説明

交通評価装置、コンピュータプログラム及び交通評価方法

【課題】実際に計測された交通状態量との対比を正しく行うことができる交通状態量の評価値を求めることができる交通評価装置、コンピュータプログラム及び交通評価方法を提供する。
【解決手段】交通シミュレータ100は、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部11、リンク渋滞長の推定値を補正する渋滞長補正部12、補正車両を生成する補正車両生成部13、交通状態量の推定値を算出する交通状態量推定部14、所要の交通状況をシミュレーションして交通状態量を評価するための評価条件を設定する評価条件設定部15、交通状態量の実測値及び評価条件を設定する前後における交通状態量の推定値に基づいて交通状態量の評価値を算出する評価値算出部16、所定の情報を記憶する記憶部20などを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を出力する交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交通規制等による影響を事前に評価する手段として交通シミュレータへの期待が高まっており、様々な技術開発が行われている。このような交通シミュレータは、入力データとして、車両の走行の起点及び終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を求めたもので、例えば、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
【0003】
交通シミュレータの目的は、例えば、工事、事故又は災害などによる交通規制、道路の新設、交差点の改良などの交通環境変化後の影響、早期に交通情報を車両へ提供した場合の効果、交通信号制御の調整などの交通対策による効果等を事前に評価又は推定することである。そして、交通シミュレータは、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、単独交差点、路線及び市街地などの道路網におけるリンク断面交通量、リンク渋滞長、旅行時間、あるいは排ガスに含まれる二酸化炭素等の環境指標などの交通状態量を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。
【0004】
具体的には、交通シミュレータは、入力されたOD交通量をもとに、道路網の各リンクでの発生交通量(リンクに流入する交通量)及び消滅交通量(リンクから流出する交通量)を求める。そして、交通シミュレータは、各リンクにおいて発生交通量に相当する台数の車両を発生させるとともに、消滅交通量に相当する台数の車両を消滅させて交通状態量などを求める。
【0005】
例えば、特定の区間について、区間の両端に設けた車両感知器から得られる特定車両の旅行時間と時系列に得られる車両感知器データを用いて、時間軸上のデータを空間軸上のデータに投影することにより、渋滞長を求める方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−161686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実際の道路網を想定して交通状態量を再現する場合、従来の交通シミュレータにあっては、車両の走行速度、加速減速特性及びOD交通量などの入力データは、実際の交通情報と一致するように設定されるべきである。しかし、個々の車両の挙動及びOD交通量などを、例えば、道路網のリンク毎に詳細に計測して実際の交通情報と一致させることは困難であり、両者には差異が存在する。このため、交通シミュレータで交通状態量を求める場合、シミュレーション時間の経過とともに当該差異が累積する結果、実際の交通状態量を再現することができないという問題がある。
【0008】
交通シミュレータの利用者は、道路の新設、交差点の改良、交通情報提供などの政策によって、実際の道路で生じている渋滞、交通量(リンク断面交通量)、旅行時間、環境指標などの交通状態量が、どのように改善されるかを交通シミュレータにより知ることができることを求めている。その判断基準は、あくまでも実際に実測された交通状態量である。しかしながら、上述のように、交通シミュレータで再現した交通状態量が実際に計測された交通状態量と一致しないため、様々な政策による効果の度合いも実際に計測された交通状態量と比べて、どの程度改善されているかが不明確であった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、実際に計測された交通状態量との対比を正しく行うことができる交通状態量の評価値を求めることができる交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係る交通評価装置は、複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を出力する交通評価装置において、模擬走行車両の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を補正する渋滞長補正手段と、前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて前記リンクの交通状態量を推定する交通状態量推定手段と、交通状態量を評価するための評価条件を設定する評価条件設定手段と、前記渋滞長補正手段で前記リンクのリンク渋滞長を補正した場合に、前記リンクの交通状態量の実測値と、前記評価条件設定手段で評価条件を設定する前及び後で前記交通状態量推定手段により推定した前記リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの交通状態量の評価値を算出する評価値算出手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
第2発明に係る交通評価装置は、第1発明において、前記交通状態量推定手段は、任意のリンクのリンク断面交通量を推定するようにしてあり、前記評価値算出手段は、前記リンクのリンク断面交通量の実測値と、前記評価条件を設定する前の前記リンクのリンク断面交通量の推定値に対する前記評価条件を設定した後の前記リンクのリンク断面交通量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクのリンク断面交通量の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
第3発明に係る交通評価装置は、第1発明又は第2発明において、前記交通状態量推定手段は、前記渋滞長補正手段で補正したリンク渋滞長を用いて任意のリンクのリンク渋滞長を推定するようにしてあり、前記評価値算出手段は、前記交通状態量推定手段で推定したリンク渋滞長に基づいて前記評価条件を設定したときの前記リンクのリンク渋滞長の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0013】
第4発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第3発明のいずれか1つにおいて、任意のリンクで起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成する補正車両生成手段を備え、前記渋滞長補正手段は、前記補正車両生成手段で生成した補正車両の台数を用いて前記リンクのリンク渋滞長を補正するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
第5発明に係る交通評価装置は、第4発明において、前記交通状態量推定手段は、任意のリンクのリンク総旅行時間を推定するようにしてあり、前記評価値算出手段は、前記リンクのリンク断面交通量の評価値と前記補正車両生成手段で生成した補正車両を除外した他の車両の前記リンクでの平均旅行時間とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクのリンク総旅行時間の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0015】
第6発明に係る交通評価装置は、第4発明又は第5発明において、前記交通状態量推定手段は、任意のリンクの車両に関する環境指標を推定するようにしてあり、前記評価値算出手段は、前記リンクのリンク断面交通量の評価値と前記補正車両生成手段で生成した補正車両を除外した他の車両の前記リンクでの平均排出ガス量とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの環境指標の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0016】
第7発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第6発明のいずれか1つにおいて、任意のリンクでの車両の実測渋滞長を平滑化する渋滞長平滑手段を備え、前記渋滞長補正手段は、前記渋滞長平滑手段で平滑化した実測渋滞長及び前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を補正するように構成してあることを特徴とする。
【0017】
