説明

二液性グラウト注入方法

【課題】セメントミルクがブリージングを生じることでセメント粒子が沈降することなく圧送することができ、しかもセメントミルクの濃度を注入状況に応じて直ちに変更することが可能な二液性グラウト注入方法を提供する。
【解決手段】普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクからなるA液と、水及び水の一部を水ガラスで置換した水ガラス水溶液からなるB液とを互いに別々に圧送し、グラウト注入口付近でこれらを合流、混合して設定配合に調整し、注入することを特徴とする二液性グラウト注入方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質(岩盤等)のクラックや破砕帯軟弱地盤、堤防等の人工地盤の土粒子の間隙、構造物と地盤の境界面に発生した空洞やその周辺部に注入充填して止水や強化を図る上で好適な二液性グラウト注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
岩盤等の硬質地盤のクラックや砂質土等の軟弱地盤の間隙を止水し、充填するため、従来からセメントミルクが用いられている。また、その間隙に充填した充填物の止水性や強度を向上させるためには、セメントミルクに水ガラスを加えてゲル化能力を付加したケミカルグラウトが使用されている。
【0003】
このセメントミルクを主成分としたグラウトは、目的にもよるが、通常グラウト1m3当たり、普通セメント換算で200〜600kg程度のものが多く使用されている。
【0004】
しかしながら、このセメントミルクは、水にセメント粒子を懸濁させたグラウトであることから、以下のような問題点がある。
【0005】
1)水とセメントを撹拌混合した後、静置するとセメント粒子は沈降していき、上部は上澄み液となり、下部はセメント懸濁液となる。即ち、上澄み液とセメント懸濁液の2層に分離することとなる。この上澄み液が発生する状態を、グラウト業界ではブリージングと称している。このブリージングは、水に対してセメントが少ないほど大きくなる。
【0006】
2)セメントミルクグラウトは、プラント注入箇所までの圧送距離が、施工方法や配管設置条件により異なるものであるが(例えば、特許文献1参照。)、短いもので40〜100m程度、長いもので1000mを超える場合も多々ある。またグラウト注入は、施工方法に応じて、又は何らかのトラブル発生に応じて、10〜30分以上にも亘り圧送を停止することが多々ある。そして、この圧送停止時の間、セメントミルクは静止状態となるため、セメント粒子は沈降してブリージングが発生する。そして、再度圧送を開始した場合、セメントミルクは均一層でないため、圧送抵抗の小さい上部の上澄み液を多く含んだセメントミルクが先に追い出されることになり、管内に滞留したグラウトは、設定配合よりセメントが低濃度になってしまう。
【0007】
3)セメントミルクは、静置しなくても、注入管の断面積(内径)に比べてポンプの吐出量が小さく、しかも圧力が小さくなると移動速度が遅くなるため、セメント中の大きな粒子は沈降を起こす。このため、長時間に亘り圧送を行うと、管底部に順次沈降したセメントは、その密度が高くなり、硬化が促進される原因となる。このため、注入完了時に水洗いしても注入管底部に沈降したセメント降下物を水で完全に洗い出すことができず、管内に残存することになる。即ち、プラントを構成する管内にセメント粒子が残存することとなれば、プラント全体の生産性にも支障を来たす結果にもなり、故障等のトラブルの原因ともなる。
【0008】
4)また、セメントミルクは、プラント内においてセメントを一度に調合した一液性のものである。このため、セメントミルクの濃度を注入状況に応じて直ちに変更することができないという問題も生じる。
【0009】
以上の1)〜4)のセメント粒子の沈降を防止する方法として、粘着剤としてベントナイトを併用する方法が従来において提案されている。
【0010】
