二重壁構造体
【課題】 自動車に用いられる部品としてのドアやフード、トランクリッドなどの二重壁構造体において、音響の透過を低減して遮音性を向上できる構成を得る。
【解決手段】 相対する板状体2,3の間に内部空間4が形成されるとともに当該内部空間4が閉鎖されている二重壁構造体において、前記相対する板状体2,3の間に、前記内部空間4における空気の粒子運動を妨げる仕切板13・13が設けられている。
【解決手段】 相対する板状体2,3の間に内部空間4が形成されるとともに当該内部空間4が閉鎖されている二重壁構造体において、前記相対する板状体2,3の間に、前記内部空間4における空気の粒子運動を妨げる仕切板13・13が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二重壁構造体に係り、より詳細には、遮音性に優れる二重壁構造体の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に用いられる部品としてのドアやフード、トランクリッドなどに二重壁構造体を使用することが従来から提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。この従来例の構成を模式的に図9に示す。この従来例の二重壁構造体1’は、所定の距離を隔てて相対する板状体2,3の間に内部空間4が形成されるとともに、当該内部空間4が側板5によって閉鎖された、中空箱状の構成とされている。
【特許文献1】特開2002−96636号公報
【特許文献2】特開2003−118364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1に示すような二重壁構造体1’において、下側から騒音の音波が入射され、当該騒音が特定の周波数の音成分を含んでいると、その音成分に対し内部空間4での共鳴(主に板状体2,3に平行な方向の共鳴)が発生することによって、放射面たる上側の板状体3の振幅が増大してしまい、放射音の増大により遮音性能が低下してしまっていた。
【0004】
本発明は以上の点に鑑みてされたものであり、その目的は、特定の周波数の音に対する音響透過量増大を抑制し、様々な周波数の音について安定して遮音性能を発揮し得る二重壁構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0006】
◆本発明の第1の観点によれば、相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記相対する板状体の間に、前記内部空間における空気の粒子運動を妨げる仕切りが設けられている、二重壁構造体が提供される。
【0007】
なお、「閉鎖」とは、厳密な密閉のみを意味するものではなく、一部隙間や開口部がある場合も含む。これは以下においても同様である。
【0008】
これにより、仕切りの作用によって共鳴周波数が変更されることによって内部空間全体の共鳴を抑えることができる。これにより内部空間の音圧が低下し、放射面側の加振力が低下するので、放射面の振動が減少し、音響透過損失の落込みを抑制できる。この結果、遮音性に優れる構造体を得ることができる。
【0009】
◆前記の二重壁構造体においては、前記仕切りによって仕切られた空間に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられていることが好ましい。
【0010】
この構成では、前記の共鳴抑制効果のほか、仕切りによって仕切られた空間での共鳴を前記充填部材によって抑制することも可能であり、音響透過損失の落込みを更に良好に抑制できる。
【0011】
◆本発明の第2の観点によれば、相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記内部空間の一部に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられている、二重壁構造体が提供される。
【0012】
この構成では、内部空間の一部において空気の粒子運動が充填部材によって妨げられるため、内部空間全体における共鳴が抑制され、音響透過損失の落込みを抑制できる。この結果、遮音性に優れる構造体を得ることができる。
【0013】
◆前記の二重壁構造体においては、前記充填部材が独立気泡の発泡体で構成されていることが好ましい。
【0014】
これにより、空気の粒子運動を効果的に低減できる構造の充填部材を、軽量かつ低コストで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1から図8には二重壁構造体の実施例がそれぞれ示されており、以下、順を追って説明する。
【0016】
図1に模式図を示す実施例1−1の二重壁構造体は、乗用車の部品としてのドアを想定したものである。この二重壁構造体1は、平行に配置されるとともに互いに所定の距離をおいて相対する板状体2,3を備えている。板状体2,3は一方向に若干長い長方形状に構成されており、2枚の対向する板状体2,3の間には、内部空間4が形成される。板状体2,3同士を繋ぐように側板5が設けられており、これによって内部空間4はほぼ閉鎖される。言い換えれば本実施形態の二重壁構造体1は、二重壁たる板状体2,3と、前記側板5とで、前記内部空間4を囲む箱状に構成されている。
