説明

亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接方法、亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップの再生方法及び亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップ

【課題】電極チップ9・11の変形部分や磨耗部分を研磨除去することなく正規形状に整形して電極チップ9・11の抵抗溶接寿命が短くなるのを防止し、電極チップ9・11の交換頻度及び抵抗溶接コストを低減する。電極チップ9・11の先端部を正規形状に整形する際には、先端部の強度を高めて抵抗溶接時の変形度合を抑制すると共に安定化したヒートバランスで亜鉛メッキ鋼板相互を抵抗溶接する。
【解決手段】銅又はクロム−銅合金製からなる一対の電極チップ9・11間に亜鉛メッキ鋼板を所要の圧力で挟持した状態で抵抗溶接して先端面に亜鉛−銅合金被膜を形成した電極チップ9・11により亜鉛メッキ鋼板を抵抗溶接し、抵抗溶接による先端面の銅−亜鉛合金被膜上に形成される亜鉛−鉄合金被膜が所要の膜厚以上になった際に、上記各電極チップ9・11の先端部を電極チップ再生具33により成形して亜鉛−鉄合金被膜を微小膜厚になるように調整した後、亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接を継続する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板に圧接した状態で印加される電流により相互を溶着する亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接方法、亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップの再生方法及び亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップに関する。
【背景技術】
【0002】
電気抵抗溶接に使用する電極チップは、耐熱性、導電性に優れた銅又はクロム銅により軸状で、先端部が截頭円錐形状に形成される。そして重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板に対して銅又はクロム銅製の電極チップを圧接した状態で電流を印加して電気抵抗溶接する場合、亜鉛メッキ鋼板に比べて電極チップ自体、塑性変形性が高いため、上記圧接により電極チップの先端面が押し潰されたり、磨耗したりして凹凸状に変形し、亜鉛メッキ鋼板に対する圧接力を一定にすることが困難になると共に亜鉛メッキ鋼板に対して電流を均一に印加することが困難になる問題を有している。
【0003】
また、電極チップの先端面には、重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板に対して印加される電流による電気抵抗熱(ジュール熱)によりメッキされた亜鉛や基材としての鉄が溶融して付着したり、電気抵抗熱により蒸気化した亜鉛分子や鉄分子が付着したりすることにより合金被膜が形成され、亜鉛メッキ鋼板に対する電気抵抗が増大したり、電極チップからの放熱が低減して抵抗溶接時のヒートバランスを不安定化したりして亜鉛メッキ鋼板間に高品質の溶接ナゲットを形成することが困難になり、溶接不良を招く問題を有している。
【0004】
即ち、電極チップの先端面が押し潰されて変形した場合にあっては、亜鉛メッキ鋼板に対する圧接面積が変化して加圧力が変化して所要の圧力で挟持することが困難になると共に重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板相互間に通電される単位面積当たりの電流が減少して亜鉛メッキ鋼板相互に所要の電気抵抗熱を発生させて高品質の溶接ナゲットを形成して抵抗溶接することが困難になる問題を有している。
【0005】
また、電極チップの先端面に亜鉛分子や鉄分子の合金被膜が形成された場合にあっては、銅に比べて亜鉛や鉄の電気抵抗が大きいため、亜鉛メッキ鋼板相互間に通電される電流が減少し、亜鉛メッキ鋼板相互間に所要の電気抵抗熱を発生させることが困難になると共に亜鉛メッキ鋼板間で発生する電気抵抗熱に対して電極チップから放熱される熱容量が低下してヒートバランスが不安定化して亜鉛メッキ鋼板間に均一な溶接ナゲットを形成することが困難になる問題を有している。
