説明

交差点無停止走行制御方法

【課題】
「交差点無停止走行制御システム」において、車両に提示された走行条件と実際の走行状態との乖離への最適対応方法の提案。
【解決手段】
特定地点Pにおいて、交差点Aを無停止で通過するための走行条件の提示を受けた車両は、地点P通過後の経過時間Δt 、走行距離ΔDを計数しつつ走行し、前記経過時間Δt が一定時間T経過毎に走行状態の確認を行い、
現走行状態が今後許容最高走行速度Vmax をもってしても当初に想定した交差点A青信号期間内での交差点Aへの到達が不可能な状態と判定した場合は、当初に想定した交差点A青信号期間に代えて当初に想定した交差点A青信号期間の次の青信号期間に交差点Aに到達するよう更新された推奨走行速度の算出を行い、前記更新された推奨走行速度で交差点Aに向けて走行を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点無停止走行制御システム(あるいは信号同期速度制御システム)において、特定地点通過時車両に提示された走行条件への車両側の対応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の交差点赤信号による停止頻度の低減によって車両の排出ガス量・燃料消費量を大幅に削減する事を目的とした、「交差点無停止走行制御システム」(あるいは「信号同期速度制御システム」)が提案されている。
【0003】
これは交差点にいたる道路上交差点から一定距離上流の特定地点において、交差点の信号状態情報、前記距離情報、および前記特定地点から交差点までの間の許容最高走行速度情報、から車両が交差点を青信号・無停止で通過するための特定地点から交差点までの走行条件即ち推奨走行所要時間 topt および/あるいは推奨走行速度 vopt を算出し、前記算出された推奨走行所要時間 topt および/あるいは推奨走行速度 vopt に基づいて車両を特定地点−交差点間走行させ交差点の青信号・無停止での通過を可能にするものである(特許文献1、特許文献2、特許文献3、非特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特許第3859663
【特許文献2】特願2006−356940
【特許文献3】特開2006−292553
【非特許文献1】省エネルギーセンター 平成6年度「インテリジェント自動車交通と省エネルギー効果」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願特許は上記特定地点を通過する車両に提示された走行条件に対し実際の車両の走行状態が何らかの理由で大幅にずれてしまったときの対処方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願特許の基本的考え方を図1図2図3を用いて説明する。
但し図1は、交差点無停止走行制御方法の基本的考え方説明図、
図2は、交差点無停止走行制御システムにおいて走行条件を提示された後何らかの理由で走行条件がずれてしまった場合のその修正に関する基本的考え方説明図、
図3は、交差点無停止走行制御システムにおいて走行条件を提示された後何らかの理由で走行条件が大幅にずれてしまった場合への対処方法に関する基本的考え方説明図、
である。
【0007】
交差点無停止走行制御システムの基本は、特定地点Pを交差点1周期Tp の間に通過して交差点Aに向かう全車両を交差点Aの青信号期間Tg の間に交差点Aを通過させることによって交差点無停止走行を実現するものである。
【0008】
即ち図1において、
交差点Aから距離D上流にある地点Pを時刻 t1p 〜 t2p の交差点Aの1信号周期Tp の間に通過する車両C0、C1、C2、・・・Cn を時刻 t2a 〜 t3a の交差点A青信号期間Tgの間に交差点Aを通過するよう地点Pにおいて車両C0、C1、C2、・・・Cn 個々に走行条件を提示し、車両C0、C1、C2、・・・Cn は提示された走行条件で交差点Aまで走行して交差点Aを無停止で通過する。
【0009】
ただし、車両は提示された走行条件どおりに走行できるものではない。そのための方策として例えば、
車両は地点P通過時に地点P路側装置から地点P−交差点A間推奨走行所要時間topt 情報、地点P−交差点A間走行距離D情報、地点P−交差点A間許容最高走行速度Vmax 情報を得て、さらに車両側で車両の地点P通過後の経過時間Δt 、および地点P通過後の走行距離ΔD を計数しつつ走行し、前記経過時間Δt が一定時間T経過毎に、(数1)より更新された推奨走行速度 voptt を算出し、その算出・更新された推奨走行速度 voptt を表示装置に表示あるいは車両に設けられたクルーズコントロール装置の設定速度として入力し、交差点Aに向けて走行する。
