説明

亜鉛めっき廃液からの亜鉛の分離回収方法

【課題】亜鉛めっき廃液中の亜鉛を安価に効率よく鉄と分離し、経済的に再資源化可能な亜鉛濃度40%以上の高濃度亜鉛ケーキを得る。
【解決手段】亜鉛イオンを10,000mg/L以上、かつ、2価の鉄イオンを3,000mg/L以上含有する亜鉛めっき廃液に水を加えて2〜6倍に希釈した後、希釈廃液にアルカリを添加してpHを4.5〜5.5に調整するとともに、空気を吹き込み、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化した後、水酸化第二鉄として析出させる空気酸化処理工程と、得られた処理液を固液分離する第一固液分離工程と、得られた分離液にアルカリ(とあるいはさらに硫化剤)を添加してpHを9.5〜11に調整し、水酸化亜鉛(とあるいはさらに硫化亜鉛)を析出させるpH調整処理工程と、得られた処理液を固液分離する第二固液分離工程と、得られた固形物を洗浄して、乾燥重量あたり亜鉛を40%以上含有する亜鉛組成物を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛めっき廃液中の亜鉛を高濃度で収率良く分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛めっき廃液は鋼材表面への亜鉛めっきの工程で発生する高濃度亜鉛含有の廃液で国内では1〜2万トン/年発生していると想定される。液性は4〜6規定の高濃度塩酸もしくは硫酸酸性溶液中に、高濃度の亜鉛イオン及び鋼材から溶出した鉄イオンを含有する。亜鉛イオン濃度としては数%〜20wt%、鉄イオン濃度としては数%〜10wt%を含有する。亜鉛めっき廃液は強酸性で、中和には大量アルカリ剤が必要であり、また鉄は2価イオンで存在するのが特徴である。この廃液の殆どは産廃として処理され、鉄及び亜鉛は中和後、鉄及び亜鉛混合の水酸化物の脱水ケーキとして廃棄処分されている。したがって数千トン規模の亜鉛が廃棄されていると思われる。脱水ケーキの亜鉛濃度は高いので精錬原料として山元還元に供し再資源化することが必要とされているが、それを経済的に実施するためには、共存する鉄や塩の濃度を極力低減させて亜鉛濃度を40%以上に高めることが必要とされている。つまり亜鉛を鉄から効率よく分離回収する手段が必要となっている。複数の金属イオンを含む廃液からの分離回収技術としては多くの方法が知られている。例えば鉄−亜鉛系において特許文献1には、鋼板の酸洗廃液やめっき廃液など各種の重金属を含む廃液を各槽ごとに複数段階に分けてpH調整を行い、pHによる水酸化物生成傾向の差を利用し、金属種類別に水酸化物を析出させて分離回収する方法が提案されている。この中で二価鉄の酸化方法としては鉄酸化細菌を添加する方法が記載されている。特許文献2では鉄を含む複数の金属が混合する廃液において低含水率の鉄ケーキを得る方法が提案され、予め二価鉄を三価鉄に公知の方法で酸化させた後、中和剤を添加し、pH3〜5程度で水酸化鉄(三価)主体の粒子を生成させることが記載されている。特許文献3には、鉄、亜鉛等を含むめっき廃液スラッジからの金属回収のため、スラッジを酸に溶解した後、次いで液中の第1鉄(二価鉄)を過酸化水素等の酸化薬剤を使用して酸化後pH調整により、第二鉄沈殿物を得る方法が提案されている。
上記はいずれも鉄を何らかの方法で酸化して、二価鉄を三価鉄に酸化し、その後pH調整を行い、共存する他の金属成分との分離回収をはかるものである。非特許文献1には数mg/L程度の希薄濃度の二価鉄の三価鉄への空気酸化速度に与えるpHの影響を示し、酸化には中性付近が好適であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−71201号公報
【特許文献2】特開2005−296866号公報
【特許文献3】特開2007−237054号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高井雄、中西弘著「用水の除鉄、除マンガン処理」、産業用水調査会、昭和62年 P41。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの方法はいずれも金属水酸化物の形成傾向において水酸化第二鉄がpH3以上で溶解度を激減する特徴を利用したものである。
【0006】
