説明

二酸化炭素の供給装置及び供給方法

【課題】ビニールハウス等の二酸化炭素を利用する二酸化炭素利用室に二酸化炭素を半永続的に、かつ夏季にも十分に供給可能な装置及び方法を提供する。
【解決手段】二酸化炭素の吸放出を伴う平衡反応を起こす吸放出剤2を送風手段30の送風経路上に配置する。第1モードでは、送風手段30によって外気を第1開口91から二酸化炭素利用室90の内部に送入し、かつ二酸化炭素利用室90内の雰囲気ガスを第2開口91から送出する。第2モードでは、送風手段30によって外気を第2開口92から二酸化炭素利用室90の内部に送入し、かつ二酸化炭素利用室90内の雰囲気ガスを第1開口91から送出する。第1モードと第2モードを交互に反復して実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば農業や園芸用のビニールハウス等の二酸化炭素利用室内に二酸化炭素を供給する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニールハウスは植物を栽培する温室として知られている。ビニールハウス内は外界からほぼ隔離された密閉空間にすることができる。しかし、気密性が高いと作物が育つにつれて二酸化炭素濃度が低下し、生育が頭打ちになる。そこで、二酸化炭素ボンベを設置したり、ドライアイスを設けたり、灯油等の化石燃料を燃やしたりすることで、二酸化炭素を人為的に付加(施用)していた。
【0003】
特許文献1では、開放された場所で植物を栽培するために、一対の炭素電極を水に漬けて電圧をかけることで二酸化炭素含有溶液を生成し、この二酸化炭素含有溶液を植物に供給している。
特許文献2では、二酸化炭素ボンベから供給した炭酸ガスと水とで炭酸水を生成し、この炭酸水をハウス内の植物に散布している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−84529号公報
【特許文献2】特開2008−199920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の二酸化炭素供給手段は、何れも、二酸化炭素の原料を定期的に補充しない限り、永続的な運転はできなかった。例えば、二酸化炭素ボンベを用いる場合、ボンベ内が空になると二酸化炭素をボンベに補充するかボンベを交換する必要があった。ドライアイスを用いる場合、ドライアイスが気化して消滅すると新たなドライアイスを補充する必要があった。灯油等の化石燃料を燃やす場合、燃料が無くなれば補充する必要があった。特許文献1においては、炭素電極が溶解した場合、交換する必要があると考えられる。
【0006】
また、夏季は太陽光線が強いから、ビニールハウス内の二酸化炭素濃度を高くできれば、植物の生育を大きく促進できる。しかし、ビニールハウスは、通常、夏季になると換気窓を開けて内部を換気するため、二酸化炭素供給手段から供給した二酸化炭素が外へ逃げてしまう。灯油等の化石燃料を燃やす方法の場合、ビニールハウス内の温度が高くなり過ぎるため、夏季の使用には適さない。したがって、夏季は植物の生育が期待されるにもかかわらず、従来の二酸化炭素供給手段はそれに十分に応えることができなかった。
本発明は、上記事情に鑑み、ビニールハウス等の二酸化炭素を利用する二酸化炭素利用室に二酸化炭素を原料補充しなくても半永続的に供給可能であり、かつ夏季における運転にも好適な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明装置は、第1開口及び第2開口を有する二酸化炭素利用室に二酸化炭素を供給する装置であって、
二酸化炭素の吸放出を伴う平衡反応を起こす吸放出剤と、前記第1開口と前記酸化炭素利用室の内部と前記第2開口を経由する送風経路を形成する送風手段と、前記吸放出剤の吸放出及び前記送風手段の送風のモードを第1モードと第2モードとの間で交互に切り替える切り替え手段と、を備え、前記吸放出剤が前記送風手段の送風経路上に配置されており、前記第1モードでは、前記送風手段が、外気を前記第1開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記二酸化炭素利用室内の雰囲気ガスを前記第2開口から送出し、前記第2モードでは、前記送風手段が、外気を前記第2開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記雰囲気ガスを前記第1開口から送出することを特徴とする。
【0008】
第1、第2モードの何れかにおいて、外気が吸放出剤に接触することで吸放出剤から二酸化炭素を放出させて、この二酸化炭素を二酸化炭素利用室に供給でき、第1、第2モードの他方において、二酸化炭素利用室の雰囲気ガスが吸放出剤に接触することで、雰囲気ガス中の二酸化炭素を吸放出剤に吸収させて回収することができる。第1モードと第2モードを反復することによって、吸放出剤が二酸化炭素の放出と吸収を繰り返す。これによって、二酸化炭素利用室に二酸化炭素を長期間にわたって、ないしは半永続的に供給することができる。吸放出剤が空気中から二酸化炭素を吸収し、この二酸化炭素を放出するものであるから、空気中の二酸化炭素がいわば二酸化炭素原料であると言える。したがって、二酸化炭素ボンベ、ドライアイス、化石燃料、炭素電極等の特別な二酸化炭素原料を定期的に補充する必要がない。よって、保守、管理が容易であり、かつランニングコストを抑えることができる。しかも、送風手段の送風によって二酸化炭素利用室内の換気を行ないながら二酸化炭素を二酸化炭素利用室に供給できる。したがって、夏季の運転に好適である。二酸化炭素利用室がビニールハウス等の植物を生育させるものである場合、夏季には太陽光線の強さと相俟って、植物の生育を十分に促進させることができる。
【0009】
ここで、二酸化炭素利用室とは、二酸化炭素を利用して、植物の生育、生体や生組織の培養・増殖、生体や物質の保存・貯蔵・処置・観察等を行なう室を言い、例えば農業や園芸等における植物生育用の温室(green house)をはじめ、発酵室、醸造室、保存室、貯蔵室等を含む。前記温室は、室内を適温に維持可能な施設を言い、例えば、ビニールハウスや恒温室が挙げられる。ビニールハウスとは、室内を透光性のシートで囲んで室内の温度、湿度、採光度等を農作物等の栽培に適した環境にした施設を言う。前記透光性シートの材質は、例えばビニール樹脂であるが、これに限られず、ビニール樹脂以外の樹脂、例えばポリエチレンなどのオレフィン系樹脂であってもよく、更には軟性のフィルムに限られず、硬質の透明な板状樹脂であってもよく、ガラスであってもよい。前記透光性シートは、透明に限られず半透明であってもよい。ビニールハウスの外周部の一部が透光性を有さない材質にて構成されていてもよい。前記温室が暗室であってもよい。
【0010】
前記吸放出剤が、二酸化炭素及び水蒸気の吸放出を伴う平衡反応を起こすことが好ましい。すなわち、前記吸放出剤が、二酸化炭素を吸放出するだけでなく、水蒸気をも吸放出することが好ましい。これによって、二酸化炭素利用室に送入する外気の湿度(水蒸気分圧)や、二酸化炭素利用室から送出する雰囲気ガスの湿度(水蒸気分圧)に応じて、吸放出剤が二酸化炭素を吸放出するようにできる。
【0011】
上記の平衡反応を起こす物質として、アルカリ金属炭酸塩、アンモニウム炭酸塩、若しくはアミン系化合物炭酸塩、又はこれらの水和物が挙げられる。前記吸放出剤がこれら物質の少なくとも1つを含有することが好ましい。前記アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム等のアルカリ金属炭酸塩や、セスキ炭酸カリウム、セスキ炭酸ナトリウム、セスキ炭酸リチウム等のアルカリ金属セスキ炭酸塩等が挙げられる。これら炭酸塩又はその水和物は、その炭酸水素塩と平衡して共存する。例えば、炭酸カリウム又は炭酸カリウム水和物は、炭酸水素カリウムと平衡共存する。炭酸ナトリウム又は炭酸ナトリウム水和物は、炭酸水素ナトリウムと平衡共存する。炭酸リチウム又は炭酸リチウム水和物は、炭酸水素リチウムと平衡共存する。炭酸アンモニウム(アンモニウム炭酸塩)又は炭酸アンモニウム水和物は、炭酸水素アンモニウムと平衡共存する。炭酸アミン化合物(アミン系化合物炭酸塩)又はその水和物は、炭酸水素アミン化合物と平衡共存する。アミンはガス化又は液化し易く不安定であるため、ポリマーの炭素鎖に結合させて固定してもよい。前記吸放出剤の成分として、炭酸アミン基を固定させたポリマー又はその水和物を用いてもよい。前記ポリマーとして、ポリスチレンが好適である。
【0012】
前記吸放出剤が、二酸化炭素を吸収するとき水蒸気をも吸収し、二酸化炭素を放出するとき水蒸気をも放出することが好ましい。このような物質として、前記各種の炭酸塩とその炭酸水素塩との平衡共存物が挙げられる。前記吸放出剤が、炭酸カリウムと炭酸水素カリウムとの平衡共存物、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの平衡共存物、炭酸リチウムと炭酸水素リチウムとの平衡共存物、炭酸アンモニウムと炭酸水素アンモニウムとの平衡共存物、若しくは炭酸アミン化合物と炭酸水素アミン化合物との平衡共存物、又は炭酸アミン基と炭酸水素アミン基が平衡共存状態で炭素鎖に固定されたポリスチレン等のポリマーを含むことが好ましい。これによって、前記二酸化炭素利用室の雰囲気ガスの水蒸気分圧(湿度)を外気の水蒸気分圧(湿度)より高くすると、前記二酸化炭素利用室の二酸化炭素濃度を外気中の二酸化炭素濃度より自動的に高く保つことができる。例えば、前記二酸化炭素利用室がビニールハウス等の温室である場合、通常、室内は外気より高湿度であるから、比較的低湿度の外気を二酸化炭素利用室に送入して前記吸放出剤に接触させると、前記吸放出剤が水分を放出するとともに二酸化炭素をも放出する。この結果、室内の二酸化炭素濃度を外気中の二酸化炭素濃度より高くできる。また、室内の比較的高湿度の雰囲気ガスを前記吸放出剤に接触させながら室外に送出すると、前記吸放出剤が雰囲気ガスから水分を吸収するとともに二酸化炭素をも吸収する。これによって、二酸化炭素を回収できる。
【0013】
前記吸放出剤が、二酸化炭素を吸収するとき水蒸気を放出し、二酸化炭素を放出するとき水蒸気を吸収するものであってもよい。このような物質として、上記各種の炭酸塩の水和物とその炭酸水素塩との平衡共存物が挙げられる。前記吸放出剤が、炭酸カリウム水和物と炭酸水素カリウムとの平衡共存物、炭酸ナトリウム水和物と炭酸水素ナトリウムとの平衡共存物、炭酸リチウム水和物と炭酸水素リチウムとの平衡共存物、炭酸アンモニウム水和物と炭酸水素アンモニウムとの平衡共存物、若しくは炭酸アミン化合物の水和物と炭酸水素アミン化合物との平衡共存物、又は前記ポリマーの水和物を含んでいてもよい。この場合の吸放出剤は、二酸化炭素利用室内の湿度が外気の湿度よりも低い条件で使用するのに適している。例えば、乾燥した環境に適した作物を多湿な地域で生育させるのに適している。すなわち、比較的高湿度の外気を二酸化炭素利用室に送入して前記吸放出剤に接触させると、前記吸放出剤が送入ガスから水分を吸収するとともに二酸化炭素を放出する。この結果、室内の二酸化炭素濃度を外気中の二酸化炭素濃度より高く保つことができる。また、室内の比較的低湿度の雰囲気ガスを前記吸放出剤に接触させながら室外に送出すると、前記吸放出剤が水分を放出するとともに二酸化炭素を吸収する。これによって、二酸化炭素を回収できる。
【0014】