【0010】
(数1)
voptt =(D−ΔD)/(topt − Δt )≦ Vmax
【0011】
ここで、
voptt : 更新された推奨走行速度、
D:地点P−交差点A間走行距離、
ΔD:地点P通過後の車両走行距離、
topt :推奨走行所要時間、
Δt :地点P通過後の経過時間、
Vmax : 地点P−交差点A間許容最高走行速度、
である。
【0012】
車両の走行状態が走行中に地点Pにおいて提示された走行条件からずれてもずれた結果の車両位置が図1の時刻 t3p − t3a の左側にある場合は(数1)の更新された推奨走行速度 voptt によって修正可能である。
即ちこの場合は最悪時でも以後許容最高走行速度Vmax での走行で当初予定していた交差点Aの青信号期間内に交差点Aに到着できる。
【0013】
例えば、図2において、当初時刻 t2a に交差点Aに到着すべき車両C0 の走行がずれて走行途中でQの状態に至ってしまっても、その時点に算出される更新された推奨走行速度 voptt に即して走行して交差点Aに時刻 t2a に到着することが可能である。
【0014】
また、図2において、車両C1 の走行がずれて、走行途中図2Rの状態になったとしても、Rの状態から当初の交差点A到着予定時刻 ta1 に向けての走行はその時点で算出される更新された走行速度 voptt は許容最高走行速度 Vmax 以上となるため不可能であるが、その時点から許容最高走行速度Vmax で交差点Aに向かい交差点Aを時刻 t2a 〜 t3a の間に通過することは可能である。
【0015】
しかし、車両C2 の走行状態が、地点Pで提示された走行条件から大幅にずれて走行途中図3の状態Sに示す如く地点Pにおける時刻t3p と交差点A における時刻 t3a を結ぶ線より右側に来てしまった場合は、当初の交差点Aへの到着目標時刻である時刻 ta2 に向けての走行は勿論、交差点青信号滅灯時刻 t3a に向けての走行も許容最高走行速度 Vmax を超えてしまうことから不可能になる。
【0016】
この場合の対処方法として、時刻t3a 〜 t4a の間に交差点Aに到着して信号待ちをすることも、このような状況は極まれにしか起こりえないことであることから、許容されるとも想われるが、できればこの車両も次の青信号点灯時刻 t4a 以降に交差点Aに到着して交差点Aを青信号無停止で通過させることが「交差点無停止走行制御システム」の目的から言っても望ましい。
【0017】
そのためには地点P通過時点に地点P路側装置から従来の地点P−交差点A間推奨走行所要時間topt 情報、地点P−交差点A間走行距離D情報、地点P−交差点A間許容最高走行速度Vmax 情報、にくわえて車両の地点P通過時刻(図3の車両C2 の場合は時刻 tp2 )、時刻 t3p 、t2a 、t3a、t4a 情報を得て、前記(数1)の演算の前に(数2)の演算を行い、現時刻 t が(数2)の関係を満たさない時は従来どおり(数1)の演算結果を、満たした時は(数3)の演算結果を、各々更新された推奨走行速度として用いる。
【0018】
(数2)
t > tp3 +( ta3 − tp3 )・(ΔD/D)= tp3 +(ΔD/Vmax)
【0019】
(数3)
voptt =(D−ΔD)/(topt' − Δt )
=(D−ΔD)/{(t4a − tp )− Δt } ≦ Vmax
【0020】
ここで、
t :現時刻、
ta3 : 交差点A青信号滅灯時刻、
tp3 : 地点Pを本時刻に通過した車両は走行速度Vmax で交差点Aに向い交差点Aを時刻 t3a の青信号滅灯時刻すれすれで通過する。
(tp3 = ta3 − D/Vmax )
topt':新たに設定された推奨走行所要時間、
(topt'=t4a − tp )
t4a : 時刻 t3a において青信号滅灯後最初の青信号点灯時刻、
tp2 : 車両の地点P通過時刻、
(図3における本例の場合の車両はC2 とする、したがって tp = tp2 )、
その他の符号は(数1)に同じ、
である。
(数3)において新たに設定された推奨走行所要時間 topt' として(t4a − tp ) を用いたのは、交差点A到着時刻として当初地点P通過時に提供された推奨走行所要時間 topt での交差点A到着予定時刻 ta2 に代えて、交差点A到着予定時刻を t4a としたことによる。
【0021】
