説明

二重袋体波浪制御構造物、その製作方法及びその構築方法

【課題】耐用寿命を高め、サーファーや海水浴客等に対し安全であり、現地の自然環境を保全し、生態系によい環境を作り出し、また設置する現地に適応した形状、重量の二重袋体波浪制御構造物とする。
【解決手段】重ね合わせた合成樹脂製の不織布又は織布からなる二枚のシート2a,2bにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより形成した複数のセルを持つセル付きシート材を現地の製造ヤードに搬入し、現地で調達可能な砂を含む流動性の中詰材5aを複数のセルにそれぞれ充填してセル付きシート体1を作製し、このセル付きシート体1により形成した袋材に前記と同様の中詰材5bを充填して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重袋体波浪制御構造物、その製作方法及びその構築方法に関するものであり、特に、耐用寿命を高めることができ、サーファーや海水浴客等に対し安全であり、また現地の自然環境を保全しうるとともに生態系によい環境を作り出すことが可能な二重袋体波浪制御構造物、その製作方法及びその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波浪制御構造物に関連する従来技術として、例えば次のような中仕切を設けた耐波浪性土木工事用袋材が知られている。この従来技術は、中仕切を設けた合成繊維製の網袋材に、砕石や砂利等の中詰材を投入した後、網袋材上部の開口部を口縛りロープにより閉止して、中詰材を充填した袋体を構成している。そして、波浪の作用による袋体内での中詰材の移動を防止し、袋体の剪断変形を少なくするようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、波浪制御構造物に関連する他の従来技術として、例えば次のような被覆材、被覆材の制作方法、洗掘防止構造、洗掘防止工法が知られている。この従来技術は、合成繊維又は天然繊維製の2枚の網材の左右側部、底部となる外周部及び連筒形状とするための縫合線の各部分を縫合して、複数の袋が連筒形状に結合した形の網袋を準備し、この網袋に、砂利、砕石、人工砂利、リサイクル石材等の中詰材を投入した後、網袋の口をかがって被覆材を構成している。そして、連筒形状とすることで中詰材を拘束する網張力を大にして網材の摩耗を低減できるようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−129443号公報(第2,3頁、図1)。
【特許文献2】特開2003−171923号公報(第2,3頁、図1)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の従来技術においては、合成繊維製の網袋材に、砕石や砂利等の中詰材が充填されて構成されている。このため、台風等の襲来時に、浮遊物等の鋭利なものにより網袋材が破損して中詰材が流出すると、港湾等を外海の波浪から保護する機能が劣化するとともに現地の自然環境を害し、また海水浴客等が怪我をするおそれがある。
【0005】
また、特許文献2に記載の従来技術においては、合成繊維製の複数の網袋が連筒形状に結合された袋材に、砂利、砕石、リサイクル石材等の中詰材が充填されて構成されている。このため、台風等の襲来時に、浮遊物等の鋭利なものにより袋材が破損して中詰材が流出すると、上記と同様のおそれがある。
【0006】
さらに、海浜等への構築物は製造コストを低く抑えうるとともに現地に適応した形状、重量のものとし、また局所洗掘を防止しうるものが望まれる。
【0007】
そこで、耐用寿命を高め、サーファーや海水浴客等に対し安全であり、現地の自然環境を保全し、生態系によい環境を作り出し、またコスト低減を図るとともに設置する現地に適応した形状、重量の二重袋体波浪制御構造物とし、さらには構築物周辺の局所洗掘を防止するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、重ね合わせた二枚のシートにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより複数のセルを形成し、該複数のセルにそれぞれ砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を充填してセル付きシート体を構成し、該セル付きシート体により形成した袋材に砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を充填することにより構成してなる二重袋体波浪制御構造物を提供する。
【0009】