化学的酸化には薬剤添加が必要で、多くは添加する薬剤の費用が有価金属回収のクレジットを損じ、経済的プロセスとしての成立を阻む結果となり、実用に至っていない。前記特許文献1において鉄酸化細菌を用いる方法では、酸化薬剤の投入はないが鉄イオン濃度が数10〜数100mg/L程度の希薄溶液への適用であり、本発明が対象とする亜鉛めっき廃液のような高濃度の鉄イオンを含有する廃液に適用した事例はないし、塩が高濃度であるため、菌の活性度も低くなることが想定され、亜鉛めっき廃液に適用するには膨大な希釈と費用が想定され、科学的には可能であっても工業的に成立しない。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、亜鉛めっき廃液中の亜鉛を安価に効率よく鉄と分離し、経済的に再資源化可能な亜鉛濃度40%以上の高濃度亜鉛ケーキを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するべく、なされたものであり、亜鉛めっき廃液中の鉄と亜鉛のモル量の和に対して所定量のアルカリを添加し、特定のpHに調整した後、空気を吹込むことにより、2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化するとともに、水酸化第二鉄を析出させ、溶解している亜鉛と分離した後、次いで再度pH調整し、亜鉛を析出させることにより、亜鉛ケーキを有償譲渡可能な高濃度亜鉛含有組成物又は、山元還元に供し得る有価物として回収できることを見出し、本発明を完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、高濃度亜鉛脱水ケーキを工業的に製造するために同廃液から鉄、及び塩類(塩素イオン、硫酸イオン塩)を除去する方法を提供する。本発明の処理フローでは、まず前処理として廃液を2〜6倍程度に希釈する。これは酸の中和時に生成する高濃度塩の低減に必要となる。次に同液を苛性ソーダ、ないし消石灰によりpHを4.5〜5.5に調整するとともに液中に空気を吹き込み二価鉄を三価鉄に酸化し、同時に水酸化第二鉄として析出させ、充分酸化が進行したことを確認した後にろ過分離する。最終的には水酸価鉄を濾過分離した後の濾液中にアルカリを加えて亜鉛を水酸化亜鉛として沈殿分離し、脱水機にて亜鉛ケーキとして回収する。脱水ケーキ回収時には中間でケーキの水洗浄を行うことで、塩の除去、亜鉛ケーキの高濃度化が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば低コスト、高回収率で亜鉛めっき液中の亜鉛を再資源化できる。また、亜鉛めっき廃液に限定されず、鉄と亜鉛を含有する廃液からの鉄あるいは亜鉛の分離に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の方法を示すフローシートである。
【図2】液のpHとFe酸化率とZn回収率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明が適用される亜鉛めっき廃液は、鉄板、鋼板、その他各種の鉄鋼材を、電解めっき、溶融めっき等で亜鉛めっきした際に生じるめっき液、めっき工程の後処理や、洗浄工程で生じる廃液であり、1〜7規定程度、通常4〜6規定程度の塩酸、硫酸等の鉱酸中に亜鉛イオンを10,000mg/L以上、好ましくは50,000mg/L以上、より好ましくは100,000mg/L以上、2価の鉄イオンを3,000mg/L以上、特に10,000mg/L以上含むものである。亜鉛イオンの上限は特に制限されないが、通常200,000mg/L以下、多くは150,000mg/L以下である。また、2価の鉄イオンの上限も特に制限されないが、通常100,000mg/L以下、多くは60,000mg/L以下である。
【0012】
この亜鉛めっき廃液に水を加えて、必要により撹拌しながら、2〜6倍程度、好ましくは3〜5倍程度に希釈する。亜鉛めっき廃液の希釈は亜鉛ケーキの品位を向上させる。脱水ケーキ中の水分に付随する塩分が低下するためである。廃液中の高濃度の酸の中和の結果として存在する塩濃度を低減するため、2〜6倍程度に希釈する。希釈度を上げすぎると品位は向上するが処理のボリュームが大きくなり、能率が低下する。
【0013】
