミキサー(商品名ハイビスディスパーミックス、プライミクス株式会社製)に投入して混練することにより、CMC溶液を調製した。このCMC溶液にカーボン粉末(負極活物質)100質量部を投入し、回転数15rpmで10分間混練したのち、さらに回転数35rpmで60分間固練りした(混練工程)。この混練物にCMC溶液(CMC粉末0.2質量部を純水に溶解したものを使用した。)を投入し、回転数35rpmで10分間混練した(増粘剤水溶液混合工程)。その後、SBR(バインダ)1質量部を混合して目的の負極活物質層形成用ペーストを得た。なお、該ペーストに占める固形分の最終的な割合は54質量%となるように調整した。その後、実施例1と同様にして負極シートを作製した。
【0060】
[バインダ偏在度]
このようにして得られた実施例1〜4および比較例1,2に係る負極シートの断面を電子線マイクロアナライザ(EPMA)により分析し、負極活物質層断面を厚さ方向に半分割したときのバインダ偏在度(上層側のバインダ濃度/下層側のバインダ濃度)を調べた。上層側と下層側のバインダ濃度の比は、バインダ(SBR)をBr元素で染色したときのBr元素検出強度比から算出した。各例のバインダ偏在度を表1に示す。
【0061】
[引張試験]
また、上記得られた各種の負極シートの集電体と負極活物質層との接合強度を、引っ張り試験機を用いた90°剥離試験で評価した。具体的には、負極シートの片面の負極活物質層を剥離した試験片を用意した。そして、図5に示すように、試験片60を測定台68に載せ、負極活物質層64が鉛直方向上側になるように負極集電体62を測定台68に固定した。そして、引張治具65の下端部に両面テープ(φ10mm)66の片面を貼付し、もう一方の面を負極活物質層64に貼り付け、該治具65を負極集電体62の面に対して垂直(剥離角度が90±5°)となる方向に引っ張り、毎秒0.5mmの速度で剥がした。そして、負極活物質層64が負極集電体62から剥がれる間の荷重の平均値を剥離強度[N/m]として測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1から明らかなように、希釈時に純水を用いた比較例1に係る負極シートは、乾燥時にマイグレーションが生じたため、バインダの偏在度が2.0を上回り、バインダの均一な分布性に欠けるものであった。また、剥離強度は3.5N/mを下回り、負極活物質層と集電体との接合性が悪かった。これに対し、希釈時にCMC溶液を用いた実施例1〜4に係る負極シートは、剥離強度がいずれも4.7N/m以上と良好であり、極めて高い接合強度を示した。この結果から、希釈時にCMC溶液を用いることにより、負極活物質層と集電体との接合強度が向上することが確認できた。なお、表1から明らかなように、ペーストのTI値が大きくなるに従い剥離強度は増大傾向を示した。ここで供試した負極シートの場合、特にペーストのTI値を3.7以上にすることにより、1.5N/m以上という極めて高い剥離強度を達成できた。剥離強度を向上させる観点では、ペーストのTI値は、概ね3.0以上が適当であり(実施例1〜4)、好ましくは4.0以上であり(実施例1〜3)、特に好ましくは5.0以上である(実施例1)。
【0064】
<試験例2>
上記試験例1で作製した各種の負極シートを用いてリチウム二次電池を作製し、その性能を評価した。リチウム二次電池は以下のようにして作製した。
【0065】
[リチウム二次電池]
正極活物質としてのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)粉末とバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と導電材としてのアセチレンブラックとを、これらの材料の質量比が90:8:2となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して正極活物質層形成用ペーストを調製し、これを長尺シート状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。正極活物質層形成用ペーストの塗布量は、両面合わせて約16mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0066】
正極シート及び負極シートを2枚のセパレータを介して捲回することによって捲回電極体を作製した。このようにして得られた捲回電極体を非水電解質(非水電解液)とともに電池容器(ここでは角型を使用した。)に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。非水電解液としてはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた非水電解液を使用した。このようにして試験用リチウム二次電池を組み立てた。なお、このリチウム二次電池の理論容量は4Ahである。このようにして、実施例1〜4及び比較例1、2に係るリチウム二次電池を構築した。
【0067】
[初期−30℃反応抵抗]
このようにして得られたリチウム二次電池のそれぞれに対し、25℃の環境下において、4Aの定電流で3.7VまでCC充電し、さらに電流値が0.2AになるまでCV充電した後、−30℃まで冷却し、交流インピーダンス測定を行った。そして、得られたインピーダンスのCole−Coleプロットから反応抵抗(mΩ)を読み取った。交流インピーダンスの測定条件については、交流印加電圧5mV、周波数範囲0.01Hz〜1000000Hzとした。結果を表2に示す。