この構成によれば、波浪制御構造物は、中詰材が充填された中心側の袋体が、同じく中詰材が充填された複数のセル(小袋)を持つセル付きシート体で覆われて二重袋体構造となっている。二重袋体波浪制御構造物は、通常その複数個により適宜の堤等として構築されて海浜、海岸、海中等に設置され、港湾等を外海の波浪から防護する。この設置時において二重袋体波浪制御構造物は、台風等の襲来時に高波浪により浮遊物等の鋭利なものよって破損、亀裂等が生じるおそれがある。このとき、波浪制御構造物は二重袋体構造となっていることで、鋭利なものによる破損、亀裂を、外側のセル付きシート体におけるセル(小袋)のみで受け止めて、中心側の袋体に破損、亀裂が及ぶのを防止することが可能となる。
【0010】
請求項2記載の発明は、上記二枚のシートの材料は不織布又は織布であり、当該二枚のシートのうち、上記袋材における外側のシートは波力による破損に耐える性能に優れ、内側のシートは上記中詰材による摩耗に耐える性能に優れたものである二重袋体波浪制御構造物を提供する。
【0011】
この構成によれば、セルの表面側を形成しているシートは波力による破損に耐える性能に優れ、中心側の袋体を形成しているシートは中詰材による摩耗に耐える性能に優れたものとすることで、台風等の襲来時に高波浪により中心側の袋体に破損、亀裂が及ぶのを一層確実に防止することが可能となる。また、二重袋体波浪制御構造物は、表面が不織布又は織布からなり、袋体内部には、砂等の流動性の中詰材が充填されていることで、サーファーや海水浴客等に対し安全な構造物となる。さらに、セルの表面側を形成しているシートには、藻や海草等が着きやすく生態系によい環境が作り出される。
【0012】
請求項3記載の発明は、上記内側のシートは、上記外側のシートよりも機械的強度が大であり、上記各セルの断面形状は、ほぼ直線状の前記内側のシートに対し、前記外側のシートは円弧状に膨出している二重袋体波浪制御構造物を提供する。
【0013】
この構成によれば、セル付きシート体は、中心側の袋体となる機械的強度の大なる内側のシートに対し、各セルが外側に球面状に膨出することで、二重袋体構造の容易形成性が得られるとともに、中心側の袋体の強度を高めることが可能となる。
【0014】
請求項4記載の発明は、重ね合わせた二枚のシートにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより形成した複数のセルを持つセル付きシート材を作製し、該セル付きシート材を製品となる二重袋体波浪制御構造物を設置する現地の製造ヤードに搬入し、該製造ヤードにおいて前記現地で調達可能な砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を前記複数のセルにそれぞれ充填してセル付きシート体を作製し、次いで該セル付きシート体により形成した袋材に前記と同様の中詰材を充填する二重袋体波浪制御構造物の製作方法を提供する。
【0015】
この構成によれば、中詰材として現地の砂等を用いることでコスト低減が図れる。また、セルが破損して中詰材が流出しても、中詰材は現地の砂等なので、現地の自然環境に影響を及ぼすことがない。
【0016】
請求項5記載の発明は、上記製造ヤードに搬入する上記セル付きシート材における少なくとも上記セルの形状、寸法は、上記製品となる二重袋体波浪制御構造物を設置する現地に対応した形状、寸法とする二重袋体波浪制御構造物の製作方法を提供する。
【0017】
この構成によれば、設置する現地に適応した形状、重量の二重袋体波浪制御構造物を製作することが可能となる。
【0018】
請求項6記載の発明は、頂部を平坦にして且つ該頂部が水面下に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を、海底地盤の上に展着し且つ積上げ、もしくは捨石堤の外表面に被着して人工リーフもしくは潜堤を構築する二重袋体波浪制御構造物の構築方法を提供する。
【0019】
この構成によれば、二重袋体波浪制御構造物の複数個を用いて構築することで、藻や海草等が着きやすく生態系によい人工リーフもしくは潜堤となる。
【0020】
請求項7記載の発明は、岸辺から海側に突出した捨石堤の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して突堤を構築する二重袋体波浪制御構造物の構築方法を提供する。
【0021】
この構成によれば、二重袋体波浪制御構造物の複数個を用いて構築することで、高波浪に対し安定した減勢作用を有するとともにサーファーや海水浴客等に対し安全な突堤となる。
【0022】
請求項8記載の発明は、捨石堤の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して離岸堤を構築する二重袋体波浪制御構造物の構築方法を提供する。
【0023】
この構成によれば、二重袋体波浪制御構造物の複数個を用いて構築することで、高波浪に対し安定した減勢作用を有するとともにサーファーや海水浴客等に対し安全な離岸堤となる。
【0024】