次いで、この希釈廃液にアルカリを添加してpH4.5〜5.5に調整するとともに空気を吹き込み、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化する。空気酸化のpH条件は4.5〜5.5好ましくは4.6〜5.4付近の比較的狭い範囲が好ましい。低濃度域での二価鉄の空気酸化についてはpH依存性が大きく、中性域が好ましいことが知られている(非特許文献1)。しかしながら、本発明が対象とする亜鉛めっき廃液の場合は鉄、亜鉛ともに高濃度であるため、pH6以上では、二価鉄の酸化は進行するものの、水酸化第二鉄の沈降に伴い亜鉛が共沈し、亜鉛の回収率が低下してしまう。また、pHが4以下では二価鉄の酸化が進行せず、二価鉄イオンが液中に残留し、亜鉛析出の際に同時に析出するため回収亜鉛の濃度を低下させてしまう。二価鉄の酸化速度と亜鉛回収率とを考慮すると、pHには最適域が存在し5付近であることを見出した(図2)。pHの調整に用いるアルカリの種類は問わないが、安価で大量に入手できるものがよく、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等を例示すことができる。なお、空気酸化反応の進行に伴いpHは低下し、低下に伴い酸化反応速度も低下するので酸化時においては液のpHを監視しながら中和用アルカリを連続的あるいは断続的に投入してpH4.5〜5.5付近を維持する方が良い。酸化時間はpHが定まれば経験的に決まるが、実操業においては反応中の液の溶解性鉄の含有量を開始時の20%以下、好ましくは10%以下になるまで行うのがよい。ここで、溶解性鉄とは、反応液を0.45μmフィルターでろ過して得られたろ液中の鉄であり、ろ液を原子吸光分析装置もしくはICP発光分光分析装置で測定した値を溶解性鉄と定義する。
【0014】
この空気酸化により、鉄は水酸化第二鉄として沈殿する。析出物の分離手段は、特に限定されず、各種の重力濾過機、加圧濾過機、真空濾過機の外、遠心分離機も利用できる。
【0015】
分離したケーキは、鉄を高濃度で含有するため、山元にて電気抵抗式溶解炉などに投入することで、金属鉄として回収するとともに、わずかに含有する亜鉛はダストとして回収することができる。
【0016】
空気酸化終了後、固液分離した濾液は、次に、アルカリを添加し、pH9.5〜11程度、好ましくは10〜10.5程度にして亜鉛を水酸化物として沈殿させる。アルカリの添加は、pHを確認しながら一度に投入しても、沈殿の生成状況を確認しながら数回に分けて投入しても良い。いずれの場合においても、最終的に前記pH範囲内となるようにアルカリ添加量を調整する。pH調整に用いるアルカリは、このようなpHにすることができるものであればよいが、安価で入手が容易な点で水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウム化合物が望ましい。水酸化カルシウムによる中和の場合は回収した亜鉛ケーキの含有量を低下する。また、水酸化物として沈殿させる方法以外に、硫化剤を添加して硫化物として回収することもできる。この場合、添加する硫化剤としては硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム等のナトリウム硫化物が好ましい。硫化水素ナトリウムを加える場合は、硫化亜鉛生成の際にpHが低下するため、上記アルカリと併用する。この場合、硫化剤の添加条件としては、上記のアルカリによる中和の後半において添加する方が好ましい。硫化亜鉛生成に伴うpH低下によって、硫化水素ナトリウム添加時に硫化水素ガスが発生しやすくなり、作業員に対して危険が及ぶ可能性があるためである。硫化剤の添加開始時期は、具体的には前記アルカリを加えて反応液中のpHが5〜6以上になった時点とする。硫化剤の添加量は、残存する溶解亜鉛つまり未反応亜鉛の量に対しS当量で1〜1.2倍当量(モル比)程度が適当である。ここで、溶解性亜鉛とは、反応液を0.45μmフィルターでろ過して得られたろ液中の亜鉛であり、ろ液を原子吸光分析装置もしくはICP発光分光分析装置で測定した値を溶解性亜鉛と定義する。硫化剤添加後もアルカリの添加を続ける場合には、硫化剤とアルカリの合計量で残存する溶解亜鉛の量の1〜1.2倍当量(モル比)程度が適当である。アルカリや硫化剤を必要量添加してから、30分〜1時間程度撹拌してから沈殿物を分離する。この際高分子凝集剤を添加すると分離を良好に進めることができるが、必ずしも必要ではない。
【0017】
沈殿物の分離手段は、鉄ケーキ同様に、特に限定されず、各種の重力濾過機、加圧濾過機、真空濾過機の外、遠心分離機も利用できる。なおこの脱水工程において亜鉛ケーキへの直接水投入による洗浄操作は前述したメッキ原液の希釈と同様にケーキ中の塩分を低減できるので、亜鉛ケーキの純度向上には有効である。
【0018】
