説明

亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法及びその端末処理装置

【課題】亜鉛メッキ鋼板の端末から亜鉛メッキを化学的に溶解除去し、且つ、溶解除去後の端末を赤錆の発生から効果的に保護することができる化学的端末処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】化学的端末処理方法は、亜鉛メッキ鋼板の端末を塩酸液中に浸漬して、端末から亜鉛メッキを溶解除去した後、亜鉛メッキが除去された端末にアルカリ液を供給して、その端末に残留する塩酸液を中和し、この後、浄水又は純水からなる中性液を端末の表面に供給しながら端末表面を研削し、研削後に残存する水を抜水油により完全に油に置換し、最後に、端末の表面に防錆油の油膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば亜鉛メッキドラム缶の胴体に使用される亜鉛メッキ鋼板に対し、この亜鉛メッキ鋼板の端末から亜鉛メッキを除去する化学的端末処理方法及び端末処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛メッキドラム缶の胴体は胴板加工ラインにて、以下の手順にて製造される。
胴板コイルから巻き戻された亜鉛メッキ帯材は先ずレベラーで平坦にされた後、剪断機により所定長さの亜鉛メッキ鋼板に剪断される。それ故、この亜鉛メッキ鋼板は剪断により始端及び終端を有する。次に、亜鉛メッキ鋼板は円筒状に成形され、始端及び終端の両端末は互いに所定幅(約2mm)だけ互いにラップした状態でシーム溶接機により接合される。
【0003】
この後、必要に応じて溶接シーム部は、そのほぼ全長に亘って圧延装置により押し潰されるか、その両端のみがマッシャーカッタにより押し潰され、そして、始端及び終端の耳が切断される。
次に、亜鉛メッキ鋼板の円筒体に対して、フランジ出し機及び輪帯出し機によりフランジ出し及び輪帯出しが順次実施され、ドラム缶の胴体が成形される。なお、必要に応じて輪帯の谷部分は凹型に変形されるか、コルゲート成形が施される。
【0004】
上述したシーム溶接は、円板状の一対の溶接電極輪間に接合すべき両端末のラップ部を挟み込み、これら溶接電極輪の回転に伴い、溶接電極輪をラップ部の長手方向に移動させながら、ラップ部に対するスポット溶接を連続的に繰り返すことで実施される。
シーム溶接は、液密性や気密性を要求するドラム缶等に好適するが、しかしながら、ドラム缶の胴体が亜鉛メッキ鋼板から形成される場合にあっては、シーム溶接時、溶接電極輪の主成分である銅と亜鉛メッキの亜鉛とが合金を生成し、この合金が溶接電極輪を汚染してしまうことから、この汚染を避ける目的で、ラップ部を形成する両端末の亜鉛メッキはシーム溶接に先立って、除去する必要がある。
【0005】
従来、端末の亜鉛メッキはグラインダにより削り取られるか、又は、塩酸液中に端末を浸漬し、化学的に溶解することで除去されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2004-167602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラインダによる除去は作業性が悪いばかりでなく、除去後の端末の厚みを均一に維持するには熟練した技術が要求され、更には、除去した亜鉛の粉塵が周囲の作業環境を悪化させる。このため、粉塵の捕集設備や換気設備が必要となる。
一方、化学的な溶解除去は、グラインダ除去による上述の不具合を被ることが無いものの、この場合には、周囲が夏場等の高温且つ多湿な環境にあると、亜鉛除去後の端末が水で洗浄されるとしても、端末の露出鋼板表面は活性状態にあるから、空気中の酸素及び水分と反応し、端末の露出鋼板表面に赤錆が急速に発生してしまう。
【0007】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、亜鉛メッキ鋼板における端末の亜鉛メッキが塩酸液を使用して化学的に溶解除去されても、除去後の端末の露出表面への赤錆の発生を効果的に阻止でき、露出表面の安定した品質を確保することができる亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法及びその端末処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法は、塩酸液中に亜鉛メッキ鋼板の端末を浸漬し、この際、塩酸液の液面から発生する塩酸ヒュームを亜鉛メッキ鋼板から離隔する方向に吸引するために除湿された極低露点の高圧エアを吹き込みつつ、端末の亜鉛メッキを溶解除去し、亜鉛メッキが溶解除去された端末にアルカリ液を供給して、その端末に残留する塩酸液をアルカリ液で中和すると共に、中和反応初期に発生する塩酸ヒュームを吸引し、その後中和処理後の端末の表面を中性液の供給を受けながら研削する(請求項1)。
【0009】
請求項1の化学的端末処理方法によれば、亜鉛メッキ鋼板の端末は塩酸液中に浸漬されることで、その表面の亜鉛メッキが溶解除去されるが、この際、塩酸液の液面から発生する塩酸ヒュームは除湿された極低露点の高圧エアのブローにより亜鉛メッキ鋼板から離隔する方向に吸引され、このブローにより、通常のエアブローでは助長される塩酸ヒュームの発生を抑制すると共に、塩酸ヒュームと亜鉛メッキ鋼板との接触が避けられる。
【0010】
端末の亜鉛メッキが溶解除去されると、端末は塩酸液中から引き抜かれた後、アルカリ液の供給を受け、端末に残留した塩酸液がアルカリ液により中和され、しかも、その反応開始時には塩酸ヒュームが発生するのでこれを吸引する機構も有している。それ故、亜鉛メッキが除去された鋼板表面から塩酸が除去される。
この後、端末は中性液(浄水又は純水)で洗浄されながら表面研削を受ける。この工程で、端末に付着・残存しているアルカリ分と溶解した亜鉛メッキの残滓が確実に除去され、且つ、端末の表面粗度は一様になる。その後抜水油による水と油の置換により水切りが完璧に行われ、端末の洗浄後、端末に防錆油が塗布されても、アルカリ分と防錆油との混合が回避され、加えて水切りが完全に施されるため防錆効果が損なわれることもない。
【0011】
上述した化学的端末処理方法を実施するにあたり、端末に対する溶解除去の開始から除去処理後の端末が塩酸液の液面から所定の離間距離まで引き上げられていく間、亜鉛メッキ鋼板の外面に沿って塩酸液の液面に向かう空気流を生起させるのが好ましく(請求項2)、このような空気流は除湿された極低露点の高圧エアのブローを伴うため、塩酸ヒュームの吸引と協働し、亜鉛メッキ鋼板の端末以外の部位に塩酸ヒュームが接触してしまうのを阻止する。
【0012】
