説明

二酸化炭素冷媒用冷凍機油及び冷凍機用流体組成物

【課題】
低温条件下で二酸化炭素冷媒と混合したときに相溶性を示す組成範囲が十分に広く、且つ潤滑性及び安定性に優れており、二酸化炭素冷媒用冷凍機に用いた場合に冷媒圧縮機の潤滑不良を十分に防止するとともに十分に高い熱交換率を得ることを可能とする二酸化炭素冷媒用冷凍機油、並びにそれを用いた冷凍機用流体組成物を提供すること。
【解決手段】
下記一般式(1): R−(OR−OH (1)[式中、Rは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基または炭素数2〜3のアシル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量が500〜3000となるような整数を表す]で表され、かつ100℃における動粘度が10〜20mm/sであり、かつ重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M)が1.00〜1.20であるポリアルキレングリコールを含有することを特徴とする二酸化炭素冷媒用冷凍機油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素冷媒用冷凍機油及び冷凍機用流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のオゾン層破壊の問題から、従来より冷凍機器の冷媒として使用されてきたCFC(クロロフルオロカーボン)およびHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が規制の対象となり、これらに代わってHFC(ハイドロフルオロカーボン)が冷媒として使用されつつある。しかしながら、このようなHFC冷媒においても、地球温暖化能が高いなどの問題がある。そこで、これらのフロン系冷媒に代わる代替冷媒として二酸化炭素、アンモニア、炭化水素などの自然系冷媒の使用が検討されている。
【0003】
中でも二酸化炭素(CO)は環境に対して無害であり安全性の点で優れており、また、これまで主流ではなかったものの冷凍機などの冷媒として従来から使用されてきたことから、近年、開放型圧縮機あるいは密閉型電動圧縮機を用いたカーエアコンやルームエアコンあるいは給湯用ヒートポンプ用の冷媒としてその適用が検討されている。
【0004】
また、二酸化炭素冷媒用冷凍機油の基材としては、例えば特開平10−46169号公報に開示されているようなポリアルキレングリコール(PAG)の使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−46169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、冷凍機器としては、冷媒圧縮機、ガスクーラー、膨張機構、蒸発器などで構成される冷媒循環システムを備えるものが一般的であり、このような冷凍機器に使用される冷凍機油には、冷媒圧縮機を潤滑するための潤滑性に加えて、冷媒圧縮機から冷媒と共に吐出された際に流路(循環経路)を通って再び冷媒圧縮機に戻る特性(以下、「油戻り性」という)を確保するための冷媒相溶性や低温流動性、並びに幅広い温度変化や冷媒等の種々の物質に対する安定性が要求される。特に、冷媒圧縮機の機構上、冷凍機油が冷媒圧縮機から流路に吐出される現象は不可避であり、また、冷媒循環システムの所定の位置における冷媒と冷凍機油との混合物の組成を制御することは非常に困難であるため、冷凍機油としては幅広い温度、組成範囲で冷媒相溶性を示すものを用いることが望ましい。
【0007】
しかしながら、従来の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、比較的高温条件下ではある程度の相溶性を示すものの、低温条件下で相溶性を示す組成範囲が狭いなど、相溶性が必ずしも十分でない。そして、このような冷凍機油を上記の冷凍機器に用いると、冷媒循環システム内の膨張機構や蒸発器などの、二酸化炭素冷媒又は冷凍機油の一方の比率が高く且つ低温である部分に冷凍機油が滞留しやすくなり、その結果、冷媒圧縮機内の冷凍機油量が減少して潤滑不良が起こりやすくなったり、蒸発器での熱交換が滞留する冷凍機油によって阻害されやすくなる。なお、このような冷凍機油においてはPAGを低粘度化して油戻り性を向上させることが可能であるが、その場合には冷凍機油が本来的に有する潤滑性が不十分となり、根本的な問題の解決とはならない。
【0008】
本発明は上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低温条件下で二酸化炭素冷媒と混合したときに相溶性を示す組成範囲が十分に広く、且つ潤滑性及び安定性に優れており、二酸化炭素冷媒用冷凍機に用いた場合に冷媒圧縮機の潤滑不良を十分に防止するとともに十分に高い熱交換率を得ることを可能とする二酸化炭素冷媒用冷凍機油、並びにそれを用いた冷凍機用流体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するポリアルキレングリコールを冷凍機油に含有させた場合に上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、下記一般式(1):
−(OR−OH (1)
[式中、Rは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基または炭素数2〜3のアシル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量が500〜3000となるような整数を表す]
で表され、かつ100℃における動粘度が10〜20mm/sであり、かつ重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M)が1.00〜1.20であるポリアルキレングリコールを含有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の冷凍機用流体組成物は、上記本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油と二酸化炭素冷媒とを含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、低温条件下で二酸化炭素冷媒と混合したときに相溶性を示す組成範囲が十分に広く、且つ潤滑性及び安定性に優れるので、当該冷凍機油、並びにそれを用いた冷凍機用流体組成物を二酸化炭素冷媒用冷凍機に用いた場合に、冷媒圧縮機の潤滑不良を十分に防止するとともに十分に高い熱交換率を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】冷媒循環システムの一例を示す概略構成図である。
