説明

二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン

本発明は、二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン、および特に眼用用途用の、全ての種類のプラスチックにおけるその使用、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン、および特に眼用用途用の、全ての種類のプラスチックにおけるその使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の波長の光、特に太陽光線を照射すると可逆的に変色する種々の色素クラスについては昔から知られている。可逆的に変色するのは、これらの色素分子が光エネルギーによって励起状態に転換され、エネルギー供給が途絶えた場合には励起状態を再び離れて初めの状態に戻るからである。これらのフォトクロミック色素には、様々な基本系および置換基とともに先行技術中にすでに記載されている種々のピラン系が含まれる。
【0003】
ピラン、特にナフトピランおよびナフトピランに由来するより大きな環系は、現在、ほとんどの研究の主題となってきたフォトクロミック化合物のクラスである。特許が初めて出願されたのは1966年(米国特許第3,567,605号)と早かったものの、眼鏡レンズにおける使用に好適と思われる化合物が開発されたのは1990年代になってからであった。好適なクラスのピラン化合物は、例えば、2,2−ジアリール−2H−ナフト[1,2−b]ピランまたは3,3−ジアリール−3H−ナフト[2,1−b]ピランであり、これらは励起形態において、黄色、橙色または赤橙色等の種々の色を示す。
【0004】
対象となるフォトクロミック化合物のさらなるクラスは、環系がより大きいために、より長い波長で吸収をし、赤、紫および青の色調を呈する、より高度に縮合したピランのクラスである。これらは、特定のナフトピラン系がf側で縮合することから生じる、2H−ナフト[1,2−b]ピランまたは3H−ナフト[2,1−b]ピランのいずれかに由来する系であってよい。
【0005】
ジアリールクロメン、特にナフトピランまたは複素環式縮合ベンゾピランは、フェニル環、またはより一般的には、ベンゾピランの5位を経て少なくとも1個の炭素原子、酸素原子または窒素原子を介して追加的に架橋している芳香環または芳香族複素環によってベンゾピラン上で6個置換されているが、現在最も有望なフォトクロミック化合物である。
【0006】
この架橋が1個の原子のみを介して生成される場合、生じるのはベンゾピランに縮合した5員環である。1個の炭素原子の場合の例は、米国特許第5,645,767号、米国特許第5,723,072号および米国特許第5,955,520号に記載されており、1個の酸素原子の場合の例は米国特許第6,018,059号に記載されている。
【0007】
米国特許第5,723,072号では、非置換、一置換または二置換の複素環はインデノナフトピランのg、h、i、n、oまたはp側でこの基本系に追加的に縮合し得る。したがって、インデノ[1,2−f]ナフト[1,2−b]ピランとともに非常に広範囲の考え得る置換基の変形が開示されている。
【0008】
国際公開第96/14596号、国際公開第99/15518号、米国特許第5,645,767号、国際公開第98/32037号および米国特許第5,698,141号には、2H−ナフト[1,2−b]ピランに由来するフォトクロミックインデノ縮合ナフトピラン色素、それらを含む組成物、およびその調製プロセスが開示されている。米国特許第5,698,141号では、非置換、一置換または二置換の複素環はインデノナフトピランのg、h、i、n、oまたはp側でこの基本系に追加的に縮合し得る。置換基のリス
トはそれぞれの場合において非常に広範であるが、かなり具体的なスピロ化合物、より具体的には、基本系の13位のスピロ原子を含む、常に2個の酸素原子を持つ5〜8員環が存在するスピロ複素環基を有する系も含まれている。スピロ環のさらなる実施形態は、特願344762/2000に記載されている。
【0009】
この結合が2個の原子を介して生成される場合、生じるのは、C、OおよびNだけには種々の選択肢がある縮合6員環である。C=OおよびN−R(ラクタム架橋)を有する化合物が、米国特許第6,379,591号に記載されている。親ベンゾピランの7、8位に非置換のCH2−CH2架橋および縮合複素環を有する化合物が、米国特許第6,426,023号に記載されている。
【0010】
米国特許第6,506,538号には、架橋中の水素原子がOH、(C1〜C6)−アルコキシで置換されていてもよいか、または1個の炭素原子上の2個の水素原子が=Oで置換されていてもよい炭素環式類似化合物が記載されている。あるいは、2員の架橋中の炭素原子のうちの1個は、同様に酸素で置換されていてもよい。中でもこれらの化合物は国際公開第00/02884号に記載されている。
【0011】