前記吸放出剤が、吸湿物質を含有していてもよい。前記吸放出剤が、前記各種の炭酸塩等に加えて、吸湿物質を更に含有していてもよい。具体的には、前記吸放出剤が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、セスキ炭酸カリウム、セスキ炭酸ナトリウム、セスキ炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、若しくは炭酸アミン化合物、又は炭酸アミン基を固定させたポリマーに加えて、吸湿物質を更に含有していてもよい。この場合、前記各種の炭酸塩又は前記ポリマーが水和物を構成していることが好ましい。前記各種炭酸塩の水和物はその炭酸水素塩と平衡共存していることが好ましく、前記ポリマーの炭酸アミン基は炭酸水素アミン基と平衡共存していることが好ましい。これによって、吸放出剤が二酸化炭素を吸収するとき水蒸気をも吸収し、二酸化炭素を放出するとき水蒸気をも放出するようにできる。したがって、前記二酸化炭素利用室の雰囲気ガスが外気より高湿度である場合、雰囲気ガスの二酸化炭素濃度を外気中の二酸化炭素濃度より自然と高くできる。吸湿物質として、石灰、シリカゲル等が挙げられる。
【0015】
前記第1開口に通気可能に設けられた第1吸放出手段と、前記第2開口に通気可能に設けられた第2吸放出手段とを備え、前記第1、第2吸放出手段が、それぞれ前記吸放出剤を含むことが好ましい。
これによって、第1モードにおいては、外気が第1吸放出手段に接触することで、第1吸放出手段から二酸化炭素を放出させて、この二酸化炭素を二酸化炭素利用室に供給でき、かつ二酸化炭素利用室の雰囲気ガスが第2吸放出手段に接触することで、雰囲気ガス中の二酸化炭素を第2吸放出手段に吸収させることができる。第2モードにおいては、外気が第2吸放出手段に接触することで、第2吸放出手段から二酸化炭素を放出させて、この二酸化炭素を二酸化炭素利用室に供給でき、かつ二酸化炭素利用室の雰囲気ガスが第1吸放出手段に接触することで、雰囲気ガス中の二酸化炭素を第1吸放出手段に吸収させることができる。第1モードと第2モードを交互に反復することによって、第1、第2吸放出手段がそれぞれ二酸化炭素の放出と吸収を繰り返す。これによって、二酸化炭素利用室に二酸化炭素を長期間にわたって、ないしは半永続的に確実に供給することができる。
【0016】
前記第1又は第2吸放出手段が、前記吸放出剤を含有する複数の吸放出部材を互いに平行に並べてなり、隣り合う吸放出部材どうしの間の隙間が前記送風経路の一部を構成していることが好ましい。
これによって、外気や雰囲気ガスの流れが吸放出部材に確実に接触するようにでき、二酸化炭素の吸放出を確実に起こさせることができる。
前記第1又は第2吸放出部材は、平板状に限られず、格子状でもよく、多孔質体でもよい。格子状の第1又は第2吸放出部材は、ハニカム(六角格子)構造体でもよく、四角格子構造体でもよく、三角格子構造体でもよい。
【0017】
前記吸放出部材が、前記吸放出剤を結着するバインダーを含有していてもよい。
これによって、吸放出剤が粉末状であっても、これを固形化できる。
【0018】
前記吸放出部材が、枠内空間を有する枠と、前記枠内空間を覆うようにして前記枠の両面に張られた一対の通気性の覆体とを含み、前記吸放出剤が粉末の状態で前記枠内空間に収容されていてもよい。
枠と一対の覆体によって吸放出剤粉末を枠内空間に閉じ込めることができる。外気や雰囲気ガスは、通気性の覆体を通り抜けて枠内空間の吸放出剤粉末と接触できる。これによって、吸放出剤粉末による二酸化炭素の吸放出反応を確実に起こすことができる。吸放出剤粉末から放出された二酸化炭素は、通気性の覆体を通り抜けて二酸化炭素利用室へ供給される。
【0019】
前記送風手段が、前記第1開口に設けられて前記第1モードにおける外気送入を行なう第1送風部と、前記第2開口に設けられて前記第2モードにおける外気送入を行なう第2送風部を含むことが好ましい。
第1モードでは、第1送風部によって外気を第1開口を通して二酸化炭素利用室内に確実に送入できる。第2モードでは、第2送風部によって外気を第2開口を通して二酸化炭素利用室内に確実に送入できる。
第1、第2送風部は、例えばファン、ブロア等で構成されている。
【0020】
前記二酸化炭素供給装置が、二酸化炭素補充手段を更に備えていてもよい。前記二酸化炭素補充手段が、第2の吸放出剤を収容した容器と、前記容器の内部のガスを吸引する吸引ポンプと、前記吸引ポンプの排気ポートを前記二酸化炭素利用室の内部に連ねる補充路とを含むことが好ましい。
一般にこの種の吸放出剤は、二酸化炭素分圧が高くなると二酸化炭素を吸収する方向に平衡が移動し、二酸化炭素分圧が低くなると二酸化炭素を放出する方向に平衡が移動する。したがって、二酸化炭素利用室の二酸化炭素濃度が低下したとき等には、吸引ポンプにて前記容器の内部のガスを吸引する。すると、容器の内圧が低下し、第2の吸放出剤から二酸化炭素が放出される。この二酸化炭素を含む容器内のガスを補充路を介して二酸化炭素利用室に送ることで、二酸化炭素利用室に二酸化炭素を補充することができる。これによって、二酸化炭素利用室の二酸化炭素濃度を一層確実に高くできる。前記第2の吸放出剤は、粉末状であることが好ましい。
【0021】
前記容器の内部が外部に開放可能かつ密閉可能であることが好ましく、更に外部への開放度を調節可能であることがより好ましい。前記容器には、内部を外部に開放する開放路(又は開口部)が設けられていることが好ましい。前記開放路は、開閉可能であることが好ましく、更に開度調節可能であることがより好ましい。
前記吸引ポンプの停止期間中、前記容器の内部を外部に開放することで、外気が容器の内部に入り込む。この外気中の二酸化炭素を第2吸放出剤に吸収させることができる。したがって、外気を二酸化炭素原料とすることができ、二酸化炭素ボンベ等の特別な二酸化炭素原料を用いなくても、二酸化炭素補充手段を長期間ないしは半永続的に運転することができる。
【0022】
前記二酸化炭素補充手段には、前記容器の内部に空気を送り込む送気手段が設けられていてもよい。前記吸引ポンプの停止期間中、送気手段て前記容器の内部に空気を送り込むことで、空気中の二酸化炭素を第2の吸放出剤に吸収させることができる。前記送気手段の駆動時には、前記開放路を開き、前記容器の内部を開放することが好ましい。これによって、送気手段からの空気が容器の内部を流通した後、前記開放路から排出される。容器の内部は、概略大気圧に維持される。送気手段からの空気の大気圧換算の総流量を容器の内容積以上にすることができ、第2吸放出剤に二酸化炭素を十分に吸収させることができる。
送気手段は、送気ポンプでもよく、送風ファンでもよく、ブロアでもよい。
送気手段として圧送ポンプを用い、前記開放路を閉じて前記容器内を密閉した状態で、外気を圧送ポンプにて容器内に圧縮して送り込んでもよい。
吸引ポンプの作動時すなわち二酸化炭素利用室への二酸化炭素補充時には、送気手段を停止する。
【0023】
前記吸引ポンプは、ダイヤフラム式の真空ポンプでもよく、スクロール式の真空ポンプでもよく、レシプロ式の真空ポンプでもよい。
前記吸引ポンプの作動時は、前記容器を密閉してもよい。
前記吸引ポンプがダイヤフラム式の真空ポンプ等の到達真空度が小さい場合には、前記開放路を半開にして、吸引ポンプを駆動してもよい。これによって、容器内の二酸化炭素含有ガスを確実に吸い込んで二酸化炭素利用室に供給できる。前記吸引ポンプの停止期間中は、前記開放路の開度を相対的に大きくし、前記吸引ポンプの駆動中は、前記開放路の開度を相対的に小さくしてもよい。
【0024】
本発明に係る方法は、第1開口及び第2開口を有する二酸化炭素利用室に二酸化炭素を供給する方法であって、
二酸化炭素の吸放出を伴う平衡反応を起こす吸放出剤を送風手段の送風経路上に配置しておき、
前記送風手段によって、外気を前記第1開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記二酸化炭素利用室内の雰囲気ガスを前記第2開口から送出する第1工程と、
前記送風手段によって、外気を前記第2開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記二酸化炭素利用室内の雰囲気ガスを前記第1開口から送出する第2工程と、
を交互に反復して実行することを特徴とする。
【0025】
第1、第2工程の何れかにおいて、外気が吸放出剤に接触することで吸放出剤から二酸化炭素を放出させて、この二酸化炭素を二酸化炭素利用室に供給できる。第1、第2工程の他方において、二酸化炭素利用室の雰囲気ガスが吸放出剤に接触することで、雰囲気ガス中の二酸化炭素を吸放出剤に吸収させることができる。第1工程と第2工程を反復することによって、吸放出剤が二酸化炭素の放出と吸収を繰り返す。これによって、二酸化炭素利用室に二酸化炭素を長期間ないしは半永続的に供給することができる。吸放出剤が空気中から二酸化炭素を吸収し、この二酸化炭素を放出するものであるから、空気中の二酸化炭素がいわば二酸化炭素原料であると言える。したがって、二酸化炭素ボンベ、ドライアイス、化石燃料、炭素電極等の特別な二酸化炭素原料を定期的に補充する必要がない。よって、保守、管理が容易であり、かつランニングコストを抑えることができる。しかも、送風手段の送風によって二酸化炭素利用室内の換気を行ないながら二酸化炭素を二酸化炭素利用室に供給できる。したがって、夏季の運転に好適である。二酸化炭素利用室がビニールハウス等の植物を生育させるものである場合、夏季には太陽光線の強さと相俟って、植物の生育を十分に促進させることができる。
【0026】
前記第1、第2の各工程における積算送風流量が前記二酸化炭素利用室の内容積とほぼ同じになったとき、直ちに又は前記送風手段を休止させる休止工程を経て、前記第1、第2工程の切り替えを行なうことにしてもよい。
第1、第2の各工程を実行することで、二酸化炭素利用室内のガスをほぼ入れ替えることができる。これによって、二酸化炭素利用室を確実に換気しながら、二酸化炭素を二酸化炭素利用室に供給できる。
【0027】
容器内に収容した第2の吸放出剤に空気を接触させる補充準備工程と、前記容器の内部のガスを吸引ポンプにて吸引して前記二酸化炭素利用室の内部に供給する補充工程とを、前記第1、第2工程とは別途に交互に実行することが好ましい。
補充準備工程によって、空気中の二酸化炭素を容器内の第2の吸放出剤に吸収させることができる。補充準備工程では、送気ポンプにて空気を容器内に送り込んでもよい。このとき容器内を外部に開口させておき、流通後の空気を排出してもよい。二酸化炭素利用室の二酸化炭素濃度が低下したとき等には補充工程を行なう。これにより、第2の吸放出剤から二酸化炭素が放出させ、この二酸化炭素を含む容器内のガスを補充路を介して二酸化炭素利用室に供給する。これによって、二酸化炭素を二酸化炭素利用室に補充できる。これによって、二酸化炭素利用室の二酸化炭素濃度を一層確実に高くできる。補充工程を行なった後は、再び補充準備工程を行なうことによって、二酸化炭素利用室への二酸化炭素補充の準備を行なうことができる。前記第2の吸放出剤は、粉末状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ビニールハウス等の二酸化炭素利用室に二酸化炭素を長期間ないしは半永続的に供給することができる。しかも、二酸化炭素利用室内の換気を行ないながら二酸化炭素を供給できるため、夏季の運転に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】KHCO及びKCOの平衡共存体からなる吸放出剤が温度30℃で平衡状態にあるときの雰囲気ガス中のCO分圧に対するKHCOモル存在率αの計算値を示すグラフであり、実線は相対湿度80%、一点鎖線は相対湿度50%、破線は相対湿度10%のときを示す。