しかしながら、ベントナイトは、セメント粒子の沈降を防止することができるものの、却ってグラウトの粘性が高くなり、小さなクラックや土粒子間隙の浸透を大きく阻害することとなる。その結果、このベントナイトを混合する方法では、さらに高強度を必要とした高濃度のセメントミルクを圧送できないという新たな問題が発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−97629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、セメントミルクがブリージングを生じることでセメント粒子が沈降することなく圧送することができ、しかもセメントミルクの濃度を注入状況に応じて直ちに変更することが可能な二液性グラウト注入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上述した問題点を解決するために、設定配合のうちセメントミルクが沈降しない濃度のセメントミルクをA液、残りの水をB液と別々に分けてポンプで圧送し、注入口付近で合流混合する、いわゆる二液性グラウト注入方法を発明した。
【0014】
即ち、本発明では、A液としては、セメント粒子が沈降しにくくするために、普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有させ、残りの配合水をB液(配合により水量は異なる)に分けることとし、注入時点で設定配合に調整したセメントミルクを注入することが可能となった。
【0015】
また、このように二液性とすることにより、注入状況に応じてB液の水の含有量を変化させることにより、直ちにセメントミルク濃度を変更することも可能となる。
【0016】
更に、ゲル化能力を付加したい場合には、B液の水の一部を水ガラスで置換した水ガラス水溶液を用いることにより、ブリージングの防止、止水性(透水係数の低減)を高めることができる。更には、A液のセメントの一部をスラグに置換し、或いはセメントの代わりにスラグと石灰に置き換えて、B液の水ガラスの濃度及び/又はその量を変化させることにより、ゲルタイム及び強度を注入時において任意に調整できる等、極めて有効な二液性グラウト注入方法を提供することが可能となった。
【0017】
即ち、請求項1記載の二液性グラウト注入方法は、普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクからなるA液と、水からなるB液とを互いに別々に圧送し、グラウト注入口付近でこれらを合流、混合して設定配合に調整し、注入することを特徴とする。
【0018】
また、請求項2記載の二液性グラウト注入方法は、普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクからなるA液と、Na2O:9〜10%、SiO2:28〜30%換算で10〜90%置換した水ガラス水溶液からなるB液とを互いに別々に圧送し、グラウト注入口付近でこれらを合流、混合して設定配合に調整し、注入することを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の二液性グラウト注入方法は、請求項1又は2記載の発明において、上記セメントが重量比20〜80%に亘りスラグで置換されたセメントミルクからなるA液とすることを特徴とする。
【0020】
請求項4記載の二液性グラウト注入方法は、請求項1又は2記載の発明において、上記セメントがスラグの2〜30%に亘り、石灰で2〜30%置換されたセメントミルクからなるA液とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、A液として、擬似粘結状態となるよう普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有させ、セメント粒子の沈降分離を防止し、かつブリージングを極めて少なくしたセメントミルクを製造して圧送を容易にし、B液として水或いは水の一部を水ガラスで置換した水ガラス水溶液を、A液とは互いに別々に圧送し、グラウト注入口付近でこれらを合流、混合して設定配合のグラウトに調整することを可能とするものである。
【0022】
特に、A液に対して、水ガラスからなるB液を混合することにより、ゲル化能力を付加させることが可能となり、強度面、ブリージングの防止の面、止水性改善の面からより優れた効果を発揮させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用した二液性グラウト注入方法を実現するための二液性グラウト製造システムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した二液性グラウト注入方法の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