【0017】
そして本実施形態では、前記内部空間4のうち前記板状体2に近い側の一部を仕切るように、矩形板状の仕切板(仕切り)13・13を設けている。この実施例1−1では、2枚の仕切板13・13を十字状に直交させて、内部空間4の下側の一部領域を4つに仕切って(区画して)いる。仕切板13・13の素材としては、例えば、鉄、アルミ、樹脂、繊維強化複合材料、紙などを採用できる。
【0018】
上記構成において、下側から板状体2側が騒音によって音圧加振される場合を考える。騒音が特定の周波数の音成分を含んでいると、板状体2が振動することにより内部空間4の長手方向又は短手方向で共鳴が起ころうとする。しかしながら、内部空間4のうち下側の空間では、仕切板13・13によって空気の粒子運動が妨げられる結果、共鳴周波数が変更される。従って、内部空間4全体でみたときに共鳴モードが形成されにくくなり、共鳴が抑えられる。以上の結果、放射面たる上側の板状体3の加振力が低下するので、放射面の振幅が低減され、音響透過損失の落込みを低減できる。
【0019】
なお、図1の実施例1−1において、仕切板13は、板状体2,3の長手方向に直交する方向のほか、幅方向(短手方向)に直交する方向にも設けている。即ち、仕切板13・13は十字状に配置され、内部空間4の一部領域を縦横に区画している。この結果、実施例1−1では、板状体2,3の長手方向のみでなく幅方向の共鳴も抑制できる。言い換えれば、二つの音圧モード方向における共鳴を抑制し得る構成となっている。ただし、一つの音圧モード方向の共鳴を抑制できれば十分な場合は、仕切板13を1枚のみ設けても構わない。
【0020】
図2には実施例1−2が示され、この構成においては、前記実施例1−1(図1)とは逆に、前記内部空間4のうち板状体3に近い側の一部を仕切るように、仕切板13・13を設けている。即ち、実施例1−2では、2枚の仕切板13・13を十字状に直交させて、内部空間4の上側の一部領域を4つに仕切って(区画して)いる。
【0021】
図3には実施例1−3が示され、この構成において仕切板13・13は、前記内部空間4の全部を縦横に区画するように設けている。
【0022】
図4には実施例1−4が示され、この構成においては、前記内部空間4のうち2枚の板状体2,3の間の中央部分のみを仕切るように、仕切板13・13を設けている。即ち、実施例1−4では、2枚の仕切板13・13を十字状に直交させて、内部空間4の上下中央側の一部領域を4つに仕切って(区画して)いる。
【0023】
図5には実施例1−5が示され、この構成においては、前記内部空間4のうち2枚の板状体2,3にそれぞれ近い側の一部を仕切るように、仕切板13・13を設けている。即ち、実施例1−5では、内部空間4のうち上下中央側を除いた両側の領域を、それぞれ、2枚の仕切板13・13を十字状に設置することで4つに仕切って(区画して)いる。
【0024】
図6には実施例1−6が示され、この構成においては、二重壁構造体の内部空間4に固定される何らかの機器の固定部材12が、仕切りとしての役割、即ち、図1〜図5までに示した仕切板13と同様の役割を兼ねるようになっている。図6に例示するように、図1〜図5で説明した仕切板13は、機器の固定部材12を兼ねるようにして設けたり、あるいは、機器の固定部材12と一体であるように設けたりすることができる。また、内部空間4に固定される機器の本体の一部を兼ねるように前記仕切板13を設けても良い。内部空間4に固定される機器としては、二重壁構造体1を自動車に用いられる部品としてのドアに適用する場合は、例えば、ドアガラス昇降用機器、サイドインパクトドアビーム、インナー若しくはインナーの一部などを挙げることができる。
【0025】
図7には実施例2−1が示され、この構成においては、前記内部空間4の前記板状体3に近い側に、直方体状の充填部材14を設けている。この実施例2−1では、内部空間4の上側の一部領域を隙間なく埋めるように、充填部材14が設置されている。
【0026】
上記構成において、下側から板状体2側が騒音によって音圧加振される場合を考える。騒音が特定の周波数の音成分を含んでいると、板状体2が振動することにより内部空間4の長手方向又は短手方向で共鳴が起ころうとする。しかしながら、内部空間4のうち上側の空間では、充填部材14によって空気の粒子運動が妨げられる。従って、内部空間4全体でみたときに共鳴モードが形成されにくくなり、共鳴が抑えられる。以上の結果、放射面たる上側の板状体3の加振力が低下するので、放射面の振幅が低減され、音響透過損失の落込みを低減できる。
【0027】
上記充填部材14の素材としては、グラスウールやフェルト等のほか、例えばポリウレタンや、発泡材を用いることができる。特に、発泡スチロールや発泡ウレタン等の独立気泡の発泡体を用いると、空気の粒子運動を効果的に低減でき、また、軽量かつ低コストとできる。
【0028】