この結合が3個の原子によって生成される場合、生じるのは、ヘテロ原子の挿入によって非常に多くの変形が考えられる縮合7員環である。CH2−CH2−CH2架橋を有する化合物が米国特許第6,558,583号に記載されている。ここでもまた、架橋中の水素原子はOH、(C1〜C6)−アルキルまたは(C1〜C6)−アルコキシで置換されていてもよいか、または1個の炭素原子上の2個の水素原子が=Oで置換されていてもよい。同じ置換パターンであることを考えると、これらは縮合6員環よりも短い波長で吸収する。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0094753号には、2原子架橋および3原子架橋を有する化合物の両方が記載されている。2原子(炭素)架橋は、炭素環または複素環に追加的に縮合する。3原子架橋には、3個の炭素原子または2個の炭素原子、および追加的に縮合することのない1個の酸素原子が含まれている。環は両方とも種々の置換基を有していてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第3,567,605号
【特許文献2】米国特許第5,645,767号
【特許文献3】米国特許第5,723,072号
【特許文献4】米国特許第5,955,520号
【特許文献5】米国特許第6,018,059号
【特許文献6】国際公開第96/14596号
【特許文献7】国際公開第99/15518号
【特許文献8】国際公開第98/32037号
【特許文献9】米国特許第5,698,141号
【特許文献10】特願344762/2000
【特許文献11】米国特許第6,379,591号
【特許文献12】米国特許第6,426,023号
【特許文献13】米国特許第6,506,538号
【特許文献14】国際公開第00/02884号
【特許文献15】米国特許出願公開第2004/0094753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、先行技術において利用可能な様々なフォトクロミック色素には、サングラスに用いた場合に着用者のかけ心地を著しく損なうという欠点がある。第1に、これらの色素は励起状態および非励起状態において長波吸収が不十分である。第2に、多くの場合暗色化の温度感度が高すぎ、また一方で明色化が遅すぎることがある。さらに、先行技術において利用可能な色素は多くの場合寿命が不十分であり、それゆえにサングラスの耐用年数はほんの短いものとなる。後者の欠点は、性能の急速な衰え、および/または著しい黄変によって認知できるようになる。
【0015】
したがって本発明の目的は、先行技術に記載されている構造物に比べて著しく改善された特性を備えたフォトクロミック化合物のクラスを提供することにある。これらは、可視波長域に対して鋭いエッジを有する閉形の長波吸収極大、高い暗色化性能、超高速の明色化反応および非常に良好な光安定性の組合せの中に見出される。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本目的は、特許請求の範囲で特徴付けられた項目によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の化合物の光の吸収を示す図である。
【図2】本発明のフォトクロミック化合物の合成スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
より具体的には、一般式(I)とともに二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピランが提供される。
【0019】
【化1】

(式中、R2、R3またはR4基、好ましくはR2またはR3の少なくとも1つは、下記ユニット(A)であり:
【0020】
【化2】

ただし、R10またはR11は、結合部位のオルト位にあるR1、R2、R3またはR4基と一緒
になって架橋を形成するか、または、R10およびR11は、R2を介した上記(A)ユニットの結合の場合には、それぞれの場合において結合部位のオルト位にあるR1およびR3基の両方と一緒になって、もしくはR3を介した上記(A)ユニットの結合の場合には、結合部位のオルト位にあるR2およびR4基の両方に対して2個の架橋を形成し、ここで、それぞれの場合におけるR10またはR11基を介する架橋は、−CR1314−、−O−、−S−、−N(Ph)−、−N(C1〜C6アルキル)−、−O−CR1314−、−S−CR1314−、−CR1314−CR1314−、−CR15=CR16−または−CR15=N−からなる群より選択されるものであり、
また式中、