【図2】冷媒/冷凍機油混合物中における冷凍機油濃度と混合物の相分離温度との相関を示すグラフである。
【図3】実施例において使用した冷媒溶解度測定装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、下記一般式(1):
−(OR−OH (1)
[式中、Rは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基または炭素数2〜3のアシル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量が500〜3000となるような整数を表す]
で表されるポリアルキレングリコールを含有することを特徴とするものであり、低温条件下で二酸化炭素冷媒と混合したときに相溶性を示す組成範囲が十分に広く、且つ潤滑性及び安定性に優れるものである。そして、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油を二酸化炭素冷媒用冷凍機に用いることによって、冷媒圧縮機の潤滑不良を十分に防止するとともに十分に高い熱交換率を得ることが可能となる。
【0016】
冷凍空調機器は、図1に示すように冷媒圧縮機1、ガスクーラー2、膨張機構3(キャピラリ、膨張弁など)、蒸発器4が流路5で順次接続された冷媒循環システムを備えるものが一般的であり、かかる冷媒循環システムにおいては、先ず、冷媒圧縮機1から流路5内に吐出された高温(通常70〜120℃)の冷媒が、ガスクーラー2にて高密度の流体(超臨界流体等)となる。つづいて、冷媒は膨張機構3が有する狭い流路を通ることによって液化し、さらに蒸発器4にて気化して低温(通常−40〜0℃)となる。
【0017】
ここで、上記の冷媒循環システムを循環する二酸化炭素冷媒と冷凍機油との混合物(以下、単に「混合物」という)の混合状態を図2に基づいて説明する。図2は混合物中の冷凍機油の濃度と分離温度との相関の一例を示すグラフである。図2中の2本の曲線はそれぞれ所定の組成において冷媒と冷凍機油とが相溶性を示す温度の下限値を示すものであり、実線は本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油、破線は従来の二酸化炭素冷媒用冷凍機油についてのものである。そして、当該曲線の上側が相溶領域、下側が非相溶領域である。また、図2中の点a〜dはそれぞれ図1中の流路中のa〜dにおける混合物中の冷凍機油の濃度と温度との関係を示すものである。
【0018】
図1中の冷媒圧縮機1内においては、高温(通常70〜120℃)条件下、少量の二酸化炭素冷媒と多量の冷凍機油とが共存する。冷媒圧縮機1から流路5に吐出される冷媒は気体状であり、少量(通常1〜10%)の冷凍機油をミストとして含んでいるが、このミスト状の冷凍機油中には少量の冷媒が溶解している(図2中の点a)。次に、ガスクーラー2内においては、気体状の冷媒が圧縮されて高密度の流体となり、比較的高温(通常50〜70℃前後)条件下で多量の冷媒と少量の冷凍機油とが共存する(図2中の点b)。さらに、多量の冷媒と少量の冷凍機油との混合物は膨張機構3、蒸発器4に順次送られて急激に低温(通常−40〜0℃)となり(図2中の点c、d)、再び冷媒圧縮機1に戻される。
【0019】
このような冷凍サイクルにおいては、系内の全温度範囲(例えば−40〜70℃)において多量の冷媒と少量の冷凍機油とが相溶状態にあることが望ましいが、本発明者らの検討によれば、例えば図2中の点a−b間のような高温条件下では、冷媒と冷凍機油とが相溶状態になくとも、冷凍機油の粘性が低下して流動性が向上し、冷媒の流れによって分離した冷凍機油も一緒に流されやすくなるので、従来の二酸化炭素冷媒用冷凍機油であってもその油戻り性が問題とならない場合が多い。しかしながら、図2に示すように、冷媒と冷凍機油との混合物が膨張機構3を経て蒸発器4へ送られるといった低温条件下でのプロセス(図2中の点c−d間)のほとんど若しくは全部が非相溶領域(破線の下側の領域)で行われると、低温条件下で粘度が高くなって冷媒の流れによって流動させることのできない冷凍機油が滞留して、その結果、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器内における熱交換の阻害が起こりやすくなる。
【0020】
これに対して、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、低温条件下で二酸化炭素冷媒と混合したときに相溶性を示す組成範囲が十分に広いので、図2中の点c−d間のプロセスのうちの相溶領域(実線の上側の領域)で行われる部分の割合を十分に高めることができる。また、通常、冷媒と冷凍機油とが相分離状態にあっても冷凍機油中に所定量の冷媒が溶解して冷凍機油の粘度が低下するが、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は低温条件下での二酸化炭素の飽和溶解度が十分に高く、冷媒の溶解により冷凍機油の粘度が十分に低下するので、図2中の点c−d間のプロセスのうちの一部が非相溶領域で行われる場合であっても、十分に高い油戻り性を得ることが可能となる。したがって、膨張機構や蒸発器における冷凍機油の滞留、並びにその結果生じる冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を十分に防止することが可能となる。
【0021】
なお、特開平10−46169号公報にはポリアルキレングリコールを含有する二酸化炭素冷媒用冷凍機油が開示されており、かかる冷凍機油が所定量の二酸化炭素冷媒を溶解することが記載されているが、同公報には二酸化炭素冷媒を冷凍機油に溶解する際の温度条件が記載されていない。二酸化炭素冷媒の飽和蒸気圧と溶解量との相関に基づく本発明者らの検討によれば、同公報に記載された二酸化炭素冷媒の溶解量の測定結果は15℃以上の温度条件下でのものである。そして、後述するように、上記従来の冷凍機油は低温条件下で相溶性を示す組成範囲が狭く、また、非相溶領域での冷媒の溶解による粘度低下効果も小さいので、このような冷凍機油を用いて冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害を防止することは非常に困難である。
【0022】
本発明において用いられるポリアルキレングリコールは上記一般式(1)で表される構造を有しており、式(1)中のRは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基又は炭素数2〜3のアシル基を表す。Rとしてのアルキル基またはアシルは、直鎖状のものであっても分枝状のものであってもよく、具体的には、メチル基、エチル基、アセチル基、エタノイル基等が挙げられる。これらのRで表される原子又は基の中でも、二酸化炭素冷媒との相溶性の点から水素原子、メチル基又はアセチル基が好ましい。なお、Rが、炭素数が2を超えるアルキル基又は炭素数が3を超えるアシル基であると、低温条件下で二酸化炭素冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる。