一般にセメントは、セメントの原料をキルン等で焼成して得られたセメントクリンカーを物理的に粉砕して微細化したもので、粒子表面は平らではなく、また粒子自体は球体でない大小の粒子で構成されている。
【0026】
またスラグは、高炉スラグを溶融状態から水で急冷固化した水滓を粉砕したもので、セメントと同様に大小粒子で構成されている。石灰(消石灰)は、石灰石を焼成し、粉砕したもので、平均粒径はセメントより小さいが粒子分布は大きく、また比重も小さいものである。
【0027】
このセメントを水に加えた場合、水はセメント粒子への付着、吸着や、反応の寄与する結合水を含めた固定水と、それ以外の自由に移動できる自由水に分類することができる。
【0028】
本発明は、かかる水に関する現象に着目し、セメントミルク中のセメント量を多くすることにより、配合水のうち固定水を多くしつつ自由水を少なくすることで、セメント自体は粘着性を持たないが、一定濃度以上になると見かけ上の粘性(以下、擬似粘結という。)が付加されることを突き止めた。
【0029】
即ち、セメントを多くして自由水を少なくすることにより、粒子は固定水で包含され、粒子間の間隔が狭まり、相互に接触した状態の擬似粘結となって粒子の移動が制約され、沈降が阻止される。
【0030】
その結果、ブリージングや大小の粒子の分離が生じにくいセメントミルクをA液として製造することができた。
【0031】
本発明におけるこのセメントミルクの擬似粘結の度合いは、セメント(スラグ、石灰を含む)の種類や量、ブレーン値(比表面積)、粒子径(比重)等によって大きく左右されるため、正確に特定できない。このため本発明では、普通セメント(平均径4.5μm、ブレーン値3200cm2/g)を基準とし、その換算した量を以ってその擬似粘結が可能な範囲を特定することとした。
【0032】
即ち、セメントミルクを構成するセメント粒子が普通セメントよりも小さいものであれば、絶対量は少ないものであっても擬似粘結を得ることができる。これに対して、セメントミルクを構成するセメント粒子が普通セメントよりも大きいものであれば、その絶対量を多くしない限り擬似粘結は得られない。
【0033】
この擬似粘結が生じているか否かの判定は、円筒フローコーンによるフロー値(内径5cm、高さ5cm内のセメントミルクを充填した後、円筒を持ち上げてその充填されたセメントミルクの広がり直径(cm)を測定することで行う。
【0034】
即ち、広がり直径の値が34cm以下で、粒子分離が殆ど無く、かつブリージングが10分後で4%以下の場合には、擬似粘結が生じた旨を判定するものとする。これに対して、上述の条件を一つでも欠く場合には、擬似粘結が生じなかった旨を判定するものとする。
【0035】
その結果、擬似粘結の下限は、セメントミルク1m3当たり普通セメントの場合、700kg以上とした。セメントの多くをスラグで置換した場合は、1m3当たり700kgより少ない量で擬似粘結が得られるので、本発明の範疇とみなされる。
【0036】
また、フロー値が16cm以下になると、擬似粘結が大となり、ブリージングは無いが、流動性が劣り、圧送が困難となるため、セメントミルク1m3当たりセメント1200kg超は除外することとした。
【0037】
即ち、本発明の実用的な擬似粘結は、セメントミルク1m3当たり普通セメント換算で700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクをA液とした。一方、設定配合のうち、A液に含まれない水はB液とする。なお、ここでいう普通セメント換算とは、フロー値34cm以下、ブリージング4%以下を呈する量で、普通セメントでは1m3当たり700〜1200kgに相当する。
【0038】
このように、A液で調整されたグラウト1m3当たり普通セメント換算で700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクは、圧送の過程において、或いは注入途中で、仮に10〜30分程度圧送が中断された場合においても、管内でセメントの大小粒子が分離沈降しにくくなる。このため、仮に圧送過程の途中で圧送が中断される場合においても、セメントミルクはブリージングが生じることなく圧送されることが可能となる。
【0039】
