説明

交通信号制御装置

【課題】 リアルタイムかつ円滑な信号制御が可能な自立分散処理型の交通信号制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る交通信号制御装置は、基準隣接交差点に対応する青時間秒数Gaと、自己の交差点に対応する青時間秒数Gbの青時間差Δに基づいて相対オフセット制約条件を算出する。そして、青時間開始予定時刻のずれTと、算出された相対オフセット制約条件に基づいて最適解探索範囲を決定し、最適解を探索し、自己の交差点に対応する青時間秒数を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通信号制御装置に関し、特に現在から未来の交通状況の変動を予測し信号タイミングの自動調整を行なう交通信号制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、信号制御パラメータ(サイクル、スプリット、オフセット)を中央処理装置により算出し、信号灯器の制御を行なう交通信号制御装置(以下、単に信号制御装置とも称する)が知られている。
【0003】
このような交通信号制御装置は、いわゆる1つの管制センター等の中央処理装置で集中して、信号制御を行なう集中制御方式と呼ばれるものである。これに対して、個々の交通信号制御装置各々が独立して信号制御を実行する方式を分散制御方式という。
【0004】
分散制御方式において、個々の信号制御装置が完全に独立して信号制御を行なおうとすると隣接する信号制御装置のオフセットすなわち青信号の点灯タイミングが一時的に反転もしくは不安定になってしてしまい、渋滞を招く恐れが懸念される。
【0005】
そのため、現在では、集中制御方式が一般的な交通制御方式として採用されている。
【0006】
集中制御方式においては、1つの中央処理装置に基づく信号制御により、包括的に各信号灯器を制御することができるため、全体を統括し、管理することが可能であるというメリットがある。特開平05−166094号公報において集中制御方式を用いた交通信号制御装置に関する開示がなされている。
【特許文献1】特開平05−166094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、集中制御方式に従う交通制御は、中央処理装置での負荷が集中するという問題がある。
【0008】
また、道路事情は、道路状況や時間帯等それぞれ同条件ではないため個別に信号制御装置を制御したい場合に集中制御方式では対応することが非常に難しいという問題がある。一方で、近年等の交通量の増加および交差点形状の複雑化に伴い、時々刻々と変化するような道路状況においては、集中制御方式のように周期的にタイミング制御を実行するのではなく、リアルタイムなタイミング制御を実行したいという要望もある。
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって分散制御方式において、リアルタイムかつ円滑な信号制御が可能な自立分散処理型の交通信号制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る交通信号制御装置は、道路に設けられた信号灯器の信号タイミングを制御する交通信号制御装置であって、外部から入力される隣接する少なくとも1つの他の信号灯器の青信号情報と、信号灯器の青信号情報とに基づいてオフセット制約条件を算出する、算出手段と、信号灯器を隣接する他の少なくとも1つの信号灯器に対して独立的に制御する制御手段とを備え、制御手段は、現在から未来の交通状況の変動を予測し、算出手段により算出されたオフセット制約条件にしたがって、信号制御パラメータの最適化を行なう最適化手段を含む。
【0011】
好ましくは、算出手段は、信号灯器および他の信号灯器の一方および他方の青時間期間について、青時間期間の差を考慮し、一方側から他方側に向かう車両について他方の青時間期間が理想的に有効に使われるとともに、他方側から一方側に向かう車両について一方の青時間期間を理想的に有効に使えるようにオフセット制約条件を設定する。
【0012】
