説明

二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム

【課題】優れた耐熱性、耐湿熱性、電気特性、耐薬品性を有する二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの提供。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂(Y)とを含むフィルムであって、該熱可塑性樹脂(Y)が分散相を形成しており、かつ該分散相の平均分散径が10〜500nmであり、該フィルムを30℃から170℃まで昇温し、さらに40℃まで降温させたときの150℃から50℃の降温部におけるフィルムの長手方向および幅方向の少なくとも1方向の熱膨張係数が10×10−6/℃以上60×10−6/℃以下であり、かつ、引張破断伸度がフィルムの長手方向および幅方向ともに70%以上200%未満であることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性、耐湿熱性、電気特性、耐薬品性を有する二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに関し、特にポリアリーレンスルフィドフィルムの特長でもある優れた耐熱性を有しながら、引張破断伸度を向上させ、熱膨張係数を大幅に低減させた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに関するものである。さらに詳しくは、モーター、トランスなどの電気絶縁材料や成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料などに用いられる。特に、回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムなどに好適に使用できる二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気、電子部品分野において、機器の小型化や高機能化の観点から、耐屈曲性、ハンダ耐熱性、熱および湿度に対する高寸法安定性、低吸水性および高周波特性などの諸特性が高次元でバランス化した絶縁基材の要求が増加している。
【0003】
従来より、電気・電子機器の部品として用いられる回路基板(配線基板)としては、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸した基材(以下、便宜上「ガラエポ基材」と略称する)、ポリイミドフィルム、アラミド繊維にエポキシ樹脂を含浸した基材、さらに、回路基板としては、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略称することがある)を基材としたものが提案されている。具体的に、PPSを基材とした回路基板としては、繊維状物にPPSを含浸させた繊維シート(特許文献1)などが知られている。
【0004】
しかしながら、従来のこれらの基材はそれぞれ下記のような問題点を有している。ガラエポ基材は、高周波特性に劣り、また吸湿特性に問題があるため周波数が高くなれば誘電特性がさらに悪化するという問題点があり、さらにスルーホール加工としてレーザー法が適用できずファイン化に限界がある。また、ポリイミドフィルムは、屈曲性、耐熱性に優れているが、高周波特性と吸湿寸法安定性に劣る。またアラミド繊維基材は、吸湿特性に問題があるため、波数が高くなれば誘電特性がさらに悪化するという問題点があり、スルーホール加工としてレーザーが適用できるものの、その加工面(穴の内壁や切断面など)は炭化、分解などのため表面が荒れた状態になるという問題がある。
【0005】
また、PPSフィルム単体では、未延伸シートの場合、低吸湿性、難燃性および高周波特性などの特性は満足しているが、二軸配向フィルムに比べると屈曲性、耐熱性が十分ではなく、加工工程が増加する程結晶化が進み脆くなる。結晶サイズなどをコントロールした場合には耐熱性と脆さの点ではかなり改良されるが満足できるレベルではなく、多層回路基板として用いた場合寸法安定性、脆さの点で問題を有している。さらにPPSフィルムは、熱膨張係数が大きく、例えば、回路基板の製造工程で銅箔と貼り合わせる際に熱が加わると、銅箔とPPSフィルムの熱膨張係数の隔たりが大きいために銅貼りフィルム基盤が変形し、反り返ったり、回路のズレが生じ易いなど成形加工性に問題があった。
【0006】
上記問題を解決するため、PPSに無機粒子を高充填することで熱膨張係数が低減でき、耐熱性、寸法安定性に優れ回路基板に適した基材(特許文献2)、PPSに液晶性樹脂を複合することで、温度・湿度膨張係数を低減させた回路基盤に適した基材(特許文献3)などが提案されている。しかしながら、これら基材は熱膨張係数は優れるが、引張破断伸度が十分ではなく屈曲性が不足し、折り曲げなどの力が加わるとクラックが発生するなどの問題が生じていた。また、PPSとポリエーテルイミド(PEI)が完全相溶状態となることで、ガラス転移温度を高め耐熱性が向上するフィルム(特許文献4)が提案されているが、PEI分散ドメイン形状が極めて小さくなるため、引張破断伸度が不十分となり、屈曲性が不足し、折り曲げなどの力が加わるとクラックが発生するなどの問題が生じていた。
【特許文献1】特開平5−310957号公報
【特許文献2】特開2003−213013号公報
【特許文献3】特開2004−244630号公報
【特許文献4】特開2001−261959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記の諸問題を解決すること、すなわち、ポリアリーレンスルフィドの優れた電気特性、耐湿熱性および耐熱性を活かし、屈曲性、寸法安定性に優れ、特に回路基板の基材として適した二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂(Y)とを含むフィルムであって、該熱可塑性樹脂(Y)が分散相を形成しており、かつ該分散相の平均分散径が10〜500nmであり、該フィルムを30℃から170℃まで昇温し、さらに40℃まで降温させたときの150℃から50℃の降温部におけるフィルムの長手方向および幅方向の少なくとも1方向の熱膨張係数が10×10−6/℃以上60×10−6/℃以下であり、かつ、引張破断伸度がフィルムの長手方向および幅方向ともに70%以上200%未満であることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを特徴とする。
【0009】
また、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、
(1)ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂(Y)の含有量の和を100重量部としたときにポリアリーレンスルフィドの含有量が60〜99重量部、熱可塑性樹脂(Y)の含有量が1〜40重量部であること、
(2)熱可塑性樹脂(Y)がポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーであること、
(3)ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドであること、
(4)フィルムの長手方向および幅方向のヤング率が3GPa以上5GPa未満であること、
をそれぞれ好ましい態様として含んでいる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、ポリアリーレンスルフィドの優れた耐熱性を有しながら、熱膨張係数を低減し、寸法安定性を与え、かつ、引張破断伸度を向上させることで屈曲性、成形加工性に優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムが得られる。さらに詳しくは、モーター、トランスなどの電気絶縁材料や成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料などに用いられる。特に、回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムなどに好適に使用できる二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】

以下、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムについて説明する。本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、ポリアリーレンスルフィドフィルムが本来有する優れた電気特性、耐湿熱性および耐熱性を活かしながら、熱膨張係数が大幅に低減し、かつ、引張破断伸度が向上するものである。かかる特性を発現させるために、本発明においてはポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂(Y)とを含むフィルムであることを必須とする。ポリアリーレンスルフィド単体からなるフィルムでは、回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムなどに用いた場合に熱膨張係数が大きく銅箔と貼り合わせた時に反り返るなど寸法安定性が劣ったり、引張破断伸度が不足し十分な耐屈曲性を得られない。
【0012】