更に、塩酸液は、亜鉛メッキの溶解時、気泡の発生を抑制する消泡剤を含むことができる(請求項3)。ここで、気泡は亜鉛メッキの溶解に伴って発生する水素ガスにより形成されるが、このような気泡は塩酸液の表面にて大きく成長し、液面に発泡現象をもたらす。しかしながら、塩酸液中に消泡剤が含まれていれば、消泡剤は上述した気泡の成長を抑制して気泡を微細化する。
【0013】
また、塩酸液は、上述の消泡剤とともに、亜鉛の溶解を促進し且つ鉄の溶解を抑制する添加剤を更に含んでいるのが好ましい(請求項4)。
一方、研削処理済みの端末に対しては、中性液の液切りがなされた後、抜水油による水と油の置換反応を行った後、端末の露出鋼板表面に防錆油の油膜を形成することもできる(請求項5)。防錆油の油膜は端末の表面を長期に亘って錆から保護する。なお、油膜の形成は、防錆油中に端末を浸漬させるか、また、端末に防錆油を噴霧することで可能である。
【0014】
本発明は、上述した請求項1〜5の方法を実施するための化学的端末処理装置もまた提供する。請求項1の方法に対応する化学的端末処理装置は、塩酸液槽を蓄え、この塩酸液槽の塩酸液中に亜鉛メッキ鋼板の端末を浸漬させて、端末から亜鉛メッキの溶解除去処理を実施する塩酸処理ステージと、塩酸液の循環タンクを備え、この循環タンクと塩酸液槽との間にて塩酸液を循環させる循環回路と、塩酸液槽内の塩酸液中に端末が浸漬された際、塩酸液の液面中から発生する塩酸ヒュームを除湿された極低露点の高圧エアを吹き込みつつ亜鉛メッキ鋼板から離隔する方向に吸引し、塩酸液槽から排出する吸引排気手段と、亜鉛メッキが溶解除去された端末にアルカリ液を供給し、端末に残留する塩酸液を中和処理すると共に、酸とアルカリの中和反応開始時に発生する塩酸ヒュームを吸引する機構を備えた中和処理ステージと、回転可能な研削ブラシを備え、中和処理後の端末の表面に中性液を供給品から前記端末の表面を研削ブラシにより研削処理する研削処理ステージと、抜水油による水と油の置換を行う抜水油ステージとその後防錆油を塗布する防錆処理ステージを有し、塩酸処理ステージ、中和処理ステージ、研削処理ステージ、抜水油ステージ及び防錆処理ステージに対して亜鉛メッキ鋼板を相対的に順次移送し、各処理ステージにて亜鉛メッキ鋼板の端末に対する前記処理をそれぞれ実施させる移送手段とを備える(請求項6)。
【0015】
請求項2の方法に対応する化学的端末処理装置は、塩酸液槽の塩酸液中への前記端末の浸漬から、この後、端末が塩酸液槽の液面から所定の位置まで引き上げられていく間、亜鉛メッキ鋼板の外面に沿って塩酸液の液面に向かう空気流を除湿された極低露点の高圧エアを吹き込ことで生起させるエアブロー手段を更に備えることができる(請求項7)。
このエアが露点−10℃以下で効果があり、−40℃程度が更に好ましい。エア圧としては、0.5MPa以下が好ましい。そこで、本発明では、露点−10℃以下でエア圧0.5MPa以下の空気を「極低露点の高圧エア」と呼ぶ。
【0016】
請求項3の方法に対応する化学的端末処理装置は、塩酸液槽内の塩酸液が亜鉛メッキの溶解時、気泡の発生を抑制する消泡剤を含んでおり(請求項8)、そして、請求項4の方法に対応する化学的端末処理装置の場合、塩酸液は、亜鉛の溶解を促進し且つ鉄の溶解を抑制する添加剤を更に含んでいる(請求項9)。
請求項5の方法に対応する化学的端末処理装置は、研削処理済みの端末に対する中性液の液切りがなされた後、抜水油による水と油の置換を行う抜水油ステージと前記端末の表面に防錆油の油膜を形成する防錆処理ステージを更に含むことができる(請求項10,11)。この場合、防錆処理ステージは、前記端末を防錆油中に浸漬させるか又は端末に向けて複数のスプレーガンから防錆油を噴霧することで油膜を形成し、そして、防錆油中に浸漬される場合、化学的端末処理装置は、油膜の膜厚を調整する調整手段を更に含んでいるのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
請求項1,6の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法及び装置は、塩酸液による亜鉛メッキの溶解除去後、亜鉛メッキ鋼板の端末表面に残留する塩酸をアルカリ液により中和処理するようにしたから、残留した塩酸が端末の露出鋼板表面に悪影響を及ぼすことはない。
請求項2,7の化学的端末処理方法及び装置は、塩酸液の液面から発生する塩酸ヒュームの吸引除去に加えて、液面に向け、亜鉛メッキ鋼板に沿って流れる空気流を除湿された極低露点の高圧エアを吹き込ことにより生起させているので、亜鉛メッキ鋼板の端末以外の部位に対する塩酸ヒュームの接触が確実に防止され、加えて中和処理ステージで酸とアルカリの反応開始時に発生する塩酸ヒュームを吸引する機構により端末以外の亜鉛メッキが塩酸ヒュームによって腐食されることはない。
【0018】
請求項3,8の化学的端末処理方法及び装置は、亜鉛メッキの溶解時、塩酸液中に含まれた消泡剤が塩酸液の液面に発生する気泡を微細化するので、このような微細な気泡が破裂しても、この破裂に伴い塩酸沫が実質的に飛散するようなことはなく、塩酸飛沫による亜鉛メッキの不所望な腐食を確実に阻止することができる。
請求項4,9の化学的端末処理方法及び装置は、塩酸液中に含まれる添加剤の働きにより、塩酸液の亜鉛メッキ溶解能を長期に亘って維持でき、また、亜鉛メッキ鋼板の母材である鉄への悪影響もまた抑制することができる。
【0019】
請求項5,10,11の化学的端末処理方法及び装置は、研削処理後、液切りを完全に行うため抜水油による水と油の置換を行い、端末に防錆油の油膜を形成することで、端末表面の錆の発生を長期に亘って防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、亜鉛メッキ鋼板の化学端末処理を実施する化学的端末処理装置を概略的に示す。
化学的端末処理装置は大きく分けて、亜鉛メッキ鋼板(以下、単に鋼板と称す)の搬入セクション2と、鋼板の処理セクション4と、処理後の鋼板の搬出セクション6とを備え、これらセクション2〜6は図1でみて左方から右方に向けて順次配置されている。
【0021】
搬入セクション2はローラコンベア8の終端に位置付けられており、このローラコンベア8は搬入パレット10上の鋼板集積体Aを搬入パレット10とともに搬入セクション2に向けて移送する。鋼板集積体Aは搬入パレット10上に積層された多数の鋼板A1からなり、搬入セクション2に供給されたとき、ストッパプレート12に当接する。ストッパプレート12は鋼板集積体A、即ち、その個々の鋼板A1の位置決めをなす。
【0022】
ここで、鋼板A1は前述した鋼製ドラム缶の胴体を成形するために使用され、図1中、1点鎖線の円内に示した鋼板A1から明らかなように、鋼板A1の長手軸線Xはローラコンベア8の移送方向に対し、その横断方向に延びている。従って、鋼板集積体Aが搬入セクション2に到達したとき、個々の鋼板A1はその一側縁にてストッパプレート12に当接し、ローラコンベア8の両側にそれぞれ位置付けられた端末eをそれぞれ有する。