請求項9記載の発明は、上記人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤を構築している複数個の上記二重袋体波浪制御構造物のうち、前記人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤の端部に位置する各二重袋体波浪制御構造物から、当該人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤周辺の局所洗掘を防止する局所洗掘防止手段が張り出されている二重袋体波浪制御構造物の構築方法を提供する。
【0025】
この構成によれば、構築した人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤周辺の海底面の上に局所洗掘防止手段を張り出させることで、波浪によりこれらの構築物周辺に生じやすい局所洗掘が防止される。
【発明の効果】
【0026】
請求項1記載の発明は、重ね合わせた二枚のシートにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより複数のセルを形成し、該複数のセルにそれぞれ砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を充填してセル付きシート体を構成し、該セル付きシート体により形成した袋材に砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を充填することにより構成したので、台風等の襲来時に浮遊物等の鋭利なものによる破損、亀裂を、外側のセル付きシート体における複数のセルのみで受け止めて、中心側の袋体に破損、亀裂が及ぶのを防止することができる。したがって、中心側袋体における中詰材の流失を防ぐことができて港湾等を外海の波浪から防護する機能には殆ど影響を受けることがなく、耐用寿命を高めることができるという利点がある。
【0027】
請求項2記載の発明は、上記二枚のシートの材料は不織布又は織布であり、当該二枚のシートのうち、上記袋材における外側のシートは波力による破損に耐える性能に優れ、内側のシートは上記中詰材による摩耗に耐える性能に優れたものとしたので、台風等の襲来時に高波浪により中心側の袋体に破損、亀裂が及ぶのを一層確実に防止することができる。また、二重袋体波浪制御構造物は、表面が不織布又は織布からなり、袋体内部には、砂等の流動性の中詰材が充填されていることで、サーファーや海水浴客等に対し安全であり、さらに、セルの表面側を形成しているシートには、藻や海草等が着きやすく生態系によい環境を作り出すことができるという利点がある。
【0028】
請求項3記載の発明は、上記内側のシートは、上記外側のシートよりも機械的強度が大であり、上記各セルの断面形状は、ほぼ直線状の前記内側のシートに対し、前記外側のシートは円弧状に膨出しているようにしたので、中心側の袋体の強度を高めることができるという利点がある。
【0029】
請求項4記載の発明は、重ね合わせた二枚のシートにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより形成した複数のセルを持つセル付きシート材を作製し、該セル付きシート材を製品となる二重袋体波浪制御構造物を設置する現地の製造ヤードに搬入し、該製造ヤードにおいて前記現地で調達可能な砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を前記複数のセルにそれぞれ充填してセル付きシート体を作製し、次いで該セル付きシート体により形成した袋材に前記と同様の中詰材を充填するようにしたので、中詰材として現地の砂等を用いることでコスト低減を図ることができ、またセルが破損して中詰材が流出しても、現地の自然環境に影響を及ぼすことがないという利点がある。
【0030】
請求項5記載の発明は、上記製造ヤードに搬入する上記セル付きシート材における少なくとも上記セルの形状、寸法は、上記製品となる二重袋体波浪制御構造物を設置する現地に対応した形状、寸法としたので、設置する現地に適応した形状、重量の二重袋体波浪制御構造物を製作することができるという利点がある。
【0031】
請求項6記載の発明は、頂部を平坦にして且つ該頂部が水面下に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を、海底地盤の上に展着し且つ積上げ、もしくは捨石堤の外表面に被着して人工リーフもしくは潜堤を構築するようにしたので、藻や海草等が着きやすく生態系によい人工リーフもしくは潜堤を構築することができるという利点がある。
【0032】
請求項7記載の発明は、岸辺から海側に突出した捨石堤の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して突堤を構築するようにしたので、サーファーや海水浴客等に対し安全な突堤を構築することができるという利点がある。
【0033】