特に、算出手段は、他の信号灯器の青時間タイミングを基準として、第1のタイミングから第2のタイミングまでの間をオフセット制約条件に設定し、他の信号灯器の青時間期間が信号灯器の青時間期間以上の場合には、第1のタイミングは、系統速度の車両が他の信号灯器と信号灯器との間を通過する第1の所定期間前に設定され、第2のタイミングは、他の信号灯器の青時間期間および第1の所定期間を合わせた期間から信号灯器の青時間期間を差し引いた期間後と、発進波の車両が他の信号灯器と信号灯器との間を通過する第2の所定期間後とのいずれか早い方に設定され、他の信号灯器の青時間期間が信号灯器の青時間期間より短い場合には、第1のタイミングは、系統速度の車両が他の信号灯器と信号灯器との間を通過する第1の所定期間前と、他の信号灯器の青時間期間から信号灯器の青時間期間および第1の所定期間を合わせた期間を差し引いた期間前とのいずれか遅い方に設定され、第2のタイミングは、第1の所定期間後に設定される。
【0013】
好ましくは、複数個の交通信号制御装置が設けられ、複数個のうちの1つの交通信号制御装置は、交通管理の上で重要と指定される交差点である重要交差点に対応して上流側に設けられ、他の交通信号制御装置は、重要な交差点を上流側とした際の下流側の交差点に対応して設けられ、オフセット許容範囲は、上流側に位置する交通信号制御装置から下流側に位置する交通信号制御装置へと順番に設定される。
【0014】
特に、道路に設けられる複数の交差点は、複数のエリアに分割され、各エリア毎に複数個の交通信号制御装置の各々は、自律分散処理を実行する。
【0015】
好ましくは、最適化手段は、算出手段により算出されたオフセット制約条件にしたがって、遅れ時間および停止回数を最小とする最適解探索により信号制御パラメータの最適化を行なう。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る交通信号制御装置は、他の信号灯器と独立して制御され、最適化手段において、算出手段により算出されたオフセット制約条件にしたがって、信号制御パラメータの最適化を行なう。従って、他の信号灯器を制御する信号制御装置のオフセットすなわち青信号の点灯タイミングが一時的に反転もしくは不安定になってしまうということは生じることがなく、また、他の交通信号制御装置と独立して制御される分散制御方式を採用することにより、時々刻々と変化するような道路状況においてもリアルタイムなタイミング制御を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰返さない。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に従う交通システムの概念図である。
【0019】
図1に示されるように、本例においては、一例として、道路事情等によって区分けされた複数のサブエリアが示されている。複数のサブエリアは、複数の交差点を有している。また、各エリアには、1つの重要な交差点である重要交差点が含まれている。
【0020】
ここで、重要交差点とは、サブエリア内の道路において、交通管理の上で重要と指定される交差点を指すものとする。そして、本例においては、重要交差点を上流側すなわち基準として他の交差点に設けられたすなわち下流側の信号制御が実行されるものとする。なお、本実施例においては、サブエリア領域毎に、分散制御方式に従う自律分散処理型の交通制御が実行されるものとする。
【0021】
図2は、サブエリアをより詳細に説明する図である。
【0022】
図2を参照して、重要交差点は、たとえば主要幹線道路が互いに交差する地点の交差点である場合が考えられる。あるいは、道路の地形状等、交通渋滞が生じやすい地点の交差点を重要交差点とすることも可能である。交通量を鑑みて、経験則上、道路交通上最も渋滞を緩和する必要があるような交差点を重要交差点とすることも可能である。サブエリアにおけるそれ以外の交差点は、一般の交差点とする。
【0023】
図3は、交差点間における信号情報の流れを説明する図である。
【0024】