これにより、本発明では、A液として、普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクとしている。またB液として水としている。そして、このA液とB液とを互いに別々に圧送し、グラウト注入口付近でこれらを合流、混合して設定配合に調整する、いわゆる二液性グラウト注入方法である。
【0040】
図1は、本発明を適用した二液性グラウト注入方法を実現するための二液性グラウト製造システム1の構成を示している。本発明では、このシステムに限定されるものではなく、他の方法であってもよい。この二液性グラウト製造システム1では、外部から注入されたセメントや水等を混合してA液を調合するためのA液ミキサー11と、このA液ミキサー11から送られてくるA液を所定時間に亘り撹拌するアジテータ12と、このアジテータ12から送られてくるA液を管路10へ圧送するためのA液ポンプ13と、この管路10の末端に接続されているミキシングユニット14とを備えている。また、この二液性グラウト製造システム1は、外部から注入された水や水ガラス等を混合してB液を調合するためのB液ミキサー21と、このB液ミキサー21から送られてくるB液を所定時間に亘り貯液するための貯液槽22と、この貯液槽22から送られてくるB液を管路20へ圧送するためのB液ポンプ23とを備え、この管路20の末端は、ミキシングユニット14へと接続されている。そして、このミキシングユニット14においてA液とB液とが合流、混合されて設定配合に調整され、二液性グラウトが製造されることになる。得られた二液性グラウトは、仕入管4を介して強化対象物3に対して注入されることとなる。ちなみに、この強化対象物は、人工構造物のみならず、自然界にあるものも全てがその対象となり、例えば、硬質(岩盤等)のクラックや破砕帯軟弱地盤、堤防等の人工地盤の土粒子の間隙、構造物と地盤の境界面に発生した空洞やその周辺部等であるが、これに限定されるものではない。
【0041】
上述した構成からなる本発明によれば、A液の組成について、擬似粘結状態となるように、セメントミルク1m3当たり普通セメント換算で700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクとしている。このため、A液が管路10内を圧送される過程においても擬似粘結が生じていることから、管内でセメントの大小粒子が分離沈降しにくくなり、ブリージングが生じるのを防止することができる。そして、A液は、そのまま擬似粘結を生じさせた状態で管路10からミキシングユニット14へ到達することとなる。かかる擬似粘結状態にあるA液をB液と混合した場合に、A液中の擬似粘結状態によるセメントミルクは、B液の水が加わることにより、グラウト中の自由水が多くなる結果、擬似粘結が解離して設定配合の性状になる。
【0042】
更にミキシングユニット14においては、A液に対してB液の水を任意に増減させることが可能となり、設定配合を変更することも可能となる。
【0043】
更には、得られた二液性グラウトを強化対象物3に対して注入した当初、何らかの異変や状況変化によって直ちに設定配合を変更する必要がある場合においても、このミキシングユニット14におけるB液の量を制御すればよく、それを直ちに実現することが可能となる。
【0044】
上述した二液性グラウト注入方法において製造した二液性グラウトは、岩盤等の硬質地盤のクラックや軟弱地盤の土粒子間隙への浸透固化に対して特に有効である。一般的に、地盤内や、構造物と地盤との境界面の空洞(裏込めも含む)、護岸、堤防、地下構造物(橋脚、基礎杭等を含む)等の補修、強化には、セメントミルクグラウトだけではブリージング(グラウト固結容積の減少)、止水性(透水係数の低減)、希釈性及び逸走防止等が劣り、十分な効果を発揮させることができない。
【0045】
本発明においては、このような従来のセメントミルクを注入するのみでは、強度、ブリージング、止水性等の観点から十分な効果が得られない強化対象物3に対しては、B液として水を使用するのではなく、B液として水ガラスを使用するようにしてもよい。即ち、A液に対して、水ガラスからなるB液を混合することにより、ゲル化能力を付加させることが可能となり、強度面、ブリージングの防止の面、止水性改善の面からより優れた効果を発揮させることが可能となる。
【0046】
即ち、B液の水の一部を水ガラスで置換した水ガラス水溶液を用いることにより、A液中のセメントミルクと反応することとなり、ブリージングの全く生じない固結体とすることが可能となり、止水性、希釈性、強度を向上させる効果を発揮でき、更に一定の範囲に限定的に注入する、いわゆる限定注入も可能となる。