【図3】本発明の第2実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の第3実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明の第4実施形態を示す斜視図である。
【図6】本発明の第5実施形態を示す斜視図である。
【図7】本発明の第6実施形態を示す斜視図である。
【図8】本発明の第7実施形態を示す斜視図である。
【図9(a)】吸放出部材の変形例を示し、ハニカム構造の吸放出部材の斜視図である。
【図9(b)】吸放出部材の変形例を示し、四角格子構造の吸放出部材の斜視図である。
【図10(a)】吸放出部材の変形例を示す斜視図である。
【図10(b)】図10(a)のXb−Xb線に沿う、吸放出部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
本発明は、二酸化炭素を利用する、又は必要とする二酸化炭素利用室に二酸化炭素を供給ないしは補充するのに適用される。二酸化炭素利用室は、内部が外界からほぼ隔離可能な半閉鎖系であることが好ましい。図1は、本発明を、植物Sを育てるためのビニールハウス90(二酸化炭素利用室)に適用した第1実施形態を示したものである。植物Sは、特に限定がなく、農作物でもよく、園芸作物でもよい。ビニールハウス90には第1、第2の開口91,92が形成されている。第1開口91と第2開口92は、ビニールハウス90の棟方向に互いに離れている。第1開口91は、ビニールハウス90の一端側(図1において左)の妻面に配置されている。第2開口92は、ビニールハウス90の他端側(図1において右)の妻面に配置されている。ビニールハウス90の既存の換気口を開口91,92として適用してもよい。
【0031】
通常、ビニールハウス90内のHO分圧(湿度)は、外気のHO分圧(湿度)より高い。また、通常、外気中のCO濃度は、350ppm〜380ppm程度であり、CO分圧は35Pa〜38Pa程度である。
【0032】
ビニールハウス90には二酸化炭素供給装置1が装備されている。二酸化炭素供給装置1は、第1、第2の吸放出手段10,20と、送風手段30を備えている。第1吸放出手段10は、ビニールハウス90の第1開口91に設けられている。第2吸放出手段20は、ビニールハウス90の第2開口92に設けられている。
【0033】
第1吸放出手段10は、複数の吸放出部材11と、これら吸放出部材11を支持し、かつビニールハウス90に固定する支持固定部(図示省略)とを備えたユニットになっている。各吸放出部材11は板状になっている。吸放出部材11の形状は、例えば1m角のほぼ正方形であるが、これに限られるものではなく、例えば縦長又は横長の長方形になっていてもよく、平板状に限られず湾曲していてもよい。吸放出部材11の厚さは1mm程度であるが、これに限られるものではない。各吸放出部材11が、ビニールハウス90の左側の妻面に対し直交(交差)するように配置されている。吸放出部材11は、鉛直に向けられているが、水平になっていてもよく、鉛直又は水平に対し斜めになっていてもよい。複数の吸放出部材11が第1開口91の幅方向に間隔を置いて平行に並べられている。吸放出部材11の配置間隔は、例えば2mm〜10mm程度であるが、これに限られるものではない。
【0034】
第1吸放出手段10は、通気可能になっている。すなわち、外気が、隣接する吸放出部材11間の隙間12を通してビニールハウス90内に入り込むことができる。かつ、ビニールハウス90内の雰囲気ガスが、吸放出部材11間の隙間12を通して外部へ流れ出ることができる。
【0035】
第2吸放出手段20は、複数の第2吸放出部材21と、これら吸放出部材21を支持し、かつビニールハウス90に固定する支持固定部(図示省略)とを備えたユニットになっている。第2吸放出部材21の数、形状、大きさ、配置間隔は、第1吸放出部材11と同じであるが、第1吸放出部材11と異なっていてもよい。各吸放出部材21が、ビニールハウス90の右側の妻面に対し直交(交差)するように配置されている。吸放出部材21は、鉛直に向けられているが、水平になっていてもよく、鉛直又は水平に対し斜めになっていてもよい。複数の吸放出部材21が第2開口92の幅方向に間隔を置いて平行に並べられている。
【0036】
第2吸放出手段20は、通気可能になっている。すなわち、外気が、隣接する吸放出部材21間の隙間22を通してビニールハウス90内に入り込むことができる。かつ、ビニールハウス90内の雰囲気ガスが、吸放出部材21間の隙間22を通して外部へ流れ出ることができる。
【0037】
第1、第2の吸放出部材11,21の成分構成は互いに同一である。吸放出部材11,21は、吸放出剤2とバインダを含有している。吸放出剤2の通常形態は、粉状である。粉状の吸放出剤2をバインダで練り込んで結着することによって、板状の吸放出部材11,21が構成されている。バインダとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂を用いることができる。吸放出剤2とバインダの重量比は、例えば1:1〜10:1であるが、これに限定されるものではない。
【0038】
吸放出剤2は、炭酸水素カリウム(KHCO)を主成分として含有する。KHCOは、下式の平衡反応を起こし、炭酸カリウム(KCO)と共存する。
CO+HO+CO⇔ 2KHCO (式1)
吸放出剤2の一部はKCOにて構成されている。吸放出剤2は、KHCOとKCOとの平衡共存物である。KHCO及びKCOの平衡反応は、COの吸放出を伴い、更にHOの吸放出をも伴う。吸放出剤2がCOを吸収するとき、同時にHOをも吸収する。吸放出剤2がCOを放出するとき、同時にHOをも放出する。吸放出剤2におけるKHCOとKCOの割合は、吸放出剤2の配置環境のCO分圧、HO分圧、温度、圧力等に応じて変動する。吸放出剤2におけるKHCOとKCOの合計モル数に対するKHCOのモル存在率αは下式で定義される。
【数1】

【0039】
以下、吸放出部材11を構成する吸放出剤2のKHCOのモル存在率αを、α1と表記する。吸放出部材21を構成する吸放出剤2のKHCOのモル存在率αを、α2と表記する。吸放出剤2が外気(空気)中に置かれたときの平衡状態でのKHCOのモル存在率αは、α0と表記する。第1、第2吸放出部材11,21のKHCOモル存在率α1,α2は、少なくとも大気中での平衡値α0より大きいことが好ましい(α1>α0、α2>α0)。HO分圧がハウス90内と等しくCO分圧が外気中と等しい環境で平衡しているときの吸放出剤2のKHCOモル存在率αを、αAとする(図2参照)。HO分圧が外気中と等しくCO分圧がハウス90内の設定分圧(後記設定濃度と等価)と等しい環境で平衡しているときの吸放出剤2のKHCOモル存在率αを、αBとする(図2参照)。
【0040】
二酸化炭素供給装置1は、αA>αBとなる条件下で運転することが好ましい。更に、二酸化炭素供給装置1は、例えば、αB以上αA以下の範囲を選択範囲とし、α1及びα2がそれぞれ上記選択範囲内(αA〜αB)で変動するように運転されることが好ましい。すなわち、下記の関係を満たすように運転されることが好ましい。
αA≧α1≧αB、及びαA≧α2≧αB (式3)
α1,α2が、上記選択範囲(αA〜αB)より広い範囲内で変動するようにしてもよく、上記選択範囲(αA〜αB)から高率側又は低率側にシフトした範囲内で変動するようにしてもよい。
【0041】
送風手段30は、第1開口91とビニールハウス90の内部と第2開口92を経由する送風経路を形成する。送風手段30は、第1送風部31と第2送風部32を含む。これら送風部31,32はファンにて構成されている。第1ファン31は、第1開口91に設けられている。ファン31が第1吸放出手段10の各吸放出部材11の端面に面し、吸放出部材11間の隙間12に臨んでいる。図において、ファン31は、第1吸放出手段10より屋外側に配置されているが、第1吸放出手段10よりビニールハウス90の室内側に配置されていてもよい。ファン31の回転によって、外気が第1開口91から第1吸放出手段10を通り抜けてビニールハウス90の内部に送り込まれる。この外気の流れに押されて、ビニールハウス90内の雰囲気ガスが第2吸放出手段20を通り抜けて第2開口92から外へ送出される。
【0042】
第2ファン32は、第2開口92に設けられている。ファン32が第2吸放出手段20の各吸放出部材21の端面に面し、吸放出部材21間の隙間22に臨んでいる。図において、ファン32は、第2吸放出手段20より屋外側に配置されているが、第2吸放出手段20よりビニールハウス90の室内側に配置されていてもよい。ファン32の回転によって、外気が第2開口92から第2吸放出手段20を通り抜けてビニールハウス90の内部に送り込まれる。この外気の流れに押されて、ビニールハウス90内の雰囲気ガスが第1吸放出手段10を通り抜けて第1開口91から外へ送出される。
【0043】
したがって、送風手段30の送風経路上に吸放出手段10,20が配置されている。第1吸放出手段10の吸放出部材11間の隙間12及び第2吸放出手段20の吸放出部材21間の隙間22が、送風手段30の送風経路の一部を構成している。
【0044】
二酸化炭素供給装置1は、更にコントローラ3を備えている。コントローラ3は、CPU、メモリ、入出力インターフェース、送風手段30の駆動回路等を含む。コントローラ3によって送風手段30の動作が制御される。具体的には、コントローラ3は、第1ファン31と第2ファン32の何れか一方を選択的に作動させ、他方を停止させる。これによって、送風手段30の送風方向が選択され、かつ吸放出手段10,20の何れか一方がCOを吸収し、吸放出手段10,20の他方がCOを放出する。以下、外気が第1開口91からビニールハウス90内に送入され、かつビニールハウス90内の雰囲気ガスが第2開口92から外部へ送出されるように送風手段30が動作する期間を第1モード(第1工程)と称し、外気が第2開口92からビニールハウス90内に送入され、かつビニールハウス90内の雰囲気ガスが第1開口91から外部へ送出されるように送風手段30が動作する期間を第2モード(第2工程)と称す。コントローラ3は、送風手段30の送風及び吸放出手段10,20の吸放出のモードを第1モードと第2モードの間で切り替える切り替え手段を構成している。
【0045】
コントローラ3のメモリには、第1、第2の各モードを継続して実行する時間Tが設定されている。設定時間Tは、例えばファン31,32の送風流量の積算値がビニールハウス90の内容積とほぼ等しくなる時間とする。すなわち、ファン31,32の単位時間あたりの送風流量をQ、ビニールハウス90の内容積をVとすると、下式が成り立つようにモード継続時間Tを設定する。
Q×T=V (式4)
したがって、第1、第2の各モードを時間Tだけ継続すると、ビニールハウス90内のガス全体をほぼ入れ替えたとみなすことができる。なお、設定時間Tは、式4を満たす大きさに限られず、T<(V/Q)でもよく、T>(V/Q)でもよい。
【0046】