【0023】
また、上記一般式(1)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表す。このようなアルキレン基としては、具体的には例えば、エチレン基(−CHCH−)、プロピレン基(−CH(CH)CH−)、トリメチレン基(−CHCHCH−)、ブチレン基(−CH(CHCH)CH−)、テトラメチレン基(−CHCHCHCH−)などが挙げられる。これらのアルキレン基の中でも、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、テトラメチレン基が好ましい。
【0024】
さらに、上記一般式(1)中、nはORで表されるオキシアルキレン基の繰り返し数(重合度)を表すものであるが、式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量は500〜3000、好ましくは600〜2000、より好ましくは600〜1500であり、nは当該ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記の条件を満たすような整数である。数平均分子量が前記上限値未満であると、二酸化炭素冷媒の共存下での潤滑性が不十分となる傾向にある。他方、数平均分子量が前記上限値を越えると、低温条件下で二酸化炭素冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる。また、前記ポリアルキレングリコールにおいては、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)の比(M/M)が1.00〜1.20であることが好ましい。M/Mが1.20を越えると、二酸化炭素冷媒と冷凍機油との相溶性が不十分となる傾向にある。
【0025】
さらにまた、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールにおいては、Rで表されるアルキレン基のうちエチレン基の占める割合が80モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましく、40モル%以下であることが特に好ましい。Rで表されるアルキレン基のうちエチレン基の占める割合が80モル%を越える場合には冷凍機油が常温で固体となるか、またはその流動点が高くなる傾向にある。
【0026】
上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの100℃における動粘度は、好ましくは5〜20mm/s、より好ましくは6〜18mm/s、さらに好ましくは7〜16mm/s、さらにより好ましくは8〜15mm/s、最も好ましくは10〜15mm/sである。100℃における動粘度が5mm/s未満であると二酸化炭素共存下での潤滑性が不十分となる傾向にある。他方、100℃における動粘度が20mm/sを越えると、低温条件下で二酸化炭素冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる。また、当該ポリアルキレングリコールの40℃における動粘度は、好ましくは10〜200mm/s、より好ましくは20〜150mm/sである。40℃における動粘度が10mm/s未満であると潤滑性や圧縮機の密閉性が低下する傾向にあり、また、200mm/sを越えると、低温条件下で二酸化炭素冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる傾向にある。
【0027】
また、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの流動点は−10℃以下であることが好ましく、−20〜−50℃であることがより好ましい。流動点が−10℃を超えるポリアルキレングリコールを用いると、低温時に冷凍サイクル内で冷凍機油が固化しやすくなる傾向にある。
【0028】
本発明にかかるポリアルキレングリコールは、従来より公知の方法を用いて合成することができるが(「アルキレンオキシド重合体」、柴田満太他、海文堂、平成2年11月20日発行、など)、例えば、アルコール(R−OH;Rは上記一般式(1)中のRと同一の定義内容を表す)にアルキレンオキサイド1種以上を付加重合させることによって、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールが得られる。ここで、当該ポリアルキレングリコールの製造工程において、異なる2種以上のアルキレンオキサイドを使用する場合、得られるポリアルキレングリコールはランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよいが、より酸化安定性に優れる傾向にあることからブロック共重合体であることが好ましく、また、より低温流動性に優れる傾向にあることからランダム共重合体であることが好ましい。
【0029】
また、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールを製造する際に、その製造工程においてプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが副反応を起こして分子中にアリル基などの不飽和基が形成される場合がある。ポリアルキレングリコール分子中に不飽和基が形成されると、ポリアルキレングリコール自体の熱安定性が低下する、重合物を生成してスラッジを生成する、あるいは抗酸化性(酸化防止性)が低下して過酸化物を生成するといった現象が起こりやすくなる。特に、過酸化物が生成すると、分解してカルボニル基を有する化合物を生成し、さらにカルボニル基を有する化合物が二酸化炭素冷媒と反応して酸アミドを生成してキャピラリー詰まりが起こりやすくなる。
【0030】
したがって、本発明にかかるポリアルキレングリコールとしては、不飽和基等に由来する不飽和度が低いものが好ましく、具体的には0.04meq/g以下であることが好ましく、0.03meq/g以下であることがより好ましく、0.02meq/g以下であることが最も好ましい。また、過酸化物価は10.0meq/kg以下であることが好ましく、5.0meq/kg以下であることがより好ましく、1.0meq/kgであることが最も好ましい。さらに、カルボニル価は、100重量ppm以下であることが好ましく、50重量ppm以下であることがより好ましく、20重量ppm以下であることが最も好ましい。