【0047】
本発明では、このB液の水を容量比で15〜90%を水ガラスJIS3号品(Na2O:9〜10%、SiO2:28〜30%)換算で置換した水ガラス水溶液をB液として用いている。
【0048】
また、A液に対するB液の水ガラス水溶液の混合は、容量比で0.05〜3の範囲内で調整を行う。
【0049】
更にセメントの20〜80%をスラグ(ゲルタイムには関係なく強度を高めることができる)により置換したセメントを使用し、B液の水ガラス水溶液と組み合わせることにより、任意のゲルタイムと強度に調整することも可能となる。即ち、このようなスラグ置換型の二液性グラウト注入方法とすることにより、グラウトとしての汎用性をより向上させることが可能となる。
【0050】
なお、B液の水の一部を水ガラス水溶液に代替させても、グラウト中の水と同様に自由水として作用することは勿論である。
【0051】
本発明を適用した二液性グラウト注入方法は、上述した構成に限定されるものではないが、ブレーン値が3000cm2/g以上で、代表的には普通セメント、早強セメント、更には微粒子セメントが好ましい。また、スラグもセメントと同様にブレーン値が3000cm2/g以上とされていることが望ましい。
【0052】
また、A液のセメントに代えて、スラグの重量比2〜30%を石灰で置換したセメントミルクを使用しても、セメントと同等の硬化を発揮し、更にB液の水ガラス水溶液を加えると、やはりセメントと同等のゲルタイムと強度の増加を発揮する。また、石灰のブレーン値もスラグと同様3.000cm2/g以上が好ましい。
【0053】
本発明を適用した二液性グラウト注入方法において、A液に用いられる水ガラスは、特定の種類に限定されるものではないが、代表的には液状の珪酸ソーダでモル比が2.5〜4.0のものが望ましい。
【0054】
また、本発明におけるA液のセメントミルクには、通常使用されている分散剤、遅延剤、ゲル化促進剤、強度増強剤等を目的に合わせて併用することも可能となる。
【実施例1】
【0055】
以下、本発明を適用した二液性グラウト注入方法について実施例を挙げて詳細に説明をする。実験に使用した材料は、普通セメント(比重3.15、ブレーン値3170cm2/g、平均粒径23.1μm、最大径100μm、最小径1.7μm)、スラグは、比重2.90、ブレーン値4300cm2/g、平均粒径10.4μm、最大径100μm、最小径3.75μm(デイ・シイ株式会社製、商品名:セラメント(登録商標))である。石灰は、比重2.26、ブレーン値10.315cm2/g、平均粒径10.9μm、最大径40.6μm、最小径4μm以下、5%である。水ガラスは、JIS3号品(Na2O:9〜10%、SiO:28〜30%)を用いた。
【0056】
実験では、先ずセメントミルク1m3当たりのセメントと水を変化させた場合のブリージング、セメント粒子の沈降分離、及び粘度(フロー値)を測定し、以下の表1に示すような結果を得た。
【0057】
【表1】

【0058】
ブリージングは、セメントミルク500mlをメスシリンダーに入れ、10分後の上澄み液を全量で割った値をブリージングとして現した。例えば、全量500ml、上済み液25mlでは5%になる。
【0059】
セメントミルク懸濁液中のセメント粒子の大小の差異による沈降分離を確認するため、透明な径5cm(底部が平で円筒状の)、長さ50cmのビニール袋にセメントミルク500ccを入れ、垂直に吊るし、10分後に上澄み液を孔を開けて排水し、残りの懸濁液部分を同様に上層、中層、下層の3等分に分けて取り出し、比重を測定するとともに観察を行った。
【0060】
粘性(フロー値)は、円筒フローコーンによるフロー値の測定で水平なアクリル板上に内径5cm、高さ5cmの円筒を置き、この中にセメントミルクを満たした後、円筒を静かに持ち上げ、その時におけるセメントミルクの広がり直径(cm)を測定することで行う
【0061】
表1に示すように、比較例2では、セメントに対して水が多い(即ち、固定水より自由水が多い)場合、サラサラした状態でブリージングが31%と大きく、粘性は小さく、フロー値では38cmと大きい値を示している。
【0062】