【0006】
このため、抵抗溶接の回数が所要回数に達して電極チップの先端面が変形や磨耗したり、また、先端面に形成される合金被膜が所要の膜厚以上になった場合には、特許文献1に示す再生装置により電極チップの先端部を研磨して変形や磨耗した電極チップを正規形状に整形したり、また先端面に形成された合金被膜を研磨除去して再生している。
【0007】
しかし、特許文献1に示す再生装置で電極チップの変形部分や磨耗部分を研磨除去して正規形状に整形すると、整形作業毎に電極チップ自体が短くなって抵抗溶接寿命が短くなり、その結果、電極チップの交換頻度が高くなって抵抗溶接コストが増大する問題を有している。また、先端面に形成された合金被膜が完全に除去されると、電極チップ先端部の強度が低下して塑性変形し易くなり、先端部が変形したり、磨耗したり易くなり、整形作業回数が増大することにより抵抗溶接作業の中断時間が長くなって抵抗溶接作業効率が悪くなる問題を有している。
【0008】
また、上記のように電極チップを再生して使用する場合、電極チップの再生前と再生後では、亜鉛メッキ鋼板に対する電極チップの加圧力及び印加される電流値が大きく異なるため、抵抗溶接時に亜鉛メッキ鋼板間に形成される溶接ナゲット品質が大きく異なり、亜鉛メッキ鋼板相互を均一な品質で抵抗溶接できない問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−94217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、電極チップの変形部分や磨耗部分を研磨除去して正規形状に整形すると、整形作業毎に電極チップ自体が短くなって抵抗溶接寿命が短くなり、その結果、電極チップの交換頻度が高くなって抵抗溶接コストが増大する点にある。また、先端面に形成された合金被膜が完全に研磨除去されると、電極チップ先端部の強度が低下して塑性変形し易くなり、先端部が変形したり、磨耗したりする頻度が高くなると共に抵抗溶接時に発生する熱量に対して電極チップを介して放熱する熱量が多くなって形成される溶接ナゲットが小さくなって溶接今日が低下する点にある。更に、電極チップ再生前と再生後では、抵抗溶接品質が大きく異なる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は、銅又はクロム-銅合金製からなる一対の電極チップ間に亜鉛メッキ鋼板を所要の圧力で挟持した状態で電極チップに抵抗溶接電流を印加して各電極チップの先端面に亜鉛-銅合金被膜を形成する亜鉛-銅合金被膜形成工程と、各電極チップの先端部に相対する形状の内周面及び先端面に相対する形状の底部を有し、上記内周面に外周面整形突部が底部に向かって傾斜しながら延出形成されると共に底部に先端面整形突部が放射方向へ延出形成される整形室を有した電極チップ再生具を回転し、各整形室内に突入された各電極チップの先端部外周面及び先端面を正規形状に整形すると共に先端面に形成された銅−亜鉛合金被膜を所要の膜厚に調整する銅−亜鉛合金被膜厚調整工程と、亜鉛−銅合金被膜の膜厚が調整された一対の電極チップにより重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板を所要の圧力で挟持した状態で印加された電流により抵抗溶接する抵抗溶接工程と、上記抵抗溶接工程による重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接の繰り返しにより各電極チップにおける先端面の銅−亜鉛合金被膜上に形成されて堆積される亜鉛−鉄合金被膜が所要の膜厚以上又は合金被膜面が凹凸状になる前に対応する所定の抵抗溶接作業回数に達した際に、上記各電極チップの先端部を回転する電極チップ再生具の整形室内に突入して各電極チップの先端部外周面を正規形状に整形すると共に銅−亜鉛合金被膜上に形成された亜鉛−鉄合金被膜が微小膜厚になるように調整する亜鉛−鉄合金被膜厚調整工程と、上記亜鉛−鉄合金被膜厚調整工程による亜鉛−鉄合金被膜の調整後に抵抗溶接工程に戻って亜鉛メック鋼板の抵抗溶接を継続することを特徴とする。
【0012】