架橋を形成しない場合のR1、R2、R3、R4、R10およびR11基、ならびにR9およびR12基は、互いに独立して、水素原子、(C1〜C6)−アルキル基、(C1〜C6)−チオアルキル基、OまたはS等の1個または複数のヘテロ原子を有していてもよい(C3〜C7)−シクロアルキル基、(C1〜C6)−アルコキシ基、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、臭素、塩素、フッ素、非置換、一置換または二置換のフェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、ナフチルまたはナフトキシ基からなる群αより選択される置換基であり、さらなる置換基は同じく群αより選択されてもよく;またはR1およびR2基は、R4を介した上記(A)ユニットの結合の場合には、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく;
または、互いにオルト位にある2個のR9基または互いにオルト位にある2個のR12基は、芳香環に結合した−D−(CH2k−E−基または−D−(C(CH32k−E−基を形成し、ここでk=1または2であり、DおよびEは互いに独立して酸素、硫黄、CH2、C(CH32またはC(C652より選択され、ベンゾ環がさらにこの−D−(CH2k−E−基に縮合してもよく;
または、互いにオルト位にある2個のR9基または互いにオルト位にある2個のR12基は、非置換、一置換または二置換のベンゾまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく;
5、R6、R7およびR8基は、互いに独立に群αより選択されるか、または
5およびR6基、またはR7およびR8基は一緒になって、スピロ炭素原子を含み、所望により群αからの1個または複数の置換基を有する3〜8員の炭素単環式またはヘテロ単環式スピロ環を形成し、このスピロ環には1〜3個の芳香環系またはヘテロ芳香環系が縮合していてもよく、ここでこの環系はベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドールおよびカルバゾールからなる群βより独立して選択され、これらはさらに群αからの1個または複数の置換基で置換されていてもよく、ここで2個の隣接した縮合環系はまたオルト,オルト’架橋で互いに結合していてもよく、または
5およびR6基、またはR7およびR8基は一緒になって、スピロ炭素原子を含み、それぞれ所望により群αからの1個または複数の置換基を有していてもよい、7〜12員の炭素二環式スピロ環または7〜12員の炭素三環式スピロ環を形成するか、またはR5およびR6基は、R4と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく、
13、R14、R15およびR16基は互いに独立して群αより選択される置換基であるか、または
13およびR14基は、結合部位のメタ位にあるR12基と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよいが、これは、−O−CR1314−または−S−CR1314−基による架橋の場合は、CR1314がR12を有するフェニル環と直接結合している場合にのみ可能であり、または
3を介した上記(A)ユニットの結合、およびR2を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR1と一緒になって、またはR4を介した上記(A)ユニットの結合、およびR3
を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR2と一緒になって、またはR2を介した上記(A)ユニットの結合、およびR3を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR4と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく、または
3を介した上記(A)ユニットの結合、およびR4を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR5およびR6と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよいが、これは、−O−CR1314−または−S−CR1314−基による架橋の場合は、CR1314がさらにCR56も有するフェニル環と直接結合している場合にのみ可能であり、または
15およびR16基は、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく;
mは0、1、2、3または4であり、nは0、1、2または3であり;
BおよびB’は、互いに独立して以下の群a)、b)およびc)のうちの1つから選択される:
a)一置換、二置換および三置換のアリール基、ここでアリール基はフェニル、ナフチルまたはフェナントリルである;
b)非置換、一置換および二置換のヘテロアリール基、ここでヘテロアリール基はピリジル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、1,2,3,4−テトラヒドロカルバゾリルまたはジュロリジニルである;