上記の如く更新された推奨走行速度 voptt を演算してその結果を用いて交差点Aまでの間を走行することによって、走行途中地点Pにおいて提示された走行条件からずれても、交差点Aを無停止で通過できることになる。
【発明の効果】
【0022】
本願特許によって、特定地点P通過後交差点Aに向かう車両の走行が地点P通過時に提示された走行条件から大きくずれても交差点Aを青信号無停止で通過することができるようになり、「交差点無停止走行システム」の制御精度が大きく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本願特許の交差点無停止走行制御システムにおいては、地点P通過後の走行距離ΔD情報の精度が問題となる。一般的にΔDは車両のプロペラシャフト回転数に比例したパルス出力(自車速パルス)を時間積分して計数するが、この自車速パルスを較正して正しいΔDが得られるようにしておくことが肝要である。
【0024】
また、更新された走行速度 voptt への対応策として、更新された走行速度 voptt を車側表示装置に表示させてドライバーがそれに従って走行する方法がもっとも簡易であるが、できれば更新された走行速度 voptt をクルーズコントロール装置の設定速度として自動入力し、車両が自動的に更新された推奨走行速度 voptt で走行できることがドライバーの負荷削減策として望ましい。
【実施例1】
【0025】
図4に、地点Pに設置される本願特許による「交差点無停止走行制御システム」の路側装置構成例を、また図5に本願特許による「交差点無停止走行制御システム」の路側装置構成例を、各々示す。
【0026】
図4において、
41は、地点P−交差点A間距離D 情報、交差点P−交差点A間許容最高速度Vmax 情報を予め記憶すると共に、交差点A信号機時刻と一致しての時刻を刻む時計機能を有し、また交差点A信号機の状態情報即ち青信号滅灯時刻 t1a、青信号点灯時刻 t2a 、青信号滅灯時刻 t3a 、青信号点灯時刻 t4a および信号周期Tp 、青信号点灯期間Tg 情報を入力・推定し、
地点P−交差点A間推奨走行所要時間 topt を演算する路側記憶・演算装置、
但し、上記地点P−交差点A間推奨走行所要時間 topt の算出方法については前記特許文献に記載しているのでここでは省略する。
【0027】
42は、路側記憶・演算装置41から、地点P−交差点A間推奨走行所要時間 topt 情報、地点P−交差点A間走行距離D情報、地点P−交差点A間許容最高走行速度Vmax 情報、現時刻情報(即ち車両の地点P通過時刻情報)、時刻 t3p 、t2a 、t3a、t4a 情報を車両に送信する路車間通信路側装置、
【0028】
図5において、
51は、路車間通信路側装置42から送られる地点P−交差点A間推奨走行所要時間 topt 情報、地点P−交差点A間走行距離D情報、地点P−交差点A間許容最高走行速度Vmax 情報、現時刻情報(即ち車両の地点P通過時刻情報)、時刻 t3p 、t2a 、t3a、t4a 情報を受信する路車間通信車側装置、
【0029】
52は、路車間通信車側装置51が受信した前記各種情報、および車両が地点P通過後の経過時間Δt 、および車両が地点P通過後の走行距離ΔD、を計数し前記経過時間が一定時間T経過毎に、前記(数1)、(数2)、(数3)を用いて演算し更新された推奨走行速度 voptt 情報を得る車側演算装置、
【0030】
ただし前記車側演算装置52における地点P通過後の走行距離ΔDは、車両のプロペラシャフト回転数に比例して出力される自車速パルス数を時間積分して計数する。
【0031】
53は、車側演算装置出力である更新された推奨走行速度 voptt を入力して表示出力する車側表示装置である。また本更新された推奨走行速度 voptt は、クルーズコントロール装置(図示せず)にその設定出力として入力され、車両を設定速度で走行させる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
上記の如く構成・動作させることによって、本願特許による「交差点無停止走行制御システム」は、地点P通過後例えその走行状態が地点P通過時に提示された走行条件からずれても可能な限り提示された走行条件に近づくように、また提示された走行条件に近づくことが無理の場合は「交差点無停止走行システム」の本来趣旨に沿って適宜に走行条件を修正して、交差点無停止走行を行うことができ、したがってその目的である排出ガス量・燃料消費量削減を計ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】交差点無停止走行制御方法の基本的考え方説明図、