二酸化炭素供給装置1のファン31,32やコントローラ3の駆動電源としては、太陽電池を用いるのが好ましい。これによって、商用電源が供給不能な場所でも運転することができる。
【0047】
上記のように構成された二酸化炭素供給装置1の動作を説明する。
二酸化炭素供給装置1は、切り替え手段3の切り替え制御によって第1モード(第1工程)と第2モード(第2工程)を交互に実行する。モード(工程)に応じて、第1ファン31と第2ファン32の何れか一方を選択的に作動する。第1モードでは、外気を第1開口91及び第1吸放出手段10を通して、ハウス90内に送り込み、かつハウス90内の雰囲気ガスを第2吸放出手段20及び第2開口92を通して屋外へ送出する。このとき、第1吸放出部材11がCOを放出し、かつ第2吸放出部材21が送出ガス中のCOを吸収する。第2モードでは、外気を第2開口92及び第2吸放出手段20を通して、ハウス90内に送り込み、かつハウス90内の雰囲気ガスを第1吸放出手段10及び第1開口91を通して屋外へ送出する。このとき、第2吸放出部材21がCOを放出し、かつ第1吸放出部材11が送出ガス中のCOを吸収する。
【0048】
各モードの動作を更に詳述する。いま、ビニールハウス90内のCO濃度は、二酸化炭素供給装置1の継続運転によって外気中のCO濃度より高い設定濃度になっているものとする。なお、運転立ち上げ時には、COボンベ等の他の二酸化炭素供給手段によってビニールハウス90内のCO濃度を設定濃度にすることができる。また、式3が満たされ、更にはα90>αA≒α1>α2≒αB>α0であるものとする。ここで、α90は、吸放出剤2がハウス90内の雰囲気ガス下において平衡状態に達しているときのKHCOモル存在率αである。この条件下において、二酸化炭素供給装置1は、第1モード(第1工程)を選択する。
【0049】
[第1モード(第1工程)]
第1モード(第1工程)では、第1ファン31を作動させ、第2ファン32を停止する。第1ファン31の回転によって、外気が、第1開口91を通り、更に第1吸放出手段10の吸放出部材11,11間の隙間12や両端の吸放出部材11の外側を通って、ビニールハウス90の内部へ送り込まれる。この送入ガスが第1吸放出部材11に接触する。
【0050】
第1吸放出部材11においては、KHCO存在率α1が外気中平衡値α0より十分大きいから(α1>α0)、KHCOがKCOに変換される向き(式1の左向き)に平衡が移動する。この平衡反応によって、吸放出部材11からCOが放出される。このCOが送入ガスに混じる。これによって、送入ガスのCO濃度が増大する。上記平衡反応ではHOも放出されるが、送入ガス中のHO含有量は、たとえ相対湿度10%程度であっても上記HO放出量と比べると十分に大きいため、殆ど不変である。したがって、送入ガスは、屋外と略同じHO分圧を保ちながらCO分圧だけが増大する。吸放出部材11のKHCO存在率α1は、HO分圧が外気中と等しくCO分圧がハウス90内の設定分圧と等しいときの平衡値αBより大きいから(α1>αB)、送入ガスのCO濃度が設定濃度以上になるまで、吸放出部材11がCOを放出できる。よって、設定濃度以上のCO濃度の送入ガスをハウス90内に供給できる。吸放出部材11のKHCO存在率α1は、COの放出に伴って低下していく。
【0051】
更に、ビニールハウス90内の雰囲気ガスが、上記外気送入の流れに押されて、第2吸放出手段20の吸放出部材21,21間の隙間22や両端の吸放出部材21の外側を通り、第2開口92を経て、外部へ送出される。この送出ガスが第2吸放出部材21に接触する。
【0052】
第2吸放出部材21においては、KHCO存在率α2がハウス内平衡値α90より小さいため(α2<α90)、KCOがKHCOに変換される向き(式1の右向き)に平衡が移動する。この平衡反応によって、吸放出部材21が送出ガス中のCOを吸収する。これによって、送出ガスのCO濃度が低下する。上記平衡反応ではHOも吸収されるが、送出ガス中のHO含有量は、上記HO吸収量と比べると十分に大きいため、殆ど不変である。したがって、送出ガスは、ハウス90内と略同じHO分圧を保ちながらCO分圧だけが低下する。吸放出部材21のKHCO存在率α2は、HO分圧がハウス90内と等しくCO分圧が外気中と等しいときの平衡値αAより小さいから(α2<αA)、送出ガスが外気より低CO濃度になるまで、吸放出部材21が送出ガスからCOを吸収できる。よって、送出ガスは、外気より低CO濃度の状態で屋外に排出される。吸放出部材21のKHCO存在率α2は、COの吸収に伴って増大する。第1モードを継続することによって、やがてα2>α1になる。更には、αA≒α2>α1≒αBに近付く。
【0053】
切り替え手段3は、モードの切り替えタイミングを判断する。切り替えタイミングに達したとき、第1モードを第2モードに切り替える。例えば、切り替え手段3は、第1モードの継続時間をカウントし、継続時間が設定時間Tに達したか否かを判断する。すなわち、実質的に、第1モードにおける積算送風流量Q×Tがビニールハウス90の内容積Vとほぼ同じになったか否かを判断する(式4)。切り替え手段3は、第1モードの継続時間が設定時間Tに達したとき、第1モードから第2モードに切り替える。この時点でαA≒α2>α1≒αBになっていることが好ましい。
【0054】
[第2モード(第2工程)]
第2モード(第2工程)では、第1ファン31を停止し、第2ファン32を回転させる。第2ファン32の回転によって、外気が、第2開口92を通り、更に第2吸放出手段20の吸放出部材21,21間の隙間22や両端の吸放出部材21の外側を通って、ビニールハウス90の内部へ送り込まれる。この第2開口92からの送入ガスが吸放出部材21に接触する。
【0055】
このとき、第2吸放出部材21においては、KHCO存在率α2が外気中平衡値α0より十分大きいから(α2>α0)、KHCOがKCOに変換される向き(式1の左向き)に平衡が移動する。この平衡反応によって、吸放出部材21からCOが放出される。このCOが送入ガスに混じる。これによって、送入ガスのCO分圧が増大する。第1モードにおいて述べた通り、このとき、送入ガスのHO分圧は殆ど不変である。吸放出部材21のKHCO存在率α2は、HO分圧が外気中と等しくCO分圧がハウス90内の設定分圧と等しいときの平衡値αBより大きいから(α2>αB)、送入ガスのCO濃度が設定濃度以上になるまで、吸放出部材21がCOを放出できる。よって、設定濃度以上のCO濃度の送入ガスをハウス90内に供給できる。吸放出部材21のKHCO存在率α2は、COの放出に伴って低下していく。
【0056】
更に、ビニールハウス90内の雰囲気ガスが、上記外気送入の流れに押されて、第1吸放出手段10の吸放出部材11,11間の隙間12や両端の吸放出部材11の外側を通り、第1開口91を経て、外部へ送出される。この送出ガスが第1吸放出部材11に接触する。
【0057】
第1吸放出部材11においては、KHCO存在率α1がハウス内平衡値α90より小さいため(α1<α90)、KCOがKHCOに変換される向き(式1の右向き)に平衡が移動する。この平衡反応によって、吸放出部材11が送出ガス中のCOを吸収する。これによって、送出ガスのCO分圧が低下する。第1モードにおいて述べた通り、このとき、送出ガスのHO分圧は殆ど不変である。吸放出部材11のKHCO存在率α1は、HO分圧がハウス90内と等しくCO分圧が外気中と等しいときの平衡値αAより小さいから(α1<αA)、送出ガスが外気より低CO濃度になるまで、吸放出部材11が送出ガスからCOを吸収できる。送出ガスは、外気より低CO濃度の状態で屋外に排出される。吸放出部材11のKHCO存在率α1は、COの吸収に伴って増大する。第2モードを継続することによって、やがてα1>α2になる。更には、αA≒α1>α2≒αBに近付く。
【0058】
切り替え手段3は、モードの切り替えタイミングを判断し、切り替えタイミングに達したとき、第2モードを第1モードに切り替える。例えば、切り替え手段3は、第2モードの継続時間をカウントし、継続時間が設定時間Tに達したか否かを判断する。すなわち、実質的に、第2モードにおける積算送風流量Q×Tがビニールハウス90の内容積Vとほぼ同じになったか否かを判断する(式4)。切り替え手段3は、第2モードの継続時間が設定時間Tに達したとき、第2モードから第1モードに切り替える。この時点でαA≒α1>α2≒αBになっていることが好ましい。
【0059】
このようにして、二酸化炭素供給装置1によれば、第1モード(第1工程)と第2モード(第2工程)を反復して実行することによって、COをビニールハウス90内に長期間にわたって、ないしは半永続的に供給することができる。これによって、ビニールハウス90内のCO濃度を設定濃度に維持できる。これによって、作物Sの生育を促進できる。しかも、二酸化炭素供給装置1によれば、ビニールハウス90内の換気を行ないながらCOを吸放出できる。したがって、夏季の運転に好適である。よって、夏季には、太陽光線の強さと相俟って、作物Sの生育を十分に促進させることができる。
【0060】
COとHOが絡む吸放出反応(式1)を起こす物質(KHCO等)を吸放出剤2として使うことで、ビニールハウス90内の湿度を外気の湿度より高くすれば、ビニールハウス90内のCO濃度を外気中のCO濃度より自動的に高く保つことができる。
【0061】
吸放出手段10,20が空気中からCOを吸収し、このCOを放出するものであるから、空気中のCOがいわばCO原料であると言える。したがって、二酸化炭素ボンベ、ドライアイス、化石燃料、炭素電極等の特別なCO原料を定期的に補充する必要がない。よって、保守、管理が容易であり、かつランニングコストを抑えることができる。ハウス90から送出されるガスは外気より低CO濃度になっているから、COのロスを抑えることができる。
【0062】
吸放出部材11,12のガス流方向に沿う長さを大きく(例えば1m程度に)することで、送入出ガスと吸放出部材11,12が十分に接触することができる。これによって、COの吸収反応及び放出反応を確実に起こさせることができる。
【0063】
吸放出部材11,21のKHCO存在率α1,α2は、二酸化炭素供給装置1の継続運転に伴って上記選択範囲(αA〜αB)内で増大、減少を繰り返す。KHCO存在率α1,α2の変動幅は、吸放出部材11,21の量、各モードの継続時間等によって調節できる。吸放出剤2の量を増やすか、各モードの継続時間を短くすると、KHCO存在率α1,α2の変動幅を略ゼロにできる。ハウス90の内容積が大きいほど、或いは作物Sの光合成が盛んなほど、吸放出部材11,21を増量することが好ましい。
【0064】
以上の説明では、KHCOモル存在率α1,α2が吸収放出部材11,21の全体にわたって一様としたが、実際のKHCOモル存在率α1,α2は、吸収放出部材11,21の場所によって差が出来、送風経路に沿って分布が形成されることがある。各吸収放出部材11,21における屋外側の部分は、存在率α1,α2が比較的低くなり、ハウス90の室内寄りの部分は、存在率α1,α2が比較的高くなる傾向がある。そのため、外気送入によるCO放出時には、はじめに低存在率αの屋外側部分と送入ガスが接触し、これにより送入ガスのCO濃度が途中まで上昇する。その後、高存在率αの室内寄り部分と送入ガスが接触し、送入ガスのCO濃度が更に上昇する。ハウス90内の雰囲気ガス送出によるCO吸収時には、はじめに高存在率αの室内寄り部分と送出ガスが接触し、これにより送出ガスのCO濃度が途中まで低下する。その後、低存在率αの屋外側部分と送出ガスが接触し、送出ガスのCO濃度が更に低下する。したがって、吸収放出部材11,21における屋外側部分のα1,α2の変動範囲は、上記選択範囲αA〜αBより低い側にシフトする。吸収放出部材11,21における室内寄り部分のα1,α2の変動範囲は、上記選択範囲αA〜αBより高い側にシフトする。よって、吸収放出部材11,21全体としてのα1,α2の変動範囲を、上記選択範囲αA〜αBよりも低率側にも高率側にも広くできる。これによって、送入ガスのCO濃度を確実に高くでき、かつ送出ガスのCO濃度を確実に低くできる。