請求項8記載の発明は、捨石堤の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して離岸堤を構築するようにしたので、高波浪に対し安定した減勢作用を有するとともにサーファーや海水浴客等に対し安全な離岸堤を構築することができるという利点がある。
【0034】
請求項9記載の発明は、上記人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤を構築している複数個の上記二重袋体波浪制御構造物のうち、前記人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤の端部に位置する各二重袋体波浪制御構造物から、当該人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤周辺の局所洗掘を防止する局所洗掘防止手段が張り出されているので、波浪による構築物周辺の局所洗掘を防止することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
耐用寿命を高め、サーファーや海水浴客等に対し安全であり、現地の自然環境を保全し、生態系によい環境を作り出し、またコスト低減を図るとともに設置する現地に適応した形状、重量の二重袋体波浪制御構造物とし、さらには構築物周辺の局所洗掘を防止するという目的を、重ね合わせた不織布又は織布からなる二枚のシートにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより形成した複数のセルを持つセル付きシート材を作製し、該セル付きシート材を現地の製造ヤードに搬入し、前記現地で調達可能な砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を前記複数のセルにそれぞれ充填してセル付きシート体を作製し、該セル付きシート体により形成した袋材に前記と同様の中詰材を充填して二重袋体波浪制御構造物を構成する。前記製造ヤードに搬入するセル付きシート材における少なくともセルの形状、寸法は、現地に対応した形状、寸法とする。また、人工リーフ等を構築している複数個の二重袋体波浪制御構造物のうち、前記人工リーフ等の端部に位置する各二重袋体波浪制御構造物から、当該人工リーフ等周辺の局所洗掘を防止する局所洗掘防止手段を張り出すことにより実現した。
【実施例1】
【0036】
以下、本発明の実施例を図面に従って詳述する。図1(a)はセル付きシート体の平面図、同図(b)は(a)のA−A断面図、図2(a)は二重袋体波浪制御構造物の平面図、同図(b)は(a)のB−B断面図である。まず、図1及び図2を用いて、本実施例に係る二重袋体波浪制御構造物の構成を説明する。
【0037】
二重袋体波浪制御構造物は、中詰材が充填された中心側の袋体が、同じく中詰材が充填された複数のセル(小袋)を持つセル付きシート体で覆われて二重袋体構造となっている。なお、この明細書で、袋材とは、まだ中詰材が充填されていない単なる袋状のものを指し、袋体とは、前記袋材に中詰材が充填されたものを指す。
【0038】
図1(a)、(b)に示すように、セル付きシート体1は、重ね合わせた二枚のシート2a,2bにおける対向内面が適宜間隔をおいて仕切り部3でほぼ平行に仕切ることにより複数のセル4,…が形成され、該複数のセル4,…にそれぞれ砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材5aが充填されて構成されている。
【0039】
前記各シート2a,2bは、港湾施設の吸出し防止材とか土砂安定工法に使用されているジオテキスタイル(土木シート)が活用され、素材は、ポリエステル、ポリプロピレン等の合成樹脂製の長繊維不織布又は織布である。前記仕切り部3は、縫合もしくは接着法が適用されて固着されている。また、各セル4,…の両端部6a,6bについても縫合もしくは接着法が適用されて閉止されている。
【0040】
前記二枚のシート2a,2bのうち、前記二重袋体構造としたときの外側のシート2aは、波力による破損に耐える性能に優れ、内側のシート2bは、両面が中詰材に接することになるので、中詰材による摩耗に耐える性能に優れたものが用いられている。また、前記内側のシート2bは、前記外側のシート2aよりも厚みが厚く機械的強度が大であり、図1(b)に示すように、各セル4,…の断面形状は、ほぼ直線状の内側のシート2bに対し、外側のシート2aは円弧状に膨出した形状となっている。このように、外側のシート2aと内側のシート2bとは、その性質を変え、セル付きシート体1として必要な強度、耐久性に対応できるように構成されている。
【0041】
