説明

二酸化チタン顔料の改良された製造方法

a)四塩化チタンの酸化から得られた粗製の二酸化チタンと、分散剤と、水とを含む材料を収集し、次に、収集された材料を混合してスラリーを形成することにより、水性の高固形分のスラリーを調製する工程と、b)混合しながら高固形分のスラリーにさらなる量の水を添加することにより、水性の高固形分のスラリーを希釈する工程と、c)得られた水性のより低固形分のスラリーを媒体ミルで処理する工程と、d)媒体ミルで処理された粗製の二酸化チタン生成物を回収する工程と、e)媒体ミルで処理された粗製の二酸化チタン生成物を仕上げ処理して、仕上げ処理された二酸化チタン顔料生成物を生成する工程とを含む、二酸化チタン顔料の製造方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素法二酸化チタン顔料の製造方法、特に、無機酸化物および有機仕上げ処理剤を適用する前に粗製の塩素法二酸化チタン顔料を湿式ミルまたは媒体ミルで処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタン顔料は、ペイント、プラスチック、紙、および化粧品で使用され、その際、所望の用品を着色および/または不透明化するために、顔料粉末が添加される。一般的には、ルチル型顔料は、気相で四塩化チタンを酸化することにより調製される。得られる酸化生成物は、相当量のオーバーサイズ粒子を含有する粗製の二酸化チタン顔料である。これらの種々の最終用途のいずれにおいてもこの粗製の生成物を顔料として使用するのに好適なものとするために、典型的には、粗製の二酸化チタン顔料を水性スラリーの状態にし、次に、ミル処理媒体の存在下で湿式ミルまたは媒体ミルで処理し(たとえば、Brownbridgeらに付与された米国特許第5,544,817号明細書に記載の方法でジルコンサンドなどを用いて)、そしてSiO、Al、ZrO、およびCeOのような種々の無機酸化物のいずれかを用いて表面改質する。同様に、さまざまな有機仕上げ剤または表面処理剤が知られている。
【0003】
粗製の塩素法二酸化チタン生成物(高固形分のスラリー)の状態のきわめて濃厚なスラリーの使用は、媒体ミル工程の効率を改良したり全製造プロセスのミル処理段階および仕上げ段階のスループットを増大させたりするうえで非常に望ましい。粗製の酸化生成物の量の増加がスラリー粘度の増加にも対応することから、より高固形分の粗製のTiOスラリーの使用を制限する因子はスラリーの粘度である。スラリー粘度の増加は、結果的に、粗製の生成物のミル処理のエネルギー必要量の増大ならびに/または以上で述べたように添加される無機酸化物の最適でない混合および平滑でも均一でもないコーティングをもたらす。
【0004】
したがって、より低い粘度を有する粗製の塩素法二酸化チタン材料の高固形分の水性スラリーを作製するために、種々の方法が長年にわたり提案されてきた。たとえば、Kinniardらに付与された米国特許第6,528,568B2号明細書には、良好な光沢および不透明性を有する非常に耐久性のある高密度シリカ処理グレード品の製造にとくに関連して遭遇する問題が記載されており、問題点として、粗製の生成物/酸化剤の排出凝集物の湿式ミルで処理されたスラリーを高密度シリカ処理する際、凝集および強いケイ酸アルミニウム結合の形成を生じることが見いだされた。得られる凝集した材料は、所望の粒度への流体エネルギーミルに対して抵抗性があり、その結果として光学的性質が損なわれた。Kinniardらの解決策では、流体エネルギーミル後に満足すべき光学的性質が実現できなくなるほど凝集を起こすことなく高密度シリカ処理を行いうる「高分散高脱凝集スラリー」を提供するために、酸化剤の排出物から部分的もしくは十分に塩を除去すること、およびミル処理前に高固形分のスラリーに分散剤を添加することが必要であった。塩除去は、塩含有率を十分に減少させるように、得られたままの酸化剤の排出物を中和および洗浄することにより達成しなければならなかった。次に、低粘度高固形分(50〜60+パーセント)のスラリーは、媒体ミル前に分散剤を含む水で再パルプ化された。
【0005】
Niedenzuに付与された米国特許第5,501,732号明細書には、シラン処理二酸化チタン顔料の製造に関連して、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、トリメチロールプロパン、ピロリン酸四カリウム、またはそれらの混合物のような種々の粘度低下剤を高固形分のスラリー(固形分30〜85パーセントの範囲)のミル処理中に使用することが記載されている。
【0006】
他の参考文献、たとえば、Trendellらに付与された米国特許第5,622,628号明細書およびStoryに付与された米国特許第4,978,396号明細書は、本発明の場合のように媒体ミルに好適な高固形分の低粘度スラリーの製造に関するものではないが、その代わりとして低粘度を有する表面処理及び仕上げ処理された顔料の濃厚スラリーの製造に関する。とはいえ、Trendellらのものは、クロスフロー濾過を介して固形分約50パーセントから固形分70〜80パーセントまで十分にスラリーを濃縮する前に可溶性イオン種を除去するために、濾過して得られた濾過ケーキを洗浄するという点で、Kinniardらのものと類似している。Storyのものは、大気圧超の圧力で行われる脱水工程を用いて固形分20〜50パーセントから固形分約70〜約80パーセントまでスラリーを濃縮する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、二酸化チタン顔料の改良された製造方法を提供する。この方法では、a)四塩化チタンの酸化から得られた粗製の二酸化チタンと、分散剤と、水とを含む材料を収集し、次に、収集された材料を混合してスラリーを形成することにより、高固形分のスラリーを調製し、b)次に、さらなる量の水を混合しながら添加することにより、高固形分のスラリーを希釈し、そしてc)次に、得られたスラリーを媒体ミルで処理する。次に、媒体ミルで処理された顔料は、無機および/または有機の仕上げ処理剤による処理および流体エネルギーミルを介して慣例的に仕上げ処理するのに適した状態となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
