説明

人体洗浄装置

【課題】洗浄水温制御性を向上させ、かつ加熱された洗浄水の洗浄感の悪化を抑制する。
【解決手段】洗浄水を人体に向けて吐出する人体洗浄装置であって、洗浄水を供給する給水路11と、前記給水路に接続され、供給された洗浄水を流水させる熱交換流路と、前記熱交換流路を流れる洗浄水を瞬間的に加熱するヒータ21と、を有する洗浄水加熱手段16と、前記洗浄水加熱手段16によって加熱された洗浄水の温度を検知する湯温検知手段23と、前記湯温検知手段の信号を取り込むとともに、前記洗浄水加熱手段16の制御を行う制御部27と、洗浄水を噴出する洗浄ノズル20と、を備え、前記ヒータ表面の気泡の成長を阻害する気泡成長阻害手段をさらに備えたことを特徴とする人体洗浄装置の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体洗浄装置に関し、具体的には、加熱された洗浄水を人体に向けて吐出する人体洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流路中を流れる水を瞬間的に加熱するいわゆる瞬間加熱式ヒータを使用した身近な商品として、例えば、トイレの便座に座った使用者の「おしり」などを洗浄する人体洗浄装置がある。
【0003】
瞬間式の洗浄水加熱手段に用いられるヒータは、流路中を流れる洗浄水を瞬間的に加熱する必要があるため瞬間消費電力が高く、そのため洗浄水加熱時のヒータ表面温度が高温となり、気泡が発生しやすい。
【0004】
その際、ヒータ表面からの気泡の離脱性が悪いと、発生した気泡がヒータ表面で成長して気泡径が大きくなり、気泡同士が合体して、大きな気泡となってしまう。この気泡が、その後加熱された洗浄水に混入する事で、洗浄水の温制御性に大きな影響を与えてしまう。
【0005】
これを防ぐための手段として、ヒータ表面に親水加工を施す事で発生する気泡の離脱性を向上させ、加熱された洗浄水中に混入する気泡径を小さく抑えるという手段がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−105668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された人体洗浄装置では、ヒータ表面から離脱した気泡が洗浄水加熱手段の下流に溜まった後に一度に流れ出ると、洗浄水の洗浄感が変化する可能性があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、洗浄水温制御性を向上させ、かつ加熱された洗浄水の洗浄感の変化を抑制する人体洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、第1の発明は、洗浄水を人体に向けて吐出する人体洗浄装置であって、洗浄水を供給する給水路と、前記給水路に接続され、供給された洗浄水を流水させる熱交換流路と、前記熱交換流路を流れる洗浄水を瞬間的に加熱するヒータと、を有する洗浄水加熱手段と、前記洗浄水加熱手段によって加熱された洗浄水の温度を検知する湯温検知手段と、前記湯温検知手段の信号を取り込むとともに、前記洗浄水加熱手段の制御を行う制御部と、洗浄水を噴出する洗浄ノズルと、を備え、前記ヒータ表面の気泡の成長を阻害する気泡成長阻害手段をさらに備えたことを特徴とする人体洗浄装置である。
【0010】
これにより、給水路により洗浄水が供給され、給水路に接続され、ヒータと熱交換流路とを有する洗浄水加熱手段により、供給された洗浄水が流水させながら瞬間的に加熱され、洗浄水加熱手段によって加熱された洗浄水の温度が湯温検知手段により検知され、制御部により、湯温検知手段の信号を取り込まれるとともに、洗浄水加熱手段の制御が行われ、洗浄ノズルから洗浄水が噴出され、ヒータ表面の気泡の成長が気泡成長阻害手段により阻害される。
【0011】
この発明によれば、気泡の成長を阻害することで、加熱された洗浄水中に混入する気泡径を小さく抑えることができ、洗浄水温の制御性を向上させることができる。
また、気泡の成長を阻害することで、加熱された洗浄水中に混入する気泡の量を少なく抑える事ができ、洗浄感の悪化を抑制する事ができる。
【0012】
また、第2の発明は、前記ヒータとしてシーズヒータを用いたことを特徴としている。
【0013】
