説明

二次電池用非水電解液及び非水電解液二次電池

【課題】 非水系溶媒にニトリル系溶媒を含む非水電解液を用いた非水電解液二次電池において、ニトリル系溶媒の量を多くした場合にも、非水電解液が電極と反応するのを抑制し、良好な負荷特性が得られると共に、高温条件下においても電池容量が低下するのが抑制され、長期にわたって良好な電池特性が得られるようにする。
【解決手段】 正極1と、負極2と、非水電解液とを備えた非水電解質二次電池において、非水電解液における非水系溶媒中に、CF−R−CN(式中、Rは炭素数が1又は2のアルキル基を示し、一部の水素がフッ素で置換されていてもよい。)のフッ素化ニトリルが35〜95体積%の範囲で、フッ素化環状カーボネートが5〜40体積%の範囲で含まれるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用非水電解液及びこのような二次電池用非水電解液を用いた非水電解液二次電池に関するものである。特に、二次電池用非水電解液を改善し、非水電解液二次電池における負荷特性を向上させると共に、高温条件下においても電池容量が低下するのを抑制し、長期にわたって良好な電池特性が得られるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力,高エネルギー密度の新型二次電池として、非水系溶媒に電解質のリチウム塩が含有された非水電解液を用い、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解液二次電池が広く利用されている。
【0003】
そして、このような非水電解液二次電池において、良好な充放電特性が得られるようにするため、従来においては、上記の非水電解液として、非水系溶媒に、エチレンカーボネート等の環状カーボネートと、ジエチルカーボネート,エチルメチルカーボネート,ジメチルカーボネート等の鎖状カーボネートとを混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒にLiPF6やLiBF4等のリチウム塩からなる電解質を溶解したものが使用されている。
【0004】
しかし、上記のような非水電解液を用いた非水電解液二次電池における耐久性等を評価するために、この非水電解液二次電池を充電状態で高温条件下に放置させる充電保存試験を行った場合、上記の非水電解液が正極や負極と副反応を起こし、電池容量が低下するという問題があった。
【0005】
また、近年においては、携帯電話、ノートパソコン、PDA等のモバイル機器の小型化・軽量化が著しく進行しており、また多機能化に伴って消費電力も増加しており、これらの電源として使用される非水電解質二次電池の高容量化が要望されている。
【0006】
しかし、非水電解質二次電池を高容量化させるために、正極や負極における電極材料の塗布量や充填密度を高くした場合、これらの電極内に上記の非水電解液が十分に浸透されず、良好な負荷特性が得られなくなるという問題もあった。
【0007】
そして、従来においては、特許文献1に示されるように、電解質にパーフルオロアルカンスルホン酸リチウムを用いると共に、非水系溶媒にプロピレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンと脂肪族ニトリルとの混合溶媒を用い、非水電解液の電導度を高めて、電池における放電特性を向上させるようにしたものが提案されている。
【0008】
しかし、上記のような非水電解液を使用した非水電解液二次電池を高温条件下において放置させた場合、非水系溶媒に含まれる上記の脂肪族ニトリルが正極や負極と反応して分解し、高温条件下における保存特性等が大きく低下するという問題があった。
【0009】
また、特許文献2においては、非水電解液中にフッ素化されたニトリル化合物を含有させ、初期の充電時から電極表面にリチウムイオン透過性で安定性の良い被膜を効率よく生成し、過度の非水電解液の分解を抑制して、充放電効率や保存特性を向上させるようにしたものが提案されている。
【0010】
しかし、この特許文献2においては、非水電解液における上記のフッ素化されたニトリル化合物の量を0.01〜10重量%にし、このフッ素化されたニトリル化合物の量が多くなりすぎると、電池特性に悪影響を及ぼすとしている。
【0011】
また、特許文献3においては、非水電解液に、環状エステルを含むエステル系溶媒70〜95体積%と、ニトリル系溶媒5〜30体積%を含む非水系溶媒を用い、非水電解液二次電池における高温スウェリングを抑制するようにしたものが提案されている。
【0012】
そして、この特許文献3においては、ニトリル系溶媒の量が上記の範囲よりも多くなると、電池性能に問題が生じるとしている。
【0013】
ここで、ニトリル系の溶媒は、一般に粘度が低く、誘電率が高いため、非水電解液二次電池における負荷特性を向上させるのに寄与するが、電極との反応性が高いという欠点がある。
【0014】
従って、非水電解液中におけるニトリル系の溶媒の量を多くすると、この非水電解液二次電池を高温条件下において放置させた場合に、上記のニトリル系溶媒が電極と反応して保存特性が低下するという問題が生じるため、上記の特許文献2や特許文献3に示されるように、非水電解液中におけるニトリル系の溶媒の量を少なくしていると考えられる。
【0015】
しかし、このように非水電解液中におけるニトリル系の溶媒の量を少なくすると、依然として、非水電解液二次電池における負荷特性を向上させて、電池容量を十分に高めることが困難になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平5−144470号公報
【特許文献2】特開2003−7336号公報
【特許文献3】特開2005−72003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、非水電解液を用いた非水電解液二次電池における上記のような問題を解決することを課題とするものである。