図8には実施例2−2が示され、この構成は、実施例1−2(図2)と実施例2−1(図7)とを組み合わせたものに相当する。即ち、内部空間4の上側一部領域に充填部材14が敷き詰められるようにして設置され、その内部に埋め込むようにして、直交状に組み合わせた仕切板13・13が設けられている。この構成では、仕切板13による共鳴周波数の変更作用と、充填部材14による空気の粒子運動減衰作用とがあいまって、音響透過損失の落込みをより良好に抑制できる。
【0029】
この実施例2−2においても、充填部材14の素材としては、グラスウールやフェルト等のほか、例えばポリウレタンや、発泡材を用いることができる。また、発泡スチロールや発泡ウレタン等の独立気泡の発泡体を用いると、空気の粒子運動を効果的に低減でき、また、軽量かつ低コストとできる。
【0030】
上記の実施形態の有効性を確かめるために、以下のような実験を行った。即ち、実施例1−1〜1−3、2−1のそれぞれの構造の二重壁構造体1を、音源室、受音室からなる残響室における両室の間の位置に設置し、JIS A1416に基づいて二重壁構造体1の片側から適宜の騒音を発生させ、二重壁構造体1を挟んだ両側で騒音計を用いて音圧を計測して、音響透過損失を求めた。
【0031】
この結果を図10、図11に示す。なお図10、図11のグラフのそれぞれには、従来例の構造(図9)について同様の実験を行った結果も併せて示してある。図10のグラフに示すように、従来例においては315Hz付近の周波数領域において音響透過損失に落ち込みがみられ、この部分で共鳴が生じていると推測される。一方、実施例1−1〜1−3の構成においては、前記仕切板13による共鳴モード抑制のため、315Hz付近の領域においても音響透過損失の落込みが改善されており、遮音性能を向上できていることが判る。また図11に示すように、実施例2−1の構成においても同様に、充填部材14による共鳴モード抑制のため、315Hz付近の領域において音響透過損失の落込みがほぼ解消されており、遮音性能を向上できていることが判る。
【0032】
以上に本発明の好適な実施形態を示したが、本発明の技術的範囲は以上の実施形態に限定されるものではなく、様々に変形して実施することができる。
【0033】
例えば本発明の二重壁構造体は、乗用車のドアのみならず、例えばフード、トランクリッドに適用することができる。また、板状体2,3の形状については、上記のような長方形とすることに限らず、必要とされる部品の形状に応じて種々変更され得ることは言うまでもない。
【0034】
また、音響透過損失の落込みの原因となる音圧モードの方向や次数は、二重壁構造体1の形状や騒音源との位置関係などの様々な事情により異なるので、仕切板13の向きや枚数はそれらを考慮して任意に定めて良く、必ずしも2枚の仕切板13・13を直交させる構成に限らない。即ち、仕切板13をどこに幾つ設けるかについては、想定される騒音による二重壁構造体1の内部空間4内の共鳴モードを考慮して、最適な位置と個数を決定すれば良い。
【0035】
前記仕切板13は、板状体2,3のうち何れか一方又は両方に一体形成することも可能である。例えば、板状体2,3及び仕切板13を何れも樹脂で構成し、射出成形等によって、仕切板13と板状体2,3とを一体化した構造とすることもできる。
【0036】
前記充填部材14の設置位置は、実施例2−1や2−2のように内部空間4の上側一部に設けることに限らず、例えば下側一部に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の二重壁構造体の実施例1−1の斜視図。
【図2】実施例1−2の斜視図。
【図3】実施例1−3の斜視図。
【図4】実施例1−4の斜視図。
【図5】実施例1−5の斜視図。
【図6】実施例1−6の斜視図。
【図7】実施例2−1の斜視図。
【図8】実施例2−2の斜視図。
【図9】従来例の二重壁構造体の構成を示す斜視図。
【図10】実施例1−1〜1−3の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【図11】実施例2−1の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【符号の説明】
【0038】
1 二重壁構造体
2 加振側の板状体
3 板状体
4 内部空間
12 固定部材(仕切り)
13・13 仕切板(仕切り)
14 充填部材
【技術分野】
【0001】
本発明は二重壁構造体に係り、より詳細には、遮音性に優れる二重壁構造体の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に用いられる部品としてのドアやフード、トランクリッドなどに二重壁構造体を使用することが従来から提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。この従来例の構成を模式的に図9に示す。この従来例の二重壁構造体1’は、所定の距離を隔てて相対する板状体2,3の間に内部空間4が形成されるとともに、当該内部空間4が側板5によって閉鎖された、中空箱状の構成とされている。
【特許文献1】特開2002−96636号公報