ここで、a)およびb)におけるアリールまたはヘテロアリール基の置換基は、上記で定義された群α、または、ヒドロキシル、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換である2−フェニルエテニル、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換である(フェニルイミノ)メチレン、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換である(フェニルメチレン)イミノ、アミノ、モノ−(C1〜C6)−アルキルアミノ、ジ−(C1〜C6)−アルキルアミノ、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換であるモノ−およびジフェニルアミノ、ピペリジニル、N−置換ピペラジニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、インドリニル、モルホリニル、2,6−ジメチルモルホリニル、チオモルホリニル、アザシクロヘプチル、アザシクロオクチル、非置換、一置換または二置換のフェノチアジニル、非置換、一置換または二置換のフェノキサジニル、非置換、一置換または二置換の1,2,3,4−テトラヒドロキノリニル、非置換、一置換または二置換の2,3−ジヒドロ−1,4−ベンゾキサジニル、非置換、一置換または二置換の1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリニル、非置換、一置換または二置換のフェナジニル、非置換、一置換または二置換のカルバゾリル、非置換、一置換または二置換の1,2,3,4−テトラヒドロカルバゾリルおよび非置換、一置換または二置換の10,11−ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニルからなる群χより選択される置換基であり、ここでのさらなる置換基(1つまたは複数)は、互いに独立して(C1〜C6)−アルキル、(C1〜C6)−アルコキシ、臭素、塩素およびフッ素から選択されてもよい;
またはここで、2個の直接隣接した置換基は、p=1,2または3であり、Xが水素、CH3またはC65であってもよく、YおよびZが互いに独立して酸素、硫黄、N−(C1〜C6)−アルキル、N−C65、CH2、C(CH32またはC(C652であってもよいY−(CX2p−Z−部分であり、ここで、このY−(CX2p−Z−部分における2個以上の隣接する炭素原子もまた、互いに独立して、それと縮合したベンゾ環系の一部分であってもよく、ベンゾ環系は、それぞれの場合において、さらに群αまたは群χより選択される1個または複数の置換基を有していてもよい;
または
c)BおよびB’は、ピラン環の隣接する炭素原子と一緒になって、非置換、一置換または二置換の9,10−ジヒドロアントラセン、フルオレン、チオキサンテン、キサンテン、ベンゾ[b]フルオレン、5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテンもしくはジベンゾスベロン基、または(C3〜C12)−スピロ単環式、(C7〜C12)−スピロ二環式または(C7〜C12)−スピロ三環式の飽和炭化水素基を形成し、ここで不飽和環の置換基は、
互いに独立して群αまたは群χより選択されてもよい。
【0021】
二重架橋テルフェニルサブユニットを有する本発明のフォトクロミックナフトピランは、先行技術において現在利用可能な系と比べると、特性プロフィール、特に非常に良好な寿命と高速の明色化との組合せが改善されている。本発明の化合物は、長波吸収極大、高い暗色化性能、超高速の明色化反応および非常に良好な光安定性のバランスを特徴としている。
【0022】
5およびR6基、またはR7およびR8基は一緒になって、スピロ炭素原子を含み、3〜8員の炭素環式またはヘテロ環式環を形成してもよく、これらの環には1〜3個の芳香環系またはヘテロ芳香環系が縮合していてもよく、これらの環系はベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドールおよびカルバゾールからなる群βより選択され、これらもさらに群αからの1個または複数の置換基で置換されていてもよい。2個の隣接した縮合環系がオルト,オルト’架橋、好ましくはエチレンまたは1,2−エテンジイル架橋によって、例えば後者の場合以下の構造単位が存在するように、互いに結合していることも可能である:
【0023】
【化3】

【0024】
しかしながら、好ましい実施形態において、R5およびR6基、またはR7およびR8基は互いに独立して群αより選択される。
【0025】
BまたはB’が、C3〜C12−スピロ単環式、C7〜C12−スピロ二環式またはC7〜C12−スピロ三環式の飽和炭化水素基である場合、C3〜C12−スピロ単環式は、当業者にはよく知られている3〜12員環を意味するものと理解される。C7〜C12−スピロ二環式系もまた当業者には周知である。ここでの例としては、代わってノルボルナン、ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエン、ノルカランおよびピナンが挙げられる。C7〜C12−スピロ三環式系の実例としてはアダマンタンが挙げられる。
