説明

井戸用流体に用いる、エステルの潤滑性能を改善する方法

【課題】井戸用流体に用いる、エステルの潤滑性能を改善する方法を提供する。
【解決手段】直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつモノカルボン酸(A.1)と、直鎖または枝分かれしており、2から20個の炭素原子をもつポリオール(A.2)との反応で得られ、酸:アルコールのモル比(A.1:A.2)が1:1から(n−n/10):1(式中、nはアルコールA.2のヒドロキシル基の数を表す)である、井戸用流体に用いる、エステルの潤滑性能を改善する方法であって、該エステル、50から99重量%と、直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつ少なくとも1種のモノカルボン酸からなり、該モノカルボン酸が1から3個の不飽和基をもつモノカルボン酸である部分B、1から50重量%とを混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有効量のエステルと脂肪酸を含む最適化された潤滑組成物に関する。
【0002】
本発明の一変形例では、潤滑組成物にトリエタノールアミンなどの第三級アミンが含まれる。
【0003】
本発明はまた本発明による潤滑組成物を含む井戸用流体に関する。
【0004】
本発明はさらに水を基材とする流体の潤滑度制御のために上記潤滑組成物を用いることに関する。
【0005】
本発明は井戸掘削または完成作業、または井戸の改修作業に用いる流体の潤滑組成物に関する。特に、本発明では井戸穴にいれた水を基材とする流体の潤滑度を制御するための方法と潤滑組成物を記述する。
【背景技術】
【0006】
油井か否かを問わず井戸を掘削するための従来方法は、掘り管の綱策の端部に取り付けた歯つきビットを回転させながら掘削することからなり、該綱策は普通地上装置によって回転駆動するようになっている。掘削用流体あるいは掘削泥水とよばれる流体を掘り管の内部空間を通してビットのレベルで注入する。この流体は主として破片を地上に運んでビットと井戸をきれいに保ち、井戸壁を安定させ、流体と接触する地層の反応を阻止するなどを目的とする。
【特許文献1】米国特許第4,964,615号明細書
【特許文献2】米国特許第5,318,956号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は掘削用水と呼ばれる流体のみならず、完成用水として知られる流体や改修用水と呼ばれるものにも関する。以下これらの流体をすべて井戸用流体とよぶ。完成とは井戸が産油地層に到達した際に掘削作業を継続することを言う。完成工事は特に貯溜岩を掘り進め、地層検査を行い、産油のための装備を井戸に設け、生産することからなる。これらの作業では、完成用水は貯溜岩と産出される流出液に固有であるのが特徴である。改修作業は生産井の掘削、再掘削、井戸掃除あるいは装置取り替えのために作業することからなる。
【0008】
井戸用流体は極めて多様な用途にあわせて調節できる特性、わけても粘度、密度、濾液制御能力などの特性をもっていなければならない。とくに屈折の大きい井戸、たとえば水平方向の井戸穴や、あるいはより一般的には井戸に降ろす管材にかなりの摩擦をきたすような井戸の場合、流体の潤滑度が重要な特性となる。
【0009】
先行文献US−A−4,964,615(特許文献1)およびUS−A−5,318,956(特許文献2)に、植物由来のエステルを混合した掘削用水の使用の記載がある。しかしいずれも本発明の最適化潤滑組成物に関するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつモノカルボン酸(A.1)と、直鎖または枝分かれしており、2から20個の炭素原子をもつポリオール(A.2)との反応で得られ、酸:アルコールのモル比(A.1:A.2)が1:1から(n−n/10):1(式中、nはアルコールA.2のヒドロキシル基の数を表す)である、井戸用流体に用いる、エステルの潤滑性能を改善する方法であって、
該エステル、50から99重量%と、
直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつ少なくとも1種のモノカルボン酸からなり、該モノカルボン酸が1から3個の不飽和基をもつモノカルボン酸である部分B、1から50重量%とを混合することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
井戸用流体に用いる、エステルの潤滑性能を改善する方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書は、次の発明をも開示している。
【0013】
本発明は井戸用流体のための潤滑組成物に関し、以下を含む:
−直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子を持つモノカルボン酸(A.1)と直鎖または枝分かれしており、2から20個の炭素原子を持つポリオール(A.2)との反応により得られる一種または数種のエステルからなる部分Aを50から99重量%、
−直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子を持つ一種または数種のモノカルボン酸からなる部分Bを1から50重量%。
【0014】
ポリオールA.2にはたとえばネオペンチルグリコール、ペンタクリスリトール、ジペンタクリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパンなどがある。
【0015】
モノカルボン酸(A.1と部分B)は1から3の不飽和基を持つことができ、14から20個の炭素原子を持つ。
【0016】
ポリオールA.2は2から5個のヒドロキシル基を持つことができ、2から6個の炭素原子を持つ。ポリオールのヒドロキシル基の数は好ましくは4個である。
【0017】
モノカルボン酸(A.1と部分B)はオレイン酸、ステアリン酸、リノレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ミリスチン酸、およびこれらの混合からなる群から選ぶことができる。潤滑組成物は部分Bを5から20%、好ましくは約10%含む。
【0018】
酸とアルコールのモル比(A.1:A.2)は1:1から(n−n/10)の範囲にあり、好ましくは(1+n/10):1から(n−n/5):1である。ここでnはアルコールA.2のヒドロキシル基の数を表す。
【0019】
潤滑組成物は80から95%、好ましくは約90%のエステルAを含む。
【0020】
潤滑組成物はまた最大10重量%の第三級アミンを含む。
【0021】
第三級アミンはトリエタノールアミンでよい。
【0022】
酸Bに対するモル等量で表すアミンの量は0.2から1.2の範囲とする。
【0023】
エステル部分A、酸部分Bおよびトリエタノールアミンの重量比はそれぞれ約85.4%、9.5%、5.1%である。
【0024】
潤滑組成物は潤滑組成物重量に対して最大2%に等しい割合の乳化製品を含む。
【0025】
乳化製品はエトキシル化ソルビタン・モノラウレル酸と分子質量600のポリエチレン・グリコールからなる群から選ばれる。
【0026】
本発明はまた、本発明の潤滑組成物を水を基材とする井戸用流体に混合し、井戸用流体の潤滑度を改善する方法に関する。
【0027】
この用途の場合、該潤滑組成物の添加量は用水に対して約0.1%から10%の範囲とする。
【0028】
井戸用流体が実質的に反応性固体を含まない場合は、該潤滑組成物の添加量は井戸用流体に対して約1%から3%の範囲とする。
【0029】
井戸用流体に固体が装填される場合は、該潤滑組成物の添加量は井戸用流体に対して約3%から5%の範囲とする。
【0030】
本発明はまた、本発明で定義される潤滑組成物を0.1から10重量%、好ましくは1から5重量%含む水を基材とする井戸用流体に関する。
【0031】
本発明はまた、直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつモノカルボン酸(A.1)と、直鎖または枝分かれしており、2から20個の炭素原子をもつポリオール(A.2)との反応で得られ、酸:アルコールのモル比(A.1:A.2)が1:1から(n−n/10):1(式中、nはアルコールA.2のヒドロキシル基の数を表す)である、井戸用流体に用いる、エステルの潤滑性能を改善する方法であって、該エステル、50から99重量%と、直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつ少なくとも1種のモノカルボン酸からなり、該モノカルボン酸が1から3個の不飽和基をもつカルボン酸である、部分B、1から50重量%とを混合することを特徴とする方法に関する。
【0032】
本発明の潤滑組成物は、エステルAを約90%含むことが好ましい。
【0033】
また、本発明の潤滑組成物は、モノカルボン酸からなる部分Bを少なくとも5重量%含むことが好ましい。
【0034】
また、本発明の潤滑組成物は、直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつモノカルボン酸(A.1)と、直鎖または枝分かれしており、2から20個の炭素原子をもつポリオール(A.2)との反応で得られ、酸:アルコールのモル比(A.1:A.2)が1:1から(n−n/10):1(式中、nはアルコールA.2のヒドロキシル基の数を表す)である1種または数種のエステルからなる部分Aの50から99重量%と、直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつモノカルボン酸からなり、該モノカルボン酸が1から3個の不飽和基を持つモノカルボン酸である部分Bの1から50重量%と、からなる、水を基材とする井戸用流体のための潤滑組成物である。