【0023】
一方、搬出セクション6は台車14を備え、この台車14は一対の走行レール16上に配置されている。台車14上には搬出パレット18が載置され、この搬出パレット18は処理セクション4にて端末eが処理された鋼板A1、即ち、処理済みの鋼板A2を受け取ることができる。受け取られた鋼板A2は搬出パレット18上に積層され、鋼板集積体Bを形成する。それ故、鋼板集積体Bはその搬出パレット18とともに台車14により後段の処理セクションに向けて移送される。
【0024】
搬入セクション2から処理セクション4に鋼板A1を供給するため、搬入セクション2の上方には供給ヘッド20が配置されている。この供給ヘッド20は搬入セクション2の上方と処理セクション4の上方との間を図1中の矢印Cで示す水平方向に往復移動可能であり、下方に突出した吸着マニピュレータ22を有する。吸着マニピュレータ22は図1中の矢印Dで示すように上下方向に昇降可能である。
【0025】
それ故、供給ヘッド20が搬入セクション2の上方に位置付けられているとき、供給ヘッド20は吸着マニピュレータ22を鋼板集積体Aに向けて下降させ、吸着マニピュレータ22に鋼板集積体Aの最上位にある鋼板A1を吸着させ、そして、吸着した鋼板A1とともに吸着マニピュレータ22を所定の位置まで上昇させることができる。なお、この位置には、2枚板検出装置が設置されており、もし鋼板2枚を同時に吸着した場合、供給ヘッド20が鋼板処理セクション4へ移動することを防いでいる。
【0026】
この後、供給ヘッド20は処理セクション4の上方まで水平移動し、そして、吸着マニピュレータ22を下降させることで、吸着した鋼板A1を処理セクション4に供給することができる。
なお、図1中、吸着マニピュレータ22は単なる矢印で示されているに過ぎないが、具体的には、昇降ロッドと、この昇降ロッドの下端に取り付けられた吸着パッドとからなり、吸着パッドはその下面に複数の吸着カップを備えている。
【0027】
一方、処理セクション4から搬出セクション6に処理済みの鋼板A2を取り出すため、搬出セクション6の上方には取出しヘッド24が配置され、この取出しヘッド24は搬出セクション6の上方と処理セクション4の上方との間を図1中の矢印Eで示す水平方向に往復移動可能である。また、取出しヘッド24は前述した供給ヘッド20の吸着マニピュレータ22と同様な吸着マニピュレータ26を有し、この吸着マニピュレータ26は図1中の矢印F方向に昇降可能である。
【0028】
従って、取出しヘッド24は搬出セクション6の上方から処理セクション4の上方に移動し、その吸着マニピュレータ26を下降させて、吸着マニピュレータ26に処理セクション4から処理済みの鋼板A2を吸着できる。そして、取出しヘッド24は、吸着した鋼板A2を上昇させた後、搬出セクション6の上方に復帰し、吸着マニピュレータ26を再び下降させることで、処理セクション4から取り出した鋼板Aを搬出セクション6、即ち、台車14上の搬出パレット18上、又は、搬出パレット18上に積層された最上位の鋼板A2上に載置することができる。
【0029】
なお、供給ヘッド20及び取出しヘッド24は処理セクション4の上方に交互に位置付けられ、これら供給ヘッド20及び取出しヘッド24が処理セクション4に対して同時にアクセスすることはない。
図1に示されているように、処理セクション4はロータリホルダ28を備え、このロータリホルダ28は水平な回転軸線Yを有する。この回転軸線Yは、処理セクション4に供給されてくる鋼板A1の長手軸線Xと直交する方向に延び、ロータリホルダ28は回転軸線Yを中心として回転可能に支持されている。なお、ロータリホルダ28の回転は図示しない駆動手段により実施される。
【0030】
ロータリホルダ28が図1に示す回転姿勢にあるとき、ロータリホルダ28は鋼板A1(又はA2)を上下2段して保持することができるが、2段にする理由は、生産性を向上させるためであり、生産性を重視しない、或いは設備投資額を抑える必要がある場合には、1段でもよい。ロータリホルダ28の具体的な構造は以下の通りである。
ロータリホルダ28は、回転軸線Yの方向に離間した左右の側板30と、これら側板30の下端を互いに連結する固定棚32と、固定棚32の上方に位置付けられた開閉可能な可動棚34とを有し、これら固定棚32及び可動棚34はその上面に分布して配置された複数の吸着カップを有する。
【0031】
図1に示す状態から可動棚34が開かれ、固定棚32へのアクセス経路が確立されているとき、供給ヘッド20の吸着マニピュレータ22は吸着した鋼板A1を固定棚32上に移載して、この鋼板A1は固定棚32に吸着保持させることができ、一方、取出しヘッド24の吸着マニピュレータ26は固定棚32上の処理済みの鋼板A2を吸着し、ロータリホルダ28から搬出セクション6に向けて移送することができる。
【0032】
一方、可動棚34が閉じ、固定棚32の上方に位置付けられているとき、供給ヘッド20及び取出しヘッド24の吸着マニピュレータ22,26は可動棚34上への鋼板A1の移載及び可動棚34からの鋼板A2の取り出しを同様にして行うことができる。
具体的には、上述した可動棚34は、各側板30に複数個ずつ割り当てられた可動アーム36から実現されており、これら可動アーム36はその基端が対応する側の側板30の上端に回転自在に支持され、載置すべき鋼板A1(又はA2)の長手方向に所定の間隔を存して配置されている。そして、各可動アーム36の基端はロータリアクチュエータ(図示しない)に接続され、ロータリアクチュエータの駆動を受け、可動アーム36はその基端を中心に固定棚32に沿って回転する。つまり、可動棚34は、各可動アーム36が対応する側の側板30の上端と重ね合わされることで開かれ、そして、各可動アーム36が図1に示す如く、他方の側の側板30に向けられることで閉じられる。なお、可動棚34の吸着カップは各可動アーム36の上面に取り付けられている。
【0033】
ロータリホルダ28の固定棚32及び可動棚34のそれぞれに鋼板A1が載置、つまり、吸着保持されている状態で、ロータリホルダ28がその回転軸線Yの回りに90°だけ回転されたとき、固定棚32及び可動棚34はその姿勢が水平状態から鉛直状態に変更され、これに伴い、これらの棚32,34上の鋼板A1はそれらの端末eの一方が下方を向いた鉛直姿勢となる。
【0034】
一方、ロータリホルダ28の下方にはステージユニット38が配置されており、ロータリホルダ28の2枚の鋼板A1が前述し鉛直姿勢となったとき、これら鋼板A1の下方の端末eは図1から明らかな如く、ステージユニット38の直上に位置付けられる。