図3に示されるように、本実施の形態においては、隣接する交差点に対応する信号制御装置間でお互いに信号制御パラメータを含む信号制御情報を交換する。すなわち、各交差点に対応する信号制御装置は、隣接する交差点に対応する信号制御装置から入力される信号制御情報を受信して、隣接する交差点に対して最適な信号タイミングとなるように自己の装置内で計算し、各々が自律すなわち独立して制御するすなわち分散制御方式を採用している。なお、図示しないが、本実施の形態に従う信号制御装置は、以下に述べる相対オフセット制約条件を算出する算出手段と、最適な信号タイミングとなるように最適解探索により最適解を計算する最適化手段とを含む。具体的には、最適化手段は、遅れ時間、信号停止回数等を最小とする最適解探索を実行する。
【0025】
以下においては、分散制御方式において、その最適な信号制御を実行する際に用いることが可能な本実施の形態に従う相対オフセット制約条件について説明する。
【0026】
一例として、図3に示される重要交差点TB(以下、単に交差点TBとも称する)の信号制御装置と、一般交差点TA(以下、単に交差点TAとも称する)に対応する信号制御装置における相対オフセット制約条件について説明する。
【0027】
本実施の形態に従う相対オフセット制約条件は、次式として表すことができる。
【0028】
【数1】

【0029】
なお、ここで、系統速度Vとは、道路状態が良好である場合における車両の予定される走行速度である。また、発進波速度とは、交差点において赤信号において待ち行列が形成されている場合、交差点において赤信号から青信号に変わって先頭の車両が発進してから順番に上流の車が発進するのを擬似的に波に例え、その波が下流から上流に遡って伝播していく速度を発進波速度と称している。
【0030】
この上式をまとめると次式となる。
【0031】
【数2】

【0032】
図4を用いて、本実施の形態に従う相対オフセット制約条件について具体的に説明する。相対オフセット制約条件は、交差点TA−TB(リンク)間に存在する車両を円滑に通過させることが可能な条件いいかえるならば下流側の交差点における遅れを増大させないようにするための制約範囲を規定したものである。
【0033】
本例においては、交差点TA側からTB側に向かう車両について、その逆の交差点TB側からTA側に向かう車両について分けて説明する。
【0034】
図4(a)〜(c)は、交差点TB側の青時間秒数Gbを有効に利用できる場合について、交差点TA側の青時間開始タイミングの制約条件を説明する図である。
【0035】
図4(a)は、交差点TAの青時間開始タイミングを早めることが可能な状態を説明する図である。この場合には、交差点TA側から交差点TB側に向かう車両について、交差点TBの青時間秒数Gbが理想的に有効に使われる場合を考える。なお、この場合には、交差点TAおよびTBの青時間秒数は、Gb≦Gaであるものとする。
【0036】
この場合には、交差点TAの青時間Gaがほぼ終了する同じタイミングで通過した車両について考えると、交差点TBに到達した際に、まだ交差点TBの青時間Gbが余っているなら、交差点TAから車両は来ないと考えられるにもかかわらず無駄に青時間秒数Gbが経過することになり、青時間秒数Gbが理想的に有効に使われない。したがって、交差点TBの青時間秒数Gbが理想的に有効に使われるためには、交差点TAの青時間開始タイミングから時間Ga+L/V−Gb経過前に交差点TBの青時間が始まることが望ましい。逆に考えると、交差点TBの青時間開始タイミングから時間Gb−L/V−Ga以降に交差点TAの青時間が始まることが望ましい。
【0037】
これが、交差点TA側から交差点TB側に向かう車両について、Gb≦Gaである場合に、交差点TAの青時間を早く開始できるタイミングである。
【0038】
図4(b)は、交差点TAの青時間開始タイミングを早めることが可能な状態を説明する図である。この場合には、交差点TA側から交差点TB側に向かう車両について、交差点TBの青時間秒数Gbが理想的に有効に使われる場合を考える。なお、この場合には、交差点TAおよびTBの青時間秒数は、Gb>Gaであるものとする。
【0039】