セル付きシート体1の各寸法は、各セル4,…の高さt=150〜300mm程度、幅d=500〜600mm程度、シート体1の幅L=6.0m程度である。該シート体1の幅Lは、次に述べる二重袋体波浪制御構造物の長さとほぼ同じである。また、図1(a)の横方向の長さは、形成される二重袋体波浪制御構造物の大きさに応じた長さとなっている。なお、後述するように、セル付きシート体1の各寸法は、二重袋体波浪制御構造物が設置される現地に対応した寸法とされるので、例示された上記の各寸法は、これに限定されるものではない。
【0042】
図2(a)、(b)に示すように、二重袋体波浪制御構造物7は、前記セル付きシート体1が円筒状に巻かれた円筒状体の両端部7a,7aが縫合もしくはロープ等を用いた縛りにより閉止されて袋材が形成されている。そして該袋材に、砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材5bが充填されて二重袋体構造となっている。袋材への中詰材5bの充填は、前記袋材の形成後、該袋材内に図2(a)に示す上面中央の開口部7bから中詰材5bを所要量投入した後、前記開口部7bを縫合もしくは予め取り付けておいたチャックで閉止することにより行われている。
【0043】
セル付きシート体1により形成された袋材は、空の状態では前記のようにほぼ円筒状であるが、中詰材5bを投入していくにつれ、図2(b)に示すように、自重でかまぼこ型になる。該かまぼこ型の二重袋体波浪制御構造物7の各寸法は、高さT=1.0m程度、幅D=3.0m程度、長さL=6.0m程度である。前記のように、セル付きシート体1の各寸法が、現地に対応した寸法とされるので、例示された二重袋体波浪制御構造物7の各寸法は、これに限定されるものではない。
【0044】
次いで、前記二重袋体波浪制御構造物7の製作方法の一例を説明する。工場にて、内側のシート2bに外側のシート2bを重ね合わせ、仕切り部3で複数のセル4,…を備えたセル付きシート材を作成する。このとき、該セル付きシート材における前記各セル4,…の形状、寸法は、二重袋体波浪制御構造物7を設置する現地に対応した形状、寸法とする。
【0045】
このような、セル付きシート材を、製品となる二重袋体波浪制御構造物7を設置する現地の製造ヤードに搬入する。そして、該製造ヤードにおいて現地で調達可能な砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材5aを前記複数のセル4,…にそれぞれ充填してセル付きシート体1を作製する。次いで、該セル付きシート体1を、前述したように、円筒状に巻き、その両端部7a,7aを閉止して袋材を形成し、該袋材に、前記と同様に現地で調達可能な中詰材5bを充填して二重袋体波浪制御構造物7を製作する。
【0046】
図3及び図4は、上記のように製作された二重袋体波浪制御構造物7の複数個を用いて現地で施工した人工リーフもしくは潜堤9の構築例を示している。人工リーフもしくは潜堤9は、頂部をほぼ平坦にして且つ該頂部が水面下に位置するように二重袋体波浪制御構造物7の複数個を、海底地盤10の上に展着し且つ、2段に積上げて構築されている。
【0047】
前記人工リーフもしくは潜堤9を構築している複数個の二重袋体波浪制御構造物7のうち、前記人工リーフもしくは潜堤9の端部で且つ、下段側に位置する各二重袋体波浪制御構造物7D,…からは、当該人工リーフもしくは潜堤9周辺の局所洗掘を防止するための局所洗掘防止部(局所洗掘防止手段)8,…が張り出されている。
【0048】
図示例では、隣接する二つの局所洗掘防止部8,8が接続部8aを介して前記下段側の二重袋体波浪制御構造物7Dに取り付けられている。局所洗掘防止部8の構造は特に限定されないが、図1に示すセル4と同様に、二枚のシート2a,2bからなる二重袋体構造として中詰材5aを充填して形成するのが好ましい。また、局所洗掘防止部8及び接続部8aを含む局所洗掘防止機構の各張出し長さは、2.5m程度である。接続部8aは、シート、ひも又はワイヤ等のいずれでもよい。なお、局所洗掘防止部8は、セル付きシート材の作製時に、下段側となる該当セル付きシート材における外側のシート2aの所要部位に、接続部8aを介して縫合もしくは接着等により予め取り付けておいてもよい。
【0049】
なお、図4の上下部分の下段側に位置する各二重袋体波浪制御構造物7D,…には、その長手方向外側端部に、前記接続部8a及び局所洗掘防止部8,8を取り付けてあり、同図の右部分の下段側に位置する各二重袋体波浪制御構造物7D,…には、その幅方向外側端部に、前記接続部8a及び局所洗掘防止部8,8を取り付けてある。
【0050】
次に、上述のように構成された二重袋体波浪制御構造物の作用を説明する。二重袋体波浪制御構造物7,7D(以下、双方をあわせて単に二重袋体波浪制御構造物7という)は、その複数個により人工リーフもしくは潜堤9等として構築されて海浜、海岸、海中等に設置され、港湾等を外海の波浪から防護する。この設置時において前記人工リーフもしくは潜堤9等の表面側を構成している二重袋体波浪制御構造物7,…は、台風等の襲来時に高波浪により浮遊物等の鋭利なものよって破損、亀裂等が生じるおそれがある。