【特許文献2】特開2003−118364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1に示すような二重壁構造体1’において、下側から騒音の音波が入射され、当該騒音が特定の周波数の音成分を含んでいると、その音成分に対し内部空間4での共鳴(主に板状体2,3に平行な方向の共鳴)が発生することによって、放射面たる上側の板状体3の振幅が増大してしまい、放射音の増大により遮音性能が低下してしまっていた。
【0004】
本発明は以上の点に鑑みてされたものであり、その目的は、特定の周波数の音に対する音響透過量増大を抑制し、様々な周波数の音について安定して遮音性能を発揮し得る二重壁構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0006】
◆本発明の第1の観点によれば、相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記相対する板状体の間に、前記内部空間における空気の粒子運動を妨げる仕切りが設けられている、二重壁構造体が提供される。
【0007】
なお、「閉鎖」とは、厳密な密閉のみを意味するものではなく、一部隙間や開口部がある場合も含む。これは以下においても同様である。
【0008】
これにより、仕切りの作用によって共鳴周波数が変更されることによって内部空間全体の共鳴を抑えることができる。これにより内部空間の音圧が低下し、放射面側の加振力が低下するので、放射面の振動が減少し、音響透過損失の落込みを抑制できる。この結果、遮音性に優れる構造体を得ることができる。
【0009】
◆前記の二重壁構造体においては、前記仕切りによって仕切られた空間に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられていることが好ましい。
【0010】
この構成では、前記の共鳴抑制効果のほか、仕切りによって仕切られた空間での共鳴を前記充填部材によって抑制することも可能であり、音響透過損失の落込みを更に良好に抑制できる。
【0011】
◆本発明の第2の観点によれば、相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記内部空間の一部に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられている、二重壁構造体が提供される。
【0012】
この構成では、内部空間の一部において空気の粒子運動が充填部材によって妨げられるため、内部空間全体における共鳴が抑制され、音響透過損失の落込みを抑制できる。この結果、遮音性に優れる構造体を得ることができる。
【0013】
◆前記の二重壁構造体においては、前記充填部材が独立気泡の発泡体で構成されていることが好ましい。
【0014】
これにより、空気の粒子運動を効果的に低減できる構造の充填部材を、軽量かつ低コストで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1から図8には二重壁構造体の実施例がそれぞれ示されており、以下、順を追って説明する。
【0016】
図1に模式図を示す実施例1−1の二重壁構造体は、乗用車の部品としてのドアを想定したものである。この二重壁構造体1は、平行に配置されるとともに互いに所定の距離をおいて相対する板状体2,3を備えている。板状体2,3は一方向に若干長い長方形状に構成されており、2枚の対向する板状体2,3の間には、内部空間4が形成される。板状体2,3同士を繋ぐように側板5が設けられており、これによって内部空間4はほぼ閉鎖される。言い換えれば本実施形態の二重壁構造体1は、二重壁たる板状体2,3と、前記側板5とで、前記内部空間4を囲む箱状に構成されている。
【0017】
そして本実施形態では、前記内部空間4のうち前記板状体2に近い側の一部を仕切るように、矩形板状の仕切板(仕切り)13・13を設けている。この実施例1−1では、2枚の仕切板13・13を十字状に直交させて、内部空間4の下側の一部領域を4つに仕切って(区画して)いる。仕切板13・13の素材としては、例えば、鉄、アルミ、樹脂、繊維強化複合材料、紙などを採用できる。
【0018】
上記構成において、下側から板状体2側が騒音によって音圧加振される場合を考える。騒音が特定の周波数の音成分を含んでいると、板状体2が振動することにより内部空間4の長手方向又は短手方向で共鳴が起ころうとする。しかしながら、内部空間4のうち下側の空間では、仕切板13・13によって空気の粒子運動が妨げられる結果、共鳴周波数が変更される。従って、内部空間4全体でみたときに共鳴モードが形成されにくくなり、共鳴が抑えられる。以上の結果、放射面たる上側の板状体3の加振力が低下するので、放射面の振幅が低減され、音響透過損失の落込みを低減できる。
【0019】
なお、図1の実施例1−1において、仕切板13は、板状体2,3の長手方向に直交する方向のほか、幅方向(短手方向)に直交する方向にも設けている。即ち、仕切板13・13は十字状に配置され、内部空間4の一部領域を縦横に区画している。この結果、実施例1−1では、板状体2,3の長手方向のみでなく幅方向の共鳴も抑制できる。言い換えれば、二つの音圧モード方向における共鳴を抑制し得る構成となっている。ただし、一つの音圧モード方向の共鳴を抑制できれば十分な場合は、仕切板13を1枚のみ設けても構わない。