水を加熱するヒータとしてはセラミックヒータやシーズヒータなどがあるが、シーズヒータの表面部材として一般的に用いられているステンレス材は、セラミックに比べて気泡の離脱性に劣り、加熱された洗浄水中に混入する気泡径は大きくなってしまう。しかし気泡成長阻害手段を備えることによって洗浄水中に混入する気泡径を小さくする事ができ、洗浄水温の制御性を向上させる事ができる。よって、セラミックヒータよりも比較的安価なシーズヒータも加熱手段として人体洗浄装置に適用することが可能となる。
【0014】
また、第3の発明は、第1まはた第2の発明において、前記気泡成長阻害手段は、前記洗浄水加熱手段の下流に設けた圧力調整弁を含むことを特徴としている。
【0015】
これは、洗浄水が瞬間的に加熱される事によって、洗浄水内に溶存している空気が飽和状態に達してヒータ表面に気泡として析出することを起こりにくくする効果がある。このことによって加熱された洗浄水中に混入する気泡の量を少なく抑える事ができ、洗浄感の悪化を抑制する事ができる。
【0016】
また、第4の発明では、第1乃至第3の発明のいずれかにおいて、前記気泡成長阻害手段は、前記洗浄水加熱手段の上流に設けた加圧ポンプを含むことを特徴としている。
【0017】
前記洗浄水加熱手段の上流に設けた加圧ポンプによっても、洗浄水内に溶存している空気が飽和状態に達してヒータ表面に気泡として析出することを起こりにくくする効果がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、洗浄水温制御性を向上させ、かつ加熱された洗浄水の洗浄感の変化を抑制する人体洗浄装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態による人体洗浄装置の水路図
【図2】本発明の実施の形態による熱交換器の断面図
【図3】気泡の成長が阻害された時の効果の説明図
【図4】本発明の実施の形態による第二圧力調整弁の断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る人体洗浄装置の水路図である。すなわち、図1は、洗浄水の供給系を示す概略構成図である。
【0021】
洗浄水を供給する給水配管11には、上流から順に、電磁弁12、第一圧力調整弁13が接続されている。第一圧力調整弁13の下流は安全弁14において二方に分岐し、一方は余剰の水を便器内に直接排出するための捨て水配管15へ、他方は熱交換器16に接続されている。
【0022】
安全弁14の上流側には、熱交換器16に供給される洗浄水の温度を検知する冷水サーミスタ22が設けられている。熱交換器16の出口部には、上流から順に、第二圧力調整弁17、バキュームブレーカー29が接続されており、バキュームブレーカ29の下流には、流路切替兼流量調整弁18が接続されている。流路切替兼流量調整弁18の下流は四方に分岐し、一方は捨水路19へ、残りは洗浄水を人体へ供給する洗浄ノズル20へ接続されている。
【0023】
洗浄ボタン(図示せず)が押されると、電磁弁12が開弁し、洗浄ノズル20は装置内に収納された状態で流路への通水が開始される。通水を開始した洗浄水は、第一圧力調整弁13によって所定の圧力まで減圧されるため、熱交換器16に供給される洗浄水の給水圧力は常に一定に保たれる。熱交換器16に供給された洗浄水は、所定の温度まで瞬間的に加熱され、流路切替兼流量調整弁18によって所定の流量に調整されたうえで、洗浄ノズル20の全てのノズル流路24、25、26から吐出され、流路内の予熱を行う。
流路内の予熱が十分に行われたら、流路切替兼流量調整弁18によって捨水路19への通水に切り替えられたうえで洗浄ノズル20が所定の洗浄位置まで進出する。捨水路19はノズル装置30内に設けられたノズル洗浄室(図示せず)に接続されており、洗浄ノズル20は胴体を洗浄されながら進出する。また、洗浄ノズル20の進出中には、ノズル内流路が、流路切替兼流量調整弁18によってノズル流路24、25、26のうちの所定の流路に切り替えられる。洗浄ノズル20が所定の位置まで進出を完了すると、流路切替兼流量調整弁18によって、洗浄ノズル20側へと通水が切り替えられ、所定のノズル流路から、所定の流量にて洗浄水が吐出する。
【0024】
洗浄水を所定の温度まで加熱するためのヒータ21への通電制御は、冷水サーミスタ22にて検知される熱交換器16への入水温度と、温水サーミスタ23にて検知される加熱された水温の情報を制御部27に取り込むことによって、フィードフォワード制御とフィードバック制御の組合せにて行われる。