第8発明に係る交通評価装置は、第7発明において、前記渋滞長平滑手段で平滑化した任意のリンクでの実測渋滞長の所定時間の間での差に基づいて、前記リンクのリンク断面交通量の実測値を補正するリンク断面交通量補正手段を備え、前記交通量算出手段は、前記リンク断面交通量補正手段で補正したリンク断面交通量を用いて、前記リンクで発生及び消滅する交通量を算出するように構成してあることを特徴とする。
【0018】
第9発明に係る交通評価装置は、第8発明において、前記リンク断面交通量補正手段で補正したリンク断面交通量を用いて、前記交通量算出手段で任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出した場合に、前記リンクのリンク断面交通量の実測値と、前記リンク断面交通量補正手段で補正した前記リンクのリンク断面交通量の補正値との比率に基づいて、前記評価値算出手段で算出した前記リンクのリンク渋滞長の評価値を補正する評価値補正手段を備えることを特徴とする。
【0019】
第10発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を算出するステップを実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、模擬走行車両の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記算出するステップで算出した交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を補正するステップと、前記算出するステップで算出した交通量に基づいて前記リンクの交通状態量を推定するステップと、交通状態量を評価するための評価条件を設定するステップと、前記補正するステップで前記リンクのリンク渋滞長を補正した場合に、前記リンクの交通状態量の実測値と、前記評価条件を設定する前及び後で前記推定するステップにより推定した前記リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの交通状態量の評価値を算出するステップとを実行させることを特徴とする。
【0020】
第11発明に係る交通評価方法は、複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を出力する交通評価装置による交通評価方法おいて、模擬走行車両の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を交通量算出手段で算出するステップと、前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記交通量算出手段で算出された交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を渋滞長補正手段で補正するステップと、前記交通量算出手段で算出された交通量に基づいて前記リンクの交通状態量を交通状態量推定手段で推定するステップと、交通状態量を評価するための評価条件を評価条件設定手段で設定するステップと、前記渋滞長補正手段で前記リンクのリンク渋滞長が補正された場合に、前記リンクの交通状態量の実測値と、前記評価条件設定手段で評価条件を設定する前及び後で前記交通状態量推定手段により推定された前記リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの交通状態量の評価値を評価値算出手段で算出するステップとを含むことを特徴とする。
【0021】
第1発明、第10発明及び第11発明にあっては、模擬走行車両(車両)の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する。車両の走行の起点及び終点情報を用いる場合、起点と終点との間のリンクを任意のリンクとして用いることができる。車両の走行の起点及び終点情報は、例えば、OD交通量であり、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を実測値として求めたものである。任意のリンクで発生する交通量又は消滅する交通量は、OD交通量などを用いて算出することができる。リンクでの車両の実測渋滞長及び算出した交通量に基づいて当該リンクのリンク渋滞長を補正する。リンク渋滞長は、直接的に求めることもできるが、渋滞待ちの台数を算出し、算出した渋滞待ち台数に渋滞内車両密度を積算して求めることもできる。リンク渋滞長の補正は、例えば、任意のリンクで起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成し、生成した補正車両の台数を用いて、すなわち車両の台数を変化させることにより当該リンクのリンク渋滞長を補正する。これにより、任意のリンクでの渋滞長の推定値を実測値と等しくすることができ、実際の渋滞状況を正確に再現することが可能となる。
【0022】
当該リンクのリンク渋滞長を補正した場合に、当該リンクの交通状態量の実測値と、評価条件を設定する前及び後で推定した当該リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、当該評価条件を設定したときの当該リンクの交通状態量の評価値を算出する。交通状態量は、例えば、リンク断面交通量、リンク渋滞長、リンク総旅行時間、当該リンクでの車両の排出ガス量(例えば、二酸化炭素など)等の環境指標である。任意のリンクで発生及び消滅する交通量に基づいて当該リンクの交通状態量を推定することができる。評価条件は、例えば、工事、事故又は災害などによる交通規制、道路の新設、交差点の改良などの交通環境変化、交通情報の提供、交通信号制御の調整などの交通対策を含む。すなわち、交通状態量の評価値を、交通状態量の実測値と、評価条件設定前の交通状態量の推定値に対する評価条件設定後の交通状態量の推定値の比率とに基づいて算出する。
【0023】
評価条件設定前の交通状態量の推定値に対する評価条件設定後の交通状態量の推定値の比率を求めることにより、評価条件を設定したことによる影響又は効果を求めることができる。さらに、評価条件設定前の交通状態量の推定値に対する評価条件設定後の交通状態量の推定値の比率に、交通状態量の実測値を考慮することにより、実際に計測された交通状態量に対して、評価条件が設定された場合に交通状態量がどのように変化するかを求めることができる。これにより、実際に計測された交通状態量との対比を正しく行うことができる交通状態量の評価値を求めることができる。
【0024】
第2発明にあっては、任意のリンクのリンク断面交通量の実測値と、評価条件を設定する前の当該リンクのリンク断面交通量の推定値に対する評価条件を設定した後の当該リンクのリンク断面交通量の推定値の比率とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクのリンク断面交通量の評価値を算出する。リンク断面交通量は、リンク上の交通量であり、車線が複数存在する場合には、各車線の交通量の合計値である。リンク断面交通量の実測値は、例えば、交差点上流に設置した車両感知器の感知信号に基づいて計測することができる。
【0025】
評価条件設定前のリンク断面交通量の推定値に対する評価条件設定後のリンク断面交通量の推定値の比率を求めることにより、評価条件を設定したことによる影響又は効果を求めることができる。さらに、評価条件設定前のリンク断面交通量の推定値に対する評価条件設定後のリンク断面交通量の推定値の比率に、リンク断面交通量の実測値を考慮することにより、実際に計測されたリンク断面交通量に対して、評価条件が設定された場合にリンク断面交通量がどのように変化するかを求めることができる。これにより、実際に計測されたリンク断面交通量との対比を正しく行うことができるリンク断面交通量の評価値を求めることができる。
【0026】
第3発明にあっては、補正したリンク渋滞長を用いて任意のリンクのリンク渋滞長を推定し、推定したリンク渋滞長に基づいて評価条件を設定したときの当該リンクのリンク渋滞長の評価値を算出する。評価条件を設定したときのリンク渋滞長の評価値は、任意のリンクのリンク渋滞長の実測値と、評価条件を設定する前の当該リンクのリンク渋滞長の推定値に対する評価条件を設定した後の当該リンクのリンク渋滞長の推定値の比率とに基づいて算出することができる。リンク渋滞長を補正した場合には、任意のリンクのリンク渋滞長の実測値は、評価条件を設定する前の当該リンクのリンク渋滞長の推定値と等しくなるので、評価条件を設定したときのリンク渋滞長の評価値は、評価条件を設定した後の当該リンクのリンク渋滞長の推定値に等しくなる。すなわち、評価条件を設定した後の任意のリンクのリンク渋滞長の推定値に基づいて評価条件を設定したときの当該リンクのリンク渋滞長の評価値を算出することができる。これにより、実際に計測されたリンク渋滞長との対比を正しく行うことができるリンク渋滞長の評価値を求めることができる。
【0027】
第4発明にあっては、任意のリンクで起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成し、生成した補正車両の台数を用いて当該リンクのリンク渋滞長を補正する。すなわち、任意のリンクでのリンク渋滞長を推定し、当該リンクでの実測渋滞長との差分に応じた起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成する。例えば、実測渋滞長がリンク渋滞長の推定値より長い場合、実測渋滞長と推定値との差分に応じた台数の補正車両を当該リンクでの起点交通量として生成する。また、実測渋滞長がリンク渋滞長の推定値より短い場合、推定値と実測渋滞長との差分に応じた台数の補正車両を当該リンクでの終点交通量として生成する。これにより、各リンク単位でリンク渋滞長の実測値と推定値とを合わせるように、起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成するので、各リンクで渋滞長の再現性を向上させることができる。