【0026】
さらに好ましい実施形態において、BおよびB’基は互いに独立して上記で定義した群a)から選択される。
【0027】
窒素原子を有するかまたはアミン基を有する、群χの置換基は、後者を介して群a)のフェニル、ナフチルまたはフェナントリル基に結合している。
【0028】
群a)のフェニル、ナフチルもしくはフェナントリル基またはBもしくはB’基に結合していてもよい群χの置換基に関して、このY−(CX2p−Z−部分の2個以上の隣接する炭素原子は、互いに独立して、それと縮合したベンゾ環系の一部分であってもよいが、このことは、2個のメチレン炭素原子(−CH2−CH2−)がその場合には縮合環系の一部分になってもよいことを意味している。例えば、2個または3個のベンゾ環が縮合している場合、例えば、以下に示す下記構造単位の存在が可能である:
【0029】
【化4】

【0030】
しかしながら、このY−(CX2p−Z−部分の2個の隣接した炭素原子を介するベンゾ環縮合の存在が1個だけであることもまた可能であると理解されるであろう。
【0031】
本発明の、二重架橋テルフェニルサブユニットを有する好ましいフォトクロミックナフトピランは、以下の一般式(II)および(III)を有する:
【0032】
【化5】

式中、m、n、B、B’、R1およびR4〜R12は各々前記の定義と同じであり、Wは上記で特定した架橋(架橋はこの2つの場合、R2およびR10基により形成され、前記の定義と同じ、すなわち−CR1314−、−O−、−S−、−N(Ph)−、−N(C1〜C6アルキル)−、−O−CR1314−、−S−CR1314−、−CR1314−CR1314−、−CR15=CR16−または−CR15=N−からなる群より選択される)を表す記号である。
【0033】
先行技術、すなわち米国特許第6,506,538号と比較すると、本発明の化合物は、他の置換基B、B’、R1、およびR4〜R9が同じであるとすると、より長い波長を有し、特に、非励起および励起状態の両方において(より強い)濃色吸収帯を有する。非励起状態において波長がより長く吸収がより強いということは、例えばプラスチック製の眼鏡レンズへフォトクロミック色素を導入する場合において、2つの重要な利点がある。第1に、本発明の化合物は、都合の悪い大気条件下、非常に長い波長のUV日光(380nmより)しか入射しない場合にも反応する。非励起形態の本発明の化合物は、370nm
より大きい波長において、先行技術の化合物に比べて有意により強く吸収することが、図1より明らかである。結果として、本発明のフォトクロミック化合物は、都合の悪い条件下でさえも非常に良好な暗色化性能を示す。第2に、本発明の化合物は入射UV光を完全に吸収するため、結果として最大400nmの完全UV防御が自動的に達成される。サングラス製造においてはUV吸収剤を添加する必要がない。UV吸収剤を添加すると入射光の一部が常に吸収され、UV吸収剤がないレンズよりもUV吸収剤を含有するレンズのほうが常に暗色化の程度が小さくなってしまうため、これは重要な利点である。
【0034】
図1に示す本発明の化合物の構造および励起形態におけるその最長吸収極大波長を下記表1に示す(米国特許第6,506,538号からの先行技術と比較):
【0035】
【表1】

【0036】
本発明のフォトクロミック色素および先行技術の化合物(上記参照)の特性を測定するため、各色素500ppmをアクリレートモノマーマトリックス中に溶解させ、重合開始剤を添加後、温度プログラムを利用して熱重合させた。こうして製造したプラスチックレ
ンズ(厚さ2mm)の伝導特性を、続いてDIN EN ISO 8980−3に従って分析した。
【0037】
本発明の化合物は、フォトクロミックの性質が重要な意味を持つ多くの最終用途用の、あらゆる種類および形態の高分子材料またはプラスチック製品に用いることができる。本発明の色素、またはかかる色素の混合物を用いることができる。例えば、二重架橋テルフェニルサブユニットを有する本発明のフォトクロミックナフトピランは、レンズ、特に眼鏡レンズ、例えばスキーゴーグル、サングラス、オートバイゴーグル、安全ヘルメットのバイザー等のあらゆる種類の眼鏡およびゴーグル用レンズに用いることができる。さらに、二重架橋テルフェニルサブユニットを有する本発明のフォトクロミックナフトピランは、例えば、窓、保護スクリーン、カバー、屋根等の形態の、乗り物および生活空間での日除けとして用いることもできる。
【0038】
かかるフォトクロミック製品を製造するために、二重架橋テルフェニルサブユニットを有する本発明のフォトクロミックナフトピランは、有機高分子材料等の高分子材料に適用することができるか、または国際公開第99/15518号ですでに明記されているような、先行技術に記載の種々のプロセスで高分子材料に埋め込むことができる。
【0039】