請求項3は、重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板を、先端面に所要膜厚の銅−亜鉛合金被膜が予め形成された一対の電極チップにより所要の圧力で挟持した状態で印加される電流により抵抗溶接する亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップにあって、亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接により電極チップの先端面における銅−亜鉛合金被膜上に亜鉛−鉄合金被膜が所定の膜厚以上で形成された際又は合金被膜面が凹凸状になる前に対応する所定の抵抗溶接作業回数に達した際に、電極チップの先端部に相対する形状の内周面及び先端面に相対する形状の底部を有し、上記内周面に外周面整形突部が底部に向かって傾斜しながら延出形成されると共に底部に先端面整形突部が放射方向へ延出形成される整形室を有して回転される電極チップ再生具の整形室内に先端面の銅−亜鉛合金被膜上に亜鉛−鉄合金被膜が形成された電極チップを所要の圧力で突入して先端部を外周面整形部により正規形状に成形すると共に先端面に形成された亜鉛−鉄合金被膜を先端面整形突部により切削して微小膜厚になるように調整することを特徴とする。
【0013】
請求項5は、先端部が截頭円錐形状で、銅又はクロム含有合金銅製の電極チップにあって、先端面には、銅−亜鉛合金被膜を所要の膜厚で予め形成すると共に、該、銅−亜鉛合金被膜には、亜鉛−鉄合金被膜が微小膜厚で形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、電極チップの変形部分や磨耗部分を研磨除去することなく正規形状に整形して電極チップの抵抗溶接寿命が短くなるのを防止し、電極チップの交換頻度及び抵抗溶接コストを低減することができる。また、電極チップの先端部を正規形状に整形する際には、少なくとも銅―亜鉛合金被膜を残した状態で整形することにより先端部の強度を高めて抵抗溶接時の変形度合を抑制して亜鉛メッキ鋼板に印加される電流を均一化すると共にヒートバランスを安定化して亜鉛メッキ鋼板相互を高品質に抵抗溶接することができる。更に、電極チップの再生前後における抵抗溶接品質のばらつきを最小限にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】抵抗溶接用電極チップが取付けられる溶接ガン及び電極チップ再生装置の概略を示す斜視図である。
【図2】電極チップ再生装置を一部省略して示す略体斜視図である。
【図3】電極チップ再生具の概略を示す斜視図である。
【図4】電極チップ再生具の平面図である。
【図5】図4のA−A線縦断面図である。
【図6】電極チップの再生方法を示す工程図である。
【図7】銅−亜鉛合金被膜形成工程により形成される銅−亜鉛合金被膜の形成状態を示す説明図である。
【図8】銅−亜鉛合金被膜厚調整工程により調整された電極チップ先端部の説明図である。
【図9】抵抗溶接が所要の回数に達した際の亜鉛−鉄合金被膜の形成状態を示す説明図である。
【図10】亜鉛−鉄合金被膜厚調整工程により調整された電極チップ先端部の説明図である。
【図11】電極チップ再生具による亜鉛−鉄合金被膜の調整状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、銅又はクロム-銅合金製からなる一対の電極チップ間に亜鉛メッキ鋼板を所要の圧力で挟持した状態で抵抗溶接して先端面に亜鉛-銅合金被膜を形成した電極チップにより亜鉛メッキ鋼板を抵抗溶接し、抵抗溶接による先端面の銅−亜鉛合金被膜上に形成される亜鉛−鉄合金被膜が所要の膜厚以上になった際に、上記各電極チップの先端部を電極チップ再生具により成形して亜鉛−鉄合金被膜を除去または微小膜厚になるように調整した後、亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接を継続することを最良の形態とする。
【実施例】
【0017】
以下に実施形態を示す図に従って本発明を説明する。
先ず、抵抗溶接用電極チップが取付けられる溶接ガンの概略を説明すると、図1に示すように、例えば多関節型抵抗溶接機(溶接ロボット)のアーム(何れも図示せず)先端部には溶接ガン1が取付けられる。溶接ガン1のフレーム3には一対の取付けアーム5・7が適宜の間隔をおいて相対して移動可能に設けられる。そして各取付けアーム5・7には、先端部に電極チップ9・11が交換可能にそれぞれ取付けられる取付け軸13・15が軸線を一致させて相対するように設けられている。
【0018】