この場合には、交差点TAの青時間開始タイミングで通過した車両について考えると、交差点TBに到達した際に、まだ交差点TBがまだ青時間になっていなければ、交差点TAから走行してきた車両は、交差点TBが青時間になるまで停泊する可能性が生じる。そうすると、青時間秒数Gbを理想的に有効に使えない場合となる。したがって、青時間秒数Gbを理想的に有効に使うためには、交差点TAの青時間開始タイミングからL/V経過した場合には、交差点TBが青時間であることが望ましい。逆に考えると、交差点TBの青時間開始タイミングから時間−L/V以降に交差点TAの青時間が始まることが望ましい。
【0040】
これが、交差点TA側から交差点TB側に向かう車両について、Gb>Gaである場合に、交差点TAの青時間を早く開始できるタイミングである。
【0041】
図4(c)は、交差点TAの青時間開始タイミングを遅くすることが可能な状態を説明する図である。この場合には、交差点TBの青時間秒数Gbが理想的に有効に使われる場合を考える。仮に、交差点TA−TB(リンク)間が渋滞している場合に、交差点TBの青時間開始タイミングから車両が発進波で進んだ場合に、交差点TAに到達した場合よりも後に交差点TAの青時間開始タイミングが始まるとすれば、交差点TBに無駄な青時間が発生することになり、青時間秒数Gbが理想的に有効に使われない。したがって、交差点TBの青時間秒数Gbが理想的に有効に使われるためには、交差点TBの青時間開始タイミングから時間L/Wが経過前に交差点TAの青時間が始まることが望ましい。
【0042】
これが、交差点TBの青時間を有効に利用する上での交差点TAの青時間について、最も遅く青時間を遅らせることができるタイミングである。
【0043】
図4(d)〜(f)は、交差点TA側の青時間秒数Gaを有効に利用できる場合について、交差点TA側の青時間開始タイミングの制約条件を説明する図である。
【0044】
図4(d)は、交差点TAの青時間開始タイミングを早くすることが可能な状態を説明する図である。この場合には、交差点TAの青時間秒数Gaが理想的に有効に使われる場合を考える。仮に、交差点TA−TB(リンク)間が渋滞している場合に、交差点TAの青時間開始タイミングから車両が発進波で進んだ場合に、交差点TBに到達した場合よりも後に交差点TBの青時間開始タイミングが始まるとすれば、交差点TAに無駄な青時間が発生することになり、青時間秒数Gaが理想的に有効に使われない。したがって、交差点TAの青時間秒数Gaが理想的に有効に使われるためには、交差点TAの青時間開始タイミングから時間L/Wが経過前に交差点TBの青時間が始まることが望ましい。逆に考えると、交差点TBの青時間開始タイミングから時間−L/W以降に交差点TAの青時間が始まることが望ましい。
【0045】
これが、交差点TAの青時間を有効に利用する上での交差点TAの青時間について最も早く青時間を始めることができるタイミングである。
【0046】
図4(e)は、交差点TAの青時間開始タイミングを遅らせることが可能な状態を説明する図である。この場合には、交差点TB側から交差点TA側に向かう車両について、交差点TAの青時間秒数Gaが理想的に有効に使われる場合を考える。なお、この場合には、交差点TBおよびTAの青時間秒数は、Gb≦Gaであるものとする。
【0047】
この場合には、交差点TBの青時間開始タイミングで通過した車両について考えると、交差点TAに到達した際に、まだ交差点TAがまだ青時間になっていなければ、交差点TBから走行してきた車両は、交差点TAが青時間になるまで停泊する可能性が生じる。そうすると、青時間秒数Gaを理想的に有効に使えない場合となる。したがって、青時間秒数Gaを理想的に有効に使うためには、交差点TBの青時間開始タイミングからL/V経過するよりも前には、交差点TAが青時間であることが望ましい。
【0048】
これが、交差点TB側から交差点TA側に向かう車両について、Gb≦Gaである場合に、交差点TAの青時間を遅く開始できるタイミングである。
【0049】
図4(f)は、交差点TAの青時間開始タイミングを遅くすることが可能な状態を説明する図である。この場合には、交差点TB側から交差点TA側に向かう車両について、交差点TAの青時間秒数Gaが理想的に有効に使われる場合を考える。なお、この場合には、交差点TBおよびTAの青時間秒数は、Gb>Gaであるものとする。