【0018】
すなわち、本発明においては、非水系溶媒にニトリル系溶媒を含む非水電解液を用いた非水電解液二次電池において、非水電解液二次電池における負荷特性を向上させるために、非水系溶媒中におけるニトリル系溶媒の量を多くした場合においても、非水電解液が電極と反応するのを抑制し、良好な負荷特性が得られると共に、高温条件下においても電池容量が低下するのが抑制され、良好な保存特性が得られるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明においては、上記のような課題を解決するため、非水系溶媒に電解質のリチウム塩が含有された二次電池用非水電解液において、上記の非水系溶媒に、少なくとも下記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルと、フッ素化環状カーボネートとが含有され、非水系溶媒中に、上記のフッ素化ニトリルが35〜95体積%の範囲で含まれると共に、上記のフッ素化環状カーボネートが5〜40体積%の範囲で含まれるようにした。
【0020】
CF−R−CN (1)
式中、Rは炭素数が1又は2のアルキル基を示し、一部の水素がフッ素で置換されていてもよい。
【0021】
ここで、非水系溶媒に、上記のようなフッ素化ニトリルとフッ素化環状カーボネートとを含有させると、上記のフッ素化ニトリルとフッ素化環状カーボネートとが電極の表面において特異的に相互に分解して、電極の表面に良好な被膜が形成され、フッ素化ニトリルが電極の表面においてさらに分解するのが抑制されると考えられる。
【0022】
このため、非水電解液二次電池における負荷特性を向上させるために、非水系溶媒中に上記のようなフッ素化ニトリルが35〜95体積%の範囲で含まれるようにしても、このフッ素化ニトリルが電極の表面においてさらに分解するのが抑制され、高温条件下においても良好な保存特性が得られるようになる。
【0023】
なお、本発明において、上記の化学式(1)に示すように末端の炭素が全てフッ素化されたフッ素化ニトリルを用いるようにしたのは、CHF−やCHF−のように、末端の炭素がすべてフッ素化されずに水素が残っているフッ素化ニトリルの場合、非水電解液の粘度が増加して、非水電解液二次電池における負荷特性を十分に向上させることができなくなるためである。また、末端の炭素が全くフッ素化されていないニトリル化合物の場合には、負荷特性は向上されるが、フッ素化ニトリルのように、フッ素化環状カーボネートと電極の表面において特異的に相互に分解して、電極の表面に良好な被膜が形成されるということがなく、高温条件下における保存特性が低下するためである。
【0024】
また、上記のフッ素化ニトリルにおいて、式中におけるRの炭素数が多くなると、この場合にも、非水電解液の粘度が増加して、非水電解液二次電池における負荷特性を十分に向上させることができなくなる。このため、Rとして、上記のように炭素数が1又は2のアルキル基やその一部の水素がフッ素で置換されたものを用いるようにし、好ましくは、上記のフッ素化ニトリルとして、3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNを用いるようにする。
【0025】
また、上記の非水系溶媒中における上記のフッ素化ニトリルの量が少ないと、非水電解液二次電池における負荷特性を十分に向上させることが困難になる一方、その量が多くなりすぎると、相対的にフッ素化環状カーボネートの量が低下して、電極の表面に良好な被膜が形成されなくなる。このため、本発明においては、非水系溶媒中における上記のフッ素化ニトリルの量を35〜95体積%の範囲にしており、好ましくは、40〜80体積%の範囲になるようにする。
【0026】
一方、非水系溶媒中におけるフッ素化環状カーボネートの量が少ないと、上記のように電極の表面に良好な被膜が形成されなくなる一方、その量が多くなりすぎると、非水電解液の粘度が増加して、非水電解液二次電池における負荷特性を十分に向上させることができなくなる。このため、本発明においては、上記のように非水系溶媒中において、フッ素化環状カーボネートが5〜40体積%の範囲で含まれるようにしている。
【0027】
ここで、上記のフッ素化環状カーボネートとしては、各種のフッ素化環状カーボネートを用いることができるが、4−フルオロエチレンカーボネートを用いることが好ましい。
【0028】
そして、フッ素化環状カーボネートとして4−フルオロエチレンカーボネートを用いる場合、4−フルオロエチレンカーボネートの量が少ないと、上記のように電極に十分な被膜が形成されず、フッ素化ニトリルが分解されて、非水電解液二次電池を充電状態で高温条件下において放置させた場合における保存特性が低下する一方、4−フルオロエチレンカーボネートの量が多くなり過ぎると、非水電解液の粘度が上昇して負荷特性が低下する。このため、非水系溶媒中における4−フルオロエチレンカーボネートの量を10〜30体積%の範囲にすることがより好ましい。
【0029】
また、上記の二次電池用非水電解液においては、上記の非水系溶媒に、上記のフッ素化ニトリルとフッ素化環状カーボネートとの他に、他の非水系溶媒を加えることも可能である。ここで、このような他の非水系溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル等を用いることができる。
【0030】
さらに、上記の非水電解液の導電率を高めるために、高誘電率溶媒であるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等を混合させることも可能である。
【0031】
また、本発明の二次電池用非水電解液においては、負極に適切な被膜を形成する被膜形成剤として、炭素の二重結合C=Cを有する環状炭酸エステルを添加させることも可能である。