【0065】
二酸化炭素供給装置1は、乾燥地帯での使用に特に適している。これを、図2に基づいて具体例によって説明する。外気の相対湿度は10%(温度30℃)であり、かつCO分圧は38Paであるものとする。ハウス90内の雰囲気ガスの相対湿度は80%(温度30℃)であり、かつCO分圧は設定分圧の100Paになっているものとする。図2に示すように、このとき、選択範囲の上限値αA(HO分圧がハウス90内と等しくCO分圧が外気中と等しいときの平衡状態でのKHCOモル存在率)は、αA=0.991である。また、選択範囲の下限値αB(HO分圧が外気中と等しくCO分圧がハウス90内の設定分圧と等しいときの平衡状態でのKHCO存在率)は、αB=0.976である。簡単のため、各吸収放出部材11,21内のKHCO存在率α1,α2の分布は無いものとし、吸放出部材11,21のKHCO存在率α1,α2は、上記選択範囲αA〜αB内で調節されるものとする。したがって、0.976≦α1≦0.991及び0.976≦α2≦0.991である。
【0066】
第1モードの開始時において、第1吸放出部材11のKHCOモル存在率α1が、α1=0.990(≒αA)であり、かつ第2吸放出部材21のKHCOモル存在率α2が、α2=0.977(≒αB)であったものとする。α1>αBであるから、図2の破線に示すように、湿度10%の送入ガスのCO分圧が100Pa以上になるまで、第1吸放出部材11からCOを十分に放出できる。また、α2<αAであるから、図2の実線に示すように、湿度80%の送出ガスのCO分圧が大気中のCO分圧(38Pa)以下になるまで、第2吸放出部材21が送出ガスからCOを十分に吸収できる。
【0067】
第1モードの運転を継続すると、やがて第1吸放出部材11のKHCOモル存在率α1がα1=0.977(≒αB)まで低下し、第2吸放出部材21のKHCOモル存在率α2がα2=0.990(≒αB)まで上昇する。この時点でも、α1>α0であるから、第1吸放出部材11はCO放出能力を残している。また、α2<α90であるから、第2吸放出部材21はCO吸収能力を残している。この時点で第2モードに切り替える。
【0068】
第2モードでは、α2>αBであるから、図2の破線から明らかな通り、湿度10%の送入ガスのCO分圧が100Pa以上になるまで、第2吸放出部材21からCOを十分に放出できる。また、α1<αAであるから、図2の実線から明らかな通り、湿度80%の送出ガスのCO分圧が大気中のCO分圧(38Pa)以下になるまで、第1吸放出部材11が送出ガスからCOを十分に吸収できる。
【0069】
第2モードの運転を継続すると、やがて第1吸放出部材11のKHCOモル存在率α1がα1=0.990(≒αB)まで上昇し、第2吸放出部材21のKHCOモル存在率α2がα2=0.977(≒αB)まで低下する。この時点で第1モードに切り替える。
【0070】
このようにして、外気の相対湿度が10%程度の乾燥環境においては、第1、第2モードを反復することによって、CO分圧が100Pa(≒CO濃度1000ppm)以上の送入ガスをハウス90内に継続的に供給でき、ハウス90内をCO分圧が100Pa程度の高CO濃度環境に維持することができる。第1、第2吸放出部材11,21の量を増やせば、KHCO存在率α1,α2を例えばα1,α2=0.98程度の略一定値に保ちながら、ハウス90内のCO濃度を1000ppm(CO分圧を100Pa)程度に維持することができる。
【0071】
次に、外気が温度30℃で相対湿度50%、CO分圧は38Paであるものとする。この場合、図2の一点鎖線に示すように、ハウス90内(相対湿度80%)のCO設定分圧が52Paのとき、αA=αB=0.991になる。したがって、ハウス90のCO濃度を520ppmまでは上昇可能である。この場合、吸放出部材11,21のKHCO存在率α1,α2が、第1、第2モードの継続運転中、略一定値(α1=α2=0.991)に維持されるように、吸放出部材11,21の量やモードの切り替えタイミングを調節する。ハウス90内のCO設定分圧を52Paより大きくすると、αBがαA(=0.991)より大きくなる。したがって、設定可能なCO濃度は、520ppmが上限である。
以上のように、二酸化炭素供給装置1は、外気の湿度が低ければ低いほど、ハウス90内のCO設定濃度を高くすることができる。
なお、上記のα1,α2,αA,αB等の数値はあくまでも例示であって、本発明はこれら例示した値に限られない。
【0072】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては図面に同一符号を付して説明を省略する。
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態の二酸化炭素供給装置1は、二酸化炭素補充手段40を更に備えている。二酸化炭素補充手段40は、吸放出剤容器41と、送気ポンプ42(送気手段)と、吸引ポンプ43を含む。これら要素41,42,43は、ビニールハウス90の外部に配置されているが、ビニールハウス90の内部に収容されていてもよい。
【0073】
容器41は、大気圧の例えば10分の1程度低圧の内部圧力に対し耐圧性を有し、更に好ましくは大気圧より高圧の内部圧力に対しても耐圧性を有している。容器41の内部に第2の吸放出剤2Aが粉末の状態で収容されている。第2吸放出剤2AがKHCOとKCOの平衡共存物にて構成されている点は、第1、第2吸放出部材11,21の第1吸放出剤2と同様である。第2の吸放出剤2Aは、粉末状に限られず、板状ないしは塊状になっていてもよい。
【0074】
容器41の一端部に送気ポンプ42が接続されている。送気ポンプ42と容器41とを結ぶ管路上に開閉弁48が設けられている。容器41の他端部には、開放路44が設けられている。開放路44に開度調節弁45が設けられている。容器41の一端部に吸引ポンプ43が接続されている。吸引ポンプ43は真空ポンプにて構成されている。吸引ポンプ43は、スクロール式の真空ポンプでもよく、レシプロ式の真空ポンプでもよく、ダイヤフラム式の真空ポンプでもよい。
【0075】
二酸化炭素補充手段40のポンプ42,43等の動力源には太陽電池を用いることが好ましい。これによって、商用電源が供給不能な場所でも運転することができる。ポンプ42,43等の動力源として、ディーゼル発電機、商用電源等を用いてもよい。
【0076】
吸引ポンプ43の排気ポート43bに補充路46が接続されている。補充路46はビニールハウス90へ延びている。補充路46は、三方弁47を介して二手に分岐している。補充路46の各分岐路の先端に補充ノズル46a,46bが設けられている。補充ノズル46a,46bの先端部が、ビニールハウス90の内部に差し入れられて開口している。補充路46が、吸引ポンプ43の排気ポート43bとビニールハウス90の内部とを連通している。
【0077】
第1補充ノズル46aの先端部は、第1吸放出手段10の近傍、かつ第1吸放出手段10よりビニールハウス90の中央側に配置されている。第2補充ノズル46bの先端部は、第2吸放出手段20の近傍、かつ第2吸放出手段20よりビニールハウス90の中央側に配置されている。
【0078】
ビニールハウス90内には二酸化炭素濃度センサ4が設けられている。図示は省略するが、二酸化炭素濃度センサ4の検出信号線がコントローラ3に接続されている。
【0079】
コントローラ3は、第1、第2モードの切り替え手段としての機能に加えて、二酸化炭素補充手段40の制御手段としての機能をも有している。コントローラ3には、ポンプ42,43や弁45,47,48の制御プログラムやこれら要素42,43,45,47,48の駆動回路等が付加されている。コントローラ3の制御信号線(図示省略)がポンプ42,43や弁45,47,48に接続されている。
【0080】
第2実施形態では、第1工程(第1モード)及び第2工程(第2モード)とは別途に、二酸化炭素補充手段40によって補充準備工程及び補充工程を行なう。
[補充準備工程]
補充準備工程では、開閉弁48を開く。そして、送気ポンプ42が、コントローラ3の指令に応じて空気を吸放出剤容器41内に送る。これによって、第2の吸放出剤2Aに空気中のCOを吸着させることができる。このとき、吸引ポンプ43は停止しておく。開度調節弁45は全開にし、開放路44から排気されるようにする。これによって、吸放出剤容器41の内部をほぼ大気圧に保つことができる。開度調節弁45を閉じて、吸放出剤容器41内を大気圧より高圧にしてもよい。
【0081】
更に、二酸化炭素濃度センサ4によって、ビニールハウス90内の雰囲気ガスのCO濃度を検出する。検出結果をコントローラ3に入力する。コントローラ3は、COの検出濃度に基づいて補充工程を実行するか否かを判断する。例えば、CO検出濃度がある閾値を下回ったとき、補充工程を実行する。CO検出濃度の低下勾配に基づいて補充工程の要否を判断してもよい。
【0082】
[補充工程]
補充工程の動作は、実行中のモードが第1モード、第2モードの何れであるかによって異なる。具体的には、第1モードにおいてビニールハウス90内のCO濃度が閾値を下回ったときは、三方弁47によって吸引ポンプ43と第1補充ノズル46aを連通し、吸引ポンプ43と第2補充ノズル46bを遮断する。開閉弁48は閉じ、送気ポンプ42は停止しておく。開度調節弁45は全閉又は半開にする。特に吸引ポンプ43がダイヤフラム式真空ポンプ等の到達真空度が小さい真空ポンプである場合には、開度調節弁45を半開にすることが好ましい。そして、吸引ポンプ43を駆動する。これによって、容器41内の圧力が低下する。そのため、第2吸放出剤2Aにおいて、KHCOがKCOに変換される方向(式1の左方向)に平衡が移動し、第2吸放出剤2AからCOが放出される。この容器41内のCO含有ガスが、吸引ポンプ43によって吸引される。吸引ポンプ43の到達真空度が小さくても、開度調節弁45を半開にすることで、容器41内のCO含有ガスを確実に吸い込むことができる。吸引ポンプ43は、吸い込んだCO含有ガスを排気ポート43bから吐出する。このCO含有ガスが、三方弁47を経て第1補充ノズル46aへ導入され、第1補充ノズル46aからビニールハウス90内の第1吸放出手段10の近くに吹き出される。これによって、COを第1吸放出手段10とは別途にビニールハウス90内に補充できる。よって、ビニールハウス90内のCO濃度を閾値以上の高濃度に維持できる。この結果、作物Sの生育を確実に促進することができる。
【0083】
第1モードにおけるビニールハウス90内には、第1ファン31によって第1吸放出手段10側から第2吸放出手段20側へ向かう雰囲気ガス流が形成されている。この流れの比較的上流側に第1補充ノズル46aからのCO含有ガスが合流する。これによって、吸放出剤容器41からのCOをビニールハウス90内の広い範囲に行き渡らせることができる。
【0084】