【0031】
なお、本発明にかかる不飽和度、過酸化物価およびカルボニル価とは、それぞれ日本油化学会制定の基準油脂分析試験法により測定した値をいう。すなわち、本発明にかかる不飽和度とは、試料にウィス液(ICl−酢酸溶液)を反応させ、暗所に放置し、その後、過剰のIClをヨウ素に還元し、ヨウ素分をチオ硫酸ナトリウムで滴定してヨウ素価を算出し、このヨウ素価をビニル当量に換算した値(meq/g)をいい;
本発明にかかる過酸化物価とは、試料にヨウ化カリウムを加え、生じた遊離のヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定し、この遊離のヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数に換算した値(meq/kg)をいい;
本発明にかかるカルボニル価とは、試料に2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを作用させ、発色性あるキノイドイオンを生ぜしめ、この試料の480nmにおける吸光度を測定し、予めシンナムアルデヒドを標準物質として求めた検量線を基に、カルボニル量に換算した値(重量ppm)をいう。
【0032】
本発明において、不飽和度、過酸化物価およびカルボニル価の低いポリアルキレングリコールを得るためには、プロピレンオキサイドを反応させる際の反応温度を120℃以下(より好ましくは110℃以下)とすることが好ましい。また、製造に際してアルカリ触媒を使用することがあれば、これを除去するために無機系の吸着剤、例えば、活性炭、活性白土、ベントナイト、ドロマイト、アルミノシリケート等を使用すると、不飽和度を減ずることができる。また、当該ポリアルキレングリコールを製造または使用する際に酸素との接触を極力避けたり、酸化防止剤を添加することによっても過酸化物価またはカルボニル価の上昇を防ぐことができる。
【0033】
本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は上記の構成を有するポリアルキレングリコールを含有するものであり、当該ポリアルキレングリコールのみを単独で用いた場合であっても、低温流動性、潤滑性および安定性が十分に高く、且つ二酸化炭素冷媒に対する十分に広い相溶領域を有するといった優れた特性を示すものであるが、必要に応じて後述する他の基油や添加剤を添加してもよい。なお、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油中の当該ポリアルキレングリコールの含有量については、上記の優れた特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、冷凍機油全量基準で50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの含有量が50質量%未満であると、冷凍機油の潤滑性、冷媒相溶性、熱・化学安定性などの各種性能のうちのいずれかが不十分となる傾向にある。
【0034】
本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油において、上記したポリアルキレングリコールと共に使用可能な基油としては、具体的には、鉱油、オレフィン重合体、ナフタレン化合物、アルキルベンゼンなどの炭化水素系基油;エステル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル、ポリビニルエーテル、本発明にかかるポリアルキレングリコール以外のポリグリコールなどの酸素を含有する合成油、などが挙げられる。酸素を含有する合成油としては、上記の中でもポリビニルエーテル及び/又は本発明にかかるポリアルキレングリコール以外のポリグリコールが好ましく用いられる。
【0035】
このように、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、上記のポリアルキレングリコール並びに必要に応じて炭化水素系油及び/又は酸素を含有する合成油を含有するものであり、主にこれらは基油として用いられる。本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、添加剤が未添加であっても好適に使用することができるが、必要に応じて後述する各種添加剤を配合して使用することもできる。
【0036】
本発明の冷凍機油の耐摩耗性、耐荷重性をさらに改良するために、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステルおよびフォスフォロチオネートからなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を配合することができる。これらのリン化合物は、リン酸、亜リン酸またはチオリン酸と、アルカノールまたはポリエーテル型アルコールと、のエステルあるいはその誘導体である。
【0037】
具体的には例えば、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートなど;
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェートなど;
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、上記の酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン等のアミンとの塩など;
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェートなど;
亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなど;
フォスフォロチオネートとしては、トリブチルフォスフォロチオネート、トリペンチルフォスフォロチオネート、トリヘキシルフォスフォロチオネート、トリヘプチルフォスフォロチオネート、トリオクチルフォスフォロチオネート、トリノニルフォスフォロチオネート、トリデシルフォスフォロチオネート、トリウンデシルフォスフォロチオネート、トリドデシルフォスフォロチオネート、トリトリデシルフォスフォロチオネート、トリテトラデシルフォスフォロチオネート、トリペンタデシルフォスフォロチオネート、トリヘキサデシルフォスフォロチオネート、トリヘプタデシルフォスフォロチオネート、トリオクタデシルフォスフォロチオネート、トリオレイルフォスフォロチオネート、トリフェニルフォスフォロチオネート、トリクレジルフォスフォロチオネート、トリキシレニルフォスフォロチオネート、クレジルジフェニルフォスフォロチオネート、キシレニルジフェニルフォスフォロチオネート、トリス(n−プロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(n−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(s−ブチルフェニル)フォスフォロチオネート、トリス(t−ブチルフェニル)フォスフォロチオネートなど、が挙げられる。