これら電極チップ9・11は、例えば一方の取付けアーム5/7に連結されたエアーシリンダーや送りネジ機構に連結されたサーボモータ等の作動部材(図示せず)により、互いに近づく方向及び遠ざかる方向へ移動制御される。各電極チップ9・11は、電気抵抗が低く、耐熱性に優れ、かつ塑性変形し易い銅や銅合金(クロム銅)等で、所要の軸線長さで、先端部が所要の外径で、先端に向かって徐々に小径化して先端面が湾曲面になる截頭円錐形状に形成される。
【0019】
次に、例えば溶接ガン1の移動原点位置(待機位置)に配置される電極チップ再生装置17を説明すると、図2に示すように電極チップ再生装置17は、溶接ガン1の移動原点位置に配置され、溶接ガン1に装着された電極チップ9・11を装着状態で正規形状に整形して再生する。
【0020】
上記電極チップ再生装置17の本体19には、上下方向に軸線を有し、水平方向に所定の間隔をおいた2本のガイド軸21に可動フレーム23が上下方向へ移動するように支持される。該可動フレーム23は、各ガイド軸21に装着された圧縮ばね等の弾性部材25の弾性力によりガイド軸21の軸線方向中間部に位置するように弾性的に支持される。
【0021】
上記可動フレーム23の一方側面には、サーボモータ等の数値制御可能な電動モータ27の回転軸に固定されたハイポイド・ピニオン29が設けられる。また、可動フレーム23の他方側面には、水平方向へ延出し、後述する電極チップ再生具33が挿入される貫通孔(図示せず)が形成された支持盤31の基端部が固定される。
【0022】
上記支持盤31の上面には、ハイポイド・ピニオン29が噛合わされるハイポイド・ギャ35が貫通孔を中心に回転するように支持される。また、ハイポイド・ギャ35の中心部に設けられたボス35aには、電極チップ再生具33が挿嵌される軸線直交方向断面が六角形の内周面を有した支持孔35bが形成される。ハイポイド・ピニオン29が噛合うハイポイド・ギャ35が取付けられた支持盤31には、該支持盤31にほぼ一致する大きさのカバー37が、ハイポイド・ピニオン29及びハイポイド・ギャ35を覆うように固定される。
【0023】
なお、電極チップ再生具33は、ボス35aの支持孔35bに挿嵌された状態でカバー37に固定される固定板(図示せず)により抜け止めされて固定される。また、電極チップ再生具33を回転する機構としてハイポイド機構を示したが、本発明においては、これに限定されるものではなく、ピニオンギャ機構等であってもよいことは、勿論である。
【0024】
次に、電極チップ9・11を正規の形状に整形して再生する電極チップ再生具33を説明すると、図3〜図5に示すように、電極チップ再生具33は、超硬合金(高速度鋼)やセラミックス等からなり、本実施例においては六角柱形状に形成される。そして電極チップ再生具33の上部及び下部には、相対する電極チップ9・11が進入して正規の形状に整形される整形室43・45が上下対称に形成される。
【0025】
整形室43・45は、進入する電極チップ9・11の先端部側が進入できる大きさのカップ状に形成され、各整形室43・45の外周側には、底部47・49を連通して軸線方向へ延びる、例えば3個の逃し穴51が周方向へほぼ等しい間隔をおいて形成される。
【0026】
各逃し孔51間に位置する整形室43・45の内周面から底部47・49には、電極チップ9・11における先端部外周面の変形部分に圧接して先端面側へ押延ばす3個の外周面整形突部53・55が形成される。
【0027】
各外周面整形突部53・55は、所要の高さで、かつ電極チップ再生具33の回転方向に対してスパイラル曲線状に湾曲で、整形室43・45の中心軸線上に想定される中心点からの各曲率半径が、電極チップ再生具33の回転方向下手から上手に向かって順に大きくなるように形成される。
【0028】
各底部47・49には、電極チップ9・11の先端面に圧接して押延ばす先端面整形突部57・59が形成される。該先端面整形突部57・59は電極チップ再生具33の中心軸線から若干偏心した位置に中心を有し、所要の高さで電極チップ9・11の先端面幅より若干長く、平面がS字形に形成される。また、先端面整形突部57・59の長手直交方向両側に応じた底部47・49には対応する箇所の逃し穴51に連続する凹部(図示せず)が形成される。
【0029】
なお、電極チップ再生具33の詳細については、本出願人の出願に係る特開2010-188366号公報に記載されているため、詳細な説明を省略する。
【0030】