しかしながら、セメントミルク1m3当たりのセメント量が多くなると配合水も少なくなり、更にセメントの付着水並びに結合水を含めた固定水により自由水が少なくなる。本発明例1〜6においては、何れもセメントミルク中のセメントが700kg以上であるが、擬似粘結領域となり、極端にブリージングが少なくなり、材料分離(セメント粒子の大小の分離)の無い流動状のセメントミルクが得られることが判明した。しかしながら、比較例4は、セメントミルク中のセメントが1200kg超と、セメントがより多くなる場合であるが、自由水が極端に少なくなりブリージングは無くなるが、フロー値が12cmであることから流動性が小さくなっていることが示されており、圧送性が低下してしまうことが分かった。
【0063】
以上から、本発明では、A液のセメントミルクのセメント量は、普通セメント1m3当たり700〜1200kgの範囲としている。
【0064】
また、セメントミルクとして、セメントの大部分をスラグに置換した本発明例17、及びスラグに少量の石炭を加えた本発明例8は、普通セメントと比較して比重が小さく、またブレーン値が大きいため、ブリージングは少なく、フロー値も小さい値を示している。即ち、普通セメント換算でグラウト1m3当たり800〜900kgに相当していることが確認できた。
【実施例2】
【0065】
(比較例5)
セメントミルクの圧送状態を確認するため、実際に使用する機材を用いて実験を行った。即ち、図1に示すように、500l容量のA液ミキサー11にA液ポンプ13を取り付け、更に管路10としては、内径27mm、長さが20mである注入ホースを3本接続して合計60mの長さとした。ちなみに注入ホース間の接続部におけるジョイント内径は、25mmとしている。
【0066】
実験Xでは、表1における比較例2(セメントミルク1m3当たり300kg)を毎分8lの吐出量で30分間に亘り連続圧送し、最後のセメントミルクの比重を測定したところ、1.18で理論値1.20よりも小さい値を示していた。
【0067】
また注入後、水洗いを行い、注入ホースのジョイント部を取り外したところ、注入ホースの底部に大きいセメント粒子が薄く沈降付着しており、特にA液ポンプ側に近い注入ホース間のジョイント部においては、かなり多くのセメント粒子が沈降付着していることが確認できた。
【0068】
次に、新たな注入ホースに取り替えて、同様に15分間圧送した後、先端部を閉塞して10分間圧送を停止した。その後更に15分間に亘り圧送した最後のセメントミルクの比重を測定する実験Yを行ったところ、1.17であった。このため、上述の連続圧送したときと比較して、途中で圧送を停止させる方法では、比重が小さくなっていることが示されていた。
【0069】
圧送後水洗いをして注入ホースのジョイント部を取り外し、注入ホース内を目視観察したところ、当該注入ホース内に連続圧送する実験Xの時と比較して、より多くのセメント粒子が分離沈降していた。
【0070】
これは、10分間に亘り圧送を停止したため、ブリージングが発生してセメント粒子が分離沈降しており、再開した場合において注入ホース断面のうち、セメント部分より上澄み液部分の方が移動(圧送)し易いため、断面内のセメントミルク全量を送り出すことができない減少が起きるためである。
【0071】
このように圧送を繰り返し行うと、徐々にセメント粒子が多く沈降し、しかもセメントの硬化と相俟って、注入ホースの断面積は小さくなり、その結果、圧送が困難になることは明らかである。
【実施例3】
【0072】
(本発明例9)
本発明例4の擬似粘結領域のセメントミルクを実施例2と同条件で実験Xを行った。
【0073】
30分間に亘り連続圧送した最後のセメントミルクの比重を測定したところ1.68と理論値(1.68)と同値であった。
【0074】
更に水洗いした後、ジョイント部を取り外して目視観察を行ったところ、ホース内のセメントは、底部及び継手部手前にも殆ど確認できなかった。
【0075】
次に15分間圧送し10分間停止後、更に15分間の圧送を行う実験Yを行い、圧送した最後のセメントミルクの比重を測定したところ、1.67と理論と殆ど同値であった。更に水洗した後にジョイント部を取り外したところ、セメント粒子はホース内において殆ど確認することができず、ジョイント部のポンプ側に極僅かに付着が確認できた。
【0076】
このことから、本発明のセメントミルクを流動状の擬似連結した状態であれば、実験Xに示すような繰り返し圧送を行う場合、又は実験Yに示すような圧送停止を行う場合においても、ブリージングや大小のセメント粒子の分離現象が生じることなく、長時間に亘る圧送が可能であることが確認できた。
【0077】