さらに本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、フィルム中でポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂(Y)が分散相を形成しており、かつ該分散相の平均分散径が10〜500nmであることを必須とする。ポリアリーレンスルフィドが海相(連続相あるいはマトリックス)を形成し、他の熱可塑性樹脂(Y)が島相(分散相)を形成することが重要である。さらに熱可塑性樹脂(Y)の平均分散径が10〜500nmであることが重要であり、好ましくは20〜300nmの範囲、さらに好ましくは30〜200nmである。ポリアリーレンスルフィドが連続相を形成することによりポリアリーレンスルフィドフィルムの有する優れた耐熱性、耐薬品性、電気特性などを維持しながら、熱膨張係数が大幅に低減し、引張破断伸度を向上することができる。また、平均分散径を上記の範囲にすることにより、熱膨張係数の低減および引張破断伸度の向上のバランスに優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得ることが可能となる。分散相の平均分散径が10nm未満であると、本発明の引張伸度向上の効果を十分に付与することができないことがある。また、平均分散径が500nmより大きいと、熱膨張係数が低減できなかったり、引張破断伸度が向上しなかったり、延伸時にフィルム破れが発生したりすることがある。 ここでいう分散相の平均分散径とは、フィルム長手方向の径と幅方向の径と厚さ方向の径の平均値を意味する。該平均分散径は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などの手法を用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作成し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、2万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の100個の分散相を選択し、画像処理を行うことにより、平均分散径を計算することができる。
【0013】
熱可塑性樹脂(Y)の分散相の形状は、球状もしくは細長い島状、小判状、あるいは繊維状であることが好ましい。分散相のアスペクト比は、特に限定されないが、1〜20の範囲であることが好ましい。さらに好ましい分散相のアスペクト比の範囲は2〜15であり、より好ましい範囲は2〜10である。これら島成分のアスペクト比を上記範囲にすることにより、引張破断伸度の向上した二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得やすいので好ましい。ここで、アスペクト比は、分散相の平均長径/平均短径の比を意味するものである。該アスペクト比は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などの手法を用いて測定することができる。例えば、サンプルを超薄切片法で作成し、透過型電子顕微鏡を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、2万倍で写真を撮影して、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の100個の分散相を選択し、画像処理を行うことにより、アスペクト比を計算することができる。
【0014】
なお、熱可塑性樹脂(Y)の平均分散径およびアスペクト比は、例えば下記のように測定することができる。
【0015】
(ア)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(イ)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(ウ)フィルム面に対して平行な方向に切断し、サンプルを超薄切片法で作成する。分散相のコントラストを明確にするために、リンタングステン酸などで染色してもよい。切断面を透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、1万倍で写真を撮影し、得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の100個の分散相を選択し、必要に応じて画像処理を行うことにより、次に示すようにして分散相の大きさを求めることができる。(ア)の切断面に現れるそれぞれの分散相のフィルム厚み方向の最大長さ(la)と長手方向の最大長さ(lb)、(イ)の切断面に現れる分散相のフィルム厚さ方向の最大長さ(lc)と幅方向の最大長さ(ld)、(ウ)の切断面に現れる分散相のフィルム長手方向の最大長さ(le)と幅方向の最大長さ(lf)を求めた。次いで、分散相の形状指数I=(lbの平均値+leの平均値)/2、形状指数J=(ldの平均値+lfの平均値)/2、形状指数K=(laの平均値+lcの平均値)/2とした場合、分散相の平均分散径を(I+J+K)/3とした。さらに、I、J、Kの中から、最大値を平均長径L、最小値を平均短径Dと決定し、分散相のアスペクト比をL/Dから算出する。ここで、フィルムの長手方向とは、一般に言われるMD(machine direction)方向を意味し、幅方向とはそれと直行するTD(transverse direction)方向を意味する。
【0016】
本発明でいうポリアリーレンスルフィドとしては、−(Ar−S)−の繰り返し単位を有するホモポリマーあるいはコポリマーを用いることができる。Arとしては下記の式(A)〜式(K)などで表される単位を挙げることができる。
【0017】
【化1】

(R1、R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。)
本発明に用いるポリアリーレンスルフィドの繰り返し単位としては、上記の式(A)で表される構造式が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドとしては、フィルム物性と経済性の観点から、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が好ましく例示され、ポリマーの主要構成単位として下記構造式で示されるp−フェニレンスルフィド単位を好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上含む樹脂である。かかるp−フェニレンスルフィド成分が80モル%未満では、ポリマーの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械特性および誘電特性などを損なうことがある。
【0018】
【化2】

上記PPS樹脂において、繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。繰り返し単位の20モル%未満、好ましくは10モル%未満の繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位およびカーボネート単位などが例として挙げられ、具体例として、下記の構造単位を挙げることができる。これらのうち一つまたは二つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム型またはブロック型のいずれの共重合方法であってもよい。
【0019】
【化3】

PPS樹脂およびPPS樹脂組成物の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、温度315℃で剪断速度1,000(1/sec)のもとで、100〜2,000Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200〜1,000Pa・sの範囲である。
【0020】
本発明でいうPPSは種々の方法、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きい重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0021】
本発明において、得られたPPS樹脂を、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水および酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネートおよび官能基ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化など、種々の処理を施した上で使用することも可能である。
【0022】
次に、PPS樹脂の製造法を例示するが、本発明では特にこれに限定されない。
【0023】
例えば、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマーを酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマーは、実質的に線状のPPSポリマーであるので、安定した延伸製膜が可能になる。もちろん必要に応じて、他の高分子化合物や酸化珪素、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレン、マイカ、タルクおよびカオリンなどの無機や有機化合物や熱分解防止剤、熱安定剤および酸化防止剤などを添加してもよい。
【0024】