【0020】
図2には実施例1−2が示され、この構成においては、前記実施例1−1(図1)とは逆に、前記内部空間4のうち板状体3に近い側の一部を仕切るように、仕切板13・13を設けている。即ち、実施例1−2では、2枚の仕切板13・13を十字状に直交させて、内部空間4の上側の一部領域を4つに仕切って(区画して)いる。
【0021】
図3には実施例1−3が示され、この構成において仕切板13・13は、前記内部空間4の全部を縦横に区画するように設けている。
【0022】
図4には実施例1−4が示され、この構成においては、前記内部空間4のうち2枚の板状体2,3の間の中央部分のみを仕切るように、仕切板13・13を設けている。即ち、実施例1−4では、2枚の仕切板13・13を十字状に直交させて、内部空間4の上下中央側の一部領域を4つに仕切って(区画して)いる。
【0023】
図5には実施例1−5が示され、この構成においては、前記内部空間4のうち2枚の板状体2,3にそれぞれ近い側の一部を仕切るように、仕切板13・13を設けている。即ち、実施例1−5では、内部空間4のうち上下中央側を除いた両側の領域を、それぞれ、2枚の仕切板13・13を十字状に設置することで4つに仕切って(区画して)いる。
【0024】
図6には実施例1−6が示され、この構成においては、二重壁構造体の内部空間4に固定される何らかの機器の固定部材12が、仕切りとしての役割、即ち、図1〜図5までに示した仕切板13と同様の役割を兼ねるようになっている。図6に例示するように、図1〜図5で説明した仕切板13は、機器の固定部材12を兼ねるようにして設けたり、あるいは、機器の固定部材12と一体であるように設けたりすることができる。また、内部空間4に固定される機器の本体の一部を兼ねるように前記仕切板13を設けても良い。内部空間4に固定される機器としては、二重壁構造体1を自動車に用いられる部品としてのドアに適用する場合は、例えば、ドアガラス昇降用機器、サイドインパクトドアビーム、インナー若しくはインナーの一部などを挙げることができる。
【0025】
図7には実施例2−1が示され、この構成においては、前記内部空間4の前記板状体3に近い側に、直方体状の充填部材14を設けている。この実施例2−1では、内部空間4の上側の一部領域を隙間なく埋めるように、充填部材14が設置されている。
【0026】
上記構成において、下側から板状体2側が騒音によって音圧加振される場合を考える。騒音が特定の周波数の音成分を含んでいると、板状体2が振動することにより内部空間4の長手方向又は短手方向で共鳴が起ころうとする。しかしながら、内部空間4のうち上側の空間では、充填部材14によって空気の粒子運動が妨げられる。従って、内部空間4全体でみたときに共鳴モードが形成されにくくなり、共鳴が抑えられる。以上の結果、放射面たる上側の板状体3の加振力が低下するので、放射面の振幅が低減され、音響透過損失の落込みを低減できる。
【0027】
上記充填部材14の素材としては、グラスウールやフェルト等のほか、例えばポリウレタンや、発泡材を用いることができる。特に、発泡スチロールや発泡ウレタン等の独立気泡の発泡体を用いると、空気の粒子運動を効果的に低減でき、また、軽量かつ低コストとできる。
【0028】
図8には実施例2−2が示され、この構成は、実施例1−2(図2)と実施例2−1(図7)とを組み合わせたものに相当する。即ち、内部空間4の上側一部領域に充填部材14が敷き詰められるようにして設置され、その内部に埋め込むようにして、直交状に組み合わせた仕切板13・13が設けられている。この構成では、仕切板13による共鳴周波数の変更作用と、充填部材14による空気の粒子運動減衰作用とがあいまって、音響透過損失の落込みをより良好に抑制できる。
【0029】
この実施例2−2においても、充填部材14の素材としては、グラスウールやフェルト等のほか、例えばポリウレタンや、発泡材を用いることができる。また、発泡スチロールや発泡ウレタン等の独立気泡の発泡体を用いると、空気の粒子運動を効果的に低減でき、また、軽量かつ低コストとできる。
【0030】
上記の実施形態の有効性を確かめるために、以下のような実験を行った。即ち、実施例1−1〜1−3、2−1のそれぞれの構造の二重壁構造体1を、音源室、受音室からなる残響室における両室の間の位置に設置し、JIS A1416に基づいて二重壁構造体1の片側から適宜の騒音を発生させ、二重壁構造体1を挟んだ両側で騒音計を用いて音圧を計測して、音響透過損失を求めた。
【0031】
この結果を図10、図11に示す。なお図10、図11のグラフのそれぞれには、従来例の構造(図9)について同様の実験を行った結果も併せて示してある。図10のグラフに示すように、従来例においては315Hz付近の周波数領域において音響透過損失に落ち込みがみられ、この部分で共鳴が生じていると推測される。一方、実施例1−1〜1−3の構成においては、前記仕切板13による共鳴モード抑制のため、315Hz付近の領域においても音響透過損失の落込みが改善されており、遮音性能を向上できていることが判る。また図11に示すように、実施例2−1の構成においても同様に、充填部材14による共鳴モード抑制のため、315Hz付近の領域において音響透過損失の落込みがほぼ解消されており、遮音性能を向上できていることが判る。