【0068】
[60℃サイクル容量維持率]
さらに、上記得られたリチウム二次電池のそれぞれに対し、25℃の環境下において、16Aの定電流で4.1VまでCC充電を行い、10分間休止した後、16Aの定電流で3.0VまでCC放電を行い、10分間休止する充放電サイクルを2000回連続して繰り返した。そして、上記充放電サイクル試験前における初期容量と、充放電サイクル試験後における放電容量とから、充放電サイクル試験後の容量維持率(=[充放電サイクル試験後の放電容量/充放電サイクル試験前の初期容量]×100)を算出した。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から明らかなように、固練り時にCMC溶液を用いた比較例2に係るリチウム二次電池は、膨潤CMCにより負極活物質の表面が広く覆われたため、初期の反応抵抗が増大傾向になった。一方、固練り時にCMC粉体を用い、かつ希釈時に純水を用いた比較例1に係るリチウム二次電池は、反応抵抗は実施例1〜4とあまり変わらないものの、60℃サイクル試験後における容量維持率が60%を下回り、耐久性に欠けるものであった。これに対し、固練り時にCMC粉体を用い、かつ希釈時にCMC溶液を用いた実施例1〜4に係る電池は、比較例1、2の電池に比べて反応抵抗が低く、さらに60℃サイクル試験後における容量維持率はいずれも70%以上と良好であり、極めて高い耐久性性能を示した。
以上の結果から、実施例1〜4で調製した負極活物質層形成用ペーストを用いて形成されたリチウム二次電池は、電池抵抗がより低く、かつ負極活物質層が剥がれ難い、耐久性に優れたものであることが確認できた。
【0071】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、電池の種類は上述したリチウム二次電池に限られず、電極体構成材料や電解質が異なる種々の内容の電池であってもよい。また、該電池の大きさおよびその他の構成についても、用途(典型的には車載用)によって適切に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る二次電池用の電極は、電極集電体から剥離し難く優れた接着性を有する電極活物質層を備える。かかる特性により、本発明に係る二次電池用の電極を備える二次電池は、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って、図6に示されるように、かかる二次電池100(当該電池100を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源として備える車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車のような電動機を備える自動車)を提供する。
【符号の説明】
【0073】
1 車両
40 電池ケース
42 ケース本体
44 蓋体
50 正極シート
52 正極集電体
54 正極活物質層
60 負極シート
62 負極集電体
65 引張治具
68 測定台
70 セパレータシート
80 捲回電極体
92 正極端子
94 負極端子
96 正極リード端子
98 負極リード端子
100 二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極集電体の表面に電極活物質層が形成された二次電池用電極を製造する方法であって、以下の工程:
増粘剤粉末と電極活物質粉末とを混合する粉体混合工程;
前記粉体混合工程で得られた粉体混合物と水とを混練する混練工程;
前記混練工程で得られた混練物と増粘剤水溶液とを混ぜることで電極活物質層形成用ペーストを得る増粘剤水溶液混合工程;および、
前記電極活物質層形成用ペーストを電極集電体に付与して該集電体上に電極活物質層を形成する工程;
を包含する、電極製造方法。
【請求項2】
前記電極活物質100質量部に対して前記粉体混合工程で投入される増粘剤の量が、前記電極活物質100質量部に対して前記増粘剤水溶液混合工程で投入される増粘剤の量よりも多い、請求項1に記載の電極製造方法。
【請求項3】
前記電極活物質層形成用ペーストのチクソトロピー指数が、3.0以上である、請求項1または2に記載の電極製造方法。
【請求項4】
前記電極活物質は、電荷担体を可逆的に吸蔵および放出可能な炭素粒子である、請求項1〜3の何れか一つに記載の電極製造方法。
【請求項5】
前記増粘剤は、セルロース誘導体である、請求項1〜4の何れか一つに記載の電極製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られた電極を負極として備える、二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−93240(P2013−93240A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235338(P2011−235338)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】