【0025】
次に、熱交換器16の詳細構造について説明する。
図2は、熱交換器本体の断面図である。
熱交換器本体42には、直管形状の熱交換流路43が設けられている。また、シーズヒータ21の軸方向の位置決めは、固定部材44a、44bにより行われている。熱交換流路43とシーズヒータ21の気密性は、Oリング45にて保たれており、Oリング45はバックアップリング46にて位置決めされている。シーズヒータ21の外径は例えばΦ8mm、熱交換流路43の内径は例えばΦ12mmであり、流路のクリアランスは例えば2.0mmとされている。熱交換流路43の一端には入水口47が設けられており、ここから加熱するための洗浄水が給水される。
また、熱交換器本体42の後段には、フロート50、フロートスイッチ51、バキュームブレーカ29、コマ53、出水口54が設けられている。
【0026】
入水口47から供給された洗浄水は、熱交換流路43内を流れながらシーズヒータ21によって瞬間的に加熱される。その際、加熱されることにより洗浄水中に溶存している空気が飽和状態に達すると、ヒータ表面に気泡として析出、付着し、その大きさはだんだん成長していく。ある程度の大きさまで達してヒータ表面から離脱し洗浄水中に混入した気泡は、加熱された洗浄水に比べて高温である。このため、熱交換流路43の下流に設置された温水サーミスタ23で気泡温を検知してしまうと、正確な洗浄水温が検知できなくなり、洗浄水温制御性に悪影響を与えることとなる。洗浄水中に混入した気泡が小さいものであれば、温水サーミスタ23での検知水温に与える影響の度合いは小さいが、シーズヒータ表面での気泡の離脱性はあまり良くなく、洗浄水温制御性に与える影響は大きい。
【0027】
そこで、本発明の実施の形態では、気泡成長阻害手段として、熱交換流路43における洗浄水の圧力を上昇させるとともに、熱交換器16の下流部に第二圧力調整弁17を設けてそれ以降の圧力を低下させる。こうすることによって、気泡の成長を阻害し、洗浄水中に混入する気泡のサイズをできるだけ小さく保つことができる。その結果として、温水サーミスタ23での検知温度の安定化を図ることができる。また、洗浄水中に混入する気泡の量を少なくして、ノズル流路24、25、26から吐出される洗浄水の洗浄感の変化を抑制できる。
【0028】
次に、圧力によって気泡の成長が阻害される現象について説明する。
図3は、本発明の実施の形態における熱交換器16のヒータ21の表面付近の写真である。図3(a)、(b)、(c)はそれぞれ、同じ温度(5℃)の同じ流量(430ml/分)の水を同じ投入パワーで加熱した時の写真であり、熱交換器16の入水部47の圧力のみ、それぞれ0.04MPa、0.08MPa、0.12MPa(メガパスカル)と異なっている。
【0029】
図3から、入水部47の圧力が0.04MPaの場合(図3(a))は、ヒータ21の表面に多数の大きな気泡100が形成していることが分かる。これに対して、入水部47の圧力を0.08MPa(図3(b))まで上昇させると、気泡100のサイズは顕著に小さくなり、気泡100の成長が抑制されていることが分かる。また、気泡100の合計の体積も0.04MPaの場合と比較として明らかに減少している。さらに、入水部47の圧力を0.12MPaまで上昇させると、気泡100のサイズは小さいまま維持され、気泡100の成長が同様に抑制されていることが分かる。
図3から、入水部47の圧力すなわち熱交換流路43の圧力を高くするとなる、ヒータ21の表面の気泡が細かくなり、またその合計の体積も顕著に低下することが分かる。
【0030】
次に、圧力を上昇させることによって気泡の成長が阻害されるメカニズムについて説明する。
熱交換流路43で発生する気泡の大きさは、ヒータ21の表面で発生し、成長した気泡がどの位の大きさで離脱していくか、すなわち気泡の離脱径dに支配される。気泡の離脱径dは、以下のような計算式により与えられる。

d=0.0209θ{δ/g(ρ/−ρv)}/2

ここで、θは気泡の接触角、δは表面張力、ρとρvはそれぞれ水と水蒸気の密度である。入水部47の圧力が高くなると、δは小さくなり、その他は変化しないので、dは小さくなる。つまり、入水部47の圧力が高くなると、気泡の離脱径dが小さくなり、ヒータ21の表面から早く離脱するので、気泡100の成長が抑制される。