【0051】
このとき、前記二重袋体波浪制御構造物7は二重袋体構造となっていることで、鋭利なものによる破損、亀裂を、外側のセル付きシート体1における各セル4,…のみで受け止めて、中心側の袋体に破損、亀裂が及ぶのが防止される。また、各セル4,…の表面側、即ち外側のシート2aは波力による破損に耐える性能に優れ、中心側の袋体を形成しているシート、即ち内側のシート2bは、中詰材5a,5bによる摩耗に耐える性能に優れたものが用いられていることで、中心側の袋体に破損、亀裂が及ぶのが一層確実に防止される。
【0052】
二重袋体波浪制御構造物7は、各シート2a,2bの素材が、ポリエステル、ポリプロピレン等の合成樹脂製の長繊維不織布又は織布なり、袋体内部には、砂等の流動性の中詰材5a,5bが充填されていることで、サーファーや海水浴客等に対し安全な構造物となる。さらに、外側のシート2aには、藻や海草等が着きやすく生態系によい環境が作り出される。
【0053】
二重袋体波浪制御構造物7は、中詰材5a,5bとして現地の砂等を用いることでコスト低減が図れる。また、セル4,…が破損して中詰材5aが流出しても、該中詰材5aは現地の砂等なので、現地の自然環境に影響を及ぼすことがない。
【0054】
二重袋体波浪制御構造物7は、現地に適応した形状、重量のものが製作されることで、人工リーフもしくは潜堤9等も現地に適応した形状、重量のものを構築することが容易となる。また、人工リーフもしくは潜堤9から、その周辺の海底面の上に局所洗掘防止部8,8が張り出されていることで、波浪により人工リーフもしくは潜堤9周辺に生じやすい局所洗掘が防止される。
【0055】
上述したように、本実施例に係る二重袋体波浪制御構造物においては、台風等の襲来時に浮遊物等の鋭利なものによる破損、亀裂から中心側の袋体を保護することができて耐用寿命を高めることができる。
【0056】
二重袋体波浪制御構造物7は、サーファーや海水浴客等に対し安全であり、さらに、外側のシート2aには、藻や海草等が着きやすく生態系によい環境を作り出すことができる。
【0057】
中詰材5a,5bとして現地の砂等を用いることでコスト低減を図ることができ、また、現地の自然環境を保全することができる。
【0058】
人工リーフもしくは潜堤9から、局所洗掘防止部8,8が張り出されていることで、波浪による人工リーフもしくは潜堤9周辺の局所洗掘を防止することができる。
【0059】
次いで、図5乃至図7の各図を用いて、二重袋体波浪制御構造物7の複数個を用いて現地で施工した他の構築例を説明する。なお、図5乃至図7に示す各構築物では、図示を省略したが、各構築物の端部で且つ、下段側に位置する各二重袋体波浪制御構造物からは、前記図3及び図4に示したものと同様の局所洗掘防止部がそれぞれ張り出されている。
【0060】
図5は、頂部をほぼ平坦にして且つ該頂部が水面下に位置するように二重袋体波浪制御構造物7,…の複数個を、捨石堤11の外表面に被着して他の人工リーフもしくは潜堤12を構築したものである。この構築例においては、藻や海草等が着きやすく生態系によい他の人工リーフもしくは潜堤12となる。
【0061】
図6は、岸辺13から海側に突出した捨石堤(図示せず)の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して突堤14を構築したものである。この構築例においては、外海からの高波浪に対し安定した減勢作用を有するとともにサーファーや海水浴客等に対し安全な突堤14となる。
【0062】
図7は、捨石堤(図示せず)の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して離岸堤15を構築したものである。この構築例においては、上記と同様に、外海からの高波浪に対し安定した減勢作用を有するとともにサーファーや海水浴客等に対し安全な離岸堤15となる。
【0063】
二重袋体波浪制御構造物7の複数個を用いて施工した上記の各構築例は、いずれも外海からの波浪を減勢して港湾等を防護する機能を持っている。ところで、合成樹脂製の不織布又は織布からなるシート2a,2bを用いて構成した二重袋体波浪制御構造物7は、サーファーや海水浴客等に対し安全に機能する。そこで、特にサーファー等の希望に沿うような、部分的に波高の大きな波浪を生じさせる構築物を施工することもできる。
【0064】
即ち、例えば二重袋体波浪制御構造物7の複数個を用いて施工した二個の潜堤等の構築物を、岸側から沖側に向けてハの字状に開くように設置すると、該ハの字状構築物の狭幅側の部分から、サーファー等の希望に沿うような、部分的に波高の大きな波浪を得ることができる。
【0065】
また、上記の各構築例は、いずれも海浜、海岸、海中等に設置されたものであるが、二重袋体波浪制御構造物7は、例えば河川護岸構造物、土砂安定構造物及び法面安定工法の構造物等、海浜等以外の場所に設置する構造物へも適用することができる。