【0038】
これらのリン化合物を本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油に配合する場合、その配合量は特に制限されないが、通常、冷凍機油全量基準(基油と全配合添加剤の合計量基準)でその含有量が0.01〜10.0質量%、より好ましくは0.02〜5.0質量%となるような量のリン化合物を配合することが望ましい。
【0039】
また、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油において、その熱・加水分解安定性をさらに改良するために、(1)フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物(2)アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物(3)グリシジルエステル型エポキシ化合物(4)アリルオキシラン化合物(5)アルキルオキシラン化合物(6)脂環式エポキシ化合物(7)エポキシ化脂肪酸モノエステル(8)エポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を配合することが好ましい。
【0040】
(1)フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエーテルまたはアルキルフェニルグリシジルエーテルが例示できる。ここでいうアルキルフェニルグリシジルエーテルとは、炭素数1〜13のアルキル基を1〜3個有するものが挙げられ、中でも炭素数4〜10のアルキル基を1個有するもの、例えばn−ブチルフェニルグリシジルエーテル、i−ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテルなどが好ましいものとして例示できる。
【0041】
(2)アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルなどが例示できる。
【0042】
(3)グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、具体的には下記一般式(2):
【0043】
【化1】


(式(2)中、Rは炭素数1〜18の炭化水素基を表す)
で表される化合物が挙げられる。
【0044】
上記式(2)中、Rは炭素数1〜18の炭化水素基を表すが、このような炭化水素基としては、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜18のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜18のアルキルアリール基、炭素数7〜18のアリールアルキル基などが挙げられる。この中でも、炭素数5〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、フェニル基および炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルフェニル基が好ましい。
【0045】
グリシジルエステル型エポキシ化合物の中でも、好ましいものとしては、具体的には例えば、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルベンゾエート、グリシジル−tert−ブチルベンゾエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが例示できる。
【0046】
(4)アリルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシスチレン、アルキル−1,2−エポキシスチレンなどが例示できる。
【0047】
(5)アルキルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,1,2−エポキシオクタデカン、2−エポキシノナデカン、1,2−エポキシイコサンなどが例示できる。
【0048】
(6)脂環式エポキシ化合物としては、下記一般式(3):
【0049】
【化2】


で表される化合物のように、エポキシ基を構成する炭素原子が直接脂環式環を構成している化合物が挙げられる。
【0050】
脂環式エポキシ化合物としては、具体的には例えば、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ−2,3−エポキシノルボルナン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−スピロ(1,3−ジオキサン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4−(1’−メチルエポキシエチル)−1,2−エポキシ−2−メチルシクロヘキサン、4−エポキシエチル−1,2−エポキシシクロヘキサンなどが例示できる。
【0051】
(7)エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、具体的には、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と炭素数1〜8のアルコールまたはフェノール、アルキルフェノールとのエステルなどが例示できる。特にエポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニルおよびブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
【0052】
(8)エポキシ化植物油としては、具体的には、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物などが例示できる。
【0053】
これらのエポキシ化合物の中でも、より熱・加水分解安定性を向上させることができることから、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルが好ましく、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物がより好ましい。
【0054】
これらのエポキシ化合物を本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油に配合する場合、その配合量は特に制限されないが、通常、冷凍機油全量基準(基油と全配合添加剤の合計量基準)でその含有量が0.1〜5.0質量%、より好ましくは0.2〜2.0質量%となるような量のエポキシ化合物を配合することが望ましい。