ステージユニット38は移送台40に図1中矢印で示す昇降機構42を介して配置され、移送台40は一対の移送レール44上に載置されている。これら移送レール44は鉛直姿勢の2枚の鋼板A1の離間方向、即ち、ロータリホルダ28の回転軸線Yと交差する水平方向に延びている。
【0035】
ステージユニット38が昇降機構42による昇降並びに移送レール44に沿う間欠移送を繰り返す毎に、鋼板A1の端末eに対して一連の処理つまり化学的端末処理方法が連続的に実施され、図2はその端末処理の流れを概略的に示す。
鋼板1がステージユニット38に供給されたとき(i)、この鋼板A1の端末eは先ず、濃度36%程度の塩酸液La中に浸漬され、この際に塩酸液Laの表面から発生する塩酸ヒューム(塩素ガスや水素ガス等を含んだ蒸気)を除湿された極低露点の高圧エアを吹き込みつつ鋼板A1から離隔する方向に吸引しながら、端末eの表面を被覆している亜鉛メッキが溶解除去される(ii)。それ故、この工程では、鋼板A1に対する塩酸ヒュームの接触が避けられ、端末e以外の鋼板A1の亜鉛メッキが塩酸ヒュームにより腐食されてしまうことはない
次に、端末eは塩酸液La中から引き上げられた後、アルカリ液Lbのスプレーを受けるが、そのアルカリ液と塩酸液との中和反応開始時に発生する塩酸ヒュームを吸引しつつ端末eの表面に残留している塩酸液Laが中和される(iii)。
【0036】
この後、端末eは、中性液(中性の浄水又は純水)の供給を受けながら研削ブラシにより研削処理され(iv)、端末eの表面にアルカリ分や溶解した亜鉛メッキの残滓が残っていても、この残滓は研削及び中性液により綺麗に洗浄除去される。
次に、研削処理された端末eに対し、中性液の液切りがなされるが、液切りを完全に行うため抜水油槽で水と油の置換を行い(v)、その後、その表面に防錆油の油膜を形成する防錆処理が実施され(vi)、このように端末eの表面に油膜が形成されれば、端末eの表面に対する錆の発生を長期に亘って阻止できる。
【0037】
この後、上述の端末処理が鋼板A1の他方の端末eに対しても同様に繰り返され、鋼板A1は前述した処理済みの鋼板A2となる。
前述した工程(i)から(vi)はステージユニット38上にて実施可能であり、図3はステージユニット38をより具体的に示す。
図3は、ステージユニット38の周辺をより具体的に示しているで、ステージユニット38について説明する前に、その周辺の構造を説明する。
【0038】
図3から明らかなように化学的端末処理装置はフレーム46を備え、このフレーム46の上面に前述した供給ヘッド20及び取出しヘッド24が設けられている。これらヘッド20,24は走行体48を備え、この走行体48は車輪50を介して一対の走行レール52上に載置されている。なお、これら走行レール52はフレーム46の上面に取り付けられている。
【0039】
また、供給及び取出しヘッド20,24の吸着マニピュレータ22,26は、前述した昇降ロッドとしてフィードスクリュー54と、パッドプレート56とから実現され、このパッドプレート56はその下面に複数の吸着パッド58を備えている。なお、図3中、参照符号60はパッドプレート56の昇降を案内するガイドロッドを示す。
フレーム46はロータリホルダ28を回転可能に支持し、図3中、ロータリホルダ28は水平、鉛直及び回転途中の3つの姿勢で示され、また、固定棚32及び可動棚34の吸着カップは参照符号62で示されている。
【0040】
ステージユニット38はステージ台64と、このステージ台64上に設けられた一対の処理ステージ群66a,66bを備えており、これら処理ステージ群66a,66bは鉛直姿勢にある固定棚32及び可動棚34の離間方向、つまり、これら棚32,34に吸着保持されている一対の鋼板A1の端末eに対してそれぞれ割り当てられ、これら端末eの離間方向と同一方向に互いに離間して配置されている。
【0041】
処理ステージ群66a,66bは同一の構成、即ち、塩酸液処理槽68、中和処理槽70、研削処理槽72及び抜水油槽74をそれぞれ有する。これら処理槽68〜74は図3でみて左側から順次隣接して配置され、これら処理槽の詳細については後述する。
図3に示されているように、前述した移送台40はフィードスクリュー76を備え、このフィードスクリュー76は移送レール44に沿って延び、その基端が正逆回転可能な移送モータ78の出力軸に連結されている。移送モータ78がフィードスクリュー76を回転させたとき、フィードスクリュー76の回転は移送レール44に沿って移送台40を移送し、ここでの移送方向はフィードスクリュー76、つまり、移送モータ78の回転方向によって決定される。従って、移送台40は移送モータ78の回転により移送レール44に沿って、図3中の矢印G方向に往復動可能である。
【0042】
また、前述したようにステージユニット38は移送台40に前述した昇降機構42を介して支持されているので、移送台40の往復動に連動してステージユニット38もまた矢印G方向に往復動する。ここでのステージユニット38の往復動は、処理ステージ群66a,66bの個々の処理槽を対応する側の鋼板A1の端末eの直下に位置付け可能とする。
【0043】
図4及び図5は前述した昇降機構42を具体的に示す。
昇降機構42は4つの螺子ジャッキ80を備え、これら螺子ジャッキ80はステージユニット38におけるステージ台64の四隅部に配置され、移送台40に対してステージ台64を昇降可能に支持している。
各螺子ジャッキ80の螺子軸にはスプロケット82が一体的に取り付けられており、一方、ステージ台64の端縁にはブラケットを介して正逆回転可能な昇降モータ84が配置され、この昇降モータ84はその出力軸に駆動スプロケット86を有する。この駆動スプロケット86は螺子ジャッキ80のスプロケット82と同一の水平面内に配置され、そして、図5から明らかなようにチェーン88の掛け回しを介して、各スプロケット82に回転力を伝達すべく接続されている。
【0044】
従って、昇降モータ84が回転されたとき、昇降モータ84の回転は駆動スプロケット86及びチェーン88を介して各螺子ジャッキ80のスプロケット82に伝達される結果、これら螺子ジャッキ80は昇降モータ84の回転方向に従い、移送台40に対してステージ台64、即ち、処理ステージ群66a,66bを図4中の矢印H方向に昇降させる。
ステージ台64の昇降及び移送レール44に沿うステージ台64の移送を実現する上述の構造は互いに協働して処理ステージ群66a,66bの各処理槽に対し、対応する側の端末eの受け入れを順次可能とする移送手段を構成する。
【0045】
図6は、塩酸液処理槽68を具体的に示す。
塩酸液処理槽68は、外槽体90、中間槽体92及び内槽体94の3重構造をなし、これらの槽体は何れもステージ台64の移送方向と直交する方向に延び、これらの槽体の長さは鋼板A1の幅よりも長い。