【0028】
第5発明にあっては、任意のリンクのリンク断面交通量の評価値と、生成した補正車両を除外した他の車両の当該リンクでの平均旅行時間とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクのリンク総旅行時間の評価値を算出する。車両がリンク内に流入してから流出するまでの時間をリンク旅行時間といい、単位時間にリンクを走行した各車両のリンク旅行時間の総和をリンク総旅行時間という。補正車両は、当該リンクで起点交通量として放出された車両、あるいは終点交通量として回収された車両なので、リンク内に流入した後にリンクから流出した車両ではないので除外する。リンク断面交通量の評価値は、すでに実際に計測された実測値との対比が正しく行うことができる値であるので、これを用いることにより、実際に計測されたリンク総旅行時間との対比を正しく行うことができるリンク総旅行時間の評価値を求めることができる。
【0029】
第6発明にあっては、任意のリンクのリンク断面交通量の評価値と、生成した補正車両を除外した他の車両の当該リンクでの平均排出ガス量とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクの環境指標の評価値を算出する。環境指標は、例えば、二酸化炭素などの排出ガス量である。排出ガス量は、車両がリンク内に流入してから流出するまでの間に排出するガス量である。また、平均排出ガス量は、単位時間にリンクを走行した各車両の排出ガス量の平均値である。補正車両は、当該リンクで起点交通量として放出された車両、あるいは終点交通量として回収された車両なので、リンク内に流入した後にリンクから流出した車両ではないので除外する。リンク断面交通量の評価値は、すでに実際に計測された実測値との対比が正しく行うことができる値であるので、これを用いることにより、実際に計測された排出ガス量などの環境指標との対比を正しく行うことができる環境指標の評価値を求めることができる。
【0030】
第7発明にあっては、任意のリンクでの車両の実測渋滞長を平滑化し、平滑化した実測渋滞長及び算出した交通量に基づいて当該リンクのリンク渋滞長を補正する。渋滞長の実測値を計測する場合、交差点の上流に車両感知器を設置して車両感知器で感知した信号に基づいて交差点を流出する車両を計測する。車両感知器は、地点計測型のものが一般的であり、車両感知器設置位置付近の交通状況(例えば、交通量、渋滞の有無など)しか計測することができない。このため、渋滞長の実測値は、車両感知器の設置間隔に依存し、設置間隔が長い場合には、実測値が不連続な段階状になる。このため、計測した実測値を平滑化して連続的な実測値とする。平滑化は、例えば、任意の時間に計測された台数の一部(例えば、50%)を当該任意の時間の前後の時間に拡散する(割り当てる)ことにより行うことができる。平滑化した実測渋滞長を入力データとして使用する場合、実測値が一層現実の状態に近づくので、リンク渋滞長を補正する場合の補正処理の負荷を低減することができる。
【0031】
第8発明にあっては、平滑化した任意のリンクでの実測渋滞長の所定時間の間での差に基づいて、当該リンクのリンク断面交通量の実測値を補正する。入力データとして使用するリンク断面交通量の実測値は、リンクに流入する車両の流入台数である。一方、交通量を計測する車両感知器は、車両感知器が設置された地点での車両の流出台数を計測することになる。そこで、リンク断面交通量の実測値として直接計測することができる流出台数の実測値に、所定時間の間の平滑化した実測渋滞長の変化量を考慮する(例えば、変化量を加算する)ことにより、当該リンクへの流入台数としての補正したリンク断面交通量の実測値を求める。そして、補正したリンク断面交通量を用いて、当該リンクで発生及び消滅する交通量を算出する。補正したリンク断面交通量の実測値を入力データとして使用する場合、実測値が一層現実の状態に近づくので、実際に計測された交通状態量との対比を一層精度高く行うことができる交通状態量の評価値を求めることができる。
【0032】
第9発明にあっては、リンク断面交通量の実測値の補正値を用いて、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出した場合に、当該リンクのリンク断面交通量の実測値と、当該リンクのリンク断面交通量の実測値の補正値との比率に基づいて、当該リンクのリンク渋滞長の評価値を補正する。リンク断面交通量の実測値の補正値を用いて、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出した場合に求めた当該リンクのリンク渋滞長の評価値を、リンク断面交通量の実測値を補正しない場合の評価値と対比するため、リンク断面交通量の実測値と、リンク断面交通量の実測値の補正値との比率に基づいて、リンク断面交通量の実測値の補正値を用いた場合の当該リンクのリンク渋滞長の評価値を補正する。これにより、リンク断面交通量の実測値を補正した場合と補正しない場合の両方について、リンク渋滞長の評価値を対比することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、実際に計測された交通状態量との対比を正しく行うことができる交通状態量の評価値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータにおける車両挙動の例を示す模式図である。
【図2】車両の走行の起点及び終点情報の一例を示す模式図である。
【図3】OD交通量の一例を示す説明図である。
【図4】所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。
【図5】本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータの構成例を示すブロック図である。
【図6】リンク渋滞長の補正の一例を示す模式図である。
【図7】リンクの下流側の交通状況に影響を与えないための再放出及び再回収の一例を示す模式図である。
【図8】従来の交通シミュレータによる渋滞長の再現例を示す模式図である。
【図9】本実施の形態の交通シミュレータによる渋滞長の再現例を示す模式図である。
【図10】本実施の形態の交通シミュレータによる交通状態量の評価値の算出例を示す概念図である。
【図11】本実施の形態での評価条件の設定の一例を示す概念図である。
【図12】本実施の形態での評価条件の設定の他の例を示す概念図である。
【図13】本実施の形態の交通シミュレータによる交通状態量の評価値の一例を示す説明図である。
【図14】実測渋滞長の平滑化の様子を示す説明図である。
【図15】リンク断面交通量の実測値の補正方法の一例を示す説明図である。
【図16】本実施の形態の交通シミュレータの処理手順を示すフローチャートである。
【図17】本実施の形態の交通シミュレータの処理手順を示すフローチャートである。
【図18】本実施の形態の交通シミュレータの処理手順を示すフローチャートである。
【図19】本実施の形態の交通シミュレータによる交通状態量の評価値を算出する処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法の実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータ100における車両挙動の例を示す模式図である。交通シミュレータ100は、複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を出力する。交通シミュレータ100は、入力データとして、例えば、車両の走行の起点及び終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量、OはOrigin、DはDestinationの意味である)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)との間の交通量を求めたもので、例えば、市や町などの行政区域の単位毎に発生交通量と消滅交通量とを含む。OD交通量は、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
【0036】
交通シミュレータ100は、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、複数の車両を模擬的に走行させて、単独交差点、路線及び市街地などの道路網におけるリンク断面交通量、リンク渋滞長、リンク総旅行時間、排ガス量等の環境指標などの交通状態量の評価値を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。図1では、道路網の一部として3つのノードと2つのリンクとを例示している。
【0037】
図2は車両の走行の起点及び終点情報の一例を示す模式図である。交通シミュレータ100で交通状態量を出力する場合、単独交差点または路線のように比較的単純な道路網では、車両の走行の起点及び終点情報は、道路の両端点に設定される。しかし、市街地などの複数の路線が交差する比較的複雑な道路網では、シミュレーション区域Sの内外を出発地(起点)とする交通、目的地(終点)とする交通を再現するために、個々の車両に走行の起点(出発地)と終点(目的地)の情報を与える。