PPS樹脂の加熱による架橋/高分子量化する場合の具体的方法としては、空気や酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素やアルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。加熱処理温度は、通常170〜280℃が選択され、より好ましくは200〜270℃であり、また、加熱処理時間は、通常0.5〜100時間が選択され、より好ましくは2〜50時間であるが、この両者を制御することにより目標とする粘度レベルを得ることができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置であってもよいが、効率よくしかも均一に処理するためには、回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。
【0025】
PPS樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合の具体的方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で、加熱処理温度150〜280℃、好ましくは200〜270℃、加熱時間は0.5〜100時間、好ましくは2〜50時間加熱処理する方法を例示することができる。加熱処理の装置は、通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置でもよいが、効率よく、しかもより均一に処理するためには回転式あるいは攪拌翼つきの加熱装置を用いることが好ましい。本発明で用いるPPS樹脂は、引張破断伸度の向上の目標を達成するために熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPSであることが好ましい。
【0026】
本発明で用いられるPPS樹脂は、脱イオン処理を施されたPPS樹脂であることが好ましい。脱イオン処理の具体的方法としては、酸水溶液洗浄処理、熱水洗浄処理、および有機溶剤洗浄処理などを例示することができ、これらの処理は2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
PPS樹脂の有機溶剤洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、有機溶剤としては、PPS樹脂を分解する作用などを有していないものであれば特に制限はなく、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒の中で、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムが特に好ましく用いられる。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合系で使用してもよい。
【0028】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度について特に制限はなく、常温〜300℃の範囲で任意の温度を選択することができる。洗浄温度が高くなるほど、洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の温度で十分効果が得られる。また、有機溶媒洗浄を施されたPPS樹脂は残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0029】
PPS樹脂の熱水洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱し攪拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の方が多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0030】
PPS樹脂の酸水溶液洗浄処理の具体的方法としては、以下の方法を例示することができる。すなわち、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要に応じて適宜攪拌または加熱することも可能である。用いられる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸および酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸、クロロ酢酸やジクロロ酢酸などのハロゲン置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸やクロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸、安息香酸やサリチル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸およびフマル酸などのジカルボンン酸、硫酸、リン酸、塩酸、炭酸および珪酸などの無機酸性化合物などが挙げられる。中でも酢酸と塩酸が好ましく用いられる。酸処理を施されたPPS樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。また、洗浄に用いられる水は、酸処理によりPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。酸水溶液洗浄処理を施すと、PPS樹脂の酸末端成分が増加して、他の熱可塑性樹脂と混合する場合に分散混合性が高まる効果が得られやすく好ましい。
【0031】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに用いられる熱可塑性樹脂(Y)としては、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン等の各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも一種を含むブレンド物を用いることができる。本発明では、熱可塑性樹脂(Y)は、ポリアリーレンスルフィドの混合性および本発明の効果発現の観点から、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホンから少なくとも1種以上選ばれることが好ましい。特に、ポリアミドはそれ自体が靭性を有するポリマーであるため、好ましく用いられる。
【0032】
熱可塑性樹脂(Y)として好ましく用いられるポリアミドは公知のポリアミドであれば特に制限はないが、一般にアミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドである。その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−アミノカプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、2−メチルペンタメチレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマまたはコポリマを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0033】
本発明において、有用なポリアミドとしては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)などのホモポリアミド樹脂ないしはこれらの共重合体である共重合ポリアミド(ナイロン6/66、ナイロン6/10、ナイロン6/66/610、66/6T)などが挙げられる。これらのポリアミド樹脂は混合物として用いることもできる(“/”は共重合を表す。以下同じ)。
【0034】
上記のなかでもホモポリアミド樹脂としてはナイロン6やナイロン610、共重合ポリアミドとしてはナイロン6を他のポリアミド成分を共重合してなる共重合体ナイロン6/66共重合体が熱膨張係数の低減、引張破断伸度を向上させる上で、より好ましく用いられ、特にナイロン610が引張破断伸度を向上させる効果が高く好ましく用いられる。
【0035】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに含まれる熱可塑性樹脂(Y)の含有量は熱膨張係数の低減、引張破断伸度を向上させる観点から、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂(Y)の含有量の和を100重量部としたときにポリアリーレンスルフィドの含有量が60〜99重量部、熱可塑性樹脂(Y)の含有量が1〜40重量部であることが好ましい。より好ましくはポリアリーレンスルフィドを70〜95重量部に対し熱可塑性樹脂(Y)が5〜30重量部、さらに好ましくはポリアリーレンスルフィドを80〜93重量部に対し熱可塑性樹脂(Y)が7〜20重量部とすることが、本発明の効果を得る上で好ましい。熱可塑性樹脂(Y)が40重量部を超えると、ポリアリーレンスルフィドの優れた耐熱性、耐湿熱性、電気特性、耐薬品性などが損なわれることがある。また、熱可塑性樹脂(Y)が1重量部未満であると、熱膨張係数を低減し、引張破断伸度を向上して耐屈曲性を付与することが困難となる。
【0036】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに含まれる熱可塑性樹脂(Y)として好ましく用いられる他の例として、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどが挙げられる。熱可塑性樹脂(Y)として、ポリエ−テルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンを用いる場合、ポリアリ−レンスルフィドと熱可塑性樹脂(Y)の含有量の和を100重量部としたとき、ポリアリ−レンスルフィドを70〜95重量部と熱可塑性樹脂(Y)を5〜30重量部とするのがさらに好ましく、ポリアリ−レンスルフィドを80〜95重量部と熱可塑性樹脂(Y)を5〜20重量部とするのがより好ましく、ポリアリ−レンスルフィドを92〜95重量部と熱可塑性樹脂(Y)を5〜8重量部とするのが最も好ましい。ポリエーテルイミドは、特に限定されないが、例えば、下記一般式で示されるように、ポリイミド構成成分にエーテル結合を含有する構造単位であるポリマーを好ましく挙げることができる。