全着色プロセスと表面着色プロセスとの間には区別をつけることができる。全着色プロセスには、例えば、重合を行う前にフォトクロミック化合物(1種または複数)を単量体材料に添加することなどにより、本発明のフォトクロミック化合物(1種または複数)を高分子材料中に溶解または分散させることが含まれる。フォトクロミック製品のさらなる製造方法は、高分子材料を本発明のフォトクロミック色素(1種または複数)の熱溶液中に浸漬することによる、高分子材料(1種または複数)のフォトクロミック化合物(1種または複数)との浸透、あるいは、例えば熱転写プロセスである。フォトクロミック化合物(1種または複数)は、例えば高分子材料の隣接する層の間の別々の層の形態で、例えば高分子膜の一部として生成することもできる。さらに、高分子材料の表面に存在するコーティングの一部としてフォトクロミック化合物(1種または複数)を適用することも可能である。この文脈における「浸透」という表現は、例えば、溶媒の支援によるフォトクロミック化合物(1種または複数)の高分子マトリックス中への移動、気相移動、またはこの種のその他の表面拡散プロセスによる、フォトクロミック化合物(1種または複数)の高分子材料中へのマイグレーションを意味するものとする。都合が良いことには、習慣的な全着色による方法だけではなく、表面着色による同様の方法でも、かかるフォトクロミック製品、例えば眼鏡レンズを製造することが可能であり、後者の変形の場合、驚くべきほど比較的低いマイグレーション傾向が実現可能である。このことは、特にその後の仕上げ工程の場合に都合が良い。なぜならば、例えば反射防止膜の場合は、減圧下での逆拡散がより少ない結果、層分離および同様の欠点が大幅に減少するためである。
【0040】
全体的に見ると、二重架橋テルフェニルサブユニットを有する本発明のフォトクロミックナフトピランを基に、美的側面および医療またはファッションの側面の両方を満たすために、あらゆる適合性を持つ(化学的観点から、また色の点において適合性である)着色剤、すなわち色素を、高分子材料に、または高分子材料中に適用または埋め込むことが可能である。具体的に選択される色素(1種または複数)は、目的とする効果および要件に応じて異なってもよい。
【0041】
本発明のフォトクロミック化合物は、図2に示す通り、以下に図解する合成スキームに従って調製することができる。
【0042】
好適に置換されたメチリデンコハク酸無水物を、第1の工程にて、好適に置換されたベンゼン誘導体とのフリーデルクラフツ反応に付す(工程(i))。次に、生じた中間体の
−COOH基を保護し、この中間体を、銅塩の支援による同様に置換されたベンジル誘導体のマイケル付加に付す(工程(ii))。カルボン酸保護基の除去後、リン酸による分子内環化を介して、同様に置換された9,10−ジヒドロフェナントレン誘導体を形成する(工程(iii))。次に、工程(iv)にて、これらの置換ジヒドロフェナントレン誘導体を、好適に置換された2−プロピン−1−オール誘導体と反応させ、本発明の化合物を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピランであって、
一般式(I):
【化1】

(式中、
2、R3またはR4基の少なくとも1つ、好ましくはR2またはR3は、下記ユニット(A)であり:
【化2】

ただし、R10またはR11は、結合部位のオルト位にあるR1、R2、R3またはR4基と一緒になって架橋を形成するか、または、R10およびR11は、R2を介した上記(A)ユニットの結合の場合には、それぞれの場合において結合部位のオルト位にあるR1およびR3基の両方と一緒になって、もしくはR3を介した上記(A)ユニットの結合の場合には、結合部位のオルト位にあるR2およびR4基の両方に対して2個の架橋を形成し、ここで、それぞれの場合におけるR10またはR11基を介する架橋は、−CR1314−、−O−、−S−、−N(Ph)−、−N(C1〜C6アルキル)−、−O−CR1314−、−S−CR1314−、−CR1314−CR1314−、−CR15=CR16−または−CR15=N−からなる群より選択されるものであり、
また式中、
架橋を形成しない場合のR1、R2、R3、R4、R10およびR11基、ならびにR9およびR12基は、互いに独立して、水素原子、(C1〜C6)−アルキル基、(C1〜C6)−チオアルキル基、OまたはS等の1個または複数のヘテロ原子を有していてもよい(C3〜C7)−シクロアルキル基、(C1〜C6)−アルコキシ基、ヒドロキシル基、トリフルオロメチル基、臭素、塩素、フッ素、非置換、一置換または二置換のフェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、ナフチルまたはナフトキシ基からなる群αより選択される置換基であり、さらなる置換基は同じく群αより選択されてもよく;または
1およびR2基は、R4を介した上記(A)ユニットの結合の場合には、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく;
または、互いにオルト位にある2個のR9基または互いにオルト位にある2個のR12基は