【0055】
また、上記リン化合物およびエポキシ化合物を2種以上併用してもよいことは勿論である。
【0056】
さらに、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油においては、その性能をさらに高めるため、必要に応じて従来より公知の冷凍機油用添加剤、例えばジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ビスフェノールAなどのフェノール系の酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N−ジ(2−ナフチル)−p−フェニレンジアミンなどのアミン系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛等の摩耗防止剤、塩素化パラフィン、硫黄化合物などの極圧剤、脂肪酸などの油性剤、シリコーン系などの消泡剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤などの添加剤を単独で、または数種類組み合わせて配合することも可能である。これらの添加剤の合計配合量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準(基油と全配合添加剤の合計量基準)で好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0057】
本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度が10〜200mm/sであることが好ましく、20〜150mm/sであることがより好ましい。40℃における動粘度が10mm/s未満であると潤滑性や圧縮機の密閉性が低下する傾向にあり、また、200mm/sを越えると、二酸化炭素冷媒に対する冷凍機油の比率が高い場合、あるいは当該比率が低い場合において相溶性が不十分となる傾向にある。また、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油の100℃における動粘度は5〜20mm/sであることが好ましく、6〜18mm/sであることがより好ましい。100℃における動粘度が5mm/s未満であると潤滑性や圧縮機の密閉性が低下する傾向にあり、また、20mm/sを越えると、二酸化炭素冷媒に対する冷凍機油の比率が高い場合、あるいは当該比率が低い場合において相溶性が不十分となる傾向にある。
【0058】
なお、冷媒循環システム内においては、通常、系内に混入する水分量を極力少なくする必要があり、この点で本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油の含有水分量は500ppm以下であることが好ましく、200ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましい。一般に、ポリアルキレングリコールは比較的高い吸湿性を有するため、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油を冷媒循環システム内に導入する際にはその含有水分量に細心の注意を払うことが好ましい。しかしその一方で、吸湿性の高いポリアルキレングリコールが共存すると、混入した水分はポリアルキレングリコールの分子内に捕捉されて遊離しないので、冷媒や配管の劣化および氷結などの弊害を防止する効果が得られる。
【0059】
上記の構成を有する本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、二酸化炭素冷媒用冷凍機において、二酸化炭素冷媒と混合された流体組成物として使用される。すなわち、本発明の冷凍機用流体組成物は、上記本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油と二酸化炭素冷媒とを含有するものである。ここで、本発明の冷凍機用流体組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合は特に制限されないが、冷媒100重量部に対して冷凍機油が好ましくは1〜500重量部、より好ましくは2〜400重量部である。
【0060】
なお、本発明の冷凍機用流体組成物は、前述の通り二酸化炭素冷媒を含有するものであるが、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、炭化水素、アンモニアなどの他の冷媒をさらに含有していてもよい。
【0061】
ここで、本発明にかかるハイドロフルオロカーボン冷媒としては、炭素数1〜3、好ましくは炭素数1〜2のハイドロフルオロカーボンが挙げられる。具体的には例えば、ジフルオロメタン(HFC−32)、トリフルオロメタン(HFC−23)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、またはこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばHFC−32単独;HFC−23単独;HFC−134a単独;HFC−125単独;HFC−134a/HFC−32=60〜80質量%/40〜20質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/60〜30質量%の混合物;HFC−125/HFC−143a=40〜60質量%/60〜40質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/15〜35質量%/5〜40質量%の混合物;HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=35〜55質量%/1〜15質量%/40〜60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、HFC−134a/HFC−32=70/30質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=60/40質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=50/50質量%の混合物(R410A);HFC−32/HFC−125=45/55質量%の混合物(R410B);HFC−125/HFC−143a=50/50質量%の混合物(R507C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=30/10/60質量%の混合物;HFC−32/HFC−125/HFC−134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などが挙げられる。