【0066】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図は、本発明の実施例に係る二重袋体波浪制御構造物、その製作方法及びその構築方法を示すものである。
【図1】セル付きシート体の断面図及び平面図。
【図2】二重袋体波浪制御構造物の断面図及び平面図。
【図3】二重袋体波浪制御構造物を用いて施工した構築例である人工リーフもしくは潜堤の側面図。
【図4】図3の平面図。
【図5】二重袋体波浪制御構造物を用いて施工した構築例である他の人工リーフもしくは潜堤の断面図。
【図6】二重袋体波浪制御構造物を用いて施工した構築例である突堤の平面図。
【図7】二重袋体波浪制御構造物を用いて施工した構築例である離岸堤の側面図。
【符号の説明】
【0068】
1 セル付きシート体
2a,2b シート
3 仕切り部
4 セル
5a,5b 中詰材
7 二重袋体波浪制御構造物
8 局所洗掘防止部(局所洗掘防止手段)
9 人工リーフもしくは潜堤
10 海底地盤
11 捨石堤
12 他の人工リーフもしくは潜堤
13 岸辺
14 突堤
15 離岸堤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた二枚のシートにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより複数のセルを形成し、該複数のセルにそれぞれ砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を充填してセル付きシート体を構成し、該セル付きシート体により形成した袋材に砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を充填することにより構成してなることを特徴とする二重袋体波浪制御構造物。
【請求項2】
上記二枚のシートの材料は、不織布又は織布であり、当該二枚のシートのうち、上記袋材における外側のシートは波力による破損に耐える性能に優れ、内側のシートは上記中詰材による摩耗に耐える性能に優れたものであることを特徴とする請求項1記載の二重袋体波浪制御構造物。
【請求項3】
上記内側のシートは、上記外側のシートよりも機械的強度が大であり、上記各セルの断面形状は、ほぼ直線状の前記内側のシートに対し、前記外側のシートは円弧状に膨出していることを特徴とする請求項1又は2記載の二重袋体波浪制御構造物。
【請求項4】
重ね合わせた二枚のシートにおける対向内面を適宜間隔をおいてほぼ平行に仕切ることにより形成した複数のセルを持つセル付きシート材を作製し、該セル付きシート材を製品となる二重袋体波浪制御構造物を設置する現地の製造ヤードに搬入し、該製造ヤードにおいて前記現地で調達可能な砂を含む水より比重の大なる流動性の中詰材を前記複数のセルにそれぞれ充填してセル付きシート体を作製し、次いで該セル付きシート体により形成した袋材に前記と同様の中詰材を充填することを特徴とする二重袋体波浪制御構造物の製作方法。
【請求項5】
上記製造ヤードに搬入する上記セル付きシート材における少なくとも上記セルの形状、寸法は、上記製品となる二重袋体波浪制御構造物を設置する現地に対応した形状、寸法とすることを特徴とする請求項4記載の二重袋体波浪制御構造物の製作方法。
【請求項6】
頂部を平坦にして且つ該頂部が水面下に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を、海底地盤の上に展着し且つ積上げ、もしくは捨石堤の外表面に被着して人工リーフもしくは潜堤を構築することを特徴とする二重袋体波浪制御構造物の構築方法。
【請求項7】
岸辺から海側に突出した捨石堤の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して突堤を構築することを特徴とする二重袋体波浪制御構造物の構築方法。
【請求項8】
捨石堤の外表面に、堤頂部が水面上に位置するように請求項1,2又は3記載の二重袋体波浪制御構造物の複数個を被着して離岸堤を構築することを特徴とする二重袋体波浪制御構造物の構築方法。
【請求項9】
上記人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤を構築している複数個の上記二重袋体波浪制御構造物のうち、前記人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤の端部に位置する各二重袋体波浪制御構造物から、当該人工リーフ、潜堤、突堤又は離岸堤周辺の局所洗掘を防止する局所洗掘防止手段が張り出されていることを特徴とする請求6,7又は8記載の二重袋体波浪制御構造物の構築方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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