【0038】
図2に示すように、道路網は、交差点に相当する複数のノードと、交差点同士を繋ぐ道路をリンクとして構成される。図2の例では、道路網の一部又は全部にシミュレーション区域Sを設定する。シミュレーション区域Sの外側には、起点終点A1、A2、…A12がある。また、シミュレーション区域Sの内側には、起点終点B1、B2、B3がある。なお、起点終点は一例であって、図2の例に限定されるものではない。図2に示すように、一例として、起点をA5とし終点をA6とする外々交通、起点をA5とし終点をB1とする外内交通、起点をB2とし終点をB3とする内々交通、起点をB2とし終点をA8とする内外交通などがある。OD交通量などに基づいて、個々の車両は、それぞれの起点と終点が与えられ、車両の移動モデルに従って、起点から終点までの走行経路等の車両の挙動を求めることができる。
【0039】
図3はOD交通量の一例を示す説明図である。図3の例は、図2の起点終点A1、A5、A6、A10、A12とした場合の交通量が所与であるとしている。なお、起点終点の例は一例であり、これに限定されるものではない。図3の例では、例えば、起点をA1とし終点をA5とする交通量が所定時間内に40台あることを示す。また、起点をA10とし終点をA5とする交通量が150台あることを示す。他も同様である。なお、図3に示す車両の台数は、単に模式的に示したものであり、値そのものに余り意味はない。
【0040】
図4は所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。図4の例では、2つのリンク1、リンク2を例示している。交通シミュレータ100は、所与のOD交通量に基づいて、シミュレーション区域S内の各リンクでの発生交通量と消滅交通量とを算出する。図4に示すように、リンク1の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1の途中で交通量の発生または消滅があってもよい。同様に、リンク2の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1とリンク2とが交わる点(交差点)では、他のリンク(不図示)からの流入交通や流出交通が存在する。
【0041】
そして、各リンクで算出された発生交通量及び消滅交通量を用いて交通状態量を推定する。本実施の形態に係る交通シミュレータ(交通評価装置)100は、所要の評価条件を設定する前及び設定した後のそれぞれの条件において求められた交通状態量の推定値を用いて交通状態量の評価値を求めることにより、実際に計測された交通状態量との対比を正しく行うことができるものである。以下、本実施の形態の交通シミュレータ100について説明する。
【0042】
図5は本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータ100の構成例を示すブロック図である。交通シミュレータ100は、車両の移動モデルを表す計算式に基づいて演算を行うシミュレータエンジン部10、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部11、交通量算出部11で算出された交通量及びリンクでの車両の実測渋滞長に基づいてリンク渋滞長の推定値を補正する渋滞長補正部12、渋滞長補正部12で補正した渋滞長に応じてリンクで起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成する補正車両生成部13、交通量算出部11で算出された交通量に基づいて交通状態量の推定値を算出する交通状態量推定部14、所要の交通状況をシミュレーションして交通状態量を評価するための評価条件を設定する評価条件設定部15、交通状態量の実測値及び評価条件を設定する前後における交通状態量の推定値に基づいて交通状態量の評価値を算出する評価値算出部16、補正車両生成部13で終点交通量又は起点交通量としてリンクで生成した補正車両に対応させて当該リンクの下流側で交通量を発生又は消滅させる発生消滅部17、実測した渋滞長を平滑化する渋滞長平滑部18、実測したリンク断面交通量を補正するリンク断面交通量補正部19、所定の情報を記憶する記憶部20などを備える。
【0043】
交通シミュレータ100には、入力データとして、例えば、車両の走行速度、加速減速特性、車両の走行の起点終点情報を含む交通量(OD交通量)、実測渋滞長、実測リンク断面交通量、実測リンク旅行時間、実測排ガス量などのデータが与えられる。なお、OD交通量及び実測リンク断面交通量などに基づいて、リンク単位の断面交通量に分けてOD情報を生成して入力データに含めることもできる。
【0044】
交通シミュレータ100は、入力データを用いて、交通状態量の評価値であるリンク断面交通量、リンク渋滞長、リンク総旅行時間、環境指標などを出力する。なお、交通状態量の評価値は、実測値との対比を精度良く行うことができるように交通状態量の推定値を変換して表現したものであり、実測値のフィルタを通して交通状態量を比較することができるものである。また、交通シミュレータ100は、交通状態量の評価値などの出力データをモニター又はディスプレイ上に視覚的又は定量的に表示させることができる。
【0045】
交通量算出部11は、模擬走行車両の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段としての機能を有する。交通量算出部11は、OD交通量(車両の走行の起点及び点情報を含む交通量)を用いて起点と終点との間の任意のリンクで発生する発生交通量及び任意のリンクで消滅する消滅交通量を算出する。
【0046】
渋滞長補正部12は、任意のリンクでの車両の実測渋滞長及び交通量算出部11で算出した交通量に基づいて当該リンクのリンク渋滞長を補正する渋滞長補正手段としての機能を有する。補正すべきリンク渋滞長の推定値は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、交通状態量推定部14で算出するが、渋滞長補正部12で算出する構成でもよい。なお、推定渋滞長を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部20に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。渋滞長補正部12は、推定されたリンク渋滞長と実測値とを比較して、推定値が実測値と等しくなるようにリンク渋滞長を補正する。
【0047】
補正車両生成部13は、渋滞長補正部12で任意のリンクのリンク渋滞長を補正するために当該リンクで起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成する補正車両生成手段としての機能を有する。補正車両生成部13は、推定渋滞長を補正するために、交通量算出部11で算出した任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量とは別に当該リンクで起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成する。
【0048】
例えば、実測渋滞長がリンク渋滞長の推定値より長い場合、実測渋滞長と推定値との差分に応じた台数の補正車両を当該リンクでの起点交通量として生成(放出)する。また、実測渋滞長がリンク渋滞長の推定値より短い場合、推定値と実測渋滞長との差分に応じた台数の補正車両を当該リンクでの終点交通量として生成(回収)する。これにより、各リンク単位でリンク渋滞長の実測値と推定値とを合わせるように、起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成するので、各リンクで渋滞長の再現性を向上させることができる。
【0049】
図6はリンク渋滞長の補正の一例を示す模式図である。図6に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ100は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、300秒など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミーの車両(補正車両)を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)として正規の車両の一部を補正車両として回収することにより、推定渋滞長が実測渋滞長と一致するように推定渋滞長を補正する。
【0050】
図6の例では、リンク1では実測渋滞長が推定渋滞長より長いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、正規の車両に加えてダミー車両を走行させて渋滞長を長くする。
【0051】
また、リンク2では実測渋滞長が推定渋滞長より短いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、正規の車両の一部をシミュレーション対象外の抜け道を走行させることにより渋滞長を短くする。なお、補正台数の算出方法は後述する。
【0052】