驚くべきことに、より高濃度の粗製の二酸化チタン酸化剤生成物を有する水性スラリーを形成し、次に、より低い固形分濃度にスラリーを希釈すると、最初からより低濃度になるように同一の粗製の生成物と同一の分散剤と同一の水とを用いてスラリーを作製する状況と比較して、媒体ミル用および仕上げ処理用のより低粘度の材料が得られることを見いだした。簡潔に述べると、異なる方式でスラリーを形成することにより、異なる粘度を有する組成的に同等なスラリーを調製することが可能である。
【0009】
本発明の第1の実施形態では、所定の高含有率の粗製の二酸化チタン生成物を有するがより低い粘度である、媒体ミルで処理されるスラリーを生成するこの第1の態様を反映して、粗製の二酸化チタン生成物の所望または目標のより低い濃度を超える固形分濃度になるように最初の高固形分のスラリーを調製し、そして希釈により所望または目標のより低い濃度が提供されるようにする。本発明のこの第1の態様は、たとえば、そのままでは凝集を起こしやすい高密度シリカ処理二酸化チタン顔料を作製するというKinniardら(米国特許第6,528,568B2号明細書)により挙げられた問題に対処するうえで、かなりの価値を呈する。これは、本発明の方法により、十分な粘度低下を引き起こして、Kinniardらにより必要性が示唆された塩除去工程を不要なものとして省略可能にしうるような媒体ミルおよび高密度シリカ処理が行えるようになるからである。
【0010】
第2の関連態様では、この現象に裏付けられて、増大された固形分濃度を有するにもかかわらず、より低い固形分濃度になるようにスラリーを直接調製したときと同一の粘度を有する媒体ミル用のスラリーを調製することが可能である。この実施形態では、第1の高固形分濃度で粗製の二酸化チタンと水と分散剤とを含むスラリーを形成し、そして希釈工程を行うことなく同一の材料から直接調製および構成されたスラリーを特徴付ける粘度に対応する目標粘度になるように水を添加してスラリーを希釈する。希釈後でさえも、本発明に従って調製され目標粘度になるように希釈されたスラリーは、より高い固形分含有率を有する。当業者であればわかるであろうが、このより高い固形分含有率は、顔料1トンあたりの乾燥経費を削減しかつ全体としてミル処理および仕上げ処理に基づいて全生産性を改良することにより、この第2の関連態様でもかなりの価値を付加することを意味する。
【0011】
本発明の方法は、周知の塩素法を介する二酸化チタン顔料の改良された製造方法に関する。この方法では、チタン鉱および/またはスラグ供給原料を石油コークスのような還元剤の存在下で塩素化して四塩化チタンを生成し、未反応供給原料およびコークスさらには望ましくない塩素化生成物(たとえば、鉱石および/またはスラグ供給原料中に存在する他の金属に由来する廃棄金属塩化物)を所望の四塩化チタン塩素化生成物から分離し、次に、四塩化チタンを酸化して粗製の二酸化チタン生成物を提供する。
【0012】
慣例的には、粗製の二酸化チタン生成物を分散剤と共に水中に組み込んでスラリーを形成し、そしてジルコンサンドなどのような粉砕用媒体の存在下でスラリーを湿式ミルまたは媒体ミルで処理する。その後、典型的には、無機および/または有機の表面処理剤を、二酸化チタンの濾過、洗浄、および回収ならびに二酸化チタンの流体エネルギーミル/マイクロナイゼーションとさまざまに組み合わせて利用して、最終的に仕上げ処理された二酸化チタン生成物を製造する。これは、所望の最終用途に適している。当業者であれば、媒体ミルで処理された粗製の二酸化チタン生成物を仕上げ処理された二酸化チタン顔料にするために慣例的に利用可能な材料、装置、およびプロセス工程については十分に熟知しているであろう。また、これらの後続工程は本発明に関係しないので、本発明により生成された媒体ミルで処理された粗製の二酸化チタン材料の仕上げ処理についてのさらなる説明は、本明細書中では行わない。
【0013】
本発明は、より特定的には、それぞれ以上で述べた第1および第2の態様に従って、低減された粘度を有する高固形分のスラリーまたは任意の特性粘度を有するより高固形分のスラリーの媒体ミルを可能にすることに関する。
【0014】
すでに述べたように、粗製の塩素法二酸化チタンと分散剤と水とから作製される固形分60パーセントのスラリーは、60パーセントを超える固形分を含有するスラリーを作製してから必要量の希釈水を添加して固形分含有率60パーセントが達成されるようにさらに混合することにより、たとえばサンドミルでミル処理するためにより低い粘度を有するように作製可能であるという知見を利用して、これらの目的を達成しうる。同様にして、60パーセント超の固形分を有するが、粗製の塩素法二酸化チタンと分散剤と水とから直接作製された固形分60パーセントにすぎないスラリーと同一の媒体ミル用の粘度を有するスラリーを、同一の希釈方法により作製可能である。
【0015】