【0035】
出願人は本発明に従って規定される割合でエステルと酸を組み合わせると、水を基材とする井戸用流体に特に好適な潤滑組成物が得られることを見いだした。
【0036】
本発明の他の実施例によれば、潤滑組成物に一種又は数種の第三級アミンを最大10重量%(潤滑組成物に対して)まで混入することにより、水を基材とする流体物性のいくつが改善されることがわかった。
【0037】
本発明の他の実施例によれば、乳化剤を最大2重量%(潤滑組成物に対して)添加することにより最終潤滑組成物の安定性をしばしば向上させることを見いだした。
【0038】
環境保護規制により、井戸用流体成分として用いる各種添加剤は無毒性で環境を汚染しないものであることが求められるようになった。
【0039】
本発明の潤滑組成物は環境保護に関す現行規準を満たすという利点を有する。
【0040】
さらに、本発明潤滑組成物は水を基材とするすべての井戸用流体に、例えば比重をかけるかどうかにかかわらずベントナイト含有流体、高圧/高温(HP/HT)流体、固体を含まない流体などに使用できる。
【0041】
本発明の他の特徴や利点は以下の非制限的実施例から明らかとなろう。
【0042】
本発明の潤滑組成物の潤滑度はNL Baroid Petroleum Services company製造の潤滑度試験機モデル212(Instruction Manual Part No.211210001EA)を用いて試験する。試験(表面対表面潤滑度)はアメリカ石油協会(API)の基準RP 13Bによる手順(100psi(689kPa),60rpm)に基づいて実施する。各種潤滑組成物の潤滑度を比較するために、上記試験装置で得た目盛りの数値を読み取った。これら示度は摩擦トルクの相対値に対応する。示度の値が小さいほど、被験潤滑組成物の潤滑度がよい。
【0043】
以下の実施例の主旨は、基材である流体に所定の潤滑組成物をある一定量添加し、ついで混合液を上記装置で試験することにある。別途特に記載がない限り、試験は周囲温度(約25°Cで行われる。
【0044】
以下で試験する潤滑組成物は以下の命名法によって定義される。
【0045】
L1はFINA社からRADIASURF7156の商品名で販売されているエステル、モノオレイン酸ペンタエリトリットのみに対応する。
【0046】
L2はモノオレイン酸ペンタエリトリットと酸Radiacid208を重量比でそれぞれ85%と15%含む混合物に対応する。FINA社から販売されるているRadiacid208は、オレイン酸を約70%、リノレイン酸10%、パルミトレイン酸6%、パルミチン酸5%、ミリシチン酸4%、リノレイン酸3%、ステアリン酸2%を含む。
【0047】
L3は、M.I.社(USA)の潤滑剤“MI−LUBE”である。
【0048】
L4は、MILLPARK社(USA)の潤滑剤“LUBRISAL”である。
【0049】
L5は、軽油である。
【0050】
L6はモノオレイン酸ペンタエリトリットとトリエタノールアミンをそれぞれ90%と10%の割合で含む混合物である。
【0051】
L7はモノオレイン酸ペンタエリトリット、Radicid208、トリエタノールアミンをそれぞれ重量比で85.4%、9.5%、5.1%含む混合物である。
【0052】
L8はモノオレイン酸ペンタエリトリットとRadiacid208をそれぞれ90%と10%の割合で含む混合物である。
【0053】
L9は2−エチル−ヘキシル・オレイン酸である。
【0054】
L10は2−エチル−ヘキシル・オレイン酸とRadiacid208をそれぞれ85重量%、15重量%含む混合物である。
【0055】
L11は2−エチル−ヘキシル・オレイン酸とRadiacid208をそれぞれ90重量%、10重量%含む混合物である。
【0056】
L12は2−エチル−ヘキシル・オレイン酸とRadiacid208をそれぞれ95重量%、5重量%含む混合物である。
【0057】
L13は系L7に、FINA社から商品名RADIASURF7137(20モル エトキシ化ソルビタン・モノラウレート)として販売されている乳化剤を0.15重量%添加したものである。
【0058】
L14はL13の乳化剤をFINA社から販売されている商品名RADISURF7404(分子質量が600のモノオレイン酸ポリエチレン)に変えた系である。
【0059】
L2、L7、L8、L13、L14は本発明の好ましい潤滑組成物である。
【実施例】
【0060】
実施例1:従来の淡水井戸用流体