【0032】
ここで、このような炭素の二重結合C=Cを有する環状炭酸エステルとしては、例えば、ビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート、4−エチル−5−メチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート等を用いることができ、特に、負極上に良好な被膜を形成する点からは、ビニレンカーボネートやビニルエチレンカーボネートを用いることが好ましい。
【0033】
また、本発明の二次電池用非水電解液において、上記の非水系溶媒に溶解させるリチウム塩からなる電解質としては、非水電解液二次電池において一般に使用されているリチウム塩を用いることができる。そして、このようなリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4,LiCF3SO3,LiClO4,LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN(CF3SO2)(C49SO2),LiC(CF3SO23,LiC(C25SO23,LiB(C242,LiBF2(C24)等を用いることができ、特に、LiPF6,LiBF4,LiN(CF3SO22,LiB(C242を用いることが好ましい。
【0034】
また、本発明の非水電解液二次電池は、正極と負極と非水電解液とを備えた非水電解液二次電池において、非水電解液として、上記のような二次電池用非水電解液を用いることを特徴とするものであり、その正極における正極活物質や負極における負極活物質等については特に限定されない。
【0035】
ここで、この非水電解液二次電池の正極に用いる正極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出することができ、その電位が貴な材料であれば特に限定されず、一般に使用されている公知の正極活物質を用いることができる。例えば、層状構造や、スピネル型構造や、オリビン型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を単独又は複数組み合わせて使用することができ、特に、高エネルギー密度の非水電解液二次電池を得るためには、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。
【0036】
そして、このような層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・コバルト・ニッケル・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト・ニッケル・アルミニウム複合酸化物からなるリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。特に、結晶構造の安定性の観点からは、Al又はMgが結晶内部に固溶され、かつZrが粒子表面に固着したコバルト酸リチウムを用いることが好ましい。
【0037】
また、この非水電解液二次電池の負極に用いる負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出することができる材料であれば特に限定されず、一般に使用されている公知の負極活物質を用いることができる。例えば、金属リチウム、リチウム−アルミニウム合金,リチウム−鉛合金,リチウム−シリコン合金,リチウム−スズ合金等のリチウム合金、黒鉛,コークス,有機物焼成体等の炭素材料、リチウム・チタン複合酸化物やリチウム・バナジウム複合酸化物等の電位が正極活物質に比べて卑な金属酸化物を用いることができ、特に、リチウムの吸蔵、放出に伴う体積変化が少なくて可逆性に優れる黒鉛系の炭素材料を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明においては、非水電解液二次電池における非水電解液として、その非水系溶媒中に、上記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルが35〜95体積%の範囲で含まれると共に、フッ素化環状カーボネートが5〜40体積%の範囲で含まれたものを用いるようにしたため、上記のフッ素化ニトリルによって非水電解液二次電池における負荷特性が向上されると共に、このフッ素化ニトリルとフッ素化環状カーボネートとが電極の表面において特異的に相互に分解して、電極の表面に良好な被膜が形成されるようになり、フッ素化ニトリルが電極の表面においてさらに分解するのが抑制されるようになる。
【0039】
この結果、このような非水電解液を用いた非水電解液二次電池においては、上記のフッ素化ニトリルによって負荷特性が向上されると共に、高温条件下においてもフッ素化ニトリルが継続して分解するのが抑制され、高温条件下において電池容量が低下するのが防止されて、良好な保存特性が得られるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例及び比較例において作製した非水電解液二次電池の概略断面図である。
【実施例】
【0041】
次に、この発明に係る二次電池用非水電解液及び非水電解質二次電池について、実施例を挙げて具体的に説明すると共に、この実施例に係る非水電解質二次電池においては、負荷特性が向上すると共に、高温条件下において電池容量が低下するのが防止されて、保存特性が向上することを、比較例を挙げて明らかにする。なお、本発明の二次電池用非水電解液及び非水電解質二次電池は下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0042】
(実施例1)
実施例1においては、下記のようにして作製した正極と負極と非水電解液とを用い、図1に示すような円筒型で設計容量が2300mAhの非水電解液二次電池を作製した。
【0043】