【0050】
この場合には、交差点TBの青時間Gbがほぼ終了する同じタイミングで通過した車両について考えると、交差点TAに到達した際に、まだ交差点TAの青時間秒数Gaが余っているなら、交差点TBから車両は来ないと考えられるにもかかわらず無駄に青時間秒数Gaが経過することになり、青時間秒数Gaが理想的に有効に使われない。したがって、交差点TAの青時間秒数Gaが理想的に有効に使われるためには、交差点TBの青時間開始タイミングから時間Gb−L/V−Ga経過前に交差点TAの青時間が始まることが望ましい。
【0051】
これが、交差点TB側から交差点TA側に向かう車両について、Gb>Gaである場合に、交差点TAの青時間を遅く開始できるタイミングである。
【0052】
図5は、上記の相対オフセット制約条件をまとめた図である。
【0053】
交差点TAから交差点TBに車両が進行する場合において、交差点TAの青時間開始タイミングについて、交差点TBの青時間を理想的に有効に利用する上で最も早く青時間開始タイミングを出せるのは、Ga≧Gbの場合においては、交差点TAの最終通過車両が交差点TBを通過できるタイミングすなわち−(L/V+Ga−Gb)である。Ga<Gbの場合、交差点TAの先頭通過車両が交差点TBを通過できるタイミング−(L/V)である。
【0054】
一方、交差点TBの青時間を理想的に有効に利用する上で最も遅く交差点TAの青時間開始タイミングを出せるのは、待ち行列がリンクに滞留し、交差点TBからの発進波が上流の交差点TAに到達するタイミングであるL/Wである。
【0055】
逆に、交差点TBから交差点TAに車両が進行する場合において、交差点TAの青時間開始タイミングについて、交差点TAの青時間を理想的に有効に利用する上で最も早く青時間開始タイミングを出せるのは、待ち行列がリンクに滞留し、交差点TAからの発進波が上流の交差点TBに到達するタイミングである−(L/W)である。
【0056】
一方、交差点TAの青時間を理想的に有効に利用する上で最も遅く交差点TAの青時間開始タイミングを出せるのは、Ga≦Gbの場合においては、交差点TBの最終通過車両が交差点TAを通過できるタイミングすなわちL/V+Ga−Gbである。Ga>Gbの場合、交差点TBの先頭通過車両が交差点TAを通過できるタイミングL/Vである。
【0057】
この上記のAND条件が最終の制約条件となる。
【0058】
この図5の結果に基づいて相対オフセット制約条件が定められ、この条件に基づいて最適化手段により遅れ時間、停止回数等を最小とする最適解探索により信号制御情報が定められる。
【0059】
すなわち、本発明の実施の形態に従う相対オフセット制約条件は、交差点TAおよびTBの青時間秒数を比較して、一方から他方への進行車両に対して他方の青時間秒数が理想的に有効に使われるとともに、他方から一方への進行車両に対して一方の青時間秒数が理想的に有効に使われる場合を条件としたものである。
【0060】
図6は、本発明の実施の形態に従う最適解探索処理の流れを説明するフローチャート図である。本例においては、信号制御装置において、現在あるいは直近の青時間の秒数の延長あるいは短縮を決める際の最適解探索処理条件について説明する。なお、本例においては、最適解探索処理方式としては、一例としてローリングホライゾン方式を用いることが可能であるものとする。その詳細については、特開20001−134893号公報に示されている。ローリングホライゾン方式は、未来の予測交通変動状況に応じて信号制御プランを数秒毎に動的に最適化する。ローリングホライゾン方式はオペレーションリサーチの分野で採用されている将来の状況が不確実な状況下における最適化手法である。その特徴は、現在から数分先の限られた最適化範囲内(ホライゾン)の状況予測に基づいて遅れ時間、停止回数等が最小となるような最適化を実行する。また、最適化計算を数秒(本例においては6秒)毎に実行することである。すなわち、新たに収集された交通情報に基づいて最適化範囲(ホライゾン)をシフト(ローリング)しながら随時最適解を更新するものである。
【0061】