基材となる流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−粘稠剤(キサンタン) 2g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−分散剤(ポリアクリレート) 3g/l
−NaOH pH=9になる量
分散剤はCOATEX社(フランス)から販売されるポリアクリレートFP30Sである。
【0061】
AQUAPAC レギュラーはAQUALON社から販売される製品である。
【0062】
すべての試験で用いられるキサンタンはDowel Frilling Fluid社から販売されるIDVISである。
【0063】
本実施例では、さまざまな系、すなわち軽油(L5)、従来製品である2種の潤滑剤(L3、L4)、先に定義したエステルを基材とする2つの系、L1およびL2の潤滑度を比較する。
【0064】
各種系を基材流体に添加、混合した後試験する。
【0065】
トルク値
基材流体 50
系(%) L1 L2 L3 L4 L5
0.5 3 39 50 50
1 4 2 33 7 50
2 4 1 6 7 50
3 4 1 5 7 50
4 4 1 4 7 50
5 4 1 1 7 50
結果は本発明による2つの成分を含む系(L12)の性能のよさを示している。比較すると軽油(L5)の潤滑度が非常に低いことがわかる。
【0066】
実施例2:従来のカリ用水
基材となる流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−粘稠剤(キサンタン) 2g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−分散剤(ポリアクリレートFP30S) 3g/l
−KCl 50g/l
−NaOH pH=9になる量
この実施例では、実施例1と同一の系を使って潤滑度を比較する。
【0067】
トルク値
基材流体 44
系(%) L1 L2 L3 L4 L5
1 44 44 44 44 44
3 37 10 6 50 44
4 19 8 6 50 44
5 7 3 6 50 44
KCl用水の場合、軽油または潤滑剤L4を添加しても潤滑特性が改善されないことがわかる。エステルのみを基材とする系L1は4%以上で効率がよい。系L2と市販の潤滑剤L3は濃度が約2.5%から性能が最大になる。
【0068】
本実施例から、エステルを基材とする潤滑組成物における酸Radiacid208の役割がわかる。
【0069】
実施例3:塩化ナトリウムの存在下にある従来用水
基材となる流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−粘稠剤(キサンタン) 2g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−分散剤(ポリアクリレートFP30S) 3g/l
−NaCl 50g/l
−NaOH pH=9になる量
本実施例では系L1、L2、L3の潤滑性能を比較する。測定値を下表に示す。
【0070】
トルク値
基材流体 42
系(%) L1 L2 L3
0.5 42 5 42
1 42 2 42
2 42 2 42
3 38 2 14
4 14 1 4
5 5 1 4
上記結果は2成分系L2が塩化ナトリウムの存在下で性能が非常に高いことを示している。
【0071】
実施例4:従来の海水
基材となる流体の組成
−海水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−粘稠剤(キサンタン) 2g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−分散剤(ポリアクリレートFP30S) 3g/l
−NaOH pH=9になる量
使用した合成海水はNaCl(28g/l)、MgCl2・6H2O(4.8g/l)、CaCl2(1.2g/l)、KCl(1.3g/l)、MgSO4・7H2O(7.2g/l)からなる。
【0072】
本実施例では系L1、L2、L3、L4、L5の潤滑性能を比較する。
【0073】
測定値を下表に示す。
【0074】
トルク値
基材流体 44
系(%) L1 L2 L3 L4 L5
0.5 44 41 44 44 44
1 41 2 42 44 44
2 38 2 42 44 44
3 37 2 38 44 43
4 37 1 37 43 42
5 9 1 36 42 42
市販潤滑剤であるL3、L4と軽油L5は海水配合物に対してはほとんど効果がない。系L1は5%以上で効果があるが、成分が2種ある系L2では配合物に対して濃度1%で添加するや否や効果があることがわかる。
【0075】
実施例5:CaCl2の存在下にある従来用水