[正極の作製]
正極を作製するにあたっては、正極活物質として、コバルト酸リチウムLiCoO2にAlとMgとがそれぞれ1.0mol%固溶されると共にその固溶体の粒子表面にZrが0.05mol%付与されたものを用いた。
【0044】
そして、この正極活物質と、導電剤の炭素と、結着剤のポリフッ化ビニリデンとが、95:2.5:2.5の重量比になるようにして、これらをN−メチル−2−ピロリドン溶液中で混練して正極合剤スラリーを作製した。そして、この正極合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延させて正極を作製した。
【0045】
[負極の作製]
負極を作製するにあたっては、負極活物質の黒鉛と、結着剤のスチレン・ブタジエンゴムと、増粘剤のカルボキシメチルセルロースとを97.5:1.5:1の重量比になるようにして、これらを水溶液中において混練して負極合剤スラリーを作製した。そして、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に塗布させ、これを乾燥させた後、圧延させて負極を作製した。
【0046】
[非水電解液の作製]
非水電解液を作製するにあたっては、非水系溶媒として、フッ素化環状カーボネートの4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、上記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルである3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNとを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させて、非水電解液を作製した。
【0047】
ここで、フッ素化ニトリルとして用いた上記の3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNの合成方法を下記に示す。
【0048】
窒素シールを施したジムロート冷却管と温度計とを備えた1リットルのナス型フラスコに、3,3,3-トリフルオロプロピオンアミド114g(0.90mol)とキシレン600mlと五酸化二リン64g(0.45mol/0.5eq)を加え、これらを撹拌しながら130〜145℃に加熱し、1時間還流させた。その後、これを室温まで冷却した後、蒸留装置をフラスコに取り付けて常圧で蒸留し、92〜97℃の留分を収集した。次いで、モレキュラシーブ4Aで乾燥させた後、再度蒸留を行って精製し、3,3,3-トリフルオロプロピオニトリルを57g(0.52mol、収率58%)得た。
【0049】
そして、非水電解液二次電池を作製するにあたっては、図1に示すように、上記のようにして作製した正極1と負極2との間に、セパレータ3としてリチウムイオン透過性のポリエチレン製の微多孔膜を介在させ、これらをスパイラル状に巻いて電池缶4内に収容させた後、この電池缶4内に上記の非水電解液を注液して封口し、上記の正極1を正極タブ1aにより、正極蓋5に取り付けられた正極外部端子5aに接続させると共に、上記の負極2を負極タブ2aにより電池缶4に接続させ、電池缶4と正極蓋5とを絶縁パッキン6により電気的に分離させた。
【0050】
(実施例2)
実施例2においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、フッ素化環状カーボネートの4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、上記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルである3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNと、エチルメチルカーボネート(EMC)とを2:4:4の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0051】
(比較例1)
比較例1においては、非水系溶媒として、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを3:7の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させ、これに対して、ビニレンカーボネート(VC)を2重量%の割合で添加した非水電解液を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0052】
(比較例2)
比較例2においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、フッ素化環状カーボネートの4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、フッ素化されていないプロピオニトリルCH3CH2CNとを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0053】
(比較例3)
比較例3においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、フッ素化環状カーボネートの4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、フッ素化されていないプロピオニトリルCH3CH2CNと、エチルメチルカーボネート(EMC)とを2:4:4の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0054】
(比較例4)