図6から明らかなように、内槽体94は中間槽体92内に、その底が中間槽体92に支持され、開口した上面を有する。内槽体94及び中間槽体92内には前述した濃度36%の塩酸液Laがそれぞれ蓄えられ、内槽体94の液面レベルは中間槽体92の液面レベルよりも液面差Δhだけ僅かに高い。
【0046】
内槽体94にはその塩酸液La中に一端が位置付けられた供給管96が液密にして接続され、この供給管96の他端側は中間槽体92及び外槽体90の端壁をそれぞれ液密又は気密に貫通し、塩酸液処理槽68の外側に延出されている。
一方、中間槽体92にはその塩酸液La中に一端が位置付けられた一対の排出管98が液密にして接続され、これら排出管98は内槽体94の両側に配置され、そして、これらの他端側は外槽体90の端壁を気密に貫通し、塩酸液処理槽68の外側に延出されている。
【0047】
供給管96の他端は供給ライン100を介して、塩酸液Laを蓄えた循環タンク102に接続され、一方、一対の排出管98の他端は戻りライン104を介して循環タンク102に接続されている。供給ライン100には循環ポンプ106が介挿され、この循環ポンプ106は、循環タンク102内の塩酸液Laを供給ライン100及び供給管96を通じて内槽体94内に供給し、そして、中間槽体92内の塩酸液Laは一対の排出管98及び戻りライン104を通じて循環タンク102に戻される。即ち、循環ポンプ106は前述した液面差Δhを維持すべく、循環タンク102と塩酸液処理槽68との間にて塩酸液Laを循環させる。
【0048】
塩酸液Laの循環中、内槽体94内の塩酸液Laはその開口縁からオーバフローし、中間槽体92に流出する。ここで、図7に示されているように内槽体94の開口縁108には、所定のピッチ間隔にてV字形のノッチ110が形成されている。例えば、ノッチ110のピッチ間隔は約20mm、そして、ノッチ110の深さは約5mm程度である。なお、上述したノッチ110を設ける理由については後述する。
【0049】
更に、循環タンク102内には、ヒータ及びクーラを有した温度調整器112が配置されている。この温度調整器112は周囲の環境温度に拘わらず、内槽体94内における塩酸液Laの温度を約25〜35℃に維持する。
なお、図6中、循環タンク102は塩酸液処理槽68よりも小さいものとして示されているが、実際には、循環タンク102は塩酸液処理槽68の容量に比べて十分に大きく、塩酸液処理槽68内の塩酸液量よりも多量の塩酸液Laを蓄えている。
【0050】
一方、内槽体94とは異なり、外槽体90及び中間槽体92は天井壁90a,92aをそれぞれ有し、これら天井壁90a,92aは、内槽体94の上方に開口90b,92bをそれぞれ有する。これら開口90b,92bは内槽体94の長手方向に沿って延びており、また、図6から明らかなように開口90bの幅は開口92bの幅よりも狭い。
更に、開口90b,92bには一対のカバープレート114、114aが設けられており、カバープレート114は、外槽体90及び中間槽体92を傾斜させて配設される当該プレート114により斜めに結合させ、カバープレート114aは、開口90bの開口幅を可変にできるように、カバープレート114の斜め上でスライドできる機構を備えている。
【0051】
一対のカバープレート114、114aは、外槽体90及び中間槽体92の長手方向全域に亘って天井壁90a,92a間を仕切り、外槽体90と中間槽体92との間を排気室とする仕切壁を形成し、そして、一対のカバープレート114aの下端間は塩酸液処理槽68内に鋼板A1の端末eを受け入れるための入出口116を形成する。ここで、入出口116の開口幅は約10〜15mmに設定されている。
【0052】
天井壁92aには多数の吸引口120が形成されており、これら吸引口120は中間槽体92の長手方向に沿い一定のピッチ間隔で配列されている。中間槽体92の長手方向でみて、図8に示されるように各吸引口120は例えば100mmの長さを有し、そして、吸引口120間の間隔は例えば20mmである。
外槽体90内には一対の排出管122の一端が接続されており、これら排出管122は中間槽体92の両側に配置されている。これら排出管122の他端は排出ライン124にそれぞれ接続され、この排出ライン124は送風機126を介してスクラバー128の底部に接続されている。スクラバー128内には塩素ガスや水素ガスの吸収性に優れた充填物が充填されており、その上部に大気放出口が設けられている。
【0053】
また、スクラバー128にはアルカリ液の循環経路130が接続され、この循環経路130中にアルカリ(苛性ソーダ)液を蓄えたタンク132及びこのタンク132内のアルカリ液をスクラバー128の上部に供給するポンプ134がそれぞれ介挿されている。
一方、前述した一対のカバープレート114aの直上には、エアブロー管138がそれぞれ配置されている。エアブロー管136,138は前述した入出口116の長手方向全域に亘って延び、図6でみて左側のエアブロー管138と右側のエアブロー管138との間には前述した入出口116の開口幅と同程度の間隔が確保され、これらエアブロー管136,138が入出口116へのアクセスに障害となることはない。
【0054】
エアブロー管138は圧縮エア供給源(図示しない)に接続され、その外面に多数のエアノズル140を有する。これらエアノズル140はそのエアブロー管の軸線方向に所定の間隔を存して配列され、その先端が斜め下方、つまり、入出口116側に向けられている。従って、エアブロー管138に圧縮エアが供給されたとき、各エアノズル140から入出口116に向けて空気が噴出される。この圧縮エアは、塩酸ヒューム発生を低減させるため、除湿した極低露点の高圧エアが望ましい。
【0055】
次に、上述した塩酸液処理槽68での鋼板A1の端末処理について説明する。
内槽体94内の塩酸液Laは25〜35℃の温度に維持され、一方、送風機126の駆動を受け、中間槽体92内の空気は吸引口120を通じて外槽体90内に一旦排出され後、外槽体90から排出管122及び排出ライン124を通じてスクラバー128内に導かれている。
【0056】
上述した中間槽体92内の排気は中間槽体92内を負圧にすることから、中間槽体92内には入出口116を通じて外気が導入される。従って、入出口116では外側から中間槽体92内に向かう空気流が生起されている状態にある。
また、この際には、前述したエアブロー管138から入出口116に向けて除湿された極低露点の高圧空気が噴出されており、このような空気の噴出は入出口116を通じて中間槽体92内に向かう空気の流れを強力にし、中間槽体92内から入出口116を通じて外側に向かう空気の流れを確実に阻止する。
【0057】
上述した状態にて、入出口116の上方に鉛直姿勢にして鋼板A1が供給されたとき、塩酸液処理槽68は前述した昇降機構42よりステージ台64とともに、鋼板A1に向けて上昇され、これにより、鋼板A1の端末eは入出口116を通過し、内槽体94の塩酸液La中に所定の深さだけ浸漬される。