【0037】
【化4】

ただし、上記式中R1は、2〜30個の炭素原子を有する2価の芳香族または脂肪族基、脂環族基からなる群より選択された2価の有機基であり、R2は、前記Rと同様の2価の有機基である。
【0038】
上記R1、R2としては、例えば、下記式群に示される芳香族基
【0039】
【化5】

を挙げることができる。
【0040】
本発明では、ガラス転移温度が350℃以下、より好ましくは250℃以下のポリエーテルイミドを用いると本発明の効果が得やすく、ポリアリーレンスルフィドとの相溶性、溶融成形性等の観点から、下記式で示される構造単位を有する、2,2−ビス[4−(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物とm−フェニレンジアミン、またはp−フェニレンジアミンとの縮合物が好ましい。
【0041】
【化6】

この構造単位を有するポリエーテルイミドは、“ウルテム”(登録商標)の商標名で、ジーイープラスチックス社より入手可能である。例えば、m−フェニレンジアミン由来の単位を含む構造単位(前者の式)を有するポリエーテルイミドとして、“ウルテム1000”および“ウルテム1010”が挙げられる。また、p−フェニレンジアミン由来の単位を含む構造単位(後者の式)を有するポリエーテルイミドとして、“ウルテムCRS5000”が挙げられる。
【0042】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに含まれる熱可塑性樹脂(Y)として用いられる他の例として、分子骨格にスルホン基を含むポリスルホンやポリエーテルスルホンが挙げられる。ポリスルホンやポリエーテルスルホンは、公知のものを種々使用することができる。ポリアリーレンスルフィドとの混合性の観点から、ポリエーテルスルホンの末端基として、塩素原子、アルコキシ基あるいはフェノール性水酸基が挙げられる。
【0043】
本発明においては、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの熱可塑性樹脂(Y)の分散性および熱膨張係数の低減、引張伸度をより向上させるため、相溶化剤として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の基を有する化合物をポリアリーレンスルフィドとポリアミドの合計100重量部に対し、0.1〜10重量部添加することが好ましい。
【0044】
かかる相溶化剤の具体例として、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。中でも、γ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネ−トプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナネ−トプロピルトリクロロシランなどのイソシアネ−ト基含有アルコキシシラン化合物を用いると、熱可塑性樹脂(Y)の分散性を向上させて本発明の効果を得やすいため好ましく用いられる。
【0045】
エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基から選択される一種以上の官能基を有するアルコキシシランを用いた場合、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂(Y)の間にシロキサン結合を形成しやすく、分散相の界面近傍にシロキサン結合が存在しやすい。TEM−EDX法などを用いて分散相の界面近傍にシリコン原子を検出することができる。本発明では、熱可塑性樹脂Aからなる分散相の界面にシロキサン結合からなるシリコン(Si)原子を含むことが好ましい。

本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムなどに用いた場合の寸法安定性を向上させる観点から、該フィルムを30℃から170℃まで昇温し、さらに40℃まで降温させたときの150℃から50℃の降温時におけるフィルムの長手方向および幅方向の少なくとも1方向の熱膨張係数が10×10−6/℃以上60×10−6/℃以下であることを必須とする。熱膨張係数のより好ましい範囲は12×10−6/℃以上50×10−6/℃以下、さらに好ましい範囲は15×10−6/℃以上40×10−6/℃以下である。熱膨張係数を10×10−6/℃未満とすることは製膜安定性の観点から困難であり、他方、熱膨張係数が60×10−6/℃を超える場合、銅箔と貼り合わせたときの反り返りが大きく回路基盤としての寸法安定性が不十分となる。特に、長手方向と幅方向のいずれも10×10−6/℃以上60×10−6/℃以下であることが、ツイストカールを抑制する観点から好ましい。かかる特性を発現させるためには、熱可塑性樹脂(Y)の分散相の平均分散径が本発明の範囲内、含有量が本発明の好ましい範囲内となるように調節し、さらに製膜時の延伸倍率は長手方向および幅方向ともに3.5倍以上とし、熱固定温度は230℃以上270℃以下、熱固定後の幅方向における弛緩処理を8%以下の範囲内で適宜調整することが本発明の効果を得る上で好ましい。
【0046】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムなどに用いた場合の耐屈曲性を得る観点から、引張破断伸度がフィルムの長手方向および幅方向ともに70%以上200%未満であることが必須である。引張破断伸度のより好ましい範囲は80%以上190%未満、さらに好ましくは、90%以上180%未満である。引張破断伸度がフィルムの長手方向および幅方向ともに70%未満である場合、回路基盤として好適な耐屈曲性が得られない。他方、引張破断伸度がフィルムの長手方向および幅方向ともに200%を超える場合、製膜時の延伸倍率を極めて低倍率にすることが必要となり、フィルム幅方向の品質ムラが発生したり、熱膨張係数が増加したりする場合がある。かかる特性を発現させるためには、熱可塑性樹脂(Y)の分散相の平均分散径が本発明の範囲内、含有量が本発明の好ましい範囲内となるように調節し、製膜時の延伸倍率は長手方向および幅方向ともに3.5倍以上とし、熱固定温度は230℃以上270℃以下、熱固定後の幅方向における弛緩処理を8%以下の範囲内で適宜調整することが本発明の効果を得る上で好ましい。
【0047】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムはフィルムの長手方向および幅方向におけるヤング率が3GPa以上5GPa未満であることが好ましく、より好ましくは3.2GPa以上4.8GPa未満、さらに好ましくは3.5GPa以上4.5GPa未満である。フィルムの長手方向および幅方向におけるヤング率が3GPa未満である場合は、製膜時の延伸倍率を極めて低倍率にすることが必要となり、フィルム幅方向の品質ムラが発生したり、熱膨張係数が増加したりする場合があるため好ましくない。他方、フィルムの長手方向および幅方向におけるヤング率が5GPaを超える場合は、製膜時の延伸倍率を極めて高倍率にする必要があり、製膜工程の延伸時にフィルム破れが発生したり、本発明の効果に必要な引張破断伸度が得られない場合があるため好ましくない。 本発明において、ポリアリーレンスルフィドと他の熱可塑性樹脂(Y)を混合する時期は、特に限定されないが、溶融押出前に、ポリアリーレンスルフィドとその他の熱可塑性樹脂(Y)の混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法や、溶融押出時に混合して溶融混練させる方法などがある。中でも、二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いて予備混練してマスターチップ化する方法などが好ましく例示される。その場合、通常の一軸押出機に該混合されたマスターチップ原料を投入して溶融製膜してもよいし、高せん断を付加した状態でマスターチップ化せずに直接にシーティングしてもよい。特に、溶融押出前に、それぞれの樹脂の混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法が好ましく例示され、その場合、ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂Aの重量分率が99/1〜60/40のブレンド原料を作成することが好ましい。二軸押出機で混合する場合、分散不良物を低減させる観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましく、混練部ではPPS樹脂の融点+5〜55℃の温度範囲が好ましい。さらに好ましい温度範囲はPPS樹脂の融点+10〜45℃であり、より好ましい温度範囲はPPS樹脂の融点+10〜35℃である。混練部の温度範囲を好ましい範囲にすることは、せん断応力を高めやすく、分散不良物も低減できる効果が高くなり、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。そのときの滞留時間は1〜5分の範囲が好ましい。また、スクリュー回転数を100〜500回転/分とすることが好ましく、さらに好ましくは200〜400回転/分の範囲である。スクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、高いせん断応力が付加され易く、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。また、二軸押出機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率は20〜60の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50の範囲である。さらに、二軸スクリューにおいて、混練力を高めるためにニーディングパドルなどによる混練部を設けることは好ましく、その混練部を好ましくは2箇所以上、さらに好ましくは3箇所以上設けたスクリュー形状にする。この際、原料の混合順序には特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。また、プラスチック成形加工学会誌「成形加工」第15巻第6号、382〜385頁(2003年)に記載された超臨界流体を利用する方法なども好ましく例示することができる。