、芳香環に結合した−D−(CH2k−E−基または−D−(C(CH32k−E−基を形成し、ここでk=1または2であり、DおよびEは互いに独立して酸素、硫黄、CH2、C(CH32またはC(C652より選択され、ベンゾ環がさらにこの−D−(CH2k−E−基に縮合してもよく;
または、互いにオルト位にある2個のR9基または互いにオルト位にある2個のR12基は、非置換、一置換または二置換のベンゾまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく;または
5、R6、R7およびR8基は、互いに独立に群αより選択されるか、または
5およびR6基、またはR7およびR8基は一緒になって、スピロ炭素原子を含み、所望により群αからの1個または複数の置換基を有する3〜8員の炭素単環式またはヘテロ単環式スピロ環を形成し、このスピロ環には1〜3個の芳香環系またはヘテロ芳香環系が縮合していてもよく、ここでこの環系はベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、キノリン、フラン、チオフェン、ピロール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、インドゾール(indozole)およびカルバゾールからなる群βより独立して選択され、これらはさらに群αからの1個または複数の置換基で置換されていてもよく、ここで2個の隣接した縮合環系はまたオルト,オルト’架橋で互いに結合していてもよく、または
5およびR6基、またはR7およびR8基は一緒になって、スピロ炭素原子を含み、それぞれ所望により群αからの1個または複数の置換基を有していてもよい、7〜12員の炭素二環式スピロ環または7〜12員の炭素三環式スピロ環を形成するか、または
5およびR6基は、R4と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく、
13、R14、R15およびR16基は互いに独立して群αより選択される置換基であるか、または
13およびR14基は、結合部位のメタ位にあるR12基と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよいが、これは、−O−CR1314−または−S−CR1314−基による架橋の場合は、CR1314がR12を有するフェニル環と直接結合している場合にのみ可能であり、または
3を介した上記(A)ユニットの結合、およびR2を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR1と一緒になって、またはR4を介した上記(A)ユニットの結合、およびR3を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR2と一緒になって、またはR2を介した上記(A)ユニットの結合、およびR3を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR4と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく、または
3を介した上記(A)ユニットの結合、およびR4を介した架橋の場合には、R13およびR14基はR5およびR6と一緒になって、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよいが、これは、−O−CR1314−または−S−CR1314−基による架橋の場合は、CR1314がさらにCR56も有するフェニル環と直接結合している場合にのみ可能であり、または
15およびR16基は、縮合した、非置換、一置換または二置換のベンゾ、ナフトまたはピリド環であり、ここでの置換基は群αより選択されてもよく;
mは0、1、2、3または4であり、nは0、1、2または3であり;
BおよびB’は、互いに独立して以下の群a)、b)およびc)のうちの1つから選択される:
a)一置換、二置換および三置換のアリール基、ここで該アリール基はフェニル、ナフチルまたはフェナントリルである;
b)非置換、一置換および二置換のヘテロアリール基、ここで該ヘテロアリール基はピリジル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、1,2,3,4−テトラヒドロカルバゾリルまたはジュロリジニルである;
ここで、a)およびb)におけるアリールまたはヘテロアリール基の置換基は、上記で定