好ましくは、本発明により作製される高固形分のスラリーは、少なくとも50重量パーセントの粗製の顔料固形分、より好ましくは少なくとも約60重量パーセントの粗製の顔料固形分を含む。好ましくは、本発明に従ってその第1の態様で調製される最初のより高固形分のスラリーは、媒体ミル用のスラリーの目標最終固形分含有率を少なくとも約2パーセント超え、そして目標最終固形分含有率に応じて希釈される。したがって、たとえば、媒体ミルで処理されるスラリーが望ましくは60重量パーセントの粗製の二酸化チタンである場合、好ましくは、少なくとも約62パーセントの粗製の二酸化チタン材料を含有するように最初のスラリーを調製する。
【実施例】
【0016】
(例示的な実施例)
四塩化チタンの気相酸化から得られかつその結晶格子中に0.8%のアルミナを含有する粗製の二酸化チタン顔料を、分散液のpHを9.5以上に調整するのに十分な量の水酸化ナトリウムと一緒に、0.18重量%(顔料基準)のヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)分散剤の存在下で水中に分散して、61重量%の固形分含有率を有する水性分散液を達成した。ブルックフィールド粘度計(モデルDV−1、スピンドル#5、100rpm)を用いて、固形分61%で作製された粗製の顔料スラリーの粘度は、21℃で906cPであることがわかった。
【0017】
次に、同一の方法により、63%の固形分含有率になるようにスラリーを調製し、次に、同一の61%の固形分含有率になるように追加の水と混合して希釈した。このスラリーは、21℃でわずか284cPにすぎない測定粘度を有していた。
【0018】
同様に、種々の固形分含有率の他の粗製の顔料スラリーを直接調製し、次に、本発明の過剰濃縮および希釈を行って、そのような各スラリーの粘度を比較のために測定した。結果を表1に示す。直接法により作製されたサンプルを数時間撹拌して粘度になんらかの変化が観測されるかを調べたが、変化は観測されなかった。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示される結果から、固形分含有率を減少させることなく、したがってスループットを減少させることなく、媒体ミルの前に水性の粗製の塩素法二酸化チタン顔料スラリーの粘度の非常に顕著な減少を本発明に従って第1の態様で容易かつ単純に達成しうることが実証される。表1に示される結果から、等価な粘度で媒体ミルに付す場合、本発明の第2の態様に従って粗製の顔料スラリーの固形分含有率を所望に応じて増大させて、たとえば、約55.4%の固形分含有率(従来の直接法により調製されたスラリーでは280センチポアズの粘度を有することが示される)から約61%の固形分含有率(本発明の方法により調製されたスラリーでは284センチポアズの測定粘度)に増大させて、スループットおよび生産性を改良しうることがさらに実証される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)四塩化チタンの酸化から得られた粗製の二酸化チタンと、分散剤と、水とを含む材料を収集し、次に、収集された材料を混合してスラリーを形成することにより、水性の高固形分のスラリーを調製する工程と、
b)混合しながら前記高固形分のスラリーにさらなる量の水を添加することにより、前記水性の高固形分のスラリーを希釈する工程と、
c)得られた水性のより低固形分のスラリーを媒体ミルで処理する工程と、
d)媒体ミルで処理された粗製の二酸化チタン生成物を回収する工程と、
e)前記媒体ミルで処理された粗製の二酸化チタン生成物を仕上げ処理して、仕上げ処理された二酸化チタン顔料生成物を生成する工程と
を含む、二酸化チタン顔料の製造方法。
【請求項2】
前記水性の高固形分のスラリーの調製およびその希釈が、媒体ミルで処理される粗製の二酸化チタンスラリーを連続的に提供するために連続的に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最初の水性の高固形分のスラリーが少なくとも50重量パーセントの粗製の二酸化チタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記最初の水性の高固形分のスラリーが、前記最初の高固形分濃度よりも2パーセント以上低い所定の目標のより低い固形分濃度の粗製の二酸化チタンを提供するように希釈される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記最初の水性の高固形分のスラリーが少なくとも約60重量パーセントの粗製の二酸化チタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記最初の水性の高固形分のスラリーが、前記最初の高固形分濃度よりも2パーセント以上低い所定の目標のより低い固形分濃度の粗製の二酸化チタンを提供するように希釈される、請求項5に記載の方法。

【公表番号】特表2009−544560(P2009−544560A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521749(P2009−521749)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/015041
【国際公開番号】WO2008/013643
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(500002799)トロノックス エルエルシー (17)
【Fターム(参考)】