本発明で用いる二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステルおよびワックスなどの有機滑剤など他の成分が添加されてもよい。また、フィルム表面に易滑性や耐磨耗性や耐スクラッチ性等を付与するために、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに、無機粒子や有機粒子などを添加することもできる。そのような添加物としては、例えば、クレー、マイカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、湿式または乾式シリカ、コロイド状シリカ、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナおよびジルコニア等の無機粒子、アクリル酸類、スチレン等を構成成分とする有機粒子、ポリアリーレンスルフィドの重合反応時に添加する触媒等によって析出する、いわゆる内部粒子や、界面活性剤などが挙げられる。 本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの厚さは、用途等により異なるが125μm以下が好ましく、回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムなどの観点からは、より好ましくは10〜100μmの範囲であり、さらに好ましくは20〜75μmの範囲である。
【0048】
また、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0049】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの用途は、特に限定されないが、電気絶縁材料、成形材料用、回路基板などの各種工業材料用など、中でも回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムに好適に用いられる。
【0050】
次いで、本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを製造する方法について、ポリアリーレンスルフィドとしてポリ−p−フェニレンスルフィドと熱可塑性樹脂(Y)のポリアミドとしてナイロン610を含む混合層からなる二軸配向ポリフェニレンフィドフィルムの製造を例にとって説明する。もちろん、本発明は、下記の記載に限定されない。
【0051】
ポリフェニレンスルフィドとナイロン610を混合する場合、溶融押出前に、それぞれの樹脂の混合物を予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップ化する方法が好ましく例示される。
【0052】
本発明では、まず、上記PPSとナイロン610を二軸混練押出機に投入し、PPSとナイロン610の重量分率が99/1〜60/40のブレンド原料を作成することが好ましい。ブレンド原料の樹脂組成物の混合・混錬方法は、特に限定されることはなく各種混合・混錬手段が用いられる。例えば、各々別々に溶融押出機に供給して混合してもよいし、また、予め紛体原料のみをヘンシェルミキサー、ボールミキサー、ブレンダーあるいはタンブラー等の混合機を利用して乾式予備混合し、その後、溶融混錬機にて溶融混練することでもよい。その後、前記ブレンド原料を必要に応じてPPS、これらの回収原料と共に押出機に投入して、目的とする組成としたものを原料とすることが、フィルムの品質と製膜性の観点で好ましい。上記原料を作成する場合、フィルム中への異物混入を可能な限り低減させるために、溶融押出工程で樹脂をフィルトレーションすることも好ましく行うことができる。この押出機内で異物や変質ポリマーを除去するために各種のフィルター、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンドおよび金網などの素材からなるフィルターを用いることが好ましい。また、必要に応じて、定量供給性を向上させるためにギアポンプを設けてもよい。
【0053】
上記の好ましい二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造法のより具体的な条件は、以下のとおりである。
【0054】
まず、ポリフェニレンスルフィドのペレットまたは顆粒とナイロン610のペレットとを、一定の割合で混合して、ベント式の二軸混練押出機に供給し、溶融混練してブレンドチップを得る。二軸押出機などのせん断応力のかかる高せん断混合機を用いることが好ましく、さらに、分散不良物を低減させる観点から、3条二軸タイプまたは2条二軸タイプのスクリューを装備したものが好ましく、そのときの滞留時間は1〜5分の範囲が好ましい。また、混練部を290〜350℃の温度範囲であることが好ましく、さらに好ましい温度範囲は295〜330℃である。混練部の温度範囲を好ましい範囲にすることは、せん断応力を高めやすく、分散不良物も低減できる効果が高くなり、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。また、スクリュー回転数を100〜500回転/分とすることが好ましく、さらに好ましくは200〜400回転/分の範囲である。スクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、高いせん断応力が付加され易く、分散相の分散径を本発明の好ましい範囲に制御することができる。また、二軸押出機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率は20〜60の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30〜50の範囲である。さらに、二軸スクリューにおいて、混練力を高めるためにニーディングパドルなどによる混練部を設けることは好ましく、その混練部を2箇所以上設けて、各混練部の間を通常のフィードスクリューとしたスクリュー形状にすることはさらに好ましい。
【0055】
ポリフェニレンスルフィドとナイロン610を混合する上で、ポリフェニレンスルフィドとナイロン610の混合組成物あるいは相溶化剤が添加されると、分散不良物が低減できて相溶性が高まることがある。
【0056】
その後、上記ペレタイズ作業により得られた、PPSとナイロン610からなるブレンドチップ、必要に応じてPPSや製膜後の回収原料や粒子を混合した原料を一定の割合で適宜混合して、180℃で3時間以上減圧乾燥した後、300〜350℃の温度、好ましくは320〜340℃に加熱された押出機に投入する。その後、押出機を経た溶融ポリマーをフィルターに通過させた後、その溶融ポリマーをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを得る。
【0057】
次に、この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを二軸延伸し、二軸配向させる。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0058】
ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を用いる。延伸温度については、フィルムを構成するPPSやポリアミドの構造成分により異なるが、例えば、PPSが90重量部とナイロン610が10重量部からなる樹脂組成物を例にとって以下説明する。
【0059】
未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを加熱ロール群で加熱し、延伸倍率は熱膨張係数を低減、ヤング率を本発明の好ましい範囲内にする観点から長手方向(MD方向)に3.5〜5倍、好ましくは3.7〜4.7倍、さらに好ましくは3.9〜4.5倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(PPSのガラス転移温度)〜(Tg+50)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+5)〜(Tg+40)℃の範囲である。その後20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0060】
MD延伸に続く幅方向(TD方向)の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う(TD延伸)。延伸温度はTg〜(Tg+60)℃が好ましく、より好ましくは(Tg+5)〜(Tg+50)℃、さらに好ましくは(Tg+10)〜(Tg+40)℃の範囲である。延伸倍率は熱膨張係数を低減、ヤング率を本発明の好ましい範囲内にする観点から3.5〜5倍、好ましくは3.7〜4.7倍、さらに好ましくは3.9〜4.5倍の範囲である。