端末eが塩酸液La中に浸漬されると、端末eの亜鉛メッキは直ちに溶解除去され、この溶解除去に伴い、塩酸液Laの液面から中間槽体92内に塩酸ヒュームが発生する。このような塩酸ヒュームは、中間槽体92内から吸引口120を通じて外槽体90内に排出される空気の流れとともに鋼板A1から離隔する方向、つまり、吸引口120に向けて確実に吸引され、この結果、中間槽体92内から外槽体90内に直ちに排出される。
【0058】
ここで、吸引口120は鋼板A1の両側に配列されているから、これら吸引口120の排気能力は高く、また、前述したカバープレート114aはそれらの下端が中間槽体92内に斜めに突出し、しかも、エアノズル140からの噴出された空気が鋼板A1の両面に沿い塩酸液Laの液面に向けて流れていることから、塩酸液Laの液面から立ち上る塩酸ヒュームは液面よりも上側の鋼板A1の亜鉛メッキに接触することなく、中間槽体92から外槽体90内に排出される。それ故、端末e以外の鋼板A1の亜鉛メッキが塩酸ヒュームにより不所望にして腐食されてしまうことはない。
【0059】
また、鋼板A1の両面に沿って下降する空気流は塩酸液Laの液面に衝突した後、鋼板A1の左右方向に液面上に沿って流れる。このような液面上での空気の流れは、液面上に発生した塩酸ヒュームの泡を鋼板A1から遠ざけ、これら泡がたとえ破裂したとしても、塩酸液Laの飛沫が液面よりも上側の鋼板A1の亜鉛メッキまで到達することもない。
更に、内槽体94の開口縁108には前述したように多数のノッチ110(図7)が形成されているので、これらノッチ110は鋼板A1の端末eが内槽体94内の塩酸液La中に浸漬されたとき、内槽体94内にて、鋼板A1に対して垂直且つ鋼板A1からノッチ110側の向かう塩酸液Laの流れを強制的に生起させる。このような塩酸液Laの流れは塩酸ヒュームの泡が端末eの表面に沿って浮上するのを防止する。この結果、塩酸ヒューの泡の大部分は塩酸液Laとともに内槽体94の開口縁108から中間槽体92に円滑に流出し、この過程にて、泡が破裂して塩酸液Laが飛散するとしても、鋼板A1に向かう塩酸液Laの飛沫を効果的に抑制することができる。
【0060】
一方、中間槽体92から外槽体90内に空気とともに排出された塩酸ヒュームはスクラバー128を通過する際、前述した充填物やタンク132から供給されるアルカリ液により吸収且つ中和されて無害化され、スクラバー128の上部から大気に放出される。
端末eの溶解除去処理が完了するとき、塩酸液処理槽68は下降され、これに伴い、鋼板A1の端末eは塩酸液処理槽68から相対的に引き上げられる。この際にも、前述したエアノズル140からの空気の噴出を継続することで、鋼板A1の引き上げ時にあっても、端末e以外の鋼板A1の亜鉛メッキに塩酸ヒュームが接触したり、また、塩酸液Laの飛沫が付着したりすることはない。
【0061】
塩酸液Laは、亜鉛メッキの溶解時、気泡の発生を抑制、具体的には気泡を微細化する消泡剤を含むことができ、また、この消泡剤に加えて、亜鉛メッキの溶解を促進する一方、鉄の溶解を抑制する添加剤を含むことができる。例えば、消泡剤としては信越化学工業株式会社製のKS604が好適し、そして、添加剤としてはスギムラ化学工業株式会社製のヒビロンZN−20(商品名)が好適する。
【0062】
図9は、消泡剤の有無による塩酸液Laの飛沫高さを比較して示し、図9中の実線は消泡剤有り、破線は消泡剤無しの場合である。図9から明らかなように塩酸液La中に消泡剤が含まれていれば、塩酸液Laの液面から発生する飛沫の高さを抑制することができ、塩酸飛沫に起因して鋼板A1の亜鉛メッキが不所望に腐食されるのを防止することができる。
【0063】
図10は、添加剤の有無による塩酸液Laの亜鉛溶解時間と端末eの処理枚数との関係を示し、図10中の実線は添加剤有り、破線は添加剤無しの場合である。図10から明らかなように塩酸液La中に添加剤が含まれているとき、塩酸液Laは多数の端末eを処理することができる。
更に、図11に示されるように、前述した循環タンク102内には多数の球状の浮子111が収容されており、これら浮子111は塩酸液Laの液面を覆い、塩酸の蒸発を抑制する。なお、浮子111にはピンポン球を利用することができる。
【0064】
塩酸液処理槽68にて、鋼板A1の端末eから亜鉛メッキが溶解除去された後、鋼板A1は前述した中和処理槽70、研削処理槽72及び抜水油槽74に向けて順次相対的に移送され、これらの槽70〜74にて鋼板A1の端末eは更なる処理を受ける。
図12(a),(b),(c)は、中和処理槽70、研削処理槽72及び抜水油槽74をそれぞれ具体的に示している。
【0065】
中和処理槽70はその内部にアルカリ液Lbを回収可能となっており、そして、中和処理槽70の上方に一対のスプレー管141が配置されている。これらスプレー管141は水平方向に所定の間隔を存して離間した状態で、中和処理槽70の長手方向に延び、この長手方向に間隔を存して多数のスプレーノズル143を有する。
各スプレー管141は供給管路145を介して供給タンク147に接続されており、供給管路145にポンプ144が介挿されている。供給タンク147にはアルカリ液Lbが蓄えられており、ここでのアルカリ液Lbは例えば、スギムラ化学工業株式会社製の強アルカリ防錆剤(プレトンNS−300(製品名))を浄水中に所定の割合で添加して得ることができる。
【0066】
一方、中和処理槽70は排水管路を介して排液処理装置149に接続されている。
上述の構成によれば、ポンプ144は供給タンク147内のアルカリ液Lbを一対のスプレー管141に供給し、これらスプレー管141のスプレーノズル143から噴出させることができる。
端末eの亜鉛メッキが溶解除去された鋼板A1が中和処理槽70の上方に相対的に位置付けられたとき、中和処理槽70は上昇され、この上昇により、鋼板A1の端末eは一対のスプレー管141間に位置付けられる。この状態で、各スプレー管141のスプレーノズル143からアルカリ液Lbが端末eの表面に向けて噴出される。
【0067】
端末eに付着した塩酸液Laにアルカリ液Lbがスプレーされた瞬間に塩酸ヒュームが発生するので、これを端末eから離脱させるため、中和処理槽70の両側に吸引配管143aが配置されたおり、この配管143aは排出ライン124(図6)に連結されている。
このようにして噴出されたアルカリ液Lbは端末eに残留した塩酸液Laを中和し、そして、中和処理槽70内に回収された後、中和処理槽70から排液処理装置149に送られる。
【0068】
なお、上述した端末eの中和処理は、端末e自体を中和処理槽70内に蓄えたアルカリ液Lb中に浸漬させることでも可能である。