【0032】
以上に本発明の好適な実施形態を示したが、本発明の技術的範囲は以上の実施形態に限定されるものではなく、様々に変形して実施することができる。
【0033】
例えば本発明の二重壁構造体は、乗用車のドアのみならず、例えばフード、トランクリッドに適用することができる。また、板状体2,3の形状については、上記のような長方形とすることに限らず、必要とされる部品の形状に応じて種々変更され得ることは言うまでもない。
【0034】
また、音響透過損失の落込みの原因となる音圧モードの方向や次数は、二重壁構造体1の形状や騒音源との位置関係などの様々な事情により異なるので、仕切板13の向きや枚数はそれらを考慮して任意に定めて良く、必ずしも2枚の仕切板13・13を直交させる構成に限らない。即ち、仕切板13をどこに幾つ設けるかについては、想定される騒音による二重壁構造体1の内部空間4内の共鳴モードを考慮して、最適な位置と個数を決定すれば良い。
【0035】
前記仕切板13は、板状体2,3のうち何れか一方又は両方に一体形成することも可能である。例えば、板状体2,3及び仕切板13を何れも樹脂で構成し、射出成形等によって、仕切板13と板状体2,3とを一体化した構造とすることもできる。
【0036】
前記充填部材14の設置位置は、実施例2−1や2−2のように内部空間4の上側一部に設けることに限らず、例えば下側一部に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の二重壁構造体の実施例1−1の斜視図。
【図2】実施例1−2の斜視図。
【図3】実施例1−3の斜視図。
【図4】実施例1−4の斜視図。
【図5】実施例1−5の斜視図。
【図6】実施例1−6の斜視図。
【図7】実施例2−1の斜視図。
【図8】実施例2−2の斜視図。
【図9】従来例の二重壁構造体の構成を示す斜視図。
【図10】実施例1−1〜1−3の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【図11】実施例2−1の音響透過抑制効果を従来例と比較して示すグラフ図。
【符号の説明】
【0038】
1 二重壁構造体
2 加振側の板状体
3 板状体
4 内部空間
12 固定部材(仕切り)
13・13 仕切板(仕切り)
14 充填部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記相対する板状体の間に、前記内部空間における空気の粒子運動を妨げる仕切りが設けられていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の二重壁構造体であって、前記仕切りによって仕切られた空間に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項3】
相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記内部空間の一部に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の二重壁構造体であって、前記充填部材が独立気泡の発泡体で構成されていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項1】
相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記相対する板状体の間に、前記内部空間における空気の粒子運動を妨げる仕切りが設けられていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の二重壁構造体であって、前記仕切りによって仕切られた空間に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項3】
相対する板状体の間に内部空間が形成されるとともに当該内部空間が閉鎖されている二重壁構造体において、前記内部空間の一部に、空気の粒子運動を妨げるための充填部材が設けられていることを特徴とする二重壁構造体。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の二重壁構造体であって、前記充填部材が独立気泡の発泡体で構成されていることを特徴とする二重壁構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−113279(P2006−113279A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300305(P2004−300305)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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