分離したケーキは、亜鉛を40重量%以上と高濃度に含有しており、山元にて公知の亜鉛回収プロセス、例えば、ばい焼して酸化亜鉛として更に精製した後、硫酸に溶解して硫酸亜鉛溶液とし、硫酸亜鉛溶液から電解によって金属亜鉛を得るプロセスなどに適用することが可能である。
【0019】
固液分離した濾液は、必要により、さらに浄化して放流し、あるいは工業用水等として再利用できる。浄化方法としては、pH調整後、沈殿物除去を行う。再利用時に求められる水質によっては前記浄化方法に、逆浸透膜法などを組み合わせることができる。
【実施例】
【0020】
Zn2+濃度96,000mg/L、Fe2+濃度27,000mg/Lの亜鉛めっき廃液10Lを工業用水で3倍に希釈して、Zn2+濃度32,000mg/L、Fe2+9,000mg/Lの希釈廃液を得た。この希釈廃液を200mlづつに分け、それぞれに表1に記載のアルカリ水溶液を添加して表1のpHに保ちながら空気を吹き込んで空気酸化を行った。尚、従来例1においては、水酸化カルシウム水溶液を一度に加えた。
【0021】
反応終了後、1μmフィルタでろ過し回収したろ液量と鉄と亜鉛の濃度を測定した後、回収したろ液に水酸化ナトリウムを加えて沈殿を生成し、1μmフィルタでろ過し、回収したケーキの亜鉛と鉄の濃度を表2に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

なお、表3に示す実施例4〜6は、実施例1〜3と同じ条件で、空気酸化後、回収したろ液に水酸化ナトリウムと硫化水素ナトリウムを加えて水酸化亜鉛および硫化亜鉛の混合ケーキを回収した結果であり、ほぼ同様の亜鉛濃度のケーキが得られた。
【0024】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、亜鉛めっき廃液から亜鉛を高い純度で回収して再利用でき、廃液の処理負担を軽減できるので亜鉛めっき廃液の処理に広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛イオンを10,000mg/L以上、かつ、2価の鉄イオンを3,000mg/L以上含有する亜鉛めっき廃液に水を加えて2〜6倍に希釈した後、該希釈廃液にアルカリを添加してpHを4.5〜5.5に調整するとともに、空気を吹き込み、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化した後、水酸化第二鉄として析出させる空気酸化処理工程と、前記空気酸化処理工程で得られた処理液を固液分離する第一固液分離工程と、前記第一固液分離工程で得られた分離液にアルカリを添加してpHを9.5〜11に調整し、水酸化亜鉛を析出させるpH調整処理工程と、前記pH調整処理工程で得られた処理液を固液分離する第二固液分離工程と、前記第二固液分離工程で得られた固形物を洗浄して、乾燥重量あたり亜鉛を40%以上含有する亜鉛組成物を回収する亜鉛回収工程を具備することを特徴とする亜鉛めっき廃液からの亜鉛回収方法。
【請求項2】
亜鉛イオンを10,000mg/L以上、かつ、2価の鉄イオンを3,000mg/L以上含有する亜鉛めっき廃液に水を加えて2〜6倍に希釈した後、該希釈廃液にアルカリを添加してpHを4.5〜5.5に調整するとともに、空気を吹き込み、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化した後、水酸化第二鉄として析出させる空気酸化処理工程と、前記空気酸化処理工程で得られた処理液を固液分離する第一固液分離工程と、前記第一固液分離工程で得られた分離液にアルカリと硫化剤を添加してpHを9.5〜11に調整し、水酸化亜鉛および硫化亜鉛を析出させるpH調整処理工程と、前記pH調整処理工程で得られた処理液を固液分離する第二固液分離工程と、前記第二固液分離工程で得られた固形物を洗浄して、乾燥重量あたり亜鉛を40%以上含有する亜鉛組成物を回収する亜鉛回収工程を具備することを特徴とする亜鉛めっき廃液からの亜鉛回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−82458(P2012−82458A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228243(P2010−228243)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(500570427)JFE環境株式会社 (21)
【Fターム(参考)】