第2モードにおいてビニールハウス90内のCO濃度が閾値を下回ったときは、三方弁47によって吸引ポンプ43と第2補充ノズル46bを連通し、吸引ポンプ43と第1補充ノズル46aを遮断する。開閉弁48を閉じ、送気ポンプ42を停止し、開度調節弁45を全閉又は半開にし、そのうえで吸引ポンプ43を駆動する点は上記第1モードと同様である。これによって、第1モードのときと同様に、吸放出剤容器41内の圧力が低下し、第2吸放出剤2AからCOが放出される。このCOを含む吸放出剤容器41内のガスが、吸引ポンプ43によって吸引されて、第2補充ノズル46bからビニールハウス90内の第2吸放出手段20の近くに吹き出される。これによって、COを第2吸放出手段20とは別途にビニールハウス90内に補充できる。よって、ビニールハウス90内のCO濃度を閾値以上の高濃度に維持でき、作物Sの生育を確実に促進することができる。
【0085】
第2モードにおけるビニールハウス90内には、第2ファン32によって第2吸放出手段20側から第1吸放出手段10側へ向かう雰囲気ガス流が形成されている。この流れの比較的上流側に第2補充ノズル46bからのCO含有ガスが合流する。これによって、吸放出剤容器41からのCOをビニールハウス90内の広い範囲に行き渡らせることができる。
【0086】
[第3実施形態]
図4は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態の二酸化炭素供給装置1は、第1、第2の噴霧ノズル51,52を更に備えている。第1噴霧ノズル51は、ビニールハウス90の内部における第1吸放出手段10の近くに配置されている。第2噴霧ノズル52は、ビニールハウス90の内部における第2吸放出手段20の近くに配置されている。これら噴霧ノズル51,52は、吸放出手段10,20に面する方向と、吸放出手段10,20とは反対側を向く方向との間を水平方向に180度回転可能になっている。噴霧ノズル51,52の基端部に図示しない水供給源が連なっている。水供給源からの水が、噴霧ノズル51,52に供給される。噴霧ノズル51,52は、水を霧化し、噴霧口51a,52aから噴霧する。
噴霧ノズル51の向きが第1吸放出手段10に向けて固定されていてもよい。噴霧ノズル52の向きが第2吸放出手段20に向けて固定されていてもよい。
【0087】
コントローラ3には、噴霧ノズル51,52の制御プログラムや駆動回路が付加されている。コントローラ3が噴霧ノズル51,52の向き及び噴霧の制御を行なう。コントローラ3は、切り替え手段としての機能に加えて、噴霧ノズル51,52の制御手段としての機能をも有している。
【0088】
図4において実線で示すように、第1モードでは、噴霧ノズル51を第1吸放出手段10とは反対側に向ける。かつ、噴霧ノズル52を第2吸放出手段20に向ける。噴霧ノズル51から水をビニールハウス90内に噴霧する。この霧が気化する際に気化熱を奪う。したがって、ビニールハウス90内を冷房することができる。併せて、噴霧ノズル52から水を第2吸放出手段20に向けて噴霧する。これによって、第2吸放出手段20の周辺の水蒸気分圧が高まる。したがって、吸放出部材21において、KCOがKHCOに変換される方向に平衡が確実に移動するようにでき、吸放出部材21によるCO吸収を促進させることができる。第1モードでは、噴霧ノズル51からの噴霧を停止してもよい。
【0089】
図4において二点鎖線で示すように、第2モードでは、噴霧ノズル51を第1吸放出手段10に向ける。かつ噴霧ノズル52を第2吸放出手段20とは反対側に向ける。噴霧ノズル51から水を第1吸放出手段10に向けて噴霧する。これによって、第1吸放出手段10の周辺の水蒸気分圧が高まる。したがって、吸放出部材11において、KCOがKHCOに変換される方向に平衡が確実に移動するようにでき、吸放出部材11によるCO吸収を促進させることができる。併せて、噴霧ノズル52から水をビニールハウス90内に噴霧する。この霧が気化する際に気化熱を奪う。したがって、ビニールハウス90内を冷房することができる。第2モードでは、噴霧ノズル52からの噴霧を停止してもよい。
【0090】
[第4実施形態]
図5は、本発明の第4実施形態を示したものである。第4実施形態の二酸化炭素供給装置1は、第1、第2の加熱手段61,62及び第1、第2の冷却手段63,64を更に備えている。
【0091】
第1加熱手段61は、ビニールハウス90の内部の第1吸放出手段10の近くに配置されている。第2加熱手段62は、ビニールハウス90の内部の第2吸放出手段20の近くに配置されている。加熱手段61,62は、電熱ヒータでもよく、熱交換器でもよく、ヒートポンプでもよい。
【0092】
第1冷却手段63は、ビニールハウス90の内部の第1吸放出手段10の近くに配置されている。第2冷却手段64は、ビニールハウス90の内部の第2吸放出手段20の近くに配置されている。冷却手段63,64は、噴霧式冷却器でもよく、熱交換器でもよく、ヒートポンプでもよい。
【0093】
第1の加熱・冷却手段61,63は、第1吸放出手段10の近くに配置されていれば、その配置位置は図示した位置に限定されない。第2の加熱・冷却手段62,64は、第2吸放出手段20の近くに配置されていれば、その配置位置は図示した位置に限定されない。
【0094】
コントローラ3には、加熱・冷却手段61〜64の制御プログラムや駆動回路が付加されている。コントローラ3は、切り替え手段としての機能に加えて、加熱・冷却手段61〜64の制御手段としての機能をも有している。
【0095】
第1モードでは、第1加熱手段61を作動し、第2加熱手段62を停止する。かつ、第1冷却手段63を停止し、第2冷却手段64を作動する。第1加熱手段61の作動によって、第1吸放出手段10を加熱できる。これによって、第1吸放出手段10内の吸放出剤2において、KHCOがKCOに変換される方向に平衡が移動し、第1吸放出手段10からのCOの放出を促進できる。また、第2冷却手段64の作動によって、第2吸放出手段20を冷却できる。これによって、第2吸放出手段20内の吸放出剤2において、KCOがKHCOに変換される方向に平衡が移動し、第2吸放出手段20のCO吸収を促進できる。
【0096】
第2モードでは、第1加熱手段61を停止し、第2加熱手段62を作動する。かつ、第1冷却手段63を作動し、第2冷却手段64を停止する。第2加熱手段62の作動によって、第2吸放出手段20を加熱できる。これによって、第2吸放出手段20内の吸放出剤2において、KHCOがKCOに変換される方向に平衡が移動し、第2吸放出手段20からのCOの放出を促進できる。また、第1冷却手段63の作動によって、第1吸放出手段10を冷却できる。これによって、第1吸放出手段10内の吸放出剤2において、KCOがKHCOに変換される方向に平衡が移動し、第1吸放出手段10のCO吸収を促進できる。
【0097】
[第5実施形態]
図6は、本発明の第5実施形態を示したものである。第5実施形態では、第1吸放出手段10が、上下一対の覆部材15,16を更に含む。これら覆部材15,16は板状になっている。吸収部材11の上方に覆部材15が被せられている。覆部材15は、複数の吸収部材11間に跨り、隣接する吸収部材11,11どうし間の隙間12の上端の開口を塞いでいる。吸収部材11の下方に覆部材16が設けられている。覆部材16は、複数の吸収部材11間に跨り、隣接する吸収部材11,11どうし間の隙間12の下端の開口を塞いでいる。これによって、送入出ガスが、隙間12の内部を通過する際、隙間12の上端部又は下端部から漏れるのを防止できる。したがって、送入出ガスが吸収部材11の略全面と接触するようにでき、吸収部材11のCO吸放出反応を確実に起こさせることができる。
【0098】
同様に、第2吸放出手段20にも、上下一対の覆部材25,26が設けられている。これら覆部材25,26は板状になっている。吸収部材21の上方に覆部材25が被せられている。覆部材25は、複数の吸収部材21間に跨り、隣接する吸収部材21,21どうし間の隙間22の上端の開口を塞いでいる。吸収部材21の下方に覆部材26が設けられている。覆部材26は、複数の吸収部材21間に跨り、隣接する吸収部材21,21どうし間の隙間22の下端の開口を塞いでいる。これによって、送入出ガスが、隙間22の内部を通過する際、隙間22の上端部又は下端部から漏れるのを防止できる。したがって送入出ガスが吸収部材21の略全面と接触するようにでき、吸収部材21のCO吸放出反応を確実に起こさせることができる。
【0099】
[第6実施形態]
開口91,92と吸放出手段10,20とファン31,32の位置関係は、既述実施形態のものに限られず、適宜改変できる。図7は、本発明の第6実施形態を示したものである。第6実施形態では、吸放出手段10が開口91の外部ひいてはビニールハウス90の外部に配置されている。ファン31が、開口91の内部に設けられ、ひいては吸放出手段10よりビニールハウス90の内側に配置されている。
【0100】
同様に、吸放出手段20が開口92の外部ひいてはビニールハウス90の外部に配置されている。ファン32が、開口92の内部に設けられ、ひいては吸放出手段20よりビニールハウス90の内側に配置されている。
【0101】
第6実施形態では、吸放出部材11,21がビニールハウス90内の熱で高温になるのを避けることができる。これによって、吸放出部材11,21の吸収特性を向上できる。
加えて、外気の送入側においては、送入方向に沿ってファン31,32より上流側に吸放出部材11,21が位置するため、吸放出部材11,21に接する外気の圧力を下げることができる。これにより、吸放出部材11,21からのCO放出を促進させることができる。ガス送出側においては、送出方向に沿ってファン32,31より下流側に吸放出部材21,11が位置するため、雰囲気ガスの圧力を高めて吸放出部材21,11に接触させることができる。これにより、吸放出部材21,11のCO吸収を促進させることができる。
【0102】
[第7実施形態]
吸放出手段は、第1開口91及び第2開口92の両方に設けられるのに限られず、開口91,92のうち何れか一方にだけ設けられていてもよい。図8は、本発明の第7実施形態を示したものである。第7実施形態の二酸化炭素供給装置1は、吸放出手段として、第1開口91側の吸放出手段10のみを備えており、第2開口92側の第2吸放出手段20が省略されている。
【0103】
第7実施形態では、送風手段が、一基の正逆両用ファン33にて構成されている。正逆両用ファン33は、第1開口91に配置されて、各吸放出部材11の端面と対向し、吸放出部材11間の隙間12に臨んでいる。正逆両用ファン33の正転方向は、外気がビニールハウス90内へ送風される方向である。第2開口92にはファンが設けられていない。
【0104】
ビニールハウス90内に温度センサ5が設けられている。温度センサ5の検出信号線がコントローラ3に接続されている。
【0105】
更に、第7実施形態の二酸化炭素供給装置1には二酸化炭素補充手段40が設けられている。第7実施形態の二酸化炭素補充手段40では、補充路46が分岐されていない。補充路46の先端に1つの補充ノズル46cが設けられている。補充ノズル46cの先端部が、ビニールハウス90内に臨んでいる。
【0106】