比較例4においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、フッ素化されていない環状カーボネートであるエチレンカーボネート(EC)と、上記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルである3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNとを2:8の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0055】
次に、上記のようにして作製した実施例1,2及び比較例1〜4の各非水電解液二次電池を、それぞれ25℃において、460mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させた後、460mAの定電流で2.75Vになるまで放電させて、各非水電解液二次電池の初期放電容量を測定した。
【0056】
そして、比較例1の非水電解液二次電池における初期放電容量を100として、各非水電解液二次電池の初期放電容量を算出し、その結果を下記の表1に示した。なお、表においては、4−フルオロエチレンカーボネートをFEC、エチレンカーボネートをEC、エチルメチルカーボネートをEMC、ビニレンカーボネートをVCとして示した。
【0057】
【表1】

【0058】
この結果、実施例1,2及び比較例1〜3の各非水電解液二次電池においては、初期の充放電が行えて、初期放電容量もほほ同じ結果が得られた。
【0059】
これに対して、非水系溶媒に、フッ素化されていない環状カーボネートであるエチレンカーボネート(EC)と、フッ素化ニトリルである3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNとを用い、非水系溶媒中におけるフッ素化ニトリルの割合が80体積%と多くなった比較例4の非水電解液二次電池においては、定電圧充電時に電流値が減衰せずに異常充電が生じて、充放電を行うことができなかった。これは、非水系溶媒中にフッ素化環状カーボネートを含有させないでフッ素化ニトリルの量を多くした場合、電極の表面でのフッ素化ニトリルの分解が進み、前記の特許文献2や特許文献3に記載されているように、このフッ素化ニトリルが電池特性に悪影響を及ぼす材料として作用したためであると考えられる。
【0060】
次に、上記の実施例1,2及び比較例1〜3の各非水電解液二次電池を、それぞれ25℃において、2300mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させた。
【0061】
そして、このように充電させた各非水電解液二次電池を、それぞれ460mA(0.2C)の電流で2.75Vまで放電させた場合の放電容量Q0.2Cと、4600mA(2C)の電流で2.75Vまで放電させた場合の放電容量Q2Cとを測定した。
【0062】
そして、負荷特性として、下記の式により0.2Cでの放電容量Q0.2Cに対する2Cでの放電容量Q2Cの容量比率(%)を求め、その結果を下記の表2に示した。
【0063】
容量比率(%)=(Q2C/Q0.2C)×100
【0064】
【表2】

【0065】
この結果、非水系溶媒に、フッ素化ニトリルやフッ素化されていないニトリルからなるニトリル系溶媒を含有させた実施例1,2及び比較例2,3の各非水電解液二次電池は、上記のニトリル系溶媒を含有させていない比較例1の非水電解液二次電池と比べて上記の容量比率が高くなっており、負荷特性が向上していた。これは、粘度が低く、誘電率が高いニトリル系溶媒を非水系溶媒に含有させたためであると考えられる。
【0066】
また、上記の実施例1,2及び比較例1〜3の各非水電解液二次電池について、それぞれ25℃において、460mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させた後、460mAの定電流で2.75Vになるまで放電させて保存前の放電容量D1を測定した。
【0067】
次いで、上記の各非水電解液二次電池を、それぞれ25℃において、2300mAの定電流で4.2Vになるまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で電流値が46mAになるまで定電圧充電させ、この状態で、各非水電解液二次電池を恒温槽内において60℃で10日間保存した後、保存後の各非水電解液二次電池について、それぞれ25℃において、460mAの定電流で2.75Vになるまで放電させて保存後の残存容量D2を求めた。
【0068】
そして、上記のように測定した保存前の放電容量D1、保存後の残存容量D2に基づき、下記の式により実施例1,2及び比較例1〜3の各非水電解液二次電池の保存後における容量残存率(%)を求め、その結果を下記の表3に示した。
【0069】
容量残存率(%)=(D2/D1)×100
【0070】
【表3】

【0071】
この結果、非水系溶媒として、フッ素化環状カーボネートである4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、上記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルであるCF3CH2CNとの混合溶媒を用いた実施例1,2の非水電解液二次電池は、ニトリル系溶媒としてフッ素化されていないニトリルを用いた比較例2,3の非水電解液二次電池に比べて、上記の保存後の容量残存率が大きく向上しており、また従来より一般に用いられているエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒にビニレンカーボネート(VC)を添加させた非水系溶媒を用いた比較例1の非水電解液二次電池に比べても、保存後の容量残存率が向上していた。
【0072】