【0061】
次に、この延伸フィルムを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。好ましい熱固定温度は、230〜275℃、より好ましくは240〜270℃、さらに好ましくは245〜265℃の範囲である。熱固定時間は0.2〜30秒の範囲で行うことが好ましい。さらにこのフィルムを40〜180℃の温度ゾーンで幅方向に弛緩しながら冷却する。弛緩率は、引張破断伸度を向上させ、熱膨張係数を低下させる観点から1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜7%、さらに好ましくは3〜5%の範囲である。
【0062】
さらに、フィルムを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とする二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得る。
【0063】
このようにして得られた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを回路基板材料を構成するベースフィルムとして用いるため金属層を設ける方法は、例えば本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムと金属箔を重ね合わせて、温度200〜350℃、圧力1〜30kg/cm2 の条件で熱融着できる。また、金属を蒸着法、スパッタリング法、メッキなどの方法で絶縁基材の面に金属層を設けることもできる。このようにして得られた絶縁基材の金属層をエッチング法(例えば、塩化第2鉄水溶液によるエッチング)で所望の電気回路を作製し回路配線基板を得る。
【0064】
また、電気回路を銀、銅などの金属およびそれらの合金またはカーボンなどの導体を含有する導電性のペーストをシルク印刷法などの方法で電気回路を形成し、配線基板を得ることもできる。また、得られた回路配線基板は、組み合わせて多層回路基板を製造することもできる。多層回路基板は、2層以上重ね合わせて温度200〜350℃、圧力1〜100kg/cm2 の条件で熱融着して多層回路基板を製造できる。上記の多層回路基板にスルーホールを設けてもよい。スルーホールは、ドリル、レーザーなどの方法で設けることができる。さらに、各層をメッキ法などの方法で層間接続することもできる。また、回路基板には必要に応じて電子部品などがハンダなどで実装される。
【0065】
本発明の特性値の測定方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0066】
(1)分散相の平均分散径、アスペクト比
フィルムを(ア)長手方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(イ)幅方向に平行かつフィルム面に垂直な方向、(ウ)フィルム面に対して平行な方向に切断し、サンプルを超薄切片法で作成した。分散相のコントラストを明確にするために、オスミウム酸やルテニウム酸、リンタングステン酸などで染色してもよい。熱可塑性樹脂Aがポリアミドの場合では、リンタングステン酸による染色を用いる。切断面を透過型電子顕微鏡(日立製H−7100FA型)を用いて、加圧電圧100kVの条件下で観察し、2万倍で写真を撮影した。得られた写真をイメージアナライザーに画像として取り込み、任意の100個の分散相を選択し、画像処理を行うことにより、次に示すようにしてそれぞれの分散相の大きさを求めた。(ア)の切断面に現れる各分散相のフィルム厚み方向の最大長さ(la)と長手方向の最大長さ(lb)、(イ)の切断面に現れる各分散相のフィルム厚さ方向の最大長さ(lc)と幅方向の最大長さ(ld)、(ウ)の切断面に現れる各分散相のフィルム長手方向の最大長さ(le)と幅方向の最大長さ(lf)を求めた。次いで、分散相の形状指数I=(lbの平均値+leの平均値)/2、形状指数J=(ldの平均値+lfの平均値)/2、形状指数K=(laの平均値+lcの平均値)/2とした場合、分散相の平均分散径を(I+J+K)/3とした。さらに、I、J、Kの中から、最大値を平均長径Lと最小値を平均短径Dを決定し、分散相のアスペクト比をL/Dとした。
【0067】
(2)破断伸度、ヤング率
フィルム長手方向および幅方向に、長さ200mm、幅10mmの短冊状のサンプルを切り出して用いた。破断伸度はJIS K7127に規定された方法に従って、ヤング率はJIS Z1702に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。測定は下記の条件で行い、試料数10にて、それぞれについてその測定をして、平均値をとった。
【0068】
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張り速度:100mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH。
【0069】
(3)熱膨張係数
下記の条件で、試料数5にて、フィルムの長手方向および幅方向それぞれについて測定をして、平均値をとり、長手方向、幅方向の熱膨張係数とした。
測定装置 :セイコーインスツルメンツ社製“TMA/SS6000”
試料サイズ:幅3mm、長さ15mm
温度条件 :10℃/minで30℃から170℃に昇温し、10分間保持。さらに10℃/minで170℃から40℃まで降温して20分保持。
荷重条件 :29.4mN一定
ここで、熱膨張係数測定範囲温度は、降温時の150℃から50℃である。熱膨張係数は下記式から算出した。
熱膨張係数 = {(150℃時の寸法)−(50℃時の寸法)}/(150℃−50℃)
(4)ガラス転移温度
示唆走査熱量計セイコーインスツルメンツ社製DSC(RDC220)、データ解析装置として同社製ディスクステーション(SSC/5200)を用いて、試料5mgをアルミニウム製受皿上350℃で5分間溶融保持し、急冷固化した後、室温から昇温速度20℃/分で昇温した。なお、ガラス転移温度(Tg)は下記式により算出した。
【0070】
ガラス転移温度=(補外ガラス転移開始温度+補外ガラス転移終了温度)/2
(5)耐屈曲性
東洋精機社製MIT耐曲げ試験機を用い、幅1cmに裁断した試料について500gの荷重下、曲げ試験を実施しフィルムが切断される屈曲回数を評価した。耐屈曲性は下記の基準に従って評価した。◎、○が合格である。
◎:屈曲回数が4万回以上でフィルムが破断した。
○:屈強回数が2万回以上4万回未満でフィルムが破断した。
×:屈強回数が2万回未満でフィルムが破断した。
【0071】
(6)耐熱性
フィルム長手方向に、長さ200mm、幅10mmの短冊状のサンプルを切り出して用いた。上記(2)と同様にJIS K7127に規定された方法に従って、破断伸度を測定した。測定はサンプルを変更して10回行いその破断伸度の平均値(X)を求めた。また、フィルム長手方向に、長さ200mm、幅10mmの短冊状のサンプルを、ギアオーブンにいれ、220℃の雰囲気下で放置した後、自然冷却し、このサンプルについて前記と同条件での引っ張り試験を10回行い、その破断伸度の平均値(Y)を求めた。得られた破断伸度の平均値(X)、(Y)から伸度保持率を次式で求めた。
【0072】
伸度保持率(%)=(Y/X)×100
伸度保持率が50%以下に低下する熱処理時間を破断伸度の半減時間とした。耐熱性は下記の基準に従って評価した。◎、○が合格である。
【0073】
◎:伸度半減期が300時間以上である。
【0074】
○:伸度半減期が150時間以上300時間未満である。
【0075】
×:伸度半減期が150時間未満である。
【0076】
(7)寸法安定性(耐カール性)
A.銅箔貼りタイプの回路基盤の作成
サンプルフィルムの表面にコロナ放電処理の表面活性処理を施し、幅20cm、長さ30cmの大きさにフィルムサンプルを裁断して、厚さ12μmの圧延銅箔を積層して窒素雰囲気下で270℃、5MPaの条件で20分間の加熱プレスキュアを実施して銅貼板とした後、銅箔をエッチング加工してモデルパターンの電気回路を形成した。室温まで冷却後以下の評価を実施した。
B.回路基盤サンプルの寸法安定性(耐カール性)
回路基盤サンプルを平面台に置き、サンプル端面の浮き上がり(カール)を測定し以下の基準で評価した。浮き上がりが少ないサンプルが多いほど回路基盤としての寸法安定性が良好であり、◎、○が合格である。
【0077】
◎:各々のサンプルの4つの角のうち、最も浮き上がりが大きい部分の浮き上がり高さが10mm以下であるサンプルが100枚の内90枚以上である。
【0078】
○:各々のサンプルの4つの角のうち、最も浮き上がりが大きい部分の浮き上がり高さが10mm以下であるサンプルが100枚の内70〜89枚である。
【0079】
×:各々のサンプルの4つの角のうち、最も浮き上がりが大きい部分の浮き上がり高さが10mm以下であるサンプルが100枚の内70枚未満である。
【実施例】
【0080】
(参考例1)ポリ−p−フェニレンスルフィド(PPS)の重合
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5重量%水硫化ナトリウム8,267.37g(70.00モル)、96重量%水酸化ナトリウム2,957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11,434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2,583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10,500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14,780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0081】