【0062】
また、本発明にかかる炭化水素冷媒としては、25℃、1気圧で気体のものが好ましく用いられる。具体的には、炭素数1〜5、好ましくは炭素数1〜4、のアルカン、シクロアルカン、アルケンまたはこれらの混合物である。具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパンまたはこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらの中でも、プロパン、ブタン、イソブタンまたはこれらのうちの2種以上の混合物が好ましい。
【0063】
なお、二酸化炭素とハイドロフルオロカーボンおよび/または炭化水素との混合比については特に制限はないが、二酸化炭素100重量部に対してハイドロフルオロカーボンと炭化水素の合計量として好ましくは1〜200重量部、より好ましくは10〜100重量部である。
【0064】
本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油および冷凍機用流体組成物は、潤滑性、冷媒相溶性、低温流動性、安定性などの要求性能全てをバランスよく十分に満足させるものであり、往復動式あるいは回転式の開放型または密閉型圧縮機を有する冷凍機器あるいはヒートポンプなどに好適に使用することができる。前記冷凍機器として、より具体的には、自動車用エアコン、除湿器、冷蔵庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラントなどの冷却装置、住宅用エアコン、給湯用ヒートポンプなどが挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
実施例1〜8、比較例1〜3
実施例1〜8及び比較例1〜3においては、以下に示す基油1〜11を用いて試料油を調製した。得られた試料油の動粘度、流動点および全酸価を表1に示す。なお、下記式(4)〜(14)中、EOはオキシエチレン基を表し、POはオキシプロピレン基を表し、Meはメチル基を表し、Acはアセチル基を表す。また、−(EO,PO)−はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合によって形成されるポリオキシアルキレン基を表す。
【0067】
基油1
Me−O−(PO)−H (4)
[数平均分子量:1200、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]
基油2
Me−O−(EO,PO)−H (5)
[数平均分子量:1200、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:10モル%]
基油3
Me−O−(PO)−H (6)
[数平均分子量:1500、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]
基油4
Me−O−(EO,PO)−H (7)
[数平均分子量:1500、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:30モル%]
基油5
Me−O−(PO)−H (8)
[数平均分子量:1800、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]
基油6
Me−O−(EO,PO)−H (9)
[数平均分子量:1800、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:40モル%]
基油7
Ac−O−(PO)−H (10)
[数平均分子量:1000、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]
基油8
HO−(PO)−H (11)
[数平均分子量:1200、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]
基油9
Me−O−(PO)−H (12)
[数平均分子量:400、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]
基油10
Me−O−(PO)−H (13)
[数平均分子量:2300、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]
基油11
Bu−O−(PO)−H (14)
[数平均分子量:2700、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M):1.1、全てのオキシアルキレン基に占めるオキシエチレン基の割合:0モル%]。
【0068】
次に、実施例1〜8及び比較例1〜3の試料油を用いて以下に示す試験を行った。
【0069】
(冷媒との相溶性試験1)
内容積10mlの耐圧ガラス製容器に二酸化炭素冷媒と試料油とを合計量が5gとなるように封入し、−30℃に冷却したときの混合物の状態(相溶又は分離)を目視により観察した。この試験を冷凍機油濃度1重量%(二酸化炭素冷媒:4.95g、試料油0.05g)から開始し、二酸化炭素冷媒と試料油との合計量は一定(5.00g)のまま試料油の割合を徐々に増加させて、または冷凍機油濃度90質量%(二酸化炭素冷媒:0.50g、試料油4.50g)から開始し、二酸化炭素冷媒と試料油との合計量は一定(5.00g)のまま二酸化炭素冷媒の割合を徐々に増加させて行い、二酸化炭素冷媒と試料油との混合物が分離状態となる組成範囲を求めた。得られた結果を表1に示す。なお、表1中、「相溶」とは、二酸化炭素冷媒と試料油との混合割合を変えても混合物が分離しなかったことを表し、組成範囲の下限値のうち「<1」とは試料油濃度1重量%で既に分離していたことを表す。
【0070】
(冷媒との相溶性試験2)
図3に示す冷媒溶解度測定装置を用いて、二酸化炭素冷媒と試料油との混合物が分離する条件下での試料油中への二酸化炭素冷媒の溶解度を測定した。
【0071】
図3に示す装置は、粘度計301、圧力計302、熱電対303及び攪拌子304を備える圧力容器305(ステンレス製、内容積:200ml)と、圧力容器305内の温度を制御するための恒温槽306と、バルブを備えており流路307を介して圧力容器305と接続されたサンプリングボンベ308とを備えている。なお、サンプリングボンベ308と流路307とは脱着可能であり、サンプリングボンベ308は、測定に際し、真空脱気した後、あるいは二酸化炭素冷媒と試料油との混合物を秤取した後でその重量を測定することが可能となっている。また、熱電対303及び恒温槽306はそれぞれ温度制御手段(図示せず)と電気的に接続されており、熱電対303から温度制御手段に試料油(又は二酸化炭素冷媒と試料油との混合物)の温度に関するデータ信号が送られるとともに、温度制御手段から恒温槽306に制御信号が送られて、試料油又は混合物の温度を制御することが可能となっている。さらに、粘度計301は情報処理装置(図示せず)と電気的に接続されており、圧力容器305内の液体の粘度に関する測定データが粘度計301から情報処理装置に送られて、所定の条件下での粘度を測定することが可能となっている。