【0031】
次に、気泡の抑制と第二圧力調整弁17の必要性について説明する。
熱交換器16に供給される洗浄水の給水圧力は、第一圧力調整弁13により常に一定に保たれる。図3に関して前述したように、気泡の成長を阻害するためには、給水圧力は高ければ高い程よい。しかし、例えば、バキュームブレーカ29のコマ53のようなゴム部材などに高い圧力をかけることは、好ましくない。これに対して、熱交換流路43よりも下流側で、バキュームブレーカ29よりも上流側に減圧手段としての第二圧力調整弁17を設けることにより、熱交換流路43の圧力を高く維持しつつ、バキュームブレーカ29における圧力を下げることができる。また、このように第二圧力調整弁17を設けることにより、熱交換流路43の下流側の圧力を下げることができるので、バキュームブレーカ29以外の部品や流路配管などに印加される圧力を下げて、信頼性を高めることができる。
【0032】
図4は、本発明の実施の形態における第二圧力調整弁17の断面構造を例示する模式図である。
本具体例においては、第二圧力調整弁17の本体60は、入水口62と出水口63との間に縮流部61が設けられた構成とされている。また、取り付け時の止水のためのOリング64を有している。この本体60は、図示しないハウジングに挿入され、入水口62かから洗浄水が導入されて縮流部61を介して出水口63から洗浄水が流出する。
【0033】
本実施形態においては、熱交換器16に供給される洗浄水の給水圧力が常に一定であるため、第二圧力調整弁17の減圧部分は縮流部61のように単純なものであってもよい。
【0034】
なお、第二圧力調整弁17の構造や配置位置は、前述した具体例に限定されるものではない。例えば、第二圧力調整弁17は、熱交換器16の下流に、別体として設けてもよい。
【0035】
また、気泡成長阻害手段として、熱交換器16の上流側に、加圧ポンプを設けて圧力を上昇させた洗浄水を熱交換流路43に供給するようにしてもよい。
【0036】
また、熱交換器16に設けるヒータは、シーズヒータに限定されるものではなく、その他にも、例えばセラミックヒータなどを用いることにも可能である。
【符号の説明】
【0037】
11 給水配管
12 電磁弁
13 第一圧力調整弁
14 安全弁
15 水配管
16 熱交換器
17 第二圧力調整弁
18 流路切替兼流量調整弁
19 捨水路
20 洗浄ノズル
21 ヒータ
22 冷水サーミスタ
23 温水サーミスタ
24 ノズル流路
27 制御部
29 バキュームブレーカー
30 ノズル装置
42 熱交換器本体
43 熱交換流路
44a,b 固定部材
45 リング
46 バックアップリング
47 入水口
50 フロート
51 フロートスイッチ
53 コマ
54 出水口
60 第二圧力調整弁の本体
61 縮流部
62 入水口
63 出水口
64 Oリング
100 気泡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水を人体に向けて吐出する人体洗浄装置であって、
洗浄水を供給する給水路と、
前記給水路に接続され、供給された洗浄水を流水させる熱交換流路と、前記熱交換流路を流れる洗浄水を瞬間的に加熱するヒータと、を有する洗浄水加熱手段と、
前記洗浄水加熱手段によって加熱された洗浄水の温度を検知する湯温検知手段と、
前記湯温検知手段の信号を取り込むとともに、前記洗浄水加熱手段の制御を行う制御部と、
洗浄水を噴出する洗浄ノズルと、
を備え、
前記ヒータ表面の気泡の成長を阻害する気泡成長阻害手段をさらに備えたことを特徴とする人体洗浄装置。
【請求項2】
前記ヒータは、シーズヒータであることを特徴とする請求項1記載の人体洗浄装置。
【請求項3】
前記気泡成長阻害手段は、前記洗浄水加熱手段の下流に設けた圧力調整弁を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の人体洗浄装置。
【請求項4】
前記気泡成長阻害手段は、前記洗浄水加熱手段の上流に設けた加圧ポンプを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の人体洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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