上述のように、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位でリンク渋滞長などの交通状態量の再現性を向上させることができる。また、それぞれのリンクでのリンク渋滞長の再現性を高めることができるので、道路網全体での再現性も向上させることができる。このように、任意のリンクでの渋滞長の推定値を実測値と等しくすることができ、実際の渋滞状況を正確に再現することが可能となる。
【0053】
発生消滅部17は、補正車両生成部13で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させる。任意のリンクで起点交通量を生成した場合、すなわち、当該放出点から車両を放出した場合、当該リンクでの交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで起点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させることにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
【0054】
また、発生消滅部17は、補正車両生成部13で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。また、任意のリンクで終点交通量を生成した場合(車両を回収した場合)に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)するときには、回収時に回収した車両の終点(本来の消滅地点)を記憶しておき、再放出の際に各車両に記憶しておいた終点を与えることもできる。
【0055】
上述の図5の例において、発生消滅部17は、必須の構成ではない。すなわち、交通量(車両)の再回収及び再放出は、必須ではなく省略することができる。再回収及び再放出を省略した場合には、放出または回収する補正台数による下流リンクへの影響は、下流リンクでの補正処理に委ねることができる。
【0056】
図7はリンクの下流側の交通状況に影響を与えないための再放出及び再回収の一例を示す模式図である。交通シミュレータ100では、渋滞長を実測値と合わせるために、推定渋滞長を補正した場合、そのままでは、その影響が下流のリンクに及ぶために、下流の渋滞長及び旅行時間などが変化する。例えば、上流リンクで推定渋滞長を実測渋滞長に合わせるため、起点交通量として車両が放出された場合、当該リンクからの流出交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、これが下流リンクの推定渋滞長に差異を生じさせる可能性がある。
【0057】
そこで、本実施の形態では、図7に示すように、各リンクでの補正要因(起点交通量又は終点交通量の生成)を下流リンクに伝えないように、リンクに放出された車両はリンク下流の交差点出口で再回収し、また、リンク上で回収された車両はリンク下流の交差点出口で再放出する。これにより、補正による影響を下流リンクに与えることはない。
【0058】
次に、補正台数の算出方法について説明する。補正車両生成部13は、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)の絶対値に渋滞内の車両密度を積算し、積算値に当該リンクの固有値を加算又は減算して補正車両の台数を算出する。例えば、推定誤差が正である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、リンクの固有値を積算値から減算し、推定誤差が負である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、リンクの固有値を積算値に加算する。
【0059】
推定渋滞長と実測渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を積算することにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を求めることができる。リンクの固有値は、例えば、リンク(道路)上の許容範囲に相当する車両台数である。許容範囲は、例えば、車両感知器の設置密度(例えば、車両感知器の設置間隔が250mであれば、許容範囲は250m)であり、この場合、リンクの固有値は、車両感知器の設置密度に車両の走行密度を積算した値とすることができる。すなわち、リンクの固有値は、当該リンクで車両を感知することができる範囲に相当する車両台数である。なお、固有値はゼロであってもよい。起点交通量として補正台数の車両を起点で放出し、又は終点交通量として補正台数の車両を終点で回収する。これにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を、各リンクで放出又は回収させることができる。
【0060】
起点交通量として起点から車両を放出する場合、あるいは、終点交通量として終点で車両を回収する場合、放出及び回収する地点は、当該リンクの最上流、渋滞末尾地点、あるいはリンクの任意の点とすることができる。
【0061】
また、車両の放出及び回収は、例えば、補正台数を10台とした場合、(1)補正台数10台を、補正周期(例えば、300秒)の最後に一度で行う方法、(2)補正台数10台を補正周期(例えば、300秒)の間を等間隔(例えば、30秒間隔)で一様に行う方法、(3)リンク下流の信号表示に同期させて(例えば、赤信号の時間帯)行う方法などがある。また、車両の放出の方法に限れば、(4)リンク上を走行する車両の挙動を妨げないように走行する車両の間隔が、例えば4秒以上ある場合に行う方法などがある。
【0062】
上述の(3)の方法を採用すれば、すなわち、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するようにすれば、補正台数の車両がリンクに渋滞として留まらないという事態を防止し、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
【0063】
図8は従来の交通シミュレータによる渋滞長の再現例を示す模式図であり、図9は本実施の形態の交通シミュレータ100による渋滞長の再現例を示す模式図である。図8及び図9では、図2のように、道路網は、交差点に相当する複数のノードと、交差点同士を繋ぐ道路をリンクとして例示している。従来の交通シミュレータの場合、個々の車両挙動又はOD情報を詳細に計測して実際の状況と一致させることは、現在の計測技術では困難である。このため、従来の交通シミュレータで推定した値と実測値との差異が蓄積することで交通シミュレータの計算結果は、シミュレーション時間の経過とともに実際の状況から乖離する。このため、従来の交通シミュレータでは、図8に示すように、実際に渋滞が発生している場所とは異なる場所で渋滞が発生しているような計算結果が得られ、結果として、どこで渋滞が発生するかが正確に把握することができない。
【0064】
本実施の形態の交通シミュレータ100では、渋滞長補正部12、補正車両生成部13などを備えることにより、渋滞長の推定値を実測値に合わせて補正することができる。これにより、図9に示すように、実際に渋滞が発生している場所と同じ場所で渋滞が発生しているような計算結果が得られ、結果として、渋滞の発生箇所を正確に再現することができる。
【0065】
交通状態量推定部14は、交通量算出部11で算出した交通量に基づいて任意のリンクの交通状態量を推定する交通状態量推定手段としての機能を備える。交通状態量推定部14は、交通量算出部11で算出した交通量に基づいて、例えば、リンク断面交通量、リンク渋滞長、リンク総旅行時間、環境指標などの交通状態量の推定値を算出する。
【0066】
評価条件設定部15は、交通状態量を評価するための評価条件を設定する評価条件設定手段としての機能を有する。評価条件は、例えば、工事、事故又は災害などによる交通規制、道路の新設、交差点の改良などの交通環境変化、交通情報の提供、交通信号制御の調整などの交通対策を含む。
【0067】
評価値算出部16は、渋滞長補正部12で任意のリンクのリンク渋滞長を補正した場合に、当該リンクの交通状態量の実測値と、評価条件設定部15で評価条件を設定する前及び後それぞれで、交通状態量推定部14により推定した当該リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクの交通状態量の評価値を算出する評価値算出手段としての機能を有する。すなわち、評価値算出部16は、交通状態量の評価値を、交通状態量の実測値と、評価条件設定前の交通状態量の推定値に対する評価条件設定後の交通状態量の推定値の比率とに基づいて算出する。
【0068】
図10は本実施の形態の交通シミュレータ100による交通状態量の評価値の算出例を示す概念図である。図10(a)は評価条件設定前のシミュレーションの状況を示し、図10(b)は評価条件設定後のシミュレーションの状況を示す。図10(a)に示すように、評価条件設定前においては、評価条件の設定がない状態で、交通状態量の実測値Aに基づく入力データを交通シミュレータ100に入力する。そして、交通シミュレータ100から出力された交通状態量の推定値をBとする。
【0069】
次に、図10(b)に示すように、評価条件設定後においては、評価条件X1の設定がある状態で、図10(a)の場合と同じ交通状態量の実測値Aに基づく入力データを交通シミュレータ100に入力する。そして、交通シミュレータ100から出力された交通状態量の推定値をC1とする。
【0070】