【図2】交差点無停止走行制御方法における本願発明の基本的考え方説明図その1、
【図3】交差点無停止走行制御方法における本願発明の基本的考え方説明図その2、
【図4】本願発明による「交差点無停止走行制御システム」路側装置構成例、
【図5】本願発明による「交差点無停止走行制御システム」車側装置構成例、 である。
【符号の説明】
【0034】
図1、図2、図3において、
D:地点P−交差点A間車両走行距離、
Vmax : 地点P−交差点A間許容最高走行速度、
ta1 : 交差点A青信号滅灯時刻、
ta2 : 交差点A青信号点灯時刻、
ta3 : 交差点A青信号滅灯時刻、
ta4 : 交差点A青信号点灯時刻、
【0035】
t3a − t1a =t3p − t1p =Tp :交差点A信号周期、
t3a − t2a =t3p − t2p =Tg :交差点A青信号期間、
tp3 : 地点Pを本時刻に通過した車両は走行速度Vmax で交差点Aに向い交差点Aを時刻 t3a の青信号滅灯時刻すれすれで通過する。
(tp3 =ta3 − D/Vmax)
【0036】
C0、C1、C2、・・・、Cn :時刻 t1p t3p の間に地点Pを通過する車両群、
t1p、tp1、tp2、・・・、tpn :車両C0、C1、C2、・・・、Cn が各々地点Pを通過する時刻、
ta2、ta1、ta2、・・・、tan :車両C0、C1、C2、・・・、Cn が各々交差点Aに到着予定時刻、
【0037】
Q : 車両C0 の走行状態修正ポイント、
R : 車両C1 の走行状態修正ポイント、
S : 車両C2 の走行状態修正ポイント、
である。
【0038】
図4において、
41:路側記憶・演算装置、
42:路車間通信路側装置、
【0039】
図5において、
51:路車間通信車側装置、
52:車側演算装置、
53:車側表示装置、
である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定地点Pにおいて、交差点Aを無停止で通過するための走行条件の提示を受けた車両は、地点P通過後の経過時間Δt 、走行距離ΔD、を計数しつつ走行し、前記経過時間Δt が一定時間T経過毎に走行状態の確認を行い、
現状態が今後許容最高走行速度Vmax をもってしても当初の地点P通過時に想定した交差点A青信号期間内での交差点Aへの到達が不可能と判定した場合は、地点P通過時に想定した交差点Aの青信号期間の次の青信号期間に交差点Aに到達するよう更新された推奨走行速度の算出を行うことを特徴とする交差点無停止走行制御方法。
【請求項2】
特定地点Pにおいて、交差点Aを無停止で通過するための走行条件の提示を受けた車両は、地点P通過後の経過時間Δt 、走行距離ΔDを計数しつつ走行し、前記経過時間Δt が一定時間T経過毎に(数A)の関係を用いて現時刻の判定を行い、
現時刻 t が(数A)の関係を満足しない場合は(数B)を用いて、また現時刻 t が(数A)の関係を満足したときには(数C)を用いて、各々更新された走行速度 voptt を算出することを特徴とする交差点無停止走行制御方法。
(数A)
t > tp3 +(ΔD/Vmax)
(数B)
voptt =(D−ΔD)/(topt − Δt )≦ Vmax
(数C)
voptt =(D−ΔD)/(topt' − Δt )≦ Vmax
ここで、
t :現時刻、
tp3 : 地点Pを本時刻に通過した車両は走行速度Vmax で交差点Aに向い交差点Aを時刻 t3a の青信号滅灯時刻に通過する。
(tp3 = ta3 − D/Vmax )
ta3 : 交差点A青信号滅灯時刻、
D:地点P−交差点A間走行距離、
ΔD:地点P通過後の車両走行距離、
Vmax : 地点P−交差点A間許容最高走行速度、
voptt : 更新された推奨走行速度、
topt :推奨走行所要時間、
Δt :地点P通過後の経過時間、
topt':新たに設定された推奨走行所要時間、
(topt'=t4a − tp )
t4a : 時刻 t3a において青信号滅灯後最初の青信号点灯時刻、
tp : 車両の地点P通過時刻、
である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−217296(P2008−217296A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52362(P2007−52362)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(301001199)
【Fターム(参考)】