基材となる流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−粘稠剤(キサンタン) 2g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−分散剤(ポリアクリレートFP30S) 3g/l
−CaCl2 50g/l
−NaOH pH=9になる量
本実施例では系L3、L1、L2、L7、L6の潤滑性能を比較する。測定値を下表に示す。
【0076】
トルク値
基材流体 42
系(%) L1 L2 L3 L6 L7
0.5 40 40 42 41 32
1 38 38 42 39 6
2 36 36 42 38 2
3 36 20 42 36 2
4 6 2 42 34 2
5 5 2 42 14 2
上記の結果はCaCl2を含むこの配合物の場合エステルL1だけではあまり効果がないことを示している。混合物L2のほうが性能はよいが、3種の製品の組み合わせであるL7の結果が最も優れている。対照的に、市販潤滑剤L3は非常に効果が低い。エステルのみにトリエタノールアミンを添加しても(L6)、結果は実質的に向上しない。もっとも効果がある組合わせはエステル+酸Radiacid208とエステル+Radiacid208+トリエタノールアミンである。
【0077】
実施例6:混合物におけるトリエタノールアミン濃度の影響
潤滑剤混合液中のトリエタノールアミン/酸Radiacid208のモル濃度比の影響を調べる。各種系を試験した基材となる流体組成物は実施例5の組成に対応する。
【0078】
基本となる潤滑剤はモノオレイン酸ペンタエリトリット/酸を90:10の割合で含む混合物L8からなる。モル等量で表されるある一定濃度のトリエタノールアミンをこの基本系に添加する。したがって系は次の混合物に対応する。
L8.0:モノオレイン酸ペンタエリトリット/酸 90:10
L8.1:L8.0+0.2 トリエタノールアミン(TEA) モル等量
L8.2:L8.0+0.8 TEA 等量
L8.3:L8.0+1.0 TEA 等量
L8.5:L8.0+1.2 TEA 等量
L8.6:L8.0+1.4 TEA 等量
混合物L8.3は混合物L7に対応することがわかる。
【0079】
トルク値
系(%) L8.0 L8.1 L8.2 L8.3 L8.5 L8.6
1 39 34 26 6 12 39
2 37 32 4 2 10 14
これらの結果からTEAと酸の相乗効果がうかがえる。
【0080】
これらの結果から酸とトリエタノールアミンのモル比が近い場合性能が最適になるらしいことがわかる。さらに、酸に対するTEA濃度が高すぎると酸とエステルの相乗効果が低下する。
【0081】
トリエタノールアミン(または他の第三級アミン)は潤滑組成物中の酸(たとえばオレイン酸)の腐食作用を低下させる利点がある。
【0082】
実施例7:潤滑組成物中の固体の存在の影響
本実施例では潤滑組成物に重晶石を添加した場合の影響を調べる。重晶石は泥の密度を高めるためのものである。潤滑組成物にカオリナイトと加重粘土(FGN)を添加することで掘りくずが存在する状態をシミュレートした。
【0083】
試験に使用した潤滑系はL7である。
【0084】
基材となる流体の組成は実施例4の組成である。
【0085】
場合によっては、密度が1.4になるまで基材組成物に重晶石、カオリナイト50g/l、または加重粘土50g/lを添加してもよい。
【0086】
トルク値
系L7(%) 0 0.5 1 2 3 4 5
基材流体 44 4 2 2 1 1 1
+重晶石(d=1.4) 44 41 38 2 2 2 1
+カオリナイト 44 42 2 2 2 2 1
+FGN 44 41 38 28 1 1 1
+重晶石+カオリナイト 44 40 30 2 2 2 1
+重晶石+FGN 44 41 38 33 1 1 1
FGNはCKS社販売の加重粘土である。
【0087】
潤滑組成物中に固体が存在すると潤滑剤がより多量に必要であるが、3%を超えると結果は非常によい。事実、水性組成物中の固体の存在により潤滑系の性能が顕著に低下することはよく知られている。市販の潤滑系の多くは稠密度が高い流体組成物中ではほとんど、またはまったく効果がないことは周知である。
【0088】
この試験から、基材流体に対する潤滑組成物の割合を特に存在する固体の種類及び量を考慮して調節しさえすれば、実施例7の潤滑剤組成物は固体を配合した流体に対して非常に優れた潤滑性能を発揮することがわかる。
【0089】
実施例8:高圧/高温組成
基材となる流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 19g/l
−ミネラル粘稠剤(Thermavis) 4.2g/l
−ろ液希釈剤(Thermacheck) 6g/l
−分散剤(Thermathin) 19g/l