評価条件の設定の前後で得られた交通状態量の推定値B、C1を用いて、交通状態量の評価値Eを、E=A×C1/Bにより算出する。すなわち、交通状態量の評価値Eを、交通状態量の実測値Aと、評価条件設定前の交通状態量の推定値Bに対する評価条件X1設定後の交通状態量の推定値C1の比率とに基づいて算出する。なお、上述の評価値を求める式は、一例であって、これに限定されるものではない。交通状態量の種類、あるいは評価条件の差異などに応じて、適宜所要の定数の加減すること、あるいは乗除することができる。
【0071】
評価条件設定前の交通状態量の推定値に対する評価条件設定後の交通状態量の推定値の比率を求めることにより、評価条件を設定したことによる影響又は効果を求めることができる。さらに、評価条件設定前の交通状態量の推定値に対する評価条件設定後の交通状態量の推定値の比率に、交通状態量の実測値を考慮することにより、実際に計測された交通状態量に対して、評価条件が設定された場合に交通状態量がどのように変化するかを求めることができる。これにより、実際に計測された交通状態量との対比を正しく行うことができる交通状態量の評価値を求めることができる。
【0072】
次に評価条件の設定例について説明する。図11は本実施の形態での評価条件の設定の一例を示す概念図である。図11の例は、道路工事、災害、あるいは事故などの交通障害が発生した状態での交通状態量を求める場合を示す。図11に示すように、任意のリンク(例えば、1車線又は全車線)で交通障害による通行止めを評価条件として設定する。
【0073】
図12は本実施の形態での評価条件の設定の他の例を示す概念図である。図12の例では、任意のリンクにおける渋滞情報を、交通情報として予め早期に車両の運転者へ提供した状態での交通状態量を求める場合を示す。図12に示すように、任意のリンク(例えば、1車線又は全車線)の渋滞情報を早めに提供した場合、渋滞状況に応じて車両によっては、経路を変更するので、このような状況を評価条件として設定する。
【0074】
次に交通状態量の評価値について説明する。図13は本実施の形態の交通シミュレータ100による交通状態量の評価値の一例を示す説明図である。図13に示すように、交通状態量は、例えば、リンク断面交通量、リンク渋滞長、リンク総旅行時間、環境指標(例えば、二酸化炭素などの排ガス量など)である。
【0075】
任意のリンクのリンク断面交通量の評価値については、当該リンクのリンク断面交通量の実測値と、評価条件を設定する前の当該リンクのリンク断面交通量の推定値に対する評価条件を設定した後の当該リンクのリンク断面交通量の推定値の比率とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクのリンク断面交通量の評価値を算出することができる。リンク断面交通量は、リンク上の交通量であり、車線が複数存在する場合には、各車線の交通量の合計値である。リンク断面交通量の実測値は、例えば、交差点上流に設置した車両感知器の感知信号に基づいて計測することができる。
【0076】
評価条件設定前のリンク断面交通量の推定値に対する評価条件設定後のリンク断面交通量の推定値の比率を求めることにより、評価条件を設定したことによる影響又は効果を求めることができる。さらに、評価条件設定前のリンク断面交通量の推定値に対する評価条件設定後のリンク断面交通量の推定値の比率に、リンク断面交通量の実測値を考慮することにより、実際に計測されたリンク断面交通量に対して、評価条件が設定された場合にリンク断面交通量がどのように変化するかを求めることができる。これにより、実際に計測されたリンク断面交通量との対比を正しく行うことができるリンク断面交通量の評価値を求めることができる。
【0077】
任意のリンクのリンク渋滞長の評価値については、当該リンクのリンク渋滞長の実測値と、評価条件を設定する前の当該リンクのリンク渋滞長の推定値に対する評価条件を設定した後の当該リンクのリンク渋滞長の推定値の比率とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクのリンク渋滞長の評価値を算出することができる。
【0078】
また、任意のリンクのリンク渋滞長の評価値については、渋滞長補正部12でリンク渋滞長を補正した場合には、任意のリンクのリンク渋滞長の実測値は、評価条件を設定する前の当該リンクのリンク渋滞長の推定値と等しくなり、「実測値/推定値(評価条件設定前)」=1となるので、評価条件を設定したときのリンク渋滞長の評価値は、評価条件を設定した後の当該リンクのリンク渋滞長の推定値に等しくなる。すなわち、評価条件を設定した後の任意のリンクのリンク渋滞長の推定値に基づいて評価条件を設定したときの当該リンクのリンク渋滞長の評価値を算出することができる。この場合には、リンク渋滞長の評価値は、評価条件設定後における補正車両を含んだ場合の渋滞長の推定値となる。これにより、実際に計測されたリンク渋滞長との対比を正しく行うことができるリンク渋滞長の評価値を求めることができる。
【0079】
任意のリンクのリンク総旅行時間の評価値については、当該リンクのリンク総旅行時間の実測値と、評価条件を設定する前の当該リンクのリンク総旅行時間の推定値に対する評価条件を設定した後の当該リンクのリンク総旅行時間の推定値の比率とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクのリンク総旅行時間の評価値を算出することができる。車両がリンク内に流入してから流出するまでの時間をリンク旅行時間といい、単位時間にリンクを走行した各車両のリンク旅行時間の総和をリンク総旅行時間という。
【0080】
また、任意のリンクのリンク総旅行時間の評価値については、当該リンクのリンク断面交通量の評価値と、補正車両生成部13で生成した補正車両を除外した他の車両の当該リンクでの平均旅行時間とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクのリンク総旅行時間の評価値を算出することができる。補正車両は、当該リンクで起点交通量として放出された車両、あるいは終点交通量として回収された車両なので、リンク内に流入した後にリンクから流出した車両ではないので除外する。リンク断面交通量の評価値は、すでに実際に計測された実測値との対比が正しく行うことができる値であるので、これを用いることにより、実際に計測されたリンク総旅行時間との対比を正しく行うことができるリンク総旅行時間の評価値を求めることができる。
【0081】
任意のリンクの環境指標の評価値については、当該リンクの環境指標の実測値と、評価条件を設定する前の当該リンクの環境指標の推定値に対する評価条件を設定した後の当該リンクの環境指標の推定値の比率とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクの環境指標の評価値を算出することができる。
【0082】
また、任意のリンクの環境指標の評価値については、当該リンクのリンク断面交通量の評価値と、補正車両生成部13で生成した補正車両を除外した他の車両の当該リンクでの平均排出ガス量とに基づいて、評価条件を設定したときの当該リンクの環境指標の評価値を算出する。環境指標は、例えば、二酸化炭素などの排出ガス量である。排出ガス量は、車両がリンク内に流入してから流出するまでの間に排出するガス量である。また、平均排出ガス量は、単位時間にリンクを走行した各車両の排出ガス量の平均値である。補正車両は、当該リンクで起点交通量として放出された車両、あるいは終点交通量として回収された車両なので、リンク内に流入した後にリンクから流出した車両ではないので除外する。リンク断面交通量の評価値は、すでに実際に計測された実測値との対比が正しく行うことができる値であるので、これを用いることにより、実際に計測された排出ガス量などの環境指標との対比を正しく行うことができる環境指標の評価値を求めることができる。
【0083】
渋滞長平滑部18は、任意のリンクでの車両の実測渋滞長を平滑化する渋滞長平滑手段としての機能を有する。
【0084】
図14は実測渋滞長の平滑化の様子を示す説明図である。渋滞長の実測値を計測する場合、交差点の上流に車両感知器を設置して車両感知器で感知した信号に基づいて交差点を流出する車両を計測する。この場合、図14(a)に示すように、車両感知器での感知は断続的であるため通過台数が段階状に計測されるとともに、計測漏れを生じることもある。そこで、図14(b)に示すように、計測した実測値を平滑化して連続的な実測値とする。平滑化は、例えば、任意の時間に計測された台数の一部(例えば、10%)を当該任意の時間の前後の時間に拡散する(割り当てる)ことにより行うことができる。平滑化した実測渋滞長を入力データとして使用する場合、実測値が一層現実の状態に近づくので、リンク渋滞長を補正する場合の補正処理の負荷を低減することができる。
【0085】
リンク断面交通量補正部19は、渋滞長補正部12で補正した任意のリンクでのリンク渋滞長の所定時間の間での差に基づいて、当該リンクのリンク断面交通量の実測値を補正するリンク断面交通量補正手段としての機能を有する。
【0086】