次に、p−ジクロロベンゼン10,235.46g(69.63モル)、NMP9,009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1,260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0082】
内容物を取り出し、26,300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31,900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56,000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70,000gで洗浄、濾別した。70,000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPSは、溶融粘度が200Pa・s(310℃、剪断速度1,000/s)であり、ガラス転移温度が90℃、融点が285℃であった。
【0083】
(参考例2)ナイロン6/66共重合体(ポリアミド−3(PA−3))の製造
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの塩(AH塩)の50重量%水溶液およびε−カプロラクタム(CL)を、AH塩が20重量部、CLが80重量部になるように混合し、30リットルのオートクレーブに仕込んだ。内圧10kg/cmで270℃まで昇温した後、内温を245℃に保ち、撹拌しながら0.5kg/cmまで徐々に減圧して撹拌を停止した。窒素で常圧に戻した後、ストランドにして抜き出し、ペレット化し、沸騰水を用いて未反応物を抽出除去して乾燥した。このようにして得られた共重合ポリアミド6/66樹脂の相対粘度は4.20、融点は193℃であった。
【0084】
(実施例1)
参考例1で作成したPPS樹脂90重量部を180℃で3時間減圧乾燥し、熱可塑性樹脂(Y)としてナイロン610樹脂(東レ社製ナイロン樹脂“アミランCM2001”)(ポリアミド−1(PA−1))10重量部を120℃で3時間減圧乾燥し、さらに、相溶化剤としてγ−イソシアネ−トプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製、”KBE9007”)0.5重量部を配合後、330℃に加熱された、ニーディングパドル混練部を3箇所設けたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。得られたPPS/PA−1(90/10重量部)のブレンドチップに対し平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末0.3重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部を添加し均一に分散配合させた原料を、150℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。
【0085】
次いで押出機で溶融したポリマーを温度320℃に設定したフィルターで濾過した後、温度320℃に設定したTダイの口金から溶融押出した後、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸ポリフェニレスルフィドフィルムを作製した。
【0086】
この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、103℃の温度でフィルムの縦方向に3.8倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度105℃、延伸倍率3.8倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度265℃で4秒間の熱処理を行った後、150℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に4%弛緩処理を行い室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み38μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作製した。
【0087】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性、耐屈曲性、寸法安定性に優れたものであった。
【0088】
(実施例2、3、4)
熱可塑性樹脂(Y)のPA−1の添加量を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した。実施例2および3で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性、耐屈曲性、寸法安定性に優れたものであった。実施例4で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性、寸法安定性は実使用上可能十分であり、耐屈曲性に優れたものであった。
【0089】
(実施例5、6、7)
製膜条件の延伸倍率、熱固定温度、熱固定後の幅方向における弛緩処理を各々、表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した。実施例5で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性、耐屈曲性、寸法安定性に優れたものであった。実施例6で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性および寸法安定性はやや劣るが実使用上可能な程度であり、耐屈曲性に優れたものであった。実施例7で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性、寸法安定性に優れており、耐屈曲性は実使用上可能十分であった。
【0090】
(実施例8)
熱可塑性樹脂(Y)としてナイロン6(東レ製 CM1001)(ポリアミド−2(PA−2))を用いる以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、本実施例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性、耐屈曲性、寸法安定性に優れたものであった。
【0091】
(実施例9)
熱可塑性樹脂(Y)として(参考例2)で作成したナイロン6/66共重合体(ポリアミド−3(PA−3))を用いる以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、本実施例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性、寸法安定性に優れており、耐屈曲性は実使用上可能十分であった。
【0092】
(実施例10)
熱可塑性樹脂(Y)としてポリエーテルイミド(ジーイープラスチックス社製 “ウルテム1010”)(PEI)を用いる以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、本実施例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性、寸法安定性に優れており、耐屈曲性は実使用上可能十分であった。
【0093】
(実施例11)
熱可塑性樹脂(Y)としてポリエーテルイミド(ジーイープラスチックス社製 “ウルテム1010”)(PEI)を用いて、その添加量を5重量部とする以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、本実施例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性や寸法安定性に優れたものであった。
【0094】
(実施例12)
熱可塑性樹脂(Y)としてポリエーテルスルホン(アモコ社製 “RADEL”)(PES)を用いる以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、本実施例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性に優れており、寸法安定性、耐屈曲性は実使用上可能十分であった。
【0095】
(実施例13)
熱可塑性樹脂(Y)としてポリスルホン(アモコ社製 “UDEL”)(PSF)を用いる以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、本実施例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性に優れており、寸法安定性、耐屈曲性は実使用上可能十分であった。
【0096】
(比較例1)
参考例1で作成したPPS樹脂100重量部に対し、平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末を0.3重量部、ステアリン酸カルシウムを0.05重量部添加し均一に分散配合させた原料を、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。