この後、鋼板A1は中和処理槽70から相対的に引き上げられ、次の研削処理槽72に向けて相対的に移送される。
研削処理槽72はその内部に一対の研削ブラシ146を備え、これら研削ブラシ146は研削処理槽72の長手方向に延びる円筒状をなす。これら研削ブラシ146はそのニップ領域をブラシ面が上方から下方に向けて移動すべく互いに逆向きに回転可能に支持され、ここでのブラシ面は真鍮メッキされた硬鋼線からなる3列の螺旋状ブラシ毛から構成されている。より詳しくは、各研削ブラシ146にて、3列の螺旋状ブラシ毛は研削ブラシ146の周方向に互いに120°ずらして螺旋を描いており、各研削ブラシ146の螺旋ブラシ毛でみたとき、その螺旋の向きは互いに逆向きとなっている。このように各研削ブラシ146が3列の螺旋状ブラシから構成されていれば、鋼板A1の端末eと螺旋状ブラシとの接触点が増加し、端末eに対する研削斑を防止することができる。
【0069】
更に、研削処理槽72は、その天井壁に前述した塩酸液処理槽68と同様な入出口148を有し、この入出口148の上方には左右にシャワー管150がそれぞれ配置されている。これらシャワー管150は入出口148の長手方向に沿って延び、多数の噴射ノズル152を有する。これら噴射ノズル152はシャワー管150の軸線方向に間隔を存して配置され、斜め下方、つまり、入出口148に向けられている。
【0070】
そして、各シャワー管150は供給管路154を介して供給タンク155に接続され、供給管路154の途中にポンプ156が介挿されている。供給タンク155内には浄水又は純水からなる中性液Lcが蓄えられている。それ故、ポンプ156が駆動されると、供給タンク155内の中性液Lcは各シャワー管150に向けて供給され、これらシャワー管150の噴射ノズル152から噴出される。
【0071】
なお、研削処理槽72もまた前述した排液処理装置149に接続されている。
中和処理された鋼板A1が研削処理槽72の上方に相対的に移送されると、鋼板A1は相対的に下降され、その端末eが一対の研削ブラシ146間に位置付けられる。この状態で、前述したように左右のシャワー管150の噴射ノズル152から鋼板A1の両面に中性液Lcから噴射され、噴射された中性液Lcは鋼板A1の両面を伝って端末eに供給され、この後、研削処理槽72に回収される。
【0072】
一方、端末eへの中性液Lcの供給を受けながら、一対の研削ブラシ146はその回転により端末eの両面を研削し、ここでの研削により、端末eに残るアルカリ分及び亜鉛メッキの溶解残滓がそれぞれ除去される。
端末eに対する研削処理が完了すると、鋼板A1は研削処理槽72から相対的に引き上げられ、研削処理槽72の上方にて一時的に待機し、その端末eに付着した中性液Lcの液切りの完了を待って、次の抜水油槽74に向けて相対的に移送される。
【0073】
なお、研削処理槽72に回収された中性液Lcは排液処理装置149に送られ、この排液処理装置149にて前述したアルカリ液Lbとともに処理される。
抜水油槽74はその内部に抜水油Ldを蓄えるともに、一対のエアブロー管158を備え、これらエアブロー管158は抜水油Ldの液面上方に配置されている。これらエアブロー管158は抜水油槽74の長手方向に延び、エアブロー管158間にて、鋼板A1の通過を許容する入出口が形成されている。各エアブロー管158はエアライン160を介してエアコンプレッサ162に接続される一方、その外面に多数のエアノズル164が設けられている。これらエアノズル164はそのエアブロー管158の軸線方向に所定の間隔を存して配置され、斜め下方、つまり、抜水油Ldの液面に向けられている。
【0074】
研削処理された鋼板A1が抜水油槽74の上方に移送されると、鋼板A1は相対的に下降され、その端末eが抜水油Ld中に浸漬される。この後、端末eが抜水油Ldから相対的に引き上げられるとき、除湿装置を備えて、極低露点、高圧エアを供給するエアコンプレッサ162が駆動され、一対のエアブロー管158のエアノズル164から高圧の空気が鋼板A1の両面に向けてそれぞれ噴出される。このような空気の噴出は、鋼板A1の両面に沿い端末eに向けて吹き下ろされる空気流を発生させ、この空気流は、端末eに付着した余剰の抜水油Ldを端末eから吹き飛ばす。その後、防錆油の塗布するためにスプレーガンを設置した防錆処理スペース(図13参考)を通過し、端末eの表面に所望の膜厚を有した防錆油膜を形成する。
【0075】
なお、防錆油膜の膜厚はエアノズル166から噴出される空気の噴出圧を調整することで可変可能である。
上述したように端末eに防錆油Leの油膜が形成されれば、端末eの表面は長期に亘り、錆の発生から保護される。
この後、鋼板A1は前述したロータリホルダ28の回転により反転され、他方の端末eに対して同様な処理が繰り返して実施される。
【0076】
本発明は、上述の一実施例に制約されるものではなく、種々の変形が可能である。
前述した防錆処理スペース75では、亜鉛溶射に対する密着性に優れ且つその粘度が比較的に低い防錆油を塗布してもよく、亜鉛溶射をせずに防錆性に優れた防錆油を塗布してもよい。
この場合、化学的端末処理装置は、図13に示されるように複数、例えば4個のスプレーガン166、167を備えることができる。これらスプレーガン166、167はその一対ずつが水平状態にある鋼板A2の両端末eを挟むように配置され、これら端末eの表面に向け、粘度の高い防錆油を噴霧することで、端末eの幅方向全域に亘って防錆油の油膜を形成する。
【0077】
具体的には、上述したスプレーガン166、167は図1を参照すれば明らかなように、処理セクション4と搬出セクション6との間の鋼板A2の移送経路に配置することができる。
また、一実施例では、端板A1に対してステージユニット38を移送及び昇降させるようにしたが、逆に、ステージユニット38に対して端板A1を移送及び昇降させてもよく、ロータリホルダ28が保持する鋼板A1は1枚又は3枚以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】一実施例の化学的端末処理装置を示す概略図である。
【図2】一実施例の化学的端末処理方法の概略的な流れを示す図である。
【図3】図1中、III-III線に沿う断面図である。
【図4】図3の昇降機構の詳細を示す図である。
【図5】図4の昇降機構の概略平面図である。
【図6】図3の塩酸液処理槽を詳細に示す断面図である。
【図7】図6の内槽体の開口縁の一部を拡大して示す図である。
【図8】図6の吸引口の配列を説明するための図である。
【図9】消泡剤の有無による塩酸液の飛沫高さの相違を示すグラフである。
【図10】添加剤の有無による塩酸液の亜鉛溶解能力差を示すグラフである。
【図11】図6の循環タンク内の浮子を示した図である。