第7実施形態においても、第1モードと、第2モードを交互に実行する。第1モードは、吸放出部材11におけるKHCO存在率が相対的に大きいときに実行する。第1モードでは、正逆両用ファン33を正方向に回転させる。これにより、外気が、第1開口91を通り、更に吸放出手段10の各吸放出部材11に接触しながら吸放出部材11間の隙間12及び両端の吸放出部材11の外側を通り、ビニールハウス90の内部へ送り込まれる。このとき、外気と吸放出部材11の接触によって、吸放出部材11からCOが放出され、このCOが外気と一緒にビニールハウス90内に供給される。これによって、ビニールハウス90内のCO濃度を高めることができる。吸放出部材11のKHCO存在率は、KHCOのKCOへの変換によって低下する。
【0107】
第1開口91からの外気送入に押されて、ビニールハウス90内のガスが第2開口92から排出される。例えば第1モードにおける積算送風流量Q×Tがビニールハウス90の内容積Vとほぼ同じになったとき、ファン33を停止し、第1モードを終了する。
【0108】
第7実施形態では、第1モードの終了後、第2モードに移る間に休止モードを介在させ、第2モードに直ちには移行しない。休止モードでは、ファン33を停止状態とする。休止モードの期間中、作物Sの炭素同化作用や開口91,92を通した空気の拡散等によってビニールハウス90内のCO濃度が低下したときは、これを二酸化炭素濃度センサ4が検出する。コントローラ3は、二酸化炭素濃度センサ4からの検出信号に応じて二酸化炭素補充手段40の吸引ポンプ43を操作する。これによって、吸引ポンプ43が、吸放出剤容器41内からCO含有ガスを吸引する。このCO含有ガスを補充ノズル46cからビニールハウス90内に供給する。これによって、ビニールハウス90内のCO濃度を高く維持できる。休止モードでは、第1、第2開口91,92を塞ぐことにしてもよい。
【0109】
休止モードでは、更に温度センサ5によってビニールハウス90内の温度を検出する。検出結果をコントローラ3に入力する。コントローラ3は、検出温度の上昇度が所定値(例えば1〜3℃)を上回ったとき、休止モードから第2モードに切り替える。休止モードから第2モードへの切り替えのタイミングは、ビニールハウス90内の温度変化に基づいて決定するのに限られず、ビニールハウス90内のCO濃度の変化に基づいて決定してもよく、休止時間に基づいて決定してもよい。
【0110】
第2モードでは、正逆両用ファン33を逆方向に回転させる。これにより、ビニールハウス90内の高CO濃度の雰囲気ガスが、吸放出手段10の各吸放出部材11に接触しながら吸放出部材11間の隙間12及び両端の吸放出部材11の外側を通過し、更に第1開口91を通って排出される。このとき、高CO濃度の雰囲気ガスと吸放出部材11との接触によって、雰囲気ガス中のCOが吸放出部材11に吸収される。これにより、吸放出部材11におけるKHCO存在率が上昇する。
【0111】
ビニールハウス90内の雰囲気ガスが第1開口91から排出されるのに伴って、外気が第2開口92からビニールハウス90内に入り込む。例えば第2モードにおける積算送風流量Q×Tがビニールハウス90の内容積Vとほぼ同じになったとき、ファン33を停止し、第2モードを終了する。
【0112】
第2モードの終了後、直ちに、又は殆ど間を置かずにファン33を正方向に回転させ、第1モードに切り替える。これによって、ビニールハウス90内のCO濃度が低くなっている期間を短くすることができる。第2モードから第2モードに移行する間においても休止モードを介在させることにしてもよい。
【0113】
[第8実施形態]
吸放出部材11,21は、平板状に限られない。たとえば、図9(a)に示すように、吸放出部材が、ハニカム格子構造体81にて構成されていてもよい。図9(b)に示すように、吸放出部材が、四角格子構造体82にて構成されていてもよい。図示は省略するが、吸放出部材が、三角格子等の他の格子構造体にて構成されていてもよい。そうすると、吸放出部材と送入出ガスとの接触面積を大きくでき、COの吸放出を確実に起こすことができる。ハニカムや四角格子等の格子構造の吸放出部材81,82は、送風ファン31,32の送風方向に対し平行に配置される場合に限られず、送風方向に対し交差ないしは直交するように配置されていてもよい。
【0114】
[第9実施形態]
吸放出部材11,21は、吸放出剤2の粉末をバインダで結着したものに限られない。図10(a)及び同図(b)は、本発明の第9実施形態を示したものである。第9実施形態は、吸放出部材11,21の変形例に係る。この実施形態では、吸放出部材11,21が、粉末収容体70にて構成されている。粉末収容体70は、枠71と、一対の覆体72を含む。枠71は、例えば樹脂にて構成されているが、金属、その他の材質にて構成されていてもよい。枠71は、1辺の長さが1m程度の正方形になっているが、これに限定されるものではなく、例えば、縦長又は横長の長方形であってもよい。枠71の厚さ(図10(b)の上下方向の寸法)は、例えば1mm程度であるが、これに限られるものではない。
【0115】
覆体72は、例えば布にて構成され、通気性を有している。一対の覆体72が、枠71の厚さ方向の両側の面に張られている。各覆体72が、枠71の枠内空間を覆っている。覆体72の周縁部が、枠71に固定されている。
【0116】
枠71の枠内空間に粉末状態の吸放出剤2Bが収容されている。一対の覆体72によって吸放出剤粉末2Bが枠71の枠内空間に閉じ込められている。吸放出剤粉末2Bが、KHCO及びKCOの平衡共存物である点は、既述実施形態のバインダ結着された吸放出剤2と同様である。
【0117】
第9実施形態によれば、外気やビニールハウス90内の雰囲気ガスが、覆体72を通して枠71の枠内空間に入り込むことができ、粉末状の吸放出剤2Bと十分接触できる。したがって、吸放出剤2BによるCOの吸放出反応を確実に起こすことができる。吸放出剤2Bから放出された二酸化炭素は、覆体72を通してビニールハウス90へ供給できる。
【0118】
粉末収容体70は、既述実施形態(図1〜図8)の吸放出部材11,12と同様に開口91,92の面に対し直交し、送風手段30の送風方向に沿うように配置される。これによって、送風の圧力損失を小さく抑えることができる。粉末収容体70を送風手段30の送風方向に対し交差ないしは直交するように配置してもよい。
【0119】
[吸放出剤の変形態様]
本発明の吸放出剤2,2A,2Bは、炭酸水素カリウムと炭酸水素カリウムの平衡共存物に限られず、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)と炭酸ナトリウム(NaCO)の平衡共存物であってもよく、炭酸水素リチウム(LiHCO)と炭酸リチウム(LiCO)の平衡共存物であってもよく、炭酸アンモニウム((NHCO)と炭酸水素アンモニウム((NH)HCO)との平衡共存物であってもよく、炭酸アミン化合物(アミン系炭酸塩)と炭酸水素アミン化合物(アミン系炭酸水素塩)との平衡共存物であってもよい。アミン系炭酸塩は炭酸ガスの吸収性に優れている。アミンはアンモニアの水素をアルキル基に置換したものであり、アンモニアも一種のアミンといえる。一方、アミンは不安定であるため、炭酸アミン基をポリスチレン等のポリマーの炭素鎖に結合させて固定してもよい。吸放出剤2,2A,2Bが、セスキ炭酸塩(XCO・XHCO・2HO ここで、X=K、Na、Li、NH、又はアミン化合物)を含有していてもよい。吸放出剤2,2A,2Bが、セスキ炭酸塩とセスキ炭酸水素塩との平衡共存物であってもよい。
【0120】
吸放出剤2,2A,2Bが、化学式で、XCO・yHOと表記される構造を有する炭酸塩の水和物を含有していてもよい。ここで、X=K、Na、Li、NH、又はアミン化合物であり、yは自然数である。この場合、下式の平衡反応が起きる。
CO・yHO+CO ⇔ XHCO+(y−1)HO (式5)
したがって、上記炭酸塩の水和物は炭酸水素塩と平衡共存する。式5に示すように、この平衡反応では、炭酸ガス(CO)と水蒸気(HO)が反応式の両側に分かれる。そのため、この吸放出剤は、高湿度ガスと接触するとCOを放出し、低湿度ガスと接触するとCOを吸収する。したがって、この吸放出剤は、二酸化炭素利用室内の湿度が外気の湿度よりも低い条件での使用に適している。例えば、当該吸放出剤は、乾燥した環境に適した作物を多湿な地域で生育させる場合に有効である。
【0121】
吸放出剤2,2A,2Bが、上記炭酸塩の水和物に加えて、石灰やシリカゲル等の吸湿物質(吸湿剤)を含有していてもよい。一般に、吸湿物質は以下のように吸湿放出平衡反応を行う。
Z+y’HO⇔Z・y’HO (式6)
ここで、Zは、吸湿物質であり、y’は自然数である。y=y’として、式5と式6の和をとると、下式の平衡反応式が得られる。
CO・yHO+Z+CO+HO ⇔ XHCO+Z・yHO (式7)
たとえば、X=Naの場合、下式のような平衡反応が起きる。
NaCO・10HO+Z+CO+HO ⇔ NaHCO+Z・10HO (式8)
なお、式8において、y=10とした。式7及び式8に示すように、この平衡反応では、炭酸ガス(CO)と水蒸気(HO)が反応式の互いに同じ側(左辺)に現れる。したがって、この吸放出剤は、低湿度ガスとの接触によってCOを放出し、高湿度ガスとの接触によってCOを吸収する。よって、当該吸放出剤は、外気より高湿度になる一般的なビニールハウス90での使用に好適である。
上記吸着物質Zは、シリカゲルが好ましい。
【0122】
本発明は、上記実施形態に限定されず、発明の要旨を変更しない限りにおいて種々の改変をなすことができる。
本発明は、ビニールハウス90に限られず、大気より高濃度の二酸化炭素環境を必要とする種々の二酸化炭素利用室に適用できる。ビニールハウス90以外の二酸化炭素利用室として、例えば生鮮物(野菜、食肉等)の保存室、発酵菌の発酵室や醸造室等が挙げられる。
【0123】
吸放出剤2,2A,2Bが、二種以上の炭酸塩又はその水和物と炭酸水素塩との平衡共存物を含有していてもよい。第1吸放出手段10の吸放出剤2,2Bと、第2吸放出手段20の吸放出剤2,2Bが互いに異なる炭酸塩又はその水和物と炭酸水素塩との平衡共存物を含有していてもよい。二酸化炭素補充手段40(図3、図8)の第2吸放出剤2Aの成分が、吸放出手段10,20の第1吸放出剤2,2Bとは異なる炭酸塩又はその水和物と炭酸水素塩との平衡共存物を含有していてもよい。
吸放出剤2,2Bないしは吸放出手段10,20は送風手段の送風経路上に配置されていればよい。送風手段の送風が吸放出剤2,2Bないしは吸放出手段10,20を通過するようになっていればよく、二酸化炭素利用室90の外部に吸放出剤2,2Bないしは吸放出手段10,20を設けてもよい。例えば、第1開口又は第2開口から二酸化炭素利用室90の外部に延びるダクトを設け、このダクト内に吸放出剤2,2Bないしは吸放出手段10,20を設けてもよい。
第7実施形態において、吸放出手段を第1開口91に代えて第2開口92に設けてもよい。吸放出剤2,2Bないしは吸放出手段10,20を二酸化炭素利用室90の内部の例えば中央部に設けてもよい。
【0124】
モードの切り替えタイミングは、積算送風流量に対応するモード継続時間(T≒Q/V)に基づいて決定するのに限られず、積算送風流量そのものを測定し、積算送風流量の測定値が二酸化炭素利用室90の内容積Vにほぼ達した時点に設定してもよい。積算送風流量とは無関係に設定したモード継続時間に基づいてモードの切り替えを行なってもよい。或いは、二酸化炭素利用室90内のCO濃度、二酸化炭素利用室90内の温度等に基づいてモードの切り替えを行なってもよい。
【0125】