−加重粘土(FGN) 50g/l
−重晶石 d=1.4になる量(525/l)
Thermavis,Thermacheck,ThermathinはBAROID社(USA)が販売する製品である。この組成は“HP/HT”掘削に薦められる。
【0090】
L5、L3、L4、L1、L2、L7、L8、L9、L11、L12など各種系の潤滑性能を上記組成を使って比較する。
【0091】
以下の結果を得た。
【0092】
トルク値
系(%) 0 0.5 1 2 3 4 5
L1 39 39 39 38 37 36 34
L2 39 37 4 2 2 2 2
L3 39 38 38 38 10 1 1
L4 39 39 40 40 40 39 39
L5 39 39 39 42 42 42 42
L7 39 38 32 4 2 2 2
L8 39 37 35 4 2 2 2
L9 39 39 40 40 40 40 40
L10 39 37 29 12 11 11 10
L11 39 38 37 23 17 14 13
L12 39 39 38 36 34 24 19
これらの試験から軽油、市販の添加剤L4はいずれも潤滑効率がないことがわかる。添加剤L3は濃度が高い場合(4%以上)にのみ効果がある。エステルのみの2例(L1、L9)は効果がない。しかしこれらを酸と組み合わせると高い効果が見られ、モノオレイン酸ペンタエリトリットとともに用いた場合に最も好結果が得られる。酸Radioacid208濃度が10から15%の範囲にあるとき優れた結果が得られる。しかし酸濃度をあまり高くすると腐食の危険が増すので薦められない。
【0093】
実施例9:KCl/PHPA(ポリアクリルアミド)組成
基材となる流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−PHPA(IDCAP) 3g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−KCl 50g/l
−NaOH pH=9になる量
AQUAPACはAQUALON社の製品、PHPAは商標IDCAPとしてDowell Drilling Fluids社から販売されるポリアクリルアミドである。
【0094】
軽油(L5)、従来の市販潤滑剤(L3、L4)、系L7の潤滑性能を比較する。
【0095】
トルク値
系(%) 0 0.5 1 2 3 4 5
L3 38 38 38 25 4 4 4
L4 38 38 38 33 31 31 30
L5 38 38 38 38 36 35 33
L7 38 36 31 10 2 2 2
上記結果は系L7が非常に優れた潤滑性をもつことを示している。
【0096】
実施例10:乳化剤添加の影響
基材となる流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−キンサンタン(IDVIS) 2g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−分散剤(ポリアクリレートFC30S) 3g/l
−CaCl2 50g/l
−NaOH pH=9になる量
系L7、L13、L14の潤滑性能を比較する。
【0097】
市販の乳化剤2種を界面活性剤として用いてエマルジョンの安定を図る。
【0098】
トルク値
基材流体 42
系(%) L7 L13 L14
0.5 32 32 33
1 6 7 6
2 2 2 2
3 2 2 2
4 2 2 2
5 2 2 2
潤滑組成物に重晶石で加重をつけて密度を1.4にした後以下の測定を行った。
【0099】
トルク値
基材流体 42
系(%) L7 L13 L14
0.5 38 38 37
1 32 33 32
2 29 29 28
3 2 2 2
4 2 2 2
5 2 2 2
加重をつけた流体、つけない流体いずれも乳化剤の添加によって本発明潤滑組成物の潤
滑性能が変わることはない。
【0100】
実施例11:高圧/高温組成に対する乳化剤添加の影響
基材になる流体の組成は実施例8に同じである。
【0101】
トルク値
基材流体 39
系(%) L7 L13 L14
0.5 38 37 37
1 32 31 31
2 4 5 4
3 2 2 2
4 2 2 2
5 2 2 2
乳化剤を添加しても潤滑性は変わらない。
【0102】
実施例12:潤滑剤添加による流動学的性質および濾過特性に与える影響
基材となる流体FB1の組成は実施例10のものである。
【0103】
この実施例では、L13とL14の見かけ粘度VAと塑性粘度VP(mPa.s)、降伏値YV(Pa)(YVをlb/100ft2で表す場合は2.0886で乗じる)、基材流体FBのAPIろ液(ml)を比較する。
【0104】
以下の測定のために系L13、L14を基材流体に2%の割合で混合した。
【0105】