図6を参照して、処理を開始し(ステップSP0)、自己の次の交通信号制御装置の青時間開始予定時刻と、基準となる隣接交差点(以下、単に基準隣接交差点とも称する)に対応する交通信号制御装置の次の青時間開始予定時刻のずれTを算出する(ステップSP1)。ここで、自己の交通信号制御装置の次の青時間開始予定時刻とは、現在あるいは直近が青時間である場合に、次の青時間開始予定時刻である。そして、基準交差点に対応する交通信号制御装置の青時間開始予定時刻とは、自己の次の青時間開始予定時刻に対応する基準隣接交差点の次の青時間開始予定時刻である。この青時間開始予定時刻は、現在あるいは直近の青時間終了後、基準値となる所定の赤時間が経過した時刻である。
【0062】
本実施の形態においては、最適解探索として自己の次の青時間開始予定時刻が相対オフセット制約条件を満たすように、現在あるいは直近の青時間秒数について、延長あるいは短縮して青時間秒数の最適な解を探索するものである。
【0063】
次に、交差点(リンク)間距離Lと、系統速度Vより相対オフセット制約条件Oを算出する(ステップSP2)。
【0064】
次に、基準隣接交差点の青時間秒数Gaと自己の青時間秒数Gbの青時間差Δを算出する(ステップSP3)。ここで、基準隣接交差点の青時間秒数Gaは、基準隣接交差点から入力された次の青時間開始予定時刻から開始される青時間秒数である。そして、自己の青時間秒数Gbは、基準となる所定の青時間秒数が用いられる。
【0065】
次に、Δ≧0かどうかが判定される(ステップSP4)。
【0066】
ステップSP4において、Δ≧0の場合には、ステップSP6に進む。一方、Δ<0の場合には、ステップSP5に進む。
【0067】
ステップSP4において、Δ≧0の場合には、図4で説明した方式および図5に従って、相対青時間差Δと、系統速度V、発進波速度Wより相対オフセット制約条件の上限を補正する(ステップSP6)。
【0068】
一方、ステップSP4において、Δ<0の場合には、図4で説明した方式および図5に従って、相対青時間差Δと、系統速度V、発進波速度Wより相対オフセット制約条件の下限を補正する(ステップSP5)。
【0069】
そして、次の青時間開始予定時刻のずれTと、算出された相対オフセット制約条件に基づいて今回の青時間における最適解を探索する範囲が決定される(ステップSP7)。具体的には、今回の最適解探索により求める青時間により青時間開始予定時刻のずれTが、相対オフセット制約条件を満たすことを条件として最適解探索範囲が決定される。
【0070】
そして、決定された最適解探索範囲内において、いわゆる最適解探索が実行され青時間秒数が決定される。これにより、この青時間秒数の決定により、次の青時間開始予定時刻は、相対オフセット制約条件を満たすことになる。したがって、本実施の形態に従う信号制御装置により、分散制御方式を採用する場合においても、隣接する信号制御装置のオフセットすなわち青信号の点灯タイミングが一時的に反転もしくは不安定になってしまうということは生じることなく常に適切な点灯タイミングとなるとともに、分散制御方式を採用することにより、時々刻々と変化するような道路状況においてもリアルタイムなタイミング制御を実行することができる。
【0071】
次に、決定した信号制御パラメータを含む信号制御情報を隣接交差点に送信する(ステップSP9)。これによって処理を終了する(ステップSP10)。
【0072】
この一連の処理である信号制御について、重要交差点に対応する信号制御装置を上流側とした際の下流側の交差点に対応する信号制御装置へと順番に実行することにより、図7に示されるように常にオフセット許容範囲内における信号制御が実行され、オフセットすなわち青信号の点灯タイミングが一時的に反転もしくは不安定になってしまうことなく、円滑な交通状態を最大限確保することができる。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態に従う交通システムの概念図である。
【図2】サブエリアをより詳細に説明する図である。
【図3】交差点間における信号情報の流れを説明する図である。
【図4】本実施の形態に従う相対オフセット制約条件について具体的に説明する図である。
【図5】相対オフセット制約条件をまとめた図である。