また、圧送後、水洗いを行った場合においても擬似粘結を通じて保持されたセメントミルクは、ホース内でブリージングが殆ど生じることなく、均一に分散しているため、水に希釈されること無く、水との置換が可能であることが確認できた。
【実施例4】
【0078】
本発明を適用した流動状の擬似粘結領域にあるセメントミルクのA液にB液として水、或いは水の一部を水ガラスで置換した水ガラス液を加えた場合、セメントミルクの性状がどのような性状に変化するかについて実験を行った。
【0079】
その結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

【0081】
この表2より、擬似粘結領域にある本発明例4のA液セメントミルクは、B液としての水を加えると、グラウト中の自由水が増加して擬似粘結が解離され、ブリージング、フロー値及びセメント粒子分離は、比較例2、3とほぼ同一な性状を示していることが確認された。
【0082】
また、本発明例7及び本発明例8にB液の一部に水ガラスを置換した水ガラス水溶液についても、水ガラス水溶液は、自由水として働くため、殆ど同様な結果が得られた。
【0083】
なお、本発明例12は、セメントの一部にセメントより比重、並びにブレーン値が若干小さく、また水より水ガラス水溶液は、濃度により違いがあり、粘性によりブリージング、フロー値、及びセメント粒子分離度合は若干小さい値を示す傾向にあるが、水と同様、自由水とみなすことができる。更にセメントの代わりに、スラグと石灰のセメントミルクは、石灰には微粒子がセメント、スラグより多く含まれているので、ブリージング及びフロー値が若干小さい値を示す傾向にある。
【実施例5】
【0084】
本発明のA液に対して、B液として水或いは水の一部を水ガラスで置換した水ガラス水溶液、更にはセメントの一部をスラグで置換、及びスラグと石灰のセメントミルクの一軸圧縮強度及びゲルタイム(水ガラス系のみ)を測定した結果を表3に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
表3の結果より、セメントミルクの強度は、セメントのみ(本発明例14)よりも、セメントの一部をスラグで置換した本発明例16の方が、高い値を示しており、強度からみれば有効であることが分かる。一方、B液の一部を水ガラスで置換した水ガラス水溶液をA液に加えると、ゲル化能力が付加され、ゲルタイムの調整が可能となり、セメント量に関係なくブリージングは発生しない。またセメントの一部をスラグに置換すると、ゲルタイムを変えることなく強度を高めることができる。即ち、A液のセメントやスラグ、B液の水や水ガラスの増減により、任意のゲルタイムと強度を得ることが可能となる。更に、スラグと石灰のセメントミルク(本発明例23)についてもB液に水ガラス水溶液を用いると、セメントと同様にゲル化能力が付加されるため、ブリージングの発生はなく、またセメントミルク単味に比べて強度が大幅に増加されている。
【符号の説明】
【0087】
1 二液性グラウト製造システム
10、20 管路
11 A液ミキサー
12 アジテータ
13 A液ポンプ
21 B液ミキサー
22 貯液槽
23 B液ポンプ23

【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクからなるA液と、水からなるB液とを互いに別々に圧送し、グラウト注入口付近でこれらを合流、混合して設定配合に調整し、注入すること
を特徴とする二液性グラウト注入方法。
【請求項2】
普通セメント換算でグラウト1m3当たり700〜1200kgのセメントを含有したセメントミルクからなるA液と、Na2O:9〜10%、SiO2:28〜30%換算で15〜90%置換した水ガラス水溶液からなるB液とを互いに別々に圧送し、グラウト注入口付近でこれらを合流、混合して設定配合に調整し、注入すること
を特徴とする二液性グラウト注入方法。
【請求項3】
上記セメントが重量比20〜80%に亘りスラグで置換されたセメントミルクからなるA液とすること
を特徴とする請求項1又は2記載の二液性グラウト注入方法。
【請求項4】
上記セメントがスラグ−石灰とからなり、スラグの重量比2〜30%に置換したセメントミルクからなるA液とすること
を特徴とする請求項1又は2記載の二液性グラウト注入方法。

【図1】
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