次に、電極チップ再生方法に付いて説明すると、図6に示すように、先ず、取付け軸13・15に未使用の電極チップ9・11をセットした後、抵抗溶接される重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板(図示せず)の上面及び下面にそれぞれの電極チップ9・11を所要の間隔をおいて相対させる。抵抗溶接される亜鉛メッキ鋼板は、鉄(Fe)を主成分とする鋼板で、その表面に亜鉛(Zn)が所要の膜厚でメッキ処理される。それぞれの溶融点は、鉄が約1500℃、亜鉛が約420度である。亜鉛メッキ鋼板は、使用される用途により鋼板及び亜鉛メッキ層の厚さが多種多様である。
【0031】
銅−亜鉛合金被膜厚形成工程
上記重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板の表面に対してそれぞれの電極チップ9・11が所要の圧力で圧接させた状態で、後述する抵抗溶接工程より低い値の電流を印加して抵抗溶接して試打させる。亜鉛メッキ鋼板の表面に対する抵抗溶接個所を異ならせながら抵抗溶接の試打作業を所定回数(約200〜300回)、繰り返すと、この作業により抵抗溶接時の熱により鉄に比べて溶融温度が低い亜鉛が溶融したり、蒸気化したりして電極チップ9・11の先端面に亜鉛分子が付着して銅−亜鉛合金被膜を形成する。(図7参照)
【0032】
銅−亜鉛合金被膜厚調整工程
上記作業に電極チップ9・11の先端面に形成される銅-亜鉛合金被膜は、上記先端面に対する合金被膜の形成状態が不均一で、先端面が凹凸状であったり、膜厚が一定でない。このため、溶接ロボットのアームを移動制御して重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板から電極チップ9・11を離脱させた後に電極チップ再生装置17に装着された電極チップ再生具33における各整形室43・45内に進入させる。
【0033】
上記状態にて電動モータ27を駆動して電極チップ再生具33を所要の方向へ回転させると共に各整形室43・45内に対して各電極チップ9・11を所要の圧力で加圧し、回転する電極チップ再生具33における外周面整形突部53・55により各電極チップ9・11の先端部及び先端面を正規の形状に整形すると共に先端面に形成された余分の銅-亜鉛合金被膜を先端面整形突部57・59によりその合金被膜が所要の膜厚(例えば5〜30μm)になるように調整する。
【0034】
電極チップ9・11の先端面に銅−亜鉛合金被膜を形成することにより電極チップ9・11の先端部強度を高めると共に抵抗溶接時に亜鉛メッキ鋼板間に発生する抵抗溶接熱の熱量と電極チップ9・11から放熱される熱量のバランスを安定化して両者間にある程度の大きさからなる溶接ナゲットを形成して溶接虚度を確保することを可能にする。(図8、図10参照)
【0035】
抵抗溶接工程
次に、溶接ロボットのアームを移動制御し、抵抗溶接しようとする重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板の表裏面に対し、上記整形工程により先端面に亜鉛-銅合金被膜が所要の膜厚になるように調整されたそれぞれの電極チップ9・11を相対させた後、各電極チップ9・11により重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板を所要の圧力で挟持した状態で所要値の電流を印加して重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板を抵抗溶接する。
【0036】
上記抵抗溶接時においては、亜鉛メッキ鋼板に対する電極チップ9・11の圧接により電極チップ9・11の先端部が変形したり、磨耗したりする。また、抵抗溶接時の熱により溶融した亜鉛や鉄が電極チップ9・11の先端面に形成された銅-亜鉛合金被膜上に直接付着したり、蒸気化して亜鉛-鉄合金被膜を形成して堆積される。(図9参照)
【0037】
亜鉛-鉄合金被膜厚調整工程
上記抵抗溶接作業が継続されると、亜鉛メッキ鋼板に対する電極チップ9・11の加圧により先端部が押し潰されたり、先端面に被覆形成された銅-亜鉛合金被膜上に堆積される亜鉛-鉄合金被膜により先端面が凹凸状になり、亜鉛メッキ鋼板に対する電極チップ9・11の加圧力及び印加される電流が不均一化して形成される溶接ナゲット品質が低下する。
【0038】