図15はリンク断面交通量の実測値の補正方法の一例を示す説明図である。平滑化した任意のリンクでの実測渋滞長の所定時間の間での差に基づいて、当該リンクのリンク断面交通量の実測値を補正する。入力データとして使用するリンク断面交通量の実測値は、リンクに流入する車両の流入台数である。一方、交通量を計測する車両感知器は、車両感知器が設置された地点での車両の流出台数を計測することになる。そこで、リンク断面交通量の実測値として直接計測することができる流出台数の実測値に、所定時間の間の平滑化した実測渋滞長の変化量を考慮する(例えば、変化量を加算する)ことにより、当該リンクへの流入台数としての補正したリンク断面交通量の実測値を求める。図15(a)は前回渋滞長(平滑化後の実測渋滞長の前回値)を示し、図15(b)は今回渋滞長(平滑化後の実測渋滞長の今回値)を示す。図15(a)から図15(b)への渋滞長の変化を、所定時間の間の平滑化した実測渋滞長の変化量として求めることができる。そして、リンク断面交通量の実測値の補正値、調査統計データなどを用いて、OD交通量を算出し、そのOD交通量からリンクで発生及び消滅交通量を算出する。補正したリンク断面交通量の実測値を入力データとして使用する場合、実測値が一層現実の状態に近づくので、実際に計測された交通状態量との対比を一層精度高く行うことができる交通状態量の評価値を求めることができる。なお、交通シミュレータ100に用いるOD交通量は、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどから算出することもでき、あるいは、上述のリンク断面交通量の実測値の補正値、調査統計データなどから算出したOD交通量を用いることもできる。
【0087】
評価値算出部16は、リンク断面交通量の実測値の補正値を用いて、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出した場合に、当該リンクのリンク断面交通量の実測値と、当該リンクのリンク断面交通量の実測値の補正値との比率に基づいて、当該リンクのリンク渋滞長の評価値を補正する評価値補正手段としての機能を備える。リンク断面交通量の実測値の補正値を用いて、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出した場合に求めた当該リンクのリンク渋滞長の評価値を、リンク断面交通量の実測値を補正しない場合の評価値と対比するため、リンク断面交通量の実測値と、リンク断面交通量の実測値の補正値との比率に基づいて、リンク断面交通量の実測値の補正値を用いた場合の当該リンクのリンク渋滞長の評価値を補正する。これにより、リンク断面交通量の実測値を補正した場合と補正しない場合の両方について、リンク渋滞長の評価値を対比することができる。
【0088】
次に、本実施の形態の交通シミュレータ100の動作について説明する。図16、図17及び図18は本実施の形態の交通シミュレータ100の処理手順を示すフローチャートである。交通シミュレータ100は、補正周期(例えば、300秒)が経過したか否かを判定し(S11)、補正周期を経過した場合(ステップS11でYES)、すなわち、前回の補正のタイミングから300秒経過した場合、推定渋滞長を算出し(S12)、推定誤差(実測渋滞長と推定渋滞長との差分)を算出(推定)する(S13)。
【0089】
交通シミュレータ100は、推定誤差がゼロより大きいか否かを判定し(S14)、推定誤差がゼロより大きい場合(S14でYES)、(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きいか否かを判定する(S15)。
【0090】
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きい場合(S15でYES)、交通シミュレータ100は、補正台数を算出し(S16)、算出した補正台数の車両(ダミーの車両)を起点交通量としてリンクに放出する(S17)。
【0091】
交通シミュレータ100は、リンクに放出した車両を当該リンク下流交差点で再回収する(S18)。交通シミュレータ100は、起点(出発地)から車両を発生し、終点(目的地)で車両を回収し(S19)、信号灯器の信号灯色を、例えば、0.1秒進め、車両の移動モデルに従って車両を走行させる(S20)。
【0092】
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きくない場合(S15でNO)、交通シミュレータ100は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。また、補正周期を経過していない場合(ステップS11でNO)、交通シミュレータ100は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。
【0093】
推定誤差がゼロより大きくない場合(S14でNO)、交通シミュレータ100は、推定誤差がゼロより小さいか否かを判定し(S21)、推定誤差がゼロより小さい場合(S21でYES)、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さいか否かを判定する(S22)。
【0094】
(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さい場合(S22でYES)、交通シミュレータ100は、補正台数を算出し(S23)、算出した補正台数の車両(正規の車両)を終点交通量としてリンクから回収する(S24)。
【0095】
交通シミュレータ100は、リンクから回収した車両を当該リンク下流交差点で再放出し(S25)、ステップS19以降の処理を続ける。推定誤差がゼロより小さくない場合(S21でNO)、交通シミュレータ100は、推定誤差がゼロであるとして、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。また、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さくない場合(S22でNO)、交通シミュレータ100は、補正を行わずにステップS19以降の処理を行う。
【0096】
交通シミュレータ100は、交通状態量の推定周期(例えば、300秒)であるか否かを判定し(S26)、推定周期である場合(S26でYES)、リンク断面交通量の推定値を算出する(S27)。なお、補正周期と推定周期は同じでも異なる値でもよい。
【0097】
交通シミュレータ100は、リンク渋滞長の推定値を算出し(S28)、リンク総旅行時間を算出し(S29)、排ガス量の推定値を算出し(S30)、処理を終了する。交通シミュレータ100は、推定周期でない場合(S26でNO)、処理を終了する。
【0098】
上述の図16、図17及び図18で例示した処理は、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)経過の都度繰り返し行われる。また、ステップS18、S25の処理を行わずに省略することもできる。この場合は、当該リンクの下流リンクで車両の放出又は回収を行う補正で調整する。当該リンクでの補正は、下流リンクに影響を与えるが、下流リンクでも補正処理が行なわれるので、推定渋滞長と実測渋滞長の差異を小さくすることができる。
【0099】
上述の交通シミュレータ100は、CPU、RAMなどを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図16、図17及び図18に示すような、各処理手順を定めたプログラムコードをコンピュータに備えられたRAMにロードし、プログラムコードをCPUで実行することにより、コンピュータ上で交通シミュレータ100を実現することができる。
【0100】
図19は本実施の形態の交通シミュレータ100による交通状態量の評価値を算出する処理手順を示すフローチャートである。交通シミュレータ100は、評価条件設定前の交通状態量の推定値を算出する(S51)。ステップS51の処理は、図16、図17及び図18に示す処理手順を行うことにより、実施することができる。
【0101】
交通シミュレータ100は、評価条件設定後の交通状態量の推定値を算出する(S52)。ステップS52の処理は、評価条件の設定のための入力データが追加された上で、図16、図17及び図18に示す処理手順を行うことにより、実施することができる。ステップS52では、評価条件の設定のための入力データが追加される。
【0102】
交通シミュレータ100は、交通状態量の評価値を算出し(S53)、処理を終了する。ステップS53における交通状態量の評価値の算出は、図13で例示した方法により求めることができる。また、ステップS53の処理は、交通シミュレータ100による評価条件設定前と設定後の交通状態量の推定値が算出されて初めて計算することができるので、交通シミュレータ100のシミュレーションの実行とは独立して行うことができる。
【0103】
本実施の形態では、リンク渋滞長の補正、すなわち、補正車両をリンクで放出又は回収することにより、リンク渋滞長の推定値が実測値に等しくなるようにすることができる。これにより、任意のリンクでのリンク渋滞長を精度良く再現することができ、実際にどこの地点で渋滞が発生しているかを交通シミュレータ100上で正確に把握することができる。これにより、交通シミュレータ100が強みとしている、道路の新設、交差点の改良、交通情報の提供などの交通政策によって交通環境改善量の相対比較機能を抽出し、実際に計測された交通状態量に換算して、交通シミュレータ100の利用者が実際の状況と照らし合わせた効果を視覚的、定量的に把握することを支援することができる。
【0104】