系 FB1 L13 L14
VA 17 17 16
VP 15 15 14
YV 1.9 1.9 1.9
APIろ液 19.6 13 13.6
潤滑組成物に重晶石で密度1.4になるよう加重したあと以下の測定を行った。系L13、L14を3%の割合で基材流体に混合した。
【0106】
系 FB1 L13 L14
VA 30 26 27
VP 18 16 16
YV 11.5 9.6 10.5
APIろ液 37.4 17.2 18.2
加重したか否かにかかわりなく、潤滑組成物によって基材流体の流動学特性は変化しないことがわかる。一方、ろ液はいずれの場合にも顕著な改善が見られる。
【0107】
実施例13:差動圧固着試験
試験は、流体を濾過して得たケークとドリルストリングを模した金属製ピストンとの摩擦を計測することからなる。試験にはNL社Baroid部門の「差動圧固着試験機」(Instructuion Manual Part No.211510001EA)を用いた。
【0108】
計測は、流体の周囲温度、濾過差動圧3.5MPa、ディスクにかかる圧力5MPaで10分間実施した。
基材流体FB2の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 1g/l
−NaCl 1g/l
−重晶石 d=1.2になる量
FB2は基材の組成に対応する。試験した潤滑系はL5、L3、L4、L1、L2である。
組成 トルク(m.N) (in.lbs)
FB2 31.6 280
FB2+1%L5 21.5 190
FB2+2%L5 13.6 120
FB2+1%L3 9 80
FB2+2%L3 8 70
FB2+1%L4 11.3 100
FB2+2%L4 6.8 60
FB2+1%L1 5.6 50
FB2+2%L1 固着なし
FB2+1%L2 4.5 40
FB2+2%L2 固着なし
エステルのみの潤滑組成物L1でさえ、同じ量で従来製品より効果が高いことは明らかである。最適潤滑組成物であるL2は非常に優れた耐差動圧固着特性を示す。
【0109】
実施例14:反応性粘土を含まない流体
基材流体の組成
−淡水
−キサンタン(IDVIS) 4g/l
−ろ液希釈剤(AQUAPAC Reg) 10g/l
−KCl 50g/l
−重晶石 30g/l
トルク値
系(%) 0 0.5 1 2 3
L13 32 2 1 1 1
L3 32 6 5 5 5
L4 32 12 9 8 8
L7 32 2 1 1 1
これらの結果から、膨張(または反応性)粘土を含まない流体組成、すなわち「固体なし」の組成ですら、本発明潤滑組成物であるL13またはL17の潤滑性能が市販の潤滑剤に比べて非常に優れていることがわかる。
【0110】
上記と同じだが重晶石を含まない基材流体と潤滑組成物L13を用いて試験を行った。
【0111】
トルク値
系(%) 0 0.5 1 2 3
L13 32 3 2 2 2
実施例15:熱老化の影響
基材流体の組成
−淡水
−ワイオミング・ベントナイト 30g/l
−NaCl 1g/l
潤滑組成物L7またはL13をこの極めて単純な基材組成物に3%添加した。高温回転試験セルを用いて2種の流体サンプルを140°Cと150°Cで16時間加熱した。周囲温度(約25°C)に戻ったあと、流体サンプルの潤滑性能を上記各試験にしたがって潤滑度試験機を用いて調べた。
【0112】
25℃ 140℃ 150℃
L7 1 1 1
L13 1 1 1
本発明の潤滑系の優れた耐熱強度が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつモノカルボン酸(A.1)と、直鎖または枝分かれしており、2から20個の炭素原子をもつポリオール(A.2)との反応で得られ、酸:アルコールのモル比(A.1:A.2)が1:1から(n−n/10):1(式中、nはアルコールA.2のヒドロキシル基の数を表す)である、井戸用流体に用いる、エステルの潤滑性能を改善する方法であって、
該エステル、50から99重量%と、
直鎖または枝分かれしており、8から24個の炭素原子をもつ少なくとも1種のモノカルボン酸からなり、該モノカルボン酸が1から3個の不飽和基をもつモノカルボン酸である部分B、1から50重量%とを混合することを特徴とする方法。

【公開番号】特開2008−291273(P2008−291273A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189404(P2008−189404)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【分割の表示】特願平7−328085の分割
【原出願日】平成7年11月22日(1995.11.22)
【出願人】(304022207)オーレオーン ナムローゼ フエンノートシャップ (1)