次いで、押出機にて溶融したポリマーを温度320℃に設定したフィルターで濾過した後、温度320℃に設定したTダイの口金から溶融押出し、表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸ポリフェニレスルフィドフィルムを作製した。得られた未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性には優れるが、熱膨張係数が大きく寸法安定性が不十分であり、また引張破断伸度が不足し耐屈曲性が不十分なフィルムであった。
【0097】
(比較例2)
参考例1で作成したPPS樹脂70重量部を180℃で3時間減圧乾燥し、熱可塑性樹脂(Y)として液晶樹脂“スミカスーパー”(住友化学社製液晶樹脂“E6000”)(LCP)30重量部を180℃で3時間減圧乾燥し、310℃に加熱された、ニーディングパドル混練部を3箇所設けたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。得られたPPS/LCP(70/30重量部)のブレンドチップに対し“サイロイド”300を0.12重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部を添加し均一に分散配合させた原料を、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が310℃に加熱されたシリンダー径44mmの2軸ベント押出機に供給し、揮発ガス、水蒸気などを排除しながら310℃、高剪断下で溶融させた後、10μm以上の異物をカットするフィルターで濾過し、Tダイ口金からシート状に押出した。次いで表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸ポリフェニレスルフィドフィルムを作製した。
【0098】
この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、100℃の温度でフィルムの縦方向に1.5倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度100℃、延伸倍率6倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度270℃で15秒間の熱処理を行った後、フィルムエッジを除去し、厚み50μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作製した。
【0099】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性、寸法安定性に優れるが、LCPの平均分散径が極めて大きく、さらに引張破断伸度が極めて小さいために耐屈曲性が不十分なものであった。
【0100】
(比較例3)
製膜条件の延伸倍率を表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した。本比較例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは耐熱性、耐屈曲性には優れるが、熱膨張係数が大きく寸法安定性が不十分なものであった。
【0101】
(比較例4)
二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの原料に相溶化剤を加えない以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た。得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示した。本比較例で得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは寸法安定性はやや劣るものの実上使用可能な程度であるが、PA−1の平均分散径が大きく耐熱性が劣り、さらに引張破断伸度が不足していたため耐屈曲性が不十分なものであった。
【0102】
(比較例5)
参考例1で作成したPPS樹脂50重量部を180℃で3時間減圧乾燥し、熱可塑性樹脂Aとしてポリエーテルイミド(ジーイープラスチックス社製 ウルテム1010)(PEI)50重量部を180℃で3時間減圧乾燥し、310℃に加熱された、ニーディングパドル混練部を3箇所設けたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数300回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてブレンドチップを作製した。得られた該ブレンドチップを20重量部と参考例1で作成したPPS樹脂80重量部と平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末0.3重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部を添加し均一に分散配合させた原料を180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が305℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。押出機で溶融したポリマーを温度305℃に設定したフィルター(10μmカットの繊維焼結ステンレス金属フィルター)で濾過した後、温度305℃に設定したTダイの口金から溶融押出して表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0103】
この未延伸ポリフェニレンスルフィドフィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、110℃の温度でフィルムの縦方向に3.8倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度115℃、延伸倍率3.8倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度265℃で4秒間の熱処理を行った後、150℃にコントロールされた冷却ゾーンで横方向に4%弛緩処理を行い室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み38μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを作製した。
【0104】
得られた二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの構成や特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、耐熱性に優れるが、破断伸度および熱膨張係数が不十分であり、耐屈曲性、寸法安定性が劣ったものであった。
【0105】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の二軸配向積層ポリアリーレンスルフィドフィルムは、モーター、トランスなどの電気絶縁材料や成形材料、回路基板材料、回路・光学部材などの工程・離型フィルムや保護フィルム、リチウムイオン電池材料、燃料電池材料などに用いられる。特に、回路基板材料を構成するベースフィルムや加工工程中に用いる工程フィルムなどに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィドとポリアリーレンスルフィドとは異なる他の熱可塑性樹脂(Y)とを含むフィルムであって、
該熱可塑性樹脂(Y)が分散相を形成しており、
かつ該分散相の平均分散径が10〜500nmであり、
該フィルムを30℃から170℃まで昇温し、さらに40℃まで降温させたときの150℃から50℃の降温時におけるフィルムの長手方向および幅方向の少なくとも1方向の熱膨張係数が10×10−6/℃以上60×10−6/℃以下であり、
かつ、引張破断伸度がフィルムの長手方向および幅方向ともに70%以上200%未満
であることを特徴とする二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィドと熱可塑性樹脂(Y)の含有量の和を100重量部としたときにポリアリーレンスルフィドの含有量が60〜99重量部、熱可塑性樹脂(Y)の含有量が1〜40重量部であることを特徴とする請求項1に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(Y)がポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホンおよびポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマーである、請求項1および2に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィドがポリフェニレンスルフィドである、請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項5】
フィルムの長手方向および幅方向のヤング率が3GPa以上5GPa未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。

【公開番号】特開2007−246650(P2007−246650A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70775(P2006−70775)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】