交通シミュレータ100に入力する入力データとしては、実際に計測された交通状態量の実測値に基づいて、OD情報作成して入力データとすることができるが、計測されるデータに誤差や直接的に計測できないものもあり、実測した交通状態量と実際の状況との間に不整合が生じる場合がある。不整合は、例えば、リンクの流入台数が950台であると計測され、当該リンクの流出台数が850台であると計測されたにもかかわらず、当該リンクでの待ち台数が100台(950−850)ではなく170台であるような場合である。このような不整合が生じる事態を回避するために、渋滞長平滑部18、リンク断面交通量補正部19などの機能を用いて入力データとして用いる交通状態量を補正処理することができる。補正した交通状態量、あるいは補正していない交通状態量に基づいて入力データを作成するかは、交通シミュレータ100で選択することができるように構成すればよい。
【0105】
上述の実施の形態では、車両の走行の起終点情報を用いる構成であったが、これに限定されるもではない。例えば、任意のリンクでの発生交通量と消滅交通量を予め設定しておいて、設定した発生交通量と消滅交通量を用いることもできる。
【0106】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
100 交通シミュレータ
10 シミュレータエンジン部
11 交通量算出部(交通量算出手段)
12 渋滞長補正部(渋滞長補正手段)
13 補正車両生成部(補正車両生成手段)
14 交通状態量推定部(交通状態量推定手段)
15 評価条件設定部(評価条件設定手段)
16 評価値算出部(評価値算出手段、評価値補正手段)
17 発生消滅部
18 渋滞長平滑部(渋滞長平滑手段)
19 リンク断面交通量補正部(リンク断面交通量補正手段)
20 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を出力する交通評価装置において、
模擬走行車両の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、
前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を補正する渋滞長補正手段と、
前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて前記リンクの交通状態量を推定する交通状態量推定手段と、
交通状態量を評価するための評価条件を設定する評価条件設定手段と、
前記渋滞長補正手段で前記リンクのリンク渋滞長を補正した場合に、前記リンクの交通状態量の実測値と、前記評価条件設定手段で評価条件を設定する前及び後で前記交通状態量推定手段により推定した前記リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの交通状態量の評価値を算出する評価値算出手段と
を備えることを特徴とする交通評価装置。
【請求項2】
前記交通状態量推定手段は、
任意のリンクのリンク断面交通量を推定するようにしてあり、
前記評価値算出手段は、
前記リンクのリンク断面交通量の実測値と、前記評価条件を設定する前の前記リンクのリンク断面交通量の推定値に対する前記評価条件を設定した後の前記リンクのリンク断面交通量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクのリンク断面交通量の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の交通評価装置。
【請求項3】
前記交通状態量推定手段は、
前記渋滞長補正手段で補正したリンク渋滞長を用いて任意のリンクのリンク渋滞長を推定するようにしてあり、
前記評価値算出手段は、
前記交通状態量推定手段で推定したリンク渋滞長に基づいて前記評価条件を設定したときの前記リンクのリンク渋滞長の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の交通評価装置。
【請求項4】
任意のリンクで起点交通量又は終点交通量としての補正車両を生成する補正車両生成手段を備え、
前記渋滞長補正手段は、
前記補正車両生成手段で生成した補正車両の台数を用いて前記リンクのリンク渋滞長を補正するように構成してあることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項5】
前記交通状態量推定手段は、
任意のリンクのリンク総旅行時間を推定するようにしてあり、
前記評価値算出手段は、
前記リンクのリンク断面交通量の評価値と前記補正車両生成手段で生成した補正車両を除外した他の車両の前記リンクでの平均旅行時間とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクのリンク総旅行時間の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする請求項4に記載の交通評価装置。
【請求項6】
前記交通状態量推定手段は、
任意のリンクの車両に関する環境指標を推定するようにしてあり、
前記評価値算出手段は、
前記リンクのリンク断面交通量の評価値と前記補正車両生成手段で生成した補正車両を除外した他の車両の前記リンクでの平均排出ガス量とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの環境指標の評価値を算出するように構成してあることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の交通評価装置。
【請求項7】
任意のリンクでの車両の実測渋滞長を平滑化する渋滞長平滑手段を備え、
前記渋滞長補正手段は、
前記渋滞長平滑手段で平滑化した実測渋滞長及び前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を補正するように構成してあることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の交通評価装置。
【請求項8】
前記渋滞長平滑手段で平滑化した任意のリンクでの実測渋滞長の所定時間の間での差に基づいて、前記リンクのリンク断面交通量の実測値を補正するリンク断面交通量補正手段を備え、
前記交通量算出手段は、
前記リンク断面交通量補正手段で補正したリンク断面交通量を用いて、前記リンクで発生及び消滅する交通量を算出するように構成してあることを特徴とする請求項7に記載の交通評価装置。
【請求項9】
前記リンク断面交通量補正手段で補正したリンク断面交通量を用いて、前記交通量算出手段で任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出した場合に、前記リンクのリンク断面交通量の実測値と、前記リンク断面交通量補正手段で補正した前記リンクのリンク断面交通量の補正値との比率に基づいて、前記評価値算出手段で算出した前記リンクのリンク渋滞長の評価値を補正する評価値補正手段を備えることを特徴とする請求項8に記載の交通評価装置。
【請求項10】
コンピュータに、複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を算出するステップを実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、
コンピュータに、
模擬走行車両の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、
前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記算出するステップで算出した交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を補正するステップと、
前記算出するステップで算出した交通量に基づいて前記リンクの交通状態量を推定するステップと、
交通状態量を評価するための評価条件を設定するステップと、
前記補正するステップで前記リンクのリンク渋滞長を補正した場合に、前記リンクの交通状態量の実測値と、前記評価条件を設定する前及び後で前記推定するステップにより推定した前記リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの交通状態量の評価値を算出するステップと
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項11】
複数の車両の模擬走行により交通状態量の評価値を出力する交通評価装置による交通評価方法おいて、
模擬走行車両の起点及び終点情報に基づいて任意のリンクで発生及び消滅する交通量を交通量算出手段で算出するステップと、
前記リンクでの車両の実測渋滞長及び前記交通量算出手段で算出された交通量に基づいて前記リンクのリンク渋滞長を渋滞長補正手段で補正するステップと、
前記交通量算出手段で算出された交通量に基づいて前記リンクの交通状態量を交通状態量推定手段で推定するステップと、
交通状態量を評価するための評価条件を評価条件設定手段で設定するステップと、
前記渋滞長補正手段で前記リンクのリンク渋滞長が補正された場合に、前記リンクの交通状態量の実測値と、前記評価条件設定手段で評価条件を設定する前及び後で前記交通状態量推定手段により推定された前記リンクの交通状態量の推定値の比率とに基づいて、前記評価条件を設定したときの前記リンクの交通状態量の評価値を評価値算出手段で算出するステップと
を含むことを特徴とする交通評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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