【図12】塩酸液処理槽を除くステージ台上の処理槽を示し、(a)は中和処理槽、(b)は研削処理槽、(c)は抜水油槽をそれぞれ示す。
【図13】防錆油処理ステージでの防錆油の油膜を形成するスプレーガンの配置を示した図である。
【符号の説明】
【0079】
68 塩酸液処理槽(塩酸液槽)
70 中和処理槽
72 研削処理槽
74 抜水油槽
100 供給ライン(循環回路)
102 循環タンク
104 戻りライン(循環回路)
106 循環ポンプ(循環回路)
120 吸引口(吸引排気手段)
40 移送台(移送手段)
42 昇降機構(移送手段)
140 エアノズル(エアブロー手段)
141 スプレー管
146 研削ブラシ
152 噴射ノズル
164 エアノズル(油切り手段)
166 スプレーガン(防錆油膜厚調整)
A1,A2 鋼板(亜鉛メッキ鋼板)
e 端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸液中に亜鉛メッキ鋼板の端末を浸漬し、この際、前記塩酸液の液面から発生する塩酸ヒュームを除湿された極低露点の高圧エアを吹き込みながら、前記亜鉛メッキ鋼板から離隔する方向に吸引して前記端末の亜鉛メッキを溶解除去し、
前記亜鉛メッキが溶解除去された前記端末にアルカリ液を供給し、前記端末に残留する塩酸液を前記アルカリ液で中和すると共に、中和反応初期に発生する塩酸ヒュームを吸引し、
前記中和処理後の前記端末の表面を中性液の供給を受けながら研削し、
中性液の液切り後に抜水油に浸漬して水と油を置換させ、その後防錆油を塗布することを特徴とする亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法。
【請求項2】
前記端末に対する前記溶解除去の開始から除去処理後の端末が前記塩酸液から所定の離間距離まで引き上げられていく間、前記亜鉛メッキ鋼板の外面に沿って前記塩酸液の液面に向かう空気流を、除湿された極低露点の高圧エアを吹き込むことにより生起させることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法。
【請求項3】
前記塩酸液は、前記亜鉛メッキの溶解時、気泡の発生を抑制する消泡剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法。
【請求項4】
前記塩酸液は、亜鉛の溶解を促進し且つ鉄の溶解を抑制する添加剤を更に含むことを特徴とする請求項3に記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法。
【請求項5】
前記研削処理済みの前記端末に対して前記中性液の液切りがなされた後、更に抜水油に浸漬して残余の水を油で置換し、この後前記端末の表面に防錆油の油膜を形成することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理方法。
【請求項6】
塩酸液槽を蓄え、この塩酸槽の塩酸液中に亜鉛メッキ鋼板の端末を浸漬させて、前記端末から亜鉛メッキの溶解除去処理を実施する塩酸処理ステージと、
塩酸液の循環タンクを備え、この循環タンクと前記塩酸液槽との間にて塩酸液を循環させる循環回路と、
前記塩酸液槽内の前記塩酸液中に前記端末が浸漬された際、前記塩酸液の液面中から発生する塩酸ヒュームを除湿された極低露点の高圧エアを吹き込みながら前記亜鉛メッキ鋼板から離隔する方向に吸引し、前記塩酸液槽から排出する吸引排気手段と、
亜鉛メッキが溶解除去された端末にアルカリ液を供給し、前記端末に残留する塩酸液を中和処理すると共に、中和反応初期に発生する塩酸ヒュームを吸引する機構を有する中和処理ステージと、
回転可能な研削ブラシを備え、前記中和処理後の前記端末の表面に中性液を供給しながら前記端末の表面を前記研削ブラシにより研削処理する研削処理ステージと、
抜水油による水と油の置換を行う抜水油ステージと、
防錆油を塗布する防錆処理ステージと、
前記塩酸処理ステージ、前記中和処理ステージ、前記研削処理ステージ、前記抜水油ステージ及び前記防錆処理ステージに対して亜鉛メッキ鋼板を相対的に順次移送し、前記各処理ステージにて前記亜鉛メッキ鋼板の端末に対する前記処理をそれぞれ実施させる移送手段と
を具備したことを特徴とする亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理装置。
【請求項7】
前記塩酸液中への前記端末の浸漬から、この後、前記端末が前記塩酸液槽の液面から所定の位置まで引き上げられていく間、前記亜鉛メッキ鋼板の外面に沿い前記塩酸液の前記液面に向かう空気流を生起させるエアブロー手段を更に具備したことを特徴とする請求項6に記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理装置。
【請求項8】
前記塩酸液槽の前記塩酸液は、前記亜鉛メッキの溶解時、気泡の発生を抑制する消泡剤を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理装置。
【請求項9】
前記塩酸液は、亜鉛の溶解を促進し且つ鉄の溶解を抑制する添加剤を更に含むことを特徴とする請求項8に記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理装置。
【請求項10】
前記移送手段により許容される前記亜鉛メッキ鋼板の移送領域内に配置され、前記研削処理済みの前記端末に対する前記中性液の液切りがなされた後、前記端末を抜水油槽内の抜水油中に浸漬させて水と油との置換を行う抜水油ステージと、前記端末の表面に防錆油の油膜を形成する防錆処理ステージと、
前記油膜の膜厚を調整する調整手段と
を更に具備したことを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理装置。
【請求項11】
前記移送手段により許容される前記亜鉛メッキ鋼板の移送領域内に配置され、前記研削処理済みの前記端末に対する前記中性液の液切りと抜水油による水と油の置換が行われた後、前記端末に複数のスプレーガンから防錆油を噴霧し、前記端末の表面に防錆油の油膜を形成する防錆処理ステージを更に具備したことを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載の亜鉛メッキ鋼板の化学的端末処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−160643(P2009−160643A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2997(P2008−2997)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(000233675)日鐵ドラム株式会社 (12)