第2、第7実施形態(図3、図8)において、二酸化炭素補充手段40が、二酸化炭素を充填したボンベであってもよく、ドライアイス収容部であってもよく、灯油等の化石燃料の燃焼部であってもよい。
【0126】
複数の実施形態を互いに組み合わせてもよい。例えば、二酸化炭素供給装置1が、二酸化炭素補充手段40と噴霧ノズル51,52の両方を備えていてもよい。二酸化炭素供給装置1が、二酸化炭素補充手段40と加熱・冷却手段61〜64の両方を備えていてもよい。二酸化炭素供給装置1が、噴霧ノズル51,52と加熱・冷却手段61〜64の両方を備えていてもよい。二酸化炭素供給装置1が、二酸化炭素補充手段40と、噴霧ノズル51,52と、加熱・冷却手段61〜64を共に備えていてもよい。第2、第3、第4、第7実施形態(図1、図3〜図5、図8)においても、第1吸放出手段10に覆部材15,16を設け、第2吸放出手段20に覆部材25,26を設けてもよい。
【0127】
第1〜第6実施形態(図1、図3〜図7)においても、第1モードから第2モードに移行する間、又は第2モードから第1モードに移行する間に休止モードを介在してもよい。
【0128】
第1〜第6実施形態(図1、図3〜図7)において、正転専用のファン31,32をそれぞれ正逆両用ファン33に代えてもよい。第7実施形態(図8)において、第1、第2開口91,92にそれぞれ正逆両用ファン33を設けてもよい。この場合、第1モードにおいて、第1開口91の正逆両用ファン33(第1送風部)を正転させて、外気を第1開口91から二酸化炭素利用室90内に送入し、かつ第2開口92の正逆両用ファン33を逆回転させて二酸化炭素利用室90内の雰囲気ガスを第2開口92から強制排気する。第2モードにおいては、第2開口92の正逆両用ファン33(第2送風部)を正転させて、外気を第2開口92から二酸化炭素利用室90内に送入し、かつ第1開口91の正逆両用ファン33を逆回転させて二酸化炭素利用室90内の雰囲気ガスを第1開口91から強制排気する。
第7実施形態(図8)において、正逆両用ファン33に代えて、第1開口91に正転専用ファン31を設け、第2開口92に正転専用ファン32を設けてもよい。この場合、第1、第2モードにおけるファン31,32の動作は、第1〜第6実施形態(図1、図3〜図7)と同様である。
送風手段30は、第1開口91又は第2開口92に設けるのに限られず、例えば二酸化炭素利用室90の内部等に配置してもよい。
【0129】
二酸化炭素補充手段40の吸引ポンプ43が二酸化炭素利用室90内に設けられ、吸放出剤容器41から吸引したガスが吸引ポンプ43の排気ポート43bから二酸化炭素利用室90内に直接供給されるようになっていてもよい。吸引ポンプ43の排気ポート43bが補充路の補充ノズルを兼ねていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、例えば農作物や園芸作物を育てるビニールハウスへの二酸化炭素施用に適用できる。
【符号の説明】
【0131】
S 作物
1 二酸化炭素供給装置
2 吸放出剤
2A 第2の吸放出剤
2B 粉末状吸放出剤
3 コントローラ(切り替え手段)
4 二酸化炭素濃度センサ
5 温度センサ
10 第1吸放出手段
11 吸放出部材
12 隙間
20 第2吸放出手段
21 吸放出部材
22 隙間
30 送風手段
31 ファン(第1送風部)
32 ファン(第2送風部)
33 正逆両用ファン(送風手段)
40 二酸化炭素補充手段
41 吸放出剤容器
42 送気ポンプ(送気手段)
43 吸引ポンプ
43b 排気ポート
44 開放路
45 開度調節弁
46 補充路
46a 第1補充ノズル
46b 第2補充ノズル
46c 補充ノズル
47 三方弁
48 開閉弁
51 噴霧ノズル
52 噴霧ノズル
61 第1加熱手段
62 第2加熱手段
63 第1冷却手段
64 第2冷却手段
70 粉末収容体(吸放出部材)
71 枠
72 覆体
81 ハニカム構造の吸放出部材
82 四角格子構造の吸放出部材
90 ビニールハウス(二酸化炭素利用室)
91 第1開口
92 第2開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1開口及び第2開口を有する二酸化炭素利用室に二酸化炭素を供給する装置であって、
二酸化炭素の吸放出を伴う平衡反応を起こす吸放出剤と、前記第1開口と前記酸化炭素利用室の内部と前記第2開口を経由する送風経路を形成する送風手段と、前記吸放出剤の吸放出及び前記送風手段の送風のモードを第1モードと第2モードとの間で交互に切り替える切り替え手段と、を備え、前記吸放出剤が前記送風手段の送風経路上に配置されており、前記第1モードでは、前記送風手段が、外気を前記第1開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記二酸化炭素利用室内の雰囲気ガスを前記第2開口から送出し、前記第2モードでは、前記送風手段が、外気を前記第2開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記雰囲気ガスを前記第1開口から送出することを特徴とする二酸化炭素供給装置。
【請求項2】
前記吸放出剤が二酸化炭素及び水蒸気の吸放出を伴う平衡反応を起こす成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項3】
前記吸放出剤が、二酸化炭素を放出するときは水蒸気をも放出し、二酸化炭素を吸収するときは水蒸気をも吸収することを特徴とする請求項2に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項4】
前記吸放出剤が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、セスキ炭酸カリウム、セスキ炭酸ナトリウム、セスキ炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸アミン化合物、若しくは炭酸アミン基を固定させたポリマー又はそれらの水和物を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項5】
前記吸放出剤が、吸湿物質を更に含有することを特徴とする請求項4に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項6】
前記第1開口に通気可能に設けられた第1吸放出手段と、前記第2開口に通気可能に設けられた第2吸放出手段とを備え、前記第1、第2吸放出手段が、それぞれ前記吸放出剤を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項7】
前記第1又は第2吸放出手段が、前記吸放出剤を含有する複数の吸放出部材を互いに平行に並べてなり、隣り合う吸放出部材どうしの間の隙間が前記送風経路の一部を構成していることを特徴とする請求項6に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項8】
前記吸放出部材が、前記吸放出剤を結着するバインダーを含有することを特徴とする請求項7に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項9】
前記吸放出部材が、枠内空間を有する枠と、前記枠内空間を覆うようにして前記枠の両面に張られた一対の通気性の覆体とを含み、前記吸放出剤が粉末の状態で前記枠内空間に収容されていることを特徴とする請求項7に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項10】
前記送風手段が、前記第1開口に設けられて前記第1モードにおける外気送入を行なう第1送風部と、前記第2開口に設けられて前記第2モードにおける外気送入を行なう第2送風部を含むことを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項11】
二酸化炭素補充手段を更に備え、前記二酸化炭素補充手段が、第2の吸放出剤を収容した容器と、前記容器の内部のガスを吸引する吸引ポンプと、前記吸引ポンプの排気ポートを前記二酸化炭素利用室の内部に連ねる補充路とを含むことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項12】
前記二酸化炭素利用室が、植物の生育用の温室であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の二酸化炭素供給装置。
【請求項13】
第1開口及び第2開口を有する二酸化炭素利用室に二酸化炭素を供給する方法であって、
二酸化炭素の吸放出を伴う平衡反応を起こす吸放出剤を送風手段の送風経路上に配置しておき、
前記送風手段によって、外気を前記第1開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記二酸化炭素利用室内の雰囲気ガスを前記第2開口から送出する第1工程と、
前記送風手段によって、外気を前記第2開口から前記二酸化炭素利用室の内部に送入し、かつ前記雰囲気ガスを前記第1開口から送出する第2工程と、
を交互に反復して実行することを特徴とする二酸化炭素供給方法。
【請求項14】
前記吸放出剤が二酸化炭素及び水蒸気の吸放出を伴う平衡反応を起こすことを特徴とする請求項13に記載の二酸化炭素供給方法。
【請求項15】
前記吸放出剤が、二酸化炭素を放出するときは水蒸気をも放出し、二酸化炭素を吸収するときは水蒸気をも吸収することを特徴とする請求項14に記載の二酸化炭素供給方法。
【請求項16】
前記吸放出剤が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、セスキ炭酸カリウム、セスキ炭酸ナトリウム、セスキ炭酸リチウム、炭酸アンモニウム、炭酸アミン化合物、若しくは炭酸アミン基を固定させた樹脂又はそれらの水和物を含有することを特徴とする請求項13〜15の何れか1項に記載の二酸化炭素供給方法。
【請求項17】
前記第1、第2の各工程における積算送風流量が前記二酸化炭素利用室の内容積とほぼ同じになったとき、直ちに又は前記送風手段を休止させる休止工程を経て、前記第1、第2工程の切り替えを行なうことを特徴とする請求項13〜16の何れか1項に記載の二酸化炭素供給方法。
【請求項18】
容器内に収容した第2の吸放出剤に空気を接触させる補充準備工程と、前記容器の内部のガスを吸引ポンプにて吸引して前記二酸化炭素利用室の内部に供給する補充工程とを、前記第1、第2工程とは別途に交互に実行することを特徴とする請求項13〜17の何れか1項に記載の二酸化炭素供給方法。
【請求項19】
前記二酸化炭素利用室が、植物の生育用の温室であることを特徴とする請求項13〜18の何れか1項に記載の二酸化炭素供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9(a)】
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【図9(b)】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【公開番号】特開2012−29688(P2012−29688A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147604(P2011−147604)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】