【図6】本発明の実施の形態に従う最適解探索処理の流れを説明するフローチャート図である。
【図7】重要交差点に対応する信号制御装置を上流側とした際の下流側の交差点に対応する信号制御装置の信号制御を説明する図である。
【符号の説明】
【0075】
A〜C,TA,TB 交差点、Ga,Gb 青時間秒数、SP0〜SP10 ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路に設けられた信号灯器の信号タイミングを制御する交通信号制御装置であって、
外部から入力される隣接する少なくとも1つの他の信号灯器の青信号情報と、前記信号灯器の青信号情報とに基づいてオフセット制約条件を算出する、算出手段と、
前記信号灯器を前記隣接する他の少なくとも1つの信号灯器に対して独立的に制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、現在から未来の交通状況の変動を予測し、前記算出手段により算出されたオフセット制約条件にしたがって、信号制御パラメータの最適化を行なう最適化手段を含む、交通信号制御装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記信号灯器および前記他の信号灯器の一方および他方の青時間期間について、青時間期間の差を考慮し、一方側から他方側に向かう車両について他方の青時間期間が理想的に有効に使われるとともに、他方側から一方側に向かう車両について一方の青時間期間を理想的に有効に使えるように前記オフセット制約条件を設定する、請求項1の交通信号制御装置。
【請求項3】
前記算出手段は、
前記他の信号灯器の青時間タイミングを基準として、第1のタイミングから第2のタイミングまでの間を前記オフセット制約条件に設定し、
前記他の信号灯器の青時間期間が前記信号灯器の青時間期間以上の場合には、前記第1のタイミングは、系統速度の車両が前記他の信号灯器と前記信号灯器との間を通過する第1の所定期間前に設定され、前記第2のタイミングは、前記他の信号灯器の前記青時間期間および前記第1の所定期間を合わせた期間から前記信号灯器の青時間期間を差し引いた期間後と、発進波の車両が前記他の信号灯器と前記信号灯器との間を通過する第2の所定期間後とのいずれか早い方に設定され、
前記他の信号灯器の青時間期間が前記信号灯器の青時間期間より短い場合には、前記第1のタイミングは、系統速度の車両が前記他の信号灯器と前記信号灯器との間を通過する第1の所定期間前と、前記他の信号灯器の前記青時間期間から前記信号灯器の青時間期間および前記第1の所定期間を合わせた期間を差し引いた期間前とのいずれか遅い方に設定され、前記第2のタイミングは、前記第1の所定期間後に設定される、請求項2記載の交通信号制御装置。
【請求項4】
複数個の前記交通信号制御装置が設けられ、
前記複数個のうちの1つの交通信号制御装置は、交通管理の上で重要と指定される交差点である重要交差点に対応して上流側に設けられ、他の交通信号制御装置は、前記重要な交差点を上流側とした際の下流側の交差点に対応して設けられ、前記オフセット許容範囲は、前記上流側に位置する交通信号制御装置から下流側に位置する交通信号制御装置へと順番に設定される、請求項1記載の交通信号制御装置。
【請求項5】
道路に設けられる複数の交差点は、複数のエリアに分割され、
各前記エリア毎に前記複数個の前記交通信号制御装置の各々は、自律分散処理を実行する、請求項4記載の交通信号制御装置。
【請求項6】
前記最適化手段は、前記算出手段により算出されたオフセット制約条件にしたがって、遅れ時間および停止回数を最小とする最適解探索により信号制御パラメータの最適化を行なう、請求項1記載の交通信号制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−119753(P2006−119753A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304707(P2004−304707)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】