このため、電極チップ9・11の先端面に堆積される亜鉛-鉄合金被膜面が凹凸状になる前で、かつ先端部が変形したり、磨耗したり、また先端面に形成された銅-亜鉛合金被膜上に堆積された亜鉛-鉄合金被膜の膜厚(約80μm)が一定以上になる前の抵抗溶接作業が所定の回数に達した際に、抵抗溶接作業を一時的に中断した後、溶接ロボットのアームを移動制御して重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板から電極チップ9・11を離脱させた後に、電極チップ再生装置17に装着された電極チップ再生具33における各整形室43・45内に対して電極チップ9・11を進入させる。
【0039】
上記状態にて電動モータ27を駆動して電極チップ再生具33を所要の方向へ回転させると共に各整形室43・45内に対して各電極チップ9・11を所要の圧力で加圧し、回転する電極チップ再生具33における外周面整形突部53・55により各電極チップ9・11の先端部の外周面を押し延ばして正規の形状に整形すると共に先端面整形突部57・59により先端面を押し延ばしながら堆積した亜鉛−鉄合金被膜を、該膜厚が約20μmになるように切削除去して整形する。(図10、図11参照)
【0040】
なお、上記工程においては、電極チップ9・11の先端面に形成された銅−亜鉛被膜合金も押圧変形させられるが、該銅−亜鉛合金被膜は、膜厚5〜10μm程度で残るように調整する必要がある。
【0041】
抵抗溶接におけるヒートバランスを考慮した場合には、電極チップ9・11に先端面に堆積した亜鉛−鉄合金被膜を完全に除去すると電極チップ9・11における先端部の強度が低下して塑性変形し易くなったり、ヒートバランスが悪くなって溶接ナゲット品質が悪くなって溶接強度が低下する。このため、電極チップ9・11の先端面に対して亜鉛−鉄合金被膜が微小膜厚で残存するように整形する必要がある。
【0042】
上記亜鉛-鉄合金被膜調整工程を終了した後に抵抗溶接工程に移って抵抗溶接作業を実行し、抵抗溶接回数が所定回数に達した際には、上記亜鉛-鉄合金被膜整形工程に移って電極チップ9・11の整形作業を行う。
【0043】
なお、銅−亜鉛合金被膜厚調整工程で調整される銅−亜鉛合金被膜及び亜鉛-鉄合金被膜厚調整工程で調整される亜鉛−鉄合金被膜の各膜厚は、本来、数値管理されるのが望ましい。しかし、本発明が抵抗溶接対象とする亜鉛メッキ鋼板自体、亜鉛メッキ層、鋼板の厚さが使用用途に応じて多種多様であるため、数値管理することが事実上、困難である。上記説明においては「所要の膜厚」として説明したが、実際には、各工程において電極チップ再生具33の回転回数により膜厚を管理するのが望ましい。
【0044】
即ち、銅−亜鉛合金被膜厚調整工程においては、電極チップ9・11の先端に銅−亜鉛合金被膜を形成する際に抵抗溶接の打数を、例えば100回とした場合には、電極チップ再生具33の回転回数を10回転として銅−亜鉛合金被膜の膜厚を管理する。
【0045】
本実施例は、電極チップ9・11の先端面に予め銅―亜鉛合金被膜を形成することにより電極チップ9・11自体の強度を高めて変形、磨耗し難くすることができる。また、抵抗溶接時には、電極チップ9・11の先端面に予め形成された銅−亜鉛合金被膜上に堆積形成される亜鉛−鉄合金被膜が、その被膜表面が凹凸状になる前の段階で電極チップ再生具33により亜鉛−鉄合金被膜が微小膜厚になるように調整することにより抵抗溶接時におけるヒートバランスを安定化して亜鉛メッキ鋼板間に良好な溶接ナゲットを形成して高い強度で溶接することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 溶接ガン
3 フレーム
5・7 取付けアーム
9・11 電極チップ
13・15 取付け軸
17 電極チップ再生装置
19 本体
21 ガイド軸
23 可動フレーム
25 弾性部材
27 電動モータ
29 ハイボイド・ピニオン
31 支持盤
33 電極チップ再生具
35 ハイボイド・ギャ
35a ボス
35b 支持孔
37 カバー
43・45 整形室
47・49 底部
51 逃し孔
53・55 外周面整形突部
57・59 先端面整形突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又はクロム-銅合金製からなる一対の電極チップ間に亜鉛メッキ鋼板を所要の圧力で挟持した状態で電極チップに抵抗溶接電流を印加して各電極チップの先端面に亜鉛-銅合金被膜を形成する亜鉛-銅合金被膜形成工程と、