これは、比較例2,3の非水電解液二次電池のように末端の炭素が全くフッ素化されていないニトリル化合物を用いた場合、フッ素化ニトリルを用いた実施例1,2の非水電解液二次電池のように、フッ素化環状カーボネートと電極の表面において特異的に相互に分解して、電極の表面に良好な被膜が形成されるということがないため、実施例1,2の非水電解液二次電池に比べて、高温条件下における保存特性が低下したものと考えられる。
【0073】
(比較例5)
比較例5においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、フッ素化環状カーボネートの4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを20:5:75の体積比で混合させた混合溶媒を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。
【0074】
(比較例6)
比較例6においては、上記の実施例1における非水電解液の作製において、非水系溶媒として、フッ素化環状カーボネートの4−フルオロエチレンカーボネート(FEC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを20:5:75の体積比で混合させた混合溶媒を用い、この混合溶媒に電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムLiPF6を1mol/lの割合で溶解させ、これに対して、上記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルである3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNを1重量%の割合で添加した非水電解液を用い、それ以外は、上記の実施例1の場合と同様にして非水電解液二次電池を作製した。なお、上記のフッ素化ニトリルの非水系溶媒中における割合は、約1体積%になっていた。
【0075】
そして、このように作製した比較例5,6の各非水電解液二次電池についても、上記の実施例1等の非水電解液二次電池と同様にして、初期放電容量を測定し、比較例5の非水電解液二次電池における初期放電容量を100として、各非水電解液二次電池の初期放電容量を算出し、その結果を下記の表4に示した。
【0076】
また、上記の比較例5,6の各非水電解液二次電池についても、上記の実施例1等の非水電解液二次電池と同様にして、負荷特性として、0.2Cでの放電容量Q0.2Cに対する2Cでの放電容量Q2Cの容量比率(%)を求めると共に、各非水電解液二次電池における保存後における容量残存率(%)を求め、これらの結果を下記の表4に示した。
【0077】
【表4】

【0078】
この結果、上記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルである3,3,3−トリフルオロプロピオニトリルCF3CH2CNを非水系溶媒中に約1体積%しか含有させなかった比較例6の非水電解液二次電池は、上記のフッ素化ニトリルを含有させていない比較例5の非水電解液二次電池と上記の容量比率が同じであり、負荷特性が向上するということがなく、上記の容量残存率は逆に少し低下しており、高温条件下における保存特性が向上しなかった。このため、非水系溶媒に、化学式(1)に示したフッ素化ニトリルとフッ素化環状カーボネートとを含有させるにあたり、上記のフッ素化ニトリルの量が少ないと十分な効果が得られないことが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 正極
1a 正極タブ
2 負極
2a 負極タブ
3 セパレータ
4 電池缶
5 正極蓋
5a 正極外部端子
6 絶縁パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系溶媒に電解質のリチウム塩が含有された二次電池用非水電解液において、上記の非水系溶媒に、少なくとも下記の化学式(1)に示したフッ素化ニトリルと、フッ素化環状カーボネートとが含有され、非水系溶媒中に、上記のフッ素化ニトリルが35〜95体積%の範囲で含まれると共に、上記のフッ素化環状カーボネートが5〜40体積%の範囲で含まれていることを特徴とする二次電池用非水電解液。
CF−R−CN (1)
式中、Rは炭素数が1又は2のアルキル基を示し、一部の水素がフッ素で置換されていてもよい。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池用非水電解液において、上記のフッ素化ニトリルが、CF3CH2CNであることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の二次電池用非水電解液において、上記のフッ素化ニトリルが、非水系溶媒中に40〜80体積%の範囲で含まれていることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の二次電池用非水電解液において、上記のフッ素化環状カーボネートが、4−フルオロエチレンカーボネートであることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池用非水電解液において、上記の4−フルオロエチレンカーボネートが、非水系溶媒中に10〜30体積%の範囲で含まれていることを特徴とする二次電池用非水電解液。
【請求項6】
正極と負極と非水電解液とを備えた非水電解液二次電池において、その非水電解液に請求項1〜5の何れか1項に記載の二次電池用非水電解液を用いたことを特徴とする非水電解液二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−238385(P2010−238385A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82249(P2009−82249)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】