義された群α、または、ヒドロキシル、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換である2−フェニルエテニル、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換である(フェニルイミノ)メチレン、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換である(フェニルメチレン)イミノ、アミノ、モノ−(C1〜C6)−アルキルアミノ、ジ−(C1〜C6)−アルキルアミノ、フェニル環上にて非置換、一置換または二置換であるモノ−およびジフェニルアミノ、ピペリジニル、N−置換ピペラジニル、ピロリジニル、イミダゾリジニル、ピラゾリジニル、インドリニル、モルホリニル、2,6−ジメチルモルホリニル、チオモルホリニル、アザシクロヘプチル、アザシクロオクチル、非置換、一置換または二置換のフェノチアジニル、非置換、一置換または二置換のフェノキサジニル、非置換、一置換または二置換の1,2,3,4−テトラヒドロキノリニル、非置換、一置換または二置換の2,3−ジヒドロ−1,4−ベンゾキサジニル、非置換、一置換または二置換の1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリニル、非置換、一置換または二置換のフェナジニル、非置換、一置換または二置換のカルバゾリル、非置換、一置換または二置換の1,2,3,4−テトラヒドロカルバゾリルおよび非置換、一置換または二置換の10,11−ジヒドロジベンゾ[b,f]アゼピニルからなる群χより選択される置換基であり、ここでのさらなる置換基(1つまたは複数)は、互いに独立して(C1〜C6)−アルキル、(C1〜C6)−アルコキシ、臭素、塩素およびフッ素から選択されてもよい;
またはここで、2個の直接隣接した置換基は、p=1,2または3であり、Xが水素、CH3またはC65であってもよく、YおよびZが互いに独立して酸素、硫黄、N−(C1〜C6)−アルキル、N−C65、CH2、C(CH32またはC(C652であってもよいY−(CX2p−Z−部分であり、ここで、このY−(CX2p−Z−部分における2個以上の隣接する炭素原子もまた、互いに独立して、それと縮合したベンゾ環系の一部分であってもよく、ベンゾ環系は、それぞれの場合において、さらに群αまたは群χより選択される1個または複数の置換基を有していてもよい;または
c)BおよびB’は、ピラン環の隣接する炭素原子と一緒になって、非置換、一置換または二置換の9,10−ジヒドロアントラセン、フルオレン、チオキサンテン、キサンテン、ベンゾ[b]フルオレン、5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテンもしくはジベンゾスベロン基、または(C3〜C12)−スピロ単環式、(C7〜C12)−スピロ二環式または(C7〜C12)−スピロ三環式の飽和炭化水素基を形成し、ここで該不飽和環の置換基は、互いに独立して群αまたは群χより選択されてもよい。)
を有するフォトクロミックナフトピラン。
【請求項2】
前記R5、R6、R7およびR8基が互いに独立して群αより選択される、請求項1に記載の二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン。
【請求項3】
BおよびB’が互いに独立して群a)より選択される、請求項1または2のいずれかに記載の二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン。
【請求項4】
前記R5、R6、R7およびR8基が互いに独立して群αより選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン。
【請求項5】
前記R13、R14、R15およびR16基が互いに独立して群αより選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン。
【請求項6】
以下の一般式(II)および(III):
【化3】

(式中、m、n、B、B’、R1、およびR4〜R12は各々前記の定義と同じであり、Wは上記で特定した架橋を表す記号である)
を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二重架橋テルフェニルサブユニットを有するフォトクロミックナフトピラン。
【請求項7】
高分子材料中および高分子材料上における、請求項1〜6のいずれか1項に記載の二重架橋テルフェニルサブユニットを有する前記フォトクロミックナフトピランの使用。
【請求項8】
前記高分子材料が眼用レンズである、請求項7に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−518849(P2011−518849A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506610(P2011−506610)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003113
【国際公開番号】WO2009/132842
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(503279013)ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング (34)
【Fターム(参考)】