【0072】
本試験においては、先ず、圧力容器305内に試料油30gを入れて容器内を真空脱気した後、二酸化炭素冷媒70gを導入し、二酸化炭素冷媒と試料油との混合物を攪拌子304で攪拌しながら−30℃で2時間保持した。その後、攪拌を止めて二酸化炭素冷媒と試料油とが2層に分離するまで静置した。次に、サンプリングボンベ308内を真空脱気してその質量Wを測定した後、流路307に接続し、圧力容器305とサンプリングボンベ308との内部の圧力差を利用して試料油層をサンプリングボンベ308に採取した。
【0073】
上記のサンプリングを行った後のサンプリングボンベ308について、その質量W(冷媒が溶解した試料油とサンプリングボンベ308との質量の和)を測定し、さらに、バルブを開けて真空脱気しながら加熱することによって試料油中に溶解した二酸化炭素冷媒を除去した後でその重量W(試料油とサンプリングボンベ308との質量の和)を測定した。
【0074】
このようにして得られた測定値を用い、下記式:
(二酸化炭素冷媒の溶解度[質量%])=[(W−W)/(W−W)]×100
に基づいて各試料油に対する二酸化炭素冷媒の溶解度を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0075】
(冷媒との相溶性試験3)
JIS K 2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、所定の組成で二酸化炭素冷媒と試料油とを混合したときに相溶性を示す温度範囲を測定した。得られた結果を表1に示す。なお、この試験における組成は、試料油濃度50重量%(二酸化炭素冷媒:1.5g、試料油:1.5g)及び60重量%(二酸化炭素冷媒:1.2g、試料油1.8g)の2条件、測定温度は−55〜30℃で行った。また、表1中、相溶性を示す温度範囲の下限値のうち「<−55」は−55℃まで冷却しても相分離が認められなかったことを表し、相溶性を示す温度範囲の上限値のうち「>30」は30℃まで加熱しても相分離が認められなかったことを表し、「<−55〜>30」は測定温度範囲内のいずれの温度においても相分離が認められなかったことを表す。
【0076】
(冷媒雰囲気下での安定性試験)
オートクレーブ中に、各試料油50g、二酸化炭素冷媒10gおよび触媒(1.6mmφ×50mmの鉄線、アルミニウム線、銅線各3本)を封入した後、175℃に加熱して2週間保持した。その後、試料油から二酸化炭素を除去し、試料油の外観および触媒の外観を観察すると共に、試料油の全酸価を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0077】
(潤滑性試験)
ASTM D 3233に準拠して、試料油60gに二酸化炭素冷媒を10L/hの流量で吹き込みながら、試料油の温度50℃の条件下で慣らし運転を250lb荷重の下に5分行った後、焼き付き荷重を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油である実施例1〜8の試料油は、二酸化炭素冷媒に対する比率が高い場合又は低い場合のいずれであっても十分に高い相溶性を示し、また、二酸化炭素冷媒と試料油とが2層に分離した場合であっても、試料油中に十分な量の二酸化炭素冷媒が溶解していることが確認された。さらに、実施例1〜8の試料油は潤滑性、低温流動性、安定性の全ての性能が十分にバランスよく優れていた。
【0080】
それに対して、本発明にかかるポリアルキレングリコール以外のポリアルキレングリコール化合物を使用した比較例1〜3の試料油の場合は、二酸化炭素冷媒と共に用いた場合に、冷媒相溶性、潤滑性のうちのいずれかが不十分であった。
【0081】
以上説明したとおり、本発明の二酸化炭素冷媒用冷凍機油は、低温条件下で二酸化炭素冷媒と混合したときに相溶性を示す組成範囲が十分に広く、且つ潤滑性及び安定性に優れるので、当該冷凍機油、並びにそれを用いた冷凍機用流体組成物を二酸化炭素冷媒用冷凍機に用いた場合に、冷媒圧縮機の潤滑不良を十分に防止するとともに十分に高い熱交換率を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
1…冷媒圧縮機、2…ガスクーラー、3…膨張機構、4…蒸発器、5…流路、301…粘度計、302…圧力計、303…熱電対、304…攪拌子、305…圧力容器、306…恒温槽、307…流路、308…サンプリングボンベ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
−(OR−OH (1)
[式中、Rは水素原子、炭素数1〜2のアルキル基または炭素数2〜3のアシル基を表し、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nは上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量が500〜3000となるような整数を表す]
で表され、かつ100℃における動粘度が10〜20mm/sであり、かつ重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)との比(M/M)が1.00〜1.20であるポリアルキレングリコールを含有することを特徴とする二酸化炭素冷媒用冷凍機油。
【請求項2】
が炭素数1〜2のアルキル基であり、Rがプロピレン基である、請求項1に記載の二酸化炭素冷媒用冷凍機油。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素冷媒用冷凍機油と二酸化炭素冷媒とを含有することを特徴とする冷凍機用流体組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162799(P2011−162799A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123755(P2011−123755)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【分割の表示】特願2000−377655(P2000−377655)の分割
【原出願日】平成12年12月12日(2000.12.12)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】