各電極チップの先端部に相対する形状の内周面及び先端面に相対する形状の底部を有し、上記内周面に外周面整形突部が底部に向かって傾斜しながら延出形成されると共に底部に先端面整形突部が放射方向へ延出形成される整形室を有した電極チップ再生具を回転し、各整形室内に突入された各電極チップの先端部外周面及び先端面を正規形状に整形すると共に先端面に形成された銅−亜鉛合金被膜を所要の膜厚に調整する銅−亜鉛合金被膜厚調整工程と、
亜鉛−銅合金被膜の膜厚が調整された一対の電極チップにより重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板を所要の圧力で挟持した状態で印加された電流により抵抗溶接する抵抗溶接工程と、
上記抵抗溶接工程による重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接の繰り返しにより各電極チップにおける先端面の銅−亜鉛合金被膜上に形成されて堆積される亜鉛−鉄合金被膜が所要の膜厚以上又は合金被膜面が凹凸状になる前に対応する所定の抵抗溶接作業回数に達した際に、上記各電極チップの先端部を回転する電極チップ再生具の整形室内に突入して各電極チップの先端部外周面を正規形状に整形すると共に銅−亜鉛合金被膜上に形成された亜鉛−鉄合金被膜が微小膜厚になるように調整する亜鉛−鉄合金被膜厚調整工程と、
上記亜鉛−鉄合金被膜厚調整工程による亜鉛−鉄合金被膜の調整後に抵抗溶接工程に戻って亜鉛メック鋼板の抵抗溶接を継続する亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接方法。
【請求項2】
請求項1において、銅−亜鉛合金被膜厚調整工程及び亜鉛−鉄合金被膜厚調整工程で使用する電極チップ再生具は、一対の整形室を同一軸線状に対称状に設けた亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接方法。
【請求項3】
重ね合わされた亜鉛メッキ鋼板を、先端面に所要膜厚の銅−亜鉛合金被膜が予め形成された一対の電極チップにより所要の圧力で挟持した状態で印加される電流により抵抗溶接する亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップにあって、
亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接により電極チップの先端面における銅−亜鉛合金被膜上に亜鉛−鉄合金被膜が所定の膜厚以上で形成された際又は合金被膜面が凹凸状になる前に対応する所定の抵抗溶接作業回数に達した際に、
電極チップの先端部に相対する形状の内周面及び先端面に相対する形状の底部を有し、上記内周面に外周面整形突部が底部に向かって傾斜しながら延出形成されると共に底部に先端面整形突部が放射方向へ延出形成される整形室を有して回転される電極チップ再生具の整形室内に先端面の銅−亜鉛合金被膜上に亜鉛−鉄合金被膜が形成された電極チップを所要の圧力で突入して先端部を外周面整形部により正規形状に成形すると共に先端面に形成された亜鉛−鉄合金被膜を先端面整形突部により切削して微小膜厚になるように調整する亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップの再生方法。
【請求項4】
請求項3において、電極チップ再生具は、一対の整形室を同一軸線状に対称状に設けた亜鉛メッキ鋼板の抵抗溶接方法。
【請求項5】
先端部が截頭円錐形状で、銅又はクロム含有合金銅製の電極チップにあって、
先端面には、銅−亜鉛合金被膜を所要の膜厚で予め形成すると共に、
該、銅−亜鉛合金被膜には、亜鉛−鉄合金被膜が微小膜厚で形成された亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップ。
【請求項6】
請求項5において、先端面に形成された銅−亜鉛合金被膜には、亜鉛−鉄合金被膜が微小膜厚で形成された亜鉛メッキ鋼板抵抗溶接用電極チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−71329(P2012−71329A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218075(P2010−218075)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(306034790)有限会社TNE (5)
【出願人】(510259644)株式会社T&T (1)
【出願人】(510259688)テクノ柳生株式会社 (1)